JP2006200665A - スラスト軸受の軌道盤およびスラスト軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】 低コストでありながら耐久性に優れたスラスト軸受の軌道盤およびスラスト軸受を提供する。
【解決手段】 焼入硬化して製造されるスラスト軸受10の軌道盤11において、スラスト軸受10の軌道盤11は焼入後に研削加工を行うことなく使用される。軌道盤11の転走面11Aに垂直な断面を鏡面研磨し、ピクリン酸飽和水溶液に界面活性剤を加えた腐食液に浸漬して鏡面研磨した面を腐食した後、光学顕微鏡により400倍の倍率で断面の中央部を観察した場合に、旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の10%以下である。
【選択図】 図1

Description

本発明はスラスト軸受の軌道盤およびスラスト軸受に関し、より特定的には焼入硬化して製造されるスラスト軸受の軌道盤において、焼入硬化後に研削加工を行うことなく使用されるスラスト軸受の軌道盤、およびその軌道盤を備えたスラスト軸受に関するものである。
一般的に、スラスト軸受には耐久性の向上(長寿命化)、音響特性の向上(低騒音化)等の機能の向上が求められている。
たとえばスラスト針状ころ軸受は、針状ころ、保持器および軌道盤で構成され、針状ころと軌道盤とが線接触する構造であるため、軸受投影面積が小さい割に高負荷容量と高剛性が得られる利点を有している。したがって、スラスト針状ころ軸受は、希薄潤滑下や高速回転下での運転など、過酷な使用条件で使用する軸受として好適で、カーエアコン・コンプレッサ、オートマチック・トランスミッション、マニュアル・トランスミッション、無段変速機、アクチュエータ付トランスミッション、電動ブレーキ、ディファレンシャル、トランスファ、船外機等に使用されている。
たとえば、カーエアコン・コンプレッサに使用されているオイルは低粘度であるうえ、コンプレッサ能力(冷却能力)を向上させるため、オイル量が削減されている。スラスト軸受は、このような希薄潤滑下での過酷な条件で使用されているため、ころの差動滑りが大きい場合は、表面起点型剥離などの表面損傷での早期破損が発生する恐れがあり、改善が望まれている。
また、オートマチック・トランスミッション、マニュアル・トランスミッション、無段変速機、アクチュエータ付トランスミッション、ディファレンシャルにスラスト軸受が使用される場合、省エネルギ化の観点から、低粘度オイルを使用する場合や従来オイルに添加剤を入れて使用する場合がある。低粘度オイルや添加剤入りのオイルは、軸受への潤滑性能が通常のオイルより劣るため、ころの差動滑りが大きい現行のスラスト軸受では、表面起点型剥離などの表面損傷の観点から改善が望まれている。
さらに、カーエアコン・コンプレッサ、オートマチック・トランスミッション、マニュアル・トランスミッション、無段変速機、アクチュエータ付トランスミッション、電動ブレーキ、ディファレンシャル、トランスファ、船外機等の使用条件として、高荷重化、小型化への傾向が見られ、通常の荷重依存型の転動疲れによる内部起点型剥離の観点からも改善が望まれている。
このため、表面起点型剥離などの表面損傷での早期破損に対して効果があり、通常の荷重依存型の転動疲れによる内部起点型剥離にも効果がある長寿命の軸受が求められている。
これに対し、スラスト針状ころ軸受の保持器の形状等を改良し、単位時間あたりの潤滑油の通過量を向上させることにより、長寿命化を図ったスラスト針状ころ軸受が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
また、長寿命化という観点からするとスラスト軸受の軌道盤の反り・うねりが問題となることも考えられる。すなわち軌道盤の反り・うねりが大きい場合、軸受が動作する際、転動体であるころの転走面の一部のみが軌道盤に対して押し付けられる現象(片当たり)が生じる。この片当たりは、転動体であるころと軌道盤との間の油膜切れの原因となり得る。油膜切れが生じた場合、ころと軌道盤との間は金属接触となって、その部分の温度が上昇する。これにより、表面損傷や表面起点型の剥離が生じ、軸受の寿命が短くなるおそれがある。また、片当たりが生じることにより、片当たりの生じた部分で、ころと軌道盤との接触面圧が設計上予測される値を超える可能性がある。この場合、転動疲れによる内部起点型の剥離が早期に生じて軸受の寿命が短くなるおそれがある。
また、スラスト軸受の軌道盤の反り・うねりが大きい場合、軸受の動作時の騒音や振動が大きくなる。動作音が小さいことが必要な環境で使用される軸受の場合、これは大きな問題となる。
これに対し、軌道盤に対応する環状体の焼入れの冷却工程において、環状体の組織がオーステナイト状態のうちに所定の加工を加える方法が提案されている(たとえば特許文献2参照)。これにより、焼入後における環状体のひずみが抑制される。
また、軌道盤に対応するリング状部材に対して所定の加工率で矯正焼戻しを行う方法が提案されている。これにより、熱処理完了後におけるリング状部材の寸法精度が向上する(たとえば特許文献3参照)。
また、冷間加工後のリング状部材を型で拘束して加熱する方法が提案されている。これにより、リング状部材のサイジングが行われるとともに加工応力が除去される。その結果、その後の熱処理の際に生じるリング状部材の変形が抑制される(たとえば特許文献4参照)。
特開2002−70872号公報 特開平8−225851号公報 特開平9−256058号公報 特開平11−43717号公報
しかし近年、スラスト軸受が部品として使用される製品、たとえばカーエアコン・コンプレッサ、オートマチック・トランスミッション、マニュアル・トランスミッション、無段変速機、アクチュエータ付トランスミッション、電動ブレーキ、ディファレンシャル、トランスファ、船外機等はますます高機能化している。これに伴い、そこに使用されているスラスト軸受に対しては、さらなる高機能化および高精度化、たとえば長寿命化が求められている。また、製品の価格競争力向上のため、スラスト軸受に対しても低コスト化の要求がある。
このような状況の下、前述の特許文献1に開示されたスラスト針状ころ軸受の耐久性は、近年のスラスト軸受に対する高い要求特性を考慮すれば、十分とはいえない。また、特許文献2〜4において開示された製造方法により軌道盤の反り・うねりを抑制したスラスト軸受においても、耐久性は十分とはいえない。一方、製造コストや素材コストが上昇する方法で耐久性を向上させることは、低コスト化の要求に反するものとなる。
そこで本発明の目的は、低コストでありながら耐久性に優れたスラスト軸受の軌道盤およびスラスト軸受を提供することである。
本発明に従ったスラスト軸受の軌道盤は、焼入硬化して製造されるスラスト軸受の軌道盤において、焼入硬化後に研削加工を行うことなく使用されるスラスト軸受の軌道盤である。軌道盤の転走面に垂直な断面を鏡面研磨し、ピクリン酸飽和水溶液に界面活性剤を加えた腐食液(JIS G 0551 附属書1)に浸漬して鏡面研磨した面を腐食した後、光学顕微鏡により400倍の倍率でその断面の中央部を観察した場合に、結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の10%以下である。ここで、軌道盤の転走面とはスラスト軸受の軌道盤が転動体と接触する側の面をいう。また、旧オーステナイト結晶粒+界とは軌道盤の鋼組織が焼入工程においてオーステナイト化した際に形成された結晶粒界であって、鋼組織を腐食液により腐食させた場合に優先的に腐食されて出現する境界線をいう。また、上述のように鏡面研磨した面を腐食した後、結晶粒界で閉じられた領域の存在比率を測定する測定領域は実サイズで225μm×175μmの四角形状の領域であってもよい。このとき、結晶粒界で閉じられた領域は上記測定領域全体の10%以下、より好ましくは5%以下としてもよい。
本発明者は以下のように旧オーステナイト結晶粒界とスラスト軸受の耐久性との関係について検討を行った。
一般に、スラスト軸受の軌道盤は浸炭熱処理、光輝熱処理等により焼入硬化して製造される。この場合、まず軌道盤はAc1点以上の温度に加熱され、鋼組織はオーステナイト化して結晶粒界が形成される。このとき、結晶粒界には粒内に比べて格子欠陥が多く存在する。また、結晶粒界には粒内に比べて鋼中の不純物元素が多く存在する。その後、軌道盤はM点以下の温度に急冷され、鋼組織はマルテンサイト化する。しかし、オーステナイト状態であった際に結晶粒界であった部位は組織がマルテンサイト化した後も、オーステナイト結晶粒界であったことに起因して周囲の組織と異なった特性を有する部位(旧オーステナイト結晶粒界)となる。この旧オーステナイト結晶粒界は周囲の組織に比較して腐食されやすいため、焼入後の組織を腐食することにより、その存在を確認することができる。
このように、旧オーステナイト結晶粒界は焼入後の組織に存在し、周囲の組織と異なった特性を有するため、スラスト軸受の軌道盤において亀裂の発生や進展を促進し、スラスト軸受の耐久性を低下させる可能性がある。
これに対し、本発明者は旧オーステナイト結晶粒界の形成を十分に進行させないことにより、具体的には軌道盤の転走面に垂直な断面を鏡面研磨し、ピクリン酸飽和水溶液に界面活性剤を加えた腐食液に浸漬して鏡面研磨した面を腐食した後、光学顕微鏡により400倍の倍率でその断面の中央部を観察した場合に、結晶粒界で閉じられた領域が視野全体の10%以下となるようにすることにより(または実サイズで225μm×175μmの四角形状の測定領域について結晶粒界で閉じられた領域が10%以下となるようにすることにより)、スラスト軸受の耐久性が著しく向上することを見出した。したがって、本発明のスラスト軸受の軌道盤によれば、耐久性に優れたスラスト軸受を構成可能なスラスト軸受の軌道盤を提供することができる。
なお、結晶粒界で閉じられた領域が視野全体の10%以下とすることでスラスト軸受の耐久性は明確に向上するが、より耐久性を向上させるためには5%以下とすることが好ましい。
上記スラスト軸受の軌道盤において好ましくは、軌道盤の表面硬さは653HV以上であり、かつ軌道盤の内部硬さは653HV以上である。
軌道盤の表面硬さが653HVより低くなると、スラスト軸受の転動疲労寿命は低下する。これに対し、表面硬さを653HV以上とすることで、転動疲労寿命の低下を回避することができる。さらに、表面だけでなく内部硬さをも653HV以上とすることで、表面のみ653HV以上である軌道盤に比べて軌道盤に塑性変形が生じにくくなり、より転動疲労寿命が向上する。ここで、表面硬さとは軌道盤の表面においてころと接触する部分(転走面の転走部分)の硬さをいう。また、内部硬さとは軌道盤においてころと接触する側の面(転走面)に垂直な断面の中央部の硬さをいう。
上記スラスト軸受の軌道盤において好ましくは、軌道盤の材質は0.4質量%以上1.2質量%以下の炭素を含む鋼である。
鋼を焼入硬化した場合の硬さの上限は鋼の炭素含有量に依存する。前述の653HV以上の硬さを確保するためには炭素量は少なくとも0.4質量%以上必要である。一方、炭素量が多くなると焼入後にマルテンサイト化せずに残留するオーステナイト(残留オーステナイト)が多くなる。残留オーステナイトは少量であればその影響は小さいが、炭素量が1.2質量%以上となると残留オーステナイト量が多くなり、焼入硬さが低下する。また、残留オーステナイトは経年変化によりマルテンサイト化し、寸法変化の原因となる。さらに、炭素量が1.2質量%以上になると炭化物(FeC;セメンタイト)の粗大化、凝集化が生じ、軌道盤の靭性が著しく劣化する。したがって、炭素量を0.4質量%以上、1.2質量%以下とすることで、軌道盤に必要な硬さ、寸法安定性および靭性を確保することができる。
上記スラスト軸受の軌道盤において好ましくは、軌道盤は鋼板をプレス加工することにより得られた部材を用いて構成されている。
これにより、旋削などの方法で成形した部材を用いているものよりも、低コストな軌道盤とすることができる。
本発明に従ったスラスト軸受は、上記軌道盤を備えたスラスト軸受である。本発明のスラスト軸受によれば、スラスト軸受は上記の耐久性に優れ、かつ低コストな軌道盤を備えるため、耐久性に優れ、かつ低コストなスラスト軸受を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明のスラスト軸受の軌道盤およびスラスト軸受によれば、低コストでありながら耐久性に優れたスラスト軸受の軌道盤およびスラスト軸受を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
(実施の形態1)
図1は本発明の一実施の形態である実施の形態1のスラスト軸受を示す概略断面図である。また、図2は実施の形態1のスラスト軸受(a)および従来のスラスト軸受(b)の軌道盤のオーステナイト結晶粒界の光学顕微鏡写真である。すなわち、図2(a)は実施の形態1のスラスト軸受が備える軌道盤の転走面に垂直な断面の中央部における旧オーステナイト結晶粒界の光学顕微鏡写真であり、図2(b)は従来のスラスト軸受の軌道盤の転走面に垂直な断面の中央部における旧オーステナイト結晶粒界の光学顕微鏡写真である。また、図3は、実施の形態1のスラスト軸受(a)および従来のスラスト軸受(b)の軌道盤のオーステナイト結晶粒界の模式図である。すなわち、図3(a)は図2(a)の旧オーステナイト結晶粒界の模式図であり、図3(b)は図2(b)の旧オーステナイト結晶粒界の模式図である。図1〜図3を参照して、本発明の実施の形態1のスラスト軸受の構成を説明する。
図1(a)を参照して、スラスト軸受10は、たとえば一対の軌道盤11、11と、複数の転動体12と、環状の保持器13とを備えている。転動体12は一対の軌道盤11、11の間において、軌道盤11、11の転走面11A、11Aに接触して配置されている。さらに、転動体12は保持器13により周方向に所定のピッチで配置され、かつ転動自在に保持されている。これにより、軌道盤11、11の各々は互いに相対的に回転することができる。
図2(a)を参照して、軌道盤11の転走面11Aに垂直な断面の中央部において旧オーステナイト結晶粒界は、ほとんど観察することができない。これは図3(a)に示すように、旧オーステナイト結晶粒界の形成が十分進んでいないためであると考えられる。この視野の旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の10%以下である。また、この視野の中央部に実サイズで225μm×175μmの測定領域を設定した場合、当該測定領域において旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域の比率は当該領域全体の10%以下である。一方、図2(b)を参照して、従来のスラスト軸受の軌道盤では、転走面11Aに垂直な断面の中央部において明確な旧オーステナイト結晶粒界を観察することができる。これは図3(b)に示すように、旧オーステナイト結晶粒界の形成が十分進んでいるためであると考えられる。この視野の旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の90%以上である。
ここで、軌道盤11の転走面11Aに垂直な断面の中央部における旧オーステナイト結晶粒界の観察はたとえば次の手順で行うことができる。まず、軌道盤を転走面に垂直な面で切断する。次にその断面を鏡面研磨した後、研磨された面を室温で腐食液に30分間浸漬して腐食する。腐食液としては、ピクリン酸飽和水溶液に界面活性剤を加えた腐食液を使用できる。その後、断面の中央部を400倍の倍率で光学顕微鏡により観察する。
この観察方法により観察される本実施の形態1に係るスラスト軸受10の軌道盤11の転走面に垂直な断面の中央部における旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の10%以下である。
次に、本実施の形態1における軌道盤11およびスラスト軸受10の製造方法について説明する。
図4は本実施の形態1における軌道盤11の製造工程の一例を示した図である。図4を参照して、本実施の形態1の軌道盤11の製造工程の一例を説明する。
まず、本実施の形態1における軌道盤11の材料としては、たとえばS55C、SAE1070、SK5、SUJ2を選択することができる。これらの材料はいずれも0.4質量%以上1.2質量%以下の炭素を含む鋼である。たとえばこれらの材料の鋼板を素材として、プレス加工により軌道盤11を成形する。これにより、軌道盤11は鋼板をプレス加工して成形することにより得られた部材を用いて構成されることになる。次に、軌道盤11を拘束した状態で、誘導加熱による焼入焼戻しを行う。これにより、焼入工程における加熱時間が一般的焼入硬化処理である浸炭熱処理、光輝熱処理等と比較して極めて短いため、旧オーステナイト結晶粒界の形成は十分に進行しない。また、焼入焼戻工程において軌道盤を拘束しているため、反り・うねりが抑制される。さらに、軌道盤11の表面硬さおよび内部硬さはいずれも653HV以上となっている。次に、研削加工を行うことなく、たとえばタンブラーにより仕上げが行われる。
なお、このような工程によれば、誘導加熱設備は比較的小規模で、かつ取り扱いに注意が必要な浸炭ガス等も使用しないため、加工工程とともに1つのラインを構成する(ワンライン化する)ことができる。そのため、熱処理前および熱処理後の仕掛品が発生しない。これにより製造コスト低減が可能となる。また、製品の管理も容易となるため、ピースバイピースの品質管理を行い得る。これにより製品の高品質化が実現される。
さらに、通常の工程では軌道盤の焼戻終了時において反り・うねりが大きいため、矯正するためのプレステンパーの工程が設けられる場合が多い。これに対して、この工程では焼入焼戻工程において軌道盤の反り・うねりを抑制するための拘束がおこなわれているため、焼戻終了時において、軌道盤11の反り・うねりが小さい。そのため、プレステンパーの工程は不要となり、高精度の軌道盤11を低コストで製造することが可能となっている。
次に、本実施の形態1における軌道盤11の製造方法のうち、焼入焼戻しについて詳細に説明する。
図5は実施の形態1における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の一例を示した図である。図5を参照して、本実施の形態1の軌道盤11の熱処理工程の一例を詳細に説明する。
図5を参照して、誘導熱処理装置3は、誘導コイル30と、下部拘束用治具50Aと、上部拘束用治具50Bと、中心軸51と、治具押えナット53とを備えている。誘導コイル30は冷却水を吐出するための冷却水吐出口31を有している。また、中心軸51は下端に膨出部511を有し、上部にねじ部512を有している。また、治具押えナット53は内径側にねじ溝を有している。
以下、同図を参照して熱処理の手順を説明する。下部拘束用治具50Aには中心軸51が挿入される。下部拘束用治具50Aは中心軸の下端の膨出部511に接触するように配置される。中央部に穴を有するスラスト軸受の軌道盤11には、中心軸51が挿入される。軌道盤11は下部拘束用治具50Aの平滑な上面に接触するように配置される。軌道盤11は1枚でもよいが、熱処理の効率向上の観点から複数枚であることが好ましい。複数枚同時に熱処理を行う場合、軌道盤11は中心軸51を挟む両側に配置された誘導コイル30による加熱が可能な範囲で、積み重ねて配置される。上部拘束用治具50Bはその平滑な下面が軌道盤11の上部に接触するように配置される。また、上部拘束用治具50Bには、中心軸51が挿入される。治具押えナット53は内径側のねじ溝が中心軸51のねじ部512と噛み合うように中心軸51に嵌めこまれ、所定のトルクで締め付けられる。これにより、軌道盤11は転走面11Aを押圧する向きの応力を転走部分全体に負荷される。
誘導コイル30に高周波電流を通電すると軌道盤11は誘導加熱される。軌道盤11はAc1点以上の温度に加熱されて所定時間保持される(加熱工程)。その後、通電が停止されるとともに誘導コイル30の冷却水吐出口31を通して冷却水が軌道盤11に吹き付けられる。これにより、軌道盤11はM点以下の温度に急速に冷却される(冷却工程)。以上の手順により、軌道盤11は転走面を押圧する向きの応力を負荷された状態で、焼入硬化される。この焼入工程における加熱時間は一般的焼入硬化処理である浸炭熱処理、光輝熱処理等と比較して極めて短いため、旧オーステナイト結晶粒界の形成は十分に進行しない。またこのとき、一様に加熱および冷却を行うため、矢印で示すように誘導熱処理装置3のうち誘導コイル30以外の部分を中心軸51を回転軸として誘導コイル30に対して相対的に回転させることが好ましい。
なお、Ac1点とは鋼を連続的に加熱する際に、鋼がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、M点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。また、軌道盤の転走面とは軌道盤において転動体が転走する側の面をいう。また、軌道盤の転走部分とは転走面のうち転動体が転走する部分をいう。
さらに、再度誘導コイル30には高周波電流が通電され、軌道盤11はAc1点以下の温度に加熱される。その後軌道盤11は所定の時間、所定の温度で保持された後、加熱が中止されることで冷却される(焼戻工程)。以上の手順により、軌道盤11は転走面を押圧する向きの応力を負荷された状態で焼戻しされる。このとき、一様に加熱を行うため、矢印で示すように誘導熱処理装置3のうち誘導コイル30以外の部分を中心軸51を回転軸として誘導コイル30に対して相対的に回転させることが好ましい。
以上の工程により、軌道盤11は旧オーステナイト結晶粒界が十分に形成されることなく、かつ転走面11Aを押圧する向きの応力を、少なくとも軌道盤11の転走部分全体に対して負荷されながら焼入れおよび焼戻しされる。
なお、応力は必ずしも負荷し続ける必要はなく、必要に応じて解除することができるが、変形を抑制する観点および工程数を少なくする観点から、熱処理開始前に軌道盤11を拘束し、かつ熱処理終了まで拘束し続けることが望ましい。また、軌道盤11は1枚ずつ熱処理を行うこともできるが、軌道盤11の製造コストをさらに低減するためには、複数枚同時に熱処理を行うことが望ましい。
本熱処理方法によれば、軌道盤11の旧オーステナイト結晶粒界の形成を十分に進行させないことができる。また、軌道盤11の反り・うねりも小さくすることができる。
以上の製造方法により、軌道盤11の転走面11Aに垂直な断面を鏡面研磨し、ピクリン酸飽和水溶液に界面活性剤を加えた腐食液に浸漬して研磨した面を腐食した後、光学顕微鏡により400倍の倍率で断面の中央部を観察した場合に、旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域が視野全体の10%以下であり、かつ軌道盤11の表面硬さおよび内部硬さが653HV以上であり、かつ軌道盤11の材質は0.4質量%以上1.2質量%以下の炭素を含む鋼であり、かつ軌道盤11は鋼板をプレス加工することにより得られた部材を用いて構成されたスラスト軸受10の軌道盤11を製造することができる。また、この軌道盤11を使用することにより、上記構成を有する軌道盤11を備えたスラスト軸受10を製造することができる。
なお、図1(a)においては転動体12は単列に配置されているが、図1(b)〜図1(e)のように複列に配置されてもよい。また、保持器13の形状は図1(a)において示された形状に限られず、たとえば図1(b)〜図1(e)に示すような形状であってもよい。また、図1(a)〜図1(c)においては保持器13は金属製であるが、保持器13の材質は金属に限られず、たとえば図1(d)および図1(e)に示すように材質は樹脂であってもよい。また、複列の転動体12を有する場合、図1(b)〜図1(d)では、径方向に隣り合う転動体は保持器に設けられた単一の保持領域で保持されているが、図1(e)に示すように保持領域が分離され、複数の保持領域においてそれぞれの転動体12が保持されてもよい。
また、上記のスラスト軸受の製造方法では図4に示した誘導熱処理装置3を用いて熱処理を行う場合について説明したが、上記熱処理方法を変形した他の熱処理方法を選択することもできる。
図6は実施の形態1における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第1の変形例を示す概略断面図である。図6を参照して、第1の変形例の誘導熱処理装置を使用した熱処理について説明する。
図6を参照して、第1の変形例における誘導熱処理装置3と、上述した図5の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、第1の変形例の誘導熱処理装置3は中心軸51およびこれに噛み合う治具押えナット53を有さない一方で、軌道盤11の内径側に誘導コイル30が配置される点で図5の誘導熱処理装置3と異なっている。
以下、同図を参照して熱処理の手順を説明する。熱処理の手順も基本的には図5の場合と同様である。しかし、図5の場合とは異なり、上部拘束用治具50Bは治具押えナット53で締め付けられて軌道盤11に押し付けられるのではなく、他の手段(たとえば油圧シリンダなど)により圧力を負荷される。これにより、転走面を押圧する向きの応力が、少なくとも軌道盤11の転走部分全体に対して負荷される。また、焼入れおよび焼戻しの加熱は、軌道盤11の外径側からだけでなく、内径側からも行われる。
この第1の変形例によれば、軌道盤11は実施の形態1の場合と比較して、より均一に加熱される。そのため、反り・うねりの抑制に有利である。
図7は実施の形態1における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第2の変形例を示す概略断面図である。図7を参照して、第2の変形例の誘導熱処理装置を使用した熱処理について説明する。
図7を参照して、本実施の形態における誘導熱処理装置3と上述の図5の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、第2の変形例の誘導熱処理装置3は誘導コイル30に代えて、焼入用誘導コイル30Aと焼戻用誘導コイル30Bとがそれぞれ中心軸51を挟む両側に配置される点で図5の誘導熱処理装置3と異なる。また、焼入用誘導コイル30Aは第1の焼入用誘導コイル30A1と、第1の焼入用誘導コイル30A1に隣接し、かつ焼戻用誘導コイル30Bとの間に配置された第2の焼入用誘導コイル30A2とからなっている。第2の焼入用誘導コイル30A2は冷却水吐出口31を有している。また、図5の誘導熱処理装置3では配置されたすべての軌道盤11が同時に加熱可能に構成されているのに対し、第2の変形例では一部の軌道盤11のみが加熱可能に構成されている。具体的には、一部の軌道盤11の端面にのみ対向することができるように、誘導コイル30A、30Bの高さはセットされた複数の軌道盤11の高さよりも小さくなっている。さらに、第2の変形例では、誘導コイル30A、30Bおよび中心軸51の一方または両方が中心軸51の軸方向に移動可能であることにより、中心軸51が誘導コイル30A、30Bに対して相対的に移動可能な構成となっている。
以下、同図を参照して熱処理の手順を説明する。下部拘束用治具50A、上部拘束用治具50B、軌道盤11、治具押えナット53は図4の場合と同様に配置され、軌道盤11の転走面を押圧する向きの応力が、少なくとも軌道盤11の転走部分全体に対して負荷される。
次に、誘導コイル30Aおよび30Bに高周波電流が通電されるとともに、中心軸51は誘導コイル30Aおよび30Bに対して相対的に移動する。これに伴い軌道盤11は通電された第1の焼入用誘導コイル30A1に挟まれる位置に到達する。これにより軌道盤11はAc1点以上の温度に誘導加熱される。そして、加熱された軌道盤11は第1の焼入用誘導コイル30Aに対して相対的に移動しつつ、第2の焼入用誘導コイル30A2に挟まれる位置に到達し、その間所定時間Ac1点以上の温度に保持される。その後、軌道盤11に対する第2の焼入用誘導コイル30A2による加熱が中止されるとともに、軌道盤11には冷却水吐出口31から冷却水が吹き付けられ、M点以下の温度に急速に冷却される。以上の手順により、軌道盤11に転走面11Aを押圧する向きの応力を負荷した状態で、焼入れが実施される。この焼入工程における加熱時間は一般的焼入硬化処理である浸炭熱処理、光輝熱処理等と比較して極めて短いため、旧オーステナイト結晶粒界の形成は十分に進行しない。
さらに軌道盤11は誘導コイル30A、30Bに対して相対的に移動し、焼戻用誘導コイル30Bに挟まれる位置に到達する。これにより、軌道盤11はAc1点以下の所定の焼戻温度に加熱される。そして、加熱された軌道盤11は焼戻用誘導コイル30Bに対して相対的に移動しつつ、所定時間経過後加熱範囲から離脱することで、空冷される。これにより、軌道盤11に転走面を押圧する向きの応力を負荷した状態で焼戻しが実施される。
以上の工程により、軌道盤11は転走面を押圧する向きの応力を、少なくとも軌道盤の転走部分全体に対して負荷されながら焼入れおよび焼戻しされる。
第2の変形例によれば、誘導コイル30A、30Bの長さを超えて軌道盤11を積み重ねても、軌道盤11の熱処理を行うことができる。
(実施の形態2)
図8は本発明の実施の形態2のスラスト軸受の転動体周辺の構成の一例を示す概略部分断面図である。図8を参照して、本発明の実施の形態2のスラスト軸受の構成の一例について説明する。
上述の実施の形態1においては、スラスト軸受10は、一対の軌道盤11、11と、複数の転動体12と、環状の保持器13とを備えており、軌道盤11は平板状の形状を有している場合について説明した。本実施の形態2においては、図8(a)を参照して、スラスト軸受10は、たとえば一対の軌道盤11、11と、転動体12と、保持器13とからなっている点では実施の形態1と同様である。しかし、一方の軌道盤11は径方向内径側に転走面11Aと交差する方向に延びる内径フランジ111を有しており、他方の軌道盤11は径方向外径側に転走面11Aと交差する方向に延びる外径フランジ113を有している点で異なっている。また、内径フランジ111の先端部には径方向外径側に突出する内径フランジ突出部112が形成されており、外径フランジ113の先端部には径方向内径側に突出する外径フランジ突出部114が形成されている点でも異なっている。したがって、内径フランジ突出部112および外径フランジ突出部114の作用により、軌道盤11と保持器13および保持器13に保持されている転動体12は分離しない構成となっている。
なお、図8(a)では軌道盤11が一対である場合について説明したが、図8(g)〜(k)のように軌道盤11は1枚であってもよい。また、図8(a)では軌道盤11がフランジ111、113を有する場合について説明したが、図8(c)〜図8(f)および図8(k)のように一方または両方がフランジ111、113を有さないものであってもよい。また、図8(a)では軌道盤11のフランジ111、113が突出部112および114を有する場合について説明したが、図8(b)〜図8(k)のように一方または両方が突出部112および114を有さないものであってもよい。この場合、突出部112および114を有さない軌道盤11と、保持器13および保持器13に保持されている転動体12とは分離可能となっている。
また、熱処理方法も基本的には実施の形態1と同様であるが、上述のように、軌道盤11はフランジ111、113を有する場合がある。この場合、実施の形態1におけるスラスト軸受10の製造方法のうち熱処理方法については他の方法を選択する必要がある。以下、軌道盤11がフランジ111、113を有する場合の本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
図9は実施の形態2における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の一例を示した図である。図9を参照して、実施の形態3における軌道盤11の熱処理方法の一例を詳細に説明する。
図9を参照して、本実施の形態2における誘導熱処理装置3と上述の図5に示した実施の形態1の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、本実施の形態2で熱処理される軌道盤11は内径フランジ111を有している。そのため、たとえば2枚の軌道盤11を熱処理する場合、まず1枚目の軌道盤11は転走面11Aの転走部分全体が下部拘束用治具50Aの平滑な上面に接触するように転走面11Aを下に向けて配置される。次に2枚目の軌道盤11は1枚目の軌道盤11の上部に転走面11Aを上に向けて配置される。さらに、その上部には上部拘束用治具50Bが、その平滑な下面が転走面11Aの転走部分全体と接触するように配置される。これにより、図5と同様に軌道盤11は転走面11Aを押圧する向きの応力を、軌道盤11の転動部分全体において負荷される。
次に、誘導コイル30に高周波電流が通電され、以後の熱処理は図5の実施の形態1の場合と同様に行われる。このようにして、内径フランジ111を有する軌道盤11は、転走面11Aを押圧する向きの応力を、少なくとも軌道盤の転走部分全体に対して負荷されながら焼入れおよび焼戻しされる。また、この焼入工程における加熱時間は一般的焼入硬化処理である浸炭熱処理、光輝熱処理等と比較して極めて短いため、旧オーステナイト結晶粒界の形成は十分に進行しない。
図10は実施の形態2における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第1の変形例を示す概略断面図である。図10を参照して、第1の変形例の誘導熱処理装置を使用した熱処理について説明する。
図10を参照して、本実施の形態2の第1の変形例における誘導熱処理装置3と上述の図9に示した実施の形態2の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、図9では図5と同様に中心軸51を有し、拘束用治具50および治具抑えナット53で軌道盤11に応力を負荷する構成を有するが、図10では図6の場合と同様に軌道盤11の内径側に誘導コイル30を配置する構成となっている点で異なっている。
次に、本変形例の熱処理の手順を説明する。まず、図9の場合と同様に下部拘束用治具50A、軌道盤11、および上部拘束用治具50Bが配置される。そして、治具押えナット53を使用せず、図6と同様に上部拘束用治具50Bに圧力が負荷され、軌道盤11が拘束される。次に、誘導コイル30に高周波電流が通電され、以後の熱処理は図5の実施の形態1の場合と同様に行われる。このようにして、内径フランジ111を有する軌道盤11は、転走面11Aを押圧する向きの応力を、少なくとも軌道盤の転走部分全体に対して負荷されながら焼入れおよび焼戻しされる。
図11は実施の形態2における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第2の変形例を示す概略断面図である。また、図12は実施の形態2における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第3の変形例を示す概略断面図である。図11および図12を参照して、第2および第3の変形例の誘導熱処理装置を使用した熱処理について説明する。
図11および図12を参照して、第2および第3の変形例における誘導熱処理装置3と、上述の図9および図10に示した本実施の形態2および第1の変形例の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、図9および図10では軌道盤11が内径フランジ111を有しているが、図11および図12では軌道盤11は外径フランジ113を有している点で異なっている。この場合、図11および図12に示したように外径フランジ113を拘束用治具50A、50Bの径方向外側に出した状態で軌道盤11を拘束すれば、上述の図9および図10の場合と同様に軌道盤11を拘束した状態で焼入れおよび焼戻しをすることができる。
(実施の形態3)
スラスト軸受10の軌道盤11が内径フランジ111または外径フランジ113を有する場合、軌道盤11の熱処理方法については実施の形態2で説明した方法に代えて、他の方法を選択することもできる。
図13は本発明の実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の一例を示した図である。図13を参照して、実施の形態3における軌道盤11の熱処理方法の一例を詳細に説明する。
図13を参照して、本実施の形態3における誘導熱処理装置3と上述の図5の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、本実施の形態3では軌道盤11が内径フランジ111を有している。そのため、図13で示した誘導熱処理装置3は中間部拘束用治具50Cを有する点で図5で示した誘導熱処理装置3と異なっている。中間部拘束用治具50Cはたとえば軌道盤11の内径よりも大きな内径を有し、さらに上面および下面が平行かつ平滑な円筒状の形状を有している。
次に同図を参照して、熱処理の手順を説明する。1枚目の軌道盤11は下部拘束用治具50Aに接触し、かつ転走面11Aを上向きにして配置される。中間部拘束用治具50Cはその上に重ねて、かつその平滑な下面が軌道盤11の転走面11Aの少なくとも転走部分全体に接触するように配置される。次に2枚目の軌道盤11は中間部拘束用治具50Cの上に重ねて、かつ軌道盤11の転走面11Aの少なくとも転走部分全体が中間部拘束用治具50Cの平滑な上面に接触するように配置される。この中間部拘束用治具50Cと2枚の軌道盤11、11との組み合わせを1つの単位として、誘導コイル30が加熱可能な範囲でこれらが複数個積み重ねられる。その上部に上部拘束用治具50Bが配置され、図5の場合と同様に治具押えナット53により締め付けられる。これにより、軌道盤11は転走面11Aを押圧する向きの応力を転走部分全体に負荷される。この状態で、軌道盤11は図5の場合と同様に、転走面を押圧する向きの応力を、少なくとも軌道盤の転走部分全体に対して負荷されながら焼入れおよび焼戻しされる。また、この焼入工程における加熱時間は一般的焼入硬化処理である浸炭熱処理、光輝熱処理等と比較して極めて短いため、旧オーステナイト結晶粒界の形成は十分に進行しない。
図14は実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第1の変形例を示す概略断面図である。また、図15は実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第2の変形例を示す概略断面図である。図14および図15を参照して、第1および第2の変形例の誘導熱処理装置を使用した熱処理について説明する。
図13では中心軸51および治具抑えナット53を使用する場合について説明したが、図14に示す誘導熱処理装置3のように、図6の場合と同様に中心軸51および治具抑えナット53に代えて軌道盤11の内径側に誘導コイル30を配置する構成を用いてもよい。また、図15に示す誘導熱処理装置3のように、図7の場合と同様に中心軸51が誘導コイル30Aおよび30Bに対して相対的に移動可能な構成を用いてもよい。この場合の軌道盤11の拘束は図13の場合と同様に行い、以後の熱処理の手順は図6および図7の場合と同様である。
図16は、実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第3の変形例を示す概略断面図である。また、図17は、実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第4の変形例を示す概略断面図である。また、図18は、実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第5の変形例を示す概略断面図である。図16〜図18を参照して、第3、第4、および第5の変形例の誘導熱処理装置を使用した熱処理について説明する。
図16〜図18を参照して、図16〜図18に示した第3、第4、および第5の変形例における誘導熱処理装置3と、上述の図13〜図15に示した本実施の形態3および第1、第2の変形例の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、図13〜図15では軌道盤11は内径フランジ111を有しているのに対し、図16〜図18では軌道盤11は外径フランジ113を有している点で異なっている。この場合、外径フランジ113を図16〜図18に示したように中間部拘束用治具50Cの径方向外側に出した状態で軌道盤11を拘束すれば、図13〜図15で説明した上述の方法と同様に軌道盤11を拘束した状態で、焼入れおよび焼戻しをすることができる。
(実施の形態4)
内径フランジ111または外径フランジ113を有する軌道盤11と、内径フランジ111および外径フランジ113を有さない軌道盤11とを組み合わせることで、軌道盤11の熱処理方法についてはさらに他の方法を選択することもできる。
図19は本発明の実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の一例を示した図である。また、図20は図19の領域XXの部分を拡大して示した部分拡大図である。図19および図20を参照して、実施の形態4における軌道盤11の熱処理方法の一例を詳細に説明する。
図19および図20を参照して、本実施の形態4における誘導熱処理装置3と上述の図13の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、本実施の形態4の誘導熱処理装置3では中間部拘束用治具50Cに代えてフランジ111、113を有さない軌道盤11が使用される点で図13の誘導熱処理装置3と異なっている。
次に同図を参照して、熱処理の手順を説明する。内径フランジ111を有する1枚目の軌道盤11は下部拘束用治具50Aに接触し、かつ転走面11Aを上向きにして配置される。フランジ111、113を有さない軌道盤11はその上に重ねて、かつ内径フランジ111を有する軌道盤11の転走面11Aの少なくとも転走部分全体に接触するように配置される。次に内径フランジ111を有する2枚目の軌道盤11はフランジ111、113を有さない軌道盤11の上に重ねて、かつ内径フランジ111を有する軌道盤11の転走面11Aの少なくとも転走部分全体がフランジ111、113を有さない軌道盤11に接触するように配置される。フランジ111、113を有さない軌道盤11はこのような配置が可能となるように複数枚重ねて配置されてもよい。以上の軌道盤11の組み合わせを1つの単位として、誘導コイル30が加熱可能な範囲でこれらが複数個積み重ねられる。以下、図13の場合と同様にして、軌道盤11は転走面11Aを押圧する向きの応力を、少なくとも軌道盤11の転走部分全体に対して負荷されながら焼入れおよび焼戻しされる。また、この焼入工程における加熱時間は一般的焼入硬化処理である浸炭熱処理、光輝熱処理等と比較して極めて短いため、旧オーステナイト結晶粒界の形成は十分に進行しない。
図21は、実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第1の変形例を示す概略断面図である。図22は、実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第2の変形例を示す概略断面図である。図21および図22を参照して、第1および第2の変形例の誘導熱処理装置を使用した熱処理について説明する。
図19では中心軸51および治具抑えナット53を使用する場合について説明したが、図21に示す誘導熱処理装置3のように、図6の場合と同様に中心軸51および治具抑えナット53に代えて軌道盤11の内径側に誘導コイル30を配置する構成を用いてもよい。また、図22に示す誘導熱処理装置3のように、図7の場合と同様に中心軸51が誘導コイル30Aおよび30Bに対して相対的に移動可能な構成を用いてもよい。この場合の軌道盤11の拘束は図19および図20の場合と同様に行い、以後の熱処理の手順は図6および図7の場合と同様である。
図23は、実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第3の変形例を示す概略断面図である。また、図24は、図23の領域XXIVの部分を拡大して示した部分拡大図である。また、図25は、実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第4の変形例を示す概略断面図である。また、図26は、実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第5の変形例を示す概略断面図である。図23〜図26を参照して、第3、第4、および第5の変形例の誘導熱処理装置を使用した熱処理について説明する。
図23〜図26を参照して、図23〜図26に示した第3、第4、および第5の変形例における誘導熱処理装置3と、上述の図19〜図22に示した本実施の形態4および第1、第2の変形例の誘導熱処理装置3とは基本的に同様の構成を有している。しかし、図19〜図22では軌道盤11は内径フランジ111を有しているのに対し、図23〜図26では軌道盤11は外径フランジ113を有している点で異なっている。この場合、外径フランジ113を図23〜図26に示したようにフランジ111、113を有さない軌道盤11の径方向外側に出した状態で軌道盤11を拘束すれば、図19〜図22で説明した上述の方法と同様に軌道盤11を拘束した状態で、焼入れおよび焼戻しをすることができる。
以下、本発明の実施例1について説明する。転がり軸受の転走面と転動体との接触部分のうち最大荷重となる部分においては、塑性変形が発生して残留する場合がある。この残留変形量については、転動体の変形量と転走面の変形量との和が転動体の直径の0.01%以下であれば、軸受のなめらかな回転や疲労寿命に対して悪影響がないことが経験的に知られている。
そこで、本発明のスラストころ軸受と、従来のスラストころ軸受との許容静転動体荷重を測定し、安全率を比較する実験を行った。
以下、実験の手順を説明する。実験に供する材料としてS55C、SAE1070、SK5、SUJ2を選択した。プレス加工により内径φ25mm、外径φ40mm、厚さ1mmの円盤状の軌道盤を作製した。熱処理には図5に示す熱処理装置を使用した。軌道盤を40枚重ねて拘束し、転走面を押圧する向きの応力を、少なくとも軌道盤の転走部分全体に対して負荷した。そして、誘導コイルに高周波電流(10KHz)を通電し、誘導加熱により軌道盤全体がAc1点以上の温度になるように加熱した。所定時間経過後、加熱を停止するとともに、水を吹き付けることで軌道盤をM点以下の温度に急冷した。さらに、この軌道盤を拘束した状態を保持しつつ誘導加熱により220℃〜230℃で10秒間保持し、加熱を停止することにより空冷して焼戻しを行った(後述の実施例A〜D)。また、他の一部は拘束を中止し、雰囲気炉において160℃で2時間保持することにより焼戻しを行った(後述の実施例E〜H)。
一方、従来のスラストころ軸受の例として、SPC、SCM415、SCM420、SUJ2を材料として選択した(後述の比較例A〜D)。軌道盤は本実施例と同様に、プレス加工により作製した。SPC、SCM415、SCM420の軌道盤については浸炭炉において880℃で40分間保持して浸炭を行った後、820℃で10分間保持して拡散を行い、その後油冷することにより焼入れを行った。また、SUJ2の軌道盤については光輝熱処理炉において850℃で40分間保持した後、油冷することにより焼入れを行った。その後、軌道盤を160℃で2時間保持することで焼戻しを行った。さらに、200℃で1時間のプレステンパー(加熱矯正)により、反り・うねりを軽減する処理を行った。
上記熱処理が終了した軌道盤について、旧オーステナイト結晶粒界の観察を行った。以下、調査の手順を説明する。まず、軌道盤を転走面に垂直な面で切断した。次にその断面を鏡面研磨した後、研磨された面を室温でピクリン酸飽和水溶液に界面活性剤を加えた腐食液に30分間浸漬して腐食した。その後、断面の中央部を400倍の倍率で光学顕微鏡により観察した。なお、観察は断面の中央部で場所を変えて5視野について行った。
図2は上記観察の際撮影された、軌道盤の転走面に垂直な断面の中央部における旧オーステナイト結晶粒界の光学顕微鏡写真である。図2(a)は本発明の実施例であるSUJ2を素材として作製した軌道盤(実施例D)、図2(b)はSUJ2を素材として作製した従来の軌道盤である(比較例D)。また、図3(a)および図3(b)はそれぞれ図2(a)および図2(b)の旧オーステナイト結晶粒界の模式図である。
図2(a)を参照して、実施例Dでは旧オーステナイト粒界はほとんど観察することができなかった。これは図3(a)に示すように、旧オーステナイト結晶粒界の形成が十分進んでいないことを示していると考えられる。この視野の旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の10%以下であった。また、他の4視野についても同様であった。さらに、実施例A〜CおよびE〜Hについても同様に全視野において旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の10%以下であった。これは、実施例A〜Hは焼入れの際の加熱が誘導加熱により行われており、Ac1点以上の温度に加熱される時間が非常に短いためであると考えられる。一方、図2(b)を参照して、比較例Dでは明確な旧オーステナイト結晶粒界を観察することができた。これは図3(b)に示すように、旧オーステナイト結晶粒界の形成が十分進んでいることを示していると考えられる。この視野の旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の90%以上であった。また、他の4視野についても同様であった。さらに、比較例A、BおよびCについても同様に全視野において旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の90%以上であった。
次に、上記熱処理が終了した軌道盤について、反り・うねり、表面硬度および内部硬度の測定を行った。反り・うねりは真円度測定器を用いて測定した。また、表面硬度および内部硬度はビッカース硬度計(荷重1kgf(9.8N))を用いて測定した。なお、表面硬さは軌道盤の表面においてころと接触する部分(転走面の転走部分)の硬さを測定した。また、内部硬さは軌道盤においてころと接触する面に垂直な断面の中央部の硬さを測定した。
図27はスラスト軸受の軌道盤の反り・うねりの測定部位を示す概略平面図である。また、図28は反り・うねりの測定により得られるプロファイルの一例を示す図である。
図27を参照して、測定は破線で示すように内径から1mmの位置、外径から1mmの位置、および中央部の位置について行った。図28を参照して、測定により得られた高さのプロファイルから高さの最高点と最低点との差を読み取り、反り・うねりの値とした。
表1は作製した軌道盤の反り・うねりおよび硬度の測定結果である。表1を参照して、実施例A〜Dの軌道盤の反り・うねりの平均値については比較例A〜Dの軌道盤の14〜23%、実施例E〜Hについては17〜28%であった。また、反り・うねりの標準偏差は実施例A〜Dについては比較例A〜Dの軌道盤の17〜33%、実施例E〜Hについては24〜47%であった。
また、表1を参照して、実施例A〜Hの軌道盤の表面硬度は、軸受として機能するために必要な硬度である653HV以上が確保されていた。また、内部硬度も653HV以上が確保されていた。
なお、上記実験結果は内径φ25mm、外径φ40mm、厚さ1mmの円盤状の軌道盤についてのものであるが、同様の実験を内径φ60mm、外径φ85mm、厚さ1mmの円盤状の軌道盤についても行った。その結果、本発明の製造方法に係る熱処理方法で作製された軌道盤の反り・うねりの最大値は28μmであることや、本発明の製造方法に係る熱処理方法で作成された軌道盤の表面硬度は653HV以上、また内部硬度も653HV以上であること等、上記内径φ25mm、外径φ40mm、厚さ1mmの円盤状の軌道盤の場合と同様の効果が得られることが確認された。
なお、反り・うねりの簡易的な測定方法(選別方法)として、スリットゲージを用いて、所定値以上の反り・うねりを有する軌道盤を選別する方法がある。
図29〜図31は軌道盤の反り・うねりの測定方法(軌道盤の選別方法)の変形例を示した斜視図である。図29を参照して、スリットゲージ20は幅T+dのスリット21を有している。ここで、Tは軌道盤11の厚さである。また、dは反り・うねりの上限値である。
このスリット21に軌道盤11を挿入すると、軌道盤11の反り・うねりがd以下であれば通り抜けることができるが、dを超える場合、通り抜けることができない。これにより、反り・うねりがdを超える軌道盤11を選別することができる。
この方法は、多くの軌道盤から反り・うねりが所定の値を超える軌道盤を選別する場合、たとえば量産工程における選別に有効である。
なお、図29では軌道盤11がフランジ111、113を有さない場合について説明したが、図30、図31のようにフランジ111、113を有する場合についても同様に選別を行うことができる。
図30および図31を参照して、スリットゲージ20は図29の場合と基本的に同様の構成を有している。しかし、スリット21の幅がT+T+dである点で異なっている。また、選別において、測定用治具22を使用する点でも異なっている。ここで、測定用治具22は両底面が平行な平面である円筒状の形状を有し、かつフランジ111、113の高さより大きな厚さTを有している。
この測定用治具22の底面と軌道盤11の転走面11Aとが全周にわたって接触するように合わせ、スリット21に挿入する。そうすると、軌道盤11の反り・うねりがd以下であれば通り抜けることができるが、dを超える場合、通り抜けることができない。これにより、反り・うねりがdを超える軌道盤11を選別することができる。
次に実施例A〜Hおよび比較例A〜Dの軌道盤を用いてスラストころ軸受を作製した。そして、アムスラー試験機を用い、作製した軸受に荷重を負荷して転動体の直径の0.01%の総永久変形量が発生する荷重を測定した。この測定結果から、安全率を算出した。ここで、安全率は式1で示される。
=C/P0max・・・(式1)
:安全率、C:基本静定格荷重、P0max:最大静転動体荷重
なお、安全率の数値は低い方が軸受の特性が優れていることを示している。
表2は本実験の結果を示している。表2を参照して、本発明に係る実施例A〜Hは比較例A〜Cと比較して安全率の数値が小さくなっている。これは、比較例A〜Cの軌道盤は表層部のみが硬化されているのに対し、本発明の実施例A〜Hの軌道盤は内部まで一様に硬化されているため、軌道盤に塑性変形が生じにくく、許容静転動体荷重が上昇したためであると考えられる。
一方、比較例Dと実施例DおよびHとは同一の材料から作製されており、かつ両者とも軌道盤の内部まで硬化されている。しかし、実施例DおよびHは比較例Dと比較して、安全率の数値が小さくなっている。これは以下の理由によるものと考えられる。
前述のように、実施例DおよびHは焼入れの際の加熱が誘導加熱により行われる。そのため、光輝熱処理が行われる比較例Dに比べて、Ac1点以上の温度に加熱される時間が非常に短い。その結果、実施例DおよびHにおいてはオーステナイト結晶粒界の形成が比較例Dほど進行していない。そのため、実施例DおよびHの変形抵抗は比較例Dの変形抵抗よりも高くなり、許容静転動体荷重が向上して、安全率の数値が低くなったものと考えられる。
また、比較例Dでは焼入工程として行われる光輝熱処理により粒界酸化層が形成されるのに対し、実施例Dでは焼入工程が短時間の誘導加熱であるため粒界酸化層はほとんど形成されない。そのため、実施例Dの軌道盤は比較例Dの軌道盤に比べて表層部の変形抵抗が高い。その結果、実施例Dの許容静転動体荷重は比較例Dの許容静転動体荷重よりも高くなり、安全率の数値が低くなったものと考えられる。
図32は本発明の実施例D(a)および比較例D(b)の軌道盤の表層付近の光学顕微鏡写真である。
図32を参照して、図32(b)の比較例Dでは6μm程度の粒界酸化層が観察されるのに対し、図32(a)の実施例Dでは粒界酸化層は観察されないことが確認される。
以下、本発明の実施例2について説明する。本発明のスラストころ軸受と、従来のスラストころ軸受との寿命を比較する実験を行った。
以下、実験の手順を説明する。実施例1で作製した実施例A〜Hおよび比較例A〜Dの軌道盤を用い、スラストころ軸受を作製した。このスラストころ軸受に対し、スラスト荷重4kN、回転速度5000r/min.、潤滑油VG2の条件で寿命試験を行った。
表3は寿命試験の結果を示している。なお、試験結果は比較例Aの寿命を1とした寿命比で示している。
表3を参照して、実施例A〜Hの寿命はいずれも比較例A〜Dの2倍以上となった。これは以下の理由によるものであると考えられる。
前述のように、実施例A〜Hにおいてはオーステナイト結晶粒界の形成が比較例A〜Dほど進行していない。そのため、亀裂の発生および進展に対する抵抗が大きくなっている。その結果、ころの滑りによる表面起点の亀裂の発生および進展が抑制される。また、内部起点の亀裂についても同様に亀裂の発生および進展が抑制される。このような亀裂の発生および進展の抑制効果により、長寿命になったものと考えられる。
また、前述のように、実施例A〜Hの軌道盤の反り・うねりは比較例A〜Dと比較して小さい。そのため、ころと軌道盤の片当たりが生じない。その結果、油膜切れや局所的な面圧上昇が起こらず、長寿命となったものと考えられる。また、表1に示すように実施例A〜Hの軌道盤の反り・うねりはいずれも40μm以下であるのに対し、比較例A〜Dの軌道盤の反り・うねりはいずれも50μm以上である。すなわち、実施例A〜Hの軌道盤の反り・うねりが40μm以下であり、また、前述のように、実施例A〜Hの許容静転動体荷重も比較例より高いため、軸受の寿命が長寿命となったものと考えられる。
また、比較例A〜Dでは焼入工程として行われる浸炭処理または光輝熱処理により軌道盤の表層部に粒界酸化層が形成されるのに対し、実施例A〜Hでは焼入工程が短時間の誘導加熱であるため粒界酸化層はほとんど形成されない。そのため、表面起点の亀裂の発生が抑制され、長寿命になったものと考えられる。
以上より、本発明のスラスト軸受は従来のスラスト軸受と比較して、長寿命であることが分かる。
以下、本発明の実施例3について説明する。本発明のスラストころ軸受と、従来のスラストころ軸受との音響特性を比較する実験を行った。以下、実験の手順を説明する。
実施例1で作製した実施例A〜Hおよび比較例A〜Dの軌道盤を用いてスラストころ軸受を作製した。この軸受に対し、スラスト荷重100N、回転速度1800r/min.、その他の条件は日本工業規格(JIS B 1548)に従って軸受の騒音レベルを測定する試験を行った。
図33はスラストころ軸受の軌道盤の反り・うねりと音響との関係を示した図である。なお、図33の各反り・うねりの範囲における音響の値は、各10個の軸受について音響測定を行い、その平均値を示したものである。
図33を参照して、音響の値は反り・うねりの増加とともに徐々に大きくなるのではなく、40μm以下では79〜81dBA程度であるのに対し、40〜50μm付近で大きくなり、それ以上ではほぼ84dBA以上となっている。このことから、軌道盤の反り・うねりの値が40〜50μmとなる付近に臨界値が存在するものと考えられる。したがって、音響特性が重視される用途に用いられるスラストころ軸受については、反り・うねりを確実に40μm以下に抑えることが重要であることが分かる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明のスラスト軸受の軌道盤およびスラスト軸受は、焼入硬化して製造されるスラスト軸受の軌道盤において、焼入後に研削加工を行うことなく使用されるスラスト軸受軌道盤およびこの軌道盤を備えたスラスト軸受に特に有利に適用され得る。
実施の形態1のスラスト軸受を示す概略断面図である。 実施の形態1のスラスト軸受(a)および従来のスラスト軸受(b)の軌道盤のオーステナイト結晶粒界の光学顕微鏡写真である。 実施の形態1のスラスト軸受(a)および従来のスラスト軸受(b)の軌道盤のオーステナイト結晶粒界の模式図である。 本実施の形態1における軌道盤11の製造工程の一例を示した図である。 実施の形態1における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の一例を示した図である。 実施の形態1における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第1の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態1における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第2の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態2のスラスト軸受の転動体周辺の構成の一例を示す概略部分断面図である。 実施の形態2における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の一例を示した図である。 実施の形態2における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第1の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態2における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第2の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態2における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第3の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の一例を示した図である。 実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第1の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第2の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第3の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第4の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態3における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第5の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の一例を示した図である。 図19の領域XXの部分を拡大して示した部分拡大図である。 実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第1の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第2の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第3の変形例を示す概略断面図である。 図23の領域XXIVの部分を拡大して示した部分拡大図である。 実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第4の変形例を示す概略断面図である。 実施の形態4における軌道盤11の製造工程で使用される誘導熱処理装置の第5の変形例を示す概略断面図である。 スラスト軸受の軌道盤の反り・うねりの測定部位を示す概略平面図である。 反り・うねりの測定により得られるプロファイルの一例を示す図である。 軌道盤の反り・うねりの測定方法の変形例を示した斜視図である。 軌道盤11が内径フランジ111を有する場合における、軌道盤11の反り・うねりの選別方法を示した斜視図である。 軌道盤11が外径フランジ113を有する場合における、軌道盤11の反り・うねりの選別方法を示した斜視図である。 実施例D(a)および比較例D(b)の軌道盤の表層付近の光学顕微鏡写真である。 スラストころ軸受の軌道盤の反り・うねりと音響との関係を示した図である。
符号の説明
10 スラスト軸受、11 スラスト軸受軌道盤、111 軌道盤内径側フランジ、112 軌道盤内径側フランジ突出部、113 軌道盤外径側フランジ、114 軌道盤外径側フランジ突出部、12 転動体、13 保持器、20 スリットゲージ、21 スリット、22 測定用治具、3 誘導熱処理装置、30 誘導コイル、 30A1 第1の焼入用誘導コイル、30A2 第2の焼入用誘導コイル、30B 焼戻用誘導コイル、31 冷却水吐出口、50A 上部拘束用治具、50B 下部拘束用治具、50C 中間部拘束用治具、51 中心軸、511 中心軸膨出部、512 中心軸ねじ部、53 治具押えナット。

Claims (5)

  1. 焼入硬化して製造されるスラスト軸受の軌道盤において、前記焼入硬化後に研削加工を行うことなく使用されるスラスト軸受の軌道盤であって、
    前記軌道盤の転走面に垂直な断面を鏡面研磨し、ピクリン酸飽和水溶液に界面活性剤を加えた腐食液に浸漬して前記鏡面研磨した面を腐食した後、光学顕微鏡により400倍の倍率で前記断面の中央部を観察した場合に、旧オーステナイト結晶粒界で閉じられた領域は視野全体の10%以下である、スラスト軸受の軌道盤。
  2. 前記軌道盤の表面硬さは653HV以上であり、
    前記軌道盤の内部硬さは653HV以上である、請求項1に記載のスラスト軸受の軌道盤。
  3. 前記軌道盤の材質は0.4質量%以上1.2質量%以下の炭素を含む鋼である、請求項1または2のいずれかに記載のスラスト軸受の軌道盤。
  4. 前記軌道盤は鋼板をプレス加工して成形することにより得られた部材を用いて構成されている、請求項1〜3のいずれかに記載のスラスト軸受の軌道盤。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の軌道盤を備えた、スラスト軸受。
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