JP2006192437A - 溶接装置 - Google Patents

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Akiyoshi Imanaga
昭慈 今永
Mitsuaki Haneda
光明 羽田
Takeshi Obana
健 尾花
Mitsuo Kato
光雄 加藤
Hiroo Koide
宏夫 小出
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Abstract

【課題】
厚板の管部材又は平板部材を相互に突き合せた開先継手に対して、パルスアーク溶接又は直流アーク溶接の適正施工によって裏面側に凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビードを形成する。
【解決手段】
裏面側の溶融プール及びこの周辺部を撮像する第1の撮像手段及び照明手段を電極の位置と反対側となる裏面側の位置に配備し、前記第1の撮像手段によって撮像される前記裏面側の溶融プール及びこの周辺部の映像と、この映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法、初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値とを画面表示する第1の映像表示手段を配備する。
【選択図】図2

Description

本発明は管部材または平板部材の突合せ溶接装置に係わり、特に溶接部の信頼性確保のための裏波溶接装置に関する。
容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材の開先継手を表面側からアーク溶接を行う場合、多層盛溶接が必要であるばかりでなく、初層溶接で裏面側に完全溶け込みの健全な裏ビード形成が必要である。下向き姿勢での溶接は、施工が比較的易しく、初層溶接時に裏面側の裏ビードが凸形状に形成し易い。これに対して、上向き姿勢や横向き姿勢や全姿勢の初層溶接(裏波溶接)では、裏面側の裏ビード形状が凹み易く、下向き姿勢より施工が格段に難しく、高度な溶接技術を必要とする。
特に、原子力発電プラント、火力発電プラント、精密機械部品などで使用される高級材料を溶接する場合には、規定の試験に合格した高度な溶接技能を有する熟練溶接士が施工している。この時の溶接法は、主にTIG(タングステン イナートガス)アーク溶接法が用いられている。例えば、熟練溶接士が溶接トーチ及びワイヤ送りを手動操作する手動TIG溶接、あるいはこの手動TIG溶接の一部を機械化した自動TIG溶接装置を熟練溶接士が操作する自動TIG溶接が行われている。また、最近では、カメラで溶接部を撮像して溶接状態やビード形成状態を監視する装置、あるいはカメラで撮像する溶接部の画像を処理して溶融プール形状を検出し、その検出結果に基づいて溶接条件を制御する装置を備えた自動溶接装置が開発、実用されつつある。
開先継手の形状については、V開先、Y開先、J開先よりもU開先の方が裏波溶接の施工に適しており、多く用いられている。また、最近では、開先角度の広い従来開先から開先幅及び開先角度をより狭くした狭開先継手に替わりつつあり、この狭開先継手に適した初層裏波溶接、それ以降の多層盛溶接を適正に施工する必要がある。
また、対象製品の溶接結果については、溶接欠陥のない高品質で信頼性の高い溶接部が要求されるため、初層裏波溶接の終了後や最終層までの溶接終了後に、非破壊検査(例えばX線検査など)による品質検査を実施して溶接欠陥の有無を確認している。初層溶接後の裏面側に溶け込み不良や凹み形状の裏ビードがあると溶接欠陥と判定され、この溶接欠陥及びその周辺部を研削、機械加工によって削除し、補修溶接しなければならない。また、最終溶接後の溶接内部に融合不良などの欠陥が発見された場合も、この溶接欠陥及びその周辺部を削除して補修溶接しなければならず、多大な時間及び費用が必要になる。
裏波溶接に関する溶接方法や溶接装置が幾つか提案されている。例えば、特許文献1
(特開平8−90229号公報)に記載の管の突合せ溶接方法及びその装置では、管の突合せ部にインサートリングを挿入してU形状開先を設け、ルートフラット長を1パスの溶接ビード幅以上の長さになるように調整した後に、全自動で溶接することが提案されている。さらに、裏ビードの高さが管内面と同一以上の高さに形成できるように、溶接部(表面側)のビード幅、ビード温度、溶融池幅、溶融池面積及び溶融池温度の少なくとも1つの情報に基づいて入熱量を制御することが提案されている。
また、特許文献2(特開平7−214316号公報)に記載の片面自動溶接方法及び装置では、レーザスリット光を溶接部の裏面側から溶接線直角方向に照射して得られる裏波ビードの形状状態の光切断画像を干渉フィルタを介してITVカメラにて撮像し、この撮像した画像を画像処理して裏波ビード高さを求め、この裏波ビードの高さと溶接姿勢とに応じて溶接条件を制御することが提案されている。
また、特許文献3(特開2000−61637号公報)に記載の裏波溶接装置及び裏波溶接方法では、溶接部の裏面を撮像して得られた画像データから赤熱部の大きさを検出し、低周波TIGパルスアーク溶接の周期よりも長く設定された検出時間内で、前記赤熱部の大きさが増減している時は適正な裏波ビードが形成されていると判定し、その判定結果を出力、表示すること、あるいは前記判定後に前記赤熱部の輝度データの総和を求め、この輝度データの総和に基づいて裏波ビードの大小を評価し、その評価結果を出力することが提案されている。
また、特許文献4(特開2000−153356号公報)に記載の内面監視装置と自動溶接装置では、溶接部位の裏面側に配置して初層溶接時の裏面側の溶接状態を監視する監視手段と、この監視手段の監視結果を出力する出力手段とを備えた内面監視装置であること、さらに、この内面監視装置と、操作に従って溶接対象の配管に溶接を施す溶接手段と、この溶接手段の溶接条件を調整する溶接条件調整手段とを備えた自動溶接装置が提案されている。
また、特許文献5(特開平8−197254号公報)に記載の自動溶接方法及び自動溶接装置では、溶接線上に開先ブロックのような障害物がある開先継手に対して、各開先ブロックを飛び越し回避しながら仮付け溶接条件で溶接動作を行うこと、開先ブロック除去後に、多層多パスの溶接条件の順列に従って全パス終了するまでの多層多パス溶接を順次に実行することが提案されている。
また、特許文献6(特開2003−181643号公報)に記載の裏波溶接方法、裏波溶接装置では、溶接線に沿って形成される溶融池に直流電流を流すと同時に、前記溶融池に溶接線と直交する方向の磁界を付与し、前記溶融池に作用する重力よりも大きい上向きのローレンツ力を前記溶融池に作用させること、また、配管の円周溶接時には溶融池の内周面方向にローレンツ力を作用させることが提案されている。
特開平8−90229号公報 特開平7−214316号公報(特許2977435号公報) 特開2000−61637号公報 特開2000−153356号公報 特開平8−197254号公報(特許3261516号公報) 特開2003−181643号公報
上述した熟練溶接士による手動TIG溶接は、担当する溶接士の技能レベルによって溶接結果に違いやバラツキが生じるばかりでなく、集中力や体調の変化により、常に健全で良好な溶接品質を確保することが難しい。特に、初層溶接時に均一で良好な裏ビードを常に得ることが難しい。適正に形成すべき裏ビード幅の基準値がないため、担当する溶接士によって裏ビードの形成状態に大きなバラツキがある。例えば、溶け不足(裏ビードなし欠陥)を避けるように、溶け落ちに近い幅広の裏ビードであったり、その裏ビード幅が断続的に大小変化していたりして、溶接品質が不十分なこともある。また、初層裏波溶接から最終層までの多層盛溶接が必要となれば、悪環境下での長時間にわたる過酷な溶接作業にならざるを得ず、欠陥のない溶接を持続することは困難である。
一方、上記特許文献1の場合には、管内面と同一高さあるいは凸形状の裏ビードを得るための工夫がされている。しかしながら、インサートリングの幅bを含む開先底部のルートフラット長dが長く、ルートフェイス長(厚み)bが小さいため、初層裏波溶接時に開先底部の両壁面が溶かされず、裏ビードの厚みが薄く形成されることになる。このため、初層溶接後の2層目溶接時に、開先底部の壁面の溶融と同時に裏面側まで溶融し、初層溶接時に形成した裏ビードが再溶融されて凹形状に変化する可能性が高い。また、表面側の溶接部から得られる情報を基に入熱量を制御するようにしているが、裏面側の溶融状態を監視する又は検出する情報ではないため、所望の裏ビードを得ることが難しい。さらに、開先角度θが広い(30°≦θ≦60°)ため、初層溶接以降に溶接すべき開先断面積が増大し、多くの多層多パス溶接が必要になる。
また、特許文献2の場合には、溶接直後の裏ビード高さの検出によって溶接ビードの結果の良し悪しを判定するようにしている。しかしながら、既に欠陥を有した裏ビードになったものに対して、溶接条件を制御しても回復することができない。また、レーザスリット光による光切断画像から裏ビード幅、ビード形成前方の溶融プール幅を検出することは困難であり、記載もされていない。
また、特許文献3の場合には、パルス周期より長くした検出期間内で、赤熱部の大きさ(幅)や輝度の積分値(輝度データの総和)が変動する状態より裏ビード形成の良否判定、裏ビードの大小判定をし、その判定結果を出力、表示するようにしている。しかしながら、裏ビードの悪化時や形成不足時に溶接条件を調整したり、制御したりするまでに至っていない。また、パルス周波数が高い10Hz以上のパルスアーク溶接の場合は、パルス周期が短くなり、しかも、裏ビードの幅変動が小さいため、裏ビード形成の良否の適正に判定することができない可能性が高い。さらに、パルスアーク溶接と異なる直流アーク溶接には適用することが困難である。
また、特許文献4の場合には、初層溶接時の裏面側の溶接状態を監視手段で監視した監視結果を出力手段に出力して、溶接士に報知(目視)できるようにしているが、その監視結果の良し悪しは、担当する溶接士の判断に任せたままである。どのような溶接状態が最適な裏ビード形成なのか不明であるばかりでなく、溶接条件の何をどのように調整すればよいのか全く記載されていない。また、溶接中又は溶接後に、溶け落ちや溶け残りなどの欠陥部を見つけることができるが、その欠陥部を溶接中に回復することができず、溶接後に補修溶接を行う必要がある。
一方、特許文献5は、本発明者らが提案した自動溶接方法及び自動溶接装置であり、開先ブロック付きの開先継手の多層多パス溶接を自動化するのに有効である。しかしながら、初層溶接で重要な裏ビードの適正幅が考慮されておらず、また、裏ビードの形成状態を監視、検出する手段も設けられていなかった。また、開先継手の開先角度が広いため、初層溶接以降に溶接すべき開先断面積が増大し、多くの多層多パス溶接が必要になっていた。
特許文献6の場合には、裏波溶接時に形成される溶融池に流す溶接線方向の直流電流と前記溶融池に付与する直交方向の磁界とによって発生するローレンツ力を溶融池(溶接部)の裏面側方向に働くようにしている。しかしながら、ローレンツ力の発生及び調整に不可欠な磁界を付与、制御するための特別な磁界発生用電源、コイル及び制御器が必要である。さらに、ワイヤ(溶加材)に正極性の直流電流を流す必要があり、このワイヤへの給電加熱によってワイヤ溶融量が増すため、裏面側の裏ビード形成に悪影響を及ぼす可能性がある。また、裏ビードの形成状態を監視又は検出するような装置は、特別に配備されていないし、適正な裏ビード幅についても全く記載されていない。
この他にも、裏波溶接時の溶接条件を制御する方法や溶接装置があるが、適正な裏ビード幅をいくらにすべきなのか具体的な数値目標が記載されていない。
本発明の目的は、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を相互に突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、非消耗性のタングステン電極によるパルスアーク溶接又は直流アーク溶接の適正施工によって開先底部の裏面側に凹みのない凸形状で均一な裏ビード幅を形成すると共に、開先上面部まで積層する多層盛溶接を良好に施工し得る好適な溶接装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するために、溶接部位と目標とすべき溶接結果とを適切に表示する手段を備えたことを特徴とする溶接装置を提案する。また、その目標とすべき溶接結果を4〜6mmの裏ビード幅として設定することを特徴とする。
本発明によれば、裏面側に凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に形成し、溶接による熱変形、溶接裏面部分及び溶接表面部分の残留応力を低減することができる。また、溶接すべき開先断面積を小さくし、1層1パスずつ積層する多層盛溶接が可能になる。その結果、溶接パス毎の入熱量や多層盛溶接の累計入熱量、使用する溶接ワイヤ量、溶接工数を低減することが可能となる。
本発明は、上記目的を達成するために、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を相互に突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、溶接トーチの先端部に装着した非消耗性の電極を前記開先継手の開先内に挿入し、又は前記非消耗性の電極とアーク中に送給するワイヤとを開先内に挿入し、パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行う溶接装置において、裏面側の溶融プール及びこの周辺部を撮像する第1のカメラ又はこの第1のカメラと撮像周辺部を照らす照明手段、あるいは前記第1のカメラに該当する第1の撮像手段及び前記照明手段を前記電極の位置と反対側となる裏面側の位置かその近傍か前記撮像可能な位置に配備し、前記第1のカメラ又は前記第1の撮像手段によって撮像される前記裏面側の溶融プール及びこの周辺部の映像と、この映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法、初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値とを画面表示する第1の映像モニタ装置又はこの第1の映像モニタ装置に該当する第1の映像表示手段を配備し、前記パルスアーク溶接のピーク電流とベース電流、ピーク電流時間とベース電流時間又はパルス周波数かパルス周期時間、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピークワイヤ送りとベースワイヤ送りの条件設定及び変更調整、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度の条件設定及び変更調整が可能な溶接条件調整手段、又は前記パルスアーク溶接のピーク電流、ベース電流、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御可能な溶接条件調整手段、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御可能な溶接条件調整手段を配備し、初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が特定値の約5±1mmか4〜6mmの範囲に形成するように前記パルスアーク溶接又は前記直流アーク溶接を行うようにしたことを特徴とする溶接装置を提案する。
また、本発明は、上記目的を達成するために、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を相互に突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、溶接トーチの先端部に装着した非消耗性の電極を前記開先継手の開先内に挿入し、又は前記非消耗性の電極とアーク中に送給するワイヤとを開先内に挿入し、パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行う溶接装置において、裏面側の溶融プール及びこの周辺部を撮像する第1のカメラ又はこの第1のカメラと撮像周辺部を照らす照明手段、あるいは前記第1のカメラに該当する第1の撮像手段及び前記照明手段を前記電極の位置と反対側となる裏面側の位置かその近傍か前記撮像可能な位置に配備し、前記第1のカメラ又は前記第1の撮像手段によって撮像される前記裏面側の溶融プール及びこの周辺部の映像と、この映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法、初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値とを画面表示する第1の映像モニタ装置又はこの第1の映像モニタ装置に該当する第1の映像表示手段を配備し、あるいは前記映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定可能な寸法測定ゲージ又はこの寸法測定ゲージに該当する寸法測定手段、あるいは前記裏ビード幅の適正範囲の特定表示と前記裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定とが可能な寸法特定ゲージ又はこの寸法特定ゲージに該当する寸法特定手段を前記第1の映像モニタ装置の画面又は前記第1の映像表示手段の画面に配備し、初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール幅近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は前記直流アーク溶接を行うようにしたことを特徴とする溶接装置を提案する。
また、本発明は、上記目的を達成するために、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を相互に突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、溶接トーチの先端部に装着した非消耗性の電極を前記開先継手の開先内に挿入し、又は前記非消耗性の電極とアーク中に送給するワイヤとを開先内に挿入し、パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行う溶接装置において、裏面側の溶融プール及びこの周辺部を撮像する第1のカメラ又はこの第1のカメラと撮像周辺部を照らす照明手段、あるいは前記第1のカメラに該当する第1の撮像手段及び前記照明手段を前記電極の位置と反対側となる裏面側の位置かその近傍か前記撮像可能な位置に配備し、前記第1のカメラ又は前記第1の撮像手段によって撮像される前記裏面側の溶融プール及びこの周辺部の映像と、この映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法、初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値とを画面表示する第1の映像モニタ装置又はこの第1の映像モニタ装置に該当する第1の映像表示手段を配備するか、あるいは表面側の電極先端部及び溶接部分が撮像可能な第2のカメラ又はこの第2のカメラに該当する第2の撮像手段によって撮像される前記表面側の電極先端部及び溶接部分の映像画面と、この映像画面と異なる他の映像画面とを区別する2分割画面表示の可能な第2の映像モニタ装置又はこの第2の映像モニタ装置に該当する第2の映像表示手段を配備し、前記第1のカメラ又は前記第1の撮像手段によって撮像される裏面側の前記映像と、この前記映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法、初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値とを前記2分割画面表示の可能な前記第2の映像モニタ装置の片画面又は前記第2の映像表示手段の片画面に画面表示し、あるいは裏面側の前記映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定可能な寸法測定ゲージ又はこの寸法測定ゲージに該当する寸法測定手段、あるいは前記裏ビード幅の適正範囲の特定表示と前記裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定とが可能な寸法特定ゲージ又はこの寸法特定ゲージに該当する寸法特定手段を前記第1の映像モニタ装置の画面又は前記第1の映像表示手段の画面に配備するか、又は前記第2の映像モニタ装置の片画面又は前記第2の映像表示手段の片画面に配備し、初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール幅近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は前記直流アーク溶接を行うようにしたことを特徴とする溶接装置を提案する。
特に、前記裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の適正範囲を約5±1mmか4〜6mmに特定して、前記第1の映像モニタ装置又は2画面分割表示の可能な前記第2の映像モニタ装置又はこれらの映像モニタ装置に該当する表示手段に画面表示し、前記初層裏波溶接の実施時に、裏面側の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は前記直流アーク溶接を行うようにするとよい。
また、前記開先継手の管部材又は平板部材は、主にオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなる狭開先継手であり、開先底部の開先幅又はこの開先底部中央に挿入するインサート材の幅を含む開先底部の開先幅を最小で4mm以上、最大で8mm以下の寸法に予め形成すると共に、開先上面部までの片面角度を5°以下の狭い開先形状に形成し、前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うようにするとよい。
さらに、前記開先継手の開先底部中央にインサート材を表面側及び裏面側に各々突き出すように予め設け、このインサート材は、前記開先継手材と同質材のオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなるインサート材、あるいは前記開先継手材と同質材であって、化学組成の一つであるS(重量%)が前記開先継手材より高めの0.008〜0.015%含有しているインサート材を用い、本溶接の前記初層裏波溶接を行う以前に、前記非消耗性の電極を開先底部近傍まで挿入し、裏面側の継ぎ部及び前記インサート材の突き出し部まで溶融しない浅い溶け込みの低入熱アーク及びワイヤ送りなしの仮付け条件を出力させ、表面側の開先底部の継ぎ部とインサート材の突き出し部とが溶融接合するようにワイヤ送りなしの仮付け溶接を実施し、この仮付け溶接の終了後に、本溶接の前記初層裏波溶接条件のアークを前記電極先端より出力させて、前記表面側から裏面側の継ぎ部及び前記インサート材の突き出し部を溶融させ、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように前記裏波溶接を実施することもできる。
また、前記パルスアーク溶接のピーク電流とベース電流、ピーク電流時間とベース電流時間又はパルス周波数かパルス周期時間、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピークワイヤ送りとベースワイヤ送りの条件設定及び変更調整、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度の条件設定及び変更調整が可能な溶接条件調整手段を配備し、前記初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記溶接条件調整手段によって前記パルスアーク溶接のピーク電流、ベース電流、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御することもできる。
また、前記溶接トーチ先端の電極の左右位置、上下位置の設定及び変更調整が可能なトーチ位置調整手段、又は前記溶接トーチ先端の電極の左右位置、上下位置と前記ワイヤの左右位置、上下位置との設定及び変更調整が可能なトーチ位置及びワイヤ位置調整手段をさらに設け、前記初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記溶接条件調整手段によって1つ以上の前記条件値を調整又は制御し、また、前記トーチ位置調整手段によって前記電極の左右位置ずれ又はこの左右位置ずれと上下位置ずれとを調整又は制御し、あるいは前記トーチ位置及びワイヤ位置調整手段によって前記電極の左右位置ずれ、上下位置ずれ、前記ワイヤの左右位置ずれ、上下位置ずれのいずれか1つ以上を調整又は制御することもできる。
また、前記第1のカメラ又は前記第1の撮像手段によって撮像する裏面側の溶融プール及びこの周辺部の画像を処理して溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅をリアルタイムで検出可能な第1の画像処理装置又はこの第1の画像処理装置に該当する第1の検出処理手段と、前記第1の画像処理装置又は前記第1の検出処理手段による検出結果に基づいて、ピーク電流か平均電流、ピーク電圧か平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は平均ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値の増減制御が可能な溶接条件制御手段とをさらに設け、前記初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように前記1つ以上の条件値を増減制御することもできる。
さらに、前記初層裏波溶接で前記適正範囲の裏ビード幅が形成可能な出力すべき初層条件又は前記初層裏波溶接を行う以前の仮付け溶接で出力すべき小入熱の仮付け条件及び前記初層条件、初層溶接時に形成した前記裏ビードを2層目の溶接時に再溶融させない入熱条件に抑制した2層目条件、前記初層条件及び2層目条件と異なる溶接条件であって3層目から最終層までの各溶接パスで出力すべき複数の積層条件の設定、記憶及び再生が可能な溶接データファイル又はこの溶接データファイルに該当する溶接条件設定手段と、前記溶接データファイル又は前記溶接条件設定手段に予め設定された層別又はパス別の各溶接条件に基づいて、前記初層裏波溶接又は前記仮付け溶接及び前記初層裏波溶接、その後の2層目溶接、3層目から開先上部の最終層までの各溶接が実行可能な溶接実行手段とをさらに設け、前記仮付け溶接を含む開先底部の前記初層裏波溶接から開先上面部の最終層まで1層1パスずつ積層する多層盛溶接を順番に実施することもできる。
すなわち、本発明の溶接装置では、裏面側の溶融プール及びこの周辺部を撮像する第1のカメラ又はこの第1のカメラと撮像周辺部を照らす照明手段、あるいは前記第1のカメラに該当する第1の撮像手段及び前記照明手段を前記電極の位置と反対側となる裏面側の位置かその近傍か前記撮像可能な位置に配備し、前記第1のカメラ又は前記第1の撮像手段によって撮像される前記裏面側の溶融プール及びこの周辺部の映像と、この映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法、初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値とを画面表示する第1の映像モニタ装置又はこの第1の映像モニタ装置に該当する第1の映像表示手段を配備することにより、初層裏波溶接で重要な裏面側の溶融プール及び裏ビードの形成状態や大きさ、特定値の裏ビード幅を映像として監視及び観察でき、溶接中の裏ビード幅が適正範囲に形成されているか否かを容易に判定することができる。特に、照明手段を併用することにより、輝度及び濃淡の異なる高温度の溶融プールとその周辺部及び凝固形成した裏ビード部との映像をより鮮明に撮ることができる。
また、前記パルスアーク溶接のピーク電流とベース電流、ピーク電流時間とベース電流時間又はパルス周波数かパルス周期時間、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピークワイヤ送りとベースワイヤ送りの条件設定及び変更調整、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度の条件設定及び変更調整が可能な溶接条件調整手段を配備することにより、狭開先溶接で必要な各溶接条件の設定や変更はもちろんのこと、初層裏波溶接で重要な目標寸法の裏ビード幅を得るべく、個々の条件値を容易に調整することができる。また、前記溶接条件調整手段の代わりに、前記パルスアーク溶接のピーク電流、ベース電流、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御可能な溶接条件調整手段、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御可能な溶接条件調整手段を配備しても、必要に応じて各々の条件値を個別に適宜調整することができる。初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が特定値の約5±1mmか4〜6mmの範囲に形成するように、前記パルスアーク溶接又は前記直流アーク溶接を行うことにより、原子力発電プラント、火力発電プラント、化学プラント、精密機械部品などで使用される高級材料の溶接であっても、また、溶接装置を操作する溶接士が代わっても、目標寸法の裏ビード幅を特定値の適正範囲に確実に形成させることができ、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。裏波溶接が比較的易しい下向き姿勢や立向き上進姿勢の溶接はもちろんのこと、裏波溶接が比較的難しい傾向にある上向き姿勢や横向き姿勢の溶接、全姿勢溶接にも有効である。
また、本発明の溶接装置では、裏面側の溶融プール及びこの周辺部の映像の大きさ又は溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定可能な寸法測定ゲージ又はこの寸法測定ゲージに該当する寸法測定手段、あるいは前記裏ビード幅の適正範囲の特定表示と前記裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定とが可能な寸法特定ゲージ又はこの寸法特定ゲージに該当する寸法特定手段を前記第1の映像モニタ装置の画面又は前記第1の映像表示手段の画面に配備することにより、上述したように、初層裏波溶接で重要な裏面側の溶融プール及び裏ビードの形成状態や大きさ、特定値の裏ビード幅を映像として監視及び観察でき、溶接中の裏ビード幅が適正範囲に形成されているか否かを容易に判定することができる。
さらに、本発明の溶接装置では、表面側の電極先端部及び溶接部分が撮像可能な第2のカメラ又はこの第2のカメラに該当する第2の撮像手段によって撮像される前記表面側の電極先端部及び溶接部分の映像画面と、この映像画面と異なる他の映像画面とを区別する2分割画面表示が可能な第2の映像モニタ装置又はこの第2の映像モニタ装置に該当する第2の映像表示手段を配備することにより、1つの画面を2つに分割して異なる2種類の映像を2画面に分割して同時に表示することができる。この場合には、表面側の電極先端部及び溶接部分の映像を前記第2の映像モニタ装置の片画面又は前記第2の映像表示手段の片画面に表示し、他の片画面には裏面側の溶融プール及びその周辺部の映像、裏面側の溶融プール幅又は裏ビード幅を示す寸法、裏ビード幅の適正範囲を示す特定値を表示するようにしている。このように、所望する2種類の映像を1つの画面内に分割して分かり易く画面表示することにより、表面側の溶接状態と裏面側の裏ビード形成状態との両方を確実に監視及び観察することができる。
また、裏面側の前記映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定可能な寸法測定ゲージ又はこの寸法測定ゲージに該当する寸法測定手段、あるいは前記裏ビード幅の適正範囲の特定表示と前記裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定とが可能な寸法特定ゲージ又はこの寸法特定ゲージに該当する寸法特定手段を前記第1の映像モニタ装置の画面又はこの第1の映像モニタ装置に該当する前記第1の映像表示手段の画面に配備するか、又は前記第2の映像モニタ装置の片画面又は前記第2の映像表示手段の片画面に配備することにより、上述したように、裏面側の溶融プール及び裏ビード形成状態を監視及び観察でき、溶接中の裏ビード幅が適正範囲に形成されているか否かを容易に判定することができる。
特に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の適正範囲を約5±1mmか4〜6mmに特定し、この特定値を前記第1の映像モニタ装置又は2画面分割表示の可能な前記第2の映像モニタ装置又はこれらの映像モニタ装置に該当する映像表示手段に画面表示して監視及び判断できる状態にするとよい。そして、初層裏波溶接の実施時に、裏面側の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲(約5±1mmか4〜6mm)に形成するように、初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うことにより、溶接装置を操作する溶接士が代わっても個人差の影響がなくなり、上述したように、目標寸法の裏ビード幅を特定値の適正範囲に確実に形成させることができ、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
また、前記開先継手の管部材又は平板部材は、主にオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなる狭開先継手であり、開先底部の開先幅又はこの開先底部中央に挿入するインサート材の幅を含む開先底部の開先幅を最小で4mm以上、最大で8mm以下の寸法に予め形成すると共に、開先上面部までの片面角度を5°以下の狭い開先形状に形成することにより、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、1層1パスずつ積層する多層盛溶接が可能になり、使用する溶接ワイヤ量や溶接工数を低減することができる。また、上述したように、初層裏波溶接時には、裏面側の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うことにより、目標寸法の裏ビード幅を適正範囲に確実に形成でき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
さらに、前記開先継手の開先底部中央にインサート材を表面側及び裏面側に各々突き出すように予め設けることにより、裏面側に適正範囲(約5±1mmか4〜6mm)の裏ビード幅を確実に凸形状に形成できるばかりでなく、開先底部の突合せ部に生じ易い段違いやギャップの影響を緩和することができる。このインサート材は、前記開先継手材と同質材のオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなるインサート材、あるいは前記開先継手材と同質材であって、化学組成の一つであるS(重量%)が前記開先継手材より高めの0.008〜0.015% 含有しているインサート材を用いるとよい。特に、前記Sの含有量が高めのインサート材を用いることにより、Sの含有量が少ない通常のインサート材使用の溶接時よりも、アーク形状が細く絞られ、深さ方向への溶融金属の対流及び溶け込みが促進し、10〜20%程度少ない溶接電流(又は入熱量)の溶接条件で裏面側に裏ビードが容易に形成でき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
また、本溶接の前記初層裏波溶接を行う以前に、前記非消耗性の電極を開先底部近傍まで挿入し、裏面側の継ぎ部及び前記インサート材の突き出し部まで溶融しない浅い溶け込みの低入熱アーク及びワイヤ送りなしの仮付け条件を出力させ、表面側の開先底部の継ぎ部とインサート材の突き出し部とが溶融接合するようにワイヤ送りなしの仮付け溶接を実施することにより、裏面側まで溶融しない浅い溶け込みの溶接ビードが開先底部に良好に形成でき、溶接対象の開先継手を確実に接合固定することができる。そして、この仮付け溶接の終了後に、本溶接の前記初層裏波溶接条件のアークを前記電極先端より出力させて、前記表面側から裏面側の継ぎ部及び前記インサート材の突き出し部を溶融させ、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように前記裏波溶接を実施することにより、高度な溶接技術を要する配管の全姿勢溶接、管材の横向き姿勢の溶接、平板材の上向き姿勢の初層裏波溶接であっても、上述したように、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。この初層裏波溶接時に、少量のワイヤ送りをすることが好ましいが、ワイヤ送りなし溶接も選択可能であり、裏ビード幅が特定値の約5±1mmか4〜6mmの範囲に形成するように溶接することが重要である。
また、前記パルスアーク溶接のピーク電流とベース電流、ピーク電流時間とベース電流時間又はパルス周波数かパルス周期時間、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピークワイヤ送りとベースワイヤ送りの条件設定及び変更調整、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度の条件設定及び変更調整が可能な溶接条件調整手段を配備することにより、上述したように、狭開先溶接で必要な各溶接条件の設定や変更はもちろんのこと、初層裏波溶接で重要な目標寸法の裏ビード幅を得るべく、個々の条件値を容易に調整することができる。
そして、前記初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記溶接条件調整手段によって前記パルスアーク溶接のピーク電流、ベース電流、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御し、あるいは前記直流アーク溶接の平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御することにより、上述したように、溶接装置を操作する溶接士が代わっても個人差の影響がなくなり、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に確実に形成でき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
また、前記溶接トーチ先端の電極の左右位置、上下位置の設定及び変更調整が可能なトーチ位置調整手段、又は前記溶接トーチ先端の電極の左右位置、上下位置と前記ワイヤの左右位置、上下位置との設定及び変更調整が可能なトーチ位置及びワイヤ位置調整手段をさらに設けることにより、電極の左右及び上下位置、ワイヤの左右及び上下位置を任意に調整することができる。そして、前記初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記溶接条件調整手段によって1つ以上の前記条件値を調整又は制御し、また、前記トーチ位置調整手段によって前記電極の左右位置ずれ又はこの左右位置ずれと上下位置ずれとを調整又は制御し、あるいは前記トーチ位置及びワイヤ位置調整手段によって前記電極の左右位置ずれ、上下位置ずれ、前記ワイヤの左右位置ずれ、上下位置ずれのいずれか1つ以上を調整又は制御することにより、前記溶接条件の調整や制御だけでなく、溶接の悪化要因である電極の左右位置ずれ、上下位置ずれ、ワイヤの左右位置ずれ、上下位置ずれをなくすことができる。
また、前記第1のカメラ又は前記第1の撮像手段によって撮像する裏面側の溶融プール及びこの周辺部の画像を処理して溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅をリアルタイムで検出可能な第1の画像処理装置又はこの第1の画像処理装置に該当する第1の検出処理手段を設けることにより、裏面側の溶接プール幅及び裏ビード幅を極短い時間間隔で精度良く検出することができる。前記第1の画像処理装置又は前記第1の検出処理手段による検出結果に基づいて、ピーク電流か平均電流、ピーク電圧か平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は平均ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値の増減制御が可能な溶接条件制御手段をさらに設け、前記初層裏波溶接の実施時に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記1つ以上の条件値を増減制御することにより、裏面側の溶融プール幅又は裏ビード幅を適正範囲に正確に制御でき、自動溶接が可能になり、溶接士の負担を大幅に軽減でき、溶接品質の良好な結果を得ることができる。
例えば、前記画像処理装置で検出する裏面側の溶融プール幅の検出値Bsが前記特定値の適正範囲より小さくなる状態(Bs<B1=4mm)であれば、ピーク電流(パルスアーク溶接の時)や平均電流(直流アーク溶接の時)を増加(I+ΔI)させる。反対に、溶融プール幅の検出値Bsが前記特定値の適正範囲より大きくなる状態(Bs>B2=6mm)であれば、ピーク電流(パルスアーク溶接の時)や平均電流(直流アーク溶接の時)を減少(I−ΔI)させるとよい。溶融プール幅の検出値Bsが適正範囲内の状態(例えば
B1=4≦Bs≦B2=6mm)であれば、出力中の溶接条件をそのまま保持するとよい。このように、検出値の判定結果に基づいて条件因子を適正に増減制御することにより、アーク力及び入熱量の増減によって溶融プール幅及びその溶融プール近傍の裏ビード幅を適正範囲内に短時間で回復することができる。また、ピーク電流又はベース電流(パルスアーク溶接の時)、平均電流(直流アーク溶接の時)の増減と同時に、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はワイヤ送り速度を増減する制御を行うことにより、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に確実に形成することができる。
さらに、前記初層裏波溶接で前記適正範囲の裏ビード幅が形成可能な出力すべき初層条件又は前記初層裏波溶接を行う以前の仮付け溶接で出力すべき小入熱の仮付け条件及び前記初層条件、初層溶接時に形成した前記裏ビードを2層目の溶接時に再溶融させない入熱条件に抑制した2層目条件、前記初層条件及び2層目条件と異なる溶接条件であって3層目から最終層までの各溶接パスで出力すべき複数の積層条件の設定、記憶及び再生が可能な溶接データファイル又はこの溶接データファイルに該当する溶接条件設定手段と、前記溶接データファイル又は前記溶接条件設定手段に予め設定された層別又はパス別の各溶接条件に基づいて、前記初層裏波溶接又は前記仮付け溶接及び前記初層裏波溶接、その後の2層目溶接、3層目から開先上部の最終層までの各溶接が実行可能な溶接実行手段とをさらに設け、前記仮付け溶接を含む開先底部の前記初層裏波溶接から開先上面部の最終層まで1層1パスずつ積層する多層盛溶接を順番に実施することにより、溶接装置を操作する溶接士が代わっても、裏面側まで溶融しない浅い溶け込みの仮付け溶接、適正範囲の裏ビード幅を形成させる初層裏波溶接、2層目溶接以降に継続する3層目溶接から開先上面部の最終層まで積層する多層盛溶接の良好な結果を確実に得ることができるばかりでなく、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、使用する溶接ワイヤ量の削減や溶接工数の低減を図ることができる。特に、初層裏波溶接の終了後に行う2層目の溶接では、少なくとも初層溶接時に形成した適正範囲の裏ビード幅を再溶融させない程度の溶接入熱に抑制した溶接条件に変更して溶接することにより、裏ビードの再溶融が確実に防止できると共に、表面側に積層するビード高さを増すことができる。さらに、3層目から開先上面部の最終層までの各溶接では、前記溶接データファイル又はこの溶接データファイルに該当する溶接条件設定手段に基づいて、1層1パスずつ積層すべき溶接パスに該当する溶接条件を順番に出力させて溶接することにより、開先上面部の最終層まで積層する各積層ビードを良好に仕上ることができる。
以下、本発明の内容について、図1〜図7の実施例に用いて具体的に説明する。図1は、本発明の裏波溶接方法に係わる溶接装置の一実施を示す概略構成図である。溶接対象の継手部材1、2は、開先底部の裏面側に裏ビード15形成(完全溶け込み)を有する初層裏波溶接、開先上部までの多層盛溶接が必要な厚板の狭開先継手である。この狭い継手部材1、2の開先内3に非消耗性の電極6を挿入する。この電極6は、溶接台車5に搭載されている溶接トーチ4(TIGトーチ)の先端に装着され、この溶接トーチ4を駆動する溶接台車5内の駆動機構(省略)によって開先内3の上下方向及び左右方向に移動できるようになっている。また、この電極6は、例えばLa23入りW、Y23入りW、ThO2入りWなどの高融点材のタングステンを主成分とする市販品の丸電極棒を用いればよい。本溶接試験によれば、太径電極の横幅を狭く偏平形状に加工しなくても、開先内3に挿入可能な細径の丸電極6(例えば外径φ2.4 の電極棒の先端のみを円錐形状に加工)であっても、シールドガス33が流入するガス雰囲気内で、この丸電極6先端と開先底部との間に発生させるアーク10が開先内3の壁面側にはい上がることなく、そのアーク10を開先底部位置に安定に持続することができる。また、前記非消耗性の電極6と省略してあるワイヤ9aとを前記継手部材1、2の開先内3に挿入し、アーク10中及び溶融プール18中にワイヤ9aを送りながらパルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うこともできる。表面側の溶接部に流入するシールドガス33は、不活性の純Arガス、あるいはAr+数パーセントH2 入りの混合ガス又はAr+数十パーセントHe入りの混合ガスを使用すればよい。これらの混合ガスを使用すると、純Arガスと比べてエネルギ密度やアークの集中性が高まり、溶融状態及び溶け込みを良くでき、溶接速度も上げることができる。開先底部中央に設けるインサート材19については図3にて説明する。
TIG溶接電源8は、前記溶接トーチ4先端の電極6と継手部材1、2との間に接続されており、溶接モードを選択するスイッチによってパルスアーク溶接又は直流アーク溶接の切り換えが可能な溶接電源である。パルスアーク溶接を選択した場合は、このパルスアーク溶接の給電に必要なピーク電流とベース電流、アーク電圧などの各条件値を任意に出力でき、また、パルス周波数の任意変更(例えば1Hz〜最大500Hz)もできるようになっている。パルスアーク溶接と異なる直流アーク溶接を選択した場合には、溶接電流(平均電流)に該当する所望の直流電流、アーク電圧(平均アーク電圧)を出力することができる。溶接制御装置7aは、図示していないレール上を走行可能な溶接台車5の走行を指令制御し、TIG溶接電源8の出力を指令制御し、溶接トーチ4(電極6)の左右位置、上下位置を必要に応じて指令制御し、電極6先端部へのワイヤ9aの供給、このワイヤ9aの左右位置及び上下位置を必要に応じて調整し、さらに、継手部材1、2の裏面側に配備してある裏面側監視装置17を駆動するものである。操作ペンダント7bは、溶接制御装置7aに接続されており、溶接条件調整手段、トーチ位置及びワイヤ位置調整手段を内蔵している。操作ペンダント7bに内蔵されている溶接条件調整手段により、パルスアーク溶接時のピーク電流とそのピーク電流時間、ベース電流とそのベース電流時間、又はパルス周波数とピーク電流の時間比率、電極高さの制御(AVC制御)に使用するピーク電圧又はベース電圧又は平均アーク電圧、ピークワイヤ送りとベースワイヤ送り、溶接速度又はこの溶接速度に該当する走行速度の各条件値を設定したり、これらの条件値を溶接中に割り込んで調整したりすることができるようになっている。また、トーチ位置及びワイヤ位置調整手段により、前記溶接トーチ4の位置ずれや、省略しているワイヤ9aの位置ずれを調整したりすることができるようになっている。
また、直流アーク溶接を選択した場合には、前記溶接条件調整手段により、直流アーク溶接で出力すべき平均電流、電極高さの制御(AVC制御)に使用する平均アーク電圧又はアーク長、ワイヤ送り速度、溶接速度又はこの溶接速度に該当する走行速度の各条件値を設定したり、これらの条件値を溶接中に割り込んで調整したりすることができるようになっている。また、パルスアーク溶接の場合と同様に、トーチ位置及びワイヤ位置調整手段により、溶接トーチ4の位置ずれ、ワイヤ9aの位置ずれを調整したりすることができるようになっている。また、前記操作ペンダント7bに内蔵している溶接条件調整手段は、初層裏波溶接で出力すべき初層条件の設定、記憶及び再生が可能であると共に、前記初層裏波溶接以前の仮付け溶接で出力すべき小入熱の仮付け条件、2層目溶接で出力すべき2層目条件、3層目から最終層までの各溶接パスで出力すべき複数の積層条件の設定、記憶及び再生が可能な機能を有している。この溶接条件調整手段に該当する機能を有する溶接データファイルや他の手段であってもよい。また、前記操作ペンダント7bは、溶接実行手段を兼用しており、前記溶接条件調整手段又はこの溶接条件調整手段に該当する溶接データファイルに予め設定された層別又はパス別の各溶接条件に基づいて、仮付け溶接、初層裏波溶接、その後2層目溶接、3層目から開先上面部の最終層までの各溶接が順番に実行できるようになっている。最終層まで積層溶接する手順については、図3にて説明する。
一方、裏面側監視装置17には、裏面側の溶融プール16及びこの周辺部を撮像する第1のカメラ11、この撮像周辺部を照らす照明手段32(例えば小径の照明ランプ)、前記裏面側の溶融プール16及びこの周辺部の裏ビード15を保護するためのバックシールドガス34(例えばArガス)を流すガス流出ボックスを装備している。また、第1の映像モニタ装置13は、カメラ制御器12と一対の前記第1のカメラ11又はこの第1のカメラ11に該当する撮像手段によって撮像する裏面側の溶融プール16及びこの周辺部の映像を画面表示するものである。同時に、この映像の大きさ又は溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅Bを示す寸法、初層裏波溶接で形成すべき裏面側の溶融プール幅又は裏ビード幅の適正範囲を示す特定値14を第1の映像モニタ装置13の画面内に表示するようにしている。第1の映像モニタ装置13は、これに該当する他の映像表示手段であってもよい。裏面側の溶融プール幅又は裏ビード幅の適正範囲は、約5±1mmか4〜6mmであり、この適正範囲を特定した数値及びこの数値に該当する線引きライン(点線)又は寸法矢印を監視可能な状態に画面表示している。また、この画面表示に当っては、前記特定値の数値及びこの数値に該当する線引きラインと、前記溶融プール幅又は裏ビード幅との相違を明瞭に区別可能なように色分け表示するとよい。また、裏面側の溶融プール16の映像の大きさ又は裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定可能な寸法測定ゲージ又はこの寸法測定ゲージに該当する寸法測定手段、あるいは前記裏ビード幅の適正範囲の特定表示と前記裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅の寸法測定とが可能な寸法特定ゲージ又はこの寸法特定ゲージに該当する寸法特定手段を前記第1の映像モニタ装置13の画面内に配備してもよい。また、この前記寸法特定ゲージは、取り付け可能ならば、第1のカメラ11内に設けてもよい。
このように、前記第1の映像モニタ装置13の画面又はこの第1の映像モニタ装置13に該当する第1の映像表示手段の画面に直接表示することにより、初層裏波溶接で重要な裏面側の溶融プール及び裏ビードの形成状態や大きさ、裏面側に突き出ているインサート材19の溶融状態、特定値の裏ビード幅Bを映像として監視及び観察でき、溶接中の裏ビード幅が適正範囲に形成されているか否かを容易に判定することができる。特に、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅Bの適正範囲を約5±1mmか4〜6mmに特定し、この特定値を前記第1の映像モニタ装置13の画面内に直接色分け表示して明瞭に監視可能な状態にした後に、裏面側の裏ビード幅Bが前記特定値の適正範囲に形成するように、初層溶接条件を出力させて前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を行うことにより、溶接装置を操作する溶接士が代わっても個人差の影響がなくなり、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に形成することが確実にでき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
本実験によれば、例えば、裏面側の溶融プール幅が約2.5mm 以下になると、裏ビードが形成したり、形成しなかったりする極めて不安定な状態になり、さらに小さくなると、全くでない溶融不足(裏ビードなし)の欠陥溶接の結果に至った。一方、裏面側の溶融プール幅が約7.5mm を超える大きさになると、下向き姿勢での裏ビード形状が1mm以上凸形状に盛り上り(下側に沈み込む形状)、反対に、上向き姿勢での裏ビード形状は1mm程度凹んでしまう結果になり、溶接姿勢の違いによって裏面側の裏ビードが凹凸形状に変化した。さらに、裏面側の溶融プール幅が約9mmを超えると、溶け落ちる欠陥溶接に至った。したがって、上述したように、裏面側の溶融プール幅及び裏ビード幅を約5±1mmか4〜6mmの範囲に特定して確実に形成させ、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビードを得るようにしている。
また、本実験によれば、例えば、パルスアーク溶接時のピーク電流の時間比率50%一定の基で、パルス周波数を1Hzから5Hz、20Hz、50Hz、100Hz、150Hz、300Hz、最大500Hzまでの8段階に変化させてそれぞれ初層裏波溶接を行った。その結果、いずれのパルス周波数領域(約1Hz〜約500Hzの領域)においても、裏面側に裏ビード15が確実に形成でき、さらに、例えば、ピーク電流やベース電流、あるいは溶接速度、ピーク電圧又はアーク長、ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件因子を調整又は制御することにより、溶接開始部から溶接終了部までの裏ビード幅Bを前記特定値の適正範囲に良好に得ることができた。また、直流アーク溶接を行った時も、平均電流、あるいは溶接速度、平均アーク電圧又はアーク長、ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件因子を調整又は制御することにより、パルスアーク溶接時とほぼ同様に、適正範囲の裏ビード幅を得ることができた。なお、パルスアーク溶接時のパルス周波数が最も低い約1Hz(パルス周期時間:1s) の場合は、例えば、溶接速度が90mm/min以上の速度領域で裏ビードのリップル形状(貝殻模様のような波目)が約1.5mm 以上に荒くなり易い。一方、パルス周波数が約300Hz、約500Hzの場合には、パルス周期時間が極端に短くなるため、給電ケーブルの延長(例えば10倍の150mmに延長)が必要な時に、このケーブル延長に伴うリアクタの増加によって、矩形状のピーク電流波形が台形状や三角形状に変化するので、事前にピーク電流値を少し高めに補正することが望ましい。また、高いピーク電流と低いベース電流とを交互に変化させるパルスアークを出力させて溶接を行う場合には、直流アーク溶接で出力させる平均電流と同じ平均電流であっても、アーク力及び指向力を強くでき、開先内の両壁面部及び開先底面部の溶融、溶け込み深さを促進することができる。上述したパルス周波数及びアーク特性は、初層裏波溶接に限定されるものではなく、初層溶接以降の2パス目溶接から開先上面部の最終層まで積層する多層盛溶接でも共通して利用することができ、溶接速度などの条件設定に対応した適正なパルス周波数を設定すればよい。
図2は、本発明の裏波溶接方法に係わる他の溶接装置を示す概略構成図の一実施である。溶接対象の継手部材1、2は、円筒形状の厚板の管部材である。この実施例では、管部材の外周に設置する図示していないレール上を走行する溶接台車5に搭載されている溶接トーチ4先端の電極6と、ワイヤ9aを案内するワイヤホルダ9bの両方とを開先内3に挿入し、シールドガス33の流入雰囲気で発生させるアーク10中及び溶融プール中にワイヤ9aを送給し、開先底部の裏面側に裏ビード15を形成させる初層裏波溶接を行っている状況を示している。溶接台車5には、表面側の溶接状態を監視するための第2のカメラ41を、溶接トーチ4とワイヤホルダ9bとの上部中間に配備している。この第2のカメラ41と一対のカメラ制御器42によって撮像する表面側の溶接状態の映像を第2の映像モニタ装置43に画面表示して監視できるようにしている。前記第2のカメラ、第2の映像モニタに該当する他の第2の映像手段、第2の映像表示手段であってもよい。前記第2の映像モニタ装置43の画面には、図2の左下段に示すように、開先表面1a、2a側から開先内3に挿入した電極6とワイヤ9a、表側のアーク10及び溶融プール18、この溶融プール18及び電極6の後方に形成する表側の溶接ビード45の状態を表示している。前記第2の映像モニタ装置43に画面表示する表面側の溶接状態の監視結果に基づいて、電極6の位置又はこの電極位置及びワイヤ9a位置を調整又は制御することにより、電極6の位置ずれ(例えば左右方向の電極位置ずれ)やワイヤ9aの位置ずれ(例えば左右方向、上下方向のワイヤ位置ずれ)をなくすことが確実にできる。
一方、継手部材1、2の裏面側には、図1で説明した裏面側監視装置17を配備しており、照明手段32、第1のカメラ11と一対のカメラ制御器12で撮像する裏面側の溶融プール16及びこの周辺部の映像を第1の映像モニタ装置13の画面に表示して監視できるようにしている。さらに、ここでは、第1のカメラ11と一対のカメラ制御器12で撮像する映像又は画像を取り込んで処理する画像処理装置44を設けている。画像処理装置44は、裏面側のインサート材11を含む溶融プール16及びこの周辺部の画像を処理して、裏面側の溶融プール16の幅B又はこの溶融プール16近傍の裏ビード15幅Bをリアルタイムで検出し、また、インサート材の幅Cをも検出するものである。この画像処理装置44に該当する他の検出処理手段であってもよい。溶接制御装置7a側にリアルタイムで送信される検出データは、溶接制御装置7a内で複数の値を平均化する処理を順次行い、その平均化処理した検出値と目標の前記特定値とを比較及び判定処理する。そして、この判定処理の結果に基づいて、裏面側の溶融プールB幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅Bが特定値の適正範囲(約5±1mmか4〜6mmの範囲)に形成するように、パルスアーク溶接のピーク電流、ベース電流、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度のいずれか1つ以上の条件値、あるいは前記条件値の他に、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を増減制御するようにしている。また、直流アーク溶接の場合には、平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を増減制御するようにしている。例えば、前記画像処理装置44で検出する裏面側の溶融プール幅の検出値Bsが前記特定値の適正範囲より小さくなる状態(Bs<B1=4mm)であれば、ピーク電流Ip(パルスアーク溶接の時)や平均電流Ia(直流アーク溶接の時)を増加(Ip+ΔI又はIa+ΔI)させる。反対に、溶融プール幅の検出値Bsが前記特定値の適正範囲より大きくなる状態(Bs>B2=6mm)であれば、ピーク電流(パルスアーク溶接の時)や平均電流(直流アーク溶接の時)を減少(Ip−ΔI又はIa−ΔI)させるとよい。溶融プール幅の検出値Bsが適正範囲内の状態(例えばB1=4≦Bs≦B2=6mm)であれば、出力中の溶接条件をそのまま保持するとよい。
このように、検出値の判定結果に基づいて条件因子を適正に増減制御することにより、アーク力及び入熱量の増減によって溶融プール幅及びその溶融プール近傍の裏ビード幅を適正範囲内に短時間で回復することができる。また、ピーク電流又はベース電流(パルスアーク溶接の時)、平均電流(直流アーク溶接の時)の増減と同時に、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はワイヤ送り速度を増減する制御を行うことにより、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に確実に形成することができる。さらに、前記1つ以上の条件値を増減調整又は増減制御すると共に、表面側の溶接状態の監視結果に基づいて、前記電極6の位置又はこの電極位置及びワイヤ9a位置を調整又は制御することにより、電極6の位置ずれ(例えば左右方向の電極位置ずれ)やワイヤ9aの位置ずれをなくし、蛇行や融合不良のない良好な裏ビード幅を特定値の適正範囲に形成することができる。また、溶接士の負担を大幅に軽減でき、溶接品質の向上や生産性の向上を図ることができる。
また、上述した第1の映像モニタ装置、第2の映像モニタ装置は、各々独立した異なる映像を各々の画面に表示するタイプの装置であるが、例えば、1つの表示画面を左右2つに分割して異なる2種類の映像を2画面に分割表示することが可能な2分割画面表示方式の映像モニタ装置又はこれに該当する映像表示手段を設けてもよい。そして、2分割画面表示方式の映像モニタ装置の片画面(例えば右側の片画面)に、第1のカメラ11又は第1の撮像手段で撮像される裏面側の映像を表示すると共に、この映像の大きさ又は裏面側の溶融プール又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅を示す寸法、初層溶接で形成すべき裏ビード幅の適正範囲を示す特定値を表示する。また、もう一方の片画面(例えば左側の片画面)には、第2のカメラ41で撮像される表面側の電極6先端部及び溶接部分の映像を表示する。2種類の異なる前記映像を上下に2分割して表示してもよい。このように、1つの表示画面を左右又は上下に2分割し、2種類の異なる映像を左右に振分けて同時に分かり易く表示することにより、表面側の溶接状態と裏面側の裏ビード形成状態との両方を確実に監視及び観察することができる。
図3は、溶接対象の継手部材1、2の溶接概要を示すものであり、(1)は溶接前の断面、(2)は本溶接前に仮付け溶接した時の断面、(3)は本溶接1パス目で初層裏波溶接した時の断面、(4)は初層溶接後に2パス目溶接した時の断面、(5)は最終溶接前まで1層1パスずつ積層溶接(多層盛溶接)した時の断面、(6)は全パス終了の最終層を仕上溶接した時の断面である。この継手部材1、2は、多層盛溶接が必要な容器や配管や案内管など厚板の管部材又は厚板の平板部材を相互に突き合せた狭い開先継手である。例えば、原子力発電プラント、火力発電プラント、化学プラントなどで使用される高級材料であって、主にオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなる狭開先継手である。また、この狭開先継手の一例では、図3(1)に示すように、開先底部の中央にインサート材
19を表面側1a、2a及び裏面側1b、2bに各々突き出すように設けている。このインサート材19は、前記継手部材1、2と同質材のオーステナイト系のステンレス鋼材、あるいはマルテンサイト系又はフェライト系のステンレス鋼材、又は高ニッケル合金材からなるインサート材を設けることにより、裏面側に適正範囲(約5±1mmか4〜6mm)の裏ビード幅Bを確実に凸形状に形成できる。また、開先底部の突合せ部に生じ易い段違いやギャップの影響を緩和することができる。また、このインサート材19は、前記開先継手材と同質材であって、化学組成の一つであるS(重量%)が前記開先継手材より高めの
0.008〜0.015%含有しているインサート材19を用いるとよい。特に、前記Sの含有量が高めの前記インサート材19を用いることにより、Sの含有量が少ない通常のインサート材19使用の溶接時よりも、アーク形状が細く絞られ、深さ方向への溶融金属の対流及び溶け込みが促進し、10〜20%程度少ない溶接電流(又は入熱量)の溶接条件で裏面側1b、2bに裏ビード15が確実に形成でき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を得ることができる。なお、S(重量%)の含有量が0.015% を超えると、溶接割れの感受性が高まるので好ましくない。
一方、インサート材19の幅を含む開先底部の開先幅wは、ここでは約6mmに設定した例を示しているが、例えば、最小値の約4mm又は約5mm、あるいは少し広めの約7mm又は最大値の約8mmの概略寸法、又はこれらの概略寸法に近い少数点含みの寸法(例えば約
5.3mm、6.4mm、7.5mm など)に予め形成するとよい。同時に、この狭開先継手の上部までの片面角度θを5°以内に形成すること、好ましくは3°前後 (例えば3°±
0.5°)に形成することにより、開先表面1a、2aの上部まで狭い開先内3を1層1パスずつ積層する多層盛溶接を確実に施工することができる。また、溶接パス毎の入熱量や多層盛溶接の累計入熱量、溶接熱による収縮変形を従来溶接より大幅に低減できるばかりでなく、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、ワイヤの使用量の削減や溶接工数の低減を図ることもできる。開先底部のルートフェイスfについては、約1〜2.5
mmの範囲に形成すること、好ましくは約1.5mm 前後に形成することにより、裏面側まで容易に溶融させることができる。
本実験によれば、前記インサート材19の幅を含む開先底部の開先幅wを4mm未満に形成すると、狭すぎるため、その開先内に挿入する電極6の外面と開先内3の壁面との隙間が極端に狭く、しかも、初層溶接及びその後の溶接による熱収縮によって開先幅全体が収縮し、開先壁面への電極6の接触やアーク発生が起こり易く、開先上部までの積層溶接が困難に至る。一方、開先底部の開先幅wが8mmを超えると、広すぎるため、開先面積の増加によって溶接パス数及びワイヤ使用量が増加し、溶接工数も増す結果となる。したがって、前記開先幅wは、上述したように、最小でも4mm以上、最大でも8mm以下の寸法に形成することが好ましい。
本溶接の初層裏波溶接の以前に行う仮付け溶接では、図3(2)に示すように継手部材1、2の裏面側1b、2bの継ぎ部及びインサート材19の突き出し部が溶融しない浅い溶け込みの低入熱アーク及びワイヤ送りなしの仮付け条件を出力させて、表面側1a、
2aから開先底部の継ぎ部とインサート材19の突き出し部とを溶融接合するように、ワイヤ9a送りなしの仮付け溶接を行うとよい。このように仮付け溶接することにより、裏面側まで溶融しない浅い溶け込みの溶接ビードが開先底部に良好に形成でき、溶接対象の開先継手を確実に接合固定することができるばかりでなく、本溶接の初層裏波溶接時にワイヤ送りが容易になると共に、裏ビード形成への悪影響をなくすことができる。
そして、本溶接で裏ビード形成が必要な初層裏波溶接21では、裏面側まで溶融させる入熱アークの初層条件を出力させ、図3(3)に示すように、裏面側1b、2bまで完全に溶け込むように溶融させると共に、溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード
15の幅Bが特定値の約5±1mm(又はB=4〜6mmの範囲)の範囲に形成するようにしている。例えば、パルスアーク溶接の場合は、図1、図2に示した第1の映像モニタ装置13に画面表示する裏面側の溶融プール16及びその溶融プール近傍の裏ビード15の状態や大きさを示す映像と、目標の裏ビード幅Bの適正範囲を示す特定値とを監視し、溶接中の裏ビード幅が前記特定値の範囲に形成するように、必要に応じてピーク電流、ベース電流、ピーク電圧又は平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ピーク電流時間中かベース電流時間中のワイヤ送り速度又は両時間中のワイヤ送り速度の値を含むいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御するとよい。初層溶接時のワイヤ送りは少量(例えば積層溶接時の半分以下)で充分である。また、直流アーク溶接の場合には、同様の裏ビード幅が前記特定値の範囲に形成するように、必要に応じて平均電流、平均アーク電圧又はアーク長、溶接速度又は走行速度、ワイヤ送り速度のいずれか1つ以上の条件値を調整又は制御するとよい。
例えば、溶融プール幅又は裏ビード幅が前記特定値の適正範囲より小さくなる又は大きくなる状態であれば、ピーク電流(パルスアーク溶接の時)や平均電流(直流アーク溶接の時)を増減調整すると、アーク力及び入熱量の増減によって溶融プール幅及びその溶融プール近傍の裏ビード幅を短時間で適正範囲内に回復することができ、応答性の緩やかな溶接速度又は走行速度の調整より優位である。前記ピーク電流や前記平均電流の次に、ベース電流の増減調整かアーク長又はアーク電圧の調整が有効であり、裏ビード幅を適正範囲内に回復することができる。また、ワイヤ送り速度の調整は、溶着金属の増減及び溶融プールの温度変化によって裏ビード幅と表面側のビード高さとの両方を微調整することができる。さらに、表面側の前記電極6の位置又はこの電極位置及びワイヤ9a位置を調整又は制御するとよい。
このように、裏面側の溶融プール幅及び裏ビード幅が前記特定値の適正範囲に形成するように、前記パルスアーク溶接又は直流アーク溶接を施工することにより、溶接装置を操作する溶接士が代わっても個人差の影響がなくなり、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を特定値の適正範囲(約5±1mmか4〜6mm)に形成することが確実にでき、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。特に、高度な溶接技術を要する配管の全姿勢溶接、管材の横向き姿勢の溶接、平板材の上向き姿勢の初層裏波溶接21に適している。さらに、前記1つ以上の条件値を調整又は制御すると共に、表面側の前記電極6の位置又はこの電極位置及びワイヤ9a位置を調整又は制御することにより、電極6の位置ずれ(例えば左右方向の電極位置ずれ)やワイヤ9aの位置ずれをなくし、蛇行や融合不良のない良好な裏ビード幅を特定値の適正範囲に形成することができる。ここでは少量のワイヤ送りを示したが、このワイヤ送りを停止(ワイヤなし)にして初層裏波溶接を実施することも可能である。また、ここでは継手部材1、2の開先底部中央にインサート材19を設ける溶接例を示したが、インサート材19なしの開先継手であっても、例えば、下向き姿勢や立向き上進姿勢で初層裏波溶接21を実施すれば、裏面側に目標としている溶融プール幅及び裏ビード幅を適正範囲に形成でき、凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることが可能である。
次に、初層裏波溶接の終了後に行う2層目の溶接22では、図3(4)に示すように、少なくとも初層溶接時に形成した前記裏ビード15を再溶融させない入熱条件に抑制した溶接条件(例えば、初層溶接条件の1/2〜2/3の入熱条件)に変更して溶接するようにしている。このように、2層目溶接の入熱を抑制して溶接することにより、裏ビードの再溶融が確実に防止できると共に、表面側に積層するビード高さを増すことができる。
また、3層目の溶接23から最終層前までの積層溶接(P=N−1)では、図3(5)に示すように、少なくとも初層裏波溶接時の初層溶接条件、その後の2層目溶接時の溶接条件と異なる積層溶接に適した複数の溶接条件(例えば、4kJ/cm〜10kJ/cmの低い入熱条件)に適宜変更し、開先表面1a、2a近傍まで狭い開先内3を1層1パスずつ積層する多層盛溶接を順番に行うようにしている。あるいは積層溶接に適したほぼ一定の溶接条件のままで、開先表面1a、2a近傍まで狭い開先内3を1層1パスずつ積層する多層盛溶接を継続することも可能である。最終層の仕上溶接30(P=N)では、図3
(6)に示すように開先継手の表面1a、2aより少し盛り上る(例えは1mm程度の余盛り高さ)ように仕上げている。この仕上溶接30では、溶接トーチ4を左右に揺動させるウィービング溶接を行うこともできる。ウィービング溶接によって溶接ビードの両止端部の溶け込みを良くし、貝殻模様のような波目を有する溶接ビード外観を得ることができる。
このように、開先幅wの狭い厚板の開先継手1、2に対して、上述したように、仮付け溶接20を含む初層裏波溶接21から最終層の仕上溶接30まで1層1パスずつ積層する多層盛溶接を順番に施工することにより、開先底部から開先上面部まで良好な溶接結果を確実に得ることができる。また、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、1層1パスずつ積層する多層盛溶接によって使用する溶接ワイヤ量の削減や溶接工数の低減を図ることができる。さらに、1層1パスずつ積層するパス毎の入熱量や多層盛溶接の累計入熱量を従来溶接より大幅に低減できるばかりでなく、溶接による熱変形、溶接裏面部分及び溶接表面部分の残留応力を低減することもできる。
図4は、本発明に係わる下向き姿勢及び立向き上進姿勢での初層裏波溶接における溶接速度と溶接電流(平均電流)との関係及び裏ビードの形成領域を示す一実施例である。また、図5は、上向き上進姿勢での初層裏波溶接における溶接速度と溶接電流との関係及び裏ビードの形成領域を示す一実施例である。なお、下向き及び立向き上進姿勢の溶接実験では、裏ビードの形成領域に大差がなかったため、その溶接結果を図4にまとめて記載している。また、いずれの姿勢溶接も、インサート材19を使用していない時の溶接結果を示している。すなわち、開先底部の裏面側に形成すべき裏ビード15は、図4及び図5に示したように、いずれの姿勢溶接においても、入熱不足(電流小、速度大)による未溶融(×印)の領域と、入熱過多(電流大、速度小)による溶け落ち(△印)の領域とを除外した中間領域に裏ビード形成(○印)の領域が存在することが分かる。この裏ビード形成(○印)の領域では、裏ビードの幅と高さとが変化している。
図6は、インサート材なし溶接時の裏ビード幅Bと裏ビード高さhとの関係を示す一実施のグラフであり、上段に下向き及び立向き上進姿勢溶接の結果、下段に上向き姿勢溶接の結果を示している。下向き及び立向き上進姿勢溶接の場合は、溶融プール幅に該当する裏ビード幅Bが広くなるに従って裏ビード高さhが凸形状に大きくなり、上向き姿勢溶接の場合には、反対に、裏ビード幅Bが広くなるに従って裏ビード形状が凹み易くなっている。裏ビード幅Bが0≦B<2.5mm の未溶融領域では、熱量不足により裏ビードが形成したり、全く形成しなかったりする。2.5≦B<4mm の領域では、裏ビードの幅及び高さhが小さく不十分である。一方、7.5<B≦9 の過大領域では、下向き姿勢及び立向き姿勢溶接での裏ビード形状が1mm以上大きく凸形状に盛り上り(下側に沈み込む形状)、反対に、上向き姿勢での裏ビード形状は1mm程度凹んでしまう結果になっている。下向き姿勢及び立向き姿勢溶接の場合は、約4〜7.5mm の領域で、裏ビード高さがほぼ適正な0.3〜0.8mm程度の凸形状になっているが、上向き姿勢溶接の場合には凹んでおり、好ましくない結果になっている。
図7は、インサート材ありで上向き姿勢溶接を行った時の裏ビード幅Bと裏ビード高さhとの関係を示す一実施のグラフである。インサート材は、図3(1)に示したように、開先底部中央の表裏両側に突き出すように設けている。裏面側へのインサート材の突き出しによって、溶融プール幅に該当する裏ビード幅が約4〜7.5mm の領域で、凸形状に裏ビードを形成することができる。さらに、入熱増加によって裏ビード幅が大きくなり過ぎると、溶融プールの表面張力と重力作用とのバランスが崩れて、凹み形状になってしまう。反対に、入熱不足によって溶融不足や裏ビード幅が小さ過ぎると、インサート材の溶け残りが生じるようになる。このように、インサート材を用いると共に、裏ビード幅を特定の範囲に形成するように初層裏波溶接を施工することにより、上向き姿勢であっても、凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に得ることができる。
初層裏波溶接の終了後に行う2層目溶接以降の積層溶接については、図3(4)〜(6)で説明したように、開先幅の狭い開先底部から開先上面部まで1層1パスずつ順番に積層する多層盛溶接を実施することにより、使用する溶接ワイヤ量の削減や溶接工数の低減を図ることができ、溶接による熱変形、溶接裏面部分及び溶接表面部分の残留応力を低減することもできる。
以上述べたように、本発明の溶接装置によれば、溶接対象の容器や配管や案内管など厚板の管部材又は平板部材を相互に突き合せた狭い開先底部の裏面側に完全溶け込みの裏ビード形成が必要な開先継手に対して、裏面側の溶融プール幅又はこの溶融プール近傍の裏ビード幅が特定値の適正範囲(約5±1mmか4〜6mm)になるようにパルスアーク溶接又は直流アーク溶接の条件値を調整又は制御することによって、裏面側に凹みのない凸形状でほぼ均一な裏ビード幅を良好に形成することができる。また、本発明の溶接装置によれば、溶接すべき開先断面積を従来より大幅に小さくでき、1層1パスずつ積層する多層盛溶接が可能になり、使用する溶接ワイヤ量の削減や溶接工数の低減が図れ、仮付け溶接を含む初層裏波溶接、2層目溶接以降の積層溶接(多層盛溶接)に必要な充填層及び最終層までの各溶接を確実に仕上ることができる。さらに、溶接パス毎の入熱量や多層盛溶接の累計入熱量を従来溶接より大幅に低減できるばかりでなく、溶接による熱変形、溶接裏面部分及び溶接表面部分の残留応力を低減することもできる。
本発明の溶接装置の一実施を示す概略構成図である。 本発明の他の溶接装置を示す概略構成図である。 溶接対象の継手部材1、2の溶接概要を示すものであり、(1)は溶接前の断面、(2)は本溶接前に仮付け溶接した時の断面、(3)は本溶接1パス目で初層裏波溶接した時の断面、(4)は初層溶接後に2パス目溶接した時の断面、(5)は最終溶接前まで1層1パスずつ積層溶接(多層盛溶接)した時の断面、(6)は全パス終了の最終層を仕上溶接した時の断面である。 本発明に係わる下向き姿勢及び立向き上進姿勢での初層裏波溶接における溶接速度と溶接電流(平均電流)との関係及び裏ビードの形成領域を示す一実施例である。 本発明に係わる上向き上進姿勢での初層裏波溶接における溶接速度と溶接電流との関係及び裏ビードの形成領域を示す一実施例である。 インサート材なし溶接時の裏ビード幅Bと裏ビード高さhとの関係を示すグラフの一実施であり、上段に下向き及び立向き上進姿勢溶接の結果、下段に上向き姿勢溶接の結果を示している。 インサート材ありで上向き姿勢溶接を行った時の裏ビード幅Bと裏ビード高さhとの関係を示す一実施のグラフである。
符号の説明
1、2…開先継手部材、1b、2b…開先裏面、3…開先内、4…溶接トーチ、5…溶接台車、6…電極、7a…溶接制御装置、8…TIG溶接電源、9…ワイヤ、10…アーク、11…第1のカメラ、12…第1のカメラ制御器、13…第1の映像モニタ装置、
14…裏ビード幅Bの特定値、15…裏ビード、16…裏面側の溶融プール、17…裏面側監視装置、18…表面側の溶融プール、19…インサート材、20…仮付け溶接のビード断面、21…初層裏波溶接のビード断面、22…2パス目溶接のビード断面、23…3パス目溶接のビード断面、P…Pパス目溶接のビード断面、32…照明手段、33…シールドガス、34…バックガス、41…第2のカメラ、42…第2のカメラ制御器、43…第2の映像モニタ装置、44…画像処理装置、w…開先底部幅、f…ルートフェイス、θ…片面角度。

Claims (4)

  1. 厚板の管部材又は平板部材を突き合せた開先継手のパルスアーク溶接又は直流アーク溶接による裏波溶接を行う溶接装置であって、
    前記溶接装置は、少なくとも裏面側の溶融プールを撮像する第一の撮像手段と、前記溶接プールを照らす照明手段と、前記第一の撮像手段で撮像された画像とこの画像の拡大倍率又は拡大寸法とを表示する映像表示手段と、溶接条件を調整するための溶接条件調整手段とを有し、
    前記映像表示手段には、裏面側の溶融プール幅又は裏ビード幅の適正範囲として幅寸法4〜6mmを示す寸法特定ゲージが表示されることを特徴とする溶接装置。
  2. 請求項1に記載された溶接装置であって、
    前記溶接装置は表面側の電極先端部を撮像する第二の撮像手段を有することを特徴とする溶接装置。
  3. 請求項1に記載された溶接装置であって、
    前記映像表示手段は画面分割表示の可能な映像表示手段であり、前記第一及び第二の撮像手段で撮像された画像を同時に表示可能なことを特徴とする溶接装置。
  4. 請求項1ないし3のいずれかに記載された溶接装置であって、
    前記第一の撮像手段の画像より裏ビード幅を検出する処理をする第一の画像処理装置と、前記第一の画像処理装置より得られた情報に基づいて溶接条件を制御する溶接制御装置とを有し、前記溶接制御装置は溶接の電流値、電圧値、溶接速度、ワイヤ送り速度および溶接トーチ位置のいずれかまたは複数の条件を変更可能とするものであることを特徴とする溶接装置。



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