JP2006175494A - ダクタイル鋳鉄のフェライト地鋳物の製造方法 - Google Patents

ダクタイル鋳鉄のフェライト地鋳物の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
薄肉のダクタイル鋳鉄製品であってもチル化せず、柔らかく、延性の大きいフェライト地の鋳物を低コストで製造する方法を提供する。
【解決手段】
従来は球状黒鉛の生成を阻害する物質であると考えられていたサルファの含有量をある程度増やすと共に、冷却速度を低く抑えることにより、薄肉のダクタイル鋳鉄製品であってもチル化させることなく、柔らかく、延性の大きいフェライト地の鋳物を製造することができることを見出し、本発明に至った。即ち、ダクタイル鋳鉄製品の製造方法において、鋳鉄製品の成分としてサルファを0.009から0.015重量%を含み、マグネシュウムを0.035から0.050重量%を含み、鋳型に乾燥砂を用いる構成とした。
【選択図】
図2

Description

本発明はダクタイル鋳鉄の製造方法に係るものであり、更に詳細には薄肉のダクタイル鋳鉄鋳物において、チル化させず、柔らかくて延性の大きい鋳物を鋳ばなしで製造する方法に関するものである。
ダクタイル鋳鉄は、球状黒鉛鋳鉄とも呼ばれているもので、組織中に析出した黒鉛が球状になっているものをいう。黒鉛が球状になっているため黒鉛の体積、表面積が小さくなり地鉄の連続性が保たれて優れた靭性を有する。
ダクタイル鋳鉄は、鋳鋼よりも強度が高く、伸びも20%に達している。衝撃値も普通鋳鉄に比べて高く、耐摩耗性や耐熱性も良好である。
このようにダクタイル鋳鉄は優れた特性を有するため、鋳鉄管、各種ロール、ローラ類、エンジン用ライナー、歯車等に使用されている。
ダクタイル鋳鉄を製造するには、溶湯中に金属マグネシュウムまたは、マグネシュウム合金を加え、フェロシリコンで接種する。この金属マグネシュウムまたは、マグネシュウム合金を添加することにより球状黒鉛の生成を促進することができる。金属マグネシュウムは、マグネシュウム合金(例えば、鉄―けい素―マグネシュウム、銅―マグネシュウム、鉄―カルシュウム―けい素―マグネシュウム) に比較して反応が激しくなり、また歩留まりが良くないが安価であるため多く用いられている。
ダクタイル鋳鉄成分中にサルファ(硫黄:S)が存在すると、上述したマグネシュウム(Mg)と反応してMgSが生成される。即ち、脱硫にマグネシュウム(Mg)が消費されるようになり、球状黒鉛の生成を阻害することになる。従って、ダクタイル鋳鉄を製造する場合には、サルファの含有量を所定量以下に抑えるのが一般的である。
このように製造されるダクタイル鋳鉄であっても、薄肉の製品を製作するとチル化と呼ばれる鋳物の組織内部に炭素化合物の増加した組織ができあがる。ここで、チル化とは鋳物の製造過程で、炭化鉄であるセメンタイト(Fe3C)と呼ばれる非常に硬くて脆い物質が多く析出した状態をいう。
鋳物製品の薄肉部は、厚肉部に比べて冷却速度が速くなり、そのためセメンタイトが析出し易くなるためと考えられている。
チル化した組織は非常に硬い組織となるため、脆い組織である反面耐摩耗性と圧縮強さに優れており、カムシャフトや圧延ロール、鉄道用車輪等のように高い耐摩耗性が要求される製品では、チル化した組織をコントロールして積極的に利用している。
しかしながら、チル化した組織は非常に硬いため、鋳物表面の機械加工性を著しく低下させている。従って、肉薄部を有するダクタイル鋳鉄では、機械加工が必要な場合、鋳物を製造した後に熱処理を行ってチル化した部分を軟化させる処理を行っている。この熱処理としては、850℃から900℃の温度に1〜2時間加熱して焼きなまし処理が行われている。
上述のように、従来の薄肉のダクタイル鋳鉄であって、機械加工が必要となる製品においては、鋳物を製造した後焼きなまし処理が必要になるため製造コストが高くつくという問題を有していた。
本発明は係る問題を解決するためになされたものであり、薄肉のダクタイル鋳鉄製品であってもチル化せず、柔らかく、延性の大きいフェライト地の鋳物を低コストで製造する方法を提供するものである。
上記課題を解決するために、発明者らは鋳物製造方法について研究を重ね、種々の試行錯誤を経た後、従来は球状黒鉛の生成を阻害する物質であると考えられていたサルファの含有量をある程度増やすと共に冷却速度を低く抑えることにより、薄肉のダクタイル鋳鉄製品であってもチル化させることなく、柔らかく、延性の大きいフェライト地の鋳物を製造することができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本願請求項1に係る発明では、ダクタイル鋳鉄製品の製造方法において、鋳鉄製品の成分としてサルファを0.009から0.015重量%を含み、マグネシュウムを0.035から0.050重量%を含み、鋳型に乾燥砂を用いる構成とした。
このように、サルファの含有量を従来のダクタイル鋳鉄製品に比べ多くすると共に、乾燥砂を使用して冷却速度を下げることにより薄肉鋳物製品のチルの発生を抑えることができる。更に従来のダクタイル鋳鉄製品に比べ、マグネシュウムの添加量も増やすことにより脱硫に消費されてしまうマグネシュウムを補填することができ、球状黒鉛の生成を促進することも可能となる。
本願請求項2に係る発明では、請求項1に記載されたダクタイル鋳鉄製品の製造方法において、注湯時に接種する工程を更に含む構成とした。
このように、注湯時に接種するようにすることにより、マグネシュウムによる球状黒鉛の生成を促進する機能が高められ、少量の接種剤で球状黒鉛の生成を促進することが可能となる。
本願請求項3に係る発明では、請求項2に記載されたダクタイル鋳鉄製品の製造方法において、注湯時に接種する工程が、ストリーム接種である構成とした。
このように、ストリーム接種することにより、マグネシュウムによる球状黒鉛の生成を促進する機能が更に高められ、より少量の接種剤で球状黒鉛の生成を促進することが可能となり、製造コストを低減することができる。
本願請求項4に係る発明では、請求項1から3のいずれかに記載されたダクタイル鋳鉄製品の製造方法において、鋳型が、乾燥砂を使用したVプロセス法、ロストフォーム法により成形された鋳型、あるいは有機樹脂バインダを使用したフラン鋳型、コールドボックス鋳型のうちのいずれかである構成とした。
このように水分含有量の少ない鋳型を用いることにより、鋳物の冷却速度を抑え、チルの発生をより抑制することが可能となる。
本願請求項5に係る発明では、請求項1から4のいずれかに記載されたダクタイル鋳鉄製品の製造方法において、ダクタイル鋳鉄製品の肉厚が3mmから5mmの範囲にある構成とした。
このような構成とすることにより、特にチル化しやすい薄肉の鋳物製品においてチルの発生を抑制する効果を引き出すことができる。
本願請求項5に係る発明では、請求項1から5のいずれかに記載されたダクタイル鋳鉄製品の製造方法において、母地組織として、フェライト面積率が90%以上となるようにした。
このようにチルの発生を抑制することによってフェライト面積率を90%以上とすると、柔らかく、延性の大きい鋳鉄製品を得ることが可能となる。
上述したように、本発明によれば、薄肉のダクタイル鋳鉄製品であってもチル化せず、柔らかく、延性の大きいフェライト地の鋳物を低コストで製造することができる。
ダクタイル鋳物製のフランジ付円筒状製品の試作を行い、評価を行った。試作したフランジ付円筒状製品は図1に示す形状をしたものであり、胴部の肉厚として5mmのものについて試作評価をおこなった。
鋳型に注湯した鋳物成分は、FCD400に相当する成分のものであり、サルファ含有量を0.006, 0.009, 0.012, 0.015, および0.018重量%に変化させて試作を行った。
また、接種法はストリーム接種とし、マグネシュウム添加量を、0.035, 0.045, および0.055重量%に変化させて試作を行った。
更に、鋳型として、Vプロセス鋳型、フラン鋳型、生型鋳型を使用して比較評価をおこなった。
ここで、Vプロセス鋳型とは、乾燥砂を使用し減圧吸引しながら注湯する鋳型のことをいい、造型および型ばらしが簡易であり、転写性および作業性にも優れた鋳型である。
また、フラン鋳型とは、鋳物砂の粘結剤として尿素変性高純度フランやフェノール変性フランを鋳物砂に添加し、これに硬化剤を加えて鋳型を成形したものをいう。
また、生型鋳型は鋳物砂中に水分を5〜10%程度含ませた鋳物砂を使用して鋳型を作ったものであり、生型鋳型は一般に簡便で、小物の鋳物を多く造るに適するものである。
Figure 2006175494
表1に、マグネシュウムの接種量を0.035重量%とし、サルファ含有量を0.006, 0.009, 0.012, 0.015, および0.018重量%に変化させて試作したダクタイル鋳物製のフランジ付円筒状製品の評価結果を示す。
ここで、黒鉛の球状靴率90%以上とは、試作したフランジ付円筒状製品の顕微鏡組織写真に基き、顕微鏡写真によってカウントされる全黒鉛粒数に対する球状黒鉛の粒数を百分率で表したものであり、この値が高いほどダクタイル鋳鉄としての特徴を顕著に示すようになる。
また、表中のチルの有無は、顕微鏡写真による観察によってセメンタイトが偏析した領域が存在するか否かを表したものである。
Figure 2006175494
Figure 2006175494
表2、3は、表1と同様にそれぞれマグネシュウムの接種量を0.045、0.055重量%とし、サルファ含有量を0.006, 0.009, 0.012, 0.015, および0.018重量%に変化させて試作したダクタイル鋳物製のフランジ付円筒状製品の評価結果を示したものである。
表中、「球状化率90%以上」の欄に○印を付したものは、球状化率90%以上を達成したものを示し、▲印を付したものは球状化率90%以上を達成できなかったものを示す。
また、「チル」の欄に○印を付したものは、チル化した組織が観察されなかったものを示し、▲印を付したものはチル化した組織が観察されたものを示す。
表1, 2, 3の結果から、以下のようなことが言える。即ち、生型鋳型のように水分含有量の多い鋳型では、水分の気化により鋳型の冷却速度が速まり、チル化した組織の発生が避けずらいことが分かった。また、サルファの含有量が少ない場合には、フラン鋳型のような水分含有量の少ない鋳型であってもチル化組織の発生が認められた。更に、マグネシュウム量が多くなりすぎるとチル化した組織が発生しやすくなる。これは、マグネシュウムが持つセメンタイトを安定化させる効果が強く現れた結果であると判断される。
なお、表1, 2, 3に示したものの内、球状化不良がなく、かつチル化組織の発生が認められない製品のフェライト面積率は90%以上となっていた。フェライト面積率が90%以上となっていた場合の顕微鏡組織写真を図2に示す。
次に、フランジ付円筒状製品の胴部肉厚を3.5mm, 2.5mmのものについても上述した肉厚5mmのものと同様な試作試験を行った。その結果、肉厚3.5mmの場合には、肉厚5mmの場合と全く同様な結果が得られたのに対し、肉厚2.5mmの場合には、鋳物製品に湯流れ不良が生じ、判定することはできなかった。
以上のことから、ダクタイル鋳鉄の成分としてサルファを0.009から0.015重量%を含み、マグネシュウムを0.035から0.050重量%を含み、鋳型に乾燥砂を用いることによって、薄肉の鋳鉄製品であってもチル化せず、柔らかく、延性の大きいフェライト地の鋳物を低コストで製造することができることが確認できた。
なお、ここで行った試作は、すべてストリーム接種であったが、ストリーム接種以外、例えば取鍋へ直接投入して接種するような方法の場合、球状化不良を起こす場合もあった。
以上、Vプロセス鋳型、フラン鋳型、および生型鋳型を使用した場合の試作結果について説明したが、これらとは別にロストフォーム法により成形された鋳型とコールドボックス鋳型を使用して同様な試作評価を行った。
その結果、ロストフォーム法により成形された鋳型やコールドボックス鋳型を使用した場合であってもVプロセス鋳型と同様な結果を得ることができた。
ここで、ロストフォーム法とは、消失模型を使用して鋳物を製造する方法であって、鋳物砂としてバインダーを使用していない鋳物砂を使用する鋳造法を呼んでいる。
また、コールドボックス鋳型とは、鋳物砂に有機バインダーを使用し、アミンガスによって硬化させた鋳型のことをいう。
図1は、試作を行ったダクタイル鋳物製のフランジ付円筒状製品の断面形状を示したものである。 図2は、フェライト面積率が90%以上となっていた鋳物製品の顕微鏡組織写真を示したものである。
符号の説明
1 フランジ付円筒状製品
2 胴部
3 フランジ部

Claims (6)

  1. ダクタイル鋳鉄製品の製造方法であって、当該製品の成分としてサルファを0.009から0.015重量%を含み、マグネシュウムを0.035から0.050重量%を含み、鋳型に乾燥砂を用いることを特徴とするダクタイル鋳鉄製品の製造方法。
  2. 請求項1に記載のダクタイル鋳鉄製品の製造方法であって、注湯時に接種する工程を更に含むことを特徴とするダクタイル鋳鉄製品の製造方法。
  3. 請求項2に記載のダクタイル鋳鉄製品の製造方法であって、前記注湯時に接種する工程が、ストリーム接種であることを特徴とするダクタイル鋳鉄製品の製造方法。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載のダクタイル鋳鉄製品の製造方法であって、前記鋳型が、乾燥砂を使用するVプロセス法、ロストフォーム法により成形された鋳型、あるいは有機樹脂バインダを使用したフラン鋳型、コールドボックス鋳型のうちのいずれかであることを特徴とするダクタイル鋳鉄製品の製造方法。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載のダクタイル鋳鉄製品の製造方法であって、前記ダクタイル鋳鉄製品の肉厚が3mmから5mmの範囲にあることを特徴とするダクタイル鋳鉄製品の製造方法。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載のダクタイル鋳鉄製品の製造方法であって、母地組織として、フェライト面積率が90%以上であることを特徴とするダクタイル鋳鉄製品の製造方法。

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