JP2006169593A - 高強度および高靭性を示す鋼とそれを用いた物品 - Google Patents

高強度および高靭性を示す鋼とそれを用いた物品 Download PDF

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佳之 古谷
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三郎 松岡
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寿 蛭川
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孝行 阿部
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Abstract

【課題】 優れた引張強度と衝撃強度をバランス良く備えた高強度および高靭性を示す鋼とそれを用いた物品を提供する。
【解決手段】 粒径が3μm以下のフェライトを主体とする超微細組織鋼であって、組織内には50nm以下のバナジウム炭化物(VC)が析出されていることを特徴とする高強度および高靭性を示す鋼とする。
【選択図】 図4

Description

この出願の発明は、高強度および高靭性を示す鋼とそれを用いた物品に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、優れた引張強度と衝撃強度をバランス良く備えた高強度および高靭性を示す鋼とそれを用いた物品に関するものである。
構造材料には種々の特性が要求されるが、基本的な特性として、強度(引張強度)と靭性(衝撃強度)が挙げられる。一般的に、この2つの特性は相反関係にあり、強度を高めた場合には靭性が、靭性を高めた場合には強度が、低下することが知られている。したがって、鋼を高強度化する際には、いかに靭性を確保しつつ高強度化を進めるかがポイントのひとつとなる。
そして、建築・土木の分野では、たとえば、引張強度1000MPa以上の鋼において、室温におけるシャルピー衝撃値200J/cm2以上といった強度と靭性のバランスを
確保することがひとつの開発目標とされている。
そこで、例えば、疲労データシート(非特許文献1)に開示された従来の一般的なJIS機械構造用鋼の強度と靭性の関係を整理して、図5に例示した。図5から明らかなとおり、シャルピー衝撃値Eと引張強度σBの関係において、低炭素鋼調質材(S35C,S
45C,S55C)のシャルピー衝撃値Eは、おおよそ500−0.5σB≦E≦630
−0.5σBの範囲に、低合金鋼調質材(SCM,SNCM)のシャルピー衝撃値Eは、
630−0.5σB≦E≦720−0.5σBの範囲に分布していることがわかる。なお、フェライト/パーライト組織の炭素鋼焼鈍し材等は、図5の範囲外の低いシャルピー衝撃値を示す。
一方で、鋼の高強度化および高靭性化を実現するひとつの手段として、フェライト粒の微細化を考慮することができる。この出願の発明者らは、既に、フェライト粒径が3μm以下の超微細粒鋼の製造技術を確立しており、この超微細粒鋼は高強度が得られると同時に、靭性も優れていることが確認されている(たとえば、特許文献1および2)。そして、特に、引張強度と衝撃吸収エネルギーの関係に着目した場合には、0.15C−0.3C−0.5Mnを主成分とする超微細粒鋼について、引張強度835MPaに対して、室温
でのシャルピー衝撃値が166J/cm2であり、同程度の強度の炭素鋼調質材に比べて
高い衝撃強度を得られることを明らかにしている(特許文献3)。また、最近では、炭素量Cを0.45%にまで高め、さらに0.1%のリンPを添加することで、引張強度が1000MPaを超える超微細粒鋼の製造にも成功しているが、この場合には、強度の向上に反して室温でのシャルピー衝撃値は166J/cm2を下回ってしまっていた(特許文献
4)。一方で、この出願の発明者らは、フェライト粒径が3μm以下の超微細粒鋼に150nm以下の各種炭化物等を分散させることで、上下降伏現象を示さない超微細粒鋼を既に提案しているが、この鋼のシャルピー衝撃値は100J/cm2に満たないものであっ
た(特許文献5)。
西島敏ら,「金材技研疲労データシート資料5」、JIS機械構造用鋼の基準的疲労特性」、科学技術庁金属材料技術研究所、平成2年3月、p.45 特開平11−315342号公報 特開2000−309850号公報 特願2003−435976号 特願2003−435977号 特願2003−080498号
このように、従来の調質構造用鋼についてはごく一部の鋼材について、引張強度1000MPa以上、シャルピー衝撃値200J/cm2以上の強度−靭性バランスが得られて
いるももの、そのバランスの安定性までは確保されているとは言いがたかった。
また、従来の超微細粒鋼は、強度とともに靭性にも優れ、引張強度が1000MPaを超える超微細粒鋼の製造も可能となっている。しかしながら、シャルピー衝撃値の分布については、低合金鋼調質材と炭素鋼調質材のちょうど中間に分布するレベルであり、強度の向上に伴って室温でのシャルピー衝撃値は低下する傾向にあって、引張強度1000MPa以上で、かつ室温におけるシャルピー衝撃値200J/cm2以上となる高強度高靭
性の超微細粒鋼は、いまだに実現されていないのが実情である。
そして何よりも、引張強度σBが900〜1300MPaの高強度鋼において、室温に
おけるシャルピー衝撃値Eが、E>750−0.5σBの関係を満足する高い衝撃強度を
示す鋼は全く存在しなかった。
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、高強度および高靭性を同時に実現し、例えば、引張強度1000MPa以上でかつ室温におけるシャルピー衝撃値200J/cm2以上の強度−靭性バラン
スを確実に確保することのできる、高強度および高靭性を示す鋼を提供することを課題としている。そしてまた、引張強度σBが900〜1300MPaの高強度鋼において、室
温におけるシャルピー衝撃値Eが、E>750−0.5σBの関係を満足する高強度高靭
性鋼や、さらにはE>850−0.5σBの関係を満足する高強度高靭性鋼を提供するこ
とも課題としている。
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、粒径が3μm以下のフェライトを主体とする超微細組織鋼であって、組織内には50nm以下のバナジウム炭化物(VC)が析出されていることを特徴とする高強度および高靭性を示す鋼を提供する。
また、この出願の発明は、上記の発明の高強度および高靭性を示す鋼について、第2には、フェライトの平均粒径が0.7μm以下であることを特徴とする鋼を、第3には、バナジウム炭化物(VC)の粒径が10nm未満であることを特徴とする鋼を、第4には、化学組成において、炭素(C)量が0.03〜1.0質量%、バナジウム(V)量が0を超えて1.4質量%以下の範囲にあることを特徴とする鋼を、第5には、引張強度σB
900〜1300MPaの範囲において、室温におけるシャルピー衝撃値Eが、E>750−0.5σBの関係を満たすことを特徴とする鋼を、第6には、化学組成において、さらに、マンガン(Mn)量が0.3〜3.0質量%、シリコン(Si)量が0〜2.0質量%以下、アルミニウム(Al)量が0.1質量%以下、クロム(Cr)量が3質量%以下、モリブデン(Mo)量が1.0質量%以下、ニッケル(Ni)量が3質量%以下、銅(Cu)量が2.5%以下、チタン(Ti)量が0.1質量%以下、ニオブ(Nb)量が0.1質量%以下、タングステン(W)量が0.5質量%以下、残部鉄(Fe)および不可避的不純物であることを特徴とする鋼を提供する。
さらにこの出願の発明は、第7には、少なくとも炭素(C)を0.03〜1.0質量%、バナジウム(V)を0を超えて1.4質量%以下含む鋼を800℃〜1200℃の温度範囲に加熱する加熱工程と、この鋼に対してフェライトが再結晶しない温度領域で全50%以上の多パス圧延を行い、次いで2パス以内でフェライトが動的再結晶する温度領域で圧延する圧延工程を含むことを特徴とする高強度および高靭性を示す鋼の製造方法を提供する。
加えて、この出願の発明は、上記発明の高強度および高靭性を示す鋼の製造方法において、第8には、加熱工程において、鋼に含まれるVが完全に固溶する温度にまで加熱することを特徴とする鋼の製造方法を、第9には、圧延工程の後に、400℃以上Ac3点以下の温度範囲で30分以上時効させる時効工程を含むことを特徴とする鋼の製造方法を提供する。
また、この出願の発明は、第10には、上記の鋼を少なくとも一部に用いて構成されていることを特徴とする物品をも提供する。
この出願の発明によると、鋼の高強度化および高靭性化を達成するために、フェライト粒径を3μm以下にすることによる細粒強化と、VC(バナジウム炭化物)を微細に析出させることによる析出強化の併用という全く新しい手法が、実現可能であり、また極めて有効であることが明らかとされる。そして、この出願の発明によると、従来鋼よりはるかに高強度および高靭性であって、引張強度σBが900〜1300MPaの範囲において
、室温におけるシャルピー衝撃値Eが、E>750−0.5σBの関係を満たす鋼を、確
実に提供することができる。
加えて、このような高強度高靭性鋼を用いた各種の物品を提供することができる。
以上の知見とその効果は、上記のとおりの高強度で高靭性な鋼を提供するだけではなく、今後の鋼の更なる高強度化および高靭性化を目指す上での、大きなブレークスルーとなる。
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
この出願の発明の高強度および高靭性を示す鋼は、フェライト粒径を3μm以下にする細粒強化に、組織中に微細析出物を析出させる析出強化を組み合わせることにより、鋼の高強度化および高靭性化を同時に実現しようという、これまでになかった全く新しい発想に基づくものである。そして、この出願の発明者等が鋭意検討を重ねた結果、細粒強化された鋼の析出強化には、各種の炭化物のうちでも、唯一、バナジウム炭化物(VC)の利用が可能であることを見出し、この出願の発明に至ったものである。すなわち、この出願の発明の高強度および高靭性を示す鋼は、粒径が3μm以下のフェライトを主体とする超微細組織鋼であって、組織内には50nm以下のバナジウム炭化物(VC)が、析出されていることを特徴としている。ここで、「粒径が3μm以下のフェライトを主体とする」とは、平均粒径が3μm以下の超微細なフェライト相が主となる組織から、平均粒径が3μm以下の超微細なフェライトの単相ないしは限りなく単相に近い組織まで包含するものとして理解することができる。より具体的には、超微細フェライト相の体積率が50%以上の組織を意味する。そしてこの出願の発明においては、フェライトの平均粒径が0.7μm以下であることを、より好ましい態様としている。
また、この出願の発明の高強度および高靭性を示す鋼は、たとえばこの出願の発明者等が既に提案している粒径が3μm以下のフェライトを主体とする超微細組織鋼において、析出強化元素としてのV(およびC)が添加され、その組織内に析出物として微細なVC
が析出されたものとして理解することができる。なお、組織内に析出されるVCは、靭性を高めるためには大きさが50nm以下のものが含まれることが必須の条件として示され、好ましくは10nmのものが高密度に析出されていることである。この出願の発明の高強度および高靭性を示す鋼としては、50nm以下のVCが高密度に析出されている場合には、50nmを超える大きさのVCが少量であれば析出されても問題ないが、50nmを超える大きさのVCの存在は靭性の劣化につながるため好ましくない。
このようなこの出願の発明の高強度および高靭性を示す鋼は、組成について、加工によりフェライト相が主体となる組織が生成可能であって、VCの析出に必要とされるV(バナジウム)およびC(炭素)が含まれている組成である限り、その他の元素組成は特に制限されることはない。そして、たとえ少量であっても、Vが添加されることで、鋼の靭性は確実に向上されることになる。このような化学組成は、たとえば、一般的な機械構造用鋼の成分範囲を基にし、さらにVおよびC量を適切に調整するようにして決定することができる。たとえば、具体的には、VおよびC以外の成分については、マンガン(Mn)量が0.3〜3.0質量%、シリコン(Si)量が0〜2.0質量%、アルミニウム(Al)量が0〜0.1質量%、クロム(Cr)量が0〜3質量%、モリブデン(Mo)量が0〜1.0質量%、ニッケル(Ni)量が0〜3質量%、銅(Cu)量が0〜2.5%、チタン(Ti)量が0〜0.1質量%、ニオブ(Nb)量が0〜0.1質量%、タングステン(W)量が0〜0.5質量%、残部鉄(Fe)および不可避的不純物とすることなどが、1つの目安として例示される。
また、より成分を限定し、マンガン(Mn)量が0.3〜1.6質量%、シリコン(Si)量が1.5質量%以下、クロム(Cr)量が2質量%以下、モリブデン(Mo)量が1.0質量%以下、ニッケル(Ni)量が2質量%以下、銅(Cu)量が0.2%以下、残部鉄(Fe)および不可避的不純物などとすることも例示される。もちろん化学組成はこれに限定されることはなく、さらに所望の特性等を考慮して、上記の元素の増減または削除、あるいはそれ以外の元素の添加等が検討されても良いことはいうまでもない。ただし、上記にあげた元素以外は、0.035質量%以下の微量とすることが好ましい。
そして、VおよびCの量については、この出願の発明の鋼の靭性の向上に影響を与える点で重要とされ、以下の点を考慮して決定することができる。すなわち、原料として添加され、加熱時に固溶したVは、400℃〜Ac3点の温度範囲で時効することにより、微細なVCとして組織内に析出する。このような微細(50nm以下)なVC析出物は、たとえ少量であっても鋼の強力な析出分散強化効果を発揮し、さらに高密度に析出させるほどその強化能は高くなる。なお、析出物は、延性破壊の際のディンプル形成の核となることが知られているが、原理的に数よりも寸法の因子の方が支配的となるため、この出願の発明の鋼のように、VCが微細かつ高密度に析出されている場合には、靭性の劣化の心配はない。ただし、上記のとおり、50nmを超える大きさのVCの存在は好ましくない。
そこで、Fe−C−V系鋼における、C量ごとの、温度とVの固溶量との関係を、例えば、市販の熱力学解析ソフト「サーモカルク」を用いた熱力学的計算により求め、図1に示した。鋼中により多くのVを固溶させるには、図1から、C量を減らし、加熱温度を高くすることが有効であることがわかる。しかし、単にC量を減らしてVを増加させると、VCとして析出する際に、Vが過剰となり余ってしまうことになる。従って、C量に対応するVの固溶量の上限は、化学量論的にV=4.24C(mass%)と計算することができ、図1中に、×印で示した点を、析出強化として利用可能なVの上限とすることができる。ここで、加熱温度との兼ね合いを考慮して、この出願の発明においては、析出強化として利用可能なVの上限を1.4mass%とすることを好ましい形態としている。また、C量を増やしたい場合には、加熱温度を1200℃程度とすることで、1.0mass%程度まで増やせること等が例示される。
さらに、この出願の発明においては、以上のような限定理由を考慮して種々の検討を重ねた結果、この出願の発明の鋼のC量およびV量を、C量が0.03〜1.0質量%、V量が0を超えて1.4質量%以下の範囲とすることが好適なものとしている。
そして、化学組成が、C量が0.03〜1.0質量%、V量が0を超えて1.4質量%以下の範囲とし、たとえば、マンガン(Mn)量が0.3〜1.6質量%、シリコン(Si)量が1.5質量%以下、クロム(Cr)量が2質量%以下、モリブデン(Mo)量が1.0質量%以下、ニッケル(Ni)量が2質量%以下、銅(Cu)量が0.2%以下、残部鉄(Fe)および不可避的不純物の、粒径が3μm以下のフェライトを主体とする超微細組織鋼とすることで、引張強度σBが900〜1300MPaの範囲において、室温
におけるシャルピー衝撃値Eが、E>750−0.5σBの関係を満たす高強度および高
靭性を示す鋼を確実に得ることができることを見出してもいる。さらには、後述の実施例に示されているように、E>850−0.5σBの関係を満たす高強度および高靭性を示
す鋼も実現可能とされている。
このようなこの出願の発明の高強度および高靭性を示す鋼は、たとえば以下のこの出願の発明の方法により、製造することができる。すなわち、この出願の発明の提供する高強度および高靭性を示す鋼の製造方法は、少なくとも炭素(C)を0.03〜1.0質量%、バナジウム(V)を0を超えて1.4質量%以下含む鋼を800℃〜1200℃の温度範囲に加熱する加熱工程と、この鋼に対してフェライトが再結晶しない温度領域で全50%以上の多パス圧延を行い、次いで2パス以内でフェライトが動的再結晶する温度領域で圧延する圧延工程を含むことを特徴としている。より具体的には、たとえば、上記のとおりVおよびCを含み、加工によりフェライト相の生成が可能な組成を有する鋼材を、Vが固溶する800℃〜1200℃の温度範囲に加熱し、その後に、鋼材をフェライトが再結晶しない温度領域で多パス加工して動的再結晶に必要となる核の元を作り込んでから、動的再結晶させることにより得ることができる。
加熱工程においては、鋼の組成に応じて、含まれるVが完全に固溶する温度にまで加熱することが、50nm以下の微細なVCを多量に析出できるためにより好ましい。また、加熱工程の後に引き続き圧延工程を行っても良いし、加熱工程は、圧延工程の前処理として行うこともできる。たとえば、(1)800℃〜1200℃の温度範囲に加熱した後、空冷もしくはそれ以上の急冷としてもよいし、(2)800℃〜1200℃の温度範囲に加熱した後、鍛造もしくは熱間加工を施すことなども可能とされる。
圧延加工としては、一般的には、温間温度域での多パス溝ロール圧延などで加工し、焼鈍しすることなどが例示される。さらに、フェライトを等軸粒にするために、溝ロール圧延時に楕円孔を通すことなどが有効である。
また、この出願の発明が提供する方法は、圧延工程の後に、400℃以上Ac3点以下の温度範囲で30分以上時効させる時効工程を施すことができる。この出願の発明の方法では、上記の圧延工程での圧延温度が鋼の時効温度と一致するため、VCの析出のために特別な時効処理は必要としていない。しかしながら、400℃以上Ac3点以下の温度範囲で30分以上、たとえば、30〜90分程度の時効処理を施すことで、鋼の更なる高強度化が期待できる。
そしてまたこの出願の発明が提供する物品は、上記のこの出願の発明の高強度および高靭性を示す鋼を少なくとも一部に用いて構成されていることから、たとえば、引張強度σBが900〜1300MPaの範囲において、室温におけるシャルピー衝撃値Eが、E>750−0.5σBの関係を確実に満たすという高強度および高靭性を備えていることから、高性能な構造部品とすることができる。さらに限定的には、E>850−0.5σBの関係を満たす高強度および高靭性を示す部品とすることが可能とされる。
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
表1に、実施例で用いた供試材V1〜V4の化学成分を示した。残部は、Feおよび不可避的不純物である。供試材におけるC量は0.05〜0.15mass%、V量は0.2〜0.5mass%の範囲とした。
これらの供試材に対し、特許文献1−3と同様の温間多パス溝ロール(楕円孔)圧延を施し、フェライト粒の細粒化を行った。圧延条件の詳細を表2に示した。
V1〜V4材に対しては、900℃への加熱後に温間多パス溝ロール圧延を施す標準的な圧延条件Aで圧延を施し、別途用意した供試材V2については、1200℃への加熱後に圧延する圧延条件Bでも圧延を行った。V2材については、このように加熱温度を900℃から1200℃に引き上げることにより、Vの固溶量、すなわち微細析出するVCの量を増やせることが期待できる。
このようにして得た各供試材の機械的性質、微細組織、衝撃強度を調べた。
まず、機械的性質を調べた結果を表3に示した。
引張試験は、試験部直径3.5mm、平行部長さ24.5mmのJIS 14A号試験片
について行った。硬さ測定には、ビッカース硬さ試験機を使用し、荷重10kgfで測定した。いずれの供試材についても、引張強度は900MPa以上を示し、最高で1245MPaにも達した。また、供試材V1とV2、V3とV4は、V以外の化学組成がほぼ同じであるが、V量がより多いV2,V4の方が高い引張強度および硬度が得られた。そして、圧延条件をBとしたV2に至っては、さらに高い値が得られた。
また、供試材の電解研磨面の微視組織をFE−SEMで観察した。代表として、供試材V2の圧延条件AおよびBで得た試料について、その観察結果を図2(a)(b)にそれぞれ示した。得られた全ての試料で、フェライト粒径は0.7μm以下であり、各試料間でフェライト粒径に大きな違いは見られなかった。一方で、VCの析出状態については、圧延条件Aで圧延したV2のみに、FE−SEMで識別可能な比較的粗大なVCが析出している様子が観察された。この粗大な炭化物の大きさは、50〜100nm程度であった。そして、圧延条件Bで圧延したV2については、そのような粗大なVCは観察されず、FE−SEMでかすかに識別できるような微細なVCが高密度で見られた。これらの微細なVCは、大きいものでも50nm以下であり、ほとんどのものは10nm以下であると見積もることができた。他の試料(V1,V3,V4)もほぼ同じ様相を呈していた。ここで、実際には、いずれの試料においてもFE−SEMでは観察不可能な数nm以下の寸法のVCも無数に析出していると考えられる。
VCの析出状態について理論的に考察すると、図1を参考に、C量が0.15mass%のV2材を900℃に加熱した場合、Vの固溶量は0.4mass%程度となる。従って、圧延条件Aで圧延したV2材では、約0.1mass%のVが固溶できずに加熱時に先に炭化物を
形成していることになり、それらが図2(a)の組織図上で50nm以上の粗大なVCとして観察されたものと考えられる。これに対し、V2材を1200℃まで加熱する場合には、0.5mass%を超えるV固溶量が得られるため、圧延条件Bで圧延したV2材では粗大なVCが観察されなかったと考えられる。すなわち、表3に示すV2材の引張強度の差は、図2に示したVCの析出状態の違いから説明することができ、またこれらの結果は、圧延条件および図1に示す「サーモカルク」によるV量計算結果と良い一致を示すものであった。
図3(a)(b)に、シャルピー衝撃試験の結果を示した。シャルピー衝撃試験は、JIS4号Vノッチ試験片を用い、−194℃から50℃の温度範囲で各温度2点ずつの試験を行った。延性脆性遷移温度(DBTT)は、全ての材料で−50℃以下となり、実用上、低温脆性の危険性がないことが確認された。上部棚エネルギーは、圧延条件AのV1,V2でやや低くなったが、全ての材料について、室温付近で200J/cm2を超える高いシャルピー衝撃値を示した。V2材については、同じ組成であってもシャルピー衝撃特性が大きく異なることが注目される。このことから、組成に応じて加熱温度を調整することで、鋼内にVCを微細に析出させることが、靭性の向上に極めて有効であることが確認された。
また、室温におけるシャルピー衝撃値を引張強度に対して整理した結果を図4に示した。室温におけるシャルピー衝撃値は、各材料の0℃と50℃で測定した計4点の平均値として求めた。比較のため、図5に示した従来の一般的なJIS機械構造用鋼についての値も併せて示した。この従来鋼は、特許文献3〜5に開示の超微細粒鋼と、非特許文献1の疲労データシートに開示の低合金鋼調質材(SCM,SNCM)および低炭素鋼調質材(S35C,S45C,S55C)である。これら従来鋼のシャルピー衝撃値は、図4から明らかなとおり、Cr−Mo系もしくはCr−Mo−Ni系の低合金鋼調質材が最も高く、炭素鋼調質材はそれよりも全体的に低い。一方の従来の超微細粒鋼のシャルピー衝撃値は、低合金鋼調質材と炭素鋼長質材のちょうど中間に分布する形となっている。また、図中には示していないものの、フェライト/パーライト組織の炭素鋼焼鈍し材等は、図4の範囲外の低いシャルピー衝撃値を示す。この図4から明らかなとおり、この出願の発明のV1〜V4材は、いずれも従来鋼よりシャルピー衝撃値と引張強度のバランスが著しく高いことが明らかとなった。図4中には、低合金調質鋼のシャルピー強度分布の上限を示すE=750−0.5σBの線が示されているが、V1〜V4材はいずれもこの線を大きく上回ることが確認された。また、V4材と圧延条件Bで圧延したV2材については、E=850−0.5σBの線を上回るものであった。
以上のことから、超微細粒鋼にVを添加したこの出願の発明鋼は、引張強度900〜1300MPaの範囲で室温におけるシャルピー衝撃値EがE>750−0.5σBの線を確実に満足することが実証された。
Fe−C−V系鋼における、C量ごとの、温度とVの固溶量との関係を熱力学的計算により求めた結果を例示した図である。 (a)(b)は、実施例において得られたこの発明の鋼の微視組織を例示した図である。 (a)(b)は、実施例において得られたこの発明の鋼のシャルピー衝撃試験の結果を例示した図である。 実施例において得られたこの発明の鋼と従来鋼の室温におけるシャルピー衝撃値と引張強度のバランスを例示した図である。 従来鋼の室温におけるシャルピー衝撃値と引張強度のバランスを例示した図である。

Claims (10)

  1. 粒径が3μm以下のフェライトを主体とする超微細組織鋼であって、組織内には50nm以下のバナジウム炭化物(VC)が析出されていることを特徴とする高強度および高靭性を示す鋼。
  2. フェライトの平均粒径が0.7μm以下であることを特徴とする請求項1記載の高強度および高靭性を示す鋼。
  3. バナジウム炭化物(VC)の粒径が10nm未満であることを特徴とする請求項1または2記載の高強度および高靭性を示す鋼。
  4. 化学組成において、炭素(C)量が0.03〜1.0質量%、バナジウム(V)量が0を超えて1.4質量%以下の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の高強度および高靭性を示す鋼。
  5. 引張強度σBが900〜1300MPaの範囲において、室温におけるシャルピー衝撃
    値Eが、E>750−0.5σBの関係を満たすことを特徴とする請求項1ないし4いず
    れかに記載の高強度および高靭性を示す鋼。
  6. 化学組成において、さらに、マンガン(Mn)量が0.3〜3.0質量%、シリコン(Si)量が0〜2.0質量%、アルミニウム(Al)量が0〜0.1質量%、クロム(Cr)量が0〜3質量%、モリブデン(Mo)量が0〜1.0質量%、ニッケル(Ni)量が0〜3質量%、銅(Cu)量が0〜2.5%、チタン(Ti)量が0〜0.1質量%、ニオブ(Nb)量が0〜0.1質量%、タングステン(W)量が0〜0.5質量%、残部鉄(Fe)および不可避的不純物であることを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載の高強度および高靭性を示す鋼。
  7. 少なくとも炭素(C)を0.03〜1.0質量%、バナジウム(V)を0を超えて1.4質量%以下含む鋼を800℃〜1200℃の温度範囲に加熱する加熱工程と、
    この鋼に対してフェライトが再結晶しない温度領域で全50%以上の多パス圧延を行い、次いで2パス以内でフェライトが動的再結晶する温度領域で圧延する圧延工程を含むことを特徴とする高強度および高靭性を示す鋼の製造方法。
  8. 加熱工程において、鋼に含まれるVが完全に固溶する温度にまで加熱することを特徴とする請求項7記載の高強度および高靭性を示す鋼の製造方法。
  9. 圧延工程の後に、400℃以上Ac3点以下の温度範囲で30分以上時効させる時効工程を含むことを特徴とする請求項7または8記載の高強度および高靭性を示す鋼の製造方法。
  10. 請求項1ないし6いずれかに記載の鋼を少なくとも一部に用いて構成されていることを特徴とする物品。

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN113084166A (zh) * 2021-03-30 2021-07-09 西安理工大学 一种制备钨铜梯度复合材料的方法

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