つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1は、この発明に係る自動変速機1を搭載した車両の駆動系統および制御系統を模式的に示す図であり、エンジン2が車両の幅方向に向けて配置され、その出力側に自動変速機1が連結されている。この自動変速機1は、ベルト式の無段変速機構(バリエータ)3と歯車変速機構4とを主体として構成されている。
図2はその自動変速機1のスケルトン図であり、エンジン2の出力軸に、自動変速機1における入力部材としての入力軸5が配置され、その入力軸5とエンジン2とが連結されている。したがってエンジン2の出力軸と入力軸5とは、常時、共に回転するように構成されている。なお、エンジン2は、要は、燃料を燃焼して動力を出力する動力装置であって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン、天然ガスエンジンなどを採用することができ、さらにモータあるいはモータ・ジェネレータと併用されたものであってもよい。また、このエンジン2は、スロットル開度などの負荷を電気的に制御できるように構成されており、その一例として電子スロットルバルブを備えたエンジン2が使用されている。
その入力軸5の先端側すなわちエンジン2とは反対側に、バリエータ3における駆動部材である駆動プーリー6が配置され、その中心軸線上に設けられている駆動軸6Aが、入力軸5と同一軸線上に位置している。この駆動プーリー6は、固定シーブに対して可動シーブを軸線方向に移動させて両者の間隔すなわち溝幅を大小に変化させるように構成されている。なお、その可動シーブは、固定シーブに対してエンジン2とは反対側(すなわち図2での左側)に配置されている。それに伴って可動シーブを軸線方向に前後動させるためのアクチュエータ7が、可動シーブの背面側(図2での左側)に配置されている。
また、バリエータ3における従動部材である従動プーリー8が、上記の駆動プーリー6と平行に配置されている。この従動プーリー8は、上記の駆動プーリー6と同様の構成であって、固定シーブと可動シーブとを有し、その可動シーブをアクチュエータ9によって前後動させて溝幅を変更するように構成されている。なお、各プーリー6,8の溝幅は、一方が増大することに伴って他方が減少するように制御され、その際にそれぞれのプーリー6,8の軸線方向での中心位置が変化しないようにするために、従動プーリー8におけるアクチュエータ9は、駆動プーリー6におけるアクチュエータ7とは軸線方向で反対側すなわち図2での右側に配置されている。
そして、これらのプーリー6,8に伝動部材であるベルト10が巻き掛けられている。したがって、各プーリー6,8の溝幅を互いに反対方向に変化させることにより、これらのプーリー6,8に対するベルト10の巻き掛け有効径が変化して各プーリー6,8の回転数比すなわち入出力回転数比が連続的に変化するようになっている。また、従動プーリー8に対してトルクを入出力するために、その従動プーリー8に従動軸11が取り付けられている。
つぎに、歯車変速機構4について説明すると、図2に示す例ではその歯車変速機構としてシングルピニオン型の遊星歯車機構4が採用されており、その外歯歯車であるサンギヤ12と、そのサンギヤ12に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ13と、これらのサンギヤ12とリングギヤ13とに噛合したピニオンギヤを自転および公転自在に保持したキャリヤ14とを回転要素とするものであって、上記の入力軸5の外周側に入力軸5と同軸上に配置されている。より具体的には、入力軸5の外周に、サンギヤ軸15が回転自在に嵌合されており、前記サンギヤ12がこのサンギヤ軸15に一体化されている。
この遊星歯車機構4におけるキャリヤ14と入力軸5とを選択的に連結するクラッチCh が設けられている。このクラッチCh は、遊星歯車機構4に増速作用を生じさせるためのものであって、いわゆる高速モード用クラッチである。さらに、キャリヤ14を選択的に固定するブレーキBr が設けられている。これは、遊星歯車機構4に反転減速作用を生じさせるためのものであって、リバースブレーキとなっている。
さらに、前記入力軸5の先端側、すなわち上記の高速モード用クラッチCh と駆動プーリー6との間に、入力軸5と駆動軸6A(駆動プーリー6)とを選択的に連結する発進用クラッチCs が設けられている。この発進用クラッチCs は、そのトルク容量を徐々に変化させることが可能なクラッチであり、一例として摩擦クラッチが採用されている。またこの発進用クラッチCs は、湿式あるいは乾式のいずれでもよい。
前記の入力軸5を含む平面と該平面に平行でかつ前記従動軸11を含む平面との間に、これらの軸5,11と平行に出力部材に相当する出力軸16が回転自在に配置されている。この出力軸16と前記リングギヤ13とが一対のギヤ17,18によって連結されている。また、この出力軸16とフロントデファレンシャル19とが、他の一対のギヤ20,21によって連結されている。そして、このフロントデファレンシャル19から左右の車輪22,23にトルクを出力するようになっている。したがって上記のリングギヤ13が出力要素となっている。
また、前記従動プーリー8から前記サンギヤ12(サンギヤ軸15)にトルクを伝達するためのギヤ対が設けられている。このギヤ対は、図2に示すように、従動軸11に取り付けられた第1ギヤ24と、出力軸16に回転自在に保持されているアイドルギヤ25と、前記サンギヤ軸15に取り付けられた第2ギヤ26とによって構成されている。この第1ギヤ24と第2ギヤ26とのギヤ比は、前記バリエータ3で設定される最も小さい回転数比(駆動プーリー6と従動プーリー8との回転数の比率)γmin の逆数(1/γmin )とほぼ等しい値に設定されている。また、前記一対のギヤ17,18のギヤ比が、前記アイドルギヤ25と第2ギヤ26とのギヤ比と同じである。
さらに、出力軸16とアイドルギヤ25との間には、これらを選択的に連結するクラッチ機構Cd が設けられている。このクラッチ機構Cd は、出力軸16がアイドルギヤ25に対して相対的に正回転する方向で係合する第1一方向クラッチ機能(その機能を生じる部分を第1一方向クラッチF1 と記す)を選択的に有効にするとともに、出力軸16がアイドルギヤ25に対して相対的に逆回転する方向で係合する第2一方向クラッチ機能(その機能を生じる部分を第2一方向クラッチF2 と記す)を選択的に有効にするように構成された4モードクラッチ機構によって構成されている。ここで4モードとは、上記の各一方向クラッチ機能が個別に有効になっている2つのモードと、各一方向クラッチ機能が共に有効になって出力軸16とアイドルギヤ25とが一体化されているモードと、各一方向クラッチ機能が共に無効にされているモードとの合計4つのモードである。そして、各一方向クラッチF1 ,F2 を選択的に有効・無効にする制御部27が設けられている。
なお、その出力軸16が前記一対のギヤ17,18を介してサンギヤ12に連結され、またアイドルギヤ25が第2ギヤ26およびサンギヤ軸15を介してサンギヤ12に連結されているので、4モードクラッチ機構Cd のいずれかの一方向クラッチF1 ,F2 が係合することにより、サンギヤ12とリングギヤ13とが連結される。そしてこれらのギヤ12,13の相対回転(差動回転)が阻止されて、遊星歯車機構4の全体が一体となって回転するようになっている。したがってこの4モードクラッチ機構Cd はいわゆる直結クラッチとなっている。
ここで、この4モードクラッチ機構Cd の一例を更に具体的に説明すると、図3に示すように、アイドルギヤ25を回転自在に保持するための2つの軸受28,29が、出力軸16に互いに隣接して取り付けられている。これらの軸受28,29におけるインナーレース28A,29Aは、半径方向にある程度の厚みをもったリング状の部材である。また、アイドルギヤ25の内周部には、これらのインナーレース28A,29Aの間に延びたフランジ部30が形成されている。
各インナーレース28A,29Aにおけるフランジ部30に対向している側面の円周方向での複数箇所に、凹部(ポケット部)が形成されている。それらのポケット部には、ラチェットとして機能する薄板状の爪板31,32が、フランジ部30側に突出できるように収容されている。この爪板31,32は、それぞれが収容されているポケット部とほぼ同じ形状であって、収容状態ではポケット部に完全に収まってフランジ部30側に突出することがなく、また突出時には円周方向での一端部が、フランジ部30側に突出するようになっている。すなわち、円周方向に傾斜した状態で突出するようになっている。
なお、各爪板31,32のフランジ部30側に突出する端部は、互いに反対になっている。すなわち図3における右側の爪板31は、アイドルギヤ25の正回転方向での後側の端部が、フランジ部30に向けて突出するようになっており、したがってこの爪板31が前述した第1一方向クラッチF1 の一部を構成している。また図3における左側の爪板32は、アイドルギヤ25の正回転方向での前側の端部が、フランジ部30に向けて突出するようになっており、したがってこの爪板32が前述した第2一方向クラッチF2 の一部を構成している。
これに対してフランジ部30の両側面で前記各爪板31,32に対向する位置には、爪板31,32を入り込ませる凹部33,34が形成されている。前述したように、各爪板31,32は、円周方向に対して傾斜した状態でフランジ部30側に突出するので、これらを入り込ませる凹部33,34は、爪板31,32の傾斜と同様に傾斜して形成されている。その一例を図4に模式的に示してある。すなわち第1一方向クラッチF1 における爪板31が入り込む凹部33は、アイドルギヤ25の正回転方向での後ろ側が次第に深くなる形状の凹部である。また第2一方向クラッチF2 における爪板32が入り込む凹部34は、アイドルギヤ25の正回転方向での前側が次第に深くなる形状の凹部である。
つぎに、これらの爪板31,32をフランジ部30側に選択的に突出させ、あるいはポケット部に後退させる制御部27、すなわち各一方向クラッチF1 ,F2 を選択的に有効化し、また無効化する制御部27の一例を説明する。前記各爪板31,32のフランジ部30側に突出する一端部には、フランジ部30の内周端より回転中心側に延びた押圧部31A,32Aが形成されており、その押圧部31A,32Aをフランジ部30とは反対方向に押圧する弾性部材(例えばコイルバネ)35が、フランジ部30の内周端より回転中心側に、軸線方向と平行な方向に向けて配置されている。
このコイルバネ35に対して爪板31,32を挟んだ反対側には、ピストン36,37が配置され、各インナーレース28A,29Aに形成したシリンダ部に前後動自在に収容されている。そして、これらのピストン36,37の背面側には、各インナーレース28A,29Aおよび出力軸16を貫通して形成した制御油路38,39がそれぞれ連通している。したがってこれらの制御油路38,39を介して各ピストン36,37の背面側に油圧を供給することにより、ピストン36,37がコイルバネ35の弾性力に抗して爪板31,32を押し動かし、その結果、爪板31,32の一端部が前記凹部33,34の内部に突出して各一方向クラッチF1 ,F2 が有効化される。
すなわち、アイドルギヤ25が出力軸16に対して正回転もしくは逆回転しようとすると、いずれかの一方向クラッチF1 ,F2 が係合して出力軸16とアイドルギヤ25とが連結されるようになっている。なお、油圧を抜くことにより、爪板31,32がコイルバネ35に押されてポケット部に後退し、一方向クラッチF1 ,F2 が無効化され、その結果、出力軸16とアイドルギヤ25とが相対的に自由に回転する。
なお、上記のクラッチCh ならびにブレーキBr は、一例として、前記4モードクラッチ機構Cd と同様に、油圧によって動作する構成のものが採用されており、したがって特には図示しないが、これらの係合機構を制御する油圧制御装置が設けられている。また、これらの係合機構の係合・解放状態を制御するとともに、バリエータ3で設定する入出力回転数比γを制御するための電子制御装置(T−ECU)40が設けられている。
この電子制御装置40は、マイクロコンピュータを主体として構成されたものであって、制御データとして各種の検出信号が入力され、それらの入力信号および予め記憶しているデータならびにプログラムに従って、以下に説明する変速モードの切り換えや変速制御を実行するようになっている。また、上記の自動変速機1における走行レンジを選択するシフト装置41が設けられており、このシフト装置41で選択したレンジ(シフトポジション)を指示する信号が電子制御装置40に入力されている。
ここで、電子制御装置40に入力されている制御データの例を挙げると、エンジン水温(E/G水温)、キックダウンスイッチ(KD SW)の信号、シフトレバー(図示せず)によって選択した変速レンジを示す信号(レバー信号)、マニュアル操作で変速比もしくは変速段を選択もしくは制限するスイッチからの信号(例えばステアマチック信号)、車速、バリエータ3の油温(CVT油温)、その他の信号が電子制御装置40に入力されている。
なお、走行レンジとは、後進段を設定するリバース(R)レンジ、出力軸トルクを発生させないパーキング(P)レンジおよびニュートラル(N)レンジ、前進走行するためのドライブ(D)レンジ、エンジンブレーキを効かせるブレーキ(B)レンジである。さらに、前記その他の信号には、アクセル開度、変速機に対する入力回転数(エンジン回転数)、前記各プーリー6,8の回転数などの検出信号が含まれる。
また、動力源の出力すなわち上記のエンジン2の負荷を電気的に制御するための電子制御装置(E−ECU)42が設けられている。このエンジン用の電子制御装置42は、上記の変速機用電子制御装置40と同様にマイクロコンピュータを主体として構成されたものであって、この電子制御装置42は、例えば、アクセル開度などで表される出力要求量と車速などの走行状態とを含む制御データに基づいて目標トルクを求め、出力トルクがその目標トルクとなるようにエンジン2の負荷を設定する制御である。そして、上記の各電子制御装置40,42は相互にデータ通信可能に接続されている。
さらに、上記の車両にはトラクションコントロールシステムが搭載されている。このトラクションコントロールシステムは、駆動輪に生じる過剰な駆動トルクを抑制して駆動輪のグリップ力を確保するための装置であり、制動装置とエンジン2の出力制御装置とを主体として構成されている。すなわち、各車輪の回転数から算出される基準車速と各車輪の回転数とを比較し、基準車速に対して回転数が過剰な車輪の制動をおこない、また同時に必要に応じてエンジン2のスロットル開度を絞って出力を低下させる制御をおこなうように構成されている。その制御をおこなうために電子制御装置(TRC−ECU)43が設けられている。この電子制御装置43は、前述した各電子制御装置40,42とデータ通信可能に接続されている。
そして、上記の入力軸5の回転数を検出するNinセンサー44と、バリエータ3の入力回転数である駆動軸6Aの回転数を検出するNcvinセンサー45と、出力軸16の回転数を検出するNo センサー46とが設けられている。これらのセンサー44,45,46の検出信号が、上述したいずれかの電子制御装置40,42,43(例えば変速機用の電子制御装置40)に入力されている。
上述したバリエータ3および遊星歯車機構4を有する自動変速機では、バリエータ3のみの変速作用で変速比を設定する変速モード、すなわちバリエータ3における入出力回転数比γの増大・減少に応じて自動変速機の変速比が増大・減少する変速モード(仮にダイレクトモードあるいはLモードという)と、バリエータ3の変速作用と遊星歯車機構4の変速作用との両方で変速比を設定する変速モード、すなわちバリエータ3における入出力回転数比γが増大・減少すると、それとは反対に自動変速機の変速比が変化する変速モード(仮に動力循環モードあるいはHモードという)との2つの変速モードでの変速をおこなうことができる。したがってLモードでは、遊星歯車機構4が差動作用をおこなわず、またHモードでは遊星歯車機構4が差動作用をおこなう。
これらの変速モードを含む各走行レンジを設定するためのクラッチおよびブレーキの係合解放状態をまとめて示せば、図5のとおりである。なお、図5において○印は係合状態を示し、空欄は解放状態を示す。
図5から知られるように、車速が増大して変速比を低下させるべくHモードが設定されると、各一方向クラッチF1 ,F2 が解放させられる。すなわちリングギヤ13がサンギヤ12に対して高速回転し、前述した出力軸16とアイドルギヤ25との間に相対回転が生じる。これに対して各一方向クラッチF1 ,F2 は前述したように、いわゆるラチェットタイプの噛み合い式の係合機構であるから、解放状態(無効化状態)であれば、トルク伝達がほぼ皆無となる。すなわち引き摺りトルクに相当するトルクが生じない。その結果、高速走行時の動力損失が低減され、燃費が向上する。
図5に示すR、P、D、Nの各レンジは、前述したシフト装置41を手動操作することにより選択される。したがってR(リバース)レンジを選択して後進走行している状態でN(ニュートラル)レンジあるいはD(ドライブ)レンジに切り換えられることがある。このような変速状態の切り換えは、第1および第2の一方向クラッチF1,F2 の解放状態から係合状態への切り換えを伴う。これらの一方向クラッチF1 ,F2 は係合方向が互いに反対であるから、共に有効化されて係合すると、前記遊星歯車機構4におけるリングギヤ13とサンギヤ12とが連結されて、遊星歯車機構4の全体が一体化される。
したがって後進走行中にNレンジもしくはDレンジにシフトし、それに伴って各一方向クラッチF1 ,F2 が直ちに有効化されて係合すると、サンギヤ12およびこれに連結されている部材の回転方向が正回転方向から逆回転方向に反転され、その慣性トルクが出力軸トルクとして現れ、ショックの原因となる。このような不都合を回避するためにこの発明の変速制御装置は、以下の制御を実行する。
図6はその制御例を示すフローチャートであって、先ず、変速をおこなうべき状態が成立しているか否かが判断される(ステップS1)。すなわち変速判断の有無の判断である。このステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御をおこなうことなくリターンする。また、肯定的に判断された場合には、その変速が後進状態から前進状態へのシフト(RレンジからDレンジへのシフト)か否かが判断される(ステップS2)。このステップS2で肯定的に判断された場合、前述したように各一方向クラッチF1 ,F2 を無効状態から有効状態に切り換えて共に係合させることになるので、以下の制御が実行される。
後進状態から前進状態に切り換えるために、先ず、ブレーキBr を解放させる制御が開始される(ステップS3)。ついで発進用クラッチCs を解放する制御もしくはその伝達トルク容量を低下させる制御が実行される(ステップS4)。これは、変速時の過渡的な制御であるから、変速後の前進走行の際に直ちに必要十分なトルクが伝達されるようにするために、発進用クラッチCs は、パッククリアランスが詰まった状態、すなわち係合力が僅かに増大することにより直ちに伝達トルク容量を生じるスタンバイ状態に設定することが好ましい。
ついで車速が予め定めた基準車速以下か否か、すなわち車両が停止しているか否かが判断される(ステップS5)。車速が生じていることによりこのステップS5で否定的に判断された場合には、後進走行しているか否かが判断される(ステップS6)。車両が後退移動していることによりステップS6で肯定的に判断された場合には、フットブレーキがオンか否かが判断される(ステップS7)。すなわち人為的な制動操作がおこなわれているか否かが判断される。
人為的な制動操作がおこなわれていないことによりステップS7で否定的に判断された場合には、アクセル開度に応じた制動が実行される(ステップS8)。これは、例えば前述したトラクションコントロールシステムを使用して全ての車輪もしくは少なくとも駆動輪22,23の制動をおこなう。その制動力は、例えば図7に示すように、車両の出力要求量を表すアクセル開度に応じて増大する制動力とする。ここでアクセル開度で表される出力要求量は、変速後の状態での出力要求量であるから、後進状態から前進状態への切り換えを迅速化するために、出力要求量に応じて制動力を増大させる。
その後、再度、車両が停止しているか否かが判断される(ステップS9)。このステップS9は、前述したサンギヤ12とリングギヤ13との相対回転数(出力軸16とアイドルギヤ25との相対回転数)がゼロになったか否かを車速で判断しているステップである。したがってこのステップS9で否定的に判断された場合にはリターンし、また反対に肯定的に判断された場合には、4モードクラッチ機構Cd が有効化されて係合させられる(ステップS10)。すなわち遊星歯車機構4の全体を一体化させる。これと併せて発進用クラッチCs の伝達トルク容量を増大させられる(ステップS11)。
したがって車両が後退移動している状態でRレンジからDレンジにシフトされた場合、噛み合い式係合機構である4モードクラッチ機構Cd によって連結するべき二つの部材すなわちサンギヤ12とリングギヤ13との相対回転数(出力軸16とアイドルギヤ25との相対回転数)を低減するように制動操作されから、変速に要する時間が短くなって変速応答性が良好になる。また、4モードクラッチ機構Cd を構成している各一方向クラッチF1 ,F2 が有効化されて係合する時点では、その一方向クラッチF1 ,F2 によって連結されている部材が共に停止している(言い換えれば、回転状態が同じである)から、係合に伴う回転変化やそれに起因するショックが発生しない。
なお、人為的な制動操作がおこなわれていてステップS7で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS9に進み、車両が停止しているか否かが判断される。すなわち、人為的な制動操作による車両の停止を待って、各一方向クラッチF1 ,F2 を有効化して係合させる。したがってその場合であっても、係合に伴うショックが発生することはない。
他方、RレンジからDレンジにシフトした際に既に車両が停止していることによりステップS5で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS10に進み、各一方向クラッチF1 ,F2 を有効化して係合させる。したがってその場合であっても、係合に伴うショックが発生することはない。
これに対して車両が前進走行していることによりステップS6で否定的に判断された場合には、前進クラッチCs の伝達トルク容量を増大させる(ステップS12)。こうすることにより、ブレーキBr のトルクに抗してサンギヤ12およびこれに連結されている部材の回転数が増大する。
そして、サンギヤ12の回転数がリングギヤ13の回転数に同期したか否かが判断される(ステップS13)。これは、入力回転数と出力軸回転数ならびに変速比に基づいて判断することができる。同期していないことによりステップS13で否定的に判断された場合にはリターンし、これとは反対に同期した場合、すなわち回転数が一致した場合には、ステップS10に進んで、各一方向クラッチF1 ,F2 を有効化して係合させる。
さらにまた、RレンジからDレンジへのシフトではないことによりステップS2で否定的に判断された場合には、それぞれのシフトに応じた変速処理が実行される(ステップS14)。
上記の制御をフットブレーキがオフ、アクセル開度が全閉、後進走行中におこなった場合のタイムチャートを図8に示してある。RレンジからDレンジへのシフトがt1 時点に成立すると、これと同時に、発進クラッチCs のスタンバイ状態への制御、リバースブレーキBr の解放開始の制御、トラクションコントロールシステムによる制動の制御が開始される。発進クラッチCs の伝達トルク容量Tscが低下することにより、それより上流側の慣性トルク低減され、かつ出力軸トルクが負トルクからほぼゼロに変化する。また、サンギヤ12の回転数が次第に低下し、さらにリングギヤ13の回転数が後進方向の回転数から次第にゼロになる。なお、リバースブレーキBr が完全には解放されておらず、所定のトルク容量Trevbを有しているので、キャリヤ14の回転数はゼロになっている。
サンギヤ12およびリングギヤ13の回転数がゼロになる直前のt2 時点に強制的な制動力が解除される。これによって車両の加速度が負から次第に正に変化する。そして、その直後のt3 時点にサンギヤ12およびリングギヤ13の回転が止まり、それに伴って各一方向クラッチF1 ,F2 が有効化されて係合することによ所定のトルク容量Towc を持ち、かつ発進クラッチCs の伝達トルク容量Tscが増大させられる。その結果、車両加速度が増大し、かつ出力軸トルクが現れる。
なお、この発明の制御装置によらずに、各一方向クラッチF1 ,F2 をシフトの判断の直後に有効化して係合させた場合には、出力軸トルクおよびサンギヤ12とリングギヤ13との回転数が破線で示すように変化する。その結果、出力軸トルクの急激かつ大きな変化によってショックが発生し、あるいはバリエータ3でベルト10の滑りが発生する。これは、乗り心地の悪化や耐久性の低下の要因になる。
なお、リバースブレーキBr の伝達トルク容量をt2 時点もしくはt3 時点まで残しておかずに、変速の判断の成立の直後にリバースブレーキBr を完全に解放することもできる。その場合、遊星歯車機構4のサンギヤ12、リングギヤ13、キャリヤ14の回転数が共に完全にゼロに一致しない状態で各一方向クラッチF1 ,F2 を係合させる場合も生じるが、その慣性トルクが小さいので、係合に伴うショックを大幅に低減することができる。
また、図5に示すように、この発明ではNレンジ(非走行レンジ)で各一方向クラッチF1 ,F2 を係合させておく。そのため、Nレンジを設定している状態で車両が登降坂路を移動している状態でDレンジにシフトした場合、Dレンジへの切り換えに伴って、遊星歯車機構4での回転要素の相対回転数に変化が生じることがないので、ショックを防止することができる。
ところでこの発明は、上述したベルト式のバリエータ3を有する自動変速機およびこれを対象とした変速制御装置に限定されないのであり、いわゆる有段式の自動変速機およびその自動変速機を対象とした変速制御装置にも適用することができる。以下、その例を説明する。
図9は、この発明を前進5段後進1段の自動変速機に適用した例を示すスケルトン図であって、ここに示す自動変速機は、トルクコンバータや自動クラッチなどの発進装置50を介してエンジンなどの動力源(図示せず)の出力側に連結されている。そしてこの自動変速機は、副変速部51と主変速部52とを備えている。
副変速部51は、いわゆるオーバードライブ部であって1組のシングルピニオン型遊星歯車機構53によって構成され、そのキャリヤ54が入力軸55に連結され、またこのキャリヤ54とサンギヤ56との間に、第1の3モードクラッチ機構57が設けられている。この3モードクラッチ機構57は、前述した図2に示す4モードクラッチ機構Cd と類似した構成の機構であって、サンギヤ56がキャリヤ54に対して相対的に正回転(入力軸55の回転方向の回転)する方向に係合する噛み合い式の第1一方向クラッチF01と、この第1一方向クラッチF01とは反対の方向に係合する噛み合い式の第2一方向クラッチF02と、この第2一方向クラッチF02を有効状態および無効状態に切り換える切換機構(図示せず)とを備えている。したがって、第2一方向クラッチF02を無効化した状態では、第1一方向クラッチF01が解放する方向でのサンギヤ56とキャリヤ54との相対回転が可能になり、また第2一方向クラッチF02を有効化した場合には、サンギヤ56とキャリヤ54とが連結されて遊星歯車機構53の全体が一体となって回転するようになっている。
またサンギヤ56の回転を選択的に止める多板ブレーキB0 が設けられている。そしてこの副変速部51の出力要素であるリングギヤ58が、主変速部52の入力要素である中間軸59に接続されている。
したがって副変速部51においては、第2一方向クラッチF02が有効化された状態では、遊星歯車機構53の全体が一体となって回転するため、中間軸59が入力軸55と同速度で回転し、低速段となる。またブレーキB0 を係合させてサンギヤ56の回転を止めた状態では、リングギヤ58が入力軸55に対して増速されて正回転し、高速段となる。
他方、主変速部52は、三組の遊星歯車機構60,61,62を備えており、三組の遊星歯車機構60,61,62を構成する回転要素が、以下のように連結されている。すなわち、第1遊星歯車機構60のサンギヤ63と、第2遊星歯車機構61のサンギヤ64とが互いに一体的に連結されている。また、第1遊星歯車機構60のリングギヤ65と、第2遊星歯車機構61のキャリヤ66と、第3遊星歯車機構62のキャリヤ67とが連結されている。さらに、キャリヤ67に出力軸68が連結されている。さらにまた、第2遊星歯車機構61のリングギヤ69が、第3遊星歯車機構62のサンギヤ70に連結されている。
この主変速部52の歯車列においては、後進側の1つの変速段と、前進側の4つの変速段とを設定することができる。このような変速段を設定するための摩擦係合装置、つまりクラッチおよびブレーキが、以下のように設けられている。先ずクラッチについて述べると、リングギヤ69およびサンギヤ70と、中間軸59との間に多板式の第1クラッチC1 が設けられている。また、互いに連結されたサンギヤ63およびサンギヤ64と、中間軸59との間に多板式の第2クラッチC2 が設けられている。
つぎにブレーキについて述べると、第1ブレーキB1 はバンドブレーキであって、第1遊星歯車機構60のサンギヤ63、および第2遊星歯車機構61のサンギヤ64の回転を止めるように配置されている。またこれらのサンギヤ63,64とケーシング71との間には、一方向クラッチF11と、多板ブレーキである第2ブレーキB2 とが直列に配列されている。この一方向クラッチF11はスプラグなどの転動体をインナーレースとアウターレースとの間に噛み込ませる形式の一方向クラッチであって、サンギヤ63,64が逆回転、つまり入力軸55の回転方向とは反対方向に回転しようとする際に係合してトルクを伝達するようになっている。
また、第1遊星歯車機構60のキャリヤ72とケーシング71との間に、多板ブレーキである第3ブレーキB3 が設けられている。そして第3遊星歯車機構62はリングギヤ73を備えており、リングギヤ73の回転を止めるブレーキとして、第2の3モードクラッチ機構74が設けられている。この3モードクラッチ機構74は、上記の副変速部51に設けられている3モードクラッチ機構57と同様の構成であって、リングギヤ73が逆回転しようとする方向に係合する第1一方向クラッチF21と、この第1一方向クラッチF21とは反対の方向に係合する第2一方向クラッチF22と、この第2一方向クラッチF22を有効状態および無効状態に切り換える切換機構(図示せず)とを備えている。したがって、第2一方向クラッチF22を無効化した状態では、第1一方向クラッチF21が解放する方向にリングギヤ73の回転が可能になり、また第2一方向クラッチF22を有効化した場合には、リングギヤ74がケーシング71に連結されてその回転が阻止されるようになっている。
上記のように構成された自動変速機においては、各クラッチやブレーキなどの摩擦係合装置および噛み合い式係合機構を、図10の図表に示すように係合・解放することにより、前進5段・後進1段の変速段を設定することができる。なお、図10において○印は係合すること(一方向クラッチについては有効化されること)を示し、△印はエンジンブレーキ時に係合することを示し、●印は駆動時に係合することを示し、空欄は解放されること(一方向クラッチについては無効化されること)を示している。
上記の図9に示す自動変速機における引き摺りトルクを生じる可能性のある多板式の係合機構は、副変速部51のブレーキB0 、主変速部52における第1および第2のクラッチC1 ,C2 、第2および第3のブレーキB2 ,B3 の合計5つの係合機構である。これらのうち前進第1速では、第1クラッチC1 が係合するので、他の4つの係合機構で引き摺りトルクが生じる可能性があるが、前進第1速での相対回転数が特には大きくないうえに、この変速段が設定されている時間が短いので、動力損失が特には生じない。また前進第2速では、第1クラッチC1 と第3ブレーキB3 とが係合するので、他の3つの係合機構で引き摺りトルクが生じる可能性があるが、上記の3モードクラッチ機構57,74に替えて多板式の係合機構と一方向クラッチとを併用する構成と比較して引き摺りトルクの生じる係合機構を少なくでき、その分、動力損失を低減することができる。
さらに前進第3速では、第1クラッチC1 と第2ブレーキB2 とが係合するので、他の3つの係合機構で引き摺りトルクが生じる可能性がある。さらに前進第4速では、第1および第2のクラッチC1 ,C2 と第2ブレーキB2 とが係合するので、他の2つの係合機構で引き摺りトルクが生じる可能性がある。そして、最高速段である前進第5速では、第1および第2のクラッチC1 ,C2 と、副変速部51のブレーキB0 と、主変速部52の第2ブレーキB2 とが係合するので、引き摺りトルクを生じる可能性のある係合機構は、第3ブレーキB3 の一つに過ぎない。
このように図9に示す自動変速機では、一対の一方向クラッチを組み合わせて構成した3モードクラッチ機構を採用していることにより、引き摺りトルクの生じる可能性のある係合機構の数を少なくすることができる。特に、第4速や第5速などの高速段側では相対回転数が大きくなり、またその変速段で走行する時間が長くなるが、これらの変速段で引き摺りトルクを生じる可能性のある係合機構の数を少なくすることができるので、燃費(特に高速燃費)の向上効果を増大させることができる。
図10に示すよう第2の3モードクラッチ機構74における第2一方向クラッチF22は、前進第1速でエンジンブレーキを効かせる場合に係合させられる。この変速状態は、シフト装置(図示せず)を所定のレンジ(ロー(L)レンジ)にシフトすることにより選択される。このようなシフト操作によって第2一方向クラッチF22を有効化して係合させる場合、第3遊星歯車機構62のリングギヤ73が回転していれば、すなわちリングギヤ73とケーシング71との相対回転が生じていれば、第2一方向クラッチF22が有効化されて係合することにより、リングギヤ74の回転が急激に止められるので、その慣性力に起因するショックが生じる可能性がある。そこで図9に示す自動変速機を対象とするこの発明に係る変速制御装置は、Lレンジへシフトして第2一方向クラッチF22を有効化する際の制御を以下のように実行する。
図11はその制御例を示すフローチャートであって、先ず、変速すべき状態となっているか否か、すなわち変速判断の有無が判断される(ステップS21)。このステップS21で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンし、これとは反対に肯定的に判断された場合には、その変速がLレンジへのシフトによる変速か否かが判断される(ステップS22)。
LレンジへのシフトであることよりステップS22で肯定的に判断された場合には、高速段側の係合要素を解放する(ステップS23)。この高速段側の係合要素とは、Lレンジで設定される第1速の直前の変速段を設定するために係合しておりかつ第1速で解放されるクラッチもしくはブレーキであり、例えば第2速を上限とする“2”レンジからLレンジにシフトする場合には、第3ブレーキB3 がこの高速段側の係合要素に相当する。
ついで、パワーオフ状態か否かが判断される(ステップS24)。パワーオフ状態であることによりステップS24で肯定的に判断された場合には、制動力を生じさせるようにブレーキ制御をおこなう(ステップS25)。これは、例えば前述した具体例におけるトラクションコントロールシステムにより制動力を発生させることにより実行できる。また、その制動力は、Lレンジで設定される第1速で生じる制動力(エンジンブレーキ力)に相当する制動力であることが好ましい。
また、これと同時に、エンジン(図示せず)のスロットル開度を増大させる(ステップS26)。この制御は、例えばエンジンに設けられている電子スロットルバルブ(図示せず)を電気的に制御してその開度を増大させることにより実行される。また、ハイブリッド車の場合には、動力源として備えられている電動機の出力回転数を増大させることにより実行される。
このように制御することにより、入力軸回転数が同期回転数に達したか否かが判断される(ステップS27)。この同期回転数とは、第1速の変速比と出力軸68との回転数に基づいて決まる入力軸55の回転数である。したがって、動力源の出力を増大させることにより入力軸回転数を増大させ、その回転数が第1速の変速比と出力軸回転数とから決まる回転数に一致したか否かが判断される。
入力回転数を増大させると、第3遊星歯車機構62のリングギヤ73の回転数が次第に低下し、入力回転数が同期回転数に達した時点では、第2の3モードクラッチ機構74における第1一方向クラッチF21が係合し、リングギヤ73の回転が止まる。したがって同期回転数に達していないことによりステップS27で否定的に判断された場合にはリターンして従前の制御を継続し、また反対に同期回転数に達したことが検出されてステップS27で肯定的に判断された場合には、第2一方向クラッチF22を有効化してこれを係合させる(ステップS28)。その場合、リングギヤ73の回転が止まっているから、すなわちケーシング71との相対回転数がゼロであるから、第2一方向クラッチF22を有効化して係合させても回転変化が生じず、ショックが発生することはない。
そして、第2一方向クラッチF22を有効化して係合させるのに要する所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS29)。このステップS29で否定的に判断された場合、すなわち所定時間が経過していない場合にはリターンし、所定時間が経過したことによりステップS29で肯定的に判断された場合には、動力源の出力を徐々に減じる(ステップS30)。また、これに合わせて制動力を徐々に解除する(ステップS31)。その場合、動力源の出力の低減は、例えば電子スロットルバルブを閉じることにより実行され、具体的には、パワーオフ状態まで急速に出力を低下させ、その後、出力をゆっくり低下させることが好ましい。また、制動力は、動力源の出力をパワーオフ状態まで急速に低下させた後に、低下させることが好ましい。
一方、パワーオン状態であることによりステップS24で否定的に判断された場合には、入力回転数が同期回転数に達したか否かが判断される(ステップS32)。同期回転数に達していないことによりこのステップS32で否定的に判断された場合にはリターンし、また反対に同期回転数に達したことによりステップS32で肯定的に判断された場合には、上記のパワーオフの場合と同様に、第2一方向クラッチF22を有効化してこれを係合させる(ステップS33)。この場合も、回転変化やそれに起因するショックが生じることはない。
さらに、LレンジへのシフトではないことによりステップS22で否定的に判断された場合には、それぞれの変速の態様に応じて変速処理が実行される(ステップS34)。
上記の制御をパワーオフ状態でかつ“2”レンジからLレンジへのシフトの際に実行した場合の過渡特性を図12にタイムチャートで示してある。t11時点に“2”レンジからLレンジへのシフトの判断が成立すると、第3ブレーキB3 を解放する制御が実行されてそのトルクTb3が低下する。第3ブレーキB3 がほぼ完全に解放されたt12時点に電子スロットルバルブの開度が増大させられて動力源の出力が増大し、それに伴って入力回転数が増大する。またこれと同時に制動が実行されるので、出力軸トルク(負のトルク)が更に低下する。
こうして入力回転数が同期回転数に達すると(t13時点)、出力軸トルクが変速後のトルクに低下するとともに、第2一方向クラッチF22が有効化されて係合し、所定のトルクTf22 を持つ。そして、所定時間後(t14時点)に電子スロットルバルブが閉じられて動力源の出力が急激に低下させられ、パワーオフ状態になったt15時点にその出力の低下度合いが緩やかになり、同時に制動力が次第に低下させられる。最終的には電子スロットルバルブが閉じられ、かつ制動力が解除される(t16時点)。
このように多段式の自動変速機に、係合方向が互いに反対の一対の一方向クラッチを並列的に使用し、かつ少なくとも一方を選択的に無効化・有効化するように構成した場合であっても、変速ショックを悪化させることなく変速を実行でき、また、同期を促進するように制御するので、変速の遅れを回避することできる。さらに一方向クラッチは解放状態あるいは無効状態では引き摺りトルクが皆無に近いので、動力損失を低減して燃費を向上させることができる。
ここで、上記の各具体例とこの発明との関係を説明すると、図2に示す各一方向クラッチF1 ,F2 および図11に示す各一方向クラッチF01,F02,F21,F22が、請求項1における第1もしくは第2の一方向係合機構に相当し、また請求項2の噛み合い係合機構に相当する。また、図2に示す制御部27が、この発明の切換手段に相当する。さらに、上述したステップS2およびステップS22の機能的手段が、請求項2ないし請求項5の発明におけるシフト検出手段に相当し、上述したステップS8およびステップS22,S26の機能的手段が、請求項2ないし請求項5の発明における相対回転数低減手段に相当し、ステップS10およびステップS28の機能的手段が、請求項2ないし請求項5の発明における有効化手段に相当する。
なお、この発明は上述した各具体例に限定されないのであって、一方向クラッチはスプラグなどの転動体を使用したタイプ、ラチェットを使用したタイプなどの適宜の構造のものを使用でき、またこれを有効化・無効化する切換手段は、油圧式や電気式あるいは両者を併用した構造など、必要に応じて適宜に構造のものを使用することができる。さらに、この発明における噛み合い式係合機構は、要は、完全係合と完全解放との二つの状態に切り換えられ、その中間の滑りの状態のない係合機構であり、一方向クラッチを組み合わせた構造のものに限らず適宜の構造のものを使用できる。そして、一対の一方向クラッチを併用した構造の場合、いずれか一方を選択的に有効化・無効化できればよい。
そしてまた、この発明で対象とする自動変速機のギヤトレーンは、上述した具体例で示したものに限定されない。またさらに、この発明の制動装置は、前述したトラクションコントロールシステムに
限定されないのであって、例えば自動変速機に組み込まれている他の係合装置を係合させて、自動変速機の内部をロック状態にして制動力を発生させるように構成してもよい。
1…自動変速機、 2…エンジン、 3…無段変速機(バリエータ)、 12…サンギヤ、 13…リングギヤ、 14…キャリヤ、 16…出力軸、 23…アイドルギヤ、 27…制御部、 40,42,43…電子制御装置、 57,74…3モードクラッチ機構、 71…ケーシング、 73…リングギヤ、 Cd …4モードクラッチ機構、 F1 ,F2 ,F21,F22 …一方向クラッチ。