図1および図2は本発明に係るエンジンの始動装置を有する4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジンには、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2とを備えている。上記エンジン本体1には、4つの気筒(#1気筒12A、#2気筒12B、#3気筒12C及び#4気筒12D)が設けられるとともに、各気筒12A〜12Dの内部には、クランク軸3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、その上方に燃焼室14が形成されている。
なお、当実施形態において、エンジンの自動停止中に圧縮行程にあった気筒を圧縮行程気筒、膨脹行程にあった気筒を膨脹行程気筒と称する(同様に吸気行程にあった気筒を吸気行程気筒、排気行程にあった気筒を排気行程気筒と称する)が、これらはそれぞれ特定の気筒を指すわけではなく、エンジンの自動停止時における個々の気筒の行程に基づいて、便宜上その気筒を呼称するものである。
上記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部には、プラグ先端が燃焼室14内に臨むように点火プラグ15が設置されている。点火プラグ15には、これに電気火花を発生させるための点火装置27が付設されている。また、上記燃焼室14の側方には、燃焼室14内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、上記ECU2の燃料噴射制御部41から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
また、上記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられるとともに、これらのポート17,18に、吸気弁19および排気弁20がそれぞれ装備されている。上記吸気弁19および排気弁20は、図示を省略したカムシャフト等を有する動弁機構によって駆動されることにより、各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように各気筒12A〜12Dの吸気弁19、排気弁20の開閉タイミングが設定されている。
上記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。上記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23が配設されている。このスロットル弁23の上流側には、吸気流量を検出するエアフローセンサ25及び吸気の温度を検知する吸気温センサ29が設けられ、スロットル弁23の下流側には吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ26が設けられている。
一方、図1及び図2に示すように、各気筒12A〜12Dからの排気が集合する排気通路22の集合部下流には、排気を浄化するための触媒37が配設されている。この触媒37は、例えば、排気の空燃比が理論空燃比近傍にあるときにHC、COおよびNOxの浄化率が極めて高い、いわゆる三元触媒であり、これは排気中の酸素濃度が比較的高い酸素過剰雰囲気でこれを吸蔵する酸素吸蔵能を有し、酸素濃度の比較的低いときには吸蔵している酸素を放出して、HC、CO等と反応させるものである。なお、触媒37は、三元触媒に限らず、上記のような酸素吸蔵能を有するものであれば良く、例えば酸素過剰雰囲気でもNOxを浄化可能な、いわゆるリーンNOx触媒であっても良い。
また、上記エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランク軸3に連結されたオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28は、図示を省略したフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力される上記ECU2からの制御信号に基づき、車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
さらに、上記エンジンには、クランク軸3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられ、一方のクランク角センサ30から出力される検出信号に基づいてエンジン回転速度が検出されるとともに、後述するように上記両クランク角センサ30,31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク軸3の回転方向および回転角度が検出されるようになっている。
さらにエンジン本体1には、カムシャフトに設けられた気筒識別用の特定回転位置を検出するカム角センサ32と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ33とが設けられ、また車体側には運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34が設けられている。
さらに、上記クランク軸3には、図略のフライホイールと、このフライホイールに固定されたリングギヤ35が、回転中心に対して同心に設けられている。リングギヤ35は、始動アシスト装置としてのスタータモータ36の入力部材であり、後述するように、スタータモータ36のピニオンギヤ37と噛合されるように構成されている。
図3を参照して、スタータモータ36は、モータ36aと、モータ36aと平行に配置された電磁駆動式のプランジャ36bと、このプランジャ36bによってシフトレバー36cを介し、モータ36aの出力軸上にて相対回転不能な状態で往復移動するピニオンギヤ36dとを有し、エンジンの再始動時に、上記ピニオンギヤ36dを図3の実線で示す待機位置から仮想線で示す噛合位置に移動させてリングギヤ35に噛合させることにより、クランク軸3を回転駆動してエンジンを再始動させるように構成されている。
当実施形態に採用されているスタータモータ36のピニオンギヤ36dは、スクリュー状に捩れているとともに、リングギヤ35との係脱を容易にするために、リングギヤ35が停止しているときに、当該リングギヤ35と逆方向に約60rpmの速度で回転しながら噛合する仕様になっている。
図1を参照して、ECU2は、エンジンの運転を統括的に制御するコントロールユニットである。当実施形態のエンジンは、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を所定のタイミングで停止(燃料カット)して自動的にエンジンを停止させるとともに、その後に運転者によるアクセル操作が行わる等により再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる制御(アイドルストップ制御)を行うように構成されている。以下ECU2の説明にあたり、このアイドルス
トップ制御に関する部分を中心に説明する。
ECU2には、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、吸気温センサ29、クランク角センサ30,31、カム角センサ32、水温センサ33及びアクセル開度センサ34からの各検知信号が入力されるとともに、燃料噴射弁16、スロットル弁23のアクチュエータ24、点火装置27及びオルタネータ28のレギュレータ回路28a、スタータモータ36のそれぞれに各駆動信号を出力する。ECU2は、燃料噴射制御部41、点火制御部42、吸気流量制御部43、発電量制御部44、ピストン位置検出部45および筒内温度推定部46、自動停止制御部47、始動制御部48、始動良否判定部49、空燃比制御部50、並びに触媒温度推定部52を機能的に含んでいる。
燃料噴射制御部41は、燃料噴射時期と、各噴射における燃料噴射量とを設定して、その信号を燃料噴射弁16に出力する燃料噴射制御手段である。特に当実施形態では、後述するように再始動時における膨張行程気筒での最初の燃焼のための燃料を分割噴射によって供給している。燃料噴射制御部41は、その分割噴射時期の設定や、燃料配分の設定も行う。
点火制御部42は、各気筒12A〜12Dに対して適切な点火時期を設定し、各点火装置27に点火信号を出力する。
吸気流量制御部43は、各気筒12A〜12Dに対して適切な吸気流量を設定し、その吸気流量に応じたスロットル弁23の開度信号をアクチュエータ24に出力する。特に当実施形態では、後述するようにエンジンの自動停止時にスロットル弁23の開度を調節して、ピストン13が再始動に適した適正停止範囲に停止するような制御を行っている。吸気流量制御部43は、その際のスロットル弁23の開度調節も行う。
発電量制御部44は、オルタネータ28の適切な発電量を設定し、その駆動信号をレギュレータ回路28aに出力する。特に当実施形態では、後述するようにエンジンの自動停止時にオルタネータ28の発電量を調節することによってクランク軸3の負荷を変化させ、ピストン13が再始動に適した適正範囲に停止するような制御を行っている。発電量制御部44は、その際、オルタネータ28の発電量の調節も行う。また再始動時には、通常よりも多めの発電を行うことによってエンジンの負荷を増大させ、吹上がり(必要以上に急速なエンジン回転速度の上昇)を防止する制御を行っている。
ピストン位置検出部45は、クランク角センサ30,31の各検出信号に基づき、ピストン位置を検出する。ピストン位置とクランク角(°CA)とは1対1に対応するので、一般的になされているように当明細書においてもピストン位置をクランク角で表す。当実施形態では、後述するように膨張行程気筒および圧縮行程気筒の自動停止中のピストン位置に基いて各筒内空気量を算出し、それに応じて再始動時における各気筒の燃焼制御を行っている。
筒内温度推定部46は、水温センサ33によって検知されるエンジン水温や、吸気温センサ29によって検知される吸気温度等に基いて、予め実験等によって求められたマップを用いる等して各気筒12A〜12Dの気筒内の空気温度を推定する筒内温度推定手段である。特に当実施形態では、後述するように、エンジンの再始動に際してエンジンの停止時間を考慮した筒内温度推定を行い、その推定値に基づいた燃焼制御を行っている。
自動停止制御部47は、後述するように、アイドル時において所定のエンジン停止条件が成立したときに燃料供給を停止させてエンジンを自動的に停止させる自動停止制御手段である。
始動制御部48は、自動的エンジン停止が行なわれた後のエンジン再始動条件成立時に、自動的にエンジンの再始動を行わせる始動制御手段である。このエンジン再始動時に、ピストン13の停止位置が後述する特定範囲(適正範囲)にある場合は、少なくともエンジン停止時の膨張行程気筒に燃料を供給して点火、燃焼を行なわせる。当実施形態では、まずエンジン停止時の圧縮行程気筒に対して初回の燃焼を実行してピストン13を押し下げ、膨張行程気筒のピストン上昇によって筒内圧力を高めるようにしてから、当該膨張行程気筒に対して燃料を噴射させて点火、燃焼を行わせるように制御する。すなわち、エンジンの自動再始動時に、ピストンの停止位置が後述する適正範囲にあるときは、始動初期で一旦エンジンを逆転作動させ、その後正転作動に転じるように制御する。当実施形態では、この始動制御部48が、アシスト駆動制御手段を兼ねている。
始動良否判定部49は、膨張行程気筒の燃焼が開始されてから所定時間経過後に設定される検査タイミングt12(図11参照)でのエンジン回転速度を検査時エンジン回転速度として、上記エンジン回転速度検出部としてのセンサ30、31と、ピストン位置検出部45とから入力を受けることにより、エンジンの始動良否を判別する始動良否手段である。
空燃比制御部50は、空燃比を演算し、燃料噴射制御部41が配分する燃料と吸気流量制御部43が制御する吸気流量とを決定するための空燃比制御手段である。
触媒温度推定部52は、吸気温センサ29によって検知される吸気温度等に基いて、予め実験等によって求められたマップを用いる等して触媒37の温度を推定する触媒温度推定手段である。特に当実施形態では、後述するように、エンジンの再始動に際して、触媒37の温度状態を推定し、その推定値に基づいて、燃料噴射や燃焼制御を行っている。
以上のような構成のECU2によってアイドルストップ制御を行うにあたり、エンジンの再始動時には、最初に圧縮行程気筒で燃焼を行わせることにより、そのピストン13を押し下げてクランク軸3を少しだけ逆転方向させる。これによって膨張行程気筒のピストン13を一旦上昇(上死点に近づける)させ、その気筒内の空気(燃料噴射後は混合気となる)を圧縮した状態で、この混合気に点火して燃焼させることにより、クランク軸3に正転方向の駆動トルクを与えてエンジンを再始動させるように構成されている。
スタータモータ36等を使用することなく、特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジンを適正に再始動させるためには、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える気筒(当実施形態では圧縮行程気筒および吸気行程気筒)がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。従って、膨張行程気筒内に充分な空気量を確保しておく必要がある。
圧縮行程気筒と膨張行程気筒とでは、それぞれ位相が180°CAだけずれているため、図4(a)に示すように、各ピストン13が互いに逆方向に作動する。
図4(b)に示すように、膨張行程気筒のピストン13が行程中央よりも下死点側に位置していれば、その気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。しかし、上記膨張行程気筒のピストン13が極端に下死点側に位置した状態となると、圧縮行程気筒内の空気量が少なくなり過ぎて、再始動時の初回燃焼でクランク軸3を逆転方向させるための燃焼エネルギーが充分に得られなくなる。
これに対して上記膨張行程気筒の行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°
CAとなる位置よりもやや下死点側の所定範囲R、例えば圧縮上死点後のクランク角が100°CA〜120°CAとなる範囲R内にピストン13を停止させることができれば、圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて上記初回の燃焼によりクランク軸3を少しだけ逆転方向させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、膨張行程気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランク軸3を正転方向させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジンを確実に再始動させることが可能となる(以下この範囲Rを適正停止範囲Rとする)。
そこで、ピストン13を適正停止範囲R内に停止させるよう、ECU2(自動停止制御部47)によって次のような制御がなされる。
図5は、自動停止制御部47によるエンジン自動停止時のタイムチャートであり、エンジン回転速度Ne、ブースト圧Bt(吸気圧力)およびスロットル弁23の開度Kを示す。また図6は、図5のタイミングt1付近以降の拡大図であり、図5に加えてクランク角CAおよび各気筒の行程遷移チャートを示す。なお、以下説明を簡潔にするため、#1気筒12Aが膨張行程気筒、#2気筒12Bが排気行程気筒、#3気筒12Cが圧縮行程気筒、#4気筒12Dが吸気行程気筒であるものとする。
ECU2は、エンジンの自動停止条件が成立したタイミングt0で、エンジンの目標速度を、エンジンを自動停止させない時の通常のアイドルエンジン回転速度(以下、通常のアイドルエンジン回転速度という)よりも高い値、たとえば通常のアイドルエンジン回転速度が650rpm(自動変速機はドライブ(D)レンジ)に設定されたエンジンでは上記目標速度(自動停止条件成立時のアイドルエンジン回転速度)を850rpm程度(自動変速機はニュートラル(N)レンジ)に設定することにより、エンジン回転速度Neを通常のアイドルエンジン回転速度よりも少し高いエンジン回転速度で安定させる制御を実行する。またブースト圧Btが比較的高い所定の値(約−400mmHg)で安定するようにスロットル弁23の開度Kを調節する。
そしてエンジン回転速度Neが目標速度に安定したタイミングt1で燃料噴射を停止させてエンジン回転速度Neを低下させる。また、エンジンを自動停止させる制御動作の初期段階である上記燃料噴射の停止タイミングt1で、スロットル弁23の開度Kを、気筒内空燃比を空気過剰率λ=1にしたときのアイドル時の吸気流量(エンジン運転を継続させるために必要な最小限の吸気流量)よりも多い吸気流量となるように設定する。すなわち、上記タイミングt1直前の燃焼状態が、気筒内空燃比を空気過剰率λ=1ないしλ=1付近に設定されて均質燃焼されている場合はスロットル弁23の開度Kを増大させ(例えば開度K=30%程度)、気筒内空燃比がリーンに設定されて成層燃焼されている場合はスロットル弁23の開度Kをそのまま(成層燃焼時の比較的大きな開度のまま)維持する。図5及び図6は前者の場合を示している。
この制御によってタイミングt1からやや遅れてブースト圧Btが増大し始める(タイミングt1直前が均質燃焼の場合)か、または比較的高いブースト圧Btを維持する(タイミングt1直前が成層燃焼の場合)ので、排気ガスの掃気が促進される。
またECU2は、タイミングt1でオルタネータ28の発電を一旦停止させる。これによってクランク軸3の回転抵抗を低減し、エンジン回転速度Neの速度が早く低下し過ぎないようにしている。
こうしてタイミングt1で燃焼噴射を停止するとエンジン回転速度Neが低下し始め、予め設定された基準速度、例えば760rpm以下になったことが確認されたタイミングt2でスロットル弁23を閉止する。するとタイミングt2からやや遅れてブースト圧B
tが減少し始め、エンジンの各気筒に吸入される吸気流量が減少する。スロットル弁23を開放しているタイミングt1からタイミングt2までの間に吸入された空気は、共通吸気通路21c及びサージタンク21bを経由して各気筒の分岐吸気通路21aに導かれる。そして吸気行程を迎えた気筒から順にその空気を吸入することになる。図6に示す場合では#4気筒12D、#2気筒12B、#1気筒12A、#3気筒12Cの順となる。ここで、タイミングt1及びタイミングt2の設定を上記のようにすることによって、#3気筒12C(圧縮行程気筒)よりも#1気筒12A(膨張行程気筒)の方がより多くの空気を吸入することになる。
タイミングt1以降はエンジンが慣性で回転するため、エンジン回転速度Neが次第に低下し、やがてタイミングt5で停止するが、このエンジン回転速度Neの低下は、図5および図6に示すように、小刻みなアップダウン(4気筒4サイクルエンジンでは10回前後)を繰り返しながら低下して行く。
図6に示すクランク角CAのタイムチャートは、実線が#1気筒12Aおよび#4気筒12Dの上死点を0°CAとした場合のクランク角を示し、一点鎖線が#2気筒12Bおよび#3気筒12Cの上死点を0°CAとした場合のクランク角を示している。実線と一点鎖線とは90°CAを境に互いに逆位相となっている。4気筒4サイクルエンジンでは、180°CAごとに何れかの気筒が順次圧縮上死点を迎えるので、このタイムチャートは、実線または一点鎖線で示す波形の頂点(クランク角=0°CA)において何れかの気筒が圧縮上死点を通過していることを示している。
この何れかの気筒が圧縮上死点となるタイミングは、上記エンジン回転速度Neがアップダウンする谷のタイミングと一致している。つまり、エンジン回転速度Neは、各気筒が順次圧縮上死点を迎える度に一時的に落ち込んだ後、その圧縮上死点を超えたタイミングで再び上昇するという小刻みなアップダウンを繰り返しながら次第に低下するのである。
そして最後の圧縮上死点を通過したタイミングt4の後に圧縮上死点を迎える圧縮行程気筒12Cでは、慣性力によるピストン13の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン13が上死点を超えることなく押し返されてクランク軸3が逆転方向する。このクランク軸3の逆転方向によって膨張行程気筒12Aの空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて膨張行程気筒12Aのピストン13が下死点側に押し返されてクランク軸3が再び正転方向し始め、このクランク軸3の逆転方向と正転方向とが数回繰り返されてピストン13が往復作動した後に停止することになる。このピストン13の停止位置は、圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aにおける圧縮反力のバランスにより略決定されるとともに、吸気行程気筒12Dの吸気抵抗やエンジンの摩擦等の影響を受け、上記最後の圧縮上死点を超えたタイミングt4のエンジンの回転慣性、つまりエンジン回転速度Neの高低によっても変化することになる。
従って、膨張行程気筒12Aのピストン13を適正停止範囲R内に停止させるためには、まず膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの圧縮反力がそれぞれ充分に大きくなり、かつ膨張行程気筒12Aの圧縮反力が圧縮行程気筒12Cの圧縮反力よりも所定値以上大きくなるように、両気筒に対する吸気流量を調節する必要がある。このために、燃料噴射の停止タイミングt1でスロットル弁23を開放してその開度Kを増大させることにより膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの両方に所定量の空気を吸入させた後、所定時間が経過したタイミングt2で上記スロットル弁23を閉止してその開度Kを低減することにより上記吸入空気量を調節するようにしている。
ところで、このようにしてエンジンを自動停止させ、エンジン回転速度が低下する過程
において、各気筒12A〜12Dが圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度(上死点エンジン回転速度)Neと、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置との間に明確な相関関係がある。すなわち、各段階(停止前から2番目、3番目、4番目・・・)の上死点エンジン回転速度Neがそれぞれ一定の速度範囲内にあるときに膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が適正停止範囲R内となる確率が高くなるのである。
この特性を利用し、当実施形態ではエンジン回転速度Neの低下過程における所定の段階(特に重要なのは停止前から2番目(タイミングt3))の上死点エンジン回転速度Neが一定の速度範囲内となるような制御を行って、膨張行程気筒12Aのピストン13がより確実に適正停止範囲R内で停止するような制御を行っている。具体的には、オルタネータ28の発電量を増減させることによってクランク軸3の負荷(エンジン負荷)を調節し、停止前から2番目の上死点エンジン回転速度Ne(タイミングt3)が、350±50rpmの範囲内となるようにしている。
エンジン回転速度Neがさらに低下し、最後の圧縮上死点通過時期(図6に示すタイミングt4)を過ぎると、何れの気筒も上死点を通過することがなく、行程の遷移はなされなくなる。ピストン13は、その行程内で減衰振動(逆向きに動くときはクランク軸3が逆転方向し、エンジン回転速度Neが負になる)しつつ狙いの適正停止範囲Rに停止しようとする。しかし、このとき吸気行程気筒12Dは吸気動作を行っており、その吸気抵抗が大きいとピストン13の停止位置がばらつきやすくなる。特に、吸気抵抗はピストン13が下死点側に動くときに大きくなるように作用するので、ピストン13が狙いよりも上死点寄りに停止しやすくなる。吸気行程気筒12Dのピストン13と膨張行程気筒12Aのピストン13とは同位相で動くので、結局膨張行程気筒12Aのピストン13が狙いよりも上死点寄りに停止しやすくなってしまう。
そこで当実施形態では、タイミングt4と略同時(やや遅らせても良い)にスロットル弁23の開度Kを図6に示す開度K1(例えばK1=40%程度)まで増大させ、吸気行程気筒12Dの吸気抵抗を低減している。これによって膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cにおける吸気流量バランスに影響を及ぼすことなく、そのバランスに応じた狙いの位置にピストン13がより停止しやすくなっている。
なお、このような制御を行うためには、タイミングt4が最後の圧縮上死点を通過する時期であることを即時に判別する必要があり、次の(圧縮行程気筒12Cでの)圧縮上死点は通過しないことをタイミングt4において予測しなければならない。そのため当実施形態では、ECU2が最後の上死点通過時期を判別するようにしている。ECU2は、各上死点通過時のエンジン回転速度と、予め実験等で求められた所定のエンジン回転速度(例えば260rpm)とを比較し、前者が後者以下となったタイミングで、それが最後の圧縮上死点を通過する時期であると判別する。なお、最後の圧縮上死点を通過する時期における上死点エンジン回転速度neは、高いほど行程後期寄り(膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が下死点寄り、圧縮行程気筒12Cでは上死点寄り)で停止しやすくなる。
ところで、エンジン停止直前の膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの最終吸気行程における吸気流量バランスは、ブースト圧Btによっても影響を受ける。特に、停止前から2番目の圧縮上死点通過時期(図6のタイミングt3)は、圧縮行程気筒12Cにおいて最終吸気行程の始点となっており、このタイミングのブースト圧Btの影響が大きい。すなわち、このブースト圧Btが低い(真空側)と、圧縮行程気筒12Cへの吸気流量が少なくなり、結果的に圧縮行程気筒12Cのピストン13の停止位置が上死点寄り(膨張行程気筒12Aでは下死点寄り)となりやすい。ブースト圧Btが高い(大気圧側)と、その逆となる。
従って、最後の上死点通過時期における上死点エンジン回転速度neが高く、また停止前から2番目の圧縮上死点通過時期のブースト圧Btが低いときは、膨張行程気筒12Aのピストン13が行程後期寄りで停止しやすい条件が重なっており、狙いの停止位置(上死点後100〜120°CA)で停止する可能性が高い。このような条件のときに、タイミングt3でスロットル弁23の開度をK1まで増大させる制御を行うと、ピストン停止位置がより行程後期寄りとなって、かえって狙いの停止位置から外れてしまう虞がある。そこで当実施形態では、そのような場合には、タイミングt3におけるスロットル弁23の開度をK1より低開度(または閉止)とされる開度K2(図6参照)に設定し、吸気流量の増大を抑制することにより、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が下死点寄りになり過ぎないようにしている。
こうしてタイミングt5においてピストン13が完全に停止するが、その停止直前から停止までのピストン13の動作をクランク角センサ30,31で検出することにより、ECU2のピストン位置検出部45がピストン13の停止位置を検出する。図7は、そのピストン停止位置の検出制御動作を示すフローチャートである。この検出制御がスタートすると、第1クランク角信号CA1(クランク角センサ30からの信号)および第2クランク角信号CA2(クランク角センサ31からの信号)に基づき、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowであるか否か、または第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かを判定する(ステップS41)。これにより、エンジンの停止動作時における上記信号CA1,CA2の位相の関係が、図8(a)のようになるか、それとも図8(b)のようになるかを判定してエンジンが正転方向状態にあるか逆転方向状態にあるかを判別する。
すなわち、エンジンの正転方向時には、図8(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLow、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジンの逆転方向時には、図8(b)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジンの正転方向時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。
そこで、ステップS41の判定がYESであれば、エンジンの正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS42)、ステップS41の判定がNOの場合は、上記CAカウンタをダウンする(ステップS43)。そして、エンジン停止後に上記CAカウンタの計測値を調べることでピストン停止位置を求める(ステップS44)。
エンジンが完全に停止すると、各気筒12A〜12Dの筒内温度は図9の温度特性に示すような変化をする。図9は、エンジン停止からの経過時間と筒内温度との関係を示すグラフであり、エンジン停止時(タイミングt5)の筒内温度が80℃であった場合の筒内温度変化の推定値である。
この特性に示すように、エンジンが完全に停止すると冷却水の流れが停止するので、停止直後に筒内温度が急速に上昇する。そしてエンジン停止後約10秒でピークとなり、以後は徐々に低下して行く。この特性は冷却水の温度(エンジン水温)や外気温(吸気温度)等によって異なり、ECU2の筒内温度推定部46はその特性をマップ化したデータを記憶している。
なお、エンジン停止動作期間中にスロットル弁23の開度Kを増大させることにより掃気が促進されるので、触媒37に充分な量の新気が供給される。従ってエンジン停止中は触媒37の酸素吸蔵量が充分に多い状態となっている。
次に、エンジンの再始動時の制御について説明する。なお以下の説明においては、各気筒12が迎える圧縮上死点をTDCと称し、再起動開始後の順番に基づいて、連番を付与することとする。また、この上死点近傍において、上死点を越える前をBで表し、越えた後をAで表す。
再始動の際は、ECU2(始動制御部48)により、上述のようにまず圧縮行程気筒12Cでの燃焼を行わせてエンジンを一旦逆回転させてから膨張行程気筒12Aでの燃焼を行わせ、正転方向に転じさせる。つまりエンジンを一旦逆回転させることによって膨張行程気筒12Aのピストン13を上昇させ、その圧縮圧力を増大させた後に当該気筒での燃焼を行わせる。膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が適正停止範囲Rにあって燃焼のための充分な空気量が確保されていることと、その空気がエンジンの逆転方向によって圧縮されることにより大きな燃焼エネルギーが得られる。つまりエンジンを確実に正転方向に転じさせるとともにその後の継続的な運転に円滑に移行させることができる。
しかし、膨張行程気筒12A内に充分な空気が存在していることが、その空気を強く圧縮することの妨げとなっている。それは、圧縮された空気の圧縮反力が膨張行程気筒12Aのピストン13を押し戻す方向に作用するからである。
そこで当実施形態では、膨張行程気筒12Aへの燃料噴射時期を遅らせることにより、膨張行程気筒12A内の空気の圧縮量を増大(密度を増大)させる制御を行っている。燃料噴射時期を遅らせると、ある程度筒内空気が圧縮された状態の気筒内に燃料を噴射することになり、その気化潜熱によって圧縮圧力が減少する。従って同じエンジン逆転方向のエネルギーであればピストン13がより上死点近くまで移動することができ(ピストンストローク増大)、圧縮空気の密度をより高めることができる。
図10は、膨張行程気筒12Aへの燃料噴射時期と、それに応じたピストン到達点(点火をしないときに最も上死点に近づく位置)との関係を示すグラフであり、燃料噴射を遅らせることによる効果を表している。図10の横軸は膨張行程気筒12Aが最初に燃焼するための燃料噴射時期をクランク角(上死点後ATDC)で表したもの、縦軸はそれに応じた膨張行程気筒12Aのピストン到達点をクランク角(上死点後ATDC)で表したものである。ピストン到達点のクランク角が小さい(TDCに近い)ほど最大圧縮時の筒内容積が小さく(空気密度が大きく)、燃焼時により大きなエネルギーを得ることができる。図10の特性は、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が110°CA(ATDC)のときのものである。この特性に示すように、逆転方向動作の最初(クランク角=110°CA)に噴射したときのピストン到達点が約36.5°CA(ATDC)であるのに対し、逆転方向が開始し、ピストン13が70°CA(ATDC)まで上死点側に移動したときに噴射した場合、そのピストン到達点が約33.5°CA(ATDC)となり、約3°CA分の圧縮空気密度の増大を図ることができる。
ただし燃料噴射時期を遅らせすぎると、気化が遅れ、気化潜熱によって圧縮圧力が充分低下する前にピストン13が到達点に達してしまう。つまりピストン到達点が低下に転じる(図10の例では70°CA以降)。結局、最大の空気密度増大効果を得るためには、燃料噴射時期を、膨張行程気筒12Aの圧縮行程中期から後期の前半までに行うのが好ましい。
一方、燃料噴射時期を遅らせるということは燃料噴射から点火までの時間が短くなることでもあり、点火時の気化が不十分となる虞がある。点火タイミングまでに気化を充分促進させるためには、早期(例えば逆転方向動作の初期)に燃料噴射を行うことが望ましい。つまり上記空気密度の増大と点火タイミングの気化促進とは燃料噴射時期に関して相反する要求を有するものである。
そこで当実施形態では、燃料を分割噴射(2分割)し、前段の燃料噴射を逆転方向動作の初期に行い、後段の燃料噴射を逆転方向動作中(望ましくは行程中央の90°CA(ATDC)よりも上死点寄り。図10の噴射時期70°CA(ATDC)に相当する時期)に行うようにしている。すなわち、比較的点火時期までの時間が長い前段の燃料噴射で気化を促進し、後段の燃料噴射によって圧縮空気密度の増大を図っている。
なお、ECU2の燃料噴射制御部41は、前段と後段との噴射燃料の比率(分割比)や後段の燃料噴射時期を、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置や逆転方向開始時の筒内空気温度(推定値)によって補正し、気化性能を確保しつつ燃焼エネルギーを可及的に増大させることができるようにしている。すなわち膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が適正停止範囲Rのうちの比較的下死点寄りにあるとき(比較的筒内空気量が多い)は、比較的上死点寄りにあるとき(比較的筒内空気量が少ない)に比べて後段の燃料噴射量比率を増大させている。これは、比較的筒内空気量が多いときは、その圧縮反力も大きくなるので、後段の燃料噴射量をより多くすることによって効果的に圧縮圧力を低減させ、圧縮空気の密度を増大させるためである。また、筒内空気温度が比較的高いときにも後段の燃料噴射量比率を増大させている。これは、筒内空気温度が高いときは燃料の気化性能が高くなっているので、気化性能を確保するための前段の燃料噴射をあまり必要としなくなるからである。
後段の燃料噴射時期に関しては、筒内空気温度が比較的高いときに後段の燃料噴射時期を遅らせている(ただし図10の噴射時期70°CAに相当する時期を上限とする)。つまり、筒内空気温度が高いときは燃料の気化性能が高くなっているので、後段の燃料噴射時期を遅らせても点火までの間に気化しやすくなっており、その分燃料噴射時期を遅らせることで圧縮空気密度の更なる増大を図っている。
次に、図11を参照して、再始動制御により、いわゆるダイレクトスタートを行うと、当該ダイレクトスタートが成功した場合、膨張行程気筒12Aが、逆転から正転に転じたタイミングt11から膨張行程気筒12Aでの最初の燃焼に続く次の燃焼は、吸気行程気筒12Dでの燃焼である。この吸気行程気筒12Dが最初の圧縮上死点(2TDC)に遷移する間、エンジン回転速度Neは、約550rpmから300rpmの間でアップダウンし、2TDCを超えた後は、図11の破線で示すように、比較的高い勾配で起伏を繰り返しながら次第にアイドル速度に近づいていく。
ところが、上記2TDCに至るタイミングで、エンジン回転速度Neが必要回転数(例えば200rpm)を下回った時には、吸気行程気筒12Dが2TDCを超えることができず、図11の実線で示すように、エンジン速度は、そのまま急降下して逆転に転じてしまうことになる。そこで、当実施形態では、上記2TDCに至るであろうタイミングを検査タイミングt12とし、この検査タイミングt12でのエンジン回転速度Neを検査時エンジン回転速度として検出することにより、ダイレクトスタートが成功したか否かをECU2の上記始動良否判定部49によって判別することとしている。
上記のような制御を含むエンジン再始動時の制御動作を図12〜図16に示すフローチャートに基づいて説明する。まず、所定のエンジン再始動条件(停車状態から発進のためのアクセル操作等が行われた場合、バッテリー電圧が低下した場合、あるいはエアコンが
作動した場合等)が成立したか否かを判定し(ステップS101)、NOと判定されてエンジンの再始動条件が成立していないことが確認された場合には、そのままの状態で待機する。ステップS101でYESと判定されてエンジンの再始動条件が成立したことが確認された場合には、筒内温度推定部46が、エンジン水温、停止時間(自動停止からの経過時間)、吸気温度などから筒内温度を推定する(ステップS102)。そして、ピストン位置検出部45によって検出されたピストン13の停止位置に基づいて圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12A内の空気量を算出する(ステップS103)。つまり、上記ピストン13の停止位置から圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの燃焼室容積が求められ、また、エンジン停止の際には燃料噴射の停止後にエンジンが数回転してから停止するので膨張行程気筒12Aも新気で満たされた状態にあり、かつ、エンジン停止中に圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの内部は略大気圧となっているので、上記燃焼室容積から新気量が求められることとなる。
次に、ピストン停止位置が、圧縮行程気筒12Cにおける適正停止範囲R(上死点前BTDC60〜80°CA)のうち、比較的下死点BDC側であるか否かの判定が行われる(ステップS104)。
ステップS104でYESと判定され、比較的空気量が多いときは、ステップS105に移行して、上記ステップS103で算出された圧縮行程気筒12Cの空気量に対してλ(空気過剰率)>1なる空燃比(例えば空燃比=20程度)となるように燃料を噴射させる(1回目の燃料噴射)。この空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒1回目用空燃比マップM1から求められる。λ>1というリーン空燃比とすることにより、比較的圧縮行程気筒12C内の空気量が多いときであっても、逆転方向のための燃焼エネルギーが過多となることなく、逆転し過ぎる(圧縮行程気筒12Cにおいて、下死点側に動いたピストン13が下死点を通過して、吸気行程まで逆転方向してしまう)ことを防止している。
一方ステップS104でNOと判定され、比較的空気量が少ないときは、ステップS106に移行して、上記ステップS103で算出された圧縮行程気筒12Cの空気量に対してλ≦1なる空燃比となるように燃料を噴射させる(1回目の燃料噴射)。この空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒12Cの1回目用空燃比マップM2から求められる。λ≦1という理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比とすることにより、比較的圧縮行程気筒12C内の空気量が少ないときであっても、逆転方向のための燃焼エネルギーを充分得ることができる。
次にステップS107に移行し、圧縮行程気筒12Cへの1回目燃料噴射から気化時間を考慮して設定した時間の経過後(図11におけるタイミングt10)に、当該気筒に対して点火を行う。そして、点火してから一定時間内にクランク角センサ30,31のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストン13が動いたか否かを判定する(ステップS108)。
このステップS108において、NOと判定されて失火によりピストン13が動かなかったことが確認された場合には、圧縮行程気筒12Cに対して再点火を繰り返し行う(ステップS109)。
他方、図12を参照して、ステップS108において、YESと判定されてピストン13が動いたことが確認されると、ピストン停止位置および上記ステップS102で推定した筒内温度に基づいて、膨張行程気筒12Aに対する分割燃料噴射の分割比(前段噴射(1回目)と後段噴射(2回目)との比率)を算出する(ステップS121)。膨張行程気筒12Aにおけるピストン停止位置が下死点寄りであるほど、また筒内温度が高いほど、
後段の噴射比率を大きくする。
次に上記ステップS103で算出した膨張行程気筒12Aの空気量に対して所定の空燃比(λ≦1)となるように燃料噴射量を算出する(ステップS122)。この際の空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒用空燃比マップM3から求められる。
次に、ステップS122で算出された膨張行程気筒12Aへの燃料噴射量とステップS121で算出された分割比とによって、膨張行程気筒12Aに対する前段(1回目)の燃料噴射量を算出し、噴射する(ステップS123)。
次に、上記ステップS102で推定された筒内温度に基づき、膨張行程気筒12Aに対する後段(2回目)の燃料噴射時期を算出する(ステップS124)。この2回目の噴射時期は、ピストン13が上死点側への移動(エンジンの逆転方向)を開始した後の、筒内空気が圧縮されている時期であるとともに、噴射燃料の気化潜熱が圧縮圧力を効果的に減少させる(ピストン13を可及的に上死点へ近づける)ように、かつこの2回目の噴射燃料が点火時期までに気化する時間が可及的に長くなるように設定される。
次に、ステップS122で算出された膨張行程気筒12Aへの燃料噴射量とステップS121で算出された分割比とによって、膨張行程気筒12Aに対する後段(2回目)の燃料噴射量を算出し(ステップS125)、上記ステップS124で算出された2回目の噴射時期に噴射する(ステップS126)。
膨張行程気筒12Aへの2回目の燃料噴射後、所定のディレー時間経過後(図11におけるタイミングt11)に点火する(ステップS127)。所定のディレー時間はピストンの停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒点火ディレーマップM4から求められる。この点火による膨張行程気筒12Aでの初回燃焼により、エンジンは逆転方向から正転方向に転ずる。従って圧縮行程気筒12Cのピストン13は上死点側に移動し、内部のガス(上記ステップS107の点火によって燃焼した既燃ガス)を圧縮し始める。
次に、燃料気化時間を考慮に入れ、圧縮行程気筒12Cに2回目の燃料を噴射する(ステップS128)。この際の燃料噴射量は、1回目の噴射量とを合計した噴射量に基づく全体の空燃比が可燃空燃比(下限は7〜8)よりもさらにリッチ(例えば6程度)になるように、ピストンの停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒12Cへの2回目用空燃比マップM5から求められる。この圧縮行程気筒12Cへの2回目の噴射燃料の気化潜熱によって、圧縮行程気筒12Cの1TDC付近の圧縮圧力が低減するので、当該1TDCを容易に越えることができる。
なお、この圧縮行程気筒12Cへの2回目の燃料噴射は、専ら筒内の圧縮圧力を低減させるためになされるものであって、これに対する点火、燃焼は行われない(可燃空燃比よりもリッチなので自着火も起こらない)。この不燃燃料は、その後、排気通路22の触媒37において吸蔵されている酸素と反応し、無害化される。
次に、上述したように、圧縮行程気筒12Cでの2回目の噴射燃料は燃焼しないので、膨張行程気筒12Aでの最初の燃焼に続く次の燃焼は、吸気行程気筒12Dでの燃焼である。吸気行程気筒12Dのピストン13が2TDCを越えるためのエネルギーとして、膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーの一部が充てられる。つまり膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーは、圧縮行程気筒12Cが1TDCを乗り超えるためと、その後、吸気行程気筒12Dが2TDCを越えるためとの両方に供される。
従って、円滑な始動のためには吸気行程気筒12Dが2TDCを越える際の負荷が小さいことが望ましい。その場合には、小さなエネルギーで2TDCを超えることができる。以下のフローは、次の吸気行程気筒12Dでの燃焼を行うにあたり、可及的に小さなエネルギーで2TDCを越えるための制御である。
図14を参照して、まずステップS140で、筒内空気密度を推定し、その推定値から吸気行程気筒12Dの空気量を算定する。次に、ステップS102で推定した筒内温度に基いて、自着火防止のための空燃比補正値を算出する(ステップS141)。すなわち自着火が起こると、その燃焼によって2TDCに至る前にピストン13を下死点側に押し戻す力(逆トルク)が発生する。これはその分2TDCを越えるためのエネルギーを多く消費するので望ましくない。そこでこの逆トルクを抑制するために空燃比をリーン寄りのリッチに補正し、自着火が起こらないようにするのである。
次に、上記ステップS140で算定した吸気行程気筒12Dの空気量と、上記ステップS141で算出した空燃比補正値を考慮した空燃比とから、吸気行程気筒12Dへの燃料噴射量を算出する(ステップS142)。
そして吸気行程気筒12Dに対する燃料噴射を行うが、この燃料噴射は、その気化潜熱によって圧縮圧力が低減するように(つまり2TDCを越えるための必要エネルギーを低減するように)、圧縮行程の後期まで遅延してなされる(ステップS143)。その遅延量は、エンジンの自動停止期間、吸気温度、エンジン水温等に基いて算出される。
他方、ECU2の始動良否判別部49は、ステップS108において、クランク角センサ30、31のエッジを検出したタイミングを起点として検査タイミングt12を算出し(ステップS144)、このタイミングt12に至るのを待機する(ステップS145)。
次いで、図11で示す検査タイミングt12におけるエンジン回転速度(検査時エンジン回転速度)Neが所定の必要エンジン回転速度(例えば200rpm)を下回っていないかどうか判定する(ステップS146)。
この判定で、図11の破線で示した特性のように、検査時エンジン回転速度が必要エンジン回転速度以上である場合、制御は、2TDCを超えると判断する。この場合、当実施形態では、逆トルクの発生を抑制するために、吸気行程気筒12Dへの点火時期を2TDC以降に遅延して点火する(ステップS148)。以上の制御によって、吸気行程気筒12Dにおいて、2TDCまではその圧縮圧力を小さくして上死点を越えやすくし、上死点を過ぎたタイミングで燃焼エネルギーによる正転方向のトルクが発生するようになる。
他方、図11の実線で示した特性のように、検査時エンジン回転速度が必要エンジン回転速度を下回っている場合、制御は、スタータモータ併用駆動サブルーチンに移行し(ステップS147)、ステップS148は実行されない。
図11及び図15を参照して、ECU2の始動良否判別部49が始動アシストを必要と判定した場合、始動制御部48は、エンジン回転速度Neが減速して最初に0になるt13がクランク角センサ30から検出されるのを待ち(ステップS1471)、このタイミングt13をアシスト起算タイミングとして演算の基準とする(ステップS1472)。
次いで、タイミングt13を基準にして、エンジン回転速度Neが逆転方向に転じてから再び正転方向に転じた後、0になるスタータモータ36の0速度タイミングtpを算出し(ステップS1474)、さらに0速度タイミングtpに基づき、スタータモータ36
の噛合タイミング領域Tsが算出される(ステップS1474)。この噛合タイミング領域Tsは、採用されているスタータモータ36の仕様に基づき、予めECU2の記憶領域に記憶されているスタータモータ36の仕様データに基づいて決定される。当実施形態では、リングギヤ35が停止しているときに、当該リングギヤ35と逆方向に約60rpmの速度で駆動モータ36aがピニオンギヤ36dを逆方向に駆動しながら噛合させる仕様であるため、噛合タイミング領域Tsは、エンジン回転速度Neが0rpmから60rpmとなる範囲に設定される。
さらに当実施形態では、バッテリー電圧からスタータモータ36の駆動遅れ時間Tdyを算出する(ステップS1475)。当実施形態では、駆動モータ36aがピニオンギヤ36dを逆方向に駆動しながら噛合させる仕様であるため、駆動信号の入力を受けてから、両ギヤ35、36aが噛合するまでの間にタイムラグ(すなわち、駆動遅れ時間Tdy)が生じることとなる。そこで、このステップS1475において、駆動遅れ時間Tdyを織り込んだタイミングtoutを算出することとしている。
その後、始動制御部48は、上記演算に基づき、タイミングtoutを待ち(ステップS
1477)、タイミングtoutのところで、駆動信号を出力する(ステップS1478)
。この結果、スタータモータ36のピニオンギヤ36dが駆動モータ36aに駆動されてリングギヤ35に噛合し、クランク軸3は、スタータモータ36からの駆動力でアシストされ、メインフローにリターンする。
ダイレクトスタートまたはスタータモータ併用により、始動開始から2TDCを超えた後は、通常の制御に移行しても良いが、当実施形態ではさらに吹上がり抑制制御を行っている。ここでいう吹上がりとは、吸気行程気筒12Dでの初回燃焼以降、エンジン回転速度が必要以上に急上昇することをいう。吹上がりによるエンジン回転速度が急上昇すると、加速ショックが発生し、運転者に違和感を与えたりする虞があって望ましくない。吹上がりは、自動停止期間中の吸気圧力(スロットル弁23より下流の圧力)が略大気圧となっているために、始動直後(吸気行程気筒12Dでの初回燃焼以降)の各気筒での燃焼エネルギーが通常のアイドル運転時の燃焼エネルギーに比べて一時的に大きくなることによって起こる。そこで以降のステップS149〜S159で、触媒37の温度に応じて空燃比をリーン(λ>1)にしたり点火時期を遅延させたりして、この吹上がりを抑制する制御を行っている。
図16を参照して、上記吹上がり抑制制御では、まず、オルタネータ28の発電を開始する(ステップS149)。その目標電流値はECU2の発電量制御部44によって通常より高めに設定される。オルタネータ28の発電によってクランク軸3の負荷(エンジン負荷)が増大するので、吹上がりが抑制される。
次に吸気圧センサ26によって検知される吸気圧が、アイドルストップを行わない場合の通常のアイドル時における吸気圧力より高いか否かが判定される(ステップS149)。ここでYESと判定されると、吹上がりが起こりやすい状態となっているので、スロットル弁23の開度を通常のアイドル運転時におけるスロットル開度よりもさらに小さくし(ステップS151)、燃焼エネルギーの発生量を抑制する。
次に排気通路22に設けられた触媒37の温度が活性温度以下であるか否かが判定され(ステップS152)、YESと判定されれば目標空燃比をλ≦1なるリッチ空燃比に設定するとともに(ステップS153)、点火時期を上死点以降に遅延させる(ステップS154)。こうすることにより、触媒37の温度上昇が促進されるとともに、点火時期の遅延によって燃焼エネルギーの発生量が抑制される。
遡って、ステップS152でNOと判定されたときは、目標空燃比をλ>1なるリーン空燃比に設定して燃料を噴射する(ステップS158)。この場合には、点火時期を遅延させることなく燃焼させる(ステップS159)。このリーン燃焼によって燃料の消費を抑制しつつ燃焼エネルギーの発生量を抑制することができる。
ステップS154またはステップS159の後はステップS150に戻り、NOと判定されるまで上記制御を繰り返す。ステップS150でNOと判定されると、もはや吹上がりの虞がないので、オルタネータ28の発電量も含めて通常制御に移行する(ステップS160)。
当実施形態においては、検査タイミングt12でのエンジン回転速度Neに基づいて、
いわゆるダイレクトスタートの成否が判定されるので、エンジンが停止した後に再始動が開始された場合でも、必ずしも、スタータモータ36が駆動されるわけではなく、特許文献2に開示された先行技術に比べて、省エネルギー化に寄与することになる。
特に、当実施形態では、エンジンが逆転から正転に転じた後、2回目の0回転タイミングtp近傍でスタータモータ36を駆動しているので、始動良否判定部49によるアシストの必要性が判断されてから、最もスタータモータ36の負荷が小さい段階でエンジンの始動をアシストすることが可能になる。この結果、スタータモータ36の負荷が低減され、スタータモータ36の信頼性が高まる他、スタータモータ36自身の長寿命化にも寄与する。
また、当実施形態では、上記スタータモータ36が、エンジン側のリングギヤ35に噛合するピニオンギヤ36dを有し、上記始動制御部48は、このピニオンギヤ36dの噛合タイミングをエンジンが逆転から正転に転じた後、上記2回目の0回転タイミングtp近傍の領域Tsに決定し、ピニオンギヤ36dがリングギヤ35に噛合した後、スタータモータ36によるアシスト動作を開始させるので、ピニオンギヤ36dがエンジンと逆転方向する方向に回動しながらリングギヤ35に噛合する形式のものであっても、スタータモータ36に負荷が作用することなく噛合を達成することができる。従って、スタータモータ36の信頼性が高まる他、長寿命化にも寄与することが可能になる。
また、当実施形態では、上記回転速度検出手段としてのクランク角センサ30,31が、上記検査時エンジン回転速度Neからエンジンが0回転に減速するタイミングをアシスト起算タイミングt13として上記始動制御部48に入力し、始動制御部48は、入力されたアシスト起算タイミングt13に基づいて、上記2回目の0回転タイミングtpを演算し、この0回転タイミングtpに基づいて、上記ピニオンギヤ36dとリングギヤ35との噛合タイミング領域Tsを算出しているので、さらに、スタータモータ36の負荷が軽減され、信頼性や長寿命化に寄与することになる。
また、当実施形態では、上記始動制御部48が、スタータモータ36の駆動遅れ時間Tdyを算出し、算出された駆動遅れ時間Tdyに基づいて、上記2回目の0回転タイミングtpよりも早く出力されるように駆動タイミングを決定しているので、決定要因として、スタータモータ36の駆動遅れ時間Tdyが織り込まれることになる。従って、スタータモータ36が駆動を開始してからエンジンを駆動するまでの間にタイムラグが生じても、駆動タイミングは、確実に所望のタイミングとなる。この結果、スタータモータ36の駆動タイミングに対する許容度が高まり、スタータモータ36の実施が容易になる他、低廉化にも寄与する。
また、上記始動良否判定部49が、再起動に成功した場合には、膨張行程気筒12Aが最初の排気上死点に到達するタイミングを推定して、このタイミングを検査タイミングt
12とし、上記検査タイミングt12でのエンジン回転速度Neを検査時エンジン回転速
度Neとして上記エンジン回転速度Ne検出手段から入力を受けることにより、エンジンの始動良否を判別しているので、検査タイミングt12を比較的正確に推定することがで
きる。従って、検査時エンジン回転速度Neの良否を精度よく判別することができ、検査時エンジン回転速度Neの検出が容易かつ精密になり、制御の精度が高まるという利点がある。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、当実施形態では省略しているが、エンジン再始動時において、所定の条件成立時(例えばピストン停止位置が適正停止範囲R内にない場合や、始動後の所定時期までにエンジン回転速度が所定値に達しないなど)においても、スタータモータ36によるアシストを伴う制御を行っても良い。
なお、始動アシスト装置としては、エンジン側のフライホイールに設けられたリングギヤに噛合するピニオンギヤを有するスタータモータ36が好適であるが、この態様では、ピニオンギヤから動力を出力するスタータモータに限らず、ベルト式のものを採用してもよい。
エンジンを自動停止させる制御は当実施形態に限るものではなく、適宜設定して良い。ただし再始動性を高めるためには、膨張行程気筒12Aにおけるピストン13の停止位置が行程中央よりよやや下死点寄り(圧縮行程気筒12Cにおいては行程中央よりやや上死点寄り)となるような制御であることが望ましい。