図1および図2は本発明に係る4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジン1は、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有しており、ECU2によって制御される構成になっている。前記エンジン1には、四つの気筒(第1気筒12A、第2気筒12B、第3気筒12C及び第4気筒12D)が設けられるとともに、各気筒12A〜12Dの内部には、クランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、その上方に燃焼室14が形成されている。
前記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部には、プラグ先端が燃焼室14内に臨むように点火プラグ15が設置されている。点火プラグ15には、これに電気火花を発生させるための点火装置27が付設されている。また、エンジン1には、前記燃焼室14の側方に配置され、燃焼室14内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16aを備えた燃料供給システム16が設けられている。燃料供給システム16には、図略の電動高圧ポンプが設けられており、この電動高圧ポンプから吐出された燃料タンクの燃料が分配管を介して燃料噴射弁16aに噴射されるように構成されている。電動高圧ポンプは、ECU2によって、エンジン1の運転状態に応じ、例えば3MPaから13MPaまでの範囲で燃圧を調整可能に構成されている。なお、燃料供給システムについては、例えば本件出願人が先に提案している特開2002−242738号公報に開示されているものと同等のものを適用可能であるので、その詳細については説明を省略する。
燃料噴射弁16aは、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、前記ECU2の燃料噴射制御部41から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を前記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。本実施形態において、燃料噴射弁16aは、複数の噴口を有するマルチホール型インジェクタで構成されている。各燃料噴射弁16aは、その燃圧を制御可能な燃料供給システム16に接続されている。そして、ECU2により、燃料供給システム16が制御されることによって、各燃料噴射弁16aは、所期のタイミング並びに燃圧で燃料を噴射するように構成されている。なお、マルチホール型インジェクタについては、例えば本件出願人が先に提案している特開2005−98121号公報に開示されているものと同等のものを採用可能であるので、その詳細については説明を省略する。
前記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられるとともに、これらのポート17、18に、吸気弁19および排気弁20がそれぞれ装備されている。前記吸気弁19および排気弁20は、図示を省略したカムシャフト等を有する動弁機構によって駆動されることにより、各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように各気筒12A〜12Dの吸・排気弁19、20の開閉タイミングが設定されている。
前記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。前記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23が配設されている。このスロットル弁23の上流側には、吸気流量を検出するエアフローセンサ25及び吸気の温度を検知する吸気温センサ29が設けられ、スロットル弁23の下流側には吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ26が設けられている。
一方、各気筒12A〜12Dからの排気が集合する排気通路22の集合部下流には、排気を浄化するための触媒37が配設されている。この触媒37は、例えば、排気の空燃比状態が理論空燃比近傍にあるときにHC、COおよびNOxの浄化率が極めて高い、いわゆる三元触媒であり、これは排気中の酸素濃度が比較的高い酸素過剰雰囲気でこれを吸蔵する酸素吸蔵能を有し、酸素濃度の比較的低いときには吸蔵している酸素を放出して、HC、CO等と反応させるものである。なお、触媒37は、三元触媒に限らず、前記のような酸素吸蔵能を有するものであれば良く、例えば酸素過剰雰囲気でもNOxを浄化可能な、いわゆるリーンNOx触媒であってもよい。
また、前記エンジン1には、タイミングベルト等によりクランクシャフト3に連結されたオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28は、図示を省略したフィールドコイルの電流を制御して出力電圧を調節することにより発電量を調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力される前記ECU2からの制御信号に基づき、車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した発電量の制御が実行されるように構成されている。
さらに、エンジン1には、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30、31が設けられ、一方のクランク角センサ30から出力される検出信号に基づいてエンジン回転速度が検出されるとともに、後述するように前記両クランク角センサ30、31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転方向および回転角度が検出されるようになっている。
さらに、エンジン1には、カムシャフトに設けられた気筒識別用の特定回転位置を検出するカム角センサ32と、エンジン1の冷却水温度を検出する水温センサ33とが設けられ、また車体側には運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34が設けられている。
ECU2は、エンジン1の運転を統括的に制御するコントロールユニットである。本実施形態のECU2は、予め設定されたエンジン1の自動停止条件が成立したときに各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を所定のタイミングで停止(燃料カット)して自動的にエンジン1を停止させるとともに、その後に運転者によるアクセル操作が行われる等により再始動条件が成立したときにエンジン1を自動的に再始動させる制御(アイドルストップ制御)を行うように構成されている。以下ECU2の説明にあたり、このアイドルストップ制御に関する部分を中心に説明する。
ECU2には、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、吸気温センサ29、クランク角センサ30、31、カム角センサ32、水温センサ33及びアクセル開度センサ34からの各検知信号が入力されるとともに、燃料噴射弁16a、スロットル弁23のアクチュエータ24、点火装置27及びオルタネータ28のレギュレータ回路28aのそれぞれに各駆動信号を出力する。ECU2は、燃料噴射制御部41、点火制御部42、吸気流量制御部43、発電量制御部44、ピストン位置検出部45および筒内温度推定部46を機能的に含んでいる。
燃料噴射制御部41は、燃料噴射タイミングと、各噴射における燃料噴射量と、燃圧とを設定して、その信号を燃料供給システム16に出力する燃料噴射制御手段である。特に本実施形態では、後述するように再始動時における膨張行程気筒での最初の燃焼のための燃料を分割噴射によって供給している。燃料噴射制御部41は、その分割噴射タイミングの設定や、燃料配分の設定も行う。
点火制御部42は、各気筒12A〜12Dに対して適切な点火タイミングを設定し、各点火装置27に点火信号を出力する。
吸気流量制御部43は、各気筒12A〜12Dに対して適切な吸気流量を設定し、その吸気流量に応じたスロットル弁23の開度信号をアクチュエータ24に出力する。特に本実施形態では、後述するようにエンジン1の自動停止時にスロットル弁23の開度を調節して、ピストン13が再始動に適した適正停止範囲に停止するような制御を行っている。吸気流量制御部43は、その際のスロットル弁23の開度調節も行う。
発電量制御部44は、オルタネータ28の適切な発電量を設定し、その駆動信号をレギュレータ回路28aに出力する。特に本実施形態では、後述するようにエンジン1の自動停止時にオルタネータ28の発電量を調節することによってクランクシャフト3の負荷を変化させ、ピストン13が再始動に適した適正範囲に停止するような制御を行っている。その際、発電量制御部44は、オルタネータ28の発電量の調節も行う。また再始動時には、通常よりも多めの発電を行うことによってエンジン1の負荷を増大させ、吹上がり(必要以上に急速なエンジン回転速度の上昇)を防止する制御を行っている。
ピストン位置検出部45は、クランク角センサ30、31の各検出信号に基づき、ピストン位置を検出する。ピストン位置とクランク角(°CA)とは1対1に対応するので、一般的になされているように本明細書においてもピストン位置をクランク角で表す。本実施形態では、後述するように膨張行程気筒および圧縮行程気筒の自動停止中のピストン位置に基づいて各筒内空気量を算出し、それに応じて再始動時における各気筒の燃焼制御を行っている。
筒内温度推定部46は、水温センサ33によって検知されるエンジン水温や、吸気温センサ29によって検知される吸気温度等に基づいて、予め実験等によって求められたマップを用いる等して各気筒12A〜12Dの気筒内の空気温度を推定する筒内温度推定手段である。特に本実施形態では、後述するように、エンジン1の再始動に際してエンジン1の停止時間を考慮した筒内温度推定を行い、その推定値に基づいた燃焼制御を行っている。
以上のような構成のECU2によってアイドルストップ制御を行うにあたり、エンジン1の再始動時には、最初に圧縮行程気筒で燃焼を行わせることにより、そのピストン13を押し下げてクランクシャフト3を少しだけ逆転させる。これによって膨張行程気筒のピストン13を一旦上昇(上死点に近づける)させ、その気筒内の空気(燃料噴射後は混合気となる)を圧縮した状態で、この混合気に点火して燃焼させることにより、クランクシャフト3に正転方向の駆動トルクを与えてエンジン1を再始動させるように構成されている。
前記のようにして再始動モータ等を使用することなく、特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジン1を適正に再始動させるためには、前記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える気筒(本実施形態では圧縮行程気筒および吸気行程気筒)がその圧縮反力に打ち勝って上死点を超えるようにしなければならない。従って、膨張行程気筒内に充分な空気量を確保し、さらには、急速燃焼を実現して熱エネルギーから運動エネルギーへの変換を迅速化させる必要がある。
図3(A)、(B)に示すように、圧縮行程気筒と膨張行程気筒とでは、それぞれ位相が180°CAだけずれているため、各ピストン13が互いに逆方向に作動する。膨張行程気筒のピストン13が行程中央よりも下死点側に位置していれば、その気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。しかし、前記膨張行程気筒のピストン13が極端に下死点側に位置した状態となると、圧縮行程気筒内の空気量が少なくなり過ぎて、再始動時の初回燃焼でクランクシャフト3を逆転させるための燃焼エネルギーが充分に得られなくなる。
これに対して前記膨張行程気筒の行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°CAとなる位置よりもやや下死点側の所定範囲R、例えば圧縮上死点後のクランク角が100〜120°CAとなる範囲R内にピストン13を停止させることができれば、圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて前記初回の燃焼によりクランクシャフト3を少しだけ逆転させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、膨張行程気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランクシャフト3を正転させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジン1を確実に再始動させることが可能となる(以下この範囲Rを適正停止範囲Rとする)。
そこで、ピストン13を適正停止範囲R内に停止させるよう、ECU2によって次のような制御がなされる。図4は、この制御によるエンジン自動停止時のタイムチャートであり、エンジン回転速度Ne、ブースト圧Bt(吸気圧力)およびスロットル弁23の開度Kを示す。また図5は、図4の時点t1付近以降の拡大図であり、図4に加えてクランク角CAおよび各気筒の行程推移チャートを示す。以下、説明を簡潔にするため、第1気筒12Aが膨張行程気筒、第2気筒12Bが排気行程気筒、第3気筒12Cが圧縮行程気筒、第4気筒12Dが吸気行程気筒であるものとする。
ECU2は、エンジン1の自動停止条件が成立した時点t0で、エンジン1の目標速度を、エンジン1を自動停止させない時の通常のアイドル回転速度(以下、通常のアイドル回転速度という)よりも高い値、例えば通常のアイドル回転速度が650rpm(自動変速機はドライブ(D)レンジ)に設定されたエンジン1では前記目標速度(自動停止条件成立時のアイドル回転速度)を850rpm程度(自動変速機はニュートラル(N)レンジ)に設定することにより、エンジン回転速度Neを通常のアイドル回転速度よりも少し高い回転速度で安定させる制御を実行する。またブースト圧Btが比較的高い所定の値(約−400mmHg)で安定するようにスロットル弁23の開度Kを調節する。
そしてエンジン回転速度Neが目標速度に安定した時点t1で燃料噴射を停止させてエンジン回転速度Neを低下させる。また、エンジン1を自動停止させる制御動作の初期段階である前記燃料噴射の停止時点t1で、スロットル弁23の開度Kを、気筒内空燃比を空気過剰率λ=1にしたときのアイドル時の吸気流量(エンジン1運転を継続させるために必要な最小限の吸気流量)よりも多い吸気流量となるように設定する。すなわち、前記時点t1直前の燃焼状態が、気筒内空燃比を空気過剰率λ=1ないしλ=1付近に設定されて均質燃焼されている場合はスロットル弁23の開度Kを増大させ(例えば開度K=30%程度)、気筒内空燃比がリーンに設定されて成層燃焼されている場合はスロットル弁23の開度Kをそのまま(成層燃焼時の比較的大きな開度のまま)維持する。図4及び図5は前者の場合を示している。
この制御によって時点t1からやや遅れてブースト圧Btが増大し始める(時点t1直前が均質燃焼の場合)か、または比較的高いブースト圧Btを維持する(時点t1直前が成層燃焼の場合)ので、排気ガスの掃気が促進される。
またECU2は、時点t1でオルタネータ28の発電を一旦停止させる。これによってクランクシャフト3の回転抵抗を低減し、エンジン回転速度Neの速度が早く低下し過ぎないようにしている。
こうして時点t1で燃焼噴射を停止するとエンジン回転速度Neが低下し始め、予め設定された基準速度、例えば760rpm以下になったことが確認された時点t2でスロットル弁23を閉止する。すると時点t2からやや遅れてブースト圧Btが減少し始め、エンジン1の各気筒に吸入される吸気流量が減少する。スロットル弁23を開放している時点t1から時点t2までの間に吸入された空気は、共通吸気通路21c及びサージタンク21bを経由して各気筒の分岐吸気通路21aに導かれる。そして吸気行程を迎えた気筒から順にその空気を吸入することになる。図5に示す場合では第4気筒12D、第2気筒12B、第1気筒12A、第3気筒12Cの順となる。ここで、時点t1及び時点t2の設定を前記のようにすることによって、第3気筒12C(圧縮行程気筒)よりも第1気筒12A(膨張行程気筒)の方がより多くの空気を吸入することになる。
時点t1以降はエンジン1が惰性で回転するため、エンジン回転速度Neが次第に低下し、やがて時点t5で停止するが、このエンジン回転速度Neの低下は、図4および図5に示すように、小刻みなアップダウン(4気筒4サイクルエンジン1では10回前後)を繰り返しながら低下して行く。
図5に示すクランク角CAのタイムチャートは、実線が第1気筒12Aおよび第4気筒12Dの上死点(TDC)を0°CAとした場合のクランク角を示し、一点鎖線が第2気筒12Bおよび第3気筒12Cの上死点を0°CAとした場合のクランク角を示している。実線と一点鎖線とは90°CAを境に互いに逆位相となっている。4気筒4サイクルエンジン1では、180°CAごとに何れかの気筒が順次圧縮上死点を迎えるので、このタイムチャートは、実線または一点鎖線で示す波形の頂点(クランク角=0°CA)において何れかの気筒が圧縮上死点を通過していることを示している。
この何れかの気筒が圧縮上死点となるタイミングは、前記エンジン回転速度Neのアップダウンの谷のタイミングと一致している。つまり、エンジン回転速度Neは、各気筒が順次圧縮上死点を迎える度に一時的に落ち込んだ後、その圧縮上死点を超えた時点で再び上昇するという小刻みなアップダウンを繰り返しながら次第に低下するのである。
そして最後の圧縮上死点を通過した時点t4の後に圧縮上死点を迎える圧縮行程気筒12Cでは、慣性力によるピストン13の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン13が上死点を超えることなく押し返されてクランクシャフト3が逆転する。このクランクシャフト3の逆転によって膨張行程気筒12Aの空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて膨張行程気筒12Aのピストン13が下死点側に押し返されてクランクシャフト3が再び正転し始め、このクランクシャフト3の逆転と正転とが数回繰り返されてピストン13が往復作動した後に停止することになる。このピストン13の停止位置は、圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aにおける圧縮反力のバランスにより略決定されるとともに、吸気行程気筒12Dの吸気抵抗やエンジン1の摩擦等の影響を受け、前記最後の圧縮上死点を超えた時点t4のエンジン1の回転慣性、つまりエンジン回転速度Neの高低によっても変化することになる。
従って、膨張行程気筒12Aのピストン13を適正停止範囲R内に停止させるためには、まず膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの圧縮反力がそれぞれ充分に大きくなり、且つ膨張行程気筒12Aの圧縮反力が圧縮行程気筒12Cの圧縮反力よりも所定値以上大きくなるように、両気筒に対する吸気流量を調節する必要がある。このために、燃料噴射の停止時点t1でスロットル弁23を開放してその開度Kを増大させることにより膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの両方に所定量の空気を吸入させた後、所定時間が経過した時点t2で前記スロットル弁23を閉止してその開度Kを低減することにより前記吸入空気量を調節するようにしている。
ところで、このようにしてエンジン1を自動停止させ、エンジン回転速度が低下する過程において、各気筒12A〜12Dが圧縮上死点を通過する際のエンジン回転速度(上死点回転速度)neと、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置との間には、明確な相関関係がある。すなわち、各段階(停止前から2番目、3番目、4番目・・・)の上死点回転速度neがそれぞれ一定の速度範囲内にあるときに膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が適正停止範囲R内となる確率が高くなるのである。
この特性を利用し、本実施形態ではエンジン回転速度Neの低下過程における所定の段階(特に重要なのは停止前から2番目(時点t3))の上死点回転速度neが一定の速度範囲内となるような制御を行って、膨張行程気筒12Aのピストン13がより確実に適正停止範囲R内で停止するような制御を行っている。具体的には、オルタネータ28の発電量を増減させることによってクランクシャフト3の負荷(エンジン負荷)を調節し、停止前から2番目の上死点回転速度ne(時点t3)が、350±50rpmの範囲内となるようにしている。
エンジン回転速度Neがさらに低下し、最後の圧縮上死点通過タイミング(図5に示す時点t4)を過ぎると、何れの気筒も上死点を通過することがなく、行程の推移はなされなくなる。ピストン13は、その行程内で減衰振動(逆向きに動くときはクランクシャフト3が逆転し、エンジン回転速度Neが負になる)しつつ狙いの適正停止範囲Rに停止しようとする。しかし、このとき吸気行程気筒12Dは吸気動作を行っており、その吸気抵抗が大きいとピストン13の停止位置がばらつきやすくなる。特に、吸気抵抗はピストン13が下死点側に動くときに大きくなるように作用するので、ピストン13が狙いよりも上死点寄りに停止しやすくなる。吸気行程気筒12Dのピストン13と膨張行程気筒12Aのピストン13とは同位相で動くので、結局膨張行程気筒12Aのピストン13が狙いよりも上死点寄りに停止しやすくなってしまう。
そこで本実施形態では、時点t4と略同時(やや遅らせてもよい)にスロットル弁23の開度Kを図5に示す開度K1(例えばK1=40%程度)まで増大させ、吸気行程気筒12Dの吸気抵抗を低減している。これによって膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cにおける吸気流量バランスに影響を及ぼすことなく、そのバランスに応じた狙いの位置にピストン13がより停止しやすくなっている。
なお、このような制御を行うためには、時点t4が最後の圧縮上死点通過タイミングであることを即時に判別する必要があり、次の(圧縮行程気筒12Cでの)圧縮上死点は通過しないことを時点t4において予測しなければならない。そのため本実施形態では、ECU2が最後の上死点通過タイミングを判別するようにしている。ECU2は、各上死点通過時のエンジン回転速度と、予め実験等で求められた所定の回転速度(例えば260rpm)とを比較し、前者が後者以下となった時点で、それが最後の圧縮上死点通過タイミングであると判別する。なお、最後の圧縮上死点通過タイミングにおける上死点回転速度neは、高いほど行程後期寄り(膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が下死点寄り、圧縮行程気筒12Cでは上死点寄り)で停止しやすくなる。
ところで、エンジン停止直前の膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの最終吸気行程における吸気流量バランスは、ブースト圧Btによっても影響を受ける。特に、停止前から2番目の圧縮上死点通過タイミング(図5の時点t3)は、圧縮行程気筒12Cにおいて最終吸気行程の始点となっており、この時点のブースト圧Btの影響が大きい。すなわち、このブースト圧Btが低い(真空側)と、圧縮行程気筒12Cへの吸気流量が少なくなり、結果的に圧縮行程気筒12Cのピストン13の停止位置が上死点寄り(膨張行程気筒12Aでは下死点寄り)となりやすい。ブースト圧Btが高い(大気圧側)と、その逆となる。
従って、最後の上死点通過タイミングにおける上死点回転速度neが高く、また停止前から2番目の圧縮上死点通過タイミングのブースト圧Btが低いときは、膨張行程気筒12Aのピストン13が行程後期寄りで停止しやすい条件が重なっており、狙いの停止位置(上死点後100〜120°CA)で停止する可能性が高い。このような条件のときに、時点t3でスロットル弁23の開度をK1まで増大させる制御を行うと、ピストン停止位置がより行程後期寄りとなって、かえって狙いの停止位置から外れてしまうおそれがある。そこで本実施形態では、そのような場合には、時点t3におけるスロットル弁23の開度をK1より低開度(または閉止)とされる開度K2(図5参照)に設定し、吸気流量の増大を抑制することにより、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が下死点寄りになり過ぎないようにしている。
こうして時点t5においてピストン13が完全に停止するが、その停止直前から停止までのピストン13の動作をクランク角センサ30、31で検出することにより、ECU2のピストン位置検出部45がピストン13の停止位置を検出する。図6は、そのピストン停止位置の検出制御動作を示すフローチャートである。この検出制御がスタートすると、第1クランク角信号CA1(クランク角センサ30からの信号)および第2クランク角信号CA2(クランク角センサ31からの信号)に基づき、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowであるか否か、または第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighであるか否かを判定する(ステップS41)。これにより、エンジン1の停止動作時における前記信号CA1、CA2の位相の関係が、図7(A)のようになるか、それとも図7(B)のようになるかを判定してエンジン1が正転状態にあるか逆転状態にあるかを判別する。
すなわち、エンジン1の正転時には、図7(A)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れをもって生じることにより、第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLow、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighとなる。一方、エンジン1の逆転時には、図7(B)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みをもって生じることにより、エンジン1の正転時とは逆に第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHigh、第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowとなる。
そこで、ステップS41の判定がYESであれば、エンジン1の正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタをアップし(ステップS42)、ステップS41の判定がNOの場合は、前記CAカウンタをダウンする(ステップS43)。そして、エンジン停止後に前記CAカウンタの計測値を調べることでピストン停止位置を求める(ステップS44)。
エンジン1が完全に停止すると、各気筒12A〜12Dの筒内温度は図8の温度特性に示すような変化をする。図8は、エンジン停止からの経過時間と筒内温度との関係を示すグラフであり、エンジン停止時(時点t5)の筒内温度が80℃であった場合の筒内温度変化の推定値である。
この特性に示すように、エンジン1が完全に停止すると冷却水の流れが停止するので、停止直後に筒内温度が急速に上昇する。そしてエンジン停止後約10秒でピークとなり、以後は徐々に低下して行く。この特性は冷却水の温度(エンジン水温)や外気温(吸気温度)等によって異なり、ECU2の筒内温度推定部46はその特性をマップ化したデータを記憶している。
なお、エンジン停止動作期間中にスロットル弁23の開度Kを増大させることにより掃気が促進されるので、触媒37に充分な量の新気が供給される。従ってエンジン停止中は触媒37の酸素吸蔵量が充分に多い状態となっている。
次に、エンジン1の再始動時の制御について説明する。再始動の際は、上述のようにまず圧縮行程気筒12Cでの燃焼を行わせてエンジン1を一旦逆回転させてから膨張行程気筒12Aでの燃焼を行わせ、正転方向に転じさせる。つまりエンジン1を一旦逆回転させることによって膨張行程気筒12Aのピストン13を上昇させ、その圧縮圧力を増大させた後に当該気筒での燃焼を行わせる。膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が適正停止範囲Rにあって燃焼のための充分な空気量が確保されていることと、その空気がエンジン1の逆転によって圧縮されることにより大きな燃焼エネルギーが得られる。つまりエンジン1を確実に正転方向に転じさせるとともにその後の継続的な運転に円滑に移行させることができる。
しかし、膨張行程気筒12A内に充分な空気が存在していることが、その空気を強く圧縮することの妨げとなっている。それは、圧縮された空気の圧縮反力が膨張行程気筒12Aのピストン13を押し戻す方向に作用するからである。
そこで本実施形態では、膨張行程気筒12Aへの燃料噴射タイミングを遅らせることにより、膨張行程気筒12A内の空気の圧縮量を増大(密度を増大)させる制御を行っている。燃料噴射タイミングを遅らせると、ある程度筒内空気が圧縮された状態の気筒内に燃料を噴射することになり、その気化潜熱によって圧縮圧力が減少する。従って同じエンジン逆転のエネルギーであればピストン13がより上死点近くまで移動することができ(ピストンストローク増大)、圧縮空気の密度をより高めることができる。
図9は、本件発明者が膨張行程気筒12Aへの燃料噴射タイミングを検証するために実行した計算例を示すものであり、(A)は最終筒内圧力と噴射タイミングとの関係、(B)は乱れエネルギーと噴射タイミングとの関係、(C)は点火プラグ15回りの空燃比と噴射タイミングとの関係、(D)は混合気の分散状態と噴射タイミングとの関係をそれぞれ示したものである。各グラフ(A)〜(D)において、燃料噴射は、圧縮行程気筒12Cの混合気が点火されて逆転している間に膨張行程気筒12Aに対してなされたものである。なお、図9の説明において、「上死点前」とは、膨張行程気筒12Aのピストン13が逆向きに動作する際の上死点から下死点側を意味している。
図9(A)を参照して、最終筒内圧力は、上死点前105°CA付近から45°CA付近の範囲が比較的低く、この範囲であれば、最終筒内圧力を低くし、膨張行程気筒12Aのピストンストロークを大きく確保することができる。しかも、図9(A)のR1で示すように、上死点前100°CA付近から55°CA付近の範囲であれば、噴霧のペネトレーションが低下するため、膨張行程気筒12Aの筒内壁面に燃料が付着する割合が下がり、噴霧による気化霧化が促進され、筒内圧力を低下させることが可能になる。従って、燃料噴射を実行する際には、このR1の範囲で選択されることが好ましいといえる。
次に、図9(B)を参照して、噴霧の乱れエネルギーは、上死点側に進む程、燃焼速度が上昇する。ここで「乱れエネルギー」とは、噴射された噴霧のランダムな流れのエネルギーをいう。この乱れエネルギーが高いときは、膨張行程気筒12Aにおいて、急速燃焼を実現することができるので、これによって、上死点まで逆転できなかった膨張行程気筒の混合気を燃焼させた場合でも、比較的大きな運動エネルギーを取り出すことが可能になる。
図9(C)を参照して、点火プラグ15回りの空燃比は、上死点前105°CAないし45°CAの範囲で略一定である。但し、噴射タイミングが上死点前45°CAよりもリタードすると、混合気がリッチ過ぎて、初期燃焼速度が遅くなる傾向がある。そのため、点火プラグ15回りの空燃比についても、燃料噴射タイミングは、上死点前45°CAから下死点側であることが望ましい。
また、図9(D)を参照して、混合気の分散状態についても、上死点前45°CAから下死点側の方が均質である。特に、上死点前40°CA以降に点火タイミングをリタードすると、図9(D)のR3で示すように、燃料の偏在が二次曲線的に急増し、空気利用率が低くなって燃焼が悪くなる。そのため、混合気の分散状態からも、上死点前40°CAから下死点側で燃料噴射を実行することが好ましい。
図10は図9の演算結果に基づく燃焼室の状態を示すものであり、(A)〜(C)は噴射タイミングが上死点前90°CAの場合、(D)〜(F)は、噴射タイミングが上死点前70°CAの場合、(G)〜(I)は、噴射タイミングが上死点前45°CAの場合であり、(A)、(D)、(G)は、速度コンター、(B)、(E)、(H)並びに(C)、(F)、(I)は、空燃比の分布をそれぞれ示している。
図10(A)〜(I)から明らかなように、図9(A)のR1で示した範囲内であっても、膨張行程気筒が比較的上死点にある間は、乱れが少ないが、空燃比の偏在は小さくなる。他方、噴射タイミングをリタードさせると、乱れは大きくなるが、空燃比の偏在も大きくなるという特性になっている。これらのことから、本件発明者は鋭意研究の結果、上死点前90°CAから60°CAまでの範囲で燃料を分割噴射することによって、各噴射タイミングでの好適な特性を組み合わせることが可能となることに想到した。例えば、2分割の場合であれば、上死点前80°CAに最初の燃料噴射を行い、上死点前65°CAに最後の燃料噴射を実行する。このようにすれば、最初の燃料噴射によって、比較的混合気の分布が均質な状態(図9(D)参照)でペネトレーションの低い燃料噴射を実行することとなり、効率よく膨張行程気筒12Aの筒内空気を冷却し、最終筒内圧力を効果的に下げることが可能になる(図9(A)参照)とともに、最後の燃料噴射では、比較的乱れエネルギーが高く(図9(B)参照)、且つ空燃比、混合気分布が均質な状態で燃料を噴射することになるので(図9(C)(D)参照)、最初の燃料噴射によって最終筒内圧力が弱まり、ピストンストロークが大きくなったことと相俟って大きな乱れエネルギーを生成することができる結果(図9(B)参照)、急速な均質燃焼を実現することが可能になる。このため、膨張行程気筒12Aの初回燃焼での運動エネルギーは、極めて高くなり、後続する吸気行程気筒12D、排気行程気筒12Bが2番目の上死点を越えることが可能になる。
同様に、噴射タイミングを3分割にし、初回、2回目、3回目の噴射タイミングをそれぞれ、上死点前90°CA、75°CA、60°CAとしてもよい。
なお、2分割の場合において、最初の燃料噴射タイミングの範囲としては、上死点前90°CAから上死点前70°CAの範囲を選択することが可能であり、最後の燃料噴射タイミングの範囲としては、上死点前70°CAから上死点までを選択することが可能である。この場合において、最初の燃料噴射タイミングと最後の燃料噴射タイミングの間には、少なくとも約2°CA(1.5msec)のインターバルを持たせておく。これにより、上述した筒内冷却による圧力低下と急速な均質燃焼とを両立させ、高い運動エネルギーを取り出すことが可能になる。
なお、ECU2の燃料噴射制御部41は、前段と後段との燃料噴射燃料の比率(分割比)や後段の燃料噴射タイミングを、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置や逆転開始時の筒内空気温度(推定値)によって補正し、気化性能を確保しつつ燃焼エネルギーを可及的に増大させることができるようにしている。すなわち膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が適正停止範囲Rのうちの比較的下死点寄りにあるとき(比較的筒内空気量が多い)は、比較的上死点寄りにあるとき(比較的筒内空気量が少ない)に比べて後段の燃料噴射量比率を増大させている。これは、比較的筒内空気量が多いときは、その圧縮反力も大きくなるので、後段の燃料噴射量をより多くすることによって効果的に圧縮圧力を低減させ、圧縮空気の密度を増大させるためである。また、筒内空気温度が比較的高いときにも後段の燃料噴射量比率を増大させている。これは、筒内空気温度が高いときは燃料の気化性能が高くなっているので、気化性能を確保するための前段の燃料噴射をあまり必要としなくなるからである。
後段の燃料噴射タイミングに関しては、筒内空気温度が比較的高いときに後段の燃料噴射タイミングを遅らせている。つまり、筒内空気温度が高いときは燃料の気化性能が高くなっているので、後段の燃料噴射タイミングを遅らせても点火までの間に気化しやすくなっており、その分、燃料噴射タイミングを遅らせることで、より高速な均質燃焼と圧縮空気密度の更なる増大とを図っている。
前記のような制御を含むエンジン再始動時の制御動作を図11〜図13に示すフローチャートに基づいて説明する。まず、所定のエンジン再始動条件(停車状態から発進のためのアクセル操作等が行われた場合、バッテリー電圧が低下した場合、あるいはエアコンが作動した場合等)が成立したか否かを判定し(ステップS101)、NOと判定されてエンジン1の再始動条件が成立していないことが確認された場合には、そのままの状態で待機する。ステップS101でYESと判定されてエンジン1の再始動条件が成立したことが確認された場合には、筒内温度推定部46が、エンジン水温、停止時間(自動停止からの経過時間)、吸気温度などから筒内温度を推定する(ステップS102)。そして、ピストン位置検出部45によって検出されたピストン13の停止位置に基づいて圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12A内の空気量を算出する(ステップS103)。つまり、前記ピストン13の停止位置から圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの燃焼室容積が求められ、また、エンジン停止の際には燃料噴射の停止後にエンジン1が数回転してから停止するので膨張行程気筒12Aも新気で満たされた状態にあり、かつ、エンジン停止中に圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの内部は略大気圧となっているので、前記燃焼室容積から新気量が求められることとなる。
次に、ピストン停止位置が、圧縮行程気筒12Cにおける適正停止範囲R(上死点前60°CAから上死点前80°CA)のうち、比較的下死点側であるか否かの判定が行われる(ステップS104)。
ステップS104でYESと判定され、比較的空気量が多いときは、ステップS105に移行して、前記ステップS103で算出された圧縮行程気筒12Cの空気量に対してλ(空気過剰率)>1なる空燃比(例えば空燃比=20程度)となるように燃料を噴射させる(1回目の燃料噴射)。この空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒1回目用空燃比マップM1から求められる。λ>1というリーン空燃比とすることにより、比較的圧縮行程気筒12C内の空気量が多いときであっても、逆転のための燃焼エネルギーが過多となることなく、逆転し過ぎる(圧縮行程気筒12Cにおいて、下死点側に動いたピストン13が下死点を通過して、吸気行程まで逆転してしまう)ことを防止している。
一方ステップS104でNOと判定され、比較的空気量が少ないときは、ステップS106に移行して、前記ステップS103で算出された圧縮行程気筒12Cの空気量に対してλ≦1なる空燃比となるように燃料を噴射させる(1回目の燃料噴射)。この空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒1回目用空燃比マップM2から求められる。λ≦1という理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比とすることにより、比較的圧縮行程気筒12C内の空気量が少ないときであっても、逆転のための燃焼エネルギーを充分得ることができる。
次にステップS107に移行し、圧縮行程気筒12Cへの1回目燃料噴射から気化時間を考慮して設定した時間の経過後に、当該気筒に対して点火を行う。そして、点火してから一定時間内にクランク角センサ30、31のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストン13が動いたか否かを判定し(ステップS108)、NOと判定されて失火によりピストン13が動かなかったことが確認された場合には、圧縮行程気筒12Cに対して再点火を繰り返し行う(ステップS109)。
図12を参照して、クランク角センサ30、31のエッジが検出されると(ステップS108でYES)、前記ステップS102で推定した筒内温度およびピストン停止位置に基づいて、膨張行程気筒12Aに対する分割燃料噴射の分割比(前段噴射(1回目)と後段噴射(2回目)との比率)を算出する(ステップS121)。膨張行程気筒12Aにおけるピストン停止位置が下死点寄りであるほど、また筒内温度が高いほど、後段の燃料噴射比率を大きくする。
次に前記ステップS103で算出した膨張行程気筒12Aの空気量に対して所定の空燃比(λ≦1)となるように燃料噴射量を算出する(ステップS122)。この際の空燃比はピストンの停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒用空燃比マップM3から求められる。
次に、ステップS122で算出された膨張行程気筒12Aへの燃料噴射量とステップS121で算出された分割比とによって、膨張行程気筒12Aに対する1回目と2回目の燃料噴射量と燃圧を算出する(ステップS123)。ここで、本実施形態では、少なくとも2回目の燃料噴射時の燃圧が4MPa以上になるように、燃料噴射制御部41は、燃料供給システム16を制御する。これにより、2回目の燃料噴射において、確実に噴霧の乱れを生成し、急速な均等燃焼を確実に実現することが可能になる。
次に、膨張行程気筒12Aの停止位置から膨張行程気筒12Aへの燃料噴射タイミングを算出する(ステップS124)。図9(A)〜(D)で詳しく説明したように、分割噴射される燃料の噴射タイミングは、上死点前90°CAから上死点前60°CAまでの範囲で決定される。
次に、ステップS123で算出された燃料噴射量と、ステップS124で算出された燃料噴射タイミングに基づき、圧縮行程気筒12Cの混合気が点火されて逆転動作が開始されている間、上死点から80°CAのタイミングで1回目の燃料噴射する(ステップS125)。このタイミングでの燃料噴射では、ペネトレーションが下がり、筒内の壁面に付着する燃料は少なくなる。その結果、筒内の空気が噴射された燃料によって冷却され、圧力低下を来すので、圧縮行程気筒12Cでの逆転動作において、膨張行程気筒12Aの筒内圧力も下がり(図9(A)参照)、大きなピストンストロークを得ることが可能になる。
次に、ステップS123で算出された燃料噴射量と、ステップS124で算出された燃料噴射タイミングに基づき、逆転動作中の膨張行程気筒12Aに対し、上死点から60°CAのタイミングで2回目の燃料噴射タイミングに噴射する(ステップS126)。
このタイミングでは、図9(A)〜(D)に示したようにこのタイミングでの燃料噴射では、筒内圧力は依然低い状態であるとともに、噴霧の乱れエネルギーは、比較的高くなっている(図9(A)(B)参照)。他方、点火プラグ15回りの空燃比は、比較的リーンな状態であり(図9(C)参照)、混合気の偏在度も比較的低い状態にある。このため、急速な均質燃焼を筒内全体としてリーンな状態で行い、上死点に至ることのできない状態で正転する膨張行程気筒12Aにおいても、極めて高い燃焼性を発揮することができ、大きな運動エネルギーをクランクシャフト3に出力することが可能になる。
膨張行程気筒12Aへの2回目の燃料噴射後、所定のディレー時間経過後に点火する(ステップS127)。所定のディレー時間はピストンの停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒点火ディレーマップM4から求められる。この点火による膨張行程気筒12Aでの初回燃焼により、エンジン1は逆転から正転に転ずる。従って圧縮行程気筒12Cのピストン13は上死点側に移動し、内部のガス(前記ステップS107の点火によって燃焼した既燃ガス)を圧縮し始める。上述したように、この初回燃焼においては、噴霧の乱れによる高速な均質燃焼を実現することができるので、燃焼性が高まり、大きな運動エネルギーをクランクシャフト3に出力することが可能になる。
次に、膨張行程気筒12Aでの燃焼が始まり、エンジン1のクランクシャフト3が正転すると、圧縮行程気筒12Cも上死点に向かって筒内の混合気を圧縮する。本実施形態では、この圧縮行程気筒12Cの正転動作中において、圧縮自己着火アシストを実行する(ステップS128)。これにより、膨張行程気筒12Aが下死点を越えた後にさらなる運動エネルギーを圧縮行程気筒12Cから出力することが可能になる。
次に、図13を参照して、以下のステップS140〜S144は、吸気行程気筒12Dでの燃焼を行うにあたり、圧縮上死点を越えるためのエネルギーを可及的に小さくするための制御である。
まずステップS140で、筒内空気密度を推定し、その推定値から吸気行程気筒12Dの空気量を算出する。次に、ステップS102で推定した筒内温度に基づいて、自着火防止のための空燃比補正値を算出する(ステップS141)。すなわち自着火が起こると、その燃焼によって圧縮上死点に至る前にピストン13を下死点側に押し戻す力(逆トルク)が発生する。これはその分圧縮上死点を越えるためのエネルギーを多く消費するので望ましくない。そこでこの逆トルクを抑制するために空燃比をリーン側に補正し、自着火が起こらないようにするのである。
次に、前記ステップS140で算出した吸気行程気筒12Dの空気量と、前記ステップS141で算出した空燃比補正値を考慮した空燃比とから、吸気行程気筒12Dへの燃料噴射量を算出する(ステップS142)。
そして吸気行程気筒12Dに対する燃料噴射を行うが、この燃料噴射は、その気化潜熱によって圧縮圧力が低減するように(つまり圧縮上死点を越えるための必要エネルギーを低減するように)、圧縮行程の後期まで遅延してなされる(ステップS143)。その遅延量は、エンジン1の自動停止期間、吸気温度、エンジン水温等に基づいて算出される。
次に、前記逆トルクの発生を抑制するため、点火タイミングを上死点以降に遅延して点火する(ステップS144)。以上の制御によって、吸気行程気筒12Dにおいて、圧縮上死点まではその圧縮圧力を小さくして上死点を越えやすくし、上死点を過ぎた時点で燃焼エネルギーによる正転方向のトルクが発生するようになる。
ステップS144の後、通常の制御に移行してもよいが、本実施形態ではさらに吹上がり抑制制御を行っている。ここで言う吹上がりとは、吸気行程気筒12Dでの初回燃焼以降、エンジン回転速度が必要以上に急上昇することをいい、加速ショックが発生したり運転者に違和感を与えたりするおそれがあって望ましくない。吹上がりは、自動停止期間中の吸気圧力(スロットル弁23より下流の圧力)が略大気圧となっているために、始動直後(吸気行程気筒12Dでの初回燃焼以降)の各気筒での燃焼エネルギーが通常のアイドル運転時の燃焼エネルギーに比べて一時的に大きくなることによって起こる。そこで以降のステップS145〜S158で、この吹上がりを抑制する制御を行っている。
まずオルタネータ28の発電を開始する(ステップS145)。その目標電流値はECU2の発電量制御部44によって通常より高めに設定される。オルタネータ28の発電によってクランクシャフト3の負荷(エンジン負荷)が増大するので、吹上がりが抑制される。
次に吸気圧センサ26によって検知される吸気圧が、アイドルストップを行わない場合の通常のアイドル時における吸気圧力より高いか否かが判定される(ステップS150)。ここでYESと判定されると、吹上がりが起こりやすい状態となっているので、スロットル弁23の開度を通常のアイドル運転時におけるスロットル開度よりもさらに小さくし(ステップS151)、燃焼エネルギーの発生量を抑制する。
次に排気通路22に設けられた触媒37の温度が活性温度以下であるか否かが判定され(ステップS152)、YESと判定されれば目標空燃比をλ≦1なるリッチ空燃比に設定するとともに(ステップS153)、点火タイミングを上死点以降に遅延させる(ステップS154)。こうすることにより、触媒37の温度上昇が促進されるとともに、点火タイミングの遅延によって燃焼エネルギーの発生量が抑制される。
遡って、ステップS152でNOと判定されたときは、目標空燃比をλ>1なるリーン空燃比に設定して(ステップS158)燃焼させる。このリーン燃焼によって燃料の消費を抑制しつつ燃焼エネルギーの発生量を抑制することができる。
ステップS154またはステップS158の後はステップS150に戻り、NOと判定されるまで前記制御を繰り返す。ステップS150でNOと判定されると、もはや吹上がりのおそれがないので、オルタネータ28の発電量も含めて通常制御に移行する(ステップS160)。
前記の再始動制御が実行されることにより、図14に示すように、先ず圧縮行程気筒12C(第3気筒)において1回目の燃料噴射が行われ、点火によって燃焼(図14中の(1))が行われる。この燃焼(1)による燃焼圧で、圧縮行程気筒12Cのピストン13が下死点側に押し下げられてエンジン1が逆転方向に駆動される。ここで、圧縮行程気筒12Cの1回目の燃料噴射が、比較的空気量の多いときにはリーン空燃比(λ>1)、少ないときには理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比(λ≦1)となるように噴射されるので、エンジン逆転のための適度な燃焼エネルギー、すなわち膨張行程気筒12A内の空気を充分圧縮しつつも、その圧縮上死点を超えて逆転し過ぎることのない程度の燃焼エネルギーを得ることができる。
エンジン1の逆回転開始に伴って膨張行程気筒(第1気筒)12Aのピストン13が上死点方向に動き始め、上死点から所定クランク角のタイミングに至ると、膨張行程気筒12Aでの1回目(前段)の燃料噴射が行われ、気化し始める。この燃料噴射燃料の気化潜熱によって圧縮圧力が低減し、ピストン13がより上死点に近づくので圧縮空気(混合気)の密度が増大する。
そして、膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点側(望ましくは行程中央より上死点寄り)に移動し、筒内の空気が圧縮された時点(本実施形態では、上死点前60°CA)で2回目(後段)の燃料噴射が4MPa以上の燃圧で行われる。このため、確実に噴霧の乱れを生成される。さらに、膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点に充分に近づいた時点で当該気筒に対する点火が行われることにより、急速な均等燃焼を確実に実現することが可能になり(図14中の(2))、その燃焼圧でエンジン1が大きな運動エネルギーを受けて正転方向に駆動される。
さらに、圧縮行程気筒12Cに対して適当なタイミングで圧縮自己着火運転を実行することにより(図14中の(3))、当該圧縮上死点(始動開始から最初の圧縮上死点)を超えるために消費される膨張行程気筒12Aの最初の燃焼エネルギーを低減することができる。
さらに、次の燃焼気筒である吸気行程気筒12Dにおける燃料噴射のタイミングを、燃料の気化潜熱によって気筒内の温度、および圧縮圧力を低下させる適正なタイミング(例えば圧縮行程の中期以降)に設定している(図14中の(4))ため、該吸気行程気筒12Dの圧縮行程での(圧縮上死点前での)自着火が防止される。また、該吸気行程気筒12Dの点火タイミングが圧縮上死点以降に設定されていることも相俟って、圧縮上死点前での燃焼が防止される。つまり燃料噴射による圧縮圧力の低減と圧縮上死点前の燃焼を行わないことにより、当該圧縮上死点(始動開始から2番目の圧縮上死点)を超えるために消費される膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーを低減することができる。
こうして膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼(図14中の(2))のエネルギーによって、再始動開始後の最初の圧縮上死点(図14中の(3))と2番目の圧縮上死点(図14中の(4))とを超えることができ、円滑で確実な始動性を確保することができる。
それ以降(図14中の(5)、(6)・・・)は、触媒37の温度に応じて空燃比をリーン(λ>1)にしたり点火タイミングを遅延させたりして吹上がりを防止しつつ通常運転に移行する。
以上説明したように本実施形態では、燃料噴射制御手段としての燃料噴射制御部41によって、再始動制御を開始したエンジン1の逆転動作中において、膨張行程気筒12Aに対し、複数回燃料が噴射されることにより、最初の燃料噴射によって筒内空気を冷却し、膨張行程気筒12Aでの圧縮反力を低減して、より上死点側へピストンを移動させることが可能になる。この結果、膨張行程気筒12Aでのピストンストロークが増大し、圧縮空気の密度を高めることが可能になる。他方、最後の燃料噴射の燃料噴射タイミングが、少なくとも燃料噴霧によって膨張行程気筒12A内に生成される乱れが点火タイミングまで残存する所定クランク角CAのタイミングに設定されることにより、燃料の気化時間を確保しつつ、膨張行程気筒12Aでの着火後の燃焼速度を速めることが可能になる。この結果、再始動制御を開始した逆転時において、上死点まで圧縮できない膨張行程気筒12Aの運動エネルギーを総合的に高めて始動性を向上させることが可能になる。
また本実施形態では、前記燃料噴射弁16aは、一部の噴口から燃料噴射される噴霧が前記点火プラグ15の電極付近に指向する複数の噴口を有するマルチホール形燃料噴射弁であり、前記燃料噴射制御部41は、エンジン1の再始動時に4Mpa以上の燃圧で噴射するように燃料供給システム16を制御するものである。このため本実施形態では、一部の噴霧が点火プラグ15回りに噴射されることにより、エンジン1の逆転後に膨張行程気筒12Aの混合気が点火された際、筒内全体としてはリーンな状態で成層燃焼を図ることが可能になる。しかも、燃料噴射弁16aから噴射される噴霧の燃圧が4Mpa以上であることから、点火プラグ15の電極付近に噴霧による乱れを生成し、急速燃焼を促進させて燃焼性を向上することが可能になる。この結果、膨張行程気筒12Aでの運動エネルギーを可及的に高めることが可能になる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、前記実施形態では再始動時の膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のための燃料噴射を分割噴射としたが、これを、気化潜熱による圧縮圧力の低減と気化性能の確保とが可及的に両立できるタイミング(所定燃料噴射タイミング)を実験等によって策定し、この所定燃料噴射タイミングにおける1回の燃料噴射としてもよい。
また、再始動時における膨張行程気筒12Aの最初の燃焼のために行う分割燃料噴射は、必要に応じて3分割以上としてもよい。
また、再始動時における膨張行程気筒12Aの最初の燃焼のために行う分割燃料噴射において、前記最後の燃料噴射の実行開始タイミングとしては、エンジン1の逆転動作が終了する時点よりも75ms前となるであろうクランク角CA位置(図9において、上死点前約94°CA)を採用することが可能である。この場合には、噴射燃料の気化霧化が促進される範囲で最終の燃料の噴霧による筒内の乱れを点火時点まで存続することができるので、気化霧化による均質燃焼と乱れによる急速燃焼とを両立させ、高い運動エネルギーを確保することが可能になる。
また、再始動時における膨張行程気筒12Aの最初の燃焼のために行う分割燃料噴射において、前記最後の燃料噴射の実行開始タイミングは、エンジン1の逆転動作が終了するクランク角CAよりも10°CA前(上死点前約50°CA)であってもよい。その場合には、噴射燃料の気化霧化が促進される範囲で最終の燃料の噴霧による筒内の乱れを点火時点まで存続することができるので、気化霧化による均質燃焼と乱れによる急速燃焼とを両立させ、高い運動エネルギーを確保することが可能になる。
また、前記実施形態では省略しているが、エンジン再始動時において、所定の条件成立時(例えばピストン停止位置が適正停止範囲R内にない場合や、始動後の所定タイミングまでにエンジン回転速度が所定値に達しないなど)、スタータモータによるアシストを伴う制御を行ってもよい。
エンジン1を自動停止させる制御は前記実施形態に限るものではなく、適宜設定してよい。但し再始動性を高めるためには、膨張行程気筒12Aにおけるピストン13の停止位置が行程中央よりよやや下死点寄り(圧縮行程気筒12Cにおいては行程中央よりやや上死点寄り)となるような制御であることが望ましい。
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。