次に、図面を参照して、本発明の第1〜第5の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。又、以下に示す第1〜第5の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器は、図1に示すように、(イ)素子基板11;(ロ)この素子基板11に対して一部が中空状態で機械的に保持された下部電極13;(ハ)平面パターン上、自己が占有する領域の内部に下部電極13の一部を包含するように、下部電極13上に配置された圧電体膜14;(ニ)この圧電体膜14上の上部電極15とを備える。そして、圧電体膜14の厚み方向のバルク振動を利用する。更に、素子基板11の裏面から素子基板11表面に向かって、下部電極13の底部を露出するキャビティ(空洞)16を備え、下部電極13は、キャビティ16のなす空間に対して底部を露出し、中空状態で機械的に保持されている。実際には、素子基板11の上面には、シリコン酸化膜(SiO2)又はシリコン窒化膜(SiNx)若しくはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜(SiO2/SiNx)等の絶縁膜12が形成され、下部電極13の周辺部が、キャビティ16を囲む位置の絶縁膜12の上面に固定されている。
図1(a)に示すように、平面パターン上では、キャビティ16が占有する領域の大部分は、下部電極13が占有する領域の内部に収納されているが、キャビティ16が占める空間の幅Wの矩形の突起部が露出している。ここで「平面パターン上」とは、素子基板11の上面に垂直方向の無限の遠方から、素子基板11を鳥瞰した場合の平面図においてという意味である。この幅Wの突起部により、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間を貫通する通路が構成されている。この通路をこの明細書では、「気体流路」と呼ぶ。幅Wの矩形の突起部の大きさは、突起部のなす貫通口により、気体が出入りできる程度であれば良いが、突起部が設けられているキャビティ16の辺の長さの1/2以下の幅であることが望ましい。これは、橋梁部をなす下部電極13が素子基板11に接している幅を考慮したもので、この幅が少なすぎると橋梁部の機械的強度が相対的に落ち破断しやすくなるからである。図1に示す薄膜圧電共振器は、圧電体膜14の厚み方向のバルク振動を利用するので、圧電体膜14及び下部電極13の厚みを調整することにより共振振動数が決定できる。尚、図1(a)においては、幅Wの矩形の突起部を例示しているが、原理的には気体流路が構成されれば良いので、突起部の形状は3角形、6角形、8角形等の多角形でも、円形や楕円形でも構わない。
膜厚300nmのAl膜からなる下部電極13の上に厚さ2μmのAlN膜からなる圧電体膜14、圧電体膜14の上に膜厚300nmのAl膜からなる上部電極15を形成した薄膜圧電共振器の共振特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて評価した結果は、電気機械結合係数kt 2は6.3〜6.5%、品質係数(Q値)は共振点で800〜900、反共振点で700〜800であり、非常に優れた特性である。
上部電極の長手方向に直交する方向から見た断面図に対応する図2を用いて、本発明の第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の製造方法を説明する。尚、以下に述べる薄膜圧電共振器の製造方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。
(イ)まず、Si(100)基板等の素子基板11を用意する。この基板に熱酸化法等による熱酸化膜(SiO2)等の絶縁膜12を形成する。更に、絶縁膜12の上に、RFマグネトロンスパッタリング等を用いて膜厚150〜600nm、好ましくは250〜350nmのAl膜等の金属膜を、堆積する。そして、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチング(RIE)によるパターニングを行い、下部電極13のパターンを図2(a)に示すように形成する。
(ロ)その後、RFマグネトロンスパッタリング法等により厚さ0.5〜3μmの圧電体材料膜を下部電極13上に堆積する。圧電体材料膜の厚さは、共振周波数により異なり、圧電体材料膜がAlNで共振周波数を2.0GHz程度にするのであれば、厚さ2μm程度にすれば良い。そして、フォトリソグラフィ及び塩化物系ガスを用いたRIEにより図2(b)に示すように、AlN膜をパターニングし圧電体膜14を形成する。図1(a)及び図1(b)から理解できるように、圧電体膜14の端部の裾から下部電極13の一部を露出させる。
(ハ)引き続き150〜600nm、好ましくは250〜350nmの金属膜を圧電体膜14及び絶縁膜12の上を含んで全面に堆積後、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングにより選択エッチングし、図2(c)に示すように、上部電極15を形成する。
(ニ)その後、素子基板11を厚さ100〜300μm、好ましくは150〜250μm、例えば200μm、の厚さになるまで研磨により厚み調整をする。その後、素子基板11の裏面をフォトリソグラフィでエッチングマスクを形成する。素子基板11がSi基板の場合は、フッ化物系のガスを用いたRIEにより素子基板11を裏面側からエッチングし、キャビティ16を形成する。その後キャビティ16の底部に残った絶縁膜12を、ウェットエッチング及びフッ化物系のガスを用いたRIEを併用して除去すれば、図2(d)に示すような断面構造が完成する。この際、図1(a)に示すように、平面パターン上では、幅Wの矩形の突起部を設け、圧電体膜14の端部からキャビティ16の端部が一部露出するように設計しているので、図2(d)に示すように、この露出部が貫通口となり、キャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間に通路(気体流路)が形成される。
図3は、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装構造(高周波回路実装体)の上部電極の長手方向に沿った断面図である。第1のシリコン基板からなる素子基板11の底面に第2のシリコン基板からなる台基板21が接合されている。一方、上部電極15の端部及び下部電極13の端部が裾から延在するようにして、絶縁膜12の上部には、箱状の封止壁22が設けられ、封止壁22の上部開口を第3のシリコン基板からなる上蓋23が密閉している。封止壁22は、圧電体膜14を囲み、上蓋23を素子基板11に対して固定するように、ポリイミド等の樹脂で構成すれば良い。封止壁22の裾から外方に延在する上部電極15の端部及び下部電極13の端部にはワイヤディングはバンプ等の手法で外部回路が接続される。
尚、図3に示す第1の実施の形態に係る高周波回路実装体は一例であり、素子基板11の裏面の密閉は、第2のシリコン基板からなる台基板21に限定されず、ガラス若しくはセラミック基板などを、ポリイミドなどの樹脂若しくはAu−Sn、Au−Siなどの共晶合金、ハンダなどにより接着しても良い。或いは、素子基板11の裏面の全体を樹脂シートで覆う方法などによっても構わない。上面も上蓋がシリコン基板に限定されず、やはりガラス若しくはセラミック基板などを、ポリイミドなどの樹脂若しくはAu−Sn、Au−Siなどの共晶合金、ハンダなどにより接着しても良い。若しくは、樹脂シートなどで覆う方法によっても構わない。
本発明の第1の実施の形態に係る高周波回路実装体においては、図1に示すように、薄膜圧電共振器が、キャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間に通路(気体流路)を有するので、キャビティ16内部のみが孤立の密閉構造とはならない。このため、以下に示すような、薄膜圧電共振器の実装工程において、実装時の温度変化による気圧差により生ずる橋梁構造の破断若しくは劣化を抑制することができる。この結果、第1の実施の形態に係る高周波回路実装体は非常に良好な長期信頼性を実現できる。
図3に示す第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法を説明する。尚、以下に述べる薄膜圧電共振器の製造方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。
(イ)まず、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の素子基板11に、例えばワックスなどを用いて補強基板に接着し、補強する。この際、補強基板はサファイア、ガラス、シリコン基板などを用いることができる。又、キャビティ16形成用の高速RIE前に補強しておき、その後素子基板11の厚さを薄く研削し、RIEによりキャビティ16を形成することも可能である。この場合、シリコンのエッチング量が減少するため、スループットが向上し、且つオーバーハングやテーパ、ノッチといったRIEによる加工寸法変換差を減少させることが可能となる。
(ロ)このようにして、補強された素子基板11の底面に台基板21と直接接合法(貼り合わせ法)により貼り合わせる。「直接接合法」とは、清浄なミラー面を有する2枚のシリコン基板等を互いに貼り合わせる方法である。この場合、互いに接合するシリコン基板の表面を清浄表面とし、清浄表面同士を真空中で原子層オーダーで接触させ、加熱することにより原子間の結合が形成される。第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法においては、素子基板(第1のシリコン基板)11と台基板(第2のシリコン基板)12のそれぞれの表面を平坦化、清浄化し、且つプラズマ処理などにより活性化しておくと更に接着強度が上昇し、且つ接着温度も低温化することが可能となる。素子基板11と台基板21の平均表面粗さを10nm以下に抑制し、且つ硫酸と過酸化水素水を用いて素子基板11と台基板21を清浄化しておくことで平坦化と清浄化を行う。又、接着前に高真空に保たれた真空チャンバー内でAr(アルゴン)と水素を用いたプラズマ処理を行い、200℃で接着を行う。
(ハ)その後、素子基板11側の補強基板を200℃に加熱したホットプレート上で剥がし、更にイソプロピルアルコール等により残ったワックスを除去する。
(ニ)更に、素子基板11上に感光性ポリイミドをスピンコートし、フォトリソグラフィによりシーリング部分の封止壁22を形成後、350℃程度でキュアを行う。
(ホ)一方、上蓋23としての第3のシリコン基板にもポリイミドをスピンコートしておき、上蓋(第3のシリコン基板)23と素子基板(第1のシリコン基板)11とを貼り合わせ、350℃程度のキュアを再度行う。これにより素子基板11と上蓋23はポリイミドにより接着される。この後、ダイシングにより個片化を行えば、図3に示す第1の実施の形態に係る高周波回路実装体が完成する。
第1の実施の形態に係る高周波回路実装体を測定をした結果、幅Wの矩形の突起部からなる貫通口を設けない場合と比較し、製造時の歩留まりが、30%以上向上し、又、動作時の温度環境による特性の劣化も全く見られなくなった。
第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器を利用したマイクロメカニカルフィルタの例を図4に示す。図4に示す梯子型フィルタ41は、4個の薄膜圧電共振器F1,F2,F3,F4が直並列接続されるように配列されて構成されている。図4に示す梯子型フィルタ41の現実の構造は、種々のトポロジーがあり得る。例えば、図4の入力端子Pinの一方の端子(図4で上側の端子)と他方の端子(図4で下側の端子)に、それぞれ薄膜圧電共振器F4の上部電極15と下部電極13が接続され、薄膜圧電共振器F4の上部電極15に薄膜圧電共振器F3の上部電極15が接続され、薄膜圧電共振器F3の下部電極13に薄膜圧電共振器F1及びF2のそれぞれの上部電極15が接続されるように、同一基板上にモノリシックに構成できる。
尚、図4に示す梯子型フィルタ41等の複数の薄膜圧電共振器を集積化した構造の場合でも、図3に示す実装構造を採用可能である。例えば、図4の場合であれば、2つの入力端子Pin及び2つの出力端子Poutが箱状の封止壁22の裾から外部に延在するように実装すれば、入力端子Pin及び出力端子Poutを介して外部の回路と接続できる。
又、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器は、図5に示すようにバリアブルキャパシタンスC2及び増幅器105と組み合せて移動体通信機の電圧制御発振器(VCO)に利用することができる。即ち、図5では、バリアブルキャパシタンスC2と固定キャパシタンスC1に、それぞれ薄膜圧電共振器101の上部電極15と下部電極13とが接続され、薄膜圧電共振器101の上部電極15には更に抵抗R2の一方の端子が接続されている。抵抗R2の他方の端子と、薄膜圧電共振器101の下部電極13との間には、増幅器105と帰還抵抗R1との並列回路が接続されている。増幅器105の入力端子には、帰還抵抗R1により増幅器105の出力端子の信号が正帰還し、薄膜圧電共振器101の共振周波数で発振する。バリアブルキャパシタンスC2は、可変容量ダイオード(バリキャップ)で構成すれば良く、バリアブルキャパシタンスC2により発振周波数の調整を行う。図5に示した、バリアブルキャパシタンスC2、固定キャパシタンスC1、薄膜圧電共振器101、抵抗R2,R1及び増幅器105は、同一基板上にモノリシックに構成しても良く、ハイブリッドに集積化しても構わない。
図6には、図4に示すマイクロメカニカルフィルタを、高周波(RF)フィルタ41及び中間周波数(IF)フィルタ42として備える携帯型情報端末の受信回路を示す。図6に示す携帯型情報端末の受信回路は、RFフロントエンド部として、図4に示したマイクロメカニカルフィルタによるRFフィルタ41、RFフィルタ41に接続されたミキサ48、ミキサ48に接続された局部発振器49を備える。ミキサ48は、RFフィルタ41の出力するRF信号と局部発振器49の出力するRF信号とを混合し、例えば200MHz〜500MHzの中間周波数(IF)の信号を生成する。RFフィルタ41にはアンテナスイッチ47を介して、第1アンテナ45及び第2アンテナ46が接続されている。図6において、2本の、第1アンテナ45及び第2アンテナ46が接続されているがこれは例示であり、アンテナの本数は2本に限定されない。
ミキサ48で混合された第1アンテナ45及び第2アンテナ46が受信したRF信号と局部発振器49の出力するRF信号とは、図4に示したマイクロメカニカルフィルタによるIFフィルタ42に伝達される。IFフィルタ42には、増幅器50が接続され、増幅器50には、I/Q復調回路を備えるレシーバLSIチップ3が接続されている。レシーバLSIチップ3には、共振器58を備えたIQ発振器57が接続されている。IFフィルタ42により、第1アンテナ45及び第2アンテナ46が受信したRF信号と局部発振器49の出力するRF信号との差の周波数が抽出され、増幅器50により、差の周波数であるIF信号が増幅され、安定化される。このIF信号は、レシーバLSIチップ3により直交位相復調され、互いに90°位相がずれたI信号及びQ信号が生成される。レシーバLSIチップ3が備えるミキサ51及びミキサ52において、更に低周波、例えば10MHz以下のベースバンドI信号及びベースバンドQ信号がそれぞれ生成される。ベースバンドI信号及びベースバンドQ信号は、それぞれ、増幅器53,54で増幅された後、ベースバンドフィルタ43,44に入力される。ベースバンドフィルタ43,44を介したベースバンドI信号及びベースバンドQ信号は、更に、A−D変換器55,56でディジタル信号に変換され、図示を省略したディジタルベースバンドプロセッサ(DBBP)に入力される。即ち、ベースバンドフィルタ43及びベースバンドフィルタ44を介してそれぞれ抽出されたベースバンドI信号及びベースバンドQ信号は、A−D変換器55及びA−D変換器56により、ディジタルのベースバンドI信号及びベースバンドQ信号となり、ディジタルベースバンドプロセッサ(DBBP)により信号処理される。
図7は、携帯型情報端末の送信回路2を示す。送信回路2のベースバンド処理部にはディジタルベースバンドプロセッサ(DBBP)からのディジタルのベースバンドI信号及びベースバンドQ信号をアナログ信号に変換するD−A変換器65,66がそれぞれ備えられている。ディジタルのベースバンドI信号及びベースバンドQ信号は、D−A変換器65及びD−A変換器66により、アナログのベースバンドI信号及びベースバンドQ信号となり、ベースバンドフィルタ61及びベースバンドフィルタ62を介して、変調器LSIチップ5の増幅器88,89に入力される。
変調器LSIチップ5は、増幅器88,89と、増幅器88,89に接続されたミキサ85,86を備える。変調器LSIチップ5は、更に、発振器60及び移相器87を備える。ミキサ85及びミキサ86には、発振器60からの搬送波のRF周波数が、移相器87により互いに90°位相がずらされて供給される。増幅器88,89の出力は、ミキサ85,86において発振器60からの搬送波のRF周波数と混合され、変調される。変調器LSIチップ5は、更に、加算器84及び加算器84の出力に接続された増幅器83を備える。ミキサ85及びミキサ86の出力は、加算器84に入力され、加算器84の出力は増幅器83に入力される。増幅器83の出力は、送信回路2のRFフロントエンド部を構成するMMIC4に供給される。MMIC4には多段接続されたマイクロ波用パワートランジスタ81,82を備え、RF増幅後、アンテナスイッチ47を介して、第1アンテナ45及び第2アンテナ46に供給される。
図6及び図7に示す携帯型情報端末においては、空洞共振器やインダクタを用いたLC回路の代わりに、小型のマイクロメカニカルフィルタを、RFフィルタ41及びIFフィルタ42として用いているので、小型薄型、且つ低消費電力の1〜5GHz程度のマイクロ波帯域で使用可能な携帯型情報端末が実現できる。勿論、図6のベースバンドフィルタ43,44、或いは図7のベースバンドフィルタ61,62等の、低周波領域におけるフィルタ等にも適用可能であるが、図4に示したマイクロメカニカルフィルタの高周波特性を鑑みれば、300MHz以上、特に1〜5GHz程度のマイクロ波帯域におけるフィルタに用いるのが好適である。
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器は、図8に示すように、素子基板11と、この素子基板11中に設けられ、この素子基板11を貫通するキャビティ16に底部を露出した下部電極13と、この下部電極13上の圧電体膜14と、この圧電体膜14上の上部電極15とを備え、圧電体膜14の厚み方向のバルク振動を利用する点では、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と同様である。キャビティ16は、素子基板11の裏面から表面に向かう貫通した開口部で構成されている。
下部電極13は、この素子基板11のキャビティ16のなす空間に対して底部を露出するように、中空状態で機械的に素子基板11保持される。現実には、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と同様に、素子基板11の上面にSiO2膜、SiNx膜やこれらの複合膜(SiO2膜/SiNx膜)等の絶縁膜12が更に形成され、下部電極13の周辺部は、キャビティ16を囲む位置の絶縁膜12の上面に固定されている。 しかしながら、図8に示すように、下部電極13、圧電体膜14及び上部電極15からなる積層構造を貫通するビアホール27により、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15の上方の空間との間を接続する空気(気体)の通路(気体流路)が構成されている点が、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器とは異なる。ビアホール27は、図8に示すように、共振器のほぼ中央部に形成されているが、ビアホール27を設ける位置は、共振器の中央部に限定されるものではない。但し、共振器の中央部の近傍の方が共振周波数等の設計が用意になり好ましい。図8に示す薄膜圧電共振器は、圧電体膜14及び下部電極13の厚みを調整することにより共振振動数が決定できる。又、ビアホール27の形状は、円形に限定されず、3角形、4角形、6角形、8角形等の多角形でも、楕円形、不整多角形、スリット状の長方形等でも構わない。又、数も1箇所に限定されるものではなく、多数形成されていても良い。
膜厚300nmのAl膜からなる下部電極13の上に厚さ2μmのAlN膜からなる圧電体膜14、圧電体膜14の上に膜厚300nmのAl膜からなる上部電極15を形成した薄膜圧電共振器の共振特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて評価した結果は、電気機械結合係数kt 2は6.3〜6.5%、品質係数(Q値)は共振点で800〜900、反共振点で700〜800であり、非常に優れた特性である。
上部電極の長手方向に直交する方向から見た断面図に対応する図9を用いて、本発明の第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の製造方法を説明する。尚、以下に述べる薄膜圧電共振器の製造方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。
(イ)まず、Si(100)基板等の素子基板11を用意する。この基板に熱酸化法等による熱酸化膜(SiO2)等の絶縁膜12を形成する。更に、絶縁膜12の上に、RFマグネトロンスパッタリング等を用いて膜厚150〜600nm、好ましくは250〜350nmのMo膜等の金属膜を、堆積する。そして、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチング(RIE)によるパターニングを行い、下部電極13のパターンを図9(a)に示すように形成する。図9(a)に示すように下部電極13のパターニングに際しては、下部電極13の中央部に下地穴27aを形成する。
(ロ)その後、RFマグネトロンスパッタリング法等により厚さ0.5〜3μmの圧電体材料膜を下部電極13上に堆積する。圧電体材料膜の厚さは、共振周波数により異なり、圧電体材料膜がAlNで共振周波数を2.0GHz程度にするのであれば、厚さ2μm程度にすれば良い。そして、フォトリソグラフィ及び塩化物系ガスを用いたRIEにより図9(b)に示すように、AlN膜をパターニングし圧電体膜14を形成する。図9(b)に示すように、圧電体膜14のパターニングに際しては、下部電極13の中央部に設けられた下地穴27aに位置合わせ(マスク合わせ)して、圧電体膜14の中央部に第1中間穴27bを形成し、下地穴27aと第1中間穴27bとを連続した穴とする。
(ハ)引き続き150〜600nm、好ましくは250〜350nmの金属膜を圧電体膜14及び絶縁膜12の上を含んで全面に堆積後、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングにより選択エッチングし、図9(c)に示すように、上部電極15を形成する。図9(c)に示すように、上部電極15のパターニングに際しては、圧電体膜14の中央部に設けられた第1中間穴27bに位置合わせして、上部電極15の中央部に第2中間穴27cを形成し、下地穴27a、第1中間穴27b及び第2中間穴27cとを連続した穴とする。
(ニ)その後、素子基板11を厚さ100〜300μm、好ましくは150〜250μm、例えば200μm、の厚さになるまで研磨により厚み調整をする。その後、素子基板11の裏面をフォトリソグラフィでエッチングマスクを形成する。素子基板11がSi基板の場合は、フッ化物系のガスを用いたRIEにより素子基板11を裏面側からエッチングし、キャビティ16を形成する。その後キャビティ16の底部に残った絶縁膜12を、ウェットエッチング及びフッ化物系のガスを用いたRIEを併用して除去すれば、図9(d)に示すように、下地穴27a、第1中間穴27b及び第2中間穴27cからなるビアホール27が開通し、図8に示す第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器が完成する。即ち、ビアホール27により、キャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間に通路(気体流路)が形成される。
尚、図9では、ビアホール27を各層毎に、マスク合わせしながら、順次形成して積み重ねる方法をとったが、下部電極13、圧電体膜14及び上部電極15からなる積層構造を形成した後にフォトリソグラフィ及びRIEを用いて一括エッチングにより形成することも可能である。
図10は、第2の実施の形態に係る高周波回路実装体の、上部電極の長手方向に沿った断面図である。第1の実施の形態に係る高周波回路実装体と同様に、第1のシリコン基板からなる素子基板11の底面に第2のシリコン基板からなる台基板21が接合され、絶縁膜12の上部には、箱状の封止壁22が設けられ、封止壁22の上部開口を第3のシリコン基板からなる上蓋23が密閉している。封止壁22は、ポリイミド等の樹脂で構成すれば良い。尚、図10に示す第2の実施の形態に係る高周波回路実装体は一例であり、素子基板11の裏面の密閉は、第2のシリコン基板からなる台基板21に限定されず、又、上面の密閉もやはりシリコン基板からなる上蓋に限定されるものではなく、双方ともにガラス若しくはセラミック基板などを、ポリイミドなどの樹脂若しくはAu−Sn、Au−Siなどの共晶合金、ハンダなどにより接着しても良く、素子基板11の裏面の全体及び上面を樹脂シートで覆う方法などによっても構わないことは、第1の実施の形態において説明した通りである。
本発明の第2の実施の形態に係る高周波回路実装体においては、図8に示すように、下部電極13、圧電体膜14及び上部電極15からなる積層構造を貫通するビアホール27により、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15の上方の空間との間を接続し、通路(気体流路)を構成しているので、キャビティ16内部のみが孤立の密閉構造とはならない。このため、薄膜圧電共振器の実装工程において、実装時の温度変化による気圧差により生ずる橋梁構造の破断若しくは劣化を抑制することができる。この結果、第2の実施の形態に係る高周波回路実装体は非常に良好な長期信頼性を実現できる。尚、図10に示す第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法は、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法と同様であるので重複した説明を省略する。第2の実施の形態に係る高周波回路実装体を測定をした結果、ビアホール27を設けない場合と比較し、製造時の歩留まりが、30%以上向上し、又、動作時の温度環境による特性の劣化も全く見られなくなった。
尚、第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器により、図4に示す梯子型フィルタ41や図5に示すような電圧制御発振器(VCO)を構成しても良く、更に、図6に示す携帯型情報端末の受信回路や、図7に示す携帯型情報端末の送信回路のRFフィルタ41やIFフィルタ42に応用可能であることは、勿論である。図4に示すような複数の薄膜圧電共振器を集積化した構造の場合でも、図10に示す実装構造を採用可能である。例えば、図4の場合であれば、図10と同様な実装構造において、2つの入力端子Pin及び2つの出力端子Poutが箱状の封止壁22の裾から外部に延在するように実装すれば、入力端子Pin及び出力端子Poutを介して外部の回路と接続できる。
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器は、図11に示すように、素子基板11と、この素子基板11中に設けられ、この素子基板11を貫通するキャビティ16に底部を露出した下部電極13と、この下部電極13上の圧電体膜14と、この圧電体膜14上の上部電極15とを備え、圧電体膜14の厚み方向のバルク振動を利用する点では、第1及び第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と同様である。更に、第1及び第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と同様に、素子基板11の上面にSiO2膜、SiNx膜やこれらの複合膜(SiO2膜/SiNx膜)等の絶縁膜12が形成され、下部電極13の周辺部は、キャビティ16を囲む位置の絶縁膜12の上面に固定されている。 しかしながら、図11に示すように、素子基板11の周辺部、即ち、圧電体膜14のパターンに隣接する位置に、素子基板11の表面に垂直方向に素子基板11を貫通する貫通口28が設けられている。更に、素子基板11の中央部に設けられたキャビティ16と貫通口28とが、横穴である接続溝(接続部)17で互いに接続されている。このような貫通口28と接続溝(接続部)17とで、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間を接続する通路(気体流路)が構成されている点が、第1及び第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器とは異なる。図11に示す薄膜圧電共振器は、圧電体膜14及び下部電極13の厚みを調整することにより共振振動数が決定できる。貫通口28の形状は、円形に限定されず、3角形、4角形、6角形、8角形等の多角形でも、楕円形等でも構わない。又、貫通口の数も1箇所に限定されるものではなく、多数形成されていても良い。
膜厚300nmのAl膜からなる下部電極13の上に厚さ2μmのAlN膜からなる圧電体膜14、圧電体膜14の上に膜厚300nmのAl膜からなる上部電極15を形成した薄膜圧電共振器の共振特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて評価した結果は、電気機械結合係数kt 2は6.3〜6.5%、品質係数(Q値)は共振点で800〜900、反共振点で700〜800であり、非常に優れた特性である。
上部電極の長手方向に直交する方向から見た断面図に対応する図12を用いて、本発明の第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の製造方法を説明する。尚、以下に述べる薄膜圧電共振器の製造方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。
(イ)まず、Si(100)基板等の素子基板11を用意する。この基板に熱酸化法等による熱酸化膜(SiO2)等の絶縁膜12を形成する。更に、絶縁膜12の上に、RFマグネトロンスパッタリング等を用いて膜厚150〜600nm、好ましくは250〜350nmのAl膜等の金属膜を、堆積する。そして、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチング(RIE)によるパターニングを行い、下部電極13のパターンを形成する。その後、RFマグネトロンスパッタリング法等により厚さ0.5〜3μmの構造の圧電体材料膜を下部電極13上に堆積する。圧電体材料膜の厚さは、共振周波数により異なり、圧電体材料膜がAlNで共振周波数を2.0GHz程度にするのであれば、厚さ2μm程度にすれば良い。そして、フォトリソグラフィ及び塩化物系ガスを用いたRIEによりAlN膜をパターニングし、圧電体膜14を形成する。引き続き150〜600nm、好ましくは250〜350nmの金属膜を圧電体膜14及び絶縁膜12の上を含んで全面に堆積後、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングにより選択エッチングし、図12(a)に示すように、上部電極15を形成する。
(ロ)その後、素子基板11を厚さ100〜300μm、好ましくは150〜250μm、例えば200μmの厚さになるまで研磨により厚み調整をする。その後、素子基板11の裏面をフォトリソグラフィでエッチングマスクを形成する。素子基板11がSi基板の場合は、フッ化物系のガスを用いたRIEにより素子基板11を裏面側からエッチングし、図12(b)に示すように、接続溝(接続部)17を形成する。
(ハ)その後、図12(c)に示すように、素子基板11の裏面に、フォトリソグラフィでフォトレジスト18のエッチングマスクを形成する。フォトレジスト18のエッチングマスクを用いて、RIEにより素子基板11を裏面側からエッチングし、キャビティ16と貫通口28を形成する。その後キャビティ16の底部に残った絶縁膜12を、ウェットエッチング及びフッ化物系のガスを用いたRIEを併用して除去すれば、図12(d)に示すように、貫通口28と接続溝(接続部)17とで、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間が接続される。この結果、図11に示す第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器が完成する。
図13は、第3の実施の形態に係る高周波回路実装体の、上部電極の長手方向に沿った断面図である。第1及び第2の実施の形態に係る高周波回路実装体と同様に、第1のシリコン基板からなる素子基板11の底面に第2のシリコン基板からなる台基板21が接合され、絶縁膜12の上部には、箱状の封止壁22が設けられ、封止壁22の上部開口を第3のシリコン基板からなる上蓋23が密閉している。封止壁22は、ポリイミド等の樹脂で構成すれば良い。尚、図13に示す第3の実施の形態に係る高周波回路実装体は一例であり、素子基板11の裏面の密閉は、第2のシリコン基板からなる台基板21に限定されず、又、上面の密閉もやはりシリコン基板からなる上蓋に限定されるものではなく、双方ともにガラス若しくはセラミック基板などを、ポリイミドなどの樹脂若しくはAu−Sn、Au−Siなどの共晶合金、ハンダなどにより接着しても良く、素子基板11の裏面の全体及び上面を樹脂シートで覆う方法などによっても構わないことは、第1及び第2の実施の形態において説明した通りである。
本発明の第3の実施の形態に係る高周波回路実装体においては、図11に示すように、素子基板11を貫通する貫通口28と接続溝(接続部)17により、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15の上方の空間との間を接続し、気体流路を構成しているので、キャビティ16内部のみが孤立の密閉構造とはならない。このため、薄膜圧電共振器の実装工程において、実装時の温度変化による気圧差により生ずる橋梁構造の破断若しくは劣化を抑制することができる。この結果、第3の実施の形態に係る高周波回路実装体は非常に良好な長期信頼性を実現できる。尚、図13に示す第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法は、第1及び第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法と同様であるので重複した説明を省略する。第3の実施の形態に係る高周波回路実装体を測定をした結果、貫通口28と接続溝(接続部)17を設けない場合と比較し製造時の歩留まりが、30%以上向上し、又、動作時の温度環境による特性の劣化も全く見られなくなった。
尚、第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器により、図4に示す梯子型フィルタ41や図5に示すような電圧制御発振器(VCO)を構成しても良く、更に、図6に示す携帯型情報端末の受信回路や、図7に示す携帯型情報端末の送信回路のRFフィルタ41やIFフィルタ42に応用可能であることは、勿論である。図4に示すような複数の薄膜圧電共振器を集積化した構造の場合でも、図13に示す実装構造を採用可能である。例えば、図4の場合であれば、図13と同様な実装構造において、2つの入力端子Pin及び2つの出力端子Poutが箱状の封止壁22の裾から外部に延在するように実装すれば、入力端子Pin及び出力端子Poutを介して外部の回路と接続できる。
(第4の実施の形態)
第1〜第3の実施の形態の説明から明らかなように、貫通口は薄膜圧電共振器のどの部分に形成されていても良く、貫通口とキャビティ16との接続部は、薄膜圧電共振器が形成された素子基板11に形成された台基板21に形成された溝を介して行われても良い。
本発明の第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器は、図14に示すように、素子基板11と、この素子基板11中に設けられ、この素子基板11を貫通するキャビティ16に底部を露出した下部電極13と、この下部電極13上の圧電体膜14と、この圧電体膜14上の上部電極15とを備え、圧電体膜14の厚み方向のバルク振動を利用する点では、第1〜第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と同様である。更に、第1〜第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と同様に、素子基板11の上面にSiO2膜、SiNx膜やこれらの複合膜(SiO2膜/SiNx膜)等の絶縁膜12が形成され、下部電極13の周辺部は、キャビティ16を囲む位置の絶縁膜12の上面に固定されている。又、素子基板11の周辺部、即ち、圧電体膜14のパターンに隣接する位置に、素子基板11の表面に垂直方向に素子基板11を貫通する貫通口29が設けられている点では、第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と類似な構造である。
しかしながら、図14に示すように、素子基板11の裏面に台基板21が接合されている点、更に、素子基板11の中央部に設けられたキャビティ16と貫通口29とが、台基板21に設けられた接続口(接続部)19で互いに接続されている点は、第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器とは異なる構造である。第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器は、このような貫通口29と接続口(接続部)19とで、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間を接続する気体流路が構成されている。図14に示す薄膜圧電共振器は、圧電体膜14及び下部電極13の厚みを調整することにより共振振動数が決定できる。貫通口29の形状は、円形に限定されず、3角形、4角形、6角形、8角形等の多角形でも、楕円形等でも構わない。又、貫通口29の数も1箇所に限定されるものではなく、多数形成されていても良い。
膜厚300nmのAl膜からなる下部電極13の上に厚さ2μmのAlN膜からなる圧電体膜14、圧電体膜14の上に膜厚300nmのAl膜からなる上部電極15を形成した薄膜圧電共振器の共振特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて評価した結果は、電気機械結合係数kt 2は6.3〜6.5%、品質係数(Q値)は共振点で800〜900、反共振点で700〜800であり、非常に優れた特性である。
上部電極の長手方向に直交する方向から見た断面図に対応する図15を用いて、本発明の第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の製造方法を説明する。尚、以下に述べる薄膜圧電共振器の製造方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。
(イ)まず、Si(100)基板等の素子基板11を用意する。この基板に熱酸化法等による熱酸化膜(SiO2)等の絶縁膜12を形成する。更に、絶縁膜12の上に、RFマグネトロンスパッタリング等を用いて膜厚150〜600nm、好ましくは250〜350nmのAl膜等の金属膜を、堆積する。そして、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチング(RIE)によるパターニングを行い、下部電極13のパターンを形成する。その後、RFマグネトロンスパッタリング法等により厚さ0.5〜3μmのウルツ鉱型構造の圧電体材料膜を下部電極13上に堆積する。圧電体材料膜の厚さは、共振周波数により異なり、圧電体材料膜がAlNで共振周波数を2.0GHz程度にするのであれば、厚さ2μm程度にすれば良い。そして、フォトリソグラフィ及び塩化物系ガスを用いたRIEによりAlN膜をパターニングし、圧電体膜14を形成する。引き続き150〜600nm、好ましくは250〜350nmの金属膜を圧電体膜14及び絶縁膜12の上を含んで全面に堆積後、フォトリソグラフィ及び非酸化性の酸、例えば塩酸によるウェットエッチングにより選択エッチングし、図15(a)に示すように、上部電極15を形成する。
(ロ)その後、素子基板11を厚さ100〜300μm、好ましくは150〜250μm、例えば200μmの厚さになるまで研磨により厚み調整をする。その後、素子基板11の裏面をフォトリソグラフィでエッチングマスクを形成する。素子基板11がSi基板の場合は、フッ化物系のガスを用いたRIEにより素子基板11を裏面側からエッチングし、図15(b)に示すように、キャビティ16と貫通口29を形成する。その後キャビティ16の底部に残った絶縁膜12を、ウェットエッチング及びフッ化物系のガスを用いたRIEを併用して除去する。
(ハ)一方、別のSi基板を台基板21として用意する。この台基板21にフォトリソグラフィ及びフッ化物系ガスを用いたRIEにより接続口(接続部)19を形成する。この台基板21を硫酸と過酸化水素水を用いた硫酸及び過酸化水素水混合液による処理及び希フッ酸による処理を行い清浄表面とする。そして、図15(c)に示すように、加熱接着により素子基板11の裏面に直接接合法で接合する。以上の操作により、キャビティ16と貫通口29は台基板21に形成された接続口(接続部)19により接続される。即ち、貫通口29と接続口(接続部)19とで、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間が接続される。この結果、図14に示す第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器が完成する。
図16は、第4の実施の形態に係る高周波回路実装体の、上部電極の長手方向に沿った断面図である。第1〜第3の実施の形態に係る高周波回路実装体と同様に、第1のシリコン基板からなる素子基板11の底面に第2のシリコン基板からなる台基板21が接合され、絶縁膜12の上部には、箱状の封止壁22が設けられ、封止壁22の上部開口を第3のシリコン基板からなる上蓋23が密閉している。封止壁22は、ポリイミド等の樹脂で構成すれば良い。尚、図16に示す第4の実施の形態に係る高周波回路実装体は一例であり、素子基板11の裏面の密閉は、第2のシリコン基板からなる台基板21に限定されず、又、上面の密閉もやはりシリコン基板からなる上蓋に限定されるものではなく、双方ともにガラス若しくはセラミック基板などを、ポリイミドなどの樹脂若しくはAu−Sn、Au−Siなどの共晶合金、ハンダなどにより接着しても良く、素子基板11の裏面の全体及び上面を樹脂シートで覆う方法などによっても構わないことは、第1〜第3の実施の形態において説明した通りである。
本発明の第4の実施の形態に係る高周波回路実装体においては、図14に示すように、素子基板11を貫通する貫通口29と接続口(接続部)19により、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15の上方の空間との間を接続し、気体流路を構成しているので、キャビティ16内部のみが孤立の密閉構造とはならない。このため、薄膜圧電共振器の実装工程において、実装時の温度変化による気圧差により生ずる橋梁構造の破断若しくは劣化を抑制することができる。この結果、第4の実施の形態に係る高周波回路実装体は非常に良好な長期信頼性を実現できる。尚、図16に示す第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法は、第1〜第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法とほぼ同様であるが、薄膜圧電共振器の構造自身が素子基板11と台基板21との直接接合法による接合がなされている点が異なる。他は、第1〜第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と実質的に同様であるので、重複した説明を省略する。第4の実施の形態に係る高周波回路実装体を測定をした結果、貫通口29と接続口(接続部)19を設けない場合と比較し製造時の歩留まりが 30%以上向上し、又、動作時の温度環境による特性の劣化も全く見られなくなった。
尚、第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器により、図4に示す梯子型フィルタ41や図5に示すような電圧制御発振器(VCO)を構成しても良く、更に、図6に示す携帯型情報端末の受信回路や、図7に示す携帯型情報端末の送信回路のRFフィルタ41やIFフィルタ42に応用可能であることは、勿論である。図4に示すような複数の薄膜圧電共振器を集積化した構造の場合でも、図16に示す実装構造を採用可能である。例えば、図4の場合であれば、図16と同様な実装構造において、2つの入力端子Pin及び2つの出力端子Poutが箱状の封止壁22の裾から外部に延在するように実装すれば、入力端子Pin及び出力端子Poutを介して外部の回路と接続できる。
(第5の実施の形態)
第1〜第4の実施の形態の説明から明らかなように、気体流路は薄膜圧電共振器のどの部分に、どのような方向(配向)で形成されていても良い。本発明の第5の実施形態における薄膜圧電共振器においては、素子基板11の上面に犠牲層を形成した後、薄膜圧電共振器の構造を形成し、後に犠牲層をエッチングにより除去して素子基板11の表面に平行方向に延びる横穴26を設け、気体流路とする例を示す。
即ち、本発明の第5の実施の形態に係る薄膜圧電共振器は、図17に示すように、素子基板11と、この素子基板11中に設けられ、この素子基板11を貫通するキャビティ16に底部を露出した下部電極13と、この下部電極13上の圧電体膜14と、この圧電体膜14上の上部電極15とを備え、圧電体膜14の厚み方向のバルク振動を利用する点では、第1〜第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と同様である。更に、第1〜第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と同様に、素子基板11の上面にSiO2膜、SiNx膜やこれらの複合膜(SiO2膜/SiNx膜)等の絶縁膜12が形成され、下部電極13の周辺部は、キャビティ16を囲む位置の絶縁膜12の上面に固定されている。
しかしながら、図17に示すように、絶縁膜12と下部電極13との間を経由し更に絶縁膜12と圧電体膜14との間に至る横穴26で、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間が接続されている点は、第1〜第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器とは異なる構造である。第5の実施の形態に係る薄膜圧電共振器は、このような横穴26とで、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間を接続する気体流路が構成されている。図17に示す薄膜圧電共振器は、圧電体膜14及び下部電極13の厚みを調整することにより共振振動数が決定できる。
膜厚300nmのAl膜からなる下部電極13の上に厚さ2μmのAlN膜からなる圧電体膜14、圧電体膜14の上に膜厚300nmのAl膜からなる上部電極15を形成した薄膜圧電共振器の共振特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて評価した結果は、電気機械結合係数kt 2は6.3〜6.5%、品質係数(Q値)は共振点で800〜900、反共振点で700〜800であり、非常に優れた特性である。
上部電極の長手方向に直交する方向から見た断面図に対応する図18を用いて、本発明の第5の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の製造方法を説明する。尚、以下に述べる薄膜圧電共振器の製造方法は、一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により、実現可能であることは勿論である。
(イ)まず、Si(100)基板等の素子基板11を用意する。この基板に熱酸化法等による熱酸化膜(SiO2)等の絶縁膜12を形成する。この絶縁膜12が形成されたSi(100)素子基板11上に、RFマグネトロンスパッタを用いて膜厚200〜600nm、好ましくは300〜500nm、例えば、膜厚400nmのモリブデン(Mo)膜を形成する。そして、フォトリソグラフィ及びフッ化物系ガスを用いたケミカルドライエッチング(CDE)により、Mo膜をパターニングし、図18(a)に示すように、犠牲パターン25を形成する。
(ロ)続いて、犠牲パターン25を含んで、絶縁膜12の上に、RFマグネトロンスパッタリング等を用いて膜厚150〜600nm、好ましくは250〜350nmのAl膜等の金属膜を、堆積する。そして、フォトリソグラフィ及び反応性イオンエッチング(RIE)によるパターニングを行い、図18(b)に示すように、下部電極13のパターンを犠牲パターン25に一部重畳するように形成する。
(ハ)その後、RFマグネトロンスパッタリング法等により厚さ0.5〜3μmのウルツ鉱型構造の圧電体材料膜を下部電極13上に堆積する。圧電体材料膜の厚さは、共振周波数により異なり、圧電体材料膜がAlNで共振周波数を2.0GHz程度にするのであれば、厚さ2μm程度にすれば良い。そして、フォトリソグラフィ及び塩化物系ガスを用いたRIEによりAlN膜をパターニングし、圧電体膜14を形成する。引き続き150〜600nm、好ましくは250〜350nmの金属膜を圧電体膜14及び絶縁膜12の上を含んで全面に堆積後、フォトリソグラフィを用いて選択エッチングし、図18(c)に示すように、上部電極15を形成する。
(ニ)その後、素子基板11を厚さ100〜300μm、好ましくは150〜250μm、例えば200μmの厚さになるまで研磨により厚み調整をする。その後、50℃に加熱した過酸化水素水中で10分間エッチングすることにより、図18(c)に示すように、犠牲パターン25を除去し、横穴26を形成する。
(ホ)その後、素子基板11の裏面をフォトリソグラフィでエッチングマスクを形成する。素子基板11がSi基板の場合は、フッ化物系のガスを用いたRIEにより素子基板11を裏面側からエッチングし、図18(e)に示すように、キャビティ16を形成する。その後キャビティ16の底部に残った絶縁膜12を、ウェットエッチング及びフッ化物系のガスを用いたRIEを併用して除去する。以上の操作により、キャビティ16は犠牲パターン25の除去された部分がなす横穴26で上面の空間と接続される。即ち、絶縁膜12と下部電極13との間に設けられた横穴26で、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15側の空間との間が接続される。この結果、図17に示す第5の実施の形態に係る薄膜圧電共振器が完成する。
図19は、第5の実施の形態に係る高周波回路実装体の、上部電極の長手方向に沿った断面図である。第1〜第4の実施の形態に係る高周波回路実装体と同様に、第1のシリコン基板からなる素子基板11の底面に第2のシリコン基板からなる台基板21が接合され、絶縁膜12の上部には、箱状の封止壁22が設けられ、封止壁22の上部開口を第3のシリコン基板からなる上蓋23が密閉している。封止壁22は、ポリイミド等の樹脂で構成すれば良い。尚、図19に示す第5の実施の形態に係る高周波回路実装体は一例であり、素子基板11の裏面の密閉は、第2のシリコン基板からなる台基板21に限定されず、又、上面の密閉もやはりシリコン基板からなる上蓋に限定されるものではなく、双方ともにガラス若しくはセラミック基板などを、ポリイミドなどの樹脂若しくはAu−Sn、Au−Siなどの共晶合金、ハンダなどにより接着しても良く、素子基板11の裏面の全体及び上面を樹脂シートで覆う方法などによっても構わないことは、第1〜第4の実施の形態において説明した通りである。
本発明の第5の実施の形態に係る高周波回路実装体においては、図17に示すように、絶縁膜12と下部電極13との間を経由し更に絶縁膜12と圧電体膜14との間に至る横穴26により、下部電極13の下方のキャビティ16のなす空間と上部電極15の上方の空間との間を接続し、気体流路を構成しているので、キャビティ16内部のみが孤立の密閉構造とはならない。このため、薄膜圧電共振器の実装工程において、実装時の温度変化による気圧差により生ずる橋梁構造の破断若しくは劣化を抑制することができる。この結果、第5の実施の形態に係る高周波回路実装体は非常に良好な長期信頼性を実現できる。尚、図19に示す第5の実施の形態に係る薄膜圧電共振器の実装方法は、第1〜第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器と実質的に同様であるので、重複した説明を省略する。第5の実施の形態に係る高周波回路実装体を測定をした結果、横穴26を設けない場合と比較し製造時の歩留まりが、30%以上向上し、又、動作時の温度環境による特性の劣化も全く見られなくなった。
尚、第5の実施の形態に係る薄膜圧電共振器により、図4に示す梯子型フィルタ41や図5に示すような電圧制御発振器(VCO)を構成しても良く、更に、図18に示す携帯型情報端末の受信回路や、図7に示す携帯型情報端末の送信回路のRFフィルタ41やIFフィルタ42に応用可能であることは、勿論である。図4に示すような複数の薄膜圧電共振器を集積化した構造の場合でも、図19に示す実装構造を採用可能である。例えば、図4の場合であれば、図19と同様な実装構造において、2つの入力端子Pin及び2つの出力端子Poutが箱状の封止壁22の裾から外部に延在するように実装すれば、入力端子Pin及び出力端子Poutを介して外部の回路と接続できる。
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1〜第5の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
薄膜圧電共振器のキャビティ16の作成方法としては、種々の方法がある。既に述べた第1〜第5の実施の形態の説明においては、シリコン基板からなる素子基板11にRIEでキャビティ16を形成する方法を主に説明した。しかし、レジストなどの犠牲層を形成した後金属などの硬質膜で表面を覆って下部電極13を形成した後に犠牲層をエッチングにより除去してキャビティ16を得る方法でも良い。どのような構造のキャビティ16であろうと、素子基板11の上面まで貫通している気体流路を形成すれば、第1〜第5の実施の形態で説明したと同様な効果を得ることが可能である。即ち、種々の気体流路を設け、これをキャビティ16と接続することにより、キャビティ16の内部のみを孤立の密閉構造とせず、気圧差により生ずる破断若しくは劣化を抑制することができる。この場合、気体流路とキャビティ16は素子基板11底部においてキャビティ16の側面、上面など一部が接続されていれば良く、その接続部は内部の気体が出入りできる程度であれば良い。
第1〜第5の実施の形態の説明から明らかなように、気体流路は薄膜圧電共振器のどの部分に形成されていても良く、第1〜第5の実施の形態の構造に限定されるものではない。
又、素子基板11上面の共振器上にレジストなどの犠牲層を形成した後、金属やSiNx膜などの硬質膜で表面を覆い、薄膜圧電共振器の主要部を形成し、後に犠牲層をエッチングにより除去してキャビティ16を得る方法を用いる場合には、逆に、気体流路を犠牲層のエッチング用ビアとして使用することも可能である。
更に、外部からの水分及びモールド樹脂からの脱ガスなどに対する腐食対策用保護膜として、下部電極の下面及び上部電極の上面に50〜200nm程度の薄い絶縁体層、例えばシリコン酸化膜(SiO2)又はシリコン窒化膜(SiNx)若しくはシリコン酸化膜とシリコン窒化膜との複合膜(SiO2/SiNx)等の絶縁膜が形成されていても良い。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。