A.光学補償フィルム
A−1.光学補償フィルムの全体構成
図1は、本発明の好ましい実施形態による光学補償フィルムの概略断面図である。この光学補償フィルム10は、基材層11と、基材層11の一方の面に形成された第1の光学補償層12と、基材層11の他方の面に形成された第2の光学補償層13とを有する。この光学補償フィルムは、以下の式(1)〜(3)を満足する:
0nm<(Δn1d1+Δn2d2)≦400nm ・・・(1)
(Rth1+Rth2)≧100nm ・・・(2)
2≦(Rth1+Rth2)/(Δn1d1+Δn2d2)≦20 ・・・(3)
ただし、Δn1d1およびΔn2d2は、それぞれ、第1および第2の光学補償層の面内位相差であり、Rth1およびRth2は、それぞれ、第1および第2の光学補償層の厚み方向の位相差である。
上記(Δn1d1+Δn2d2)(すなわち、第1の光学補償層12および第2の光学補償層13の面内位相差の合計)は、光学補償フィルムが用いられる液晶表示装置の表示モードに対応して最適化され得る。例えば、(Δn1d1+Δn2d2)の下限は、上記式(1)のように0より大きく、好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、最も好ましくは15nm以上である。一方、(Δn1d1+Δn2d2)の上限は、上記式(1)のように400nm以下、好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下、特に好ましくは150nm以下、とりわけ好ましくは100nm以下、最も好ましくは80nm以下である。(Δn1d1+Δn2d2)が400nmを超えると、視野角が小さくなる場合が多い。より具体的には、液晶表示装置がVAモードを採用する場合には、(Δn1d1+Δn2d2)は、好ましくは5〜150nm、さらに好ましくは10〜100nm、最も好ましくは15〜80nmである。液晶表示装置がOCBモードを採用する場合には、(Δn1d1+Δn2d2)は、好ましくは5〜400nm、さらに好ましくは10〜300nm、最も好ましくは15〜200nmである。なお、Δndは、式:Δnd=(nx−ny)×dで求められる。ここで、nxは光学補償層の遅相軸方向の屈折率であり、nyは光学補償層の進相軸方向の屈折率であり、d(nm)は光学補償層の厚みである。代表的には、Δndは、波長590nmの光を用いて測定される。遅相軸は、フィルム面内の屈折率が最大になる方向をいい、進相軸は、面内で遅相軸に垂直な方向をいう。本明細書においては、添え字の「1」は第1の光学補償層を表し、添え字の「2」は第2の光学補償層を表す。
上記(Rth1+Rth2)(すなわち、第1の光学補償層12および第2の光学補償層13の厚み方向の位相差の合計)もまた、液晶セルの表示モードに対応して最適化され得る。例えば、(Rth1+Rth2)の下限は、上記式(2)のように100nm以上、好ましくは120nm以上、さらに好ましくは150nm以上である。(Rth1+Rth2)が100nm未満の場合には、斜め方向のコントラストが低下する場合が多い。一方、(Rth1+Rth2)の上限は、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは400nm以下、特に好ましくは300nm以下、とりわけ好ましくは280nm以下、最も好ましくは260nm以下である。Rthが1000nmを超えると、光学補償が大きくなりすぎて結果的に斜め方向のコントラストが低下してしまう可能性がある。より具体的には、液晶セルがVAモードを採用する場合には、Rthは、好ましくは100〜300nm、さらに好ましくは120〜280nm、最も好ましくは150〜260nmである。液晶セルがOCBモードを採用する場合には、(Rth1+Rth2)は、好ましくは100〜1000nm、さらに好ましくは120〜500nm、最も好ましくは150〜400nmである。なお、Rthは、式:Rth=(nx−nz)×dで求められる。ここで、nzは、フィルム(光学補償層)の厚み方向の屈折率である。Rthもまた、代表的には波長590nmの光を用いて測定される。
上記〔(Rth1+Rth2)/(Δn1d1+Δn2d2)〕(以下、Nz係数と呼ぶ)もまた、液晶表示装置の表示モードに対応して最適化され得る。例えば、Nz係数は、上記式(3)のように2〜20、好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜8、最も好ましくは2〜6である。より具体的には、液晶表示装置がVAモードを採用する場合には、Nz係数は、好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜8、最も好ましくは2〜6である。液晶表示装置がOCBモードを採用する場合には、Nz係数は、好ましくは2〜20、さらに好ましくは2〜10、最も好ましくは2〜8である。基材層11を挟んで第1の光学補償層と第2の光学補償層とに分離し、かつ、これらのトータルの光学特性を上記式(1)〜(3)で最適化することにより、斜め方向のコントラストにきわめて優れ、かつ、カラーシフトの小さい液晶表示装置が得られ得る。
A−2.基材層
上記基材層11としては、本発明の効果を奏する限りにおいて任意の適切な基材層が採用され得る。代表的には、基材層は透明である。さらに、第1および第2の光学補償層を組み合わせて用いることによる相乗効果に悪影響を与えないという観点から、基材層の面内位相差および厚み方向位相差は、できるだけ小さいことが望ましい。実用的には、基材層は、下記の光学特性を有する:
ΔnSdS≦50nm
RthS≦80nm
ただし、ΔnSdSは高分子フィルムの面内位相差であり、RthSは高分子フィルムの厚み方向の位相差である。ΔnSdSは、好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。RthSは、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。本明細書においては、添え字「S」は基材層を表す。
基材層を構成する材料としては、上記の好ましい光学特性が得られる限りにおいて、任意の適切な材料が採用され得る。基材層は、代表的にはプラスチックフィルムから構成される。プラスチックフィルムを構成する樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のアセテート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリノルボルネン樹脂、セルロース樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル樹脂、液晶ポリマー、およびこれらの混合物が挙げられる。
さらに、例えば、特開平2001−343529号公報(WO 01/37007号)に記載されているような樹脂組成物から形成されるポリマーフィルムも基材層に使用可能である。より詳細には、側鎖に置換イミド基または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換フェニル基または非置換フェニル基とシアノ基とを有する熱可塑性樹脂との混合物である。具体例としては、イソブテンとN−メチレンマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。基材層の光学特性の観点から、このような樹脂組成物から形成されるフィルムが好ましい。
基材層の厚みは、本発明の効果を損なわない限りにおいて、任意の適切な厚みが採用され得る。基材層の厚みは、好ましくは5〜500μmであり、さらに好ましくは5〜300μmであり、最も好ましくは5〜150μmである。このような範囲の厚みを有することにより、延伸処理および/薄膜化が容易であり、かつ、適切な強度も付与され得る。基材層の形成方法としては、任意の適切な方法(例えば、押し出しによるフィルム成形、キャスト法)が採用され得る。
A−3.光学補償層
第1および第2の光学補償層12および13の光学特性としては、上記式(1)〜(3)を満足する限りにおいて任意の適切な光学特性が採用され得る。例えば、(Δn1d1+Δn2d2)が70nmである場合には、Δn1d1は、好ましくは10〜60nmであり、さらに好ましくは20〜50nmであり、とりわけ好ましくは30〜40nmであり、最も好ましくは約35nmである。Δn2d2は、好ましくは60〜10nmであり、さらに好ましくは50〜20nmであり、とりわけ好ましくは40〜30nmであり、最も好ましくは約35nmである。例えば、第1および第2の光学補償層が同一の材料で形成される場合には、実質的にΔn1=Δn2となるので、第1の光学補償層の面内位相差Δn1d1および第2の光学補償層の面内位相差Δn2d2は、それぞれの光学補償層の厚みを制御することにより調整され得る。第1および第2の光学補償層が同一の材料および製造条件で形成され、かつ、それらの厚みが同一であれば、光学補償層形成材料の基材層への塗工および光学補償層の厚み制御が非常に容易となるので、きわめて優れた製造効率で光学補償フィルムが得られ得る。Rth1およびRth2もまた、第1および第2の光学補償層が同一の材料および製造条件で形成される場合には、それぞれの光学補償層の厚みを制御することにより調整され得る。例えば、(Rth1+Rth2)が280nmである場合には、Rth1は、好ましくは40〜240nmであり、さらに好ましくは80〜200nmであり、とりわけ好ましくは120〜160nmであり、最も好ましくは約140nmである。Rth2は、好ましくは240〜40nmであり、さらに好ましくは200〜80nmであり、とりわけ好ましくは160〜120nmであり、最も好ましくは約140nmである。
第1および第2の光学補償層12および13の厚みとしては、上記式(1)〜(3)を満足する限りにおいて任意の適切な厚みが採用され得る。さらに、上記のように、第1および第2の光学補償層が同一の材料および製造条件で形成される場合には、第1および第2の光学補償層の厚みを制御することにより、それぞれの光学補償層の光学特性を容易に調整することができる。代表的には、第1および第2の光学補償層12および13の厚みは、それぞれ、0.1〜50μmであり、好ましくは0.5〜30μmであり、さらに好ましくは1〜20μmである。液晶表示装置の薄型化に寄与し得るとともに、視野角補償性能に優れ、かつ位相差が均一な光学補償層が得られ得るからである。第1および第2の光学補償層12および13の厚みは、同一であっても異なっていてもよい。好ましくは、第1および第2の光学補償層12および13の厚みは、同一である。基材層両面への塗工が容易であり、かつ、上記式(1)〜(3)を満足するような設計も容易だからである。
第1および第2の光学補償層12および13はそれぞれ、上記式(1)〜(3)を満足する限りにおいては、単一層であってもよく、2層以上の積層構造を有していてもよい。また、第1および第2の光学補償層12および13は、同一の材料で形成されてもよく、それぞれ別の材料から形成されてもよい。さらに、第1および/または第2の光学補償層12および13が積層構造を有する場合、それぞれの層は、同一の材料で形成されてもよく、それぞれ別の材料から形成されてもよい。
A−4.光学補償層の構成材料
光学補償層を構成する材料としては、上記のような光学特性が得られる限りにおいて任意の適切な材料が採用され得る。例えば、このような材料としては、非液晶性材料が挙げられる。特に好ましくは、非液晶性ポリマーである。このような非液晶性材料は、液晶性材料とは異なり、基板の配向性に関係なく、それ自身の性質によりnx>nz、ny>nzという光学的一軸性を示す膜を形成し得る。その結果、配向基板のみならず未配向基板も使用され得る。さらに、未配向基板を用いる場合であっても、その表面に配向膜を塗工する工程や配向膜を積層する工程等を省略することができる。
上記非液晶性ポリマーとしては、例えば、耐熱性、耐薬品性、透明性に優れ、剛性にも富むことから、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等のポリマーが好ましい。これらのポリマーは、いずれか一種類を単独で使用してもよいし、例えば、ポリアリールエーテルケトンとポリアミドとの混合物のように、異なる官能基を持つ2種以上の混合物として使用してもよい。このようなポリマーの中でも、高透明性、高配向性、高延伸性であることから、ポリイミドが特に好ましい。
上記ポリマーの分子量は、特に制限されないが、例えば、重量平均分子量(Mw)が1,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは2,000〜500,000の範囲である。
上記ポリイミドとしては、例えば、面内配向性が高く、有機溶剤に可溶なポリイミドが好ましい。具体的には、例えば、特表2000−511296号公報に開示された、9,9−ビス(アミノアリール)フルオレンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との縮合重合生成物を含み、下記式(1)に示す繰り返し単位を1つ以上含むポリマーが使用できる。
上記式(1)中、R3〜R6は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、フェニル基、1〜4個のハロゲン原子またはC1〜10アルキル基で置換されたフェニル基、およびC1〜10アルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類の置換基である。好ましくは、R3〜R6は、それぞれ独立して、ハロゲン、フェニル基、1〜4個のハロゲン原子またはC1〜10アルキル基で置換されたフェニル基、およびC1〜10アルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類の置換基である。
上記式(1)中、Zは、例えば、C6〜20の4価芳香族基であり、好ましくは、ピロメリット基、多環式芳香族基、多環式芳香族基の誘導体、または、下記式(2)で表される基である。
上記式(2)中、Z’は、例えば、共有結合、C(R7)2基、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(C2H5)2基、または、NR8基であり、複数の場合、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。また、wは、1から10までの整数を表す。R7は、それぞれ独立して、水素またはC(R9)3である。R8は、水素、炭素原子数1〜約20のアルキル基、またはC6〜20アリール基であり、複数の場合、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。R9は、それぞれ独立して、水素、フッ素、または塩素である。
上記多環式芳香族基としては、例えば、ナフタレン、フルオレン、ベンゾフルオレンまたはアントラセンから誘導される4価の基が挙げられる。また、上記多環式芳香族基の置換誘導体としては、例えば、C1〜10のアルキル基、そのフッ素化誘導体、およびFやCl等のハロゲンからなる群から選択される少なくとも一つの基で置換された上記多環式芳香族基が挙げられる。
この他にも、例えば、特表平8−511812号公報に記載された、繰り返し単位が下記一般式(3)または(4)で示されるホモポリマーや、繰り返し単位が下記一般式(5)で示されるポリイミド等が挙げられる。なお、下記式(5)のポリイミドは、下記式(3)のホモポリマーの好ましい形態である。
上記一般式(3)〜(5)中、GおよびG’は、それぞれ独立して、例えば、共有結合、CH2基、C(CH3)2基、C(CF3)2基、C(CX3)2基(ここで、Xは、ハロゲンである。)、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(CH2CH3)2基、および、N(CH3)基からなる群から選択される基であり、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。
上記式(3)および式(5)中、Lは、置換基であり、dおよびeは、その置換数を表す。Lは、例えば、ハロゲン、C1−3アルキル基、C1−3ハロゲン化アルキル基、フェニル基、または、置換フェニル基であり、複数の場合、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。上記置換フェニル基としては、例えば、ハロゲン、C1−3アルキル基、およびC1−3ハロゲン化アルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類の置換基を有する置換フェニル基が挙げられる。また、上記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が挙げられる。dは、0から2までの整数であり、eは、0から3までの整数である。
上記式(3)〜(5)中、Qは置換基であり、fはその置換数を表す。Qとしては、例えば、水素、ハロゲン、アルキル基、置換アルキル基、ニトロ基、シアノ基、チオアルキル基、アルコキシ基、アリール基、置換アリール基、アルキルエステル基、および置換アルキルエステル基からなる群から選択される原子または基であって、Qが複数の場合、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。上記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。上記置換アルキル基としては、例えば、ハロゲン化アルキル基が挙げられる。また上記置換アリール基としては、例えば、ハロゲン化アリール基が挙げられる。fは、0から4までの整数であり、gは、0から3までの整数であり、hは、1から3までの整数である。また、gおよびhは、1より大きいことが好ましい。
上記式(4)中、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、フェニル基、置換フェニル基、アルキル基、および置換アルキル基からなる群から選択される基である。その中でも、R10およびR11は、それぞれ独立に、ハロゲン化アルキル基であることが好ましい。
上記式(5)中、M1およびM2は、それぞれ独立して、例えば、ハロゲン、C1−3アルキル基、C1−3ハロゲン化アルキル基、フェニル基、または、置換フェニル基である。上記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。また、上記置換フェニル基としては、例えば、ハロゲン、C1−3アルキル基、およびC1−3ハロゲン化アルキル基からなる群から選択される少なくとも一種類の置換基を有する置換フェニル基が挙げられる。
上記式(3)に示すポリイミドの具体例としては、例えば、下記式(6)で表されるもの等が挙げられる。
さらに、上記ポリイミドとしては、例えば、前述のような骨格(繰り返し単位)以外の酸二無水物やジアミンを、適宜共重合させたコポリマーが挙げられる。
上記酸二無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。上記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物、2,2’−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
上記ピロメリット酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,6−ジフェニルピロメリット酸二無水物、3,6−ビス(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、3,6−ジブロモピロメリット酸二無水物、3,6−ジクロロピロメリット酸二無水物等が挙げられる。上記ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。上記ナフタレンテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,3,6,7−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレン−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロ−ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。上記複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。上記2,2’−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、2,2’−ジブロモ−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ジクロロ−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
また、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物のその他の例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,5,6−トリフルオロ−3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−2,2−ジフェニルプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−[4,4’−イソプロピリデン−ジ(p−フェニレンオキシ)]ビス(フタル酸無水物)、N,N−(3,4−ジカルボキシフェニル)−N−メチルアミン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジエチルシラン二無水物等が挙げられる。
これらの中でも、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、2,2’−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましく、より好ましくは、2,2’−ビス(トリハロメチル)−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であり、さらに好ましくは、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’,5,5’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。
上記ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミンが挙げられ、具体例としては、ベンゼンジアミン、ジアミノベンゾフェノン、ナフタレンジアミン、複素環式芳香族ジアミン、およびその他の芳香族ジアミンが挙げられる。
上記ベンゼンジアミンとしては、例えば、o−、m−およびp−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノ−2−メトキシベンゼン、1,4−ジアミノ−2−フェニルベンゼンおよび1,3−ジアミノ−4−クロロベンゼンのようなベンゼンジアミンからなる群から選択されるジアミン等が挙げられる。上記ジアミノベンゾフェノンの例としては、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、および3,3’−ジアミノベンゾフェノン等が挙げられる。上記ナフタレンジアミンとしては、例えば、1,8−ジアミノナフタレン、および1,5−ジアミノナフタレン等が挙げられる。上記複素環式芳香族ジアミンの例としては、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、および2,4−ジアミノ−S−トリアジン等が挙げられる。
また、芳香族ジアミンとしては、上記の他に、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−(9−フルオレニリデン)−ジアニリン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,5,5’−テトラクロロベンジジン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
上記ポリエーテルケトンとしては、例えば、特開2001−49110号公報に記載された、下記一般式(7)で表されるポリアリールエーテルケトンが挙げられる。
上記式(7)中、Xは、置換基を表し、qは、その置換数を表す。Xは、例えば、ハロゲン原子、低級アルキル基、ハロゲン化アルキル基、低級アルコキシ基、または、ハロゲン化アルコキシ基であり、Xが複数の場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子が挙げられ、これらの中でも、フッ素原子が好ましい。上記低級アルキル基としては、例えば、C1〜6の直鎖または分岐鎖を有するアルキル基が好ましく、より好ましくはC1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、および、tert−ブチル基が好ましく、特に好ましくは、メチル基およびエチル基である。上記ハロゲン化アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基等の上記低級アルキル基のハロゲン化物が挙げられる。上記低級アルコキシ基としては、例えば、C1〜6の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基が好ましく、より好ましくはC1〜4の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、および、tert−ブトキシ基が、さらに好ましく、特に好ましくはメトキシ基およびエトキシ基である。上記ハロゲン化アルコキシ基としては、例えば、トリフルオロメトキシ基等の上記低級アルコキシ基のハロゲン化物が挙げられる。
上記式(7)中、qは、0から4までの整数である。上記式(7)においては、q=0であり、かつ、ベンゼン環の両端に結合したカルボニル基とエーテルの酸素原子とが互いにパラ位に存在することが好ましい。
また、上記式(7)中、R1は、下記式(8)で表される基であり、mは、0または1の整数である。
上記式(8)中、X’は置換基を表し、例えば、上記式(7)におけるXと同様である。上記式(8)において、X’が複数の場合、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。q’は、上記X’の置換数を表し、0から4までの整数であって、q’=0が好ましい。また、pは、0または1の整数である。
上記式(8)中、R2は、2価の芳香族基を表す。この2価の芳香族基としては、例えば、o−、m−もしくはp−フェニレン基、または、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、o−、m−もしくはp−テルフェニル、フェナントレン、ジベンゾフラン、ビフェニルエーテル、もしくは、ビフェニルスルホンから誘導される2価の基等が挙げられる。これらの2価の芳香族基において、芳香族に直接結合している水素が、ハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基で置換されてもよい。これらの中でも、上記R2としては、下記式(9)〜(15)からなる群から選択される芳香族基が好ましい。
上記式(7)中、R1としては、下記式(16)で表される基が好ましく、下記式(16)において、R2およびpは上記式(8)と同義である。
さらに、上記式(7)中、nは重合度を表し、例えば、2〜5000の範囲であり、好ましくは、5〜500の範囲である。また、その重合は、同じ構造の繰り返し単位からなるものであってもよく、異なる構造の繰り返し単位からなるものであってもよい。後者の場合には、繰り返し単位の重合形態は、ブロック重合であってもよいし、ランダム重合であってもよい。
さらに、上記式(7)で示されるポリアリールエーテルケトンの末端は、p−テトラフルオロベンゾイレン基側がフッ素であり、オキシアルキレン基側が水素原子であることが好ましく、このようなポリアリールエーテルケトンは、例えば、下記一般式(17)で表すことができる。なお、下記式において、nは上記式(7)と同様の重合度を表す。
上記式(7)で示されるポリアリールエーテルケトンの具体例としては、下記式(18)〜(21)で表されるもの等が挙げられ、下記各式において、nは、上記式(7)と同様の重合度を表す。
また、これらの他に、上記ポリアミドまたはポリエステルとしては、例えば、特表平10−508048号公報に記載されるポリアミドやポリエステルが挙げられ、それらの繰り返し単位は、例えば、下記一般式(22)で表すことができる。
上記式(22)中、Yは、OまたはNHである。また、Eは、例えば、共有結合、C2アルキレン基、ハロゲン化C2アルキレン基、CH2基、C(CX3)2基(ここで、Xはハロゲンまたは水素である。)、CO基、O原子、S原子、SO2基、Si(R)2基、および、N(R)基からなる群から選ばれる少なくとも一種類の基であり、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。上記Eにおいて、Rは、C1−3アルキル基およびC1−3ハロゲン化アルキル基の少なくとも一種類であり、カルボニル官能基またはY基に対してメタ位またはパラ位にある。
また、上記式(22)中、AおよびA’は、置換基であり、tおよびzは、それぞれの置換数を表す。また、pは、0から3までの整数であり、qは、1から3までの整数であり、rは、0から3までの整数である。
上記Aは、例えば、水素、ハロゲン、C1−3アルキル基、C1−3ハロゲン化アルキル基、OR(ここで、Rは、上記で定義したとおりである。)で表されるアルコキシ基、アリール基、ハロゲン化等による置換アリール基、C1−9アルコキシカルボニル基、C1−9アルキルカルボニルオキシ基、C1−12アリールオキシカルボニル基、C1−12アリールカルボニルオキシ基およびその置換誘導体、C1−12アリールカルバモイル基、ならびに、C1−12アリールカルボニルアミノ基およびその置換誘導体からなる群から選択され、複数の場合、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。上記A’は、例えば、ハロゲン、C1−3アルキル基、C1−3ハロゲン化アルキル基、フェニル基および置換フェニル基からなる群から選択され、複数の場合、それぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。上記置換フェニル基のフェニル環上の置換基としては、例えば、ハロゲン、C1−3アルキル基、C1−3ハロゲン化アルキル基およびこれらの組み合わせが挙げられる。上記tは、0から4までの整数であり、上記zは、0から3までの整数である。
上記式(22)で表されるポリアミドまたはポリエステルの繰り返し単位の中でも、下記一般式(23)で表されるものが好ましい。
上記式(23)中、A、A’およびYは、上記式(22)で定義したとおりであり、vは0から3の整数、好ましくは、0から2の整数である。xおよびyは、それぞれ0または1であるが、共に0であることはない。
A−5.光学補償フィルムの製造方法
以下、本発明の光学補償フィルムの製造方法の好ましい一例について説明する。この製造方法は、上記光学補償層形成材料の溶液または溶融液を基材フィルム(基材層)の両面に塗工する工程を含む。塗工は、基材フィルムの片面ずつ順番に行ってもよく、基材フィルムの両面に同時に行ってもよい。塗工方法としては、最終的に基材フィルムの両面に光学補償層が形成され得る限りにおいて任意の適切な方法が採用され得る。塗工方法の具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法が挙げられる。ディップコート法が好ましい。基材フィルムの両面に同時に塗工できるので、製造効率に優れるからである。
上記光学補償層形成材料の溶液における光学補償層形成材料濃度は、上記のような光学補償層が得られ、かつ塗工可能であれば、任意の適切な濃度が採用され得る。例えば、当該溶液は、溶媒100重量部に対して、光学補償層形成材料を好ましくは5〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部含む。このような濃度範囲の溶液は、塗工容易な粘度を有する。
上記光学補償層形成材料の溶液に用いられる溶媒は、上記光学補償層形成材料の種類に応じて適宜選択され得る。使用可能な溶媒の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;フェノール、バラクロロフェノール等のフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル系溶媒;あるいは二硫化炭素、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いられ得る。
上記光学補償層形成材料溶液は、必要に応じて、安定剤、可塑剤、金属類等の種々の添加剤をさらに含有し得る。
また、上記光学補償層形成材料溶液は、得られる光学補償層の光学特性が適切である限りにおいて、光学補償層形成材料とは異なる樹脂をさらに含有し得る。このような樹脂としては、例えば、各種汎用樹脂、エンジニアリングプラスチック、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。このような樹脂を併用することにより、目的に応じて適切な機械的強度や耐久性を有する光学補償層を形成することが可能となる。
上記汎用樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ABS樹脂、およびAS樹脂等が挙げられる。上記エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリアセテート(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA:ナイロン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、およびポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリイミド(PI)、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCT)、ポリアリレート(PAR)、および液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂等が挙げられる。
上記光学補償層形成材料溶液に添加される上記異なる樹脂の種類および量は、目的に応じて適宜設定され得る。例えば、このような樹脂は、上記光学補償層形成材料に対して、好ましくは0〜50質量%、さらに好ましくは0〜30質量%の割合で添加され得る。
上記光学補償層形成材料の溶融液は、当該光学補償層形成材料をその融点以上の温度に加熱することにより調製され得る。加熱温度は光学補償層形成材料の種類に応じて変化し得る。上記溶融液の塗工方法としては、最終的に基材フィルムの両面に光学補償層が形成され得る限りにおいて任意の適切な方法が採用され得る。塗工方法の具体例としては、溶液の場合と同様に、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法が挙げられる。上記溶融液は、必要に応じて、安定剤、可塑剤、金属類等の種々の添加剤をさらに含有し得る。
次いで、本発明の光学補償フィルムの製造方法は、上記基材フィルムに形成された上記光学補償層形成材料の溶液の塗工膜を乾燥させて、あるいは、上記基材フィルムに形成された上記光学補償層形成材料の溶融液の塗工膜を固化させて、光学補償層を形成する工程を含む。光学補償層形成材料の溶液を用いる場合、乾燥の方法としては任意の適切な方法(例えば、自然乾燥、加熱乾燥、風乾)が採用され得る。乾燥温度は、光学補償層形成材料の種類、溶媒の種類、目的とする光学補償層の光学特性等に応じて変化し得る。乾燥温度は、好ましくは20〜400℃、さらに好ましくは60〜300℃、最も好ましくは65〜250℃である。乾燥時間は、好ましくは0.5〜200分、さらに好ましくは1〜120分、最も好ましくは5〜100分である。乾燥は、一定温度で行ってもよく、温度を連続的または段階的に変化させながら行ってもよい。光学補償層形成材料の溶融液を用いる場合、固化の方法としては任意の適切な方法(例えば、冷却、放置)が採用され得る。溶融液の場合の固化温度もまた、光学補償層形成材料の種類、目的とする光学補償層の光学特性等に応じて変化し得る。固化温度は、好ましくは20〜400℃であり、さらに好ましくは60〜300℃であり、最も好ましくは65〜250℃である。固化時間は、好ましくは0.5〜200分、さらに好ましくは1〜120分、最も好ましくは5〜100分である。固化は、一定温度で行ってもよく、温度を連続的または段階的に変化させながら行ってもよい。乾燥または固化条件を目的に応じて制御することにより、所望の光学特性を有する光学補償層が得られ得る。
本発明の光学補償フィルムの製造方法は、必要に応じて、得られた光学補償層と基材フィルム(基材層)とを一体として延伸または収縮させる工程を含む。延伸方法としては、任意の適切な方法(例えば、固定端延伸)が採用され得る。延伸倍率は、目的とする光学補償層の光学特性に応じて適宜設定され得る。具体的には、延伸前の光学補償層および基材層の一体の長さに対して、好ましくは1.0001〜3.0倍、さらに好ましくは1.0005〜1.8倍、最も好ましくは1.001〜1.50倍である。このような範囲の延伸倍率であれば、延伸ムラが発生しにくいので、フィルム面内において屈折率のばらつきが生じにくい。延伸方向は、TD方向であってもよく、MD方向であってもよい。収縮方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。代表的には緩和法が採用され得る。収縮時における基材層の変形を防止できるからである。収縮率もまた、目的とする光学補償層の光学特性に応じて適宜設定され得る。具体的には、収縮前の光学補償層および基材層の一体の長さに対して、好ましくは0.90倍以上1.00倍未満、さらに好ましくは0.92〜0.99倍、最も好ましくは0.93〜0.98倍である。光学補償層を上記のようにして形成しただけでは上記式(1)〜(3)を満足しない場合であっても、このような延伸または収縮を行うことにより、当該式を満足するよう面内位相差および厚み方向位相差を微調整することができる。
B.偏光板
図2は、本発明の好ましい実施形態による偏光板の概略断面図である。この偏光板30は、偏光子31と、上記光学補償フィルム10とを有する。この偏光板は、必要に応じて任意の適切な保護フィルム(図示せず)を有する。保護フィルムは、代表的には、偏光子31の外側、光学補償フィルム10の外側、および/または、偏光子31と光学補償フィルム10との間に配置され得る。
偏光子としては、目的に応じて任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらのなかでも、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着させて一軸延伸した偏光子が、偏光二色比が高く特に好ましい。これら偏光子の厚さは特に制限されないが、一般的に、5〜80μm程度である。
ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させて一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸や硫酸亜鉛、塩化亜鉛等を含んでいても良いし、ヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗しても良い。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸しても良いし、また延伸してからヨウ素で染色しても良い。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液中や水浴中でも延伸することができる。
C.画像表示装置
C−1.液晶表示装置(液晶パネル)
図3は、本発明の好ましい実施形態による液晶パネルの概略断面図である。液晶パネル100は、液晶セル20と、液晶セル20の外側の一方に配された光学素子15と、光学素子15の外側に配された偏光子31と、液晶セル20の光学素子15が設けられていない側に配された偏光子31’とを備える。偏光子31、31’は、代表的には、その偏光軸が互いに直交するようにして配置されている。液晶セル20は、一対のガラス基板21、21’と、該基板間に配された表示媒体としての液晶層22とを有する。一方の基板(アクティブマトリクス基板)21には、液晶の電気光学特性を制御するスイッチング素子(代表的にはTFT)と、このアクティブ素子にゲート信号を与える走査線およびソース信号を与える信号線とが設けられている(いずれも図示せず)。他方のガラス基板(カラーフィルター基板)21’には、カラーフィルター(図示せず)が設けられる。なお、カラーフィルターは、アクティブマトリクス基板21に設けてもよい。基板21、21’の間隔(セルギャップ)は、スペーサー(図示せず)によって制御されている。基板21、21’の液晶層22と接する側には、例えばポリイミドからなる配向膜(図示せず)が設けられている。
本発明の好ましい実施形態によれば、光学素子15は、上記光学補償フィルム10および/または偏光板30を含む。すなわち、光学素子15は、上記光学補償フィルム10単独で構成されてもよく、偏光子31と光学補償フィルム30とを有する形態(上記B項に記載したような、いわゆる位相差板付偏光板または偏光板付位相差板の形態)で構成されてもよい。代表的には、図3に示すように、光学素子15は、光学補償フィルム10単独で構成される。光学素子15がいずれの形態で提供されても、本発明の液晶パネル100は、図3に示すように、液晶セル20のバックライト側に光学補償フィルム10と、その外側に偏光子31とを有する。光学素子15は、液晶セル20のバックライト側に配置されるのが好ましい。理論的には明らかではないが、基材層の両側に上記のような光学補償層を有する光学補償フィルム(光学素子)を液晶セル20の片側かつバックライト側に配置することにより、非常に優れたコントラストを有し、かつ、カラーシフトが防止された液晶表示装置が得られ得る。このような効果は、実際に液晶表示装置を作製してはじめて得られた知見であり、予期せぬ優れた効果である。
偏光子31および31’は、多くの場合、通常の偏光板の形態として提供される。なお、任意の適切な透明保護フィルム(図示せず)が、必要に応じて偏光子の少なくとも片側に配置される。
液晶セル20の表示モードとしては、本発明の効果が得られる限りにおいて任意の適切な表示モードが採用され得る。代表的には、VA(Vertical Alignment)モードまたはOCB(Optically Compensated Birefringence)モードである。本発明の光学素子15(光学補償フィルム10)と組み合わせると、視野角補償およびコントラストの改善が著しいからである。
図4は、VAモードにおける液晶分子の配向状態を説明する概略断面図である。図4(a)に示すように、電圧無印加時には、液晶分子は基板21、21’面に垂直に配向する。このような垂直配向は、垂直配向膜(図示せず)を形成した基板間に負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を配することにより実現され得る。このような状態で一方の基板21の面から光を入射させると、偏光子31を通過して液晶層22に入射した直線偏光の光は、垂直配向している液晶分子の長軸の方向に沿って進む。液晶分子の長軸方向には複屈折が生じないため入射光は偏光方位を変えずに進み、偏光子31と直交する偏光軸を有する偏光子31’で吸収される。これにより電圧無印加時において暗状態の表示が得られる(ノーマリブラックモード)。図4(b)に示すように、電極間に電圧が印加されると、液晶分子の長軸が基板面に平行に配向する。この状態の液晶層22に入射した直線偏光の光に対して液晶分子は複屈折性を示し、入射光の偏光状態は液晶分子の傾きに応じて変化する。所定の最大電圧印加時において液晶層を通過する光は、例えばその偏光方位が90°回転させられた直線偏光となるので、偏光子31’を透過して明状態の表示が得られる。再び電圧無印加状態にすると配向規制力により暗状態の表示に戻すことができる。また、印加電圧を変化させて液晶分子の傾きを制御して偏光子31’からの透過光強度を変化させることにより階調表示が可能となる。
図5は、OCBモードにおける液晶分子の配向状態を説明する概略断面図である。OCBモードは、液晶層22をいわゆるベンド配向といわれる配向によって構成する表示モードである。ベンド配向とは、図5(c)に示すように、液晶分子の配向が基板近傍においてはほぼ基板と平行の角度(配向角)を有し、配向角は液晶層の中心に向かうにしたがって基板表面に対して垂直な角度を呈し、液晶層の中心から離れるにしたがって対向する基板表面と平行になるように漸次連続的に変化し、かつ、液晶層22全体にわたってねじれ構造を有しない配向状態をいう。このようなベンド配向は、以下のようにして形成される:図5(a)に示すように、何ら電界等を付与していない状態(初期状態)では、液晶分子は実質的にホモジニアス配向をとっている。ただし、液晶分子は、プレチルト角を有し、かつ、基板21近傍のプレチルト角と基板21’近傍のプレチルト角とが異なっている。ここに所定のバイアス電圧を印加すると、図5(b)に示すようなスプレイ配向を経て、図5(c)に示すようなベンド配向への転移が実現され得る。ベンド配向状態からさらに表示電圧を印加すると、液晶分子は図5(d)に示すように基板表面に対して垂直に立ち上がる。その結果、偏光子31を通過して液晶層22に入射した直線偏光の光は、偏光方位を変えずに進み、偏光子31と直交する偏光軸を有する偏光子31’で吸収される。したがって、暗状態の表示となる。表示電圧をOFFにすると配向規制力によりベンド配向に戻り、明状態の表示に戻すことができる。また、表示電圧を変化させて液晶分子の傾きを制御して偏光子31’からの透過光強度を変化させることにより階調表示が可能となる。OCBモードは、動画表示特性に優れる。
本発明の液晶パネルは、パーソナルコンピューター、液晶テレビ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、プロジェクター等の液晶表示装置に好適に用いられる。
C−2.自発光型表示装置
本発明は、液晶表示装置のみならず、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置にも適用され得る。ここでは、一例として有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置について説明する。
図6は、本発明の好ましい実施形態による有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置の概略断面図である。この有機EL表示装置600は、透明基板610と、透明基板610上に順次形成された透明電極620、有機発光層630および対向電極640と、これらを覆うように配された無機保護膜660および樹脂保護膜670とを備える。透明電極620と対向電極640とが重なっている領域における透明電極620、有機発光層630および対向電極640が画素650となる。
有機EL表示装置においては、有機発光層630の発光を取り出すために、少なくとも1つの電極が透明であることが必要とされる。したがって、代表的には、透明電極620は、透明導電膜であるITO(Indium Tin Oxide)膜から構成され、陽極として使用される。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数が小さい物質を用いることが重要である。したがって、代表的には、対向電極640は、Mg−Ag、Al−Li等の金属膜から構成され、陰極として使用される。
有機発光層630は、種々の有機薄膜の積層体である。図示例では、有機発光層630は、正孔注入性有機材料(例えば、トリフェニルアミン誘導体)からなり、陽極からの正孔注入効率を向上させるべく設けられた正孔注入層631と、発光性有機物質(例えば、アントラセン)からなる発光層632と、電子注入性材料(例えば、ペリレン誘導体)からなり、陰極からの電子注入効率を向上させるべく設けられた電子注入層632とを有する。有機発光層630は、図示例に限定されず、発光層632において電子と正孔とが再結合して発光を生じさせ得る任意の適切な有機薄膜の組み合わせが採用され得る。
透明電極−対向電極間に閾値以上の電圧を印加すると、陽極から正孔が供給され、正孔注入層631を経て発光層632に達する。一方、陰極からは電子が供給され、電子注入層633を経て発光層632に達する。発光層632において正孔と電子とが再結合することによって生じるエネルギーが、発光層中の発光性有機物質を励起し、励起された発光性有機物質が基底状態に戻る際に光を放射し、発光する。所望の画素ごとに電圧を印加して有機発光層を発光させることにより、画像表示が可能となる。カラー表示を行う場合には、例えば隣接する3つの画素の発光層を、それぞれ赤(R)、緑(G)および青(B)の発光を示す発光性有機物質で構成してもよく、任意の適切なカラーフィルターを発光層の上に設けてもよい。
このような有機EL表示装置においては、有機発光層630の厚みは、できる限り薄いことが好ましい。発光した光を可能な限り透過させることが好ましいからである。有機発光層630は、例えば、厚み10nm程度のきわめて薄い膜で構成され得る。その結果、非発光時(黒状態)において、透明基板610の表面から入射して、透明電極620および有機発光層630を透過し、対向電極640で反射した光が、再び透明基板610の表面側へ出る。このため、外部から視認した場合に、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見えることが多い。このような黒状態における反射を防止するという観点から、偏光板と位相差板(光学補償フィルム)とを透明電極620の表面に配置することが好ましい。偏光板は、外部から入射して金属電極で反射した光が偏光する作用を有するので、その偏光作用により表示面の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度をπ/4に調整し、かつ、位相差板の全体の位相差が可視波長の1/4となるように調整することにより、上記表示面の鏡面を実質的に完全に遮蔽することができる。具体的には、このような偏光板と位相差板とが配置された有機EL表示装置においては、入射する外部光は、当該偏光板によって直線偏光成分のみが透過する。直線偏光は、位相差板によって一般には楕円偏光となるが、位相差板の全体の位相差が可視波長の1/4であり、かつ、位相差板の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角度がπ/4である場合には円偏光となる。この円偏光は、透明基板610、透明電極620および有機発光層630を透過し、対向電極640で反射し、再び有機発光層630、透明電極620および透明基板610を透過し、上記位相差板で再び直線偏光となる。この直線偏光は、上記偏光板の偏光方向と直交しているので当該偏光板を透過できない。その結果、上記表示面の鏡面を実質的に完全に遮蔽することができる。
本発明の光学補償フィルムは、単独で、または他の光学補償フィルム(位相差板)と組み合わせて、全体の位相差を可視波長の1/4近傍に設定することが容易であるので、有機EL表示装置に好適に用いられ得る。また、本発明の偏光板は、適切な位相差を有する光学補償層と偏光子とを有するので、有機EL表示装置の薄型化を実現すると同時に、上記の優れた遮蔽効果を有する。したがって、本発明の光学補償フィルムおよび偏光板はいずれも、このような有機EL表示装置に非常に有用である。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における各特性の測定方法は以下の通りである。
(1)位相差の測定
試料フィルムの屈折率nx、nyおよびnzを、自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製,自動複屈折計KOBRA21−ADH)により計測し、面内位相差Δndおよび厚み方向位相差Rthを算出した。測定温度は23℃、測定波長は590nmであった。
(2)コントラスト比の測定
作製した液晶表示装置に白画像および黒画像を表示させ、ELDIM社製 商品名 「EZ Contrast160D」により、視認側の偏光子の吸収軸に対して45°−135°方向に、かつ、法線に対して−60°から60°までスキャンさせた。そして、白画像におけるY値(YW)と、黒画像におけるY値(YB)とから、斜め方向のコントラスト比「YW/YB」を算出した。
(3)カラーシフト
ELDIM社製 商品名 「EZ Contrast160D」を用いて、視認側の偏光子の吸収軸に対して45°−135°方向に、かつ、法線に対して−80°〜80°までスキャンさせて液晶表示装置の色調を測定し、色度図上にプロットした。なお、コントラストとカラーシフトは、「EZ Contrast160D」により、同時に測定される。