JP2006098281A - 電気化学的分析・測定用電極及び電気化学的分析・測定装置、並びに被検物質濃度の電気化学的分析・測定方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 作用電極と対電極並びに参照電極を被検溶液に浸漬又は接触させ、前記作用電極と対電極との間に電圧を印加したときに両極間に流れる電流の変化を検出することにより被検物質の濃度を測定する際に、作用電極として表面に金,白金,銀,パラジウム,ルテニウム,ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素がイオン注入された導電性ダイヤモンドを用いることにより、前記イオン注入した元素の触媒作用により作用電極表面での被検物質の電気化学的酸化反応を促進させ、そのときの電流値の大小により、被検溶液中に含まれる被検物質の濃度を簡便に、かつ高精度で分析する。
【選択図】 図2
Description
なお、図1中、4aはポテンシャルスイーパ、4bはレコーダである。
しかしながら、グラッシーカーボン電極も長時間にわたって繰り返し使用されると測定精度が低下して、長期間安定して正確な測定を行なうことができなくなるといった問題点があるため、昨今では導電性を付与したダイヤモンド薄膜が作用電極に用いられるようになっている。
また特許文献3には、気相法により基体上にダイヤモンドを合成する際に、ホウ素(B)等の不純物をドープさせて導電性を付与したダイヤモンドを上記電極に用いることも提案されている。
そして、高濃度でホウ素をドープしたホウ素ドープ型導電性ダイヤモンド電極は、広い電位窓と、他の電極材料と比較してバックグランド電流が小さいといった有利な性質を持っている。さらに、物理的,化学的に安定で耐久性に優れるといった特徴を有している。このために、近年、電気化学的分析・測定用の電極として、ホウ素をドープした導電性ダイヤモンド薄膜が多用されるようになっている(例えば特許文献4)。
地下水に限らずヒ素ないしその化合物が、人体等に悪影響を及ぼす場合が多々ある。例えば、ヒ素鉱山ではヒ素含有鉱物を採掘して無水亜ヒ酸を製造している。或いは亜鉛精錬所においては、カドミウムを還元回収する際の脱カドミ浄液工程でアルシン(AsH3)が発生する。ヒ化ガリウム(GaAs)やヒ化イリジウム(IrAs)を取り扱う半導体工場においてもヒ素化合物を含む廃棄物が発生する。また、光学ガラスや電気ガラス等の特殊ガラスを製造する過程で清澄剤として無水亜ヒ酸が使用される場合もある。さらには、ヒ素化合物が木材の防腐剤やシロアリ駆除剤として使用された時期もある。
ヒ素濃度の一般的な定量法としては、例えば蛍光分析法や原子吸光法等が挙げられるが、いずれの方法を用いようとしても装置が高価で、測定に手間と時間が掛かるといった問題点があるため、地下水等に含まれるヒ素を簡便に定量しようとする際には適用し難い。そこで、地下水等に電気化学的分析・測定法を適用して、地下水等に含まれるヒ素を定量することが想定される。
同様に、広い電位窓を有するホウ素ドープ型導電性ダイヤモンド電極を用いても、電気化学的に酸化反応を起こし難い物質の濃度の測定は行い難い。
また、本発明の電気化学的分析・測定装置は、被検溶液に浸漬又は接触される作用電極と対電極並びに参照電極、前記作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加手段、及び両電極間に流れる電流を測定する電流測定手段を備えた電気化学的分析・測定用装置であって、作用電極として表面に金,白金,銀,パラジウム,ルテニウム,ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素がイオン注入された導電性ダイヤモンドが用いられていることを特徴とする。
いずれの発明にあっても、導電性ダイヤモンドとしては、ホウ素ドープ型気相合成ダイヤモンドが好ましい。
なお、電流ピーク値を予め作成しておいた検量線と比較することにより被検溶液中に含まれる被検物質の濃度を容易に確定することができる。
その結果、電気化学的酸化反応を起こし難い被検物質を、触媒作用を有する物質の存在下でその反応を促進させ、そのときの反応電位に対する電流密度の変化で当該被検物質の存在及びその存在量を知ることができることを見出したものである。
そして、予備実験を繰り返すことにより、金,白金,銀,パラジウム,ルテニウム,ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素が被検物質の電気化学的酸化反応を促進させる触媒機能を果たすこと、当該元素が導電性ダイヤモンド電極の表面にイオン注入されていると反復利用できることを見出した。
以下に、本発明を詳細に説明する。
炭素、ホウ素を含ませたH2ガスを流している成膜装置内にマイクロ波を与えてプラズマ放電を起こさせると、成膜用ガス中の炭素源から炭素ラジカルが生成し、基板にSi単結晶上にsp3構造を保ったまま、かつホウ素を混入しながら堆積してダイヤモンドの薄膜が形成される。
本来、上記元素に被検物質の電気化学的酸化反応を促進させる触媒作用を負わせるのであれば、当該元素が電極表面上に担持されていれば足りる。しかしながら、作用電極は溶液中に浸漬され、或いは溶液に接触される形態で使用されるために、上記元素の担持態様は耐久性に優れた付着強度の高い形態が好ましい。使用時間が長くなるにつれて少なくなったり、容易に剥がれて除去されたりするような担持態様では、触媒的な作用を長時間にわたって維持することはできない。ちなみにPtをダイヤモンド表面に電気化学的に付着させても、多数回にわたって使用すると、Ptは殆ど機能しなくなるほどに減少してしまうという報告もある(F.Montilla et al./Electrochimica Acta 48(2003)3891-3897)。
なお、イオン注入時には、イオン化された元素の混入とともにエネルギーによる照射損傷が生じる。このため、照射損傷の回復と、格子間位置に混入された注入元素を移動させるために熱処理(アニーリング)を行う。このアニーリングにより、損傷を受けた表層部は下地結晶の原子配列にならって本来の結晶構造に戻る。この過程で注入された元素は表面に露出し、その元素が所望の触媒機能を発揮することになる。
なお、ダイヤモンドにイオン注入することで注入領域が照射損傷されアモルファス化される。前記特許文献2では、5×1015/cm2以上のイオン注入によってダイヤモンド構造を破壊して導電性を付与しているが、本発明で電極として用いるダイヤモンド薄膜は既に導電性付与のためにホウ素がドープされているので、必要以上の注入量とすることは却って好ましくない。イオン注入する元素の種類にもよるが、注入量が1015/cm2以下であれば、その後のアニーリングによりダイヤモンドの結晶構造が回復されて電気化学的特性を保持し、ダイヤモンド電極として使用可能である。しかし、注入量が1015/cm2を大幅に超えると、ダイヤモンド構造が完全に破壊され、アニーリングによっても元に戻らない。
したがって、上記金,白金,銀,パラジウム,ルテニウム,ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素のイオン注入量は1〜10×1014/cm2程度とすることが好ましい。
電気化学的分析・測定装置としては基本的には図1に示されるような装置で十分である。必ずしも専用の容器を用いる必要はなく、被検溶液に浸漬される、或いは被検溶液に同時に接触される作用電極と対電極並びに参照電極、及び電圧印加手段と電流測定手段を備えていれば足りる。
ヒ素を含有する被検溶液を図2に示す電気化学的測定装置に入れ、Irをイオン注入したホウ素ドープ型のダイヤモンド電極を作用電極に使用して、電流密度−電位曲線を求めた。
電流密度−電位曲線は、参照電極に対する作用電極の電位をポテンシャルスイーパーの作動により自然電極電位から負電位方向に、そして負電位方向から自然電極電位を経て正電位方向に、さらに正電位方向から自然電極電位方向に所定の走査速度で電位スイープさせたときの応答電流をモニターすることにより作成できる。大よそ図3に示す形態の電流密度−電位曲線を呈する。
また、電流変化のピーク値は含まれる被検物質の濃度に比例している。したがって、電気化学的酸化反応を起こさせる電位値を一定にして、その電位値での電流値と被検物質の濃度との関係を予め求めておけば、その関係から、得られた電流値に対応する被検溶液中の被検物質の濃度を容易に知ることができることになる。
後述の実施例に、実際に水溶液中のNaAsO2の濃度を測定した例を紹介している。
イリジウム(Ir)を触媒として、Asの電気化学的酸化反応が進行するとき、次のような反応が起こっていると予測される。
すなわちIrの還元体が酸化体になる酸化反応に伴い、As(III)→As(V)の反応、つまり三価のヒ素が五価のヒ素に酸化される反応を起こすことになる。
したがって、Asを三価の形で含むAsH3,AsCl3,AsF3,As2O3等は、触媒としてIrを使用することによりその電気化学的な酸化反応を検知することができ、その際の電流値からそれらの濃度を知ることができることになる。
これらの金(Au),白金(Pt),銀(Ag),パラジウム(Pd),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh)及びイリジウム(Ir)は非常に触媒活性の高い元素である。このため、ヒ素ないしヒ素化合物のみならず、電気化学的に酸化反応を起こし難いシュウ酸,グルコース,インシュリン等であっても、ダイヤモンド電極に担持された上記元素の触媒作用により、ダイヤモンド電極表面上において比較的低い電位下で酸化反応を起こさせることができ、そのときの電流変化でその酸化反応が起こったことを知る、すなわち、被検物質の存在を知ることができる。
また、予め検量線を作成しておけば、一定電位付加時に流れる電流の測定値から、被検物質の濃度を容易に知ることができる。
しかも、作用電極としてバックグラウンド電流が小さく、かつ電流値のノイズが小さい導電性ダイヤモンドを用いているので、精度良く測定することができる。
アニールされたイオン注入ダイヤモンド薄膜を図2に示す装置の作用電極に適用した。そして、対電極にPt電極を、参照電極にAg/AgCl電極を用いた。
比較のために、イリジウム金属そのものを作用電極に用い、同じ1.0 mM濃度のNaAsO2溶液について全く同様に電流密度−電位曲線を作成したところ、図5に示すものが得られた。なお、結果の明示は省くが、イオン注入していないダイヤモンドそのものを作用電極に用い、全く同様の試験を行ったところ、NaAsO2の有無によっても電流密度−電位曲線が全く変化しないことを確認している。
これらの結果は、イオン注入されたダイヤモンド電極のバックグラウンド電流が小さいと言う特性を利用することにより、ヒ素(As)の電気化学的酸化反応がイリジウムの触媒作用で進行していることを判定できることを示している。
すなわち、図7に示す関係線が、いわゆる検量線として利用できることがわかった。
Claims (8)
- 表面に金,白金,銀,パラジウム,ルテニウム,ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素がイオン注入された導電性ダイヤモンドからなる電気化学的分析・測定用電極。
- 導電性ダイヤモンドが、ホウ素ドープ型気相合成ダイヤモンドである請求項1に記載の電気化学的分析・測定用電極。
- 被検溶液に浸漬又は接触される作用電極と対電極並びに参照電極、前記作用電極と対電極との間に電圧を印加する電圧印加手段、及び両電極間に流れる電流を測定する電流測定手段を備えた電気化学的分析・測定用装置であって、作用電極として表面に金,白金,銀,パラジウム,ルテニウム,ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素がイオン注入された導電性ダイヤモンドが用いられていることを特徴とする電気化学的分析・測定装置。
- 導電性ダイヤモンドが、ホウ素ドープ型気相合成ダイヤモンドである請求項3に記載の電気化学的分析・測定装置。
- 作用電極と対電極並びに参照電極を被検溶液に浸漬又は接触させ、前記作用電極と対電極との間に電圧を印加したときに両極間に流れる電流の変化を検出することにより被検物質の濃度を測定する方法であって、作用電極として表面に金,白金,銀,パラジウム,ルテニウム,ロジウム及びイリジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素がイオン注入された導電性ダイヤモンドを用いることにより、被検溶液中に含まれる被検物質の濃度を測定することを特徴とする電気化学的分析・測定方法。
- 導電性ダイヤモンドが、ホウ素ドープ型気相合成ダイヤモンドである請求項5に記載の電気化学的分析・測定方法。
- 電流ピーク値を予め作成しておいた検量線と比較することにより被検溶液中に含まれる被検物質の濃度を測定する請求項5又は6に記載の電気化学的分析・測定方法。
- 被検物質がヒ素及びヒ素化合物である請求項5〜7の何れかに記載の電気化学的分析・測定方法。
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