JP2006089872A - 不織布の製造方法 - Google Patents

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剛 小林
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Abstract

【課題】 イオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等に優れ、各種用途に適用できる不織布の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の不織布の製造方法は、熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂繊維と、前記熱可塑性樹脂繊維の融点よりも高い融点又は炭化温度を有する樹脂からなる耐熱性繊維とを用いて繊維ウエブを形成する繊維ウエブ形成工程、この繊維ウエブ全面にレーザーを照射することにより、前記熱可塑性樹脂繊維のみを溶融させて繊維形態を消滅させるとともに、溶融した熱可塑性樹脂を耐熱性繊維の交点に凝集させて、凝集繊維ウエブを形成する凝集工程、前記凝集した熱可塑性樹脂を無圧下で凝固させる凝固工程、を備えている。
【選択図】 図3

Description

本発明は不織布の製造方法に関する。
従来から不織布は、繊維、繊維ウエブの形成方法、繊維ウエブの結合方法、及び後加工を適宜選択し、組み合わせることによって、各種特性をもつことができるため、様々な用途に適用されている。
例えば、不織布の特性の1つである電気絶縁性能を利用した1つの用途として、電気二重層キャパシタのセパレータ用途がある。つまり、電気二重層キャパシタはイオン性溶液中に1対の電極が浸漬された構造を有し、電極に電圧を印加すると、電極と反対符号のイオンが電極の近傍に分布してイオンの層を形成する一方で、電極の内部にイオンと反対符号の電荷が蓄積される。そのため、電極間に負荷をつなげば、電極内部の電荷が放電されるとともに、電極近傍に分布していたイオンは電極近傍から離れて中和状態に戻る。このような電気二重層キャパシタにおいて、1対の電極同士が接触してしまうと、電極近傍においてイオンの層を形成することが困難になるため、1対の電極間にセパレータが配置されている。
このような不織布からなる電気二重層キャパシタ用セパレータとして、「融点または熱分解温度が250℃以上で、平均繊維長0.3mm〜2mm、少なくとも一部が繊維径1μm以下にフィブリル化された液晶性高分子繊維を含有してなる不織布であって、空隙率が68%〜85%である不織布からなる電気二重層キャパシタ用セパレータ」が提案されている(特許文献1)。この電気二重層キャパシタ用セパレータは、実際にはポリエステル芯成分と変性ポリエステル鞘成分からなる芯鞘複合繊維を含む湿式繊維ウエブを形成した後に、加熱ドラムと接触させることによって製造している。このセパレータは電気絶縁性能が優れているものの、芯鞘複合繊維が加圧融着していることによって皮膜が形成されているため、内部抵抗が高く、イオン透過性の悪いものであった。
このような不織布からなる電気二重層キャパシタ用セパレータに対して、本願出願人は「フィブリルを有する繊維と、繊度が0.45dtex(デシテックス)以下の細ポリエステル繊維とを含む、面密度が20〜40g/mで、厚さが30〜50μmで、見掛密度が0.5g/cmを越え、0.8g/cm以下の不織布からなる電気二重層キャパシタ用セパレータ」を提案した(特許文献2)。この電気二重層キャパシタ用セパレータは、実際には湿式繊維ウエブを細ポリエステル繊維の融点よりも低い温度の熱カレンダーによって加熱加圧することによって製造していた。この電気二重層キャパシタ用セパレータは細ポリエステル繊維が溶融しておらず、皮膜を形成していないため、特許文献1の電気二重層キャパシタよりも内部抵抗が低く、イオン透過性に優れるものであったが、内部抵抗が更に低く、イオン透過性の更に優れる電気二重層キャパシタ用セパレータが待望されていた。
このように、不織布は分離性能、液体保持性能、払拭性、隠蔽性などの各種性能に優れているものの、逆にイオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等が悪く、各種用途に適用する場合に障害となる場合があった。例えば、上記電気二重層キャパシタ用セパレータ用途以外に、気体又は液体濾過材用途、リチウムイオン二次電池用セパレータ用途、アルカリ二次電池用セパレータ用途、積層板用基材用途、電極支持材用途、ワイピング材用途、医療用基材用途、複写機等の定着部用クリーニングシート用途に適用する場合に、前記性能が劣るため適用できない場合があった。
特開2002−266281号公報(請求項1、請求項7、請求項12、実施例など) 特開2002−270471号公報(請求項1、請求項4、実施例など)
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、イオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等に優れ、各種用途に適用できる不織布の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは前述のようなイオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等が良くない原因について追求したところ、不織布の緻密な構造に加えて、繊維が加圧融着してフィルム化していること、又は圧着して繊維状形態を維持していることに起因することを突き止めた。本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
本発明の請求項1にかかる発明は、「熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂繊維と、前記熱可塑性樹脂繊維の融点よりも高い融点又は炭化温度を有する樹脂からなる耐熱性繊維とを用いて繊維ウエブを形成する繊維ウエブ形成工程、この繊維ウエブ全面にレーザーを照射することにより、前記熱可塑性樹脂繊維のみを溶融させて繊維形態を消滅させるとともに、溶融した熱可塑性樹脂を耐熱性繊維の交点に凝集させて、凝集繊維ウエブを形成する凝集工程、前記凝集した熱可塑性樹脂を無圧下で凝固させる凝固工程、を備えていることを特徴とする不織布の製造方法」である。
本発明の請求項2にかかる発明は、「凝集工程の後に、熱処理をして熱可塑性樹脂を結晶化させる結晶化工程、を更に備えていることを特徴とする請求項1記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項3にかかる発明は、「凝集工程において、熱風が繊維ウエブを透過するように熱風を吹き付けることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項4にかかる発明は、「耐熱性繊維が融点又は炭化温度が300℃以上の樹脂からなり、熱可塑性樹脂繊維が200℃以上、かつ耐熱性繊維の融点又は炭化温度よりも低い融点をもつ熱可塑性樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項5にかかる発明は、「熱可塑性樹脂繊維量が繊維ウエブ全体の10〜60mass%であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項6にかかる発明は、「熱可塑性樹脂繊維がポリエステル樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項7にかかる発明は、「耐熱性繊維として、フィブリルを有する耐熱性繊維を含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項8にかかる発明は、「耐熱性繊維として、全芳香族ポリアミド繊維又は全芳香族ポリエステル繊維を含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項9にかかる発明は、「熱可塑性樹脂繊維の繊度が0.45dtex以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかに記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項10にかかる発明は、「電気二重層キャパシタ用セパレータとして用いる不織布であることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の不織布の製造方法」である。
本発明の請求項1にかかる発明によれば、繊維ウエブ全面にレーザーを照射することにより、熱可塑性樹脂繊維の繊維形態を消滅させ、耐熱性繊維の交点に非繊維状態で凝集させ、凝固させているため、熱可塑性樹脂繊維の占めていた空間が形成される。したがって、イオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等に優れる不織布を製造することができる。
本発明の請求項2にかかる発明によれば、熱可塑性樹脂を結晶化させているため、高温下で外力が加わる用途に使用したとしても、構造変化が生じにくく所望の性能を発揮できる、熱安定性に優れる不織布を製造できる。
本発明の請求項3にかかる発明によれば、レーザーの照射に加えて、熱風が繊維ウエブを透過するように熱風を吹き付けているため、熱が十分に伝わり、熱可塑性樹脂繊維の繊維形態を消滅させやすいとともに、熱風の透過により熱可塑性樹脂を押し分け、熱可塑性樹脂を耐熱性繊維の交点に移動させて凝集させやすい、という効果を奏する。
本発明の請求項4にかかる発明によれば、耐熱性繊維、熱可塑性樹脂繊維ともに耐熱性に優れているため、各種用途に適用できる不織布を製造できる。
本発明の請求項5にかかる発明によれば、機械的強度に優れているため取り扱いやすい不織布を製造できる。
本発明の請求項6にかかる発明によれば、耐熱性に優れ、各種用途に適用できる不織布を製造できる。
本発明の請求項7にかかる発明によれば、緻密な構造を有する不織布をできるため、電気絶縁性、分離性能、液体保持性能、払拭性、或いは隠蔽性などの各種性能にも優れる不織布を製造できる。
本発明の請求項8にかかる発明によれば、耐熱性に優れ、耐熱性を必要とする用途に適用できる不織布を製造できる。
本発明の請求項9にかかる発明によれば、熱可塑性樹脂繊維が細いため、熱可塑性樹脂繊維が繊維形態でなくなり、空間を形成することによる耐熱性繊維の均一分散性を損なわず、また、不織布全体にわたって均一に凝固した不織布を製造することができる。
本発明の請求項10にかかる発明によれば、内部抵抗が低く、イオン透過性に優れる電気二重層キャパシタ用セパレータ用の不織布を製造することができる。
本発明の不織布の製造方法においては、レーザーを照射することにより溶融させて繊維形態を消滅させ、耐熱性繊維の交点に凝集できるように、熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂繊維を使用する。
この熱可塑性樹脂繊維は後述の耐熱性繊維の融点又は炭化温度よりも低い融点(好ましくは20℃以上低い融点、より好ましくは30℃以上低い融点)をもつ熱可塑性樹脂から構成されていれば良く、特に限定するものではないが、例えば、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなど)、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ−4−メチルペンテン−1など)、ポリ塩化ビニリデン樹脂、などを挙げることができる。これら熱可塑性樹脂の中でも、耐熱性に優れているように、200℃以上(好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上)の融点をもつ熱可塑性樹脂からなるのが好ましく、このような200℃以上の融点をもつ熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなど)、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、などを挙げることができ、これらの中でも、耐熱性に優れているポリエステル樹脂が好適である。
熱可塑性樹脂繊維の繊度は特に限定するものではないが、0.45dtex以下であるのが好ましい。熱可塑性樹脂繊維はレーザーの照射によって繊維形態を消滅させ、溶融した熱可塑性樹脂を耐熱性繊維の交点で凝集させるが、熱可塑性樹脂繊維が細ければ細いほど、熱可塑性樹脂繊維が繊維形態でなくなることによって形成される空間も小さくなり、耐熱性繊維の均一分散性を損なわず、また、不織布全体にわたって均一に熱可塑性樹脂を凝集させ、凝固させることができるためである。より好ましい繊度は0.35dtex以下であり、更に好ましい繊度は0.25dtex以下であり、最も好ましい繊度は0.15dtex以下である。熱可塑性樹脂繊維の繊度の下限は特に限定するものではないが、0.01dtex程度であるのが好ましい。この「繊度」はJIS L 1015に規定されているA法により得られる値をいう。
なお、熱可塑性樹脂繊維の繊維長は繊維ウエブの形成方法によって異なり、特に限定するものではないが、1〜160mm程度であるのが好ましい。繊維の均一分散性に優れる湿式不織布を製造する場合には、熱可塑性樹脂繊維の繊維長は1〜25mmであるのが好ましく、3〜20mmであるのがより好ましい。この繊維長はJIS L 1015のB法(補正ステープルダイヤグラム法)により得られる長さをいう。
このような熱可塑性樹脂繊維量は機械的強度の優れる不織布を製造できるように、繊維ウエブ全体の10mass%以上であるのが好ましく、20mass%以上であるのがより好ましい。他方、後述の耐熱性繊維との関係から、60mass%以下であるのが好ましく、50mass%以下であるのがより好ましく、40mass%以下であるのが更に好ましい。なお、熱可塑性樹脂繊維は樹脂組成、繊度、及び/又は繊維長の点で異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を使用しても良い。2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を使用する場合には、その合計質量が前記範囲内にあるのが好ましい。
本発明においては、不織布形態を保つことができるように、上述のような熱可塑性樹脂繊維に加えて、熱可塑性樹脂繊維の融点よりも高い(好ましくは20℃以上高い、より好ましくは30℃以上高い)融点又は炭化温度を有する樹脂からなる耐熱性繊維を使用する。この耐熱性繊維は熱可塑性樹脂繊維の融点よりも高い融点又は炭化温度を有する樹脂から構成されていれば良く、前述の熱可塑性樹脂繊維と同様の熱可塑性樹脂繊維を使用することもできる。しかしながら、耐熱性に優れ、各種用途に適用できるように、融点又は炭化温度が300℃以上の樹脂からなる耐熱性繊維を使用するのが好ましい。より具体的には、「融点が300℃以上の樹脂」として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイドなどを挙げることができ、また、「炭化温度が300℃以上の樹脂」としては、メタ系全芳香族ポリアミド、パラ系全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリベンゾイミダゾール、全芳香族ポリエステルなどを挙げることができる。これらの中でも、全芳香族ポリアミド(メタ系全芳香族ポリアミド、パラ系全芳香族ポリアミド)又は全芳香族ポリエステルは耐熱性に優れているため好適である。この好適である全芳香族ポリアミド耐熱性繊維及び/又は全芳香族ポリエステル耐熱性繊維は、耐熱性に優れているように、耐熱性繊維の50mass%以上を占めているのが好ましく、耐熱性繊維の70mass%以上を占めているのがより好ましく、耐熱性繊維の90mass%以上を占めているのが更に好ましく、耐熱性繊維の100mass%を占めているのが最も好ましい。
本発明における「融点」はJIS K 7121に規定されている示差熱分析により得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)から得られる温度をいい、「炭化温度」はJIS K 7120に規定されている熱重量測定により得られる温度をいう。
耐熱性繊維、特に、全芳香族ポリアミド耐熱性繊維及び/又は全芳香族ポリエステル耐熱性繊維を用いて製造した不織布は、電気二重層キャパシタ用セパレータとして好適に使用できる。例えば、有機電解液を使用する電気二重層キャパシタは個々の材料(例えば、集電極、電極、セパレータなど)が水分を含んでいると、耐電圧の高い電気二重層キャパシタやエネルギー密度の高い電気二重層キャパシタを製造することが困難であるため、個々の材料を十分に乾燥する必要があるが、このような耐熱性繊維を用いて製造した不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)、集電極、及び電極を組み立てた後に、温度150℃以上の温度で同時に乾燥することができるため、耐電圧の高い電気二重層キャパシタやエネルギー密度の高い電気二重層キャパシタを容易に製造することができる。このような耐熱性繊維を使用して製造した不織布は熱安定性に優れており、温度150℃以上の温度下においても機械的強度が変化しにくいものであるため、電気二重層キャパシタ用セパレータとしての電気絶縁性能を損なうことなく、電気二重層キャパシタを製造できる。
このような耐熱性繊維として、フィブリルを有する耐熱性繊維を含んでいるのが好ましい。フィブリルを有する耐熱性繊維を含んでいることによって、緻密な構造を有する不織布を製造することができ、電気絶縁性、分離性能、液体保持性能、払拭性、隠蔽性などの各種性能にも優れる不織布を製造することができる。このようなフィブリルを有する耐熱性繊維はその含有比率が高ければ高い程、各種性能に優れているため、耐熱性繊維の50mass%以上がフィブリルを有する耐熱性繊維となるように配合するのが好ましく、耐熱性繊維の70mass%以上がフィブリルを有する耐熱性繊維となるように配合するのがより好ましく、耐熱性繊維の90mass%以上がフィブリルを有する耐熱性繊維となるように配合するのが更に好ましく、耐熱性繊維としてフィブリルを有する耐熱性繊維のみを配合するのが最も好ましい。なお、「フィブリルを有する耐熱性繊維」とは、機械的剪断力などによって、1本の耐熱性繊維から無数の微細繊維(フィブリル)が発生した耐熱性繊維をいう。
なお、フィブリル化していない耐熱性繊維を含む場合、緻密な構造をもつ不織布を製造できるように、繊度が0.3dtex以下の耐熱性繊維を使用するのが好ましく、0.1dtex以下の耐熱性繊維を使用するのがより好ましい。他方、フィブリル化した耐熱繊維のろ水度は緻密な構造をもつ不織布を製造できるように、300mlCSF以下の耐熱性繊維を使用するのが好ましく、200mlCSF以下の耐熱性繊維を使用するのがより好ましく、100mlCSF以下の耐熱性繊維を使用するのが更に好ましい。なお、フィブリル化した耐熱繊維のろ水度は50mlCSF以上であるのが好ましい。この「ろ水度」はJIS P8121 カナダ標準ろ水度試験機により測定した値をいう。
フィブリル化していない耐熱性繊維の繊維長は繊維ウエブの形成方法によって異なり、特に限定するものではないが、1〜160mm程度であるのが好ましい。繊維の均一分散性に優れる湿式不織布を製造する場合には、フィブリル化していない耐熱性繊維の繊維長は1〜25mmであるのが好ましく、3〜20mmであるのがより好ましい。
このような耐熱性繊維量は耐熱性に優れているように、繊維ウエブ全体の40mass%以上であるのが好ましく、50mass%以上であるのがより好ましく、60mass%以上であるのが更に好ましい。他方、前述の熱可塑性樹脂繊維との関係から、90mass%以下であるのが好ましく、80mass%以下であるのがより好ましい。なお、耐熱性繊維は樹脂組成、フィブリルの有無、繊度、濾水度、繊維長の中から選ばれる少なくとも1点が異なる2種類以上の耐熱性繊維を含んでいても良い。2種類以上の耐熱性繊維を含んでいる場合には、その合計質量が前記範囲内にあるのが好ましい。
このような耐熱性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを用いて繊維ウエブを形成する繊維ウエブ形成工程を実施する。繊維ウエブの形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、エアレイ法やカード法などの乾式法又は湿式法を挙げることができる。これらの中でも繊維が均一に分散していることによって、分離性能、液体保持性能、払拭性、隠蔽性などの各種性能にも優れる不織布を製造しやすい湿式法により形成するのが好ましい。これらの繊維ウエブは従来公知の方法で形成できる。
例えば、好適である湿式繊維ウエブは、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、順流円網・逆流円網コンビネーション方式、順流円網・円網フォーマーコンビネーション方式、逆流円網・円網フォーマーコンビネーション方式、短網・円網コンビネーション方式、又は長網・円網コンビネーション方式等の方法によって形成できる。なお、湿式法により繊維ウエブを形成する場合、繊維配向が同じ又は異なる湿式繊維ウエブを2枚以上積層した、積層湿式繊維ウエブ(特には、隣接する繊維ウエブの繊維配向が異なる積層湿式繊維ウエブ)を形成するのが好ましい。このような積層湿式繊維ウエブは孔径が小さく、電気絶縁性能、分離性能、液体保持性能、払拭性、隠蔽性などの各種性能が更に優れる不織布を製造できるためである。より具体的には、同じ種類の網によって抄造した湿式繊維ウエブを積層したり、異なる種類の網(例えば、短網と円網、長網と円網など)によって抄造した湿式繊維ウエブを積層して積層湿式繊維ウエブを製造することができ、異なる種類の網によって抄造した湿式繊維ウエブを積層すると、繊維配向の異なる積層湿式繊維ウエブを形成できる。また、抄き上げた湿潤状態の湿式繊維ウエブを乾燥する際には、熱可塑性樹脂繊維が溶融しない温度で乾燥するのが好ましい。
次いで、凝集工程を実施する。この凝集工程は繊維ウエブ全面にレーザーを照射することにより、前記熱可塑性樹脂繊維のみを溶融させて繊維形態を消滅させるとともに、溶融した熱可塑性樹脂を耐熱性繊維の交点に凝集させて、凝集繊維ウエブを形成する工程である。繊維ウエブ全面に対してレーザーを照射して熱可塑性樹脂繊維を溶融させると、熱可塑性樹脂繊維に由来する熱可塑性樹脂の皮膜を形成することなく、溶融した熱可塑性樹脂を最も安定な状態である、耐熱性繊維の交点へ凝集させることができることを見出したのである。
このレーザーは熱可塑性樹脂繊維のみを溶融させることができれば良く、特に限定するものではないが、例えば、気体レーザー(主に炭酸ガスレーザー、He−Neレーザー、Arイオンレーザー)や固体レーザー(主にルビーレーザー、Nd:YAGレーザー、Nd:ガラスレーザー)や液体レーザー(主に色素レーザー)を使用することができる。なお、レーザーの照射は熱可塑性樹脂繊維が溶融するまで行なうが、その照射条件(波長、出力、照射時間など)は熱可塑性樹脂繊維及び耐熱性繊維の種類によって異なるため、実験を繰り返して適宜設定する。また、レーザーを繊維ウエブ全体に対して照射するには、例えば、光ファイバーで分岐したり、また、拡散用レンズ(ZnSeレンズ等)と光ファイバーとを組み合わせて使用するなどして実施できる。
このように熱可塑性樹脂繊維が溶融した熱可塑性樹脂は、耐熱性繊維の交点で凝集するが、この段階で圧力を作用させると、熱可塑性樹脂の繊維交点での凝集が妨げられ、繊維状態に近い状態、つまり、直線状又は曲線状に熱可塑性樹脂が連続した皮膜の状態で固定されたり、耐熱性繊維の交点の周囲に皮膜の状態で固定され、イオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性などの各種性能を悪くする傾向があるため、圧力を作用させないのが好ましい。
なお、この凝集工程において、レーザーを照射することにより繊維ウエブ中の熱可塑性樹脂繊維を溶融させているが、熱可塑性樹脂繊維を効率的に溶融させるとともに、溶融した熱可塑性樹脂が耐熱性繊維の交点に凝集しやすいように、熱風が繊維ウエブを透過するように熱風を吹き付けるのが好ましい。熱風の透過によって熱可塑性樹脂を押し分け、熱可塑性樹脂を耐熱性繊維の交点に移動させて凝集させやすいためである。なお、熱風の温度は特に限定されるものではないが、溶融した熱可塑性樹脂の耐熱性繊維の交点への凝集を妨げないように、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上、かつ融点より10℃以上低い温度であるのが好ましい。なお、「ガラス転移点」は、JIS K 7121-1987に規定されるガラス転移温度の求め方により得られる値をいう。
そして、凝固工程、つまり凝集した熱可塑性樹脂を無圧下で凝固させる凝固工程を実施する。この凝固工程は凝集した熱可塑性樹脂が凝固するのであればどのような方法であっても良く、特に限定するものではないが、熱可塑性樹脂の融点未満の気体を吹き付けたり、循環させる方法、或いは熱可塑性樹脂の融点未満の気体中に放置する方法などがある。なお、この凝固工程において圧力を加えると、耐熱性繊維の交点を中心として広い範囲にわたって皮膜が形成され、イオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性などの各種性能を悪くする傾向があるため、無圧下で行なう。本発明における「無圧下」とは、気体の吹き付け圧力、及び気体の循環圧力以外に圧力を作用させないことをいう。
本発明は上述のようにして不織布を製造することができるが、熱可塑性樹脂繊維はレーザーの照射によって瞬時に溶融し、結晶化度が低く、耐熱性に劣る傾向があるため、凝集工程の後に、熱処理をして熱可塑性樹脂を結晶化させる結晶化工程を実施し、高温下で外力が加わる用途に使用したとしても、構造変化が生じにくく所望の性能を発揮できる、熱安定性に優れる不織布とするのが好ましい。なお、この結晶化工程は凝固工程を実施した後に実施しても良いし、凝固工程と同時に実施することもできる。
この熱可塑性樹脂を結晶化させる熱処理は、熱可塑性樹脂が結晶化する熱処理である限り、特に限定するものではないが、熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度の熱風を吹き付けたり、循環させる方法を挙げることができる。なお、熱処理温度は熱可塑性樹脂が結晶化する熱処理である限り、特に限定するものではなく、熱可塑性樹脂の組成によって異なるため、実験的に適宜確認する必要がある。熱可塑性樹脂が好適であるポリエステルからなる場合には、130〜230℃であるのが好ましい。ポリエステルの場合、130℃未満では結晶化が不十分になる傾向があり、230℃を超えると、補外溶解開始温度(樹脂が溶け始める温度)に近くなり、ポリエステルが再溶融しはじめ、不織布におけるポリエステルの状態が変わってしまうためで、より好ましくは150〜220℃である。また、この結晶化工程における熱処理は、熱可塑性樹脂が直線状又は曲線状に連続した皮膜を形成しないように、どの段階で実施する場合にも、無圧下で実施するのが好ましい。なお、「結晶化させる」とは、製造した不織布を示差走査熱量測定して描いたDSC曲線に結晶化ピークが描かれない状態とすることをいう。
以上のようにして不織布を製造できるが、厚さのバラツキがある場合がある。また、見掛密度、引張り強さ、及び/又は引裂強度が所望範囲内にない場合がある。そのような場合には、熱可塑性樹脂繊維の軟化温度よりも低い温度(好ましくは20℃以上低い温度)でカレンダー処理(カレンダー工程)を行って、前記問題点を解決するのが好ましい。なお、カレンダー工程における圧力は、厚さのバラツキの程度、所望見掛密度、所望引張り強さ、或いは所望引裂強度等によって異なるため特に限定するものではない。この圧力と温度は、実験を繰り返すことによって、適宜設定することができる。なお、「軟化温度」は示差走査熱量計を用い、昇温温度10℃/分で室温から昇温して得られる融解吸熱曲線の開始点を与える温度をいう。
また、本発明の製造方法により製造した不織布を各種用途へ適用するにあたり、各用途への適合性を高めるために後加工を実施しても良い。例えば、電気二重層キャパシタ用セパレータ用途、リチウム二次電池用セパレータ用途、アルカリ二次電池用セパレータ用途に用いる場合には、電解液との親和性をもたせるために、親水化処理(例えば、スルホン化処理、コロナ放電処理、グラフト処理、フッ素ガス処理、界面活性剤付与処理など)などの親和性付与処理、気体又は液体濾過材用途或いはワイピング用途に用いる場合には、塵埃等の捕捉性を高めるためのエレクトレット化処理、積層板用基材用途に用いる場合には、ワニスとの親和性を高めるための親和性付与処理、電極支持材用途に用いる場合には、金属膜との密着性を高めるための親和性付与処理、医療用基材用途に用いる場合には、汚染液体の透過を抑制するための撥水・撥油処理、複写機等の定着部用クリーニングシート用途に用いる場合には離型剤の付与処理、などを実施することができる。
本発明の製造方法により製造した不織布は、前述のような耐熱性繊維が、その繊維交点において、非繊維状態で凝固した熱可塑性樹脂によって固定された状態にある。そのため、イオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等に優れる不織布である。つまり、熱可塑性樹脂は繊維のように長く伸びる直線状又は曲線状の連続した皮膜を形成しておらず、面ではなく点で固定した状態にあるため、イオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等に優れた不織布である。この耐熱性繊維が、その繊維交点において、非繊維状態で凝固した熱可塑性樹脂によって固定された状態は、通気度に反映される。つまり、皮膜を形成していると通気性が低くなるが、本発明の製造方法により製造した不織布は皮膜が形成されていないため通気性が高いのである。より具体的には、本発明の製造方法により製造した不織布の通気度は120s/100ml以下であることができ、より好ましくは100s/100ml以下であることができる。この「通気度」はJIS P8111に規定するガーレー試験機(B型)に、直径5mmのアダプターを装着した状態で測定した値をいう。
また、本発明の製造方法により製造した不織布は厚さ方向において、熱可塑性樹脂が偏在していない。このように偏在していないことによって、熱可塑性樹脂量が同じであれば、イオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等に優れている不織布を製造できる。このような状態はエマルジヨン型接着剤によって耐熱性繊維を接着しても製造することが困難である。つまり、エマルジョン型接着剤で接着するために乾燥した場合、液体(通常水)の揮発に伴って接着剤も不織布表面へ移動(いわゆるマイグレーション)するためである。
なお、前述のような結晶化工程を経て製造した不織布は、示差走査熱量測定してDSC曲線を描いても、結晶化ピークが描かれないものである。つまり、熱可塑性樹脂が十分に結晶化しているため、高温下においても外力に抵抗して耐熱性繊維の固定状態を維持し、不織布の構造変化を抑制して、所望の性能(引張り強度、引裂き強度など)を発揮できる、熱安定性に優れた不織布である。なお、示差走査熱量測定はJIS K 7121(熱流束示差走査熱量測定)に準じ、次の条件下で行なってDSC曲線を描く。
1.試験片(不織布)の形状、大きさ及び質量;
試験片として、直径6.4mmの円形の不織布を使用する。試験片の質量は電子天秤で5mgを目安として、小数点第2位まで計量する。
2.窒素ガスの流入速度;50ml/min.
3.加熱速度;10.0deg/min.
4.測定開始温度;室温(25℃)
本発明の製造方法により製造した不織布の目付、厚さ及び見掛密度は用途により異なり、特に限定するものではないが、目付は15〜150g/m、厚さは20〜700μm、及び見掛密度は0.2〜0.75g/cmであることができる。この「目付」はJIS P 8124(紙及び板紙−坪量測定方法)に規定する方法に基いて得られる坪量をいい、「厚さ」はJIS B 7502に規定する方法による測定値、すなわち、5N荷重時の外側マイクロメーターによる測定値をいい、更に、「見掛密度(D、単位:g/cm)」は目付(W、単位:g/cm)を厚さ(T、単位:cm)で除した商、つまり、次の式から得られる値をいう。
D=W/T
例えば、本発明の製造方法により製造した不織布を電気二重層キャパシタ用セパレータとして使用する場合には、目付が10〜60g/m、厚さが17〜55μm、かつ見掛密度が0.32〜0.6g/cmであるのが好ましい。このような物性を同時に満足する不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)は、空隙が多いことによってイオン透過性に優れている。つまり、不織布の目付が10g/m未満であると、強度的に弱い傾向があり、目付が60g/mを超えると、一定体積中における不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)の占める体積が大きくなり過ぎて、エネルギー密度を高められない傾向があるためで、より好ましい目付は15〜30g/mである。また、不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)の厚さが17μm未満であると、十分な電気絶縁性を発揮するのが困難となり、漏れ電流を生じるなど、不安定になる傾向があり、厚さが55μmを越えると、一定体積中におけるセパレータの占める体積が大きくなり、エネルギー密度を高められない傾向があるためで、より好ましい厚さは20〜50μmである。更に、不織布の見掛密度が0.32g/cm未満であると、機械的強度が弱くなって、取り扱いにくくなる傾向があり、見掛密度が0.6g/cmを越えると、緻密な構造となりすぎて、イオン透過性が悪くなる傾向があるためで、より好ましい見掛密度は0.35〜0.55g/cmである。なお、不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)は上述のような目付、厚さ、見掛密度を有する空隙の多いものであるにもかかわらず、少なくとも一方向における引張り強さが10N/15mm幅以上と引張り強さが高く、取り扱いやすいものであるのが好ましい。このような引張り強さをもつ方向はどの方向であっても良いが、不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)はその長手方向に対して張力をかけながら電極と巻き込んで電極群を形成する場合があるため、不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)の長手方向における引張強さが10N/15mm幅以上であるのが好ましい。なお、「引張強さ」は、不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)から長方形の試料(幅:15mm、長さ:200mm)を採取した後に、JIS P−8113に準じて測定した引張強度をいう。更に、不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)は上述のような目付、厚さ、見掛密度を有する空隙の多いものであるにもかかわらず、引裂強度が0.11N以上であるのが好ましい。このような引裂強度であることによって、電極群形成時、及び形成後の乾燥処理時において破断することがないためである。この「引裂強度」は、不織布(電気二重層キャパシタ用セパレータ)から長方形の試料(幅:75mm、長さ:150mm)を採取した後に、JIS L−1096 8.15.4C法(トラペゾイド法)に準じて測定した値をいう。
本発明の製造方法により製造した不織布は、不織布の基本的な性能である電気絶縁性能、分離性能、液体保持性能、払拭性、或いは隠蔽性等に優れているばかりでなく、相反する性能であるイオン透過性、気体透過性、或いは液体透過性等にも優れ、更には熱安定性にも優れているため、各種用途に使用できるものである。例えば、電気二重層キャパシタ用セパレータ用途、リチウム二次電池用セパレータ用途、アルカリ二次電池用セパレータ用途、気体又は液体濾過材用途、積層板用基材用途、電極支持材用途、ワイピング材用途、医療用基材用途、複写機等の定着部用クリーニングシートなどに好適に使用することができる。
特に、本発明の製造方法により製造した不織布を電気二重層キャパシタ用セパレータとして用いた場合には、(1)電気絶縁性に優れているため、漏れ電流が発生しにくい安定した電気二重層キャパシタを製造することができる、(2)電気二重層キャパシタ用セパレータ、集電極、及び電極を巻き込んで電極群を組み立てた後に、一緒に高温で乾燥して水分を除去したとしても、本発明のセパレータは高温時においても機械的強度を維持できるため、セパレータが破断することなく、耐電圧の高い電気二重層キャパシタやエネルギー密度の高い電気二重層キャパシタを製造できる、(3)耐熱性繊維の交点に非繊維状態で熱可塑性樹脂が凝固していることによって空隙が多く、イオン透過性に優れているため、内部抵抗が低く、容量の大きい電気二重層キャパシタを製造できる、(4)一定体積におけるエネルギー密度の高い電気二重層キャパシタを製造できる、など、様々な効果を奏するため、本発明の製造方法により製造した不織布は電気二重層キャパシタ用セパレータとして好適に使用できる。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
パラ系全芳香族ポリアミドからなるフィブリルを有する耐熱性繊維(製品名:トワロン1094、帝人製、炭化温度:500℃以上、濾水度(CSF):150ml)、及びポリエチレンテレフタレートからなる、繊度0.11dtex、繊維長3mmのポリエステル繊維(融点:260℃、軟化温度:253℃、ガラス転移温度:90℃)を用意した。
次いで、前記耐熱性繊維をリファイナーによりフィブリル化を促進させた耐熱性繊維(濾水度(CSF):90ml)とポリエステル繊維とを70:30の質量比率で分散させたスラリーを形成した。その後、順流円網、傾斜ワイヤー型短網、順流円網、及びヤンキードライヤーを備えた抄紙機に、前記スラリーを各網へ供給し、それぞれ湿潤繊維ウエブを形成し、それぞれの湿潤繊維ウエブを積層した積層湿潤繊維ウエブを形成し、続いて、この積層湿潤繊維ウエブを温度120℃に設定したヤンキードライヤーにより乾燥して、繊維配向が一方向、ランダム、一方向の三層湿式繊維ウエブを形成した(以上、繊維ウエブ形成工程)。この三層湿式繊維ウエブの表面は図1に示すような状態にあり、断面は図2に示すような状態にあった。
次いで、速度15m/min.で前記三層湿式繊維ウエブを搬送しながら、炭酸ガスレーザー(波長:10.6μm、出力:2W)を光ファイバーで分岐して、繊維ウエブ全体に照射するとともに、その両面から温度150℃の熱風を吹き付け、熱風を前記三層湿式繊維ウエブを透過させることにより、実質的に無圧下でポリエステル繊維のみを溶融させて繊維形態を消滅させるとともに、溶融したポリエステル樹脂を耐熱性繊維の交点に凝集させ、凝集繊維ウエブを形成した(以上、凝集工程)。この凝集工程は無圧下で行なった。
次いで、凝集繊維ウエブを無圧下、室温で空冷して、凝集したポリエステル樹脂を凝固させて、凝固不織布を製造した(以上、凝固工程)。
その後、前記凝固不織布を、無圧下、温度220℃に加熱したドライヤー内を3秒間かけて通過させ、ポリエステル樹脂を結晶化させ、結晶化不織布を製造した(以上、結晶化工程)。
次いで、この結晶化不織布を室温のカレンダーにより押圧(線圧力:20N/cm)して、目付15g/m、厚さ33μm、見掛密度0.45g/cmの湿式不織布を製造した。この湿式不織布の表面は図3に示すように、ポリエステル樹脂繊維が消滅し、ポリエステル樹脂が耐熱性繊維の交点に非繊維状態で凝固した状態にあった。また、この湿式不織布の断面は図4に示すように、ポリエステル樹脂は湿式不織布の厚さ方向において偏在しておらず、均一に分布していた。この湿式不織布の示差走査熱量測定したところ、図5に示すようなDSC曲線を描き、結晶化ピークが描かれなかった。更に、湿式不織布の物性は次の通りであった。
(1)長手方向の引張り強さ:11.0N/15mm幅
(2)長手方向の伸度:2.5%
(3)引裂き強さ:0.21N
(4)通気度:50s/100ml
(比較例1)
実施例1と全く同様にして製造した三層湿式繊維ウエブを、温度220℃に設定した一対の熱カレンダーにより押圧(線圧力:50N/cm)して、目付15g/m、厚さ25μm、見掛密度0.6g/cmの湿式不織布を製造した。この湿式不織布の表面は図6に示すように、ポリエステル繊維は皮膜は形成していないものの、繊維形態を維持していた。この湿式不織布の物性は次の通りであった。
(1)長手方向の引張り強さ:4.6N/15mm幅
(2)長手方向の伸度:1.7%
(3)引き裂き強さ:0.30N
(4)通気度:130s/100ml
(電気二重層キャパシタの作製)
まず、集電極としてアルミニウム薄板、電極として粒状活性炭、カーボンブラック、及びポリテトラフルオロエチレンを混ぜて練り上げ、圧延法により作製した電極、セパレータとして前記実施例1並びに前記比較例1の湿式不織布、及び絶縁シートを用意した。
次いで、絶縁シート、集電極、電極、セパレータ(1枚)、電極、集電極の順に積み重ねて電極群を形成した後、この電極群を500g荷重で捲回形に加工し、円筒状電極群を作製した。
次いで、円筒状電極群を温度200℃で50時間乾燥した後、グローボックス内で、テトラエチルアンモニウム・テトラフルオロボーレイトをプロピレンカーボネートに溶解させた電解液を、円筒状電極群に減圧含浸した後、容器に挿入し、容器を封緘して、捲回型キャパシタを製造した。この捲回型キャパシタは実施例1の湿式不織布を使用したもの、比較例1の湿式不織布を使用したものを、各々10個づつ作製した。
(内部抵抗値の測定)
上述の方法により作製した捲回型キャパシタを10Aの定電流で5分間、2.5Vまで充電した後、5分間保持した後、放電する操作により得た充放電カーブから内部抵抗値を測定した。
その結果、実施例1の湿式不織布をセパレータとして使用した捲回型キャパシタは33〜35mΩの範囲の低抵抗値を示すイオン透過性の優れるものであったのに対し、比較例1の湿式不織布をセパレータとして使用した捲回型キャパシタは38〜42mΩの範囲の抵抗値を示す、ややイオン透過性の劣るものであった。
(電圧維持率の測定)
上述の方法により作製した捲回型キャパシタを2.5V(初期電圧:Vi)に印加した後、72時間放置し、放置後における残電圧(Vr)を測定した。この結果から、電圧維持率(Vk)を次の式から算出した。
Vk=(Vr/Vi)×100=40Vr
その結果、実施例1の湿式不織布をセパレータとして使用した捲回型キャパシタは、10個全てが85%以上の高い電圧維持率を示したのに対して、比較例1の湿式不織布をセパレータとして使用した捲回型キャパシタは、4個が40%以下の電圧維持率を示す、電圧維持率の低いものであった。
これらの結果から、本発明の製造方法により製造した不織布を使用したセパレータは良好なイオン透過性と良好な電気絶縁性を有することが分かった。また、温度200℃で50時間乾燥してもポリエステル樹脂が耐熱性繊維の固定状態を維持できる、熱安定性に優れるものであることも分かった。
実施例1における三層湿式繊維ウエブ表面の電子顕微鏡写真 実施例1における三層湿式繊維ウエブ断面の電子顕微鏡写真 実施例1における湿式不織布表面の電子顕微鏡写真 実施例1における湿式不織布断面の電子顕微鏡写真 実施例1における湿式不織布のDSC曲線 比較例1における湿式不織布表面の電子顕微鏡写真
符号の説明
1 耐熱性繊維
2 ポリエステル繊維

Claims (10)

  1. 熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂繊維と、前記熱可塑性樹脂繊維の融点よりも高い融点又は炭化温度を有する樹脂からなる耐熱性繊維とを用いて繊維ウエブを形成する繊維ウエブ形成工程、
    この繊維ウエブ全面にレーザーを照射することにより、前記熱可塑性樹脂繊維のみを溶融させて繊維形態を消滅させるとともに、溶融した熱可塑性樹脂を耐熱性繊維の交点に凝集させて、凝集繊維ウエブを形成する凝集工程、
    前記凝集した熱可塑性樹脂を無圧下で凝固させる凝固工程、
    を備えていることを特徴とする不織布の製造方法。
  2. 凝集工程の後に、熱処理をして熱可塑性樹脂を結晶化させる結晶化工程、を更に備えていることを特徴とする請求項1記載の不織布の製造方法。
  3. 凝集工程において、熱風が繊維ウエブを透過するように熱風を吹き付けることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の不織布の製造方法。
  4. 耐熱性繊維が融点又は炭化温度が300℃以上の樹脂からなり、熱可塑性樹脂繊維が200℃以上、かつ耐熱性繊維の融点又は炭化温度よりも低い融点をもつ熱可塑性樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の不織布の製造方法。
  5. 熱可塑性樹脂繊維量が繊維ウエブ全体の10〜60mass%であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の不織布の製造方法。
  6. 熱可塑性樹脂繊維がポリエステル樹脂からなることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の不織布の製造方法。
  7. 耐熱性繊維として、フィブリルを有する耐熱性繊維を含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の不織布の製造方法。
  8. 耐熱性繊維として、全芳香族ポリアミド繊維又は全芳香族ポリエステル繊維を含んでいることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の不織布の製造方法。
  9. 熱可塑性樹脂繊維の繊度が0.45dtex以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項8のいずれかに記載の不織布の製造方法。
  10. 電気二重層キャパシタ用セパレータとして用いる不織布であることを特徴とする、請求項1〜請求項9のいずれかに記載の不織布の製造方法。
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