JP2006077136A - 生体適合性ポリマーの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】生体材料などの医療用途に使用するある特定のポリマーにおいて、モノマー、低分子ポリマー等の溶出物が少ない生体適合性ポリマーを得る方法、および、その応用技術を提供すること。
【解決手段】ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットおよび水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットからなる三元系の生体適合性ポリマーを製造する方法において、
下記(a)〜(e)の工程を順に含む精製処理:
(a)ポリマー又はポリマー溶液にポリマーの冷却析出溶媒を加え、均一な溶液とする工程;
(b)該溶媒を加えた均一な溶液を−8℃以上18℃未満に冷却してポリマーを析出させる工程;
(c)該ポリマーが析出した溶液を18℃以上40℃以下に加温する工程;
(d)該加温した溶液をデカンテーションする工程;
(e)該デカンテーションした残渣に、前記(a)〜(d)の操作を少なくとも1回以上繰り返す工程;
を行なうことを特徴とする前記組成の生体適合性ポリマーを製造する方法。
【選択図】図1
【解決手段】ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットおよび水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットからなる三元系の生体適合性ポリマーを製造する方法において、
下記(a)〜(e)の工程を順に含む精製処理:
(a)ポリマー又はポリマー溶液にポリマーの冷却析出溶媒を加え、均一な溶液とする工程;
(b)該溶媒を加えた均一な溶液を−8℃以上18℃未満に冷却してポリマーを析出させる工程;
(c)該ポリマーが析出した溶液を18℃以上40℃以下に加温する工程;
(d)該加温した溶液をデカンテーションする工程;
(e)該デカンテーションした残渣に、前記(a)〜(d)の操作を少なくとも1回以上繰り返す工程;
を行なうことを特徴とする前記組成の生体適合性ポリマーを製造する方法。
【選択図】図1
Description
本発明は、人工臓器、医療機器材料、培養床材料あるいは生体材料などの医療用材料として好適な生体適合性ポリマーを製造する方法と得られたポリマー、およびそのポリマーを応用した、輸血や体外循環治療時に、血液中の白血球を選択的に除去する目的に用いられる白血球選択除去フィルター材、白血球選択除去装置、白血球が除去された血液を得る方法に関する。
近年、生体機能の低下あるいは不全に陥った生体器官の機能代行による病気治療という、医学の新しい分野を開拓するものとして生体材料などの医療用ポリマー材料の重要性はますます高まっている。
医療用ポリマー材料の用途としては、大きく3つに分類する事ができる(非特許文献1参照)。1つ目は、臨床検査、手術、治療までの補助用途として用いられるもので、注射器、カテーテル、輸液セット、創傷被覆材などを例示する事ができ、その使用は一時的なものである。2つ目は、低下または失われた機能の代行用途として用いられるもので、人工血管、人工腎臓に代表される各種人工臓器や義歯、コンタクトレンズなど人体と長期に接触して使用されるもの、3つ目は、薬物用途として、薬物の徐放、ターゲティング、安定化を目的とした製剤用途を挙げることができる。
医療用ポリマー材料の用途としては、大きく3つに分類する事ができる(非特許文献1参照)。1つ目は、臨床検査、手術、治療までの補助用途として用いられるもので、注射器、カテーテル、輸液セット、創傷被覆材などを例示する事ができ、その使用は一時的なものである。2つ目は、低下または失われた機能の代行用途として用いられるもので、人工血管、人工腎臓に代表される各種人工臓器や義歯、コンタクトレンズなど人体と長期に接触して使用されるもの、3つ目は、薬物用途として、薬物の徐放、ターゲティング、安定化を目的とした製剤用途を挙げることができる。
これらの医療用ポリマーには、現在まで多くのポリマー材料の採用が試みられてきており、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリスルホン、シリコーン樹脂、ポリプロピレン、ポリビニルピロリドン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリメチルペンテン、ポリ−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレングリコール、エポキシ樹脂、ナイロン、ポリ塩化ビニル、アイオノマー、ポリウレタン、ポリエステルなどが挙げられる。
これらのポリマー材料は、直接あるいは間接的に人体と接触する為、用途により程度の差はあるものの、その生体適合性は非常に重要な因子である。しかしながら、これらポリマー材料の一部は、材料に含まれるモノマー、オリゴマーなどの低分子物質が溶出することにより、急性毒性、発熱等の問題が生じる懸念があり、医療用途への使用には特別の配慮をする必要のあるものもあった。
これまで、本出願人は、ポリマー中に含まれる低分子量ポリマー及び、モノマーの含有量を規定することにより、生体材料などの医療用途に適した、溶出物量の少ないポリマーについて出願した(特許文献1参照)。この先行技術には、ポリマー分子量分布曲線において、ピークトップ分子量に対して1/4以下の分子量を有する低分子ポリマーの含有量が20%以上であるポリマーが、急性毒性実験において悪影響を及ぼすことを示し、溶出物であるモノマー、低分子ポリマーの含有量についての規定がなされている。しかし、本発明者らが先行文献1に一例として記載されているポリマーではなく、本願明細書に記載のポリマーを、特定の支持体にコーティングして溶出性を評価したところ、溶出物としては、ピークトップ分子量に対して1/4よりも低い分子量成分の溶出物のみが観察された。収率の観点から考えた場合、特許文献1のように1/4と規定してしまうと産業上必要な成分も除去することになり好ましくない。ポリマー中の低分子量成分の含有量をある範囲に規定することにより、より高収率のポリマーを得ることができ、産業上効率的にポリマーの利用が可能となる。
また、特許文献2には、ポリマーの精製方法について、熱誘起相分離法による手法が開示されている。本手法では、ある温度で均一に溶解しているポリマー溶液を一定の速度で冷却または加熱しつつポリマーの非溶剤を添加することにより該ポリマー溶液を複数の相に分離することが示してある。しかし、本発明者らが、この特許文献2に一例として記載されているポリマーではなく、本願明細書に記載のポリマーについて精製したところ、特許文献2のように冷却するだけでは、高収率に精製ポリマーを得ることができなかった(後述する比較例5参照)。
また、一般的な相分離手法として使用される、反応溶液を冷却し固体相と液体相に分離し、濾過することによりポリマーを固体として得る方法においても、望ましい収率を得ることができなかった。
さらに、特許文献3には、ポリマーの組成、および重量平均分子量に着眼し、低溶出性のポリマーの開発が示されている。この特許文献3には、最適組成範囲と最適重量平均分子量範囲を規定することにより、ガンマ線滅菌後更に保存した後の溶出物試験の結果、溶出物の極めて低いポリマーの開発に至った。しかしながら、大きな表面積を持つフィルター材へのポリマーの使用においては、大量のポリマーをフィルター上に塗布する必要があり、その際には、これまでよりも、より高いレベルで溶出物を減量したポリマーの開発が必要となる。また、この様なポリマーを開発することで、ポリマー自身をフィルター材とすることも可能となる。
以上のように、フィルターに用いられるポリマーとして一段と高い安全性と優れた生体適合性を共に有する高機能ポリマーを得る上で、溶出成分の主たる要因である低分子量ポリマー及び、残存モノマーを徹底的に除去することが必須である。
筏 義人著,高分子学会編,「医用高分子材料」高分子新素材 One Point No.20,共立出版,1989年 特開2002−241426号公報
特開2002−265519号公報
国際公開第03/106518号パンフレット
筏 義人著,高分子学会編,「医用高分子材料」高分子新素材 One Point No.20,共立出版,1989年
本発明の課題は、生体材料などの医療用途に使用するある特定の組成を持ったポリマーにおいて、モノマーおよび低分子ポリマー等の溶出物が少ない生体適合性ポリマーの製造方法を提供することである。また、得られた生体適合性ポリマーを基材の少なくとも表面に存在させてなる白血球選択除去フィルター材及びそれを組み込んだ白血球選択除去装置を提供し、その応用技術を提供することにある。
本発明者等は、前記の課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、特定組成のポリマーを製造する方法において、「ポリマー溶液に、冷却時に該ポリマーを析出させる溶媒を加えて冷却し、ポリマーを析出させた後、この溶液を特定の温度に加温して上澄みを取り除く」という操作を繰り返すことにより、分子量12,000以下の低分子ポリマー及びモノマーを著しく低減した生体適合性ポリマーが得られることを見出した。そして、後述するように、このポリマーについての溶出物試験や、ポリマーを塗布したフィルター材の保存加速試験において、溶出物の著しい低減を認めて本発明を完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、
(1)ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットおよび水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットからなる三元系の生体適合性ポリマーを製造する方法において、
下記(a)〜(e)の工程を順に含む精製処理:
(a)ポリマー又はポリマー溶液にポリマーの冷却析出溶媒を加え、均一な溶液とする工程;
(b)該溶媒を加えた均一な溶液を−8℃以上18℃未満に冷却してポリマーを析出させる工程;
(c)該ポリマーが析出した溶液を18℃以上40℃以下に加温する工程;
(d)該加温した溶液をデカンテーションする工程;
(e)該デカンテーションした残渣に、前記(a)〜(d)の操作を少なくとも1回以上繰り返す工程;
を行なうことを特徴とする前記組成の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(2)(a)の工程のうち、均一な溶液とする工程が、加温により均一とする工程である上記(1)に記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(3)ポリマー溶液が、重合終了後のポリマー重合溶液またはポリマーを良溶媒に再溶解したポリマー溶液の何れかである上記(1)又は(2)に記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(4)精製処理において、(e)の繰り返し工程を2回以上5回未満行なう上記(1)〜(3)の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(5)ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマーがメトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートであり、疎水性基を有する重合性モノマーがメチル(メタ)アクリレートであり、水酸基を有する重合性モノマーが2−ヒドロキシルイソブチル(メタ)アクリレートである上記(1)〜(4)の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(6)ポリマーの組成が、ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニットが8モル%以上45モル%以下、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットが30モル%以上90モル%以下、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットが2モル%以上50モル%以下である上記(1)〜(5)の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(7)残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下である生体適合性ポリマーを得る上記(1)〜(6)の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(8)上記(1)〜(6)の何れかに記載の方法により得られるポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットおよび水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットからなる三元系の生体適合性ポリマーであって、該ポリマー中の残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下であることを特徴とする生体適合性ポリマー。
(9)ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット8モル%以上45モル%以下、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニット30モル%以上90モル%以下、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニット2モル%以上50モル%以下から構成される三元系の生体適合性ポリマーにおいて、残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下であることを特徴とする生体適合性ポリマー。
(10)水不溶性担体の少なくとも担体表面に上記(8)または(9)に記載の生体適合性ポリマーを有する白血球選択除去フィルター材。
(11)血液導入部および血液導出部を有する容器内に上記(10)に記載の白血球選択除去フィルター材が充填され、容器外に流出しないように保持されている白血球選択除去装置。
(12)白血球選択除去フィルター材が、水または生体にとって害の少ない水溶性物質の水溶液により飽和含水率以上の湿潤状態に保持され、かつ滅菌されている上記(11)に記載の白血球選択除去装置。
(13)上記(10)または(11)に記載の白血球選択除去装置の血液導入部より血液を流し入れ、該白血球選択除去装置内に白血球を捕捉させ、血液導出部より流出する白血球が除去された血液を得る方法。
(14)上記(13)に記載の方法により得られた白血球が除去された血液を血液の提供者に返血する方法。
すなわち本発明は、
(1)ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットおよび水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットからなる三元系の生体適合性ポリマーを製造する方法において、
下記(a)〜(e)の工程を順に含む精製処理:
(a)ポリマー又はポリマー溶液にポリマーの冷却析出溶媒を加え、均一な溶液とする工程;
(b)該溶媒を加えた均一な溶液を−8℃以上18℃未満に冷却してポリマーを析出させる工程;
(c)該ポリマーが析出した溶液を18℃以上40℃以下に加温する工程;
(d)該加温した溶液をデカンテーションする工程;
(e)該デカンテーションした残渣に、前記(a)〜(d)の操作を少なくとも1回以上繰り返す工程;
を行なうことを特徴とする前記組成の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(2)(a)の工程のうち、均一な溶液とする工程が、加温により均一とする工程である上記(1)に記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(3)ポリマー溶液が、重合終了後のポリマー重合溶液またはポリマーを良溶媒に再溶解したポリマー溶液の何れかである上記(1)又は(2)に記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(4)精製処理において、(e)の繰り返し工程を2回以上5回未満行なう上記(1)〜(3)の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(5)ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマーがメトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートであり、疎水性基を有する重合性モノマーがメチル(メタ)アクリレートであり、水酸基を有する重合性モノマーが2−ヒドロキシルイソブチル(メタ)アクリレートである上記(1)〜(4)の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(6)ポリマーの組成が、ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニットが8モル%以上45モル%以下、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットが30モル%以上90モル%以下、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットが2モル%以上50モル%以下である上記(1)〜(5)の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(7)残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下である生体適合性ポリマーを得る上記(1)〜(6)の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
(8)上記(1)〜(6)の何れかに記載の方法により得られるポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットおよび水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットからなる三元系の生体適合性ポリマーであって、該ポリマー中の残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下であることを特徴とする生体適合性ポリマー。
(9)ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット8モル%以上45モル%以下、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニット30モル%以上90モル%以下、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニット2モル%以上50モル%以下から構成される三元系の生体適合性ポリマーにおいて、残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下であることを特徴とする生体適合性ポリマー。
(10)水不溶性担体の少なくとも担体表面に上記(8)または(9)に記載の生体適合性ポリマーを有する白血球選択除去フィルター材。
(11)血液導入部および血液導出部を有する容器内に上記(10)に記載の白血球選択除去フィルター材が充填され、容器外に流出しないように保持されている白血球選択除去装置。
(12)白血球選択除去フィルター材が、水または生体にとって害の少ない水溶性物質の水溶液により飽和含水率以上の湿潤状態に保持され、かつ滅菌されている上記(11)に記載の白血球選択除去装置。
(13)上記(10)または(11)に記載の白血球選択除去装置の血液導入部より血液を流し入れ、該白血球選択除去装置内に白血球を捕捉させ、血液導出部より流出する白血球が除去された血液を得る方法。
(14)上記(13)に記載の方法により得られた白血球が除去された血液を血液の提供者に返血する方法。
本発明の生体適合性ポリマーの製造方法は、得られたポリマー自身からの溶出物試験、およびポリマーを塗布したフィルターの保存加速試験において、溶出物の著しい低減効果を有する。従って、様々な医療用材料としての応用に適しており、白血球選択除去フィルター材、白血球選択除去装置への応用に特に適する。
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明でいうポリアルキレンオキシド鎖とは、炭素原子数2から4のアルキル鎖と酸素原子が交互に結合した繰り返し構造を言う。例えば、ポリエチレンオキシド鎖、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリブチレンオキシド鎖等が挙げられる。ポリマー中のポリアルキレンオキシド鎖は、ポリアルキレンオキシド鎖の持つ、優れた血液適合性により、高い血小板粘着抑制効果を示す。
本発明でいうポリアルキレンオキシド鎖とは、炭素原子数2から4のアルキル鎖と酸素原子が交互に結合した繰り返し構造を言う。例えば、ポリエチレンオキシド鎖、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリブチレンオキシド鎖等が挙げられる。ポリマー中のポリアルキレンオキシド鎖は、ポリアルキレンオキシド鎖の持つ、優れた血液適合性により、高い血小板粘着抑制効果を示す。
本発明に用いられるアルキレンオキシド鎖の繰返し単位数については、2から10の範囲であることが望ましい。繰返し単位数が2未満では、十分な血小板粘着抑制効果を得られにくく、繰返し単位数が10を超えると、フィルター材基材との接着性が低くなり、溶出しやすくなる傾向があるためである。好ましくは、繰返し単位数が2から6の範囲であり、更に好ましくは繰返し単位数が2から4の範囲である。
前記ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマーとしては、例えばメトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコールビニルエーテル、エトキシジエチレングリコールビニルエーテル、メトキシトリエチレングリコールビニルエーテル、エトキシトリエチレングリコールビニルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。その中で、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリレートが、高い血小板粘着抑制効果を有することから好ましく用いられる。更に、入手が容易であること、取り扱いやすいことや重合しやすい等の理由により、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートが最も好ましい。なお、本発明で(メタ)アクリレートというときには、アクリレート及び/またはメタクリレートのことをいう。
本発明のポリマーにおいて、ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニットは8モル%以上45モル%以下を占めることが必要である。8モル%未満では、ポリアルキレンオキシド鎖の血小板粘着抑制効果が十分でなく、血小板回収性能が低下することがあり好ましくない。45モル%を超えるとポリマーの疎水性が低くなるため、血液等の水溶液と接触したときに溶出しやすくなる。好ましくは、20モル%以上40モル%以下、更に好ましくは25モル%以上35モル%以下である。
本発明でいうユニットとは、ポリマー分子中のそれぞれの重合性モノマー由来の繰り返し最小単位を意味する。ユニットについて例示するならば、二重結合が単に開いて付加重合する場合については、CH2=CXY(X:HまたはH以外の置換基、Y:X以外の置換基)であるビニル化合物の重合性モノマーのユニットとしては繰り返し最小単位となる−(CH2−CXY)−である。またポリマーを重縮合にて合成する場合を例示するならば、ポリマーの前駆体のA−(R)−B(R:重合にて脱離しない部分、A、B:重合にて反応し脱離する部分)から、ABが脱離して重合する際の繰り返し最小単位となる−(R)−をユニットとして例示することができる。
本発明でいう疎水性基を有する重合性モノマーとは、温度20℃の水における溶解度が0重量%以上50重量%未満であり、分子内にポリアルキレンオキシド鎖及び水酸基を含まない重合性モノマーである。ポリマー中の疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットは、ポリマーの水溶液への溶解性を下げ、溶出を抑制する効果があると同時に、高い白血球選択除去能を発揮させる効果がある。
なお、溶解度の測定は、モノマーが固体の場合は、露点法、熱分析法、溶液の起電力や電導度を測定する電気的方法、ガスクロマトグラフィー分析法、トレーサー法等の公知の方法で測定でき、モノマーが液体の場合には、固体と同じ方法でも測定できるが、更に容量法、光散乱法、蒸気圧法等公知の方法によって測定することができる。また、より簡便な方法として、モノマーが水より十分に沸点が高い場合には、モノマーの飽和水溶液から水を蒸発させ、残量の重さを測定する方法により求めることもできる。
前記疎水性基を有する重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、酢酸ビニルなどが挙げられる。その中で、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートが適度な疎水性を有することや、重合しやすいことから好ましく用いられる。更に、生体に対する安全性が高い点でメチル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
本発明のポリマーにおいて、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットは、30モル%以上90モル%以下を占めることが必要である。30モル%未満では、ポリマーの疎水性が低くなるため、血液等の水溶液と接触したときに溶出しやすくなる。90モル%を超えるとポリマーの疎水性が高くなるため、フィルター材表面への血小板の吸着が増加することがあり好ましくない。好ましくは、35モル%以上80モル%以下、更に好ましくは45モル%以上55モル%以下である。
本発明でいう水酸基を含む重合性モノマーとは、分子内に水酸基を有し、ポリアルキレンオキシド鎖を含まない重合性モノマーである。例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシイソブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシイソブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのアルキルヒドロキシル基を有する重合性モノマーが好ましく用いられる。これらの中でも、重合体主鎖より適度なスペーサー効果を持ち、さらに、3級水酸基を有することから適度な親水性を有する点で、2−ヒドロキシイソブチル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
本発明のポリマーにおいて、水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットは、2モル%以上50モル%以下を占めることが必要である。2モル%未満では、ポリマーの親水性が低くなるため、フィルター材表面への血小板の吸着が増加することがあり好ましくない。50モル%を超えるとポリマーの疎水性が低くなるため、血液等の水溶液と接触したときに溶出しやすくなる。好ましくは、5モル%以上40モル%以下、更に好ましくは15モル%以上25モル%以下である。
本発明のポリマーにおいて、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットに対する水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットの含量比は、0.05以上1以下を占めることが望ましい。
本発明でいう含量比とは、水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットのモル含量を疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットのモル含量で除した値である。含量比が0.05未満では、水酸基の親水性付与効果を疎水性基が打ち消してしまい、ポリマーの親水性が低下するため、フィルター材表面への血小板の吸着が増加することがあり好ましくない。含量比が1を超えると、疎水性基の溶出抑制効果を水酸基が打ち消してしまい、ポリマーの疎水性が低くなるため、血液等の水溶液と接触したときに溶出しやすくなるため好ましくない。好ましくは、0.1以上0.9以下、更に好ましくは0.15以上0.8以下である。
本発明でいう含量比とは、水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットのモル含量を疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットのモル含量で除した値である。含量比が0.05未満では、水酸基の親水性付与効果を疎水性基が打ち消してしまい、ポリマーの親水性が低下するため、フィルター材表面への血小板の吸着が増加することがあり好ましくない。含量比が1を超えると、疎水性基の溶出抑制効果を水酸基が打ち消してしまい、ポリマーの疎水性が低くなるため、血液等の水溶液と接触したときに溶出しやすくなるため好ましくない。好ましくは、0.1以上0.9以下、更に好ましくは0.15以上0.8以下である。
本発明のポリマーにおいて、水酸基を有する重合性モノマーは、温度20℃の水における溶解度が3重量%以上50重量%未満であることが好ましい。この場合、ポリマー中の水酸基を有する重合性モノマーは適度な親水性と疎水性を有するため、ポリアルキレンオキシド鎖とともに血小板、疎水性蛋白質の吸着を抑制する効果を発揮し、同時に強疎水性重合性モノマー由来のユニットとともにポリマーの溶出を抑制することができる。水酸基を有する重合性モノマーで弱疎水性のものを例示すると、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシイソブチル(メタ)アクリレートが適度な親水性と疎水性を有する点で好ましく用いられる。さらに適度な親水性を有する点で2−ヒドロキシイソブチル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
なおポリマーの化学組成は、該ポリマーが溶解し、基材部分が溶解しない適当な溶媒を用いて抽出し、公知の核磁気共鳴スペクトル、赤外吸収スペクトル、元素分析等の手段を用いて解析することができる。また、重合体が溶解しない場合には、上記記載の方法に加えて、X線光電子分光分析装置(ESCA)、電子線プローブX線マイクロアナライザー(EPMA)等の公知の表面分析法により解析可能である。
本発明のポリマーの重量平均分子量(Mw)の範囲としては10万以上300万以下であることが好ましい。Mwが10万未満の場合、滅菌処理、特に放射線滅菌処理を実施した際にポリマーの分子量が低下し、溶出量が増加するため好ましくない。またMwが300万を超えると、コーティングする際の溶剤への溶解度が低下する、また重合の際、安定して製造できないなどの懸念があり好ましくない。より好ましくは15万以上200万以下、最も好ましくは20万以上150万以下である。なお、Mwは種々の公知の方法により求められるが、本発明ではポリメチルメタクリレートを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)測定による値を採用している。
本発明のポリマーはランダム共重合体、ブロック共重合体のどちらでも良いが、コーティングする際の溶剤への溶解度、また溶液中でミセル形成などのコーティングの均一性の観点からランダム共重合体が好ましい。また、ポリマーの分子鎖の形状としては、コーティングする際の溶剤への溶解度や、溶液中でミセル形成などのコーティングの均一性の観点から、分岐状よりも直鎖状が好ましい。
本発明のポリマーは、非イオン性であることが望ましい。非イオン性とは、血液、体液等の中性pH付近でアニオン化、カチオン化しないことを言い、分子内にカルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール基等の負荷電を示す官能基、あるいは第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾイル基等の正荷電を示す官能基を有さないことを言う。
一般的に、負荷電を有する材料表面では血液凝固系の第XII因子が活性化され、凝固系の連鎖反応を惹起するといわれている。また、正荷電を有する材料表面は、細胞表面の負荷電との静電的相互作用により、赤血球、血小板、白血球等の血液細胞を吸着し易くなる傾向をもつ。特公平6−51060号公報には、表面を微正荷電とすることで血小板吸着を抑えたまま、白血球をより効率的に除去する技術が開示されているが、大量の血液を処理する場合には、より高い血小板回収性が必要であり、静電的相互作用はないことが望ましい。ポリマーが非イオン性の場合、体外循環等の大量血液処理に使用しても、凝固系の活性化が少なく、安定した血小板回収性を達成できる。
本発明のポリマーの合成方法としては一般的な重合法を用いれば良い。連鎖反応である付加重合(ビニル重合)等を用いても良く、異性化重合、逐次反応である脱離反応、重付加、重縮合、付加重縮合等を用いても良い。ポリマーを重合するにあたって、連鎖逓伝体(chain carrier)としてはラジカル、イオン等を用いれば良い。
重合の方式として溶液重合、塊状重合、析出重合、エマルジョン重合等を例示することができ、その中で溶液重合が好ましい。以下に重合方法を例示する。重合溶媒としてエタノールを用い、窒素雰囲気下、エタノールの沸点以下の一定温度で攪拌を行いながら、各モノマーとジアゾ系開始剤を溶解したエタノール溶液を滴下して反応させる。また安定剤などを適宜加えても構わない。反応の収率はガスクロマトグラフ法などの公知の方法にて測定し確認する。
生体適合性ポリマーを得るにあたり、重合反応の生成物であるポリマー中、またはポリマーを含む反応液中に存在する低分子量成分及び未反応物などの不純物を除くための精製を行なうことが必要である。本発明のポリマー精製方法は、重合終了後のポリマー重合溶液、重合終了後に水洗や乾燥あるいは濃縮等の通常の処理を経て別途得られたポリマーを良溶媒に再溶解した溶液を用いて行なう。すなわち、前記のポリマー溶液に、室温ではポリマーを溶解するが特定温度以下に冷却するとポリマーを析出する溶媒(以下、冷却析出溶媒と称する)を加えて該溶液を冷却することによりポリマーを析出させ、その後、該溶液を再び特定温度に加温した後上澄みを取り除き、さらに、残渣に再び冷却析出溶媒を加えて前記操作を繰り返すことにより行なう。残渣を溶解するためにポリマー溶液を加熱してもかまわない。
本発明のポリマー精製に用いるポリマーの冷却析出溶媒とは、室温ではポリマーを溶解するが特定温度以下に冷却するとポリマーを析出する溶媒であり、温度依存的にポリマーの溶解度が変わる溶媒である。具体的には、エタノール、メタノール、アセトン、エタノール/ヘキサン混合溶媒、メタノール/ヘキサン混合溶媒、アセトン/ヘキサン混合溶媒、エタノール/1−プロパノール混合溶媒、メタノール/1−プロパノール混合溶媒、アセトン/1−プロパノール混合溶媒、エタノール/2−プロパノール混合溶媒、メタノール/2−プロパノール混合溶媒、アセトン/2−プロパノール混合溶媒、エタノール/シクロヘキサン混合溶媒、メタノール/シクロヘキサン混合溶媒、アセトン/シクロヘキサン混合溶媒、エタノール/1−プロパノール/2−プロパノール混合溶媒、メタノール/1−プロパノール/2−プロパノール混合溶媒、アセトン/1−プロパノール/2−プロパノール混合溶媒、エタノール/ヘキサン/1−プロパノール混合溶媒、メタノール/ヘキサン/1−プロパノール混合溶媒、アセトン/ヘキサン/1−プロパノール混合溶媒、エタノール/ヘキサン/2−プロパノール混合溶媒、メタノール/ヘキサン/2−プロパノール混合溶媒、アセトン/ヘキサン/2−プロパノール混合溶媒、エタノール/ヘキサン/シクロヘキサン混合溶媒、メタノール/ヘキサン/シクロヘキサン混合溶媒、アセトン/ヘキサン/シクロヘキサン混合溶媒、エタノール/1−プロパノール/2−プロパノール/ヘキサン混合溶媒、エタノール/1−プロパノール/2−プロパノール/シクロヘキサン混合溶媒、エタノール/2−プロパノール/ブタノール/ヘキサン混合溶媒、エタノール/2−プロパノール/ブタノール/シクロヘキサン混合溶媒、エタノール/2−プロパノール/メタノール/ヘキサン混合溶媒、エタノール/2−プロパノール/メタノール/シクロヘキサン混合溶媒、エタノール/2−プロパノール/酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒、エタノール/2−プロパノール/酢酸エチル/シクロヘキサン混合溶媒、エタノール/2−プロパノール/グリセリン/ヘキサン混合溶媒、エタノール/2−プロパノール/グリセリン/シクロヘキサン混合溶媒が挙げられる。これらの中から、ポリマーの溶解性に応じて適宜選択すればよい。
ポリマー精製にあたっては、重合終了後のポリマー重合溶液(通常は、生成したポリマーが反応停止剤や副生物、残留モノマー等と共に良溶媒に溶解している状態)、重合終了後に水洗や乾燥等の通常の処理を経て別途得られた乾燥ポリマーを良溶媒に再溶解した溶液に上記の冷却析出溶媒を添加する。添加時は冷却せずに、室温付近(20〜25℃)かそれ以上の温度で行なえばよい。なお、列挙した溶媒の組成から明らかなとおり、乾燥ポリマーに直接冷却析出溶媒を添加してポリマーを室温付近で一旦溶解した後、該ポリマー溶液を冷却してポリマーを析出させることも可能である。
冷却温度に関しては、溶液中のポリマーの溶解度が低下してポリマーが析出する温度であることが必要である。収率、残存モノマー量の観点から−8℃以上18℃未満に冷却することが必要である。但し、−8℃未満に冷却するとモノマー、低分子ポリマーがポリマー分子と共に沈澱する傾向が高まるため、精製後の残存モノマー、低分子ポリマー含有量が増加するため好ましくない。反対に、18℃を超えるとポリマーが溶媒から分離せず、収率の観点から好ましくない。より好ましくは−5℃以上15℃以下、更に好ましくは−5℃以上12℃以下である。
次いで、本発明において沈殿物を含むポリマー溶液をデカンテーションする際には、あらかじめ温度を冷却状態から18℃以上40℃以下まで加温することが必要である。この温度範囲に加温することにより、ポリマーは高粘性液体として溶液下層に沈殿し、流動性が著しく低下したゼリー状態となり、より容易にデカンテーションすることが可能となるので、ポリマー収率が高く、しかもモノマーや低分子ポリマーの除去率が高いデカンテーション操作を行なうことができるようになる。この場合、ポリマー自身が溶解する温度より低い温度でなければならない。ポリマー自身が溶解すると収率の減少が見られ好ましくないからである。従って、加温する温度は40℃以下で在る必要があり、より好ましくは18℃以上30℃以下、更に好ましくは18℃以上25℃以下である。
さらに、本発明においては、前記の冷却析出溶媒添加〜デカンテーションまでの操作を少なくとも一回以上繰り返すことが必要である。0回、すなわち繰り返しを行なわない場合には、加える溶媒の量が大量になり、精製効率やコストの面から好ましくない。一方、本発明者らの知見によれば、冷却析出溶媒添加〜デカンテーションまでの操作繰り返すとポリマーの精製度が高まるが、2回以上5回未満行なえば生体適合性ポリマーとして実質的に十分な精製度が得られ、5回以上繰り返しても精製度が顕著に変化することはなかった。従って、過度な精製操作は、精製に必要とするコストや時間を無駄にするため好ましくなく、ポリマーの冷却析出〜デカンテーションの繰り返し回数は2回以上5回未満が好ましい。
本発明において、前記の方法により得られる生体適合性ポリマーは、残留モノマー含有量が2.0重量%以下であり、かつ、低分子ポリマー含有率が0.4%以下となる。
残留モノマーとは、ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニット、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットにつき、それぞれのモノマーをいい、残留モノマー含有量とは、それぞれのモノマーの含有率を求めてその総和としたものである。本発明により、従来の沈殿精製方法等に比べて残留モノマーの含有量が半分近くまで低減化しており、より安全性が高いものとなっている。
また、低分子ポリマーとは、ポリメチルメタクリレートを標準とするGPC測定による分子量測定において、ポリマー分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の範囲にある、モノマー成分を除く成分をいう。分子量12,000以上の成分は、フィルター材との親和性が高く、溶出物試験において溶出が認められず、分子量12,000以下の成分はポリマーを水不溶性担体にコートした場合、フィルター材との親和性が弱く、コート後に脱落しやすくなるため、本発明においては分子量12,000以下の部分を特に低分子ポリマーと称して除去対象としている。ポリマーそのものを主成分とするフィルターを作成した際も、分子量の低下に伴い、フィルターを形成するポリマーから溶出しやすくなり好ましくない。本発明によれば、この低分子ポリマーにおいても、従来の沈殿精製方法等に比べて含有率が1/10近くまで低減化しており、より安全性が高いものとなっている。
本発明の方法により得られた生体適合性ポリマーは、生体適合性に優れることから医療材料用途として良好に用いられる。例えば、人工血管、人工腎臓、人工肝臓等の人工臓器、白血球除去フィルター等の血球分離フィルター、透析膜、抗血栓材等に用いることができる。特に、血液、すなわち濃厚赤血球製剤、濃厚血小板製剤、乏血小板血漿製剤、末梢血、リンパ液、骨髄液等の白血球、血小板を含む血球浮遊液から、血小板吸着を抑制し、かつ白血球を選択的に除去できることから、血液製剤用白血球選択除去フィルターや、体外循環用白血球選択除去器として好適に使用することができる。更に、水溶液中で長時間接触しても溶出が少なく、安定であることから、血液の大量処理を目的とした体外循環用白血球選択除去器に最も好適に使用することができる。
本発明は、また、水不溶性担体の少なくとも表面に本発明の方法により得られた生体適合性ポリマーを有する白血球選択除去フィルター材を提供する。「水不溶性担体の少なくとも担体表面に有する」とは、フィルターそのものが本発明のポリマーで作られたものであっても良く、支持基材表面にポリマーが存在し、実質的に被覆していても良い。フィルター表面にポリマーを存在させる方法は、フィルターそのものを本発明のポリマーで作成する場合、溶融成型法や相分離成型法など公知の方法が適用できる。一方、支持基材表面に被覆する場合、フィルター支持基材表面へのコーティングや沈殿不溶化、ポリマーとフィルター支持基材を成型時に相分離させる方法等公知の方法を用いることができる。
本発明の白血球選択除去フィルター材表面の生体適合性ポリマーは、血液等の体液と接触するため、水に対する溶解性が極めて低いことが望ましい。さらに、支持基材表面に被覆する場合、ポリマーのフィルター支持体からの剥離を抑制するために、ポリマーとフィルター支持体との接着性が高いことが望ましい。ポリマーの水に対する溶解性と、ポリマーとフィルター支持体の接着性を示す指標としては、J.H.Hildebrand,R.L.Scott“The Solubility of Nonelectroytes,3rd Ed.”(Dover Pub.,New York)に記載されている溶解度因子(Solubility Parameter)のδ値が利用できる。一般に2つの物質のδ値が近いとき、両者は強い接着性を示し、よく混合する。従って、本発明の白血球選択除去フィルター材におけるポリマーのδ値は、水のδ値(23.3)との差が大きく、フィルター支持体のδ値との差が小さいものが望ましい。好ましい該ポリマーのδ値の範囲としては、10.0以上11.5以下、該フィルター支持体のδ値の範囲としては7.0以上15.0以下であれば、水に対する溶解性が極めて低く、さらにフィルター支持体からポリマーの剥離のないフィルター材を得ることができる。より好ましくは、該ポリマーのδ値が10.0以上10.8以下、該フィルター支持体のδ値が7.2以上14.5以下であり、更に好ましくは、該ポリマーのδ値が10.0以上10.5以下、該フィルター支持体のδ値が7.5以上14.0以下である。
なお、δ値については、前記出典に記載されている(1)式により算出できる。
δ = (E/V) 1/2 ・・・(1)
なお、δ値については、前記出典に記載されている(1)式により算出できる。
δ = (E/V) 1/2 ・・・(1)
ここで、Eは凝集エネルギー(cal mol−1)であり、Vはモル体積(cm3mol−1)である。日本接着協会“接着ハンドブック 第2版”(日刊工業新聞社,1980年)にはこれまでに測定された溶剤、ポリマーのδ値が記載されているので、これらの値を利用できる。また、(1)式においてEやVが既知でない場合は、篠田耕三「溶液と溶解度」(丸善,1991年)に記載されているFedors法により、分子構造式からδ値を算出することができる。
本発明のポリマーを支持基材表面に被覆する場合、白血球選択除去フィルター材を構成するフィルター支持基材は、前記δ値の範囲にあり、血球にダメージを与えにくいものであれば特に制限はなく各種のものを用いることができる。例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロースジアセテート、エチルセルロース等が挙げられる。好ましくはポリエステル、ポリオレフィンで、特に好ましくはポリエステルである。
ポリマーのフィルター支持基材へのコーティング方法はフィルター支持基材の細孔を著しく閉塞することなく、かつフィルター支持基材表面がある程度の範囲にて均一にコーティングできるものであれば特に制限はなく各種の方法を用いることができる。例えば、ポリマーを溶かした溶液にフィルター支持基材を含浸させる方法、ポリマーを溶かした溶液をフィルター支持基材に吹き付ける方法、ポリマーを溶かした溶液をグラビアロール等を用いフィルター支持基材に塗布・転写する方法、などが挙げられるが、本発明のコーティング方法は上記例示に限定されるものではない。この中でもポリマーを溶かした溶液にフィルター支持基材を含浸させる方法、ポリマーを溶かした溶液をグラビアロール等を用いフィルター支持基材に塗布・転写する方法は、連続生産性に優れ、コストも低いことから好ましい方法である。
コーティングの際のポリマーを溶解する溶剤としては、フィルター支持基材を著しく溶解させないものであれば特に限定はなく、種々の溶剤を用いることができる。例えば、水及び無機塩を含む水溶液、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、ベンゼン、シクロヘキサンなどの炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシドなどの硫黄含有溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類及び上記の複数の溶剤の可溶な範囲での混合物などが挙げられるが、本発明のポリマーを溶解する溶剤は上記例示に限定されるものではない。
本発明の白血球選択除去フィルター材の形状は、液層で血液との接触を行うために接触頻度の観点から表面積が大きいことが望ましい。例を挙げると、不織布、繊維状、綿状、糸状、束状、簾状、織布等の繊維状構造体、スポンジ等の高分子多孔質体、あるいはビーズ状、ゲル状等の構造が挙げられる。特に白血球の吸着性、分離材としての取り扱い性からみて、織布、不織布が好ましく、中でも白血球との多点的な接触が可能である点で不織布が最も好ましい。
不織布などの繊維状構造体を用いる場合、繊維径が細胞吸着能力に寄与するため、有効な平均繊維径のものを用いることが重要である。繊維径が大きすぎる場合には白血球の吸着量及び吸着速度が低下し、小さすぎる場合には血小板吸着量が増加する点から、本発明における白血球選択除去フィルター材の平均繊維径の範囲は、0.5μm以上50μm以下が好ましい、更に好ましくは0.7μm以上40μm以下、最も好ましくは1μm以上35μm以下である。
なお、本発明における平均繊維径とは、以下の方法に従って求められる値をいう。すなわち、白血球選択除去フィルター材を構成する1枚または複数枚の繊維状構造体から実質的に均一と認められる部分をサンプリングし、走査電子顕微鏡などを用いて、写真に撮る。サンプリングに際しては、繊維状構造体の有効濾過断面積部分を、1辺が0.5cm の正方形に区分し、その中から6ケ所をランダムサンプリングする。ランダムサンプリングするには、例えば上記各部分に番地を指定した後、乱数表を使うなどの方法で、必要ケ所の区分を選べば良い。またサンプリングした各区分について、3ケ所以上好ましくは5ケ所以上を拡大倍率2500倍で写真に撮る。サンプリングした各区分について中央部分及びその近傍の箇所の写真を撮っていき、その写真に撮られた繊維の合計本数が100本を超えるまで写真を撮る。ここで直径とは、繊維軸に対して直角方向の繊維の幅をいう。測定した全ての繊維の直径の和を、繊維の数で割った値を平均繊維径とする。但し、複数の繊維が重なり合っており、他の繊維の陰になってその幅が測定できない場合、また複数の繊維が溶融するなどして、太い繊維になっている場合、更に著しく直径の異なる繊維が混在している場合、等々の場合には、これらのデータは削除する。
本発明は、また、本発明の白血球選択除去フィルター材を少なくとも入口と出口とを有する容器に充填した白血球選択除去装置を提供する。容器形状としては、入口と出口を有する容器であれば特に限定はないが、例を挙げると、白血球選択除去フィルター材を積層状に充填できる容器や、円柱状、三角柱状、四角柱状、六角柱状、八角柱状等の角柱状容器、更に、白血球選択除去フィルター材を円筒状に巻きこれを充填できる容器、または、血液の流れが円筒の外周より入り内側へと流れ、最も内側に集まり血液流出口より出ることを特徴とする容器等が良好な形状となる。更に、錘状等の断面積が入口から出口に向かうに従って、小さくなる形状を有する容器等も良好に用いられる。
本発明の白血球選択除去フィルター材の容器への充填密度は、容器中に該白血球選択除去フィルター材を充填した時の一定体積当たりの重さをいうが、該容器への該白血球選択除去フィルター材の充填密度は0.05g/cm3 以上0.5g/cm 3 以下が好ましい。更に白血球選択除去効率を上げ、目詰まりを抑制し、圧損の上昇を防ぎ流れをスムーズにする点より好ましい充填密度は0.075g/cm3以上0.4 g/cm3 以下、最も好ましくは0.1g/cm3 以上 0.35g/cm3 以下である。
以下図面を用いて本発明の白血球選択除去装置について具体的に説明する。図1は本発明の白血球選択除去装置の1例を示す縦断面図である。
白血球選択除去装置(1)における望ましい態様として、白血球選択除去フィルター材は、円筒状に巻かれて中空円筒状フィルター(4)を構成し、該中空円筒状フィルターの両端部は血液が通れないように接着材(5)によって液密に封止された状態で充填される。接着剤には血液に接触した際の適合性に優れ、且つ封止に適した液漏れしない材質のものを用いる。具体的にはウレタンなどの公知の合成樹脂が使用できる。血液入口(3)は、両端が封止された中空円筒状フィルターの外周面または内周面に被処理血液を供給し得る位置であれば、容器の任意の位置に設けてよい。血液出口(6)は、被処理血液が中空円筒状フィルターの外周面に供給される場合は、内周面に、被処理血液が中空円筒状フィルターの内周面に供給される場合は、外周面に連通するように設けられる。図1は被処理血液が中空円筒状フィルターの外周面に供給される構造の1例である。
白血球選択除去装置(1)における望ましい態様として、白血球選択除去フィルター材は、円筒状に巻かれて中空円筒状フィルター(4)を構成し、該中空円筒状フィルターの両端部は血液が通れないように接着材(5)によって液密に封止された状態で充填される。接着剤には血液に接触した際の適合性に優れ、且つ封止に適した液漏れしない材質のものを用いる。具体的にはウレタンなどの公知の合成樹脂が使用できる。血液入口(3)は、両端が封止された中空円筒状フィルターの外周面または内周面に被処理血液を供給し得る位置であれば、容器の任意の位置に設けてよい。血液出口(6)は、被処理血液が中空円筒状フィルターの外周面に供給される場合は、内周面に、被処理血液が中空円筒状フィルターの内周面に供給される場合は、外周面に連通するように設けられる。図1は被処理血液が中空円筒状フィルターの外周面に供給される構造の1例である。
本発明の白血球除去フィルター装置における中空円筒状フィルターは、血液第1接触層(4a)の濾過面積が50cm2以上1000cm2以下であることが望ましい。本発明でいう血液第1接触層とは、血液入口から供給された被処理血液がはじめに中空円筒状フィルターに接触する部分のことを言い、中空円筒状フィルターの外周面または内周面のいずれの部分であってもよい。一般に血小板は、高いずり応力が働くと、GPIIb/IIIa受容体を介するvon Willebrand因子との結合が盛んに行われ、血小板の活性化凝集が進むといわれている。従って、血小板回収率を向上させるためには、血液を低流量で血液第1接触層と穏やかに接触させることが望ましい。血液第1接触層の濾過面積が50cm2より小さい場合、単位濾過面積あたりの血液流量が大きくなり、血小板回収率が低下するため好ましくない。血液第1接触層の濾過面積が1000cm2を超えると、フィルター装置の容器サイズが大きくなりすぎるため好ましくない。より好ましくは80cm2以上500cm2以下、さらに好ましくは100cm2以上400cm2以下である。
血小板に与えるずり応力を制御する点で、血液第1接触層の体積基準比表面積を適切な範囲に規定することは好ましい態様である。本発明でいう体積基準比表面積とは、単位体積あたりのフィルター材表面積をいい、BET法、Langmuir法等公知の方法を用いて測定することができる。フィルター材が繊維の場合、平均繊維径値及び繊維比重値等を用いて、計算により求めることも可能である。本発明の白血球除去フィルター装置における中空円筒状フィルターは、血液第1接触層の体積基準比表面積が0.08m2/mL以上1.0m2/mL以下であることが望ましい。より好ましくは0.1m2/mL以上0.8m2/mL以下、更に好ましくは0.2m2/mL以上0.5m2/mL以下である。
本発明の白血球選択除去装置における中空円筒状フィルターは、白血球選択除去フィルター材と積層されて反物状に巻かれる血液の流通が可能なシート状のスペーサー層を有することも可能である。本発明でいうスペーサー層とは、白血球選択除去フィルター材よりも血液がより流れやすい層であり、目の粗い網状の金属や合成樹脂、無機繊維、合成繊維、或いは中空円筒状フィルターに使用される不織布よりも平均繊維径の大きな不織布なども用いられる。スペーサー層は中空円筒状フィルター間に血液の流れやすい部分を確保するために白血球選択除去フィルター材に積層されて反物状に一緒に巻かれるものである。なお、本発明において、スペーサー層とは白血球選択除去フィルター材間に挟まれた部分のみを言い、白血球選択除去フィルター材間に挟まれずに露出した部分は含まない。また、スペーサー層の端部は、血液の流路を確保するために中空円筒状フィルターの外周面及び/または内周面に露出していることが望ましい。
本発明の白血球選択除去装置における中空円筒状フィルターの厚みは、0.6mm 以上12.0mm 以下が望ましい。厚みが0 .6mm 未満の場合、フィルター濾過長が短く、血球成分とフィルター材との接触回数が小さくなるため白血球除去率が悪くなり好ましくない。厚みが12.0mmより大きい場合、フィルター濾過長が長く、血球成分とフィルター材との接触回数が大きくなるため血小板回収率が低下し好ましくない。より好ましい中空円筒状フィルターの厚みの範囲は、1.0mm以上10.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以上8.0mm以下である。
本発明の白血球選択除去装置における中空円筒状フィルターは、血液第1接触層の下流側に血液第2接触層を配することも可能である。血液第2接触層は、血液第1接触層で除去できなかった白血球を除去する機能を有するため、血液第1接触層よりも体積基準比表面積の大きなものを用いる。血液第2接触層の好ましい体積基準比表面積の範囲は、1.0m2/mL以上20m2/mL以下、より好ましくは2.0m2/mL以上15m2/mL以下である。
また、血液第1接触層に対する血液第2接触層の積層厚み比は0.2以上10.0以下であることが望ましい。本発明でいう積層厚み比とは、血液第1接触層の厚みを血液第2接触層の厚みで除した値であり、積層厚み比が0.2より小さくなると、血液第1接触層の濾過長が相対的に短くなるので、血液第2接触層で血小板の受けるずり応力を血液第1接触層が十分に緩和できず、血小板回収率が低下するため好ましくない。反対に、積層厚み比が10.0以上の場合、血液第1接触層が非常に多くなり、容器サイズが増大化するため好ましくない。以上の観点より、積層厚み比の好ましい範囲は0.3以上8.0以下、最も好ましい範囲は0.5以上6.0以下である。
本発明の白血球選択除去装置は、照射滅菌、湿熱滅菌、薬剤滅菌、ガス滅菌、乾熱滅菌等公知の方法で滅菌できるが、プライミング操作が簡便に実施できる点より充填液でフィルター材を飽和含水率以上の湿潤状態に保持し、滅菌することが好ましい。更に好ましくはγ線、電子線等の放射線を照射する照射滅菌または高圧蒸気滅菌等の湿熱滅菌により良好に滅菌できる。充填液は、ポリマーの劣化を起こさない液ならば何れの液体も良好に用いられるが、水または生体にとって害の少ない水溶性物質の水溶液であることが望ましい。
生体にとって害の少ない水溶性物質とは、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム等の塩類、グリセリン、クエン酸ナトリウム、ゼラチン、カゼイン等の水溶性有機化合物の様に水に溶ける物質で、しかも生体にとって害の少ない物質であり、多量の場合には生体にとって有害な物質であってもプライミング操作程度の簡単な洗浄操作により、血球分離フィルター外に該物質を洗い流す事ができ、少量の残存であれば生体にとって害の少ない物質も含まれる。また、水に溶解させる事によって等張溶液を作り易い物質は特に好ましく用いられる。これらの物質は単独で用いても良く、混合して用いても良い。好ましい水溶性物質の例としては、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムであり、最も好ましくは塩化ナトリウムである。
飽和含水率以上の湿潤状態とは、フィルター材が完全に水または生体にとって害の少ない水溶性物質の水溶液に浸漬された状態でも良いし、フィルター材を前もって充分加湿し、材料自身の飽和含水量以上の湿潤状態にするだけでも良い。要は、少なくともフィルター材がフィルター材の飽和含水量と同等かそれよりも余計な水分にさらされていれば良いのであって、その程度は問わない。
好ましい水溶性物質の濃度としては、0重量%以上5.0重量%以下である。濃度が5.0重量%より大きくなると、プライミング操作によって水溶性物質を除去し難くなるため好ましくない。また、濃度が0.01重量%以上のときポリマーの溶出をより抑制できることから、より好ましくは0.01重量%以上4.0重量%以下、更に好ましくは0.1重量%以上3.0重量%以下である。
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(ポリマーの合成)
コーティングにより白血球選択除去フィルターを製造する場合に用いるポリマーの合成方法の1例を示す。エタノール16.4kg、重合性モノマーを還流装置を設置した反応容器に入れ、減圧(−60mmHg)した後、窒素ガスを加圧(0.2kgf)することにより反応容器内を窒素置換し、減圧−加圧操作をもう一度繰り返すことにより完全に反応容器内を窒素置換した。開始剤溶液を添加後、10時間重合を行った。
重合性モノマ−としてはアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマ−に該当するメトキシジエチレングリコールメタクリレート(以下MDGと略す)を2.4907kg(15.6mol)、及び疎水性基を有する重合性モノマーに該当するメチルメタクリレート(以下MMAと略す)を2.2107kg(25.7mol)、及び水酸基を有する重合性モノマーに該当する2−ヒドロキシイソブチルメタクリレート(以下HBMAと略す)を1.3955kg(10.3mol)を含む液体である。つまり各重合性モノマーの仕込み量は、MDGが30モル%、MMAが50モル%、HBMAが20モル%である。開始剤溶液は、アゾビスジメチルバレロニトリル(以下V−65と略す)を0.01827kg含むエタノール溶液(0.5kg)である。
(ポリマーの合成)
コーティングにより白血球選択除去フィルターを製造する場合に用いるポリマーの合成方法の1例を示す。エタノール16.4kg、重合性モノマーを還流装置を設置した反応容器に入れ、減圧(−60mmHg)した後、窒素ガスを加圧(0.2kgf)することにより反応容器内を窒素置換し、減圧−加圧操作をもう一度繰り返すことにより完全に反応容器内を窒素置換した。開始剤溶液を添加後、10時間重合を行った。
重合性モノマ−としてはアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマ−に該当するメトキシジエチレングリコールメタクリレート(以下MDGと略す)を2.4907kg(15.6mol)、及び疎水性基を有する重合性モノマーに該当するメチルメタクリレート(以下MMAと略す)を2.2107kg(25.7mol)、及び水酸基を有する重合性モノマーに該当する2−ヒドロキシイソブチルメタクリレート(以下HBMAと略す)を1.3955kg(10.3mol)を含む液体である。つまり各重合性モノマーの仕込み量は、MDGが30モル%、MMAが50モル%、HBMAが20モル%である。開始剤溶液は、アゾビスジメチルバレロニトリル(以下V−65と略す)を0.01827kg含むエタノール溶液(0.5kg)である。
(ポリマーの精製)
ポリマー精製に関しては、重合溶液に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を重合溶液の5倍量添加し、均一な溶液とした。これを5℃に冷却し、5時間放置した。その後、20℃に戻し、上澄みをデカンテーションした。残渣に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を先の添加量と同量加え、60℃に加熱することにより、均一な溶液とし、これを5℃に冷却し、一晩冷却放置した。一晩後、この溶液を20℃に戻し、上澄みをデカンテーションした。この操作をもう一度繰り返し、最後の残渣に反応溶液と同重量の70%エタノール水溶液を加えることにより精製ポリマー溶液とした。ポリマー濃度、収率に関しては、精製ポリマー溶液を既知重量採取し、溶媒を完全に蒸発乾固させ、乾固後の重量を再計量することにより算出した。収率は80%であった。
ポリマー精製に関しては、重合溶液に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を重合溶液の5倍量添加し、均一な溶液とした。これを5℃に冷却し、5時間放置した。その後、20℃に戻し、上澄みをデカンテーションした。残渣に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を先の添加量と同量加え、60℃に加熱することにより、均一な溶液とし、これを5℃に冷却し、一晩冷却放置した。一晩後、この溶液を20℃に戻し、上澄みをデカンテーションした。この操作をもう一度繰り返し、最後の残渣に反応溶液と同重量の70%エタノール水溶液を加えることにより精製ポリマー溶液とした。ポリマー濃度、収率に関しては、精製ポリマー溶液を既知重量採取し、溶媒を完全に蒸発乾固させ、乾固後の重量を再計量することにより算出した。収率は80%であった。
(残留モノマー含有量の測定)
残留モノマー含有量は、カラム(GL・サイエンス社製 TC−WAX)を接続したガスクロマトグラフ装置(以下GCと略す)(島津社製 GC−17A)を用いて行った。カラム温度は、注入直後3分間70℃に保持した後、10℃/minの速度で昇温した後220℃の最終温度に設定した。また、その他の使用(測定)条件は、注入口温度:180℃、試料注入量:1μL、キャリアガス:ヘリウム、標準物質:n−ヘプタノールで、スプリット注入法により測定した。
残留モノマー含有量は、精製ポリマーを2重量%となるようにポリマーを溶解する溶液に溶かし、その中に含まれる残存モノマー量をGC測定にて測定し、ポリマー中のモノマー含有率として算出した。残留モノマーの含有量は、ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニット、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットにつき、それぞれのモノマーの含有率を求めてその総和とした。その結果、残留モノマーの含有量は0.68重量%となった。
残留モノマー含有量は、カラム(GL・サイエンス社製 TC−WAX)を接続したガスクロマトグラフ装置(以下GCと略す)(島津社製 GC−17A)を用いて行った。カラム温度は、注入直後3分間70℃に保持した後、10℃/minの速度で昇温した後220℃の最終温度に設定した。また、その他の使用(測定)条件は、注入口温度:180℃、試料注入量:1μL、キャリアガス:ヘリウム、標準物質:n−ヘプタノールで、スプリット注入法により測定した。
残留モノマー含有量は、精製ポリマーを2重量%となるようにポリマーを溶解する溶液に溶かし、その中に含まれる残存モノマー量をGC測定にて測定し、ポリマー中のモノマー含有率として算出した。残留モノマーの含有量は、ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニット、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットにつき、それぞれのモノマーの含有率を求めてその総和とした。その結果、残留モノマーの含有量は0.68重量%となった。
(低分子ポリマーの含有率の測定)
得られたポリマー中の低分子ポリマー含有率は、液体クロマトグラフ装置(本体:日本分光(株)製HPLCシステム+解析プログラム:JASCO−BORWIN ver.1.50)にガードカラム(東ソー(株)製 TSK guardcoloum α)、本カラム(東ソー(株)製 TSKgel α−M 2本)およびRI(示差屈折計)検出器を接続し、N,N−ジメチルホルムアミドに1mmol/LとなるようにLiBr(臭化リチウム)を添加した溶液を移動相とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。移動相のFLOW Rateを1mL/分、カラムおよび検出器温度を40℃として、これにポリマー溶液を一定量注入した。ここで、分子量既知のポリメチルメタクリレート標準品(昭和電工社製 M−75)から分子量−保持時間曲線を作成し、これにより、サンプルポリマーのクロマトグラム中の分子量12,000以下に相当する部分で、モノマー成分を除く部分を低分子ポリマーと見なしてその含有率を算出した。その結果、低分子ポリマー含有率は0.207%であった。
得られたポリマー中の低分子ポリマー含有率は、液体クロマトグラフ装置(本体:日本分光(株)製HPLCシステム+解析プログラム:JASCO−BORWIN ver.1.50)にガードカラム(東ソー(株)製 TSK guardcoloum α)、本カラム(東ソー(株)製 TSKgel α−M 2本)およびRI(示差屈折計)検出器を接続し、N,N−ジメチルホルムアミドに1mmol/LとなるようにLiBr(臭化リチウム)を添加した溶液を移動相とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。移動相のFLOW Rateを1mL/分、カラムおよび検出器温度を40℃として、これにポリマー溶液を一定量注入した。ここで、分子量既知のポリメチルメタクリレート標準品(昭和電工社製 M−75)から分子量−保持時間曲線を作成し、これにより、サンプルポリマーのクロマトグラム中の分子量12,000以下に相当する部分で、モノマー成分を除く部分を低分子ポリマーと見なしてその含有率を算出した。その結果、低分子ポリマー含有率は0.207%であった。
(ポリマーからの溶出物試験)
上記精製ポリマー(435mg)を容量50mlの容器に量り取り、10重量%になるように注射用蒸留水(4.35ml)を添加し、65℃の湯浴にて一晩温置した。一晩後、保温した溶液を孔径0.45μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製フィルターで処理することにより、不溶のポリマーを完全に除去した。紫外分光光度計(日本分光株式会社V−560)を用いて、波長220nm〜350nmにおける濾過後溶液の最大吸光度を測定したところ0.16であった。
上記精製ポリマー(435mg)を容量50mlの容器に量り取り、10重量%になるように注射用蒸留水(4.35ml)を添加し、65℃の湯浴にて一晩温置した。一晩後、保温した溶液を孔径0.45μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製フィルターで処理することにより、不溶のポリマーを完全に除去した。紫外分光光度計(日本分光株式会社V−560)を用いて、波長220nm〜350nmにおける濾過後溶液の最大吸光度を測定したところ0.16であった。
(白血球選択除去フィルター材の作成方法)
白血球選択除去フィルター材の作成方法を次に示す。得られたポリマー溶液を70%エタノール水溶液にて2%に希釈した。この溶液に、ポリエチレンテレフタレート製不織布を浸漬させ、室温で16時間乾燥させて目的の白血球選択除去フィルター材を得た。フィルター支持基材(コーティング前の不織布)のδ値は10.30、白血球選択除去フィルター材の平均繊維径1.7μm、目付66g/m2、厚み0.41mmであった。
白血球選択除去フィルター材の作成方法を次に示す。得られたポリマー溶液を70%エタノール水溶液にて2%に希釈した。この溶液に、ポリエチレンテレフタレート製不織布を浸漬させ、室温で16時間乾燥させて目的の白血球選択除去フィルター材を得た。フィルター支持基材(コーティング前の不織布)のδ値は10.30、白血球選択除去フィルター材の平均繊維径1.7μm、目付66g/m2、厚み0.41mmであった。
(保存加速試験)
保存加速試験は国際原子力機関(ウイーン)より発行された技術文書(IAEA−TECDOC−539、1990年)に準じて行った。具体的には、ポリマーを塗布した白血球選択除去フィルター材(10.8g)を容量200mlの容器に量り取った。注射用蒸留水(200ml)を添加し、60℃にて42日間インキュベートした。その後、温置した溶液を、孔径0.45μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製フィルターで処理することにより不溶のポリマーを完全に除去した。紫外分光光度計(日本分光株式会社V−560)を用いて波長220nm〜350nmにおける濾過後溶液の最大吸光度は0.003であった。
保存加速試験は国際原子力機関(ウイーン)より発行された技術文書(IAEA−TECDOC−539、1990年)に準じて行った。具体的には、ポリマーを塗布した白血球選択除去フィルター材(10.8g)を容量200mlの容器に量り取った。注射用蒸留水(200ml)を添加し、60℃にて42日間インキュベートした。その後、温置した溶液を、孔径0.45μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製フィルターで処理することにより不溶のポリマーを完全に除去した。紫外分光光度計(日本分光株式会社V−560)を用いて波長220nm〜350nmにおける濾過後溶液の最大吸光度は0.003であった。
ポリマーの合成に関しては、実施例1と同様の方法にて行った。ポリマーの精製に関しては、重合溶液に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を重合溶液の5倍量添加し、均一な溶液とした。これを2℃に冷却し、5時間放置した。その後、20℃に戻し、上澄みをデカンテーションした。残渣に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を先の添加量と同量加え、60℃に加熱することにより、均一な溶液とし、これを2℃に冷却し、一晩冷却放置した。一晩後、この溶液を20℃に戻し、上澄みをデカンテーションし、残渣に反応溶液と同重量の70%エタノール水溶液を加えることにより精製ポリマー溶液とした。
収率は85%であり、GC分析による残存モノマー測定の結果、1.54重量%であった。GPC分析による低分子ポリマー含有率測定の結果、0.296%となった。実施例1と同様の手法にて溶出物試験を行った結果、最大吸光度は0.296であり、保存加速試験の結果、最大吸光度は、0.002となった。
収率は85%であり、GC分析による残存モノマー測定の結果、1.54重量%であった。GPC分析による低分子ポリマー含有率測定の結果、0.296%となった。実施例1と同様の手法にて溶出物試験を行った結果、最大吸光度は0.296であり、保存加速試験の結果、最大吸光度は、0.002となった。
ポリマー合成に関しては、実施例1と同様の方法にて行った。ポリマー精製に関しては、冷却温度を−8℃とした以外は実施例1と同様の方法にて行った。
収率は94%であり、GC分析による残存モノマー測定の結果、1.10重量%であった。GPC分析による低分子ポリマー含有率測定の結果、0.261%となった。実施例1と同様の手法にて溶出物試験を行った結果、最大吸光度は0.228であり、保存加速試験の結果、最大吸光度は、0.003となった。
収率は94%であり、GC分析による残存モノマー測定の結果、1.10重量%であった。GPC分析による低分子ポリマー含有率測定の結果、0.261%となった。実施例1と同様の手法にて溶出物試験を行った結果、最大吸光度は0.228であり、保存加速試験の結果、最大吸光度は、0.003となった。
ポリマーの合成は実施例1と同様の方法にて行った。精製は重合溶液に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を重合溶液の5倍量添加し、均一な溶液とした。これを5℃に冷却し、5時間放置した。その後、20℃に戻し、上澄みをデカンテーションした。残渣に反応溶液と同重量の70%エタノール水溶液を加えることにより精製ポリマー溶液とした。ポリマー濃度、収率に関しては、精製ポリマー溶液を既知重量採取し、溶媒を完全に蒸発乾固させ、乾固後の重量を再計量することにより算出した。
収率は95%であり、GC分析による残存モノマー測定の結果、2.59重量%となった。また、GPC分析による低分子ポリマー含有率測定の結果、0.403%となった。溶出物試験は実施例1と同様の方法にて行い、波長220nm〜350nmにおける濾過後溶液の最大吸光度は3.42であった。白血球選択除去フィルター材の作成、保存加速試験も実施例1と同様の方法にて行い、濾過後溶液の最大吸光度は0.040であった。
収率は95%であり、GC分析による残存モノマー測定の結果、2.59重量%となった。また、GPC分析による低分子ポリマー含有率測定の結果、0.403%となった。溶出物試験は実施例1と同様の方法にて行い、波長220nm〜350nmにおける濾過後溶液の最大吸光度は3.42であった。白血球選択除去フィルター材の作成、保存加速試験も実施例1と同様の方法にて行い、濾過後溶液の最大吸光度は0.040であった。
ポリマー合成は実施例1と同様の方法にて行った。精製は重合溶液を純水に滴下しポリマーを析出させ回収し、析出したポリマーを裁断したものを再度純水に投下して1時間攪拌することでポリマーの洗浄を行った。次に洗浄を完了したポリマーを60℃で真空乾燥させて目的のポリマーを得た。精製後ポリマー中の残存モノマー含有量は、1.76重量%であり、低分子ポリマー含有率は、1.86%となった。白血球選択除去フィルター材の作成、溶出物試験、保存加速試験は実施例1と同様の方法にて行った。溶出物試験における濾過後溶液の最大吸光度は5.0以上であった。保存加速試験における濾過後溶液の最大吸光度は0.159であった。
ポリマー合成は実施例1と同様の方法にて行った。精製は重合溶液を純水に滴下しポリマーを析出させ回収し、析出したポリマーを裁断したものを60℃で真空乾燥させて目的のポリマーを得た。白血球選択除去フィルター材の作成、溶出物試験、保存加速試験は実施例1と同様の方法にて行った。残存モノマー量は、3.15重量%、低分子ポリマー含有率は、1.53%、溶出物試験結果は5.0以上、保存加速試験結果は、0.474であった。
以上の結果を表1にまとめた。
以上の結果を表1にまとめた。
表1から明らかなように、ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合成モノマー由来のユニットと疎水性基を有する重合成モノマー由来のユニットと水酸基を有する重合成モノマー由来のユニットを構成成分とするポリマーであって、該ポリマー中の残存モノマー及び、低分子ポリマー成分を大きく減量したポリマーは、溶出成分の低減に優れ、さらに保存安定性も著しく向上することが分かった。
ポリマーの合成は実施例1と同様の方法にて行った。精製は重合溶液に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を重合溶液の5倍量添加し、均一な溶液とした。これを室温25℃にて5時間放置したが、ポリマーが析出することは無かった。
ポリマーの合成は実施例1と同様の方法にて行った。精製は重合溶液に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を重合溶液の5倍量添加し、均一な溶液とした。これを5℃に冷却し、5時間放置した。その後、20℃に戻し、上澄みをデカンテーションした。残渣に10重量%ヘキサン含有エタノール溶液を先の添加量と同量加え、60℃に加熱することにより、均一な溶液とし、これを5℃に冷却し、一晩冷却放置した。一晩後、この溶液を濾紙上に濾過し、固体成分を単離した。しかし、高粘性、吸湿性の高い個体となり、濾紙から単離することができなかった。
実施例1〜3および比較例4、5を比較するとポリマー精製において、再加熱することによりデカントしやすくなり、取り扱い性の向上と共に、高収率のポリマーを得ることが可能になることが分かった。
実施例1〜3および比較例4、5を比較するとポリマー精製において、再加熱することによりデカントしやすくなり、取り扱い性の向上と共に、高収率のポリマーを得ることが可能になることが分かった。
ポリマー合成、精製、白血球選択除去フィルター材の作成に関しては実施例1と同様の方法にて行った。但し、フィルター材に使用した不織布は平均繊維径2.7μm、目付90g/m2、厚み0.42mmであった。
(血液性能試験)
白血球除去率および血小板回収率を評価する試験方法を記述する。作成したフィルター材を直径6.8mmの円形に切断し、入口と出口を有する容量1mLのカラムに7枚を積層した。充填液として生理食塩液を充填した状態でガンマ線滅菌(照射線量25kGy)を実施し、性能評価用カラムを作成した。抗凝固剤としてACD−Aを添加したヒト新鮮血液(白血球数:4,730/μL、血小板数:187,000/μL、血液:ACD−A=8:1)3mLをシリンジポンプを用いて0.5mL/分の一定流速でカラム入口より流し、処理後の血液を回収した。カラム通過前後の血液中の白血球濃度及び血小板濃度を自動血球数測定装置(東亜医用電子株式会社Sysmex SF−3000)にて測定し、 白血球の除去率及び血小板の回収率を算出した。
結果は、白血球除去率80.5%、血小板回収率80.2%であり選択的な白血球除去が可能であった。
白血球除去率および血小板回収率を評価する試験方法を記述する。作成したフィルター材を直径6.8mmの円形に切断し、入口と出口を有する容量1mLのカラムに7枚を積層した。充填液として生理食塩液を充填した状態でガンマ線滅菌(照射線量25kGy)を実施し、性能評価用カラムを作成した。抗凝固剤としてACD−Aを添加したヒト新鮮血液(白血球数:4,730/μL、血小板数:187,000/μL、血液:ACD−A=8:1)3mLをシリンジポンプを用いて0.5mL/分の一定流速でカラム入口より流し、処理後の血液を回収した。カラム通過前後の血液中の白血球濃度及び血小板濃度を自動血球数測定装置(東亜医用電子株式会社Sysmex SF−3000)にて測定し、 白血球の除去率及び血小板の回収率を算出した。
結果は、白血球除去率80.5%、血小板回収率80.2%であり選択的な白血球除去が可能であった。
上記から明らかなとおり、本発明の生体適合性ポリマーを得る方法によれば、生体適合性に優れ、溶出性、保存安定性に優れた生体適合性ポリマーを得ることができる。また、上記生体適合性ポリマーを用いた白血球選択除去フィルター材及び白血球選択除去装置は、白血球選択除去率に優れ、溶出物が少なく、保存安定性に優れることから、生体に対して安全性の高い、白血球を除去された血液を得る方法に有用に用いられる。
1 白血球選択除去装置本体
2 円筒状容器
3 血液入口
4 中空円筒状フィルター
4a 血液第1接触層
5 接着材
6 血液出口
2 円筒状容器
3 血液入口
4 中空円筒状フィルター
4a 血液第1接触層
5 接着材
6 血液出口
Claims (14)
- ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットおよび水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットからなる三元系の生体適合性ポリマーを製造する方法において、
下記(a)〜(e)の工程を順に含む精製処理:
(a)ポリマー又はポリマー溶液にポリマーの冷却析出溶媒を加え、均一な溶液とする工程;
(b)該溶媒を加えた均一な溶液を−8℃以上18℃未満に冷却してポリマーを析出させる工程;
(c)該ポリマーが析出した溶液を18℃以上40℃以下に加温する工程;
(d)該加温した溶液をデカンテーションする工程;
(e)該デカンテーションした残渣に、前記(a)〜(d)の操作を少なくとも1回以上繰り返す工程;
を行なうことを特徴とする前記組成の生体適合性ポリマーを製造する方法。 - (a)の工程のうち、均一な溶液とする工程が、加温により均一とする工程である請求項1に記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
- ポリマー溶液が、重合終了後のポリマー重合溶液またはポリマーを良溶媒に再溶解したポリマー溶液の何れかである請求項1又は2に記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
- 精製処理において、(e)の繰り返し工程を2回以上5回未満行なう請求項1〜3の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
- ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマーがメトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートであり、疎水性基を有する重合性モノマーがメチル(メタ)アクリレートであり、水酸基を有する重合性モノマーが2−ヒドロキシルイソブチル(メタ)アクリレートである請求項1〜4の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
- ポリマーの組成が、ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニットが8モル%以上45モル%以下、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットが30モル%以上90モル%以下、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットが2モル%以上50モル%以下である請求項1〜5の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
- 残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下である生体適合性ポリマーを得る請求項1〜6の何れかに記載の生体適合性ポリマーを製造する方法。
- 請求項1〜7の何れかに記載の方法により得られるポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニットおよび水酸基を有する重合性モノマー由来のユニットからなる三元系の生体適合性ポリマーであって、該ポリマー中の残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下であることを特徴とする生体適合性ポリマー。
- ポリアルキレンオキシド鎖を有する重合性モノマー由来のユニット8モル%以上45モル%以下、疎水性基を有する重合性モノマー由来のユニット30モル%以上90モル%以下、及び水酸基を有する重合性モノマー由来のユニット2モル%以上50モル%以下から構成される三元系の生体適合性ポリマーにおいて、残留モノマーの含有量が2.0重量%以下であり、さらにゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量分布曲線から算出される分子量12,000以下の低分子ポリマーの含有量が0.4%以下であることを特徴とする生体適合性ポリマー。
- 水不溶性担体の少なくとも担体表面に請求項8または9に記載の生体適合性ポリマーを有する白血球選択除去フィルター材。
- 血液導入部および血液導出部を有する容器内に請求項10に記載の白血球選択除去フィルター材が充填され、容器外に流出しないように保持されている白血球選択除去装置。
- 白血球選択除去フィルター材が、水または生体にとって害の少ない水溶性物質の水溶液により飽和含水率以上の湿潤状態に保持され、かつ滅菌されている請求項11に記載の白血球選択除去装置。
- 請求項11または12に記載の白血球選択除去装置の血液導入部より血液を流し入れ、該白血球選択除去装置内に白血球を捕捉させ、血液導出部より流出する白血球が除去された血液を得る方法。
- 請求項13に記載の方法により得られた白血球が除去された血液を血液の提供者に返血する方法。
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