本発明における最大の特徴は、レジスト膜を剥離・除去するためのレジスト除去用組成物として従来その使用が検討されていなかったリン酸エステルに着目した点である。
リン酸エステルは、半導体、液晶基板、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネルの製造において用いられるすべてのレジストに対して高い除去速度を持っていること、オゾンの溶解度が大きいこと、及び、基板とレジストとの間の界面に浸透しやすいという特性を持っていることを、本願の発明者らがはじめて見出した。このレジスト除去用組成物を用いることによって、通常のレジストだけでなく熱硬化したレジストに対しても、レジスト膜を常温付近で高速で剥離・除去することができるという従来にはない画期的な効果が得られる。
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピルなどが好ましい。これらのリン酸エステルは、いずれも、沸点及び引火点が高く、毒性が小さく、易水溶性であることから、レジスト除去用組成物として好適である。更に、これらのリン酸エステルは、水と混合した場合の溶液は、ほぼ中性であり、Alなどの金属を腐食しないという特徴を備えている。例えば、リン酸エステルの一つであるリン酸トリエチルは、融点が−56.5℃であり、沸点が215℃であり、引火点が115℃であり、常温においても無色、無臭の液体である。また、リン酸ジメチルの沸点は172℃であり、リン酸トリメチルの沸点は197.2℃であり、引火点は94℃である。
更に、リン酸エステルは、オゾンとの反応性が非常に低いとともに、オゾン溶解度が水よりも2乃至10倍大きいという特長を有している。従って、溶媒が備えているレジスト溶解力を利用するだけでなく、必要に応じて、オゾンの酸化力も併せて利用することによって、レジスト膜の剥離・除去に関して相乗効果が得られる。
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態に係るレジスト除去用組成物は、様々な種類のレジストに対して室温付近(20乃至50℃)で効果的に剥離・除去処理を可能にするリン酸エステルを含むことを特徴とする。
本実施形態に係るリン酸エステルとしては、沸点及び引火点が高く、毒性が小さく、易水溶性である、例えば、リン酸トリメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピル等が使用される。
好ましくは、本実施形態に係るレジスト除去用組成物を構成する混合物は、前記混合物の総重量を基準として、15乃至99.9重量%(150乃至999g/L)のリン酸エステルと、0.1乃至85重量%の水とから構成される。より好ましくは、レジスト除去用組成物を構成する混合物は、50乃至99.9重量%(500乃至999g/L)のリン酸エステルと、0.1乃至50重量%の水とから構成される。
本実施形態に係るレジスト除去用組成物は、必要に応じて、界面活性剤などの補助成分を更に含むことができる。非イオン性の界面活性剤としては、ノニルフェノールエトキシレート、オクチルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ノニルフェノキシカルボン酸などが使用可能である。陰イオン性の界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムが使用可能である。陽イオン性の界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウムが使用可能である。界面活性剤の含有濃度としては、実用的には0.1乃至100g/Lが好ましい。
本実施形態に係るレジスト除去用組成物は、必要に応じて、金属の腐食抑制剤や、高いオゾン溶解性を有する溶媒といった補助的成分を更に含むことができる。例えば、腐食抑制剤としては、ベンゾトリアゾールなどが使用可能である。また、オゾン溶解性の高い溶媒としては、四塩化炭素、クロロホルムなどのフロロクロロカーボンや、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの直鎖炭化水素、アセトン、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酢酸メチルなどの化合物が使用可能である。金属の腐食抑制剤の含有濃度としては、0.1乃至100g/Lの範囲であることが好ましい。オゾン溶解度の高い溶媒の含有量としては、1乃至100g/Lの範囲であることが好ましい。
本実施形態に係るレジスト除去用組成物は、様々な種類の有機物の重合体からなるレジストを基板から効果的に溶解・除去することができる。有機物の重合体からなるレジストの代表的な種類は、ポジティブ型およびネガティブ型のg線、i線およびDUV(遠紫外線)レジスト、電子ビームレジスト、X線レジスト、イオンビームレジストである。本実施例に係るレジスト除去用組成物は、前記全ての種類のレジスト中のいかなる種類でも効果的に除去することが可能である。
また、前記重合体から選択される特定の種類のレジストが上面にコーティングされている下地膜として、この技術分野で広く用いられる一般的な下地膜、例えばシリコン膜、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、ポリシリコン膜、あるいは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金のような金属膜が用いられる場合がある。このような場合であっても、本実施例に係るレジスト除去用組成物を使用すれば、前記下地膜に損傷を与えたり下地膜を汚したりすることなく、前記レジストを効果的に除去することが可能である。
次に、本実施形態に係るレジスト除去用組成物を用いたレジスト除去方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施例に係るレジスト除去方法において使用されるレジスト除去処理装置の模式図である。本発明のレジスト除去処理装置は、密閉空間を有する反応槽6内に、基板8を固定しかつその重心を中心とした軸回転が可能な基板ステージ40が設けられている。基板ステージ40内部には、基板8を加熱するためのヒータ(加熱手段)41が設けられている。基板ステージ40の回転および加熱は、反応槽6の下方に配置された制御装置42によって制御される。
レジスト除去溶液は、ポンプ4によって液供給板30’へ供給される。また、必要に応じて、オゾン発生器1で生成されたオゾン化ガスが、供給管111を介してエジェクター2に送気される。それと同時に、レジスト除去溶液も供給管114を通じてエジェクター2に導入される。エジェクター2において、オゾン化ガスがレジスト除去溶液に混合されて、オゾン化ガスがレジスト除去溶液中に溶存したオゾン化ガス溶存溶液が作成される。その後、オゾン化ガス溶存溶液が、供給管112を介して液供給板30’へ供給される。図1において、液供給板30’内には液溜め32’および液噴射孔33’が設けられている。この液噴射孔33’からオゾン化ガス混入液が基板8に向けて噴出される。さらに、基板8上からレジストを除去している間、供給された余剰のレジスト除去溶液は、反応槽6の底部5で回収された後、再度、レジスト除去溶液として使用することができる。回収されたレジスト含有溶液は、フィルター(図示せず)等を介して溶液中に含まれるレジスト膜の残渣等を取り除いた後、温度調節器115およびポンプ4から供給管114を通じて再利用することができる。本発明のレジスト除去処理装置において、オゾンを使用した場合、余剰のオゾン化ガスをオゾン化ガス排出管112’に通過させて排出オゾン処理器13に導入することによって、残存しているオゾンガスが無害な酸素に変化される。その後、無害化されたガスが大気に放出される。その結果、過剰なオゾンガスによる環境汚染が防止される。
次に、図1に示した除去処理装置を用いたレジスト膜の除去方法を説明する。
まず、基板8を基板ステージ40に固定する。その後、レジスト除去溶液を液噴射孔33’から基板8に向けて噴出する。液噴射孔33’から噴出された溶液は、基板8の中央から端部に向かって広がって、基板8の上に形成された全てのレジスト膜と接触する。その結果、レジスト膜が基板8から剥離・除去される。次に、基板8上に残っているレジスト残留物を除去するために、基板ステージ40を比較的高速に、例えば200乃至2500rpmで回転させながら、1乃至20秒間にわたって、レジスト除去溶液を基板8に対して均一に供給する。
次に、レジスト除去溶液の供給を停止したあと、基板ステージ40を高速回転させることによって、基板8をスピン乾燥する。そして、基板8上に有機物質が残留しないように、基板8を純水によって洗浄する。その後、再び高速回転によって基板8に残っている洗浄水を完全に除去する。前記全ての工程は20乃至50℃の室温付近で行うことができる。また、除去能力を更に向上するためには、レジスト除去溶液の温度を50℃乃至200℃の高温に、洗浄水の温度を25乃至90℃の高温にすることが好ましい。
本発明に係るレジスト除去用組成物の能力を測定及び評価するために、i線レジストとして製品名TFR−800(東京応化工業製)、MCPRis101K(シュプレー製)、KrFレジストとして製品名TDUR−P015(東京応化工業製)を使用し、レジスト膜をシリコンウエハ上に成膜した。各基板を120乃至140℃で5分間ベークした後、レジストの除去処理を行った。レジストの初期膜厚は1.0乃至1.6μmであった。除去速度の評価装置として、触針式膜厚計(DEKTAK3030ST、SLOAN社製)を用いてレジスト膜の膜厚を定量した。一方、レジスト除去溶液として、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリプロピルの純溶媒(和光純薬製、特級)を使用し、液温を50℃に制御した。比較例として、50℃に制御された、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチルカーボネート、メチルn−アミルケトン、乳酸エチル、エタノール、エチルメチルカーボネート、アセトン、ピルビン酸エチル、炭酸プロピレン、酪酸、プロピオン酸、乳酸、酢酸、ニトロメタン、3−メチル−2−オキサゾリドン、ジメチルスルホキシド、炭酸エチレン、水に対しても同様に測定及び評価を行った。
表1は、実施例1乃至5に係るレジスト除去溶液について、120℃のベーク温度における各種のレジストに対する溶解力を測定及び評価した結果を示している。表1からわかるように、測定されたリン酸エステルは、すべてのレジストに対して10μm/分以上の高い溶解性を有している。ただし、測定・評価されたレジスト除去溶液は、i線レジストに対して高いレジスト除去速度であったのに対して、KrFレジストに対しては相対的に低いレジスト除去速度であった。また、表1に示した以外に、リン酸ジメチル、リン酸モノメチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリブチル、リン酸ジブチル、リン酸モノブチル、を用いて同様にレジスト溶解試験を行ったところ、i線レジストに対しては10乃至20μm/分、KrFレジストに対しては5乃至15μm/分程度のレジスト除去速度が得られた。
また、予めシリコンウエハ上にAl、Cu、W、Mo、Ta、Ti、Ru、Crなどの金属配線を形成した基板に対して、レジストを塗布した後、レジスト除去処理を行った。リン酸エステルの溶媒はほぼ中性を示すため、いずれの金属材料に対しても腐食や汚染することなく、レジストを基板から完全に除去することができた。
以上のように、リン酸エステルを含むレジスト除去用組成物は、ほぼ中性を示すため、金属配線材料に対する腐食を発生することなく、前記のすべてのレジストを高速で溶解できるという効果がある。また、本実施例ではリン酸エステルの温度が50℃であるが、リン酸エステルの温度が20乃至50℃の室温付近であっても、5乃至20μm/分の高い除去速度が得られた。リン酸エステルの温度が高いほどレジスト除去速度が増加するが、リン酸エステルを含むレジスト除去用組成物は、常温で液体であるために、たとえレジスト除去処理装置に加熱機構がなくても高いレジスト除去能力を持っているという利点がある。
次に、表2は、実施例6,7と比較例17,19,20として、レジストの熱硬化処理がレジスト除去速度に与える影響を測定・評価した結果を示している。すなわち、120乃至140℃のベーク温度で、5分間の条件で熱硬化処理されたレジストが、リン酸トリエチル、炭酸エチレンに溶解されるレジスト除去速度を示している。熱硬化処理温度が130℃以下では、いずれの成分もレジスト除去速度が大きかったのに対して、140℃で熱硬化処理を行うと、レジスト除去速度が2μm/分程度に低下することがわかった。また、リン酸トリエチル以外にも、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル及びリン酸トリブチルを用いた場合でも、同様のレジスト除去速度が得られた。一方、炭酸エチレンを用いた場合には、レジスト除去速度が0.1μm/分まで低下した。その原因としては、i線レジストは140℃で熱硬化処理を行うと架橋反応が進行して高分子化するために、溶媒に対するレジストの溶解速度が減少したものと考えられる。一方、KrFレジストは140℃では架橋反応が進行しなかったので、すべての条件でレジスト除去速度は同じであった。
表2の評価結果から、本発明の特徴であるリン酸エステルを含むレジスト除去用組成物は、熱処理などで硬化したレジストを高速で溶解・除去できることが確認された。
上述した実施例1乃至7では、レジスト除去溶液が、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸トリメチルあるいはリン酸トリプロピルの純溶媒である。実施例8乃至13では、リン酸エステルの濃度を10乃至99.9重量%に変化させて、レジスト除去速度に対するリン酸エステル濃度依存性を検討した。
表3には、実施例8乃至13に係るレジスト除去溶液について、ベーク温度120℃で熱硬化処理された各種のレジストに対する除去能力を測定・評価した結果を示している。レジスト除去溶液としては、リン酸トリエチルを純水で希釈したものを用い、レジスト除去溶液の温度を50℃に設定した。本実施例に係るレジスト除去用組成物のレジスト除去能力を測定・評価するために、i線レジストとして製品名TFR−800(東京応化工業製)、MCPRis101K(シュプレー製)、KrFレジストとして製品名TDUR−P015(東京応化工業製)を使用し、各レジスト膜をシリコンウエハ上に成膜した。
対象とするレジストがi線レジストの場合、リン酸トリエチル濃度が10重量%では、除去速度が0.05μm/分以下と遅かったが、リン酸トリエチル濃度が25重量%では1μm/分、リン酸トリエチル濃度が50重量%では5μm/分、リン酸トリエチル濃度が50重量%以上では20μm/分以上の除去速度が得られた。一方、対象とするレジストがKrFレジストの場合、i線レジストの場合と比較して、レジスト除去速度が半分程度であるが、リン酸トリエチル濃度に関して同様の結果が得られた。リン酸トリエチルの濃度が低下すると、共存する成分とリン酸トリエチルが化学結合を形成し、レジスト溶解力が低下するものと考えられる。また、本実施例では、リン酸トリエチルの溶解力について具体的に示したが、リン酸トリエチル以外に、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチルあるいはリン酸トリブチルを用いても同様のレジスト除去特性が得られた。
また、本実施例ではリン酸エステルの温度が50℃であるが、20乃至50℃の室温付近においても0.02乃至10μm/分のレジスト除去速度が得られた。リン酸エステルの温度が高いほどレジスト除去速度が増加するが、リン酸エステルが常温で液体であるため、たとえレジスト除去処理装置が加熱機構を備えていなくても比較的高いレジスト除去能力が得られるという利点がある。また、リン酸エステルのみによって高いレジスト除去能力を実現できるという利点もある。
上記実施例では、いずれも、レジスト除去用組成物に含まれるリン酸エステル以外の成分が水である。レジスト除去用組成物に含まれるリン酸エステル以外の成分が、非イオン性界面活性剤や陰イオン性界面活性剤や陽イオン性界面活性剤であっても、レジスト除去速度は変化しなかった。ここで、非イオン性界面活性剤としては、ノニルフェノールエトキシレート、オクチルフェニルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ノニルフェノキシカルボン酸などが使用可能である。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等が使用可能である。陽イオン性界面活性剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム等が使用可能である。また、腐食抑制剤であるベンゾトリアゾールや四塩化炭素、クロロホルムなどのフロロクロロカーボンや、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの直鎖炭化水素、アセトン、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酢酸メチルなどの溶媒が共存しても、レジスト除去速度は変化しなかった。
また、予めシリコンウエハ上にAl、Cu、W、Mo、Ta、Ti、Ru、Crなどの金属配線を形成した基板に対して、レジストを塗布した後、レジストの溶解・除去処理を行った。リン酸エステル自身は中性であるが共存する成分によって溶液のpH(水素イオン濃度)は変化する。Al配線に対しては、pHが4乃至9の範囲では腐食が見られなかったが、それ以外のpH範囲では腐食が発生した。Cu配線に対しては、pHが4乃至12の範囲では腐食が見られなかったが、それ以外のpH範囲では腐食が発生した。このように金属配線材料に対して、腐食を抑制できるpH範囲は異なっているが、金属材料によってはpHを1乃至9の範囲に制御し、更に好ましくは、pHを4乃至9に制御することによってすべての金属に対して腐食を抑制できることがわかった。
以上のことから、リン酸エステルを含むレジスト除去用組成物は、前記のすべてのレジストを高速で溶解して除去するという効果を備えている。また、実用的には、レジスト除去速度が0.1μm/分以上であることが好ましいので、リン酸エステルの含有量は、150乃至999g/Lの範囲に調整するのがよい。更に、5μm/分以上の高い溶解・除去能力が必要な場合には、リン酸エステルの含有量を500乃至999g/Lの範囲に調整することが好ましい。また、基板上に予め形成された金属配線材料に対する腐食を抑制するには、レジスト除去用組成物のpHを1乃至9に、更に好ましくはレジスト除去用組成物のpHを4乃至9に制御するのが良い。
実施例1乃至7は、レジスト除去溶液として、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリプロピルの純溶媒のみを用いた場合のレジスト除去速度に関する。表4に示した実施例14乃至22は、リン酸エステルに予めオゾンを溶解させた場合のレジスト除去速度に関する。
本実施例の装置(図1)を用いたレジスト膜の除去方法を以下に説明する。
まず、基板8を基板ステージ40に固定する。オゾン発生器1で生成されたオゾン化ガスを供給管111を介してエジェクター2に送気すると同時に、レジスト除去溶液も供給管114を通じてエジェクター2に導入する。エジェクター2においてオゾン化ガスと溶液とが混合されて、オゾン化ガスが溶液に溶存される。その後、オゾン化ガス溶存溶液を供給管112を介して液供給板30’へ供給する。ここで、溶液中へのオゾン化ガスの溶存濃度、特に有効なオゾン溶存濃度は、オゾン化ガス中のオゾン含有量および使用される溶液の種類によって変化させることができる。例えば、溶液がリン酸トリエチルの場合、好ましくは飽和状態であって、20乃至50℃において、オゾン溶存濃度は約1乃至600mg/Lの範囲が好ましい。更に、オゾンをレジスト酸化に有効利用するためには、50乃至400mg/Lの範囲がより好ましい。
本実施例の方法および装置においても、レジスト膜の除去速度を高めるために、オゾン化ガスを連続的に、またレジスト除去溶液を断続的に供給することが好ましい。すなわち、図1に示した本発明の装置では、例えば、オゾン化ガスを混入させたレジスト除去溶液と、オゾン化ガスを含まないレジスト除去溶液とを交互に基板表面へ供給することができる。オゾン化ガスは、原料ガスである酸素含有ガスを供給管111から供給し、オゾン発生器1を介して、酸素含有ガスの少なくとも5モル%、好ましくは5乃至100モル%までをオゾン化することにより得られる。オゾン化ガス中に含まれるオゾンガスの濃度は、高いほどレジスト除去速度が速くなるが、この量は、レジスト除去処理対象の基板の大きさおよびレジストの種類等に従って変化させることができる。オゾン発生器に導入される酸素を含むガスの供給量は、必要とされるオゾン化ガス導入量およびその後の基板へのオゾン化ガス供給量に従って変化させることができる。
オゾンを溶解させたレジスト除去溶液で基板上のレジストを除去した後、レジスト除去溶液の供給を停止する。そして、基板ステージ40を高速回転させることによって、基板8をスピン乾燥する。次に、基板8上にレジストの有機物質が残留しないように、基板8を純水によって洗浄する。その後、再び基板ステージ40を高速回転させることによって基板8に残っている洗浄水を完全に取り除く。前記全ての工程は20乃至50℃の室温付近で行うことができる。また、レジスト除去能力を更に向上するためには、レジスト除去溶液の温度を50℃乃至200℃の高温に、リンス用の純水の温度を25乃至90℃の高温にすることが好ましい。
純溶媒に対して溶解性が低いレジスト、例えば、140℃、5分間の条件で熱硬化処理したレジストを用いた。また、溶媒としては、リン酸トリエチル及び、炭酸エチレンを用いて、液温を50℃に設定して、レジストの除去処理を行った。
表4は、オゾン溶存濃度を0乃至200mg/L(0乃至9.6モル%)に制御した場合のレジスト除去速度を示している。溶媒としてリン酸トリエチルを用いた場合には、オゾン溶存濃度の増加に伴ってレジスト除去速度が増加し、100mg/L(4.8モル%)では5μm/分、200mg/L(9.6モル%)では12μm/分が得られた。通常、オゾンが溶媒中に溶解すると、オゾンの酸化反応によって有機物が分解される。そのために、オゾン溶存濃度に正比例して、レジスト除去速度が増加するものと考えられている。しかしながら、リン酸トリエチルを用いた場合、オゾン溶存濃度の1.5次〜2次に比例して、レジスト除去速度が増加した。このことは、リン酸トリエチルの溶解力とオゾンの酸化力との相乗効果の結果であると考えられる。相乗効果としては、リン酸エステルの持っている、基板とレジストとの間の界面への高い浸透性が、オゾンによって増幅されたものと考えられる。一方、比較例20,21,22として炭酸エチレンを用いた場合が表4に示されている。炭酸エチレンを用いた場合、オゾン溶存濃度に比例してレジスト除去速度が増加するが、オゾン溶存濃度200mg/Lにおいてもレジスト除去速度1μm/分程度であった。炭酸エチレンのオゾン溶解度が小さいために、本実施例と比較すると、レジスト除去速度は1/5乃至1/10程度に遅くなったと考えられる。
次に、リン酸トリエチルを用いた場合について、オキシダント溶存濃度をヨウ化カリウム法によって定量化して、オキシダント溶存濃度とレジスト除去速度との関係について調べた。ヨウ化カリウム(KI)法とは、下記のように、溶液中のオゾンなどのオキシダントXがヨウ素イオンと反応してヨウ素分子を生成するため、ヨウ素の吸光度(測定波長350nm)を測定するという手法である。
2 KI+ 2 X → I2 + Y
オキシダント溶存濃度とレジスト除去速度との関係を表5に示す。オキシダント溶存濃度75mg/Lの場合を1とした場合の相対的なレジスト除去速度は、オキシダント溶存濃度に伴って増加した。オキシダント溶存濃度が50乃至400mg/Lの範囲では、レジスト除去速度がオキシダント溶存濃度の1乃至2次に比例していることから、オキシダントとレジストとが効率的に反応しているといえる。一方、オキシダント溶存濃度が400mg/L以上では、レジスト除去速度は頭打ちの傾向が見られた。溶存オキシダントの高濃度化により、オキシダントの自己分解反応や溶媒との反応が促進されたためだと考えられる。
オキシダントとしては、主にオゾンであるが、オゾンとリン酸エステルとの反応によって生成した過酸化物などのオキシダントも同様な効果があることがわかった。
また、本実施例では、リン酸トリエチルの溶解・除去能力について具体的に示した。リン酸トリエチル以外にも、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチルを用いても、同様の溶解・除去特性が得られた。つまり、レジスト除去速度は、オキシダント溶存濃度に対して1〜2次に比例して増加し、オキシダント溶存濃度100mg/Lの場合、約1乃至2.5μm/分であり、400mg/Lの場合には10乃至14μm/分であった。
一般的に、レジストは、極性溶媒に溶解しやすいという性質を持っている。例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチルカーボネート、メチルn−アミルケトン、乳酸エチル、エタノール、エチルメチルカーボネート、アセトン、ピルビン酸エチル、ジメチルスルホキシドなどが知られている。一方、文献によれば、溶媒に対するオゾン溶解度は、酢酸やジクロロメタンのような非極性溶媒のほうが大きく、室温におけるオゾン溶解度は水の約8乃至10倍である。しかし、濃硫酸などの極性溶媒は、水と同等のオゾン溶解度を持っている。また、従来技術で説明した特許文献2の第21段落に記載されているように、炭酸エチレンや炭酸プロピレンのような極性溶媒に対するオゾン溶解度が、水の約2倍程度と小さいことが知られている。
以上のことから、従来の技術的知見からは、レジスト溶解性が高く、かつオゾン溶解度が大きい溶媒を見つけることが非常に困難であった。しかしながら、本願の発明者らは、非極性溶媒であるリン酸トリエチルがレジストとオゾンの両方に対して溶解性が高いことをはじめて見出した。また、リン酸トリエチル以外にもリン酸モノエチル、リン酸ジエチル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸モノプロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチルに対しても同様の効果があることも見出した。
一方、水溶液に対するオゾン溶解度は、水素イオン濃度(pH)に依存することが知られている。文献(杉光英俊著、「オゾンの基礎と応用」、光琳出版、40ページ)によれば、オゾン溶解度は水素イオン濃度(pH)の上昇に伴って徐々に減少し、溶液中の水素イオン濃度(pH)の0.035乗に比例すると報告されている。例えば、pHが2から10に増加すれば、溶解するオゾン量は0.6倍に減少する。
また、アルカリ水溶液中ではオゾンの自己分解反応が促進されることが知られている。文献(杉光英俊著、「オゾンの基礎と応用」、光琳出版、248ページ)によれば、pHが10以上の強アルカリ性溶液では、オゾンの自己分解による半減期が1秒以下と非常に短く、自己分解反応が極めて早く進行すると報告されている。したがって、本実施例で見られたような、レジスト除去における溶媒の溶解力とオゾンの酸化力との相乗効果を効率的に得るためには、レジスト除去溶液のpHを10以下に保持することが好ましい。
以上のことから、リン酸エステル及びオゾンを含むレジスト除去用組成物は、前述したすべてのレジストを溶解し且つ酸化できるという効果がある。また、前記レジスト除去用組成物は、基板とレジストとの間の界面に浸透しやすいために、レジスト除去を促進するという効果もある。一方、有効なオゾン溶存濃度は、約1乃至600mg/Lの範囲が好ましい。更に、オゾンをレジスト酸化に有効利用するには、50乃至400mg/Lの範囲が好ましい。
リン酸エステルと同様に、沸点及び引火点が高く、毒性が小さく、易水溶性である中性溶媒として、ジメチルスルホキシドが知られている(沸点は189℃、引火点は95℃である)。しかし、オゾンと混合すると、常温においても下記の反応が激しく進行して、酸化分解される。
したがって、ジメチルスルホキシドを用いた場合には、本実施例のように、溶媒中に予めオゾンを溶解させて、レジスト除去における溶媒の溶解力とオゾンの酸化力とが相乗された効果を得ることは不可能である。また、リン酸エステルを用いた場合には、リン酸エステルを含むレジスト除去溶液によってレジストを溶解除去した後、前記レジスト溶解除去溶液に、別途、オゾンを通気することによりレジスト溶解除去溶液の再生処理が可能であり、リサイクル性が優れているという長所がある。一方、ジメチルスルホキシドの場合には、オゾンとの反応性が高いために、酸化によってレジスト溶解除去溶液を再生することが不可能であるため、蒸留等の高価な処理を行わなければならないという短所がある。
また、本実施例に係るレジスト除去用組成物は、図1に示したしたような処理装置6にエッジリンス用ノズル(図示しない)を設置することで、基板8のエッジリンス工程にも適用できる。この場合には、前記エッジリンス用ノズルを使用して本実施例に係るレジスト除去溶液を基板8のエッジ部分に噴射する。その結果、前記エッジリンス用ノズルから供給されるレジスト溶解除去溶液が届く基板8のエッジ部分で残留するレジストが均一に除去され、レジスト溶解除去溶液による基板8上の処理面が滑らかな状態になる。
図1に示したようなレジスト除去処理装置6に裏面リンス用ノズル(図示しない)を設置することで、基板8の裏面リンス工程に適用する場合もある。この場合にも同じように、基板8の裏面でレジスト残留物が均一に除去されて基板8上で有機溶剤が残留しない滑らかな処理面を得られる。
前記のように、本実施例に係るレジスト除去用組成物は、多様な種類のレジストに対して室温でも有効に機能して、レジスト除去速度が速くて容易に揮発されて基板8の表面に残留しない。また、基板8上のレジスト除去工程、基板のエッジリンス工程及び基板の裏面リンス工程に効果的に使われる。
1 オゾン発生器、2 エジェクター、4 ポンプ、5 底部、6 反応槽、8 基板、13 排出オゾン処理器、30’ 液供給板、32’ 液溜め、33’ 液噴射孔、40 基板ステージ、41 加熱手段、42 制御装置、111 供給管、112 供給管、112’ オゾン化ガス排出管、114 供給管、115 温度調節器。