図1は、本発明の制御装置が好適に適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース14(以下、ケース14という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸16と、この入力軸16に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された差動部12と、その差動部12と駆動輪38との間の動力伝達経路において伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の自動変速機としての有段式自動変速部20(以下、自動変速部20という)と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38との間に設けられて、図8に示すようにエンジン8からの駆動力を駆動装置の他の一部として動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の変速機構10を表す部分においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
差動部12は、第1電動機M1と、入力軸16に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1及び伝達部材18に分配する動力分配機構としての差動機構24と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1及び第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は駆動力を発生させるためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。好適には、第1電動機M1及び第2電動機M2の何れもエンジン8と同様に走行用の駆動力源として機能するものである。
差動機構24は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26と、差動状態切換装置である切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
この差動機構24においては、第1キャリヤCA1は入力軸16すなわちエンジン8に連結されるものであり第1要素(第1回転要素)に対応する。第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結されるものであり第2要素(第2回転要素)に対応する。第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されるものであり第3要素(第3回転要素)に対応する。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース14との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放されると、差動機構24は第1遊星歯車装置26の3つの要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動機構24が差動状態とされると差動部12がその変速比γ0(入力軸16の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると差動機構24は前記差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、差動機構24は第1遊星歯車装置26の3つの要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部12は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1がケース14に連結させられると、差動機構24は第1サンギヤS1が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、差動部12は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速比状態とされる。すなわち、前記第1遊星歯車装置26は、シングルプラネタリギヤから成る増速機構である。
このように、本実施例において、第1電動機M1、第2電動機M2、及び差動機構24から成る差動部12は、変速比を連続的に変化させる電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と、無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1又は2種類以上の変速比の単段又は複数段の変速機として作動する定変速比状態とに切り換え可能な変速状態切換型変速機構として機能するものである。また、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は、差動部12の状態を無段変速状態及び定変速比状態のうち何れかに選択的に切り換える差動状態切換装置として機能する。
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置30、及びシングルピニオン型の第4遊星歯車装置32を備えている。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転及び公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置32は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転及び公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結されるようになっている。また、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
図2は、前記変速機構10に油圧を供給するために備えられた油圧制御回路40の要部を簡単に示す図である。この図2に示す油圧ポンプ42は、例えば、前記エンジン8の回転駆動に従って作動する機械式油圧ポンプ或いは電動式油圧ポンプであり、ストレーナ44に還流した作動油を所定の油圧にて圧送する。第1レギュレータ弁46は、上記油圧ポンプ42から供給される油圧を元圧としてライン圧PL を調圧する。ソレノイドモジュレータ弁48は、上記第1レギュレータ弁46から供給されるライン圧PL を元圧としてモジュレータ圧PM を調圧して前記リニアソレノイド弁SL1、SL2、SL3、SL4、SL5、SL6、及びSL7等へ供給する。それらリニアソレノイド弁SL1、SL2、SL3、SL4、SL5、SL6、SL7は、電子制御装置50からの信号に従い上記ソレノイドモジュレータ弁48から供給されるモジュレータ圧PM を元圧としてそれぞれ切換クラッチ制御圧PC0、第1クラッチ制御圧PC1、第2クラッチ制御圧PC2、切換ブレーキ制御圧PB0、第1ブレーキ制御圧PB1、第2ブレーキ制御圧PB2、第3ブレーキ制御圧PB3を調圧して各油圧式摩擦係合装置すなわち切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3へ供給する。
以上のように構成された変速機構10では、例えば、図3の係合作動表に示されるように、上記油圧制御回路40から供給される制御油圧に応じて前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)、後進ギヤ段(後進変速段)、或いはニュートラルの何れかが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では差動機構24に差動状態切換装置として機能する切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部12は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速比状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部12と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部12と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。換言すれば、変速機構10は、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。すなわち、電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と、有段変速機として作動可能な有段変速状態とに切り換え可能な変速状態切換型変速機構として機能する。
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図3に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図3に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部12が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
図4は、無段変速部(第1変速部)として機能する差動部12と有段変速部(第2変速部)として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図4の共線図は、各遊星歯車装置26、28、30、32のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸16に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、差動部12を構成する差動機構24の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に、第2要素(第2回転要素)RE2に対応する第1サンギヤS1の相対回転速度、第1要素(第1回転要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1の相対回転速度、第3要素(第3回転要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度をそれぞれ示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置26のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4要素(第4回転要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3の相対回転速度、第5要素(第5回転要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2の相対回転速度、第6要素(第6回転要素)RE6に対応する第4リングギヤR4の相対回転速度、第7要素(第7回転要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4の相対回転速度、第8要素(第8回転要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4の相対回転速度をそれぞれ示すものであり、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置28、30、32のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部12では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置28、30、32毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図4の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、差動機構24(差動部12)において、第1遊星歯車装置26の第1要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸16すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2要素(第1サンギヤS1)RE2と選択的に連結され、第2要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース14に選択的に連結され、第3要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、入力軸16の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
図5及び図6は上記図4の共線図の差動部12部分に相当する図である。図5は上記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動状態)に切換えられたときの差動部12の状態の一例を表している。例えば、第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降或いは上昇させられる。
また、図6は切換クラッチC0の係合により定変速比状態(有段変速状態)に切換えられたときの差動部12の状態を表している。つまり、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、差動機構24は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって第1サンギヤS1の回転が停止させられると差動機構24は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図4に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、第7回転要素RE7は出力軸22に連結されている。また、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。
自動変速部20では、図4に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより定まる、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより定まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより定まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより定まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部12すなわち差動機構24からの駆動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部12からの駆動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより定まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
図7は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置50に入力される信号及びその電子制御装置50から出力される信号を例示している。この電子制御装置50は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御や、変速機構10における無段変速制御及び有段変速制御、及びそれらの制御を実行するために前記差動機構24の差動状態切換制御や、駆動力源切換制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置50には、図7に示す各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、シフトポジションを表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、M(モータ走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度に対応する車速信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号Acc、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各駆動輪の車輪速を示す車輪速信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために差動部12を定変速状態(非差動状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を示す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために差動部12を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を示す信号、第1電動機M1の回転速度NM1を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2を表す信号などが、それぞれ供給される。
また、電子制御装置50からは、スロットル弁の開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、エンジン8の点火時期を指令する点火信号、第1電動機M1及び第2電動機M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部12や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路40に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、上記油圧制御回路40の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図8は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図8において、有段変速制御手段56は、予め記憶された関係から所定の制御変数に基づいて変速機構10による変速動作を制御する。例えば、関係記憶手段58に記憶された有段変速制御マップ(変速線図)に基づいて有段変速制御を実行する。図9は、上記関係記憶手段58に記憶された第1変速制御マップ66を例示する図であり、図10は、同様に上記関係記憶手段58に記憶された第2変速制御マップ68を例示する図である。有段変速制御手段56は、例えばこれら図9又は図10の実線及び一点鎖線に示す変速線図から車速V及び車両負荷すなわち自動変速部20の出力トルク(アウトプットトルク)TOUTで示される車両状態に基づいて自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断してその自動変速部20の自動変速制御を実行する。換言すれば、自動変速部20の変速すべき変速段を判断してその自動変速部20の自動変速制御を実行する。このように、本実施例では車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT乃至は車両負荷の関数として有段変速機の変速制御が定義されている。そして無段変速部の無段・ロック領域と同じ制御関数として図9及び図10に示すようにマップ化されている。
有段変速制御手段56は、前記差動部12(差動機構24)が差動状態である場合には、予め定められた第1の関係例えば上記第1変速制御マップ66に基づいて前記自動変速部20の変速制御を行うと共に、前記差動部12が非差動状態である場合には、予め定められた第2の関係例えば上記第2変速制御マップ68に基づいて前記自動変速部20の変速制御を行う。換言すれば、前記電気的無段変速部の変速比が可変状態である場合(差動部12が電気的無段変速部として作動可能である場合)には、予め定められた第1の関係に基づいて前記自動変速部20の変速制御を行うと共に、前記差動部12を含む電気的無段変速部の変速比が固定されている場合(差動部12がロック状態である場合)には、予め定められた第2の関係に基づいて前記自動変速部20の変速制御を行う。図9及び図10から明らかなように、上記第2変速制御マップ68では、上記第1変速制御マップ66に比べて変速線が低車速側に設定されており、比較的低い車速Vで変速(アップシフト)が実行されるようになっている。前記電気的無段変速部の変速比が固定されている場合、すなわち前記差動部12が非差動状態である場合には、車速Vに対してエンジン回転速度Neを理想の値に調整することができず、燃費最適点から外れる可能性があるが、このように前記差動機構24の差動/非差動に応じて異なる関係を予め用意しておき、それらの関係に基づいて前記自動変速部20の有段変速制御を行うことで、駆動装置全体での燃費の最適化が図れる。
ハイブリッド制御手段60は、変速機構10の前記無段変速状態すなわち差動部12の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や、第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の発電による反力を最適になるように変化させて差動部12の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、アクセルペダル操作量Accや車速Vから運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、エンジン回転速度NEとトータル出力とを算出し、そのトータル出力とエンジン回転速度NEとに基づいて、エンジン出力を得るようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の発電量を制御する。
また、ハイブリッド制御手段60は、その制御を燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。斯かるハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部12が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段60は無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立した予め記憶されたエンジン8の最適燃費率曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部12の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
このとき、ハイブリッド制御手段60は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ52を介して蓄電装置54や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の駆動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の駆動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ52を介して第2電動機M2或いは第1電動機M1へ供給され、その第2電動機M2或いは第1電動機M1から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の駆動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。また、ハイブリッド制御手段60は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部12の電気的CVT機能(差動作用)によって電動機のみ例えば第2電動機M2のみを駆動力源としてモータ走行させることができる。さらに、ハイブリッド制御手段60は、エンジン8の停止状態で差動部12が有段変速状態(定変速状態)であっても第1電動機M1及び/又は第2電動機M2を作動させてモータ走行させることもできる。
また、ハイブリッド制御手段60は、予め定められた関係から所定の制御変数に基づいて複数の駆動力源すなわちエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2のうち駆動力を発生させる少なくとも1つの駆動力源を選択する駆動力源選択制御手段として機能するものである。図11は、車両走行のための駆動力源をエンジン8と電動機M1、M2とで切り換えるため(換言すればエンジン走行とモータ走行とを切り換えるため)のエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された関係の一例であり、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源選択制御マップ(駆動力源切換線図)70の一例である。また、図11の実線に対して一点鎖線に示すようにヒステリシスが設けられている。この図11の駆動力源選択制御マップ70は、例えば関係記憶手段58に予め記憶されたものであり、ハイブリッド制御手段60は、この図11に示すような駆動力源選択制御マップ70から車速Vと出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域を判断してモータ走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段60による前記モータ走行は、図11から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時或いは車速の比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。このように、本実施例では車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT乃至は車両負荷の関数として駆動量源選択制御が定義されている。そして無段変速部の無段・ロック領域と同じ制御関数として図11に示すようにマップ化されている。
図7に戻り、増速側ギヤ段判定手段62は、変速機構10を有段変速状態とする際に差動状態切換装置である切換クラッチC0及び切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて関係記憶手段58に予め記憶された図9に示すような第1変速制御マップ66に従って変速機構10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
切換制御手段64は、予め定められた関係から所定の制御変数に基づいて差動部12を無段変速状態及び定変速比状態のうち何れかに選択的に切り換える。換言すれば、変速機構10を無段変速状態及び有段変速状態のうち何れかに選択的に切り換える。図9の第1変速制御マップ66には、差動部12を無段変速状態及び定変速比状態のうち何れかに選択的に切り換えるため(変速機構10を無段変速状態及び有段変速状態のうち何れかに選択的に切り換えるため)の無段制御領域と有段制御領域との境界線を有する予め記憶された関係が定められている。これは、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された切換制御マップ(切換線図)の一例である。また、図12は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとして切換制御手段64により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための境界線としてのエンジン出力線を有する例えば関係記憶手段58に予め記憶された関係の一例である切換制御マップ72を例示する図である。切換制御手段64は、図9乃至は図12の切換線図からエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してすなわち差動部12を無段変速状態とする無段制御領域内である或いは定変速比状態とする有段制御領域内であるかを判定して、差動部12を無段変速状態及び定変速比状態のうち何れかに選択的に切り換える。換言すれば、変速機構10の切り換えるべき変速状態を判定してすなわち変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定して、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。このように、本実施例では車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT乃至は車両負荷の関数として無段変速機の無段・ロック領域が定義されている。また、車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUT乃至は車両負荷の関数として無段変速機の無段・有段領域が定義されている。そしてそれらの関数が図9乃至は図12に示すようにマップ化されている。
具体的には、切換制御手段64は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段60に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段56に対して予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。このときの有段変速制御手段56は、関係記憶手段58に予め記憶された例えば図10に示す第2変速制御マップ68に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。図3は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち差動部12及び自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図3に示す係合表に従って変速段が達成される。
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段64は差動部12が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路40へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段64は差動部12が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路40へ出力する。このように、切換制御手段64によって変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、差動部12が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
しかし、切換制御手段64は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態を成立させるために差動部12を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路40へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段60に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段56には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは関係記憶手段58に予め記憶された例えば図9に示すような第1変速制御マップ66に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段56により、図3の係合表内において切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段64により無段変速状態に切り換えられた差動部12が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。すなわち、換言すれば切換制御手段64は、差動状態切換装置としての切換ブレーキB0、切換クラッチC0を制御して係合或いは解放させることにより差動機構24を差動状態及び非差動状態の何れかに切り換える。
ここで前記図9、図10について詳述すると、これらの図は自動変速部20の変速判断の基となる関係記憶手段58に予め記憶された変速線図(関係)であり、車速Vと車両負荷である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図(変速マップ)の一例である。図9、図10の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。また、図9の破線は切換制御手段64による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1及び判定出力トルクT1を示している。つまり、図9の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図9の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図9は判定車速V1及び判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段64により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして関係記憶手段58に予め記憶されてもよい。
上記車両負荷とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル開度(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとによって算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度に基づいて算出される要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
また、例えば判定車速V1は、高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定されることになる。
図9の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。同様に、図12の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTE及びエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図12における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線及び高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
これによって、例えば、車両の低中速走行及び低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ、専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する駆動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行及び低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば図13に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
図14は手動操作により差動機構24の差動状態と非差動状態(ロック状態)すなわち変速機構10の無段変速状態と有段変速状態との切換え選択するためのシーソー型スイッチ74(以下、スイッチ74と表す)の一例であり、ユーザにより手動操作可能に車両に備えられている。このスイッチ74は、ユーザが所望する変速状態での車両走行を択一的に選択可能とするものであり、無段変速走行に対応するスイッチ74の無段と表示された位置(部分)或いは有段変速走行に対応する有段と表示された位置(部分)がユーザにより押されることで、それぞれ無段変速走行すなわち変速機構10を電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態とするか、或いは有段変速走行すなわち変速機構10を有段変速機として作動可能な有段変速状態とするかが選択可能とされる。例えば、無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行が所望されれば変速機構10が無段変速状態とされるように手動操作により選択でき、また有段変速機の変速に伴うエンジン回転速度の変化によるフィーリング向上が所望されれば変速機構10が有段変速状態とされるように手動操作により選択できる。
図15は手動変速操作装置であるシフト操作装置76の一例を示す図である。シフト操作装置76は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー78を備えている。そのシフトレバー78は、例えば図3の係合作動表に示されるようにクラッチC1及びクラッチC2のいずれもが係合されないような変速機構10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、変速機構10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションは、「P」ポジション及び「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非駆動ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。また、「D」ポジションは最高速走行ポジションでもあり、「M」ポジションにおける例えば「4」レンジ乃至「L」レンジはエンジンブレーキ効果が得られるエンジンブレーキレンジでもある。
上記「M」ポジションは、例えば車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、シフトレバー78が「M」ポジションへ操作されることにより、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかがシフトレバー78の操作に応じて変更される。具体的には、この「M」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「+」、及びダウンシフト位置「−」が設けられており、シフトレバー78がそれ等のアップシフト位置「+」又はダウンシフト位置「−」へ操作されると、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかへ切り換えられる。例えば、「M」ポジションにおける「D」レンジ乃至「L」レンジの5つの変速レンジは、変速機構10の自動変速制御が可能なトータル変速比γTの変化範囲における高速側(変速比が最小側)のトータル変速比γTが異なる複数種類の変速レンジであり、また自動変速部20の変速が可能な最高速側変速段が異なるように変速段(ギヤ段)の変速範囲を制限するものである。また、シフトレバー78はスプリング等の付勢手段により上記アップシフト位置「+」及びダウンシフト位置「−」から、「M」ポジションへ自動的に戻されるようになっている。また、シフト操作装置76にはシフトレバー78の各シフトポジションを検出するための図示しないシフトポジションセンサが備えられており、そのシフトレバー78のシフトポジションや「M」ポジションにおける操作回数等を電子制御装置50へ出力する。
例えば、「D」ポジションがシフトレバー78の操作により選択された場合には、切換制御手段64により変速機構10の変速状態の自動切換制御が実行され、ハイブリッド制御手段60により差動機構24の無段変速制御が実行され、有段変速制御手段56により自動変速部20の自動変速制御が実行される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が例えば図3に示すような第1速ギヤ段乃至第5速ギヤ段の範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が差動機構24の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御される。この「D」ポジションは変速機構10の自動変速制御が実行される制御様式である自動変速走行モード(自動モード)を選択するシフトポジションでもある。
或いは、「M」ポジションがシフトレバー78の操作により選択された場合には、変速レンジの最高速側変速段或いは変速比を越えないように、有段変速制御手段56、ハイブリッド制御手段60、及び切換制御手段64により変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。例えば、変速機構10が有段変速状態に切り換えられる有段変速走行時には変速機構10が各変速レンジで変速機構10が変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御され、或いは変速機構10が無段変速状態に切り換えられる無段変速走行時には変速機構10が差動機構24の無段的な変速比幅と各変速レンジに応じた自動変速部20の変速可能な変速段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる変速機構10の各変速レンジで変速可能なトータル変速比γTの範囲で自動変速制御される。この「M」ポジションは変速機構10の手動変速制御が実行される制御様式である手動変速走行モード(手動モード)を選択するシフトポジションでもある。
図8に戻り、無段変速走行時変速比制御手段(以下、変速比制御手段という)65は、無段変速部である差動部12が無段変速作動させられる車両の無段変速走行状態であると判定される場合には、第1電動機M1の効率ηM1および第2電動機M2の効率ηM2と自動変速部20の効率とに基づいて最適燃費が得られるように、自動変速部20の変速比γとその差動部12の変速比γ0とを制御する。たとえば、比較的高速の定常走行時でも第1電動機M1の逆転力行を発生させないことを目的として差動部12の出力軸回転速度(自動変速部20の入力軸回転速度)NINが抑制されるように、有段変速部としての自動変速部20の変速比γを調整することによりその変速比γに応じて無段変速部としての差動部12の変速比γ0を変更する。
また、変速比制御手段65は、関係記憶手段58に予め記憶された図16に示すようなエンジン燃費マップ73から実際のアクセル開度ACCに基づいてエンジン8の目標エンジン回転速度NEMを決定すると共に、実際の車速Vに基づいてその目標エンジン回転速度NEMを得るための自動変速部20の変速比γと差動部12の変速比γ0を決定する制御を行う。ここで、図16の破線は、前記電気的無段変速部が作動可能である場合、すなわち前記差動部12が差動状態である場合の最適燃費線L2を示しており、図16太い実線は、前記電気的無段変速部が定変速状態にある場合、すなわち前記差動部12が非差動状態である場合の最適燃費線L2’を示している。
図16に示すように、実際のアクセル開度ACCに基づいて運転者の要求駆動力を満たすためのエンジン8の出力に対応するいずれかの等馬力曲線L3aがよく知られた関係から決定され、決定された等馬力曲線L3aと最適燃費曲線L2又はL2’との交点Caに対応するエンジン回転速度が目標エンジン回転速度NEMとして決定される。また、上記目標エンジン回転速度NEMと実際の車速Vとに基づいてその目標エンジン回転速度NEMを得るための変速機構10のトータル変速比γTが、たとえば式(1)に示す関係から決定される。なお、自動変速部20の出力軸22の回転速度NOUT(rpm)と車速V(km/h)との関係は、終減速機の変速比をγfとし、駆動輪38の半径をrとすると、式(2)に示される関係にある。次いで、その変速機構10のトータル変速比γT(=γ×γ0)を得るための自動変速部20の変速比γと差動部12の変速比γ0が、式(1)、(2)、(3)、および(4)から、変速機構10全体の伝達効率が最大となるように決定される。
すなわち、先ず、差動部12の変速比γ0の変化範囲は零乃至1であるので、その変速比γ0が1であると仮定したときにおける上記目標エンジン回転速度NEMより大きいエンジン回転速度NEを発生させ得る自動変速部20の変速比候補値γa 、γb 等が、たとえば式(1)および(2)に示すようなエンジン回転速度NEと車速Vとの関係から実際の車速Vに基づいて複数種類設定される。次に、たとえば式(3)に示す関係から目標エンジン回転速度NEMを得るためのトータル変速比γTと変速比候補値γa、γbとに基づいてそれら変速比候補値γa、γb毎に車両燃料消費量Mfceが算出され、その車両燃料消費量が最低となる変速比候補値を自動変速部20の変速比γとして決定し、その変速比γと上記目標エンジン回転速度NEMを得るためのトータル変速比γTとから差動部12の変速比γ0が決定される。
式(3)において、Fceは燃料消費率、PLは瞬時必要動力、ηeleは電気系の効率、ηCVTは差動部12の伝達効率、k1は差動部12の電気的パスの伝達割合、k2は差動部12の機械的パスの伝達割合、ηgiは自動変速部20の伝達効率である。式(3)の第1電動機M1の効率ηM1および第2電動機M2の効率ηM2は、各変速比候補値γa、γb毎に上記目標エンジン回転速度NEMを得るためのトータル変速比γTを得るための差動部12の変速比候補γ0a 、γ0b 毎に決まる回転速度と、必要駆動力を発生させるために各電動機に求められる出力トルクとに基づいて求められる。また、上記k1は通常は0.1付近の値であり、k2は通常は0.9付近の値であるが、要求出力の関数であるためその要求出力に従って変化させられる。また、自動変速部20の伝達効率ηgiは、たとえば式(4)に示されるように、ギヤ段i毎に異なる伝達トルクTiおよび回転部材の回転速度Niと油温Hとの関数である。なお、燃料消費率Fce、瞬時必要動力PL、電気系効率ηele、差動部12の伝達効率ηCVTは、便宜的に一定値が用いられる。また、上記自動変速部20の伝達効率ηgi等も実用上の精度に影響が出ない範囲で一定値が用いられてもよい。
NEM=γT×NOUT ・・・(1)
NOUT=(V×γf)/2πr・60 ・・・(2)
Mfce=Fce×PL/((ηM1×ηM2×ηele×k1
+ηCVT×k2)×ηgi) ・・・(3)
ηgi=f(Ti、Ni、H) ・・・(4)
変速比制御手段65は、以上のようにして決定された自動変速部20の変速比γと差動部12の変速比γ0とが無段変速走行における変速比としてそれぞれ実現されるように、有段変速制御手段56及びハイブリッド制御手段60に指令する。
図17は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち図8の実施例における変速制御作動を示すフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、切換制御手段64の動作に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記図9乃至は図12の切換制御マップ(切換線図)から例えば車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいて無段走行領域であるか否かが判断される。このS1の判断が肯定される場合には、S2において、前記図9に示す第1変速制御マップ66のような無段変速走行時用の変速線図が選択される。次に、S3において、例えば前記図16に示すエンジン燃費マップ72からエンジン回転速度NE及びエンジン出力トルクTOUTに基づいて前記差動部12を含む電気的無段変速部の変速比が決定される。次に、S4において、S2にて選択された無段変速走行時用の変速線図から例えば車速V及びエンジン出力トルクTOUTに基づいて前記自動変速部20の有段変速制御が実行される。次に、S5において、S3にて決定された変速比に応じて前記差動部12である電気的無段変速部の無段変速制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
S1の判断が否定される場合、すなわち無段走行領域ではないと判断される場合には、S6において、前記図10に示す第2変速制御マップ68のような有段変速走行時用の変速線図が選択される。次に、S7において、前記差動部12が定変速比状態とされるように切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を係合させる指令が油圧制御回路40へ出力され、その差動部12が非差動状態(ロック状態)とされる。同時に、ハイブリッド制御手段60に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御が不許可すなわち禁止とする信号が出力される。次に、S8において、S6にて選択された有段変速走行時用の変速線図から例えば車速V及びエンジン出力トルクTOUTに基づいて前記自動変速部20の有段変速制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S2、S4、S6、及びS8が前記有段変速制御手段56の動作に、S3、S5、及びS7が前記無段変速走行時変速比制御手段65の動作にそれぞれ対応する。
このように、本実施例によれば、前記電気的無段変速部の変速比が可変状態である場合には、予め定められた第1の関係である第1変速制御マップ66に基づいて前記自動変速部20の変速制御を行うと共に、前記差動部12による電気的無段変速部の変速比が固定されている場合には、予め定められた第2の関係である第2変速制御マップ68に基づいて前記自動変速部20の変速制御を行う有段変速制御手段56(S2、S4、S6、及びS8)を含むことから、前記電気的無段変速部の状態に応じて前記自動変速部20の変速比を変更することができ、動力伝達装置全体の燃費の最適化を図ることができる。すなわち、電気的な無段変速機として作動可能な差動機構24を有する車両において燃費を可及的に向上させる動力伝達装置を提供することができる。
また、換言すれば、前記差動機構24が差動状態である場合には、予め定められた第1の関係である第1変速制御マップ66に基づいて前記自動変速部20の変速制御を行うと共に、前記差動機構24が非差動状態である場合には、予め定められた第2の関係である第2変速制御マップ68に基づいて前記自動変速部20の変速制御を行う有段変速制御手段56を含むことから、前記差動機構24の状態に応じて前記自動変速部20の変速比を変更することができ、動力伝達装置全体の燃費の最適化を図ることができる。すなわち、電気的な無段変速機として作動可能な差動機構24を有する車両において燃費を可及的に向上させる動力伝達装置を提供することができる。
また、前記伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に設けられた自動変速部20は、有段式の自動変速機であるため、前記差動機構24乃至は電気的無段変速部の状態に応じて有段式自動変速機の変速比を変更でき、動力伝達装置全体の燃費の最適化を図ることができる。
また、前記差動機構24は、前記エンジン8に連結された第1要素である第1キャリヤCA1、前記第1電動機M1に連結された第2要素である第1サンギヤS1、及び前記伝達部材18に連結された第3要素である第1リングギヤR1を有する第1遊星歯車装置26から成るものであるため、実用的な差動機構24を備えた動力伝達装置において燃費を可及的に向上させることができる。
また、前記第1要素乃至第3要素を相互に相対回転可能とする差動状態と、前記第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるか或いは前記第2要素を非回転状態とする非差動状態とに、前記差動機構24の状態を選択的に切り換える差動状態切換装置として切換ブレーキB0及び切換クラッチC0を有するものであるため、実用的な態様で前記差動機構24を差動状態と非差動状態とに切り換えることができる。
また、好適には、前記第1遊星歯車装置26は、シングルプラネタリギヤから成る増速機構であるため、実用的な差動機構24を備えた動力伝達装置において燃費を可及的に向上させることができる。
次に、本発明の他の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
図18は本発明の他の実施例における変速機構80の構成を説明する骨子図、図19はその変速機構80の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表、図20はその変速機構80の変速作動を説明する共線図である。
変速機構80は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、差動機構24、及び第2電動機M2を有する差動部12と、その差動部12と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部82とを備えている。差動機構24は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置26と切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを有している。自動変速部82は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置28と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ3を有するシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30とを備えている。第2遊星歯車装置28の第2サンギヤS2と第3遊星歯車装置30の第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース14に選択的に連結され、第2遊星歯車装置28の第2キャリヤCA2と第3遊星歯車装置30の第3リングギヤR3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第3キャリヤCA3は第2ブレーキB2を介してケース14に選択的に連結されている。
以上のように構成された変速機構80では、例えば、図19の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では差動機構24に差動状態切換装置として機能する切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部12は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構80では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部12と自動変速部82とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部12と自動変速部82とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。換言すれば、変速機構80は、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
例えば、変速機構80が有段変速機として機能する場合には、図19に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合されるる。
しかし、変速機構80が無段変速機として機能する場合には、図19に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部12が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部82が有段変速機として機能することにより、自動変速部82の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部82に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構80全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
図20は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部12と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部82から構成される変速機構80において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放される場合、及び切換クラッチC0又は切換ブレーキB0が係合させられる場合の差動機構24の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
図20における自動変速部82の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4要素(第4回転要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3の相対回転速度、第5要素(第5回転要素)RE5に対応する第3キャリヤCA3の相対回転速度、第6要素(第6回転要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第2キャリヤCA2及び第3リングギヤR3の相対回転速度、第7要素(第7回転要素)RE7に対応する第2リングギヤR2の相対回転速度をそれぞれ表している。また、自動変速部82において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース14に選択的に連結されるようになっている。また、第6回転要素RE6は自動変速部82の出力軸22に連結されるようになっている。また、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。
自動変速部82では、図20に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R2)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5(CA3)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6(CA2,R3)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第7回転要素RE7に差動部12からの駆動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部12からの駆動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
本第2実施例の変速機構80もまた、電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態と定変速比状態とに切り換え可能な差動部12と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部82とから構成されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、前記自動変速部20等の変速制御を行うための関係として、第1の関係である第1変速制御マップ66及び第2の関係である第2変速制御マップ68が関係記憶手段58に記憶されていたが、必要に応じて3つ乃至はそれ以上のマップを持つものであっても構わない。これら切換線図は判定車速V1及び判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速V及び出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。また、前記自動変速部20等の変速制御を行うための関係として、上記変速線図や切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。
また、前述の実施例の変速機構10、80は、差動部12が差動状態と非差動状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機としての機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切り換え可能に構成されていたが、無段変速状態と有段変速状態との切換えは差動部12の差動状態と非差動状態との切換えにおける一態様であり、例えば差動部12が差動状態であっても差動部12の変速比を連続的ではなく段階的に変化させて有段変速機として機能させられてもよい。換言すれば、変速機構10、80(差動部12)の差動状態/非差動状態と、無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、変速機構10、80は必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成される必要はなく、変速機構10、80(差動部12、差動機構24)が差動状態と非差動状態(ロック状態)とに切換え可能に構成されれば本発明は適用され得る。
また、前述の実施例の差動機構24では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置26の3つの要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸16と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1及び第2電動機M2は、入力軸16に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されてもよい。
また、前述の差動機構24には差動状態切換装置として切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はない。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置26の3つの要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
また、前述の実施例の変速機構10、80では、ニュートラル「N」とする場合には切換クラッチC0が係合されていたが、必ずしも係合される必要はない。
また、前述の実施例では、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、出力軸22に連結されていてもよいし、自動変速部20、82内の回転部材に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、差動部12すなわち差動機構24の出力部材である伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に、自動変速部20、82が介装されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)等の他の形式の駆動力伝達装置が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、差動機構24が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で駆動力伝達することである。或いは、上記無段変速機は有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて自動変速部20、82の変速が実行されてもよい。
また、前述の実施例では、自動変速部20、82は伝達部材18を介して差動部12と直列に連結されていたが、入力軸16と平行にカウンタ軸が設けられそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20、82が配設されてもよい。この場合には、差動部12と自動変速部20、82とは、例えば伝達部材18としてのカウンタギヤ対、スプロケット及びチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
また、前述の実施例の差動機構としての差動機構24は、例えばエンジン8によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1及び第2電動機M2に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例の差動機構24は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
また、前述の実施例ではシフトレバー78が「M」ポジションへ操作されることにより、変速レンジが設定されるものであったが変速段が設定されることすなわち各変速レンジの最高速変速段が変速段として設定されてもよい。この場合、自動変速部20、82では変速段が切り換えられて変速が実行される。例えば、シフトレバー78が「M」ポジションにおけるアップシフト位置「+」又はダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、自動変速部20では第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の何れかがシフトレバー78の操作に応じて設定される。
また、前述の実施例のスイッチ74はシーソー型のスイッチであったが、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。また、スイッチ74に中立位置が設けられる場合にその中立位置に替えて、スイッチ74の選択状態を有効或いは無効すなわち中立位置相当が選択可能なスイッチがスイッチ74とは別に設けられてもよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。