JP2006042663A - Es細胞の識別マーカー - Google Patents

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Abstract

【課題】
ある細胞、胚性幹細胞が存在するかどうか、および未分化細胞が多能性または未分化性を有するかどうかのマーカーとして使用することができる遺伝子を入手すること。
【解決手段】
本発明は、Psbp遺伝子という多能性を有する場合であれば未分化状態に従来より正確に発現するタンパク質を発見し本発明を完成するに至った。したがって、本発明は、胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができるマーカーを生産する方法であって、
A)細胞に由来する成分を提供する工程;B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;およびC)B)工程で選択された細胞から、該Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程、を包含する、方法を提供する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、細胞の未分化状態に関連する新規遺伝子および遺伝子産物に関する。より詳細には、本発明は、このような遺伝子または遺伝子産物を用いた細胞の未分化状態の判定方法、幹細胞の分離および調製方法ならびにそれらに関連する組成物およびシステムに関する。
生物の個体は特有の機能を発揮する様々な組織細胞の集合体として形作られている。高等生物では、この源となる細胞はたった1個の受精卵である。この受精卵と同様の多分化能をもつ細胞が幹細胞である。多分化能とはどの様な分子機構によって獲得および維持されるものかという基礎生物学的な興味に加え、近年では再生医療への応用が脚光を浴び、幹細胞研究の重要性が増している。幹細胞研究を推進する上で未分化細胞に特異的に発現する遺伝子の同定が必須になる。
種々の型の固有組織を発生し、かつ自己複製する能力によって定義される、哺乳動物の多分化能幹細胞は、成体における移植前胚および組織の幹細胞の細胞型として見出され、そして、胚性癌腫(EC)細胞、胚性幹(ES)細胞および胚性生殖(EG)細胞として、インビトロで単離される(非特許文献1)。霊長類において、ES細胞は、アカゲザル、マーモセットザルおよびカニクイザルの胚盤胞から確立された。ヒトのES細胞およびEG細胞の首尾よい確立(非特許文献1)は、基礎的な幹細胞研究だけでなく臨床医学の領域における、これらの細胞に関する研究の重要性を増し、臨床医学では、幹細胞が媒介する組織発生が、損傷組織の交換および、薬学的な適用に有用であることが望まれている。
細胞の多分化能状態は、多分化能細胞に特異的に発現するいくつかの鍵となる遺伝子の調節下で維持される。転写因子の哺乳動物POUファミリーのメンバーであるOct4遺伝子は、多分化能状態の鍵となるレギュレーターとして機能する(非特許文献2−3)。プロモーターでOct4と共同して働くことが知られているSox2は、Fgf4遺伝子、Utf1遺伝子、Sox2遺伝子、Fbx15遺伝子を転写的に活性化する(非特許文献4〜7)。さらに、栄養外胚葉性系統で転写される遺伝子、Cdx−2およびHand−1は、Oct4によって負に調節される(非特許文献3)。マウスES細胞の自己複製能および多分化能を維持するための情報伝達経路に関する別の鍵となる分子は、LIF(白血病抑制因子)である(非特許文献8−9)。LIFは、LIFレセプターとgp130のヘテロダイマーへの結合を介するリン酸化によって転写因子STAT3を活性化させる(非特許文献10)。最近、血清およびフィーダー細胞が存在しない培養条件下において、LIFシグナルが、マウスのES細胞の自己複製を補助するのに十分ではないこともまた示された。骨形成タンパク質(BMP)によって供給されるさらなるシグナルが必要であり、そしてこのシグナルは、神経外胚葉系統への分化を抑制する、分化抑制(Id)遺伝子の活性化を誘導する(非特許文献11)。これらの遺伝子の役割に加え、ショウジョウバエにおけるポリコーム群遺伝子であるzesteのエンハンサーの哺乳動物ホモログであるEzh2(非特許文献12)がEed(胚性外胚葉発生)と複合体を形成し、そして、ヒストンH3リジン27のメチル化をベースとする特定のホメオチック遺伝子の抑制を介して、胚盤胞の内部細胞塊の細胞およびES細胞の多分化能を維持するのに重要な役割を果たす(非特許文献13−14)。Oct4(Oct3/4ともいう)遺伝子、Sox2遺伝子またはEzh2遺伝子の無発現変異は、初期胚の死亡率をもたらす(非特許文献2、15,16)。その一方で、興味深いことに、Bmp4遺伝子、Lif遺伝子、Lifレセプター遺伝子またはStat3遺伝子は、少なくともマウスの移植前の発生においては、明白な欠損を誘導しない(非特許文献17−20)。LIFが、ヒトのES細胞の自己複製および多分化能を補助するのに不必要であることが知られている(非特許文献21)。
これまで未分化細胞特異的遺伝子として、Oct4,UTF1,Sox1,Rex1等の遺伝子が報告されているがUTF1,Sox1,Rex1は分化細胞でも発現が見られる。したがって、従来は、未分化細胞特異的遺伝子としては、Oct4のみが未分化細胞に比較的厳密に特異的であると考えられていた。
Oct4は遺伝子欠損の実験から未分化維持に必須であることが明らかになっている。また、この遺伝子の遺伝子発現量により分化の方向が決定されているらしい(非特許文献3)。Oct4を中心としてその上流および下流に位置する遺伝子の同定により未分化維持機構の解明が待たれている。Oct4遺伝子の発現が未分化のどの状態を反映するかは現在も不明のままであるが、未分化細胞の重要なマーカー遺伝子であることは間違いない。Oct4遺伝子のプロモーターの制御下にレポーター蛍光遺伝子であるGFP(Green Fluorescence Protein)等をつないだ外来遺伝子を導入したトランスジェニックマウスでは、GFPの発現により未分化な生細胞の精製が可能になってきている。
上述のように、Oct4のような未分化状態を判定するためのツールはあるものの、Oct4などの遺伝子は、未分化状態でない場合にも発現することがあることから、真の意味でのマーカーとして使用することができない。また、Oct4は、胚性幹細胞で発現がみられるものの、未受精卵細胞において発現が見られたり、他の幹細胞(たとえば組織幹細胞)では発現が消失することから、多能性のマーカーとしての精確度は完全ではなく、その用途も限定されている。
NANOG(Stm1ともいう)は、新規に同定されたホメオドメインを有するタンパク質で、マウスの移植前胚における多分化能細胞、ES細胞細胞およびEG細胞(非特許文献22−24)ならびにマウスおよびヒトのES細胞(非特許文献25)において特異的に転写される、転写因子として作用し得る。多分化能を維持するためのNanogの決定的な機能が、移植直後のNanog欠損の胚およびNanogを欠損するES細胞における多分化能の欠失(非特許文献22)によって、また、LIF−STAT3シグナルによる調節の迂回およびOCT4レベルの維持を介するES細胞の、Nanogの過剰発現依存性のクローン増殖(非特許文献23)によって同定された。従って、NanogがES細胞および初期胚細胞の多分化能および自己複製の能力を維持するための重要なレギュレーターであるということは明らかである。しかし、Nanogの多分化能細胞特異的な発現がどのようにして制御されるのか、そして、他の幹細胞特異的な遺伝子がNanog発現にどのように関係するのかは、ほとんど知られていないままである。
また、Nanog遺伝子は、どうやら、多分化能および胚性幹細胞の状態と完全にリンクしていないようであることも明らかになりつつある。したがって、より正確な細胞マーカーの同定が必要とされている。
Tada TおよびTada M(2001)Cell Struct.Funct.26:149〜160 Nichols Jら、(1998)Cell 95:379〜391 Niwa H,Miyazaki JおよびSmith AG(2000)Nat.Genet.24:372〜376 Yuan Hら、(1995)Genes Dev.9:2635〜2645 Nishimoto Mら、(1999)Mol.Cell Biol.19:5453〜5465 Tomioka Mら、(2002)Nucleic Acids Res.30:3202〜3213 Tokuzawa Yら、(2003)Mol.Cell Biol.23:2699〜2708 Smith AGら、(1988)Nature 336:688〜690 Williams RLら、(1988)Nature 336:684〜687 Davis Sら、(1993)Science 260:1805〜1808 Ying QLら、(2003)Cell 115:281〜292 Laible Gら、(1997)EMBO J.16:3219〜3232 Czermin Bら、(2002)Cell 111:185〜196 Erhardt Sら、(2003)Development 130:4235〜4248 O’Carroll Dら、(2001)Mol.Cell Biol.21:4330〜4336 Avilion AAら、(2003)Genes Dev.17:126〜140 Stewart CLら、(1992)Nature 359:76〜79 Ware CBら、(1995)Development 121:1283〜1299 Winnier Gら、(1995)Genes Dev.9:2105〜2116 Takeda Kら、(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA94:3801〜3804 Thomson JAら、(1998)Science 282:1145〜1147 Mitsui Kら、(2003)Cell 113:631〜642 Chambers Iら、(2003)Cell 113:643〜655; Wang SHら、(2003)Gene Expr.Patterns 3:99〜103 Hart AHら、(2004)Dev.Dyn.230:187〜198
従って、本発明は、ある細胞、特に組織幹細胞を含む未分化細胞が多能性または未分化性を有するかどうかのマーカーとして使用することができる遺伝子を入手することを課題とする。
本発明は、Nanogに関してさらに研究を進めた結果明らかになったことに基づいて上記課題を解決した。その要旨は以下の通りである。
本発明者らは、多分化能細胞特異的な発現の分子機構を解明するために、Nanogの転写に必要とされる調節因子を解析した。マウスのES細胞におけるGFP(緑色蛍光タンパク質)の未分化状態特異的な発現は、2.5kbの5’フランキング領域を有するレポーター導入遺伝子を伴って再生された。このことは、この領域に転写シス調節因子が存在することを示唆する。5’フランキング領域の欠損したフラグメントを用いるルシフェラーゼアッセイは、1対の近接したOctamerエレメント(Octamer因子が結合するDNA配列であり、結合因子の一つがOct4であり、このようなほかの因子としてOct1、Oct6などが未分化細胞で結合することが知られている。未分化細胞以外においても他に結合するOctamer因子があることが知られている)およびSoxエレメントを含む380bpのフラグメントが、転写をアップレギュレーションさせるのに決定的な役割を果たすことを明らかにした。これと一致して、Octamerエレメントおよび/またはSoxエレメントにおける配列変異の導入によって、転写がダウンレギュレーションされた。これらのエレメントに結合する因子を同定するために、NANOGと同時に発現するOCT4およびSOX2の結合活性を、電気泳動移動度シフトアッセイによって評価した。F9 EC細胞の核抽出物において、OCT4のOctamerエレメントへの結合能力およびSOX2のSoxエレメントへの結合能力が認められた。ES細胞の抽出物において、OCT4と、推定多分化能細胞特異的なSoxエレメント結合タンパク質(PSBP)との複合体は、Octamer/Soxエレメントに優先的に結合する。Nanogの転写は、Oct4とのクロストークおよび、ES細胞において顕著に発現し、F9 EC細胞においては発現しないPSBPによって調節されると考えられる。
したがって、本発明は、Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物という、多能性を有する場合であれば未分化状態に特異的に発現するが、胚性癌腫細胞では発現しない遺伝子を発見し本発明を完成するに至った。さらに、この遺伝子は、Sox2とは異なる。
したがって、別の言い方をすれば、本発明は、オン−オフの特異的なNanog発現に必要とされる調節エレメントとして、PSBP遺伝子が同定されたことに基づくといえる。
Nanogは、胚性肝(ES)細胞の多分化能および自己複製を維持するために必須である転写因子を有するホメオドメインである。Nanogは、初期胚細胞、生殖細胞ならびにES細胞および胚性癌腫(EC)細胞に特異的に発現する。転写調節の分子機構を解明するために、調節エレメントを、5’フランキング領域を欠損したフラグメントを用いるルシフェラーゼアッセイによって決定した。転写開始部位の180bp上流に位置する、近接したOctamerエレメントとSoxエレメントは、多分化能状態に特異的な遺伝子の発現を活性化するのに必要とされた。OctamerエレメントおよびSoxエレメントのいずれかにおける点変異が、ルシフェラーゼ活性の劇的な低下を誘導するため、両方のエレメントがNanogの発現に必要とされることが示唆される。OctamerエレメントおよびSoxエレメントのDNA配列は、マウス、ヒトおよびサルの間で同一であった。これらのエレメントは、ヒトのES細胞においても、GFPレポーター遺伝子の適切な発現を媒介するのに十分であった。F9 EC細胞の核抽出物を用いた電気泳動移動度シフトアッセイは、OctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合するOCT4およびSOX2の内因的な発現を明らかにした。注目すべきことに、R1 ES細胞の核抽出物を用いる場合、OCT4と未分化の多分化能細胞に特異的なSoxエレメント結合因子との複合体は、OctamerエレメントおよびSoxエレメントに優先的に結合する。Nanogの転写は、OCT4と、ES細胞で顕著な未決定の因子との相乗的な作用によって調節され得る。
多分化能細胞特異的な遺伝子Nanogは、細胞の未分化状態を維持するために必要とされる転写因子を有するホメオドメインである。しかし、Nanog発現の調節機構は大部分が知られていない。転写調節の分子機構を解明するために、責任エレメントを、5’フランキング領域を欠損したフラグメントを用いたルシフェラーゼアッセイによって解析した。マウス、サルおよびヒトの間で十分に保存されている、1対の近接したOctamerおよびSox結合部位は、多分化能状態に特異的な遺伝子の発現を活性化するのに必須であった。さらに、Octamer/Soxのエレメントを含む5’フラグメントは、ヒトの胚性幹(ES)細胞においても、GFPレポーター遺伝子の適切な発現を誘導するのに十分であった。OCT4およびSOX2の、このエレメントへの結合能力を、F9胚性癌腫細胞の抽出物を用いた電気泳動移動度シフトアッセイによって確認した。注目すべきことに、ES細胞の抽出物中で、OCT4と未決定因子との複合体は、Octamer/Soxエレメントに優先的に結合する。Nanogの転写は、Oct4とのクロストークおよび、ES細胞で顕著な新規の多分化能細胞特異的なSoxエレメント結合因子によって調節され得る。

したがって、本発明は以下を提供する。
(1)胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができるマーカーを生産する方法であって、
A)細胞に由来する成分を提供する工程;
B)上記成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;および
C)B)工程で選択された細胞から、上記Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程、
を包含する、方法。
(2)上記複合体からSoxエレメントに特異的に結合する成分を取り出す工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(3)上記取り出す工程は、Octamer/Sox結合配列を有するDNAとキャリアとの複合体と、上記細胞に由来する成分とを接触させることを包含する、項目2に記載の方法。
(4)上記キャリアは、ラテックスまたはフェライトビーズを含む、項目3に記載の方法。
(5)上記細胞は、幹細胞である、項目1に記載の方法。
(6)上記細胞は、胚性幹細胞である、項目1に記載の方法。
(7)上記細胞は、R1胚性幹細胞である、項目1に記載の方法。
(8)上記複合体がNanogのSoxエレメントに結合するかどうかを判定する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(9)上記Soxエレメントは、核酸配列としてTACAATGを含む、項目1に記載の方法。
(10)上記Sox2に特異的な因子は核酸配列としてTACAATGを含む核酸分子を含む、項目1に記載の方法。
(11)上記Oct4に特異的な因子は、抗Oct4抗体である、項目1に記載の方法。
(12)上記Sox2に特異的な因子は、抗Sox2抗体である、項目1に記載の方法。
(13)上記複合体から、Sox2でもOct4でもない分子を分離する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(14)上記SoxでもOct4でもない分子の分離は、電気泳動、免疫学的手段、クロマトグラフィー、DNAタンパク質アフィニティー解析、マススペクトリー解析からなる群より選択される1以上の手段を用いて行われる、項目13に記載の方法。
(15)上記細胞に由来成分の提供は、核抽出物を提供することを包含する、項目1に記載の方法。
(16)上記因子は、標識されているかまたは標識され得ることを特徴とする、項目1に記載の方法。
(17)上記因子は、放射標識される、項目1に記載の方法。
(18)上記Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分を選択する工程は、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分と比較することを包含する、項目1に記載の方法。
(19)上記Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分は、胚性癌腫細胞に由来する、項目18に記載の方法。
(20)上記胚性癌腫細胞は、F9細胞である、項目19に記載の方法。
(21)項目1に記載の方法によって調製される、タンパク質複合体。
(22)項目4に記載の方法によって調製される、タンパク質。
(23)項目22に記載のタンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、核酸分子。
(24)項目13に記載の方法によって調製される、タンパク質。
(25)項目24に記載のタンパク質をコードする核酸配列を含む、核酸分子。
(26)胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができるマーカー。
(27)上記マーカーは、Oct4エレメントには結合しない、項目26に記載のマーカー。
(28)上記マーカーは、Soxエレメントに結合する、項目26に記載のマーカー。
(29)上記マーカーは:
A)細胞に由来する成分を提供する工程;
B)上記成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;および
C)B)工程で選択された細胞から、Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程、
を包含する、方法によって調製される、項目26に記載のマーカー。
(30)上記マーカーは:
A)細胞に由来する成分を提供する工程;
B)上記成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;
C)B)工程で選択された細胞から、Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程;および
D)上記複合体からSoxエレメントに特異的に結合する成分を取り出す工程、
を包含する、方法によって調製される、項目26に記載のマーカー。
(31)Nanog/Stm1の転写を促進する活性を有する、項目26に記載のマーカー。
(32)上記転写の促進は、Oct4との相互作用に起因する、項目31に記載のマーカー。
(33)多分化能の有無を判定すること能力を有する、項目26に記載のマーカー。
(34)上記多分化能は、上記胚性幹細胞にあるが、上記胚性癌腫細胞にはない能力を包含する、項目26に記載のマーカー。
(35)Oct4との相互作用は、Sox2よりも強いことを特徴とする、項目26に記載のマーカー。
(36)タンパク質である、項目26に記載のマーカー。
(37)タンパク質複合体である、項目26に記載のマーカー。
(38)識別可能な標識で標識される、項目26に記載のマーカー。
(39)項目26に記載のマーカーに対して特異的な因子。
(40)上記因子は、抗体である、項目39に記載の因子。
(41)項目26に記載の因子がタンパク質であり、上記タンパク質をコードする核酸配列を含む、核酸分子。
(42)項目41に記載の核酸分子を含む、核酸カセット。
(43)項目41に記載の核酸分子を含む、ベクター。
(44)項目41に記載の核酸分子を含む、細胞。
(45)項目41に記載の核酸分子で形質転換される、細胞。
(46)項目41に記載の核酸分子を含む、組織。
(47)項目41に記載の核酸分子を含む、臓器。
(48)項目41に記載の核酸分子を含む、生物体。
(49)項目41に記載の核酸分子がmRNAとして発現される、細胞。
(50)項目41に記載の核酸分子にストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドまたはそのフラグメントもしくは改変体をコードする核酸分子。
(51)上記生物学的活性は、Soxエレメントとの相互作用、Oct4との相互作用およびSox2との競合作用からなる群より選択される、項目50に記載の核酸分子。
(52)少なくとも10の連続するヌクレオチド長を有する、項目49に記載の核酸分子。
(53)項目50に記載の核酸分子に対して特異的な因子。
(54)上記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項目53に記載の因子。
(55)上記因子は、少なくとも8の連続するヌクレオチド長を有する核酸分子である、項目53に記載の因子。
(56)上記因子は、核酸分子であり、プライマーとして使用される、項目53に記載の因子。
(57)上記因子は、プローブとして使用される、項目53に記載の因子。
(58)上記因子は、標識されているかまたは標識され得る、項目53に記載の因子。
(59)上記標識は、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応からなる群より選択される技法を利用する、項目58に記載の因子。
(60)(i)項目26に記載のマーカーがポリペプチドであり、上記マーカーのアミノ酸配列または上記アミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;または
(ii)(i)の配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体、種相同体である、ポリペプチド;
を含む、ポリペプチド。
(61)少なくとも3の連続するアミノ酸配列を有する、項目60に記載のポリペプチド。
(62)項目60に記載のポリペプチドに対して特異的に結合する、因子。
(63)上記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、項目62に記載の因子。
(64)上記因子は、抗体またはその誘導体である、項目62に記載の因子。
(65)上記因子は、プローブとして使用される、項目62に記載の因子。
(66)上記因子は、標識されているかまたは標識され得る、項目62に記載の因子。
(67)上記標識は、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応からなる群より選択される技法を利用する、項目66に記載の因子。
(68)細胞の未分化状態を判定するための組成物であって、上記組成物は、
Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を含む、組成物。
(69)上記PSBP遺伝子は、項目41に記載される核酸分子を含む、項目68に記載の組成物。
(70)上記細胞は、幹細胞である、項目68に記載の組成物。
(71)上記細胞は、胚性癌腫細胞、胚性幹細胞、多能性幹細胞、単能性幹細胞、および組織幹細胞を含む、項目68に記載の組成物。
(72)上記細胞は、遺伝子改変されたものかまたは遺伝子改変されていないものである、項目68に記載の組成物。
(73)細胞の未分化状態を判定する方法であって、
(I)判定されるべき細胞を提供する工程;
(II)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を、上記細胞に接触させる工程;および
(III)上記因子と上記Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物との特異的反応を検出することによって、上記PSBP遺伝子が上記細胞において発現しているかどうかを確認する工程、
を包含し、ここで、上記細胞における上記PSBP遺伝子の発現は、細胞が未分化状態にあることを示す、方法。
(74)上記PSBP遺伝子は、項目41に記載される核酸分子を含む、項目70に記載の組成物。
(75)上記未分化状態は、全能性を含む、項目73に記載の方法。
(76)さらに、他の幹細胞マーカーが発現しているかどうかを確認する工程を包含する、項目73に記載の方法。
(77)上記他の幹細胞マーカーは、Oct4および/またはNanog/Stm1を含む、項目76に記載の方法。
(78)上記Nanog/Stm1遺伝子は、配列番号1に示される配列を含む、項目77に記載の方法。
(79)未分化状態の細胞を調製する方法であって、
(I)未分化状態の細胞を含むかまたは含むと予測されるサンプルを提供する工程;
(II)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を、上記サンプルに接触させる工程;
(III)上記PSBP遺伝子が上記サンプル中の細胞において発現しているかどうかを確認する工程;および
(IV)上記PSBP遺伝子が発現している細胞を分離または濃縮する工程、
を包含する、方法。
(80)上記PSBP遺伝子は、項目41に記載される核酸分子を含む、項目79に記載の方法。
(81)上記未分化状態は、全能性を含む、項目79に記載の方法。
(82)細胞の分化状態を判定するキットであって、
(a)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子;および
(b)上記PSBP遺伝子が上記細胞において発現しているかどうかを確認するための手段、
を備える、キット。
(83)上記PSBP遺伝子は、項目41に記載される核酸分子を含む、項目82に記載のキット。
(84)上記分化状態は、多能性を含む、項目82に記載のキット。
(85)上記分化状態は、全能性を含む、項目82に記載のキット。
(86)さらに、他の幹細胞マーカーが発現しているかどうかを確認する手段を備える、項目82に記載のキット。
(87)上記他の幹細胞マーカーは、Oct4および/またはStm1遺伝子を含む、項目82に記載のキット。
(88)試料中の胚性幹細胞の存在を検出する方法であって、
A)細胞に由来する成分を提供する工程;
B)上記成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する工程であって、上記Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、上記Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、胚性幹細胞であることの指標である、工程、
を包含する、方法。
(89)上記胚性幹細胞は、胚性癌腫細胞から識別される、項目88に記載の方法。
(90)上記細胞は、R1胚性幹細胞である、項目88に記載の方法。
(91)上記Oct4に特異的な因子は、抗Oct4抗体である、項目88に記載の方法。
(92)上記Sox2に特異的な因子は、抗Sox2抗体である、項目88に記載の方法。
(93)Sox2が発現しているかどうかを確認する工程であって、上記Sox2が発現していないことは、上記試料中に胚性幹細胞が含まれていることをさらに確証付ける、工程をさらに包含する、項目88に記載の方法。
(94)上記細胞に由来成分の提供は、核抽出物を提供することを包含する、項目88に記載の方法。
(95)上記因子は、標識されているかまたは標識され得ることを特徴とする、項目88に記載の方法。
(96)上記因子は、放射標識される、項目88に記載の方法。
(97)上記Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分を選択する工程は、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分と比較することを包含する、項目88に記載の方法。
(98)上記Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分は、胚性癌腫細胞に由来する、項目97に記載の方法。
(99)上記胚性癌腫細胞は、F9細胞である、項目98に記載の方法。
(100)試料中の多分化能の状態を検出する方法であって、
A)細胞に由来する成分を提供する工程;
B)上記成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する工程であって、上記Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、上記Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、多分化能を有することの指標である、工程、
を包含する、方法。
(101)Sox2の発現量を測定し、上記Sox2の発現量と上記Sox2に特異的な因子でスーパーシフトしない量とを比較して、上記Sox2に特異的な因子でスーパーシフトしない量の上記Sox2に対する相対比が多いことは、上記試料に含まれる細胞の多分化能が高いことの指標である、項目100に記載の方法。
(102)上記因子は、抗体を含む、項目100に記載の方法。
(103)試料中の胚性幹細胞の存在を検出するためのキットであって、
A)細胞に由来する成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する手段;
B)上記Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、上記Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、胚性幹細胞であることの指標であることを示す、指示書、
を備える、キット。
(104)試料中の多分化能の状態を検出するためのキットであって、
A)細胞に由来する成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供するための手段、
B)上記Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、上記Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、多分化能を有することの指標であることを示す、指示書、
を備える、キット。
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および添付の図面、ならびに当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
未分化状態の判定、全能性、多能性のより詳細な判定など、従来の因子では不可能であった、幹細胞の精確な判定が達成された。また、本発明の方法を用いれば、ES細胞、胚細胞などの幹細胞の精製を効率よく行うことができる。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞)であってもよい。細胞の供給源としては、例えば、単一の細胞培養物であり得、あるいは、正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織、または正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能を有し、多分化能(すなわち多能性)(「pluripotency」)を有する細胞をいう。幹細胞は通常、組織が傷害を受けたときにその組織を再生することができる。本明細書では幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得るがそれらに限定されない。また、上述の能力を有している限り、人工的に作製した細胞(たとえば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)もまた、幹細胞であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が限定されている細胞であり、組織中の特定の位置に存在し、未分化な細胞内構造をしている。従って、組織幹細胞は多能性のレベルが低い。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合は、幹細胞は好ましくは胚性幹細胞であり得るが、状況に応じて組織幹細胞も使用され得る。
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
本明細書において「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の細胞であり、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、天然に存在するものであってもよく、遺伝子改変されたものであってもよい。
細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉および内胚葉に由来する幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。好ましくは、体細胞は、リンパ球、脾臓細胞または精巣由来の細胞が使用され得る。
本明細書において「単離された」とは、通常の環境において天然に付随する物質が少なくとも低減されていること、好ましくは実質的に含まないをいう。従って、単離された細胞とは、天然の環境において付随する他の物質(たとえば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドについていう場合、「単離された」とは、たとえば、組換えDNA技術により作製された場合には細胞物質または培養培地を実質的に含まず、化学合成された場合には前駆体化学物質またはその他の化学物質を実質的に含まない、核酸またはポリペプチドを指す。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において天然に該核酸に隣接している(flanking)配列(即ち、該核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。
本明細書において、「樹立された」または「確立された」細胞とは、特定の性質(例えば、多分化能)を維持し、かつ、細胞が培養条件下で安定に増殖し続けるようになった状態をいう。したがって、樹立された幹細胞は、多分化能を維持する。本発明では、樹立された幹細胞を使用することは、宿主から新たに幹細胞を採取するという工程を回避することができるので好ましい。
本明細書において、「非胚性」とは、初期胚に直接由来しないことをいう。従って、初期胚以外の身体部分に由来する細胞がこれに該当するが、胚性幹細胞に改変(例えば、遺伝的改変、融合など)を加えて得られる細胞もまた、非胚性細胞の範囲内にある。
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、筋細胞、神経細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。従って、本発明の1つの実施形態において、本発明のStm遺伝子を発現させた細胞は、起源として分化細胞を用いても、多能性を獲得することができる。
本明細書において、「分化」または「細胞分化」とは、1個の細胞の分裂によって由来した娘細胞集団の中で形態的および/または機能的に質的な差をもった二つ以上のタイプの細胞が生じてくる現象をいう。従って、元来特別な特徴を検出できない細胞に由来する細胞集団(細胞系譜)が、特定のタンパク質の産生などはっきりした特徴を示すに至る過程も分化に包含される。現在では細胞分化を,ゲノム中の特定の遺伝子群が発現した状態と考えることが一般的であり、このような遺伝子発現状態をもたらす細胞内あるいは細胞外の因子または条件を探索することにより細胞分化を同定することができる。細胞分化の結果は原則として安定であって、特に動物細胞では,別のタイプの細胞に分化することは例外的にしか起こらない。従って、本発明のStm遺伝子は、未分化細胞のマーカーとして非常に有用であり得る。
本明細書において「多能性」または「多分化能」とは、互換可能に用いられ、細胞の性質をいい、1以上、好ましくは2以上の種々の組織または臓器に分化し得る能力をいう。従って、「多能性」および「多分化能」は、本明細書においては特に言及しない限り「未分化」と互換可能に用いられる。通常、細胞の多能性は発生が進むにつれて制限され、成体では一つの組織または器官の構成細胞が別のものの細胞に変化することは少ない。従って多能性は通常失われている。とくに上皮性の細胞は他の上皮性細胞に変化しにくい。これが起きる場合通常病的な状態であり、化生(metaplasia)と呼ばれる。しかし間葉系細胞では比較的単純な刺激で他の間葉性細胞にかわり化生を起こしやすいので多能性の程度は高い。胚性幹細胞は、多能性を有する。組織幹細胞は、多能性を有する。本明細書において、多能性のうち、受精卵のように生体を構成する全ての種類の細胞に分化する能力は全能性といい、多能性は全能性の概念を包含し得る。ある細胞が多能性を有するかどうかは、たとえば、体外培養系における、胚様体(Embryoid Body)の形成、分化誘導条件下での培養等が挙げられるがそれらに限定されない。また、生体を用いた多能性の有無についてのアッセイ法としては、免疫不全マウスへの移植による奇形腫(テラトーマ)の形成、胚盤胞への注入によるキメラ胚の形成、生体組織への移植、腹水への注入による増殖等が挙げられるがそれらに限定されない。
従って、本明細書において「胚性幹細胞」または「ES細胞」とは、、交換可能に用いられ、初期胚に由来する任意の多能性幹細胞をいう。通常胚性幹細胞は、全能性またはほぼ全能性を有するとされる。この胚性幹細胞を正常な宿主胚盤胞へ導入し仮親子宮へ戻すことによってキメラ作製を行ったところ、高いキメラ形成能を持つ、生殖系列キメラ(胚性幹細胞由来の機能的生殖細胞を持つキメラマウス)が得られた(A.Bradley et al.:Nature,309,255,1984)。胚性幹細胞株は、培養下で、種々の遺伝子導入法(例えばリン酸カルシウム法、レトロウイルスベクター法、リポゾーム法、エレクトロポレーション法等)の適用が可能である。また、遺伝子が組込まれた細胞を選別する方法を工夫し、相同遺伝子組換え(homologous recombination)を利用し、特定の遺伝子を狙って改変(置換、欠失、挿入)させた細胞のクローンを得ることもできる。インビトロでこのような処理をした胚性幹細胞株は生殖系列への分化能を保持することから、ある特定の遺伝子の機能を個体レベルで調べる研究が現在盛んに行われている(M.R.Capecchi:Science,244,1288,1989)。胚性幹細胞を利用したトランスジェニックマウス作出法は、ある特定の遺伝子のみを任意に改変させた個体を得ることを可能にした点でマイクロインジェクション法によるトランスジェニック動物作出法にはない多くの利点が考えられる。特に、特定の遺伝子を不活化させたノックアウト動物を作出できるようになり、遺伝子の機能を解明したり、外来性の遺伝子のみを発現させることができる。従って、胚性幹細胞の樹立が容易になれば、その効果は図り知れない。このような胚性幹細胞は、受精3.5日目のマウス胚盤胞の内部細胞塊の細胞をインビトロ培養に移し,細胞塊の解離と継代を繰り返すことにより,多分化能を保持し,正常核型を維持したまま無制限に増殖しつづける幹細胞を樹立することに作製することができる。通常、胚性幹細胞の多分化能を維持するには、STO細胞株および/またはマウス胎仔から調製した初代培養繊維芽細胞などのフィーダー細胞層上で胚性幹細胞を培養することが好ましいとされる。

本明細書において「胚性癌腫細胞」または「EC細胞」とは、交換可能に用いられ、奇形癌腫の増殖を支えている未分化で多分化能を部分的に有する幹細胞。しかし、胚性幹細胞よりも多分化能が限定されている点で峻別される。胚性癌腫細胞は、盛んに分裂し,細胞同士が強く接着し,細胞間の境界が不明瞭な島状のコロニーをつくる。細胞質に占める核の割合が大きく,細胞膜にアルカリ性ホスファターゼ活性が強く,細胞膜表面抗原としてSSEA-1をもつなどの初期胚全能性細胞に似た性質を示すが、本発明のPBPSは、発現しない。細胞株によってその分化能には差があり、全能性はないとされる。奇形癌腫OTT6050株から樹立されたF9株は、普通には分化能を示さないが,レチノイン酸などの誘導試薬処理や細胞塊をつくらせるなどの培養方法によって,2種類の胚体外膜内胚葉細胞のどちらかに分化させることができる。一般的には胚性癌腫細胞を特定の細胞に任意に分化させることは難しいことから、多分化能がないあるいは限定的な多分化能を有するといえる。
本明細書において、多能性のうち、受精卵のように生体を構成する実質的に全ての種類の細胞に分化する能力は「全能性」といい、多能性は全能性の概念を包含し得る。ただし、明確に区別する場合は、全能性と多能性とは区別され得、前者はどのような細胞へも分化し得る能力をいい、後者は、複数の方向を有するが、生物が可能なすべての方向には分化できない能力を有することをいう。また、1つの方向にのみ分化する能力は、単能性ともいう。
本明細書において全能性と多能性とは、例えば、受精後の日数により判定することができ、例えば、マウスであれば、受精後約8日を基準として区別され得る。理論に束縛されないが、マウスでは、受精後、以下のような経過をたどることが通常である。受精後6.5日(E6.5とも表記する)では、原始線条(原条ともいう)がエピブラストの片側に出現し、胚の将来の前後軸が明らかになる。原条は、胚の将来の後方端を示し、外胚葉を横切って円筒の遠位端まで達する。原条は、細胞運動が行われる領域であり、その結果、将来の内胚葉と中胚葉とが形成されることになる。E7.5までに結節の前方に頭部突起が出現し、この部分には脊索と、それを取り囲んで下層には将来の内胚葉、上層には神経板が形成されることになる。結節は、E6.5日ごろから現れ、後方へと移動し、軸構造が前から後ろへと形成される。E8.5日までに胚は幾分丈が長くなり、その前端には大部分前方神経板からなる大きな頭部ヒダが形成される。体節はE8日から1.5時間に1個の割合で前方から後方へと形成され始める。この時期を越えた細胞は、仮に胎盤に戻したとしても、脱分化をしない限りもはや全能性を示さず、個体を形成しない。これより前では特別の処理をしなくても全能性を示し得ることから、この点が全能性の分岐点であるといえる。このことは、ES細胞がこれ以降の胚から樹立することが困難であり、これ以降の胚からは通常EG(生殖細胞由来)細胞と呼ばれる細胞が樹立されることから、そのような意味でも分岐点であるといえる。したがって、1つの局面において、本発明のNANOG/Stm1は、全能性の有無またはES細胞の出発材料としての適切性を判断するのに使用することができるといえる。
本発明で用いられる細胞は、どの生物由来の細胞(たとえば、任意の種類の多細胞生物(例えば、動物(たとえば、脊椎動物、無脊椎動物)、植物(たとえば、単子葉植物、双子葉植物など)など))でもよい。好ましくは、脊椎動物(たとえば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類(たとえば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞が用いられる。最も好ましくはヒト由来の細胞が用いられる。
本発明が対象とする臓器はどのような臓器でもよく、また本発明が対象とする組織または細胞は、生物のどの臓器または器官に由来するものでもよい。本明細書において「臓器」または「器官」とは、互換可能に用いられ、生物個体のある機能が個体内の特定の部分に局在して営まれ,かつその部分が形態的に独立性をもっている構造体をいう。一般に多細胞生物(例えば、動物、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。そのような臓器または器官としては、血管系に関連する臓器または器官が挙げられる。1つの実施形態では、本発明が対象とする臓器は、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜などが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明の多能性細胞から分化した細胞としては、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「組織」(tissue)とは、多細胞生物において、実質的に同一の機能および/または形態をもつ細胞集団をいう。通常「組織」は、同じ起源を有するが、異なる起源を持つ細胞集団であっても、同一の機能および/-または形態を有するのであれば、組織と呼ばれ得る。従って、本発明の幹細胞を用いて組織を再生する場合、2以上の異なる起源を有する細胞集団が一つの組織を構成し得る。通常、組織は、臓器の一部を構成する。動物の組織は,形態的、機能的または発生的根拠に基づき、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などに区別される。植物では、構成細胞の発達段階によって分裂組織と永久組織とに大別され、また構成細胞の種類によって単一組織と複合組織とに分けるなど、いろいろな分類が行われている。
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
用語「核酸分子」もまた、本明細書において、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。したがって、本明細書では、たとえば、PSBPまたはNanog(Stm1)遺伝子には、PSBPまたはNanog(Stm1)のスプライス変異体もまた包含され得る。また本明細書においてPSBPまたはNanog(Stm1)遺伝子と言う場合には、それぞれPSBPまたはNanog(Stm1)遺伝子領域の全てまたは一部を含む転写産物を包含する。
本明細書において「複合分子」とは、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、脂質、糖などの分子が複数種連結してできた分子をいう。そのような複合分子としては、例えば、糖脂質、糖ペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書では、Stm遺伝子またはその産物と同様の機能を有する限り、そのような複合分子も使用することができる。
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、PSBP遺伝子というときは、通常、PSBPの構造遺伝子およびPSBPのプロモーターの両方を包含する。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。
用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。
用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
その文字コードは以下のとおりである。
アミノ酸
3文字記号 1文字記号 意味
Ala A アラニン
Cys C システイン
Asp D アスパラギン酸
Glu E グルタミン酸
Phe F フェニルアラニン
Gly G グリシン
His H ヒスチジン
Ile I イソロイシン
Lys K リジン
Leu L ロイシン
Met M メチオニン
Asn N アスパラギン
Pro P プロリン
Gln Q グルタミン
Arg R アルギニン
Ser S セリン
Thr T トレオニン
Val V バリン
Trp W トリプトファン
Tyr Y チロシン
Asx アスパラギン又はアスパラギン酸
Glx グルタミン又はグルタミン酸
Xaa 不明又は他のアミノ酸。
塩基
記号 意味
a アデニン
g グアニン
c シトシン
t チミン
u ウラシル
r グアニン又はアデニンプリン
y チミン/ウラシル又はシトシンピリミジン
m アデニン又はシトシンアミノ基
k グアニン又はチミン/ウラシルケト基
s グアニン又はシトシン
w アデニン又はチミン/ウラシル
b グアニン又はシトシン又はチミン/ウラシル
d アデニン又はグアニン又はチミン/ウラシル
h アデニン又はシトシン又はチミン/ウラシル
v アデニン又はグアニン又はシトシン
n アデニン又はグアニン又はシトシン又はチミン/ウラシル、不明、または他の塩基。

本明細書において、「対応する」アミノ酸または核酸とは、それぞれあるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、あるいは有することが予測されるアミノ酸または核酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、あるポリヌクレオチドのアンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。本明細書において、例えば、マウスPSBPのポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子におけるアミノ酸または核酸に対応するアミノ酸または核酸は、それぞれヒトPSBPのポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子におけるアミノ酸または核酸などが例示される。
本明細書において、「対応する」遺伝子とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子の対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログあるいは種相同体であり得る。したがって、マウスPSBPの遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、マウスPSBP遺伝子)の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。
本明細書において「Nanog」、「Stm1」または「Stm1遺伝子」とは、未分化細胞、初期胚もしくは生殖細胞のいずれかまたはいくつかの細胞において発現する性質を有する遺伝子であって、例えば、
(A)(a)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
を含む、
核酸分子;あるいは
(B)(a)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1、3、5または7に記載の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2、4、6または8に記載のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
を含む、
ポリペプチドをコードする核酸分子が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において特に区別するとき、遺伝子は斜字体で記載し、例えば、マウスのものはStm、ヒトのものはSTMと標記するが、通常は特定の種を意味しない。他方、例えば、タンパク質は斜字体ではないSTMと示して区別することがあるが、通常は特定の種を意味しない。
Stm1のその遺伝子産物を特定するためには、好ましくは、全長アミノ酸配列を含むポリペプチドに対して作製した特異的な抗体を用いる。Stm1遺伝子は、Nanogと呼ばれる遺伝子と同一であることがわかっているおり、したがって、Stm1とNanogとは本明細書において交換可能に用いられる。
Nanog(Stm1)遺伝子に類似する遺伝子に、Stm2遺伝子がある。本明細書において「Stm2」および「Stm2遺伝子」とは、配列番号9または11に記載される核酸配列または配列番号10または12に記載されるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む遺伝子ならびにそれに対応する遺伝子(種相同体を含む)をいう。マウスStm2はStm1に対してmRNAのコーディング領域の塩基配列が99.6%相同性のある遺伝子である。しかし、Stm2遺伝子はイントロンレスのシングルエクソンからなる遺伝子構造をもち、4個のエクソンと3個のイントロンをもつStm1とは構造が異なる上、Stm1とStm2は異なる染色体上に位置することが解っている。本発明によって、Stm2は、マウス7番染色体7E3に位置することが明らかになった。なお、Stm1とStm2とは、マウスの場合99.6%の相同性を有する。
Stm1とStm2との決定的な相違は、細胞における発現の有無である。Stm1は発現される遺伝子であるのに対し、Stm2は、通常の細胞では発現されず、偽遺伝子であることが判明している。
本明細書において、「NANOG」、「STM」、「OCT4」、「PSBP」という表現は、それぞれの遺伝子(Nanog、Stm、Oct4、Psbp)のタンパク質形態を示すために使用される。
本明細書において、「Nanogのプロモーター配列」は、Nanog遺伝子に関連するプロモーター配列をいう。そのような配列は、配列番号13(マウス)およびそれに対応する配列などが挙げられるがそれらに限定されない。Stm1遺伝子の発現制御には、転写開始点から上流390bpがあることが好ましく、その塩基配列としては、配列番号14(ヒト)、15(マウス)、16(カニクイサル)に示される配列などが挙げられる。その中でも、Oct(Octamer)/Sox(転写開始点を起点とすれば−180位〜−166位、TTTTGCATおよびTACAATG(Oct/Soxモチーフ配列;ここで、TTTTGCATは、Octモチーフ配列であり、TACAATGはSoxモチーフ配列である))がモチーフとなる。Octモチーフ配列およびSoxモチーフ配列は、それぞれ、Oct4エレメントまたはOctエレメント、およびSoxエレメントまたはSoxエレメントともいう。
本明細書において「Psbp」(pluripotential Sox element binding protein)、「PSBP」および「Psbp遺伝子」は、交換可能に用いられ、ゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞に由来する成分であって、Sox2とは異なるものをいう。この遺伝子は、DNA結合領域としてHMG−box(Goodwin GH, Johns EW, Eur J Biochem 1973, 40:215-219.; Bustin M, MolCell Biol 1999, 19:5237-5246.; Thomas JO, Travers AA, Trends Biochem Sci 2001,26:167-174)を有する可能性が高いと考えられる。Pspb遺伝子は、胚性幹細胞において発現され、胚性癌腫細胞においては発現されないことから、胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができる。また、多分化能を有する胚性幹細胞において発現され、多分化能を有しない細胞(F9細胞株)において発現されないことから、多分化能または未分化状態の指標としても用いることができる。
本明細書において「外来遺伝子」とは、ある生物において、その生物には天然には存在しない遺伝子をいう。そのような外来遺伝子は、その生物に天然に存在する遺伝子を改変したものであってもよく、天然において他の生物に存在する遺伝子(例えば、Nanog遺伝子、Psbp遺伝子)であってもよく、人工的に合成した遺伝子であってもよく、それらの複合体(例えば、融合体)であってもよい。そのような外来遺伝子を含む生物は、天然では発現しない遺伝子産物を発現し得る。
本明細書において使用される「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制禦作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。本明細書において用いられる「増殖因子」とは、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)のような増殖活性を有するものが挙げられる。
本発明において、発現されるべき外来遺伝子は、上述の天然型の外来遺伝子と相同性のあるものが使用され得る。そのような相同性を有する外来遺伝子としては、例えば、Blastのデフォルトパラメータを用いて比較した場合に、比較対照の外来遺伝子に対して、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性または類似性を有する核酸配列を含む核酸分子または少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性または類似性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド分子が挙げられるが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなど遺伝子産物の「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「増加」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチドの発現量の増加を含む。本明細書において遺伝子の「発現」の「誘導」とは、ある細胞にある因子を作用させてその遺伝子の発現量を増加させることをいう。したがって、発現の誘導は、まったくその遺伝子の発現が見られなかった場合にその遺伝子が発現するようにすること、およびすでにその遺伝子の発現が見られていた場合にその遺伝子の発現が増大することを包含する。
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子がアンチセンス分子である場合、その生物学的活性は、対象となる核酸分子への結合、それによる発現抑制などを包含する。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。
本明細書において「アンチセンス(活性)」とは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制または低減することができる活性をいう。アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子(例えば、Stm)の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。このようなアンチセンス活性を有する分子をアンチセンス分子という。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、もっとも好ましくは95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。
本明細書において「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’−リン酸、3’−OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本発明では、siRNAそのものをRNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本発明では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
本発明においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21〜23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。
本発明において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
別の実施形態において、本発明のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本発明の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本発明の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本発明の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
本発明において用いられるRNAiを引き起こす因子は、インビトロで合成することもできる。この合成系において、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本発明の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
本発明のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本発明の処置方法および組成物において有用である。
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の対象となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチドなどが挙げられるがそれに限定されない。
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman, Proc.Natl.Acad.Sci., USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman, J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよび in situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
本明細書において、「エピトープ」とは、抗原決定基をいう。従って、エピトープには特定の免疫グロブリンによる認識に関与するアミノ酸残基のセット、または、T細胞の場合は、T細胞レセプタータンパク質および/もしくは主要組織適合性複合体(MHC)レセプターによる認識について必要であるアミノ酸残基のセットが包含される。この用語はまた、「抗原決定基」または「抗原決定部位」と交換可能に使用される。免疫系分野において、インビボまたはインビトロで、エピトープは、分子の特徴(例えば、一次ペプチド構造、二次ペプチド構造または三次ペプチド構造および電荷)であり、免疫グロブリン、T細胞レセプターまたはHLA分子によって認識される部位を形成する。ペプチドを含むエピトープは、エピトープに独特な空間的コンフォメーション中に3つ以上のアミノ酸を含み得る。一般に、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、代表的には少なくとも6つ、7つ、8つ、9つ、または10のこのようなアミノ酸からなる。エピトープの長さは、より長いほど、もとのペプチドの抗原性に類似することから一般的に好ましいが、コンフォメーションを考慮すると、必ずしもそうでないことがある。アミノ酸の空間的コンフォメーションを決定する方法は、当該分野で公知であり、例えば、X線結晶学、および2次元核磁気共鳴分光法を含む。さらに、所定のタンパク質におけるエピトープの同定は、当該分野で周知の技術を使用して容易に達成される。例えば、Geysenら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3998(所定の抗原における免疫原性エピトープの位置を決定するために迅速にペプチドを合成する一般的な方法);米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定し、そして化学的に合成するための手順);およびGeysenら(1986)Molecular Immunology 23:709(所定の抗体に対して高い親和性を有するペプチドを同定するための技術)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、単純な免疫アッセイにおいて同定され得る。このように、ペプチドを含むエピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
従って、ペプチドを含むエピトープとして使用するためには、少なくとも3アミノ酸の長さの配列が必要であり、好ましくは、この配列は、少なくとも4アミノ酸、より好ましくは5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、15アミノ酸、20アミノ酸、25アミノ酸の長さの配列が必要であり得る。
本明細書においてある核酸分子またはポリペプチドに「特異的に結合する因子」とは、その核酸分子またはポリペプチドに対するその因子の結合レベルが、その核酸分子またはポリペプチド以外の核酸分子またはポリペプチドに対するその因子の結合レベルと同じかまたはそれよりも高い因子をいう。そのような因子としては、例えば、対象が核酸分子の場合、対象となる核酸分子に対して相補的な配列を有する核酸分子、対象となる核酸配列に対して結合するポリペプチド(例えば、転写因子など)などが挙げられ、対象がポリペプチドの場合、抗体、単鎖抗体、レセプター−リガンドの対のいずれか一方、酵素−基質のいずれか一方などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「因子」としては、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、エネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプタ−またはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプタ−、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書中で使用される「化合物」は、任意の識別可能な化学物質または分子を意味し、これらには、低分子、ペプチド、タンパク質、糖、ヌクレオチド、または核酸が挙げられるが、これらに限定されず、そしてこのような化合物は、天然物または合成物であり得る。
本明細書において「有機低分子」とは、有機分子であって、比較的分子量が小さなものをいう。通常有機低分子は、分子量が約1000以下のものをいうが、それ以上のものであってもよい。有機低分子は、通常当該分野において公知の方法を用いるかそれらを組み合わせて合成することができる。そのような有機低分子は、生物に生産させてもよい。有機低分子としては、例えば、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において用いられる用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらの断片、例えばF(ab’)2およびFab断片、ならびにその他の組換えにより生産された結合体を含む。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなど、に共有結合させまたは組換えにより融合させてよい。
本明細書中で使用される用語「モノクローナル抗体」は、同質な抗体集団を有する抗体組成物をいう。この用語は、それが作製される様式によって限定されない。この用語は、全免疫グロブリン分子ならびにFab分子、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、およびもとのモノクローナル抗体分子の免疫学的結合特性を示す他の分子を含む。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を作製する方法は当該分野で公知であり、そして以下でより十分に記載される。
モノクローナル抗体は、当該分野で周知の標準的な技術(例えば、KohlerおよびMilstein,Nature(1975)256:495)またはその改変(例えば、Buckら(1982)In Vitro 18:377)を使用して調製される。代表的には、マウスまたはラットを、タンパク質キャリアに結合したタンパク質で免疫化し、追加免疫し、そして脾臓(および必要に応じていくつかの大きなリンパ節)を取り出し、そして単一細胞を解離する。必要に応じて、この脾臓細胞は、非特異的接着細胞の除去後、抗原でコーティングされたプレートまたはウェルに細胞懸濁液を適用することにより、スクリーニングされ得る。抗原に特異的なイムノグロブリンを発現するB細胞がプレートに結合し、そして懸濁液の残渣でもリンス除去されない。次いで、得られたB細胞(すなわちすべての剥離した脾臓細胞)をミエローマ細胞と融合させて、ハイブリドーマを得、このハイブリドーマを用いてモノクローナル抗体を産生させる。
本明細書において「抗原」(antigen)とは、抗体分子によって特異的に結合され得る任意の基質をいう。本明細書において「免疫原」(immunogen)とは、抗原特異的免疫応答を生じるリンパ球活性化を開始し得る抗原をいう。
(遺伝子の改変)
あるタンパク質分子において、配列に含まれるあるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応する核酸分子において行われ得る。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
親水性指数もまた、ポリペプチドの設計において考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用である。オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。本明細書では、好ましくは、この保存的置換は、Stm1遺伝子とStm2遺伝子との間で共通する部分の置換であることが有利であり得る。保存的置換があったとしてもStm1遺伝子とStm2遺伝子とを識別することがなおも可能であるからである。
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
同様に、「ポリヌクレオチドアナログ」、「核酸アナログ」は、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
本明細書において使用される核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、生物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.AssociatESand Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associat ESand Wiley−Interscience;Sambrook,J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。現在、遺伝子のクローニングに使用可能なベクターは、当該分野において多数存在し、販売元により、微妙な違い(例えばマルチクローニングサイトの制限酵素の種類や配列)から名前を変えて販売されている。例えば、In “Molecular Cloning (3rd edition)” by Sambrook, J and Russell, D.W., Appendix 3 (Volume 3), Vectors and Bacterial strains. A3.2 (Cold Spring Harbor USA, 2001) に代表的なものが記載(発売元も記載)されており、そのようなものを当業者は適宜目的に応じて使用することができる。
本明細書において「発現ベクター」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
本明細書において使用される組み換えベクターとしては、例えば、ゲノムライブラリーのスクリーニングにはラムダFIXベクター(ファージベクター)を、cDNAのスクリーニングではラムダZAPベクター(ファージベクター)を利用することができる。ゲノムDNAのクローニングにはpBluescript II SK+/−, pGEM, pCR2.1 ベクター(プラスミドベクター)を主に使用することができる。発現ベクターとしてpSV2neoベクター(プラスミドベクター)を利用することができる。このようなベクターは、前出のMolecular Cloning A3.2を参考にして適宜実施することができる。
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。 そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)が挙げられる。
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
本発明において遺伝子操作などにおいて原核生物細胞が使用される場合、原核生物細胞としては、Escherichia属、Serratia属、Bacillus属、Brevibacterium属、Corynebacterium属、Microbacterium属、Pseudomonas属などに属する原核生物細胞、例えば、Escherichia coli XL1−Blue、Escherichia coli XL2−Blue、Escherichia coli DH1が例示され、そのような細胞は、In “Molecular Cloning (3rd edition)” by Sambrook, J and Russell, D.W., Appendix 3 (Volume 3), Vectors and Bacterial strains. A3.2 (Cold Spring Harbor USA 2001) に記載されている。
本明細書において使用される場合、動物細胞としては、マウス・ミエローマ細胞、ラット・ミエローマ細胞、マウス・ハイブリドーマ細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、BHK細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト白血病細胞、HBT5637(特開昭63−299)、ヒト結腸癌細胞株などを挙げることができる。マウス・ミエローマ細胞としては、ps20、NSOなど、ラット・ミエローマ細胞としてはYB2/0など、ヒト胎児腎臓細胞としてはHEK293(ATCC:CRL−1573)など、ヒト白血病細胞としてはBALL−1など、アフリカミドリザル腎臓細胞としてはCOS−1、COS−7、ヒト結腸癌細胞株としてはHCT−15が例示され、好ましくは、例えば、Cos1, NIH3T3, ES (R1, TMA, NR2)細胞が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において使用される場合、組換えベクターの導入方法としては、DNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法[Methods.Enzymol.,194,182(1990)]、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法などが例示される。
本明細書において使用されるゲノムまたは遺伝子座などを除去する方法において用いられる、Cre酵素の一過的発現、染色体上でのDNAマッピングなどは、細胞工学別冊実験プロトコールシリーズ「FISH実験プロトコール ヒト・ゲノム解析から染色体・遺伝子診断まで」松原謙一、吉川 寛 監修 秀潤社(東京)などに記載されるように、当該分野において周知である。
本明細書において遺伝子発現(たとえば、mRNA発現、ポリペプチド発現)の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。アレイ(例えば、DNAアレイ、プロテインアレイ)を用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。プロテインアレイについては、Nat Genet.2002 Dec;32 Suppl:526−32に詳述されている。遺伝子発現の分析法としては、上述に加えて、RT−PCR、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、two−hybridシステム、インビトロ翻訳などが挙げられるがそれらに限定されない。そのようなさらなる分析方法は、例えば、ゲノム解析実験法・中村祐輔ラボ・マニュアル、編集・中村祐輔 羊土社(2002)などに記載されており、本明細書においてそれらの記載はすべて参考として援用される。
本明細書において「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明のポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
(ポリペプチドの製造方法)
本発明のポリペプチドをコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する微生物、動物細胞などに由来する形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、本発明のポリペプチドを生成蓄積させ、本発明の培養物より本発明のポリペプチドを採取することにより、本発明のポリペプチドを製造することができる。
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。大腸菌等の原核生物あるいは酵母等の真核生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、本発明の生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、それぞれの微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機酸または有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素物質、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等を用いることができる。
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。培養は、振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。
培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンまたはテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。遺伝子を導入した植物の細胞または器官は、ジャーファーメンターを用いて大量培養することができる。培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White)培地、またはこれら培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
例えば、動物細胞を用いる場合、本発明の細胞を培養する培地は、一般に使用されているRPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)]、EagleのMEM培地[Science,122,501(1952)]、DMEM培地[Virology,8,396(1959)]、199培地[Proceedings of the Society for the Biological Medicine,73,1(1950)]またはこれら培地にウシ胎児血清等を添加した培地等が用いられる。
培養は、通常pH6〜8、25〜40℃、5%CO存在下等の条件下で1〜7日間行う。また培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
本発明のポリペプチドをコードする核酸配列で形質転換された形質転換体の培養物から、本発明のポリペプチドを単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常の酵素の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞外に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75(三菱化成)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75(三菱化成)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
また、本発明のポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法により本発明のポリペプチドを回収後、そのポリペプチドの不溶体をポリペプチド変性剤で可溶化する。この可溶化液を、ポリペプチド変性剤を含まないあるいはポリペプチド変性剤の濃度がポリペプチドが変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、本発明のポリペプチドを正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
また、通常のタンパク質の精製方法[J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458]に準じて精製できる。また、本発明のポリペプチドを他のタンパク質との融合タンパク質として生産し、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる[山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469−474(1995)]。例えば、Loweらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227−8231(1989)、GenesDevelop.,4,1288(1990)]に記載の方法に準じて、本発明のポリペプチドをプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
また、本発明のポリペプチドをFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990)]。
さらに、本発明のポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のポリペプチドは、公知の方法[J.Biomolecular NMR,6,129−134、Science,242,1162−1164、J.Biochem.,110,166−168(1991)]に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いてを生産することができる。
上記で取得されたポリペプチドのアミノ酸情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても本発明のポリペプチドを製造することができる。また、Advanced ChemTech、Applied Biosystems、Pharmacia Biotech、Protein Technology Instrument、Synthecell−Vega、PerSeptive、島津製作所等のペプチド合成機を利用し化学合成することもできる。
精製した本発明のポリペプチドの構造解析は、タンパク質化学で通常用いられる方法、例えば遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析(平野久著、東京化学同人発行、1993年)に記載の方法により実施可能である。
(変異型ポリペプチドの作製方法)
本発明ポリペプチドのアミノ酸の欠失、置換もしくは付加は、出願前周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。かかる1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,JohnWiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
(免疫化学)
本発明のポリペプチドを認識する抗体の作製もまた当該分野において周知である。例えば、ポリクローナル抗体の作製は、取得したポリペプチドの全長または部分断片精製標品、あるいは本発明のタンパク質の一部のアミノ酸配列を有するペプチドを抗原として用い、動物に投与することにより行うことができる。
抗体を生産する場合、投与する動物として、ウサギ、ヤギ、ラット、マウス、ハムスター等を用いることができる。その抗原の投与量は動物1匹当たり50〜100μgが好ましい。ペプチドを用いる場合は、ペプチドをスカシガイヘモシアニン(keyhole limpet haemocyanin)またはウシチログロブリン等のキャリアタンパク質に共有結合させたものを抗原とするのが望ましい。抗原とするペプチドは、ペプチド合成機で合成することができる。その抗原の投与は、1回目の投与の後1〜2週間おきに3〜10回行う。各投与後、3〜7日目に眼底静脈叢より採血し、その血清が免疫に用いた抗原と反応することを酵素免疫測定法[酵素免疫測定法(ELISA法):医学書院刊 1976年、Antibodies−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lavoratory(1988)]等で確認する。
免疫に用いた抗原に対し、その血清が充分な抗体価を示した非ヒト哺乳動物より血清を取得し、その血清より、周知技術を用いてポリクローナル抗体を分離、精製することができる。モノクローナル抗体の作製もまた当該分野において周知である。抗体産性細胞の調製のために、まず、免疫に用いた本発明のポリペプチドの部分断片ポリペプチドに対し、その血清が十分な抗体価を示したラットを抗体産生細胞の供給源として使用し、骨髄腫細胞との融合により、ハイブリドーマの作製を行う。その後、酵素免疫測定法になどより、本発明のポリペプチドの部分断片ポリペプチドに特異的に反応するハイブリドーマを選択する。このようにして得たハイブリドーマから産生されたモノクローナル抗体は種々の目的に使用することができる。
このような抗体は、例えば、本発明のポリペプチドの免疫学的検出方法に使用することができ、本発明の抗体を用いる本発明のポリペプチドの免疫学的検出法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法・蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法等を挙げることができる。
また、本発明ポリペプチドの免疫学的定量方法にも使用することができる。本発明ポリペプチドの定量方法としては、液相中で本発明のポリペプチドと反応する抗体のうちエピトープが異なる2種類のモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法、126I等の放射性同位体で標識した本発明のタンパク質と本発明のタンパク質を認識する抗体とを用いるラジオイムノアッセイ法等を挙げることができる。
本発明ポリペプチドのmRNAの定量方法もまた、当該分野において周知である。例えば、本発明のポリヌクレオチドあるいはDNAより調製した上記オリゴヌクレオチドを用い、ノーザンハイブリダイゼーション法またはPCR法により、本発明のポリペプチドをコードするDNAの発現量をmRNAレベルで定量することができる。このような技術は、当該分野において周知であり、本明細書において列挙した文献にも記載されている。
当該分野で公知の任意の方法によって、これらのポリヌクレオチドが得られ得、そしてこれらポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、決定され得る。例えば、抗体のヌクレオチド配列が公知である場合、この抗体をコードするポリヌクレオチドは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドからアセンブルされ得(例えば、Kutmeier et al.,BioTechniques 17:242(1994)に記載されるように)、これは、手短に言えば、抗体をコードする配列の部分を含むオーバーラップするヌクレオチドの合成、それらのオリゴヌクレオチドのアニーリングおよび連結、ならびに次いでPCRによるこの連結されたオリゴヌクレオチドの増幅を含む。
抗体をコードするポリヌクレオチドは、適切な供給源由来の核酸から作製することができる。ある抗体をコードする核酸を含むクローンは入手不可能だが、その抗体分子の配列が既知である場合、免疫グロブリンをコードする核酸は、化学的に合成され得るか、あるいは適切な供給源(例えば、抗体cDNAライブラリーまたは抗体を発現する任意の組織もしくは細胞(例えば、本発明の抗体の発現のために選択されたハイブリドーマ細胞)から生成されたcDNAライブラリー、またはそれから単離された核酸(好ましくはポリA+RNA))から、例えば、抗体をコードするcDNAライブラリーからのcDNAクローンを同定するために、その配列の3’末端および5’末端にハイブリダイズ可能な合成プライマーを使用するPCR増幅によって、またはその特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを使用するクローニングによって得ることができる。PCRによって作製された増幅された核酸は、当該分野で周知の任意の方法を用いて、複製可能なクローニングベクターにクローニングされ得る。
一旦、抗体のヌクレオチド配列および対応するアミノ酸配列が決定されると、抗体のヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列の操作について当該分野で周知の方法(例えば、組換えDNA技術、部位指向性変異誘発、PCRなど(例えば、Sambrook et al.,1990,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NYおよびAusubelら編、1998,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,NYに記載の技術を参照のこと。これらは両方がその全体において本明細書に参考として援用される。))を用いて操作され、例えば、アミノ酸の置換、欠失、および/または挿入を生成するように異なるアミノ酸配列を有する抗体を作製し得る。
特定の実施形態において、重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、相補性決定領域(CDR)の配列の同定のために、当該分野において周知の方法によって(例えば、配列超可変性の領域を決定するために、他の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の既知のアミノ酸配列と比較することによって)調べられ得る。慣用的な組換えDNA技術を用いて、1つ以上のCDRが、前述のようにフレームワーク領域内に(例えば、非ヒト抗体をヒト化するために、ヒトフレームワーク領域中に)挿入され得る。このフレームワーク領域は天然に存在し得るか、またはコンセンサスフレームワーク領域であり得、そして好ましくはヒトフレームワーク領域であり得る(例えば、列挙したヒトフレームワーク領域については、Chothia et al.,J.Mol.Biol.278:457−479(1998)を参照のこと)。好ましくは、フレームワーク領域およびCDRの組み合わせによって生成されたポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体をコードする。好ましくは、上記に議論されるように、1つ以上のアミノ酸置換は、フレームワーク領域内で作製され得、そして好ましくは、そのアミノ酸置換は、抗体のその抗原への結合を改善する。さらに、このような方法は、1つ以上の鎖内ジスルフィド結合が欠如した抗体分子を生成するように、鎖内ジスルフィド結合に関与する1つ以上の可変領域のシステイン残基のアミノ酸置換または欠失を作製するために使用され得る。ポリヌクレオチドへの他の変更は、本発明によって、および当該分野の技術において包含される。
さらに、適切な抗原特異性のマウス抗体などの非ヒト抗体分子由来の遺伝子を、適切な生物学的活性のヒト抗体分子由来の遺伝子と共にスプライシングさせることによって、「キメラ抗体」の産生のために開発された技術(Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.81:851−855(1984);Neuberger et al.,Nature 312:604−608(1984);Takeda et al.,Nature 314:452−454(1985))が使用され得る。上記のように、キメラ抗体は、異なる部分が異なる動物種に由来する分子であり、このような分子は、マウスmAbなどの非ヒトmAbおよびヒト免疫グロブリンの定常領域由来の可変領域を有する(例えば、ヒト化抗体)。
単鎖抗体を製造する場合、単鎖抗体の産生に関する記載された公知の技術(米国特許第4,946,778号;Bird、Science 242:423−42(1988);Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883(1988);およびWard et al.,Nature 334:544−54(1989))が、利用され得る。単鎖抗体は、Fv領域の重鎖フラグメントおよび軽鎖フラグメントがアミノ酸架橋を介して連結されれることによって形成され、単鎖ポリペプチドを生じる。E.coliにおける機能性Fvフラグメントのアセンブリのための技術もまた、使用され得る(Skerra et al.,Science 242:1038−1041(1988))。
上記のほかに本発明の抗体は、抗体の合成のために当該分野で公知の任意の方法によって、化学合成によって、または、組換え発現技術によって産生され得る。
本発明の抗体、またはそのフラグメント、誘導体もしくはアナログ(例えば、本発明の抗体の重鎖もしくは軽鎖または本発明の単鎖抗体)の組換え発現は、その抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターの構築を必要とする。一旦、本発明の抗体分子または抗体の重鎖もしくは軽鎖、あるいはそれらの部分(好ましくは、重鎖または軽鎖の可変ドメインを含有する)をコードするポリヌクレオチドが得られると、抗体分子の産生のためのベクターは、当該分野で周知の技術を用いる組換えDNA技術によって生成され得る。従って、抗体をコードするヌクレオチド配列を含有するポリヌクレオチドの発現によってタンパク質を調製するための方法は、本明細書に記載される。当業者に周知の方法は、抗体をコードする配列ならびに適切な転写制御シグナルおよび翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターの構築のために使用され得る。これらの方法としては、例えば、インビトロの組換えDNA技術、合成技術、およびインビボの遺伝子組換えが挙げられる。従って、本発明は、プロモーターに作動可能に連結された、本発明の抗体分子、あるいはその重鎖もしくは軽鎖、または重鎖もしくは軽鎖の可変ドメインをコードするヌクレオチド配列を含む、複製可能なベクターを提供する。このようなベクターは、抗体分子の定常領域(例えば、PCT公開 WO86/05807;PCT公開 WO89/01036;および米国特許第5,122,464号を参照のこと)をコードするヌクレオチド配列を含み得、そしてこの抗体の可変ドメインは、重鎖または軽鎖の全体の発現のためにこのようなベクターにクローニングされ得る。
この発現ベクターは、従来技術によって宿主細胞へと移入され、次いで、このトランスフェクトされた細胞は、本発明の抗体を産生するために、従来技術によって培養される。従って、本発明は、異種プロモーターに作動可能に連結された、本発明の抗体、あるいはその重鎖もしくは軽鎖、または本発明の単鎖抗体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を含む。二重鎖抗体の発現についての好ましい実施形態において、重鎖および軽鎖の両方をコードするベクターは、以下に詳述されるように、免疫グロブリン分子全体の発現のために宿主細胞中に同時発現され得る。
(スクリーニング)
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の因子(例えば、抗体)、ポリペプチドまたは核酸分子を使用することができる。
本明細書において、免疫反応を利用してスクリーニングを行うことを、「免疫表現型分類(immunophenotyping)」ともいう。この場合、本発明の抗体または単鎖抗体は、細胞株および生物学的サンプルの免疫表現型分類のために利用され得る。本発明の遺伝子の転写産物・翻訳産物は、細胞特異的マーカーとして、あるいはより詳細には、特定の細胞型の分化および/または成熟の種々の段階で示差的に発現される細胞マーカーとして有用である。特異的エピトープ、またはエピトープの組み合わせに対して指向されるモノクローナル抗体は、マーカーを発現する細胞集団のスクリーニングを可能とする。種々の技術が、マーカーを発現する細胞集団をスクリーニングするために、モノクローナル抗体を用いて利用され得、そしてその技術には、抗体でコーティングされた磁気ビーズを用いる磁気分離、固体マトリクス(すなわち、プレート)に付着した抗体を用いる「パニング(panning)」、ならびにフローサイトメトリーが挙げられる(例えば、米国特許第5,985,660号;およびMorrison et al.,Cell,96:737−49(1999)を参照)。
これらの技術は、ヒト胚性幹細胞において見出され得るような細胞増殖および/または分化を起こし得るかまたは未分化状態への改変処置を行ったような細胞集団のような、未分化の細胞(例えば、胚性幹細胞、組織幹細胞など)を含む細胞集団についてスクリーニングするために利用され得る。
(遺伝子治療)
特定の実施形態において、本発明のポリペプチドをコードする核酸または本発明のポリペプチドを調節する遺伝子をコードする核酸は、本発明のポリペプチドの異常な発現および/または活性に関連した疾患または障害を処置、阻害または予防するために、遺伝子治療の目的で投与される。遺伝子治療とは、発現されたか、または発現可能な核酸の、被験体への投与により行われる治療をいう。本発明のこの実施形態において、核酸は、それらのコードされたタンパク質を産生し、そのタンパク質は治療効果を媒介する。
当該分野で利用可能な遺伝子治療のための任意の方法が、本発明に従って使用され得る。例示的な方法は、以下のとおりである。
遺伝子治療の方法の一般的な概説については、Goldspielら,Clinical Pharmacy 12:488−505(1993);WuおよびWu,Biotherapy 3:87−95(1991);Tolstoshev,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573−596(1993);Mulligan,Science 260:926−932(1993);ならびにMorganおよびAnderson,Ann.Rev.Biochem.62:191−217(1993);May,TIBTECH 11(5):155−215(1993)を参照のこと。遺伝子治療において使用される一般的に公知の組換えDNA技術は、Ausubelら(編),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NY(1993);およびKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載される。
(治療活性または予防活性の証明)
本発明の化合物または薬学的組成物は、好ましくは、ヒトでの使用の前にインビトロで、そして次いでインビボで、所望の治療活性または予防活性について試験される。例えば、化合物または薬学的組成物の、治療有用性または予防有用性を証明するためのインビトロアッセイとしては、細胞株または患者組織サンプルに対する化合物の効果が挙げられる。細胞株および/または組織サンプルに対する化合物または組成物の効果は、当業者に公知である技術(細胞溶解アッセイが挙げられるがこれらに限定されない)を利用して決定され得る。本発明に従って、特定の化合物の投与が示されるか否かを決定するために用いられ得るインビトロアッセイとしては、インビトロ細胞培養アッセイが挙げられ、このアッセイでは、患者組織サンプルが培養物において増殖し、そして化合物に曝されるか、そうでなければ化合物が投与され、そして、組織サンプルに対するそのような化合物の効果が観察される。
(治療/予防のための投与および組成物)
本発明は、被験体への有効量の本発明の化合物または薬学的組成物の投与による処置、阻害および予防の方法を提供する。好ましい局面において、化合物は実質的に精製されたものであり得る(例えば、その効果を制限するかまたは望ましくない副作用を生じる物質が実質的に存在しない状態が挙げられる)。被験体は好ましくは、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物が挙げられるがそれらに限定されない動物であり、そして好ましくは哺乳動物であり、そして最も好ましくはヒトである。
本発明の核酸分子またはポリペプチドが医薬として使用される場合、そのような組成物は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバント挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、単離された多能性幹細胞、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるがそれらに限定されない。
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第14版、その追補またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する糖鎖組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
本発明の処置方法において使用される糖鎖組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
(再プログラム化)
本明細書において「再プログラム化」とは、細胞(たとえば、体細胞)に作用して、その細胞を未分化状にさせ、多能性を増加または獲得させることをいう。従って、再プログラム化の活性は、ある因子を、分化した細胞(たとえば、体細胞)に、測定すべき量を一定時間(例えば、数時間など)暴露させた後に、多能性を測定し、暴露前のその細胞の多能性と比較して、有意な差異が見出されるかどうかを判定することによって測定される。再プログラム化のレベルは、種々存在し、再プログラム化された細胞の多能性のレベルに対応する。したがって、全能性の幹細胞由来の再プログラム化因子を用いる場合には、再プログラム化は全能性に対応することがあり得る。したがって、再プログラム化状態は、本明細書において、未分化状態とほぼ1:1の関係にある。本発明のポリペプチドは、再プログラム化状態を判定するためにも用いることができる。
本明細書において、「再プログラム化因子」または「再プログラム化する因子」とは、細胞に作用し、その細胞を未分化細胞化する因子である。胚性幹細胞は体細胞核のインプリントを再プログラム化することはできないが、生殖細胞の発達は可能とするよう、体細胞核のエピジェネティクス状態を再プログラム化した。従って、胚性幹細胞中にそのような再プログラム化因子が含まれることは明らかである。また、胚性幹細胞以外の他の幹細胞にも体細胞を再プログラム化する因子がある可能性があり、本発明の再プログラム化因子はまたこれらの因子をも包含する。体細胞に作用させる胚性幹細胞由来の成分としては、胚性幹細胞中に含まれる成分であれば特に限定されないが、細胞質成分、核成分等、また個々のRNAおよびタンパク質等が挙げられる。雑多な分子を含む細胞質成分または核成分を作用させる場合、慣用な手段により(例えば、クロマトグラフィー等)ある程度の分画を行い、分画された各画分を体細胞に対して作用させても良い。特定の画分が再プログラム化因子を含むことが判明した場合には、該画分をさらに精製し、最終的には一つの分子として特定し、それを利用することもできる。また代わりに、この再プログラム化因子が含まれる画分をそのまま、何ら精製することなく体細胞の再プログラム化に用いることも可能である。また、再プログラム化因子は、一分子が単独でそのような作用を示す場合も考え得るが、複数の分子が相互作用により、体細胞を未分化様細胞へと変化させることも考えられる。従って、本発明の「再プログラム化因子」には、単一分子からなる因子、複数分子からなる因子、および、前記単一分子または複数分子が含まれる組成物が包含される。
本発明の再プログラム化因子のスクリーニング方法としては、胚性幹細胞由来の成分を体細胞に接触、注入等の手段により作用させ、本発明のPsbp遺伝子−GFPマーカー遺伝子の発現、X染色体の活性化等の再プログラム化の指標となる活性を基にその作用を検出し、そして、再プログラム化活性を有していた成分を選択することにより行うことができる。
再プログラム化する因子をスクリーニングする方法は、適当な体細胞に対して、胚性幹細胞由来の成分を作用させ、該成分の体細胞を再プログラム化する活性を検出し、そして、再プログラム活性を有する成分を選択することにより達成され得る。本明細書において用いられ得る体細胞としては、リンパ球、脾臓細胞または精巣由来の細胞等を例示することができる。特に、これらに限定されるわけではなく、正常な染色体を有した体細胞であり、安定に増殖させることができ、再プログラム化因子の作用により多分化能を有する未分化細胞様に変化することができれば特に限定されない。特に、作用させる胚性幹細胞由来の成分が由来する種由来であることが好ましい(例えば、胚性幹細胞由来の成分がヒト由来である場合、ヒト由来の体細胞)。既に確立されている細胞株を用いることも可能である。
本発明の細胞より細胞、組織または臓器を製造する方法において、細胞を分化させる方法は、その細胞の核型が実質的に保持されるような状態で細胞、組織または臓器が分化され得るのであれば特に限定されない。例えば、胚盤胞への導入、マウス等の動物への皮下注射によりテラトーマを形成させること等により細胞、組織、および臓器へと分化させることが可能である。所望の細胞、組織または臓器は、それらの分化された胚盤胞またはテラトーマから単離することができる。インビトロで目的とする種類の細胞を得るために必要とされる細胞増殖因子、成長因子等を添加し、細胞から所望の細胞、組織または臓器を誘導してもよい。現在までに、血管、神経細胞、筋肉細胞、造血細胞、皮膚、骨、肝臓、膵臓等への胚性幹細胞からの誘導が報告されており、本発明の多能性幹細胞からの移植個体に対応する細胞、組織または臓器の製造においても、それらの技術を適用することができる(例えば、Kaufman,D.S.,Hanson,E.T.,Lewis,R.L.,Auerbach,R.,and Thomson,J.A.(2001) Proc Natl Acad Sci USA 98,10716−21;Boheler,K.R.,Czyz,J.,Tweedie,D.,Yang,H.T.,Anisimov,S.V.,and Wobus,A.M.(2002).Circ Res 91,189−201)。
本発明の細胞からの細胞、組織または臓器の製造方法において幹細胞(たとえば、胚性幹細胞)を使用する場合、適当な個体から幹細胞(たとえば、神経幹細胞、胚性幹細胞)を確立して用いることも可能であるが、既に確立されている、種々の生物由来の幹細胞(たとえば、神経幹細胞、胚性幹細胞)を利用することが好ましい。例えば、マウス、ハムスター、ブタ、ヒツジ、ウシ、ミンク、ウサギ、アカゲザルおよびマーモセット等の霊長類、およびヒトの幹細胞(たとえば、胚性幹細胞)を挙げることができる。好ましくは、使用する体細胞と同じ種由来の幹細胞(たとえば、胚性幹細胞)を用いる。
(Psbpの説明)
Pspbは、本発明において初めて見出された遺伝子であり、以下のような性質を有する。
1)既存の抗SOX2抗体ではスーパーシフトしない。
2)NanogやFgf4遺伝子のSoxエレメントに結合する。
3)SOX2が存在してもPSBPが優先的にSoxエレメントに結合する。
4)PSBPはHMG−boxを持つ可能性が高い。
5)未分化細胞に特異的に発現するか、特異的修飾を受けている可能性が高い。
6)F9 EC細胞ではPBSPが存在しないもしく機能しないが、ES細胞には存在するまたは機能型としての修飾を受けている。
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の最良の形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
(マーカー生産方法)
1つの局面において、本発明は、胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができるマーカーを生産する方法であって、A)細胞に由来する成分を提供する工程;B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;およびC)B)工程で選択された細胞から、該Oct4に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)に特異的な複合体を取り出す工程、を包含する、方法を提供する。
ここで、細胞に由来する成分は、当該分野において公知の任意の技法を用いて実現することができる。そのような技法としては、例えば、任意の細胞を破壊する技法(例えば、フレンチプレス、超音波法など)を利用することができる。好ましくは、細胞に由来する成分は、核に由来することが好ましい。細胞内の特定成分を調製する方法としては、例えば、遠心分離法、ショ糖などを用いた密度勾配遠心分離方法、硫酸アンモニウム沈澱法などが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明において実施されるゲルシフトアッセイは、当該分野において公知の任意の方法を利用することができる。ゲルシフトアッセイは、市販されるキット(例えば、Promegaなどが市販される)を用いても良い。例示的なゲルシフトアッセイの概略は以下の通りである。
1.ポリアクリルアミドゲルを作製する。2.核抽出物とビオチン標識したDNAを反応させる。3.電気泳動による分離を行う。4.メンブレン(例えば、ナイロンなど)へのブロッティングを行う。5.UVを用い,メンブレンへクロスリンクさせる。6.HRP標識ストレプトアビジンと特異的結合させる。7.化学発光基質との反応で発光させる。8.X線フィルムへ感光させ検出する。これはあくまでも例示であり、例えば、他の標識(放射能など)を用いても実施することができることが理解される。ゲルシフトアッセイは、特定のDNA配列に結合するタンパク質を電気泳動度の違いにより同定する実験法であり、また、DNA結合タンパク質に対する特異的因子(例えば、抗体)をそのタンパク質やDNA配列とともにインキュベートすることにより、電気泳動時のDNA−タンパク複合体の移動度の差を利用する。この手法をゲルスーパーシフト法といい、特に、DNAと転写因子の結合解析に有効である。
このようにスーパーシフトの有無によって細胞を分類した後、本発明では、Oct4に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する。この選択は、当業者であれば、分類にしたがって、容易に実施することができる。
本発明において、上記選択工程で選択された細胞から、該Oct4を含むOctamer結合因子に特異的な複合体を取り出す技法もまた、物質を分離精製する任意の技術を用いることができることが理解される。そのような分離精製の技術としては、例えば、免疫学的技術を利用する方法、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー精製、ゲル濾過など)、遠心分離などを挙げることができるがそれらに限定されない。ここで、分離される複合体自体が、本発明において、幹細胞を識別するために使用されることから、本発明の有用性が複合体においてすでに見出され得ることが理解される。この複合体は、代表的に、Oct4ポリペプチドと、本発明において初めて見出されたPbspポリペプチドとを含むことが理解される。
本発明において、必要に応じて、このような複合体から、Oct4ポリペプチドを取り除いてもよい。このような場合、本発明の上記複合体から、Soxエレメントに特異的に結合する成分を取り出してもよい。このような特定成分の取り出しは、複合体の各々の成分の相互作用が解放されるような条件に複合体を曝し、代表的に、目的とする特定成分を分離するか、あるいは、目的とする特定成分以外の所望されない成分を分離することによって実現することができる。そのような条件とは、例えば、高塩濃度、特定のpHなどを挙げることができるがそれらに限定されない。成分の分離は、当該分野において周知の任意の技法(クロマトグラフィー、電気泳動など)を利用することができることが理解される。
本発明の1つの実施形態において、本発明の方法における本発明の複合体を取り出す工程は、Oct4がおよそ45kDaという分子量を有していることを指標に、本発明のPSBPのおおよその推定分子量に関する情報を利用することができる。分子量による分離は、例えば、電気泳動、ゲル濾過などの公知技術を用いることができることが理解される。
本発明の1つの実施形態において、本発明の方法における本発明の複合体を取り出す工程は、pIを参酌して分離することを包含する。このようなpIによる分子の分離もまた、等電点電気泳動などの技術を用いることによって実施することができることが理解される。
1つの実施形態において、本発明は、本発明の複合体からSoxエレメントに特異的に結合する成分を取り出す工程をさらに包含する。このようなSoxエレメントに特異的に結合する成分の取り出しは、当該分野において公知の任意の技法を用いることができる。そのような技法としては、例えば、アフィニティークロマトグラフィーなどを挙げることができるがそれらに限定されない。例示的なPSBPの精製方法を具体的な図をつけて説明する(図9)。PSBPの結合する配列であるOctamer/Sox結合配列のDNAをラテックスまたはフェライトビーズに結合させる。このビーズとES細胞核の抽出液を反応させ、Octamer/Sox配列と結合したタンパク質をSDS−PAGEにより精製する。精製されたタンパク質のアミノ酸配列をマススペクトロメトリー解析により決定する。アミノ酸配列の情報をもとに遺伝子を同定することができる。
1つの実施形態において、本発明が対象とする細胞は、幹細胞であることが好ましい。幹細胞は、任意の幹細胞であり得るが、好ましくは、胚性幹細胞であり、例えば、R1胚性幹細胞、E14胚性幹細胞、J1胚性幹細胞などを挙げることができるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明は、本発明の複合体がNanogのSoxエレメントに結合するかどうかを判定する工程をさらに包含する。このような判定工程は、本発明の複合体が、Nanogの調節領域に結合し、したがって、胚性幹細胞などの未分化状態の指標として適切であるかを確認するのに有用である。
本発明において利用されるSoxエレメントは、核酸配列としてTACAATGを含むがそれに限定されない。
本発明において利用されるSox2に特異的な因子は、核酸分子である場合は、核酸配列としてTACAATGを含む核酸分子を含むがそれに限定されない。
本発明において利用されるOct4に特異的な因子は、抗Oct4抗体である。この抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもそれらの改変体であってもよい。このような抗体は、Oct4ポリペプチド(配列番号17および18)が一旦与えられたならば、本明細書に記載されるような任意の公知技術を用いて製造することができることが理解される。
本発明において利用されるSox2に特異的な因子は、抗Sox2抗体である。この抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもそれらの改変体であってもよい。このような抗体は、Sox2ポリペプチド(配列番号19および20)が一旦与えられたならば、本明細書に記載されるような任意の公知技術を用いて製造することができることが理解される。
1つの実施形態において、本発明は、本発明の複合体から、Sox2でもOct4でもない分子を分離する工程をさらに包含する。このSoxでもOct4でもない分子の分離は、電気泳動、免疫学的手段、クロマトグラフィー、DNA-タンパク質アフィニティー解析およびマススペクトロメトリー解析からなる群より選択される1以上の手段を用いて行われるがそれらに限定されない。
本発明において使用される特異的な因子は、標識されているかまたは標識され得る物質であってもよい。このような標識としては、例えば、ビオチン、ストレプトアビジン、DIG(ジゴキシゲニン)、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応からなる群より選択される技法を利用することができるがそれらに限定されない。好ましくは、因子は、放射標識される。
好ましい実施形態において、本発明において実施されるSox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分を選択する工程は、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分と比較することを包含する。このようなスーパーシフトする成分は、代表的にはSox2とOct4との複合体を含むがそれに限定されない。そのようなSox2に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトする成分は、胚性癌腫細胞(例えば、F9細胞)に由来する。
本発明は、本発明の上記方法(A)細胞に由来する成分を提供する工程;B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;およびC)B)工程で選択された細胞から、該Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程)によって調製されるタンパク質複合体を提供する。この複合体は、胚性幹細胞を他の細胞(例えば、胚性癌腫細胞)から識別するため、あるいは未分化状態を判定するために用いられ得る。
本発明はまた、本発明の上記方法(A)細胞に由来する成分を提供する工程;B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;C)B)工程で選択された細胞から、該Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程;D)該複合体からSoxエレメントに特異的に結合する成分を取り出す工程、または該複合体から、Sox2でもOct4でもない分子を分離する工程)によって調製されるタンパク質(例えば、Psbp)を提供する。
本発明はまた、本発明の上記タンパク質(例えば、Psbp)のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。このような核酸分子は、本発明のタンパク質を精製し、タンパク質のアミノ酸配列を決定すること、および/またはそれに対応する核酸配列をゲノムまたはcDNAライブラリーなどから決定すること、ならびにその配列を有する核酸を提供することによって生産することができる。
(胚性幹細胞の識別することができるマーカー)
別の局面において、本発明は、胚性幹細胞を他の細胞(例えば、胚性癌腫細胞)から識別するためのマーカーを提供する。
1つの実施形態において、本発明のこのマーカーは、Oct4エレメントには結合しないことを特徴とするがそれに限定されない。別の特徴として、本発明のマーカーは、Soxエレメントに結合することが挙げられるがそれらに限定されない。ただし、本発明のマーカーは、既存のSox2(配列番号19および20)とは異なり得ることが理解される。
1つの実施形態において、本発明のマーカーは、複合体の形態であって、この形態の場合、A)細胞に由来する成分を提供する工程;B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;およびC)B)工程で選択された細胞から、Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程、を包含する、方法によって調製されることを特徴とする。ここで使用される工程および技法ならびに好ましい実施形態は、上記(マーカー生産方法)に記載される任意の技法を用いることができることが理解される。このマーカーは、胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができる。
別の好ましい実施形態において、本発明のマーカーは、マーカーは、単体の形態をとり、この場合、PSBPとも称され、このマーカーは、A)細胞に由来する成分を提供する工程;B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;C)B)工程で選択された細胞から、Oct4を含むOctamerエレメントに特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程;およびD)該複合体からSoxエレメントに特異的に結合する成分を取り出す工程、を包含する、方法によって調製される。このマーカーは、胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができる。
1つの実施形態において、本発明のマーカーは、Nanog/Stm1の転写を促進する活性を有し得る。本発明のマーカーは、Nanogの転写促進活性のある部分に結合する能力を有するからである。ここでいう転写の促進は、Oct4との相互作用に起因していてもよいがそれに限定されない。
好ましい実施形態において、本発明のマーカーは、多分化能の有無を判定すること能力を有し得る。多分化能が高い(全能性を有し得る)胚性幹細胞において本発明のマーカーが発現され、多分化能が低いあるいはほとんどないとされる胚性癌腫細胞では発現が抑制されていることが見出されているからである。したがって、本発明のマーカーは、細胞の未分化状態を判定するために有用であることが理解される。
ここで、好ましい実施形態では、上記記多分化能は、胚性幹細胞(例えば、R1胚性幹細胞)にあるが、胚性癌腫細胞(例えば、F9細胞)にはない能力を包含する。
好ましい実施形態では、本発明のマーカーは、単体で存在する場合、Oct4との相互作用は、Sox2よりも強いことが理解される。したがって、本発明のマーカーは、Psbpである場合は、Sox2にはない未分化能を維持する機能があり得ることが理解される。
1つの実施形態において、本発明のマーカーは、タンパク質であるがそれに限定されない。ここで、タンパク質とは、糖、脂質などで修飾されていても良いことが理解される。
1つの実施形態において、本発明のマーカーは、タンパク質複合体であっても、タンパク質の単体であってもよい。このような複合体は、Oct4をメンバーの一つとして含んでいてもよいことが理解される。
本発明のマーカーは、識別可能な標識で標識されていてもよい。そのような標識は、どのようなものでも良いことが理解される。そのような標識としては、例えば、ビオチン、ストレプトアビジン、DIG(ジゴキシゲニン)、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応からなる群より選択される技法を利用することができるがそれらに限定されない。
(本発明のマーカーに特異的な因子)
別の局面において、本発明は、本発明のマーカーに対して特異的な因子を提供する。
1つの実施形態では、本発明は、本発明のポリペプチドに対して特異的に相互作用(例えば、結合)する因子およびそれを含む組成物に関する。そのような因子としては、例えば、ポリペプチド(例えば、抗体、単鎖抗体)、ポリヌクレオチド、糖鎖、脂質、およびそれらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。このような因子は、本発明のポリペプチドに特異的に結合するものであれば、どのようなものでもよいことが理解され得る。より好ましくは、本発明の因子は、抗体またはその誘導体(例えば、単鎖抗体)である。従って、本発明の因子は、プローブおよび/またはインヒビターとして使用することができる。
好ましい実施形態において、本発明の因子は、標識されているかまたは標識と結合し得るものであることが有利であり得る。そのように標識がされている場合、本発明の因子によって測定することができる種々の状態を直接および/または容易に測定することができる。そのような標識は、識別可能に標識される限り、どのような標識でもよく、例えば、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応などの技法が挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、その因子が抗体などの免疫反応を利用して相互作用する場合、ビオチン−ストレプトアビジンのような免疫反応においてよく利用される系を用いてもよい。
好ましい実施形態では、本発明の上記因子は、抗体であり得る。抗体は、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体であってもよく、それらの、ヒト化抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらの断片、例えばF(ab’)2およびFab断片、ならびにその他の組換えにより生産された結合体などであってもよい。このような抗体は、本発明の遺伝子の発現を判定する道具として用いることができ、従ってスクリーニングに使用することができる。
別の実施形態において、本発明は、本発明のマーカー(例えば、Psbpタンパク質)のポリペプチド形態をコードする核酸分子(例えば、Psbpポリヌクレオチド)に対して特異的に相互作用する因子を含む、組成物を提供する。したがって、本発明は、本明細書に記載される任意の本発明のマーカーのポリペプチド形態をコードする核酸分子またはその改変体もしくはフラグメントに対して特異的な因子を提供する。ここで、診断、予防、処置または予後上有効な量は、当該分野において周知の技法を用いて当業者が種々のパラメータを参酌しながら決定することができ、そのような量を決定するためには、例えば、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明では、本発明のマーカーのポリペプチド形態の発現が、より詳細に未分化状態(特に、多能性、より特定すると全能性)に対応していることが明らかになったことによって、そのような状態、性質を同定するために効率よく使用される。特に、従来のOct4およびNanogよりも多能性、全能性に対する親和性が高く、その検出効率は格段に上がるものと考えられる。このような効果は従来知られておらず、したがって、本発明の因子は、従来技術により提供されるものより優れた効果または性質の異なる効果を示す。
好ましい実施形態において、本発明の因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される因子であり得る。このような因子は、本発明の核酸分子に特異的に結合するものであれば、どのようなものでもよいことが理解され得る。
好ましい実施形態では、本発明の因子は、核酸分子である。本発明の因子が核酸分子である場合、そのような核酸分子は、少なくとも8の連続するヌクレオチド長であり得、好ましくは本発明のマーカーの核酸配列に対して特異的に結合し得る。本発明の核酸分子は、本発明の使用目的によってその適切なヌクレオチド長が変動し得る。より好ましくは、本発明の核酸分子は、少なくとも10の連続するヌクレオチド長であり得、さらに好ましくは少なくとも15の連続するヌクレオチド長であり得、なお好ましくは少なくとも20の連続するヌクレオチド長であり得る。これらのヌクレオチド長の下限は、具体的に挙げた数字のほかに、それらの間の数(例えば、9、11、12、13、14、16など)あるいは、それ以上の数(例えば、21、22、...30、など)であってもよい。本発明の核酸分子は、目的とする用途(例えば、アンチセンス、RNAi、マーカー、プライマー、プローブ)として使用することができるかまたは所定の因子と相互作用することができる限り、その上限の長さは、本発明のマーカーの全長配列またはその相補体の全長であってもよく、それを超える長さであってもよい。あるいは、プライマーとして使用する場合は、通常少なくとも約8のヌクレオチド長であり得、好ましくは約10ヌクレオチド長であり得る。プローブとして使用する場合は、通常少なくとも約15ヌクレオチド長であり得、好ましくは約17ヌクレオチド長であり得る。
従って、1つの例示的な実施形態において、本発明の因子は、本発明のマーカーのポリペプチド形態をコードするポリヌクレオチドの核酸配列に対して相補的な配列またはそれに対して少なくとも70%の同一性を有する配列を有する核酸分子であり得る。
本発明の核酸分子に対して特異的な上記因子は、標識されているかまたは標識され得る。この標識は、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応からなる群より選択される技法を利用することができいるがそれらに限定されない。
(核酸形態のマーカーおよびその利用)
別の局面において、本発明は、本発明のマーカーの核酸形態を提供する。例示的には、(a)そのようなPsbp遺伝子は、本発明の手法(例えば、実施例に記載される手法)によって同定される塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;(b)本発明の手法(例えば、実施例に記載される手法)によって同定されるアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;(c)(b)のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;(d)(a)の塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;(e)(b)に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体をコードする、ポリヌクレオチド;(f)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または(g)(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ、生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、を含む、核酸分子であり得る。
1つの好ましい実施形態において、上記(c)における置換、付加および欠失の数は、限定され、例えば、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下であることが好ましい。より少ない数の置換、付加および欠失が好ましいが、生物学的活性を保持する(好ましくは、Psbp遺伝子産物と類似するかまたは実質的に同一の活性を有する)限り、多い数であってもよい。
別の好ましい実施形態において、上記改変体ポリペプチドが有する生物学的活性としては、例えば、上記(b)に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントに対して特異的な抗体との相互作用、未分化性維持などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような生物学的活性は、未分化性維持を含む。Psbpは細胞の未分化性維持に重要な働きをしていると考えられる。具体的にはホメオドメインをもつことから組織細胞に分化を誘導する様な下流遺伝子の発現を抑制していると推測される。この活性を測定するためには、遺伝子欠損実験、RNAi実験、抗体によるタンパク質機能阻害実験等が考えられる。
別の好ましい実施形態において、対立遺伝子変異体は、上記(a)の核酸配列と少なくとも90%の相同性を有することが好ましい。同一系統内のものなどでは、例えば、そのような対立遺伝子変異体は少なくとも99%の相同性を有することが好ましい。さらに好ましくは、そのような対立遺伝子変異体は、99.7%以上の相同性を有することが有利である。特に、そのような対立遺伝子変異体は、Psbp遺伝子とPsbp2遺伝子との間で相違する配列は相違したままであることが好ましい。
上記種相同体は、その種の遺伝子配列データベースが存在する場合、そのデータベースに対して、本発明のPsbp遺伝子をクエリ配列として検索することによって同定することができる。あるいは、本発明のPsbp遺伝子の全部または一部をプローブまたはプライマーとして、その種の遺伝子ライブラリーをスクリーニングすることによって同定することができる。そのような同定方法は、当該分野において周知であり、本明細書において記載される文献にも記載されている。種相同体は、例えば、上記(a)の核酸配列と少なくとも約30%の相同性を有することが好ましい。種相同性は、好ましくは、上記(a)の核酸配列と少なくとも約50%の相同性を有する。
好ましい実施形態において、上記(a)〜(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性は、少なくとも約80%であり得、より好ましくは少なくとも約90%であり得、さらに好ましくは少なくとも約98%であり得、もっとも好ましくは少なくとも約99%であり得る。
好ましい実施形態において、本発明の核酸分子は、少なくとも8の連続するヌクレオチドであり得る。本発明の核酸分子は、本発明の使用目的によってその適切なヌクレオチド長が変動し得る。より好ましくは、本発明の核酸分子は、少なくとも10の連続するヌクレオチド長であり得、さらに好ましくは少なくとも15の連続するヌクレオチド長であり得、なお好ましくは少なくとも20の連続するヌクレオチド長であり得る。これらのヌクレオチド長の下限は、具体的に挙げた数字のほかに、それらの間の数(例えば、9、11、12、13、14、16など)あるいは、それ以上の数(例えば、21、22、...30、など)であってもよい。本発明の核酸分子は、目的とする用途(例えば、マーカー)として使用することができる限り、その上限の長さは上記(a)の配列の全長であってもよく、それを超える長さであってもよい。あるいは、プライマーとして使用する場合は、通常少なくとも約8のヌクレオチド長であり得、好ましくは約10ヌクレオチド長であり得る。プローブとして使用する場合は、通常少なくとも約15ヌクレオチド長であり得、好ましくは約17ヌクレオチド長であり得る。
より好ましい実施形態において、本発明は、(a’)上記(a)の塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または(b’)上記(b)のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドであり得る。
ここで、より好ましい実施形態では、上記(a)〜(b)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性は、少なくとも約80%であり得、より好ましくは少なくとも約90%であり得、さらに好ましくは少なくとも約98%であり得、もっとも好ましくは少なくとも約99%であり得る。
好ましい実施形態において、本発明のPsbp遺伝子をコードする核酸分子またはそのフラグメントおよび改変体は、少なくとも8の連続するヌクレオチド長であり得る。本発明の核酸分子は、本発明の使用目的によってその適切なヌクレオチド長が変動し得る。より好ましくは、本発明の核酸分子は、少なくとも10の連続するヌクレオチド長であり得、さらに好ましくは少なくとも15の連続するヌクレオチド長であり得、なお好ましくは少なくとも20の連続するヌクレオチド長であり得る。これらのヌクレオチド長の下限は、具体的に挙げた数字のほかに、それらの間の数(例えば、9、11、12、13、14、16など)あるいは、それ以上の数(例えば、21、22、...30、など)であってもよい。本発明の核酸分子は、目的とする用途(例えば、アンチセンス、RNAi、マーカー、プライマー、プローブ、所定の因子と相互作用し得ること)として使用することができる限り、その上限の長さは、上記(a)の配列の全長であってもよく、それを超える長さであってもよい。あるいは、プライマーとして使用する場合は、通常少なくとも約8のヌクレオチド長であり得、好ましくは約10ヌクレオチド長であり得る。プローブとして使用する場合は、通常少なくとも約15ヌクレオチド長であり得、好ましくは約17ヌクレオチド長であり得る。
(ポリペプチド形態のマーカーおよびその利用)
別の局面において、本発明は、本発明のポリペプチド形態を提供する。この本発明のポリペプチドは、
(a)本発明の手法(例えば、実施例に記載される手法)によって同定されるアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)上記(a)のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)本発明の手法(例えば、実施例に記載される手法)によって同定される塩基配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチドのスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)上記(b)のアミノ酸配列の種相同体である、ポリペプチド;または
(e)(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド、
を含む、ポリペプチドであり得る。
1つの好ましい実施形態において、上記(b)における置換、付加および欠失の数は限定されていてもよく、例えば、50以下、40以下、30以下、20以下、15以下、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下であることが好ましい。より少ない数の置換、付加および欠失が好ましいが、生物学的活性を保持する(好ましくは、Pstbポリペプチド(または遺伝子産物)と類似するかまたは実質的に同一の活性を有する)限り、多い数であってもよい。
別の好ましい実施形態において、上記(c)における対立遺伝子変異体は、上記(a)のアミノ酸配列と少なくとも約90%の相同性を有することが好ましい。好ましくは(c)における対立遺伝子変異体は、上記(a)のアミノ酸配列と少なくとも約99%の相同性を有する。
別の好ましい実施形態において、上記種相同体は、本明細書中上述のように同定することができ、上記(a)のアミノ酸配列と少なくとも約30%の相同性を有することが好ましい。種相同性は、好ましくは、上記(c)の核酸配列と少なくとも約50%の相同性を有する。
別の好ましい実施形態において、上記(e)における上記改変体ポリペプチドが有する生物学的活性としては、例えば、上記(a)のアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそのフラグメントに対して特異的な抗体との相互作用、転写制御活性、未分化性維持などが挙げられるがそれらに限定されない好ましくは、そのような生物学的活性は、未分化性維持を含む。Stmは細胞の未分化性維持に重要な働きをしていると考えられる。具体的にはホメオドメインをもつことから組織細胞に分化を誘導する様な下流遺伝子の発現を抑制していると推測される。この活性を測定するためには、遺伝子欠損実験、RNAi実験、抗体によるタンパク質機能阻害実験等が考えられる。
好ましい実施形態において、上記(a)〜(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性は、少なくとも約80%であり得、より好ましくは少なくとも約90%であり得、さらに好ましくは少なくとも約98%であり得、もっとも好ましくは少なくとも約99%であり得る。
本発明のポリペプチドは、通常、少なくとも3の連続するアミノ酸配列を有する。本発明のポリペプチドが有するアミノ酸長は、目的とする用途に適合する限り、どれだけ短くてもよいが、好ましくは、より長い配列が使用され得る。従って、好ましくは、少なくとも4アミノ酸長、より好ましくは5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長であってもよい。さらに好ましくは少なくとも15アミノ酸長であり得、なお好ましくは少なくとも20アミノ酸長であり得る。これらのアミノ酸長の下限は、具体的に挙げた数字のほかに、それらの間の数(例えば、11、12、13、14、16など)あるいは、それ以上の数(例えば、21、22、...30、など)であってもよい。本発明のポリペプチドは、目的とする用途(例えば、免疫原、マーカー)として使用することができる限り、その上限の長さは、上記(a)の配列の全長と同一であってもよく、それを超える長さであってもよい。
ここで、さらに好ましい実施形態において、上記(a)〜(b)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性は、少なくとも約80%であり得、より好ましくは少なくとも約90%であり得、さらに好ましくは少なくとも約98%であり得、もっとも好ましくは少なくとも約99%であり得る。
(本発明の核酸分子の遺伝子工学形態)
別の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含む発現カセットおよびベクターに関する。本発明の発現カセットおよびベクターは、好ましくは、本発明の核酸分子に作動可能に連結された制御配列をさらに含む。このように制御配列を含むことによって、本発明の核酸分子の発現の制御が容易になる。そのような制御配列としては、例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列、ターミネーター配列、イントロン配列などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、そのような制御配列は、本発明の核酸分子の発現を誘導することができる。
さらに好ましい実施形態において、本発明の発現カセットおよびベクターは、選択マーカーをコードする配列をさらに含み得る。そのような選択マーカーとしては、例えば、外来遺伝子、細胞性遺伝子、および抗生物質耐性遺伝子が挙げられるがそれらに限定されない。抗生物質耐性遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などが挙げられるがそれらに限定されない。細胞性遺伝子としては、例えば、増殖因子のようなサイトカインをコードする遺伝子、増殖因子レセプターをコードする遺伝子、シグナル形質導入分子をコードする遺伝子、および転写因子をコードする遺伝子が挙げられるがそれらに限定されない。別の好ましい実施形態では、選択マーカーは、不死化遺伝子(例えば、bcl−2)であり得る。あるいは、選択マーカーは、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、毒性産物をコードする遺伝子、自殺基質と組合せて条件により活性な毒性遺伝子産物(例えば、ガンシクロビル(ganciclovir)と組合せた単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK))、および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)遺伝子であり得る。
(細胞形態)
別の局面において、本発明は、Psbp遺伝子をコードする核酸配列(例えば、本発明の核酸分子)を含む(例えば、形質転換された)細胞に関する。本発明の核酸分子を細胞に導入する方法は、当該分野において周知であり、本明細書において上記節において詳述されている。あるいは、そのような細胞は、細胞を含むサンプル中において、その核酸分子を含む細胞をスクリーニングすることによって、同定することができる。本発明の核酸分子を含む細胞は、好ましくは、未分化状態であり得る。本発明の核酸分子が発現している細胞は、通常未分化状態である。したがって、そのような核酸分子が制御可能に発現されるように導入された細胞は、その未分化状態を制御することができる。あるいは、そのような細胞を用いて、本発明の核酸分子を大量に生産することができる。そのような生産方法は、当該分野において周知であり、本明細書において記載された文献に記載されている。
別の実施形態では、この細胞は、本発明が核酸分子がmRNAとして発現されていてもよい。
(組織形態)
別の局面において、本発明は、Psbp遺伝子をコードする核酸配列を含む組織に関する。そのような核酸配列は、制御配列に作動可能に連結されることが好ましい。そのような組織は、動物組織であってもよく、他の生物(例えば、植物)の組織であってもよい。あるいは、そのような組織を用いて、本発明の核酸分子を大量に生産することができる。そのような生産方法は、当該分野において周知であり、本明細書において記載された文献に記載されている。
(臓器形態)
別の局面において、本発明は、Psbp遺伝子をコードする核酸配列を含む臓器に関する。そのような核酸配列は、制御配列に作動可能に連結されることが好ましい。そのような臓器は、動物臓器であってもよく、他の生物(例えば、植物)の器官であってもよい。あるいは、そのような臓器を用いて、本発明の核酸分子を大量に生産することができる。そのような生産方法は、当該分野において周知であり、本明細書において記載された文献に記載されている。
(生物形態)
別の局面において、本発明は、Psbp遺伝子をコードする核酸配列を含む生物(例えば、動物)に関する。そのような核酸配列は、制御配列に作動可能に連結されることが好ましい。そのような生物は、動物であってもよく、他の生物(例えば、植物)であってもよい。あるいは、そのような生物を用いて、本発明の核酸分子を大量に生産することができる。そのような生産方法は、当該分野において周知であり、本明細書において記載された文献に記載されている。Psbp遺伝子が分化細胞に特異的な遺伝子の発現を抑制するとすれば、ある方向への分化誘導を抑制する可能性がある。つまり、分化の方向を決定づける働きがあり再生医療への応用の可能性が考えられる。
(未分化判定組成物)
別の局面において、本発明は、細胞の未分化状態を判定するための組成物に関する。この組成物は、Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を含む。このような因子は、Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に相互作用する因子(例えば、相補配列を有する核酸分子、転写因子のようなポリペプチドなど)、あるいは、Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に対する抗体、単鎖抗体などが挙げられるがそれらに限定されない。ここで使用されるPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物は、本明細書において上述したような配列を有する核酸分子またはポリペプチドであり得るがそれらに限定されない。当業者は、このような核酸分子およびポリペプチドを、当該分野において周知の技術を用いて改変することができる。そのような改変は、目的とする用途によって当業者が適宜変更することができる。
本発明の細胞の未分化状態を判定するための組成物の判定対象は、好ましくは、幹細胞を包含する。本発明において、従来の因子(例えば、Nanog/Stm1、Oct4など)よりも多分化能の程度に比例して発現することが判明した。特に、胚性幹細胞とそれ以外の細胞(たとえば、胚性癌腫細胞など)とを識別することを容易にした。このような特徴は、従来のOct4およびNanog/Stm1のような因子ではなかった。したがって、本発明のこのような組成物は、従来の因子を用いた系よりも、より正確に多分化能について判定することができるという利点を有する。そのような利点は、Oct4、Nanog/Stm1などの従来の因子では達成が困難であった格別の効果であるといえる。また、下流遺伝子の発現制御について、Oct4、Nanog/Stm1との関係について考慮するとより精度の高い判定を行うことができるといえる。
ある好ましい実施形態において、幹細胞は、胚性幹細胞、多能性幹細胞、単能性幹細胞、および組織幹細胞からなる群より選択される細胞であり得る。本発明の組成物は、特に、胚性幹細胞を含む、多分化能の高い多能性幹細胞全般の判定に使用することができるという新たな利点を有する。なぜなら、従来のマーカーでは、多分化能の程度を正確に判定することが困難であったからである。本明細書において意図される幹細胞としては、通常、胚性幹細胞などが挙げられるがそれに限定されない。理論に束縛されないが、本発明の効果としては、全能性のものをより正確に判定できることも挙げられる。従って、本発明は、再プログラム化の状況を判定するために用いられ得る。
本発明の組成物が対象とする細胞は、遺伝子改変されたものであっても、遺伝子改変されていないもの(すなわち、天然に存在する細胞)であってもよい。遺伝子改変の方法は、当該分野において周知であり、そのような方法は、本明細書に記載した文献に詳述されている。当業者は、そのような周知慣用技術を用いて、適宜細胞を遺伝子改変することができる。したがって、そのような細胞は、分化細胞に対して、未分化化(すなわち、多能性付与)するような遺伝子操作がされていてもよい。
(未分化判定法)
別の局面において、本発明は、細胞の未分化状態を判定する方法を提供する。この方法は、(I)判定されるべき細胞を提供する工程;(II)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を、該細胞に接触させる工程;および(III)該Psbp遺伝子が該細胞において発現しているかどうかを確認する工程、を包含する。ここで提供される細胞は、判定が所望される細胞であれば、どのような細胞であってもよい。そのような細胞は、どのような状態でも提供され得るが、好ましくは、アッセイに適切な形態で提供され得る。そのようなアッセイに適切な形態としては、例えば、適切な培地または緩衝液中での提供などが挙げられるがそれに限定されない。Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子は、Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に反応することができる限り、どのような形態でもよい。そのようなPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物は、判定を目的とする細胞の生物種と同一種由来のものであることが好ましい。同一種由来であれば、ほぼ1:1の関係でPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物の有無を判定することができるからである。ただし、上記因子に関するPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物の由来種は、Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物の判定をすることができる限り、判定を目的とするPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物の由来種と異なっていてもよい。種間で交叉反応することが頻繁に発生するからである。上記Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物は、本明細書に記載されるような核酸分子またはポリペプチドであってもよいが、それに限定されない。当業者は、このような核酸分子およびポリペプチドを、当該分野において周知の技術を用いて改変することができる。そのような改変は、目的とする用途によって当業者が適宜変更することができる。
本発明の細胞の未分化状態を判定する方法は、好ましくは、他の幹細胞マーカーが発現しているかどうかを確認する工程をさらに包含する。他の幹細胞マーカーの発現を判定することによって、より精確度の高い未分化状態の判定が行うことができるからである。そのような他の幹細胞マーカーとしては、例えば、Nanog/Stm1、Oct4、UTF1、Sox1、Rex1などが挙げられるがそれらに限定されない。
(未分化細胞調製法)
別の局面において、本発明は、未分化状態の細胞を調製する方法に関する。この調製方法は、(I)未分化状態の細胞を含むかまたは含むと予測されるサンプルを提供する工程;(II)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を、該サンプルに接触させる工程;(III)該因子と該Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物との特異的反応を検出することによって、該Psbp遺伝子が該サンプル中の細胞において発現しているかどうかを確認する工程;および(IV)該Psbp遺伝子が発現している細胞を分離または濃縮する工程、を包含する。上述のサンプルは、未分化状態の細胞を含むかまたは含むと予測されるものであれば、どのようなものでもよい。ここで用いられる細胞はどのような細胞であってもよいが、好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目)の細胞であり、より好ましくは、ヒトの細胞であり得る。サンプルの調製方法は当該分野において周知の技術を使用することができる。そのような技術は、本明細書において記載された文献にも詳述されており、例えば、細胞を動物から取り出し、その後、適切な培地または緩衝液中に入れることなどが挙げられるがそれらに限定されない。サンプルと、本発明の因子とを接触させる方法は、当該分野において周知の技術を用いることができる。そのような方法としては、例えば、サンプル中に、本発明の因子を含む溶液を加えることなどが挙げられるがそれらに限定されない。本発明の因子とPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物との特異的反応の検出は、当該分野において周知の技術を用いて行うことができる。検出の簡便のため、その因子は標識されていることが好ましい。そのような標識は、どのような標識でもよく、例えば、蛍光標識、化学発光標識、放射能標識などが挙げられるがそれらに限定されない。あるいは、その因子が抗体などの免疫反応を利用して相互作用する場合、ビオチン−ストレプトアビジンのような免疫反応においてよく利用される系を用いてもよい。遺伝子の発現は、そのような特異的反応の有無と相関付けることができる。例えば、発現の程度が既知である細胞の発現レベルと、特異的反応の強度とを相関付けて標準曲線を作成し、このような標準曲線を利用することによって特異的反応から遺伝子発現を定性的または定量的に判定することができる。
未分化状態の細胞を調製する方法において用いられるPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物は、本明細書に記載されるような核酸分子またはポリペプチドであってもよいが、それに限定されない。当業者は、このような核酸分子およびポリペプチドを、当該分野において周知の技術を用いて改変することができる。そのような改変は、目的とする用途によって当業者が適宜変更することができる。
(未分化判定キット)
別の局面において、本発明は、細胞の分化状態を判定するキットを提供する。このキットは、(a)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子;および(b)該Psbp遺伝子が該細胞において発現しているかどうかを確認するための手段を備える。Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子としては、本明細書において記載されるような因子であれば、どのようなものでも使用することができ、そのような因子としては、例えば、抗体、核酸分子などが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、このような因子は、Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に相互作用する因子(例えば、相補配列を有する核酸分子、転写因子のようなポリペプチドなど)、あるいは、Psbp遺伝子に対する抗体、単鎖抗体などが挙げられるがそれらに限定されない。遺伝子発現の確認手段は、当該分野において周知の技術を用いて実施することができる。そのような確認手段としては、例えば、ドットブロット分析、ノーザンブロット分析のような遺伝子産物としてのmRNAの分析、ウェスタンブロット分析、ELISAなどの遺伝子産物としてのポリペプチドの分析など挙げられるがそれに限定されない。そのような分析には、例えば、マイクロタイタープレート、マイクロアレイなどを用いることができる。
本発明の、細胞の分化状態を判定するキットにおいて用いられるPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物もまた、本明細書に記載されるような核酸分子またはポリペプチドであってもよいが、それに限定されない。当業者は、このような核酸分子およびポリペプチドを、当該分野において周知の技術を用いて改変することができる。そのような改変は、目的とする用途によって当業者が適宜変更することができる。
好ましい実施形態において、本発明の細胞の分化状態を判定するキットは、他の幹細胞マーカーが発現しているかどうかを確認する手段をさらに備える。そのような他の幹細胞マーカーの発現を確認する手段は、原理的には、本発明のPsbp遺伝子の発現を確認する手段と同じものを使用してもよく、異なる原理のものを使用してもよい。好ましくは、そのような他の幹細胞マーカーの発現を確認する手段によって提示される結果は、本発明のStm遺伝子の発現を確認する手段が提示する結果と混同しないような表示(例えば、異なる色、異なる蛍光など)をすることが好ましい。そのような他の幹細胞マーカーとしては、例えば、Nanog/Stm1、Oct4、UTF1、Sox1、Rex1などが挙げられるがそれらに限定されない。
(未分化細胞調製キット)
別の局面において、本発明は、未分化状態の細胞を調製するためのキットを提供する。このキットは、(I)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子;(II)該Psbp遺伝子が該サンプル中の細胞において発現しているかどうかを確認する手段;および(III)該Psbp遺伝子が発現している細胞を分離または濃縮する手段、を備える。
本発明の未分化状態の細胞を調製するためのキットにおいて使用されるPsbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子は、原理的には、本発明の細胞の分化状態を判定するキットにおいて使用されるものと同様のものが使用され得る。好ましくは、細胞の分離または濃縮に適切な形態の因子が使用され得る。例えば、抗Psbp抗体または抗Sox2抗体を用いた細胞ソーティングキットで、セルソーターをもちたいり、Stm1抗体のついたビーズを用いた精製等が考えられる。
Psbp遺伝子がサンプル中の細胞において発現しているかどうかを確認する手段もまた、原理的には、本発明の細胞の分化状態を判定するキットにおいて使用されるものと同様のものが使用され得る。好ましくは、未分化状態の細胞を調製するためのキットにおいても、他の幹細胞マーカーが発現しているかどうかを確認する手段をさらに備え得る。そのような他の幹細胞マーカーが発現しているかどうかを確認する手段は、原理的には本発明の細胞の分化状態を判定するキットにおいて使用されるものと同様のものが使用され得る。
本発明の未分化状態の細胞を調製するためのキットにおいて使用されるPsbp遺伝子が発現している細胞を分離または濃縮する手段は、当該分野において使用される細胞分離または濃縮手段であれば、どのようなものでも使用することができる。そのような細胞分離または濃縮手段としては、例えば、磁気分離、パニング、フローサイトメトリー、FACS、アフィニティークロマトグラフィーなどを使用することができる。
(胚性幹細胞の検出方法)
別の局面において、本発明は、試料中の胚性幹細胞の存在を検出する方法であって、A)細胞に由来する成分を提供する工程;B)該成分をOctamerエレメントに特異的な因子およびSoxエレメントに特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する工程であって、該Oct4に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)ではスーパーシフトが見られるが、該Sox2に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)ではスーパーシフトしないことは、胚性幹細胞であることの指標である、工程、を包含する、方法を提供する。本発明の上記のようなスーパーシフトのパターンは、従来予測されていなかったものであり、これにより、胚性幹細胞が他の細胞と区別することができるとは予測されていなかった。なぜなら、従来は、どのような幹細胞であっても、Oct4とSox2とが複合体を形成し、Nanog/Stm1の上流に結合すると考えられていたからである。例えば、胚性癌腫細胞などでは、スーパーシフトは、Oct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子の両方で見られる。
本発明の上記方法で使用されるゲルシフトアッセイおよびスーパーシフトなどの技術は、本明細書において他の場所において詳述されるように、当該分野において公知の任意の技法を用いることができることが理解される。
1つの実施形態では、本発明により、上記胚性幹細胞は、胚性癌腫細胞(例えば、F9細胞)から識別される。好ましくは、胚性幹細胞は、R1胚性幹細胞である。
別の実施形態では、本発明において用いられるOct4に特異的な因子は、抗Oct4抗体である。この抗体は、標識されているかまたは標識可能であることが好ましい。
別の実施形態では、本発明において用いられるSox2に特異的な因子は、抗Sox2抗体であるこの抗体は、標識されているかまたは標識可能であることが好ましい。
ここで好ましくは、本発明の方法は、Sox2が発現しているかどうかを確認する工程であって、該Sox2が発現していないことは、試料中に胚性幹細胞が含まれていることをさらに確証付ける、工程をさらに包含する。Sox2と本発明のPspbとは、識別可能に発現されることが本発明により示されている。したがって、このようなマーカーを使用することによって、胚性幹細胞の有無、多能性のレベルなどを判定することができる。
別の実施形態において、本発明は、前記細胞に由来成分の提供は、核抽出物を提供することを包含する。ゲルシフトアッセイは、通常核抽出物に含まれる産物(例えば、転写因子)の解析を行うことを目的とするからであるが、それに限定されないことが理解される。
別の実施形態では、本発明において使用される因子(たとえば、抗体)は、標識されているかまたは標識され得る。このような標識としては、例えば、ビオチン、ストレプトアビジン、DIG(ジゴキシゲニン)、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応からなる群より選択される技法を利用することができるがそれらに限定されない。好ましくは、因子は、放射標識される。
別の実施形態では、本発明は、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分を選択する工程は、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分と比較することを包含する。このような工程を包含することによって、胚性幹細胞が含まれているかどうかをより詳細に判定することができる。さらに、胚性幹細胞以外の細胞がどの程度含まれているかも判定することができる。
他の好ましい実施形態では、他の細胞マーカーを用いても良い。そのような他の細胞マーカーとしては、例えば、Nanog/Stm1、Oct4、UTF1、Sox1、Rex1などが挙げられるがそれらに限定されない。
ここで、好ましくは、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分は、胚性癌腫細胞(好ましくは、F9細胞)に由来する。
他の局面において、本発明は、試料中の多分化能の状態を検出する方法であって、A)細胞に由来する成分を提供する工程;B)該成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する工程であって、該Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、該Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、多分化能を有することの指標である、工程、を包含する、方法を提供する。ここで、ゲルシフトアッセイ、スーパーシフトなどの技術は、当該分野において公知の任意の技法を用いることができることが理解される。
特に好ましい実施形態では、本発明において、Sox2の発現量を測定し、該Sox2の発現量と前記Sox2に特異的な因子でスーパーシフトしない量とを比較して、該Sox2に特異的な因子でスーパーシフトしない量の該Sox2に対する相対比が多いことは、前記試料に含まれる細胞の多分化能が高いことの指標である。
(胚性幹細胞の検出キット)
別の局面において、本発明は、試料中の胚性幹細胞の存在を検出するためのキットであって、A)細胞に由来する成分をOctamerエレメントに特異的な因子およびSoxエレメントに特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する手段;B)該Oct4に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)ではスーパーシフトが見られるが、該Sox2に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)ではスーパーシフトしないことは、胚性幹細胞であることの指標であることを示す、指示書、を備える、キットを提供する。
別の局面において、本発明はまた、試料中の多分化能の状態を検出するためのキットであって、A)細胞に由来する成分をOctamerエレメントに特異的な因子およびSoxエレメントに特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供するための手段、B)該Oct4に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)ではスーパーシフトが見られるが、該Sox2に特異的な因子(好ましくは、特異的抗体)ではスーパーシフトしないことは、多分化能を有することの指標であることを示す、指示書、を備える、キットを提供する。
ここで、ゲルシフトアッセイに供する手段は、当該分野において公知の任意の手段を含む。そのような手段としては、例えば、ポリアクリルアミドゲルまたはその調製用試薬、ビオチン、放射能など標識したDNAまたは標識のための試薬、電気泳動装置、メンブレン(例えば、ナイロンなど)、紫外線発生器、必要に応じてHRP標識ストレプトアビジンなどの特異的試薬、化学発光基質、X線フィルム、イメージングプレート、合成DNAなどを挙げることができるがそれらに限定されない。
本明細書において「指示書」は、本発明の試薬の使用方法、反応方法などを使用者に対して記載したものである。この指示書は、本発明の酵素反応などの手順を指示する文言が記載されている。この指示書は、必要に応じて本発明が実施される国の監督官庁が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、瓶に貼り付けられたフィルム、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ(ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下の実施例で用いた動物の取り扱いは、京都大学において規定される基準を遵守した。
まず、以下の実施例で使用される主な方法および材料を説明する。
(材料および方法)
(細胞培養および分化)
マウスのR1 ES細胞およびF9 EC細胞を、15%のウシ胎児血清(FBS)、10−4Mの2−メルカプトエタノールおよび1000単位/mlの組換え白血病抑制因子(LIF)(Chemicon)を添加したDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)(Sigma)中、37℃、5%COで維持した。ヒトES細胞株KhES−1を、20%のノックアウト血清代替添加物、2mMのL−グルタミン(非必須アミノ酸)および10−4Mの2−メルカプトエタノールを添加したDMEM中で培養した。マウスおよびヒトのES細胞は、マイトマイシンCで不活化したマウスの初代胚性線維芽フィーダー細胞上で維持した。5日間の培養の懸濁によってEBが形成した。10−6Mの全てトランス型のレチノイン酸(Sigma)を用いて化学分化誘導を行った。NIH 3T3細胞およびCOS−1細胞を、10%のFBSを含むDMEMで培養した。分化実験を、LIFを含まない培地で行った。
(遺伝子導入細胞株)
GFP−IRES−puro−pAレポーターカセット、2.5kbの5’ゲノムフラグメントおよび3.9kbの3’ゲノムフラグメントを用いて、pGEM−T Easyベクター(Promega)中で導入遺伝子LR/Nanog−GFPを構築した。鎖状化した後、導入遺伝子を、Gene Pluser(Bio Rad)を使用して、250V/500μFの条件下で、1×10個のR1 ES細胞にエレクトロポレ−ションした。ピューロマイシン耐性クローンから得られたゲノムDNAを、サザンブロットハイブリダイゼーション解析によってスクリーニングした。
(サザンブロットハイブリダイゼーション解析)
制限酵素で消化したゲノムDNAを、1.0%アガロースゲル中で電気泳動し、アルカリブロッティングによりHybond Nナイロン膜(Amersham)に移した。この膜を、Megaprime DNA標識化システム(Amersham)を用いて32P−dCTPで標識した、5’プローブ(500bp)または3’プローブ(750bp)と、42℃で一晩ハイブリダイズした。これを2×SSC/0.1% SDS中、65℃で30分間洗浄し、そして0.1×SSC/0.1% SDS中、65℃で15分間洗浄した。
(レポーターおよび発現ベクターの構築)
マウスNanogプロモーターの欠損フラグメントを、XhoI認識配列(転写開始部位から+50bp)を有する一般的なプライマー;5’−CTACTCGAGCGCAGCCTTCCCACAGAAA−3’(配列番号23)、およびXhoI認識配列を有する種々の正方向プライマー(−2342bp;5’−CAGCTATGACCATGATTACGCC−3’(配列番号24)、−332bp;5’−CTACTCGAGATCGCCAGGGTCTGGA−3’(配列番号25)および−153bp;5’−CTACTCGAGCCTGCAGGTGGGATTAACT−3’(配列番号26))マウスのゲノムからPCRで増幅した。XhoIで消化した各PCR生成物を、pGL3−Basicベクター(Promega)またはCMVプロモーターマイナスのpEGFP−N1ベクター(Clontech)のXhoI部位に連結した。センスプライマー(転写開始部位から−380bp);5’−GCTGGTTTCAAACTCCTGACTTC−3’(配列番号27)およびアンチセンスプライマー(+24bp);5’−TCCTGGAGTCTCTAGATT−3’(配列番号28)ヒトのESゲノムから増幅したヒトNanogプロモーターのPCRフラグメントを、pGEM−T Easyベクターに連結した。NotI−NotI(−380〜+24bp)、NotI−PstI(−123〜+24bp)およびNotI−StyI(−101〜+24bp)フラグメントを平滑末端化し、CMVプロモーターマイナスのpEGFPーN1ベクターに再クローン化した。オリゴヌクレオチド指向性の変異を、ヌクレオチドの置換を伴うプライマーを用いるPCRによって、Octamerエレメントおよび/またはSoxエレメントに導入した。
EcoRI−Oct4−ORF−Fプライマー;5’−CCGAATTCGGATGGCTGGACACCTGGCTTCAG−3’(配列番号29)、BglII−Oct4−ORF−Rプライマー;5’−AGAGATCTTTAACCCCAAAGCTCCAGGTTC−3’(配列番号30)、EcoRI−Sox2−ORF−Fプライマー;5’−CCGAATTCGGATGTATAACATGATGGAGACGG−3’(配列番号31)およびBglII−Sox2−ORF−Rプライマー;5’−AGAGATCTTCACATGTGCGACAGGGGCAGT−3’(配列番号32)を用いて、RT−PCRで増幅したOct4およびSox2のORFを、pGEM−T Easyベクターにサブクローニングした。Oct4およびSox2のEcoRI−BglIIフラグメントを、pCMV−Myc発現ベクターおよびpCMV−HA発現ベクター(Promega)に連結した(それぞれ、プラスミドpCMV−Myc−Oct4およびpCMV−HA−Sox2)。
Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて一過性の発現アッセイを行い、実験サンプルをトランスフェクションの2日後に分析した。
(ルシフェラーゼアッセイ)
ES細胞(5.0×10個)、F9細胞(5.0×10個)およびNIH 3T3細胞(2.5×10個)を6ウェル組織培養プレートにて24時間インキュベートした。各レポーター構築物(1.25pmol)およびphRL−TKベクター(0.125pmol)(Promega)を内部コントロールとして、Lipofectamine 2000を用いて同時トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、細胞抽出物を調製し、dual luciferase assay system(Promega)を用いて、ルシフェラーゼ活性を評価した。各実験構築物のルシフェラーゼ活性は、コントロールベクターであるpGL3−Basicの活性と相対して算出した。全てのトランスフェクション実験を三つ組みで繰り返した。プロモーター活性は、平均±SEとして示す。

(ウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析)
SDS−PAGEによって12% ポリアクリルアミドゲル中で分離された細胞抽出物(20μg/レーン)を、PROTRANニトロセルロース膜(Schleicher Schuell)に移した。PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)中3%のスキムミルクで1時間ブロッキングした後、これらを抗NANOG抗体(1:1000希釈)(Hatanoら、準備中)、抗OCT4抗体(1:500)(Santa Cruz)、抗SOX2抗体(1:500)(Chemicon)、抗GFP抗体(1:1000)(Clontech)、抗Myc抗体(1:1000)(Covance)、抗HA抗体(1:1000)(Covance)、抗HISTONE H3抗体(1:3000)(AbCam)または抗β−ACTIN抗体(1:3000)(AbCam)と、4℃で一晩反応させた。PBST(PBS中0.1% Triton X−100)でリンスした後、この膜をHRP結合体化二次抗体(1:3000)(Amersham)と90分間反応させた。ECLブロッティング検出キット(Amersham)を用いてバンドを検出した。
(電気泳動移動度シフトアッセイ)
pCMV−Myc−Oct4発現ベクターおよびpCMV−HA−Sox2発現ベクターを、Lipofectamine 2000を用いてCOS−1細胞にトランスフェクトした。全細胞溶解物を収集した(Kubota Hら、(1999)FEBS Lett.461:125〜129)。前の報告(Sadowski HBおよびGilman MZ(1993)Nature 362:79〜83)に従って、F9 EC細胞およびR1 ES細胞の核抽出物を調製した。二本鎖合成オリゴヌクレオチドプローブを32P−dCTPで標識した。全細胞抽出物(10μg)および核抽出物(10μg)を、20mlの反応緩衝液(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM MgCl2、0.5mMジチオスレイトールおよび10%グリセロ−ル)中2μgのポリ(dG−dC)(Amersham)の存在下、氷上で10分間前もってインキュベートし、その後、0.1ngの放射標識プローブと30分間インキュベートした。放射標識プローブでの処理前に、1〜300倍過剰の冷競合剤を添加するか、または1μgのウサギ抗OCT4ポリクローナル抗体(Santa Cruz)、ヤギル抗ポリクローナSOX2抗体(Santa Cruz)もしくはウサギ抗SOX2ポリクローナル抗体(Santa Cruz)を添加することによって、競合実験またはスーパーシフト実験を行った。プローブDNA−タンパク質複合体を、4℃、0.25×TBEバッファー中4%ポリアクリルアミドゲル上で、電気泳動(150V、135分間)によって分離し、オートラジオグラフィーによって可視化した。

(実施例1:LR/Nanog−GFP導入遺伝子の多分化能状態特異的な発現)
多分化能の安定性および細胞の自己複製の調節におけるNanogの機能を調べるために、発明者らは、ORFの5’末端の上流に位置する2.5kbのゲノムフラグメントおよび、ORFの3’末端の下流に位置する3.9kbのゲノムフラグメントを有するターゲティングベクター(LR/Nanog−GFP)を構築した(図1A)。Nanogの全長ORFを、GFP−IRES−puro−pAレポーターおよび選択カセットで置換した。構築物のR1 ES細胞へのエレクトロポレーションによって、試験したGFP陽性の11クローンのうち、9クローンが導入遺伝子のランダムな挿入を有するクローンとして単離された。サザンブロットハイブリダイゼーション解析は、9クローンのうち2クローン(TG6およびTG7)がインタクトな5’の2.5kbのゲノムフラグメントおよび3’の3.9kbのゲノムフラグメントを有することを示した。PvuII−BglIIで消化したゲノムDNAを、5’プローブを用いてハイブリダイズすると、LR/Nanog−GFPの5’ゲノムフラグメントは、3.4kbのバンドとして検出され、内因性のフラグメントは4.1kbのバンドとして検出された。XbaI−NcoIで消化したゲノムDNAを、3’プローブを用いてハイブリダイズすると、3’ゲノムフラグメントは、4.1kbのバンドとして検出され、内因性のフラグメントは11.0kbのバンドとして検出された(図1B)。5’フラグメントおよび3’フラグメントの両方において、導入遺伝子のバンドは内因性のバンドの半分の強度を示し、このことは、TG6クローンおよびTG7クローンにおいて、単一コピーの導入遺伝子が挿入されたことを示す。全ての未分化なTG6コロニーは、蛍光顕微鏡下でGFP陽性であり、GFPタンパク質は、ウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析によって、TG6においては検出されるが、R1 ES細胞においては検出されないGFP特異的なバンドとして確認した(図1C)。導入遺伝子のダウンレギュレーションが、内因性の遺伝子と同様に細胞分化と関連して起こるか否かを解明するために、5日齢の胚様体(EB)、ならびにLIFおよびフィーダー細胞を加えない5日齢のEBの、3日目の接着培養について、GFPの発現を解析した(図1D)。EBの表面上の内胚葉細胞、および接着コロニーの周辺にある未分化細胞において、GFP発現が消失した。GFP発現のダウンレギュレーションが内因性のNANOG発現のダウンレギュレーションと関連するか否かを決定するために、TG6 ESクローンを、レチノイン酸(RA)を用いて化学誘導により分化させた。5日の連続的なRA処理の後、細胞の表現型は明らかに変化し、GFPシグナルは完全に消失した(図1E)。ウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析は、GFPレベルの劇的な減少は、RA処理後の、内因性のNANOG発現の減少とよく相関することを明らかにした(図1F)。TG7クローンにおいても同様の状況が見出された。これらのデータは、多分化能状態特異的なNanogの調節に必要とされる調節エレメントが、導入遺伝子のゲノムフラグメントに含まれることを示した。
(実施例2:Nanog発現に必要とされるOctamer/Soxエレメント)
Nanog発現に必要とされる5’ゲノムフラグメントおよび3’ゲノムフラグメントの領域を狭めるために、5’ゲノムフラグメントの−2342または−332を有する2つの型のGFPレポーター遺伝子を構築し、ES細胞またはNIH 3T3線維芽細胞にトランスフェクトした。NIH 3T3線維芽細胞において、内因性のNanogが抑制された。いずれの構築物でも、GFPは、ES細胞においては高発現し、NIH 3T3細胞においては発現しなかった(図2A)。このことは、多分化能状態特異的な発現に必須の調節エレメントは、5’ゲノムフラグメントの383bpに位置付けられることを示す。転写活性を評価するために、R1 ES細胞、F9 EC細胞およびNIH 3T3線維芽細胞におけるレポーター遺伝子の発現レベルを、5’フランキング領域の欠損フラグメントを用いて、ルシフェラーゼアッセイによって決定した(図2B)。ES細胞におけるGFPレポーターアッセイと一致して、−322フラグメントは、高いレベルのルシフェラーゼ発現を誘導する活性を有した。−2342フラグメントに対し、約85%のルシフェラーゼ活性が、−322フラグメントにおいて残存した。この15%の減少は、統計的に有意(Studentのt検定においてP<0.05)であったが、ルシフェラーゼ活性のより顕著な減少が、−153フラグメントにおいて検出され、鍵となるシス作用エレメントは−332領域と−153領域の間に位置することが示された。ES細胞における−153フラグメントのルシフェラーゼ活性は、NIH 3T3細胞において見られるようなバックグラウンドレベルであった。F9 EC細胞においても同様の傾向が見出された。
−332bpと−154bpの間の5’フランキング領域のDNA配列を決定した。−166と−180の間の位置にOctamerエレメント(TTTTGCAT)およびSoxエレメント(TACAATG)の配列が見出された(図2C)。OctamerエレメントおよびSoxエレメントのシス調節エレメントとしての機能を調べるために、いずれかのエレメントかまたは両方のエレメントのDNA残基を置換することにより、3つの点変異を導入した(図2D)。変異したOctamerエレメント、変異したSoxエレメントまたは変異したOctamerエレメントおよび変異したSoxエレメントを有する−332フラグメントのルシフェラーゼアッセイは、全ての場合において、ルシフェラーゼ活性の劇的な減少を明白に示した(図2E)。変異を有する−332フラグメントで検出されたルシフェラーゼの発現レベルは、−153フラグメントで見出されたものと同様であった。これらのデータは、OctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合する因子が、多分化能状態特異的な様式でのNanog発現の調節において決定的な役割を果たすことを示した。
(実施例3:ヒトES細胞においてOctamerエレメントおよびSoxエレメントによって制御される発現)
Nanogは、ヒトおよびサルにおいても同定されており、未分化なES細胞の核へのこれらの限定的な発現は、特異的な抗NANOG抗体を用いた免疫細胞化学的解析によって検出された(Hatanoら、準備中)。このように、OctamerエレメントおよびSoxエレメントがマウス、ヒトおよびサルの間で保存されているか否かを調べるために、ヒトNanogおよびサルNanogの5’フランキング領域のDNA配列を決定した。転写開始部位から−300bpの比較解析は、DNA配列は、ヒトとサルの間で高く保存されていた(93.2%)が、ヒトとマウスの間(54.1%)およびサルとマウスの間(51.7%)では高く保存されていなかったことを明らかにした。注目すべきことは、OctamerエレメントおよびSoxエレメントがヒトおよびサルにおいて見出され、そしてこれらの配列は、3つの種の間で同一であった(図3A)。
ヒトにおいて、OctamerエレメントおよびSoxエレメントがNanogの転写に対するシス調節エレメントとして必要とされるか否かを解明するために、ヒトの−h380フラグメント、−h123フラグメントおよび−h101フラグメントを、マウスおよびヒトのES細胞にトランスフェクトした。ヒトのES細胞において、一過性発現アッセイが、比較的高いレベルのGFP発現が−h380および−h123フラグメントで観察される一方で、−h101フラグメントでは、低いレベルの発現のみが観察され、ここでOctamerエレメントおよびSoxエレメントは欠損していることを示した(図3B)。−h123フラグメントと比較して−h101フラグメントでのGFP発現の劇的な減少を、ウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析で確認した(図3C)。マウスのES細胞において、ヒトのシス調節エレメントは、−h380フラグメントおよび−h123フラグメントでの高いレベルのGFP発現によって見られ、−h101フラグメントでは見られないように機能した。このことは、OctamerエレメントおよびSoxエレメントが、ヒトおよびマウスにおけるNanogの転写調節において、同様の役割を果たすことを示す(図3B)。
(実施例4:OCT4およびSOX2のOctamerエレメントおよびSoxエレメントに対する結合能力)
Oct4遺伝子およびSox2遺伝子は、多分化能細胞において発現され、Octamerエレメント結合タンパク質およびSoxエレメント結合タンパク質として十分に特徴付けられた因子である。OCT4およびSOX2は、Fgf4遺伝子、Utf1遺伝子、Sox2遺伝子およびFbx15遺伝子のOctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合する能力を有することが示されており、これらは、多分化能細胞において発現され、そしてこれらの遺伝子の転写を相乗的に活性化する(Yuan Hら、(1995)Genes Dev.9:2635〜2645;Nishimoto Mら、(1999)Mol.Cell Biol.19:5453〜5465;Tomioka Mら、(2002)Nucleic Acids Res.30:3202〜3213;Tokuzawa Yら、(2003)Mol.Cell Biol.23:2699〜2708)。従って、OCT4およびSOX2の、NanogのOctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合する能力を、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)によって評価した。外因性のMycタグ化Oct4(Myc−Oct4)遺伝子およびHAタグ化Sox2(HA−Sox2)遺伝子を、内因性のOCT4およびSOX2が抑制されたCOS−1細胞にトランスフェクトした。OCT4、SOX2、MycおよびHAに対する抗体を用いるウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析は、導入遺伝子を有するCOS−1細胞由来の全抽出物において外因性のOCT4およびSOX2が大量であったことを示した(図4A)。NanogまたはFgf4のOctamerエレメントまたはSoxエレメントを含むオリゴ合成DNAを設計し、NanogプローブおよびFgf4プローブとしてEMSAに適用した(図4B)。32P標識化Fgf4プローブのCOS−1細胞との反応の後に、Fgf4において見られたように、プローブに結合するOCT4、SOX2およびOCT4/SOX2複合体が検出された(図4C)。注目すべきことに、SOX2のSoxエレメントに対する結合親和性は、HA−Sox2を有するCOS−1細胞由来の抽出物でのかすかなバンドによって明らかにされるように、非常に弱かった。これとは無関係に、OCT4プローブ、SOX2プローブおよびNanogプローブは、Myc−OCT4およびHA−SOX2の両方を含む抽出物での強いバンドに示されるように、効率的にタンパク質−DNA三元複合体を形成した。外因性のOCT4および/またはSOX2の結合は、抗Myc抗体および抗HA抗体を用いるスーパーシフト解析によって確認した(図7)。これらのデータは、NanogのOctamerエレメントおよびSoxエレメントが、それぞれOCT4およびSOX2と結合する能力を有することを明白に示した。
(実施例5:EC細胞抽出物におけるOctamerエレメントおよびSoxエレメントへのOCT4およびSOX2の結合)
F9細胞は、発癌を経たE6.0胚由来の胚性癌腫(EC)細胞であり、不完全な多分化能を有する(Stewart Cら、(1980)J.Embryol.Exp.Morphol..58:289〜302)。内因性のOCT4、SOX2およびNANOGは、ウェスタンブロッティングハイブリダイゼーション解析で示されるように、R1 ES細胞と同様にF9 EC細胞の核において発現した(図5A)。OctamerエレメントおよびSoxエレメント上の内因性のOCT4およびSOX2の結合を調べるために、F9細胞由来の核抽出物をEMSAに適用した。32P標識化Nanogプローブとの反応の後に、電気泳動分離によってOCT4/SOX2複合体の位置に顕著なバンドが出現した一方、OCT4およびSOX2のバンドはかすかであった(図5B)。バンドの移動度は、外因性のMyc−OCT4およびHA−SOX2を含むCOS−1細胞の抽出物のEMSAによって見出されたものと似ていた。
OctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合する因子を解析するために、非標識NanogプローブまたはOctamerエレメントに変異を有するNanogプローブ(Octmut)、Soxエレメントに変異を有するNanogプローブ(Soxmut)、または両方に変異を有するNanogプローブを用いて、結合競合アッセイを行った(図5C)。Soxエレメントに結合する因子のOctmut競合プローブによる枯渇は、競合プローブの濃度に相関して、OCT4/SOX2複合体の結合を減少し、OCT4の結合を増加した。Octamerエレメントに結合する因子のSoxmut競合プローブによる枯渇は、競合プローブの濃度に相関して、OCT4およびOCT4/SOX2複合体の結合を減少した。Octmut/Soxmutによる枯渇は、何の効果ももたらさず、一方で、非標識Nanogプローブによる枯渇は、競合プローブの濃度に相関して、OCT4、SOX2およびOCT4/SOX2複合体の結合の減少をもたらした。OCT4、SOX2およびOCT4/SOX2複合体の結合もまた、非標識Fgf4プローブによる枯渇を用いた競合アッセイによって確認した。これらの所見は、内因性のOCT4、SOX2およびOCT4/SOX2複合体がNanogのOctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合し得ることを示した。
OctamerエレメントおよびSoxエレメントへのOCT4およびSOX2の結合は、OCT4またはSOX2に対する抗体、およびウサギまたはヤギのIgGを用いて、スーパーシフトアッセイによって確認した(図5D)。抗OCT4抗体は、OCT4およびOCT4/SOX2のバンドをスーパーシフトし、抗SOX2抗体は、SOX2およびOCT4/SOX2のバンドをスーパーシフトしたが、ウサギおよびヤギのコントロールIgGではバンドのシフトが観察されなかった。従って、内因性のOCT4およびSOX2は、F9 EC細胞抽出物におけるNanogのOctamerエレメントおよびSoxエレメントと、タンパク質−DNA三元複合体を形成し得た。
(実施例6:ES細胞抽出物における、OctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合する新規の因子Psbpの同定)
R1 ES細胞およびF9 EC細胞は、自己複製ならびにNANOG、OCT4およびSOX2の発現プロファイルにおける強い能力のような、重要な性質を共有するが(図5A)、多分化能はR1 ES細胞では保持されるが、F9 EC細胞では保持されていない。注目すべきことに、R1 ES細胞が、発癌を経る必要のないE3.5胚の内部細胞塊から単離される一方で、F9 EC細胞は、発癌を経るE6.0胚由来である。従って、多分化能の維持に関与するEC細胞の因子は、ES細胞の因子から逸脱し得る。ES細胞由来の核抽出物におけるNanogのOctamerエレメントおよびSoxエレメントに対する結合因子を決定するために、EMSA、結合競合アッセイおよびスーパーシフトアッセイを行った。注目すべきことに、ES細胞の抽出物における主要な複合体の電気泳動移動度は、EC細胞の抽出物において検出されるOCT4/SOX2複合体のものとは明らかに異なった(図6A)。OctmutまたはSoxmut競合プローブを用いる結合競合アッセイによる、ESの主要な複合体のバンド強度の低下は、ESの主要な複合体がOctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合することを示した(図6B)。スーパーシフトアッセイは、ESの主要な複合体のバンドの大半が、抗OCT4抗体との反応の後にシフトした一方で、ヤギ抗SOX2抗体ではわずかなバンドのみがシフトした(図6C)。同様の状況がウサギ抗SOX2抗体でも検出された(データは示さず)。これらのデータは、OCT4はESの主要な複合体の1成分であるが、SOX2はESの主要な複合体の1成分でないことを示した。別の未同定の成分(PSBP;多分化能細胞特的Soxエレメント結合タンパク質)は、優先的にOCT4と結合し、Nanogプロモーター領域のOctamerエレメントおよびSoxエレメントで複合体を形成した。
OCT4/PSBP複合体が、NanogのOctamerエレメントおよびSoxエレメントに特異的に結合するか否かを理解するために、Fgf4プローブを用いてEMSAおよびスーパーシフトアッセイを行った。ES細胞の核抽出物において、EMSAは、OCT4/PSBP複合体がFgf4プローブを用いて形成され(図6A)、そしてOCT4/PSBP複合体のバンドは、抗OCT4抗体との反応により消失し、抗SOX2抗体との反応では消失しなかった(補図)。それゆえ、ES細胞において、シス調節エレメントとしてOctamerエレメントおよびSoxエレメントを有するいくつかの遺伝子は、OCT4とSOX2よりむしろ、OCT4とPSBPの相乗的な作用によって活性化され得る。
多分化能状態に特異的なNanogは、マウスにおいて、OctamerエレメントおよびSoxエレメントの周囲にある転写開始部位の332bp上流にある調節領域の制御下で転写された。このOctamerエレメントおよびSoxエレメントは、マウス、サルおよびヒトのNanog遺伝子の5’フランキング領域の間で保存されており、ヒトのOctamerエレメントおよびSoxエレメントは、マウスおよびヒトのES細胞におけるGFPレポーター遺伝子の活性をアップレギュレートするのに十分であった。F9 EC細胞の核抽出物において、未分化な幹細胞に同時に発現しているOCT4およびSOX2は、それぞれOctamerエレメントおよびSoxエレメントに結合し得た。興味深いことに、ES細胞の核抽出物においては、OCT4が、Octamerエレメントに優位に結合する一方、未同定の因子(PSBP)は、Soxエレメントに優先的に結合した(図6D)。Nanog発現は、ES細胞において、OCT4およびPSBPのクロストークによって優位に制御され得る。
OctamerエレメントおよびSoxエレメントがマウスおよびヒトのNanog転写のアップレギュレーションに必要とされ、そしてこれらのエレメントに対する結合因子は、相乗的な分子相互作用を介してNanogの転写を促進することにおいて機能することは明らかである。近接するOctamerエレメントおよびSoxエレメントは、Fgf4遺伝子、Sox2遺伝子、Utf1遺伝子およびFbx15遺伝子においてシス調節エレメントとして見出されており、これらは、EC細胞およびES細胞において胚発生の間に発現される(Yuan Hら、(1995)Genes Dev.9:2635〜2645;Nishimoto Mら、(1999)Mol.Cell Biol.19:5453〜5465;Tomioka Mら、(2002)Nucleic Acids Res.30:3202〜3213;Tokuzawa Yら、(2003)Mol.Cell Biol.23:2699〜2708)。Sox2は、DNA結合HMGドメインおよび、転写調節に関するドメインを有するSox(SRY関連HMGボックス)遺伝子のメンバーであり、多分化能な胚性細胞および神経細胞において発現する(Avilion AAら、(2003)Genes Dev.17:126〜140)。多分化能の胚性細胞におけるSox2発現は、少なくとも2つの調節領域(CCAATボックスを含む5’フランキング領域ならびにOctamerエレメントおよびSoxエレメントを含む3’フランキング領域)によって支配される(Wiebe MSら、(2000)Gene 246:383〜393;Tomioka Mら、(2002)Nucleic Acids Res.30:3202〜3213)。Fgf4において、これは、線維芽細胞成長因子ファミリーのメンバーであり、胚盤胞の内部細胞塊および発生途中の胚、ならびにES細胞およびEC細胞において発現されるが(Niswander LおよびMartin GR(1992)Development 114:755〜768)、遺伝子内の3’非翻訳領域に位置付けられるOctamerエレメントおよびSoxエレメント、ならびに、3’フランキング領域にあるGTボックスモチーフの両方が、Fgf4の最適な転写活性化を媒介するために必要とされる(Luster TAら、(2000)Mol.Reprod.Dev.57:4〜15;Luster TAおよびRizzino A(2003)Gene 323:163〜172)。従って、多分化能の胚性細胞におけるこれらの発現は、OctamerエレメントおよびSoxエレメントによってだけでなく、他のシス調節エレメントによってもまた達成される。Nanogにおいて、ES細胞の抽出物を用いたルシフェラーゼアッセイは、5’の−2342ゲノムフラグメントによって制御されるルシフェラーゼ活性が、5’の−332ゲノムフラグメントによって制御されるものよりも約15%高かったことを示し、これは、−332〜−2342の領域内に存在する未同定のシス調節エレメントが、Nanog活性の特異性を増強かつ決定することにおいて、OctamerエレメントおよびSoxエレメントを伴って機能し得ることを示唆する。
Nanogを欠損したES細胞または胚性細胞における多分化能の欠失(Mitsui Kら、(2003)Cell 113:631〜642;Hatanoら、準備中)、ならびにLIF−STAT3シグナルによる調節の迂回およびOCT4レベルの維持を介する、ES細胞のクローン増殖依存性のNanog過剰発現(Chambers Iら、(2003)Cell 113:643〜655)によって示されるように、Nanogは、ES細胞および胚性細胞の多分化能を維持することにおいて鍵となる機能を果たす。それゆえ、Nanogの発現が、どのようにして幹細胞特異的な調節ネットワークにおける分子の基礎的な情報交換を介して他の胚性因子と協調するかを知ることが重要である。発明者らのEMSAおよびスーパーシフトアッセイのデータは、SOX2の存在下であっても十分に形成される、OCT4/PBSP/OctamerエレメントおよびSoxエレメントのタンパク質−DNA三元複合体が、ES細胞において、Nanogの転写を活性化することを、明白に示した。胚発生において、マウスのNanog RNAおよびNanogタンパク質の発現は、桑実期の胚からE7.5胚の原外胚葉までにおいて検出される(Mitsui Kら、(2003)Cell 113:631〜642;Hart AHら、(2004)Dev.Dyn.230:187〜198;Hatanoら、準備中)。Oct4およびSox2の発現は、Nanogの発現と時間的に重なる。興味深いことに、E7.5胚において、Nanogの発現は、原外胚葉の尾側領域(原条領域)において、空間的に増強されるが(Hart AHら、(2004)Dev.Dyn.230:187〜198;Hatanoら、準備中)、Sox2の発現は、前側領域および後側領域から除外された領域(原条領域)における推定神経外胚葉に限定され(Avilion AAら、(2003)Genes Dev.17:126〜140)、このことは、Nanogの発現がインビボでOCT4/PSBP複合体によって活性化され得ることを示唆する。E7.5胚の始原生殖細胞において、Oct4およびPGC7/Stellaは発現するがSox2は発現せず、他方では、Nanogが抑制される(Yoem YIら、(1996)Development 122:881〜894;Saitou M.Barton SCおよびSurani MA(2002)Nature 418:293〜300;Hatanoら、準備中)。従って、Nanogの発現は、Oct4による調節ネットワークと密接に関係するが、Oct4の発現は、Nanogの発現を誘導するのに十分でない。Nanogの発現は、Soxエレメントに効率的に結合する、同時活性化因子であるPSBPによって密接に調節され得る。
NanogとOct4の間の関係を理解するために、Oct4欠損胚(Chambers Iら、(2003)Cell 113:643〜655)におけるNanogの転写を解析した。インサイチュハイブリダイゼーション解析におけるmRNAは、Nanogの発現が、Oct4変異に関してホモ接合性の胚盤胞の内部細胞塊において維持されることを示し、このことは、Octamerエレメントに結合する他の多分化脳細胞特異的な遺伝子が、代替的な転写調節機構に寄与し得ることを示唆した。OCT1およびOCT6が、多分化能の胚性細胞において発現すること(Scholer HRら、(1989)EMBO J. 8:2543〜2550;Suzuki Nら、(1990)EMBO J.9:3723〜3732)、そしてFgf4、Sox2、Utf1およびRex−1(Zfp−42)においてOctamerエレメントに結合する能力を保持すること(Dailey L,Yuan HおよびBasilico C(1994)Mol.Cell Biol.14:7758〜7769;Ben−Shushan Eら、(1998)Mol.Cell Biol.18:1866〜1878;Nishimoto Mら、(1999)Mol.Cell Biol.19:5453〜5465;Tomioka Mら、(2002)Nucleic Acids Res.30:3202〜3213)が示されている。従って、OCT4の代わりに、OCT1およびOCT6が、NanogのOctamerエレメントおよびSoxエレメントにおいて、SOX2またはPSBPとDNA−タンパク質複合体を形成するのに関与し得る。実際、OCT1ではなくOCT6が、Sox2のOctamerエレメントおよびSoxエレメントにおいてSOX2と複合体を構築したことが報告されている(Tomioka Mら、(2002)Nucleic Acids Res.30:3202〜3213)。しかし、OCT1およびOCT6のNanogのOctamerエレメント(TTTTGCAT)に対する結合能力は、コンセンサスなOctamerエレメントに対するものと比較して低い(Nishimoto Mら、(1999)Mol.Cell Biol.19:5453〜5465)。他の多分化能遺伝子が、OctamerエレメントおよびSoxエレメントの媒介によってNanog活性のアップレギュレートに寄与するか否か、そして、Oct4無発現変異におけるNanogの発現が正常胚における発現と定量的に等価であるか否かは、調査中である。
ES細胞は、再生医療における使用のための、治療物質の無制限の細胞供給源として役立つ見込みである。臨床適用において、多数の細胞分裂を通じてES細胞の未分化状態をモニタリングし、培養中に、自発的に分化する細胞の世代を選択的に切除することが決定的である。さらに、組織特異的な細胞分化を誘導した後の、多分化能のES細胞の選択的な排除のための手段が、インビボで悪性腫瘍を産生する潜在的な供給源の混入を避けるのに必要とされる。このような目的のために、Rex−1およびSox2のプロモーター制御下の、GFPまたはLacAレポーター遺伝子がそれぞれ、ヒトおよびマウスのES細胞にトランスフェクトされた(Eiges Rら、(2001)Curr.Biol.11:514〜518;D’Amour KAおよびGage FH(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:11866〜11872)。Sox2は、多分化能の胚性細胞および神経細胞において発現したが(Avilion AAら、(2003)Genes Dev.17:126〜140)、ジンクフィンガー遺伝子Rex−1は、多分化能の胚性細胞、栄養外胚葉および成体の精巣の減数分裂生殖細胞において転写される(Rogers MB,Hosler BAおよびGudas LJ(1991)Development 113:815〜824)。これらの遺伝子と比較すると、Nanogの発現は、多分化能の胚性細胞に限定されており(Mitsui Kら、(2003)Cell 113:631〜642;Hart AHら、(2004)Dev.Dyn.230:187〜198;Hatanoら、準備中)、このことは、OctamerエレメントおよびSoxエレメントの周囲にあるNanogの最小プロモーターが、未分化な幹細胞の正および負の選択に適した手段であることを示唆する。さらに、単純疱疹ウイルスのチミジンキナーゼ(HSV−tk)を有する、遺伝的に操作されたヒトES細胞は、インビトロおよびインビボの分化の後に、ガンシクロビルを用いて、未分化なES細胞の選択的な消失に適用される(Schuldiner M,Itskovitz−Eldor JおよびBenvenisty N(2003)Stem Cells 21:257〜265)。この状況において、ヒトのNanogプロモーターは、自殺遺伝子の多分化能細胞特異的な発現を調節するエレメントの候補である。Nanogの調節機構のさらなる理解はまた、再生医療に適用される幹細胞操作の分野に寄与する。
(実施例7:Psbp遺伝子の同定)
本実施例では、Psbp遺伝子の同定を行う。
PSBPの結合する配列であるOctamer/Sox結合配列のDNAをラテックスまたはフェライトビーズに結合させる。このビーズとES細胞核の抽出液を反応させ、Octamer/Sox配列と結合したタンパク質をSDS−PAGEにより精製する。精製されたタンパク質のアミノ酸配列をマススペクトロメトリー解析により決定する。アミノ酸配列の情報をもとに遺伝子を同定することができる(図9)。図10には、この方法において使用されるオリゴマーの構造を示す。
(実施例8:Psbpの発現解析)
(RNAの回収)
各組織からのtotal RNAをTrizol reagent(GIBCO−BRL)を用い、添付のプロトコールに従って回収する。組織は、8週齢の成体マウスの脳、胸腺、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、精巣、卵巣、筋肉、およびE6.5、E7.5、E8.5、E9.5、E12.5、E18.5日齢のマウス胎児を用いる。さらに、E12.5日齢雄および雌マウス胎児の生殖隆起、未受精卵、桑実胚、胚盤胞、胚性幹細胞およびEG細胞からもRNAを回収し実験に用いる。
(ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析)
汎用プロトコール (Alwine et.al., 1977.Proc.Natl.Acad.Sci., 74: 5350.)をもとにノーザンブロットハイブリダイゼーション解析を行う。胚性幹細胞、EG細胞およびE12.5日齢のマウス胎児から抽出したtotal RNA 10ugを水に溶かして1% ホルムアルデヒド変性ゲルで電気泳動を行った後Hybond−N+ membrane (Amersham Biosciences) に一晩ブロットした。ブロットしたメンブレンは42℃でプレハイブリダイゼーションを2時間、特異的なプローブでのハイブリダイゼーションを一晩行った後、65℃2×SSC/0.1% SDSで2回、0.1×SSC/0.1% SDSで1回洗った。プローブは、Stm1 cDNAの全長に対してMegaprimer DNA labeling system (Amersham Biosciences)を用いて[α−32P] dCTP (Amersham Biosciences) RI標識する。
(RT−PCRによる遺伝子発現解析)
RT−PCRによるPsbp、Nanog/Stm1、Oct4、G3pdh遺伝子の発現解析を目的に、Oligo−dT primerを使用しcDNA合成を行った。DNaseI でRNAサンプルを処理した後、RT反応はSuperscript II RT (GIBCO BRL)を用いて製品のプロトコールに従って行った。PCR増幅はtotal RNA 1 μgを用いて行う。プライマー設計は、当該分野において耕地の技法により行う。
PCR反応は94℃で5分インキュベーションした後、94℃30秒、60℃30秒、72℃1分のサイクルを30サイクル行い、最後に72℃で5分インキュベーションする条件で行う。
(実施例9:Psbp遺伝子の細胞内発現)
Psbp遺伝子の細胞内発現を見る目的で、Psbp遺伝子にmycタグをつけたmyc−Psbpコンストラクトを作製する。PsbpのcDNAは適切なプライマーセットを用いて得られた産物をpGEM−T Easy vector system (Promega)でTAクローニングしたものを用いる。
このプラスミドを適切な制限酵素(例えば、BamHIおよびSmaI)で切断し、平滑末端処理したcDNAフラグメントをpCMV−myc(CLONTECH) のSalIサイトの平滑末端処理した部分にクローニングすることでプラスミドを作製する(pCMV−myc−Psbp)。1×10の胚性幹細胞にこのプラスミド1μgをLipofectamine 2000 Reagent (GIBCO−BRL)を使用して遺伝子導入する。
(細胞免疫染色)
pCMV−myc−Psbpを遺伝子導入した胚性幹細胞を、4% PFAで固定し標準的な培養細胞の免疫染色法(Willingham,M.C.et.al., 1985.An Atlas of Immunofluorescence in Cultured Cell, Academic Press, Orlando, FL, pp.1−13.) に従い免疫染色を行う。ブロッキングは0.1% Triton X/PBS/2% skim milkを用い室温で一時間、洗いは0.1% TritonX/PBSを用い室温で5分を4回行う。一次抗体はc−myc モノクローナル抗体 200 μg/ml (CLONTECH)を1/100希釈したものを、二次抗体はFITC標識goat 抗−mouse IgG (H+L) (ZYMED LABORATORIES, INC)を1/200希釈したものを使用する。二次抗体の反応後はrhodamine phalloidin (Molecular Probe), DAPI(SIGMA)の順に染色を行いシグナルを検出する。
(抗体作製)
次に、PSBPタンパク質の全長アミノ酸配列を用いてウサギポリクローナル抗PSBP遺伝子産物の抗体を作製した。この抗体量を用いることによって、RNA量に対応した細胞内のPSBPタンパク質を検出することができる。
これらを総合すると、本発明の遺伝子は、未分化な胚性幹細胞で発現しているとして知られるOct4およびNanog/Stm1よりも未分化で多能性を示す領域により特異的であることが示されていることになる。したがって、本発明の遺伝子は、未分化性または多能性(好ましくは、全能性)の特定を、従来では達成できなかった程度に正確に達成するという効果を提供する。
(実施例10:ゲノムの多型解析)
亜種関係にあるMus musuculus domesticus(汎用実験マウス)およびM.m.molossinus (実験動物化野性マウス)由来の胚性幹細胞からゲノムDNAを抽出し、適切なプライマーでPCR増幅を行う。産物をpGEM−T Easy vector systemでTAクローニングし、M13 forwardおよびM13 reverseプライマーを用いた配列決定反応により両方向からのDNA塩基配列を決定する。シークエンスはキャピラリーシークエンサーCEQ 2000XL DNA Analysis System (BECKMAN COULTER) を用いて行う。塩基配列データを亜種間で比較し、由来を区別できる塩基配列を決定することができる。
(実施例11:未分化マーカー遺伝子としてのPsbp)
ここでは、本発明が未分化マーカーとして使用できるかどうかを実証する。体細胞核が再プログラム化され未分化細胞と同様に振る舞うことが可能であることが、体細胞および胚性幹細胞の細胞融合および体細胞核の除核未受精卵への核移植実験により明らかになっている。前者はクローン細胞を、後者はクローン個体を作製するために有効な方法であることが経験的に明らかになっているが、再プログラム化の機構は全くわかっていない。未分化細胞に特異的なPsbp遺伝子は、少なくとも以下の2つの応用が考えられる。1)体細胞核の未分化細胞核への再プログラム化マーカー、2)Nanog/Stm1および/またはOct4遺伝子との比較による再プログラム化機構の解明。1)に迫る目的で、以下のような細胞融合および核移植の実験を行うことができる。
(細胞融合および核移植)
細胞融合実験において、体細胞核からおよび胚性幹細胞核からのPsbp転写産物を区別する目的で、胚性幹細胞または体細胞をMus musculus molossinus由来のものを用いた。Molossinus由来の胚性幹細胞は当研究室で新たに樹立した。Molossinusゲノムは汎用されるマウス系統 M.m.domesticusに対して塩基配列の多型に富むため、molossinusおよびdomesticusの融合細胞を用いることで転写産物の由来を決定できる。融合細胞作製の方法を図4Aに示した。Molossinus由来の胚性幹細胞を用いた融合細胞がMxR,molossinus由来の体細胞を用いた融合細胞がH×Jである。Stm1は体細胞である胸腺細胞での発現が認められない、一方胚性幹細胞では発現している。M×RおよびH×Jの融合細胞クローンの発現の様子が分かる。Psbp遺伝子が胚性幹細胞核および再プログラム化体細胞核両者から発現していることを確認する目的で、適切なプライマーセットを用いたRT−PCR産物を適切な制限酵素で消化する。Molossinus由来およびdomesticus転写産物は、それぞれに特異的なバンドが検出され得る。M×R及びH×J融合細胞でも、特異的なバンドが検出され得る。このことから胚性幹細胞核および再プログラム化体細胞核の両方からPsbpが転写されているかどうかを示すことができる。Psbp遺伝子は体細胞核の再プログラム化マーカー遺伝子として応用可能である。
(未分化マーカー)
Psbpが体細胞核移植での再プログラム化マーカー遺伝子として応用可能か否かを確かめる目的で、(B6×CBA)F1マウス(domesticus)の未受精卵から核を除き、JF1マウス(molossinus)卵丘細胞(体細胞)核を移植する。得られたクローン胚盤胞でのPsbpの発現を観察する。観察により、種々の細胞における発現パターンを手に入れることができる。体細胞および胚性幹細胞の細胞融合および体細胞核核移植の実験からPsbpが未分化マーカー遺伝子として有用であることが示される。
次いで、体細胞核移植クローン胚盤胞におけるPsbp遺伝子の発現を調べる(molxdom)。F1クローン胚盤胞由来のmRNAから合成したcDNAを適切なプライマーを用いてPCR増幅する。陽性コントロールとしてNanog/Stm1および/またはOct4遺伝子を用いる。得られたPSBP産物を、必要に応じて適切な制限酵素で消化する。例えば、mol由来およびdom由来の産物は、特定のパターンを示し得る。
(実施例12:Psbp遺伝子の改変体の機能)
Psbp遺伝子の改変体の機能を調べるため、その塩基配列にポイントミューテーションを入れることでコードするアミノ酸配列を変更し、それぞれのミューテーションをもとに領域のもつ機能を検索する。領域を部分的にノックアウトすることで、それぞれの機能を検討する。
例えば、Psbpの変異体について、特定の部分を欠損することで、細胞の未分化維持機構が破綻すれば、この領域が制御に重要な役割を果たすことが明らかになる。
(実施例13:Psbp遺伝子の機能)
コンディショナルノックアウトの実験により初期胚および生殖細胞といった特定の未分化組織細胞での機能に解析する。PSBPタンパク質の機能の多くは不明であるが、PSBPまたはPsbpにより制御される下流遺伝子の発現調節より細胞を未分化な状態へと変化させる作用があることが実証され得る。
(実施例14:未分化細胞の分離)
本実施例では、Psbpの再生医療応用への展開として、Psbpを用いた幹細胞の分離を行う。
Psbpが特に胚性幹細胞の未分化細胞マーカーとして応用可能であることから、Psbpの発現の有無を指標に発現している細胞のみを収集することによって、胚性幹細胞を分離することができる。このような場合、PSBPポリペプチドに対する標識抗体などを用いて、セルソーターによって胚性幹細胞の生細胞を濃縮することが可能になる。また、胚性幹細胞の中でも高い未分化性を維持する細胞のみを選択することが可能である。
したがって、Psbp遺伝子は、未分化細胞のマーカーとして使用することができることが判明する。
(実施例15:Psbpの応用例)
本実施例では、幹細胞の選択的濃縮を例示する。
上記実施例のように、PSBPの転写制御機構が解明することにより、任意の遺伝子を未分化細胞特異的に発現したり、抑制したりすることで幹細胞の選択的濃縮や排除が可能になる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
従来の因子では不可能であった、幹細胞の精確な判定が達成された。したがって、本発明は、ES細胞などの幹細胞の正確な判定、精製など種々の用途に使用することができ、有用性は高い。
図1は、LR/Nanog−GFP導入遺伝子の未分化状態特異的な発現である。
(A)は、5’および3’のフランキング領域を含むLR/Nanog−GFP導入遺伝子の構造を示す。P:PvuII、X:XbaI、B:BglIIおよびN:NcoIである。(B)は、TG6およびTG7遺伝子導入株および親のR1 ES細胞株のサザンブロットハイブリダイゼーション解析を示す。導入遺伝子特異的な3.4kbのPvuII−BglIIフラグメントおよび4.1kbのXbaI−NcoIフラグメントが、それぞれ5’プローブおよび3’プローブで検出された。(C)は、未分化(UD)なTG6 ES細胞におけるGFPの発現を示す。GFPの発現は、蛍光顕微鏡解析および抗GFP抗体を使用するウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析によって可視化された。HISTONE H3はコントロールである。(D)は、5日齢の胚様体(EB)の中心、および5日齢EBの接着培養後3日のコロニーの中心に位置付けられる未分化なES細胞に限定されたGFPの発現を示す。(E)は、レチノイン酸(RA)を用いるインビトロ分化による、GFP発現のダウンレギュレーションを示す。(F)は、RA誘導性の細胞分化の間の、GFPおよび内因性のNANOGのウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析を示す。HISTONE H3は、コントロールである。
図2は、Nanog発現に必要とされるOctamerエレメントおよびSoxエレメントを示す。
(A)は、R1 ES細胞およびNIH 3T3細胞における−2342 5’フラグメントまたは−332 5’フラグメントを用いたGFP導入遺伝子の一過性の発現を示す。(B)は、R1 ES細胞、F9 EC細胞およびNIH 3T3細胞における欠損構築物を用いたルシフェラーゼアッセイを示す。ルシフェラーゼ活性は、pGL3−Basicとの相対比として示す。棒は、3つの独立した実験の平均±標準誤差を表す。(C)は、マウスの−332bpと−154bpの間の5’フランキング領域のDNA配列を示す。Octamer(Oct)エレメントおよびSoxエレメントを、それぞれ赤と青の長方形で囲む。(D)は、Octamerエレメントおよび/またはSoxエレメントにおけるヌクレオチド残基置換による配列変異の導入を示す。(E)は、R1 ES細胞、F9 EC細胞およびNIH 3T3細胞のOctamerエレメントおよび/またはSoxエレメントにおける、変異を有するかまたは変異を有さない−332 5’フラグメントを用いたルシフェラーゼアッセイを示す。ルシフェラーゼ活性は、pGL3−Basicとの相対比として示す。棒は、3つの独立した実験の平均±標準誤差を表す。
図3は、マウスおよびヒトのES細胞におけるヒトNanogレポーター遺伝子の発現を示す。
(A)は、マウス、サルおよびヒト間のNanogの5’フランキング領域におけるDNA配列の比較解析を示す。Octamer(Oct)エレメントおよびSoxエレメントを、それぞれ赤と青の長方形で囲む。赤丸は、推定転写開始部位を示す。これらの種の間で同一のヌクレオチドを黒で強調した。(B)は、マウスおよびヒトのES細胞におけるヒトNanogプロモーターの制御下での一過性のGFP発現を示す。−h380 5’フラグメントおよび−h123 5’フラグメントが、OctamerエレメントおよびSoxエレメントを含む一方で、−h101 5’フラグメントは、これらのエレメントを含まない。(C)は、ヒトES細胞におけるGFP発言のウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析を示す。HISTONE H3はコントロールである。
図4は、COS−1細胞における外因性のOCT4およびSOX2のOctamerエレメントおよびSoxエレメントへの結合を示す。
(A)は、外因性のMycタグ化OCT4およびHAタグ化SOX2の発現の、抗OCT4抗体、抗SOX2抗体、抗Myc抗体、抗HA抗体を用いたsウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析を示す。ACTINはコントロールである。(B)は、NanogプローブおよびFgf4プローブのDNA配列を示す。量体(Oct)エレメントおよびSoxエレメントを長方形で囲む。(C)は、NanogプローブおよびFgf4プローブを用いた電気泳動移動度シフトアッセイを示す。OCT4−DNA複合体、SOX2−DNA複合体およびOCT4/SOX2−DNA複合体のバンドを矢印で示す。
図5は、F9 EC細胞における内因性のOCT4およびSOX2のOctamerエレメントおよびSoxエレメントへの結合を示す。
(A)は、F9 EC細胞およびR1 ES細胞の核抽出物(N.E.)および細胞質抽出物(C.E.)における内因性のOCT4およびSOX2のウェスタンブロットハイブリダイゼーション解析を示す。(B)は、F9 EC細胞の核抽出物におけるNanogプローブを用いた電気泳動移動度シフトアッセイを示す。OCT4−DNA複合体、SOX2−DNA複合体およびOCT4/SOX2−DNA複合体のバンドを矢印で示す。(C)は、Octamerエレメントおよび/またはSoxエレメントに変異を有するかまたは変異を有さない未標識プローブを用いた比較アッセイを示す。OctamerエレメントおよびSoxエレメント上の結合タンパク質(B.P.)の相対量を灰色の棒で表す。OCT4−DNA複合体、SOX2−DNA複合体およびOCT4/SOX2−DNA複合体のバンドを矢印で示す。Octmut(O)はOctamerエレメントに3重の変異を有するNanogプローブを表し、Soxmut(S)は、Soxエレメントに3重の変異を有するNanogプローブを表す。(D)は、F9 EC細胞の核抽出物における、抗OCT4抗体または抗SOX2抗体を用いたスーパーシフトアッセイを示す。OCT4−DNA複合体およびOCT4/SOX2−DNA複合体のバンドを矢印で示し、スーパーシフトされたバンドをアスタリスクで示す。ウサギIgGおよびヤギIgGは、コントロールとして使用した。
図6は、R1 ES細胞における、内因性のOCT4および多分化能細胞特異的Soxエレメント結合タンパク質(PSBP)のOctamerエレメントおよびSoxエレメントへの結合を示すを示す。
OCT4−DNA複合体およびOCT4/SOX2−DNA複合体のバンドを矢印で示し、OCT4/PSBP−DNA複合体のバンドを白丸で示し、そしてスーパーシフトしたバンドをアスタリスクで示す。(A)は、R1 ES細胞の核抽出物におけるNanogプローブおよびFgf4プローブを用いた電気泳動移動度シフトアッセイを示す。(B)は、Octamerエレメントおよび/またはSoxエレメントに変異を有するかまたは変異を有さない未標識プローブを用いた比較アッセイを示す。(C)は、R1 ES細胞の核抽出物における、抗OCT4抗体または抗SOX2抗体を用いたスーパーシフトアッセイを示す。ウサギIgGおよびヤギIgGは、コントロールである。(D)は、ES細胞におけるNanogの転写調節のモデルである。F9 EC細胞ではなく、R1 ES細胞において、OctamerエレメントおよびSoxエレメント上のOCT4/PSBP複合体は、相乗作用を介して、優位にNanog転写をアップレギュレートする。SOX2よりむしろPSBPが、Soxエレメントに優先的に結合する。
図7は、トランスフェクトされたCOS1細胞におけるMyc−OCT4およびHA−SOX2の外来性タンパク質のNanogプローブに対する結合を示す。
標識されたNanogプローブを、COS−1全細胞抽出物(Myc−OCT4および/またはHA−SOX2を含む)とインキュベートした。スーパーシフトアッセイを、抗Myc抗体または抗HA抗体のいずれかを用いて行った。マウス抗Myc抗体および抗HA抗体に対するコントロールとしてマウスIgGを用いた。Myc−OCT4およびHA−SOX2の結合は、それぞれ抗体Myc抗体および抗HA抗体を用いた場合のスーパーシフトバンドの存在として同定された。
図8は、胚性幹細胞核抽出物においてFgf4プローブにおけるOCT4/PSBPの形成を示す図である。
標識したFgf4プローブを、F9胚性癌腫(EC)細胞またはR1胚性幹細胞の核抽出物とともにインキュベートした。EC細胞は、抗OCT4または抗SOX2抗体(アステリスク)のいずれでもスーパーシフトした。しかし、胚性幹細胞の主要な複合体(丸印)は、抗OCT4抗体ではスーパーシフトしたものの、抗SOX2抗体ではスーパーシフトしなかった(アステリスク)。OCT4およびPSBPを含む複合体が存在することがここで示される。ウサギおよびヤギのIgGを、それぞれ、ウサギ抗OCT4抗体およびヤギ抗SOX2抗体のコントロールとして夫々使用した。
PSBPの精製方法の例である。 PSBPの精製において使用され得るDNAオリゴマーを例示する。
(配列表の説明)
配列番号1および2:ヒトNanog/Stm1核酸およびアミノ酸配列
配列番号3および4:マウスNanog/Stm1核酸およびアミノ酸配列
配列番号5および6:カニクイサルNanog/Stm1核酸およびアミノ酸配列
配列番号7および8:ラットNanog/Stm1核酸およびアミノ酸配列
配列番号9および10:ヒトStm2核酸およびアミノ酸配列
配列番号11および12:マウスStm2核酸およびアミノ酸配列
配列番号13:マウスのNanog/Stm1のプロモーター配列。
配列番号14:ヒトのNanog/Stm1のプロモーター配列(ほぼ転写開始点から上流390bp)。
配列番号15:マウスのNanog/Stm1のプロモーター配列(転写開始点から上流390bp)。
配列番号16:カニクイサルのNanog/Stm1のプロモーター配列。
配列番号17および18:Oct4の核酸配列およびアミノ酸配列。
配列番号19および20:Sox2の核酸配列およびアミノ酸配列。
配列番号21:Fgf4プローブ(図4B参照)
配列番号22:Nanogプローブ(図4B参照)
配列番号23:XhoI認識配列(転写開始部位から+50bp)を有する一般的なプライマー:5’−CTACTCGAGCGCAGCCTTCCCACAGAAA−3’
配列番号24:XhoI認識配列を有する正方向プライマー−2342bp:5’−CAGCTATGACCATGATTACGCC−3’
配列番号25:XhoI認識配列を有する正方向プライマー−332bp:5’−CTACTCGAGATCGCCAGGGTCTGGA−3’
配列番号26:XhoI認識配列を有する正方向プライマー−153bp:5’−CTACTCGAGCCTGCAGGTGGGATTAACT−3’
配列番号27:センスプライマー(転写開始部位から−380bp):5’−GCTGGTTTCAAACTCCTGACTTC−3’
配列番号28:アンチセンスプライマー(+24bp):5’−TCCTGGAGTCTCTAGATT−3’
配列番号29:EcoRI−Oct4−ORF−Fプライマー:5’−CCGAATTCGGATGGCTGGACACCTGGCTTCAG−3’
配列番号30:BglII−Oct4−ORF−Rプライマー:5’−AGAGATCTTTAACCCCAAAGCTCCAGGTTC−3’
配列番号31:EcoRI−Sox2−ORF−Fプライマー:5’−CCGAATTCGGATGTATAACATGATGGAGACGG−3’
配列番号32:BglII−Sox2−ORF−Rプライマー;5’−AGAGATCTTCACATGTGCGACAGGGGCAGT−3’

Claims (104)

  1. 胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができるマーカーを生産する方法であって、
    A)細胞に由来する成分を提供する工程;
    B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;および
    C)B)工程で選択された細胞から、該Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程、
    を包含する、方法。
  2. 前記複合体からSoxエレメントに特異的に結合する成分を取り出す工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
  3. 前記取り出す工程は、Octamer/Sox結合配列を有するDNAとキャリアとの複合体と、前記細胞に由来する成分とを接触させることを包含する、請求項2に記載の方法。
  4. 前記キャリアは、ラテックスまたはフェライトビーズを含む、請求項3に記載の方法。
  5. 前記細胞は、幹細胞である、請求項1に記載の方法。
  6. 前記細胞は、胚性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
  7. 前記細胞は、R1胚性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
  8. 前記複合体がNanogのSoxエレメントに結合するかどうかを判定する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
  9. 前記Soxエレメントは、核酸配列としてTACAATGを含む、請求項1に記載の方法。
  10. 前記Sox2に特異的な因子は核酸配列としてTACAATGを含む核酸分子を含む、請求項1に記載の方法。
  11. 前記Oct4に特異的な因子は、抗Oct4抗体である、請求項1に記載の方法。
  12. 前記Sox2に特異的な因子は、抗Sox2抗体である、請求項1に記載の方法。
  13. 前記複合体から、Sox2でもOct4でもない分子を分離する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
  14. 前記SoxでもOct4でもない分子の分離は、電気泳動、免疫学的手段、クロマトグラフィー、DNAタンパク質アフィニティー解析、マススペクトトメトリー解析からなる群より選択される1以上の手段を用いて行われる、請求項13に記載の方法。
  15. 前記細胞に由来成分の提供は、核抽出物を提供することを包含する、請求項1に記載の方法。
  16. 前記因子は、標識されているかまたは標識され得ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  17. 前記因子は、放射標識される、請求項1に記載の方法。
  18. 前記Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分を選択する工程は、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分と比較することを包含する、請求項1に記載の方法。
  19. 前記Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分は、胚性癌腫細胞に由来する、請求項18に記載の方法。
  20. 前記胚性癌腫細胞は、F9細胞である、請求項19に記載の方法。
  21. 請求項1に記載の方法によって調製される、タンパク質複合体。
  22. 請求項4に記載の方法によって調製される、タンパク質。
  23. 請求項22に記載のタンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、核酸分子。
  24. 請求項13に記載の方法によって調製される、タンパク質。
  25. 請求項24に記載のタンパク質をコードする核酸配列を含む、核酸分子。
  26. 胚性幹細胞と、胚性癌腫細胞とを識別することができるマーカー。
  27. 前記マーカーは、Oct4エレメントには結合しない、請求項26に記載のマーカー。
  28. 前記マーカーは、Soxエレメントに結合する、請求項26に記載のマーカー。
  29. 前記マーカーは:
    A)細胞に由来する成分を提供する工程;
    B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;および
    C)B)工程で選択された細胞から、Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程、
    を包含する、方法によって調製される、請求項26に記載のマーカー。
  30. 前記マーカーは:
    A)細胞に由来する成分を提供する工程;
    B)該成分をゲルシフトアッセイに供し、Oct4に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトが見られるが、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分が由来する細胞を選択する工程;
    C)B)工程で選択された細胞から、Oct4に特異的な因子に特異的な複合体を取り出す工程;および
    D)該複合体からSoxエレメントに特異的に結合する成分を取り出す工程、
    を包含する、方法によって調製される、請求項26に記載のマーカー。
  31. Nanog/Stm1の転写を促進する活性を有する、請求項26に記載のマーカー。
  32. 前記転写の促進は、Oct4との相互作用に起因する、請求項31に記載のマーカー。
  33. 多分化能の有無を判定すること能力を有する、請求項26に記載のマーカー。
  34. 前記多分化能は、前記胚性幹細胞にあるが、前記胚性癌腫細胞にはない能力を包含する、請求項26に記載のマーカー。
  35. Oct4との相互作用は、Sox2よりも強いことを特徴とする、請求項26に記載のマーカー。
  36. タンパク質である、請求項26に記載のマーカー。
  37. タンパク質複合体である、請求項26に記載のマーカー。
  38. 識別可能な標識で標識される、請求項26に記載のマーカー。
  39. 請求項26に記載のマーカーに対して特異的な因子。
  40. 前記因子は、抗体である、請求項39に記載の因子。
  41. 請求項26に記載の因子がタンパク質であり、該タンパク質をコードする核酸配列を含む、核酸分子。
  42. 請求項41に記載の核酸分子を含む、核酸カセット。
  43. 請求項41に記載の核酸分子を含む、ベクター。
  44. 請求項41に記載の核酸分子を含む、細胞。
  45. 請求項41に記載の核酸分子で形質転換される、細胞。
  46. 請求項41に記載の核酸分子を含む、組織。
  47. 請求項41に記載の核酸分子を含む、臓器。
  48. 請求項41に記載の核酸分子を含む、生物体。
  49. 請求項41に記載の核酸分子がmRNAとして発現される、細胞。
  50. 請求項41に記載の核酸分子にストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドまたはそのフラグメントもしくは改変体をコードする核酸分子。
  51. 前記生物学的活性は、Soxエレメントとの相互作用、Oct4との相互作用およびSox2との競合作用からなる群より選択される、請求項50に記載の核酸分子。
  52. 少なくとも10の連続するヌクレオチド長を有する、請求項49に記載の核酸分子。
  53. 請求項50に記載の核酸分子に対して特異的な因子。
  54. 前記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、請求項53に記載の因子。
  55. 前記因子は、少なくとも8の連続するヌクレオチド長を有する核酸分子である、請求項53に記載の因子。
  56. 前記因子は、核酸分子であり、プライマーとして使用される、請求項53に記載の因子。
  57. 前記因子は、プローブとして使用される、請求項53に記載の因子。
  58. 前記因子は、標識されているかまたは標識され得る、請求項53に記載の因子。
  59. 前記標識は、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応からなる群より選択される技法を利用する、請求項58に記載の因子。
  60. (i)請求項26に記載のマーカーがポリペプチドであり、該マーカーのアミノ酸配列または該アミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有し、かつ、生物学的活性を有する、ポリペプチド;または
    (ii)(i)の配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体、種相同体である、ポリペプチド;
    を含む、ポリペプチド。
  61. 少なくとも3の連続するアミノ酸配列を有する、請求項60に記載のポリペプチド。
  62. 請求項60に記載のポリペプチドに対して特異的に結合する、因子。
  63. 前記因子は、核酸分子、ポリペプチド、脂質、糖鎖、有機低分子およびそれらの複合分子からなる群より選択される、請求項62に記載の因子。
  64. 前記因子は、抗体またはその誘導体である、請求項62に記載の因子。
  65. 前記因子は、プローブとして使用される、請求項62に記載の因子。
  66. 前記因子は、標識されているかまたは標識され得る、請求項62に記載の因子。
  67. 前記標識は、蛍光、リン光、化学発光、放射能、酵素基質反応および抗原抗体反応からなる群より選択される技法を利用する、請求項66に記載の因子。
  68. 細胞の未分化状態を判定するための組成物であって、該組成物は、
    Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を含む、組成物。
  69. 前記PSBP遺伝子は、請求項41に記載される核酸分子を含む、請求項68に記載の組成物。
  70. 前記細胞は、幹細胞である、請求項68に記載の組成物。
  71. 前記細胞は、胚性癌腫細胞、胚性幹細胞、多能性幹細胞、単能性幹細胞、および組織幹細胞を含む、請求項68に記載の組成物。
  72. 前記細胞は、遺伝子改変されたものかまたは遺伝子改変されていないものである、請求項68に記載の組成物。
  73. 細胞の未分化状態を判定する方法であって、
    (I)判定されるべき細胞を提供する工程;
    (II)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を、該細胞に接触させる工程;および
    (III)該因子と該Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物との特異的反応を検出することによって、該PSBP遺伝子が該細胞において発現しているかどうかを確認する工程、
    を包含し、ここで、該細胞における該PSBP遺伝子の発現は、細胞が未分化状態にあることを示す、方法。
  74. 前記PSBP遺伝子は、請求項41に記載される核酸分子を含む、請求項70に記載の組成物。
  75. 前記未分化状態は、全能性を含む、請求項73に記載の方法。
  76. さらに、他の幹細胞マーカーが発現しているかどうかを確認する工程を包含する、請求項73に記載の方法。
  77. 前記他の幹細胞マーカーは、Oct4および/またはNanog/Stm1を含む、請求項76に記載の方法。
  78. 前記Nanog/Stm1遺伝子は、配列番号1に示される配列を含む、請求項77に記載の方法。
  79. 未分化状態の細胞を調製する方法であって、
    (I)未分化状態の細胞を含むかまたは含むと予測されるサンプルを提供する工程;
    (II)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子を、該サンプルに接触させる工程;
    (III)該PSBP遺伝子が該サンプル中の細胞において発現しているかどうかを確認する工程;および
    (IV)該PSBP遺伝子が発現している細胞を分離または濃縮する工程、
    を包含する、方法。
  80. 前記PSBP遺伝子は、請求項41に記載される核酸分子を含む、請求項79に記載の方法。
  81. 前記未分化状態は、全能性を含む、請求項79に記載の方法。
  82. 細胞の分化状態を判定するキットであって、
    (a)Psbp遺伝子またはPSBP遺伝子産物に特異的に反応する因子;および
    (b)該PSBP遺伝子が該細胞において発現しているかどうかを確認するための手段、
    を備える、キット。
  83. 前記PSBP遺伝子は、請求項41に記載される核酸分子を含む、請求項82に記載のキット。
  84. 前記分化状態は、多能性を含む、請求項82に記載のキット。
  85. 前記分化状態は、全能性を含む、請求項82に記載のキット。
  86. さらに、他の幹細胞マーカーが発現しているかどうかを確認する手段を備える、請求項82に記載のキット。
  87. 前記他の幹細胞マーカーは、Oct4および/またはStm1遺伝子を含む、請求項82に記載のキット。
  88. 試料中の胚性幹細胞の存在を検出する方法であって、
    A)細胞に由来する成分を提供する工程;
    B)該成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する工程であって、該Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、該Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、胚性幹細胞であることの指標である、工程、
    を包含する、方法。
  89. 前記胚性幹細胞は、胚性癌腫細胞から識別される、請求項88に記載の方法。
  90. 前記細胞は、R1胚性幹細胞である、請求項88に記載の方法。
  91. 前記Oct4に特異的な因子は、抗Oct4抗体である、請求項88に記載の方法。
  92. 前記Sox2に特異的な因子は、抗Sox2抗体である、請求項88に記載の方法。
  93. Sox2が発現しているかどうかを確認する工程であって、該Sox2が発現していないことは、前記試料中に胚性幹細胞が含まれていることをさらに確証付ける、工程をさらに包含する、請求項88に記載の方法。
  94. 前記細胞に由来成分の提供は、核抽出物を提供することを包含する、請求項88に記載の方法。
  95. 前記因子は、標識されているかまたは標識され得ることを特徴とする、請求項88に記載の方法。
  96. 前記因子は、放射標識される、請求項88に記載の方法。
  97. 前記Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトしない成分を選択する工程は、Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分と比較することを包含する、請求項88に記載の方法。
  98. 前記Sox2に特異的な因子を用いた場合にスーパーシフトする成分は、胚性癌腫細胞に由来する、請求項97に記載の方法。
  99. 前記胚性癌腫細胞は、F9細胞である、請求項98に記載の方法。
  100. 試料中の多分化能の状態を検出する方法であって、
    A)細胞に由来する成分を提供する工程;
    B)該成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する工程であって、該Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、該Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、多分化能を有することの指標である、工程、
    を包含する、方法。
  101. Sox2の発現量を測定し、該Sox2の発現量と前記Sox2に特異的な因子でスーパーシフトしない量とを比較して、該Sox2に特異的な因子でスーパーシフトしない量の該Sox2に対する相対比が多いことは、前記試料に含まれる細胞の多分化能が高いことの指標である、請求項100に記載の方法。
  102. 前記因子は、抗体を含む、請求項100に記載の方法。
  103. 試料中の胚性幹細胞の存在を検出するためのキットであって、
    A)細胞に由来する成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供する手段;
    B)該Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、該Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、胚性幹細胞であることの指標であることを示す、指示書、
    を備える、キット。
  104. 試料中の多分化能の状態を検出するためのキットであって、
    A)細胞に由来する成分をOct4に特異的な因子およびSox2に特異的な因子を用いてゲルシフトアッセイに供するための手段、
    B)該Oct4に特異的な因子ではスーパーシフトが見られるが、該Sox2に特異的な因子ではスーパーシフトしないことは、多分化能を有することの指標であることを示す、指示書、
    を備える、キット。
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