JP2006040868A - 燃料電池の特性復帰方法および特性復帰装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 発電特性が低下した燃料電池の特性復帰を迅速、かつ、簡便に行うことを可能とし、特に、発電特性の低下したDMFCの特性復帰を実現することができる特性復帰方法およびその特性復帰装置を提供する。
【解決手段】 本発明の燃料電池の特性復帰方法は、ダイレクトメタノール型燃料電池等の特性復帰を要する燃料電池のアノード電極3Aにメタノール水溶液等のアノード媒質6Aを供給し、カソード電極3Bに空気等のカソード媒質6Bを供給して、電極3A,3B間に燃料電池の発電時における通電と同じ方向へ強制通電を行うことを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、燃料電池の特性復帰方法および特性復帰装置に関し、特に、モバイル及びポータブル電源、電気自動車用電源、家庭内コージェネレーションシステム等に使用するダイレクトメタノール型燃料電池の特性復帰方法および特性復帰装置に関する。
最近、地球環境保護等の観点から、燃料電池に対する期待が急激に高まってきている。燃料電池は、使用される電解質の種類によって、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、固体高分子型燃料電池(PEFC)の5種類に分類されるのが一般的である。
中でも、固体高分子膜を2種類の電極で挟み込み、更にこれらの部材をセパレータで挟んだ構成の固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell;以下、「PEFC」という)が、コンパクトで発電効率に優れる上、比較的低温で作動することから応用範囲が広く注目されている。
また、最近では、PEFCの中でも、水素ガスを燃料とするのではなく、メタノール水溶液をダイレクトに燃料として用いるダイレクトメタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell;以下、「DMFC」という)が特に注目されている。DMFCは、メタノールと水を含有する燃料と、空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを、電気化学的に反応させることで、電力を発生させるものであり、常温で作動し、小型化及び密封化できることから、無公害の自動車、家庭用発電システム、移動体通信装備、医療機器などに使用でき、その応用分野が多様である。
DMFCの基本構造は、平板状の電極構造体(Membrane Electrode Assembly;以下、「MEA」という)の両側に導電性セパレータが積層された積層体を単位セル(以下、「セル」という)として構成されている。MEAは、アノード電極及びカソード電極を構成する1対の電極の間にイオン交換樹脂などからなる電解質膜が挟まれた3層構造である。1対の電極はそれぞれ、電解質膜に接触する電極触媒層と、電極触媒層の外側の燃料または酸化剤ガスの拡散層(分散層)とから構成されたものである。導電性セパレータは、MEAの拡散層(分散層)に接触するように積層され、拡散層(分散層)への燃料または酸化剤ガスの流入、セパレータの温度調節、排出物除去などを目的とする通路として機能するマニホールド孔が形成されている。このような燃料電池によると、例えば、アノード電極の拡散層(分散層)に接するマニホールド孔にメタノールと水の混合溶液を流し、カソード電極の拡散層(分散層)に接するマニホールド孔に酸素や空気等の酸化性ガスを流すことで、電気化学反応が起こり、電気が発生する。
DMFCを含め燃料電池においては、発電運転を続けていると、その発電特性が低下、すなわち、一定電圧下の電流密度降下などの性能低下が見られることが知られている。
このような発電特性の低下は、短寿命によるメンテナンスコストの増大など、燃料電池の実用化に際しての障害となるため、低下した発電特性を迅速、簡便に復帰する方法が必要となる。
燃料電池の発電特性の低下を復帰させる方法として、例えば、特許文献1に記載された方法が知られている。特許文献1は、カソード電位を周期的に約0.6ボルト以下に低下させることにより、プロトン交換膜型(PEM)燃料電池の性能低下を回復する方法を開示している。
特表2003−536232号公報
しかし、特許文献1は、PEM燃料電池の性能低下を回復するための1つの手法を示したものにすぎず、さらに簡便で、適用範囲の広い方法が望まれている。
従って、本発明の目的は、DMFCを含めた燃料電池において、迅速、簡便な方法にて、低下した発電特性を容易に復帰させることができる燃料電池の特性復帰方法およびその特性復帰装置を提供することにある。
本発明は、上記目的を達成するため、燃料電池のアノード電極に純水または水溶液を供給し、前記燃料電池のカソード電極に酸素を含むガスを供給して、前記電極間に燃料電池の発電時における通電と同じ方向へ強制通電を行うことを特徴とする燃料電池の特性復帰方法を提供する。
本発明の好ましい形態においては、以下の特徴を有する。
1)前記強制通電は、直流電源を用いて行う。
2)前記強制通電は、300〜3000mA/cmの範囲内の電流密度で通電を行う。
3)前記強制通電は、交流電源を用いて行う。
4)前記強制通電は、前記燃料電池のMEA温度が100℃に到達する前まで、又は、前記燃料電池のセルあたりの最大印加電圧が3Vに到達する前まで通電を行う。
5)前記酸素を含むガスは、純酸素、空気、又は酸素を0.001〜1%含む窒素ガスである。
6)前記燃料電池は、DMFCである。
本発明は、上記目的を達成するため、アノード電極およびカソード電極を有する燃料電池と、前記アノード電極に純水または水溶液を供給し、前記カソード電極に酸素を含むガスを供給するための特性復帰媒質供給手段と、前記電極間に前記燃料電池の発電時における通電と同じ方向へ強制通電を行うための電圧を印加する電圧印加手段と、前記特性復帰媒質供給手段と前記電圧印加手段の制御を行う制御手段とから構成されてなることを特徴とする特性復帰装置を提供する。
本発明の好ましい形態においては、上記1)〜6)と同様の特徴を有する。
本発明の特性復帰方法およびその特性復帰装置によれば、発電特性の低下した燃料電池の特性復帰を迅速、かつ、簡便に行うことを可能とし、特に、発電特性の低下したDMFCの特性復帰を実現することができる。
以下、図を参照して本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(本発明の特性復帰装置の全体の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る特性復帰装置の概略構成を示す。この特性復帰装置10は、特性復帰対象のDMFC1と、DMFC1に電圧を印加して電流を通電させる電界付与手段としての電圧印加手段11と、電圧印加手段11を制御する制御手段12とを有して概略構成されている。なお、DMFC1は、電圧印加手段11等と一体であっても別体であっても構わない。また、ここでは、効果が特に顕著であるDMFCについて説明するが、特性復帰が必要とされる燃料電池であれば本発明が適用可能であり、特に限定されない。好ましくは、固体高分子型燃料電池に適用され、特にDMFCに好ましく適用される。
(本発明の特性復帰装置の各部の構成)
DMFC1は、公知のDMFCが適用でき、そのセルは、アノード側セパレータ2Aおよびカソード側セパレータ2Bと、アノード電極3Aおよびカソード電極3Bと、電解質膜4とを備えている。アノード電極3A、カソード電極3B、および電解質膜4によりMEA5を構成し、MEA5の両側をアノード側セパレータ2Aおよびカソード側セパレータ2Bにて挟んだ構造となっている。DMFC1は、目的の起電力に合わせて、複数個のセルを直列接続した構造にして用いるのが一般的である。
アノード電極3Aおよびカソード電極3Bは、共にそれぞれ、燃料又は酸化剤ガスの供給および拡散(分散)のための支持層と、酸化又は還元反応が起こる触媒層とから構成されている。アノード電極3Aでは、供給されたメタノールと水との酸化反応により、水素イオン、電子、及び二酸化炭素が生成し、生成した水素イオンは電解質膜4を通じてカソード電極3Bに伝わり、生成した電子は外部回路を通じてカソード電極3Bに伝わる。カソード電極3Bでは、水素イオンと酸素との還元反応により水が生成する。
電解質膜4の固体高分子膜には、特に限定されるものではないが、例えば、イオン交換基としてスルフォン酸基を持つパーフルオロカーボンスルフォン酸構造を持つ薄膜(厚さ50〜100μm程度)が使用でき、コンパクトな電池をつくることができる。
アノード側セパレータ2Aは、隣接するアノード電極3Aに燃料を供給する為の燃料供給用溝が形成され、セパレータ2Bは、隣接するカソード電極3Bに酸化剤ガスを供給する為の酸化剤ガス供給用溝が形成されており、セパレータ2A,2B面に沿って、燃料、酸化剤ガスが供給される。
セパレータ2A,2Bとしては、特に限定されるものではないが、例えば、カーボンセパレータ、樹脂にカーボンを練り込んだカーボンコンパウンドのモールド型セパレータ、表面にチタンやステンレス鋼あるいは貴金属に代表される耐食層を有する金属セパレータ等を好適に使用することができる。
電圧印加手段11は、制御手段12からの指令に基づき、DMFC1に電圧を印加し、強制的に通電させている。直流電源を用いることが好ましいが、交流電源を使用することもできる。また、制御手段12は、CPU等を備え、後述する特性復帰方法の制御を行っている。
(本発明の特性復帰方法)
次に、本発明の実施の形態に係る特性復帰方法について説明する。
特性復帰手法として、以下の手順を実施する。
1.DMFC1のアノード極3Aにアノード媒質6Aを供給し、カソード極3Bにカソード媒質6Bを供給する。なお、供給方法は、強制循環であっても、自然の流れで供給する方法であってもよい。
2.直流電源(電圧印加手段11)を準備し、直流電源出力の正極にDMFC1のアノード極3Aを結線し、直流電源出力の負極にDMFC1のカソード極3Bを結線する。このような結線により、通常の発電時と同じ方向の電流をMEA5に強制的に通電させることができる。なお、交流電源を用いることもできる。
3.直流電源を用い、DMFC1に強制通電を行う。通電条件は、MEA5の電極表面積あたりの電流密度Jが300〜3000mA/cm範囲内となる電流で、DMFC1のセルあたりの端子間電圧を0.3〜3Vとして、通電時間は数秒から数分である。なお、±3000mA/cm以下の交流電源を用いて通電してもよい。通電中は、アノード側の水分がなくならないように供給する。これを複数回繰り返すことにより、DMFC1の特性復帰処理が完了する。
以下に、本発明の実施の形態に係る特性復帰方法についてさらに詳細に説明する。
1)アノード媒質6A
アノード媒質6Aには、水またはメタノール水溶液を使う。実際のDMFC発電においては、メタノール濃度が0.1〜10mol/L程度で使われるので、この濃度領域のメタノール水溶液を充填することが好ましい。一方、純水を用いても、特性復帰のための強制通電後に、DMFC発電運転のためにメタノール水溶液へ交換するのであれば、強制通電の際には、純水を用いてもよいが、交換の手間・時間を省くため、燃料として通常用いられているメタノール水溶液を用いることが好ましい。また、本発明の要素は、水の電気分解であると考えられ、水およびメタノール水溶液に限られず、アノード媒質6AがMEA5に損傷を及ぼさない水溶液であればよい。例えば、エタノール水溶液やイソプロピルアルコール水溶液等であってもよい。供給方法としては、アノード電極3Aに水溶液のタンクを設置する方法や強制循環で溶液を供給する方法等があり、特に限定されるものではない。なお、水の電気分解以外に水の合成も本発明の要素に関係していると考えられ、両者の複合的作用により本発明の効果が奏されているものと考えられる。
2)カソード媒質6B
カソード媒質6Bには、酸素を含むガス、例えば、空気(酸素を含む窒素ガス)を供給する。酸素の含有量は特に限定されるものではなく、純酸素ガスのような高濃度、あるいは0.001〜1%程度の低濃度であっても構わない。酸素を含むガスであれば用いることができ、酸素濃度、酸素以外の含有ガスの種類・濃度は、簡便性、経済性等の観点から適宜選択できる。供給方法としては、カソード電極3Bを大気中に放置するなどした自然呼吸型DMFCの構造で供給したり、強制循環でガスを供給する方法があり、特に限定されるものではない。
3)強制通電の電流密度J
実際のDMFC発電では、通常、0〜200mA/cm程度の領域で発電運転を行う。強制通電では、実際のDMFC発電で想定される負荷電流密度相当以上の電流通電を行う必要があり、電流密度が300〜3000mA/cmの範囲内となる一定電流で強制通電することが好ましい。より好ましくは、350〜2000mA/cmであり、さらに好ましくは、400〜1500mA/cmであり、最も好ましくは、450〜1400mA/cmである。電流密度が小さすぎると、効果がなく、大きすぎると、MEA5を熱破壊する要因となる。2500mA/cm以上では、MEA5の熱破壊を防止するため、セルを冷却しながら、又は通電時間を短く(例えば、数秒にして)強制通電を行うことが好ましい。上記範囲内の電流値で一定電流にて強制通電することが簡便性等の観点から好ましい。
交流電源を用いる場合には、電流密度が±3000mA/cm範囲内となる電流で強制通電することが好ましい。より好ましくは、±2000mA/cm範囲内であり、さらに好ましくは、±1500mA/cm範囲内であり、最も好ましくは、±1400mA/cm範囲内である。
なお、電流密度が小さくても、通電時間を長くしたり、再通電回数を増やすことにより本発明の効果を高めることができる。
4)強制通電の印加電圧V
通電中は、セルあたりの電極間電圧として0.3〜3V相当となる電圧を印加することが好ましい。より好ましくは、0.6〜2.7Vであり、さらに好ましくは、0.9〜2.5Vである。電圧が小さすぎると電気分解が起こらないので特性復帰の効果が殆ど得られない。電圧が大きすぎると、熱的損傷又は電気的損傷を引き起こすことがあるので好ましくない。
5)強制通電の通電時間tと通電回数
通電は、数秒〜数分間行うのが好ましい。時間が短すぎると、効果が殆ど得られない。時間が長すぎると、発熱により、MEA5の温度が上昇すること、及び、セパレータの電気化学的反応(例えば、腐食)が進むため好ましくない。適切な通電時間としては、MEA5の温度が100℃に到達する前まで、あるいは、一定電流強制通電時のセルあたりの最大電圧が3Vに到達する前まで通電を行い、そこで通電電流をゼロにする。このような操作を2〜6回程度繰り返すことが好ましい。より好ましくは、3〜5回である。通電を繰り返すと、通電開始時の電圧が1回前の通電開始時の電圧よりも下がるが、殆ど下がらなくなるまで行うことが好ましく、より好ましくは下がらなくなる1回前まで、再通電を行う。すなわち、セルの内部抵抗が安定するまで再通電を繰り返すことが好ましい。例えば、3回目と4回目の通電開始時の電圧がほぼ同じとなれば、3回の強制通電により特性復帰処理を完了することが好ましい。
6)上述の3)〜5)の印加電圧V、通電電流I(電流密度J)、通電時間tの条件決定方法としては、以下のフローに従うのが一つの手法である。
a)セルの印加電圧V、通電電流Iを計測しながらV−I特性をモニターする。
b)直流電源にて、電流及び電圧を増加させる(図2)。
c)電流・電圧のdV/dIが電流増とともに急激に増加し始める点(図2では、10A前後)の電流−電圧領域(以下、「好適領域」という)以下で、一定電流の強制通電を行う。図2は、本発明の特性復帰処理時の電流−電圧曲線を示す図であり、約10Aの一定電流にて強制通電を行っている。なお、好適領域を越える電流−電圧領域(以下、「過電流領域」という)を適用することも強制通電時間の調整又は冷却処理の実施により可能である。
d)MEA5の温度が70〜100℃に到達、あるいは、一定電流通電時のセルあたりの最大電圧が1〜3Vに増加したら、通電を中止する。この時の通電時間をtとする。
e)MEA5の温度が50℃以下、もしくは通電直後の温度より低下していることを確認し、上述のc)およびd)の操作を再度行う。再通電は3〜6回行う。待ち時間短縮のため、強制冷却してもよい。再通電時間は、再通電開始時のMEA5の温度により異なる。
7)上述の6)のc),d)の印加電圧V、通電電流I(電流密度J)、通電時間tの条件決定方法に代えて、下記の式(1)〜(3)を満足するV、I、tの値で通電を行うのも、手法の一つである。
ΔT<100・・・・式(1)
<100・・・・式(2)
q<100・・・・式(3)
ΔT=(V+V)÷2×I×t÷(C・ρ・v)・・・式(4)
q=V×I÷S(W/cm)・・・式(5)
但し、
ΔT:通電による温度上昇の概算値(℃)
:通電前のMEA5の温度(℃)
:通電終了直後のMEA5の温度(℃)
:一定電流での通電開始直後の印加電圧
:一定電流での通電終了直前の印加電圧
:アノード注入液体の比熱(J/(g・K))
ρ:アノード注入液体の密度(g/cm
:MEA1個当たりのアノード注入液量(cm/sec)
S:MEAの電極表面積(cm
である。
なお、MEA5の温度Tを室温程度(25〜30℃)とした場合には、ΔT<60〜70であることが好ましい。
ΔT(℃)<100としたのは、T>0で、MEA5の最高温度が100℃を越えないためである。q(W/cm)<100としたのは、q>100W/cmとなると、界面が核沸騰から膜沸騰に移行して、熱放散が悪くなり、さらにアノード界面に沸騰膜が生成され水の電気分解を抑制するため、好ましくないからである。
8)強制通電時のdV/dI特性について
好ましくは、なるべく小さい印加電圧で、大電流を流すことである。そのためには、好適領域以下における電流値で一定通電を行うことが好ましい。
図3は、本発明の特性復帰処理時のタイムチャートを示す図である。上述の条件にて決定した一定電流(電流密度J(mA/cm))にて強制通電を3回行った場合を示している。
上記の特性復帰方法によれば、短時間、かつ、簡便に、発電特性が低下した燃料電池の特性復帰が可能となる。また、所定の通電をするのみの処理であるため、DMFC1を機器に組み込んだ状態での特性復帰も可能となる。
(1)実験用燃料電池の製作
DMFC用のセパレータとして耐食性と表面導電性を有する金属クラッドシート材を作製した。コア金属にステンレス鋼(SUS304)、被覆金属に金属チタンを適用したTi/SUS/Tiの複合金属部材を用い、この部材の表面に、特開2004−158437号公報に開示された方法等により導電性と耐食性を兼ね備えるための表面処理を施した。この金属部材とMEA(電解質膜としてナフィオン(登録商標)を使用)を用い、電極表面積S=8.4cmのセルを組み立てた。
(2)特性低下要因および比較測定
DMFCにおいては、燃料電池セルの組立て直後の発電特性がかなり低く不安定であるため、通常、DMFC電池の場合、電池組立て後に、初期慣らし運転(以下、「エージング」という)として、室温より高い温度(通常、60〜80℃程度)での発電を3〜40h程度行う必要がある。これにより、組立て直後の発電特性より高い電池出力を示すようになる。そこで、組み立てたセルについて、エージング処理として、60℃でDMFC発電を8時間実施した。カソード供給ガスとして空気を用いたエージング処理後のセルについて、室温にて、アノード燃料として1mol/Lメタノール水溶液を用い、カソード供給ガスに空気を使用し空気利用率を10%として、負荷100mA/cm、の条件にてDMFC連続発電を行った。連続運転開始直後の発電特性は25mW/cmであった(比較測定ref1)が、100時間連続運転後は、発電特性が10mW/cmに低下した(比較測定ref2)。その後、発電を中止し、カソード側に乾燥空気を1時間流すことにより、カソード側に乾燥処理を施し、再び、同じ条件で、発電特性を測定したところ、連続運転開始直後の発電量と同じ25mW/cmであることを確認した。これにより、100時間連続発電による特性低下要因は、フラッディングと判断した。
また、別途組み立てたセルに対して、カソード供給ガスとして純酸素(不可避不純物を除いて残部酸素、以下同じ)を用いたエージング処理を60℃で8時間実施した。エージング処理後のセルについて、室温にて、アノード燃料として1mol/Lメタノール水溶液を用い、カソード供給ガスに純酸素を使用し、カソード供給ガス利用率を10%として、負荷100mA/cm、の条件にてDMFC連続発電を行った。連続運転開始直後の発電特性は30mW/cmであった(比較測定ref3)が、100時間連続運転後は、発電特性が12mW/cmに低下した(比較測定ref4)。
(3)強制通電実験その1
上記(1)と同条件にて組み立てたセルについて、上記(2)と同条件にてエージング処理(60℃でDMFC発電を8時間実施)を施し、その後100時間の連続発電を行い、フラッディングにより特性低下したセルを作製した。この時、エージング処理および100時間連続発電時にカソード供給ガスとして空気を使用した試料(試料1〜試料9)と、カソード供給ガスとして純酸素を使用した試料(試料10)を用意した。試料1〜試料10を使用して強制通電実験を行った。本実験では、アノード注入液量は、v=1(cm/sec)とした。また、アノード注入液の比熱は水の値で代表値とし、C=4.2(J/g・K)、密度ρ=1.0(g/cm)、とした。
従って、I=電極表面積S×通電電流密度Jなので、上記の式(4)に代入すると、
ΔT=(V+V)×J×tとなる。
直流電源を準備し、直流電源出力の正極にDMFCのアノード極を結線し、直流電源出力の負極にDMFCのカソード極を結線して、電流密度が一定となるよう、通常の発電時と同じ方向の電流を表1に示す条件にて強制的に通電させた。各試料においてそれぞれ通電回数を3回とした。アノード供給溶液としてメタノール水溶液(1.0mol/L,3.0mol/L,10.0mol/L)を使用し、カソード供給ガスとして空気(試料1〜5)、酸素を0.001〜1%含む窒素ガス(試料6〜9)、又は純酸素(試料10)を使用し、それぞれを強制的に循環する手法で実施した。強制通電を行った試料に対するDMFC発電特性評価は、室温25℃でカソード供給ガスとして空気(試料1〜9)、又は純酸素(試料10)を使用し、カソード供給ガス利用率10%にて行った。評価結果を表1に示す。表1には、強制通電条件、及び強制通電処理後のDMFC発電特性で得られた最大出力値を示す。最大出力値は、MEA電極表面積あたりの数値に換算した。また、一定電流での通電開始直後の電圧Vと、通電終了直前の電圧V、の値も示した。表1で、ΔTは計算値、T、Tは実測値である。
Figure 2006040868
試料1および4では、出力特性の復帰効果は殆ど見られなかった。これは、試料1および4の強制通電条件において、電流密度Jおよび印加電圧(V, V)が小さく、水の電気分解が不十分であったために、出力特性の復帰効果が小さかったものと考えられる。一方、試料2、3および5〜10では、エージング直後の初期特性の出力値にほぼ復帰することがわかった。
(4)強制通電実験その2
上記(2)と同様の手順により、カソード供給ガスとして空気を使用して、エージング処理後に100時間の連続発電を行い、発電特性の低下したセルを作製した(試料11)。試料11を使用して強制通電実験を行った。直流電源を準備し、直流電源出力の正極にDMFCのアノード極を結線し、直流電源出力の負極にDMFCのカソード極を結線して、通常の発電時と同じ方向の電流を強制的に通電させた(通電順番1)。その後、逆に結線して、発電時と逆方向の電流を強制的に通電させた(通電順番2)。さらに、表2に示す順序にて1つのセル(試料11)に対して条件を変化させて連続的に強制通電を行った(通電順番3,4)。通電回数は初めの条件(通電順番1: +450mA/cm、30sec)のみ3回とし、その後の通電条件においては1回とした。アノード供給溶液としてメタノール水溶液(1.0mol/L)を使用し、カソード供給ガスとして空気を使用し、それぞれを強制的に循環する手法で実施した。通電順番ごとに「強制通電実験その1」と同様にしてDMFC発電特性を評価した。評価時におけるアノード供給溶液およびカソード供給ガスは、強制通電時と同条件とした。評価結果を表2に示す。
Figure 2006040868
表2より、通常の発電時と逆方向への強制通電(通電順番2,3)では、本発明の効果は少ないと考えられる。
(5)強制通電実験その3
他の実施例として、上記(2)と同様の手順により、カソード供給ガスとして空気を使用して、エージング処理後に100時間の連続発電を行い、発電特性の低下したセルを作製した(試料12)。試料12を使用して強制通電実験を行った。アノード供給溶液としてメタノール水溶液(1.0mol/L)を使用し、カソード供給ガスとして酸素を1%含む窒素ガスを使用し、それぞれを強制的に循環する手法で実施した。他の通電条件は「強制通電実験その2」における通電条件と同じである(通電順番4は省略)。通電順番ごとに「強制通電実験その1」と同様にしてDMFC発電特性を評価した。発電特性評価時におけるカソード供給ガスは空気を使用し、強制通電時のカソード供給ガス(酸素を1%含む窒素ガス)を十分に置換した後に測定した。また、発電特性評価後の強制通電においては、カソード供給ガスを空気から酸素を1%含む窒素ガスに十分に置換した後に行った。評価結果を表3に示す。
Figure 2006040868
表3より、カソード供給ガスとして空気(酸素濃度=21%)を使用した「強制通電実験その2」の場合は、逆方向通電で特性復帰効果が少ない結果となったが、カソード供給ガスの酸素濃度を1%に低下させた本実施例の場合には、逆方向通電においても発電特性復帰効果があることが確認された。
本発明の実施の形態に係る特性復帰装置の概略構成を示す図である。 本発明の特性復帰処理時の電流−電圧曲線を示す図である。 本発明の特性復帰処理時のタイムチャートを示す図である。
符号の説明
1:DMFC
2A:アノード側セパレータ
2B:カソード側セパレータ
3A:アノード電極
3B:カソード電極
4:電解質膜
5:MEA
6A:アノード媒質
6B:カソード媒質
10:特性復帰装置
11:電圧印加手段
12:制御手段

Claims (8)

  1. 燃料電池のアノード電極に純水または水溶液を供給し、前記燃料電池のカソード電極に酸素を含むガスを供給して、前記電極間に燃料電池の発電時における通電と同じ方向へ強制通電を行うことを特徴とする燃料電池の特性復帰方法。
  2. 前記強制通電は、直流電源を用いて行うことを特徴とする請求項1記載の燃料電池の特性復帰方法。
  3. 前記強制通電は、300〜3000mA/cmの範囲内の電流密度で通電を行うことを特徴とする請求項2記載の燃料電池の特性復帰方法。
  4. 前記強制通電は、交流電源を用いて行うことを特徴とする請求項1記載の燃料電池の特性復帰方法。
  5. 前記強制通電は、前記燃料電池の電極構造体(MEA)温度が100℃に到達する前まで、又は、前記燃料電池のセルあたりの最大印加電圧が3Vに到達する前まで通電を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池の特性復帰方法。
  6. 前記酸素を含むガスは、純酸素、空気、又は酸素を0.001〜1%含む窒素ガスであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池の特性復帰方法。
  7. 前記燃料電池は、ダイレクトメタノール型燃料電池であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池の特性復帰方法。
  8. アノード電極およびカソード電極を有する燃料電池と、
    前記アノード電極に純水または水溶液を供給し、前記カソード電極に酸素を含むガスを供給するための特性復帰媒質供給手段と、
    前記電極間に前記燃料電池の発電時における通電と同じ方向へ強制通電を行うための電圧を印加する電圧印加手段と、
    前記特性復帰媒質供給手段と前記電圧印加手段の制御を行う制御手段とから構成されてなることを特徴とする特性復帰装置。
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