本発明は、光記録媒体に関するものであり、さらに詳細には、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した場合にも、データを、新たなデータによって、所望のように、ダイレクトオーバーライトすることができる光記録媒体に関するものである。
また、本発明は、光記録媒体に記録されたデータの消去方法に関するものであり、さらに詳細には、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した場合にも、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に形成された記録マークを、確実に消去することができる光記録媒体に記録されたデータの消去方法に関するものである。
従来より、デジタルデータを記録するための記録媒体として、CDやDVDに代表される光記録媒体が広く利用されている。
光記録媒体のデータ記録方式としては、一般に、記録すべきデータを、光記録媒体に設けられたトラックに沿って形成される記録マークとして所定の長さに変調するという記録方式が用いられている。たとえば、ユーザによるデータの書き換えが可能な光記録媒体の一種であるDVD−RWにおいては、3Tから11Tおよび14T(Tは1クロック周期)に対応する長さの記録マークが用いられ、光記録媒体に設けられたトラックに沿って、記録マークを、情報層に含まれた記録膜に形成することによって、データが記録されるように構成されている。
このようにして、データ書き換え型光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録マークを形成して、データを記録する場合には、光記録媒体に設けられたトラックに沿って、情報層に含まれた記録膜にレーザビームが照射され、記録膜に含まれている結晶状態にある相変化材料がアモルファス化されて、所定の長さを有するアモルファス領域が、情報層に含まれた記録膜に形成され、こうして形成されたアモルファス領域が記録マークとして利用される。
すなわち、データ書き換え型光記録媒体の情報層に含まれた記録膜にデータを記録する場合には、そのパワーが十分に高いレベルの記録パワーPwに設定されたレーザビームが、情報層に含まれた記録膜に照射され、レーザビームが照射された記録膜の領域が相変化材料の融点以上の温度に加熱されて、溶融される。次いで、そのパワーが十分に低いレベルの基底パワーPbに設定されたレーザビームが、情報層に含まれた記録膜に照射され、溶融された記録膜の領域が急冷される。その結果、記録膜の領域に含まれている相変化材料が、結晶状態からアモルファス状態に変化し、情報層に含まれた記録膜に記録マークが形成され、データが記録される。
一方、データ書き換え型光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に形成されている記録マークを消去して、この記録膜に記録されたデータを消去する場合には、そのパワーが、基底パワーPbを越えた消去パワーPeに設定されたレーザビームが、情報層に含まれた記録膜に照射され、記録膜の記録マークが形成された領域が相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱され、次いで、記録膜の加熱された領域が徐冷される。その結果、記録マークが形成されていた記録膜の領域に含まれている相変化材料が、アモルファス状態から結晶状態に変化し、記録マークが消去されて、データが消去される。
したがって、書き換え型光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に照射されるレーザビームのパワーを、記録パワーPw、基底パワーPbおよび消去パワーPeに対応する複数のレベルに変調することによって、情報層に含まれた記録膜に記録マークを形成して、データを記録するだけでなく、記録膜に形成された記録マークを消去しつつ、新たな記録マークを形成して、記録膜に既に記録されたデータを、新たなデータによって、ダイレクトオーバーライトすることが可能になる。
このようにして、書き換え型光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に既に記録されたデータを、新たなデータによって、ダイレクトオーバーライトする場合には、記録マークを形成しているアモルファス状態の相変化材料を結晶化して、記録マークを消去するのに要する時間を短縮することが好ましく、一般的には、書き換え型光記録媒体の情報層に含まれた記録膜は、結晶化速度が大きい相変化材料によって形成されている(たとえば、特開平10−326436号公報(特許文献1)参照。)。
書き換え型光記録媒体の記録膜を、たとえば、Sb
70Te
30共晶組成を有する結晶化速度が大きい相変化材料によって、形成した場合には、記録マークが形成された記録膜の領域を、結晶化温度以上の温度に加熱した後、徐冷すると、図9に示されるように、記録マークの周囲の結晶状態にある相変化材料が、記録マークの中心部に向かって、結晶化して、記録マークを形成しているアモルファス状態の相変化材料が、記録マークの外周から中心部に向けて、結晶化し、速やかに、記録マークを消去し得ることが知られている。
特開平10−326436号公報
ところが、相変化材料によって形成された記録膜を含む情報層を備えた光記録媒体にデータを記録した後、この光記録媒体を、長期間にわたって、保存した場合には、アモルファス化した相変化材料が結晶化しにくくなることが知られており(たとえば、T.Kikukawa,et.al.,Jpn.J.Appl.Phys.Vol(41)2002.pp3020)、したがって、データを記録した光記録媒体を、長期間にわたって、高温下で保存した後に、データを、新たなデータによって、初めて、ダイレクトオーバーライトしたときに、記録膜に形成されている記録マークを所望のように消去することが困難になるから、新たなデータによって、ダイレクトオーバーライトした後の記録膜には、完全に消去されずに残っている記録マークと、新たに形成された記録マークとが混在し、その結果として、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときに、再生信号のジッタが悪化し、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した後に、データを、新たなデータによって、所望のように、ダイレクトオーバーライトすることが困難になるという問題があった。
したがって、本発明の目的は、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した場合にも、データを、新たなデータによって、所望のように、ダイレクトオーバーライトすることができる光記録媒体を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した場合にも、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に形成された記録マークを、確実に消去することができる光記録媒体に記録されたデータの消去方法を提供することにある。
本発明者は、本発明の前記目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、記録膜に含まれた相変化材料を結晶状態からアモルファス状態に変化させて、記録膜に形成された記録マークを消去する際に、所定のパワーに設定されたレーザビームを、記録マークの前端部から後端部に向けて、相対的に移動させて、記録マークが形成された記録膜の領域に、レーザビームを照射して、記録マークが形成された記録膜の領域を、結晶化温度以上の温度に加熱し、徐冷したときに、記録マークを形成しているアモルファス状態の相変化材料が、記録マークの後端部から前端部に向かって、順次、結晶化され、アモルファス状態から結晶状態に変化する場合には、図9に示されるように、記録マークの周囲の結晶状態にある相変化材料が、記録マークの中心部に向かって、結晶化して、記録マークを形成しているアモルファス状態の相変化材料が、記録マークの外周から中心部に向けて、結晶化される場合に比して、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した後に、データを、新たなデータによって、初めて、ダイレクトオーバーライトするときにも、記録膜に形成された記録マークを、速やかに、かつ、確実に消去することができ、したがって、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを効果的に防止し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づくものであり、本発明によれば、本発明の前記目的は、相変化材料によって形成された記録膜を含む情報層を備えた光記録媒体であって、所定のパワーに設定されたレーザビームを、相対的に移動させて、前記記録膜に含まれた前記相変化材料を結晶状態からアモルファス状態に変化させて、記録マークが形成された前記記録膜の領域に、記録マークの前端部から後端部に向けて、前記レーザビームを照射して、前記記録マークが形成された前記記録膜の領域を、結晶化温度以上の温度に加熱し、徐冷したときに、前記記録マークを形成しているアモルファス状態の前記相変化材料が、前記記録マークの後端部から前端部に向かって、順次、結晶化され、アモルファス状態から結晶状態に変化することを特徴とする光記録媒体によって達成される。
本発明によれば、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した後に、データを、新たなデータによって、初めて、ダイレクトオーバーライトした場合に、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを効果的に防止することができ、その結果、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した場合にも、データを、新たなデータによって、所望のように、ダイレクトオーバーライトすることが可能になる。
このようにして、記録マークを形成しているアモルファス状態の相変化材料を結晶化させることにより、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを効果的に防止し得る理由は、必ずしも、明らかではないが、このようにして、相変化材料を結晶化させるときには、相変化材料によって形成された記録膜を含む情報層を備えた光記録媒体を、長期間にわたって、高温下で保存した場合であっても、図9に示されるように、記録マークの周囲の結晶状態にある相変化材料が、記録マークの中心部に向かって、結晶化して、記録マークを形成しているアモルファス状態の相変化材料が、記録マークの外周から中心部に向けて、結晶化される場合に比して、アモルファス化した相変化材料の結晶化を速やかに進行させることができ、記録膜に形成された記録マークを、速やかに、かつ、確実に消去することができるためと考えられる。
本発明の前記目的は、また、相変化材料によって形成された記録膜を含む情報層を含み、前記記録膜に含まれた前記相変化材料を結晶状態からアモルファス状態に変化させて、前記記録膜に記録マークを形成して前記記録膜に記録されたデータを消去する方法であって、所定のパワーに設定されたレーザビームを、前記記録マークの前端部から後端部に向けて、相対的に移動させて、前記記録マークが形成された前記記録膜の領域に、前記レーザビームを照射して、前記記録マークが形成された前記記録膜の領域を、結晶化温度以上の温度に加熱して、徐冷し、前記記録マークを形成しているアモルファス状態の前記相変化材料を、前記記録マークの後端部から前端部に向けて、順次、結晶化させて、アモルファス状態から結晶状態に変化させ、前記記録膜に記録されたデータを消去することを特徴とする光記録媒体に記録されたデータの消去方法によって達成される。
本発明によれば、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した後に、データを、新たなデータによって、初めて、ダイレクトオーバーライトした場合に、記録膜に形成された記録マークを、速やかに、かつ、確実に消去することができるから、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを効果的に防止することができ、その結果、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した場合にも、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されていたデータを、確実に消去することが可能になる。
本発明において、前記記録マークを形成しているアモルファス状態の前記相変化材料が、前記記録マークの後端部から前端部に向かって、略逆U字型または略逆V字型に、結晶化されることが好ましい。このように相変化材料が結晶化される場合には、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した後に、新たなデータによって、初めて、ダイレクトオーバーライトした場合に、既に記録されたデータをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを確実に防止することが可能になる。
本発明において、上述のようにして、記録膜に含まれた相変化材料が結晶化される場合には、記録膜の膜厚にかかわらず、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを効果的に防止することが可能になるが、記録膜の膜厚が2nmないし15nmであるときには、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを、より一層、確実に防止することが可能になる。したがって、本発明において、記録膜は、2nm以上、15nm以下の膜厚を有するように形成されていることが好ましい。
本発明において、情報層に含まれた記録膜を形成するための材料は、上述のようにして、記録マークを形成しているアモルファス状態の相変化材料が結晶化される材料であれば、とくに限定されるものではないが、たとえば、79原子%ないし95原子%のSbと、5原子%ないし21原子%のGeとを主成分として含み、周期表の第16族元素(O、S、Se、TeおよびPo)を含まない相変化材料が好ましく用いられる。ここに、SbとGeとを主成分として含むとは、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜を形成する元素のうち、Sbの含有率とGeの含有率を合計した含有率が最も大きいことを意味する。
本発明によれば、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した場合にも、データを、新たなデータによって、所望のように、ダイレクトオーバーライトすることができる光記録媒体を提供することが可能になる。
また、本発明によれば、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に記録されたデータを、長期間にわたって、高温下で保存した場合にも、光記録媒体の情報層に含まれた記録膜に形成された記録マークを、確実に消去することができる光記録媒体に記録されたデータの消去方法を提供することが可能になる。
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる光記録媒体を示す一部切り欠き略斜視図であり、図2は、図1のAで示された部分の略拡大断面図である。
図1に示されるように、本実施態様にかかる光記録媒体10は、円盤状に形成され、約120mmの外径と、約1.2mmの厚さを有している。
本実施態様の光記録媒体10は、書き換え型の光記録媒体として構成され、図2に示されるように、支持基板11と、支持基板11の表面上に形成された第四の誘電体膜12と、第四の誘電体膜12の表面上に形成された反射膜13と、反射膜13の表面上に形成された第三の誘電体膜14と、第三の誘電体膜14の表面上に形成された記録膜15と、記録膜15の表面上に形成された第二の誘電体膜16と、第二の誘電体膜16の表面上に形成された第一の誘電体膜17と、第一の誘電体膜17の表面上に形成された放熱膜18と、放熱膜18の表面上に形成された光透過層19とを備えている。
本実施態様においては、第四の誘電体膜12、反射膜13、第三の誘電体膜14、記録膜15、第二の誘電体膜16、第一の誘電体膜17および放熱膜18によって、情報層20が形成されている。
本実施態様にかかる光記録媒体10は、図2において、矢印で示される方向から、380nmないし450nmの波長λを有するレーザビームLが、λ/NA≦640を満たす開口数NAを有する対物レンズ(図示せず)を介して、光透過層19に照射され、光記録媒体10の情報層20に含まれた記録膜15にデータが記録され、光記録媒体10の情報層20に含まれた記録膜15から、データが再生されるように構成されており、光透過層19の表面によって、光入射面19aが構成されている。
本実施態様にかかる光記録媒体10の記録膜15は、記録マークを形成するための膜であり、相変化材料によって形成され、単一の膜によって構成されている。相変化材料は、結晶状態である場合の反射率とアモルファス状態である場合の反射率とが異なるため、これを利用して、データが記録され、記録されたデータが再生される。
本実施態様にかかる光記録媒体10においては、記録膜15に形成された記録マークを消去するために、そのパワーが消去パワーPeに設定されたレーザビームLを、記録膜15上を、グルーブ11aに沿って、記録マークの前端部52から後端部53(図3に示す矢印Dの方向)に向けて、相対的に移動させて、記録膜15の記録マークが形成された記録膜の領域に、レーザビームLを照射して、記録膜15の記録マークが形成された記録膜の領域を、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、次いで、記録膜15の記録マークが形成された記録膜の領域を徐冷する際に、図3(a)ないし(e)に示されるように、記録マークを形成しているアモルファス領域50の後端部53から前端部52に向かって、略逆U字状あるいは略逆V字状に、急速に、アモルファス領域50の結晶化が進行して、アモルファス領域50が結晶化されるように構成されている。
本発明者の研究によれば、このようにして、記録膜15の記録マークを形成しているアモルファス領域50が結晶化される場合には、アモルファス領域50が、急速に、結晶化するため、図9に示されるように、記録マークの周囲の結晶領域51が、記録マークの中心部に向かって、結晶化して、記録マークを形成しているアモルファス領域50が、その外周から中心部に向けて、結晶化される場合に比して、記録膜15の記録マークを形成しているアモルファス領域50を速やかに結晶化させることができるから、記録膜15に記録マークを形成して、データを記録した光記録媒体10を、長期間にわたって、高温下で保存した後に、新たなデータによって、初めて、ダイレクトオーバーライトするときにも、記録膜15に形成された記録マークを、速やかに、かつ、確実に消去することができ、したがって、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを効果的に防止し得ることが見出されている。
記録膜15を形成するための材料は、このようにして、記録膜15の記録マークを形成しているアモルファス領域50が結晶化される相変化材料であれば、とくに限定されるものではないが、79原子%ないし95原子%のSbと、5原子%ないし21原子%のGeとを主成分として含み、周期表の第16族元素を含まない相変化材料が、記録膜15を形成するために好ましく用いられ、81原子%ないし90原子%のSbと、10原子%ないし19原子%のGeとを主成分として含み、周期表の第16族元素を含まない相変化材料が、記録膜15を形成するために、とくに好ましく用いられる。このような相変化材料によって記録膜15を形成した場合には、上述のようにして、記録膜15の記録マークを形成しているアモルファス領域50が結晶化されるとともに、記録膜15の記録マークを形成しているアモルファス領域50が、高い熱的安定性を有し、光記録媒体10の保存時に、アモルファス領域50が結晶化することを防止することができ、したがって、光記録媒体10の保存信頼性を向上させ得ることが可能になる。
記録膜15を形成するための相変化材料には、さらに、Sb、Geおよび周期表の第16族元素以外の元素が添加されていてもよい。
本実施態様において、上述のようにして、記録膜15に含まれた相変化材料が結晶化される場合には、記録膜15の膜厚にかかわらず、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを効果的に防止することが可能になるが、記録膜15の膜厚が2nmないし15nmであるときには、とくに記録膜15の膜厚が4nmないし9nmであるときには、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを、より一層、確実に防止することが可能になる。したがって、本実施態様においては、記録膜15は、2nm以上、15nm以下の膜厚を有するように形成されている。
記録膜15は、たとえば、記録膜15の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、第三の誘電体膜14の表面上に形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、スパッタリング法によって、記録膜15を形成することが好ましい。
支持基板11は、光記録媒体10に求められる機械的強度を確保するための支持体として、機能する。支持基板11を形成するための材料は、光記録媒体10の支持体として機能することができれば、とくに限定されるものではいが、樹脂が好ましく使用される。このような樹脂としては、加工性、光学特性などの点から、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂がとくに好ましく、本実施態様においては、支持基板11は、ポリカーボネート樹脂によって形成されている。
本実施態様においては、支持基板11は、約1.1mmの厚さを有している。
本実施態様においては、レーザビームLは、支持基板11とは反対側に位置する光透過層19を介して、情報層20に照射されるから、支持基板11が、光透過性を有していることは必ずしも必要ではない。
支持基板11の表面には、グルーブ11aが形成されている。支持基板11の表面に形成されたグルーブ11aは、情報層20に含まれた記録膜15に、データを記録する場合において、レーザビームLのガイドトラックとして機能する。
表面に、グルーブ11a有する支持基体11は、たとえば、スタンパを用いた射出成形法などによって作製される。
第四の誘電体膜12は、後述する反射膜13とともに、レーザビームLの照射によって、記録膜15に生じた熱を効果的に放熱させる役割を果たす。第四の誘電体膜12を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、Ti、Zr、Hf、Ta、Si、Al、Mg、Y、Ce、Znよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物、窒化物、硫化物、炭化物、フッ化物、あるいは、これらの複合物などが用いられる。本実施態様においては、第四の誘電体膜12は、結晶粒径が20nm以下の酸化ジルコニウムを主成分として含み、立方晶系の結晶質構造を有している。第四の誘電体膜12が、結晶粒径が20nm以下の酸化ジルコニウムを主成分として含み、立方晶系の結晶質構造を有している場合には、レーザビームLの照射によって、記録膜15に生成された熱を速やかに放熱させることができる。
第四の誘電体膜12は、3nmないし15nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。第四の誘電体膜12の厚さが、3nm未満の場合には、放熱効果が低下し、15nmを越えている場合には、第四の誘電体膜12を成膜するときに生じる内部応力が大きくなり、第四の誘電体膜12にクラックが生じやすくなる。
第四の誘電体膜12は、たとえば、スパッタリング法などによって形成される。
反射膜13は、光透過層19を介して、記録膜15に照射されるレーザビームLを反射し、再び、光透過層19から出射させる役割を果たすとともに、レーザビームLが照射されることによって、記録膜15に生じた熱を効果的に放熱させる役割を果たす。反射膜13を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、Mg、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ag、Pt、Nd、Auなどが用いられ、これらのうちでも、高い反射率を有しているAl、Au、Ag、Cu、または、AgとCuとの合金など、これらの金属の少なくとも1つを含む合金などの金属材料が、反射膜13を形成するために、好ましく用いられる。とくに、反射膜13が、Agを含んでいる場合には、表面平滑性に優れた反射膜13を形成することができ、再生信号のノイズレベルを低減することが可能になり、好ましい。
反射膜13の厚さは、とくに限定されるものではないが、5nmないし25nmであることが好ましく、7nmないし18nmであることが、とくに好ましい。
反射膜13は、たとえば、スパッタリング法などによって形成される。
第三の誘電体膜14は、第二の誘電体膜16とともに、記録膜15を物理的および化学的に保護する役割を果たすとともに、レーザビームLの照射によって、記録膜15に生じた熱を、反射膜13側に放熱させる機能を有している。第三の誘電体膜14を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、第四の誘電体膜12を形成するための材料と同様の材料が用いられる。本実施態様において、第三の誘電体膜14は、第四の誘電体膜12と同様に、結晶粒径が20nm以下の酸化ジルコニウムを主成分として含み、立方晶系の結晶質構造を有しており、この場合には、レーザビームLの照射によって、記録膜15に生成された熱を速やかに放熱させることができる。
第三の誘電体膜14は、3nmないし15nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。第三の誘電体膜14の厚さが、3nm未満の場合には、第三の誘電体膜14を連続膜として形成することが困難となり、15nmを越えている場合には、第三の誘電体膜14を成膜するときに生じる内部応力が大きくなり、第三の誘電体膜14にクラックが生じやすくなる。
第三の誘電体膜14は、たとえば、スパッタリング法などによって、形成される。
第二の誘電体膜16は、第三の誘電体膜14とともに、記録膜15を物理的および化学的に保護する役割を果たすとともに、レーザビームLの照射によって、記録膜15に生じた熱を、後述する放熱膜18側に放熱させる機能を有している。第二の誘電体膜16を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、第四の誘電体膜12および第三の誘電体膜14を形成するための材料と同様の材料が用いられる。本実施態様において、第二の誘電体膜16は、第四の誘電体膜12および第三の誘電体膜14と同様に、結晶粒径が20nm以下の酸化ジルコニウムを主成分として含み、立方晶系の結晶質構造を有しており、この場合には、レーザビームLの照射によって、記録膜15に生成された熱を速やかに放熱させることができる。
第二の誘電体膜16は、3nmないし15nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。第二の誘電体膜16の厚さが、3nm未満である場合には、放熱効果が低下し、15nmを越えている場合には、第二の誘電体膜16を成膜するときに生じる内部応力が大きくなり、第二の誘電体膜16にクラックが生じやすくなる。
第二の誘電体膜16は、たとえば、スパッタリング法などによって形成される。
第一の誘電体膜17は、第二の誘電体膜16と放熱膜18との密着性を高める機能を有している。第一の誘電体膜17を形成するための材料は、レーザビームLに対して高い光透過性を有し、かつ、第二の誘電体膜16および放熱膜18との密着性が高い材料であれば、とくに限定されるものではないが、ZnSとSiO2との混合物によって、第一の誘電体膜17を形成することが好ましい。第一の誘電体膜17が、ZnSとSiO2との混合物によって形成されている場合には、ZnSとSiO2のモル比は、60:40ないし95:5であることが好ましい。ZnSのモル比が、60%未満の場合には、第一の誘電体膜17の屈折率が低下して、記録マークが形成された記録膜15の領域と、記録マークが形成されていない記録膜15の領域との反射率の差が低下するおそれがある。一方、ZnSのモル比が、95%を越えている場合には、第一の誘電体膜17を完全な透明膜として形成することが困難であり、信号出力が低下するなどの悪影響がでてくる。
第一の誘電体膜17は、5nmないし50nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。第一の誘電体膜17の厚さが、5nm未満の場合には、放熱膜18にクラックが生じやすくなり、50nmを越える場合には、放熱効果が低下するおそれがある。
第一の誘電体膜17は、たとえば、スパッタリング法などによって形成される。
放熱膜18は、第一の誘電体膜17を介して、記録膜15から伝達された熱を放熱する役割を果たす。放熱膜18を形成するための材料は、レーザビームLに対して高い光透過性を有し、かつ、記録膜15に生じた熱を放熱することができれば、とくに限定されるものではないが、第一の誘電体膜17の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する材料が、具体的には、AlN、Al2O3、SiN、ZnS、ZnO、SiO2などが好ましく用いられる。
放熱膜18は、20nmないし70nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。放熱膜18の厚さが、20nm未満の場合には、充分な放熱効果を得られないおそれがあり、一方、70nmを越える場合には、放熱膜18の成膜に長い時間を要するため、生産性が低下するおそれがある。
放熱膜18は、たとえば、スパッタリング法などによって形成される。
図2に示されるように、放熱膜18の表面上には、光透過層19が形成されている。
光透過層19を形成するための材料は、光学的に透明で、レーザビームLの波長領域である380nmないし450nmの波長での光学吸収や反射が少なく、複屈折率が小さいことが要求されるが、これらの条件を満足する材料であれば、とくに限定されるものではなく、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などを含有する樹脂組成物が好ましく使用され、紫外線硬化型アクリル樹脂を含有する樹脂組成物が、より好ましく使用される。
光透過層19は、30μmないし200μmの厚さを有するように形成されることが好ましい。
光透過層19は、樹脂組成物の溶液を、スピンコーティング法によって、放熱層16の表面上に塗布して、形成されることが好ましいが、光透過性樹脂によって形成されたシートを、接着剤を用いて、放熱層18の表面に接着して、光透過層19を形成することもできる。
以上のように構成された本実施態様にかかる光記録媒体10の情報層20に含まれた記録膜15に、データを記録し、記録膜15に記録されたデータに、新たなデータをダイレクトオーバーライトする場合には、記録パワーPw、消去パワーPeおよび基底パワーPbとの間で、そのパワーが変調されたレーザビームLが、光透過層19を介して、記録膜15にフォーカスされる。
高い記録密度で、光記録媒体10の記録膜15にデータを記録するためには、380nmないし450nmの波長を有するレーザビームLを、開口数NAが0.7以上の対物レンズを用いて、光記録媒体10の記録膜15にフォーカスさせることが好ましく、λ/NA≦640nmであることがより好ましい。
本実施態様においては、405nmの波長を有するレーザビームLが、開口数が0.85の対物レンズ(図示せず)を用いて、光記録媒体10の記録膜15にフォーカスされるように構成されている。
光記録媒体10の記録膜15に、記録マークを形成して、データを記録するにあたっては、光記録媒体10を回転させながら、そのパワーが記録パワーPwに設定されたレーザビームLが、光透過層19を介して、記録膜15に照射され、レーザビームLが照射された記録膜15の領域が、相変化材料の融点以上の温度に加熱されて、溶融される。次いで、そのパワーが基底パワーPbに設定されたレーザビームLが、光透過層19を介して、記録膜15に照射され、溶融した記録膜15の領域が急冷されて、相変化材料が、結晶状態から、アモルファス状態に変化する。
こうして、記録膜15に記録マークが形成され、データが記録される。
一方、記録膜15に形成された記録マークを消去する場合には、そのパワーが消去パワーPeに設定されたレーザビームLが、光透過層19を介して、記録膜15の記録マークが形成された領域に照射され、レーザビームLが照射された記録膜15の領域が、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱される。次いで、レーザビームLが、加熱された記録膜15の領域から遠ざけられ、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱された記録膜15の領域が徐冷される。
その結果、相変化材料が結晶化し、レーザビームLが照射された記録膜15の領域に形成されていた記録マークが消去される。
本実施態様においては、記録膜15が、79原子%ないし95原子%のSbと、5原子%ないし21原子%のGeとを主成分として含み、周期表の第16族元素を含まない相変化材料によって、形成されており、記録膜15がかかる相変化材料によって形成されている場合には、そのパワーが消去パワーPeに設定されたレーザビームLを、記録膜15上を、グルーブ11aに沿って、記録マークの前端部52から後端部53に向けて、相対的に移動させて、記録膜15の記録マークが形成された記録膜の領域に、レーザビームLを照射して、記録膜15の記録マークが形成された記録膜の領域を、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、次いで、記録膜15の記録マークが形成された記録膜の領域を徐冷する際に、記録マークを形成しているアモルファス領域50の後端部53から前端部52に向かって、略逆U字状あるいは略逆V字状に、急速に、アモルファス領域50の結晶化が進行し、アモルファス領域50が結晶化されるから、記録膜15に記録マークを形成して、データを記録した光記録媒体10を、長期間にわたって、高温下で保存した後に、このデータを、新たなデータによって、初めて、ダイレクトオーバーライトするときに、記録膜15に形成された記録マークを、速やかに、かつ、確実に消去することができ、したがって、データをダイレクトオーバーライトして、記録した新たなデータを再生したときの再生信号のジッタが悪化することを効果的に防止することが可能になるとともに、光記録媒体10の保存信頼性を向上させることが可能になる。
これに対して、光記録媒体10の記録膜15に記録されたデータを再生するにあたっては、光記録媒体10を回転させながら、そのパワーが再生パワーPrに設定されたレーザビームLが、光透過層19を介して、光記録媒体10の記録膜15にフォーカスされる。
こうして、光記録媒体10の記録膜15にフォーカスされたレーザビームLは、記録膜15および反射膜13によって反射され、記録膜15および反射膜13によって反射されたレーザビームLの光量が検出される。
記録膜15に含まれている相変化材料は、結晶状態の反射率とアモルファス状態の反射率とが異なるため、反射率の差を利用して、記録膜15に記録されたデータを再生することができる。
以下、本発明の効果をより明瞭なものとするため、実施例を掲げる。
実施例1
以下のようにして、光記録媒体サンプル#1を作製した。
まず、射出成型法により、厚さが1.1mm、直径が120mmで、表面に、グルーブが、0.32μmのグルーブピッチで形成されたポリカーボネート基板を作製した。
次いで、ポリカーボネート基板を、スパッタリング装置にセットし、グルーブが形成された表面上に、酸化ジルコニウムを主成分として含み、5nmの厚さを有する第四の誘電体膜、98原子%のAg、1原子%のPdおよび1原子%のCuからなる合金を含み、10nmの厚さを有する反射膜、酸化ジルコニウムを主成分として含み、4nmの厚さを有する第三の誘電体膜、84原子%のSbと16原子%のGeからなる相変化材料を含み、7nmの厚さを有する記録膜、酸化ジルコニウムを主成分として含み、5nmの厚さを有する第二の誘電体膜、モル比が80:20のZnSとSiO2の混合物を主成分として含み、10nmの厚さを有する第一の誘電体膜、ならびに、窒化アルミニウムを主成分として含み、50nmの厚さを有する放熱膜を、順次、スパッタリング法により形成した。
ここに、第二の誘電体膜、第三の誘電体膜および第四の誘電体膜は、アルゴンガス雰囲気中で、ZrO2ターゲットを用いたスパッタリング法によって形成した。
このようにして形成された第二の誘電体膜、第三の誘電体膜および第四の誘電体膜が、それぞれ有する結晶質構造およびその結晶粒径を、理学電気株式会社製のX線回析装置「ATX-G」(商品名)を用いて、解析し、測定したところ、第二の誘電体膜、第三の誘電体膜および第四の誘電体膜は、いずれも、結晶粒径が20nm以下の酸化ジルコニウムを主成分として含み、立方晶系の結晶質構造を有していた。
また、反射膜は、アルゴンガス雰囲気中で、98原子%のAg、1原子%のPdおよび1原子%のCuからなる合金ターゲットを用いたスパッタリング法によって形成した。
記録膜は、アルゴンガス雰囲気中で、SbGe合金ターゲットを用いたスパッタリング法によって形成した。
第一の誘電体膜は、アルゴンガス雰囲気中で、モル比が80:20のZnSとSiO2の混合物を主成分とするターゲットを用いたスパッタリング法によって形成した。
放熱膜は、アルゴンガスおよび窒素ガス雰囲気中で、Alターゲットを用いた反応性スパッタリング法によって形成した。
次いで、AlN放熱膜の表面上に、紫外線硬化性アクリル樹脂の溶液を、スピンコーティング法によって、塗布して、塗膜を形成し、塗膜に、紫外線を照射して、紫外線硬化性アクリル樹脂を硬化させ、100μmの厚さを有する光透過層を形成した。
その後、810nmの波長を有する半導体レーザを用いて、出力500mWで、光記録媒体に初期化処理を施し、記録膜を結晶化させた。
こうして、光記録媒体サンプル#1を作製した。
次いで、89.5原子%のSbと10.5原子%のGeからなる相変化材料を含み、7nmの厚さを有する記録膜を形成した点を除き、光記録媒体サンプル#1と同様にして、光記録媒体サンプル#2を作製した。
さらに、0.8原子%のInと、71.1原子%のSbと、16.4原子%のTeと、5.5原子%のGeと、6.2原子%のMnとからなる相変化材料を含み、7nmの厚さを有する記録膜を形成した点を除き、光記録媒体サンプル#1と同様にして、光記録媒体比較サンプル#1を作製した。
次いで、77.8原子%のSbと22.2原子%のGeからなる相変化材料を含み、7nmの厚さを有する記録膜を形成した点を除き、光記録媒体サンプル#1と同様にして、光記録媒体比較サンプル#2を作製した。
さらに、100原子%のSbからなる相変化材料を含み、7nmの厚さを有する記録膜を形成した点を除き、光記録媒体サンプル#1と同様にして、光記録媒体比較サンプル#3を作製した。
次いで、各サンプルを、パルステック工業株式会社製の光記録媒体評価装置「DDU1000」(商品名)にセットし、10.5m/secの線速度で回転させながら、チャンネルクロック周波数132MHz、チャンネルビット長0.12μm/bitで、405nmの波長を有し、そのパワーが、記録パワーPwと基底パワーPbとの間で、所定のパターンにしたがって、変調されたレーザビームを、開口数NAが0.85の対物レンズを用いて、光透過層を介して、記録膜に照射し、1,7RLL変調方式における8Tに対応する長さを有する記録マークを形成し、記録膜にアモルファス領域を形成した。
ここに、光記録媒体サンプル#1に記録マークを形成する場合には、レーザビームの記録パワーPwを10.2mWに設定するとともに、消去パワーPeを3.8mWに設定し、光記録媒体サンプル#2に記録マークを形成する場合には、レーザビームの記録パワーPwを10.2mWに設定するとともに、消去パワーPeを3.4mWに設定し、光記録媒体比較サンプル#1に記録マークを形成する場合には、レーザビームの記録パワーPwを10.5mWに設定するとともに、消去パワーPeを3.8mWに設定し、光記録媒体比較サンプル#2に記録マークを形成する場合には、レーザビームの記録パワーPwを9.5mWに設定するとともに、消去パワーPeを6.0mWに設定し、光記録媒体比較サンプル#3に記録マークを形成する場合には、レーザビームの記録パワーPwを10.0mWに設定するとともに、消去パワーPeを3.4mWに設定した。また、いずれの場合においても、基底パワーPbは0.3mWに設定し、再生パワーPrは0.7mWに設定した。
しかしながら、光記録媒体比較サンプル#3においては、相変化材料の結晶化速度が速すぎて、溶融後すぐに再結晶化してしまい、記録膜にアモルファス領域を形成して、記録マークを形成することができなかった。
次いで、光記録媒体サンプル#1および光記録媒体比較サンプル#1を、それぞれ、上述の光記録媒体評価装置「DDU1000」(商品名)にセットし、そのパワーが、1.5mWの消去パワーPeに設定されレーザビームを用いた点を除き、上述の記録マークを形成した場合と同様にして、上述のようにして形成した記録マークの一部を結晶化させた。
こうして、1枚のサンプルに、アモルファス領域と、その一部分のみが結晶化されたアモルファス領域とを形成し、透過型電子顕微鏡(TEM)用のサンプルを作製し、透過型電子顕微鏡によって、アモルファス領域と、その一部分のみが結晶化されたアモルファス領域とを観察した。
このようにして、アモルファス領域が結晶化するプロセスを調べた。
光記録媒体サンプル#1の記録膜に形成されたアモルファス領域が結晶化するプロセスは、図4に概略的に示され、光記録媒体比較サンプル#1の記録膜に形成されたアモルファス領域が結晶化するプロセスは、図5に概略的に示されている。
図4(a)は、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを照射する前の光記録媒体サンプル#1の記録膜に形成されたアモルファス領域を概略的に示した図であり、図4(b)は、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを、光記録媒体サンプル#1の記録膜のアモルファス領域が形成された領域に照射して、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、次いで、徐冷して、一部分のみが結晶化されたアモルファス領域を概略的に示している。
図4に示されるように、光記録媒体サンプル#1の記録膜のアモルファス領域が形成された領域に、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを、記録マークの前端部52から後端部53に向けて、相対的に移動させて、レーザビームLを照射して、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、次いで、記録膜のアモルファス領域が形成された領域を徐冷すると、記録マークを形成しているアモルファス領域の後端部53から前端部52に向かって、略逆U字状あるいは略逆V字状に、アモルファス領域の結晶化が進行し、アモルファス領域が結晶化されることが確認された。
図5(a)は、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを照射する前の光記録媒体比較サンプル#1の記録膜に形成されたアモルファス領域を概略的に示した図であり、図5(b)は、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを、光記録媒体比較サンプル#1の記録膜のアモルファス領域が形成された領域に照射して、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、次いで、徐冷して、一部分のみが結晶化されたアモルファス領域を概略的に示している。
図5に示されるように、光記録媒体比較サンプル#1の記録膜のアモルファス領域が形成された領域に、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームLを照射して、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、次いで、記録膜のアモルファス領域が形成された領域を徐冷すると、記録マークの周囲の結晶状態にある相変化材料が、記録マークの中心部に向かって、結晶化して、記録マークを形成しているアモルファス状態の相変化材料が、記録マークの外周から中心部に向けて、結晶化することが確認された。
実施例2
実施例1と同様にして、光記録媒体サンプル#1および#2ならびに光記録媒体比較サンプル#1および#2を作製し、各サンプルを上述の光記録媒体評価装置にセットし、実施例1の記録マークを形成した場合と同様にして、各サンプルに、1,7RLL変調方式における2Tないし8Tの長さを有する記録マークを、ランダムに組み合わせて、ランダム信号を記録した。
次いで、そのパワーが、記録パワーPwと基底パワーPbとの間で、以下に示す消去パワーに設定され、所定のパターンにしたがって、変調されたレーザビームを用いた点を除いて、このランダム信号を記録した時と同様にして、このランダム信号に、新たなランダム信号を、ダイレクトオーバーライトした。
ここに、光記録媒体サンプル#1に新たなランダム信号をダイレクトオーバーライトする場合には、レーザビームの消去パワーPeを2.6mWに設定し、光記録媒体サンプル#2に新たなランダム信号をダイレクトオーバーライトする場合には、レーザビームの消去パワーPeを2.2mWに設定し、光記録媒体比較サンプル#1に新たなランダム信号をダイレクトオーバーライトする場合には、レーザビームの消去パワーPeを3.0mWに設定した。光記録媒体比較サンプル#2においては、レーザビームの消去パワーPeをいかなる値に設定しても、記録されたランダム信号をダイレクトオーバーライトすることができなかった。
次いで、光記録媒体サンプル#1および#2ならびに光記録媒体比較サンプル#1を、それぞれ、上述の光記録媒体評価装置にセットし、ランダム信号を記録した場合と同様の条件で、データをダイレクトオーバーライトして、記録したランダム信号を再生し、再生信号のクロックジッタ(%)を測定して、初期ダイレクトオーバーライト特性を評価した。
ここに、クロックジッタは、タイムインターバルアナライザによって、再生信号のゆらぎσを求め、σ/Tw(Tw:クロックの1周期)によって、算出した。
光記録媒体サンプル#1についての測定結果は、図6の曲線A0によって示され、光記録媒体サンプル#2についての測定結果は、図7の曲線B0によって、光記録媒体比較サンプル#1についての測定結果は、図8の曲線C0によって、それぞれ、示されている。
さらに、消去パワーPeを、0.4mWずつ、5.0mWまで、順次、変化させた点を除き、同様にして、光記録媒体サンプル#1に既に記録されていたランダム信号を、新たなランダム信号によって、ダイレクトオーバーライトして、新たに記録したランダム信号を再生し、再生信号のクロックジッタ(%)を測定した。測定結果は、図6の曲線A0によって、示されている。
次いで、消去パワーPeを、0.4mWずつ、4.6mWまで、順次、変化させた点を除き、同様にして、光記録媒体サンプル#2に既に記録されていたランダム信号を、新たなランダム信号によって、ダイレクトオーバーライトして、新たに記録したランダム信号を再生し、再生信号のクロックジッタ(%)を測定した。測定結果は、図7の曲線B0によって、示されている。
さらに、消去パワーPeを、0.4mWずつ、4.6mWまで、順次、変化させた点を除き、同様にして、光記録媒体比較サンプル#1に既に記録されていたランダム信号を、新たなランダム信号によって、ダイレクトオーバーライトして、新たに記録したランダム信号を再生し、再生信号のクロックジッタ(%)を測定した。測定結果は、図8の曲線C0によって、示されている。
実施例3
実施例2と同様にして、1,7RLL変調方式における2Tないし8Tの長さを有する記録マークを、ランダムに組み合わせて、ランダム信号を記録した光記録媒体サンプル#1および#2ならびに光記録媒体比較サンプル#1を作製し、各サンプルを、それぞれ、80℃、10%RHの環境下で、24時間にわたって、保存し、高温保存試験を行った。
次いで、高温保存試験後の各サンプルを、それぞれ、上述の光記録媒体評価装置にセットし、実施例2と同様にして、各サンプルに既に記録されていたランダム信号を再生し、再生信号のクロックジッタ(%)を測定したところ、いずれのサンプルにおいても、高温保存試験前に測定されたクロックジッタの測定値とほぼ同じ測定値が得られ、保存信頼性が高いことが判明した。
次いで、高温保存試験後の各サンプルを、実施例2と同様にして、高温保存試験前に記録されたランダム信号を、新たなランダム信号によって、1回、および、10回にわたって繰り返して、ダイレクトオーバーライトし、新たに記録したランダム信号を、それぞれ、再生し、再生信号のクロックジッタ(%)を測定して、それぞれ、高温保存試験後に、初めて、ダイレクトオーバーライトしたときの初期ダイレクトオーバーライト特性、および、高温保存試験後に、繰り返し、ダイレクトオーバーライトしたときの繰り返しダイレクトオーバーライト特性を評価した。
光記録媒体サンプル#1について、高温保存試験後に、初めて、ダイレクトオーバーライトしたときの初期ダイレクトオーバーライト特性の測定結果は図6の曲線A1によって、高温保存試験後に、繰り返し、ダイレクトオーバーライトしたときの繰り返しダイレクトオーバーライト特性の測定結果は図6の曲線A10によって示され、光記録媒体サンプル#2について、高温保存試験後に、初めて、ダイレクトオーバーライトしたときの初期ダイレクトオーバーライト特性の測定結果は図7の曲線B1によって、高温保存試験後に、繰り返し、ダイレクトオーバーライトしたときの繰り返しダイレクトオーバーライト特性の測定結果は図7の曲線B10によって示され、光記録媒体比較サンプル#1について、高温保存試験後に、初めて、ダイレクトオーバーライトしたときの初期ダイレクトオーバーライト特性の測定結果は図8の曲線C1によって、高温保存試験後に、繰り返し、ダイレクトオーバーライトしたときの繰り返しダイレクトオーバーライト特性の測定結果は図8の曲線C10によって示されている。
図6、図7および図8に示されるように、光記録媒体サンプル#1および#2ならびに光記録媒体比較サンプル#1のいずれにあっても、高温保存試験後の繰り返しダイレクトオーバーライト特性を評価したときの再生信号のジッタは、初期ダイレクトオーバーライト特性を評価したときの再生信号のジッタと大きな差がないことがわかった。
しかしながら、光記録媒体サンプル#1および#2にあっては、高温保存試験後の初期ダイレクトオーバーライト特性を評価したときの再生信号のジッタに、顕著な悪化は認められなかったのに対し、光記録媒体比較サンプル#1にあっては、著しく悪化していることが認められた。
したがって、光記録媒体サンプル#1および#2にあっては、各サンプルを、長期間にわたって、高温下で保存した後においても、各サンプルに記録されたデータを、新たなデータによって、所望のように、ダイレクトオーバーライトすることができるのに対し、光記録媒体比較サンプル#1にあっては、サンプルを、長期間にわたって、高温下で保存した場合には、サンプルに記録されたデータを、新たなデータによって、所望のように、ダイレクトオーバーライトすることができないことが判明した。
本発明は、以上の実施態様および実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
たとえば、前記実施態様においては、光記録媒体10は、光透過層19を備え、レーザビームLが、光透過層19を介して、記録膜15に照射されるように構成されているが、本発明は、かかる構成の光記録媒体に限定されるものではなく、光記録媒体が、光透過性材料によって形成された基板を備え、レーザビームLが、基板を介して、記録膜15に照射されるように構成されていてもよい。
また、前記実施態様においては、光記録媒体10の情報層20に含まれる第二の誘電体膜16、第三の誘電体膜14および第四の誘電体膜12が、いずれも、酸化ジルコニウムを主成分として含んでいるが、第二の誘電体膜16、第三の誘電体膜14および第四の誘電体膜12が、いずれも、酸化ジルコニウムを主成分として含んでいることは必ずしも必要でなく、第二の誘電体膜16、第三の誘電体膜14および第四の誘電体膜12の少なくとも一つが、酸化ジルコニウムを主成分として含んでいればよい。
さらに、前記実施態様においては、光記録媒体10の情報層20に含まれる第三の誘電体膜14および第四の誘電体膜12が、いずれも、反射膜13に隣接して形成されているが、光記録媒体10の情報層に含まれる第三の誘電体膜14および第四の誘電体膜12が、いずれも、反射膜13に隣接して形成されていることは必ずしも必要でなく、情報層の放熱性に、大きな悪影響を与えない範囲で、第三の誘電体膜14と反射膜13の間、および、第四の誘電体膜12と反射膜13の間の両方、または、いずれか一方に、他の膜が介在していてもよい。
また、前記実施態様においては、光記録媒体10は、第四の誘電体膜12、反射膜13、第三の誘電体膜14、記録膜15、第二の誘電体膜16、第一の誘電体膜17および放熱膜18によって構成された情報層20を備えているが、情報層20が、第四の誘電体膜12、反射膜13、第三の誘電体膜14、記録膜15、第二の誘電体膜16、第一の誘電体膜17および放熱膜18によって構成されていることは必ずしも必要でなく、光記録媒体が、反射膜、第二の誘電体膜、記録膜、第一誘電体膜および放熱膜によって構成された情報層を備えていてもよい。
さらに、前記実施態様においては、光記録媒体10は、第四の誘電体膜12、反射膜13、第三の誘電体膜14、記録膜15、第二の誘電体膜16、第一の誘電体膜17および放熱膜18によって構成された一層の情報層20を備えているが、光記録媒体10が、一層の情報層20を備えていることは必ずしも必要でなく、光記録媒体が二層以上の情報層を備えていてもよい。
図1は、本発明の好ましい実施態様の光記録媒体の外観を示す一部切り欠き略斜視図である。
図2は、図1のAで示された部分の略拡大断面図である。
図3は、アモルファス状態にある相変化材料が結晶化するプロセスを概略的に示した図であり、図3(a)は、モルファス状態にある相変化材料を概略的に示した図であり、図3(b)は、アモルファス状態にある相変化材料が結晶化するプロセスの初期段階を概略的に示した図であり、図3(c)は、アモルファス状態にある相変化材料が結晶化するプロセスの中期段階を概略的に示した図であり、図3(d)は、アモルファス状態にある相変化材料が結晶化するプロセスの後期段階を概略的に示した図であり、図3(e)は、アモルファス状態にある相変化材料が結晶化した状態を概略的に示した図である。
図4は、光記録媒体サンプル#1の記録膜に形成されたアモルファス領域が結晶化するプロセスを概略的に示した図であり、図4(a)は、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを照射する前の光記録媒体サンプル#1の記録膜に形成されたアモルファス領域を概略的に示した図であり、図4(b)は、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを、光記録媒体サンプル#1の記録膜のアモルファス領域が形成された領域に照射して、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、次いで、徐冷して、一部分のみが結晶化されたアモルファス領域を概略的に示した図である。
図5は、光記録媒体比較サンプル#1の記録膜に形成されたアモルファス領域が結晶化するプロセスを概略的に示した図であり、図5(a)は、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを照射する前の光記録媒体比較サンプル#1の記録膜に形成されたアモルファス領域を概略的に示した図であり、図5(b)は、1.5mWの消去パワーPeに設定されたレーザビームを、光記録媒体比較サンプル#1の記録膜のアモルファス領域が形成された領域に照射して、相変化材料の結晶化温度以上の温度に加熱し、次いで、徐冷して、一部分のみが結晶化されたアモルファス領域を概略的に示した図である。
図6は、光記録媒体サンプル#1の初期ダイレクトオーバーライト特性、高温保存試験後の初期ダイレクトオーバーライト特性および高温保存試験後の繰り返しダイレクトオーバーライト特性を示すグラフである。
図7は、光記録媒体サンプル#2の初期ダイレクトオーバーライト特性、高温保存試験後の初期ダイレクトオーバーライト特性および高温保存試験後の繰り返しダイレクトオーバーライト特性を示すグラフである
図8は、光記録媒体比較サンプル#1の初期ダイレクトオーバーライト特性、高温保存試験後の初期ダイレクトオーバーライト特性および高温保存試験後の繰り返しダイレクトオーバーライト特性を示すグラフである
図9は、Sb70Te30共晶組成の相変化材料を用いた記録膜に形成されたアモルファス領域が結晶化するプロセスを概略的に示した図である。
符号の説明
10 光記録媒体
11 支持基板
12 第四の誘電体膜
13 反射膜
14 第三の誘電体膜
15 記録膜
16 第二の誘電体膜
17 第一の誘電体膜
18 放熱膜
19 光透過層
50 アモルファス領域
51 結晶領域
52 前端部
53 後端部