JP2006014637A - 癌特異的腫瘍抗原 - Google Patents

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Abstract

【課題】HLA−A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球によって特異的に認識される腫瘍抗原ペプチド及びそれをコードするDNA、該ペプチド又はそれをコードするDNAを利用して得られるHLA−A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球、及びその誘導方法、並びにそれらの腫瘍抗原ペプチド又はそれをコードするDNAを含有する癌ワクチンの提供。
【解決手段】NYGFQIHTK(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドである、腫瘍抗原ペプチド。
【選択図】なし

Description

本発明は、癌特異的腫瘍抗原ペプチド、及び該抗原ペプチドの癌ワクチン療法における使用に関する。
近年、生体内での腫瘍拒絶においては、細胞性免疫を担う細胞障害性Tリンパ球が大きな役割を果すことが明らかになってきている。具体的には、細胞障害性Tリンパ球が腫瘍細胞上に提示される腫瘍抗原を認識して、その腫瘍細胞を殺傷することにより、腫瘍が排除される。
腫瘍抗原としては、1991年にベルギーのLudwig癌研究所のBoon T.らが、自己腫瘍特異的細胞障害性Tリンパ球をプローブとしたcDNA発現クローニング法を用いることにより、悪性黒色腫の腫瘍拒絶抗原をコードするMAGE遺伝子を初めて同定した(非特許文献1)。さらに1994年にはNIHのRosenberg S.A.らが腫瘍抗原をコードするMART-1, gp100を悪性黒色腫から同定した(非特許文献2及び3)。それ以来、腫瘍抗原をコードする多くの遺伝子が同定されてきている。それらの一部の腫瘍抗原については、主要組織適合抗原(MHC)クラスI溝内に提示されるペプチドエピトープも同定されており、そのような腫瘍抗原ペプチドの刺激によってin vitroで腫瘍細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を誘導できることも報告されている(例えば、特許文献1及び2)。さらに、それらの腫瘍抗原ペプチドを用いたワクチン療法についても主に悪性黒色腫患者において一部その臨床効果が報告されている。
一般に腫瘍拒絶においては、腫瘍抗原はまず、腫瘍細胞内でタンパク質として産生された後、8〜11アミノ酸のペプチドに分解されて抗原ペプチドとなり、主要組織適合抗原(MHC)であるヒト白血球抗原(HLA)分子と結合して、複合体として腫瘍細胞表面上に提示される。細胞障害性Tリンパ球は、この腫瘍細胞上の抗原ペプチドとHLA分子との複合体を認識して、腫瘍細胞を殺傷する。細胞障害性Tリンパ球が、腫瘍抗原ペプチドを認識する際にその腫瘍抗原ペプチドに結合したHLA分子をも同時に認識する現象は、HLA拘束性と呼ばれている。このHLA分子は、ほとんど全ての有核細胞上に発現している細胞膜抗原であり、クラスI抗原とクラスII抗原に大別される。このうち、抗原ペプチドと結合した状態で細胞上に提示され、細胞障害性Tリンパ球によって認識されるのは、クラスI抗原である。HLAクラスIは、さらにHLA-A、HLA-B、及びHLA-Cなどに分類される。これらのHLAクラスIは多様性に富むことが知られており、例えば、HLA-AにはHLA-A1、HLA-A2、HLA-A24、HLA-A34など、HLA-BにはHLA-B8、HLA-B27、HLA-B46、HLA-B53など、HLA-CにはHLA-Cw1、HLA-Cw3、HLA-Cw6などの多型が存在する。ヒト個体は、これらのHLAクラスI遺伝子を、個体ごとに異なる多型の組み合わせで有する。このHLAクラスI遺伝子の集団内出現頻度がヒト集団によって異なることも報告されており、例えばHLA-A24遺伝子(HLA-A24アリル)は、日本人の人口の約60%、白人の約20%、アフリカ人の約12%が保有している。自己腫瘍細胞だけでなく他家腫瘍細胞も障害できる細胞障害性Tリンパ球を誘導可能な腫瘍抗原ペプチド(共通抗原)であって、ヒト集団中での出現頻度が高いHLA分子に結合可能な腫瘍抗原ペプチドが同定されれば、多くの症例に応用可能となり大変有用と考えられる。
肺癌においては、肺癌細胞株の樹立が困難なこと、さらに腫瘍細胞表面にリンパ球を活性化させる共刺激分子が減弱・欠如していることなどの理由により、細胞障害性Tリンパ球を誘導・観察できる安定した実験系の確立が難しく、治療に有用と考えられる腫瘍抗原、特に共通抗原はこれまで同定されていない。
癌における細胞障害性Tリンパ球のエピトープとしての腫瘍抗原を同定することは、癌ワクチン療法としての免疫療法を発展させる上で極めて重要である。
国際公開第03/050140号パンフレット 特開平9−151200号公報 Van der Bruggen, P et al., Science, (1991) 254, p.1643-1647 Kawakami, Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1994) 91, p.3515-3519 Kawakami, Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1994) 91, p.6458-6462
本発明は、HLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球(CTL: cytotoxic T lymphocyte)を誘導する腫瘍抗原ペプチド、誘導されたCTL並びにそれらの癌特異的ワクチン療法における使用を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に認識して障害する細胞障害性Tリンパ球クローンを樹立し、その細胞障害性Tリンパ球クローンが認識する腫瘍抗原をコードするcDNAを単離し、さらに、その腫瘍抗原として9アミノ酸配列からなる新規抗原ペプチドを同定した。本発明はこのような成果に基づいて完成されたものであり、すなわち以下の通りである。
[1] NYGFQIHTK(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチド。
[2] 上記[1]記載のペプチドをコードするDNA。
[3] 配列番号2で示される塩基配列を有するDNA。
[4] 上記[2]又は[3]記載のDNAを含む発現ベクター。
[5] NYGFQIHTK(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドをHLA−A24拘束性に認識する細胞障害性Tリンパ球。特に好適な細胞障害性Tリンパ球としては、受託番号 FERM P-19760で示される細胞障害性Tリンパ球が挙げられる。
[6] NYGFQIHTK(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記[5]記載の細胞障害性Tリンパ球によってHLA−A24拘束性に認識される、前記ペプチド。
[7] 上記[1]又は[6]記載のペプチドを含有する、癌の治療用又は予防用のワクチン。
[8] 上記[4]記載の発現ベクターを含有する、癌の治療用又は予防用のワクチン。
[9] 癌が肺癌である、上記[7]又は[8]記載のワクチン。
[10] HLA−A24陽性の患者のための、上記[7]〜[9]記載のワクチン。
[11] 上記[1]又は[6]記載のペプチドをHLA−A24分子に提示した抗原提示細胞。
[12] 上記[5]記載の細胞障害性Tリンパ球を含有する、細胞医薬。
[13] 上記[11]記載の抗原提示細胞を含有する、細胞医薬。
[14] 下記(1)〜(3)の工程を含む、HLA−A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を取得する方法:
(1) 上記[1]又は[6]に記載のペプチドとHLA−A24陽性細胞とを混合培養して、上記[1]又は[6]に記載のペプチドをHLA−A24分子に提示したHLA−A24陽性細胞を調製する工程、
(2) HLA−A24陽性の癌細胞と、HLA−A24陽性のCTL前駆細胞を含む細胞集団とを混合培養し、細胞障害性Tリンパ球を誘導する工程、及び
(3) 工程(1)で調製された細胞と、工程(2)で誘導された細胞障害性Tリンパ球とを混合培養し、細胞障害性Tリンパ球の工程(1)で得られた細胞に対する細胞障害活性を測定する工程。
[15] 下記(1)及び(2)の工程を含む、HLA−A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を誘導する方法:
(1) 上記[1]又は[6]に記載のペプチドと、抗原提示能を有するHLA−A24陽性細胞とを混合培養し、上記[1]又は[6]に記載のペプチドをHLA−A24分子に提示した抗原提示細胞を調製する工程、及び
(2) 工程(1)で調製した抗原提示細胞と、HLA−A24陽性のCTL前駆細胞を含む細胞集団とを混合培養する工程。
本発明の癌特異的腫瘍抗原ペプチドは、細胞上のHLA-A24分子に提示された状態で、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に認識して障害する細胞障害性Tリンパ球によって特異的に認識される抗原ペプチドである。本発明の癌特異的腫瘍抗原ペプチドを用いれば、細胞障害性Tリンパ球による癌細胞に対するHLA-A24拘束性細胞障害活性を特異的に誘導することができる。またこのことを利用すれば、HLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を特異的に選択することも可能である。本発明の癌特異的腫瘍抗原ペプチドはまた、HLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を特異的に誘導することができる。
本発明のHLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球は、本発明の腫瘍抗原ペプチドをHLA-A24拘束性に認識することにより、癌細胞を特異的に障害することができる。この本発明の細胞障害性Tリンパ球は、日本人の約60%が保持しているHLA-A24に結合した腫瘍抗原ペプチドを認識するものであり、さらに自己癌細胞だけでなく他家癌細胞をも特異的に障害することができるため、広範な患者に対して適用可能である。本発明の細胞障害性Tリンパ球はまた、正常細胞を障害しないため、肺癌細胞などの癌細胞を高効率で破壊することができ副作用も少ないと考えられることから、免疫療法において大変有用である。肺癌は他の固形癌に比べて予後の悪い癌である点からも、このように優れた癌細胞障害作用をもつ細胞障害性Tリンパ球は、肺癌を初めとした固形癌の治療及び予防において特に有用である。
さらに、本発明の肺癌特異的抗原ペプチドをコードするDNAは、本発明の腫瘍抗原ペプチドを製造するために使用できるだけでなく、発現ベクターに組み込んでin vitro又はin vivoで発現させることにより、本発明の腫瘍抗原ペプチドを細胞上に抗原提示させるために使用することができる。
本明細書において、「(細胞を)HLA-A24拘束性に障害する」とは、細胞障害性Tリンパ球が、細胞上に発現されたHLA-A24分子とそれに結合した抗原ペプチドとの複合体を認識して、その細胞を殺傷することを意味する。さらに「(細胞障害性Tリンパ球が、抗原ペプチドを)HLA-A24拘束性に認識する」とは、細胞障害性Tリンパ球が、細胞上に発現されたHLA-A24分子とそれに結合した抗原ペプチドとの複合体にT細胞受容体(TCR)を介して特異的に結合して、増殖及び活性化することを意味する。細胞障害性Tリンパ球が抗原ペプチドをHLA-A24拘束性に認識することは、細胞障害性Tリンパ球がその抗原ペプチドを提示した標的細胞に対する細胞障害活性を示すことや同標的細胞に反応してサイトカインを産生することによって確認することができる。
本明細書において「細胞障害性Tリンパ球を誘導する」とは、CTL前駆細胞が抗原刺激を受けて活性化した細胞障害性Tリンパ球が増殖することを意味する。
本明細書において、「癌」とは、上皮性細胞からなる悪性腫瘍(癌腫)、非上皮性細胞からなる悪性腫瘍(肉腫)、及び造血器腫瘍を含む悪性腫瘍を意味する。一般に、造血器腫瘍以外のほとんどの癌は腫瘍塊を形成するので固形腫瘍とも呼ばれる。癌腫の代表例としては、肺癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、胃癌、大腸癌、咽頭癌、喉頭癌、舌癌等が挙げられる。肉腫の代表例としては、骨肉腫、軟骨肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫などが挙げられる。造血器腫瘍の代表例としては、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫などが挙げられる。
本明細書において、「肺癌」とは、肺に発生する悪性腫瘍(例えば、腺癌、肺扁平上皮癌、肺小細胞癌、肺大細胞癌、カルチノイド、腺様嚢胞癌、粘表皮癌、肺胞上皮癌、多型癌など)を意味する。本発明における「肺癌」は、原発性のものでもよいし、転移性のものでもよい。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
1.腫瘍抗原ペプチド及び腫瘍抗原ペプチドをコードするDNA
1つの態様において、本発明の腫瘍抗原ペプチドは、配列番号1で示されるアミノ酸配列(NYGFQIHTK)からなるペプチドである。この腫瘍抗原ペプチドは、肺癌細胞で発現されている、既知遺伝子Taraのスプライシング変異体であるcDNA クローン 214.2(3339bp、配列番号3)中のオープンリーディングフレームにコードされた617アミノ酸からなるタンパク質(腫瘍抗原)の断片であって、塩基配列: AACTATGGCTTCCAGATCCACACCAAG(配列番号2)によってコードされている。本発明において、この配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドが、HLA-A24拘束性に認識する細胞障害性Tリンパ球(例えば、後述する細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5)によって特異的に認識されることが初めて示された。
さらに本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列において1若しくは数個(2〜5個)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドにも関する。このペプチドのうち、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドをHLA-A24拘束性に認識する細胞障害性Tリンパ球(例えば、後述する細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5)によってHLA-A24拘束性に認識されるペプチドは、本発明の腫瘍抗原ペプチドに包含される。
本発明の腫瘍抗原ペプチドは、任意のペプチド合成法によって製造することができる。ペプチド合成法としては、例えば、液相ペプチド合成法、固相ペプチド合成法などの化学合成技術がよく用いられており、固相ペプチド合成法においては自動ペプチド合成装置による合成も一般的に用いられている(例えば、「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992) 日本生化学会編, 東京化学同人;"The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology" Vol. 1-5, ed. by E. Gross, J. Meienhofer; Vol. 6-9, ed. by S. Udenfriend, J. Meienhofer, Academic Press, New York (1979-1987) などを参照されたい)。あるいは、本発明の腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAを用いて組換え法によって、ペプチド合成を行ってもよい。例えば、配列番号2で示される塩基配列からなるDNAを発現ベクター中に組み込み、大腸菌などの発現宿主中に導入して培養することにより、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを製造することができる。製造された腫瘍抗原ペプチドは、さらに、常法により、例えば、ゲルクロマトグラフィー、イオンカラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、硫安、アルコールなどを使用した溶解度差に基づく分画手法、免疫吸着法などにより、精製及び/又は回収することができる。
本発明の腫瘍抗原ペプチドは、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球によってHLA-A24拘束性に認識されることから、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球の選択又は誘導に使用することができる。
さらに本発明の腫瘍抗原ペプチドをコードするDNA(例えば、配列番号2で示される塩基配列からなるDNA)、及びそのDNAを含むベクターも、本発明の範囲に含まれる。
2.細胞障害性Tリンパ球の誘導
本発明に係るHLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球は、以下のような方法でin vitroで誘導することができる。
(1) HLA-A24陽性の癌細胞を用いたTリンパ球の刺激による誘導
本発明のHLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球は、HLA-A24陽性の癌細胞を用いてCTL前駆細胞を刺激することにより、誘導することができる。
この方法で用いるHLA-A24陽性の癌細胞としては、限定するものではないが、HLA-A24陽性の癌患者から採取した腫瘍から常法により樹立した癌細胞株を用いることができる。腫瘍患者が「HLA-A24陽性」であるか否かは、例えば血清学的方法やPCR-SSP法(polymerase chain reaction-sequence specific primers)法などのDNAタイピング法を含む、通常使用される任意のHLAタイピング法によって判定すればよい。HLAタイピングに使用される様々なHLAタイピング試薬やHLAタイピングキットも市販されており、例えばHLA Typing シリーズ(タカラバイオ)、「ワクナガMPH-2 HLAタイピング試薬」シリーズ(湧永製薬)などが挙げられる。
細胞障害性Tリンパ球の誘導効率をさらに上げるために、HLA-A24陽性の癌細胞に、共刺激分子であるCD80 cDNA又はCD86 cDNAを、例えばリポフェクション法により導入してもよい。CD80又はCD86遺伝子を導入した細胞は、T細胞の増殖、サイトカイン産生、及び細胞障害活性を誘導する能力をもつことが報告されている。CD80 cDNA及びCD86 cDNAの塩基配列は、それぞれDDBJ/EMBL/GenBank 国際塩基配列データベースにアクセッション番号NP 005182 及び NP 062261として登録されている。CD80又はCD86遺伝子を導入したHLA-A24陽性の肺癌細胞は、リンパ球の刺激に用いる前に、放射線照射(100 Gy)することにより、不活化することが好ましい。
刺激するCTL前駆細胞(細胞障害性Tリンパ球の前駆細胞)としては、HLA-A24陽性の癌細胞を採取したのと同じ癌患者から得た、CTL前駆細胞を含む細胞集団を使用すればよい。「CTL前駆細胞を含む細胞集団」とは、末梢リンパ節や末梢血から得られる細胞集団を意味し、通常は、末梢血単核球(PBMC)、所属リンパ節リンパ球、腫瘍内浸潤リンパ球などが用いられる。
HLA-A24陽性の癌細胞を用いたCTL前駆細胞の刺激は、より具体的には、HLA-A24陽性の癌細胞とCTL前駆細胞を含む細胞集団とを混合培養し、その後、癌細胞との混合培養による刺激をそのCTL前駆細胞を含む細胞集団に対して繰り返し施すことによって行えばよい。一実施形態としては、CTL前駆細胞を含む細胞集団にHLA-A24陽性の癌細胞を10:1の比率で加えて混合培養することを、週1回、計3〜4回繰り返すことにより、HLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を誘導することができる。
(2) 腫瘍抗原ペプチドを用いたリンパ球の刺激による細胞障害性Tリンパ球の誘導
本発明に係るHLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球は、本発明の腫瘍抗原ペプチド、好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを用いたCTL前駆細胞の刺激によっても、誘導することができる。本発明の腫瘍抗原ペプチドを用いた細胞障害性Tリンパ球の誘導法としては、当業者に公知の任意の手法を用いることができる。当業者に公知の手法としては、例えば、非特許文献1に記載のvan der Bruggenらの方法、Hillらによる方法(plebanski, M. et al., Eur. J. Immunol. (1994) 25, p.1783; Tanaka, F. et al., Cancer Immunol. Immunother. (1997) 44, p.21)、樹状細胞を用いるDC法(Tsai, V. et al., J. Immunol. (1996) 158, p.1796)が挙げられる。
一般的には、本発明の腫瘍抗原ペプチドを用いた細胞障害性Tリンパ球の誘導は次のようにして行うことができる。まず、本発明の腫瘍抗原ペプチドを、樹状細胞やマクロファージ等の抗原提示能を有する細胞であってHLA-A24陽性の細胞に添加(パルス)することにより、本発明の腫瘍抗原ペプチドをHLA-A24分子に提示した抗原提示細胞を調製する。次いでCTL前駆細胞を含む細胞集団をこの抗原提示細胞と混合培養することにより、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球が誘導される。
一実施形態としては、まず、HLA-A24陽性の健常人または癌患者由来の末梢血単核球(PBMC)中のプレート接着細胞をGM-CSF(1,000 U/ml)、IL-4(1,000 U/ml)の存在下で7日間培養して樹状細胞(DC)を誘導する。この樹状細胞に、本発明の腫瘍抗原ペプチド(20 μg/ml)をパルスした後、X線照射(55 Gy)を行うことにより、抗原提示細胞(stimulator)を調製する。DCが使用できない場合は、同じHLA-A24陽性の健常人または同じ癌患者由来の末梢血単核 (PBMC) に本発明の腫瘍抗原ペプチド(20 μg/ml)をパルスした後、X線照射(30 Gy)を行ったものを用いてもよい。一方、同じHLA-A24陽性の健常人由来の末梢血単核球(PBMC)または癌患者由来の末梢血単核球(PBMC)または所属リンパ節リンパ球(responder)を用いて24穴プレートのウェルに一緒に加え、stimulatorとresponderの比を1:10として、IL-2, IL-4, IL-7存在下で培養する。培養開始から7日後及び14日後、本発明の腫瘍抗原ペプチドを上述の通りパルスして得た抗原提示細胞を加えて再刺激を行い、その後2〜3日ごとにIL-2(30 U/ml)を加えて培養する。
細胞障害性Tリンパ球の誘導に用いる細胞培養用培地としては、Tリンパ球が生存できる任意の培地を用いればよい。例えば、RHAMα培地(Kawai, K., Sasaki, T., Saijo-Kurita, K., Akaza, H., Koiso, K., and Ohno, T., Cancer Immunol. Immunother. 35, 225-229, 1992中に記載されたLAK mcdium)、AIMV培地(GIBCO BRL, Life Technologies, INC.)、またはRPMI1640培地などに、インターロイキン-2等の各種サイトカインやウシ胎仔血清(FCS)などを添加したものを用いることができる。
例えば、RHAMα培地にインターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-4、インターロイキン-6、インターロイキン-7などを添加した培地を使用することができる。これらのサイトカインの濃度は、限定されるものではないが、例えば、いずれも1 U/ml〜2,000 U/ml程度で用いればよい。これらのサイトカインは組み合わせて同時に添加してもよいし、単独で添加してもよい。
培養条件は当業者に周知の条件に従えばよい。例えば、培養温度を33℃〜41℃、好ましくは37℃とする。また空気若しくは適当な濃度の酸素と、培地のpHを約7.4に保つために適当な濃度の炭酸ガス(例えば5%CO2)とを含む不活性ガスを気相として用いることができる。培養は、4〜10日間が好ましく、7日間がより好ましい。このような培養を行うことにより誘導されてきたTリンパ球細胞を、本発明の細胞障害性Tリンパ球として用いることができる。
以上(1)又は(2)の方法で誘導した細胞障害性Tリンパ球は、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する能力を有する。このような細胞障害性Tリンパ球は、次の第3節に記載の方法によって細胞集団からクローンとして取得することができる。このHLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球又は細胞障害性Tリンパ球クローンは、本発明の範囲に包含される。
なお、上述した本発明の腫瘍抗原ペプチドをHLA-A24分子に提示した抗原提示細胞も、本発明の範囲に包含される。
3.HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球の取得
上記第2節のようにして誘導した細胞障害性Tリンパ球(バルクCTL)からは、限界希釈法を用いて細胞障害性Tリンパ球クローンを得ることができる。この細胞障害性Tリンパ球クローンについては、癌細胞に対する細胞障害活性の測定及びHLA-A24拘束性の評価を行うことが好ましい。
細胞障害性Tリンパ球についての癌細胞に対する細胞障害活性の測定は、当業者に公知である任意の細胞障害試験を用いて行えばよい。例えば、一般的な細胞障害試験としては、細胞障害性Tリンパ球とHLA-A24陽性患者由来の癌細胞(好ましくは、細胞障害性Tリンパ球と同一の患者に由来するもの)とをin vitroで接触させて、癌細胞の障害度を調べればよい。この癌細胞の障害度を、細胞障害性Tリンパ球クローンの細胞障害活性とみなすことができる。細胞障害試験に用いる癌細胞としては、限定するものではないが、肺癌細胞が好ましい。
癌細胞の障害度は、癌細胞の細胞溶解(%)により表すことができる。癌細胞の細胞溶解(%)は、顕微鏡下の測定などにより障害を受けた癌細胞の数を直接計数して求めればよい。好ましくは、癌細胞の細胞溶解(%)は、例えば標的細胞を51Crなどの放射性同位体やその他の標識物質で予め標識しておき、細胞障害性Tリンパ球クローンと接触させた後に細胞外に放出された標識物質の量を測定することによって、障害を受けた癌細胞の数を間接的に算出して求めることができる(クロム放出試験;Takenoyama, M. et al., (2001) Jpn. J. Cancer Res., 92, p.309-315を参照されたい)。障害を受けた細胞ではDNAの断片化が認められるため、癌細胞の核DNAを[3H]チミジンや[125I]ウリジン等の放射性同位体で予め標識しておき、その細胞外放出量を放射活性で測定したり、DNA電気泳動によりDNAの断片化の程度を測定したりすることによっても、障害を受けた癌細胞の数を間接的に算出することができる。あるいは、トリパンブルー、ニグロシン等の色素が障害を受けた細胞に容易に取り込まれて排除されずに残ることを利用して、これらの色素を細胞に添加し、色素を取り込んだ細胞を、障害された細胞として簡単に見分けることもできる(色素排除試験)。
細胞障害活性の測定はまた、培養上清へのサイトカイン産生能を測定するサイトカイン産生試験によって行ってもよい。本発明において好適に使用できるサイトカイン産生試験は、例えば、Hansen et al., (1989) J. Immunol. Methods, 119, p.203-210に記載の方法、あるいはTakenoyama, M. et al., (2001) Jpn. J. Cancer Res., 92, p.309-315に記載の方法に従って行えばよい。
本発明においては、細胞障害性Tリンパ球と標的細胞(例えば、癌細胞、好ましくは肺癌細胞)とを細胞数で10:1として混合して接触させた場合に、細胞溶解(%)が15%〜100%、好ましくは30%〜100%であれば、試験した細胞障害性Tリンパ球は、その標的細胞に対して細胞障害活性を示すと判定する。
以上のような細胞障害試験は、市販のキット、例えばCytoTox96 Non-Radioactive Cytotoxicity Assay キット(プロメガ社)やヒトGranzyme B ELISPOTキット(ユーロクローン社)などを使用して行うこともできる。
細胞障害性Tリンパ球クローンについて細胞障害活性の測定を行う場合、癌細胞に対する細胞障害活性に加えて、HLAクラスI分子を細胞表面に有さないNK感受性細胞(例えばヒト白血病細胞株K562)又は正常細胞に対応する細胞として用いられるエプスタイン・バー・ウイルスで形質転換したB細胞(EBV-B細胞)に対する細胞障害活性も、同時に測定することが好ましい。その結果、癌細胞に対する細胞障害活性を示すことは確認されるが、HLAクラスI分子を細胞表面に有さないNK感受性細胞(例えばK562株)に対する細胞障害活性が確認されず、自己の正常細胞に対応する細胞として用いたEBV-B細胞に対する細胞障害活性も確認されなければ、試験した細胞障害性Tリンパ球クローンは、癌細胞を特異的に認識して障害すると判定することができる。さらに、他家癌細胞(非自己由来癌細胞)に対する細胞障害活性も、同様に測定することが好ましい。その結果、癌細胞に対する細胞障害活性を示すことが確認され、かつ他家癌細胞に対する細胞障害活性をも有することが確認されれば、試験した細胞障害性Tリンパ球クローンは、自己由来であるか他家由来であるかに関わらず、癌細胞を特異的に認識して障害すると判定することができる。
一方、細胞障害性Tリンパ球クローンについての癌細胞に対するHLA-A24拘束性の評価は、当業者によく知られている任意のサイトカイン産生試験を用いて、各種HLA抗体を使用した阻害試験を実施することにより行えばよい。例えば、細胞障害性Tリンパ球クローンと、HLA-A24陽性患者由来の癌細胞とを、抗MHCクラスI抗体、抗HLA-A24抗体、抗HLA-B/C抗体、抗MHCクラスII抗体などの各種抗HLA抗体を含む培地中で混合培養し、次いで培養上清に放出されたインターフェロン-γ(IFN-γ)又は腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインの量を測定し、抗HLA抗体を培地に添加しない対照群と比較してそのサイトカイン量が抑制される程度に基づき、HLA拘束性を評価する。細胞障害性Tリンパ球クローンについて、対照群におけるサイトカイン量と比較して、抗MHCクラスI抗体を培地に添加してHLA-A24陽性患者由来の癌細胞と混合培養した場合に、そのサイトカイン量が、少なくとも30%以上、好ましくは50%〜100%減少する場合には、そのクローンのサイトカイン産生能は抗MHCクラスI抗体によって阻害されたものと判断でき、細胞障害性Tリンパ球クローンはMHCクラスI拘束性であると判定することができる。同様に、細胞障害性Tリンパ球クローンについて、抗HLA-A24抗体を培地に添加してHLA-A24陽性患者由来の癌細胞と混合培養した場合に、そのサイトカイン量が、対照群と比較して少なくとも30%以上、好ましくは50%〜100%減少する場合には、そのクローンのサイトカイン産生能は抗HLA-A24抗体によって阻害されたものと判断でき、細胞障害性Tリンパ球クローンはHLA-A24拘束性であると判定することができる。
さらに本発明においては、細胞障害性Tリンパ球クローンについて、癌細胞に対する細胞障害活性やHLA-A24拘束性を、本発明の腫瘍抗原ペプチドを用いて調べることができる。すなわち、上記のようにして得られる細胞障害性Tリンパ球クローンについて、本発明の腫瘍抗原ペプチドをHLA-A24拘束性に認識することを確認することによって、自己由来及び他家由来を含む癌細胞をHLA-A24拘束性に特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球クローンを選択することができる。
本発明の腫瘍抗原ペプチドをHLA-A24拘束性に認識するか否かの試験は、以下のようにして行えばよい。まず、腫瘍抗原ペプチドを、任意のHLA-A24陽性細胞に添加して、標的細胞を調製する。この標的細胞は、本発明の腫瘍抗原ペプチドが結合したHLA-A24分子を細胞上に発現していると思われる。次いで、標的細胞と上述の通り作製した細胞障害性Tリンパ球クローンとを混合して、上記と同様の手順で細胞障害試験を行う。この際、対照群として、本発明の腫瘍抗原ペプチドと同程度の長さで異なるアミノ酸配列を有するペプチドを用いて標的細胞を調製し、同様の実験を行うことも好ましい。この結果、細胞障害性Tリンパ球クローンが、本発明の腫瘍抗原ペプチドを提示した標的細胞に対して特異的な細胞障害活性を示す場合には、その細胞障害性Tリンパ球クローンが本発明の腫瘍抗原ペプチドをHLA-A24拘束性に特異的に認識すると言うことができる。
本発明において特に好適に用いられる細胞障害性Tリンパ球クローンは、後述の実施例1に記載の実験について得られた細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5である。細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5はヒト(Homo sapiens)の所属リンパ節リンパ球由来の細胞であり、癌細胞表面にHLA-A24拘束性に提示された腫瘍抗原ペプチド(アミノ酸配列:NYGFQIHTK)を特異的に認識する。細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5は、2004年3月31日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、受託番号 FERM P-19760として寄託されている。
4.本発明の細胞医薬
上述のようにして取得される、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球は、HLA-A24陽性の癌細胞を殺傷するためにin vitro又はin vivoで使用することができる。
従って本発明に係るHLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球は、例えば癌を治療する目的又は癌の再発を予防する目的でHLA-A24陽性のヒトに対して投与する細胞医薬として、特に有利に使用することができる。
また本発明においては、本発明の腫瘍抗原ペプチドをHLA-A24分子に提示した抗原提示細胞も、例えば癌を治療する目的又は癌の再発を予防する目的でHLA-A24陽性のヒトに対して投与することにより、HLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球をin vivoで誘導することができる細胞医薬として、特に有利に使用することができる。
本明細書における「細胞医薬」とは、生細胞の状態で細胞障害性Tリンパ球又は抗原提示細胞を含有する医薬品を言う。この細胞医薬には、細胞障害性Tリンパ球以外の薬学上許容される担体又は添加物を配合してもよい。このような担体及び添加物の例として、水、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどの他、リポゾームなどの人工細胞構造物などが挙げられる。使用される添加物は、細胞医薬の剤形に応じて適宜又は組み合わせて選択される。
本発明の細胞医薬は、さらに他の薬理成分を含有していてもよい。そのような薬理成分として、免疫賦活に有用である公知の薬剤を用いることもできる。
本発明の細胞医薬は、非経口的に投与することが好ましく、特に静脈内注射又は肺腫瘍への直接注射が好ましい。非経口用剤形としては、液剤、懸濁剤、シロップ剤などの液体製剤等が好ましい。さらに、細胞医薬は、薬学上一般的に使用される安定剤、緩衝剤、保存剤などの添加剤を含有してもよい。
本発明の細胞医薬を投与する対象は、好ましくはHLA-A24陽性のヒトであり、特に、癌に罹患しているか、以前に癌に罹患していたか又は癌に罹患しやすい素因を有する、HLA-A24陽性のヒトが好ましい。この癌の種類は特に限定されないが、肺癌はより好適である。本発明の医薬組成物によって治療又は予防される癌は、HLAクラスIに属するHLA-A24抗原の発現が認められる悪性腫瘍であることが好ましい。ヒト個体がHLA-A24陽性であるか否かは、上述したように、当業者に公知のHLAタイピング法によって判定することができる。
本発明の細胞医薬の投与量は、投与対象の年齢及び体重、投与経路、投与回数により異なり、当業者によって適宜変更することができる。例えば、1日につき体重1kg当たり細胞障害性Tリンパ球数で2x106〜2x108細胞を含む細胞医薬を、1週間〜2週間の間隔で投与することが好ましい。投与期間は患者の症状の経過に応じて決定すればよいが、少なくとも3回にわたって投与することが好ましい。
5.本発明の癌ワクチン及び医薬組成物
本発明の腫瘍抗原ペプチドは、in vivoでHLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を誘導するために、有効に用いることができる。従って本発明のさらなる態様は、本発明の腫瘍抗原ペプチドを含有する、癌の治療用のペプチドワクチンである。本発明の腫瘍抗原ペプチドを含有するワクチンは、HLA-A24陽性のヒト個体に投与されると、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球を誘導し、その結果として腫瘍の縮小や場合によっては癌の完全治癒を引き起こす。
本発明の腫瘍抗原ペプチドを含有するペプチドワクチンには、本発明の腫瘍抗原ペプチド以外の薬学上許容される担体及び/又は添加物を配合してもよい。この担体及び/又は添加物は上述の細胞医薬と同様であるが、それ以外に、ワクチン製剤において通常用いられるアジュバント、例えばフロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、BCGなどを1種類以上添加することも好ましい。本発明の腫瘍抗原ペプチドを含有するペプチドワクチンには、抗腫瘍免疫応答をin vivoで増強することが知られているIL-12をさらに含有することも好ましい。
この本発明のペプチドワクチンの投与様式としては、例えば、1回当たり体重1kg当たり腫瘍抗原ペプチドを0.001〜1g含むワクチンを1週間〜2週間の間隔で投与することが好ましい。投与期間は患者の症状の経過に応じて決定すればよいが、少なくとも2ヶ月にわたって投与することが好ましい。
本発明においては、さらに、本発明の腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターも、in vivoで本発明の腫瘍抗原ペプチドを発現し、それによってHLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を誘導するために、有効に用いることができる。従って本発明のさらなる態様は、本発明の腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターを含有する、癌の治療又は予防用のDNAワクチンである。ここで用いる発現ベクターとしては、遺伝子治療において使用される任意の発現ベクターを使用することができる。例えば、アデノウイルスベクターやレトロウイルスベクターが使用される場合が多いが、大腸菌由来のプラスミド中に、真核生物における強力プロモーター(例えばサイトメガロウイルスのIEプロモーター/エンハンサー)を上流に、ポリA末端配列を下流に挿入したものを使用することもできる。
本発明の腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターを含有するDNAワクチンは、筋肉内注射、皮内注射、経皮接種、経鼻接種などにより接種することができる。本発明の腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターを含有するワクチンは、HLA-A24陽性のヒト個体の生体内に投与された後、本発明の腫瘍抗原ペプチドを発現し、HLA-A24拘束性に癌細胞を特異的に障害する細胞障害性Tリンパ球を誘導し、その結果として腫瘍の縮小や場合によっては癌の完全治癒を引き起こすことができる。
本発明の腫瘍抗原ペプチド、又は腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターは、医薬組成物(例えば抗癌剤)に含有させることにより、癌の治療効果又は予防効果を増強させる医薬品として使用することもできる。従って本発明の別の態様は、本発明の腫瘍抗原ペプチド、又は腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターを含有する、癌の治療効果を増強するための医薬組成物である。
上記のような医薬組成物には、本発明の腫瘍抗原ペプチド又は腫瘍抗原ペプチドをコードするDNAの他に、薬学上許容される担体又は添加物を配合してもよい。本発明の医薬組成物に関するそれらの薬学上許容される担体又は添加物、投与剤形、投与対象、投与様式などは、上記の細胞医薬に関する記載と同様である。
上記医薬組成物によって治療又は予防される癌の種類は特に限定されないが、肺癌はより好適である。本発明の医薬組成物によって治療又は予防される癌は、HLAクラスIに属するHLA-A24抗原の発現が認められる悪性腫瘍であることが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] 癌細胞に特異的な細胞障害性Tリンパ球クローンの誘導
1.細胞株の樹立
46歳、男性の肺大細胞癌患者(A904症例、pT2N0M0 Stage IB)の手術切除標本より、肺癌細胞株を樹立した(以下この樹立細胞株を、A904Lと称する)。この細胞株A904LのHLAクラスI遺伝子型は、HLA-A*2402, B*0702, Cw*0702であった。
さらに、このA904症例の患者から採取した末梢血単核球を、EBV(エプスタイン・バー・ウイルス)産生株であるB95.8の培養上清を用いてエプスタイン・バー・ウイルス(EBV-B)に感染させて形質転換し、その結果として不死化されたA904 B細胞株を作製した(以下この細胞株を、A904-EBV-B細胞と称する)。このA904-EBV-B細胞のHLAクラスI遺伝子型は、以下の通りであった: HLA-A*2402, 2603, B*0702, 3901, Cw*0702, 0702。
これらの2つの細胞株は、次の5%又は10%FCS添加RPMI 1640培地中で維持した。
5%又は10%FCS添加培地:RPMI 1640(GIBCO-BRL, Grand Island, NY)に、5%又は10%熱不活化ウシ胎児血清(EQUITECH-BIO, INC. INGRAM, TX)、10 mM HEPES、100 単位/ml ペニシリンG、及び100 mg/ml 硫酸ストレプトマイシンを添加。なお、この5%FCS添加RPMI 1640培地又は10%FCS添加RPMI 1640培地は、以下の実施例でも同じものを使用した。
2.肺癌細胞株へのCD80 cDNAのトランスフェクション
細胞障害Tリンパ球の誘導効率を上げるため、上記で作製した細胞株A904Lに、共刺激分子であるCD80をコードするヒトCD80 cDNA含有プラスミドを、リポフェクトアミン試薬(GIBCO-BRL)を用いてリポフェクション法によりトランスフェクションした。詳細な手順は、Takenoyama, M. et al., (2001) Jpn. J. Cancer Res., 92, p.309-315の記載に従った。なおこのCD80 cDNAの塩基配列は、アクセッション番号NP 005182としてDDBJ/EMBL/GenBank 国際塩基配列データベースに登録されているものである。
トランスフェクションされたA904L細胞は、G418により選択し、A904L-B7株と名付けた。A904L-B7株は、100Gyで放射線照射することにより、不活化した。
3.Tリンパ球の単離
上記「1.細胞株の樹立」に記載したA904症例の患者から、同じ手術時に所属リンパ節を採取した。この所属リンパ節から、Takenoyama, M. et al., (1996) Immunobiology, 195, p.140-151に記載の手法に従って、所属リンパ節リンパ球を調製した。所属リンパ節リンパ球は、使用するまでディープフリーザー中で-130℃にて凍結保存した。
4.細胞障害性Tリンパ球の誘導
所属リンパ節リンパ球(2.6 x 107細胞)は、凍結保存細胞から急速解凍して得た。この所属リンパ節リンパ球と、上記で調製したA904L-B7(100 Gy照射後のCD80トランスフェクションA904L細胞)とを、リンパ球:癌細胞比で10: 1となるように、25単位/mlのrIL-2(武田薬品工業より寄贈)、5 ng/ml IL-4(Serotec)及び5 ng/ml IL-7(Genzyme Techne)を添加した10%FCS添加RPMI 1640培地を含む24穴プレートのウェルに加え、一晩培養することによって、所属リンパ節リンパ球を刺激した。この所属リンパ節リンパ球に対する刺激は、週1回、計4回にわたり、5%CO2下、37℃で行った。このような刺激培養により、細胞障害性Tリンパ球を誘導した。なお、以上の所属リンパ節リンパ球の刺激に関する操作の詳細は、Lehmann et al., (1995) Eur. J. Immunol., 25, p.340-347に記載された手順に従った。
次いで、最後に刺激を行った時点から7日後の細胞集団を用いて、限界希釈法により、細胞障害性Tリンパ球をTリンパ球クローンとして得た(以下このTリンパ球クローンを、F2b/5と称する)。この限界希釈法によるTリンパ球クローンの取得に関する操作の詳細は、So et al., (2001) Jpn. J. Clin. Oncol., 31, p.311-317に記載された手順に従った。
なお、この細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5は、2004年3月31日付で、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、受託番号 FERM P-19760として寄託された。
[実施例2] 細胞障害性Tリンパ球クローンの癌特異的細胞障害活性及びHLA-A24拘束性の確認
1.癌細胞に対する細胞障害活性
以上のようにして得た細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5について、標準的な4時間にわたる51Cr放出アッセイにより、その細胞障害性活性を評価した。試験群としては、細胞障害性Tリンパ球クローンが由来する自己肺癌細胞株A904Lを使用した。対照群としては、Tリンパ球クローンF2b/5の由来する肺癌患者A904のB細胞をエプスタイン・バー・ウイルスで形質転換した細胞(A904-EBV-B細胞)、及びヒト白血病細胞株K562を使用した。51Cr放出アッセイの具体的な手順はSo et al., (2001) Jpn. J. Clin. Oncol., 31, p.311-317の記載に従って行った。
この結果を図1に示す。図1に示される通り、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5は、自己腫瘍である肺癌細胞株A904Lに対しては、有効な細胞障害活性を示した。一方で、自己由来の正常細胞に対応する標的細胞として用いたA904-EBV-B細胞、及びHLAクラスI分子陰性のヒト白血病細胞株K562に対しては、細胞障害活性を示さなかった。この結果から、実施例1で得られた細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5は、自己由来の肺癌細胞に対して細胞障害活性を示すが、自己の正常細胞に対して、及びHLAクラスI分子陰性の腫瘍細胞に対しては細胞障害活性を示さないことが確認された。
2.HLA拘束性
さらに、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5について、サイトカイン産生能で示される細胞障害活性とHLA拘束性とを確認するために、サイトカイン産生試験において各種抗HLA抗体を用いる阻害試験を行った。細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5によって障害させる標的細胞としては、肺癌細胞株A904Lを用いた。また阻害のための抗HLA抗体としては、抗MHCクラスI抗体 (W6/32: anti-HLA-A, B, Cw)、抗HLA-A24抗体 (C7709.A.2.6)、抗HLA-B/C抗体 (B.1.23.2)、及び抗MHCクラスII抗体(IVA12: HB145; ATCC社製)を使用した。具体的な実験手順は、So et al., (2001) Jpn. J. Clin. Oncol., 31, p.311-317の記載に従って行った。
この結果を図2に示す。図2に示される通り、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5は、自己肺癌細胞株A904Lとともに、抗HLA抗体の不在下で培養した場合、平均64.6 pg/mlのTNF量を産生した(対照群)。これに対し、F2b/5をA904Lとともに、抗MHCクラスI抗体の存在下で混合培養した場合には、平均 1.2 pg/mlのTNF量が測定された。このTNF量は対照群と比較して98%も減少していることから、F2b/5によるA904Lの認識は、抗MHCクラスI抗体によって阻害されることが示された。同様に、F2b/5をA904Lとともに、抗HLA-A24抗体の存在下で混合培養した場合には、平均 7.7 pg/mlのTNF量が測定され、これは対照群と比較して88%の減少であったことから、F2b/5によるA904Lの認識は、抗HLA-A24抗体によって阻害されることが示された。さらに、F2b/5をA904Lとともに、抗HLA-B&C抗体又は抗MHCクラスII抗体の存在下で混合培養した場合には、それぞれ平均 54.2 pg/mlのTNF量、平均 55.7 pg/mlのTNF量が測定され、これは、対照群と比較すると16%、14%の減少であった。すなわちF2b/5によるA904Lの認識は、抗HLA-B&C抗体及び抗HLAクラスII抗体によってほとんど阻害されなかった。これらの結果から、F2b/5によるA904Lの認識は、HLA-A24拘束性であることが証明された。
3.他家癌細胞に対する細胞障害活性
次いで、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5について、他家肺癌細胞株であるB203L株に対する細胞障害活性を51Cr放出アッセイにより評価した。また対照群として、B203L株と同じ患者(B203症例)由来のB細胞をエプスタイン・バー・ウイルスで形質転換した細胞(B203-EBV-B細胞)に対する細胞障害活性も評価した。具体的な実験手順はSo et al., (2001) Jpn. J. Clin. Oncol., 31, p.311-317の記載に従って行った。51Cr放出アッセイにおいては、前述のK562株とA904-EBV-B細胞の代わりに、B203L株B203-EBV-B細胞を用いた。
この結果を図3に示す。図3中、B203L株の細胞溶解(%)は白抜きの四角(□)で、B203-EBV-B細胞の細胞溶解(%)は黒塗りの四角(■)で表している。図3から分かるように、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5は、B203L株に対しては細胞障害活性を示したが、B203-EBV-B細胞に対しては細胞障害活性を示さなかった。この結果から、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5が、他家由来の正常細胞に対しては細胞障害活性を示さないが、他家由来の肺癌細胞に対しては細胞障害活性を示すことが証明された。このことは、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5が、自己由来であるか他家由来であるかに関わらず、肺癌細胞に共有されている共通抗原を認識して肺癌細胞を特異的に障害するが、正常細胞は障害しないことを示している。
[実施例3] 腫瘍抗原をコードするcDNAクローンの単離
まず、A904L細胞(HLA-A*2402, B*0702, Cw*0702)からRneasy Mini Kit(Qiagen)を用いて全RNAを抽出し、オリゴ(dT)プライマーを用いてPT-PCRによりcDNAを生成した。
次に、このcDNAを用いて、予め、HLA-A24のサブタイプであるHLA-A*2402の遺伝子増幅断片を挿入したプラスミドpcDNA3の作製を行った。該cDNAを鋳型とし、HLA-A24遺伝子に特異的なプライマー対を用いてPCR増幅を行い、得られたPCR産物をpcDNA中にクローニングした。ここで使用したHLA-A24遺伝子特異的なプライマー対は、以下の通りである。
フォワードプライマー:5'-ACTGGGCGGATCCGGACTCAGAATCTCCCCAGACGCCGAG-3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'-ACTGCCCGAATTCTCTCAGTCCCTCACAAGGCAGCTGTC-3'(配列番号4)
一方、cDNAライブラリーを作製するため、上記のcDNAをHindIII-EcoRIアダプター中にライゲーションした後、Not Iにて制限消化した。得られたcDNA断片を、発現ベクターであるpCEP4のHindIII-NotI部位に挿入しライゲーションした。続いてこうして作製した組換えプラスミドを、エレクトロポレーション法により大腸菌(Escherichia coli)TOP10中へ形質転換導入し、さらにアンピシリン(50 μg/ml)を含む培地で選択した。得られたcDNAクローンについては、100コロニーを1プールとして、1,118プールのcDNAライブラリーを作製した。さらに、それぞれのプールからプラスミドDNAを抽出した。
続いて、293-EBNA細胞を、96穴平底マイクロウェルプレートに3.5×104細胞/ウェルで播種して培養した。播種の24時間後、リポフェクトアミン試薬(Life Tecnology, Inc.)を1.3μl、先に抽出したA904L由来のcDNAライブラリーから得たプラスミドDNAを100 ng、及びHLA-A*2402遺伝子増幅断片を挿入したプラスミドpcDNA3 (Invitrogen)を50 ng添加して、293-EBNA細胞への同時トランスフェクションを行った。この同時トランスフェクションにより、293-EBNA細胞は、A904L細胞由来のcDNAから発現される抗原の断片をHLA-A2402分子に結合して、細胞上に提示するようになる。同時トランスフェクションの24時間後、実施例1で得られた細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5を3000細胞/ウェルで添加してさらに培養し、F2b/5を添加してから24時間後に培養上清を回収した。そしてこの培養上清についてWEHI-164cl3細胞を用いたバイオアッセイを行い、F2b/5からのTNF産生量を測定した。F2b/5からのTNF産生量が多かったサンプルの293-EBNA細胞クローンから、該細胞に導入されたプラスミドDNAを抽出し、そのプラスミドDNAに挿入されていたcDNAクローン(cDNA 214.2)を単離した。塩基配列決定と配列解析とを行った結果、このcDNAクローンは3339 bpからなっており、その中に617アミノ酸配列をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)が見出された。また、このcDNAクローンは既知遺伝子Taraのスプライシング変異体であると推定され、この617アミノ酸配列からなるタンパク質が腫瘍抗原であると考えられた(図4A)。
さらに、HLA-A*2402遺伝子が挿入されたプラスミドpcDNA3を、293-EBNA細胞中へ単独でトランスフェクションして、その293-EBNA細胞とともに培養したF2b/5からのTNF産生量を測定した。その結果、F2b/5はTNFを産生しなかった。同様に、HLA-A24とは異なるHLA型のHLA-A2遺伝子と腫瘍抗原をコードするcDNAクローン 214.2とを293-EBNA細胞に同時トランスフェクションしたところ、その293-EBNA細胞とともに培養したF2b/5はやはりTNFを産生しなかった。このことから、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5は、HLA-A*2402遺伝子が挿入されたプラスミドpcDNA3(HLA-A24遺伝子)とcDNAクローン 214.2(腫瘍抗原)とを同時トランスフェクションした場合のみ、TNFを産生することが示された。従ってこのcDNAクローン 214.2は、HLA-A24に提示されてF2b/5に認識される腫瘍抗原ペプチドをコードしていることが証明された(図4B)。
[実施例4] 抗原ペプチドの同定
実施例3で単離したcDNAクローンのオープンリーディングフレーム内に各種プライマーを設定し、そのプライマーを用いてPCR増幅することにより、C末端側が短くなったミニジーンを作製した。使用したプライマーは以下の通りである。
フォワードプライマー OKY 167: 5'-AGGATGAGCAACTTCTTTATC-3'(配列番号5)
リバースプライマー OKY 191: 5'-GGTGTGGATCTGGAAGC-3'(配列番号6)
リバースプライマー OKY 192: 5'-GTGGATCTGGAAGCCATA-3'(配列番号7)
リバースプライマー OKY 193: 5'-GATCTGGAAGCCATAGTTG-3'(配列番号8)
リバースプライマー OKY 194: 5'-CTGGAAGCCATAGTTGCG-3'(配列番号9)
OKY 167とOKY 191とを用いて増幅したPCR産物は398bp長、OKY 167とOKY 192とを用いて増幅したPCR産物は395bp長、OKY 167とOKY 193とを用いて増幅したPCR産物は392bp長、OKY 167とOKY 194とを用いて増幅したPCR産物は389bp長であった。次いで、これらのPCR産物を、実施例3と同様の手法でHLA-A*2402遺伝子とともに293-EBNA細胞に同時トランスフェクションし、その293-EBNA細胞とF2b/5とを混合培養し、培養上清中へのTNF産生量を測定した。この結果、398bp長、395bp長のPCR産物をそれぞれ用いた場合にはTNF産生がみとめられたが、392bp長、389bp長のPCR産物をそれぞれ用いた場合にはTNF産生がみとめられなかった(図5)。このことから、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5が認識する腫瘍抗原エピトープは、395bp長のPCR産物の3'末端部分に相当するタンパク質部分、すなわち図5の黒塗り部分に存在することが示された。
そこで、395bp長のPCR産物の3'末端部分に相当するcDNAクローン 214.2の塩基番号437〜479の塩基配列に基づいた推定アミノ酸配列から、10種類の9アミノ酸ペプチドを設計した(図6)。これらのペプチドは、自動ペプチド合成によって合成した。続いて、これらのペプチドの各々を、HLA-A24発現細胞であるC1R-A24に添加して培養することにより、その細胞上のHLA-A24分子上に各ペプチドを提示させた。この各ペプチドを提示した細胞と、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5とを混合培養した後、各ペプチドに対するF2b/5の細胞障害活性を評価した。その結果を図7に示す。細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5は、ペプチド3(NYGFQIHTK)を提示した細胞に対して高い細胞障害活性を示し、一方他のペプチドを提示した細胞に対しては全く細胞障害活性を示さなかったことから、このペプチド3が、細胞障害性Tリンパ球クローンF2b/5が特異的に認識する腫瘍抗原ペプチドであることが証明された。
本発明の癌特異的腫瘍抗原ペプチドは、HLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球の細胞障害活性を特異的に誘導するために使用することができ、またHLA-A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球の選択に使用することができる。また本発明の腫瘍抗原ペプチドは、HLA-A24陽性の癌患者において抗腫瘍免疫を誘導するための癌ワクチンとして用いることもできる。
本発明の腫瘍抗原ペプチドをHLA-A24拘束性に認識する細胞障害性Tリンパ球は、癌細胞を特異的に障害することができ、かつ正常細胞を障害しないため、癌の免疫療法に使用可能である副作用が少なく効果の高い細胞医薬として使用できる。
さらに、本発明の癌特異的抗原ペプチドをコードするDNAは、本発明の腫瘍抗原ペプチドを組換え法により製造するための鋳型として使用することができ、さらにはそのDNAを含む発現ベクターをDNAワクチンとしても使用することができる。
図1は、細胞障害性Tリンパ球クローンについて、標的細胞として用いた自己肺癌細胞株A904L、A904-EBV-B細胞、ヒト白血病細胞株K562のそれぞれに対する細胞障害活性を細胞溶解(%)で測定した結果を示す図である。縦軸は標的細胞の細胞溶解(%)、横軸は細胞障害性Tリンパ球数/標的細胞数で表される細胞障害性Tリンパ球:標的細胞の混合比率を示す。 図2は、細胞障害性Tリンパ球クローンの細胞障害活性に対する抗HLA抗体の阻害効果を示す図である。CTLは細胞障害性Tリンパ球クローン、ATは自己肺癌細胞株A904L、mAbはモノクローナル抗体を表す。 図3は、細胞障害性Tリンパ球クローンの、他家肺癌細胞株であるB203L株に対する細胞障害活性を示す図である。縦軸は標的細胞の細胞溶解(%)、横軸は細胞障害性Tリンパ球数/標的細胞数で表される細胞障害性Tリンパ球:標的細胞の混合比率を示す。□がB203Lを、■がB203-EBV-B細胞を表す。 図4Aは、腫瘍抗原をコードするcDNA 214.2の模式図である。図4Bは、細胞障害性Tリンパ球クローンが、腫瘍抗原をコードするcDNAとHLA-A24 cDNAとを同時トランスフェクションした細胞のみに対して細胞障害活性を示したことを表す図である。 図5は、細胞障害性Tリンパ球クローンの細胞障害活性を誘導する腫瘍抗原ペプチドを同定するために用いた、腫瘍抗原断片の模式図である。細胞障害活性(+)は、その腫瘍抗原断片を導入した標的細胞に対して細胞障害活性が示されたこと、細胞障害活性(−)は、その腫瘍抗原断片を導入した標的細胞に対して細胞障害活性が示されなかったことを表す。 図6は、腫瘍抗原ペプチドの同定のために用いた合成ペプチドの設計配列を示す模式図である。 図7は、合成ペプチドを用いた細胞障害性Tリンパ球クローンの細胞障害活性の誘導結果を示す図である。●が、本発明の腫瘍抗原ペプチドに相当するペプチド3を示している。
配列番号3〜9の配列は、プライマーを示す。

Claims (16)

  1. NYGFQIHTK(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチド。
  2. 請求項1記載のペプチドをコードするDNA。
  3. 配列番号2で示される塩基配列を有するDNA。
  4. 請求項2又は3記載のDNAを含む発現ベクター。
  5. NYGFQIHTK(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドをHLA−A24拘束性に認識する細胞障害性Tリンパ球。
  6. 受託番号 FERM P-19760で示される細胞障害性Tリンパ球。
  7. NYGFQIHTK(配列番号1)のアミノ酸配列からなるペプチドにおいて、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであって、請求項5又は6に記載の細胞障害性Tリンパ球によってHLA−A24拘束性に認識される、前記ペプチド。
  8. 請求項1又は7記載のペプチドを含有する、癌の治療用又は予防用のワクチン。
  9. 請求項4記載の発現ベクターを含有する、癌の治療用又は予防用のワクチン。
  10. 癌が肺癌である、請求項8又は9記載のワクチン。
  11. HLA−A24陽性の患者のための、請求項8〜10のいずれか1項記載のワクチン。
  12. 請求項1又は7記載のペプチドをHLA−A24分子に提示した抗原提示細胞。
  13. 請求項5又は6記載の細胞障害性Tリンパ球を含有する、細胞医薬。
  14. 請求項12記載の抗原提示細胞を含有する、細胞医薬。
  15. 下記(1)〜(3)の工程を含む、HLA−A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を取得する方法:
    (1) 請求項1又は7に記載のペプチドとHLA−A24陽性細胞とを混合培養して、請求項1又は7に記載のペプチドをHLA−A24分子に提示したHLA−A24陽性細胞を調製する工程、
    (2) HLA−A24陽性の癌細胞と、HLA−A24陽性のCTL前駆細胞を含む細胞集団とを混合培養し、細胞障害性Tリンパ球を誘導する工程、及び
    (3) 工程(1)で調製された細胞と、工程(2)で誘導された細胞障害性Tリンパ球とを混合培養し、細胞障害性Tリンパ球の工程(1)で得られた細胞に対する細胞障害活性を測定する工程。
  16. 下記(1)及び(2)の工程を含む、HLA−A24拘束性に癌細胞を障害する細胞障害性Tリンパ球を誘導する方法:
    (1) 請求項1又は7に記載のペプチドと、抗原提示能を有するHLA−A24陽性細胞とを混合培養し、請求項1又は7に記載のペプチドをHLA−A24分子に提示した抗原提示細胞を調製する工程、及び
    (2) 工程(1)で調製した抗原提示細胞と、HLA−A24陽性のCTL前駆細胞を含む細胞集団とを混合培養する工程。
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