本発明は、敗血症予防または敗血症治療のための新規の方法、及び、このような治療に使用することができる薬剤に関する。本発明は、主に、いわゆる「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」を阻害する特性を有する抗体(自己抗体)が、敗血症の患者の血清において高感度で見られるという新規の診断の知見に基き、これらの抗体がNK細胞阻害特性のために敗血症の発症において果たしている重要な役割から出願人が見出した予防及び治療方法に基づく。
特に、本発明は、ヒト患者(敗血症の危険を有する患者)での敗血症反応の予防及び治療のための方法に関し、医学的介入および/または外傷(事故、火傷、戦傷、褥瘡等)の後に、敗血症が発症し、または、すでに発症している場合における方法であり、加えて、例えば、敗血症が危険な合併症として恐れがある外科的手術(例えば、内臓の外科手術、移植医療及び血液学/腫瘍学における高投与の化学療法の分野において)を受けなければならない患者において敗血症反応の潜在的な危険を避けるための方法である。
「敗血症」という単語は、今日では、単語「炎症」と密接に関連して使用する。炎症は、一般に、種々のタイプの外部作用(例えば、損傷、火傷、アレルゲン、微生物(細菌、菌類およびウイルス等)による感染)に、拒絶反応を誘発する異種組織に、または、例えば自己免疫性疾患および癌で炎症を誘発する身体の特定の内因性状態に対する生物の特定の生理学的反応として定義されている。炎症は無害な身体の局所的反応として発生し得るが、個々の組織、器官、器官の各部分および組織の各部分における数多くの重篤な慢性疾患および急性疾患の典型的な特徴でもある。
局所的炎症は、一般に有害な作用に対する身体の健全な免疫反応の一部であり、したがって生物の生命を維持する生体防御反応の一部である。しかし、炎症が、例えば自己免疫性疾患などにおける特定の内因性プロセスに対する身体の誤った応答の一部である場合、および/または慢性状態である場合、あるいは全身性炎症反応症候群(SIRS)のケースまたは感染によって生じた重篤な敗血症のように炎症が全身的範囲に至る場合、炎症反応に典型的な生理学上のプロセスは調節不能となり、生命に危険を及ぼす実際の病理学上のプロセスになることが多い。敗血症の最新の定義については、例えば、K.Reinhartら、「Sepsis und septischer Schock」[Sepsis and Septic Shock]、Intensivmedizin、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、New York、2001年、756〜760頁における敗血症の定義の考察を参照することができる。これに従えば、「敗血症の臨床像は、治療に関して、裏に潜む感染と分けて語られ、治療されるべきである、分離した病態生理学な臨床単位である。」
現在、炎症プロセスの原因および過程は、主としてタンパク質またはペプチド性状である物質のカスケードによって調節されていること、あるいはほぼ一定時間に特定の生体分子の発生が伴うことが知られている。炎症反応に関与している内因性物質としては、特に、サイトカイン、メディエイター、血管作動性物質、急性期タンパク質、および/またはホルモン調節物質に属し得るものが挙げられる。炎症反応は、炎症プロセスを活性化する内因性物質(例えば、TNF-α、インターロイキン-1)と、炎症プロセスを非活性化する物質(例えばインターロイキン-10)の両方が関与している複雑な生理的反応である。
敗血症または敗血症性ショックの場合のような全身性炎症では、炎症特異反応カスケードが未調節で全身にわたって広まり、過度又は機能障害を引き起こす免疫反応との関連で生命が危険にさらされるようになる。
少なくともヨーロッパでは、敗血症という用語は、長らく陽性の血液培養により検出可能な全身性細菌感染により特定されてきたが、今日では、主として敗血症とは、感染によって発生するが、病理学上のプロセスとして、他の原因によって誘導される全身性炎症とかなりの類似点を持っている全身性炎症であるものと理解されている。そのため、細菌性病原体の直接検出は、生理学的パラメーターの複雑なモニタリングによって置き替えられるか補足され、そして敗血症プロセスまたは炎症性プロセスに関与している特定の内因性物質、すなわち特定の「バイオマーカー」の検出によって置き替えられたか補足された。
導入された敗血症のバイオマーカーとして特に好適な内因性物質は、プロカルシトニンである。敗血症マーカーとしてのプロカルシトニンの測定は、M.Assicotら、「High serum procalcitonin concentrations in patients with sepsis and infection」、The Lancet、第341巻、第8844号、1993年、515〜518頁による刊行物;ならびに独国特許第4227454 C2号および欧州特許0656121 B1号および米国特許第5,639,617号の主題である。
敗血症マーカーのプロカルシトニンの有用性によって敗血症研究にかなりのはずみがついてきており、現在では、プロカルシトニン測定を補足し、かつ/または詳細診断または識別診断の目的で追加情報の提供が可能な、さらなるバイオマーカーを発見するために多大な努力が行われている。これらの努力の結果は、本出願人の多数の特許出願、具体的には、独国特許出願公開第19847690 A1号または国際公開第00/22439号、未公開の多数の独国特許出願(独国特許出願第10119804.3号またはPCT/EP02/04219号;独国特許出願第10131922.3号;独国特許出願第10130985.6号)、あるいは欧州特許出願(EP 01128848.7号;EP 01128849.5号;EP 01128850.3号;EP 01128851.1号;EP 01128852.9号;EP 01129121.8号;EP 02008840.7号およびEP 02008841.5号)で確認することができる。前記特許および特許出願の内容は、本明細書を補完するものとしてこれにより援用することができる。
炎症中に形成された内因性物質が身体の複合反応カスケードの一部であることから、かかる物質は診断目的であるだけでなく、例えば敗血症で確認されている炎症の全身への広がりをできるだけ初期段階で阻止するために、このタイプの個々の物質の起源および/または濃度に影響を及ぼすことにより炎症プロセスに治療的介入するという試みが現在強力に推し進められている。本明細書においては、炎症プロセスに関与していることが明らかであり得る内因性物質もまた、有望な治療上の標的と見なすものとする。炎症プロセスの特定メディエイターを起点として良好な方法で治療的にこれに影響を及ぼす試みは、例えば、E.A.Panacek、「Anti-TNF strategies」、Journal fur Anasthesie und Intensivbehandlung;第2号、2001年、4〜5頁;T.Calandraら、「Protection from septic shock by neutralization of macrophage migration inhibitory factor」、Nature Medicine、第6巻、第2号、2000年、164〜170頁;またはK.Garber、「Protein C may be sepsis solution」、Nature Biotechnology、第18巻、2000年、917〜918頁に記載されている。これまでかかる治療的手法がかなり不本意な結果に終わっていることを考えると、できるだけ炎症特異的または敗血症特異的であって、かつ、治療上の標的として、敗血症を抑制し治療する新たな可能性をもたらす、さらなる内因性生体分子の同定が非常に期待されている。
独国特許第4227454 C2号
欧州特許0656121 B1号
米国特許第5,639,617号
独国特許出願公開第19847690 A1号
国際公開第00/22439号
独国特許出願第10119804.3号
PCT/EP02/04219号
独国特許出願第10131922.3号
独国特許出願第10130985.6号
EP 01128848.7号
EP 01128849.5号
EP 01128850.3号
EP 01128851.1号
EP 01128852.9号
EP 01129121.8号
EP 02008840.7号
EP 02008841.5号
欧州特許出願第02009884.4号
欧州特許出願第02009882.8号
欧州特許出願第02009884.4号
EP 705107号
K.Reinhartら、「Sepsis und septischer Schock」[Sepsis and Septic Shock]、Intensivmedizin、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、New York、2001年、756〜760頁
M.Assicotら、「High serum procalcitonin concentrations in patients with sepsis and infection」、The Lancet、第341巻、第8844号、1993年、515〜518頁
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それゆえ、本発明の根本的な目的は、敗血症を予防または治療するための新規の手段(方法、薬剤、使用)を提供することとして定義することができ、敗血症において高感度で生じ、敗血症の発症及び敗血症の経過において重要な役割を果たす生体成分の発見によりもたらされる。
本目的は、請求項1から3に記載の使用と、請求項4および5に記載のその実施形態、ならびに、請求項6に記載の薬剤によって達成される。
本発明は、一般に、他の報告ではそれ自体周知である特定の抗体または自己抗体のタイプが、以後に敗血症を発症した患者または既に敗血症を有している患者の血清中において、驚くべき頻度で有意に増加したレベルで及び高感度で確認されるが、同じ抗体が健常者では検出不可能であるか、実質的に少量しか検出されないという驚くべき実験的な知見に基づいている。
抗体が「ナチュラルキラー細胞」(NK細胞;細胞毒性リンパ球)の機能を除去することができる抗体であり、他の科学的文献において求められた関連する抗体は、NK細胞に損傷を与える抗体と交差反応することが更に示されているという事実は、本出願に記載した予防手段及び診療手段に関して重要な役割を果たす。
もしも、NK細胞を阻害するこのような抗体が、実質的に、敗血症に罹った全ての患者においてレベルが増加していることが見られれば、これらは、敗血症の予防及び敗血症の治療のための標的である。本発明に関しては、以下に詳細に説明するように、この抗体は、病原性の(自己)抗体を拘束し、それらを無害にするために、本発明による手段(そのいくつは、それ自体既に知られている)又は薬剤を用いて、および/または特異的に免疫系によって抗体形成に影響を与える手段を用いて、予防、抑制および/または治療手段の標的となることができる。更にその上、敗血症の発症を避けるために、例えば、抗生物質を用いた予防処置との関連で、敗血症の危険な状態の前で検出することは、より安全な手段を提供することの理由となりうる。
より正確には、本発明は、ガングリオシドAGM1およびGM1に結合する抗体のための高感度のリガンド結合アッセイを用いた、健常者および敗血症に罹っている患者の血清における本出願人による驚くべき測定結果から開始する。この測定における、驚くべき結果は、アシアロ-GM1に結合する抗体(抗- AGM1抗体)および/またはこれらの交差反応する抗体、特にIgGおよび/またはIgAタイプのモノシアロ- GM1に結合する抗体(抗- GM1抗体)が、実質的に全ての測定した敗血症の血清において見出せたことである。
アシアロ- GM1に結合し、それゆえ実質的に全ての敗血症に罹っている患者の血清においてNK細胞を阻害し、又はNK細胞に損傷を与える特性を有する抗体の存在が増すことは、そのような抗体が敗血症の発症に直接関連し、および/または、敗血症の危険を有する患者に対しての増した危険(すなわち、患者が敗血症を発症するであろう危険)、または敗血症に対する個々の性質と関連しうる。
前記抗体の生理学的な結合パートナーはガングリオシドである。ガングリオシドは動物細胞の原形質膜の細胞外サイドの成分である糖脂質であり、また当該物質は神経組織中にも生じる。ガングリオシドは、1モル当たり数単位の単糖を含有しているが、リン含有量はなく、スフィンゴ脂質に属している。タンパク質と比較すると、ガングリオシドはどちらかといえば低分子量の生体分子である傾向にある。本発明において検討されている抗体が結合するガングリオシドは、一般的にGM1と略記されているモノシアロ-ガングリオシド、特に、関連する「アシアロ」化合物AGM1である。GM1は、D-ガラクトース2単位、N-アセチルガラクトサミン1単位、およびD-グルコース1単位を含む糖モノマー4単位の多糖鎖を有するガングリオシドであり、D-グルコース単位はいわゆるセラミド成分に結合している。ガングリオシドGM1では、N-アセチルノイラミン酸基(NANA;シアル酸またはo-シアリン酸基;「モノシアロ」基)(これはシアリン酸非含有のアシアロGM1(AGM1)には存在しない)が多糖鎖内に位置しているD-ガラクトース単位に結合している。
前記ガングリオシドと関連化合物は、例えば、軸索増殖およびニューロン分化、受容体機能ならびに身体の種々の免疫反応への関与およびシグナル伝達と細胞間認識への関与をはじめとする、人体の多くの重要な生物学的機能に関係している。
ガングリオシドGM1、特にその糖構造、および、他の分子のこれらに似ている(「これらを擬似する」)糖構造に結合する抗体または自己抗体が、特定の状況において人体において検出できることは、長らく知られている。かかる抗体の生理学的機能とそれらの臨床診断で推定される重要性は、数多くの科学研究における課題である。しかしながら、抗GM1抗体の検出は、今日まで、敗血症の発症にとって重要でありアシアロ-GM1に結合する抗体の特性(それ自体知られている)の原因となりうる有利でない生理学的な反応と相互関連性が無かった。
公開されているすべての刊行物の主要部分は、神経障害、例えば、免疫性運動神経障害(例えば、ギランバレー症候群(神経根炎、多発性神経根炎)および関連の(ミラー)フィッシャー症候群など)における抗ガングリオシド抗体の機能と診断重要性に関するものである。また、アルツハイマー病に随伴して、一部の患者で抗GM1自己抗体が多量に発生することも報告されている。さらに、これらの抗体は個々のHIV患者でも見つかっている。これらの抗体は癌においても非常に高感度で生じることは、本出願人の未だ出版されていない新規の知見である。欧州特許出願第02009884.4号および同第02009882.8号で開示されている発明に基づくものである。本出願でその言及を補足するため、本出願において、2つの最後に記載した欧州特許出願および欧州特許出願第02009884.4号のリストを参照する。
本出願の発明の基礎を形成する知見、ならびに、それから由来する予防および治療手段について、以下に詳細に説明する。
本出願と関連する特許請求の範囲で用いられている用語が不当に狭く限定的に判断されるのを避けるために、最も重要ないくつかの用語について、特に本出願の目的において以下に定義するものとする。
「抗体」:この単語には、発生および形成の異なる体系の区別なく、外部抗原に対する抗体および内因性構造に対する抗体(すなわち自己抗体)の両抗体が含まれる。またこの場合、後者は、抗原交差反応によって外部抗原に対する抗体から自己抗体になり、外部抗原に関してそれらの結合能力を維持し得る。
例えば、抗体が「ガングリオシド構造に、およびガングリオシド構造に擬似している抗原構造に」結合しているか、あるいは「ガングリオシドまたは特定のガングリオシドに対して反応性」である(ここで、反応性とは「特異的結合における反応性」を意味する)と記載されている場合、例えば、別のさらなる抗原構造に対するこの特異的結合なしに、あるいは試薬(固定化または標識用のもの、または競合物質としてのもの)を用いた、本発明による抗体としての定義の役割を果たしている分子構造(AGM1、特にその糖構造に唯一擬似しているもの)によるその実際的な測定なしに、この定義により十分定義されるはずである。
「ガングリオシド」:本発明においては、「ガングリオシド」という単語は、主として、測定される抗体と結合する性質の特徴を有するガングリオシドAGM1を意味する。しかし、この単語には、これらのガングリオシドに結合し、同等の診断重要性を有している抗体が敗血症血清中で確認されることが明らかであれば、これまでまだ調査されていない関連のガングリオシドも含むものとする。
「擬似する」:本出願で用いられる時は、特異的なガングリオシド(AGM1およびGM1)に加えて、結合特性およびその効果を「擬似する」物質または化合物を使用することができ、本単語が意味するものは糖構造(細菌毒性を含む)を有し、前記ガングリオシドに結合する化合物(前記ガングリオシドのような)が存在するということである。従って、このような化合物は、ガングリオシドそれ自身のように、抗体を特異的に結合する(例えば、血液から徐供する目的で)ために、または、ブロッキングする(そして、それらを無害とする)ために、潜在的に使用することができる。
本出願においては、例えば、生物学的サンプル(高い抗ガングリオシド抗体の抗体価を有し、結合様式を特定のアッセイで求めた)を、テストすべき候補化合物と接触させ、抗体結合を同様の方法で再度求めるスクリーニング方法で、ガングリオシドの結合様式を「擬似する」物質を見出すことができる。そのアッセイにおいて、抗体結合が実質的に減少しまたは取り除かれることは、調査した物質が「ガングリオシド擬似物質」であることを意味している。この試験は、また、特異的に本出願において開示された又は請求項に示されたものに対応する薬剤による特許侵害を立証することと関連して行うことができる。
単語のさらなる意味は、本発明の緒言および後続の記載、およびにその実施形態、ならびに、本出願に引用されている文献から当業者には明らかである。
下記の記載においては、予防および治療上に有益な技術に基づく診断上の知見を説明するために、以下で示す図について説明する。
本発明は、出願人によって実施される血清の測定に基づき、実質的に唯一、測定の原則および得られた結果を本出願において報告する。実施する測定の詳細な開示は、本出願人による前の未公開の欧州特許出願02009884.4および本出願人による同時に出願した更なる出願において見出すことができる。本出願の開示を補足するために、両方の出願を参照する。
1.健常者の血清(コントロール)および敗血症に罹っている患者の血清における、ガングリオシドAGM1およびGM1に結合するIgGおよびIgAタイプの(自己)抗体の測定
ガングリオシド(GM1およびAGM1)を被覆し、フリーの結合部位をBSAで飽和させた試験管(GA-CT)を用いて、コントロール血清および試験血清の一連の測定を行った。前の未公開の欧州特許出願02009884.4および本出願と同時に出願した更なる欧州特許出願においてより詳細に記載されているように、最初の反応工程において、それぞれの血清(コントロール血清および試験血清)に由来する抗体がコーティングのために使用されているガングリオシドに結合し、IgGおよびIgAタイプの抗体を別々に測定するために、結合した抗体を、標識した動物(ヤギ)抗ヒトIgG又は抗ヒトIgAイムノグロブリンを用いて検出した。結合した標識イムノグロブリンについて、標識に基づいて(化学発光標識としてアクリジニウムエステル)、検出して定量した(測定すべきそれぞれの抗体濃度が最も高い血清に基づく、相対的な単位で)。
抗体の量を表す測定シグナルを得るために、ガングリオシドでのコーティングをしていない事以外は実際の測定に使用する試験管と同じ試験管を使用して、それぞれ同じ血清と同じ測定条件で求めたバックグラウンドシグナルを引くことが必要である。
137個のコントロール血清(供血者血清、および-抗体濃度における年齢に関連する影響を回避するために-高齢者の家および本出願人の職員から得た様々な年齢の健常者の血清)を、コントロール血清として、GM1で被覆されたGA-CTを用いた抗体アッセイに使用した。AGM1で被覆されたGA-CTを用いた抗体アッセイについては、これらの血清の一部の群(30検体の血清のみからなる)を測定した。
敗血症患者の血清89検体を試験血清として、GM1で被覆したGA-CTを用いて抗体アッセイに使用した。それぞれのテスト血清のための正確な臨床書類が存在した。AGM1で被覆したGA-CTを用いた抗体アッセイについては、敗血症患者の血清20検体のみを含む、血清の部分的な群を測定した。
GM1で被覆したGA-CTを用いた、クラスIgGおよびIgA抗体の測定結果を、例として図1および図2に示す。
AGM1で被覆したGA-CTを用いて得られた対応する結果を、図3および図4に示す。
敗血症の危険性のある状況のあと短い時間で(約2時間)で血液サンプルを取り出した患者であり、しばらくたってから典型的な敗血症の症状を発症した患者に由来する多くの血清において、抗AGM1抗体または抗GM1抗体の抗体価が有意に増加することが見出されたことは、特に指摘すべきである。
更にその上、IgGおよびIgAタイプの抗体の測定と同様にしてIgMタイプの対応する抗体を測定する実験では、IgMタイプの抗体について診断的に妥当な程度まで上昇したレベルが敗血症血清中に確認されなかった(結果は示さず)ことも注目すべきである。
図1〜4に概括した測定結果によって明らかなように、ガングリオシド(AGM1および/またはGM1)に結合するIgAクラスおよび/またはIgGクラスの抗体を測定したところ、調査した敗血症血清のほぼ全部(図1:89検体のうち82検体、すわわち92%;図2:89検体のうち80検体、すなわち90%;図3:20検体のうち19検体;すなわち95%;図4:20検体全て;すなわち100%)で実質的に上昇したAGM1およびGM1の抗体力価が確認されたという事実により、コントロール群を敗血症患者から明らかに区別することができる。
また、「敗血症の危険性のある状況」(例えば、手術、事故、火傷)の後の非常に短い時間(約2時間)に得られた患者の血清サンプル中のIgAタイプ抗体およびIgGタイプ抗体の濃度が実質的に上昇して検出されたことと、IgMタイプの抗体の証拠がないことから、検出される抗体が「敗血症の危険性のある状況」の結果として、またはそれに随伴する細菌感染の結果としてのみ形成されるという可能性は除外される。しかし、これは、抗体が各敗血症患者内にすでに前もって存在すること、および/または敗血症の危険性のある状況によって誘発された「ブースター」作用で患者の前感作免疫系の活性化が大量の抗体産生を開始したことのいずれかを意味する。
したがって、実質的にすべての測定した敗血症血清(90から100%)中でAGM1抗体またはGM1抗体の濃度が実質的に上昇したことが確認されたという事実は、敗血症の形成が、各患者内に当該抗体が存在していることが直接的な原因であるか、あるいは少なくとも過去の免疫化により患者内にすでに存在している「分子機構」(B細胞の形態)の活性化の結果であり、その場合、「敗血症の危険性のある状況」またはそれに随伴する感染の影響下で、その抗体の大量産生が開始されるということを意味するものとして判断される。これらの抗体のない患者またはその速やかな産生に不可欠な前感作がない患者は、これまでの実験結果に基づくと、敗血症を発症しないか、ほとんどわずかにしか発症しないであろう。
確認された結果によれば、以下のように説明できる。いわゆる「ナチュラルキラー細胞」(NK細胞;細胞障害的に活性のあるリンパ球)は、抗AGM1抗体が特異的に結合し、それによってNK細胞を非活性し死滅させることができるアシアロGM1構造をその表面に有していることが知られている。このことは、発癌物質または腫瘍核と組み合わせて抗AGM1抗体を投与することにより、実験動物の免疫防御をはずして腫瘍を人為的に発生させ、それによって(動物モデルで所望した)実験上の癌が発生し得る実験動物を用いる動物実験の分野で日常的に使用されている (Hugh P.Pressら、「Role of Natural Killer Cells in Cancer」、Nat Immun 1993年;12:279〜292頁;Lewis L.Lanierら、「Arousal and inhibition of human NK Cells」、Immunological Reviews 1997年、第155巻:145〜154頁;Yoichi Fukiら、「IgG Antibodies to AsialoGM1 Are More Sensitive than IgM Antibodies to Kill in vivo natural Killer Cells and Prematured Cytotoxic T Lymphocytes of Mouse Spleen」、Microbiol.Immunol.、第34(6)巻、533〜542頁、1990年;N.Saijoら、「Analysis of Metastatic Spread and Growth of Tumor Cells in Mice with Depressed Natural Killer Activity by Anti-asialo GM1 Antibody or Anticancer Agents」、J Cancer Res Clin Oncol (1984年)107:157〜163頁;Sonoku HABUら、「Role of Natural Killer Cells against Tumor growth in Nude Mice - A Brief Review」、Tokai J Exp Clin Med.、第8巻、第5号、6:465〜468頁、1983年;Lewis L.Lanier、「NK Cell Receptors」、Annu.Rev.Immunol.、1998年、16:359〜93頁;Theresa L.Whitesideら、「The role of natural killer cells in immune surveillance of cancer」、Current Opinion in Immunology、1995年、7:704〜710頁;Tuomo Timonenら、「Natural Killer cell-target cell interactions」、Current Opinion in Cell Biology、1997年、9:667〜673頁)。
しかし、活性NK細胞は敗血症または重篤な細菌感染の場合においてもヒトの免疫防御において非常に重要な機能を果たしている。例えば、Shuiui Sekiらは、「Role of Liver NK Cells and Peritoneal Macrophages in Gamma Interferon and Interleukin-10 Production in Experimental Bacterial Peritonitis in Mice」、Infection and Immunity、第66巻、第11号、1998年、5286〜5294頁で、炎症を促進するサイトカインおよび抗炎症性サイトカインの産生におけるNK細胞の重要な役割を記載している。彼らは、抗AGM1抗体を実験的に使用して人為的にNK細胞をスイッチオフすると、抗炎症性インターフェロン-γ産生の阻害が誘導されることを示している。NK細胞活性に対する外科的侵襲およびエンドトキシン誘導性敗血症の作用もまた、特にP.Toftら、「The effect of surgical stress and endotoxin-induced sepsis on the NK-cell activity,distribution and pulmonary clearance of YAC-1 and melanoma cells」、APMIS、1999年;107:359〜364頁において、調べられている。しかし、NK細胞反応性を有する生理学的に形成された抗体の推定される影響については、記載したいずれの論文においても検討されてはいない。
科学文献には、本発明による方法を示唆する如何なる知見も明らかにされていない。重篤な急性伝染病に関連して抗ガングリオシド抗体を測定することについて、いくつかの文献に記載されていたことは事実である。そのような伝染病は、寄生虫クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)によって発症したシャガス病である(D.H.Broniaら、「Ganglioside treatment of acute Trypanosoma cruzi infection in mice promotes long-term survival and parasitological cure」、Annals of Tropical Medicine & Parasitology、第93巻、第4号、341〜350頁(1999年)、およびその中で引用されている文献を参照)。最後に挙げられている文献には、寄生虫T.cruziに感染したマウスへ外因性ガングリオシドを投与することについて確認された、実質的に優れた効果が、前記マウス内で、T.cruziの膜の糖脂質と反応する抗ガングリオシド抗体の産生を誘導し、それにより寄生虫が死滅し得るということが検討されている。本出願の知見に従えば、かかる説明にはそれほど信憑性がない。すなわち、シャガス病の場合に確認された抗ガングリオシド抗体は、それらのNK細胞阻害効果のため、推測したところ、治癒促進因子ではなく、疾患誘発因子または疾患促進因子である。外因性のガングリオシド(抗原とみなすことができない)を投与した結果、抗AGM1抗体は、実際に形成されず、恐らく阻害される。結果として、NK細胞の効果がマウスで(または患者で)回復し、免疫系により寄生虫を克服することができる。我々が精通している全ての文献には、抗アシアロGM1抗体と敗血症の原因および悪化との間の関係についてはまったく開示されておらず、したがって、本発明による方法を予想することも示唆するもできない。
このことは、外因性のガングリオシドまたはあるガングリオシドの誘導体を実験動物モデルに投与することによって、抗炎症効果をもたらし、または、細菌の毒素であるLPSを投与したマウスの生存率を有意に増加させることを示す他の論文にも適用されている(Silvia G. Correaら、「Anti-inflammatory effect of gangliosides in the rat hindpaw edema test」、European Journal of Pharmacology、199(1991年) 93〜98;Amico-Roxas M.ら、「Anti-inflammatory action of AGF44, a ganglioside ester derivative」、Drugs Exptl. Clin. Res.、XVIII(&)、251〜259(1992年);James J. Mondら、「Inhibition of LPS-Mediated Cell Activation In Vitro and In Vivo by Gangliosides」、Circulatory Shock、44:57〜62(1995年))。全ての論文において、抗ガングリオシド抗体と投与したガングリオシドの相互作用の観察された相互作用の効果を説明していない。後者は、与えられた文中において、議論さえしていない。
抗体をブロックするという観点でのそのような相互作用により、最終的に、記載された知見を説明することができる。本発明の概念の本質は以下のように強調することができる:敗血症の患者であり、血清を測定した患者は、「敗血症の危険が生じる出来事」の前に、特異的な抗体を有し、または、(感作という観点から)その抗体を迅速に産生する傾向を有する。抗-ガングリオシド抗体の産生に関する患者の感作は、例えば、その後に続く敗血症と独立した、いくつかの外因性であり抗原性を有する刺激因子(例えば、Campylobacter jejuniまたはHelicobacter pyloriまたは、適切な場合は、対応する周囲の物質)との反応として生じるであろう。その後、長い間、潜在的に保持することができる。しかし、いったん抗-アシアロ-GM1抗体の産生が個々のヒトにおいて開始され、または著しく増加すると、この患者は、性質として、抗-AGM1抗体およびそれらと交差反応する抗体により、NK細胞への損傷が生じ、感染および高いNK細胞活性を有する他の出来事のような(例えば、変異が生じる出来事を介した細胞の変質;敗血症の危険が生じる状況)特定の生理学的ストレス状況における免疫防御への損傷が生じるという前提条件を有する。例えば、「敗血症の危険を生じるストレス」によって引き起こされ、NK細胞による干渉が必要である防御反応によって、前記抗体の産生が刺激され、NK細胞の効果を無効とするという危険が増す。そして、免疫反応の規制されたサイクルが決定的に阻害され、敗血症が発症することができる。
それゆえ、天然の抗AGM1抗体、およびそれと交差反応する抗ガングリオシド抗体(例えば抗GM1抗体)の検出、ならびに敗血症患者の血清中のかかる抗体の濃度の上昇は、かかる抗体が、感染特異的または炎症特異的サイトカインカスケードに影響を及ぼしている、これまで未検討のパラメーターを表しており、その場合、かかる抗体は天然サイトカイン制御サイクルに介入し、NK細胞を阻害すること、またはスイッチオフすることによってNK細胞に機能不全を起こし、患者に敗血症反応を誘発する。
したがって、上述のアッセイで測定された、敗血症血清中の有意に上昇したレベルで確認された抗AGM1または抗GM1抗体力価は、敗血症の原因の前提条件の1つを構成し、かかる抗体の存在は、敗血症を誘導する作用または敗血症を増大する作用を有すると推測される。
それゆえ、かかる抗体を求めることは、敗血症の危険のある患者として分類されている患者において、危険な状況(個々の特性)を求めること、および、予後診断に適している。
敗血症の危険を有する患者の生物学的液体における抗AGM1抗体およびそれらと交差反応する抗体の存在および/または量を求めること、および、検出された事態において敗血症を予防する手段をとることを含む方法は、そこから導かれる。それゆえ、迅速な予防治療干渉のために、抗生物質を用いた予防治療を実施することができる。
前記目的のために、適した物質を投与することは、全く決まりきった予防方法として、すなわち、あらかじめ抗体を求めることなく実施することができる。
外因性のストレスがない場合、抗体の抗体価は特定の状況下においては非常に低いので、例えば手術前に、安全な刺激剤を用いた敗血症リスク患者の抗体形成のin vivoにおける刺激の後に、抗体測定を実施することは、本発明の範囲に含まれる。実質的に上昇した濃度で確認されたIgA抗体を検討すると(図2および図4を参照)、抗体測定は、好適なアッセイによって身体分泌物(例えば唾液、粘液)で明らかに実施することもできるに違いない。
それゆえ、敗血症の患者において抗-ガングリオシド(自己)抗体の抗体価が増すことは、医学的に、すなわち、病原因子として非常に重要である。この知見により、新規で、前途有望な治療方法を開発することができる:
1.患者へ、AGM1に結合した抗体で飽和させるのに(抗体をブロックするのに)適切な薬剤(当然に、必要とされる適応性を有していなければならない)を投与することによる、体内での病原性抗体をブロックする手法
ガングリオシドそれ自身は、そのような薬剤であり、その良好なヒト患者に対する適応性は、既に投与されている(パーキンソン病の患者に大量に投与されている)他のコンテクストから知られている。このようなガングリオシドは、認識されている前記状況でなく、該当する状況において治療目的でヒトに既に投与されていると言われている限りは、使用されている薬剤は、本発明の保護範囲から除かれる。
ガングリオシドそれ自身の投与に加えて、本発明による目的に適した投与形態および量において、前記で説明したように、ガングリオシド「擬似」物質を投与することができる。このような物質(特に、ガングリオシドそれ自身よりも抗体に強力に結合するもの)を同定するための1つの可能性は、「擬似」の定義と関連して、更に前記に記載する。
このような物質の候補としては、例えば、AGM1分子の糖四量体(セラミドおよびシアリニン酸(sialinic acid)基が存在しない)からなる、またはこれらを含むオリゴ糖およびその誘導体とすることができる。
2.患者の循環している血液から抗体を除去する。これは、例えば、固定した親和性物質に体外で結合させることによって(「血漿交換法」)、効力を生じさせる。バインダーとして使用する血漿交換アフィニティカラムの調製のためには、適切な場合、ガングリオシドそれ自身よりも高い親和性で抗体に結合し、毒性特性が原因で患者に投与することができない高親和性の糖構造を使用することもできる。T細胞アネルギーの産生の問題に関しては、加えて、EP 705107号および本出願で記載する更なる参考文献を参考にすることができる。
3.抗原提示細胞をブロックする薬剤またはT細胞アネルギーを導く薬剤の投与による、特異的な抗体の内因性産生の減少。これらの方法は、1で記載した方法の効果に付随して生じるが、敗血症の危険を有する患者または敗血症に罹った患者に存在する全ての抗体をブロックするには十分でなく、抗体産生の望ましい減少に適した量または他の投与経路(例えば、経口)を選択することによって、有利なことに、目標とされる方法で適用することもできる。
敗血症患者89名の血清における測定結果と比較した、コントロール患者137名の血清中のモノシアロGM1に結合するIgGクラスの抗体の測定結果のグラフである。
図1と同一血清のモノシアロGM1に結合するIgAクラスの抗体の測定結果のグラフである。
敗血症患者20名の血清の測定結果と比較した、健常者(コントロール)30名の血清中のアシアロGM1に結合するIgGクラス抗体の測定結果を示すグラフである(血清はすべて、図1および図2で測定した血清の一部である)。
図3の血清と同一の血清で、アシアロGM1に結合するIgAクラス抗体の測定結果を示すグラフである。