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Description
本発明は、請求項1の前文によるエンジンブロック、および請求項3に記載の鋳造工具に関する。
エンジンブロックは、重量を少なくするために、さまざまな鋳造方法、好ましくはダイカストを用いたアルミニウム合金から、ますます製造されるようになってきている。容易に鋳造可能なアルミニウム合金は、シリンダー内面に沿った摩擦要件をしばしば満たさないので、材料特性を局所的に改良するための対策がこれらの領域においてとられている。これらの対策の1つが、シリンダーライナーを鋳造することである。
特許文献1では、過共晶アルミニウム/シリコン合金からなるシリンダーライナーを有するクランク室について記載している。そこに記載されている合金は、高いシリコン含有量により、特に耐磨耗性がある。さらに、この種のシリンダーライナーは、特に低い重量を有し、その熱膨張係数は、鉄の膨張係数よりアルミニウム鋳造合金の膨張係数に近く、このことは、鉄を基にしたシリンダーライナーと比べ、特に好ましい。
しかしライナーの種類とは無関係に、シリンダーボア内で温度勾配が生じる。上部領域の、シリンダーヘッドとの界面(境界面、接合面)近傍部で、約200℃の温度が、そこで起きている燃焼のためにエンジン側で優勢となる。ピストンの下死点の高さのボアの下部領域では、エンジン側のシリンダーボア内の温度が、エンジンにより、130℃から150℃の間となる。
50℃から70℃の間にあるこの温度勾配により、シリンダーボアは、やや円錐形となり、その結果、熱膨張のために頭部から底部に向かって次第に細くなる。したがって、ピストンの、特にピストンリングの許容差を、下部領域内で十分な遊びがありかつ上部領域内に生じる隙間が最小に保たれるように、設計することが必要となる。
このために必要な解決策は、この種のエンジンを日々使用する場合に許容できるものであり、エンジンの損傷や磨耗には至っていない。しかし、このような欠点により、消費量を低減し、そしてエンジンの性能を向上するための改善策が必要である。特許文献2では、アルミニウム/シリコンを基にしたシリンダーライナーを含むエンジンブロックについて記載している。シリンダーライナーは、シリンダー内面全体に渡って完全に延在しているのではない。しかし特許文献2では、円錐形の形成に関する問題を解決するいかなる可能な方法についても記載しておらず、また、鋳造工具内のシリンダーライナーの位置決めについての情報も含んでいない。
このような先行技術から一歩進めて、本発明は、優勢な温度勾配により生じるシリンダーボアの円錐状の変形を減少させることを目的とする。
本発明の目的の解決方法は、請求項1に記載のエンジンブロックおよび請求項3に記載の鋳造工具からなる。
請求項1に記載のエンジンブロックは、シリンダーライナーがそれぞれに設けられた複数のシリンダーボアを有することが好ましい。エンジンブロックは、アルミニウム鋳造合金からなり、シリンダーライナーは、過共晶アルミニウム/シリコン合金からなる。合金中のシリコンの割合は、23%から28%の間にあることが好ましい。ここでは、シリンダーライナーは、ピストンの下死点において、最下部のピストンリングのできる限り直ぐ下、多くとも10mmで終端するよう短縮される。
シリンダーボアは、エンジンの設計によって、下死点の下約20mmから50mmに延在する。シリンダーボアの表面(シリンダー内面)は、アルミニウムダイカスト合金によりこの領域に形成される。
アルミニウムダイカスト合金(以下、略してアルミニウムと呼ぶ)は、約22×10− 6K−1の熱膨張係数αを有する。シリンダーライナーのアルミニウム/シリコン合金は、15×10−6K−1〜17×10−6K−1のα値を有する。このことにより、シリンダーライナーの下の、シリンダーボアの下部領域内で、相対的に材料の膨張が大きくなる。シリンダーボアの円錐状の形成は、そこで優勢なより低い温度と材料の膨張が局所的 により大きいことの組み合わせによって、大幅に補償される。
シリンダーライナーは、下死点において最下部のピストンリングの下にできる限り近く終端することが好ましく、その結果、上述の熱膨張の効果が利用されることが好ましい。下死点を超えてシリンダーライナーが延在するかは、優勢な(支配的な)温度勾配に依存して判断される。しかし、ライナーが、下死点の下20mmを超えて終端すると、本発明の好ましい効果が損なわれることが実験によって示されている。
さらに、シリンダーライナーの下部の終端は、矩形(直角)であることが好ましい。鋳造技術上の理由から、実際には殆どのシリンダーライナーが、下部の外側に面取り部を有する。この面取り部が、鋳造工程中に溶融物を案内する働きをする。動作状態においては、ライナー(シリンダーライナー)上に軸方向の圧力が与えられると、面取り部により、この面取り部の領域内で半径方向の力が生じ、それにより、ライナー(シリンダーライナー)とクランク室(エンジンブロック)との間の連結に悪影響が出る。
本発明のさらなる部分は、請求項3に記載のエンジンブロックを生成するための鋳造工具である。鋳造工具は、シリンダーボアを表す(構成する)のに適切な少なくとも1つのスリーブを有する。過共晶Al/Si合金からなるシリンダーライナーが、スリーブ上に置かれる。このライナー(シリンダーライナー)は、(シリンダーヘッド側について)上部領域で鋳造工具の壁に当たるよう、スリーブの多くとも(最大)85%を覆う。
鋳造工具を鋳造金属で充填する(満たす)働きをする、鋳造工具の湯口は、鋳造金属の主要な流れ方向が下側(後の油室の側)からスリーブに当たるように、取付けられる。シリンダーライナーが短縮されているので、このライナー(シリンダーライナー)は、鋳造金属の主要な流れ方向の外側にあり、スリーブおよび工具の壁によって保護される。このことにより、鋳造金属がライナー(シリンダーライナー)に当たる時の乱れが減少するので、ライナー(シリンダーライナー)の構成部品との連結に好ましい効果を及ぼす。他の利点に加えて、ライナー(シリンダーライナー)とクランク室(エンジンブロック)との間のより良い連結により、シリンダーボア内、特に燃焼室内でより高い圧力が可能となる。
シリンダーライナーは、鋳造作業のためにスリーブ上に十分確実に位置付けられるような狭い許容差で設計されているが、連続生産において不具合のない生産を行うために、ライナー(シリンダーライナー)をスリーブに固定することが好ましい。
工具の下部の壁から離れた所でライナー(シリンダーライナー)を保持する突片部により、そのような固定がなされる。よりうまく離型するために、突片部は、スリーブの切抜き部内で部分的に埋め込まれる。
4枚の図面を用いて、以下に好ましい実施形態について記載する。
図1は、シリンダーボア7を有するエンジンブロック(クランク室)2の領域内の往復ピストン機関1の詳細を示す図である。シリンダーボア7は、鋳造されてエンジンブロック(クランク室)2となるシリンダーライナー4により、軸方向に部分的に形成される。連接棒(コネクチングロッド、コンロッド)8を介してクランク軸(図示せず)に連接されたピストン6が、シリンダーボア7内を案内される。ピストン6は、動く間に、ピストンリング10〜10’’でシリンダー内面14を軽く触れて通る。図1の上部領域において、エンジンブロック(クランク室)は、シリンダーヘッド(図示せず)との界面(境界面、接合面)12を有する。
シリンダーライナー4は、最下部のピストンリングの下死点を5mm超えるまで、シリンダーボア7内に延在する。この領域においては、シリンダーライナー4の表面が、シリンダー内面14を形成する。シリンダー内面14’は、最下部のピストンリング10の下死点11の下5mmに、エンジンブロック(クランク室)の材料によって形成される。
エンジンブロックにおける本発明による手段の操作方法を、図2を用いて説明する。図2は、隣接するシリンダーライナー4’まで延在する(ピストン6を除いた)エンジンブロック2の詳細を示す図である。シリンダーボア7内では、温度勾配△Tが優勢であり、(約200℃の)T1は、(約140℃の)T2より高い。シリンダーライナーの材料である、25%シリコンを含む過共晶アルミニウム/シリコン合金(以下、AlSiと呼ぶ)は、約16×10−6K−1の熱膨張係数α1を有する。シリンダーボア7の下部領域内で、シリンダー内面14’を形成するアルミニウムの膨張係数α2(図1参照)は、約23×10−6K−1である。アルミニウムのより高い膨張係数α2は、140℃のより低い温度で、ライナー4の領域内の膨張(200℃で16×10−6K−1の膨張係数)と事実上同じ膨張となる。したがって、エンジンの動作状態におけるシリンダーボア7の円錐状の変形が、本発明による配置によって防止される。
本発明はまた、エンジンの動作およびエンジンブロック(クランク室)2の製造に関して、さらなる利点を提供する。図3は、鋳造金属の溶融物の流動26の概略的な外形を有する、本発明による鋳造工具22の詳細を示す図である。ここでは、ライナー(シリンダーライナー)間の距離およびライナー(シリンダーライナー)の厚さが、大きく拡大されて示されている。鋳造金属は、アルミニウム合金(AlSi9Cu3)であり、圧力がかかると鋳造工具22内に満たされる(充填される)。鋳造金属の流動26は、シリンダーライナー4、4’間の約3mm幅の狭いウェブ36へと導かれる。そこを流れるアルミニウム溶融物の単位時間当たりの質量は、溶融物の主要な流動25の領域内と比べ、ウェブ36の狭い領域内では、より小さく、かつより少ない運動エネルギーを有し、これを介して、鋳造工具の容積充填がもたらされる。
溶融物の主要な流動25が、その全運動エネルギーと共にシリンダーライナー4に直接当たると、そこではね返り、これによりシリンダーライナー4の下方に鋳巣または空胴ができるか、あるいはシリンダーライナー4が溶融する。本発明による鋳造工具内ではシリンダーライナーの機械的なおよび熱的な負荷が低いので、従来のシリンダーライナーと比べ、シリンダーライナーの壁の厚さをかなり減少させることが可能となる。さらに、ウェブ領域下方の充填断面積が、より大きくなる。その結果、単位時間当たりの金属量が増加し、そのことにより温度損失が減少し、したがってライナー(シリンダーライナー)の密 着が改善される。
シリンダーライナー4は、鋳造工具22の上部の壁40に対して突片部32によって押圧される。突片部32は、鋳造工具22の下側42に取付けられる。スリーブ24は、鋳造工具22を圧締め(型締め、クロージャ)してスリーブ24の位置決めをする間、突片部32を部分的に収容する押込み部(切り抜き部)34を有する。突片部32の比較的小さい部分が、スリーブ24に対して放射状に突出し、シリンダーライナー4のための支持領域36を形成する。シリンダーライナーは、(シリンダーヘッド側について)上部領域 で鋳造工具の壁に当たるよう、軸方向にスリーブの多くとも(最大)85%を覆う。
支持領域36の幅は、押込み部と水平になることが可能なように選択され、鋳造され、その後の機械加工によりエンジンブロック(クランク室)となる。この配置の利点は、鋳造工程中に折れたり損傷したりしないように、突片部の大きさを決めることができ、エンジンブロック(クランク室)の形状寸法(幾何学的配置)には連携しない(組み込まれない)ことにある。
図4は、鋳造工具22の3次元の詳細図を用いて、突片部32の配置、およびシリンダーライナー4に対する支持効果を示す図である。突片部32は、図4からは見ることができない押込み部(切り抜き部)内に埋め込まれている。鋳造工具22が開けられ、エンジンブロックが離型されると、わずかに円錐形のスリーブ24は、矢印44の方向にシリンダーライナー4から離れるように動く。鋳造工具22は滑動によって可動する。
点線は、溶融物の流れに直接さらされる、従来の構成のシリンダーライナー28を示している。溶融物の主要な流動25の偏向が、従来の配置においては、面取り部29により防止される。
シリンダーボア内で円錐状の形状ができるのを回避するための上述した利点は、スリーブ24について短縮されたシリンダーライナー4を具備する、本発明による鋳造工具22によって、達成され、その上、シリンダーライナー4とエンジンブロック(クランク室)2との間の連結が改善される。
往復ピストン機関(エンジン)1の動作状態においては、シリンダーライナー4のほぼ矩形(直角)の下部の縁15(図2参照)により、作用する力Fが、エンジンブロック(クランク室)2によってほぼ完全に吸収される効果を有する。図3に点線で示されているシリンダーライナー28のように、シリンダーライナーが面取り部29を有していると、このことにより、半径方向の力の成分がシリンダーボアの中心方向に導かれる。このことにより、シリンダー内面14に円錐状の変形が生じ得る。本発明による改良形態により、ライナー(シリンダーライナー)は、示されている力Fの方向に向かうことに対して、保護される。本発明による鋳造工具22によって生じる、シリンダーライナー4とクランク室22との間のより良い連結はまた、ライナー(シリンダーライナー)のこの半径方向の動きを回避することにも寄与する。
先行技術と比べたさらなる利点に、シリンダーライナー4および4’と油室16との間の冷却孔18によって図2に一例として簡略化して示されている、水ジャケットをより良く遮蔽することが挙げられる。(機能自体には障害を生じさせない)微小な隙間20は、シリンダーライナー4とエンジンブロック(クランク室)2との間をより良く連結することによって減少する。孔18内を流れ、状況によっては隙間20内を通過し得る水が、ライナー4のほぼ直角の下部の縁15により、油室16内に浸透するのが防止される。
本発明の上述した機能上の利点に加えて、シリンダーライナーを本発明に従って短縮することにより、構成部品のコスト低減となり、材料の消費削減に貢献し得る。
Claims (6)
- 過共晶アルミニウム/シリコン合金からなる少なくとも1つのシリンダーライナー(4、4’)を備えた少なくとも1つのシリンダーボア(7)を有するアルミニウムダイカスト合金からなる内燃機関(1)のエンジンブロック(2)であって、
前記シリンダーボア(7)内で、少なくとも1つのピストンリング(10〜10’’) を有するピストン(5)が、上死点と下死点(11)の間を軸方向に可動するものにおい て、
前記シリンダーライナー(4、4’)が、前記下死点(11)において最下部の前記ピストンリング(10)の下方の近傍で終端し、
前記シリンダーライナー(4、4’)の下方の前記シリンダーボア(7)のシリンダー内面(14’)が、前記アルミニウムダイカスト合金からなることを特徴とするエンジンブロック(2)。 - 前記シリンダーライナー(4、4’)は、その下部の終端(15)でシリンダー内面に 対してほぼ直角になるよう構成されることを特徴とする請求項1に記載のエンジンブロック。
- 請求項1に記載の、少なくとも1つのシリンダーボア(7)と、少なくとも1つのシリンダーライナー(4、4’)と、を備えたエンジンブロック(2)を製造するための鋳造工具(22)であって、前記鋳造工具(22)が、滑動によって可動し、前記シリンダーボア(7)を構成するのに適切な少なくとも1つのスリーブ(24、24’)を有し、該スリーブ(24、24’)上に、前記シリンダーライナー(4、4’)が配置される鋳造工具(22)であって、
前記シリンダーライナー(4、4’)が、軸方向に前記スリーブ(24、24’)の多くとも85%を覆い、前記スリーブ(24、24’)は下側(後の油室の側)に前記シリ ンダーライナー(4、4’)から突出し、
前記鋳造工具を鋳造金属で満たす働きをする、前記鋳造工具(22)の湯口は、前記鋳造金属の主要な流れ方向(25)が下側(後の油室の側)から前記スリーブ(24、24’)に当たるよう取付けられていることを特徴とする鋳造工具。 - 前記シリンダーライナー(4、4’)が、前記スリーブ(24、24’)に固定されることを特徴とする請求項3に記載の鋳造工具。
- 前記シリンダーライナー(4、4’)が、前記鋳造工具(22)に取付けられた少なくとも1つの突片部(32)により前記スリーブ(24、24’)に前記下側から固定されることを特徴とする請求項4に記載の鋳造工具。
- 前記少なくとも1つの突片部(32)は、前記スリーブ(24、24’)の切抜き部(34)内に部分的に埋め込まれ、前記シリンダーライナー(4、4’)を固定するための支持領域(36)を部分的に形成することを特徴とする請求項5に記載の鋳造工具。
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