JP2005351755A - ボロメータ型赤外線検出器及び残像の低減方法 - Google Patents

ボロメータ型赤外線検出器及び残像の低減方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高温物体を撮像した際に生じる残像を低減することができるボロメータ型赤外線検出器及び該赤外線検出器を用いた残像低減方法の提供。
【解決手段】本発明のボロメータ型赤外線検出器には、被写体の中から予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段と、ペルチェ素子の制御温度を設定する制御温度設定手段又はパルスバイアスのパルスの幅や電圧を設定するパルスバイアス設定手段とを備え、高温物体検出手段で所定の温度又は出力電圧以上の高温物体が検出された場合に、制御温度設定手段又はパルスバイアス設定手段により、ペルチェ素子の制御温度を階段状又はパルス状に上げたり、パルスバイアスのパルスの幅を長くしたり、パルスの電圧値を大きくする等の制御が行われるため、赤外線検出素子の温度を上昇させて残像を低減することができる。
【選択図】図6

Description

本発明は、熱分離構造で形成された感熱抵抗体で赤外線を検出するボロメータ型赤外線検出器に関し、特に、残像を低減する手段を備えたボロメータ型赤外線検出器及び該ボロメータ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法に関する。
赤外線検出器は、半導体等のバンド構造を利用した量子型と、熱による材料物性値(抵抗、誘電率等)の変化を利用した熱型とに大きく分けられる。前者は高感度ではあるが動作原理上冷却を必要とするのに対し、後者は特に冷却を必要としていないため非冷却型とも呼ばれ、製作コストや維持コストの面で量子型に比べ有利な点が多く、赤外線検出器の主流となりつつある。
熱型赤外線検出器には、ボロメータ型、焦電型及び熱電対型があり、いずれも検出器の感度を高くするため、一般には熱分離構造、いわゆるダイアフラム構造を有している。このなかでもボロメータ型の赤外線検出器は比較的特性に優れ、特にボロメータ材料として酸化バナジウム(VO)を用いたものは、SPIE(1996年、2746巻、23頁)にも述べられているように、二次元に配列され赤外線画像を撮像する素子として用いられている。ここで、上記ボロメータ型の赤外線検出器について、図1を参照して説明する。
図1(b)に示すように、ボロメータ型の赤外線検出器の素子部は、内部にCMOSプロセスにより読出回路11aが作り込まれた回路基板11上に、赤外線を反射する赤外線反射膜12と保護膜13とが形成され、赤外線反射膜12上には、空洞部14を隔てて、ボロメ−タ材料からなるボロメータ薄膜16とその端部に接続される電極17とこれらを覆う保護膜15とで構成される温度検出部19が形成され、温度検出部19は、電極17とこれを覆う保護膜15とで構成される梁18によって中空に保持されている。また、配線17は回路基板11上のコンタクト11bに接続され、このコンタクト11bは読出回路11aに電気的に接続されている。
また、図1(a)に示すように、このような熱分離構造を備える素子部が2次元アレイ状に配列されて赤外線検出素子2が構成され、この赤外線検出素子2はペルチェ素子3などの温度制御素子上に載置されて一定の温度に制御される。また、赤外線検出素子2やペルチェ素子3は、パッケージ4とキャップ5と赤外線透過窓6と排気管7などからなる真空パッケージなどによって真空に封止され、その入出力信号はピン8を介して外部に設けられた駆動手段や信号処理手段、温度制御素子駆動手段などの外部回路に接続される。
そして、光学系を通して入射した赤外線は、各々の赤外線検出素子2の保護膜15及びボロメ−タ薄膜16によって一部吸収され、残りは透過して赤外線反射膜12により反射されて温度検出部19に再入射し、もう一度吸収される。吸収された赤外線は、温度検出部19を暖め、同検出部内のボロメ−タ薄膜16(感熱抵抗体)の抵抗を変化させる。この抵抗変化は、読出回路11aからバイアス電流を供給することにより電圧変化として読み出され、被写体の温度が計測される。
特開2002−71452号公報(第5−9頁、第6図)
ここで、一般に受光素子を用いて被写体を撮像する撮像装置では、受光素子の特性や信号処理回路の特性などによって、ある物体を撮像したときの像が物体を取り除いた後においても観察される現象(以下、残像と呼ぶ。)が生じることが知られており、上述したボロメータ型赤外線検出器1においても、ある温度の物体、特に高温物体を撮像すると高温物体を撮像した箇所に残像が生じることが分かってきた。この残像が生じる時間は、高温物体の温度や高温物体の撮像時間に依存するが、例えば、500K程度の高温物体を3分間程度撮像した場合、残像のレベルがNETD(Noise Equivalent Temperature Difference)以下になるまでに数分かかってしまい、熱画像をリアルタイムで取得するシステムでは深刻な問題となっており、残像を低減することができるボロメータ型赤外線検出器1の提案が求められている。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、高温物体を撮像した際に生じる残像を低減することができるボロメータ型赤外線検出器及び該ボロメータ型赤外線検出器を用いた残像低減方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明のボロメータ型赤外線検出器は、ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器において、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する手段と、前記高温物体が検出された場合に、前記赤外線検出素子の温度を少なくとも一定時間、上昇させる手段とを少なくとも備えるものである。
また、本発明のボロメータ型赤外線検出器は、ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子と、該赤外線検出素子の温度を制御する温度制御手段とを少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器において、前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段と、前記高温物体が検出された場合に、前記温度制御手段の制御温度を予め定められた温度だけ上昇、又は、予め定められた温度だけ上昇させ、一定時間経過後に、該制御温度を元の温度に戻す制御を行う制御温度設定手段とを少なくとも備えるものである。
また、本発明のボロメータ型赤外線検出器は、ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持され、パルス状のバイアス電圧により駆動される赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器において、前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段と、前記高温物体が検出された場合に、前記パルスの幅を予め定められた時間だけ長く、又は前記パルスのピーク電圧を予め定められた電圧だけ大きくし、一定時間経過後に、該パルスの幅又はピーク電圧を元の幅又は電圧に戻す制御を行うパルスバイアス設定手段とを少なくとも備えるものである。
また、本発明の残像低減方法は、ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、前記高温物体が検出された場合に、前記赤外線検出素子の温度を少なくとも一定時間、上昇させるステップとを少なくとも備えるものである。
また、本発明の残像低減方法は、ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子と、該赤外線検出素子を所定の温度に制御する温度制御手段とを少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、前記高温物体が検出された場合に、前記温度制御手段の制御温度を予め定められた温度だけ上昇させるステップと、必要に応じて、一定時間経過後に、該制御温度を元の温度に戻すステップとを少なくとも備えるものである。
また、本発明の残像低減方法は、ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子と、該赤外線検出素子を所定の温度に制御する温度制御手段とを少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、前記高温物体が検出された場合に、前記温度制御手段の制御温度を予め定められた温度だけ上昇させるステップと、一定時間経過後に、該制御温度を元の温度に戻すステップとを少なくとも備えるものである。
また、本発明の残像低減方法は、ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持され、パルス状のバイアス電圧により駆動される赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、前記高温物体が検出された場合に、前記パルスの幅を予め定められた時間だけ長く、又は、前記パルスのピーク電圧を予め定められた電圧だけ大きくするステップと、一定時間経過後に、該パルスの幅又はピーク電圧を元の幅又は電圧に戻すステップとを少なくとも備えるものである。
本発明は、上記構成により、高温物体検出手段で予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出した場合に、制御温度設定手段やパルスバイアス設定手段により、温度制御素子の制御温度を階段状に上げたり、所定の時間だけパルス状に上げたり、赤外線検出素子に印加するパルスバイアスのパルス幅を長くしたり、パルス電圧(ピーク電圧)を大きくする等の制御を行うため、これにより赤外線検出素子の温度が上昇し、その結果、残像を低減することができる。
以上説明したように、本発明のボロメータ型赤外線検出器及び該ボロメータ型赤外線検出器を用いた残像低減方法によれば、高温物体を撮像した際に生じる残像を簡単かつ確実に低減することができる。
その理由は、本発明のボロメータ型赤外線検出器には、被写体の中から予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体(高温物体)を検出する高温物体検出手段と、ペルチェ素子などの温度制御素子の制御温度を設定する制御温度設定手段とを備えているため、高温物体検出手段で所定の温度以上の高温物体が検出された場合に、制御温度設定手段により、温度制御素子の制御温度を階段状に上げたり、所定の時間だけパルス状に上げる等の制御が行われるため、ボロメータ型赤外線検出素子の温度を上昇させて残像を低減することができるからである。
また、本発明のボロメータ型赤外線検出器には、被写体の中から予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体(高温物体)を検出する高温物体検出手段と、赤外線検出素子に印加するパルスバイアスのパルス幅やパルス電圧(ピーク電圧)を設定するパルスバイアス設定手段とを備えているため、高温物体検出手段で所定の温度以上の高温物体が検出された場合に、パルスバイアス設定手段により、赤外線検出素子に流すパルスバイアスのパルス幅を長くしたり、パルス電圧(ピーク電圧)を大きくする等の制御が行われるため、ボロメータ型赤外線検出素子の温度を上昇させて残像を低減することができるからである。
上述したように、ボロメータ型赤外線検出素子2は、ボロメータ薄膜16を備える温度検出部19が梁18によって回路基板11から浮いた状態で保持された熱分離構造を有しており、温度検出部19に入射又は赤外線反射膜12で反射された赤外線は保護膜15やボロメータ薄膜16によって吸収されてボロメータ薄膜16の温度が上昇し、この温度上昇が抵抗の変化として検出される。
このような熱分離構造を備える赤外線検出素子2に高温物体から強い赤外線が入射すると、赤外線検出素子2の温度が大きく上昇し、残像が顕著に現れる。しかしながら、この残像が発生するメカニズムは解明されていないため、通常は、残像がなくなるまで待つか、若しくは信号処理回路などを用いて残像を目立たなくする処理が行われているが、この方法では残像の原因自体を取り除くことはできないために、残像に重なった被写体の温度を正確に検出することはできず、また、時々刻々変化する残像を処理するために信号処理の負荷が大きくなってしまうという問題が生じる。
そこで、本願発明者は、残像の発生メカニズムを推測するために以下に示す各種実験を行い、その結果を踏まえて残像を確実に低減する方法を案出した。以下、その実験の具体的内容及び結果について説明する。なお、以下の説明において、便宜上、回路基板11とその上に形成された熱分離構造とで構成される部分を赤外線検出素子2、該赤外線検出素子2とペルチェ素子3などの温度制御素子とこれらを制御する外部回路とで構成される部分を赤外線検出器1、該赤外線検出器1と入射光学系と赤外線画像を生成、表示する手段とで構成される部分を赤外線カメラと呼ぶことにする。
[実験1]
まず、残像が赤外線カメラの動作に起因するかを確認するために、赤外線カメラの電源をOFFにした状態で1000Kの黒体を3分間観察し(すなわち、赤外線検出素子に1000Kの黒体輻射を入射し)、その後、赤外線カメラ電源をONにして残像が発生するかを確認した。その結果、赤外線カメラの電源がOFFの状態で高温物体を見せても残像が生じた。もし残像が赤外線カメラの動作に起因するのであれば電源OFFの状態で高温物体を観察しても残像が生じないと考えられることから、残像は赤外線検出器1自体に起因すると考えることができる。
[実験2]
次に、残像が赤外線検出器1のいずれかの部分に発生した熱に関係しているかを調べるために、ペルチェ素子3の制御温度(赤外線検出素子2の温度とほぼ同等)を10、20、30、40、50℃の各温度に設定して、505Kの黒体を撮像したときの残像のサイズの変化を調べた。その結果、505Kの黒体撮像時及び黒体除去後の残像観察時を通じて、残像のサイズは変わらなかった。
[実験3]
実験2では、赤外線の入射によって発生した熱が回路基板11に蓄積されたとしても、熱が回路基板11の厚み方向(ペルチェ素子3方向)に伝導するために回路基板11の面方向には広がりにくい。そこで、ペルチェ素子3の温度制御を停止し、回路基板11の厚み方向の熱の流れを遮断して同様に残像のサイズの変化を調べた。その結果、やはり残像のサイズは変わらなかった。もし、残像が回路基板11のような熱が拡散しやすい部分に発生した熱に起因するのであれば、時間の経過と共に残像のサイズが変化していくと考えられることから、実験2及び実験3の結果より、残像は熱が拡散しにくい部分(例えば、回路基板11から熱分離された温度検出部19)に関係していると考えることができる。
[実験4]
実験2及び実験3の結果から、残像のサイズは時間が経過しても変化しないことが確認されたが、残像の温度が時間の経過と共にどのように変化するかを確認するために、実験2と同様に、ペルチェ素子3の制御温度を10、20、30、40、50℃の各温度に設定し、505Kの黒体を3分間撮像した後の残像の温度換算値の時間変化を測定した。その結果を図11に示す。また、黒体撮像時及び30秒、240秒後の実際の赤外線画像を図12乃至図14(各々(a)は全体画像、(b)は黒体部(図の白い部分)の拡大画像)に、この赤外線画像の75番目のラインに沿った輝度分布を図15に示す。また、各時間における残像の温度換算値をT=T0×e(−t/τ)でフィッティングした時のフィッティングカーブの定数(残像の温度換算値(T0)と残像の時定数(τ))を計算した。その結果を表1に示す。なお、この残像の温度換算値と時定数は、残像の時間依存性の内、時定数が大きい成分をフィッティングした時のt=0の外挿値を用いているため、t=0の実験値よりも小さい値になっている。
Figure 2005351755
図11より、ペルチェ素子3の制御温度に関わらず、いずれの場合も残像が発生しており、ペルチェ素子3の制御温度が高くなるに従って徐々に残像の温度が高くなっていることがわかる。また、表1より残像の温度換算値のみならず時定数もペルチェ素子3の制御温度が高くなるに従って徐々に大きくなっていることがわかる。この原因については明らかではないが、黒体輻射による温度上昇が原因であれば、ペルチェ素子3の制御温度にかかわらず、黒体輻射が入射した部分と入射していない部分との温度差は略等しいと考えられることから、単純な温度上昇の問題ではないと考えられる。
[実験5]
次に、残像が赤外線検出素子2の温度上昇に関係しているとすると、赤外線検出素子2周囲の雰囲気が大気か真空かによって熱の放散状態が変わることから、残像に差が生じることが予想される。そこで、赤外線検出素子2の雰囲気を大気又は真空にした場合における505K黒体撮像時と残像観察時における残像の程度を測定した。その結果を表2に示す。
Figure 2005351755
表2より、大気雰囲気中で505K黒体を3分間撮像した場合には、残像観察時の雰囲気が大気か真空かに関わらず残像がなく、一方、真空雰囲気中で505K黒体を3分間撮像した場合には、残像観察時の雰囲気が大気解放か真空かに関わらず残像が生じていることから、熱が拡散しにくい部分の温度上昇が残像に関係していると推測される。
[実験6]
次に、室温や低温の被写体でも同様に残像が発生するか否かを確認するために、人を被写体とし残像観察時に冷却した背景を観察したときと、液体窒素で冷却した物体を被写体とし残像観察時に室温の背景を観察したときで残像が発生するかを確認した。その結果を表3に示す。
Figure 2005351755
表3より、撮像時の被写体と残像観察時の背景とに温度差があるにも関わらず残像が生じないか若しくはわずかな残像が生じるのみであることから、残像は赤外線検出素子2の温度上昇に依存していると考えられる。
[実験7]
以上の結果を総合的に判断すると、実験1から、残像は赤外線カメラの動作によって生じるのではなく、また、実験2、3、5及び6から、熱が伝導しやすい回路基板11よりも回路基板11から熱分離されたダイアフラム(温度検出部19)の温度上昇の影響が大きいと考えられる。また、実験4から、残像は赤外線入射により生じる温度差よりも温度検出部19の温度自体に関係していると推測される。従って、温度検出部19の温度、すなわち、ペルチェ素子3の制御温度を変えれば残像の温度換算値や時定数が変化することから、残像発生時に制御温度を変えることによって残像を低減することができると考えられる。そこで、505Kの黒体を3分間撮像した後、ペルチェ素子3の制御温度を変えて残像がどのように変化するかを測定した。その結果を図16及び表4に示す。
Figure 2005351755
図16及び表4より、高温物体(505Kの黒体)を撮像した後にペルチェ素子3の制御温度(すなわち、赤外線検出素子2の温度)を下げても残像はなくならないが(図16の黒丸及び表4の下段参照)、高温物体を撮像した後にペルチェ素子3の温度を上げる(例えば、図16の白三角又は表4の中段では40℃から50℃の+10℃、図16の黒四角又は表4の上段では10℃から40℃の+30℃)と残像がなくなることが判明した。そのような効果が得られる原因は必ずしも明確ではないが、単純な熱的問題ではなく、例えば、以下のように推測することができる。
(推測1)
ダイアフラム(温度検出部19)や回路基板11表面、回路基板11とダイアフラムの間のいずれかの部分に熱が蓄積し、残像が発生している画素が常に温度のオフセット状態になっている。
(推測2)
高温物体撮像時にダイアフラムに熱が蓄積し、ホッピング伝導に伴うキャリアトラップや準安定ポテンシャルへの熱的、光的励起などにより、ダイアフラムを構成するボロメータ薄膜(酸化バナジウム)の物性が変化する。そして、変化した物性は、高温物体除去後にペルチェ素子3の制御温度を低く設定したり、大気解放して熱を逃がしても直ぐには元に戻らない。
(推測3)
高温物体撮像時の熱により反りが発生し、酸化バナジウムやシリコン窒化膜などの赤外線検出素子2の構成要素に内部歪みが生じて物性値が変化する。
(推測4)
酸化バナジウムの抵抗、酸化バナジウムやシリコン窒化膜の誘電率、酸化バナジウムとシリコン窒化膜の界面準位のヒステリシスにより、高温物体を除去してもこれらの物性値が直ぐには元に戻らない。
(推測5)
上述した推測1〜4を複合した要因による。
このように、そのメカニズムは明確ではないが、少なくとも、本願発明者の知見に基づいた実験により、高温物体を撮像した後、赤外線検出素子2の温度を撮像時よりも高い温度にすることによって残像が低減できることが判明した。以下、赤外線検出素子2の温度を上昇させる具体的手法について説明する。
まず、本発明の第1の実施例に係るボロメータ型赤外線検出器及び該ボロメータ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法について、図1乃至図4を参照して説明する。図1は、第1の実施例に係るボロメータ型赤外線検出器及び赤外線検出素子の構成を模式的に示す断面図であり、図2は、ボロメータ型赤外線検出器の外部回路の構成を示すブロック図である。また、図3は、残像低減方法の手順を示すフローチャート図であり、図4は、ペルチェ素子の制御温度の推移を示す図である。
図1(a)に示すように、ボロメータ型赤外線検出器1は、入射光学系を介して入射した赤外線を検出する赤外線検出素子2と、該赤外線検出素子2の温度を制御するペルチェ素子3などの温度制御素子と、これらの素子を真空又は減圧状態で封止するパッケージ4、キャップ5、赤外線透過窓6、排気管7などからなる真空パッケージと、赤外線検出素子2やペルチェ素子3と外部回路とを繋ぐピン8などで構成され、図1(b)に示すように、赤外線検出素子2は、内部に読出回路11aが形成され、表面に赤外線反射膜12や保護膜13、コンタクト11bが形成された回路基板11と、ボロメータ薄膜16と電極17とこれらを覆う保護膜15とで構成される温度検出部19と、該温度検出部19を中空で保持する梁18とで構成される。なお、図1は、本発明のボロメータ型赤外線検出器1の一例であり、熱分離構造を備える赤外線検出素子2が温度制御素子で温度制御される限りにおいて、その具体的構成は限定されない。
上述した実験結果より、残像が生じた場合には赤外線検出素子2の温度を上昇させることによって残像を低減することができる。そこで、本実施例では、図2に示すように、赤外線検出素子2やペルチェ素子3に接続される外部回路9を、少なくとも、赤外線検出素子2を駆動する駆動手段21と、赤外線検出素子2から出力される赤外線画像信号を処理する信号処理手段22と、ペルチェ素子3を駆動する温度制御素子駆動手段24と、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段23と、高温物体が検出された場合にペルチェ素子3の制御温度を予め定められた温度分、上昇させる制御を行う制御温度設定手段25とで構成している。
なお、上記各手段の内、駆動手段21、信号処理手段22、温度制御素子駆動手段24は通常の赤外線検出器に備えられている手段であり、本実施例では、上記手段に加えて、高温物体検出手段23と、制御温度設定手段25とを備えることを特徴としている。また、外部回路9は上記手段以外の手段を含んでいてもよく、また、これらの手段は独立して存在していてもよいし、外部回路9内で明確に区分されていなくてもよい。また、ここでは、駆動手段21を便宜上、外部回路9に設けているが、読出回路11aの中に駆動手段21の一部が構成されていてもよい。
上記高温物体検出手段23は、信号処理手段22の出力から得られる被写体の温度を参照して、該温度が予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の場合に、本実施例の残像低減処理を行うべき被写体であると判断する。その場合において、何度以上の被写体を高温物体と判断するかは、赤外線検出器1自体の性能や使用状況を鑑みて設定することができる。例えば、ペルチェ素子3の制御温度が低い場合は、図11及び表1の結果より残像の影響が小さいことから、高温物体の基準となる温度を高く設定したり、ペルチェ素子3の制御温度が高い場合は残像の影響が大きいことから、高温物体の基準となる温度を低く設定してもよい。また、この基準となる温度は常に一定とする必要はなく、本実施例の残像低減方法では徐々にペルチェ素子3の制御温度を高くすることから、残像低減処理の度に高温物体の基準となる温度を低く又は高くするなど、可変してもよい。
また、高温物体の大きさについても限定されず、アレイ状の赤外線検出素子2内の一画素でも基準となる温度を超えたら高温物体と判断してもよいし、微小な大きさの物体に対して赤外線検出器1全体の設定を変更するのが好ましくない場合は、予め定められた大きさ、すなわち予め定められた数量の画素で基準となる温度を超えた場合に高温物体であると判断することもできる。
また、予め定められた温度又は出力電圧、大きさの高温物体が検出されたら直ぐに残像低減処理を行うようにしてもよいし、予め定められた温度又は出力電圧、大きさの高温物体が検出され、かつ、予め定められた時間経過後(例えば、1秒後)においても残像の温度換算値が所定の値以上である場合にのみ、残像低減処理を行うようにしてもよい。このような判断を行うことにより、例えば、瞬間的に高温物体を撮像したが、非常に短時間であるために残像の影響が直ぐになくなる場合は、残像低減処理の対象外とすることができ、実効的に影響の大きい残像のみを低減することが可能となる。
また、制御温度設定手段25では、高温物体検出手段23で高温物体が検出された場合に、温度制御素子駆動手段24の制御温度を予め定められた温度だけ、上昇させる制御を行う。この上昇させる温度も赤外線検出器1自体の性能や使用状況を鑑みて設定することができ、例えば、ペルチェ素子3の変更前の制御温度が低い場合は、図11及び表1の結果より残像の影響が小さいことから、上昇させる温度を小さく設定したり、ペルチェ素子3の変更前の制御温度が高い場合は残像の影響が大きいことから、上昇させる温度を大きく設定してもよく、逆に、ペルチェ素子3の変更前の制御温度が低い場合は、高い温度まで上昇させることができることから、上昇させる温度を大きく設定し、ペルチェ素子3の変更前の制御温度が高い場合はあまり温度を上昇させることができないことから、上昇させる温度を小さく設定してもよい。また、この上昇させる温度は常に一定にする必要はなく、本実施例の残像低減方法では徐々にペルチェ素子3の制御温度を高くすることから、残像低減処理の度に上昇させる温度を徐々に小さくしていくこともできる。
次に、上記構成の外部回路9を備えた赤外線検出器1を用いて残像を低減する具体的手順について、図3のフローチャート図及び図4のペルチェ素子3の制御温度の推移図を参照して説明する。
まずステップS101で、赤外線カメラの電源をONにする。すると、ステップS102で、温度制御素子駆動手段24はペルチェ素子3を駆動して赤外線検出素子2を予め定められた温度になるように制御し、駆動手段21は所定の信号を赤外線検出素子2に送信し、赤外線検出素子2は、入射光学系を通して入射する赤外線による温度検出部19の温度変化を電圧の変化として信号処理手段22に送信して被写体を撮像する。
次に、ステップS103で、高温物体検出手段23は、信号処理手段22の信号に基づいて、被写体の中に予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体(高温物体)が撮像されているかを判断する。そして、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体がある場合に該被写体を高温物体と判断して、ステップS104で、制御温度設定手段25は、温度制御素子駆動手段24に制御信号を送信し、制御温度を予め定められた温度だけ上昇させる。上昇させる温度は上述したように赤外線検出器1自体の性能や使用状況を鑑みて設定することができるが、10℃程度とすることができる。
次に、ペルチェ素子3の制御温度を変更したら直ぐにステップS103に戻ってもよいが、制御温度を変更しても赤外線検出素子2の温度が上昇するまでには所定の時間が必要であり直ぐには残像がなくならないことから、ステップS105で、制御温度設定手段25は、制御定温度の変更からの時間をカウントし、予め定められた時間が経過した後、ステップS103に戻って高温物体の検出動作を行うようにしてもよい。そして、S103からS105までのステップを繰り返し、図4に示すように、高温物体が検出されるたびに制御温度を上昇させて残像を低減する。
このように、本実施例の赤外線検出器1の外部回路9には、駆動手段21や信号処理手段22、温度制御素子駆動手段24に加えて、高温物体検出手段23と制御温度設定手段25とを備えており、高温物体検出手段23で予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体(高温物体)が検出された場合に、制御温度設定手段25によってペルチェ素子3の制御温度を上昇させる制御を行うため、高温物体を撮像しても残像を迅速に低減することができるため、正確な温度が測定できる信頼性の高い赤外線画像を取得することができる。
次に、本発明の第2の実施例に係るボロメータ型赤外線検出器及び該ボロメータ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、残像低減方法の手順を示すフローチャート図であり、図6は、ペルチェ素子の制御温度の推移を示す図である。
前記した第1の実施例では、高温物体検出手段23で高温物体が検出されるたびにペルチェ素子3の制御温度を上げて残像を低減したが、この方法では、徐々に赤外線検出素子2の温度が上昇し、その結果、温度検出部19を構成するボロメータ薄膜16(酸化バナジウム)の抵抗温度係数(TCR:Temperature coefficient of resistance)が変化して徐々に感度が変化してしまい、また、ペルチェ素子3の制御温度が常温から大きくずれてしまうと温度制御のための消費電力が大きくなってしまう。そこで、本実施例では、残像を低減しつつ上記問題が生じないように赤外線検出器1を構成する。
本実施例の外部回路9の構成は第1の実施例と同様であるが、制御温度設定手段25では、高温物体検出手段23で高温物体が検出されたら予め定められた温度だけ制御温度を上昇させ、所定の時間が経過したら、制御温度を元に戻す制御を行う。すなわち、本実施例では制御温度を上昇させたまま保持するのではなく、ある一定時間のみパルス的に制御温度を上昇させる。
上記構成の制御温度設定手段25を備えた赤外線検出器1を用いて残像を低減する具体的手順について、図5のフローチャート図及び図6のペルチェ素子3の制御温度の推移図を参照して説明する。
まず、ステップS201で、赤外線カメラの電源をONにする。すると、ステップS202で、温度制御素子駆動手段24はペルチェ素子3を駆動して赤外線検出素子2を予め定められた温度になるように制御し、駆動手段21は所定の信号を赤外線検出素子2に送信し、赤外線検出素子2は、入射光学系を通して入射する赤外線による温度検出部19の温度変化を電圧の変化として信号処理手段22に送信して被写体を撮像する。
次に、ステップS203で、高温物体検出手段23は、信号処理手段22の信号に基づいて、被写体の中に予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体(高温物体)が撮像されているかを判断する。そして、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体がある場合に該被写体を高温物体と判断して、ステップS204で、制御温度設定手段25は、温度制御素子駆動手段24に制御信号を送信し、制御温度を予め定められた温度だけ上昇させると共に、制御信号を送信してからの時間を計測し、ステップS205で、予め定められた時間が経過したら、ステップS206で、温度制御素子駆動手段24に制御信号を送信し、制御温度を元の温度に戻す。なお、上昇させる温度や温度を上昇させる時間は赤外線検出器1自体の性能や使用状況を鑑みて設定することができるが、ペルチェ素子3の温度を上昇させても赤外線検出素子2の温度は直ぐには上昇しないことから、温度を上昇させる時間としてある程度の時間を確保することが好ましく、例えば、1分程度とすることができる。
次に、第1の実施例と同様に、ペルチェ素子3の制御温度を変更しても直ぐには残像がなくならないことから、ステップS207で、制御温度設定手段25は、制御温度の変更からの時間をカウントし、予め定められた時間が経過した後、ステップS203に戻って高温物体の検出動作を行うようにしてもよい。そして、S203からS207までのステップを繰り返し、図6に示すように、高温物体が検出されるたびに制御温度を一定時間上昇させて残像を低減する。
このように、本実施例の赤外線検出器1の外部回路9には、高温物体検出手段23と制御温度設定手段25とを備えており、高温物体検出手段23で予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体(高温物体)が検出された場合に、制御温度設定手段25によってペルチェ素子3の制御温度を上昇させる制御を行うため、高温物体を撮像しても残像を迅速に低減することができる。また、一定時間経過後に、制御温度は初期状態に戻されるため、何度も高温物体を検出した場合でも、赤外線検出素子2の動作温度が常温から大きくずれて感度が変化したり消費電力が増加することがないため、更に赤外線検出器1の動作を安定化させることができる。
次に、本発明の第3の実施例に係るボロメータ型赤外線検出器及び該ボロメータ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法について、図7乃至図10を参照して説明する。図7は、ボロメータ型赤外線検出器の外部回路の構成を示すブロック図である。また、図8は、残像低減方法の手順を示すフローチャート図であり、図9は、パルスバイアス波形を示す図である。また、図10は、赤外線検出素子2の動作原理を説明するための図である。
前記した第1及び第2の実施例では、高温物体検出手段23により高温物体が検出された場合に、ペルチェ素子3の制御温度を上げ、赤外線検出素子2の温度を上昇させて残像を低減したが、ペルチェ素子3の制御温度を変えると赤外線検出器1全体、すなわち、ダイアフラム(温度検出部19)のみならず、ダイアフラムを中空保持する梁18や読出回路11aが形成された回路基板11の温度も変化するために、元の温度に戻るまでの時間が長くなり、また、梁18や回路基板11の温度が変化すると、梁18の形状が変化したり読出回路11aの特性が変化するなどの問題が生じる場合もある。そこで、本実施例では、残像を低減しつつ上記問題が生じないように赤外線検出器1を構成する。
具体的には、図7に示すように、本実施例の外部回路9には、パルスバイアスによって赤外線検出素子2を駆動する駆動手段21と、赤外線検出素子2から出力される赤外線画像信号を処理する信号処理手段22と、ペルチェ素子3を駆動する温度制御素子駆動手段24とに加えて、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段23と、高温物体が検出された場合に赤外線検出素子2に印加するパルスバイアスのパルスの幅又はピーク電圧を変化させる(すなわち、パルスバイアスのパルス幅を長く、又は、パルスのピーク電圧を大きくする)制御を行うパルスバイアス設定手段26とを備えている。なお、本実施例においても、上記手段以外の手段を含んでいてもよく、また、これらの手段は独立して存在していてもよいし、外部回路9内で明確に区分されていなくてもよい。
ここで、赤外線検出素子2の動作原理について、図10を参照して説明する。図10に示すように、ボロメータには周期的(τfフレーム時間毎)にパルスバイアス電圧または電流が印加され、このパルスバイアスに伴って温度変動幅ΔTcで昇温・降温が周期的に繰り返され、読出時間τroの間に赤外線検出素子2の信号が読み出される。そこで、温度変動幅ΔTcや読出時間τroの許容範囲において、このパルスバイアスのパルスの幅又はピーク電圧を大きくすればボロメータ薄膜16の温度を上昇させることができ、ペルチェ素子3の制御温度を上昇させた場合と同様の効果を得ることができる。そこで、本実施例では、前記した第1及び第2の実施例で示した制御温度設定手段25に代えて、外部回路9にパルスバイアス設定手段26を設けている。
上記構成のパルスバイアス設定手段26を備えた赤外線検出器1を用いて残像を低減する具体的手順について、図8のフローチャート図及び図9のパルスバイアスのタイミングチャート図を参照して説明する。
まず、ステップS301で、赤外線カメラの電源をONにする。すると、ステップS302で、温度制御素子駆動手段24はペルチェ素子3を駆動して赤外線検出素子2を予め定められた温度になるように制御し、駆動手段21は所定の信号を赤外線検出素子2に送信し、赤外線検出素子2は、入射光学系を通して入射する赤外線による温度検出部19の温度変化を電圧の変化として信号処理手段22に送信して被写体を撮像する。
次に、ステップS303で、高温物体検出手段23は、信号処理手段22の信号に基づいて、被写体の中に予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体(高温物体)が撮像されているかを判断する。そして、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体がある場合に該被写体を高温物体と判断して、ステップS304で、パルスバイアス設定手段26は、駆動手段21に制御信号を送信し、パルスバイアスのパルスの幅又はピーク電圧を予め定められた値に変更すると共に、制御信号を送信してからの時間を計測し、ステップS305で、予め定められた時間が経過したら、ステップS306で、駆動手段21に制御信号を送信し、パルスバイアスの幅又はピーク電圧を元の状態に戻す。
なお、パルスバイアスのパルスの幅やピーク電圧は赤外線検出器1自体の性能や使用状況を鑑みて設定することができるが、例えば、640×480画素、23.5μmピッチの赤外線検出素子2の場合、ボロメータ薄膜16の抵抗値を70kΩ@25℃、TCRを−1.7%/K@25℃、Gth(熱コンダクタンス)を0.04μW/K、Cth(熱容量)を4×10−10J/K、ペルチェ素子3の制御温度を40℃、信号の積分時間を11μsec、パルスバイアスのピーク電圧を4Vとした場合の温度検出部19の温度上昇は8.5℃、同様にパルスバイアスのピーク電圧を6Vにした場合の温度検出部19の温度上昇は20.9℃であり、パルスバイアスのピーク電圧を4Vから6Vに上げれば温度検出部19の温度を12.4℃上げることができる。また、同様に320×240画素の場合も、ボロメータ薄膜16の抵抗値を70kΩ@25℃、TCRを−1.7%/K@25℃、Gthを0.1μW/K、Cthを1.2×10−9J/K、ペルチェ素子3の制御温度を40℃、信号の積分時間を26μsec、パルスバイアスのピーク電圧を4Vとした場合の温度検出部19の温度上昇は6.6℃、同様にパルスバイアスのピーク電圧を6Vにした場合の温度検出部19の温度上昇は15.9℃であり、パルスバイアスのピーク電圧を4Vから6Vに上げれば温度検出部19の温度を9.3℃上げることができる。
次に、第1及び第2の実施例と同様に、パルスバイアスのパルスの幅やピーク電圧を変更しても直ぐには残像がなくならないことから、ステップS307で、パルスバイアス設定手段26は、パルスバイアスの変更からの時間をカウントし、予め定められた時間が経過した後、ステップS303に戻って高温物体の検出動作を行うようにしてもよい。そして、S303からS307までのステップを繰り返し、図9(a)に示すように、高温物体が検出されるたびにパルスバイアスの幅を一定時間(図中の残像低減処理期間)長くしたり、図9(b)に示すように、高温物体が検出されるたびにパルスバイアスのピーク電圧を一定時間大きくして残像を低減する。
なお、上記フローでは、パルスバイアスのパルスの幅又はピーク電圧を変更した後、一定時間が経過したら幅又はピーク電圧を初期値に戻す構成としたが、第1の実施例と同様に、一旦変更した幅又はピーク電圧を保持し、再度高温物体が検出されたら、更に幅又はピーク電圧を大きくするような制御を行うこともできる。また、上記説明では、パルスバイアスの幅又はピーク電圧の一方を変更したが、パルスバイアスの幅及びピーク電圧の双方を同時に変更したり、交互に変更するなど、組み合わせて制御することもできる。
このように、本実施例の赤外線検出器1の外部回路9には、高温物体検出手段23とパルスバイアス設定手段26とを備えており、高温物体検出手段23で予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の被写体(高温物体)が検出された場合に、パルスバイアス設定手段26によってパルスバイアスのパルスの幅又はピーク電圧を一定時間、大きくする制御を行うため、高温物体を撮像しても残像を迅速に低減することができるため、簡単かつ確実に残像を低減することができるため、正確な温度が測定できる信頼性の高い赤外線画像を取得することができる。
なお、上記各実施例では、制御温度設定手段25やパルスバイアス設定手段26を用いて、高温物体検出手段25により高温物体が検出された場合にのみ残像低減処理を行う構成としたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、予め定められた温度又は出力電圧以下の物体であっても多少の残像は生じていると考えられることから、定期的に残像低減処理を行うようにしてもよい。
また、第2及び第3の実施例では、一定時間経過後にペルチェ素子3の制御温度やパルスバイアスのパルスの幅、ピーク電圧を元の状態に戻したが、完全に元の状態に戻さなくてもよく、例えば、第1の実施例と第2の実施例を組み合わせて、元の状態よりは高いが上昇させた時よりは低い温度にするなどとしてもよいし、温度を上昇させた後に、一旦温度を元の状態よりも低くして、その後元の状態に戻すなどとすることもできる。
また、第1及び第2の実施例ではペルチェ素子3の制御温度を変更し、第3の実施例ではパルスバイアスのパルスの幅やピーク電圧を変更したが、ペルチェ素子3の制御温度と、パルスバイアスのパルスの幅やピーク電圧とを同時に変更したり、交互に変更するなど、組み合わせて制御してもよい。
また、上記各実施例では、ペルチェ素子3の制御温度を上げたり、パルスバイアスのパルスの幅を長くしたりピーク電圧を大きくするなどして赤外線検出素子2の温度を上昇させたが、例えば、ヒーターなどの加熱手段を用いて加熱するなどの他の手段や方法を用いて赤外線検出素子2の温度を上昇させてもよい。
本発明の赤外線検出器及び赤外線検出素子の構造を模式的に示す断面図である。 本発明の第1の実施例に係る赤外線検出器の外部回路の構成を示すブロック図である。 本発明の第1の実施例に係る残像低減方法の手順を示すフローチャート図である。 本発明の第1の実施例に係るペルチェ素子の制御温度の推移を示す図である。 本発明の第2の実施例に係る残像低減方法の手順を示すフローチャート図である。 本発明の第2の実施例に係るペルチェ素子の制御温度の推移を示す図である。 本発明の第3の実施例に係る赤外線検出器の外部回路の構成を示すブロック図である。 本発明の第3の実施例に係る残像低減方法の手順を示すフローチャート図である。 本発明の第3の実施例に係るパルスバイアス波形を示す図である。 1フレ−ム毎に昇温・降温を繰り返す温度サイクルを説明する図である。 ペルチェ素子の設定温度毎の残像の時間変化を示す図である。 505K黒体撮像時の赤外線画像を示す図である。 505K黒体撮像後、30秒経過時の赤外線画像を示す図である。 505K黒体撮像後、240秒経過時の赤外線画像を示す図である。 残像の輝度分布の時間変化を示す図である。 ペルチェ素子の設定温度を変えた場合の残像の低減効果を示す図である。
符号の説明
1 赤外線検出器
2 赤外線検出素子
3 ペルチェ素子
4 パッケージ
5 キャップ
6 赤外線透過窓
7 排気管
8 ピン
9 外部回路
11 回路基板
11a 読出回路
11b コンタクト
12 赤外線反射膜
13 保護膜
14 空洞部
15 保護膜
16 ボロメータ薄膜
17 電極
18 梁
19 温度検出部
21 駆動手段
22 信号処理手段
23 高温物体検出手段
24 温度制御素子駆動手段
25 制御温度設定手段
26 パルスバイアス設定手段

Claims (10)

  1. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器において、
    被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する手段と、
    前記高温物体が検出された場合に、前記赤外線検出素子の温度を少なくとも一定時間、上昇させる手段とを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器。
  2. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子と、該赤外線検出素子の温度を制御する温度制御手段とを少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器において、
    前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段と、
    前記高温物体が検出された場合に、前記温度制御手段の制御温度を予め定められた温度だけ上昇させる制御を行う制御温度設定手段とを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器。
  3. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子と、該赤外線検出素子の温度を制御する温度制御手段とを少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器において、
    前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段と、
    前記高温物体が検出された場合に、前記温度制御手段の制御温度を予め定められた温度だけ上昇させ、一定時間経過後に、該制御温度を元の温度に戻す制御を行う制御温度設定手段とを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器。
  4. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持され、パルス状のバイアス電圧により駆動される赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器において、
    前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段と、
    前記高温物体が検出された場合に、前記パルスの幅を予め定められた時間だけ長くし、一定時間経過後に、該パルスの幅を元の幅に戻す制御を行うパルスバイアス設定手段とを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器。
  5. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持され、パルス状のバイアス電圧により駆動される赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器において、
    前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出する高温物体検出手段と、
    前記高温物体が検出された場合に、前記パルスのピーク電圧を予め定められた電圧だけ大きくし、一定時間経過後に、該パルスのピーク電圧を元の電圧に戻す制御を行うパルスバイアス設定手段とを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器。
  6. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、
    被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、
    前記高温物体が検出された場合に、前記赤外線検出素子の温度を少なくとも一定時間、上昇させるステップとを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法。
  7. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子と、該赤外線検出素子を所定の温度に制御する温度制御手段とを少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、
    前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、
    前記高温物体が検出された場合に、前記温度制御手段の制御温度を予め定められた温度だけ上昇させるステップとを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法。
  8. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持されてなる赤外線検出素子と、該赤外線検出素子を所定の温度に制御する温度制御手段とを少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、
    前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、
    前記高温物体が検出された場合に、前記温度制御手段の制御温度を予め定められた温度だけ上昇させるステップと、
    一定時間経過後に、該制御温度を元の温度に戻すステップとを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法。
  9. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持され、パルス状のバイアス電圧により駆動される赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、
    前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、
    前記高温物体が検出された場合に、前記パルスの幅を予め定められた時間だけ長くするステップと、
    一定時間経過後に、該パルスの幅を元の幅に戻すステップとを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法。
  10. ボロメータ薄膜を備えるダイアフラムが梁によって基板に支持され、パルス状のバイアス電圧により駆動される赤外線検出素子を少なくとも備えるボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法であって、
    前記赤外線検出素子からの出力信号を参照して、被写体の中から、予め定められた温度以上又は該温度に対応する値以上の出力電圧の高温物体を検出するステップと、
    前記高温物体が検出された場合に、前記パルスのピーク電圧を予め定められた電圧だけ大きくするステップと、
    一定時間経過後に、該パルスのピーク電圧を元の電圧に戻すステップとを少なくとも備えることを特徴とするボロメ−タ型赤外線検出器を用いた残像の低減方法。
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