非線形光学効果を有する強誘電体の自発分極(ドメイン)を周期的に反転させた領域を設けた光波長変換素子を用いて、基本波を第2高調波に波長変換する方法が既にBleombergenらによって提案されている(非特許文献1参照)。この方法においては、ドメイン反転部の周期Λを、
Λc=2π/{β(2ω)−2β(ω)}
ただしβ(2ω)は第2高調波の伝搬定数
β(ω)は基本波の伝搬定数
で与えられるコヒーレント長Λcの整数倍になるように設定することで、基本波と第2高調波との位相整合(いわゆる疑似位相整合)を取ることができる。
そして、例えば特許文献1に示されるように、非線形光学材料からなる光導波路を有し、そこを導波させた基本波を波長変換する光導波路型の光波長変換素子において、上述のような周期ドメイン反転構造を形成して、効率良く位相整合を取る試みもなされている。
ところで、上記の周期ドメイン反転構造を有する光導波路型の光波長変換素子は、半導体レーザから発せられたレーザビームを波長変換するためにも多く用いられている。その場合、半導体レーザの発振波長が、ドメイン反転部の周期Λと位相整合する波長と一致していないと、波長変換効率は著しく低いものとなり、実用性のある短波長光源を得ることは困難となる。
このような事情に鑑み、従来、例えば上記の特許文献1にも示されているように、半導体レーザと光波長変換素子との間のレーザビーム光路に狭帯域のバンドパスフィルター(以下、BPFと称する)を配して、半導体レーザの発振波長を所望値に調整、ロックすることが提案されている。
そのような構成の一例を図4に示す。図中、1は基本波としてのレーザビーム2を発する半導体レーザ、3は入射光学系、4はチャンネル光導波路4aおよび周期ドメイン反転構造4bを有する光導波路型の光波長変換素子である。そして入射光学系3は、半導体レーザ1から発散光状態で出射したレーザビーム2を平行光化するコリメーターレンズ5と、平行光化されたレーザビーム2を収束させる集光レンズ6と、これらのレンズ5および6の間に配された偏光制御用のλ/2板7と、例えば誘電体多層膜フィルターからなる狭帯域BPF8とを有している。
上述のような狭帯域BPF8は、概ね図5に示すような分光透過率特性を有する。またこの特性における最大透過波長λ0 は、概ね図6に示すようにBPF8への光入射角θに依存して変化する。このような特性のBPF8を透過したレーザビーム2は、集光レンズ6によって光導波路4aの入射端面で収束するように絞られ、TMモードで該光導波路4aに入力する成分と、上記入射端面で反射する成分とに分けられる。
光導波路4aに入力されたレーザビーム2は、上記周期ドメイン反転構造4bを通過して第2高調波9に変換される。一方、光導波路4aの入射端面で反射したレーザビーム2は、そこまでの光路と逆の光路を辿って半導体レーザ1にフィードバックされ、上記入射端面と半導体レーザ1の後方端面との間で共振し、それにより半導体レーザ1が波長λ0 で発振するようになる。
そして、BPF8の最大透過波長λ0 は図6に示したようにBPF8への光入射角θに依存するので、このBPF8を図4中に矢印Aで示すように回転させることにより、半導体レーザ1の発振波長を、周期ドメイン反転構造4bの周期Λと位相整合する値に調整し、ロックすることができる。
特開平7−152055号公報
Phys.Rev.,vol.127,No.6,1918(1962)
この従来装置においては、図7の(1)に概略図示するように、調整前はレーザビーム2が光導波路4aの入射端面に正しく照射されていても、発振波長調整のためにBPF8を回転させると、レーザビーム2の光路が図7の(2)に破線で示すように傾くことがある。これは、BPF8が完全な平行板でないこと、またレーザビーム2が完全な平行光になっていないことに起因する。
レーザビームの光路が上述のように傾くと、その光導波路端面上での収束位置がずれることになる。このずれは僅かではあるが、光導波路の径は一般に2〜3μm程度と非常に小さいために、レーザビームの光導波路に対する光結合効率を低下させ、波長変換波の出力低下を招く。最悪の場合は、光導波路への入力光量が極端に低下し、位相整合波長と合うように発振波長を調整することが不可能になることもある。
さらに上記の従来装置においては、透過率の高いBPFを作製するのが難しいことから、光波長変換素子への入力光量が低くなりがちで、そのために、高出力の波長変換波を得ることが難しいという問題も認められる。
具体的に説明すると、半導体レーザを単一縦モードで発振させるために、BPFの透過波長半値幅は一般に0.5 nm以下とする必要がある。多層薄膜技術によりBPFを作製するに当たり、このような透過波長半値幅を実現した上で、かつ高い透過率を得るには、非常に高度の製膜技術が要求される。現在の製膜技術で、例えば透過波長半値幅0.5 nm、透過率80%以上を実現しようとすると、製膜プロセスの歩留まりは非常に低くなり、その結果、BPFは著しく高価なものとなってしまう。現在の通常の製膜技術で透過波長半値幅0.5 nmを実現しようとすると、透過率は30%程度にとどまり、そのために波長変換波の出力は大変低いものとなる。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、半導体レーザから発せられたレーザビームを、周期ドメイン反転構造を有する光導波路型の光波長変換素子により波長変換する装置において、半導体レーザの発振波長をドメイン反転部の周期と位相整合する波長に正確にロックし、また、高い波長変換波出力を得ることを目的とするものである。
さらに本発明は、上記の目的を、安価なBPFを利用して達成することも目的とするものである。
本発明による第1の光波長変換装置は、
前述したように周期ドメイン反転構造を有する光導波路型の光波長変換素子と、基本波としてこの光波長変換素子に入射されるレーザビームを発する半導体レーザとからなる光波長変換装置において、
光波長変換素子に入射する前の上記レーザビームを光分岐手段によって一部分岐させ、
この分岐されたレーザビームをミラーで反射させて半導体レーザにフィードバックさせ、
そして、上記ミラーと光分岐手段との間に狭帯域BPFを配してなるものである。
なお上記の光分岐手段としては、そこに入射したレーザビームの50〜90%を光波長変換素子に入射させ、残余を上記ミラーに入射させるものが好適に用いられる。またこの光分岐手段として具体的には、ビームスプリッタが好適に用いられる。
一方、本発明による第2の光波長変換装置は、第1の光波長変換装置で用いられたものと同様の光波長変換素子および半導体レーザからなる光波長変換装置において、
この半導体レーザから、波長変換されるレーザビームとは反対側に出射する後方出射光としてのレーザビームを、ミラーで反射させて半導体レーザにフィードバックさせ、
そして、上記後方出射光としてのレーザビームの光路に狭帯域BPFを配したことを特徴とするものである。
本発明の光波長変換装置において、半導体レーザの発振波長の調整、ロックは、上記BPFを回転させることにより、前述した従来装置におけるのと同様になされ得る。
そして本発明の第1の光波長変換装置においては、BPFを透過したレーザビームを光波長変換素子に入射させずに、光分岐手段を通過したレーザビームを光波長変換素子に入射させるようにしており、この光分岐手段としては例えば透過率が70〜90%に及ぶビームスプリッタ等も利用可能であるから、光波長変換素子への入力光量を高く確保して、高出力の波長変換波を得ることが可能になる。
以上のように、BPFを透過したレーザビームが光波長変換素子に入射しないのであれば、このBPFとして透過率が30%程度の安価なものを用いても、波長変換波の出力が低下することはない。こうして安価なBPFを利用できれば、光波長変換装置を比較的低コストで作製可能となる。
また本発明の第2の光波長変換装置において、BPFを透過するのは後方出射光としてのレーザビームのみであって、波長変換されるレーザビーム(前方出射光)は基本的に全量が光波長変換素子に導かれるので、この場合も光波長変換素子への入力光量を高く確保して、高出力の波長変換波を得ることが可能になる。
なお本発明の第2の光波長変換装置において、半導体レーザの後方端面の反射率がほぼ0%と低い場合、半導体レーザはそれ自身では発振せず、後方出射光を反射させるミラーと半導体レーザの前方端面とを外部共振器としてレーザ発振がなされる。そのとき、ミラーと半導体レーザとの間に配置されるBPFとして低透過率のものを用いると、共振器の内部光パワーが低下して、発振効率が低下する。そうであると、半導体レーザの前方出射光の光量が低下し、ひいては波長変換波の出力が低下するので、BPFとして余りに低透過率のものを用いるのは好ましくない。
一方この第2の光波長変換装置において、半導体レーザの後方端面の反射率が2〜3%程度の場合、半導体レーザはそれ自身で発振するので、後方出射光を反射させるミラーによって外部共振器を構成しても、半導体レーザの前方出射光の光量は外部共振器が無い場合とほとんど変わらない。つまりこの場合、外部共振器からの光は半導体レーザに弱く摂動的に作用するので、BPFの透過率は、半導体レーザの前方出射光の光量や、波長変換波の出力に影響を及ぼさない。
また本発明の光波長変換装置において、BPFを透過するのは発振波長調整用のレーザビームだけで、波長変換されるレーザビームはそれとは別に光波長変換素子に入射するので、発振波長調整のためにBPFを回転させたときレーザビームの光路が傾いても、それによって光波長変換素子への入力光量が低下して、波長変換波の出力低下を招くことはない。
特に本発明の第2の光波長変換装置においては、半導体レーザと光波長変換素子との外にBPFが配置されているので、半導体レーザの発振波長の調整、ロックのためにこのBPFを回転させても、光波長変換素子の光導波路に対する基本波の入力結合効率に影響が及ばない。そのため、この基本波の入力結合効率を高く維持したまま、基本波波長を容易に位相整合波長に調整することができ、よって、極めて高い波長変換効率を実現可能となる。
以下図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の第1実施形態による光波長変換装置を示すものである。図示されるようにこの光波長変換装置は、半導体レーザ(レーザダイオード)10と、この半導体レーザ10から発散光状態で出射したレーザビーム11を平行光化するコリメーターレンズ12と、平行光化されたレーザビーム11を収束させる集光レンズ13と、これらのレンズ12および13の間に配された偏光制御用のλ/2板14と、このλ/2板14と集光レンズ13との間に配された光分岐手段としてのビームスプリッタ20と、光波長変換素子15とを有している。
またビームスプリッタ20で反射したレーザビーム11が入射する位置には、ミラー21が配設される一方、このミラー21で反射したレーザビーム11が順次入射するように狭帯域BPF22、集光レンズ23、およびミラー24が配設されている。なおBPF22としては、一例として透過率が30%の比較的安価な誘電体多層膜フィルターが用いられている。
光波長変換素子15は、図2にその斜視形状を示す通り、非線形光学効果を有する強誘電体であるMgO−LN(MgOがドープされたLiNbO3 )結晶の基板16に、そのz軸と平行な自発分極の向きを反転させたドメイン反転部が周期的に形成されてなる周期ドメイン反転構造17と、この周期ドメイン反転構造17に沿って延びるチャンネル光導波路18とが形成されてなるものである。
MgO−LN結晶基板16は、例えばMgOが5 mol%ドープされたものである。また周期ドメイン反転構造17は、基板16のx軸方向にドメイン反転部が並ぶように形成され、その周期Λは、MgO−LNの屈折率の波長分散を考慮し、980 nm近辺の波長に対して1次の周期となるように5.3 μmとされている。また本例において、周期ドメイン反転構造17の長さ(図2中のa寸法)は10mmである。このような周期ドメイン反転構造17は、例えば特開平6−242478号に示される種々の方法によって形成することができる。
一方チャンネル光導波路18は、周期ドメイン反転構造17を形成した後、基板16の+z面上に公知のフォトリソグラフィーとドライエッチングにより金属マスクパターンを形成し、この基板16をピロリン酸中に浸漬してプロトン交換処理を行ない、マスクを除去した後にアニール処理する、等の方法によって作製することができる。その後このチャンネル光導波路18の両端面18a、18bをエッジ研磨すると、光波長変換素子15が完成する。
なお上記プロトン交換処理は、例えば温度を170 ℃とし、プロトン交換時間を68分としてなされる。一方アニール処理は、例えばアニール温度を350 〜370 ℃とし、アニール時間を1〜2時間としてなされる。またチャンネル光導波路18の幅(図2中のb寸法)は例えば6〜9μmとされる。
半導体レーザ10としては、一例として波長が980 nm近辺のレーザビーム11を発するものが用いられている。このレーザビーム11は、コリメーターレンズ12によって平行光化された後、λ/2板14でチャンネル光導波路18のz軸方向に偏光方向が合わせられ、ビームスプリッタ20に入射する。ビームスプリッタ20としては透過率70%のものが用いられており、入射したレーザビーム11の70%がこのビームスプリッタ20を透過する。
ビームスプリッタ20を透過したレーザビーム11は、集光レンズ13により集光されてチャンネル光導波路18の端面18aにおいて収束する。それによりレーザビーム11はチャンネル光導波路18内に入射し、そこを導波する。
導波モードで進行する基本波としてのレーザビーム11は、チャンネル光導波路18中の周期ドメイン反転領域で位相整合(いわゆる疑似位相整合)して、波長が490 nmの第2高調波19に波長変換される。この第2高調波19もチャンネル光導波路18を導波モードで伝搬し、光導波路端面18bから出射する。
一方、ビームスプリッタ20で反射したレーザビーム11はミラー21で反射した後、狭帯域BPF22を透過し、集光レンズ23により集光されて収束し、この収束位置に配されたミラー24において反射する。ミラー24において反射したレーザビーム11は、そこまでの光路と逆向きの光路を辿って半導体レーザ10にフィードバックされる。なお集光レンズ23は必ずしも必要ではなく、レーザビーム11を平行ビームのままミラー24に入射、反射させても構わない。しかしその場合は、ミラー24と半導体レーザ10の後方端面とが共焦点光学系とならないので、半導体レーザ10へのフィードバック光量が最大となるように、ミラー24の角度を高精度に調整することが必要となる。
ここで、BPF22を図1中の矢印A方向に回転させることにより、所定波長のレーザビーム11のみを半導体レーザ10にフィードバックさせることができる。なおその詳しい理由は、図4に示した従来装置におけるのと基本的に同じである。ただしこの場合は、半導体レーザ10の後方端面と上記ミラー24とによって該半導体レーザ10の外部共振器が構成される。
こうして、所定波長のレーザビーム11のみが半導体レーザ10にフィードバックされれば、半導体レーザ10がこの波長で発振する。そこで、BPF22を適宜回転させることにより、半導体レーザ10の発振波長を周期ドメイン反転構造17の周期Λと位相整合する所望波長に選択、ロックすることができる。
そして本装置においては、透過率が低いBPF22を透過したレーザビーム11を光波長変換素子15に入射させずに、透過率が70%と高いビームスプリッタ20を透過したレーザビーム11を光波長変換素子15に入射させるようにしているから、光波長変換素子15への入力光量を高く確保して、高出力の第2高調波19を得ることができる。
以上のように、BPF22を透過したレーザビーム11が光波長変換素子15に入射しないのであれば、このBPF22として透過率が30%と低い比較的安価なものを用いていても、第2高調波19の出力が低下することはない。こうして安価なBPF22を利用できれば、光波長変換装置を比較的低コストで作製可能となる。
また本装置において、BPF22を透過するのは発振波長調整用のレーザビーム11だけで、波長変換されるレーザビーム11はそれとは別に光波長変換素子15に入射するようになっているので、発振波長調整のためにBPF22を回転させたときレーザビーム11の光路が傾いても、それによって光波長変換素子15への入力光量が低下して、第2高調波19の出力低下を招くことはない。
以下、第2高調波19の出力等について、具体的な数値を挙げて説明する。この第1の実施形態において、まず出力100 mWの半導体レーザ10の発振波長を、特に周期ドメイン反転構造17の周期Λと位相整合する波長(980 nm)に選択しないで、その発振波長をBPF22により983 nmにロックした。
このとき、コリメーターレンズ12によって平行光化されたレーザビーム11の出力は、コリメーターレンズ12での損失のために90mWとなった。さらに、λ/2板14およびビームスプリッタ20を通過した後のレーザビーム11の出力は、ビームスプリッタ20の透過率が70%であることから63mWとなった。この場合、光波長変換素子15からのレーザビーム11の出力は41mWであったので、光導波路18に対するレーザビーム11の光結合効率は、約65%と見積もられる。
次に半導体レーザ10の発振波長を周期ドメイン反転構造17の周期Λと位相整合する波長に選択するため、BPF22を回転させた。この回転にともなって第2高調波19の出力が徐々に増大し、最大約1mWの出力が得られた。このときの半導体レーザ10の発振波長は、周期ドメイン反転構造17の周期Λと位相整合する980 nmとなっていた。また、基本波であるレーザビーム11の光波長変換素子15からの出力は約40mWであった。
以上により、本実施形態においては、半導体レーザ10の発振波長を調整するためにBPF22を回転させても、光導波路18に対するレーザビーム11の光結合効率が、従来装置のように低下しないことが確認された。
なお以上説明した実施形態において、半導体レーザ10はDC駆動される。この駆動方法では、半導体レーザ10自身による低周波領域(MHzレベル以下)の数〜数10%の光量ノイズ、すなわち光量レベル変動が観測された。これは、光量レベルの安定化がなされていないことに起因する(勿論、波長に関しては本発明により位相整合波長にロックされているので、波長変動によるレベル変動は生じなかった)。従来、このようなノイズを低減するためには、半導体レーザを高周波で駆動すると良いことが知られている。そこで、半導体レーザ10を0.1 〜1GHzの周波数で高周波駆動したところ、光量レベルの変動が1%以下となり、より望ましい結果となった。
また、半導体レーザ10の発振波長のロックは、ビームスプリッタ20の透過率が50〜90%の範囲にあると安定に動作する。このビームスプリッタ20の透過率が90%を超えるほど高い場合は、発振波長のロックがやや不安定になる。
次に図3を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。なおこの図3において、図1および図2中のものと同等の要素には同番号を付してあり、それらについての重複した説明は、特に必要の無い限り省略する(以下、同様)。
この図3の光波長変換装置においては、ビームスプリッタ20で反射したレーザビーム11がミラー(図1のミラー21参照)で光路を折り曲げられることなく、直接的に狭帯域BPF22、集光レンズ23およびミラー24に入射するように構成されている。
なお、ビームスプリッタ20で反射したレーザビーム11の光路を上述のようなミラーで折り曲げる場合でも、その折り曲げの方向は図1における方向に限定される訳ではなく、例えば図1において右方に折り曲げるようにしてもよい。
また上記の実施形態では、MgO−LN結晶基板16としてzカット基板(z板)を用いており、したがってその自発分極の向きは基板表面に垂直となっている。しかしこれに限らず、本出願人による特願平8−47591号の明細書に示されるように、自発分極の向きが基板表面に対して垂直とならないようにカットされた基板を用い、該基板に直接電場を印加して周期ドメイン反転構造を形成することも可能である。
次に図8を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。この図8の光波長変換装置において、半導体レーザ10から前方側つまり図中の右方側に出射したレーザビーム11は、分岐されることなく光波長変換素子15に導かれる。光波長変換素子15に入射したレーザビーム11は、基本的に図1の装置におけるのと同様にして第2高調波19に変換される。
ここで半導体レーザ10からは、後方側つまり図中の左方側にもレーザビーム11Rが出射する。一般に後方出射光と称されるこのレーザビーム11Rは、発散光として半導体レーザ10から出射し、コリメーターレンズ30によって平行光化された後、狭帯域BPF22を透過し、集光レンズ23により集光されて収束する。この収束位置に配されたミラー24において反射したレーザビーム11Rは、そこまでの光路と逆向きの光路を辿って、ほぼ全量が半導体レーザ10にフィードバックされる。
この場合も、BPF22を図中の矢印A方向に回転させることにより、所定波長のレーザビーム11Rのみを半導体レーザ10にフィードバックさせることができる。ただしこの場合は、半導体レーザ10の前方端面10bとミラー24とによって該半導体レーザ10の外部共振器が構成されている。そのために、半導体レーザ10の後方端面10aの反射率は例えば0〜3%程度に設定され、また前方端面10bの反射率はそれよりも高い10〜20%程度に設定されている。
こうして、所定波長のレーザビーム11Rのみが半導体レーザ10にフィードバックされれば、半導体レーザ10がこの波長で発振する。そこで、BPF22を適宜回転させることにより、半導体レーザ10の発振波長を周期ドメイン反転構造17の周期Λと位相整合する所望波長に選択、ロックすることができる。
また本装置においても、BPF22を透過するのは発振波長調整用のレーザビーム11Rだけで、波長変換されるレーザビーム11はそれとは全く別に光波長変換素子15に入射する。そこで、発振波長調整のためにBPF22を回転させたときレーザビーム11Rの光路が傾いても、それによって光波長変換素子15への入力光量が低下して、第2高調波19の出力低下を招くようなことはない。
以下、この第3実施形態の光波長変換装置における第2高調波19の出力等について、具体的な数値を挙げて説明する。本装置において、まず半導体レーザ10の発振波長を、特に位相整合波長(980 nm)に選択しないで、BPF22により983 nmにロックした。このとき、基本波であるレーザビーム11の光波長変換素子15からの出力は40mWであった。
次に半導体レーザ10の発振波長を位相整合波長に選択するため、BPF22を回転させた。この回転にともなって第2高調波19の出力が徐々に増大し、最大約1mWの第2高調波出力が得られた。このときの半導体レーザ10の発振波長は980 nmで、位相整合波長と一致していた。また、基本波であるレーザビーム11の光波長変換素子15からの出力は約39mWであった。
以上により、本装置においては、半導体レーザ10の発振波長を調整するためにBPF22を回転させても、光導波路18に対するレーザビーム11の光結合効率が従来装置のように低下しないことが確認された。つまり本装置によれば、光波長変換素子の光導波路に対する基本波の入力結合効率を変化させることなく、高い波長変換効率を得ることができる。
次に図9を参照して、本発明の第4の実施形態について説明する。この図9の光波長変換装置は、図8のものと比較すると、半導体レーザ10が光波長変換素子41の光入射端面に直接結合されている点が異なるものである。このような構成の光波長変換素子は、光学部品が少ないので小型軽量に形成でき、また、光学部品の軸ズレが少ないので光学的な安定性が高いものとなる。
上記のように半導体レーザ10を光波長変換素子41の光入射端面に直接結合させる場合は、それら両者の間に、図1のλ/2板14等の偏光制御素子を設けることはできない。そのため、図1の装置と同様にzカットの基板を用いて光波長変換素子を構成し、TMモード導波を採用しようとするならば、レーザビーム11の偏光方向をチャンネル光導波路18のz軸方向に合わせるために、例えば半導体レーザ10を図1の状態から90°回転させて配置することが必要である。しかし、そのようにすると、半導体レーザ10とチャンネル光導波路18におけるレーザビームパターンが異なるようになり、それら両者間での光結合効率が悪くなる。
このような事情があるので、半導体レーザ10を光波長変換素子の光入射端面に直接結合させる場合は、レーザビーム11の偏光方向を90°回転させる必要がないTEモード導波型の光波長変換素子を用いる方が、半導体レーザ10とチャンネル光導波路18との間の光結合効率を高く保つ上で有利である。そこで本実施形態では、z軸の向きが基板表面に対して水平なxカットのMgO−LN結晶基板40を用いて、TEモード導波型の光波長変換素子41を構成している。
なお、xカットのMgO−LN結晶基板40の代わりに、同様にz軸の向きが基板表面に対して水平となるyカットの基板を用いても、TEモード導波型の光波長変換素子を得ることができる。さらには、前述した特願平8−47591号の明細書に示されるように、自発分極の向きが基板表面に対して垂直とならないようにカットされた基板を用い、該基板に直接電場を印加して周期ドメイン反転構造を形成することにより、TEモード導波型の光波長変換素子を得ることもできる。