本発明は、大深度地下に処分される廃棄物固化体およびその製造方法に関するものである。
近年においては、環境や人体に長期間に亘って悪影響を及ぼす放射性廃棄物を大深度地下に埋設または保管して処分する方法が計画されている。この放射性廃棄物の処分においては、処分場の限られたスペースを有効に利用することができると共に、処分後に廃棄物中の放射性核種が大深度地下の処分場から漏洩して周辺に拡散しないことが重要である。
従って、従来より放射性廃棄物を減容化すると共に放射性核種の漏洩を防止する各種の処理方法が提案および開発されている。例えば特開平5−80197号公報には、放射性核種を含むセラミック廃棄物にアルカリ性水溶液を添加した後、熱間静水圧処理を施して廃棄物固化体にする処理方法が提案されている。また、特開平10−62598号公報には、放射性ヨウ素を含む粒状の放射性廃棄物に処分環境で耐食性を有する金属粉末を充填した後、熱間静水圧処理を施して廃棄物固化体にする処理方法が提案されている。
そして、これらの処理方法によれば、熱間静水圧処理の加圧力により放射性廃棄物を減容化させることができるため、処分場のスペースを有効に利用することができる。さらに、処分後に高湿度の環境下に曝されたり地下水に浸漬されることにより廃棄物固化体の内部に水分が進入することになっても、固化体内に予め充填されたアルカリ性水溶液や金属粉末が水分による放射性核種のイオン化を防止するため、廃棄物固化体からの放射性核種の浸出を抑制することができる。
特開平5−80197号公報
特開平10−62598号公報
しかしながら、上記従来の処理方法では、熱間静水圧処理を施す工程の前に、アルカリ性水溶液や金属粉末等の添加物を放射性廃棄物に投入して均一に分散させる工程を設ける必要があるため、廃棄物固化体を得るまでの処理工程が複雑化するという問題がある。また、熱間静水圧処理により放射性廃棄物を減容化するときに、放射性廃棄物中の添加物(アルカリ性水溶液や金属粉末)も減容化の対象となるため、放射性廃棄物のみを減容化させる場合よりも減容化が不十分であるという問題もある。
従って、本発明は、簡単な処理工程で得ることができると共に十分に減容化された廃棄物固化体およびその製造方法を提供するものである。
課題を解決するための手段及び発明の効果
発明1は、大深度地下に処分されたときの放射性核種の浸出を抑制するように固化された廃棄物固化体であって、前記放射性核種を含む放射性廃棄物のみからなり、少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造にされている構成である。
上記の構成によれば、廃棄物固化体の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造にされているため、大深度地下に処分された後に高湿度の環境下に曝されたり、地下水に浸漬されることになっても、廃棄物固化体の内部に水分が進入することがない。従って、廃棄物固化体の内部に存在する放射性核種と水分とが遮断されることによって、水分の影響による放射性核種のイオン化が防止されるため、長期間に亘って放射性核種の地下水等への浸出を抑制することができる。そして、従来のように水分が廃棄物固化体内に進入することを前提としていた場合には、廃棄物固化体内に銅等の添加物を添加して放射性核種の浸出を抑制する必要があったため、結果的に添加物による減容効果の低下と処理工程の複雑化を生じることになっていたが、本発明の構成であれば、廃棄物固化体自体を不透水性の稠密構造にしているため、添加物による減容効果の低下および処理工程の複雑化を生じることなく上述の放射性核種の浸出を長期間に亘って抑制することができるという効果を奏する。
発明2は、さらに、少なくとも表面全体が結晶質構造にされている構成である。上記の構成によれば、廃棄物固化体の少なくとも表面全体が稠密構造に加えて結晶質構造にされているため、廃棄物固化体内への水分の進入を一層防止することができると共に、固化体構成物質や母材の浸出を防止することができるという効果を奏する。
発明3は、発明1または発明2の廃棄物固化体であって、前記放射性廃棄物は、前記放射性核種を含む多孔性および非晶質の無機化合物を主成分としている構成である。上記の構成によれば、極めて長期間に亘って環境に悪影響を及ぼす放射性核種が多孔性の放射性廃棄物に含まれ、浸出し易い状態で存在していても、これら放射性廃棄物を処理した後の廃棄物固化体の少なくとも表面全体が稠密構造にされ、水分から遮断されているため、放射性核種の浸出を長期間に亘って十分に抑制することができるという効果を奏する。
発明4は、発明1または発明2の廃棄物固化体であって、前記放射性廃棄物は、前記放射性核種として放射性ヨウ素を含む多孔性および/または非晶質の珪素化合物、前記放射性核種として放射性炭素を含む炭酸塩、および前記放射性核種を含む金属の一種以上を有する構成である。上記の構成によれば、極めて長期間に亘って環境に悪影響を及ぼす放射性ヨウ素や放射性炭素等の放射性核種が放射性廃棄物に浸出し易い状態で含まれていても、この放射性廃棄物を処理した廃棄物固化体の少なくとも表面全体が稠密構造にされ、水分から遮断されているため、放射性核種の浸出を長期間に亘って十分に抑制することができるという効果を奏する。
発明5は、大深度地下に処分されたときの放射性核種の浸出を抑制するように固化された廃棄物固化体の製造方法であって、前記放射性核種を含む放射性廃棄物の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造となるように該放射性廃棄物を高温等方圧処理する固化処理工程を有する構成である。上記の構成によれば、放射性廃棄物の少なくとも表面を不透水性の稠密構造にする処理を高温等方圧処理という一般的な処理操作により行うことができるという効果を奏する。
発明6は、大深度地下に処分されたときの放射性核種の浸出を抑制するように固化された廃棄物固化体の製造方法であって、前記放射性核種を含む多孔性および非晶質の無機化合物を主成分とする放射性廃棄物から水分を除去する脱水工程と、前記放射性廃棄物の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造となるように該放射性廃棄物を高温等方圧処理する固化処理工程とを有する構成である。上記の構成によれば、放射性廃棄物の少なくとも表面を不透水性の稠密構造にする処理を高温等方圧処理という一般的な処理操作により行うことができる。さらに、脱水工程により放射性廃棄物から水分を除去することによって、無機化合物の結晶化により生じる可能性ある固化体の結晶間でのクラック、割れの発生に伴う固化体の表面積の増大を抑制し、放射性核種の浸出を抑制することにより長期間に亘って安定した特性を発揮させることができるという効果を奏する。
発明7は、大深度地下に処分されたときの放射性核種の浸出を抑制するように固化された廃棄物固化体の製造方法であって、前記放射性核種を含む多孔性および非晶質の無機化合物を主成分とする放射性廃棄物に水分を供給する給水工程と、前記放射性廃棄物の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造および結晶質構造となるように該放射性廃棄物を高温等方圧処理する固化処理工程とを有する構成である。上記の構成によれば、放射性廃棄物の少なくとも表面を不透水性の稠密構造にする処理を高温等方圧処理という一般的な処理操作により行うことができる。さらに、給水工程により廃棄物に水分を供給することによって、無機化合物の結晶化を低温の高温等方圧処理で実現できる。従って、高温等方圧処理装置を低温で運転することができるため、高温で運転する場合よりも処理装置の維持コストを低減することができるという効果を奏する。
発明8は、発明6または発明7の廃棄物固化体の製造方法であって、前記無機化合物は、前記放射性核種として放射性ヨウ素を含む多孔性および/または非晶質の珪素化合物である構成である。上記の構成によれば、放射性ヨウ素が多孔性および非晶質の珪素化合物に含まれて浸出し易い状態になっていても、この珪素化合物を主成分とする放射性廃棄物の少なくとも表面全体を高温等方圧処理という一般的な処理操作により稠密構造や、場合によっては結晶質構造にすることによって、極めて長期間に亘って放射性ヨウ素の浸出を抑制することができるという効果を奏する。
発明9は、大深度地下に処分されたときの放射性核種の浸出を抑制するように固化された廃棄物固化体の製造方法であって、前記放射性核種として放射性炭素を含む炭酸カルシウムを主成分とする放射性廃棄物の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造となるように、前記炭酸カルシウムが分解しない温度および圧力の処理条件下で高温等方圧処理する固化処理工程を有する構成である。上記の構成によれば、放射性炭素を確実に稠密構造の廃棄物固化体内に閉じ込めることができるという効果を奏する。
発明10は、大深度地下に処分されたときの放射性核種の浸出を抑制するように固化された廃棄物固化体の製造方法であって、前記放射性核種を含む金属を主成分とする放射性廃棄物の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造となり、且つ前記廃棄物同士が完全に拡散接合するまで、前記金属が溶解しない温度および圧力の処理条件下で高温等方圧処理する固化処理工程を有する構成である。上記の構成によれば、放射性核種を確実に稠密構造の廃棄物固化体内に閉じ込めることができる。さらに、廃棄物固化体の内部における各廃棄物の表面に存在していた放射性核種を拡散接合により廃棄物の内部に進入させることができるため、放射性物質の浸出をより十分に抑制することができるという効果を奏する。
発明11は、発明5ないし発明10の何れかの廃棄物固化体の製造方法であって、さらに、前記放射性廃棄物を粉砕する粉砕工程を有する構成である。上記の構成によれば、放射性廃棄物を粉砕することによって、放射性核種を廃棄物固化体内において一層均一に分散させることができるため、処分後に放射性核種をより安定した浸出率で浸出させることを可能にし、長期間に亘って安定した特性を発揮させることができるという効果を奏する。
本発明の廃棄物固化体は、大深度地下に処分されたときの放射性核種の浸出を抑制するように固化されたものであって、前記放射性核種を含む放射性廃棄物のみからなり、少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造にされている。
ここで、稠密構造とは、廃棄物固化体の構成物質の隙間が水分子を通過させない程度にまで狭まった状態をいう。従って、表面全体が稠密構造にされた廃棄物固化体は、大深度地下に処分された後に高湿度の環境下や地下水に浸漬されることになっても、水分子を内部に進入させることはない。尚、廃棄物固化体は、固化体全体が稠密構造であることが望ましく、この構造であれば、処分後に振動や衝撃等による外力が付与されて表面に傷が生じた場合でも、水分子の内部への進入を確実に阻止することができる。
上記の構成によれば、廃棄物固化体の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造にされているため、大深度地下に処分された後に高湿度の環境下に曝されたり、地下水に浸漬されることになっても、廃棄物固化体の内部に水分が進入することがない。従って、廃棄物固化体の内部に存在する放射性核種と水分とが遮断されることによって、水分の影響による放射性核種のイオン化が防止されるため、長期間に亘って放射性核種の地下水等への浸出を抑制することができる。そして、従来のように水分が廃棄物固化体内に進入することを前提としていた場合には、廃棄物固化体内に銅等の添加物を添加して放射性核種の浸出を抑制する必要があったため、結果的に添加物による減容効果の低下と処理工程の複雑化を生じることになっていたが、本発明の構成であれば、廃棄物固化体自体を不透水性の稠密構造にしているため、添加物による減容効果の低下および処理工程の複雑化を生じることなく上述の放射性核種の浸出を長期間に亘って抑制することができる。
上記の廃棄物固化体の稠密構造は、放射性核種を含む多孔性および/または非晶質の無機化合物を主成分とした放射性廃棄物、例えば放射性核種として放射性ヨウ素を含む多孔性および/または非晶質の珪素化合物を主成分とした放射性廃棄物にとって好適なものである。この理由は、極めて長期間に亘って環境に悪影響を及ぼす放射性ヨウ素等の放射性核種が多孔性の放射性廃棄物に含まれ、浸出し易い状態で存在していても、これら放射性廃棄物を処理した後の廃棄物固化体の少なくとも表面全体が稠密構造にされ、水分から遮断されているため、放射性核種の浸出を長期間に亘って十分に防止することができるからである。
尚、上述の無機化合物として例示した珪素化合物としては、硝酸銀添着シリカゲルからなる多孔質および非晶質のシリカゲル吸着材がある。シリカゲル吸着材は、原子力発電所の再処理施設で発生する放射性ヨウ素ガスを吸着する用途に使用され、放射性ヨウ素(I−129)と銀(Ag)とが反応してヨウ化銀(AgI)として吸着することにより放射性廃棄物となる。
また、廃棄物固化体の稠密構造は、放射性核種として放射性炭素を含む炭酸カルシウムを代表とする炭酸塩を主成分とする放射性廃棄物や、放射性核種を含む金属を主成分とした放射性廃棄物等に適用されていたり、これらの放射性物質および上述の無機化合物の一種以上を有した混合物に適用されていても良い。尚、金属からなる放射性廃棄物としては、使用済燃料を再処理する際に発生するものがあり、具体的には、30〜50mm程度に切断されたジルカロイ製の燃料被覆管(ハル)や、インコネルおよびステンレス製のスペーサ、ステンレス製のノズル部材等がある。そして、これらの金属は、未溶解の燃料や核分裂生成物が付着等しており、例えば燃料被覆管(ハル)は、アクチニド元素が表面に付着している。
また、本発明の廃棄物固化体は、稠密構造に加えて、少なくとも表面全体が結晶質構造にされていることが望ましく、さらに望ましくは、固化体全体が結晶質構造にされているほうが良い。ここで、結晶質構造とは、結晶を構成する原子や分子が三次元の周期性でもって空間格子を形成している状態をいう。結晶質構造であることが望ましい理由は、結晶質構造にされると、水分子を通過させない稠密構造を一定の周期性でもって出現させた状態になるため、固化体内への水分の進入を一層確実に阻止することができると共に、固化体構成物質や母材の浸出を確実に防止することができるからである。
上記の構成において、廃棄物固化体は、放射性核種を含む放射性廃棄物の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造となるように放射性廃棄物を高温等方圧処理する固化処理工程を有した製造方法により作成されている。これは、高温等方圧処理という一般的な処理操作で廃棄物固化体を作成すれば、既存の設備等を利用することができるからである。
また、廃棄物固化体は、上記の固化処理工程の前に、放射性廃棄物を粉砕する粉砕工程を有した製造方法により作成されていることが望ましい。これは、放射性廃棄物を粉砕することによって、放射性核種を廃棄物固化体内において一層均一に分散させることができるため、処分後に放射性核種をより安定した浸出率で浸出させることを可能にし、長期間に亘って安定した特性を発揮させることができるからである。
さらに、廃棄物固化体の作成時に放射性廃棄物が熱分解して分解ガスを発生する場合には、分解ガスによる高温等方圧処理の加圧力の低下を防止するため、放射性廃棄物を加熱して分解ガスを放射性廃棄物から除去する加熱前処理工程を固化処理工程の前に有する製造方法により廃棄物固化体が作成されていることが望ましい。
上記の固化処理工程、粉砕工程、および加熱前処理工程を有した製造方法を図1のフローチャートに基づいて具体的に説明する。尚、以下の製造方法の説明においては、放射性ヨウ素を吸着したシリカゲル吸着材(放射性廃棄物)を廃棄物固化体とする場合について説明するが、これに限定されるものではなく、上述の全ての放射性廃棄物に対して適用できるものである。
先ず、粉砕工程において、約2mmの粒径を有した放射性廃棄物であるシリカゲル吸着材を振動ミルにより粉砕する。そして、シリカゲル吸着材に偏在しながら吸着されている放射性ヨウ素を均等に分散させる。尚、粉砕したシリカゲル吸着材の粒度は、均等な分散性を得るため、250μm未満であることが好ましく、特に好ましくは、40μm未満である(S1)。
次に、加熱前処理工程において、粉砕したシリカゲル吸着材に対して加熱前処理を行う。即ち、シリカゲル吸着材は、放射性ヨウ素をAgIやAgIO3 の化学形態で吸着している。従って、粉砕したシリカゲル吸着材を加熱炉に搬入し、ヨウ化銀(AgI)が揮発しない程度の温度でシリカゲル吸着材を加熱することによって、シリカゲル吸着材のAgNO3 をAgとNOx ガスとに分解すると共に、AgIO3 をAgIとO2 ガスとに分解する。そして、これらの分解ガス(NOx ガス、O2 ガス)をシリカゲル吸着材から除去することによって、後述する熱間等方圧加圧処理(HIP処理)での加熱による分解ガスの発生を防止し、分解ガスによるHIP処理の加圧力の低下を防止する(S2)。
この後、カプセル充填工程において、直径が50mm、高さが60mm、厚みが1mmのサイズからなる円柱形状のステンレス(SUS304)製のカプセルを準備する。尚、カプセルのサイズ、形状および材質は、任意のものを選択することができる。そして、このカプセル内に粉末状のシリカゲル吸着材を投入し、カプセルを溶接密封する。これにより、後工程のHIP処理での加熱により放射性ヨウ素が揮発してガス化した場合でも、この放射性ヨウ素ガスをカプセル内に閉じ込めることによって、ガス化した放射性ヨウ素がオフガス系に移行して二次廃棄物になることを防止する。
次に、固化処理工程において、カプセル内にシリカゲル吸着材を封入した状態で高温等方圧処理の一種である熱間等方圧加圧処理(HIP処理)を行うことによって、シリカゲル吸着材の少なくとも表面全体を不透水性の稠密構造とする。尚、HIP処理の条件としては、処理温度が450〜750℃、加圧力が1000kgf/cm2 以上であることが好ましい。また、保持時間は、HIP処理中の固化体全体の温度を均一化できる時間以上であることが好ましく、具体的には、100mlサイズの固化体であれば1時間以上、2000mlサイズの固化体であれば3時間以上である。
尚、放射性核種として放射性炭素を含む炭酸カルシウムを主成分とする放射性廃棄物を廃棄物固化体とする場合には、上述の固化処理工程は、炭酸カルシウムが分解しない温度および圧力の処理条件下で高温等方圧処理することが望ましい。これは、炭酸カルシウムが分解すると、CaO+CO2 となり、固化処理工程のプロセス内に放射性炭素からなる分解ガス(CO2 )が発生し、この分解ガスにより加圧力(減容化)の低下が生じると共に、分解ガス(CO2 )が放射性廃棄物内を自由に流動して廃棄物固化体内に放射性炭素を偏在させたり、放射性炭素を飛散させる。従って、炭酸カルシウムが分解しない温度および圧力の処理条件下で高温等方圧処理を行えば、放射性炭素を確実に稠密構造の廃棄物固化体内に閉じ込めることができるからである。
また、放射性核種を含む金属を主成分とする放射性廃棄物を廃棄物固化体とする場合には、上述の固化処理工程は、放射性廃棄物の少なくとも表面全体が不透水性の稠密構造となり、且つ廃棄物同士が完全に拡散接合するまで、金属が溶解しない温度および圧力の処理条件下で高温等方圧処理することが望ましい。これは、廃棄物固化体の内部における各廃棄物の表面に存在していた放射性核種を拡散接合により廃棄物の内部に進入させることができるため、放射性物質の浸出をより十分に抑制することができるからである。また、金属を溶解させないことによって、金属に付着・吸着されている核種のうちの揮発性核種(例えばヨウ素)の分離およびガス化を防止し、これら揮発性核種のための補集装置を不要にすることができるからである。尚、酸化物や水素化物を形成していない金属であれば、ほとんどの金属に対して拡散接合を行うことができる。また、金属の融点の0.5〜0.7倍のHIP処理温度で拡散接合することができる。
また、放射性核種を含む多孔性および非晶質の無機化合物を主成分とする放射性廃棄物を廃棄物固化体とする場合には、上述の廃棄物固化体の製造方法は、さらに、この放射性廃棄物から水分を除去する脱水工程を有していても良い。そして、この場合には、脱水工程により放射性廃棄物から水分を除去することによって、無機化合物の結晶化により生じる可能性ある固化体の結晶間でのクラック、割れの発生に伴う固化体の表面積の増大を抑制し、放射性核種の浸出を抑制することにより長期間に亘って安定した特性を発揮させることができる。
また、放射性核種を含む多孔性および非晶質の無機化合物を主成分とする放射性廃棄物の少なくとも表面全体を不透水性の稠密構造および結晶質構造となるように放射性廃棄物を高温等方圧処理する固化処理工程を有している場合には、上述の廃棄物固化体の製造方法は、放射性廃棄物に水分を供給する給水工程を有していても良い。そして、この場合には、給水工程により廃棄物に水分を供給することによって、無機化合物の結晶化を低温の高温等方圧処理で実現できる。従って、高温等方圧処理装置を低温で運転することができるため、高温で運転する場合よりも処理装置の維持コストを低減することができる。
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明の実施態様は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕先ず、放射性ヨウ素を吸着して放射性廃棄物となった約2mmの粒径を有した廃銀吸着材であるシリカゲル吸着材を用意した。そして、このシリカゲル吸着材を加熱炉に搬入し、ヨウ化銀(AgI)が揮発しない程度の温度でシリカゲル吸着材を加熱することによって、シリカゲル吸着材のAgNO3 をAgとNOx ガスとに分解すると共に、AgIO3 をAgIとO2 ガスとに分解し、これらの分解ガス(NOx ガス、O2 ガス)をシリカゲル吸着材から排除した(加熱前処理工程)。
次に、直径が50mm、高さが60mm、厚みが1mmのステンレス(SUS304)製のカプセル内にシリカゲル吸着材を投入し、カプセルを溶接密封した(カプセル充填工程)。この後、アルゴンガスを圧力媒体として使用し、温度が750℃、加圧力が1000kgf/cm2 、保持時間が1時間以上である処理条件の下で熱間等方圧加圧処理(HIP処理)を行うことによって(固化処理工程)、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体の断面をビデオマイクロスコープにより観察したところ、割れやクラックは認められなかった。また、EPMA(Electron Probe Micro-Analyser )により廃棄物固化体の断面におけるヨウ素分布を分析したところ、ヨウ素の分布に多少の偏在が認められた。尚、この偏在の原因は、銀吸着材にヨウ素が不均一に吸着しているためであると考えられる。
〔実施例2〕実施例1と同様のシリカゲル吸着材を用意し、このシリカゲル吸着材を中央加工機(株)製(品番Bb−1)の振動ミルにより粉砕することによって、粒径が40μm未満の粉末状のシリカゲル吸着材を得た(粉砕工程)。この後、加熱前処理工程、カプセル充填工程、および固化処理工程を実施例1と同様の条件の下で実施することによって、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体の断面をビデオマイクロスコープにより観察したところ、割れやクラックは認められなかった。また、EPMAにより廃棄物固化体の断面におけるヨウ素分布を分析したところ、ヨウ素が均一に分布していることが認められた。
〔実施例3〕実施例1と同様のシリカゲル吸着材を用意し、このシリカゲル吸着材を中央加工機(株)製(品番Bb−1)の振動ミルにより粉砕することによって、粒径が250μm未満の粉末状のシリカゲル吸着材を得た(粉砕工程)。この後、加熱前処理工程、カプセル充填工程、および固化処理工程を実施例1と同様の条件の下で実施することによって、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体の断面をビデオマイクロスコープにより観察したところ、割れやクラックは認められなかった。また、EPMAにより廃棄物固化体の断面におけるヨウ素分布を分析したところ、ヨウ素が均一に分布していることが認められた。
〔実施例4〕実施例1と同様のシリカゲル吸着材を用意し、このシリカゲル吸着材を中央加工機(株)製(品番Bb−1)の振動ミルにより粉砕することによって、粒径が40μm未満の粉末状のシリカゲル吸着材を得た(粉砕工程)。この後、加熱前処理工程、カプセル充填工程、および固化処理工程を実施例1と同様の条件(但し、表1に示すように温度は450℃)の下で実施することによって、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体の断面をビデオマイクロスコープにより観察したところ、割れやクラックは認められなかった。さらに、廃棄物固化体の断面をSEM(Scanning Electron Microscope)により詳細に観察したところ、明確な組織の集合は認められなかった。また、EPMAにより廃棄物固化体の断面におけるヨウ素分布を分析したところ、ヨウ素が均一に分布していることが認められた。また、XRD分析により固化体のマトリックス構造を調べたところ、非晶質構造であることが認められた。また、体積収縮率を調べたところ、20%であった。
〔実施例5〕実施例1と同様のシリカゲル吸着材を用意し、このシリカゲル吸着材を中央加工機(株)製(品番Bb−1)の振動ミルにより粉砕することによって、粒径が40μm未満の粉末状のシリカゲル吸着材を得た(粉砕工程)。この後、加熱前処理工程およびカプセル充填工程を実施例1と同様の条件の下で実施した後、アルゴンガスを圧力媒体として使用し、温度が600℃、加圧力が1000kgf/cm2 、保持時間が3時間である処理条件の下でHIP処理を行うことによって(固化処理工程)、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体の断面をビデオマイクロスコープにより観察したところ、割れやクラックは認められなかった。さらに、廃棄物固化体の断面をSEMにより詳細に観察したところ、明確な組織の集合は認められなかった。また、EPMAにより廃棄物固化体の断面におけるヨウ素分布を分析したところ、ヨウ素が均一に分布していることが認められた。また、XRD分析により固化体のマトリックス構造を調べたところ、非晶質構造であることが認められた。また、体積収縮率を調べたところ、25%であった。
〔実施例6〕実施例1と同様のシリカゲル吸着材を用意し、このシリカゲル吸着材を中央加工機(株)製(品番Bb−1)の振動ミルにより粉砕することによって、粒径が40μm未満の粉末状のシリカゲル吸着材を得た(粉砕工程)。この後、加熱前処理工程およびカプセル充填工程を実施例1と同様の条件の下で実施した後、アルゴンガスを圧力媒体として使用し、温度が750℃、加圧力が1000kgf/cm2 、保持時間が3時間である処理条件の下でHIP処理を行うことによって(固化処理工程)、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体の断面をビデオマイクロスコープにより観察したところ、割れやクラックは認められなかった。さらに、廃棄物固化体の断面をSEMにより詳細に観察したところ、緻密且つ微細な組織の集合が認められた。また、EPMAにより廃棄物固化体の断面におけるヨウ素分布を分析したところ、ヨウ素が均一に分布していることが認められた。また、XRD分析により固化体のマトリックス構造を調べたところ、結晶質構造(石英)であることが認められた。また、体積収縮率を調べたところ、48%であった。
さらに、廃棄物固化体の物理的特性を測定したところ、密度が2.0g/cm3 以上、一軸圧縮強度が1000kgf/cm2 以上、透水係数が10-8cm/s未満であるという結果が得られた。
〔実施例7〕実施例1と同様のシリカゲル吸着材を用意し、このシリカゲル吸着材を中央加工機(株)製(品番Bb−1)の振動ミルにより粉砕することによって、粒径が40μm未満の粉末状のシリカゲル吸着材を得た(粉砕工程)。この後、加熱前処理工程およびカプセル充填工程を実施例1と同様の条件の下で実施した後、アルゴンガスを圧力媒体として使用し、温度が1050℃、加圧力が1000kgf/cm2 、保持時間が3時間である処理条件の下でHIP処理を行うことによって(固化処理工程)、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体の断面をビデオマイクロスコープにより観察したところ、割れやクラックが認められた。また、EPMAにより廃棄物固化体の断面におけるヨウ素分布を分析したところ、ヨウ素が同心円状に分布(偏在)していることが認められた。また、XRD分析により固化体のマトリックス構造を調べたところ、結晶質構造であることが認められた。また、体積収縮率を調べたところ、54%であった。
〔実施例8〕実施例1と同様のシリカゲル吸着材を用意し、このシリカゲル吸着材を中央加工機(株)製(品番Bb−1)の振動ミルにより粉砕することによって、粒径が40μm未満の粉末状のシリカゲル吸着材を得た(粉砕工程)。この後、加熱前処理工程およびカプセル充填工程を実施例1と同様の条件の下で実施した後、アルゴンガスを圧力媒体として使用し、温度が1050℃、加圧力が2000kgf/cm2 、保持時間が3時間である処理条件の下でHIP処理を行うことによって(固化処理工程)、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体の断面におけるヨウ素分布をEPMAにより分析したところ、ヨウ素が同心円状に分布(偏在)していることが認められた。
〔実施例9〕実施例1と同様のシリカゲル吸着材を用意し、このシリカゲル吸着材を中央加工機(株)製(品番Bb−1)の振動ミルにより粉砕することによって、粒径が40μm未満の粉末状のシリカゲル吸着材を得た(粉砕工程)。この後、シリカゲル吸着材に4wt%の水を添加した(給水工程)。そして、加熱前処理工程およびカプセル充填工程を実施例1と同様の条件の下で実施した後、アルゴンガスを圧力媒体として使用し、温度が600℃、加圧力が1000kgf/cm2 、保持時間が3時間である処理条件の下でHIP処理を行うことによって(固化処理工程)、廃棄物固化体を作成した。
そして、以上のようにして作成された廃棄物固化体についてXRD分析によりマトリックス構造を調べたところ、結晶質構造であることが認められた。以上の実施例1〜9における各処理条件および観察(測定)結果を表1に示す。
廃棄物固化体の製造工程を示すフローチャート図である。