以下、本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物について詳細に説明する。
本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は、重量平均分子量50,000〜400,000の範囲を有する結晶性ポリ乳酸(A)、及び、ジカルボン酸とジオールとから誘導されるポリエステル構造単位(I)と非結晶性ポリ乳酸構造単位(II)とを有する非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)を含有してなるもののうち、前記ポリ乳酸(A)と前記非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)との重量割合(A)/(B)が95/5〜40/60の範囲内を有するものである。
結晶性ポリ乳酸(A)とは、後述する前処理により十分に結晶化させたポリ乳酸(A)を示差走査熱量計(以下DSCと省略。)でJIS K7122に従って測定をした場合に吸熱ピークを示すポリ乳酸のうち、重量平均分子量50,000〜400,000を有するものである。
結晶性ポリ乳酸(A)としては、例えばL−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、L及びD−ポリ乳酸共重合体が挙げられる。
前記結晶性ポリ乳酸(A)としては、特にL−乳酸もしくはL−ラクタイド由来の構造単位の割合又はD−乳酸もしくはD−ラクタイド由来の構造単位の割合が90重量%以上であるものが好ましく、95重量%以上であるものがより好ましい。かかる範囲に調整することで、結晶化速度を従来よりも高くできる。
尚、前記結晶性ポリ乳酸(A)の光学異性比率は、結晶性ポリ乳酸(A)を加水分解させて得られる乳酸を、光学異性体分離カラムを備えた高性能液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと省略。)でL―乳酸、D−乳酸を分離、定量することで決定できる。前記加水分解の方法としては、例えば、結晶性ポリ乳酸(A)に水酸化ナトリウム/メタノール混合溶液を加え、65℃に設定した水浴浸とう器で均一溶液になるまで加水分解する方法が挙げられる。加水分解が終了した後は、均一溶液に希塩酸溶液を加え中和させることが好ましい。
前記結晶性ポリ乳酸(A)は、例えば、乳酸の縮合重合法や、乳酸の環状2量体であるラクタイドの開環重合法等で製造できる。前記乳酸の縮合重合法とは、乳酸の有するカルボキシル基及び水酸基をエステル化反応させる方法であり、例えばL−乳酸もしくはD−乳酸、又はこれらの混合物を高沸点溶媒存在下、減圧下で共沸脱水させることでポリ乳酸を製造できる。前記ラクタイドを用いた開環重合法とは、開環したラクタイド同士をエステル化反応させる方法であり、例えば重合調節剤及び重合触媒の存在下でL−ラクタイド又はD−ラクタイドを開環させることでポリ乳酸を製造できる。このときD−乳酸とL−乳酸の2量体であるDL−ラクタイドを本発明の目的を達成する範囲内で併用しても良い。
前記結晶性ポリ乳酸(A)としては、成形加工性の観点から融解熱量30.0kJ/kg以上を有するものが好ましい。尚、本発明でいう融解熱量とは、結晶性ポリ乳酸(A)からなるフィルムを一定条件下で十分に結晶化させて、JIS−K7122に準じて示差走査熱量計を用いて測定された吸熱ピークのピーク面積から求められる値をいう。
前記結晶性ポリ乳酸(A)の融解熱量を測定する際には、前処理として前記結晶性ポリ乳酸(A)の大部分を結晶化させる必要がある。これは、結晶性ポリ乳酸は、通常、結晶化した部分と非結晶状態の部分とを有している為である。結晶性ポリ乳酸(A)を結晶化させる方法としては、例えば200℃の加熱プレス機で結晶性ポリ乳酸(A)をプレスし、厚さ50〜300μmのフィルムを作製し、次いで、該フィルムをアルミホイルで包み100℃〜170℃のエアオーブン中で結晶化させ、少なくとも3〜24時間放置した後氷水等で急冷する方法がある。結晶化させる際の温度としては、ポリ乳酸の結晶化と融解が同時に起こらない120℃〜140℃の範囲のエアオーブン中で結晶化させることが好ましい。
結晶性ポリ乳酸(A)の融解熱量は、JIS−K7122に準じて、示差走査熱量測定装置「DSC 220C」(セイコー電子工業株式会社製)が安定化した後に前記フィルムの約10mgを窒素ガス流量50ml/分、加熱速度10℃/分で210℃まで昇温して測定する。融解熱量は、測定温度範囲内に描かれるポリ乳酸の融解に由来する吸熱ピーク面積から算出することができる。
前記結晶性ポリ乳酸(A)は、成形加工性や機械的特性の観点から、重量平均分子量50,000〜400,000の範囲を有することが必要であり、重量平均分子量が100,000〜400,000の範囲を有することが好ましい。結晶性ポリ乳酸(A)の重量平均分子量が50,000未満の場合、満足のいく成形加工性や機械的特性を得ることが難しく、重平均分子量が400,000を超えるものを得ることは困難である。
前記結晶性ポリ乳酸(A)は、その製造途中又は製造後に透明性を損なわない範囲内で結晶核剤を用いることができる。これにより、マトリックスを形成する結晶性ポリ乳酸(A)の結晶化速度がいっそう大きくなるため、優れた成形加工性を発現できる。また、結晶性ポリ乳酸(A)の結晶性が高まると非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)の添加効果が最大限に発揮されるため、得られる結晶性ポリ乳酸樹脂組成物の耐衝撃性をより向上でき好ましい。
結晶核剤としては、例えば無機粒子、有機粒子等が挙げられる。無機粒子としては、例えばタルク、珪酸カルシウム、窒化ボロン、チタン酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、酸化亜鉛、炭酸カルシウムが挙げられる。有機粒子としては、例えばサッカリンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、結晶性ポリ乳酸(A)よりも融点の高いポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどのポリマーが挙げられる。
結晶核剤の粒子径は、直径100nm以下であることが好ましく、特に50nm以下であることがより好ましい。結晶核剤は、前記結晶性ポリ乳酸(A)に対して0.05〜5重量%使用することが好ましく、0.1〜3重量%使用することが好ましい。
次に、本発明で使用する非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)について説明する。
本発明で使用する非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)は、ジカルボン酸とジオールとから誘導されるポリエステル構造単位(I)及び非結晶性ポリ乳酸構造単位(II)とを有するものである。
非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)の形態は、ポリエステル構造単位(I)をY、非結晶性ポリ乳酸構造単位(II)をXとした場合、例えばXY型ブロック共重合体、XYX型ブロック共重合体、ランダムブロック共重合体、及びこれらの混合物等が挙げられ、特にXY型ブロック共重合体であることが耐衝撃性の観点から好ましい。
ジカルボン酸とジオールとから誘導されるポリエステル構造単位(I)は、優れた耐衝撃性、透明性及び成形加工性を発現させる上で必要である。前記ポリエステル構造単位(I)の結晶性、非結晶性は特に問わないが、非結晶性であることが好ましい。これにより透明性に優れた結晶性ポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
非結晶性ポリ乳酸構造単位(II)は、より優れた耐衝撃性、透明性を発現させる上で必要である。前記非結晶性ポリ乳酸構造単位(II)は前記結晶性ポリ乳酸(A)が形成する球晶の大きさを微小なものとし、更には、本発明のポリ乳酸樹脂組成物中に結晶性及び非結晶性のものが存在することにより優れた透明性を有するポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)中における前記ポリエステル構造単位(I)と前記非結晶性ポリ乳酸構造単位(II)との重量割合(I)/(II)は、20/80〜70/30の範囲であることが好ましい。とりわけ、結晶性ポリ乳酸(A)により優れた耐衝撃性を付与するためには、40/60〜70/30の範囲であることが好ましい。
前記非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)は、重量平均分子量10,000〜300,000の範囲を有するものが好ましく、50,000〜300,000の範囲を有するものがより好ましい。かかる範囲の重量平均分子量を有することで、耐衝撃性のより優れた結晶性ポリ乳酸樹脂組成物を得ることができる。
前記非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)は、ジカルボン酸とジオールとから誘導されるポリエステルと非結晶性ポリ乳酸とを用いて製造できる。
前記非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)は、例えば、(方法1)ラクタイドと、ジカルボン酸とジオールとから誘導されるポリエステルとを重合触媒の存在下で反応させる方法、(方法2)乳酸の直接重縮合反応又はラクタイドの開環重合反応により得られた非結晶ポリ乳酸と、ジカルボン酸とジオールとから誘導されるポリエステルとを溶融混合後、エステル交換触媒の存在下、減圧条件でエステル交換反応させる方法、(方法3)乳酸の直接重縮合反応又はラクタイドの開環重合反応から得られた非結晶ポリ乳酸とジカルボン酸とジオールとから誘導されるポリエステルとを高沸点溶媒の共存下で、エステル交換触媒の存在下、減圧条件で共沸脱水重縮合反応させる方法で製造できる。
(方法1)は、所定温度に設定した反応釜中にポリエステルをラクタイドとポリエステルの合計量に対して約3〜20重量%使用し、均一化させた後、ラクタイド添加し、重合触媒の存在下で反応させる方法である。このときの反応温度は非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)の着色及び熱分解を防ぐという観点から150〜220℃の範囲が好ましく、160〜200℃の範囲がより好ましく、170〜190℃の範囲が特に好ましい。また、前記反応は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。前記ポリエステルを製造する際に生成した水は、前記ポリエステルとラクタイドとのエステル化反応を阻害するため、反応前に十分に乾燥させて水分を除したポリエステルを使用することが好ましい。
(方法1)では、必要に応じてトルエンなどの不活性な溶剤を使用してもよく、ポリエステル及びラクタイドの合計100重量部に対して、3〜30重量部使用することが好ましく、5〜30重量部使用することがより好ましく、10〜30重量部使用することが更に好ましい。重合触媒もポリエステル及びラクタイドの合計量に対して、50〜5000ppm使用することが好ましい。
重合触媒としては、例えば一般にエステル化触媒、エステル交換触媒、開環重合触媒として知られているものを使用することができ、例えば、Sn、Ti、Zr、Zn、Ge、Co、Fe、Al、Mn、Hf等のアルコキサイド、酢酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。これらの中でも、錫粉末、オクタン酸スズ、2−エチルヘキシル酸錫、ジブチルスズジラウレート、テトライソプロピルチタネート、テトラブトキシチタン、チタンオキシアセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、鉄(III)エトキサイド、アルミニウムイソプロポキサイド、アルミニウムアセチルアセトナートは、反応に対する活性作用が高い重合触媒なので好ましい。
(方法2)は、例えば乳酸の直接脱水重縮合反応又はラクタイドの開環重合反応で得られた非結晶ポリ乳酸と、ポリエステルとを溶融混合後、重合触媒の存在下、高減圧下で重縮合反応を行うことで非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)を製造する方法である。このとき高分子量の非結晶性ポリ乳酸を用いれば、高分子量の非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体を得ることができ、その結果、耐衝撃性をより向上させることができる。
前記高分子量の非結晶ポリ乳酸の重量平均分子量としては、50,000以上が好ましく、100,000以上がより好ましい。
ポリエステルと非結晶性ポリ乳酸とを溶融混合する前に、前記ポリエステルを製造する際に使用した重合触媒を除去又は触媒失活剤で不活性しておくことが好ましい。これにより、溶融混合時に前記重合触媒が非結晶性ポリ乳酸の分子鎖を切断することを抑制できる。
(方法2)における反応温度は、170〜220℃の範囲が好ましく、180〜210℃の範囲がより好ましい。かかる範囲で反応させることでポリ乳酸の溶解が容易で熱分解による分子量の低下を抑制できる。
(方法2)における減圧度は高真空である程反応を速やかに進行できるので好ましく、具体的には2kPa以下が好ましく、1kPa以下がより好ましく、0.5kPa以下が特に好ましい。
重合触媒としては、前記(方法1)で使用できるものと同様のものを使用できる。重合触媒の使用量は、非結晶性ポリ乳酸とポリエステルとの合計量に対して50〜500ppmの範囲であることが好ましく、50〜300ppmの範囲であることがより好ましく、50〜200ppmの範囲であることが特に好ましい。かかる範囲使用することで、反応中の非結晶性ポリ乳酸の分子鎖の切断を抑制でき、その結果非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)の分子量の低下を抑制でき、良好な色相を有した非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)を製造できる。
(方法3)は、非結晶性ポリ乳酸とポリエステルと高沸点溶媒とを共存させて、エステル交換触媒の存在下、減圧して共沸脱水重縮合反応させる方法である。高沸点溶媒としては、キシレン、アニソール、ジフェニルエーテル等を好ましく使用できる。(方法3)における減圧度は、100〜3000Paの範囲内であることが好ましい。
前記(方法1)〜(方法3)のなかでも、(方法3)は高沸点溶媒を除去する必要があるため、(方法1)又は(方法2)が好ましい。
前記製造方法で得られた非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)は、重合反応終了後、適当な溶媒により重合触媒を抽出除去するか、前記触媒失活剤で重合触媒を失活させることにより、その保存安定性を更に向上させることができる。
前記方法1〜3で使用するポリエステルは、ジオールとジカルボン酸とをエステル化反応させて得られるものである。
ジオールとしては、脂肪族ジオールや芳香族ジオールが挙げられ、なかでも脂肪族ジオールを使用することが好ましく、例えば、鎖状炭化水素系側鎖、脂環式炭化水素系側鎖を有しているものが挙げられ、なかでも炭素原子数2〜45の脂肪族ジオールがより好ましい。
脂肪族ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3,3−ジエチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジブチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、n−ブトキシエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ダイマージオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキシリレングリコール、フェニルエチレングリコールなどが挙げられる。
ジオールとしては、前記脂肪族ジオールを2種類以上併用でき、例えばプロピレングリコールとポリエチレングリコールとの併用、エチレングリコールと1,4−ブタンジオールとの併用などが挙げられる。
ジオールのうち芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールAのEO付加物、PO付加物などが挙げられる。
前記ジオールには、本発明の目的を達成する範囲内でジオール以外の水酸基含有化合物を併用することができ、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、鎖状炭化水素系側鎖、脂環式炭化水素系側鎖を有する脂肪族ジカルボン酸又は芳香族環を有する芳香族ジカルボン酸が挙げられ、炭素原子数4〜45の脂肪族ジカルボン酸又は炭素原子数8〜45の芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸、フマル酸といった不飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。ジカルボン酸としては、前記ジカルボン酸を2種類以上併用することもでき、例えば、テレフタル酸とアジピン酸との併用、セバシン酸とダイマー酸との併用などが挙げられる。
前記ジオールと前記ジカルボン酸とを反応させて得られるポリエステルは、成形加工性の観点から150℃以下の融点を有することが好ましい。前記ポリエステルの融点としては、例えばポリエチレンサクシネートが約102℃、ポリプロピレンサクシネートが約−2℃、ポリブチレンサクシネートが約113℃、ポリエチレンアジペートが約44℃、ポリプロピレンアジペートが約58℃、ポリブチレンアジペートが約58℃、ポリエチレンセバケートが約63℃、ポリプロピレンセバケートが約−41℃、ポリブチレンアジペート/テレフタレート(仕込みモル比;アジピン酸:テレフタル酸=1:1)が約120℃等である。
前記ポリエステルは、−20℃以下のガラス転移温度を有するものが好ましい。かかるガラス転移温度を有するポリエステルを使用することで、後述する非結晶性ポリ乳酸のガラス転移温度(約59℃)との差の絶対値を大きくでき、その結果、耐衝撃性をより向上させることができる。
前記ポリエステルのガラス転移温度としては、例えばポリプロピレンアジペートが約−34℃、ポリエチレンセバケートが約−50℃、ポリブチレンレンセバケートが約−58℃、ポリプロピレンセバケート/ダイマーレート(仕込みモル比;セバシン酸:ダイマー酸=1:1)が約−52℃、ポリブチレンアジペート/テレフタレート(仕込みモル比;アジピン酸:テレフタル酸=1:1)が約−27℃等である。
前記ポリエステルは、重量平均分子量10,000〜200,000の範囲を有するものが好ましい。かかる範囲に調整することで、本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
前記ポリエステルは、σ/ρ値8.30≦σ/ρ<9.20(式中、σは該ポリエステルの構造の溶解度パラメータ値を表し、ρは該ポリエステルの密度を表す。)を有するものが好ましい。かかる範囲のσ/ρ値を有するものであれば、非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)を製造する際に前記ポリエステルと非結晶性ポリ乳酸とが相分離することなく相溶し、結晶性ポリ乳酸(A)に優れた耐衝撃性及び透明性を付与できる非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)を得ることができる。
ここでσ/ρ値について説明する。溶解度パラメータσは、Fedorsの提唱した計算方法に則れば容易に計算可能である。これを既知のポリマーの密度で割ることによって、目的の数値を得ることができるが、ポリマーの分子設計段階で密度を知ることは困難である。そこで、溶解度パラメータσの評価によく用いられるHoyの提唱した式によれば、置換基定数が単位体積あたりのモル溶解熱に換算してあるため、σ/ρ値が容易に計算可能である。Hoyの計算式は、(ディー.アール.ポール、シーモール ニューマン編, 「ポリマーブレンド」1巻, アカデミックプレス, 46−47頁 (1978)(英語標記;D.R.Paul and Seymour Newman,Polymer Blends, vol.1, Academic Press, p46−47 (1978))に記載されている。
より具体的には、Hoyの式で求めた置換基定数をポリマーの繰り返し単位あたりの数値として算出し、これを繰り返し単位あたりの分子量で割った値である。すなわち、σ/ρ=ΣFi/M (但し、Fiが置換基定数、Mが繰り返し単位あたりのモル分子量)で示される。表1に置換基定数の算出例を示した。
例えば、プロピレングリコール(以下、PGと省略する。)とセバシン酸(以下、SeAと省略する。)をエステル化反応させて得られるポリエステルの構造(以下、PG−SeAと標記する。)について具体的にその計算方法を説明する。PG−SeAの繰り返し単位は、−(−CH−(CH3)−CH2−COO−(CH2)8−COO)−で表記され、4つの置換基−(CH2)−と、2つの置換基−COOを有するため、
ΣFi=(147.30×1+131.5×9+85.99×1+326.58×2)=2069.95となる。一方、繰り返し単位あたりのモル分子量(M)は242.39であるから、σ/ρ=2069.95/242.39=8.54という値が得られる。表1中にいくつかの例を示した。
表1中の略号は、以下を意味する。
PG ;プロピレングリコール
SeA ;セバシン酸
PG−SeA;プロピレングリコールとセバシン酸とから誘導されるポリエステルの構造
DA ;ダイマー酸
EG−DA ;エチレングリコールとダイマー酸とから誘導されるポリエステルの構造
PLA ;ポリ乳酸
前記ポリエステルは、非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)の原料として使用する上で、末端にヒドロキシル基を有することが好ましい。両末端又は片末端にエステル化に寄与するヒドロキシル基を有するポリエステルは、例えばジカルボン酸に対してジオールを過剰量仕込み、エステル化反応させることで製造でき、ジオールとジカルボン酸との仕込みモル比が、1.0/1.0<ジオール/ジカルボン酸≦1.4/1.0であることが好ましく、1.0/1.0<ジオール/ジカルボン酸≦1.2/1.0であることがより好ましい。
前記ポリエステルは、前記ジオール及び前記ジカルボン酸をエステル化させることで製造できるが、その際、大気中の酸素の影響により得られるポリエステルが着色することを防止するため、酸化防止剤を使用することができる。
酸化防止剤としては、例えばリン酸などが挙げられ、前記エステル化反応を阻害しない範囲内で使用することができるが、前記ジオール及び前記ジカルボン酸の合計量に対し10〜2000ppm使用することが好ましい。
前記ポリエステルを製造する際には、必要に応じて重合触媒を使用することができ、例えば周期律表2族、3族、4族からなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属又は金属化合物からなるものが好ましい。かかる金属又は金属化合物からなる重合触媒としては、例えば、Ti、Sn、Zn、Al、Zr、Mg、Hf、Ge等の金属、又は金属化合物からなる重合触媒が好ましく、具体的には、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート、オクタン酸スズ、2−エチルヘキサンスズ、アセチルアセトナート亜鉛、4塩化ジルコニウム、4塩化ジルコニウムテトラヒドロフラン錯体、4塩化ハフニウム、4塩化ハフニウムテトラヒドロフラン錯体、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム等が挙げられる。
前記重合触媒の使用量は、通常、エステル化反応を制御でき、且つ良好な品質のポリエステルを製造できる量であればよく、例えばジオールとジカルボン酸との合計量に対し、10〜1000ppmの範囲で使用することが好ましく、20〜800ppmの範囲で使用することがより好ましく、得られるポリエステルの着色を低減する観点から30〜500ppmの範囲で使用することが特に好ましい。
前記ポリエステルを製造する際に使用した重合触媒は、非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)を製造する前に予め失活させておくことが好ましい。
前記重合触媒の失活方法としては、例えばポリエステル製造後に失活剤を使用する方法が挙げられる。
かかる失活剤としては、例えばキレート化剤が挙げられ、公知慣用の有機系キレート化剤あるいは無機系キレート化剤を使用することができる。有機系キレート化剤としては、例えば、アミノ酸、フェノール類、ヒドロキシカルボン酸、ジケトン類、アミン類、オキシム、フェナントロリン類、ピリジン化合物、ジチオ化合物、ジアゾ化合物、チオール類、ポルフィリン類、配位原子としてN含有のフェノール類やカルボン酸等が好ましく挙げられる。又、無機キレート化剤としては、例えば、リン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステル等のリン化合物が挙げられ、これらをジオールとジカルボン酸との合計量に対し、10〜2000ppmの範囲で添加して使用することが好ましい。
次に非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)を製造する際に使用する非結晶性ポリ乳酸について説明する。
非結晶性ポリ乳酸は、非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)の有する非結晶性ポリ乳酸構造単位(II)を構成するものである。
非結晶性ポリ乳酸とは、前記結晶性ポリ乳酸(A)と同様の方法で前処理をした非結晶性ポリ乳酸をDSCでJIS K7122に準じて測定した場合に吸熱ピークを示さないものである。
非結晶性ポリ乳酸としては、例えばL−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、DL−ポリ乳酸共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。
前記非結晶性ポリ乳酸としては、特にL−乳酸もしくはL−ラクタイド由来の構造単位の割合又はD−乳酸もしくはD−ラクタイド由来の構造単位の割合が20〜80重量%であるものが好ましい。かかる範囲に調整することで、完全非結晶性のポリ乳酸を得ることができる。
非結晶性ポリ乳酸の重量平均分子量は、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物の成形加工性や機械的特性を維持する上で、10,000〜400,000の範囲であることが好ましい。また、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物の耐衝撃性を向上させるためには、50,000〜400,000の範囲であることが好ましい。
前記非結晶性ポリ乳酸は、例えば、乳酸の縮合重合法や、乳酸の環状2量体であるラクタイドの開環重合法等で製造できる。前記乳酸の縮合重合法とは、乳酸の有するカルボキシル基及び水酸基をエステル化反応させる方法であり、例えばL−乳酸もしくはD−乳酸、又はこれらの混合物を高沸点溶媒存在下、減圧下で共沸脱水させることでポリ乳酸を製造できる。前記ラクタイドを用いた開環重合法とは、開環したラクタイド同士をエステル化反応させる方法であり、例えば重合調節剤及び重合触媒の存在下でL−ラクタイドもしくはD−ラクタイド、又はD−乳酸とL−乳酸の2量体であるDL−ラクタイドを開環させることでポリ乳酸を製造できる。
前記非結晶性ポリ乳酸構造単位(II)としては、前記非結晶性ポリ乳酸に融解熱量30.0kJ/kg未満の結晶性ポリ乳酸を併用したものを、本発明の目的を達成する範囲内で使用することができる。
次に、本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物について説明する。
本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は、前記結晶性ポリ乳酸(A)と前記非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)とを含有してなり、(A)/(B)の重量割合が95/5〜40/60を有するものである。
本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は、前記結晶性ポリ乳酸(A)と同様の方法で前処理をした結晶性ポリ乳酸樹脂組成物をDSCでJIS K7122に従って測定をした場合に吸熱ピークを示すものである。
本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は、耐衝撃性、透明性及び成形加工性に優れたものである。
前記耐衝撃性は、非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)が結晶性ポリ乳酸樹脂組成物に加わった衝撃を吸収することで発現されるものである。
前記透明性は、前記非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)の結晶核剤的な作用により前記結晶性ポリ乳酸(A)がより微小な球晶を形成し、更には、本発明のポリ乳酸樹脂組成物中に結晶性及び非結晶性のものが存在することにより優れた透明性を発現するものと考えられる。
前記成形加工性とは、とりわけ、成形加工品の熱変形を改善するものであり、これは、非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)が結晶性ポリ乳酸(A)の溶融流動性や結晶化速度に作用しているためと考えられる。
本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は、前記結晶性ポリ乳酸(A)と前記非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)とを、例えば溶融混練することで製造できる。また、予め結晶性ポリ乳酸(A)に高濃度の非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)をブレンドしたマスターバッチとして用いることもできる。
結晶性ポリ乳酸樹脂組成物中の結晶性ポリ乳酸(A)と非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B)との重量割合(A)/(B)は95/5〜40/60の範囲であり、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物の透明性を向上させるためには95/5〜55/45の範囲に調整することが好ましい。かかる重量割合が95/5を超えると、耐衝撃性を十分に発現させることができず、かかる重量割合が40/60未満であると、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物の非結晶性が高まり、成形加工性が損なわれる為好ましくない。
次に、本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物を用いて得られる成形品について説明する。
本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は成形品に加工することができる。
成形品としては、例えば、フィルム、シート、繊維、容器、部品などが挙げられ、より具体的には、包装、衛生製品、医療製品、繊維、農業資材、漁業資材、紙等へのラミネーション製品等が挙げられる。
包装としては、例えば食品包装、その他一般包装、ゴミ袋、レジ袋、一般規格袋、重袋等が挙げられ、包装に使用できる包装材料としては、例えばシュリンクフィルム、蒸着フィルム、ラップフィルムが挙げられる。
衛生製品としては、例えば紙おむつ、生理用品が挙げられ、医療製品としては、例えば創傷被覆材、縫合糸等が挙げられる。
繊維としては、例えば織物や編物をはじめ、レース、組物、網、フェルト、不織布等が挙げられる。
農業資材としては、例えば発芽フィルム、種ヒモ、農業用マルチフィルム、緩効性農薬及び肥料のコーティング剤、防鳥ネット、養生フィルム、苗木ポット等が挙げられ、漁業資材としては、例えば漁網、海苔養殖網、釣り糸等が挙げられる。
紙へのラミネーション製品としては、例えばトレー、カップ、皿、メガホン等が挙げられる。
前記以外の成形品としては、例えば、ブリスター、シャンプー瓶、OA筐体、化粧品瓶、飲料瓶、オイル容器、ゴルフティー、綿棒の芯、キャンディーの棒、ブラシ、歯ブラシ、ヘルメット、注射筒、櫛、剃刀の柄、テープのカセット及びケース、使い捨てのスプーンやフォーク、ボールペン等の文房具、結束テープ(結束バンド)、プリペイカード、風船、パンティーストッキング、ヘアーキャップ、スポンジ、セロハンテープ、傘、合羽、プラ手袋、ヘアーキャップ、ロープ、チューブ、発泡トレー、発泡緩衝材、緩衝材、梱包材、煙草のフィルター等が挙げられる。
本発明の成形品の成形方法としては、例えば、射出成形法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法及び圧縮成形法等が挙げられる。
射出成形法は、金型に結晶性ポリ乳酸樹脂組成物を注入し加熱することで成形品を製造する方法であり、通常の射出成形機を用いて容器等の型物を製造することができる。その際、金型は結晶性ポリ乳酸樹脂組成物のガラス転移温度以上に加熱できるものが好ましい。
ブロー成形法は、チューブ状に成形した結晶性ポリ乳酸樹脂組成物を金型内で膨張させ成形品を製造する方法であり、既存の成形機を使用することにより単層、多層ボトルを容易に成形することができる。
前記成形法で成形する際、アニーリングすることで耐衝撃性及び耐熱性などをより向上させることができる。アニーリングは、例えば金型温度をDSCの降温時結晶化開始温度から終了温度の範囲に設定し、本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物を金型内で結晶化をさせる方法であり、これにより耐衝撃性に優れた成形品を製造することができる。金型温度は、70〜130℃で、80〜120℃が好ましく、80℃〜110℃がより好ましく、90〜110℃がより好ましい。かかる温度範囲であれば、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は容易に結晶化し、成形後、金型内から成形品を取出すとき固化して寸法精度の良い成形品を得ることができる。結晶化時間としては1秒から10分間であるが、生産性等の実用性を考えた場合、この時間は短い程良いため、好ましくは1秒〜3分間、より好ましくは1秒〜1分間である。
前記成形品のうちフィルムは、シュリンクフィルム、ラップフィルム等包装材の用途に使用できるほか、これを更に真空成形法等により二次加工することでトレー、カップ等を製造することができる。なお、通常厚みによりシート、フィルムを慣用的に使い分けているが、本発明では混乱を避けるために総称してフィルムとする。本発明のフィルムの厚みは特に制限されないが、一般的に用いられている5μm〜2mmを言うものとする。
フィルムの成形方法としては、例えばTダイキャスト成形法やインフレーション成形法などの押出成形法が挙げられる。
Tダイキャスト成形法の際の溶融温度は、特に限定されないが、通常、結晶性ポリ乳酸(A)の融点より10〜60℃高い温度であることが好ましい。溶融押し出されたフィルムは、通常、所定の厚みになるようにキャスティングされ、必要により冷却される。その際、フィルム厚が厚い場合は、タッチロール、エアーナイフ、薄い場合には静電ピンニングを使い分けることにより均一な厚さのフィルムを製造できる。
インフレーション成形法の際の溶融温度はTダイキャスト成形法と同じであり、通常のサーキュラーダイ、エアーリングを備えた成形装置で容易にフィルムを製造できる。この際、偏肉を避けるため、ダイ、エアリング或いはワインダーの回転を行っても良い。
前記成形方法の際に使用する押出機の押出機スクリューは、通常、スクリューのニーディング部の長さ(L)とニーディングスクリューの径(D)との比であるL/D比が、20〜50程度のフルフライトタイプで良く、ベントを付設しても良い。適正な押出温度は使用するポリ乳酸組成物の分子量、組成、粘度によって異なるが、流動開始温度以上が望ましい。
得られたフィルムは、ガラス転移温度以上、融点以下の温度でテンター方式やインフレーション方式等で、一軸および二軸に延伸することができる。さらに延伸処理を施すことにより、分子配向を生じさせ、耐衝撃性、剛性、透明性等の物性を改良することができる。
一軸延伸の場合は、ロール法による縦延伸又はテンターによる横延伸により、縦方向又は横方向に1.3〜10倍延伸するのが好ましい。二軸延伸の場合は、ロール法による縦延伸及びテンターによる横延伸が挙げられ、その方法としては、一軸目の延伸と二軸目の延伸を逐次的に行っても、同時に行っても良い。延伸倍率は、縦方向及び横方向にそれぞれ1.3〜6倍延伸するのが好ましい。延伸倍率がこれ以上低いと十分に満足し得る強度を有するフィルムが得難く、また、高いと延伸時にフィルムが破れてしまい良くない。なお、シュリンクフィルム等の特に加熱時の収縮性を要求するような場合には、一軸或いは二軸方向への3〜6倍等の高倍率延伸が好ましい。
延伸温度は、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物のガラス転移温度(以下、Tgと省略。)〜(Tg+50)℃の範囲が好ましく、Tg〜(Tg+30)℃の範囲が特に好ましい。かかる範囲の延伸温度にすることで、充分に延伸することができ、さらに延伸による強度も向上することができる。
前記フィルムは、延伸直後の緊張下で熱セット処理(結晶化処理)を行うことで歪の除去又は結晶化を促進することができ、その結果、フィルムの耐熱性を向上させることができる。かかる熱セット処理の温度は、70〜130℃であることが好ましく、70〜120℃がより好ましく、80℃〜110℃が更に好ましく、90〜110℃が特に好ましい。かかる範囲の温度で熱セット処理することで、耐熱性だけではなく、引張伸び等のフィルム物性も向上させることができる。熱セット処理時間は通常1秒〜3分間、好ましくは1秒〜1分間であり、1秒から30秒がより好ましい。
前記フィルムは、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等により二次加工することができる。かかるフィルムの二次加工法のうち真空成形法、真空圧空成形法の場合には、プラグアシスト成形法であることが好ましい。フィルムが延伸フィルムである場合は圧空成形法を適用することが好ましい。なお、成形時の金型の加熱、冷却は任意に行うことができ、特に金型の温度が結晶化温度以上とし、結晶化を積極的に進めることにより耐熱性能を向上させることもできる。前記フィルムは、横ピロー製袋機、縦ピロー製袋機、ツイストバック製袋機等通常の製袋機を使用して袋状物を製造することができる。
本発明の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は、吸湿性が高いために加水分解しやすいことから、成形時に加水分解することを避けるために前もって真空乾燥器等により除湿乾燥を行い、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物中の水分を50ppm以下にしておくことが好ましい。
本発明の成形品は、例えば35℃で湿度80%の恒温恒湿器に200日以上放置したとき、これら成形品表面にブリードが発生することはない。また、本発明の成形品は、良好な分解性を有し、海中に投棄された場合でも、加水分解、生分解等により分解し、海水中では数カ月の間に外形を保たないまでに分解できる。また、コンポストを用いるとより短期間で原形をとどめないまでに生分解でき、また焼却しても有毒ガスや有毒物質を排出することはない。
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明する。尚、諸特性は以下に記載した方法により測定した。
[数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定方法]
東ソー株式会社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置(以下、GPCと省略する。)「HLC−8020」を使用し、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて標準ポリスチレンとの比較で測定した。
[プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)の測定方法]
1H−NMR装置(日本電子株式会社製、JNM−LA300)を用いて非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体のクロロホルム−d(CDCl3)溶液を測定し、非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体中の非結晶性ポリ乳酸構造単位とポリエステル構造単位との重量組成比を決定した。
[デュポン衝撃強度の試験方法]
デュポン衝撃強度測定装置を用いて、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物からなるフィルム(厚さ200μm)に一定の重さの重錘を、高さを変えて落下させ、破壊の有無から前記フィルムの50%破壊エネルギーを求めた(JIS K 5400に準拠)。
[透明性の測定方法]
厚さ200μmの結晶性ポリ乳酸樹脂組成物からなるフィルムを5cm×5cmの正方形に切り抜き、濁度計(日本電色工業株式会社製ND−1001DP)でヘーズ値を測定した。
[融解熱量の測定方法]
厚さ200μmの結晶性ポリ乳酸樹脂組成物からなるフィルムをアルミホイルで包み140℃のエアオーブン中に6時間放置し、この後に氷水で急冷した。次いで、セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量測定装置「DSC 220C」(以下、DSCと省略する。)が安定化した後に、前記フィルムの一部の約10mgをDSCに入れ、窒素ガス流量50ml/分、加熱速度10℃/分で210℃まで昇温し、210℃までに描かれるポリ乳酸の融解熱量に由来する吸熱ピークの面積から算出した(JIS K−7122準拠)。
[ブリードアウトの試験方法及び評価方法]
厚さ200μmの結晶性ポリ乳酸樹脂組成物からなるフィルムを35℃、湿度80%の条件下でタバイエスパック社製高温恒湿器PR−2F中に放置し、200日以上放置してもブリードアウトしないものに「無」、200日以内にブリードアウトしたものに「有」と表2に表記した。
以下の参考例で使用する結晶性ポリ乳酸は、三井化学社製「レイシアH400」(以下、PLA1、数平均分子量(以下、Mnと省略する。)が94,000、重量平均分子量(以下、Mwと省略する。)が170,000、融解熱量;58.5(kJ/kg)である。
非結晶性ポリ乳酸は、三井化学社製「レイシアH280」(以下、PLA2、Mnが93,000、Mwが175,000、融解熱量;0(kJ/kg)である。
《参考例1》ポリエステル(C−1)の製造
反応器にセバシン酸(以下、SeAと省略する。)を1モルとプロピレングリコール(以下、PGと省略する。)を1.25モル仕込み、窒素気流下で150℃から1時間に10℃ずつ昇温し、生成する水を留去しながら230℃まで加熱撹拌してエステル化反応を行った。2時間後、重合触媒としてチタンテトライソプロポキシドをSeA及びPGの合計量に対して60ppmを加えて、200Paまで減圧し加熱撹拌した。8時間後、Mnが32,000、Mwが58,000のポリエステル(C−1)を得た。得られたポリエステル(C−1)に前記重合触媒の失活剤として2−エチルヘキサン酸ホスフェートを70ppm添加した。得られたポリエステル(C−1)のσ/ρ値は8.54、ガラス転移温度は−49℃、融点は−23℃であった。
《参考例2》非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B−1)の製造
反応器に参考例1で得られたポリエステル(C−1)を50重量部、PLA2を50重量部添加して210℃で溶融混合した。均一に溶融混合できたことを目視で確認した後、エステル化触媒としてチタンテトラブトキシドを溶融混合物に対して150ppm添加し、減圧度80Paで4時間反応させた。反応終了後に前記エステル化触媒の失活剤として、2−エチルヘキサン酸ホスフェートを反応物に対して500ppmを添加し、Mnが65,000、Mwが123,000の非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B−1)を得た。
《参考例3》非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B−2)の製造
反応器に参考例1で得られたポリエステル(C−1)を40重量部仕込み、窒素雰囲気下、ジャケット温度180℃で加熱溶融させた。その後、L−ラクチドを44重量部とD−ラクチドを6重量部とを添加しトルエン5重量部で溶解させた。ポリエステル(C−1)とL−ラクチドとD−ラクチドとの溶融混合物が均一になったのを目視で確認した後、オクチル酸スズを溶融混合物に対して300ppm添加し、180℃にて5時間反応させた。反応終了後に2−エチルヘキサン酸ホスフェートを反応物に対して450ppmを添加して、Mnが52,000、Mwが87,000の非結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B−2)を得た。
《参考例4》結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B−3)の製造
反応器に参考例1で得られたポリエステル(C−1)を50重量部、PLA1を50重量部添加して溶融混合した。均一に溶融混合できたのを目視で確認した後、エステル化触媒として四塩化ジルコニウムを溶融混合物に対して200ppm添加し、減圧度133Paで3時間反応させた。反応終了後に前記エステル化触媒の失活剤として、2−エチルヘキサン酸ホスフェートを反応物に対して500ppmを添加し、Mnが70,000、Mwが126,000の結晶性ポリヒドロキシカルボン酸共重合体(B−3)を得た。
以上、参考例2〜参考例4で得られた(B―1)〜(B−3)のポリヒドロキシカルボン酸共重合体中のポリエステルの構造とポリ乳酸の構造の重量比を決定するために、1H−NMR測定装置を用いて測定したところ、ほぼ仕込み比と同量であった。
《実施例1》結晶性ポリ乳酸樹脂組成物(P−1)及びそのフィルムの作製
60℃で3時間減圧乾燥させたPLA1及び参考例2で得られた(B−1)を、表2に示す配合比で、東洋精機社製ラボプラストミルミキサーを用いて190℃、10分間溶融混練して結晶性ポリ乳酸樹脂組成物(P−1)を得た。得られた(P−1)を80℃で3時間減圧乾燥させた後、195℃にて厚さ200μmのフィルムを作製した。
《実施例2》結晶性ポリ乳酸樹脂組成物(P−2)及びそのフィルムの作製
60℃で3時間減圧乾燥させたPLA1及び参考例2で得られた(B−1)を、表2に示す配合比で、東洋精機社製ラボプラストミルミキサーを用いて190℃、10分間溶融混練して結晶性ポリ乳酸樹脂組成物(P−2)を得た。得られた(P−2)を80℃で3時間減圧乾燥させた後、195℃にて厚さ200μmのフィルムを作製した。
《実施例3》結晶性ポリ乳酸樹脂組成物(P−3)及びそれらのフィルムの作製
ポリヒドロキシカルボン酸共重合体として(B−1)の代わりに(B−2)を使用する以外は、実施例2と同様にして結晶性ポリ乳酸樹脂組成物(P−3)及びそれを用いた厚さ200μmのフィルムを得た。
《比較例1〜3》
下記表2にそれぞれ記載した原料を使用する以外は実施例1と同様の方法でポリ乳酸樹脂組成物(P−4)、(P−5)、(P−6)及びそれらを用いた厚さ200μmのフィルムを得た。
《比較例4》PLA1フィルムの作製
PLA1を80℃、3時間減圧乾燥させた後、195℃にて厚さ200μmのフィルムを作製した。
表2に実施例1〜3、比較例1〜4で得たフィルムについて、ヘ−ズ測定、デュポン衝撃強度測定の結果を示した。
表2において実施例1〜3の結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は比較例3〜4で示されたものと比較して優れた耐衝撃性を有していた。実施例1〜3の結晶性ポリ乳酸組成物樹脂は、比較例1〜2で示されたポリ乳酸樹脂組成物と比較して耐衝撃性及び透明性に優れていた。
《実施例4》生分解性試験
実施例1及び3で得られた結晶性ポリ乳酸樹脂組成物(P−1)、(P−3)の厚さ1mm板又は金網に挟んだ厚さ200μmのフィルムを45℃に保った電動コンポスト中に埋設した。60日〜90日後に取り出したところ、結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は殆ど原形をとどめていなかった。更に200日〜365日後には、確認できない程に分解が進んでいた。このことから、本発明で得られる結晶性ポリ乳酸樹脂組成物は生分解性にも優れることがわかった。