JP2005332716A - アルカリ電池およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 水銀を含まない亜鉛を負極活物質として用いるボタン形アルカリ電池において、貯蔵特性、耐漏液性、安全性を向上させる。
【解決手段】 正極缶4、負極缶5、および水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含む負極剤3を備え、負極缶5が負極剤3と接しているアルカリ電池であって、負極缶5の負極剤3と接する面に、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層7が形成され、正極缶4が、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼から形成されているアルカリ電池とする。
【選択図】 図1
【解決手段】 正極缶4、負極缶5、および水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含む負極剤3を備え、負極缶5が負極剤3と接しているアルカリ電池であって、負極缶5の負極剤3と接する面に、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層7が形成され、正極缶4が、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼から形成されているアルカリ電池とする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、負極活物質として水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を用いるボタン形アルカリ電池およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、電池内における水素ガスの発生を抑制し、貯蔵中の容量劣化が少なく、耐漏液性および安全性に優れたボタン形アルカリ電池およびその製造方法に関するものである。
ボタン形アルカリ電池の貯蔵中におけるガス発生の原因には2種類ある。そのうちの一方は負極活物質の亜鉛粉末の腐食反応による水素ガス発生であり、もう一方は負極活物質の亜鉛と、負極端子板を兼ねる負極缶の内面層を形成する銅(銅面)との局部電池反応による水素ガス発生である。そのため、従来のボタン形アルカリ電池は、負極活物質として水銀でアマルガム化した亜鉛を用いており、水銀によって亜鉛の腐食反応を抑制していた。さらに、亜鉛の電解液中への溶解および負極端子板への析出反応によって負極端子板の銅面に亜鉛メッキが形成され、亜鉛中の水銀が固相拡散により上記銅面に移行し、その結果、銅面には亜鉛−水銀の合金メッキが形成されて、水銀の高い水素過電圧と耐食性とによって上記局部電池反応を抑制していた。
しかし、最近は、環境汚染防止の観点から、亜鉛の無水銀化が強く要請され、無水銀でも自己腐食の少ない亜鉛が実用化されていて、筒形のアルカリ電池では既に無水銀化が達成されている(例えば、特許文献1参照。)。
特開平6−84521号公報
これに対して、ボタン形アルカリ電池では、無水銀の亜鉛粉末を使用すると、貯蔵により電池のふくれ(膨張)や容量劣化を引き起こすという問題があった。
その原因は、次のように考えられる。無水銀亜鉛の腐食反応は、無水銀亜鉛にアルミニウム、ビスマス、インジウムなどの金属を添加することにより、無水銀亜鉛の耐食性を高めることで抑制できている。しかし、無水銀亜鉛の溶解・析出反応によって負極端子板の銅面にメッキされる亜鉛は、純亜鉛に近い状態であり、この純亜鉛はアルカリ電解液に対して腐食されやすく、この純亜鉛メッキが腐食反応を起こして水素ガスが発生するという問題がある。これは、負極缶(負極端子板)が負極剤(負極活物質)と接する構造を有するボタン形アルカリ電池の特有の問題である。その結果、無水銀の亜鉛を負極活物質として用いたボタン形アルカリ電池では、腕時計や電子露出計などに使用する場合に要求されるような長寿命が得られていない。
上記のように、ボタン形アルカリ電池において無水銀化を達成するためには、亜鉛粉末からの水素ガスの発生だけではなく、水銀を用いることなく負極端子板の銅面からの水素ガスの発生をも抑制することが必要である。
本発明は、正極缶、負極缶、および水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含む負極剤を備え、前記負極缶が前記負極剤と接しているアルカリ電池であって、前記負極缶の前記負極剤と接する面に、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層が形成され、前記正極缶が、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼から形成されていることを特徴とするアルカリ電池である。
また、本発明は、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼板を成形加工して正極缶を形成する工程と、金属板を成形加工して負極缶を形成する工程と、水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含み、さらにインジウム化合物およびビスマス化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を前記亜鉛または亜鉛合金の100質量部に対して0.01質量部以上含む負極剤を製造する工程と、前記正極缶、前記負極缶、前記負極剤、電解液および他の構成要素を組み合わせて、前記負極缶が前記負極剤と接する構造を備えた電池を製造する工程と、前記負極缶の前記負極剤と接する面に、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層を形成させる工程とを含むことを特徴とするアルカリ電池の製造方法である。
本発明は、無水銀の亜鉛を負極活物質として用いるボタン形アルカリ電池において、負極端子板の銅面からの水素ガスの発生を抑制することを含め、電池内における水素ガスの発生を抑制して、電池貯蔵中の容量劣化が少なく、かつ耐漏液性および安全性をも向上させたボタン形アルカリ電池を提供できる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(実施形態1)
先ず、本発明のアルカリ電池の一例を説明する。本発明のアルカリ電池の一例は、正極缶、負極缶、および水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含む負極剤を備え、上記負極缶が上記負極剤と接しているアルカリ電池である。負極缶と負極剤とが接しているアルカリ電池には、ボタン形アルカリ電池、偏平形アルカリ電池、コイン形アルカリ電池などが含まれる。
先ず、本発明のアルカリ電池の一例を説明する。本発明のアルカリ電池の一例は、正極缶、負極缶、および水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含む負極剤を備え、上記負極缶が上記負極剤と接しているアルカリ電池である。負極缶と負極剤とが接しているアルカリ電池には、ボタン形アルカリ電池、偏平形アルカリ電池、コイン形アルカリ電池などが含まれる。
また、上記負極缶の上記負極剤と接する面(負極端子板面)には、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素(以下、インジウムおよび/またはビスマスということがある。)を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層が形成されている。これにより、上記負極剤に含まれる亜鉛または亜鉛合金と負極缶の内面材料(例えば、銅)との局部電池反応が抑制でき、上記負極剤と接する負極缶(負極端子板)からの水素ガスの発生を効果的に抑制できる。
すなわち、上記インジウムおよび/またはビスマスを0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層は、負極缶の一般的な内面材料である銅より水素過電圧が高く、かつ自己腐食が少ないので、上記亜鉛層で負極缶の負極剤と接する面を被覆することによって、無水銀の亜鉛または亜鉛合金を含有する負極剤と接する負極缶からの水素ガス発生を効果的に抑制することができる。これにより、電池内における水素ガスの発生を抑制し、貯蔵中の容量劣化が少ないボタン形アルカリ電池を提供することができる。
また、上記亜鉛層の厚さは特に制限されないが、0.5μm以上10μm以下の範囲で形成することが好ましい。
本実施形態においては、負極缶の負極剤と接する面には、インジウムおよび/またはビスマスを含む亜鉛層が形成されていることを要するが、上記インジウムとビスマスはそれぞれ単独で亜鉛層中に含まれていてもよいし、また、インジウムとビスマスが共存した状態で亜鉛層中に含まれていてもよい。また、上記インジウムおよび/またはビスマスの上記亜鉛層中での含有量は、0.01質量%以上30質量%以下であることを要する。インジウムおよび/またはビスマスの含有量が0.01質量%未満の場合、負極缶からの水素ガスの発生を充分に抑制することができない。一方、インジウムおよび/またはビスマスの含有量が30質量%を超える亜鉛層を形成させようとすると、材料コストが高くなり生産性に劣るのみならず、インジウムおよび/またはビスマスによる負荷特性の抑制作用が大きくなり、電池の特性低下につながるため、上記範囲に調整することが必要とされる。なお、上記含有量は、亜鉛層中での平均値を表しており、部分的にインジウムおよび/またはビスマスの濃度の高い領域があっても差し支えない。上記インジウムおよび/またはビスマスの上記亜鉛層中での含有量としては、0.01質量%以上の範囲内で、20質量%以下がより好ましく、特に10質量%以下が好ましい。また、上記亜鉛層は、亜鉛とインジウムおよび/またはビスマスとが共存していればその形態は特に限定されない。例えば、亜鉛とインジウムおよび/またはビスマスとの合金(すなわち、亜鉛に合金元素としてのインジウムおよび/またはビスマスが溶解しているもの)の形態、または亜鉛の表面や粒界にインジウムやビスマスが単体の状態で存在している形態は、本実施形態の亜鉛層に含まれる。
上記負極剤には、さらに負極活物質自体の腐食を抑制するために、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素が含まれていることが好ましい。インジウムおよび/またはビスマスの添加量は、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上3質量%以下である。
上記負極缶(負極端子板)は、通常、負極剤と接する面は銅または黄銅などの銅合金で構成され、その本体部分(中間層)はステンレス鋼で構成され、外面側、すなわち、負極剤と接しない面はニッケルで構成される。この負極缶において、負極剤と接する面を銅または銅合金で構成するのは、亜鉛との局部電池の形成を抑制するためであるが、本体部分をステンレス鋼で構成することや外面側をニッケルで構成することは必ずしも必要でなく、他の材料で構成してもよいし、負極剤と接する面も亜鉛と局部電池を形成しにくいものであれば、銅または銅合金でなくてもよい。
さらに、上記正極缶は、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼から形成する必要がある。すなわち、本発明者等がさらに詳細に検討したところ、無水銀の亜鉛または亜鉛合金からなる負極活物質を用い、インジウムおよび/またはビスマスを含む上記亜鉛層を負極缶の負極剤と接する面に形成したボタン形アルカリ電池は、インジウム、ビスマスを含まないボタン形アルカリ電池に比べて貯蔵特性が大きく向上したものの、従来の負極活物質である水銀でアマルガム化した亜鉛を用いたボタン形アルカリ電池と比べると、耐漏液性に関しては不十分であることが分かった。
そこで、本発明者等らが耐漏液性の向上について検討した結果、電池缶の材質を改良することで、上記問題が改善されることが分かった。従来、ボタン形アルカリ電池の正極缶は鉄板や、SUS304などのオーステナイト系の非磁性ステンレス鋼板、あるいは、SUS430、SUS410などのフェライト系またはマルテンサイト系の磁性を有するステンレス鋼板などを絞り加工することによって作られていた。鉄板はステンレス鋼に比べて機械的強度が劣るため厚みの薄いものを用いると封口後に締圧力が低下し、耐漏液性が低下するという問題があった。また、非磁性ステンレス鋼板は磁力によって正極缶をつかむことができないために電池組立て工程上不利となる問題があった。さらに、フェライト系またはマルテンサイト系の磁性を有するステンレス鋼板はオーステナイト系のステンレス鋼に比べて引張強度や伸びが劣るため、電池組立て時に脆性破壊を起こし、缶底から側壁部へのコーナー部や開口端部のかしめ部分に亀裂が生じるという問題があった。
本発明者等は、正極缶をオーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼板で作製することにより耐漏液性を向上させることができたのである。
上記オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼としては、例えば、JIS記号がSUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4Lなどで表されるクロムを22.0質量%以上28.0質量%以下、ニッケルを3.0質量%以上6.0質量%以下、モリブデンを1.0質量%以上3.0質量%以下、炭素を0.08質量%以下の範囲で含むステンレス鋼が使用できる。
なお、使用するステンレス鋼が、オーステナイト・フェライト二相系であることは、ステンレス鋼をX線回折により分析することにより容易に確認できる。
上記オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼は強磁性体であり、かつ、オーステナイト系のステンレス鋼と同等またはそれ以上の耐力、引張強度を有し、伸びがフェライト系のステンレス鋼より大きく、正極缶の缶材として要求される機械的特性が非常に優れている。
したがって、上記オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼板で作製した正極缶は、磁力が利用できるため電池組立てが容易であり、かつ、機械的特性が優れていて高い締圧力での封口が可能で、しかもその高い締圧力を長期間保持できるので、電池の耐漏液性を向上させることができる。また、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼は耐食性が優れているため、これを用いて作製した正極缶を使用した電池を子供などが誤飲した場合でも、体液により腐食することなく体外へ排出される。すなわち、正極缶にオーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼を用いた電池は非常に安全性が高い。
(実施形態2)
次に、本発明のアルカリ電池の製造方法の実施の形態を説明する。本発明のアルカリ電池の製造方法の一例は、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼板を成形加工して正極缶を形成する工程と、金属板を成形加工して負極缶を形成する工程と、水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含み、さらにインジウム化合物およびビスマス化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、インジウム化合物および/またはビスマス化合物ということがある。)を前記亜鉛または亜鉛合金の100質量部に対して0.01質量部以上含む負極剤を製造する工程と、上記正極缶、上記負極缶、上記負極剤、電解液、封止部材(ガスケット)などを組み合わせて、上記負極缶が上記負極剤と接する構造を備えた電池を製造する工程と、上記負極缶の上記負極剤と接する面に、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層を形成させる工程とを含む。
次に、本発明のアルカリ電池の製造方法の実施の形態を説明する。本発明のアルカリ電池の製造方法の一例は、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼板を成形加工して正極缶を形成する工程と、金属板を成形加工して負極缶を形成する工程と、水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含み、さらにインジウム化合物およびビスマス化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、インジウム化合物および/またはビスマス化合物ということがある。)を前記亜鉛または亜鉛合金の100質量部に対して0.01質量部以上含む負極剤を製造する工程と、上記正極缶、上記負極缶、上記負極剤、電解液、封止部材(ガスケット)などを組み合わせて、上記負極缶が上記負極剤と接する構造を備えた電池を製造する工程と、上記負極缶の上記負極剤と接する面に、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層を形成させる工程とを含む。
インジウム化合物および/またはビスマス化合物を亜鉛または亜鉛合金の100質量部に対して0.01質量部以上含む負極剤を用いて電池を組み立てることにより、負極剤中に添加したインジウム化合物および/またはビスマス化合物が、亜鉛とともにアルカリ電解液中に溶解し、それらが負極缶の内面に析出する反応が進行するため、組み立て後に一定時間(通常は数時間以上)電池を放置することにより、上記負極缶の上記負極剤と接する面に、インジウムおよび/またはビスマスを0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層を、電池を組み立てた後に特別の操作を行うことなく形成させることができる。
また、アルカリ電解液に溶解するインジウム化合物および/またはビスマス化合物は少量であり、負極剤中にはインジウム化合物および/またはビスマス化合物が存在するので、負極活物質である亜鉛または亜鉛合金の腐食反応を抑制できる。
上記インジウム化合物としては、例えば、水酸化インジウム(In(OH)3)、酸化インジウム(In2O3)、塩化インジウム(InCl3)などが好ましく、ビスマス化合物としては、例えば、水酸化ビスマス(Bi(OH)3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、塩化ビスマス(BiCl3)などが好ましい。
上記インジム化合物および/またはビスマス化合物の負極剤への添加量としては、亜鉛または亜鉛合金の100質量部に対して、インジム化合物および/またはビスマス化合物が0.01質量部以上であることが必要であり、その上限は5質量部以下が好ましく、特に3質量部以下が好ましい。
また、上記亜鉛層の厚さは特に制限されないが、上記形成方法からも明らかなように、通常のアルカリ電池において亜鉛の溶解・析出反応によって負極缶(負極端子板)の銅面に形成される亜鉛メッキの厚みと同等の厚さでよい。
上記電解液としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水和物を水に溶解し、さらに酸化亜鉛を添加したアルカリ電解液が使用される。本実施形態では、このアルカリ電解液がさらにインジウム化合物および/またはビスマス化合物を0.5ppm以上1500ppm以下の範囲で含んでいることが好ましい。これにより、インジウムおよび/またはビスマスを0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層の形成が容易となるからである。
次に、本発明のアルカリ電池の一例を図面に基づき説明する。図1は本発明のボタン形アルカリ電池の一例を概略的に示す部分断面図であり、図2は図1の要部拡大図である。
図1において、正極合剤1は、酸化第一銀、二酸化マンガン、酸化第二銀、水酸化ニッケルなどの正極活物質と、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛のような導電助剤との混合粉末を円板上に加圧成形することによって作製され、前述のアルカリ電解液の一部が含浸されている。負極剤3は、実施形態1で説明したものと同様の成分を含み、必要に応じてさらにポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロースなどのゲル化剤を含み、これに前述したアルカリ電解液の大半量が注入されている。セパレータ2は、正極合剤1と負極剤3との間に配置されており、例えば、親水処理された微孔性ポリプロピレンフィルムと、セロファンフィルムと、ビニロン−レーヨン混抄紙のような吸液層とを積み重ねたものなどが使用される。
正極缶4は、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼板を絞り加工することにより形成され、その表面にニッケルメッキを施している。負極缶5は、後述するクラッド板を絞り加工することにより形成されている。また、負極缶5の内面には、インジウムおよび/またはビスマスを0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層7が形成されている。
正極缶4の内部には、正極合剤1とセパレータ2とが充填・配置され、その開口部には、負極剤3が充填された負極缶5が、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの各種樹脂またはゴムからなる断面L字状の環状封止部材(ガスケット)6を介して嵌合している。正極缶4の開口端部を内方に締め付けてガスケット6を負極缶5に当接させることによって封口し、電池内部を密閉構造にしている。すなわち、上記ボタン形アルカリ電池では、正極缶4、負極缶5およびガスケット6で形成される密閉空間内に、正極合剤1、負極剤3などを含む発電要素が収容されている。
図2に示すように、負極缶5は、ステンレス鋼板5aの外面側に美観ないし耐食性を満足させるニッケル層5bを備え、その内面側、すなわち負極剤3と接する面に銅層5cを備えている。負極缶5は、通常、ステンレス鋼板5a、ニッケル層5bおよび銅層5cからなるクラッド板を絞り加工することによって、周辺折り返し部5Zを備える形状に形成される。さらに、負極缶5の銅層5cの表面(銅層5cの負極剤3側の面)には亜鉛層7が形成されている。なお、図1および図2において、亜鉛層7は図面上での視認を容易にするために厚く図示されているが、実際には負極缶5の厚みに比べてかなり薄いものである。
上記負極缶5を構成するクラッド板は、その銅層5cに代えて黄銅などからなる銅合金層を備えていてもよい。また、図示していないが、負極缶5の周辺折り返し部5Zおよびその近傍の銅層5cの表面であって、亜鉛層7が形成面されていない表面には、ベンゾトリアゾールなどのトリアゾール系化合物を主成分とする防錆被膜を設けて、耐漏液性を高めている。
(実施例)
次に、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
次に、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
下記のようにして、図1および図2に示した構造と同様の外径6mm、厚さ2.6mmのボタン形アルカリ電池を作製した。
負極缶は、ニッケル層(厚さ:16μm)/ステンレス鋼板(SUS304、厚さ:152μm)/銅層(厚さ:32μm)からなるクラッド板をプレス機で打ち抜き、周辺折り返し部を有する形状に絞り加工して作製した。
正極缶は、オーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼であるSUS329J1(クロム25質量%、ニッケル4.5質量%、モリブデン2質量%)からなるステンレス鋼板(厚さ:150μm)を絞り加工によって作製した。
アルカリ電解液としては、1質量%の酸化亜鉛と35質量%の水酸化カリウムを溶解させた水溶液を用いた。
正極活物質としては、酸化第一銀の粉末を用いた。正極合剤は、この酸化第一銀の粉末に導電助剤としてリン片状黒鉛を、酸化第一銀100質量部に対して1.2質量部添加して混合した後、円板上に加圧成形して作製し、この正極合剤に上記アルカリ電解液を正極合剤1gあたり0.024cm3を含浸させた。
負極活物質としては、水銀を含まず、インジウムを500ppm、ビスマスを400ppm、アルミニウムを5ppmそれぞれ含有する無水銀亜鉛の粉末を用いた。負極剤は、この無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムを、亜鉛100質量部に対して1質量部添加し、さらに上記アルカリ電解液を負極剤1gあたり0.356cm3加えて作製した。
ガスケットは、ナイロン66からなる環状封止部材から形成した。
上記各電池要素を所定の位置に組み合わせ、正極缶の開口端部を圧力150MPaで内方に締め付けて本実施例のボタン形アルカリ電池を得た。
なお、正極缶に用いたステンレス鋼板のX線回折パターン(Cu−Kα線を用いる、常温常圧下でのX線回折法による回折パターン)を図3に示した。図3には、オーステナイト相の特徴ピークとフェライト相の特徴ピークが確認でき、本実施例で使用したステンレス鋼板は、確かにオーステナイト・フェライト二相系ステンレス鋼板であることが分かる。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムを、亜鉛100質量部に対して0.1質量部添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムに代えて水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対して1質量部添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムに代えて水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対して0.1質量部添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムおよび水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対してそれぞれ1質量部(合計2質量部)添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムおよび水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対してそれぞれ0.1質量部添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムおよび水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対してそれぞれ1質量部添加し、アルカリ電解液に水酸化インジウムを500ppm添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムおよび水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対してそれぞれ1質量部添加し、アルカリ電解液に水酸化インジウムを0.5ppm添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムおよび水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対してそれぞれ1質量部添加し、アルカリ電解液に水酸化ビスマスを500ppm添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムおよび水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対してそれぞれ1質量部添加し、アルカリ電解液に水酸化ビスマスを0.5ppm添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極剤の作製にあたり、無水銀亜鉛の粉末に水酸化インジウムおよび水酸化ビスマスを、亜鉛100質量部に対してそれぞれ1質量部添加し、アルカリ電解液に水酸化インジウムおよび水酸化ビスマスをそれぞれ500ppm添加した以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
(比較例1)
負極活物質として水銀を3質量%含有する亜鉛を用い、負極剤の作製にあたり、水酸化インジウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
負極活物質として水銀を3質量%含有する亜鉛を用い、負極剤の作製にあたり、水酸化インジウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
(比較例2)
負極剤の作製にあたり、水酸化インジウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。すなわち、本比較例のボタン形アルカリ電池は、負極活物質として無水銀亜鉛を用い、負極剤およびアルカリ電解液のいずれにも水酸化インジウムや水酸化ビスマスを添加していない。
負極剤の作製にあたり、水酸化インジウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。すなわち、本比較例のボタン形アルカリ電池は、負極活物質として無水銀亜鉛を用い、負極剤およびアルカリ電解液のいずれにも水酸化インジウムや水酸化ビスマスを添加していない。
(比較例3)
非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304(クロム18質量%、ニッケル8質量%)からなるステンレス鋼板(厚さ:150μm)で作製した正極缶を用いた以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304(クロム18質量%、ニッケル8質量%)からなるステンレス鋼板(厚さ:150μm)で作製した正極缶を用いた以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
(比較例4)
強磁性体のフェライト系ステンレス鋼であるSUS430(クロム18質量%)からなるステンレス鋼板(厚さ:150μm)で作製した正極缶を用いた以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
強磁性体のフェライト系ステンレス鋼であるSUS430(クロム18質量%)からなるステンレス鋼板(厚さ:150μm)で作製した正極缶を用いた以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
(比較例5)
強磁性体の冷間圧延鋼SPCD(鉄99.5質量%、炭素0.1質量%、リン0.03質量%、マンガン0.35質量%、イオウ0.03質量%)で作製した正極缶を用いた以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
強磁性体の冷間圧延鋼SPCD(鉄99.5質量%、炭素0.1質量%、リン0.03質量%、マンガン0.35質量%、イオウ0.03質量%)で作製した正極缶を用いた以外は、実施例1と同様にしてボタン形アルカリ電池を作製した。
表1には、実施例1〜11および比較例1〜5の電池において用いた正極缶の材質、およびその機械的特性、磁性の有無を示す。表1において、耐力、引張強度、伸びの測定は、ドックボーン形の試験片を用いてJIS Z2201に基づく方法により、測定速度1cm/分で行った。また、硬さはビッカース硬度計を用いて測定した。
表2には、実施例1〜11および比較例1〜5の電池において、負極活物質として用いた亜鉛中の水銀量、負極剤への添加剤の種類、負極剤中の添加剤の亜鉛100質量部に対する添加量を示す。
表3には、実施例1〜11および比較例1〜5の電池において、アルカリ電解液中への添加剤の種類およびその添加量を示す。
上記で得られた実施例1〜11および比較例1〜5の電池について、60℃で40日間貯蔵後の容量保持率、負極缶の亜鉛層中のインジウム量、ビスマス量、電池封口時における正極缶の亀裂発生数、および60℃、相対湿度90%で24日間貯蔵後の漏液発生数を調べた。その結果を表4に示す。
容量保持率は貯蔵前の各電池10個ずつを20℃、15kΩで終止電圧1.2Vまで放電させて放電容量を測定し、また上記とは別の電池を10個ずつ60℃で40日間貯蔵した後、20℃、15kΩで終止電圧1.2Vまで放電させて放電容量を測定し、貯蔵前の放電容量に対する貯蔵後の放電容量の割合を次式により求めたものである。
(数1)
容量保持率(%)=(貯蔵後の放電容量/貯蔵前の放電容量)×100
容量保持率(%)=(貯蔵後の放電容量/貯蔵前の放電容量)×100
ただし、表4に示した容量保持率は、上記式で求めた比較例1の容量保持率を100とした場合の実施例1〜11および比較例2〜5の容量保持率を相対値で示したものである。
負極缶の亜鉛層中のインジウム量、ビスマス量は、貯蔵前の各電池10個ずつを解体し、負極缶(負極端子板)の負極剤と接する面に形成された亜鉛層中におけるインジウム量およびビスマス量について、シーケンシャル型誘導結合高周波プラズマ分光分析装置“IPIS 1000”(日本ジャーレル・アッシュ製)によって測定した。具体的には、ビーカーに解体した負極缶と純粋を入れ、王水で負極缶を溶解した後、加熱・濃縮し、その溶液を冷却した後に希釈して測定試料とした。
電池封口時における正極缶の亀裂発生数は、各100個の電池を組み立てる際に亀裂が一部にでも発生した電池の個数を示したものである。
漏液発生数は、各電池100個ずつを60℃、相対湿度90%の環境で24日間貯蔵した後に漏液が発生した電池の個数を示したものである。漏液発生の確認は、各電池にクレゾールレッドを塗布して変色の有無により確認した。
表4に示すように、負極剤に水酸化インジウムおよび/または水酸化ビスマスを添加した実施例1〜11の電池は、負極活物質として水銀を含まない亜鉛を用いているにもかかわらず、60℃、40日間貯蔵後の容量保持率が高く、負極活物質として水銀でアマルガム化した亜鉛を用いた比較例1の電池とほぼ同等の貯蔵特性を示した。また、負極活物質として水銀を含まない亜鉛を用い、負極剤に添加剤を添加しなかった比較例2の電池は、実施例1〜11の電池に比べて容量保持率が低く、貯蔵特性が劣ることが分かる。
また、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼であるSUS329J1を正極缶に用いた実施例1〜11の電池は、正極缶の材質が強磁性体であるため、電池の組み立てが容易であり、機械的強度が大きいため、高い締圧力を長期間保持でき、耐漏液性が優れていた。また、SUS329J1の機械的特性である伸びは、SUS430より大きいので、封口時における正極缶の亀裂も発生しなかった。一方、比較例3の電池は電池封口時の正極缶の亀裂や耐漏液試験での漏液は発生しなかったが、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼SUS304を用いているため、電池の組み立て時における正極缶の取り扱いに不利であった。さらに、比較例4の電池は漏液は発生しなかったが、SUS430の伸びが小さいために、電池封口時に正極缶に亀裂が発生した電池が5個あった。また、比較例5の電池はSPCDの強度が弱いために、封口後の時間の経過とともに締圧力が低下し、漏液が発生した電池が7個あった。
以上のように本発明は、水銀を含まない亜鉛を負極活物質として用いるボタン形アルカリ電池において、負極缶(負極端子板)の銅面からの水素ガスの発生を抑制することを含め、電池内における水素ガスの発生を抑制して、電池貯蔵中の容量劣化が少なく、かつ耐漏液性および安全性をも向上させたボタン形アルカリ電池およびその製造方法を提供できる。
1 正極合剤
2 セパレータ
3 負極剤
4 正極缶
5 負極缶
6 ガスケット
7 亜鉛層
2 セパレータ
3 負極剤
4 正極缶
5 負極缶
6 ガスケット
7 亜鉛層
Claims (5)
- 正極缶、負極缶、および水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含む負極剤を備え、前記負極缶が前記負極剤と接しているアルカリ電池であって、
前記負極缶の前記負極剤と接する面に、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層が形成され、
前記正極缶が、オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼から形成されていることを特徴とするアルカリ電池。 - 前記負極剤が、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含む請求項1に記載のアルカリ電池。
- 前記オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼が、クロムを22.0質量%以上28.0質量%以下、ニッケルを3.0質量%以上6.0質量%以下、モリブデンを1.0質量%以上3.0質量%以下、炭素を0.08質量%以下の範囲で含む請求項1または2に記載のアルカリ電池。
- オーステナイト・フェライト二相系のステンレス鋼板を成形加工して正極缶を形成する工程と、
金属板を成形加工して負極缶を形成する工程と、
水銀を含まない亜鉛または亜鉛合金を含み、さらにインジウム化合物およびビスマス化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を前記亜鉛または亜鉛合金の100質量部に対して0.01質量部以上含む負極剤を製造する工程と、
前記正極缶、前記負極缶、前記負極剤、電解液および他の構成要素を組み合わせて、前記負極缶が前記負極剤と接する構造を備えた電池を製造する工程と、
前記負極缶の前記負極剤と接する面に、インジウムおよびビスマスから選ばれる少なくとも1種の元素を0.01質量%以上30質量%以下の範囲で含む亜鉛層を形成させる工程とを含むことを特徴とするアルカリ電池の製造方法。 - 前記電解液が、さらにインジウム化合物およびビスマス化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を0.5ppm以上1500ppm以下の範囲で含んでいる請求項4に記載のアルカリ電池の製造方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010165506A (ja) * | 2009-01-14 | 2010-07-29 | Hitachi Maxell Ltd | 扁平形電池 |
JP2020031009A (ja) * | 2018-08-24 | 2020-02-27 | 日立金属株式会社 | 二次電池の負極集電体用箔 |
CN111742429A (zh) * | 2018-03-23 | 2020-10-02 | 株式会社村田制作所 | 碱性电池 |
-
2004
- 2004-05-20 JP JP2004150808A patent/JP2005332716A/ja active Pending
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