JP2005327772A - 低鉄損一方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 鋼板表裏層の何れか一方又は両方における1箇所又は複数箇所に、磁気異方性定数がFeの磁気異方性定数より大きく、かつ鋼板面の法線方向に対して±60°以内の角度をなす向きに少なくとも1つの磁化容易軸を有する金属または金属化合物を含有し、該金属または金属化合物の鋼板面における総面積率が1.2%以上である低鉄損一方向性電磁鋼板。
【選択図】 図4
Description
例えば、レーザを一方向性電磁鋼板表面の圧延方向と直角方向に対して、所定のビーム幅、エネルギー密度、照射間隔で照射することにより鋼板表面に局部的な高転位密度領域、すなわち微小塑性歪を加えることで、磁区の芽を発生させて磁区の細分化を行い、一方向性電磁鋼板の鉄損を低減する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
(1)鋼板表裏層の何れか一方又は両方における1箇所又は複数箇所に、磁気異方性定数がFeの磁気異方性定数より大きく、かつ鋼板面の法線方向に対して±60°以内の角度をなす向きに少なくとも1つの磁化容易軸を有する金属または金属化合物を含有し、該金属または金属化合物の鋼板面における総面積率が1.2%以上であることを特徴とする低鉄損一方向性電磁鋼板。
本発明者らは、一方向性電磁鋼板の表面に溝または歪形成による従来の鉄損低減方法について確認試験を行い、以下の問題点を確認した。
図1は、表面に溝または歪を形成し低鉄損化した一方向性電磁鋼板における表面張力と鉄損との関係を示す図である。
表面張力が2kgf/mm2の場合に、表面に溝を形成した一方向性電磁鋼板ではW17/50で0.66(W/Kg)、表面に歪を形成した一方向性電磁鋼板ではW17/50で0.64(W/Kg)まで低鉄損化が図れるが、それ以上の低鉄損化は困難である。
しかし、全損失を構成するヒステリシス損は表面の溝深さの増加とともに逆に増加してしまうため、表面の溝形成による全損失の低減には限界がある。また、溝形成によって鋼板表面の凹状部から磁束密度が漏れるため、磁気特性の一つであるB8(磁界800A/mにおける磁束密度)が劣化する問題も生じる。
しかし、本発明者らの確認試験結果から、レーザ照射により弾性歪の増加により磁区細分化は進むが、同時に塑性歪も増加し、塑性歪による磁壁移動が妨げられるためヒステリシス損が増加することを確認している。また、この方法で低損失化した鋼板は、歪取り焼鈍処理を行なう場合には歪による磁区細分化効果は消失してしまうため、約800℃の歪取り焼鈍処理が必要とする巻きトランスに使用する鋼板には、この方法は適用できず、焼鈍処理が不要な積みトランスの用途に制限されるという問題があった。
先ず、本発明の技術思想について説明する。
図2の概念図に示すように、一般に、一方向性電磁鋼板の磁化容易軸は圧延方向に向いているため、磁区は、圧延方向に平行および反平行な磁化で構成され、180°磁区幅を形成する。
この状態でさらに鋼板表面の圧延方向に対して直角方向に溝を形成すると、鋼板の180°磁区幅は狭くなる、つまり、磁区の細分化が行われることは上述した通りである。
上述した鋼板表面に形成する溝深さを増加するとともに磁区の細分化が促進する理由は、溝深さの増加により溝断面積が増大するため、溝断面に発生する磁極も増加し、さらに磁区の再構成が促進するからであると考えられる。
しかし、この方法は、上述したように溝深さの増加とともにヒステリシス損を増加し鉄損低減を阻害するため、鉄損特性の低減には限界がある。
そのために、本発明は、図5に示すように板厚方向に磁化容易軸を有する物質を鋼板表層部の少なくとも一部に付与し、図3および図4に示すように、上記物質を付与した部分において各180°磁区を構成する磁化の向きを鋼板表面に向かう板厚方向に誘導し、鋼板表面に磁極を誘起する方法により、磁区の再構成、細分化の促進を実現するものである。
例えば、電磁鋼板の母材元素であるFeは、図6に示すように磁化容易軸が三つあり、その磁化容易軸の一つは圧延方向に向いている。
また、鉄の磁気異方性定数は、結晶の対称性から3方向が同等の正の磁気異方性定数:約4.8×104(J/m3)を持つことが知られている。
従って、電磁鋼板の各180°磁区を構成する磁化の向き(鉄の容易軸方向である圧延方向)を鋼板表面に向かう板厚方向に誘導し、鋼板表面に磁極を誘起させるためには、板厚方向に容易軸を有する物質の磁気異方性定数が少なくとも鉄よりも大きくする必要がある。
そのため、本発明において、鋼板に付与する上記金属または金属化合物の表面積(鋼板全体に対する総面積率(%))および磁化容易軸方向(鋼板面の法線方向に対する角度)を適正範囲に規定することが重要である。
なお、以下の説明の便宜上、「磁気異方性定数がFeの磁気異方性定数より大きい金属または金属化合物」を「高磁気異方性物質」という。
なお、高磁気異方性物質は、図5に示すように鋼板の圧延方向に対してほぼ直角方向に、鋼板表面からの深さが約20μmで、幅が約60μmの帯状範囲に存在し、帯状範囲の間隔(圧延方向距離)を約5mmとした。この際の高磁気異方性物質の鋼板面における総面積率は、約1.2%であった。
また、磁気異方性定数は、Feの磁気異方性定数(約4.8×104(J/m3))に対する相対比率として示す。また、磁化容易軸方向は、高磁気異方性物質の少なくとも1つの磁化容易軸と鋼板面の法線方向とのなす角度(°)を示す。
また、一方向性電磁鋼板の鉄損値をより低減させるためには、高磁気異方性物質の容易軸方向が鋼板面の法線方向に対して0°、つまり、法線方向と平行とすることが好ましい。
なお、上記容易軸方向の鋼板面の法線方向に対する角度において、[+]は時計周り方向、[−]は反時計周り方向を示す。
また、一方向性電磁鋼板の鉄損値をより低減させるためには、高磁気異方性物質の容易軸方向が鋼板面の法線方向と平行とすることが好ましい。
したがって、上記金属または金属化合物(高磁気異方性物質)として、上記の例示した金属または金属化合物で結晶構造や形状が異なり、特定方位の磁気異方性が異なるものも当然含むものである。
また、本発明において、上記金属または金属化合物(高磁気異方性物質)の形態は、金属系、合金系、化合物物系、酸化物系いずれでも良い。
さらに、磁気異方性定数(絶対値)が約2.4×105(J/m3)以上の高磁気異方性物質を用いれば、本発明が規定する高磁気異方性物質の総面積率の範囲内で高磁気異方性物質の総面積率にばらつきがあっても、安定して充分に鉄損値を低下できることも本発明者らは実験などで確認している。
このため、本発明では、一方向性電磁鋼板の鉄損値をより安定して充分に低減させるために、上記金属または金属化合物(高磁気異方性物質)の磁気異方性定数(絶対値)は、2.4×105(J/m3)以上であることが好ましい。
なお、高磁気異方性物質は、図5に示すように鋼板の圧延方向に対してほぼ直角方向に、鋼板面からの深さが約20μmに付与した帯状範囲の幅または帯状範囲の間隔(圧延方向距離)を変化させることにより、高磁気異方性物質の鋼板面における総面積率を変化させた。
また、高磁気異方性物質の磁気異方性定数は、Feに比べて大きい、約4.53×105(J/m3)であった。また、高磁気異方性物質の少なくとも1つの磁化容易軸方向は、鋼板面の法線方向に対して60°であった。
図8から、従来の一方向性電磁鋼板に比べて鉄損値を充分に低減するためには、高磁気異方性物質の鋼板面における総面積率が1.2%以上とする必要がある。
以上の理由から、本発明では、鋼板表裏層の何れか一方又は両方における1箇所又は複数箇所に含有する、磁気異方性定数がFeの磁気異方性定数より大きい金属または金属化合物(高磁気異方性物質)の鋼板面における総面積率を1.2%以上とした。
しかしながら、本発明者らの実験などの検討によれば、鋼板面から板厚方向の高磁気異方性物質の厚みが35μmを超えるような場合には、鋼板面に向いた板厚方向の磁化量が過度に増加し、この磁化方向を圧延方向に向けるための仕事量が増加する影響が無視できなくなり、ヒステリシス損がやや増加する傾向にある。
このため、鋼板面から板厚方向の高磁気異方性物質の厚みが35μmを超えるような場合には、高磁気異方性物質の付与による効果がやや減少する場合がある。また、高磁気異方性物質の厚みを過度に増加することは、高価な高磁気異方性物質の使用による鋼板コストを増加させる原因となり好ましくない。
このため、本発明において、前記金属または金属化合物(高磁気異方性物質)の鋼板面から板厚方向の深さ範囲は、35μm以下の範囲とすることが好ましい。
そのため、本発明の一方向電磁鋼板の実製造時において、局所的な積層領域の増加によるメッキ時間の増加などの問題を招く可能性があるため製造操業上好ましくない。
したがって、本発明において、前記金属または金属化合物(高磁気異方性物質)が存在する領域の鋼板圧延方向の間隔を7mm以下とするのが好ましい。
しかし、実製造時には、コイルに巻き取りながら、鋼板表面に凹状の窪みをつけ、メッキ浴で積層することになるので、高磁気異方性物質が付与された帯状範囲の方向は、鋼板圧延方向に対してずれが生じてしまうことを確認した。
しかし、実際に工業的に製造し得る一方向性電磁鋼板における磁化容易軸は圧延方向と完全に平行ではなく、磁化容易軸は圧延方向に対してずれ角度が存在する。
前述した通り、一方向性電磁鋼板の磁区細分化により鉄損を低減するためには、鋼板の磁化方向、つまり、磁化容易軸に対して直角方向に帯状範囲を形成するのが有効であると考えられる。
上記の角度範囲は、理想とする磁化容易軸方向、つまり、鋼板の圧延方向に対して直角な方向からずれ角度で30°以内の範囲に相当する。
この角度範囲から外れると鋼板の磁区細分化作用は少なくなるため、従来に比べてより安定して充分に鉄損値を向上するためには、上記高磁気異方性物質を付与する帯状範囲の方向を圧延方向に対して60〜120°の方向とするのが好ましい。
したがって、本発明において、前記金属または金属化合物(高磁気異方性物質)が存在する帯状範囲は、鋼板圧延方向に対して60〜120°の角度をなす方向に連続して、又は所定間隔で有することが好ましい。
なお、上記高磁気異方性物質を積層する方法は、例えば、スパッタ法、蒸着法、メッキ法のいずれかの方法が用いられる。
また、鋼板に溝を形成せずに、母材鋼板を圧延で製造する過程に形成した窪み等を利用して上記高磁気異方性物質を積層しても良い。
あるいは、鋼板に溝を形成せずに、上記高磁気異方性物質を冷間または熱間圧延し埋め込んでも良い。
もしくは、上記高磁気異方性物質を積層ではなく、鋼板表面へのイオン注入やドーピング等の方法により付与する方法を利用しても良い。
その後、この鋼板の表層に、図5に示すように表1の条件で高磁気異方性物質を積層し、表層に高磁気異方性物質を付与した鋼板を製造した(表1の試料No.1〜14)。
なお、一方向性電磁鋼板の表層に溝を形成した鋼板(表1の試料No.15)の溝深さは約20μm、溝幅は約0.1mm、溝間隔(ピッチ)は約5mmで、溝方向は圧延方向にほぼ直角方向に形成した。
また、一方向性電磁鋼板の表層に歪を形成した鋼板(表1の試料No.16)は、鋼板表面に1パルスあたり約3mJのエネルギーを持つパルスレーザーを圧延方向に約5mmピッチの間隔で照射し作成した。このとき、レーザ照射領域は、圧延方向にほぼ直角方向になるようにした。
表2から、本発明例の一方向性電磁鋼板は、歪取り焼鈍後であっても良好な鉄損値をほぼ維持することができた。
これに対して、比較例の鋼板表面に歪を形成した一方向性電磁鋼板は、歪取り焼鈍後に歪による磁区細分化効果は消失し、鉄損値W17/50が0.65から0.9に大幅に増加した。
Claims (6)
- 鋼板表裏層の何れか一方又は両方における1箇所又は複数箇所に、磁気異方性定数がFeの磁気異方性定数より大きく、かつ鋼板面の法線方向に対して±60°以内の角度をなす向きに少なくとも1つの磁化容易軸を有する金属または金属化合物を含有し、該金属または金属化合物の鋼板面における総面積率が1.2%以上であることを特徴とする低鉄損一方向性電磁鋼板。
- 前記金属または金属化合物の少なくとも1つの磁化容易軸の向きが、鋼板表面の法線方向に対して平行であることを特徴とする請求項1に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板。
- 前記金属または金属化合物の磁気異方性定数が2.4×105J/m3以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板。
- 前記金属または金属化合物は、鋼板面から板厚方向に35μm以下の範囲に有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板。
- 前記金属または金属化合物は、鋼板圧延方向に7mm以下の間隔で有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板。
- 前記金属または金属化合物は、鋼板圧延方向に対して60〜120°の角度をなす方向に連続して、又は所定間隔で有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の低鉄損一方向性電磁鋼板。
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