実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。図1に示すように、本実施形態のシステムは、内燃機関10と電動機12を備えている。内燃機関10の出力軸、および電動機12の出力軸は、何れも変速機14に連結されている。また、変速機14は、ディファレンシャルギヤ16を介して左右の駆動輪18に連結されている。
内燃機関10および電動機12は、ハイブリッド車両の駆動源である。つまり、図1に示すシステムは、内燃機関10の発する機関トルクTeと電動機12の発する電動機トルクTmとを重畳させて変速機14に伝達することができる。このため、駆動輪18には、機関トルクTeと電動機トルクTmの和が駆動トルクとして伝達される。
図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)20を備えている。ECU20には、スロットルセンサ22、エアフロメータ24、回転数センサ26、および電力検出器28などの各種センサが接続されている。スロットルセンサ22は、スロットル開度TAを検知するためのセンサである。エアフロメータ24は吸入空気量Gaを検知するためのセンサである。回転数センサ26は機関回転数Neを検知するためのセンサである。そして、電力検出器28は、バッテリの供給可能電力を逐次計算し続けるユニットである。
ECU20は、それらのセンサから各種情報の提供を受けて、それらの情報に基づいて、内燃機関10および電動機12を適宜制御することができる。より具体的には、ECU20は、運転者の要求等に応じてハイブリッド車両において発生するべき駆動トルク算出し、更に、その駆動トルクを生じさせるためのトルク負担が適切に分配されるように、内燃機関10と電動機12の双方を適切に制御するためのユニットである。
(ECU20の概要)
図2は、ECU20の機能を説明するためのブロック図である。図2に示すように、ECU20の内部には、制御判定部30と制御指令値演算部32が形成される。これらは、ハイブリッド車両において発生するべき目標総トルクTQt、およびハイブリッド車両の現在の状態(例えば、バッテリの供給可能電力Pb)などの情報に基づいて、内燃機関10に供給する燃料指令値Ft、および電動機12に供給する電力指令値Ptを算出する部分である。
制御指令値設定部32は、内燃機関逆モデル34と電動機逆モデル36とを含んでいる。内燃機関10は、供給される燃料量を入力とし、また、機関トルクTeを出力とする線形モデルにより模擬することができる。内燃機関逆モデル34は、その線形モデルの逆モデル、つまり、入力として目標機関トルクTetを与えることにより、その目標機関トルクTetを生じさせるために必要な燃料量を出力として生成するモデルである。
電動機逆モデル36は、電動機12を模擬する線形モデルの逆モデルである。電動機12は、供給される電力を入力とし、また、電動機トルクTmを出力とする線形モデルにより模擬することが可能である。電動機逆モデル36は、入力として目標電動機トルクTmtを与えることにより、その目標電動機トルクTmtを生じさせるために必要な電力を出力として生成するモデルである。
制御判定部30は、ハイブリッド車両に要求されている目標総トルクTQtの負担を、現在の車両状態などに基づいて、内燃機関10と電動機12とにどのように分配するかを決める部分である。制御判定部30においては、例えば、目標総トルクTQtの全てを内燃機関10に負担させるべきことが決定されることがある。この場合、内燃機関逆モデル34には、目標総トルクTQtを目標機関トルクTetとして必要な燃料量を算出することが指令される。そして、内燃機関逆モデル34がこの指令を受けて算出した燃料量は、内燃機関10に対して、燃料指令値Ftとして供給される。
また、制御判定部30においては、目標総トルクTQtの全てを電動機12に負担させるとしたら、どれだけの電力が必要かを検知する必要が生ずることがある。この場合は、制御判定部30から電動機逆モデル36に対して、目標総トルクTQtを目標電動機トルクTmtとして必要な電力を算出することが指令される。そして、制御判定部30によって、目標総トルクTQtの全てを電動機12に負担させるべきことが決定されると、電動機逆モデル36が、上記の指令を受けて算出した電力が、電力指令値Ptとして電動機12に供給される。
更に、制御判定部30では、目標総トルクTQtの一部を電動機12により発生させ、その残りを内燃機関10に発生させるべきとの決定がなされることがある。この場合は、制御判定部30から内燃機関逆モデル34に対して、電動機12に発生させるトルクTbmを目標総トルクTQtから減じた値TQt−Tbmを目標機関トルクTetとして、必要な燃料量を算出することが指令される。この場合も、内燃機関逆モデル34により算出される燃料量は、内燃機関10に対して、燃料指令値Ftとして供給される。
以上説明した通り、ECU20は、制御判定部30の機能により、目標総トルクTQtの負担を、どのように内燃機関10と電動機12とに分配するかを決めることができる。そして、その分配により導かれる目標機関トルクTetを内燃機関逆モデル34に入力することにより、目標機関トルクTetを発生させるための燃料指令値Ftを算出することができる。同様に、上記の分配により導かれる目標電動機トルクTmtを電動機逆モデル36に入力することにより、目標電動機トルクTmtを発生させるための電力指令値Ptを算出することができる。
ECU20の内部には、上記の如く算出される燃料指令値Ftおよび電力指令値Ptを受けて、それらの指令値に修正を施すための指令値修正部40が形成される。指令値修正部40は、より具体的には、内燃機関モデルとコントローラとを含む第1修正ブロック42と、電動機モデルとコントローラとを含む第2修正ブロック44により実現されている。第1修正ブロック42は、内燃機関10から現実に発せられる機関トルクTeが、内燃機関10に要求される目標機関トルクTetと正確に一致するように、燃料指令値Ftに修正を施すための部分である。一方、第2修正ブロック44は、電動機12から現実に発せられる電動機トルクTmが、電動機12に要求される目標電動機トルクTmtと正確に一致するように、電力指令値Ptに修正を施すための部分である。
(修正ブロックの詳細)
図3は、図2に示す構成から、内燃機関逆モデル34と第1修正ブロック42とを抜き出した図である。目標機関トルクTetを決めるための制御を捨象すると、ECU20が、内燃機関10を対象として実行する制御は、図3に示すように表すことができる。
すなわち、ECU20においては、制御判定部30(図3には図示せず)の機能により目標機関トルクTetが決定されると、その値Tetが内燃機関逆モデル34に入力される。内燃機関逆モデル34は、その入力を受けることにより、目標機関トルクTetを発生するために必要な燃料指令値Ftを算出する。そして、算出された燃料指令値Ftは、第1修正ブロック42に供給される。
第1修正ブロック42は、内燃機関モデル50およびコントローラ52に加えて、2つの減算器54,56が含まれている。内燃機関モデル50は、内燃機関10の入出力関係を模擬した線形モデル、つまり、内燃機関10に対する燃料供給量と、内燃機関10が発する機関トルクTeとの関係を近似した順モデルである。
内燃機関モデル50には、図3に示すように、燃料指令値Ftが供給される。この場合、内燃機関モデル50は、その燃料指令値Ftを受けて内燃機関10が出力するべき機関トルクTe、つまり、目標機関トルクTetの値を出力する。内燃機関モデル50の出力は、減算器54に供給されている。減算器54には、更に、内燃機関10において現実に生成された機関トルクTeの検出値が供給されている。
減算器54は、実測された機関トルクTeから、目標機関トルクTetを減ずることにより、両者の差ΔTe=Te−Tetを算出する。そして、コントローラ52は、その差ΔTeに適当なゲインを乗ずることにより指令値修正量ΔFtを算出する。指令値修正量ΔFtは、燃料指令値Ftと共に減算器56に供給される。減算器56は、燃料指令値Ftから指令値修正量ΔFtを減じて、最終燃料指令値Ft−ΔFtを算出する。内燃機関10には、このようにして算出された最終燃料指令値Ft−ΔFtが供給される。
以上の処理によれば、内燃機関10により現実に発せられている機関トルクTeが、目標機関トルクTetに対して過大である場合には、最終燃料指令値Ft−ΔFtが小さな値に修正され、他方、その逆の場合には、最終燃料指令値Ft−ΔFtが大きな値に修正される。このため、図3に示す第1修正ブロック42によれば、内燃機関10の発する機関トルクTeを、精度良く目標機関トルクTetに一致させることが可能である。
制御判定部30が目標電動機トルクTmtを算出するための制御を捨象すると、ECU20が、電動機12を対象として実行する制御も、図3に示す構成と同様の構成で表すこと、つまり、電動機逆モデル36と第2修正ブロック44だけを用いて表すことができる。そして、第2修正ブロック44は、内燃機関モデル50を電動機モデルに置き換えることにより、第1修正ブロック42と同様の構成で実現することができる。本実施形態のシステムは、このような構成を採ることにより、機関トルクTeおよび電動機トルクTmの制御精度を十分に高めることとしている。
(近似逆モデルの説明)
ECU20の内部には、上述した通り、内燃機関逆モデル34と電動機逆モデル36を準備する必要がある。一般に、現存するシステムの順モデルは比較的容易に作成することができるが、その逆モデルの作成には多大な困難が伴う。但し、ここでは、システムの入力と出力との間に成立する伝達関数を数式で表したものが「順モデル」であり、一方、そのシステムの出力と入力との間に成立する伝達関数を数式で表したものが「逆モデル」であるものとする。以下、このように定義される「逆モデル」を特に「真の逆モデル」と称することとする。
真の逆モデルの作成が困難であることから、内燃機関逆モデル34および電動機逆モデル36を「真の逆モデル」で実現しようとすると、本実施形態のシステムを実現するに当たって多大な費用と時間が必要となる。そこで、本実施形態においては、内燃機関逆モデル34および電動機逆モデル36を、それぞれ以下に説明する近似逆モデルにより実現して、システムの構築を容易ならしめることとした。
図4は、内燃機関逆モデル34が、近似逆モデルであることが明らかになるように、図3に示す構成を書き直したものである。図4に示すように、近似逆モデルによる内燃機関逆モデル34は、減算器60、コントローラ62、および内燃機関モデル64により構成されている。
コントローラ62は、減算器60の出力を伝達関数C(s)で伝達するユニットである。また、内燃機関モデル64は、内燃機関10の順モデルであり、コントローラ62の出力を伝達関数P(s)で伝達する。そして、減算器60は、近似逆モデルによる内燃機関逆モデル34に入力された目標機関トルクTetから、内燃機関モデル64の出力を減じた値をコントローラ62に向けて出力するものとする。
近似逆モデルによる内燃機関逆モデル34は、コントローラ62の出力を、当該モデルの出力として、つまり、燃料指令値Ftとして第1修正ブロック42に供給する。この場合、内燃機関逆モデル34に対する入出力の間には、つまり、目標機関トルクTet(入力)と燃料指令値Ft(出力)との間には、以下に示す関係が成立する。
出力Ft={C/(1+CP)}*入力Tet ・・・(式1)
本実施形態において、コントローラ62の伝達関数Cは、1に比して十分に大きな値とされている。この場合、(式1)右辺の分母の「1」が無視できるため、近似逆モデルによる内燃機関逆モデル34の入出力関係は、以下に示す近似式で表し得ることとなる。
出力Ft=(1/P)*入力Tet ・・・(式2)
上記(式2)は、近似逆モデルによる内燃機関逆モデル34が、伝達関数(1/P)のモデルであること、つまり、内燃機関モデル64の逆モデルであることを表している。このように、図4に示す構成を用いることによれば、内燃機関10の順モデル64を用いて、その逆モデルとしての特性を有するモデルを実現することができる。システムの順モデルは、上記の如く作成が容易であることから、図4に示す構成は、内燃機関逆モデル34を真の逆モデルにより実現しようとする場合に比して、格段にその作成が容易である。
近似逆モデルによる電動機逆モデル36は、内燃機関モデル64を電動機12の順モデル(電動機モデル)に置き換えることにより、図4に示す構成を用いて実現することができる。従って、近似逆モデルによる電動機逆モデル36も、近似逆モデルによる内燃機関逆モデル34と同様に、真の逆モデルを作成する場合に比して格段に容易に作成することができる。このため、本実施形態のシステムは、それらの逆モデルを作成するにあたって、多大な負担を強いられることなく、比較的容易に実現することができる。
[実施の形態1における動作]
次に、図5乃至図7を参照して、本実施形態のシステムがトルク分配を行う際の動作について説明する。本実施形態において用いられる2つの駆動源には、それぞれ一長一短が存在する。例えば、応答性については、電動機12のそれが内燃機関10のそれに比して優れている。一方、電動機12につていは、バッテリの供給可能電力Pbの範囲でしか作動できないという制限が生ずるのに対して、内燃機関10については、燃料の貯留量が一般に十分であることから、通常はそのような制限は生じない。
そこで、本実施形態のシステムは、バッテリの供給可能電力Pbを検出したうえで、その供給可能電力Pbが許す範囲においては電動機12に最大限電動機トルクTmを発生させることとした。そして、供給可能電力Pbに起因する制限により、電動機12が負担することのできない駆動トルクを、内燃機関10によって負担させることとした。このような制御によれば、電動機12の能力を最大限に利用することにより優れた応答性を実現し、また、内燃機関10によるアシストを過不足なく行うことにより、長期に渡る実用的な安定作動を実現することができる。
図5は、バッテリの供給電力Pbが「0」である場合の動作を説明するためのブロック図である。本実施形態のシステムは、バッテリの供給可能電力Pbを計算し続ける電力検出器28を備えているため(図1参照)、ECU20は、そこで計算されているPbを見ることにより、Pb=0が成立しているか否かを判断することができる。
Pb=0の成立が認められる場合は、電動機12に対して電力を供給することができないため、電動機12に対する電力指令値Ptは「0」とされる。また、この場合は、ハイブリッド車両が発生するべき目標総トルクTQtが、そのまま目標機関トルクTetとして内燃機関逆モデル34に供給される。
内燃機関逆モデル34は、このような目標機関トルクTetの入力を受けると、内燃機関10に目標総トルクTQtを発生させるための燃料指令値Ftを精度良く算出する。そして、ここで算出された燃料指令値Ftが第1修正ブロック42に供給されることにより、内燃機関10において、目標総トルクTQtと正確に一致する機関トルクTeが生成される。この際、電動機12は電動機トルクTmを発生していないため、ハイブリッド車両上では、目標総トルクTQtと正確に一致する駆動トルクが生成されることになる。
図6は、目標総トルクTQtの全てを電動機12で発生させるための電力指令値Ptが、バッテリの供給電力Pb以下であった場合の動作を説明するためのブロック図である。ECU20は、目標総トルクTQtを電動機逆モデル36に入力することにより、そのトルクを電動機12で発生させるのに必要な電力指令値Ptを算出することができる。このようにして算出されたPtがバッテリの供給可能電力Pb以下であると判別された場合は、目標総トルクTQtを電動機12のみで発生させ得ることが判断できる。
この場合、ECU20は、内燃機関10に機関トルクTeを発生させる必要がないと判断して、内燃機関10に対する燃料指令値Ftを「0」とする。また、ECU20は、目標総トルクTQtを電動機逆モデル36に入力することで得られる電力指令値Ptを、第2修正ブロック44に供給する。
電動機逆モデル36は、目標総トルクTQtの入力を受けると、電動機12に目標総トルクTQtを発生させるための電力指令値Ptを精度良く算出する。そして、その電力指令値Ptが第2修正ブロック44に供給されると、電動機12において、目標総トルクTQtと正確に一致する電動機トルクTmが生成される。この際、内燃機関10は機関トルクTeを発生していないため、ハイブリッド車両上では、目標総トルクTQtと正確に一致する駆動トルクが生成されることになる。
図7は、バッテリの供給可能電圧Pbが「0」ではなく、かつ、目標総トルクTQtの全てを電動機12で発生させるための電力指令値Ptが、その供給電力Pbを超えていた場合の動作を説明するためのブロック図である。本実施形態のシステムは、この場合、電動機トルクTmを最大限に発生させつつ、駆動トルクの不足分を正確に補うように、内燃機関10に機関トルクTeを発生させる。
ECU20の内部では、具体的には、バッテリの供給可能電力Pbが、電力指令値Ptとして電動機12に供給されると共に、電動機モデル66にも入力される。電動機12は、このような電力指令値Pt(=Pb)を受けると、その指令値Pbに応じた電動機トルクTm(以下、特に「Tmb」とする)を発生する。一方、電動機モデル66は、上記の入力Pbを受けることにより、現状下で生ずる電動機トルクTmbを正確に出力する。尚、電動機モデル66は、第2修正ブロック44にも、近似逆モデルによる電動機逆モデル36にも含まれているため、ここでは、それらの何れかを流用することにより、上記の演算を進めることができる。
ECU20の内部では、また、目標総トルクTQtから電動機モデル66の演算値Tmbを減じた値「TQt−Tmb」が、目標機関トルクTetとして内燃機関逆モデル34に入力される。内燃機関逆モデル34は、このような目標機関トルクTet=TQt−Tmbの入力を受けると、そのトルクTetを内燃機関10に発生させるための燃料指令値Ftを精度良く算出する。そして、その燃料指令値Ftが第1修正ブロック42に供給されることにより、内燃機関10において、目標総トルクTQtより電動機トルクTmbだけ小さな機関トルクTeが生成される。この際、電動機12により電動機トルクTmbが発生されているため、ハイブリッド車両上で生成される駆動トルクは、正確に目標総トルクTQtと一致するものとなる。
[実施の形態1における具体的処理]
図8は、上記の機能を実現するためにECU20が実行するルーチンのフローチャートである。図8に示すルーチンでは、先ず、スロットル開度TAや機関回転数Gaなど、車両の運転状態を表す各種情報が検出される(ステップ70)。次に、それらの情報に基づいて、ハイブリッド車両に対して要求されている目標総トルクTQtが算出される(ステップ72)。
次いで、電力検出器28の出力に基づいてバッテリの供給可能電力Pbが検出される(ステップ74)。そして、その供給可能電力Pbが「0」であるか否かが判別される(ステップ76)。
Pb=0の成立が認められた場合は、電動機12に駆動トルクを負担させることができないと判断され、電力指令値Ptが「0」とされる(ステップ78)。その結果、電動機12による電力消費が「0」となると共に、電動機トルクTmが「0」とされる。
次に、目標総トルクTQtに対応する燃料指令値Ftが算出される(ステップ80)。ここでは、具体的には、先ず、目標総トルクTQtが目標機関トルクTetに設定される。次いで、ECU20に記憶されている内燃機関逆モデル34にその目標機関トルクTetが入力される。その結果、目標総トルクTQtを内燃機関10に発生させるための燃料指令値Ftが精度良く算出される。
ECU20は、前回以前の処理サイクル時に算出した指令値修正量ΔFtを記憶している。ステップ80の処理により燃料指令値Ftを算出すると、ECU20は、その指令値Ftから指令値修正量ΔFtを減ずることにより、最終的な燃料指令値Ftを算出する(ステップ82)。
ECU20は、次に、上記の如く算出した最終的な燃料指令値Ftを用いて内燃機関10を制御する(ステップ84)。その結果、内燃機関10によって、目標総トルクTQtと精度良く一致する機関トルクTeが生成される。換言すると、ハイブリッド車両上で、目標総トルクTQtと精度良く一致する駆動トルクが生成される。以後、現実に発生した機関トルクTeと目標機関トルクTetとの差ΔTe=Te−Tetに基づいて、指令値修正量ΔFtが最新値に更新される(ステップ86)。
図8に示すルーチン中、上記ステップ76において、バッテリの供給可能電力Pbが「0」でないと判別された場合は、次に、目標総トルクTQtに対応する電力指令値Ptが算出される(ステップ88)。ここでは、具体的には、先ず、目標総トルクTQtが目標電動機トルクTmtに設定される。次いで、ECU20に記憶されている電動機逆モデル36にその目標機関トルクTetが入力される。その結果、目標総トルクTQtを電動機12に発生させるための電力指令値Ptが精度良く算出される。
次に、上記の処理により算出された電力指令値Ptが、バッテリの供給可能電力Pb以下であるかが判別される(ステップ90)。その結果、Pt≦Pbの成立が認められた場合は、目標総トルクTQtの全てを電動機12に負担させ得ると判断できる。この場合、先ず、機関トルクTeを「0」とするべく燃料指令値Ftが「0」とされる(ステップ92)。
次に、ステップ88の処理により算出された電力指令値Ptから、ECU20に記憶されている指令値修正量ΔPtを減ずることにより、最終的な電力指令値Ptが算出される(ステップ94)。電動機12が、この電力指令値Ptを用いて制御されることにより(ステップ96)、目標総トルクTQtと精度良く一致する電動機トルクTmが生成される。
ここでは、機関トルクTeが「0」とされているため、電動機12が上記の電動機トルクTmを発生すると、ハイブリッド車両上では、目標総トルクTQtと精度良く一致する駆動トルクが生成されることになる。以後、現実に発生した電動機トルクTmと目標電動機トルクTmtとの差ΔTm=Tm−Tmtが算出され、更に、その差ΔTmに基づいて、指令値修正量ΔPtが最新値に更新される(ステップ98)。
図8に示すルーチン中、上記ステップ90において、目標総トルクTQtに対応する電力指令値Ptがバッテリの供給可能電力Pb以下でないと判別された場合は、目標総トルクTQtの全てを電動機12で賄うことはできないと判断できる。この場合は、先ず、電動機トルクTmを最大限発生させるべく、電力指令値Ptに供給可能電力Ptが代入される(ステップ100)。
次に、ECU20に記憶されている電動機モデル66に上記の電力指令値Ptを入力することにより、現状下での発生が予想される電動機トルクTbmが算出される(ステップ102)。そして、目標総トルクTQtから上記の電動機トルクTbmを減じることにより、今回の処理サイクルにおける目標機関トルクTet=TQt−Tbmが算出される(ステップ104)。
次に、上記の如く算出された目標機関トルクTetに対応する燃料指令値Ftが算出される(ステップ106)。具体的には、上記の目標機関トルクTetが、ECU20に記憶されている内燃機関逆モデル34に入力される。その結果、目標総トルクTQtよりTbmだけ小さな機関トルクTeを発生させるために必要な燃料指令値Ftが精度良く算出される。
ECU20は、前回以前の処理サイクル時に算出した指令値修正量ΔFtを記憶している。ステップ106の処理により燃料指令値Ftを算出すると、ECU20は、その指令値Ftから指令値修正量ΔFtを減ずることにより、最終的な燃料指令値Ftを算出する(ステップ108)。
次に、上記の如く算出された燃料指令値Ftにより内燃機関10が制御されると共に、ステップ100の処理により設定された電力指令値Ptにより電動機12が制御される(ステップ110)。その結果、ハイブリッド車両上では、TQt−Tbmで表される機関トルクTeと、Tbmで表される電動機トルクTmとが正確に生成される。つまり、ハイブリッド車両上では、内燃機関10と電動機12の双方が作動して、目標総トルクTQtと正確に一致する駆動トルクが生成されることになる。
以上説明した通り、図8に示すルーチンによれば、バッテリの供給可能電力Pbを超えない範囲で最大限に電動機トルクTmを発生させると共に、目標総トルクTQtに対するTmの不足分を正確に補うように機関トルクTeを発生させることができる。特に、ここでは、目標総トルクTQtに対する電動機トルクTmの不足分を目標機関トルクTetとして設定したうえで、その目標機関トルクTetを内燃機関逆モデル34に入力することにより、その不足分を補うための燃料指令値Ftを算出することとしている。
内燃機関逆モデル34を用いた上記の算出処理によれば、目標機関トルクTetを内燃機関10に発生させるために必要な燃料指令値Ftを、様々な状況下で、極めて精度良く算出することができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ハイブリッド車両上で要求される目標総トルクTQtの負荷を、内燃機関10と電動機12とに適当に分配しつつ、様々な状況下で、常に正確にその目標総トルクTQtを発生させることができる。
[実施の形態1の変形例等]
ところで、上述した実施の形態1においては、目標総トルクTQtを発生させるにあたって、電動機トルクTmを機関トルクTeに優先して発生させることとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、目標総トルクTQtの負担を内燃機関10と電動機12に分配する手法としては、先ず、所望の目標機関トルクTetを設定し、Tetによる不足分を補うように目標電動機トルクTmtを設定することとしてもよい。例えば、内燃機関10においては、エネルギ効率の観点より、理想的な機関トルクTeが設定できる場合がある。このような場合には、先ず、内燃機関10を効率的に作動させることを目的として目標機関トルクTetを設定し、目標総トルクTQtから、その目標機関トルクTetを減じた値「TQt−Tet」を目標電動機トルクTmtとして設定することとしてもよい。
尚、上述した実施の形態1においては、ECU20が、ステップ72の処理を実行することにより前記第1の発明における「目標総トルク設定手段」が、ステップ78、88または102の処理を実行することにより前記第1の発明における「目標電動機トルク設定手段」が、ステップ78、96または110の処理を実行することにより前記第1の発明における「電動機制御手段」が、ステップ80、92または104の処理を実行することにより前記第1の発明における「目標機関トルク算出手段」が、ステップ80,92または106の処理を実行することにより前記第1の発明における「燃料指令値算出手段」が、ステップ84,92または110の処理を実行することにより前記第1の発明における「燃料制御手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU20が、ステップ74の処理を実行することにより前記第3の発明における「供給可能電力検出手段」が、ステップ88の処理を実行することにより前記第3の発明における「必要電力算出手段」が、ステップ90または76の処理を実行することにより前記第3の発明における「判断手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU20が、ステップ86または112の処理を実行することにより前記第4の発明における「燃料修正値算出手段」が、ステップ82または108の処理を実行することにより前記第4の発明における「燃料指令値補正手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、目標総トルクTQtを発生させるにあたって、内燃機関10を効率的に作動させるための目標機関トルクTetを先ず設定し、その後、目標機関トルクTetによる不足分「TQt−Tet」を補うように目標電動機トルクTmtを設定する手法を採ることにより、前記第5および第7の発明を実現することができる。更に、この場合において、ECU20に、第1修正ブロック42の機能、および第2修正ブロック44の機能を実現させることにより、前記第8および第9の発明を実現することができる。
実施の形態2.
[実施の形態2の特徴]
次に、図9乃至図13を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。本実施形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU20に、後述する図11乃至図13に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
上述した実施の形態1のシステムは、ハイブリッド車両の状態等に基づいて、目標総トルクTQtを、どのように目標機関トルクTetと目標電動機トルクTmtに分配するかを決定する。そして、目標機関トルクTetを内燃機関逆モデル34に入力することにより、機関トルクTeを正確に目標機関トルクTetに一致させるための燃料指令値Ftを算出している。また、目標電動機トルクTmtを電動機逆モデル36に入力することにより、電動機トルクTmを正確に目標電動機トルクTmtに一致させるための電力指令値Ptを算出している。
本実施形態のシステムは、車両状態等に基づいて目標総トルクTQtを目標機関トルクTetと目標電動機トルクTmtに分配する点に関しては、実施の形態1の場合と同様である。そして、本実施形態のシステムは、内燃機関逆モデル34の機能を、内燃機関10の線形モデルを基礎とした適応制御の手法で実現し、また、電動機逆モデル36の機能を、電動機12の線形モデルを基礎とした適応制御の手法で実現する点において実施の形態1のシステムと相違している。つまり、本実施形態のシステムは、目標機関トルクTetに対応する燃料指令値Ft、および目標電動機トルクTmtに対応する電力指令値Ptを、それぞれ適応制御の手法を用いて算出する点に特徴を有している。
[内燃機関逆モデルの機能を実現するための構成]
図9は、内燃機関逆モデルとしての機能を実現するために、つまり、目標機関トルクTetに対応する燃料指令値Ftを算出するためにECU20の内部に形成される構成を説明するためのブロック図である。図9には、内燃機関10と燃料指令値算出部120とが示されている。燃料指令値算出部120は、実施の形態1における内燃機関逆モデル34と同様の機能を実現するべくECU20の内部に形成されるブロックである。
燃料指令値算出部120は、燃料指令値演算部122を備えている。燃料指令値演算部122には、目標機関トルクTetが入力される。燃料指令値演算部122は、例えば時刻t-1の時点で目標機関トルクTetを受けると、その時点で、機関トルクTeを目標機関トルクTetに一致させるための燃料指令値Ft(t-1)を算出する機能を有している。尚、その算出の手法については、後に詳細に説明する。
燃料指令値演算部122により算出された燃料指令値Ft(t-1)は、内燃機関10に供給されると共に、燃料指令値算出部120の内部で入出力履歴記憶部124にも供給される。入出力履歴記憶部124には、また、内燃機関10において実測された機関トルクTeの値も供給されている。つまり、入出力履歴記憶部124には、例えば時刻t-1の時点では、その時点で内燃機関10に供給される燃料指令値Ft(t-1)と、その時点で内燃機関10から出力される機関トルクTe(t-1)とが供給される。
燃料指令値演算部122は、所定の処理周期間隔で燃料指令値Ftを出力する。これに対応して、入出力履歴記憶部124には、その処理周期間隔毎に燃料指令値Ftと機関トルクTeとが供給される。入出力履歴記憶部124は、このようにして供給される燃料指令値Ftおよび機関トルクTeを、時系列で、データ数が予め設定されている数を超えない範囲で、順次記憶する。その結果、時刻t-1の時点で、入出力履歴記憶部124には、最新の燃料指令値Ft(t-1)を含む複数の入力履歴Ft(t-1),Ft(t-2),・・、並びに最新の機関トルクTe(t-1)を含む複数の出力履歴Te(t-1),Te(t-2),・・が、入出力履歴として記憶されることになる。
燃料指令値算出部120は、係数演算部126を備えている。係数演算部126は、内燃機関10の入力(燃料指令値Ft)と出力(機関トルクTe)との間に成立する線形モデルの係数を、その入力と出力の履歴に基づいて算出するためのブロックである。
すなわち、内燃機関10の入力である燃料指令値Ftと、その出力である機関トルクTeとの間には、以下に示すような線形モデルによる近似が成立する。
Te(t+de)=fe0・Te(t)+ fe1・Te(t-1)+ fe2・Te(t-2)+・・・
+ge0・Ft(t)+ ge1・Ft(t-1)+ ge2・Ft(t-2)+・・・ (式3)
但し、上記(式3)中、tは任意のサンプリング時刻であり、(t-n)は時刻tよりn回前のサンプリング時刻である。また、deは内燃機関10への入力がその出力に反映されるまでの遅れである。従って、(t+de)とは、時刻tにおける内燃機関10の状態が、機関トルクTeに反映される時刻である。更に、feiおよびgei(i=0,1,2・・)は(式3)の特性を決定する係数である。
上記(式3)により表される線形モデルは、係数feiおよびgeiが適切な値に設定されることにより、精度良く内燃機関10の特性に合致したものとなる。換言すると、それらの係数feiおよびgeiは、内燃機関10の入出力履歴(Ft(t),Ft(t-1),Ft(t-2),・・およびTe(t),Te(t-1),Te(t-2),・・)を(式3)に代入することで得られる算出値Te(t+de)が、時刻t+deにおける機関トルクTeの実測値と精度良く一致するように設定されれば良いことになる。
係数演算部126では、上述した原理に従って、新たな出力Te(t+de)が実測される毎に、入出力履歴に基づいて算出されるモデル算出値Te(t+de)が、その実測値Te(t+de)と精度良く合致するように、公知の最小二乗法によって(式3)の係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)を演算する。このため、係数演算部126によれば、内燃機関10の特性を精度良く表す線形モデル(式3)を設定することができる。尚、最小二乗法により係数feiおよびgeiを算出する手法は公知の手法であり、具体的には、例えば特開2004−052633号公報に開示される手法と同じであるため、ここでは、これ以上の説明は省略する。
燃料指令値算出部120は、機関トルク予測部128を備えている。機関トルク予測部128は、サンプリング周期毎に、次のサンプリング時における機関トルクTeを予測するためのブロックである。機関トルク予測部128によれば、具体的には、時刻t-1の時点で、時刻tの時点において生ずると予想される機関トルクTe(t)を予測することができる。
機関トルク予測部128には、係数演算部126において算出された線形モデルの係数係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)が供給されている。このため、機関トルク予測部128においては、入出力の関係を精度良く表す線形モデル(式3)を用いたモデル演算を行うことができる。より具体的には、機関トルク予測部128は、時刻t-de以前の入出力履歴(Ft(t-de),Ft(t-de-1),Ft(t-de-2),・・およびTe(t-de),Te(t-de-1),Te(t-de-2),・・)が得られれば、それらのデータを(式3)に代入することにより、時刻tにおける機関トルクTe(t)を予測することができる。
図9に示すように、機関トルク予測部128には、入出力履歴記憶部124から、所望の時刻tにおける機関トルクTeを推定するために必要な一連の入出力履歴が供給されている。つまり、時刻tにおける機関トルクTe(t)の推定が要求される場合には、時刻t-de以前の一連の入出力履歴が供給される。このため、機関トルク予測部128は、時刻t-deの後であれば、時刻tの到来に先だって、その時刻tに生ずると予想される機関トルクTe(t)を計算により予測することができる。
入出力履歴記憶部124に記憶されている入出力履歴は、上述した燃料指令値演算部122にも供給されている。また、燃料指令値演算部122には、係数演算部126において算出された線形モデルの係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)、および機関トルク予測部128において算出された機関トルクTeの予測値も供給されている。
より具体的には、燃料指令値演算部122には、例えば時刻t-1の時点においては、その時刻以前の入出力履歴(Ft(t-1),Ft(t-2),・・およびTe(t-1),Te(t-2),・・)が入出力履歴記憶部124から供給されており、更に、その次のサンプリング時刻tにおける機関トルクTe(t)の予測値が機関トルク予測部28から供給されている。そして、その時点において、入出力の関係を精度良く表すものとして算出されている係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)が、係数演算部126から供給されている。
[燃料指令値Ftの算出手法]
燃料指令値演算部122は、上記の如く供給される各種のデータに基づいて、機関トルクTeを目標機関トルクTetに一致させるための燃料指令値Ftを算出する。より詳細には、燃料指令値演算部122は、以下に示す評価関数の値Eeが所定の判定値を下回るように、具体的には、その値Eeがゼロとなるように燃料指令値Ftを算出する。
Ee=[{Tet-Te(t+de)}+γe1{Te(t)-Te(t-1)}+γe2{Ft(t)-Ft(t-2)}]2
・・・(式4)
但し、上記の評価関数(式4)は、時刻tにおける燃料指令値Ft(t)を算出する際に用いられる関数である。また、(式4)に含まれるγe1およびγe2は、それぞれ、出力変化反映ゲイン、および入力変化反映ゲインとして、予め設定された固定値である。
評価関数値Eeがゼロであるとすると、(式3)および(式4)を整理することにより、より具体的には、(式3)で表されるTe(t+1)を(式4)に代入し、更に、その代入後の式をFt(t)について整理することにより、時刻tにおける燃料指令値Ft(t)は、以下のような関係式として表すことができる。
Ft(t)={1/(ge0+γe2)}
*[Tet-(fe0+γe1)・Te(t)-(fe1+γe1)・Te(t-1)-fe2・Te(t-2)-・・
-(ge1-γe2)・Ft(t-1)−ge2・Ft(t-2)−・・]
・・・(式5)
但し、(式5)中、fe2・Te(t-2)に続く「・・」の部分には、必要に応じてfek・Te(t-k)が、また、ge2・Ft(t-2)に続く「・・」の部分には、必要に応じてgek・Ft(t-k)が(k=3,4,・・)それぞれ入るものとする。
上記の評価関数(式4)は、目標機関トルクTetと時刻t+deにおける機関トルクの予測値Te(t+de)との差ΔTeを一要素とする二乗値である。このため、評価関数値E=0を拘束条件とする上記の関係式(式5)によれば、上記の差ΔTeが小さくなるように、つまり、Te(t+de)がTetに近づくように燃料指令値Ft(t)を決めることができる。
また、上記の評価関数(式4)は、時刻t-1から時刻tにかけての機関トルクTeの変化量、つまり、機関トルクTeの変化速度をも一要素としている。そして、この要素には、出力変化反映ゲインγe1が掛け合わされている。評価関数にこのような要素が含まれていると、燃料指令値Ft(t)は、機関トルクTeの変化速度が適当な値となるように決定される。更に、その変化速度に関する特性は、出力変化反映ゲインγe1の値を変えることにより所望の特性とすることができる。つまり、出力変化反映ゲインγe1を大きな値とすれば、評価関数は、機関トルクTeに大きな変化を生じさせないことを重視したもの(滑らかな運転を重視したもの)となり、燃料指令値Ft(t)は、Teに変化を生じさせ難い値に決定される。他方、出力変化反映ゲインγe1を小さな値とすれば、評価関数は、機関トルクTeの変化を軽視したもの(加速性能確保を重視したもの)となり、燃料指令値Ft(t)は、Teに大きな変化を発生させ得る値に決定される。従って、上記の関係式(式5)によれば、機関トルクTeの変化速度を適当に制御しつつ、機関トルクTe(t+de)を目標機関トルクTetに近づけようとする燃料指令値Ft(t)を算出することができる。
評価関数(式4)は、また、時刻t-1から時刻tにかけての燃料指令値Ftの変化量、つまり、内燃機関10に対する入力の変化速度をも一要素としている。そして、この要素には、入力変化反映ゲインγe2が掛け合わされている。評価関数にこのような要素が含まれていると、燃料指令値Ft(t)は、燃料指令値Ftの変化速度が適当な値となるように決定される。そして、その変化速度に関する特性は、入力変化反映ゲインγe2の値を変えることにより所望の特性とすることができる。つまり入力変化反映ゲインγe2を大きな値とすれば、評価関数は、燃料指令値Ftに大きな変化を生じさせないことを重視したもの(滑らかな運転を重視したもの)となり、他方、入力変化反映ゲインγe2を小さな値とすれば、評価関数は、燃料指令値Ftの変化を軽視したもの(加速性能確保を重視したもの)となる。従って、上記の関係式(式5)によれば、燃料指令値Ftの変化速度をも適当に制御しつつ、その値Ft(t)を適正に算出することができる。
以上説明した通り、図9に示す燃料指令値算出部120は、時刻tの時点で目標機関トルクTetの入力を受けると、機関トルクTeをその目標機関トルクTetに一致させるための燃料指令値Ft(t)を算出し、その結果を内燃機関10に向けて出力することができる。このように、燃料指令値算出部120によれば、内燃機関10の目標出力(目標機関トルクTet)が定まった時点で、内燃機関10に対する入力(燃料指令値Ft)を算出する機構、つまり、実施の形態1における内燃機関逆モデル34と同様の機能を実現することができる。
ところで、実施の形態1において用いられる内燃機関逆モデル34は、予め設定してECU20に記憶させるべきものである。このため、内燃機関逆モデル34が前提とする入出力の関係と、内燃機関10における現実の入出力関係との間には、ある程度の誤差が発生し得る。実施の形態1においては、この誤差を排除する目的で、第1修正ブロック42による修正を燃料指令値Ftに施すこととしている。
これに対して、本実施形態において用いられる手法、つまり、適応制御を用いた手法によれば、内燃機関10を模擬する線形モデルの係数が、内燃機関10における現実の入出力を受けて時々刻々更新される。この場合、燃料指令値Ftを算出する際の前提である入出力の関係が、極めて精度良く現実の入出力関係に追従することとなる。このため、本実施形態における手法によれば、第1修正ブロック42による修正、つまり、フィードバックによる修正を行うまでもなく、目標機関トルクTetに対応する燃料指令値Ftを極めて正確に算出することが可能である。
以上の理由により、本実施形態においては、燃料指令値算出部120に、第1修正ブロック42に相当する部分、つまり、フィードバックにより燃料指令値を修正するための部分を含めないこととしている。そして、このような修正が不要であることから、本実施形態のシステムによれば、機関トルクTeを目標機関トルクTetに一致させる際の迅速性を、実施の形態1の場合に比して更に改善することが可能である。
[電動機逆モデルの機能を実現するための構成]
図10は、電動機逆モデルとしての機能を実現するために、つまり、目標電動機トルクTmtに対応する電力指令値Ptを算出するためにECU20の内部に形成される構成を説明するためのブロック図である。図10には、内燃機関10と電力指令値算出部130とが示されている。電力指令値算出部130は、実施の形態1における電動機逆モデル36と同様の機能を実現するべくECU20の内部に形成されるブロックである。
電力指令値算出部130は、電力指令値演算部132を備えている。電力指令値演算部132には、目標電動機トルクTmtが入力される。電力指令値演算部132は、例えば時刻t-1の時点で目標電動機トルクTmtを受けると、その時点で、電動機トルクTmを目標電動機トルクTmtに一致させるための電力指令値Pt(t-1)を算出する機能を有している。尚、その算出の手法については、後に詳細に説明する。
電力指令値演算部132により算出された電力指令値Pt(t-1)は、電動機12に供給されると共に、電力指令値算出部130の内部で入出力履歴記憶部134にも供給される。入出力履歴記憶部134には、また、電動機12において実測された電動機トルクTmの値も供給されている。つまり、入出力履歴記憶部134には、例えば時刻t-1の時点では、その時点で電動機12に供給される電力指令値Pt(t-1)と、その時点で電動機12から出力される電動機トルクTm(t-1)とが供給される。
電力指令値演算部132は、所定の処理周期間隔で電力指令値Ptを出力する。これに対応して、入出力履歴記憶部134には、その処理周期間隔毎に電力指令値Ptと電動機トルクTmとが供給される。入出力履歴記憶部134は、このようにして供給される電力指令値Ptおよび電動機トルクTmを、時系列で、データ数が予め設定されている数を超えない範囲で、順次記憶する。その結果、時刻t-1の時点で、入出力履歴記憶部134には、最新の電力指令値Pt(t-1)を含む複数の入力履歴Pt(t-1),Ft(t-2),・・、並びに最新の電動機トルクTm(t-1)を含む複数の出力履歴Tm(t-1),Tm(t-2),・・が、入出力履歴として記憶されることになる。
電力指令値算出部130は、係数演算部136を備えている。係数演算部136は、電動機12の入力(電力指令値Pt)と出力(電動機トルクTm)との間に成立する線形モデルの係数を、その入力と出力の履歴に基づいて算出するためのブロックである。
すなわち、電動機12の入力である電力指令値Ptと、その出力である電動機トルクTmとの間には、以下に示すような線形モデルによる近似が成立する。
Tm(t+dm)=fm0・Tm(t)+ fm1・Tm(t-1)+ fm2・Tm(t-2)+・・・
+gm0・Pt(t)+ gm1・Pt(t-1)+ gm2・Pt(t-2)+・・・ (式6)
但し、上記(式6)中、tは任意のサンプリング時刻であり、(t-n)は時刻tよりn回前のサンプリング時刻である。また、dmは電動機12への入力がその出力に反映されるまでの遅れである。従って、(t+dm)とは、時刻tにおける電動機12の状態が、電動機トルクTmに反映される時刻である。更に、fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)は(式6)の特性を決定する係数である。
これらの係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)は、上記(式3)の係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)と同様に、公知の最小二乗法により演算することができる。係数演算部136は、その最小二乗法により、新たな電動機トルクTm(t+de)が実測される毎に、電動機12の入出力履歴に基づいて、(式6)の係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)を更新する。
燃料指令値算出部130は、電動機トルク予測部138を備えている。電動機トルク予測部138は、上述した機関トルク予測部128と同様の手法により、サンプリング周期毎に、次のサンプリング時における電動機トルクTmを予測することができる。すなわち、電動機トルク予測部138は、係数演算部136によって算出された係数係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)と、入出力履歴記憶部134から読み出した一連の入出力履歴(Pt(t-dm),Pt(t-dm-1),Pt(t-dm-2),・・およびTm(t-dm),Tm(t-dm-1),Tm(t-dm-2),・・)とを(式6)に代入することにより、所望の時刻tにおける電動機トルクTm(t)を予測することができる。
[電力指令値Ptの算出手法]
上述した電力指令値演算部132には、入出力履歴記憶部134に記憶されている入出力履歴Pt(t-1),Pt(t-2),・・およびTm(t-1),Tm(t-2),・・、係数演算部136において算出された線形モデルの係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)、並びに電動機トルク予測部138において算出された電動機トルクの予測値Tm(t)が供給されている。電力指令値演算部132は、これらのデータに基づいて、電動機トルクTmを目標電動機トルクTmtに一致させるための電力指令値Ptを算出する。
より詳細には、電力指令値演算部132は、以下に示す評価関数の値Emが所定の判定値を下回るように、具体的には、その値Emがゼロとなるように電力指令値Ptを算出する。
Em=[{Tmt-Tm(t+dm)}+γm1{Tm(t)-Tm(t-1)}+γm2{Pt(t)-Pt(t-2)}]2
・・・(式7)
但し、上記の評価関数(式7)は、時刻tにおける電力指令値Pt(t)を算出する際に用いられる関数である。また、(式7)に含まれるγm1およびγm2は、それぞれ、出力変化反映ゲイン、および入力変化反映ゲインとして、予め設定された固定値である。
評価関数値Emがゼロであるとすると、(式6)および(式7)を整理することにより、より具体的には、(式6)で表されるTm(t+1)を(式7)に代入し、更に、その代入後の式をPt(t)について整理することにより、時刻tにおける電力指令値Pt(t)は、以下のような関係式として表すことができる。
Pt(t)={1/(gm0+γm2)}
*[Tmt-(fm0+γm1)・Tm(t)-(fm1+γm1)・Tm(t-1)-fm2・Tm(t-2)-・・
-(gm1-γm2)・Pt(t-1)−gm2・Pt(t-2)−・・]
・・・(式8)
但し、(式8)中、fm2・Tm(t-2)に続く「・・」の部分には、必要に応じてfmk・Tm(t-k)が、また、gm2・Pt(t-2)に続く「・・」の部分には、必要に応じてgmk・Pt(t-k)が(k=3,4,・・)それぞれ入るものとする。
上記の評価関数(式7)は、目標電動機トルクTmtと時刻t+dmにおける電動機トルクの予測値Tm(t+dm)との差ΔTmを一要素とする二乗値である。このため、評価関数値E=0を拘束条件とする上記の関係式(式8)によれば、上記の差ΔTmが小さくなるように、つまり、Tm(t+dm)がTmtに近づくように燃料指令値Ft(t)を決めることができる。
また、上記の評価関数(式7)は、時刻t-1から時刻tにかけての電動機トルクTmの変化量、つまり、電動機トルクTmの変化速度をも一要素としている。そして、この要素には、出力変化反映ゲインγm1が掛け合わされている。評価関数にこのような要素が含まれていると、電力指令値Pt(t)は、電動機トルクTmの変化速度が適当な値となるように決定される。更に、その変化速度に関する特性は、出力変化反映ゲインγm1の値を変えることにより所望の特性とすることができる。従って、上記の関係式(式8)によれば、電動機トルクTmの変化速度を適当に制御しつつ、電動機トルクTm(t+dm)を目標電動機トルクTmtに近づけようとする電力指令値Ft(t)を算出することができる。
評価関数(式7)は、また、時刻t-1から時刻tにかけての電力指令値Ptの変化量、つまり、電動機12に対する入力の変化速度をも一要素としている。そして、この要素には、入力変化反映ゲインγm2が掛け合わされている。評価関数にこのような要素が含まれていると、電力指令値Pt(t)は、電力指令値Ptの変化速度が適当な値となるように決定される。そして、その変化速度に関する特性は、入力変化反映ゲインγm2の値を変えることにより所望の特性とすることができる。従って、上記の関係式(式8)によれば、電力指令値Ptの変化速度をも適当に制御しつつ、その値Pt(t)を適正に算出することができる。
以上説明した通り、図10に示す電力指令値算出部130は、時刻tの時点で目標電動機トルクTmtの入力を受けると、電動機トルクTmをその目標電動機トルクTmtに一致させるための電力指令値Pt(t)を算出し、その結果を電動機12に向けて出力することができる。このように、電力指令値算出部130によれば、電動機12の目標出力(目標電動機トルクTmt)が定まった時点で、電動機12に対する入力(電力指令値Pt)を算出する機構、つまり、実施の形態1における電動機逆モデル36と同様の機能を実現することができる。
ところで、本実施形態においては、燃料指令値算出部120に第1修正ブロック42に相当する部分を含めていないのと同じ理由により、電力指令値算出部130に、第2修正ブロック42に相当する部分、つまり、フィードバックにより電力指令値を修正するための部分を含めないこととしている。このため、本実施形態のシステムによれば、電動機トルクTmを目標電動機トルクTmtに一致させる際の迅速性を、実施の形態1の場合に比して更に改善することが可能である。
[実施の形態2における具体的処理]
図11は、本実施形態においてECU20が実行するメインルーチンのフローチャートである。図11に示すルーチンは、所定のサンプリング周期毎に起動されるものとする。また、ここでは、説明の便宜上、図11に示すルーチンが時刻tのサンプリングタイミングに対応して起動された場合の動作を説明する。尚、図11において、図8に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図11に示すルーチンによれば、バッテリの供給電圧Pbがゼロであると判別されると(ステップ76参照)、電力指令値Ptがゼロ(ステップ78参照)とされた後、ステップ140において、目標総トルクTQtに対応する燃料指令値Ftが算出される。ステップ140の処理は、図12に示す手順により進められる。
(目標機関トルクTet(t)の算出)
図12は、目標機関トルクTetに対応する燃料指令値Ftを算出するためにECU20が実行する一連の処理のフローチャートである。ステップ140の実行が要求されると、ECU20は、目標総トルクTQtが目標機関トルクTetであるものとして図12に示す処理を開始する。
図12に示す一連の処理によれば、先ず、内燃機関10の入出力履歴が必要数だけ読み出される(ステップ142)。後述の如く、ECU20は、サンプリング時刻毎に内燃機関10の入出力履歴を記憶している。時刻tにおける燃料指令値Ft(t)を求める際には、本ステップ142において、それらの履歴の中から、内燃機関10を模擬する線形モデルの係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)を算出するのに必要な数だけ、時刻t-1以前の入出力履歴(Ft(t-1),Ft(t-2),・・およびTe(t-1),Te(t-2),・・)が読み出される。具体的には、線形モデルが、6つの係数(fe0,fe1,fe2,ge0,ge1、ge2;上記式3参照)で定義されている場合は、時刻t-1,t-2およびt-3における合計6つの入出力履歴が読み出される。
次いで、それらの入出力履歴(Ft(t-1),Ft(t-2),・・およびTe(t-1),Te(t-2),・・)が最小二乗法による演算規則に当てはめられ、その結果、内燃機関10を模擬する線形モデルの係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)が算出される(ステップ144)。
次に、時刻tにおける機関トルクTeの予測値Te(t)を算出するのに必要な数だけ、時刻t-de以前の入出力履歴(Ft(t-de),Ft(t-de-1),・・およびTe(t-de),Te(t-de-1),・・)が読み出される(ステップ146)。例えば、線形モデルが、6つの係数(fe0,fe1,fe2,ge0,ge1、ge2)で定義されている場合は、時刻t-de,t-de-1およびt-de-2における合計6つの入出力履歴が読み出される。
それらの入出力履歴が、上記ステップ144において算出された係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)と共に上記(式3)に代入されることにより、時刻tにおける機関トルクTeの予測値Te(t)が推定される(ステップ148)。
次に、時刻tにおける目標機関トルクTetが検出される(ステップ150)。そして、その目標機関トルクTetと、上記ステップ142において読み出された時刻t-1以前の入出力履歴と、上記ステップ148において推定された時刻tにおける機関トルクTeの予測値Te(t)とが、上記(式5)に代入されることにより、時刻tにおける燃料指令値Ft(t)が算出される(ステップ152)。
図11に示すメインルーチン中、ステップ84では、上記の処理により算出された燃料指令値Ft (t)により、内燃機関10が制御される。その結果、内燃機関10によって、目標総トルクTQtと精度良く一致する機関トルクTeが生成される。ここでは、電動機12がトルクを発生しないため、ハイブリッド車両上では、目標総トルクTQtと精度良く一致する駆動トルクが生成されることになる。
図11に示すルーチンでは、次に、時刻tにおける機関トルクTe(t)、および時刻tにおける電動機トルクTm(t)が実測される(ステップ154)。次いで、時刻tにおける内燃機関10の入出力履歴Ft(t),Te(t)、並びに時刻tにおける電動機12の入出力履歴Pt(t),Tm(t)が記憶される(ステップ156)。そして、不要となったデータの消去など、履歴データの整理が行われた後(ステップ158)、今回のルーチンが終了される。
図11に示すルーチン中、ステップ76において、バッテリの供給電圧Pbがゼロでないと判別された場合は、ステップ160の処理により目標総トルクTQtに対応する電力指令値Ptが算出される。ステップ160の処理は、図13に示す手順により進められる。
(目標電動機トルクTmt(t)の算出)
図13は、目標電動機トルクTmtに対応する電力指令値Ptを算出するためにECU20が実行する一連の処理のフローチャートである。ステップ160の実行が要求されると、ECU20は、目標電動機トルクTmtが目標総トルクTQtであるものとして図13に示す処理を開始する。
図13に示す一連の処理によれば、先ず、電動機12の入出力履歴が必要数だけ読み出される(ステップ162)。ECU20は、上記ステップ156の処理により、サンプリング時刻毎に電動機12の入出力履歴を記憶する。時刻tにおける電力指令値Pt(t)を求める際には、本ステップ162において、それらの履歴の中から、電動機12を模擬する線形モデルの係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)を算出するのに必要な数だけ、時刻t-1以前の入出力履歴(Pt(t-1),Pt(t-2),・・およびTm(t-1),Tm(t-2),・・)が読み出される。具体的には、線形モデルが、6つの係数(fm0,fm1,fm2,gm0,gm1、gm2;上記式6参照)で定義されている場合は、時刻t-1,t-2およびt-3における合計6つの入出力履歴が読み出される。
次いで、それらの入出力履歴(Pt(t-1),Ft(t-2),・・およびTm(t-1),Te(t-2),・・)が最小二乗法による演算規則に当てはめられ、その結果、電動機12を模擬する線形モデルの係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)が算出される(ステップ164)。
次に、時刻tにおける電動機トルクTmの予測値Tm(t)を算出するのに必要な数だけ、時刻t-dm以前の入出力履歴(Pt(t-dm),Pt(t-dm-1),・・およびTm(t-dm),Tm(t-dm-1),・・)が読み出される(ステップ166)。例えば、線形モデルが、6つの係数(fm0,fm1,fm2,gm0,gm1、gm2)で定義されている場合は、時刻t-dm,t-dm-1およびt-dm-2における合計6つの入出力履歴が読み出される。
それらの入出力履歴が、上記ステップ164において算出された係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)と共に上記(式6)に代入されることにより、時刻tにおける電動機トルクTmの予測値Tm(t)が推定される(ステップ168)。
次に、時刻tにおける目標電動機トルクTmtが検出される(ステップ170)。そして、その目標電動機トルクTmtと、上記ステップ162において読み出された時刻t-1以前の入出力履歴と、上記ステップ168において推定された時刻tにおける電動機トルクTmの予測値Tm(t)とが、上記(式8)に代入されることにより、時刻tにおける電力指令値Pt(t)が算出される(ステップ172)。
図11に示すメインルーチン中、ステップ90では、上記の処理により算出された電力指令値Pt (t)が、バッテリ供給電力Pbと比較される。その結果、Pt(t)≦Pbの成立が認められた場合は、ステップ96において、その電力指令値Pt(t)により電動機12が制御される。
一方、ステップ90においてPt≦Pbの成立が認められなかった場合は、ステップ100の処理により電力指令値Ptがバッテリ供給可能電力Pbとされた後、ステップ180の処理により、燃料指令値Tet(t)が算出される。ステップ180の処理は、上述したステップ160の処理と同様に、図12に示す手順で進められる。但し、ここでは、目標総トルクTetから電動機発生トルクTmbを減じた値(Tet-Tmb)が目標機関トルクTeであるものとして、図12に示す処理が実行される。
ステップ180の処理によれば、目標機関トルクTe= Tet-Tmbを実現するための燃料指令値Ft(t)を、適応制御の手法により正確に算出することができる。図11に示すルーチン中、ステップ110では、上記の如く算出された燃料指令値Ftにより内燃機関10が制御される。この場合、内燃機関10は、目標総トルクTQtより電動機発生トルクTmbだけ小さな機関トルクTe(t)を生成する。ここでは、電動機12がTmbで表される電動機トルクTmを発生しているため、ハイブリッド車両上では、目標総トルクTQtと精度良く一致する駆動トルクが生成されることになる。
以上説明した通り、図12に示す一連の処理によれば、最新の入出力履歴に基づいて、内燃機関10の入出力の関係を精度良く表す線形モデルの係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)を更新することができる。そして、目標機関トルクTetが決まった時点で、その線形モデルに基づいて、機関トルクTe(t+de)をその目標機関トルクTetに一致させるための燃料指令値Ft(t)を精度良く算出することができる。
同様に、図13に示す一連の処理によれば、最新の入出力履歴に基づいて、電動機12の入出力関係を精度良く表す線形モデルの係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)を更新することができる。そして、目標電動機トルクTmtが決まった時点で、その線形モデルに基づいて、電動機トルクTm(t+dm)をその目標電動機トルクTmtに一致させるための電力指令値Pt(t)を精度良く算出することができる。
更に、上述した処理によれば、燃料指令値Ft(t)を上記(式5)に従って算出し、また、電力指令値Pt(t)を上記(式8)に従って算出することができる。そして、式5や式8によれば、出力変化反映ゲインγe1,γm1や入力変化反映ゲインγe2,γm2を適当に設定することにより、内燃機関10や電動機12の運転特性を制御することができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ハイブリッド車両の駆動トルクを所望の特性で変化させつつ、その駆動トルクを正確に目標総トルクに一致させるためのフィードフォワード制御を実現することができる。
[実施の形態2の変形例等]
ところで、上述した実施の形態2においては、時刻tにおける燃料指令値Ft(t+1)および電力指令値Pt(t+1)を算出するにあたって、時刻tにおける機関トルクTeや電動機トルクTmの予測値Te(t),Tm(t)を線形モデルを用いて推定することとしているが、その算出の手法これに限定されるものではない。すなわち、本実施形態では、サンプリング間隔が十分に短時間であることを前提としているため、その間に生ずる機関トルクTeや電動機トルクTmの変化量は十分に小さいと考えることができる。このため、時刻tにおける機関トルクTeや電動機トルクTmの予測値Te(t),Tm(t)は、時刻t-1におけるそれらの実測値Te(t-1),Tm(t-1)で近似することとしてもよい。
また、上述した実施の形態2においては、上記(式5)や(式8)に従って算出される燃料指令値Ft(t)や電力指令値Pt(t)を、時刻tにおける入力指令値として用いることとしているが、それらの指令値Ft(t),Pt(t)は、時刻t+1の入力指令値として用いることとしてもよい。時刻tにおける燃料指令値Ft(t)を算出するために上記(式5)を用いるにあたっては、時刻tにおける機関トルクTe(t)が未知である。同様に、時刻tにおける電力指令値Pt(t)を算出するために上記(式8)を用いるにあたっては、時刻tにおける電動機トルクTm(t)が未知である。このため、これらの場合には、上述したようにTe(t)およびTm(t)を推定することが必要である。これに対して、(式5)により算出される燃料指令値Ft(t)、および(式8)により算出される電力指令値Pt(t)を時刻t+1における入力指令値とするのであれば、そこで用いられるTe(t),Tm(t)には実測値を代入することができる。このため、ここで説明した変形例による場合は、機関トルクTe(t)および電動機トルクTm(t)の推定処理を省略すること、つまり、図12におけるステップ146,148の処理、並びに図13におけるステップ166,168の処理を省略することができる。
また、上述した実施の形態2においては、出力変化反映ゲインγe1,γm1および入力変化反映ゲインγe2,γm2が固定値とされているが、本発明はこれに限定されるものではない。これらのゲインγe1,γm1およびγe2,γm2は、内燃機関10および電動機12の運転特性に影響を与える値である。従って、それらを変化させれば、ハイブリッド車両の出力特性を変化させることが可能である。このため、例えば、滑らかな運転が要求される場合にはそれらのゲインを大きな値とし、また、急加速が要求されるような場合にはそれらを小さな値とするなど、ハイブリッド車両に求められる特性に応じて、出力変化反映ゲインγe1,γm1および入力変化反映ゲインγe2,γm2の値を適宜変更することとしてもよい。
尚、上述した実施の形態2においては、入出力履歴記憶部124が前記第2の発明における「入出力履歴記憶手段」に、係数演算部136が前記第6の発明における「線形モデル係数算出手段」に、上記(式8)が前記第6の発明における「関係式」に、電力指令値演算部132が前記第6の発明における「関係式設定手段」および「電力指令値(t)演算手段」に、それぞれ相当している。
実施の形態3.
[実施の形態3の特徴]
次に、図14乃至図17を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。本実施形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU20に、後述する図16および図17に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
図14(A)は、燃料指令値Ftの立ち上がりに対する機関トルクTeの遅れdeを説明するためのタイミングチャートである。また、図14(B)は、電力指令値Ptの立ち上がりに対する電動機トルクTmtの遅れdmを説明するためのタイミングチャートである。
図14(A)に示すように、機関トルクTeは、燃料指令値Ftが立ち上がった後、所定の遅れ時間deの後に変化に追従し始める。一方、電動機トルクTmは、電力指令値Ptの立ち上がり後、遅れ時間dmの後にその変化に追従し始める。そして、電動機12の遅れ時間dmは、内燃機関10の遅れ時間deに比して十分に短時間である。このため、目標総トルクの変化に駆動トルクを迅速に追従させるうえでは、電動機12を優先的に駆動源とすることが望ましい。
しかしながら、電動機12は、バッテリの供給可能電力Pbの範囲内でしか作動することができない。これに対して、内燃機関10に関しては、十分量の燃料貯留が一般に容易であることから、供給可能なエネルギ量により実用上の作動制限が生ずることはない。このため、ハイブリッド車両上で長期間に渡って駆動トルクを安定的に出力させるうえでは、内燃機関10を優先的に駆動源とすることが望ましい。
そこで、本実施形態のシステムでは、目標総トルクTQtの増加が要求された場合に、先ず電動機トルクTmを上昇させ、その後、内燃機関10のトルクが立ち上がり始めたら、目標総トルクTQtが維持されるように、電動機トルクTmを徐々に減少させることとした。以下、上記の動作を、図15を参照してより詳細に説明する。
[実施の形態3における制御の概要]
図15は、目標総トルクTQtの増加が要求された場合に、本実施形態において実現される動作を説明するためのタイミングチャートである。より具体的には、図15(A)および図15(B)は、それぞれ燃料指令値Ftおよび電力指令値Ptの変化を示している。また、図15(C)は、電動機トルクTmの変化と機関トルクTeの変化とを示している。
図15(A)および図15(B)に示すように、本実施形態のシステムでは、目標総トルクTQtの増加が要求されると(時刻t0)、その時点で燃料指令値Ftと電力指令値Ptが共に立ち上げられる。電力指令値Ptが時刻t0において立ち上げられると、図15(C)に示すように、遅れ時間dmの後に電動機トルクTmが上昇し始め、やがてその値Tmが目標総トルクTQtに達する(時刻t0+dm+dm1)。その後、時刻t0からの経過時間が内燃機関10の遅れ時間deに達すると、機関トルクTeが上昇し始める。機関トルクTeは、所定の立ち上がり時間de1の後に、目標総トルクTQtに達する(時刻t0+de+de1)。
以上の動作によれば、機関トルクTeが立ち上がり始める時刻(t0+de)以降は、機関トルクTeと電動機トルクTmが重畳して生成される。このため、時刻t0+de以降の電動機トルクTm(t0+de+α)は(αは任意の時間)、目標総トルクTQtから、その時刻における機関トルクTe(t0+de+α)を減じた値「TQt-Te(t0+de+α)」に制御することが必要である。
時刻t0+de+αにおける電動機トルクTm(t0+de+α)は、その時刻から電動機12の遅れ時間dmだけ遡った時刻t0+de+α-deにおける電力指令値Ptの影響を受けて決定される。このため、時刻t0+de+αにおける電動機トルクTm(t0+de+α)を「TQt-Te(t0+de+α)」とするためには、時刻t0+de+α-dmの時点で、「TQt-Te(t0+de+α)」を目標電動機トルクTmtとして電力指令値Pt(t0+de+α-dm)を算出しなければならない。
時刻t0+de+αにおける機関トルクTe(t0+de+α)は、上記(式3)の線形モデルによれば、その時刻より内燃機関10の遅れ時間deだけ遡った時点、つまり、時刻t0+αの時点で算出することができる。内燃機関10の遅れ時間deは電動機12の遅れ時間dmより大きいため、時刻t0+de+α-dmは、常に時刻t0+αより後の時刻となる。このため、時刻t0+de+α-dmの時点では、上記(式3)を用いることにより、常に機関トルクTe(t0+de+α)を算出することができる。従って、時刻t0+de+α-dmの時点で設定するべき目標電動機トルクTmt=TQt-Te(t0+de+α)は、常にその時点において算出することが可能である。
時刻t0+de+α-dmにおける電力指令値Pt(t0+de+α-dm)は、その時点における目標電動機トルクTmtと、その時点以前の入出力履歴とを(式8)に代入することにより算出できる。このため、ECU20は、時刻t0+de+α-dm以降の任意の時点において、機関トルクTeの立ち上がりを想定した適切な電力指令値Ptを算出することができる。尚、図15(B)において、時刻t0+de-dm以降電力指令値Ptが徐々に減少しているのは、その時刻以降、電力指令値Ptが上記の手順で演算された結果である。
以上説明した処理によれば、目標総トルクTQtが立ち上がった後、機関トルクTeが立ち上がるまでの機関は、電動機12をハイブリッド車両の主たる駆動源とすることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ハイブリッド車両に対して、優れた応答性を与えることができる。
また、上述した処理によれば、機関トルクTeが立ち上がった後は、内燃機関10を主たる駆動源としてハイブリッド車両を走行させることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、エネルギ供給に関する制約を受けることなく、長期間に渡る安定的かつ実用的な駆動トルクの発生を可能とすることができる。
更に、上述した処理によれば、機関トルクTeと電動機トルクTmとが重畳して発生する機関において、電動機トルクTmを、目標総トルクTQtから機関トルクTeを減じた値に正確に制御することができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ハイブリッド車両の駆動トルクを精度良く目標総トルクTQtに一致させたまま、車両の搭乗者に違和感を与えることなく主たる駆動源を電動機12から内燃機関10に移行させることができる。
[実施の形態3における具体的処理]
上記の機能は、目標総トルクTQtを常にそのまま目標機関トルクTetとして内燃機関10を制御しつつ、機関トルクTeの遅れ分が電動機トルクTmで補われるように電力指令値Ptを適宜設定することにより実現することができる。図16は、上記の機能を実現するためにECU20が実行するメインルーチンのフローチャートである。図16に示すルーチンは、所定のサンプリング周期毎に起動されるものとする。また、ここでは、説明の便宜上、図16に示すルーチンが時刻tのサンプリングタイミングに対応して起動された場合の動作を説明する。尚、図16において、図11に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図16に示すルーチンによれば、ハイブリッド車両の状態に基づいて目標総トルクTQtが算出された後(ステップ70,72)、その目標総トルクTQtを目標機関トルクTetとして、燃料指令値Ftが算出される(ステップ140)。ここでは、上述した実施の形態2の場合と同様に、図12に示す手順で燃料指令値Ft(t)が算出される。
(電力指令値Pt(t)の算出手順)
次に、機関トルクTeの遅れによる不足分を補うための電力指令値Pt(t)が算出される(ステップ180)。図17は、本ステップ180において、ECU20が電力指令値Pt(t)を算出する際に実行する一連の処理のフローチャートである。尚、図17において、図13に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
図17に示す一連の処理によれば、先ず、ステップ162〜168の処理により、電動機12を模擬する線形モデルの係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)が算出され、また、時刻tにおける電動機トルクTmの予測値Tm(t)が推定される。尚、これらの処理は、図13に示す処理と同じである。
次に、車両の目標総トルクTQtが読み出される(ステップ182)。次いで、内燃機関10の入出力履歴が所定数だけ読み出される(ステップ184)。時刻tにおける電力指令値Pt(t)は、電動機12の遅れ時間dmの後に、つまり、時刻t+dmの時点で電動機トルクTmに反映される。このため、電力指令値Pt(t)は、目標総トルクTQtから、時刻t+dmにおける機関トルクTe(t+dm)を減じた値を目標電動機トルクTmtとして設定する必要がある。一方、上記(式3)によれば、時刻t+dmにおける機関トルクTe(t+dm)を推定するためには、その時刻t+dmから、内燃機関10の遅れ時間deだけ遡った時刻t+dm-de以前の入出力履歴が必要である。このため、本ステップ184においては、その時刻t+dm-de以前の所定数の入出力履歴(Ft(t+dm-de),Ft(t+dm-de-1),・・およびTe(t+dm-de),Te(t+dm-de-1),・・)が読み出される。
次に、内燃機関10を模擬する線形モデルの係数feiおよびgei(i=0,1,2・・)が読み出される(ステップ186)。ECU20は、それらの係数feiおよびgeiと上記の入出力履歴とを(式3)に代入して、時刻t+dmにおける機関トルクTe(t+dm)を推定する(ステップ188)。
次に、目標総トルクTQtから機関トルクTe(t+dm)を減ずることにより、目標電動機トルクTmt=TQt-Te(t+dm)が算出される(ステップ190)。その後、上記ステップ162において読み出した入出力履歴(Pt(t-1),Pt(t-2),・・およびTm(t-1),Tm(t-2),・・)、上記ステップ164において算出した係数fmiおよびgmi(i=0,1,2・・)、並びに上記ステップ190において算出した目標電動機トルクTetを、上記(式8)に代入することにより、時刻tにおける電力指令値Pt(t)が算出される(ステップ192)。
電力指令値Pt(t)が算出されると、次に、図16に示すフローチャートに従って、内燃機関10の制御と電動機12の制御とが実行される(ステップ110)。そして、次回の処理サイクルに備えて、内燃機関10および電動機12の入出力履歴が更新された後(ステップ154〜158)、今回の処理サイクルが終了される。
図17を参照して説明した上記の処理によれば、時刻tにおける電力指令値Pt(t)を、TQt-Te(t+dm)を目標電動機トルクTmtとして算出することができる。時刻tの時点でこのような電力指令値Pt(t)が用いられると、遅れ時間dmが経過した時点t+dmでは、そのPt(t)が反映されることにより、電動機トルクTmがTQt-Te(t+dm)となる。この時点で、内燃機関10はTe(t+dm)の機関トルクを発生しているはずであるから、ハイブリッド車両上の駆動トルクはTQtとなるはずである。
このように、上述した処理によれば、ハイブリッド車両上の駆動トルクが正確に目標総トルクTQtとなるように、電力指令値Pt(t)を算出することができる。つまり、上記の処理によれば、駆動トルクが立ち上がった後、機関トルクTeが立ち上がるまでは目標総トルクTQtの全てを電動機12に発生させることができる。そして、機関トルクTeが立ち上がった後は、機関トルクTeの不足分のみを電動機12に発生させることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、意図しない変動を駆動トルクに与えることなく、優れた応答性と、運転上の十分な持続性とを実現することができる。
尚、上述した実施の形態3においては、ECU20が、図16におけるステップ70の処理を実行することにより前記第10の発明における「目標総トルク設定手段」が、図16におけるステップ140の処理を実行することにより前記第10の発明における「燃料指令値算出手段」が、図16におけるステップ110の処理を実行することにより前記第10の発明における「燃料制御手段」および「電力制御手段」が、ステップ188の処理を実行することにより前記第10の発明における「機関トルク推定手段」が、ステップ190の処理を実行することにより前記第10の発明における「目標電動機トルク算出手段」が、ステップ192の処理を実行することにより前記第10の発明における「電力指令値算出手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態3においては、ECU20が、図16におけるステップ154〜158の処理を実行することにより前記第11の発明における「入出力履歴記憶手段」が、図12に示すステップ144の処理を実行することにより前記第11の発明における「線形モデル係数算出手段」が、図17に示すステップ188の処理を実行することにより前記第11の発明における「モデル演算手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態3においては、ECU20が、図16におけるステップ154〜158の処理を実行することにより前記第12の発明における「入出力履歴記憶手段」が、図17におけるステップ164の処理を実行することにより前記第12の発明における「線形モデル係数算出手段」が、図17におけるステップ192の処理を実行することにより前記第12の発明における「関係式設定手段」および「電力指令値(t)演算手段」が、それぞれ実現されている。
実施の形態4.
[実施の形態4の特徴]
次に、図18乃至図21を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。本実施形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成を用いて、ECU20に、上述した図16および図17に示すルーチンに加えて、後述する図20に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
図18は、上述した実施の形態3のシステムに対して、時刻t0において目標総トルクTQtの立ち上げが要求された場合に実現される動作の一例を説明するためのタイミングチャートである。より具体的には、図18(A)は機関トルクTeの波形を、図18(B)は燃料指令値Ftの波形を、それぞれ示している。また、図18(C)は電動機トルクtmの波形を、図18(D)は電力指令値Ptの波形をそれぞれ示している。
図18に示す例では、時刻t0において目標機関トルクTetが立ち上げられている。その結果、機関トルクTeは、時刻t0+deにおいて上昇し始めている(図18(A)参照)。燃料指令値Ftは、内燃機関10の立ち上がり所要時間de1の後に、つまり、時刻t0+de1において収束値に達するように徐々に増やされている(図18(B)参照)。その結果、機関トルクTeは、その後、遅れ時間deが経過した時点で(時刻t0+de+de1)、目標総トルクTQtに収束している(図18(A)参照)。
図18に示す例では、時刻t0において、目標電動機トルクTmtも立ち上げられている。その結果、電動機トルクTmは、時刻t0+dmにおいて上昇し始めている(図18(C)参照)。電力指令値Ptは、電動機12の立ち上がり所要時間dm1の後に、つまり、時刻t0+dm1において収束値に達するように徐々に増やされている(図18(D)参照)。その結果、電動機トルクTmは、その後、遅れ時間dmが経過した時点で(時刻t0+dm+dm1)、目標総トルクTQtに収束している(図18(C)参照)。
時刻t0+deの後は、機関トルクTeが立ち上がり始めるため、目標電動機トルクTmtが目標総トルクTQtから機関トルクTeを減じた値となる。このため、その時刻t0+deから遅れ時間dmだけ遡った時刻t0+de-dm以降は、電力指令値Ptが減少傾向を示す(図18(D)参照)。そして、時刻t0+de+de1の時点で、機関トルクTeが目標総トルクTQtに達し、その結果、目標電動機トルクTmtがゼロとなる(図18(C)参照)。このため、その時刻t0+de+de1から遅れ時間dmだけ遡った時刻t0+de+de1-dmにおいて、電力指令値Ptはゼロとされている。
図18(D)中に斜線を付して示す領域は、電動機12によって消費される電力の総量(以下、「総電力消費量Ptsum」と称す)に相当する。上述した実施の形態3においては、この総電力消費量Ptsumがどのような値になるかを考慮することなく、目標電動機トルクTmtを定めることとしている。
しかしながら、バッテリの充電状態によっては、総電力消費量Ptsumがバッテリの供給可能電力Pbを超える事態が生じ得る。このような状況下で図18(D)に示すような電力指令値Ptが出力されると、ハイブリッド車両上で、一旦立ち上がった駆動トルクが安定に維持できず、搭乗者に違和感を与えるような事態が生じ得る。
これに対して、目標総トルクTQtの立ち上げが要求される時刻t0の時点で、総電力消費量Ptsumと、バッテリの供給可能電力Pbとが判れば、両者を比較することにより、要求される通りの電動機トルクTmが発生させ得るか否かを事前に検知することができる。そして、総電力消費量Ptsumの供給が不可能である場合は、その供給が可能になるように、目標総トルクTQtの立ち上がり曲線を修正することが可能である。
本実施形態において、ECU20は、電力検出器28の出力に基づいてバッテリの供給可能電力Pbを検知することができる。また、ECU20は、以下に説明するように、時刻t0の時点で、総電力消費量Ptsumを算出することができる。このため、本実施形態のシステムでは、総電力消費量Ptsumが供給可能電力Pbを超えない範囲で電動機12を作動させることが可能である。
[時刻t0の時点で総電力消費量Ptsumを予測する手法]
(時刻t0の時点で機関トルクTeの曲線を推定する手法)・・・「手法1」
上記(式3)の線形モデルによれば、時刻t0の時点で、時刻t0+deにおける機関トルクTe(t0+de)までは算出することができる。以下に、時刻t0+deにおける機関トルクTe(to+de)の演算式(式3´)を例示する。
Te(t0+de)=fe0・Te(t0)+ fe1・Te(t0-1)+ fe2・Te(t0-2)+・・・
+ge0・Ft(t0)+ ge1・Ft(t0-1)+ ge2・Ft(t0-2)+・・・ (式3´)
上記(式3)を用いれば、ECU20は、時刻t0の時点で、当然に時刻t0+1における機関トルクTe(t0+1)を求めることができる。
機関トルクTe(t0+1)が判ると、その値Te(t0+1)と、時刻t0以前の機関トルク並びに燃料指令値(Te(t0),Te(t0-1)・・,Ft(t0),Ft(t0-1)・・)とを上記(式5)に代入することにより、時刻t0+1における電力指令値Ft(t0+1)を、以下に示すように算出することができる。
Ft(t0+1)={1/(ge0+γe2)}
*[Tet-(fe0+γe1)・Te(t0+1)-(fe1+γe1)・Te(t0)-fe2・Te(t0-1)-・・
-(ge1-γe2)・Ft(t0)−ge2・Ft(t-1)−・・]
・・・(式5´)
時刻t0+1における機関トルクTe(t0+1)と燃料指令値Ft(t0+1)とが判れば、それらを上記(式3)に当てはめることにより、時刻t0+de+1における機関トルクTe(t0+de+1)を算出することができる。以後、(式5)を用いた演算と、(式3)を用いた演算とを繰り返して順次行えば、時刻t0の時点で、時刻t0+de以降の任意の時刻t0+de+αにおける機関トルクTe(t0+de+α)を算出することが可能である。このため、ECU20は、時刻t0の時点で、機関トルクTeが、時刻t0+deから時刻t0+de+de1にかけて、どのような曲線に沿って目標総トルクTQtに収束するかを事前に推定することができる。
(時刻t0の時点で時刻t0+de+de1までの目標電動機トルクTmtを設定する手法)
時刻t0から時刻t0+deまでは、機関トルクTeが立ち上がらない。このため、この間は、ハイブリッド車両に要求される目標総トルクTQtを、そのまま目標電動機トルクTmtとして取り扱うことができる。
一方、時刻t0+de以後は、機関トルクTeが立ち上がるため、目標電動機トルクTmtを、目標総トルクTQtから機関トルクTeを減じた値にする必要がある。ECU20は、上述したように、時刻t0の時点で、時刻t0+deから時刻t0+de+de1にかけて機関トルクTeがどのような曲線に沿って変化するかを推定することができる。このため、時刻t0+de以後の目標総トルクTQtさえ定まれば、ECU20は、その目標総トルクTQtから機関トルクTeを減ずることにより、時刻t0の時点で、時刻t0+deから時刻t0+de+de1にかけての目標電動機トルクTmtを正確に設定することができる。
従って、ECU20は、時刻t0の時点で、時刻t0から時刻t0+de+de1までの全期間について、目標電動機トルクTmtを正確に設定することが可能である。
(時刻t0の時点で時刻t0+de+de1までの電動機トルクTmを設定する手法)・・「手法2」
上記(式6)の線形モデルによれば、時刻t0の時点で、時刻t0+dmにおける電動機トルクTe(t0+de)までは算出することができる。以下に、時刻t0+dmにおける電動機トルクTm(to+dm)の演算式(式6´)を例示する。
Tm(t0+dm)=fm0・Tm(t0)+ fm1・Tm(t0-1)+ fm2・Tm(t0-2)+・・・
+gm0・Pt(t0)+ gm1・Pt(t0-1)+ gm2・Pt(t0-2)+・・・ (式6´)
上記(式6)を用いれば、ECU20は、時刻t0の時点で、当然に時刻t0+1における電動機トルクTm(t0+1)を求めることができる。
電動機トルクTm(t0+1)が判ると、その値Tm(t0+1)と、時刻t0以前の電動機トルク並びに電力指令値(Tm(t0),Tm(t0-1)・・,Pt(t0),Pt(t0-1)・・)とを上記(式8)に代入することにより、時刻t0+1における電力指令値Pt(t0+1)は、以下のように表すことができる。
Pt(t0+1)={1/(gm0+γm2)}
*[Tmt-(fm0+γm1)・Tm(t0+1)-(fm1+γm1)・Tm(t0)-fm2・Tm(t0-1)-・・
-(gm1-γm2)・Pt(t0)−gm2・Pt(t0-1)−・・]
・・・(式8´)
上記(式8´)中には、目標電動機トルクTmtが含まれている。電力指令値Pt(t0+1)が電動機トルクTmに反映されるのは、遅れ時間dmの後であるから、上記(式8´)には、時刻t0+1+dmの時点で発生させるべき電動機トルクTmを目標電動機トルクTmtとして代入する必要がある。上述した通り、ECU20は、時刻t0の時点で、時刻t0+de+de1までの目標電動機トルクTmtを正確に演算することができる。このため、ECU20は、その演算の結果を用いることにより、上記(式8´)の演算を行うことができる。
時刻t0+1における電動機トルクTm(t0+1)と電力指令値Pt(t0+1)とが判れば、それらを上記(式6)に当てはめることにより、時刻t0+dm+1における電動機トルクTm(t0+de+1)を算出することができる。以後、(式8)を用いた演算と、(式6)を用いた演算とを繰り返して順次行えば、時刻t0の時点で、時刻t0+dm以降の任意の時刻t0+dm+αにおける電動機トルクTm(t0+dm+α)を算出することが可能である。従って、ECU20は、時刻t0の時点で、それ以降の任意の時刻における電動機トルクTmを正確に算出することができる。
(時刻t0の時点で時刻t0+de+de1-dmまでの電力指令値Ptを算出する手法)・・「手法3」
時刻t0以降の目標電動機トルクTmtが判り、かつ、時刻t0以降の電動機トルクTmが判れば、それらを入れ替えて上記(式8)の演算を繰り返して行うことにより、時刻t0以降の任意の時刻における電力指令値Ptを算出することができる。このため、ECU20は、時刻t0の時点で、電力指令値Ptがゼロとなる時刻t0+de+de1-dmまでの全期間に渡って、電力指令値Ptを正確に設定することが可能である。
(時刻t0の時点で総電力消費量Ptsumを算出する手法)・・・「手法4」
時刻t0の後、電力指令値Ptがどのような軌跡を辿るかが判れば、その電力指令値Ptを積分することにより、総電力消費量Ptsumを求めることができる。従って、ECU20は、目標総トルクTQtさえ定まれば、時刻t0の時点で総電力消費量Ptsumを算出することができる。そして、算出した総電力消費量Ptsumがバッテリの供給可能電力を上回っている場合には、目標総トルクTQtの見直しと総電力消費量Ptsumの再算出とを繰り返すことにより、総電力消費量Ptsumが供給可能電力Pbに収まるように、目標総トルクTQtを修正することができる。
[実施の形態4における制御の概要]
図19は、駆動トルクの立ち上がりに伴う本実施形態のシステムの動作をより詳しく説明するためのタイミングチャートである。具体的には、図19(A)は、駆動トルクの立ち上がりと同期して燃料指令値Ftが立ち上げられている様子を表すチャートである。図19(B)は、バッテリの供給可能電力Pbが比較的多量である環境下で設定される目標総トルクTQt、並びにその環境下で生成される電動機トルクTmおよび機関トルクTeの波形を示す。また、図19(C)は、供給可能電力Pbが比較的少量である環境下で設定される目標総トルクTQt、並びにその環境下で生成される電動機トルクTmおよび機関トルクTeの波形を示す。
図19は、時刻t0において、ハイブリッド車両に対して駆動トルクの立ち上げが要求された場合を例示している。燃料指令値Ftは、この場合、上述した実施の形態3の場合と同様に、時刻t0において即座に立ち上げられる(図19(A)参照)。その結果、機関トルクTeは、図19(B)および図19(C)中に破線で示すように、遅れ時間deの後に立ち上がり始め(時刻t0+de)、更に、所定の立ち上がり時間de1の後に目標総トルクTQtに収束している(図19時刻t0+de+de1)。
電動機トルクTmは、最速の立ち上がりが求められた場合に、立ち上がりの開始後、所定の立ち上がり時間dm1が経過した時点で収束値に達する。以下、この際に実現されるトルク曲線を「標準立ち上がり曲線」と称す。図19(B)中に符号Tm1を付して示す曲線は、時刻t0+de-dm1から時刻t0+deにかけて、電動機トルクTmが、上記の標準立ち上がり曲線に沿って上昇している様子を表している。
ECU20は、時刻t0において駆動トルクの立ち上げが要求された場合、先ず、電動機トルクTmが、図19(B)中に符号Tm1を付して示す機標準立ち上がり曲線に沿って上昇するように、目標総トルクTQtの立ち上がり時期を設定する。具体的には、目標トルクTQtの立ち上がり時期を、電動機トルクTmを立ち上げる時刻t0+de-dm1から、遅れ時間dmだけ遡った時刻t0+de-dm1-dmに設定する。
そのうえで、時刻t0+de-dm1から時刻t0+deにかけて、電動機トルクTmを目標総トルクTQtまで上昇させるのに必要な電力(以下、「立ち上げ電力Pm1」と称す)を、上記の手法で算出する。また、時刻t0+deの後、時刻t0+de+de1にかけて、電動機トルクTmを目標総トルクTQtからゼロに変化させる過程で必要な電力(以下、「制御時電力Pmt」と称す)を、上記の手法で算出する。
立ち上げ電力Pm1と制御時電力Pmtとの和「Pm1+Pmt」は、電動機トルクTmを一旦目標総トルクTQtまで上昇させるうえで最低限必要な電力である。従って、Pm1+Pmtがバッテリの供給可能電力Pbより少ない場合は、電動機トルクTmの立ち上げ時期を早めることが可能であると判断できる。この場合、ECU20は、バッテリの余裕電力量に見合った時間tkを計算し、その時間tkだけ、電動機トルクTmの立ち上げ時期を、つまり、目標総トルクTQtの立ち上げ時期を早める(図19(B)参照)。
一方、Pm1+Pmtがバッテリの供給可能電力Pbを上回っている場合は、電動機トルクTmを目標総トルクTQtまで上昇させるだけの余力がバッテリに残されていないと判断できる。この場合、ECU20は、図19(C)に示すように、適当な時刻t2に立ち上がり、時刻t0+de+de1において目標総トルクTQtに達するような仮目標総トルクTQt2を先ず設定する。次いで、目標総トルクTQtが仮目標トルクTQt2に沿って変化することを前提として、上述した手法により再度Pm1+Pmtを算出する。仮目標総トルクTQt2は、再算出されたPm1+Pmtが供給可能電圧Pbと一致するように修正される。そして、この場合は、最終的に得られた仮目標トルクTQt2が実現されるように電力指令値Ptが制御される。
以上の処理によれば、バッテリの供給可能電力Pbが許す限りにおいて、電動機12によるアシストを最大限に発揮させることができる。換言すると、バッテリの供給可能電力Pbを超えるようなアシストが、電動機12に求められるのを確実に防ぐことができる。このため、本実施形態のシステムによれば、電力不足による駆動トルクの立ち上がり不良を確実に防ぎつつ、実施の形態3の場合と同様に、優れた応答性と、安定した持続性とを両立させることが可能である。
[実施の形態4における具体的処理]
図20は、ECU20が、目標総トルクTQtの立ち上げ時期、或いは仮目標総トルクTQt2を設定するために実行するルーチンのフローチャートである。図20に示すルーチンは、ハイブリッド車両上で駆動トルクの立ち上げが要求される毎に起動されるものとする。また、ここで設定される目標総トルクTQtの立ち上げ時期、或いは仮目標総トルクTQt2は、電力指令値Ptを算出する際の基礎としてのみ用いられるものとする。
すなわち、本実施形態のシステムは、電力指令値Ptを算出する際に、図20に示すルーチンにより設定される目標総トルクTQtの立ち上げ時期や仮目標総トルクTQt2を利用する点を除いて、実施の形態3の場合と同様の処理を実行する。具体的には、本実施形態において、ECU20は、図16に示すメインルーチンに従って内燃機関10および電動機12を制御するための処理を進める。
このルーチン中、ステップ140では、車両の運転状態に基づいて算出された目標総トルクTQt、つまり、車両に要求される駆動トルクがそのまま反映される目標総トルクTQtを基礎として燃料指令値Ftが算出される。一方、図16中ステップ180における電力指令値Ptの算出処理は、図17に示すフローチャートの手順に従って進められる。
図17に示す手順によれば、ステップ182において目標総トルクTQtが読み出され、その目標総トルクTQtに基づいて電力指令値Pt(t)が算出される。ECU20は、この際、図20に示すルーチンにより設定されている目標総トルクTQtの立ち上げ時期や、仮目標総トルクTQt2を有効なものとして処理を進める。つまり、そこで設定された立ち上げ時期に到達していない場合は目標総トルクTQtがゼロであるものとして電力指令値Pt(t)の算出処理を進め、また、仮目標総トルクTQt2が設定されている場合は、そのTQt2が目標総トルクTQtであるものとして電力指令値Pt(t)の算出処理を進める。
以下、図20に示すルーチンの内容を具体的に説明する。尚、ここでは、説明の便宜上、図18や図19に示す場合に合わせて、駆動トルクの立ち上げが要求される時刻を、時刻t0と称すこととする。
図20に示すルーチンによれば、駆動トルクの立ち上げが要求されると、先ず、機関トルクTeがどのようなカーブを描いて収束値TQtに達するかが予測される(ステップ200)。ここでは、具体的には、上記(式3)および(式5)を繰り返すことにより、時刻t0から時刻t0+de+de1に渡る期間中の機関トルクTeが推定される(上記手法1参照)。
次に、機関トルクTeが目標総トルクTQtに至るまでの過渡部分が切り出される。つまり、時刻t0+deから時刻t0+de+de1までの期間における機関トルクTeの立ち上がり部分が抽出される(ステップ202)。
次いで、機関トルクTeが立ち上がる上記の期間(時刻t0+deから時刻t0+de+de1)において、電動機12に要求するべき目標電動機トルクTmtが算出される(ステップ204)。ここでは、具体的には、目標総トルクTQtから、時刻t0+deから時刻t0+de+de1における機関トルクTeを減ずることにより、その期間における目標電動機トルクTmt=TQt-Teが算出される。
図20に示すルーチンでは、次に、時刻t0+deから時刻t0+de+de1にかけて上記の目標電動機トルクTmtを発生させるために必要な制御時電力Pmtが算出される(ステップ206)。ここでは、先ず、上述した「手法2」により時刻t0+de以降の電動機トルクTmが推定される。次に、その結果得られた電動機トルクTmと上記ステップ204の処理により算出された目標電動機トルクTmtとを基礎として、上述した「手法3」により、時刻t0+de-dmから時刻t0+de+de1-dmまでの電力指令値Ptが算出される。最後に、算出された電力指令値Ptを積分することにより(上述した「手法4」により)上記の制御時電力Pmtが算出される。
次に、電動機12の立ち上がり期間における電動機トルクTm、つまり、電動機12の立ち上げトルクTm1が計算される(ステップ208)。ここでは、具体的には、時刻t0+de-dm1において目標電動機トルクTmtを目標総トルクTQtに立ち上げた場合に、時刻t0+de-dm1から時刻t0+deにかけて(図19(B)参照)、電動機トルクTmがどのように立ち上がるかが計算される。この計算は、上述した「手法2」により実行することができる。
次に、上記の立ち上げトルクTm1を発生させるために必要な立ち上げ電力Pm1が算出される(ステップ210)。ここでは、先ず、上述した「手法2」により時刻t0+de-dm1以降の電動機トルクTmが推定される。次に、その結果得られた電動機トルクTmと上記の立ち上げトルクTm1とを基礎として、上述した「手法3」により、時刻t0+de-dm1-dmから時刻t0+de-dmまでの電力指令値Ptが算出される。最後に、算出された電力指令値Ptを積分することにより(上述した「手法4」により)立ち上げ電力Pm1が算出される。
次に、制御時電力Pmtと立ち上げ電力Pm1とを加えることにより、電動機トルクTmを一旦目標総トルクTQtまで上昇させるために必要な最低限の電力Prが算出される(ステップ212)。
必要電力Prは、バッテリの供給可能電力Pbと比較される(ステップ214)。その結果、Pb≧Prの成立が認められた場合は、供給可能電力Pbに余裕があると判断できる。この場合、先ず、その余裕電力Pa=Pb-Prが算出される(ステップ216)。
次に、余裕電力Paにより、電動機トルクTmを目標総トルクTQtに維持できる時間tkが算出される(ステップ218)。電動機トルクTmを目標総トルクTQtに維持するための電力指令値Ptは、目標電動機トルクTmtをTQtとして上記(式8)の演算を行うことにより求めることができる(手法2および手法3参照)。本ステップ218では、その結果得られた電力指令値Ptの積算値が余裕電力Paと等しくなる時間がtkとして算出される。
次に、電動機トルクTmの立ち上げ時刻が算出される(ステップ220)。ここでは、先ず、立ち上げ電力Pm1の算出時に想定した電動機トルクTmの立ち上げ時刻t0+de-dm1から、時間tkだけ遡った時刻t0+de-dm1-tkが算出される。電動機トルクTmは、時刻t0の後、遅れ時間dmが経過する以前には立ち上げることができない。このため、時刻t0+de-dm1-tkが時刻t0+dm以前である場合は、時刻t0+dmが電動機トルクTmの立ち上げ時刻に設定される。一方、時刻t0+de-dm1-tkが時刻t0+dmより遅い場合には、時刻t0+de-dm1-tkが電動機トルクTmの立ち上げ時間とされる。
以上の処理が実行された場合は、以後、目標電動機トルクTmtはステップ220において設定された時刻に立ち上がるものとして図17に示す処理が実行される。具体的には、ステップ220の処理により設定された時刻までは目標総トルクTQtが立ち上がらずその設定時刻以後、目標総トルクTQtが、駆動トルクの要求値に立ち上がるものとして、図17中ステップ182等の処理が実行される。
この場合、駆動トルクの立ち上げが要求された後、バッテリの供給可能電力Pbが許す限りにおいて最速のタイミングで電動機トルクTmを立ち上げることができ、その後、実施の形態3の場合と同様に、車両の駆動源を電動機12から内燃機関10に円滑に移行させることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ハイブリッド車両上で、応答性に優れ、かつ、搭乗者に違和感を与えることのないトルク特性を実現することができる。
図20に示すルーチンによれば、ステップ214において、バッテリの供給可能電力Pbが最低必要電力Prより小さいと判別された場合、次に、電動機12の仮起動時刻t2が決定される(ステップ222)。次に、時刻t2に立ち上がり、時刻t0+de+de1において目標総トルクTQtに達するような仮目標総トルクTQt2が設定される(ステップ224)。
図21(A)および図21(B)は、ECU20が予め記憶している仮目標総トルクTQt2の波形の例を示す。ECU20は、これらの図に示すように、直線型の波形やシグモイド型の波形などを仮目標総トルクTQt2の波形として記憶している。ECU20は、上記ステップ224において、それらの波形の中から車両の状況に応じた適切な波形を選んで仮目標総トルクTQt2の波形とする。
図20に示すルーチンでは、次に、仮目標総トルクTQt2から機関トルクTeを減じることにより、車両上で仮目標総トルクTQt2を発生させるため電動機12に発生させるべきトルク(以下、「仮目標電動機トルクTmt2」と称す)を算出する(ステップ226)。
次いで、時刻t2から時刻t0+de+de1までの期間中に、上記の仮目標電動機トルクTmt2を発生させるために必要な電力(以下、「仮目標達成電力Pm2」と称す)が算出される(ステップ228)。ここでは、先ず、上述した「手法2」により時刻t2以降の電動機トルクTmが推定される。次に、その結果得られた電動機トルクTmと上記ステップ226の処理により設定された仮目標電動機トルクTmt2とを基礎として、上述した「手法3」により、時刻t2-dmから時刻t0+de+de1-dmまでの電力指令値Ptが算出される。最後に、算出された電力指令値Ptを積分することにより(上述した「手法4」により)仮目標達成電力Pm2が算出される。
次に、仮目標達成電力Pm2がバッテリの供給可能電力Pbより少ないかが判別される(ステップ230)。その結果、Pb>Pm2の成立が認められた場合は、供給可能電力Pbに余裕があると判断できる。この場合、電動機12の仮起動時刻t2が所定時間Δtだけ早められ(ステップ232)、その後、再びステップ222以降の処理が実行される。以上の処理によれば、仮目標達成電力Pm2がバッテリの供給可能電力Pb以上となるまで、電動機12の仮起動時刻t2を早めることができる。
仮目標達成電力Pm2が供給可能電力Pb以上である状況下では、上記ステップ230において、Pb>Pm2が成立しないと判別される。この場合は、次に、Pb<Pm2が成立しているか否かが判別される(ステップ234)。その結果、Pb<Pm2の成立が認められた場合は、現在の仮目標達成電力Pm2が、供給可能電力Pbに対して過大であると判断できる。この場合は、電動機12の仮起動時刻t2が所定時間Δtだけ遅延された後(ステップ236)、再びステップ222以降の処理が実行される。
上記の処理によれば、最終的には、仮目標達成電力Pm2がバッテリの供給可能電力Pbと等しくなるように仮起動時刻t2を定めることができる。そして、そのような仮起動時刻t2が定まると、ステップ230の条件、およびステップ232の条件が何れも否定され、その時点で、仮起動時刻t2および仮目標総トルクTm2が最終的なものとして決定される(ステップ238)。
以上の処理が実行された場合は、以後、上記の如く決定された仮目標総トルクTm2が目標電動機トルクTmtであるものとして、図17に示す処理が実行される。具体的には、目標総トルクTQtは、時刻t2に立ち上がり、その後、仮目標総トルクTm2として定められた波形に沿って目標総トルクTQtに達するものとして、図17中ステップ182等の処理が実行される。
この場合においても、駆動トルクの立ち上げが要求された後、バッテリの供給可能電力Pbが許す限りにおいて最速のタイミングで電動機トルクTmを立ち上げ、その後、実施の形態3の場合と同様に、車両の駆動源を電動機12から内燃機関10に円滑に移行させることができる。このため、本実施形態のシステムによれば、ハイブリッド車両上で、搭乗者に違和感を与えることなく、かつ、実用的な持続性を確保しつつ、バッテリの充電状況に応じた最良の応答性を実現することが可能である。
尚、上述した実施の形態4においては、ECU20が、ステップ200の処理を実行することにより前記第13の発明における「機関トルク推定手段」が、ステップ204および208の処理を実行することにより前記第13の発明における「差分算出手段」が、ステップ206および210の処理を実行することにより前記第13の発明における「電力指令値算出手段」が、ステップ214の処理を実行することにより前記第13の発明における「供給可能電力検出手段」が、ステップ216〜220の処理を実行することにより前記第13の発明における「電力供給開始時期設定手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態4においては、ECU20が、ステップ200の処理を実行することにより前記第14の発明における「機関トルク推定手段」が、ステップ204、208および226の処理を実行することにより前記第14の発明における「差分算出手段」が、ステップ206、210および228の処理を実行することにより前記第14の発明における「電力指令値算出手段」が、ステップ214、230および234の処理を実行することにより前記第14の発明における「供給可能電力検出手段」が、ステップ222,224,232および236の処理を実行することにより前記第14の発明における「目標総トルク修正手段」が、それぞれ実現されている。