本発明は、車両用電動操舵アクチュエータに関するものであり、モータの回転運動を直線運動に変換する機構は、主として車両用として適用されるのに適しているが、一般的なリニアアクチュエータにも適用可能である。
自動車には「走る」、「曲がる」、「止まる」の3つの基本性能がある。これらのうち、「曲がる」機能をつかさどるのが、操舵装置(以下、ステアリングと称す)である。ステアリングは自動車とドライバとの接点であるため、ドライバの負荷を緩和するためのステアリング操舵力の軽減は重要な課題である。このため、ステアリングのパワーアシストの研究は1900年代の初頭から脈々と続けられ、現在では、パワーステアリングは車にとって必要不可欠な装置になっている。
パワーステアリングの方式としては、エンジンによってオイルポンプを回し、発生したオイルの圧力を利用する油圧式が最も早く実用化された。欧米では1920年代には重量トラックやバスに取り付けられ、1950年代には乗用車へ普及し始めた。また、日本においては1960年代に乗用車へ普及し始め、現在に至っている。
一方、モータによって操舵する電動パワーステアリング(以下、EPSと称す)が1980年代後半に商品化され、近年急速に普及しつつある。EPSには、EPSには、(1)電動モータを用いてオンデマンドでパワーアシストを行うので燃費が向上する、(2)油圧配管系を必要とせず、電源カプラーオンで搭載可能なためカーメーカでの組み立てコストを大幅に低減できる、(3)環境に有意な作動油を使わないドライシステム、(4)SBWへの発展性、などのメリットがある。
EPSには電動モータのパワーアシスト力をハンドルコラムに伝えるコラムアシスト型、ステアリングギヤのピニオンに伝えるピニオンアシスト型、高強度のアシスト専用のピニオン、あるいはボールねじを介して直接ラックに伝えるラックアシスト型がある。大型車への搭載を考えるとコラムアシスト、ピニオンアシスト型では軸強度、ピニオンギヤの歯面強度を確保することが困難である。このため、大型車両についてはラックアシスト型が好適である。
また、非特許文献1にて述べられているように今後電子技術が進展し、ステアリングコラム、ピニオンなどの機械的結合を無くして、ドライバの操舵操作をセンサで検出し、その情報に基づいて操舵アクチュエータにてステアリングラックを駆動するような、いわゆるステアバイワイヤ(Steer By Wire)も導入されてくる。
ラックアシスト型のEPSは、ステアバイワイヤ用の操舵アクチュエータとしても対応可能である。
ラックアシスト型のEPSとしては、舵入力を受け入れるピニオン軸と、これのピニオン部と係合するラック部を有し操向車輪と連動するラック軸と、このラック軸のラック部とは別の部分に形成されたボールスクリューのウォームと、このウォームとボールを介して係合する回転自在に軸受け支持されたボールナットと、前記ラック軸と同軸に配置されこのボールナットに出力を伝達する電動機と、制御信号によりこの電動機を制御する制御手段とを有する電機式動力操舵装置が特許文献1に開示されている。
特開昭60-25854号公報
ステアバイワイヤにおける操舵制御に関する研究 自動車技術会論文集VOL.31、NO.2 Page.53-58 2000
一方、回転−直動変換機構にボールねじ機構を使う場合、ボールネジのピッチによりモータ一回転あたりの直動量が決定される。ピッチを小さくするとモータ一回転あたりの直動量が小さくなり、同一容量のモータでも大きな推力(アシスト力)を得ることができる。ところが、ボールねじをステアリングラックとして使う場合を考えると、10000(N)以上の推力を発生する必要があり、この荷重を受けるためにはボール径がある程度以上必要となる。もちろんピッチはボール径以上必要となり、結果としてピッチの縮小には限界がある。大型車両への対応を考えた場合、モータとボールねじナットの間に減速機構を入れる必要がある。
一方、パワーアシスト力を発生する車載用の低コストモータは直流電動モータである場合が多い。一般に直流電動モータの速度特性としては、ロック時に最高トルクを発生し、最高回転数でトルクゼロとなる。したがって高効率の回転数が最高回転数のほぼ半分近辺にあるのに対して、高トルクの回転数がロック近辺にあるという状況になる。このため直流電動モータを使用したパワーステアリングにおいては、たとえばモータの回転を歯車減速機構で大きく減速したのちにボールネジなどを介してラック軸に伝達することを行う。特許文献1のようにモータをラックと同軸におく場合、大減速比を得るためには、減速機構が複雑となるとともに、モータの回転が減速機構にて消費される伝達ロスが大きく、大容量のモータが必要となる。さらに多数の歯車減速機を使うと騒音が発生するとともに、バックラッシュが発生し、リニアな操舵アシストができなくなる。さらに減速比が大きくなると、モータによるアシストをオフにしてステアリングを戻すときに、回転慣性による応答遅れが違和感となり、フィーリングの悪化につながる。
以上をまとめると、本発明が解決しようとする課題は、複雑な歯車機構なくモータ一回転に対するラックの直動量を小さくとれる操舵アクチュエータを提供することにある。
本発明は、ケーシングと、表面部にねじが形成されたラックと、前記ねじに係合し、前記ケーシングに軸受されたねじナットと、前記ねじと前記ねじナットとが係合された組み合わせに結合され、前記ねじと前記ねじナットに相対的回転を付与する前記ケーシング内に配設されたモータと、前記ねじと前記ねじナットの相対的回転速度を調速する調速装置とを備え、前記ラックの軸方向の直動運動を操舵力伝達部を介して被駆動体に伝達すること操舵アクチュエータを提供する。
また、本発明は、ケーシングと、該ケーシング内に配設されたモータと、表面部にねじが形成され、回転と直動の両方が自在とされて前記ケーシングに軸受支持されたラックと、前記ねじに係合し、前記モータにより回転駆動され、回転自在とされて前記ケーシングに軸受されたねじナットと、前記ラックが前記ねじナットと前記ねじとの係合状態で回転するとき、前記ねじの回転速度と前記ねじナットの回転速度との相対速度を調速する調速装置とを備え、前記ラックは調速された相対速度で回転して軸方向に直動し、直動運動を操舵力伝達部を介して被駆動体に伝達する操舵アクチュエータを提供する。
また、本発明は、ケーシングと、該ケーシング内に配設されたモータと、表面部にねじが形成され、回転と直動の両方が自在とされて前記ケーシングに軸受支持されたラックと、前記ねじに係合し、前記モータにより回転駆動され、回転自在とされて前記ケーシングに軸受されたねじナットと、前記ラックが前記ねじナットと前記ねじとの係合状態で回転するとき、前記ねじの回転速度と前記ねじナットの回転速度との相対速度を可変調速する調速装置とを備え、前記ラックは、調速された相対速度で、回転して軸方向に直動し、直動運動を操舵力伝達部を介して被駆動体に伝達する操舵アクチュエータを提供する。
本操舵アクチュエータは、ラックアシスト型EPS用のアクチュエータとして対応可能であると同時に、インターフェースとステアリングアクチュエータを信号線・電力線(ワイヤ)で結んだ、いわゆるステア・バイ・ワイヤシステムにも対応可能である。
本発明によれば、複雑な機構無く、ボールねじ自体の物理的ピッチに関わらずモータ一回転に対するラックの直動量を小さくとれるため、モータの小型化、高効率化を図れるとともに、安価な操舵アクチュエータが提供できる。
また、簡単な歯車のバックラッシュ吸収機構を有するため、パワーステアリングとして本操舵アクチュエータを採用する場合、ロストモーションが発生せず、リニアなステアフィールが得られる。
駆動騒音を低減できるため、車両に搭載した場合、質感の高い車が実現できる。
モータをオフにしてラックがもとの位置にもどる場合、ラックが回転することによりモータが回転しないため、パワーステアリングとして本操舵アクチュエータを採用する場合、回転慣性による応答遅れに起因する違和感が小さくフィーリングの良いステアフィールが得られる。
本実施例が解決しようとする課題は、
1.複雑な歯車機構なくモータ一回転に対するラックの直動量を小さくとれる操舵アクチュエータを提供する。
2.駆動騒音を低減できる操舵アクチュエータを提供する。
3.簡単な歯車のバックラッシュ吸収機構を有する操舵アクチュエータを提供する。
4.回転慣性による違和感が小さくフィーリングの良い操舵アクチュエータを提供する。
また上記に加え、ラックアシスト型EPS用のアクチュエータのみならずステアバイワイヤ用としても対応可能な操舵アクチュエータを提供することである。
上記1の課題を解決するために、上述した操舵アクチュエータの原理が採用される。例えば、回転と直動の両方が自在となるようにケーシングに軸受け支持されたねじと、前記ねじに係合し、モータにより駆動され、回転自在となるようにケーシングに軸受け支持されたねじナットと、前記ねじの回転と前記ナットの回転を調速する機構を有し、前記ねじのケーシングに対する軸方向の推力を操舵力とする。
また前記ねじが軸方向にスプライン溝を有し、前記ねじに通され、ねじに対して回転せず、ねじの軸方向に、移動可能なスプラインナットを有し、前記スプラインナットの回転と前記ナット回転を調速する。
さらに、前記ねじとねじナットとのあいだにボールを介在させたボールねじ機構が構成され、前記ねじとスプラインナットとのあいだにボールを介在させたボールスプラインが構成されている。前記スプラインナットは、前記ねじナットよりも低い回転に調速される。そして前記調速機構が、前記スプラインナットと、ねじナットのそれぞれに取り付けられた歯車と、これらに係合する歯車で形成される歯車列で構成される。
上記2の更に課題を解決するために、歯車列の一部あるいは全部を樹脂製の歯車とすることができる。
上記3の課題を解決するために、歯車列の一部あるいは全部に、前記ねじと直角の方向に力を与える、バックラッシュ低減機構を有する。
上記4の課題を解決するために、前記調速機構がケーシングと相対速度を持たない静止部材から前記スプラインナットに減速方向のトルクを与える。あるいは前記調速機構がねじナットの回転と調速された回転部材から、前記スプラインナットに減速方向のトルクを与える。さらに前記調速機構が電気信号により減速方向のトルクを調整可能とする。そして前記調速機構が電磁ヒステリシスブレーキとする。
本実施例は、通常のパワーステアリングへの操舵アクチュエータの適用である第1群の実施形態と、ステアバイワイヤへの操舵アクチュエータの適用である第2群の実施形態で構成されている。
本実施例によれば、表面部に、ねじを構成するねじ溝および軸方向にスプライン溝を有するラックと、前記ねじ溝およびスプライン溝にそれぞれ配設されるねじボールおよびスプラインボールと、前記ラックの回転方向周囲に配設され、前記ねじボールおよびスプラインボールにそれぞれ係合するように形成され、前記ねじ溝およびスプライン溝と一体となって前記ねじボールおよびスプラインボールをそれぞれ収納する他方のねじ溝および他方のスプライン溝がそれぞれ形成されたねじナットと、回転駆動力を前記ねじナットに伝達するモータと、前記ねじの回転速度とねじナットの回転速度の比を1:r(r<1)に調速する調速装置とを備え、前記ラックは、調速された回転速度の比で回転して軸方向に直動し、直動運動を操舵力伝達部を介して被駆動体に伝達する操舵アクチュエータが構成される。
前記調速装置は、前記ねじナットに対してブレーキトルクを付与するブレーキ装置を備えて構成され得る。
また、本実施例によれば、表面部に、ねじを構成するねじ溝および軸方向にスプライン溝を有するラックと、前記ねじ溝およびスプライン溝にそれぞれ配設されるねじボールおよびスプラインボールと、前記ラックの回転方向周囲に配設され、前記ねじボールおよびスプラインボールにそれぞれ係合するように形成され、前記ねじ溝およびスプライン溝と一体となって前記ねじボールおよびスプラインボールをそれぞれ収納する他方のねじ溝および他方のスプライン溝がそれぞれ形成されたねじナットと、回転駆動力を前記ねじナットに伝達するモータと、前記ねじナットと前記スプラインナットとを接続し、前記ねじの回転速度とねじナットの回転速度の比を1:r(r<1)に調速する調速装置とを備え、前記ラックは、調速された回転速度の比で回転して軸方向に直動し、直動運動を操舵力伝達部を介して被駆動体に伝達する操舵アクチュエータが構成される。
前記調速装置は、前記ねじナットに形成されたねじナット外歯に噛合するねじナット内歯および前記スプラインナットの形成されたスプラインナット外歯に噛合するスプライン内歯を有する係合部材を備え、該係合部材のねじナット外歯とねじナット内歯および前記スプライン外歯とスプライン内歯の歯数の関係を前記回転の速度の比1:rになるように設定するように構成される。
前記駆動装置の前記駆動装置の回転ロータは中空状形状をなし、前記回転ラックの周囲に配設され、中空状形状とされ、前記回転ラックの周囲に配設され、前記ねじナットに結合されたジョイントに結合され得る。
前記調速装置は、前記ねじナットに形成された複合ねじナット歯に噛合するねじナット歯を有する係合部材および前記スプラインナットに形成されたスプラインナット歯に噛合するスプライン歯を有する他方の係合部材を備え、前記駆動装置の回転ロータは前記ロータの周囲に平行に配設され、一方の係合部材と他方の係合部材共通の回転軸として形成され得る。
また、本実施例によれば、表面部に、ねじを構成するねじ溝および軸方向にスプライン溝を有するラックと、前記ねじ溝およびスプライン溝にそれぞれ配設されるねじボールおよびスプラインボールと、前記回転ラックの回転方向周囲に配設され、前記ねじボールおよびスプラインボールにそれぞれ係合するように形成され、前記ねじ溝およびスプライン溝と一体となって前記ねじボールおよびスプラインボールをそれぞれ収納する他方のねじ溝および他方のスプライン溝がそれぞれ形成されたねじナットおよびスプラインナットと、回転駆動力を前記ねじナットに伝達するモータと、前記スプラインナットにヒスカップを設けて該ヒスカップに磁気ヒステリシス材を取り付け、コア、ヨークおよびコイルから構成される回転体の該コアとヨークとの間の空隙に前記磁気ヒステリシス材を配設することによってブレーキ装置を構成して前記スプラインナットの回転に対してブレーキトルクを付与するようになし、かつ前記ねじナットの回転速度と前記ラックのねじの回転速度の比を1:rに可変調速する調速装置とを備えた操舵アクチュエータが構成される。
操舵アクチュエータの制御装置であって、車両のステアリングの操作操舵舵角および操作トルク信号を入力して、記憶部に予め記憶された前記操作舵角および操作トルクと被駆動体に対する操舵力との関係から前記駆動装置の回転駆動力信号を演算処理する演算処理部を備える。
操舵アクチュエータの制御装置であって、前記ブレーキ装置のブレーキトルクをオフする信号を生成する演算処理部を有する。
以下、各実施形態の複数の実施例について、図面を用いて説明する。
第1図は本発明の第1郡の第1実施例の全体構成を示す図である。車両0にはパワーステアリング装置100が搭載されており、車両0中のステアリング1からコラム2を通じジョイント3を経由し、ラック11と噛み合うピニオン5により、ラックアンドピニオン機構で機械的に結合されている。運転者のステアリング1の回転動作は、ラック11の直動運動に変換され、アーム7を経由し、ジョイント8を通じて車輪側のアップライト(図示せず)に伝えられ、タイヤ(被駆動体)30が操舵される。ラック11にはねじ溝とスプライン溝が切られており(図1では省略)、図2以降に示す操舵アクチュエータ10により、並進方向の推力(アシスト力)が加えられる。コントローラ20は、操舵センサ4で検出される操舵トルク、舵角などの舵角信号に基づいて操舵アクチュエータ10に操舵力制御指令(信号および電力)を出力する。図1では省略しているが、操舵アクチュエータには、電動モータ(モータ)120(図2参照)が組み込まれている。コントローラ20(制御装置、制御手段)からの指令に基づいて図示しない電源入力によりモータ(中空モータ)120が回転し、操舵アクチュエータ10内の回転−直動変換機構によりラック(回転ラック)110の直動に変換される。
以下、図2、5、6、10を用いて、操舵アクチュエータ10についての4つの実施例を示すが、第1群の実施形態における操舵アクチュエータ自体の働きは上述のとおりである。
図2は、操舵アクチュエータ機構の第1実施例である操舵アクチュエータ10の回転−直動変換機構を示す図である(この機構が図1の10部分の構造である)。
図2には、ケーシング15と、表面部にねじが形成されたラック110と、ねじに係合し、ケーシング15に軸受されたねじナット130と、ねじとねじナット130とが係合された組み合わせに結合され、ねじとねじナット130に相対的回転を付与するケーシング15の内部に配設されたモータ120と、ねじとねじナット130の相対的回転速度を調速する調速装置とを備えた構成が図示される。更に具体的には、ケーシング15と、ケーシング15の内部に配設されたモータ120と、表面部にねじが形成され、回転と直動の両方が自在とされてケーシング15に軸受支持されたラック110と、ねじに係合し、モータ120により回転駆動され、回転自在とされてケーシング15に軸受されたねじナット130と、ラック110がねじナット130とねじとの係合状態で回転するとき、ねじの回転速度とねじナット130の回転速度との相対速度を調速する調速装置とを備えた構成が図示される。
更に、表面部に、ねじを構成するねじ溝112および軸方向にスプライン溝113を有するラック110と、ねじ溝112およびスプライン溝113にそれぞれ配設されるねじボール131およびスプラインボール141と、ラック110の回転方向周囲に配設され、ねじボール131およびスプラインボール141にそれぞれ係合するように形成され、ねじ溝112およびスプライン溝113と一体となってねじボール131およびスプラインボール141をそれぞれ収納する他方のねじ溝および他方のスプライン溝がそれぞれ形成されたねじナット130と、回転駆動力を前記ねじナットに伝達するモータと、前記ねじの回転速度とねじナットの回転速度の比を1:r(r<1)に調速する調速装置からなる構成が図示されている。
操舵アクチュエータ10は主として、ねじ溝112、スプライン溝113が加工された回転ラック110、回転ラック110が中央を貫通する中空モータ120、回転ラック110と係合するねじナット130とスプラインナット140、そしてそれらを支持するベアリング群で構成されている。ねじナット130およびスプラインナット140には、ねじを構成することになるねじ溝112、スプライン溝113に対応して他方のねじ溝、スプライン溝が形成してあり、双方のねじ溝、スプライン溝が合体して形成されたねじ溝、スプライン溝が形成されるが、以下、ねじ溝112、スプライン溝113を使用して説明していく。
以下では、まず本構成中の要素を抽出し、それぞれの機能を示す。つぎに各要素を組み合わせることによって可能となる操舵アクチュエータとしての原理(仕組み)を示す。その後、詳細な構成について述べる。
図3に示すように回転ラック110にはスプライン溝113が設けられており、スプラインナットボール141を介してスプラインナット140が係合されている。したがって、スプラインナット140と回転ラック110には以下の関係がある。
(a)スプラインナット140は回転ラック110の直動(x)方向には、スプラインナットボール141により支持されており非常になめらかに相対変位をもつことができる(図3(a))。
(b)スプラインナット140は回転ラック110の回転(ω)方向には固定されている。したがって、回転ラック110の回転速度ωrackとスプラインナット140の回転速度ωsplineは同じとなる(図3(b))。
以上の(a)、(b)によりスプラインナット140のω方向の回転速度ωsplineを制御することにより、回転ラック110の直動に影響を与えることなく回転速度ωrackを制御することができる。
一方、回転ラック110には図4に示すようにピッチL(mm)の1条のねじ溝112が設けられており、ねじナットボール131を介してねじナット130が係合されている。ここで、ねじナット130の回転速度をωnut、回転ラック110の回転速度をωrackとすると、ねじナット130の1回転に対する回転ラック110の直動量Δx(mm/rev)との間には以下の関係がある。
・ωrack=0(回転ラック110が回転を固定されている場合)
Δx=L(ねじ溝112の物理的ピッチと同じ)。
・ωrack=ωnut(回転ラック110とねじナット130が一体となって回転している場合)
Δx=0(回転ラック110は進まない)。
・ωrack = 0.5ωnut(回転ラック110がねじナット130の半分の速度で回転している場合)
Δx=0.5L (ねじ溝112の物理的ピッチの半分となる)。
結局、Δx=L(1−ωrack/ωnut)
となり、ねじナット130の1回転に対する回転ラック110の直動量Δx(mm/rev)は、回転ラック110の回転速度ωrackと、ねじナット130の回転速度ωnutの比率により操作することができる。
上述した機構を用い、ケーシング15の内部空間を利用して、複雑な機構無く、ボールねじ自体の物理的ピッチに関わらずモータ一回転に対するラックの直動量を小さくとり、モータの小型化、高効率化を図るとともに、安価な操舵アクチュエータを提供するために、本実施例以降では以下に示す構成となっている。
1.モータはねじナットを直接、回転駆動する(ωmot=ωnut)。
2.回転ラック速度(ωrack)は、スプラインナットの回転速度(ωspline)と常に同一なので、ねじナットとスプラインナットの回転数の間を調整する調速機構を設ける。
以上により、ねじナット(モータ)に対する、スプラインナットの回転速度を近い値(例えば速度比1:0.9)にすれば実質上のモータ1回転に対するラックの直動量Δx(mm/rev)を小さく(物理形状の110)調整することができる。以上が本発明の操舵アクチュエータとしての原理である。
以下、本実施例の詳細な構成について、再び図2に立ち返り説明する。
ねじナット130は、マグネット121、コイル122などで構成された中空モータ120にジョイント230で係合されている。ロータ軸123は回転ラック110に周囲に配設される中形状とされる。また、ジョイント230も回転ラック110の周囲と配設される中空状形状とされる。中空モータ120は、DCブラシ付モータでもDCブラシレスでもよく、また車載のバッテリ電圧を直接、あるいは昇圧された電圧で駆動されてもよい。また、ジョイント230にはモータに過負荷が加わった場合のトルクリミッタの機能を持たせても良い。これらの機構によりねじナット130と、中空モータ120は一体となって回転する。すなわち、ねじナット130は中空モータ120によって回転駆動される。ねじナット130と、中空モータ120は、アンギュラ玉軸受け231により支持されている。これによりねじナットボール131を通じて、ねじナット130に加わる回転ラック110の両方向のスラスト力を支持することができる。
ねじナット130の隣には、スラストベアリング345を介して、スプラインナット140が配置されている。スラストベアリング345はねじナット130とスプラインナット140の回転差を吸収し、両者の相対運動時の摩擦をころがり支持に変えることで損失を低減している。
ねじナット130とスプラインナット140の外周には、ねじナット外歯132と、スプラインナット外歯142が設けられている。また、これらを取り囲むように2段内歯ホルダ340がホルダベアリング343に支持されて配置されている。2段内歯ホルダ340のねじナット外歯132と、スプラインナット外歯142に対向する面にはねじナット内歯341とスプラインナット内歯342が取り付けられている。それぞれの内歯径は、外歯径よりも大きく、それぞれをかみ合わせる場合には図2に示すように片側が浮いた状態で駆動することになる。
以下回転および直線運動の発生の様子を述べる。駆動装置としての中空モータ120はねじナット130を駆動する。回転ラック110にねじナットボール130を介して、ねじの斜面の作用により、回転運動を直動推進力(直動運動)へと変換しようとすると同時に、ねじナットボールの回転方向の摩擦力により、回転ラック110を回転させようとする。
この回転力は、スプラインナット140に伝えられ、スプラインナット外歯142からスプラインナット内歯342を経由して再び2段内歯ホルダ340に伝えられる。
ここで、中空モータ120、ねじナット130の回転速度とスプラインナット140、回転ラック110の回転速度の比が、 1:r(r<1)となるように、ねじナット外歯132、ねじナット内歯341、スプラインナット内歯342、スプラインナット外歯142の歯数を設定することにより、中空モータ120が一回転したときの回転ラックの直動量を物理的ピッチLの(1−r)倍とすることができる。ねじナット外歯132の歯数をN1、ねじナット内歯341の歯数をN2、スプラインナット外歯142の歯数をN3、スプラインナット内歯の歯数をN4とすれば、N2/N1<N4/N3の関係とする歯車伝達機構を構成する。例えばr=0.9とすれば、物理的ピッチを110とすることができる。本実施例では、上述した操舵アクチュエータ原理の調速機構が、各ナットの外歯と2段内歯の歯車列で構成されていることになる。
また、このような構成にするとねじナット130から回転ラック110に与えた駆動トルクの一部が、調速機構を介してねじナット130に戻ってくるので同じ回転ラックの直動の軸力に対してねじナットを駆動する正味のトルクが少なくて済む。
さて、以上のような構成で回転ラック110はモータ回転数のr倍で回転しながらも、モータ回転数に応じて物理的ピッチの(1−r)倍で直動することになる。回転ラック110の両端(図では片側)はアンギュラ玉軸受け115により、回転止めのスプライン溝114を有し、回転を阻止された非回転直動ラック111に係合されている。これにより、回転ラック110がω方向に回転しながらx方向に直動したときにも、回転ラック110の回転のみが遮断され、非回転直動ラック111には回転ラック110の直動x方向の変位、速度、力が加えられる。非回転直動ラック111は図1のアーム7に取り付けられ、ジョイント8を通じて車輪側のアップライト(図示せず)に伝えられ、タイヤ30が操舵される。また逆にタイヤ30から入力される反力は、非回転直動ラック111を通じて、回転ラック110の回転運動を妨げることなく回転ラック110に伝えられる。これにより本機構では、ラックは回転しているが、その途中で回転は遮断されて直線運動のみとなり、アーム7を経由し、ジョイント8を通じて車輪側のアップライト(図示せず)に伝えられ、タイヤ30が操舵される、通常のパワーステアリングと同等な機能を実現できる。
以上に本実施例のおおまかな原理・機構・構成を述べた。以下では、本実施例のその他の構成に関し説明する。
上述の調速機構について補足すると、それぞれの歯車にはスラスト方向の力は加わらないので一般の平歯車あるいははす歯車でよい。また、これらの歯車列で実現する速度比は、ほとんど1に近いので、大減速をする場合に比べて機械効率の低下を小さくすることが可能である。
また、強度向上のためには歯幅を伸ばすことが必要となるが、本構成では比較的自由度が高い軸方向のスペースを利用することにより対応可能である。このため、それぞれの歯車を樹脂(エンジニアリングプラスチック)化することも可能となる。これにより軽量、低コスト、低騒音の機構とすることができる。
図2に示すように、2段内歯ホルダ340がホルダベアリング343に支持されているが、ホルダベアリング343の歯車噛み合い部側(紙面では上方)にはバックラッシュアジャスタ346が、反対側(紙面では下方)にはブッシュ347を介してケーシング15に取り付けられている。バックラッシュアジャスタ346は簡単な弾性体であり、噛み合い部の径方向に力を与え、各内歯、外歯間のバックラッシュを縮小する働きがある。これによりパワーステアリングとして本操舵アクチュエータを採用する場合、ロストモーションが発生せず、リニアなステアフィールが得られる。
尚、左右への操舵力を発生させるためにはモータを左右反転操作を行う。
つぎに図5を用いて本発明の第2実施例について示す。本実施例は、基本的には図2の第1実施例と同じであり、同一の構成について同一の参照番号を付して第1実施例の説明を援用する。実施例1と異なる部分について重点的に説明する。第2実施例にあっては、モータ1208を同軸ではなく、回転ラック110の外側に配置している。ねじナットとスプラインナットはスラストベアリングを介して、軸方向に並べられており、スラスト方向の力は2つのナットを挟み込むように配置されたアンギュラ玉軸受け2310で受ける構成となっている。第1実施例が内歯車を用いていたのに対し、本実施例では通常の歯車を使うことが可能となる。モータ1200のトルクはロータ軸1230を通じてねじナットギヤ3410に伝えられる。ねじナットギヤ3410はねじナット130に取り付けられたねじナット外歯1320と噛み合い、ねじナット130を駆動する。回転ラック110にねじナットボール131を介して、ねじの斜面の作用により、回転運動を直動推進力へと変換しようとすると同時に、ねじナットボールの回転方向の摩擦力により、回転ラック110を回転させようとする。
この回転力は、スプラインナット140に伝えられ、スプラインナット外歯1420からスプラインナットギヤ3420を経由して再びロータ軸1230に伝えられる。ロータ軸1230は、ねじナットギヤ3410、スプラインギヤ3420の共通のロータ軸として構成される。
ここで、モータ1200、ねじナット130の回転速度とスプラインナット140、回転ラック110の回転速度の比が、たとえば1:r(r<1かつ、例えばr≒1)となるように、ねじナット外歯1320、ねじナットギヤ3410、スプラインナット外歯1420、スプラインナットギヤ3420の径、歯数を設定することにより、モータ1200が一回転したときの回転ラックの直動量を物理的ピッチLの(1-r)倍とすることができる。例えばr=0.9とすれば、物理的ピッチの1/10とすることができる。本実施例では上述した本発明の操舵アクチュエータ原理のうち調速機構を各ナットの外歯とモータのロータ軸に取り付けられた2つの歯車列で構成していることになる。また、このような構成にするとねじナット130から回転ラック110に与えた駆動トルクの一部が、調速機構を介してねじナット130に戻ってくるので同じ回転ラックの直動の軸力に対してねじナットを駆動する正味のトルクが少なくて済む。
その他の構成は図2に示した第1実施例と同等であり、ここでは省略する。
それぞれの歯車にはスラスト方向の力は加わらないので一般の平歯車あるいははす歯車でよい。また、これらの歯車列で実現する速度比は、ほとんど1に近いので、大減速をする場合に比べて機械効率の低下を小さくすることが可能である。
また、強度向上のためには歯幅を伸ばすことが必要となるが、本構成では比較的自由度が高い軸方向のスペースを利用することにより対応可能である。このため、それぞれの歯車を樹脂(エンジニアリングプラスチック)化することも可能となる。これにより軽量、低コスト、低騒音の機構とすることができる。
尚、歯車列の機械的結合を可変速とすることによって可変調速する調速装置を構成することができる。歯車列の機械的結合を電子化によってコンピュータコントロールするようにしてもよい。
バックラッシュアジャスタ3430は、ロータ軸1230を支えるベアリング1241に対して各々の噛み合いを向上させる方向(紙面では下向き)の力を加える。これによりパワーステアリングとして本操舵アクチュエータを採用する場合、ロストモーションが発生せず、リニアなステアフィールが得られる。
次に本発明の第3実施例について述べる。この例は、これまでの第1、第2実施例は、ねじナットとスプラインナットが歯車列によって機械的に結合されていた。しかしながら、ねじナットとスプラインナットは、本来は回転方向には全く独立して運動することが可能である。したがって例えばねじナットをモータで駆動している状態で、スプラインナットに機構直結以外の手段でブレーキトルクを加え、ねじナットの速度より若干減速した値に調速することにより、第1、第2実施例と同等に、実質上のモータ1回転に対するラックの直動量Δx(mm/rev)を小さく調整することができる。
図6は第3実施例の構成を示す図である。操舵アクチュエータ1000は、図2の本発明の第1実施例と同様に、中空モータはねじナットを駆動する。回転ラックにねじナットボールを介して、ねじの斜面の作用により、回転運動を直動推進力へと変換しようとすると同時に、ねじナットボールの回転方向の摩擦力により、回転ラックを回転させようとする。
この回転力は、スプラインナット150に伝えられる。スプラインナット157は、第1、第2実施例のように、ねじナットとの歯車列等による機械的な結合はない。しかしながら固定部から減速トルクを与えることができるように、磁気ヒステリシス材を用いた、いわゆるヒステリシスブレーキ150が構成されている。スプラインナット157の外周にはカップ状の一体部材(ヒスカップ151と磁気ヒステリシス材152)が取り付けられている。スプラインナット157とヒスカップ151、磁気ヒステリシス材152は一体となり、回転ラックの周りを回転することができる。
一方、コア154、ヨークA155、ヨークB156とコイル153で構成された磁気回路はケーシング1001に固定されている。コア154とヨークB156との空隙(ギャップ)に磁気ヒステリシス材152を挟み込むような構成となっている。コア154とヨークB156には、図で示すような歯型部分を有し、コイルに通電した場合にヨークB156がS極、コア154がN極となる。これにより発生する磁界は、ヒステリシス材152をよぎることになる。ここで、ヒステリシス材およびヒステリシスブレーキについて簡単に述べる。ヒステリシス材はFe−Cr−Coなどの合金であり、磁界の変動を加えた場合には、磁界Hに対する磁束Bの応答(BH曲線)のヒステリシスループで囲まれる面積分がエネルギロスとなり、熱に変換される(通常の金属よりヒステリシスループで囲まれる面積が大きい)。図6に示すような歯形極形状を持っていると、コア154とヨークB156との空隙には矢印でしめすような方向に磁界が生じる。この磁界は径方向に分布を持つため、この中でヒステリシス材が径方向に回転運動した場合には、ヒステリシス材内に磁束変化が生じ、エネルギロスが発生する。このような状態で回転運動が発生すると、あたかも摩擦力のようにロスが発生するので、回転に対するブレーキトルクが発生する。
コントローラ20は操舵信号を入力し、記憶装置に予め記憶された操舵信号と操舵力制御指令との関係から操舵力制御指令を演算処理する。コントローラ20によって可変調速が制御され、ブレーキトルク信号の生成、ブレーキトルクオフ信号の生成がなされることになる。
図7にヒステリシスブレーキの回転数-トルク特性を示し、その特徴を述べる。
・相対回転数の影響を受けない定トルク特性
・励磁電流制御による高いトルク反復性
・機械的に非接触構造による高い信頼性
・少ない構成部品点数による高い生産性
・滑らかな回転(原理上トルク リップル無し)
本実施例においては、上述のような特徴をもつヒステリシスブレーキをスプラインナットに取り付けることにより、ねじナットの回転速度とスプラインナット、回転ラックの回転速度の比が、たとえば1:r(r<1)となるように、外部からブレーキトルクを与えるような構成となっている。
これにより中空モータ120が一回転したときの回転ラック110の直動量を物理的ピッチLの(1-r)倍とすることができる。例えばr=0.9とすれば、物理的ピッチの1/10とすることができる。本実施例では上述した操舵アクチュエータ原理が調速機構がヒステリシスブレーキで構成されていることになる。
このときには、第1、第2実施例とは異なり厳密にはねじナット(モータ側)に駆動トルクが戻ってこないので直動方向の力の若干の低下もありうる。しかしながら、本構成には以下に示すメリットが考えられる。
1.コイル153の電流を制御することによりねじナットの回転速度とスプラインナット、回転ラックの回転速度の比を可変制御できる。これによりアシスト力の制御の自由度が格段に向上する。
2.ヒステリシスブレーキもオフにすると、ねじナットと回転ラック、スプラインナットは完全に独立した運動が可能となる。たとえばモータをオフにしてステアを戻すときに、同時にヒステリシスブレーキもオフにすると、回転慣性が大きなモータ、ねじナットが回転しなくても、回転ラックとスプラインナットのみが回転するだけでステアリングを戻すことができる。図8にこの状態を示す。実線部分がステアリングを戻すときに回転が必要な部材である。機械結合が無い第3実施例(A)では、機械結合のある第1、第2実施例(B)に比べはるかに少ない部材を回転させるだけでステアリングを戻すことができ、操舵フィーリングを格段に向上することができる。
以上、1、2の効果を図9に示す。トルクセンサ指令に基づいて、モータ電流は制御される。モータ電流に呼応しモータ回転も上昇または低下するが、回転慣性があるため電流に対して回転の応答は遅れを生じる。ヒステリシスブレーキのコイルへの励磁電流を調整することにより、モータの回転に対するアシスト力のゲインを変更することができる。たとえば立ち上がり時に励磁電流の立ち上がりをなまらせれば、なめらかなアシスト力の立ち上がりを実現することができる。また、立下り時に急激に励磁電流を低下させれば、モータの回転が止まっていなくても、アシスト力をなくすことができ、応答性、フィーリングを大幅に向上することができる。
さらに、ねじナットとスプラインナットに機械的結合をもたない本実施例においては、
歯車などの機械的手段を使っていないため、バックラッシュによるロストモーションが発生しない。またギヤノイズも発生しない。
以上により、複雑な機構無く、ボールねじ自体の物理的ピッチに関わらずモータ一回転に対するラックの直動量を小さくとれるため、モータの小型化、高効率化を図れるとともに、安価な操舵アクチュエータが提供できる。
また、パワーステアリングとして本操舵アクチュエータを採用する場合、ロストモーションが発生せず、リニアなステアフィールが得られる。さらに駆動騒音を低減できるため、車両に搭載した場合、質感の高い車が実現できる。さらに、モータをオフにしてラックがもとの位置にもどる場合、ラックが回転することによりモータが回転しないため、パワーステアリングとして本操舵アクチュエータを採用する場合、イナーシャ感が小さくフィーリングの良いステアフィールが得られる。
また本実施例においては、ヒステリシスブレーキを採用した例を示したが、静止系、あるいはねじナットと調速された回転系からでもブレーキトルクを与える手段であれば、上述のような効果が期待できる。摩擦型ブレーキとしては摩擦板を電磁力によりスプラインナットに圧着しトルク伝達をしたり、空隙非接触型では渦電流損失を利用した渦電流ブレーキあるいは磁性粉体を用いたパウダーブレーキ、粘性を利用するのであれば油圧ポンプのポンピングロスで減速するなど複数の方法がある。
次に図10を用いて本発明の第4実施例を示す。本実施例では、第3実施例と同様にねじナットとスプラインナットに機械的結合をもたない。ヒステリシスブレーキを使って、スプラインナットに減速トルクを加えることも第3実施例と同じである。しかしながら、第3実施例でケーシングに固定されていたヒステリシスブレーキのヨーク、コア、コイルが、図2の第1実施例と同等な歯車列で減速されたブレーキマウント1400に取り付けられていることが、相違点である。中空モータ120、ねじナット130の回転速度とブレーキマウント1400の回転速度の比が、1:r(r<1)となるように、ねじナット外歯、ねじナット内歯、ブレーキマウント内歯、ブレーキマウント1400の歯数を設定し、スプラインナットとブレーキマウント1400が一体となって回転するようにヒステリシスブレーキをかければ中空モータが一回転したときの回転ラックの直動量を物理的ピッチLの(1−r)倍とすることができる。ヒステリシスブレーキでは相対回転数ゼロでもトルクが発生するため(図7)このような制御が可能となる。もちろん、ブレーキトルクの調整により、第3実施例と同様なメリットが得られる。
また、このような構成に擦るとねじナット130から回転ラック110に与えた駆動トルクの一部が、調速機構を介してねじナット130に戻ってくるので同じ回転ラック110の直動の軸力に対してねじナットを駆動する正味のトルクが、第3実施例に比べれば、少なくて済む。
最後に本発明の第二群の実施例を第5実施例として示す。図11は本発明の第二群の実施例を示す全体図である。第一群(図1)では運転者のステアリング1の回転動作はコラム2、ジョイント3、操舵センサ4、ピニオン5を通じてラック11に機械的に結合されていた。これに対し第二群では、ステアリング401は、ステアリングフィールを補正するトルクを発生するモータと、舵角、操舵トルクを検出するセンサを有するインターフェース402に結合されている。インターフェースとラック411間に機械的結合はない。これはインターフェースとステアリングアクチュエータを信号線・電力線(ワイヤ)で結んだ、いわゆるステア・バイ・ワイヤシステムである。このような機構を構築することにより、第一群で必要とされたコラムなどが不要となり、車室内の設計の自由度が大幅に向上する。また、運転者の操舵操作に干渉せずに、コントローラから任意の操舵修正を加えることが可能となり、運転者が誤った操作をした場合にも、安全性の確保が可能となる。第二群の実施例についても、先に述べた第一から第四の実施例を適用することにより、複雑な機構無く、ボールねじ自体の物理的ピッチに関わらずモータ一回転に対するラックの直動量を小さくとれるため、モータの小型化、高効率化を図れるとともに、安価な操舵アクチュエータが提供できる。
以上述べたように本構成にすることによって、複雑な歯車機構なくモータ一回転に対するラックの直動量を小さくとれる操舵アクチュエータを提供できる。また、簡単な歯車のバックラッシュ吸収機構を有する操舵アクチュエータを提供できる。また、駆動騒音を低減できる操舵アクチュエータを提供できる。また、回転慣性による応答遅れが小さくフィーリングの良い操舵アクチュエータを提供できる。なお、本操舵アクチュエータは、ラックアシスト型EPS用のアクチュエータとしても対応可能であると同時に、インターフェースとステアリングアクチュエータを信号線・電力線(ワイヤ)で結んだ、いわゆるステア・バイ・ワイヤシステムにも対応可能である。
さらに、本操舵アクチュエータのモータ回転-直動変換機構は、操舵のみに限定されるものではなく、広く、汎用的な直動アクチュエータとして適用することも可能である。
本発明の第一群の実施形態の全体構成を示す模式図。
本発明の第1実施例の構成を示す模式図。
回転ラックとスプラインナットの相対運動を示す図。
回転ラックとねじナットの相対運動を示す図。
本発明の第2実施例の構成を示す図。
本発明の第3実施例の構成を示す図。
ヒステリシスブレーキの回転-トルク特性を示す模式図。
ステアリングを戻す場合の回転慣性の比較を示す図。
本発明の第3実施例のラックアシスト力発生状態を示す図。
本発明の第4実施例の構成を示す図。
本発明の第二群の実施形態の全体構成を示す模式図。
符号の説明
0…車両、1…ステアリング、2…コラム、3…ジョイント、4…操舵センサ、5…ピニオン、6…ブーツ、7…アーム、8…ジョイント、10…操舵アクチュエータ、11…ラック、20…コントローラ、30…タイヤ、110…回転ラック、112…ねじ溝、113…スプライン溝、130…ねじナット、140…スプラインナット、120…中空モータ、121…マグネット、112…コイル、230…ジョイント、231…アンギュラー玉軸受け、131…ねじナットボール、345…スラストベアリング、132…ねじナット外歯、142…スプラインナット外歯、340…2段内歯ホルダ、343…ホルダベアリング、341…ねじナット内歯、342…スプラインナット内歯、115…アンギュラ玉軸受け、111…非回転直動ラック、114…スプライン溝、346…バックラッシュアジャスタ、347…ブッシュ、2310…アンギュラ玉軸受け、1200…モータ、1230…ロータ軸、3410…ねじナットギヤ、1320…ねじナット外歯、1420…スプラインナット外歯、3420…スプラインナットギヤ、3430…バックラッシュアジャスタ、1000…操舵アクチュエータ、157…スプラインナット、150…ヒステリシスブレーキ、151…ヒスカップ、152、162…磁気ヒステリシス材、154…コア、155…ヨークA、156…ヨークB、153、163…コイル、1400…ブレーキマウント、401…ステアリング、400…操舵機構、402…インターフェース、403…コントローラ、411…ラック、404…操舵アクチュエータ。