JP2005312376A - 細胞表面消化度検出用化合物 - Google Patents

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Abstract

【課題】細胞表面消化度を、簡便かつ個人の技量に左右されること無く、客観的かつ定量的に検出するための細胞表面消化度検出用化合物を提供することである。さらにそれらを用いた、細胞消化度検出方法や細胞分離方法、細胞分離材を提供することにある。
【解決手段】下記(1)および(2)の特徴を有する、細胞表面消化度検出用化合物。
(1) 細胞膜と非共有結合する環式化合物又は、細胞膜と非共有結合する脂肪族炭化水素化合物を、少なくとも1個有する(2)分子中に親水性基を含む部分を1個以上有する
【選択図】なし

Description

本発明は、細胞表面消化度を検出する化合物に関する。より詳しくは、固形組織や臓器から消化により細胞を遊離させる際に、細胞表面の消化度の検出に用いられる化合物に関するものである。また、本発明の別の側面は、細胞表面消化度を検出する化合物を用いた細胞の検出方法、細胞の分離方法およびこれらに用いる細胞分離材に関し、とりわけ細胞の消化度の差異や消化耐性に基づく、細胞膜外表面の状態の相違を利用した、細胞の検出方法、細胞の分離方法、および細胞分離材に関するものである。
近年、細胞を積極的に活用して、生体の臓器組織の病変および/又は欠損を治療する、いわゆる再生医療が大変注目を集めており、世界各国で研究開発が盛んに行われている(たとえば非特許文献1)。再生医療に用いる細胞としては血液や骨髄といった液体組織だけでなく、固形臓器組織の中にある細胞も用いられる(たとえば非特許文献2)。特許文献1には歯小嚢組織又は歯根膜組織の酵素消化により得られた歯周組織幹細胞で歯周病の治療を行うことが開示されている。特許文献2には、肝臓あるいは肝切除組織から粗分散肝組織を得た後、消化液で満たしたフィルター内で粗分散肝組織を震盪させながら細胞レベルまで再消化させる技術が開示されている。特許文献3には、細片化した心臓組織から非心筋細胞を除去した後、該心臓組織を蛋白質分解酵素で消化することで初代心筋細胞を調製する技術が開示されている。このように、対象となる固形臓器組織は極めて多岐に渡るものの、固形臓器組織を酵素で消化させ、細胞を遊離させるという点においては共通である。
これら固形臓器組織の消化は、目的細胞が効率的に得られるように、消化の進行具合を常にモニターして、消化条件(温度・時間など)の調整を行う。消化の進行具合をモニターする方法としては、臓器組織の触診による観察や、消化液や消化組織を少量分取し、検鏡(通常、染色し標本を作製する)を繰り返すことで行われるといった、大変手間のかかる煩雑な作業であり、また触診および検鏡という操作の性格上、個人の技量に大変左右される、主観的で客観性の乏しいものであった。すなわち、臓器を消化して目的細胞を調製する際には、簡便かつ客観的な消化の進行状況をモニターする方法が望まれている。
ところで、細胞膜表面の改質による細胞機能の修飾技術が近年、盛んに報告されている。たとえば特許文献4には(1)1つの末端に脂肪族炭化水素基を1個以上含有し、(2)分子中に親水性基を含む部分を1個以上有し、及び(3)修飾対象物質を共有結合しうる反応性官能基を上記(1)とは異なる末端に1個以上有する両親媒性化合物と修飾対象物質との反応生成物が非共有結合により細胞膜に結合した細胞が開示されている。しかしながら、同公報には、細胞表面消化度の検出に関する記載が一切無い。
非特許文献3には、オレイル基を片末端に有する両親媒性化合物を用いて、接着細胞および非接着細胞を担体表面に固定化する方法、および細胞固定型マイクロアレイの開示があるが、細胞表面消化度の検出に関しての言及は一切見当たらない。また、種々の細胞を用いても同様に固定できることを開示しているのみで、細胞の消化耐性に基づく細胞表面消化度の差異によって細胞を分離することを示唆する記載も無い。
固形臓器組織を消化後の細胞の分離方法に関しては、糖尿病の根治療法に用いられる「エドモントン方式」と呼ばれる、膵島移植法での分離方法などがある(非特許文献4)。これは、膵臓全体ではなく、インスリン分泌細胞の集合体である膵島(ランゲルハンス島ともいう。)を膵臓の消化後に分離し、患者の肝臓門脈から注入するというもので、全世界で追試が行われており、その臨床的有効性が証明されている。その膵島の調製方法をおおまかに記すと、膵臓を酵素で消化後、比重遠心法により内分泌細胞(これにインスリン分泌をする細胞が含まれている)と外分泌細胞とを分離するというものである。ここでの分離に関しては、細胞表面消化度といった細胞表面の状態の相違を何も利用しておらず、細胞の比重の違いと大きさの相違を主に利用している。比重遠心分離は、多くの遠沈管と大量の比重液を用いる実験室レベルの煩雑な操作であり、しかも、比重分離液は膵島への細胞毒性を有するという問題点がある。この欠点を克服するために、自動化された比重遠心分離装置[COBE2991(商標)(通常、血液や骨髄からの単核球分離に用いられる)、Gambro社製]を用いることもできるが、本装置はきわめて高価である。さらに、比重遠心法の最大の問題である、比重分離液の膵島への細胞毒性は何ら解決されていない。
上記細胞毒性を克服するために、比重遠心法を用いない膵島分離法が報告されている(非特許文5)。この方法は、孔径100μmのナイロンメッシュである「セルストレーナー」(商標)(BDバイオサイエンス社製)に膵臓消化液を注ぎ、50mlのHBSSですすいだ後、ペトリ皿に本セルストレイナーを逆さに置き、20mlのHBSSで洗い流してペトリ皿に回収するというものである。この方法によると、確かに比重遠心液を一切用いないので、比重遠心液による細胞毒性は回避されるが、単純な100μmの孔が開いた濾材で行う、すなわち、細胞の分離を細胞の大きさの違いで行う、いわゆる、サイズセパレーションであるため、有効濾過部分が濾過対象物によりすぐ目詰まりする、一度に大量処理ができない、という問題点もあり、現実の医療行為として応用するには困難を伴う。さらには、細胞の消化度の差異や消化耐性に由来する細胞膜外表面の変化を利用した細胞の検出方法や細胞の分離方法を示唆する記載は全く見当ら無い。
特許文献5は、膵臓組織から膵島を分離するための方法において、膵島を他の膵臓組織から離し、膵島と膵臓組織デブリスの水性懸濁液を生成するために膵臓組織を処理し、前記膵臓組織デブリスを前記水性懸濁液から分離し、次にスクリーン上に膵島を濾し取るために、穴のサイズが順々に減少していく一連のスクリーンを次々に通って前記水性懸濁液を通過させ、それぞれのスクリーンの表面上を横切って平行に流れる水性洗浄媒体を通過させることによって濾し取られた膵島を回収することにより、前記膵島を前記水性懸濁液から分離することを特徴とする膵臓組織から膵島を分離するための方法の開示がある。しかしながら、サイズの相違のみによって細胞集団の分離を行うため、消化の進行度あるいは酵素消化耐性が異なる目的以外の細胞集団のサイズが、目的の細胞の集団と大きく違わない場合には、細胞分離が達成できないことが大きな問題となる。さらには、細胞の消化度の差異や消化耐性に由来する細胞膜外表面の変化を利用した細胞の検出方法や細胞の分離方法を示唆する記載は全く見あたらない。
特許文献6には、不均質な細胞混合物から特定の細胞集団を分離するための方法について開示がある。具体的には、粒子/細胞結合体を形成するために、不均質な細胞混合物を、該細胞混合物のうちの特定の細胞集団に選択的に結合することのできる結合部位含んだ粒子手段と親密に接触させ、該特定の細胞集団を該粒子手段に選択的に結合させて粒子/細胞結合体を作り出し、遠心区域内における連続流遠心によって該粒子/細胞接合体を該細胞混合物から分離し、そして該特定の細胞集団を別に収集することを含む方法の開示がある。しかし、特定の細胞集団に選択的に結合することのできる結合部位は、一般的に抗体に代表されるタンパク質などが用いられているため、臓器の消化をすることによって、細胞表面の被認識部位も同様に消化される、効果的な分離を果たすことが困難であるという問題点を有する。
以上のように、従来技術には、臓器や組織を消化して目的の細胞を調製する際の、細胞表面消化度を客観的かつ定量的に検出する物質や検出方法、およびそれを利用した細胞分離方法や細胞分離材は無かった。
特開2004-000497号公報 特開2003-024054号公報 特開2002-78483号公報 特開2003-116529号公報 特公平7-63362号公報 特表平9-506501号公報 21世紀の再生医療、シーエムシー、2000年 再生医療工学の最先端、シーエムシー、2002年 BioTechniques 35 p1014-1021 2003 Shapiro AM,et al:N Eng J Med,343,230-238、2000) Paolo R.O.Salvalaggio,et al:Transplantation,74,877-879,2002
本発明の課題は、細胞表面の消化度を簡便かつ個人の技量に左右されること無く、客観的かつ定量的に検出するための細胞表面消化度検出用化合物を提供することである。さらにそれらを用いた細胞表面消化度検出方法、細胞分離方法、分離された細胞、細胞分離材、及び細胞表面消化度検出用器具を提供することにある。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。まず、細胞膜の構造・成分に深い洞察を加えた。細胞膜は主に非共有結合をした脂質とタンパク質からなる極めて薄いフィルムである。細胞膜は流動的な構造をしており、構成成分の大半は膜平面上を移動できる。脂質分子は厚さ約5nmの切れ目のない二重層を作っており、この脂質二重層に含まれる脂質やタンパク質の種類、組成や割合などによって細胞膜の流動性が異なる。量が最も多いリン脂質(Phospholipid)には、親水性の頭部と2本の疎水性の炭化水素鎖の尾部がある。尾の部分は普通は脂肪酸で出来ており、その長さは様々で(通常、炭素数14〜24個)、通常2本のうち1本はシス型の二重結合を1から数個含み(不飽和脂肪酸)、もう一方は全く二重結合を含まない(飽和脂肪酸)。二重結合があると尾はそこで屈曲する、このため脂肪酸の尾(脂肪族炭化水素基)の長さや飽和度は、分子が相互に密集できる度合い、つまり細胞膜の流動性に影響する。脂質中の脂肪族炭化水素基が短いと炭化水素鎖同士の相互作用が少なくなり、シス型の不飽和二重結合があると鎖がねじれて炭化水素鎖が密に並びにくくなるので、どちらの場合も流動性が上がる。ほとんどの細胞の脂質二重層は、前述のリン脂質のみでできているわけではなく、コレステロールや糖脂質を含んでいる。脂質2重層中のコレステロールは、そのヒドロキシル基がリン脂質分子の極性を持つ頭部近くに来るような並び方をしている。柔軟性に乏しい平面構造をしたステロイド環は、最も極性基に近い炭化水素鎖と相互作用してその部分を固定している。これによりコレステロールは脂質二重層の一部分を変形しにくくし、細胞膜の流動性を低下させる。
ところで、生体膜の基本構造は脂質二重層だが、膜機能の多くはタンパク質が担っている。したがって膜に存在するタンパク質の量や種類は細胞や器官によって大きく変動する。一般の細胞膜では重量のほぼ50%がタンパク質である。脂質分子はタンパク質分子に比べてはるかに小さいので、タンパク質分子1個に対して約50個の脂質分子が存在する。細胞膜表面の膜タンパク質や一部の脂質にはオリゴ糖が結合していることが多く、細胞の外部に接する面のほとんどは糖で構成されており、糖衣(glycocalyx)とか細胞外皮(cell coat)と呼ばれている。
臓器や組織を消化する場合は、一般的にはタンパク分解酵素(プロテアーゼ)を使用する。使用するプロテアーゼの種類や濃度、反応条件によって、細胞膜表面のタンパク質の分解状況、すなわち細胞の消化度は異なる。さらに細胞の種類が異なれば、細胞膜に含まれているタンパク質組成が異なっているため、当然細胞の消化度あるいは、細胞の消化耐性は異なると考えられる。さらに、ノイラミニダーゼ(Neuraminidase)に代表される糖鎖分解酵素による消化においても同様のことが考えられ、細胞の種類が異なれば、細胞膜外表面に発現されている糖鎖組成が異なっているため、当然細胞の消化度あるいは、細胞の消化耐性は異なると考えられる。
以上のような考察から、臓器や組織を消化した場合には、細胞表面のタンパク質や糖鎖が分解されるために、細胞表面のタンパク質や糖衣(glycocalyx)の量が減少あるいは無くなることによって、細胞膜の脂質二重層の部分が直接表面に露呈しやすくなるという仮説のもと、本来、消化度検出には全く無縁と考えられる、細胞膜(とりわけ細胞膜の脂質二重層)と非共有結合する化合物を認識部位として用いることで、消化度の検出が出来るのではないかという大胆な仮説を立てるに至った。そして、この仮説を検証し、本発明の完成に至ったものである。
すなわち本発明は下記の通りである。
(1)下記(a)および(b)の特徴を有する、細胞表面消化度検出用化合物。
(a)細胞膜と非共有結合する環式化合物又は、細胞膜と非共有結合する脂肪族炭化水素化合物を、分子中に少なくとも1個有する
(b)分子中に親水性基を1個以上有する
(2)さらに、以下(c)の特徴を有する請求項1に記載の細胞表面消化度検出用化合物。
(c)材料を結合しうる官能基を上記(a)とは異なる位置に1個以上有する
(3)細胞表面消化度が、細胞を酵素処理によって消化した後の細胞膜外表面の破壊状態、又は細胞の該酵素消化処理耐性に基づく細胞膜外表面の保存状態であることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の細胞表面消化度検出用化合物。
(4)材料が、生理活性物質、プローブ又は担体である上記(2)又は(3)に記載の細胞表面消化度検出用化合物。
(5)環式化合物が、炭素環式化合物である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物。
(6)炭素環式化合物が、ステロイドである上記(5)に記載の細胞表面消化度検出用化合物。
(7)脂肪族炭化水素化合物が、炭素数6〜24の脂肪族炭化水素基を1個以上含有する化合物である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物。
(8)脂肪族炭化水素化合物が、オレイル基又は炭素数17の不飽和脂肪族炭化水素基を1個以上含有する化合物である上記(1)〜(4)又は(7)のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物。
(9)環式化合物と官能基との距離が、6原子以上の親水性部を介在している上記(2)に記載の両親媒性化合物。
(10)異なる位置が、親水性部の末端である上記(2)又は(9)に記載の両親媒性化合物。
(11) 親水性基が、ポリオキシアルキレン基を含有する化合物の残基である上記(1)〜(10)のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物。
(12)細胞表面消化度を検出する方法であって、下記(a)および(b)の工程を含む方法。
(a)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物と細胞とを非共有結合させる工程
(b)上記工程(a)で得られた細胞の細胞表面消化度検出用化合物の結合量を定量する工程
(13)細胞表面消化度が、細胞を酵素処理によって消化した後の細胞膜外表面の破壊状態、又は細胞の該酵素消化処理耐性に基づく細胞膜外表面の保存状態である上記(12)に記載の細胞表面消化度を検出する方法。
(14)細胞の分離方法であって、下記の工程を含む方法。
(a)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物と1種以上の細胞集団とを非共有結合させる工程
(b)上記工程(a)で得られた細胞集団を細胞表面消化度検出用化合物の結合量の差異に基づき分離する工程
(15)細胞表面消化度が、細胞を酵素処理によって消化した後の細胞膜外表面の破壊状態、又は細胞の該酵素消化処理耐性に基づく細胞膜外表面の保存状態であることを特徴とする、上記(14)に記載の細胞の分離方法。
(16)上記(14)又は(15)に記載の細胞の分離方法を用いて分離された細胞。
(17)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物を表面に含有することを特徴とする細胞分離材。
(18)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物を表面に含有することを特徴とする、細胞表面消化度検出用器具。
本発明によれば、固形組織や臓器から酵素消化により細胞を遊離させる際の消化度の検出において、それに使用できる細胞表面消化度検出用化合物を提供することにより、簡便かつ個人差の無い客観的な細胞表面消化度の検出が可能となる。また、本発明の細胞表面消化度検出用化合物を用いた細胞分離方法および細胞分離材によって、安定・迅速・簡単・大量に細胞を分離可能である。
さらに本発明の細胞表面消化度検出用化合物は、別の用途として細胞表面消化度以外の細胞表面の情報を検出できる可能性を持っている。ここでいう細胞表面の情報とは、細胞表面の荷電や、膜タンパク質組成、膜タンパク質の変性状態、膜タンパク質のコンホメーション、細胞膜表面の分極、細胞膜の物質透過性、脂質組成、細胞膜の流動性、糖鎖の組成、親・疎水性、粘弾性、細胞膜の脂質二重層の部分が直接表面に露呈している割合、細胞膜組成の不均一性などが挙げられるがこれに限定されない。特に、細胞膜の流動性、細胞膜の物質透過性、膜タンパク質変性状態、細胞膜組成の不均一性などは、細胞の状態や生存状態を反映していると考えられるが、本発明の細胞表面消化度検出用化合物を用いて、これらを検出したり細胞分離に用いたりすることは、本明細書が公知となった後には当該業者にとって容易に類推することが可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう細胞膜と非共有結合する化合物とは、細胞膜上に存在する分子と共有結合以外で結合する化合物であれば何れも本発明に好適に使用することが出来る。細胞膜と化合物との間の非共有結合を例示すれば、ファンデルワールス力による結合、疎水結合、水素結合、イオン結合、配位結合、などが挙げられる。これらの非共有結合は単独あるいは2種以上の任意の組み合わせであってもよい。また細胞膜と非共有結合する化合物としては、消化液にされられる環境で使われることも考え併せると、安定性の点で非タンパク性の化合物の方が望ましい。非タンパク性の化合物とは、アミノ酸がペプチド結合によって繋がったアミノ酸残基10個以上のペプチドやタンパク質を除く化合物をいう、当然のことながらアミノ酸残基を含まない化合物も非タンパク性の化合物である。好ましくは、以下で詳説する脂肪族炭化水素化合物又は、環式化合物などが挙げられる。その中でもより好ましくは、細胞膜を構成する脂質と類似の構造をもつ化合物が、細胞の脂質2重層に取り込まれることによって安定に非共有結合を形成するため望ましい。
本発明でいう脂肪族炭化水素化合物とは、構造式中に環状の原子配列ない非環式化合物であり、線状の原子配列(枝分かれしてもよい)で表される化合物である。脂肪族炭化水素基としては合成又は天然の脂肪族炭化水素のどちらでもよく、好ましくは炭素数6〜24の飽和又は不飽和の直鎖又は分枝の脂肪族炭化水素基(本明細書において「不飽和」という場合には分子又は官能基に存在する二重結合又は三重結合の数は特に限定されず、二重結合及び三重結合を組み合わせて含んでいてもよい)、さらに好ましくは炭素数11〜18の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基を含有する基であり、より好ましくはオレイル基((CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7CH2-;Oleyl基)又は炭素数17の不飽和脂肪族炭化水素基を含有する基である。この炭化水素基は1種単独であってもよいし、2種以上が組み合わされていてもよい。2種以上を組み合わせる場合には、その組み合わせ方に制限はない。
本発明でいう環式化合物とは、構成原子の全部あるいは一部が環を形成する化合物を指す。環が炭素原子のみからなるもの(炭素環式)、炭素原子および窒素,酸素,硫黄など、異種の原子からなるもの(ヘテロ環式又は複素環式)とに分けられるが、その両者とも本発明には好適である。環の飽和、不飽和結合の位置や数は限定されるものではなく、脂環式や芳香環式といった分類にも限定されない。化合物中の環の数は特に限定されるものではないが、多環式化合物の方が細胞膜内に挿入された場合、平面構造を形成する部分が大きいため細胞膜の流動性を下げる効果を望むことが出来るため細胞膜との非共有結合の安定化の面でより好ましい。
本発明でいう炭素環式化合物とは、飽和又は不飽和の直鎖又は分枝の炭化水素のみを有するいわゆる脂肪族炭化水素は含まず、合成又は天然の環状炭化水素(脂環式、芳香環式を問わない)のことをいう。
本発明でいうステロイドとはシクロペンタノヒドロフェナントレン環(C17H28)をもつ化合物の総称であり、なかでもコレステロールが好適に用いられる。
本発明には環式化合物と脂肪族炭化水素化合物の両方とも好適であるが、さらにこれらを2種以上組み合わせて使用することも可能であり、その組み合わせ方には制限はない。
本発明でいう消化とは、1)臓器や組織、器官あるいはシャーレ上で培養されている培養細胞を、物理的に細断すること、2)タンパク分解酵素(プロテアーゼ)を添加して酵素的に分解して構成細胞や細胞集団を遊離させること、3)糖鎖分解酵素、核酸分解酵素等を添加して同様の操作を行うこと4)酸やアルカリ処理によって化学的に分解して構成細胞や細胞集団を遊離させることなどをいう。対象臓器や組織自体がタンパク分解酵素などを含む場合(例えば膵臓組織にはトリプシンが含まれる)には、自己消化を起こす場合があるがそれも含まれる。消化に使用されるプロテアーゼは限定されないが、組織に含まれる細胞を遊離することができる酵素であればいずれでもよい。大部分の構造タンパク質はコラーゲンよりなるので、コラゲナーゼおよび/又は「コラゲナーゼ」を含む標品が多く用いられる。また細胞培養等で汎用されるプロテアーゼ、例えば、トリプシン又はキモトリプシンからなる標品も有効である。近年では、コラゲナーゼの混合物であるところの「リベラーゼTM」(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)が膵島分離のために好適に用いられている。
本発明の親水性基としては、合成及び天然の水溶性化合物、好ましくは水溶性高分子化合物の残基を用いることができる。親水性基を与える水溶性化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリサッカライド(多糖)、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミノ酸、ポリペプチド、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸及びポリアクリルアミド等が挙げられるがこれに限定されない、好ましくはポリアルキレングリコール、ポリサッカライド、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドであり、より好ましくはポリアルキレングリコールであり、中でもポリエチレングリコールが好適に用いられる。
具体的に、本発明の細胞表面消化度検出用化合物とは、脂肪族炭化水素化合物としてOleyl基を1つPEG末端に有するSUNBRIGHT OE-020CS、SUNBRIGHT OE-040CS、SUNBRIGHT OE-080CS(Oleyl-oxy-poly(ethylene glycol)-succinyl-N-hydroxy-succinimidyl ester;示性式C18H35O(CH2CH2O)nCOCH2CH2COONC4H4O2)、環式化合物としてコレステロールを1つPEG末端に有するSUNBRIGHT CS-020(Cholesteryl-oxy-poly(ethylene glycol);示性式C27H45O(CH2CH2O)nH) 、SUNBRIGHT CS-010(Cholesteryl-oxy-poly(ethylene glycol);示性式C27H45O(CH2CH2O)nH)、SUNBRIGHT CS-050(Cholesteryl-oxy-poly(ethylene glycol);示性式C27H45O(CH2CH2O)nH)(以上、日本油脂社製)、非イオン性多糖であるプルラン分子中に環式化合物としてコレステロールを複数有するLIPIDURE CP-100T(Cholesterol Pullulan)(日本油脂社製)、又は、環式化合物のPEG末端の水酸基をカルボキシル基に変換した、化合物などがあげられる。
ここで、分離方法の1例として、後述する水性2相分配をする場合には、細胞表面消化度検出用化合物は、分子中に親水性基として含むPEG分子中のPEG繰り返しunitが多い方が、細胞表面がPEG鎖で覆われやすくなり望ましい。
さらに、細胞膜と非共有結合する部分の環式化合物として、コレスタノールや植物ステロールを末端に有し、親水性基としてポリオキシエチレンを有する非イオン性界面活性剤や乳化剤、脂肪族炭化水素としてエルカ酸の炭化水素基やステアリル基を末端に有し、親水性基としてポリオキシエチレンを有する非イオン性界面活性剤や乳化剤などが挙げられ、これらはポリオキシエチレンの部分の分子量が異なるものが、複数市販されており、また新たに合成することも可能である。
本発明でいう細胞表面消化度とは、上記に記載された消化を行ったときの細胞表面のタンパク質や糖鎖の分解の程度を表し、とりわけ細胞を酵素処理によって消化した後の細胞膜外表面の破壊状態、又は細胞の該酵素消化処理耐性に基づく細胞膜外表面の保存状態を示す。上記細胞膜外表面の破壊状態、又は酵素消化処理耐性に基づく細胞膜外表面の保存状態は、該消化前後で、細胞表面のタンパク質や糖鎖がどれだけ破壊されたか、又は、どれだけ保存されたかを示すものである。これらを検出する方法としては特に限定されないが、該消化前後で、細胞膜を構成する脂質分子と類似の化合物が細胞膜に挿入される割合として検出する方法などが好適に用いられる。これは細胞膜の脂質二重層の部分が直接表面に露呈している割合を定量化したものと考えられる。
本発明でいうアルキレングリコールは炭素数2〜4、好ましくは炭素数2又は3のオキシアルキレン基であり、例えばオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられる。これらの中で特にオキシエチレン基が好ましい。分子内には複数のオキシアルキレン基が存在するが、このオキシアルキレン基は1種単独であってもよく、あるいは2種以上が組み合わされていてもよい。2種以上が組み合わされる場合には、その組み合わせ方に制限はない。またオキシアルキレン基はブロック状であってもランダム状であってもよい。ただし、全オキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の比率が低いと水溶性が低下する場合があるので、全オキシアルキレン基に対するオキシエチレン基の比率は50〜100モル%であることが好ましい。
本発明でいう材料とは、生理活性物質やプローブや担体のことである。
生理活性物質とは何らかの生物学的機能を有する物質のことで、例えば、抗体、接着分子、サイトカイン、成長因子、酵素阻害剤やレセプター・アンタゴニスト又はアゴニストなどに限らず、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、蛋白質、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、糖蛋白質、単糖類、多糖類、及びビタミン類など、低分子物質から高分子物質まで種々の物質を用いることができる。
また、プローブとは、例えば、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、蛋白質、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、酵素基質、金属イオンなどを検出するための物質のことであり、蛍光プローブ、発光プローブ、磁性プローブ、放射性プローブ、及び金コロイド等の微粒子プローブ等が用いられる。
担体とは、通常、細胞よりも大きい、細胞を固定するための固体であり(細胞固定型マイクロアレイがその代表例)、材質としては入手しやすさや安定性、安全性、成形性および滅菌性に優れ、細胞毒性が低いという点でポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン等の合成高分子、アガロース、セルロース、酢酸セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸塩等の天然高分子、ヒドロキシアパタイト、ガラス、アルミナ、チタニア等の無機材料、ステンレス、チタン、アルミニム等の金属があげられるが、これに限定されるものではない。
更に、上記担体の表面を改質した材料も好適に使用することができ、表面改質の例を例示するなら、タンパク質や合成高分子を該材料表面に塗布することや、材料表面からのグラフト重合、プラズマやコロナ処理、荷電を有する重合体を材料との静電相互作用によって材料表面に結合させるなどの方法によって改質できるがこれに限定されない。また、担体の形状としては平板、メッシュ、織布、不織布、スポンジ状構造体、粒子集合体等があげられ、これらをそのまま、あるいは積層体、3次元成型体(ブロック状)等の形態で用いられる。例えば、担体として不織布などを用い、これに本発明の表面消化度検出用化合物を固定化し、フィルターを作製することができ、このフィルターを用いれば、細胞を消化度の違いによって分離することができる。
例えば、担体として不織布や多孔質体などを用い、これに本発明の細胞表面消化度検出用化合物を固定化し、細胞を接触させることが出来るフィルターや細胞分離材表面を作ることが可能である。前述の細胞分離材やフィルターを液体の導入口と導出口をもった容器内に充填し、そこへ細胞懸濁液を通過させることにより、細胞を消化度の違いによって分離することが出来る。上述の細胞懸濁液には固形臓器の酵素消化液など、複数の細胞種が含まれていても良く、細胞の消化耐性によって種類の異なるも分離可能である。
また、容器に充填しない状態でも、該細胞分離材と細胞とを接触させることによって、消化度の異なる細胞を該細胞分離材表面に、選択的に接着、固定、或いは検出することが可能である。
本発明でいう材料を結合しうる官能基とは、あらゆる形態の結合を材料との間で形成しうるものが含まれ、ファンデルワールス力による結合、疎水結合、水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合などを材料と本発明の両親媒性化合物との間で形成しうる官能基である。望ましくは材料表面と反応し共有結合を形成するものであり、例えば、コハク酸イミド基、マレイミド基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、グリシジル基又はチオール基等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
また、両親媒性化合物中の材料を結合しうる官能基は、細胞膜と相互作用する環式化合物部分とは同一分子中でも親水性部を介してなるべく離れた位置にあることが望ましい。説明のために例示するなら、材料を結合しうる官能基と細胞膜と相互作用する化合物部分との距離は6原子以上の親水性部を介在させる方が望ましく、また両者の数は1分子中にそれぞれ1個以上存在すればよい。より好ましくは材料を結合しうる官能基は親水性部の末端に配置される。
本発明の細胞は、細胞表面消化度検出用化合物の対象細胞への非共有結合量の相違によって分離されたことを特徴としている。ここで、細胞としては、用途・目的に応じ適宜選択するが、例えばヒトやヒト以外の動物の細胞、細菌、真菌、ウイルスなどがあげられ、正常細胞に限定されることはなく、腫瘍細胞や遺伝子改変された細胞も含み、また生きている細胞に限定されることはなく、死細胞も含む。さらには活性化状態が異なる細胞なども含まれる。また、液体組織、固形臓器組織の中にある細胞のいずれも含まれる。また、固形臓器中にわずかに存在するとされている、成人幹細胞・組織幹細胞などや、ホルモンなどを産生する内分泌細胞。さらには移植することによって生体内で機能する膵島などの細胞集団も含まれる。
本発明による細胞表面消化度の検出方法および細胞分離方法は、一つの形態として、細胞表面消化度検出用化合物と細胞とを非共有結合させる工程(工程(1))と工程(1)で得られた細胞の細胞表面消化度検出用化合物の結合量を定量する工程(工程(2))を含んでいる。まず、この工程(1)では、細胞表面消化度検出用化合物と細胞とを接触させればよい。この際、材料として生理活性物質やプローブが結合した細胞表面消化度検出用化合物、および材料が結合していない細胞表面消化度検出用化合物の場合には臨界ミセル形成濃度(以下CMCと略す)の0.1〜1000倍、好ましくはそのCMCの1〜500倍、より好ましくはそのCMCの10〜100倍の濃度になるように細胞用培地や等張液などに希釈して添加することができる。材料としての担体が結合した細胞表面消化度検出用化合物を用いた場合には、任意の濃度の細胞懸濁液を接触させることが出来る。
細胞への結合条件は、通常は0〜40℃で行い、1秒間〜120分間、好ましくは20〜37℃で5秒間〜30分間行う。この工程において、細胞表面消化度検出用化合物以外の添加剤を添加してもよい。細胞膜に細胞表面消化度検出用化合物を結合させた後は、細胞に等張液を添加して洗浄することが好ましい。用いる等張液としては細胞に傷害を与えない溶媒であれば特に限定されないが、リン酸緩衝液生理食塩水、細胞培養液等の等張液を用いることができる。
本発明による細胞表面消化度の検出方法および細胞分離方法は、上述した工程(1)、(2)の他に、工程(1)で得られた反応生成物と材料とを結合させる工程(工程(3))を含んでも良い。この反応工程の詳細も上述と同様の条件で行われる。
本発明による細胞表面消化度の検出方法および細胞分離方法の、更にもう一つの形態は、前述の工程を逆にすることによっても可能である。すなわち(1)細胞表面消化度検出用化合物と材料とを結合させる工程を先に行い、次に、(3)工程(1)で得られた反応生成物と細胞とを非共有結合させる工程を含むことを特徴とする。ここで(1)の工程で用いる溶媒の種類は、反応に関与しない溶媒であれば特に制限されないが、純水、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッドの緩衝液等の緩衝液あるいはその等張液、あるいは有機溶剤又は上記の水性媒体と有機溶剤との混合物などを用いることができ、金属イオンなどを含有していても良い。これらは単独溶媒系でも混合溶媒系でもどちらでもよい。その際、材料を変性、失活、溶解(担体の場合)しないものを選択することが必要である。たとえば、担体がポリスチレンの場合を例にあげると、ほとんどの有機溶媒に耐性が無い。
反応温度は、材料が変性、失活、溶解(担体の場合)しない温度であれば特に限定されないが、例えば、0〜100℃、さらに0〜40℃が好ましい。反応時間は通常は1分〜48時間程度であり、0.5〜16時間が好ましい。
材料が生理活性物質やプローブなどの場合には(1)の反応工程後は、透析、限外ろ過、ゲルろ過等の通常の蛋白質精製法などを応用して反応生成物を精製することができる。材料が担体の場合には(1)の反応工程後は、水溶液や有機溶媒などを用いて洗浄することによって精製できる。また、反応生成物の精製を行わずに工程(3)に用いてもよい。工程(3)においては工程(1)で得られた反応生成物と細胞とを接触させれば良く、前述した細胞表面消化度検出用化合物と細胞とを先に非共有結合させる場合と同様である。
本発明による細胞表面消化度の検出方法および細胞分離方法は、細胞への細胞表面消化度検出用化合物の結合量を定量する工程(工程(2))を含む。この結合量の定量方法は、特に限定されるものではないが、敢えて例示すると以下の通りである。材料として生理活性物質を結合したものの場合は、酵素活性などによって定量出来る。また、材料としてプローブを結合したものの場合は、磁気や放射性、蛍光、発光などによって定量出来る。材料として担体を結合したものの場合は、担体への細胞の補足能や接着能を見ることにより定量可能であり、この場合は細胞分離も容易に行うことが出来る。さらに、材料を結合していない場合でも定量は可能であり、細胞表面消化度検出用化合物が非共有結合した細胞を、例えば、水性2相分配する事などによって結合量に対応した細胞の分配が出来るため、定量と分離が達成される。
水性2相分配法とは、ある種の水溶性高分子の水溶液を混合した場合に、互いに混じり合わない2液の相に分離する現象を利用して、上の相あるいは下の相と細胞との親和性の相違を検出する方法である。水溶性高分子の種類・濃度・塩組成・pHなどを変化させることによって、上の相と下の相との間に親水性・疎水性や荷電の差異などを付与することが出来るため、細胞表面の物理化学的差異を見積もることが出来る。この方法の応用として、脂肪酸を共有結合したPEGを添加することによって、脂肪酸と細胞との親和性を測定することが出来る。すなわち脂肪酸を共有結合したPEGは、脂肪酸部分を細胞膜に挿入し細胞をPEGで覆うため、細胞のPEG相への親和性を著しく高める。このためPEG相に分配された細胞を定量することによって、脂肪酸部分の細胞との非共有結合能を定量することが出来る。(参考文献として、生化学実験法13 細胞分離法 東京化学同人 1991を引用する)
ここで、親水性基部分としてPEGを使用した細胞表面消化度検出用化合物を、上述のような水性2相分配系に添加することによって、「細胞膜と非共有結合する化合物」と細胞との非共有結合能を定量することが出来る。また、水性2相分配法は、分析と同時に、細胞の分離も実施例として例示することが出来る。ただし、本発明の細胞表面消化度検出方法および細胞分離方法は、水性2相分配法を使用することには限定されず、他にも公知の方法によって分離することができる。
本発明の細胞表面消化度検出用化合物・検出方法や細胞分離方法・細胞分離材により得られた、細胞は、そのまま(特に担体に結合された状態の場合)、又は必要に応じて、さらなる分離精製(洗浄を含む)、培養、活性化、増幅、遺伝子導入、凍結保存等の処理が施された後、細胞生物学や免疫学等の基礎科学実験や、あるいは病気の診断、治療などに用いられる。
本発明で使用しているAR42J細胞は、ラットの膵腫瘍から樹立された細胞株で、膵腺房細胞のマーカーであるアミラーゼを産生分泌する細胞である。同時に導管のマーカーである炭酸脱水素酵素を発現するとともにシナプトフィジンやニューロフィラメントなどの神経マーカーも発現しており、腺房・導管・神経内分泌細胞としての性質を併せ持つ移行型の細胞である。AR42J-B13は群馬大学生体調節研究所小島至教授が、AR42J細胞をサブクローニングして得た細胞であり、同教授より入手可能である。またAR42J-B13細胞はActivin A + HGFといった適当な刺激を与えるとインスリンを産生する細胞に分化誘導が可能であり、膵幹様細胞としての性質も持つ(Mashima H, Shibata H, Mine T and Kojima I: Endocrinology 137:3969-3976,1996)
本発明でいう「細胞分離材」とは、細胞表面消化度検出用化合物を表面に含有する材料をいい、材料は前述した通りである。
本発明でいう「検出用器具」とは、細胞分離材を備えた器具をいい、例えば、細胞表面消化度を検出するためのセンサーなどがあげられる。

以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
以下に示す本実施例は、水性2相分配法を用いて、本発明による細胞表面消化度検出用化合物により、細胞表面の消化度の検出・細胞分離が可能であることを示したものである。
本明細書中においてポリエチレングリコール(PEG)、およびポリエチレンオキサイド(PEO)、およびポリオキシエチレン(POE)は、同様の意味として用い-CH2CH2O-を繰り返し単位として有する親水性基であり、PEG繰り返しunitとは(-CH2CH2O-)を示す。
[実施例1]
(マウス線維芽細胞3T3-L1細胞およびラット膵腫瘍由来細胞AR42J-B13細胞のトリプシン消化による細胞表面消化度の検出および分離を行った。)
21.5wt% Dextran(Dextran-T500;アマシャムファルマシア)の水溶液1.045g、40wt% ポリエチレングリコール(PEG8000;SIGMA)の水溶液0.5g、1M NaCl 0.25g、200mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.4) 0.25gおよび蒸留水2.955gを混合して、終濃度4.5% Dextran,4.0% PEG,10mM NaCl,50mM リン酸Na緩衝液 pH=7.4の水性2相分配系を作製した。ここに10mg/mlの濃度の細胞表面消化度検出用化合物を添加して、終濃度0.0003wt%とした。使用した細胞表面消化度検出用化合物は、脂肪族炭化水素化合物としてOleyl基を1つPEG末端に有するSUNBRIGHT OE-020CS(Oleyl-oxy-poly(ethylene glycol)-succinyl-N-hydroxy-succinimidyl ester;示性式C18H35O(CH2CH2O)nCOCH2CH2COONC4H4O2) :日本油脂社製,n=約40,Mw=約2000(以下:脂肪族化合物Aと記載)、および環式化合物としてコレステロールを1つPEG末端に有するSUNBRIGHT CS-020(Cholesteryl-oxy-poly(ethylene glycol);示性式C27H45O(CH2CH2O)nH) :日本油脂社製,n=約37,Mw=約2000(以下:環式化合物Aと記載)である。水性2相分配系に添加した細胞表面消化度検出用化合物は、分子中に親水性基としてPEGを含むが、PEG分子中のPEG繰り返しunitが多い方が、細胞表面がPEG鎖で覆われやすくなり、上相(PEG相)への分配が多くなることが予測される為、ほとんど同じPEG繰り返しunit数(分子としてもほぼ同様な分子量)を有するものを使用した。
AR42J-B13細胞(群馬大学生体調節研究所小島至教授より供与をうけた)は、HEPES-NaOH(20mM)(Sigma社製)、5mMのNaHCO3(Sigma社製)、ペニシリンーストレプトマイシン(米国、GIBCO-BRL社製)、および10%のFBS(GIBCO-BRL社製)を含むDMEM培地(pH7.4)(Sigma社製D-5523)で継代培養した。3T3-L1(ATCC:CCL-92-1)細胞は、HEPES-NaOH(20mM)(Sigma社製)、ペニシリンーストレプトマイシン(米国、GIBCO-BRL社製)、および10%のFBS(GIBCO-BRL社製)を含むDMEM培地(pH7.4)(GIBCO BRL社製11995-065)で継代培養した。実験時は組織培養用dish上の両細胞を、生理的リン酸緩衝食塩液pH=7.4 (以下PBS(-)と記載)で洗浄後、37℃に保温した0.05%トリプシン-0.53mM EDTA-4Na液(以下:トリプシン液と記載;GIBCO-BRL社製)を添加し、タンパク分解酵素であるトリプシン消化条件を(0,2,5min ; 37℃)変えて処理した。その後、血清(FBS)含有培地を添加することによって、トリプシンの作用を止め、さらにピペットによる水流(以下ピペッティングと記載)で組織培養用dish底面の細胞を剥離し回収した。トリプシン処理0minはトリプシン処理を行わないで細胞を回収したことを示す。AR42J-B13細胞のみが組織培養用dishへの接着性が弱く、このような回収が可能である。上記の各トリプシン処理細胞をPBS(-)に5.0×106 cells/mlになるように再懸濁した。これをそれぞれの水性2相分配系に50μlずつ添加した後、相系を混合、室温にて40min静置して2相に分離させた。分配した上相を一定量サンプリングし、細胞数を仕込んだ全細胞数に対するパーセントとして、CyQUANT(モレキュラープローブ社)を用いて添付の取扱説明書に従って定量化した。この際、上相および下相のどちらにも分配されていない細胞は界面に存在している。水性2相分配系に添加した細胞表面消化度検出用化合物中の、細胞と非共有結合する部位と細胞膜との親和性が高いほど、細胞表面消化度検出用化合物が細胞膜に共有結合する分子数が多くなり、細胞表面がより多くのPEG鎖で覆われるので、上相(PEG相)への分配が多くなる。したがって、分子中のPEG繰り返しunitをほぼ同数(ほぼ同じ分子量、この場合Mw=約2000)で比較した場合には、上相への分配が多いほど、より多くの分子数の細胞表面消化度検出用化合物が細胞膜と非共有結合していると判断できる。さらに、上相への分配は、細胞への細胞表面消化度検出用化合物の結合数に基づく細胞の分離でもある。これらの結果を表1に示す。
トリプシン消化した細胞では、おおむね本発明の細胞表面消化度検出用化合物である脂肪族化合物A又は環式化合物Aの水性2相分配系への添加によって、上相(PEG相)への分配が増加している。これによって、細胞表面消化度の検出および細胞の分離が出来ることが示された。AR42J-B13(トリプシン消化なし)の場合には、脂肪族化合物A又は環式化合物Aの、何れの細胞表面消化度検出用化合物を水性2相分配系へ添加しても、ほとんど上相(PEG相)への分配が増加しないこと、およびAR42J-B13(5minトリプシン消化)の場合には、細胞表面消化度検出用化合物の添加によって、上相(PEG相)への分配が増加していることにより、本発明の細胞表面消化度検出用化合物により細胞膜表面の消化状況が検出可能で、さらに細胞の分離が可能なことが示された。
[実施例2]
(AR42J-B13細胞のトリプシン消化による細胞表面消化度の検出および分離を行った。また複数実験者とサンプルにて実験を行い、検出および分離の精度を確認した。)
実施例1と同様に、終濃度4.5% Dextran,4.0% PEG,10mM NaCl,50mM リン酸Na緩衝液 pH=7.4の水性2相分配系を作製した。ここに10mg/mlの濃度の細胞表面消化度検出用化合物を添加して、終濃度0.0003wt%とした。使用した細胞表面消化度検出用化合物は、実施例1に記載した、脂肪族化合物A、環式化合物Aおよび、メチル基をPEG末端に有する(細胞膜との非共有結合能が非常に弱い化合物をPEG末端に有する)比較対照としてのSUNBRIGHT ME-020CS(Methoxy-poly(ethylene glycol)-succinyl-N-hydroxy-succinimidyl ester;示性式CH3O(CH2CH2O)nCOCH2CH2COONC4H4O2) :日本油脂社製,n=約45,Mw=約2000(以下:メトキシPEGと記載)である。水性2相分配系に添加した細胞表面消化度検出用化合物は、分子中に親水性基としてPEGを含むが、PEG分子中のPEG繰り返しunitが多い方が、細胞表面がPEG鎖で覆われやすくなり、上相(PEG相)への分配が多くなることが予測される為、ほとんど同じPEG繰り返しunit数(分子としてもほぼ同様な分子量)を有するものを使用した。
実施例1と同様に、AR42J-B13細胞を継代培養した。実験時は組織培養用dish上の細胞をPBS(-)で洗浄後、37℃に保温したトリプシン液を添加し、タンパク分解酵素であるトリプシンで10min,37℃で処理したものと、トリプシン処理していないものを用意した。その後、血清(FBS)含有培地を添加することによって、トリプシンの作用を止め、さらにピペットによる水流(以下ピペッティングと記載)で組織培養用dish底面の細胞を剥離し回収した。トリプシン処理および未処理細胞をPBS(-)に5.0×106 cells/mlになるように再懸濁した。これをそれぞれの水性2相分配系に50μlずつ添加した後、相系を混合、室温にて40min静置して2相に分離させた。分配した上相を一定量サンプリングし、細胞数を仕込んだ全細胞数に対するパーセントとして、CyQUANT(モレキュラープローブ社)を用いて添付の取扱説明書に従って定量化した。上記の水性2相分配の実験は、別々の2人の実験者が同じ細胞を用いて、それぞれn=1とn=2で行い、これらを合わせたn=3の結果として平均値±標準偏差(%)の形で解析した。これらの結果を表2に示す。
10minトリプシン消化したAR42J-B13細胞では、本発明の細胞表面消化度検出用化合物である脂肪族化合物A又は環式化合物Aの水性2相分配系への添加によって、上相(PEG相)への分配が大幅に増加している。また、10minトリプシン消化したAR42J-B13細胞を本発明の細胞表面消化度検出用化合物を用いて、検出および細胞分離する場合の精度を見るため、別々の2人の実験者が同じ細胞を用いて、それぞれn=1とn=2で行い、これらを合わせたn=3の結果をさらに解析した。測定値のバラツキを示す統計量である変動係数:CV(%);(標準偏差/算術平均)×100、を算出したところ、脂肪族化合物Aの水性2相分配系での添加ではCV=10.9%、環式化合物Aの水性2相分配系での添加ではCV=8.2%であり、多くても1割程度であるため、複数の実験者が別々に行っても実験精度としては良好であることが示された。このため、本発明の細胞表面消化度検出用化合物を使用することによって、消化度を簡便かつ実験者個人の技量に左右されること無く、客観的かつ定量的に検出できることが示された。
また、メチル基をPEG末端に有する(細胞膜との非共有結合能が非常に弱い化合物をPEG末端に有する)比較対照としてのメトキシPEGを水性2相分配系に添加した場合や無添加場合には、上述のような効果は認められない。本発明の細胞表面消化度検出用化合物により細胞膜表面の消化状況が検出可能で、さらに細胞の分離が可能なことが示された。
[実施例3]
(3T3-L1細胞およびAR42J-B13細胞のリベラーゼ消化による細胞表面消化度の検出および分離を行った。)
実施例1と同様に、終濃度4.5% Dextran,4.0% PEG,10mM NaCl,50mM リン酸Na緩衝液 pH=7.4の水性2相分配系を作製した。ここに10mg/mlの濃度の細胞表面消化度検出用化合物を添加して、終濃度0.0003wt%とした。使用した細胞表面消化度検出用化合物は、実施例1に記載した、脂肪族化合物A、環式化合物Aである。水性2相分配系に添加した細胞表面消化度検出用化合物は、分子中に親水性基としてPEGを含むが、PEG分子中のPEG繰り返しunitが多い方が、細胞表面がPEG鎖で覆われやすくなり、上相(PEG相)への分配が多くなることが予測される為、ほとんど同じPEG繰り返しunit数(分子としてもほぼ同様な分子量)を有するものを使用した。
実施例1と同様に、AR42J-B13細胞を継代培養した。実験時は組織培養用dish上の細胞をPBS(-)で洗浄後、血清(FBS)含有培地でピペッティングを行い組織培養用dish底面の細胞を剥離し回収した。終濃度0.33mg/mlに調整したLiberaseTMPI(以下リベラーゼと記載;ロシュ・ダイアグノシティックス社製)のハンクス平衡塩液(インビトロジェン社製;以下HBSSと記載)で、0.5〜2.5×107cells/ml, 37℃,5min or 10minの条件で酵素消化した。処理後の細胞を冷血清含有培地で一回洗浄することによってリベラーゼの作用を止めた後、PBS(-)に5.0×106 cells/mlになるように再懸濁した。リベラーゼ消化なしの細胞はリベラーゼを添加しないHBSSで同様に処理した。3T3-L1(ATCC:CCL-92-1)細胞も実施例1と同様に継代培養した。実験時は組織培養用dish上の細胞をPBS(-)で洗浄後、37℃に保温したトリプシン液で2分間処理後、血清(FBS)含有培地を添加することによって、トリプシンの作用を止め、ピペッティングを行い組織培養用dish底面の細胞を剥離し回収した。これを上記のAR42J-B13細胞と同様にリベラーゼ酵素消化したのちPBS(-)に5.0×106 cells/mlになるように再懸濁した。これらをそれぞれの水性2相分配系に50μlずつ添加した後、相系を混合、室温にて40min静置して2相に分離させた。分配した上相を一定量サンプリングし、細胞数を仕込んだ全細胞数に対するパーセントとして、CyQUANT(モレキュラープローブ社)を用いて添付の取扱説明書に従って定量化した。
これらの結果を表3に示す。
本発明の細胞表面消化度検出用化合物である脂肪族化合物A又は環式化合物Aの水性2相分配系への添加によって、リベラーゼ消化した細胞では、リベラーゼ消化なしに比べて更に、上相(PEG相)への分配が増加している。3T3-L1(リベラーゼ消化なし)においても脂肪族化合物A又は環式化合物Aの添加で上相(PEG相)への分配が認められるのは、細胞調製の際に、トリプシン処理を行わないと細胞を回収できないためである。これによって、本発明の細胞表面消化度検出用化合物により、リベラーゼ消化での細胞膜表面の消化状況が検出可能で、さらに細胞の分離が可能なことが示された。また、両細胞ともにリベラーゼ処理5minと10minでの差異があまりないことにより、細胞の表面は5minと10minリベラーゼ処理ではあまり変化していないことが判る。
[実施例4]
(AR42J-B13細胞およびラット膵島腫瘍由来株化インスリノーマ細胞:RINr細胞のトリプシン消化後さらにリベラーゼ消化した場合の消化による細胞表面消化度の検出および分離を行った。)
実施例1と同様に、終濃度4.5% Dextran,4.0% PEG,10mM NaCl,50mM リン酸Na緩衝液 pH=7.4の水性2相分配系を作製した。ここに10mg/mlの濃度の細胞表面消化度検出用化合物を添加して、終濃度0.0003wt%とした。使用した細胞表面消化度検出用化合物は、実施例1に記載した、脂肪族化合物A、環式化合物Aである。水性2相分配系に添加した細胞表面消化度検出用化合物は、分子中に親水性基としてPEGを含むが、PEG分子中のPEG繰り返しunitが多い方が、細胞表面がPEG鎖で覆われやすくなり、上相(PEG相)への分配が多くなることが予測される為、ほとんど同じPEG繰り返しunit数(分子としてもほぼ同様な分子量)を有するものを使用した。
実施例1と同様に、AR42J-B13細胞を継代培養した。実験時は組織培養用dish上の細胞をPBS(-)で洗浄後、37℃に保温したトリプシン液で2分間処理後、血清(FBS)含有培地を添加することによって、トリプシンの作用を止め、ピペッティングを行い組織培養用dish底面の細胞を剥離し回収した。終濃度0.33mg/mlに調整したLiberaseTMPI(以下リベラーゼと記載;ロシュ・ダイアグノシティックス社製)のハンクス平衡塩液(インビトロジェン社製;以下HBSSと記載)で、0.5〜2.5×10E7cells/ml, 37℃,10min or 30minの条件で酵素消化した。処理後の細胞を冷血清含有培地で一回洗浄することによってリベラーゼの作用を止めた後、PBS(-)に5.0×106 cells/mlになるように再懸濁した。リベラーゼ消化なしの細胞はリベラーゼを添加しないHBSSで同様に処理した。RINr細胞(ラット膵島腫瘍由来株化インスリノーマ細胞;参考文献:Proceedings National Academy of Science, USA 77(6) p3519-3523)は、HEPES-NaOH(20mM)(Sigma社製)、ペニシリンーストレプトマイシン(GIBCO-BRL社製)、および5%のFBS(GIBCO-BRL社製)を含むRPMI1640培地(pH7.4)(SIGMA社製R-8758)で継代培養した。実験時は組織培養用dish上の細胞をPBS(-)で洗浄後、37℃に保温したトリプシン液で2分間処理後、血清(FBS)含有培地を添加することによって、トリプシンの作用を止め、ピペッティングを行い組織培養用dish底面の細胞を剥離し回収した。これを上記のAR42J-B13細胞と同様にリベラーゼ酵素消化したのちPBS(-)に5.0×106 cells/mlになるように再懸濁した。これらをそれぞれの水性2相分配系に50μlずつ添加した後、相系を混合、室温にて40min静置して2相に分離させた。分配した上相を一定量サンプリングし、細胞数を仕込んだ全細胞数に対するパーセントとして、CyQUANT(モレキュラープローブ社)を用いて添付の取扱説明書に従って定量化した。これらの結果を表4に示す。
本発明の細胞表面消化度検出用化合物である脂肪族化合物A又は環式化合物Aの水性2相分配系への添加によって、上相(PEG相)への分配が増加している。これによって、本発明の細胞表面消化度検出用化合物により細胞膜表面の消化状況が検出可能で、さらに細胞の分離が可能なことが示された。また、両細胞ともにリベラーゼ処理10minと30minでは後者の方が若干細胞膜表面の消化が進んでいることが判る。
[実施例5]
(複数の細胞種を同様に消化(トリプシン消化後さらにリベラーゼ消化)した場合の、各細胞の消化耐性に基づく細胞表面消化度の検出および分離を行った。)
実施例1と同様に、終濃度4.5% Dextran,4.0% PEG,10mM NaCl,50mM リン酸Na緩衝液 pH=7.4の水性2相分配系を作製した。ここに10mg/mlの濃度の細胞表面消化度検出用化合物を添加して、終濃度0.0003wt%とした。使用した細胞表面消化度検出用化合物は、実施例1に記載した、脂肪族化合物A、環式化合物Aである。水性2相分配系に添加した細胞表面消化度検出用化合物は、分子中に親水性基としてPEGを含むが、PEG分子中のPEG繰り返しunitが多い方が、細胞表面がPEG鎖で覆われやすくなり、上相(PEG相)への分配が多くなることが予測される為、ほとんど同じPEG繰り返しunit数(分子としてもほぼ同様な分子量)を有するものを使用した。
HEL(ヒト胎児肺由来正常2倍体線維芽細胞)は、HEPES-NaOH(20mM)(Sigma社製)、ペニシリンーストレプトマイシン(GIBCO-BRL社製)、および10%のFBS(GIBCO-BRL社製)、非必須アミノ酸液(GIBCO-BRL社製)、ピルビン酸ナトリウム液(GIBCO-BRL社製)、L-glutamin液(GIBCO-BRL社製)を含むBME培地(pH7.4)(SIGMA社製B-1522)で継代培養した。3T3-L1細胞およびAR42J-B13細胞は実施例1と同様に継代培養した。NIH-3T3(ATCC:CRL-1658;マウス株化線維芽細胞)は3T3-L1細胞と同じ方法にて継代培養した。RINrは実施例4と同様に継代培養した。上記の5種の細胞は全て下記に示す条件で消化した。すなわち組織培養用dish上の細胞をPBS(-)で洗浄後、37℃に保温したトリプシン液で2分間処理後、血清(FBS)含有培地を添加することによって、トリプシンの作用を止め、ピペッティングを行い組織培養用dish底面の細胞を剥離し回収した。続いて終濃度0.33mg/mlに調整したLiberaseTMPI(以下リベラーゼと記載;ロシュ・ダイアグノシティックス社製)のハンクス平衡塩液(インビトロジェン社製;以下HBSSと記載)で、0.5〜2.5×107cells/ml, 37℃,30minの条件で酵素消化した。処理後の細胞を冷血清含有培地で一回洗浄することによってリベラーゼの作用を止めた後、PBS(-)に5.0×106 cells/mlになるように再懸濁した。これらをそれぞれの水性2相分配系に50μlずつ添加した後、相系を混合、室温にて40min静置して2相に分離させた。分配した上相を一定量サンプリングし、細胞数を仕込んだ全細胞数に対するパーセントとして、CyQUANT(モレキュラープローブ社)を用いて添付の取扱説明書に従って定量化した。これらの結果を表5に示す。
本発明の細胞表面消化度検出用化合物である脂肪族化合物A又は環式化合物Aの水性2相分配系への添加によって、全ての細胞において、上相(PEG相)への分配が増加している。全く同様な消化を行っても、細胞の種類によって上相(PEG相)への分配率が異なっている。これは、細胞によって酵素消化後の細胞膜外表面のタンパク質や糖鎖の破壊状態、あるいはその保存状態が異なるためと考えられる。したがって細胞の消化耐性に基づいて、細胞膜表面の状況が異なっていることが判る。これによって、本発明の細胞表面消化度検出用化合物により、細胞の種類による消化耐性の相違が検出可能で、さらにそれに基づく細胞の種類の分離が可能なことが示された。
本発明によれば、固形組織や臓器から酵素消化により細胞を遊離させる際の消化度の検出に使用できる細胞表面消化度検出用化合物を提供することにより、簡便かつ個人差の無い客観的な細胞表面消化度の検出が可能となる。また、本発明の細胞表面消化度検出用化合物を用いた細胞分離方法および細胞分離材によって、安定・迅速・簡単・大量に細胞を分離可能である。
従って本発明を利用して検出された細胞表面消化度の情報や、分離された有用細胞は、細胞生物学や免疫学等の基礎化学実験、あるいは病気の診断、治療など広範に用いることが可能で、基礎医科学や再生医療の発展に貢献すること極めて大である。

Claims (18)

  1. 下記(1)および(2)の特徴を有する、細胞表面消化度検出用化合物。
    (1) 細胞膜と非共有結合する環式化合物又は、細胞膜と非共有結合する脂肪族炭化水素化合物を、分子中に少なくとも1個有する
    (2)分子中に親水性基を1個以上有する
  2. さらに、以下(3)の特徴を有する請求項1に記載の細胞表面消化度検出用化合物。
    (3)材料を結合しうる官能基を上記(1)とは異なる位置に1個以上有する
  3. 細胞表面消化度が、細胞を酵素処理によって消化した後の細胞膜外表面の破壊状態、又は細胞の該酵素消化処理耐性に基づく細胞膜外表面の保存状態であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の細胞表面消化度検出用化合物。
  4. 材料が、生理活性物質、プローブ又は担体である請求項2又は3に記載の細胞表面消化度検出用化合物。
  5. 環式化合物が、炭素環式化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物。
  6. 炭素環式化合物が、ステロイドである請求項5に記載の細胞表面消化度検出用化合物。
  7. 脂肪族炭化水素化合物が、炭素数6〜24の脂肪族炭化水素基を1個以上含有する化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物。
  8. 脂肪族炭化水素化合物が、オレイル基又は炭素数17の不飽和脂肪族炭化水素基を1個以上含有する化合物である請求項1〜4又は7のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物。
  9. 環式化合物と官能基との距離が、6原子以上の親水性部を介在している請求項2に記載の両親媒性化合物。
  10. 異なる位置が、親水性部の末端である請求項2又は9に記載の両親媒性化合物。
  11. 親水性基が、ポリオキシアルキレン基を含有する化合物の残基である請求項1〜10のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物。
  12. 細胞表面消化度を検出する方法であって、下記(1)および(2)の工程を含む方法。
    (1)請求項1〜11のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物と細胞とを非共有結合させる工程
    (2)上記工程(1)で得られた細胞の細胞表面消化度検出用化合物の結合量を定量する工程
  13. 細胞表面消化度が、細胞を酵素処理によって消化した後の細胞膜外表面の破壊状態、又は細胞の該酵素消化処理耐性に基づく細胞膜外表面の保存状態である請求項12に記載の細胞表面消化度を検出する方法。
  14. 細胞の分離方法であって、下記の工程を含む方法。
    (1)請求項1〜11のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物と1種以上の細胞集団とを非共有結合させる工程
    (2)上記工程(2)で得られた細胞集団を細胞表面消化度検出用化合物の結合量の差異に基づき分離する工程
  15. 細胞表面消化度が、細胞を酵素処理によって消化した後の細胞膜外表面の破壊状態、又は細胞の該酵素消化処理耐性に基づく細胞膜外表面の保存状態であることを特徴とする、請求項14に記載の細胞の分離方法。
  16. 請求項14又は15に記載の細胞の分離方法を用いて分離された細胞。
  17. 請求項1〜11のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物を表面に含有することを特徴とする細胞分離材。
  18. 請求項1〜11のいずれかに記載の細胞表面消化度検出用化合物を表面に含有することを特徴とする、細胞表面消化度検出用器具。
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