JP2005289838A - リグナンによるメラニン産生促進作用 - Google Patents

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Abstract

【課題】
本発明の課題は、メラニン産生促進剤、並びにこれを有効成分とする皮膚外用剤組成物、白髪改善用頭髪化粧料及び後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤を提供することである。
【解決手段】
下記一般式(I)
【化1】

(I)

(式中、R、R、R、R、RおよびRは同一又は異なって水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示す)で表される化合物からなるメラニン産生促進剤。
【選択図】 図1

Description

本発明は、メラニン産生促進剤に関し、更に詳しくはリグナン類を有効成分とするメラニン産生促進剤、並びに当該メラニン産生促進剤を有効成分とする皮膚外用剤組成物、白髪改善用頭髪化粧料及び後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤に関する。
皮膚、毛根の色を決定する最も重要な因子はメラニンと呼ばれる色素性物質である。
メラニンは、皮膚では表皮基底層と毛根に存在するメラノサイトといわれる色素産生細胞により産生される。
このメラニンの産生が異常に抑制されること、或いはメラノサイトが消失することによって後天性色素脱失症(白斑)である尋常性白斑が発症する。尋常性白斑症は我が国において100〜200万人が罹患していると推計される進行性の色素脱失症である。従来、本症の治療は困難を極めてきた。メラニン細胞とその異常についての病態生化学的、細胞生物学的研究の発展により、本症が一つの原因因子による単一疾患ではなく、その発症原因から分節型、汎発型などいくつかの病型に分けることのできる疾患であることが判ってきている。現在、本症の治療法は、ステロイド療法ならびに光化学療法により行われており、ある程度の成果が得られているが、予後不良であることが多く、難治性疾患とされている。
本症は色素細胞の選択的なプレメラノソーム(premelanosome)生成機能喪失とそれに続く色素細胞の消失をきたすもので、これまで、皮膚のみの疾患と考えられてきたが、現在は、目、脳軟膜にも病変を来すことが判ってきている。しかし、このような白斑症に対して、現在、適切な治療法がない。
また、毛髪の色もメラニンの沈着によるものであることから、加齢に伴って起こる白髪は毛根のメラニン産生の減退によるものと考えられている。この白髪に対しては、もっぱら染剤で染めるのがほとんどで、白髪改善用としても種々の毛髪用化粧料が報告されているが、根本的な白髪改善用頭髪化粧料は存在しない。
一方、リグナンは、狭義には、フェニルプロパノイド2分子がβ炭素間で結合した化合物のことを指すが、その他にもβ炭素以外の炭素、酸素間で結合したネオリグナン(neolignan)、3分子のフェニルプロパノイドが結合したセスキリグナン(sesquilignan)、4分子が結合したジリグナン(dilignan)も含めてリグナンと総称する。
このようなリグナンは高等植物に広く分布し、特に材部に多く、抗酸化作用(特開2004−002544号公報)、抗癌作用(特表平10−511685号公報)、抗ウィルス作用(特開平10−175861号公報)、抗菌作用、コレステロール代謝促進作用などの種々の生理活性を有する物質である。最近では、生体中のエストロゲン濃度調節作用があることが報告され、特に注目を浴びている。
また、特開平11−255639号公報ではリグナン類又はノルリグナン類の炭素骨格を有し、置換基を有する2個のベンゼン環の少なくとも一方を4位置換レゾルシノール骨格とし、これに続くベンジル位の炭素原子が置換基を持っていないリグナン類誘導体及び/又はノルリグナン類誘導体がインビトロ(in vitro)の実験において、生体内におけるメラニン産生に必須であるチロシナーゼ活性を阻害するとする内容が開示されている。
しかし、これまでに、リグナン類を細胞に作用させるとチロシナーゼの発現促進を介してメラニン産生を促進することは知られていない。
特開平10−175861号公報 特表平10−511685号公報 特開平11−255639号公報 特開2002−3381号公報 特開2004−2264号公報 特開2004−2544号公報
本発明はメラニン産生促進剤、並びに当該メラニン産生促進剤を有効成分とするする皮膚外用剤組成物、白髪改善用頭髪化粧料及び後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤を提供することを目的としてなされたものである。
本発明者は鋭意研究を行った結果、下記一般式(I)で示されるリグナン類がヒト皮膚由来のメラノサイト細胞(HMVII)およびヒト3次元皮膚モデルにおいて、メラニン産生量を増大させることを発見したことに基づくものである。
本発明者らは、ヒト皮膚由来のメラノサイト細胞(HMVII)およびヒト3次元皮膚モデルにおいて、メラニン産生量を増加させる物質を探索したところ、下記一般式(I)で示されるリグナン類がメラニン産生過程の律速段階となる、チロシンからドーパ、ドーパキノンに至る反応を触媒する酵素チロシナーゼの活性を促進し、メラノサイト細胞(HMVII)によるメラニン産生量を増加させ、白髪改善及び後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療に有用であることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の通りである。
(1) 下記一般式(I)
(I)
(式中、R、R、R、R、RおよびRは同一又は異なって水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示す)で表される化合物からなるメラニン産生促進剤。
(2) R1、R2、R5、R6は同一又は異なって水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R3、R4は同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基である、請求項1に記載のメラニン産生促進剤。
(3) R1、R2、R5、R6はヒドロキシル基であり、R3、R4は同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基である、(1)に記載のメラニン産生促進剤。
(4) R1、R2、R5、R6はヒドロキシル基であり、R3、R4は同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基である、(1)に記載のメラニン産生促進剤。
(5) 前記化合物が下記一般式(II)で表されるノルジヒドログアヤレチック酸である、(1)に記載のメラニン産生促進剤。
(II)
(6) (1)〜(5)に記載のメラニン産生促進剤を有効成分とする皮膚外用剤組成物。
(7) 白髪改善用頭髪化粧料である(6)に記載の皮膚外用剤組成物。
(8) 後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤である(6)に記載の皮膚外用剤組成物。
本発明のリグナン類は、チロシナーゼの活性を促進し、メラノサイト細胞(HMVII)によるメラニン産生量を増加させ、皮膚外用剤組成物、白髪改善用頭髪化粧料及び後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤として使用できる。このリグナン類のこれまで全く知られていなかった新規生理機能により、これまで適切な治療剤の存在しなかった尋常性白班、白髪といった色素脱失を伴う病態、老化現象の改善に応用することが可能となる。
本発明のメラニン産生促進剤
本発明のメラニン産生促進剤は上記一般式(I)で表される化合物である、リグナン類を有効成分とする。式(I)中、R、R、R、R、RおよびRは同一又は異なって水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。
反応性の観点から、R、R、R、Rは同一又は異なって水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R、Rは同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であることが好ましい。
更に、反応性の観点から、R、R、R、Rはヒドロキシル基であり、R、Rは同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であることがより好ましい。
更には、R、R、R、Rはヒドロキシル基であり、R、Rは同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基であることが、反応性の観点から更に好ましい。
一般式(I)で表されるリグナン類としては、ノルジヒドログアヤレチック酸(Nordihydroguaiaretic Acid)、メソジヒドログアヤレチック酸(meso−dihydroguaiaretic acid、即ち(2R,3S)−1,4−ビス−(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)−2,3−ジメチルブタン)等が例示できる。これらの内好ましいものは、下記一般式(II)で表されるノ
ルジヒドログアヤレチック酸である。
(II)
これら一般式(I)で表されるリグナン類、例えば、ノルジヒドログアヤレチック酸はシグマケミカル社(Sigma Chemical CO.)から購入することが可能である。また、これらは特開平2−180846号公報で開示されている方法によっても得ることが可能である。つまり、グアヤク脂(Guaiacum officinale L.の樹脂)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに繰り返し付すことにより得られた化合物高含有画分を、ODSシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーに付すか、n−ヘキサン、エーテル、アセトン、エタノール、メタノール、水の単独もしくはそれ以上の混合溶媒を用いて再結晶することにより得られる。また、化合物は必要に応じて、適宜ヨウ化メチル、ジメチル硫酸あるいはジアゾメタン等の一般的なメチル化剤でメチル化したり、無水酢酸とピリジンとの混合溶媒あるいはアセチルクロライドのような一般的なアセチル化剤でアセチル化したり、三臭化ホウ素、三塩化ホウ素あるいは三塩化アルミニウムのような脱メチル化剤で脱メチル化することにより得ることができる。さらには特表平10−511699号公報で開示されている方法により合成することも可能である。
本発明に用いるリグナン類は、1種を単独で用いてもよく、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、後記実施例に示すように優れたチロシナーゼ活性促進作用及びメラニン産生促進作用を有し、これを有効成分とするメラニン産生促進剤、並びに当該メラニン産生促進剤を有効成分とする皮膚外用剤組成物、白髪改善用頭髪化粧料、後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤が得られる。
皮膚外用剤組成物、白髪改善用頭髪化粧料として使用する場合のリグナン類の含有量は、好ましくは組成物全質量当たり0.1〜50質量%、更に好ましくは5〜20質量%である。
本発明の皮膚外用剤組成物は、メラニン産生促進剤を有効成分とすること以外は、本発明の効果を損なわない限り通常の皮膚外用剤組成物と同様であってよい。すなわち、従来から各種皮膚外用剤に一般的に配合されている添加剤や基材を本発明の目的を損なわない範囲及び量で使用することができる。具体的には、キシリトール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、プロデュウ(DL−ピロリドンカルボン酸、L−プロリン、乳酸ナトリウム、ソルビトール、コラーゲンの水溶液)、異性化糖/ペンタバイテン等の保湿剤、オキシベンゾン、グアイアズレン、サルチル酸フェニル、シノキサート、パラアミノ安息香酸エステル、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−ベンゾントリアゾール等の紫外線吸収剤、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンD等のビタミン類、CoQ10、カロチノイド、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ローズマリー、セージ、オレガノ、セサミノール、
カテコール、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオン等の抗酸化剤、コーン油、オリーブ油等の油脂、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、酢酸ポリオキシンエチレンラノリンアルコール、臭化セチルトリメチルアンモニウム、セチル硫酸ナトリウム、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩類、ポリオキシエチレンラノレン、ポリオキシエチレンラノレンアルコール、ラウリル硫酸塩等の界面活性剤、シクロデキストリン等の粉体、ジハイドロキシアセトン(DHA)等の着色剤などがあげられる。
本発明の白髪改善用頭髪化粧料はメラニン産生促進剤を有効成分とし、通常の毛髪化粧料等に配合される薬効成分、例えばセンブリエキス、ニンジン抽出液等の植物抽出エキス、ビタミンE及びその誘導体、ビオチン等のビタミン類、ニコチン酸エステル類等を含有させることができる。
本発明の白髪改善用頭髪化粧料は、例えばクリーム、ローション、乳剤、軟膏、ゲル、ヘアトニック、ヘアリキッド、リニメント、ヘアーリンス、ヘアーシャンプー、ヘアートリートメント、ヘアーコンディショナー、エアゾール、ムース等として用いることが好ましい。
本発明の白髪改善用頭髪化粧料、皮膚外用剤組成物の使用量は、有効成分の含有量により異なるが、例えばクリーム状、軟膏状の場合、皮層面1cm当たり2mg〜1000mg使用するのが好ましく、100mg〜400mg使用するが更に好ましい。また、液状製剤の場合は、皮層面1cm当たり2mg〜1000mg使用するのが好ましく、100mg〜400mg使用するが更に好ましい。
本発明の後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤は、メラニン産生促進剤を有効成分とし、経口または非経口的に投与することができる。対象とする疾病に見合った剤形を選択すればよい。経口的に投与する製剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、内服液剤等の剤形を挙げることができる。また、非経口的に投与する製剤としては、注射剤やエキス剤、酒精剤、座剤、懸濁剤、チンキ剤、軟膏剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、プラスター剤等の剤形の皮膚外用剤を挙げることができる。本発明においては、投与が簡便な皮膚外用剤が好ましい。
製剤化は、公知の製剤技術により行うことができ、製剤中には適当な製剤添加物を加えることができる。製剤添加物としては、賦形剤、懸濁化剤、乳化剤、保湿(湿潤)剤、保存剤、界面活性化剤、増粘剤、色素、香料、噴射剤等を挙げることができ、製剤添加物は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜加えればよい。
本発明の後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤には、公知のチロシナーゼ活性促進剤やメラニン産生促進剤等をさらに配合してもよい。これら成分としては、例えば、フロレシチン配糖体(特開平8−259448号公報),貝類のエッセンス(特開平7−285874号公報),ジイソプロピル1,3−ジチオール−2−イリデンマロネート(特開平7−256829号公報),担子菌の培養液又は菌体の抽出液(特開平7−316026号公報),ω−アルコキシカルボニルアルキルトリアルキルアンモニウム及び/又はその塩(特開平7−316048号公報)等が開示されている。これらの成分は、本発明にかかるリグナン類に、1種または2種以上を配合してもよい。
製剤中のリグナン類の配合量は、対象疾患、性別、年齢、症状等を考慮して適宜検討すればよいが、製剤中にリグナン類は、0.1〜50質量%配合するのが好ましく、
5〜20質量%配合するのがさらに好ましい。
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
HMVII細胞のメラニン含量に及ぼすリグナンの影響
以下に、リグナン類であるノルジヒドログアヤレチック酸がHMVII細胞のメラニン含量に及ぼす影響を示す。試験に供したノルジヒドログアヤレチック酸はシグマケミカル社(Sigma Chemical CO.)より入手した市販品(1,4−Bis(3,4−dihydroxyphenyl)−2,3−dimethylbutane)である。
まず、対照としてDMSOを添加した、ヒト皮膚由来のメラノサイト細胞(HMVII、理研ジーンバンク(RCB0777))とノルジヒドログアヤレチック酸(終濃度20μM)を添加したメラノサイト細胞(HMVII)を比較検討した。
図1に示すように、対照のDMSOを添加したヒト皮膚由来のメラノサイト細胞(HMVII)に比較してノルジヒドログアヤレチック酸(終濃度20μM)を添加したメラノサイト細胞(HMVII)では、こげ茶色を呈する色素性物質が著明に沈着することが明らかとなった。この細胞株(HMVII)は、メラニン産生能を持つ細胞であることから、ノルジヒドログアヤレチック酸の添加により増加、沈着した色素はメラニンであることが予測された。
そこで、実際に、細胞(HMVII)に対照(無添加)、対照(DMSO添加)及び、ノルジヒドログアヤレチック酸を(終濃度1μM、5μM、10μM、20μM)で添加し、その後の細胞(HMVII)に含有されるメラニンの量、及び、ノルジヒドログアヤレチック酸を終濃度20μMで添加し、1,3,5,7日経過後の細胞(HMVII)に含有されるメラニンの量を測定した。
測定は、上記処理した約1x10個のヒト皮膚由来のメラノサイト細胞(HMVII)、をリン酸緩衝液(pH7.4)にて洗浄後、500μlの1M NaOHを加え超音波破砕し、一昼夜放置後細胞を溶解した。この細胞溶解液の吸光度(475nm)をSPECTRAmax 250 microplate reader(Molecular Device Co. USA)を用いて測定し、既知量の合成メラニンの吸光度から計算し、メラニン量を決定した。結果を図1,図2a,図2bに示す。
図2aに示すようにノルジヒドログアヤレチック酸の添加量を変化させた場合(終濃度1μM、5μM、10μM、20μM)ノルジヒドログアヤレチック酸の最終濃度に依存してメラニン産生量は増加した。更に、図2bに示すように、ノルジヒドログアヤレチック酸によるメラニン産生促進作用は、添加7目目ではコントロールのDEMSO添加に比較して約6.9倍に達した。
図2a,図2bに示したとおり、ノルジヒドログアヤレチック酸は、ヒト皮膚由来のメラノサイト細胞(HMVII)のメラニン産生量を増大させることが明らかとなった。
HMVII細胞のチロシナーゼ活性に及ぼすリグナンの影響
細胞内におけるメラニン産生過程の律速段階となる反応は、チロシナーゼによるチロシンからドーパ、ドーパキノンに至る酵素触媒反応である。また、リグナン類によるメラニン産生促進とチロシナーゼ活性の間に何らかの関連があると推察し、リグナン類であるノルジヒドログアヤレチック酸添加後のメラノサイト細胞(HMVII)のチロシナーゼ活性の変化を下記の実験にて測定した。
約1x10個のヒト皮膚由来のメラノサイト細胞(HMVII)をリン酸緩衝液にて洗浄後、45μlの1% Triton X−100含有リン酸緩衝液(pH7.4)を加え細胞を溶解した。この細胞破砕液に5μlの20mM L−ドーパ(dopa)を加え37℃,60分間反応させた。この反応溶液の吸光度(475nm)をSPECTRAmax 250 microplate reader(Molecular Device Co. USA))により測定した。既知の酵素活性を有するチロシナーゼ蛋白(マッシュルーム由来)を対照として酵素活性を決定した。結果を図3a,図3bに示す。
結果、ノルジヒドログアヤレチック酸(終濃度1μM、5μM、10μM、20μM)を添加後、チロシナーゼ活性は経時的に有意に増加することが判った(図3a)。また、チロシナーゼ活性はノルジヒドログアヤレチック酸の添加量に依存して増加した(図3b)。この結果から、ノルジヒドログアヤレチック酸による細胞内メラニン量の増大は、細胞中のチロシナーゼ活性の増大によるものであることが判明した。
ゲル内チロシナーゼ活性に及ぼすリグナンの影響
更に、L−ドーパ(dopa)を基質として、電気泳動のゲル内においてチロシナーゼ活性染色を以下の通りにして行った。
1×10 個のHMVII細胞に100μlの細胞破砕液(1%Triton X−100、1mMフェニルメチルスルフォニルフルオライド、1μg/mlアプロチン、10μg/mlロイペプチン、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8))を加え超音波破砕し細胞溶解液を調製した。この破砕液を用いてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。電気泳動後、ポリアクリルアミドゲルを200mlの0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)にて洗浄した。洗浄を終えたゲルを200mlの5mM L−ドーパ(dopa)含有0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)に浸し、37℃、30分ゆっくりと振盪しチロシナーゼ活性染色を試行した。
結果、図4aに示すように、ノルジヒドログアヤレチック酸添加後、1,3,5,7日と時間を経るに従って、チロシナーゼ蛋白の分子量に相当する位置に認められるチロシナーゼ活性染色陽性のシングルバントの強さが著明に増大した。
また、図4bに示すように、そのチロシナーゼ活性染色のバンドの強さはノルジヒドログアヤレチック酸の濃度に依存していた。
HMVII細胞のチロシナーゼ蛋白発現に及ぼすリグナンの影響
上記に示したノルジヒドログアヤレチック酸によるチロシナーゼ活性の増加は、細胞内チロシナーゼ蛋白の増加によるものと推察された。そこで、ノルジヒドログアヤレチック酸添加後のチロシナーゼ蛋白の量をイムノブロッティング法により観察した。実験は、下記により行った。
1x10個のHMVII細胞に100μlの細胞破砕液(1% Triton X−100、1mM フェニルメチルスルフォニルフルオライド、1μg/ml アプロチン、10μg/ml ロイペブチン、0.1M リン酸緩衝液(ph6.8))を加え超音波破砕し細胞溶解液を調製した。この破砕液にドデシル硫酸ナトリウム(最終濃度1%)、2−メルカプトエタノール(最終濃度5%)を加え、95℃、5分間、熱処理を行った。この溶液をサンプルとして、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−10% ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。泳動後、ポリアクリルアミドゲル内の蛋白質をニトロセルロース膜に転写した。ニトロセルロース膜を5%脱脂ドライミルク、0.1% Tweenを含むTBS緩衝液(tris−buffered saline)に浸し、1時間振とうした。次に、ニトロセルロース膜を希釈した抗ヒトチロシナーゼ−マウス抗体と室
温で1時間反応させた。0.1% Tween含有TBS緩衝液にて5回洗浄した後、ニトロセルロース膜をホースラディッシュペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリン抗体と室温で1時間反応させた。チロシナーゼ蛋白のバンドを化学発光法により検出した。結果を図5a,図5bに示す。
その結果、イムノブロッティング法により認められるチロシナーゼ蛋白のバンドは、ノルジヒドログアヤレチック酸の作用時間(図5a)および濃度(図5b)に依存して、その濃さが増加した。このことから、ノルジヒドログアヤレチック酸はチロシナーゼ蛋白の合成を促進することが明らかとなった。
図3〜図5に示すとおり、ノルジヒドログアヤレチック酸はヒト皮膚由来のメラノサイト細胞(HMVII)のチロシナーゼ活性を促進することが認められた。
処方例
以下に、本発明の白髪改善用頭髪化粧料及び後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤の処方例を示す。
配合例1:白髪改善用頭髪化粧料
下記表1に示す配合成分を用いてその処方に従って、白髪改善用頭髪化粧料を作製した。すなわち、各配合成分を室温で撹拌可溶化し、白髪改善用頭髪化粧料を得た。
配合例2:後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤
下記表2に示す配合成分を用い、下記に示す処方に従って、後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤を作製した。すなわち、各配合成分をニーダーに秤込み、よく混練して、後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤を得た。
試験例1:後天性色素脱失症(白斑)改善効果
初期病変でメラノサイトが消失していない患者(10名)に15%濃度のノルジヒドログアヤレチック酸をワセリンに混和し白班部に1日2回外用塗布を行った。白斑部分の表面積によって塗布量は1回2〜3gを限度とした。外用塗布後3ヶ月経過時に、白斑部における色素沈着の程度を目視にて評価した。目視による評価の基準は白斑と正常皮膚の境界部が不鮮明となった場合を「改善」、境界部が鮮明に認識できる場合を「変化なし」、「改善」と「変化なし」の中間を「やや改善」とした。その結果、表3に示すように、80%の症例において皮膚色素の沈着が認められ、白斑の改善が確認された。
リグナンのHMVII細胞に及ぼす影響を示す図 HMVII細胞のメラニン含量に及ぼすリグナンの影響を示す図 HMVII細胞のチロシナーゼ活性に及ぼすリグナンの影響を示す図 ゲル内チロシナーゼ活性に及ぼすリグナンの影響を示す図 HMVII細胞のチロシナーゼ蛋白発現に及ぼすリグナンの影響を示す図

Claims (8)

  1. 下記一般式(I)
    (I)
    (式中、R、R、R、R、RおよびRは同一又は異なって水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示す)で表される化合物からなるメラニン産生促進剤。
  2. 、R、R、Rは同一又は異なって水素原子、ヒドロキシル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R、Rは同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基である、請求項1に記載のメラニン産生促進剤。
  3. 、R、R、Rはヒドロキシル基であり、R、Rは同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基である、請求項1に記載のメラニン産生促進剤。
  4. 、R、R、Rはヒドロキシル基であり、R、Rは同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基である、請求項1に記載のメラニン産生促進剤。
  5. 前記化合物が下記一般式(II)で表されるノルジヒドログアヤレチック酸である、請求項1に記載のメラニン産生促進剤。
    (II)
  6. 請求項1〜5に記載のメラニン産生促進剤を有効成分とする皮膚外用剤組成物。
  7. 白髪改善用頭髪化粧料である請求項6に記載の皮膚外用剤組成物。
  8. 後天性色素脱失症(白斑)の予防および/または治療剤である請求項6に記載の皮膚外用剤組成物。
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