本発明は、プラスチックの含有する炭化水素を熱源として利用した鋼の転炉精錬方法に関するものである。
鋼の転炉精錬では、主原料を溶銑と鉄スクラップとし、この溶銑の有する顕熱と溶銑中に含まれる[C]や[Si]の酸化による発熱とを熱源として、次工程の要求する溶鋼温度を確保している。そして、主原料中の溶銑の比率(「溶銑配合率」という)を、生産量の変動や鉄スクラップ価格の変動などから常時最適条件となるように変動させている。
しかし、溶銑配合率を低くすると転炉精錬における熱源が減少し、その結果、次工程の要求する溶鋼温度の確保が困難となる場合には、熱源としてFe−Si合金或いはコークスなどの炭材を炉内に追加装入し、熱源の不足を補ってきた。特に、近年の脱珪や脱燐を目的とした溶銑予備処理による溶銑中[C]及び[Si]の低下に伴って、転炉精錬における熱源の不足が一層顕著になってきた。
しかし、Fe−Si合金の追加装入は、スラグ中のSiO2 量を増加させるので、このSiO2 の増加分に対応してスラグの塩基度(CaO/SiO2 )を調整するために、生石灰やドロマイトなどのフラックス装入量が増大する。その結果、炉内スラグ量の増加を招き、鉄歩留まりの低下などが発生する。また、コークスなどの炭材の追加装入は、炭材中に含有される[S]及び[N]の溶鋼への汚染があるため、対象鋼種や使用量が制限される。
このように、鋼の転炉精錬における熱源不足を補うのに、都合のよい装入物や精錬方法はなく、止むなく溶銑配合率を高め、生産量の確保は断念した操業が行なわれてきた。
一方、廃プラスチック及び廃ゴムなどの炭化水素系物質の廃物回収処理が社会問題となっており、その処理方法について鉄鋼精錬においても種々の試みがなされている。
例えば、特許文献1には、転炉精錬初期に石灰石などの熱分解によってCO
2 ガスを発生する物質と同時にプラスチックを添加し、プラスチックを、発生するCO
2 ガスの還元剤として利用する方法が提案され、また、特許文献2には、転炉を用いてコークスの燃焼熱で鉄スクラップを溶解する際に、プラスチックをコークスの助燃剤として利用する方法が提案されている。
特開昭53−53504号公報
特開平2−225610号公報
プラスチックは、プラスチック1kg当たり4,000〜10,000kcal(16,747〜41,868kJ)もの高発熱量の燃焼熱を有しており、また、ポリプロピレンやポリエチレンなどのプラスチックは、主成分が[C]と[H]であり、[S]を含有しておらず、鋼の転炉精錬工程における熱源として十分に使用可能である。但し、このプラスチックの燃焼熱を有効に利用するためには、発生する燃焼熱を転炉内のスラグ或いは溶銑に有効に着熱させなければならない。
プラスチックの比重は0.9〜1.0程度であり、鋼の転炉精錬工程における溶銑或いはスラグなどの主原料及び副原料の比重に比べて極めて小さい。そのため、プラスチックを単体で添加した場合には、比重差から、例えば溶融スラグの上でプラスチックが燃焼するのみで、燃焼熱は排ガスと共に炉外に排出され、転炉内のスラグ或いは溶銑への燃焼熱の着熱は期待できない。上記従来技術は、この点に関して考慮しておらず、プラスチックの燃焼熱を有効に利用しているとはいいがたい。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、プラスチックの燃焼熱を転炉内のスラグ或いは溶銑に効率良く着熱させることによって、プラスチックをFe−Si合金或いはコークスなどの炭材に代わる熱源として有効利用した鋼の転炉精錬方法を提供することである。
上記課題を解決するための第1の発明に係る鋼の転炉精錬方法は、プラスチックと精錬用の冷却材とからなる混合物を酸素吹錬中に転炉炉口から転炉内に装入して行う鋼の転炉精錬方法であって、前記混合物中のプラスチックの質量比を、混合物の比重が転炉内の溶融スラグの比重と同等かまたはそれ以上となり且つ冷却材による冷却効果とプラスチックの燃焼熱による昇熱効果とがバランスする質量比よりも高い質量比となるように調整した混合物Aと、混合物中のプラスチックの質量比を、混合物の比重が転炉内の溶融スラグの比重と同等かまたはそれ以上となり且つ冷却材による冷却効果とプラスチックの燃焼熱による昇熱効果とがバランスする質量比よりも低い質量比となるように調整した混合物Bと、を準備し、混合物を昇熱材として使用する場合には混合物Aを使用し、混合物を冷却材として使用する場合には混合物Bを使用することを特徴とするものである。
第2の発明に係る鋼の転炉精錬方法は、第1の発明において、酸素吹錬終了時の溶鋼の温度が所定の温度となるように、混合物A及び混合物Bの投入量を調整することを特徴とするものである。
使用するプラスチックの種類はポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどの[S]を含有せず、且つ熱可塑性のプラスチックであれば特に制限はなく、廃物回収されたプラスチック(「廃プラスチック」という)であっても何ら支障はない。これらプラスチックは[C]、[H]、[O]から構成されるものが主である。
鋼の転炉精錬では、主原料である溶銑及び鉄スクラップの他に、副原料として、生石灰、蛍石、ドロマイトなどの造滓材と、鉄鉱石、マンガン鉱石、クロム鉱石、ニッケル鉱石、ミルスケール、製鉄ダスト、磁選屑、及び機械工場で発生する鋼の切削屑などの温度調整用の精錬用冷却材と、更に成分調整用の各種合金鉄とを使用する。尚、マンガン鉱石、クロム鉱石、ニッケル鉱石は、成分調整材としての役割も有しているが、成分調整用の各種合金鉄と異なり酸素吹錬中に添加され、鉄鉱石と同様に顕熱のみならず還元熱をも奪い、著しい冷却効果を有していることから、本発明では精錬用冷却材に分類する。
これらの副原料とプラスチックとの比重を比較すると、プラスチックの比重が0.9〜1.0であるのに対して、生石灰は3.0〜3.2、鉄鉱石、ミルスケール及び製鉄ダストなどの酸化鉄形状の冷却材は4.8〜5.3、マンガン鉱石は5.1、クロム鉱石は5.2、ニッケル鉱石は6.9、磁選屑や切削屑の金属鉄形状の冷却材は6.5〜7.5であり、また、炉内のスラグは約3.0程度であり、プラスチックの比重が相対的に小さいことが分る。尚、これらの比重は真比重の値であり、スラグがフォーミングした場合には、その比重は3.0よりも低くなる。
プラスチックの燃焼熱を転炉内の溶融スラグまたは溶銑に有効に着熱させなければ、プラスチックの炉内装入の効果は発揮されない。プラスチックを単体で装入すると、プラスチックは比重が小さいため、溶融スラグ上で浮遊して燃焼してしまい、溶融スラグまたは溶銑への着熱は期待できず、溶銑の熱源不足の解消にはならない。そこで、溶融スラグより比重の大きい上記の精錬用冷却材と混合した混合物として転炉炉口から投入して装入することで、プラスチックは冷却材と共に溶融スラグ中に巻き込まれ、溶融スラグ中で燃焼するので、溶融スラグへの着熱効果が高くなる。そして、転炉内では、上吹きされる酸素ガス或いは底吹きされる攪拌用ガスによって溶融スラグは溶銑と攪拌されているので、溶融スラグの熱は溶銑に迅速に伝達され、熱源不足が迅速に補われる。また、転炉精錬後の溶鋼中[S]の増加を殆ど考慮する必要がなく熱源不足を補うことができる。
生石灰などの造滓材の比重は溶融スラグと同等であり、溶融スラグ中を貫通する推進力が小さく、また、合金鉄は酸素吹錬終了後に炉内に装入されるので、どちらもプラスチックを装入する媒体とするには不適当である。
プラスチックを冷却材との混合物として添加した場合、転炉精錬の熱バランスの観点から見れば、プラスチックの質量比が低い場合は、冷却材による冷却効果がプラスチックの燃焼熱よりも大きく冷却材代替となり、逆に、プラスチックの質量比が高い場合は、プラスチックの燃焼熱が冷却材の冷却効果に優り、Fe−Si合金などの昇熱材代替となる。本発明者等の研究結果から、混合物中のプラスチックの質量比が約33質量%のときに、冷却材代替と昇熱材代替との境界になることが確認されている。即ち、混合物中のプラスチックの質量比が33質量%を超えれば昇熱材となり、一方、混合物中のプラスチックの質量比が33質量%未満になると、冷却材として機能する。
但し、混合物中のプラスチックの質量比が高くなり過ぎると、混合物の比重が小さくなり、溶融スラグに巻き込まれなくなるため、単体のプラスチックを添加した場合と同様に溶融スラグ或いは溶銑への燃焼熱の着熱は期待できない。本発明者等の研究結果から、混合物中のプラスチックの質量比が80質量%を超えると、着熱効率が急激に低下することが確認された。これは、転炉内のスラグはフォーミングしており、見掛け比重は真比重(約3.0)に比べて小さくなるものの、混合物中のプラスチックの質量比が80質量%を超えると、混合物の比重が溶融スラグの見掛け比重よりも小さくなるためである。即ち、プラスチックの質量比が80質量%を超える混合物は昇熱材代替とはならないことが確認できた。
従って、プラスチックの質量比が33質量%未満の混合物と、プラスチックの質量比が33質量%を超え80質量%以下の混合物との2つの混合物を予め準備し、2つの混合物の配合比を適宜選択することで、種々の操業条件に対処して酸素吹錬終了時の溶鋼温度を任意の温度に調整することが可能となる。プラスチックの質量比が余りに低いと、転炉精錬に及ぼす熱影響が冷却材と大差ないのみならず、混合物を製造するためのコストを回収できなくなるので、プラスチックの質量比は5質量%以上とすることが好ましい。
また、本発明においては、混合物はプラスチックをバインダーとした成形体とする。使用するプラスチックは熱可塑性を有しているので、例えば、プラスチックと冷却材とを混練する、或いは、プラスチックと冷却材との混合体を押し出し成形することで、混練の際或いは押し出し成形の際に発生する摩擦熱を利用してプラスチックを溶融させ、容易に成形体とすることができる。当然ながら外部から加熱することでプラスチックを溶融させることもできる。成形体とすることで、ミルスケール、製鉄ダストなどの粉体状の冷却材の飛散ロスが減少し、装入歩留まりが向上すると共に、成形体はプラスチック単体の比重より大きくなるので、プラスチック燃焼熱の着熱効率が向上する。
本発明によれば、プラスチックの燃焼熱を確実に転炉内の溶融スラグ及び溶銑に着熱させることができると同時に、プラスチックの質量比の異なる2種類の混合物を準備して、一方を昇熱材とし、他方を冷却材として使用するので、熱源としてFe−Si合金或いはコークスなど炭材を使用しなくても、溶鋼中の[S]及び[N]のピックアップを懸念することなく、転炉の操業条件に応じて適切に溶鋼温度の調整を行なうことが可能となり、鉄歩留まりの向上や排ガスの回収増が達成され、合わせてプラスチックの廃物処理も行うことができ、工業上有益な効果がもたらされる。
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明を実施した上底吹き型転炉設備の縦断面の概要図である。
転炉設備は、転炉1と、転炉1の炉口2から転炉1内へと上下移動可能な上吹き酸素ランス3と、炉口2を覆うダクト7を介して転炉1からの発生ガスを回収するガス回収装置(図示せず)と、ホッパー8、8a、切り出し装置9、9a及びシュート10にその一部を示す原料装入装置とから構成される。尚、シュート10はダクト7を貫通して炉口2の直上に至り、炉口2から原料が炉内に装入される。また、転炉1には、炉底を貫通する底吹き羽口4と、側壁を貫通する出鋼口6とが設置されている。底吹き羽口4からは、ガス導入管5を介してArガスや窒素ガスなどの攪拌用ガスや精錬用酸素ガスが底吹きガスとして吹き込まれる。
プラスチックの質量比が異なる、プラスチックと精錬用冷却材とからなる2種類の混合物を予め準備し、一方の混合物をホッパー8へ収納し、他方の混合物をホッパー8aへ収納する。この2種類の混合物は、一方の混合物のプラスチックの質量比を33質量%を超え80質量%以下の範囲の任意の値とし、他方の混合物のプラスチックの質量比を33質量%未満の任意の値とする。ここでは、プラスチックの質量比が33質量%を超え80質量%以下の範囲の混合物を混合物Aと称し、一方、プラスチックの質量比が33質量%未満の混合物を混合物Bと称し、混合物Aをホッパー8に収納し、混合物Bをホッパー8aに収納することとする。
混合物A及び混合物Bを形成するプラスチックとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどの[S]を含有せず、且つ熱可塑性のプラスチックであれば特に制限はなく、これらの混合物であっても、また、廃プラスチックであっても使用できる。冷却材としては、鉄鉱石、マンガン鉱石、クロム鉱石、ニッケル鉱石、ミルスケール、製鉄ダスト、磁選屑、及び機械工場で発生する鋼の切削屑のいずれか1種以上を適宜選択して使用する。尚、冷却材は炉内で還元されそれぞれFe、Mn、Cr、Niとなるので、資源の有効活用がなされる。
混合物A及び混合物Bを成形する方法としては、プラスチックと冷却材とを混合して強い押出し力で多孔ダイスあるいは金網などから押出して成形する押出し成形方法、これらを混合して一定の容器内で強く圧縮して成形する圧縮成形方法、これらの混合物を加熱してプラスチックを溶融して成形する溶融成形方法などがあり、どの方法を用いても構わない。但し、ブリケットマシンに代表される圧縮成形方法では、プラスチックはバインダーとして作用し、プラスチックの配合量を多くし過ぎると成形することが困難であり、一方、押出し成形方法では、逆にプラスチックの配合量が少ないと成形化が困難であるので、プラスチック質量比の高い混合物Aを押出し成形方法によって成形し、プラスチック質量比の低い混合物Bを圧縮成形方法によって成形することが好ましい。混合物A,Bの単体の質量は20g以上数kg以下とし、その形状は、空気との抵抗が少ない、球体状、楕円体状、紡錘体状、円柱体状、或いは角柱体状とすることが好ましい。
先ず、転炉1内に主原料として溶銑11と鉄スクラップとを装入する。溶銑11は必要に応じて脱硫、脱燐の予備処理を実施する。そして、生石灰、蛍石、ドロマイトなどの造滓材を原料装入装置(図示せず)より装入し、炉内に溶融スラグ12を形成する。更に、必要に応じて、ホッパー8に収納された混合物A或いはホッパー8aに収納された混合物Bを、切り出し装置9、9aにより各々所定量切り出し、シュート10を介して炉口2から炉内に装入する。その後、上吹き酸素ランス3から酸素ガスを吹きつけ、底吹き羽口4から底吹きガスを吹き込んで、酸素吹錬を開始する。そして、酸素吹錬中においても、混合物Aまたは混合物Bを、シュート10を介して炉口2から適宜炉内に装入する。
混合物Aは昇熱材代替となり、混合物Bは冷却材代替となる。溶銑配合率、精錬前の溶銑11の成分条件や温度条件、或いは副原料の添加条件などから、酸素吹錬終了時の溶鋼の温度が目標値よりも低くなると予測される場合には、昇熱材代替として混合物Aを使用し、酸素吹錬終了時の溶鋼の温度が目標値よりも高くなると予測される場合には、冷却材代替として混合物Bを使用する。具体的には、原料条件及び酸素吹錬条件から酸素吹錬終了時の溶鋼温度を予測し、予測した温度と目標温度とを対比させ、溶鋼温度が目標の温度になるように、混合物A或いは混合物Bの添加量を算出し、算出した量を連続的或いは断続的に転炉1に投入する。
また、混合物A及び混合物Bを単独で添加するだけでなく、混合物A及び混合物Bを混合して添加してもよい。混合物Aと混合物Bとを所定量切り出し、プラスチック質量比の加重平均が33質量%を超えれば昇熱材代替となり、プラスチック質量比の加重平均が33質量%未満であれば冷却材代替となる。プラスチック質量比の加重平均が33質量%となるように調整すれば、冷却材の冷却効果とプラスチックの燃焼熱による昇熱効果とがバランスする範囲に調整することもできる。加重平均が33質量%を超えて高くなるほど昇熱効果が大きく、逆に、加重平均が33質量%より低く、少なくなるほど冷却効果が大きくなる。
プラスチック中には水素が含有されているので、炉内装入後、分解して水素ガスが発生する。転炉1からの発生ガスを燃焼ガスとして回収する場合には、ガス組成が爆発範囲に入らないようにするため、精錬中の脱炭反応によるCOガスの発生量が多く、発生ガス中のCOガス濃度が高位安定し、酸素ガス濃度が低下した時期に、混合物A,Bを装入することが必要となる。従来、水素ガスに対する臨界酸素ガス濃度はおよそ5体積%であることが知られており、酸素ガス濃度が5体積%以下であれば問題はない。また、ガスを回収せず、燃焼させる場合には混合物の装入時期を制限する必要はない。
こうして酸素吹錬が終了したら、必要に応じて原料装入装置(図示せず)からFe−Mn合金やSi−Mn合金などを装入し、その後、傾動装置(図示せず)にて転炉1を傾動させ、出鋼口6より溶鋼と溶融スラグ12とを排出して転炉精錬を終了する。
このように、本発明によれば、プラスチックの質量比が高い混合物Aと低い混合物Bの2種類を使用することで、種々の操業条件に対処することができ、また、プラスチックの燃焼熱を確実に転炉内の溶融スラグ12及び溶銑11に着熱させることができるので、熱源としてFe−Si合金或いはコークスなど炭材を使用しなくても、溶鋼中の[S]及び[N]のピックアップを懸念することなく、酸素吹錬終了時の溶鋼の温度を制御することが可能となる。
図1に示す転炉設備における本発明の実施例を以下に説明する。
本実施例で使用した上底吹き型転炉の設備仕様を表1に示す。転炉容量は1チャージ(以下、「ch」と記す)約250トンで、底吹きガスは攪拌用ガスとしてArガスを用いた。
そして本実施例における転炉操業条件及び代表的な溶銑成分の例を表2に示す。溶銑は機械攪拌式脱硫装置を用い、脱硫処理を施してある。尚、本発明の効果を理解し易くするために、転炉操業条件のうちで、表2に示すように、装入時の溶銑温度を1330℃、出鋼時の溶鋼温度を1640℃、溶銑配合率を90質量%の一定の条件とし、更に、造滓材装入量、及び合金鉄装入量も一定の条件とした。これに伴い、プラスチックの発熱量とバランスさせるために鉄鉱石の使用量を変化させた。
使用したプラスチックは、廃物回収された高密度ポリエチレンであり、その成分は[C]が86質量%、[H]が14質量%であった。また、冷却材としては、製鉄ダストの1つである転炉排ガスダスト(以下、「OGダスト」と記す)、鉄鉱石及び切削屑を使用した。表3に冷却材として主に使用したOGダストの成分例を示す。
プラスチックと冷却材とからなる混合物は、プラスチックの質量比が33質量%未満の混合物は圧縮成形方法により球体状に成形し、プラスチックの質量比が33質量%以上の混合物は押出し成形方法により円柱体状に成形した。合計11chの試験操業のうちで、試験No.1〜4では、予め作製したプラスチックの質量比が15質量%及び80質量%の混合物を準備し、これを単独で使用した。また、試験No.5〜11では、プラスチックの質量比が15質量%と80質量%の2種類の混合物を予め用意し、各ホッパーの切り出し量を調整してプラスチックの質量比を20〜70質量%として添加した。
本実施例では発生ガスを回収するために、転炉への混合物の装入時期は、酸素吹錬開始から約5分後の発生ガス中のCOガス濃度が約78体積%で酸素ガス濃度が1体積%になった時点とし、混合物を約1トン/minの速度で装入し、混合物の装入量は1トン/ch及び5トン/chの2水準で実施した。
この条件で鋼を溶製した結果を表4に示す。尚、表4に示す鉄歩留まり向上量とは、鉄鉱石や混合物中の冷却材として装入される鉄源の従来例に対する増装入分が還元され、Feとなった量を示したものである。
表4から明らかように、本発明例(試験No.1〜11)では従来例(試験No.12)に比較して鉄歩留まりの向上及びガス回収増が得られた。そして混合物中のプラスチック質量比が、33質量%を境として、33質量%未満では鉄鉱石の装入量が従来例に比較して減少し、逆に33質量%を超えると増加すること、即ち、プラスチックの質量比が33質量%を境に、混合物は冷却材と昇熱材との異なる機能を有することが分かった。そして、本発明例の転炉精錬過程においては、鋼中[S]及び[N]のピックアップは全く認められなかった。
本発明例においては、プラスチック中の[C]及び[H]を燃焼させるために酸素ガスを余分に使用した結果、操業に支障のない範囲での酸素吹錬時間の延長があったものの、鉄歩留まりが向上し且つガス回収が増加したので、混合物の製造コストと照らし合わせてもメリットがある結果となった。
本発明を適用した上底吹き型転炉設備の縦断面の概要図である。
符号の説明
1 転炉
2 炉口
3 上吹き酸素ランス
4 底吹き羽口
5 ガス導入管
6 出鋼口
7 ダクト
8 ホッパー
9 切り出し装置
10 シュート
11 溶銑
12 溶融スラグ