JP2005265731A - インデンテーション圧子 - Google Patents

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【課題】 ナノインデンテーション試験において圧子形状を評価する手間を軽減することができ、ナノインデンテーション試験を研究に応用する機会を拡大することができ、かつナノインデンテーションの低コスト化を実現するインデンテーション圧子を提供する。
【解決手段】 圧子先端から所定距離を有する特定の位置において圧子先端からの距離に対する断面積の2次導関数が定まらない部分あるいは一定でない部分を持つことを特徴とするインデンテーション圧子とする。
【選択図】 図1

Description

この出願の発明は、インデンテーション圧子に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、とくにナノインデンテーション試験において圧子の形状を評価する手間を軽減することができ、ナノインデンテーション試験を様々な研究に応用する機会を拡大することのできる、インデンテーション圧子に関するものである。
ナノインデンテーション(超微小圧子押し込み)試験は、圧子を試料の微小領域に押し込み、その圧子による押し込み力と試料の押し込み深さの関係を調べることにより、サブミクロン領域における試料の硬さなどの力学特性を評価できる、数少ない試験法のうちの1つであり、通常の硬さ試験と同様に、幅広い分野において研究開発や品質管理、現場における構造物の寿命予測など、多くの応用が期待される評価法でもある(たとえば特許文献1、非特許文献1、2および3参照)。
このナノインデンテーション試験において、現状で最も大きな障害となっているのが圧子の先端形状の問題である。通常の硬さ試験では、圧子の形状について三角錐などの尖形形状であって先端に丸みなどのない圧子や完全な球状圧子など、なるべく理想的な形状に近いものが好ましいとされている。しかしながら、現実の圧子は、とくにナノインデンテーション試験の場合、マクロには尖形形状の圧子であっても圧子先端に生じる丸みを無視することはできない。ナノインデンテーション試験では、通常のマクロな硬さ試験とは異なり、圧子の試料への押し込み深さが浅いため、圧子先端の形状の影響が無視できず、圧子はその先端に曲率を持った形状を有するものと考える必要があるのである。
また圧子の先端部は、押し込み試験を繰り返すごとに削れてしまい形状が変化するために、頻繁に圧子の形状補正を行う必要がある。しかしながら圧子の形状補正は、従来多くの場合、ガラスなどの標準試料を用いて荷重を変化させた押し込み曲線(圧子による押し込み力−押し込み深さ曲線:除荷曲線)を多数取得することによってその除荷曲線を解析して行う方法が利用されているが、その作業は非常に手間のかかるものであった。
より具体的に説明すると、たとえば図6(a)および(b)は、従来の尖形形状の圧子の形状とその先端からの距離zによる断面積A(z)の変化を示したグラフであり、通常のマクロ硬さ試験では押し込み深さが数ミクロン以上と大きいために、圧子は図6(a)(I)のように理想的な尖形形状であると考えても差し支えなく、また圧子の断面積A(z)の変化を示すグラフについても図6(a)(II)のように先端からの距離zにしたがってなめらかな曲線を描く。
しかしながら、ナノインデンテーションにおいては押し込み深さが小さいために、図6(b)(I)のように先端に丸みがあるものとして考える必要があり、その場合、圧子の断面積A(z)の変化を示す曲線(実線)は図6(b)(II)に示すように図6(a)(II)の理想的な曲線(点線)よりずれたグラフとなり、ある押し込み深さにおける真の圧子断面積を実験結果から推定することは一般に手間のかかる作業である上、圧子の先端は硬さ試験を繰り返すたびに汚れや摩耗が生じやすいので、定期的に圧子形状の補正を行う必要があったのである。
特許第287679号 宮原健介および長島伸夫他、"超微小押し込み試験によるビッカース硬さ値の評価"、日本機械学会論文集、Vol.64、p.2567-2573、1998年 W. C. OliverおよびG.M. Pharr他、"An Improved Technique for Determining Hardness and Elastic Modulus Using Load and Displacement Sensing Indentation Experiments"、Journal of Materials Research、Vol. 7、p.1564、1992年 G. M. PharrおよびW. C. Oliver他、"On the generality of the relationship between contact stiffness, contact area, and elastic modulus during indentation"、Vol. 7、p.613、1992年
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、ナノインデンテーション試験において圧子の形状を評価する手間を軽減することができ、ナノインデンテーション試験を研究に応用する機会を拡大することのできるインデンテーション圧子を提供することを課題としている。
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、圧子先端から所定距離を有する特定の位置において圧子先端の距離に対する断面積の2次導関数が定まらない部分あるいは一定でない部分を有することを特徴とするインデンテーション圧子を提供する。
第2には、圧子側面の特定の位置に凸部が付加された凸部加工型、圧子側面の特定の位置に凹部が形成された凹部加工型、圧子側面の特定の位置に凸部と凹部が形成された凸凹部加工型、圧子側面の傾きが特定の位置で不連続に変化する傾き加工型および圧子側面の特定の位置で階段状を有するステップ加工型のうちのいずれかの形状であることを特徴とするインデンテーション圧子を提供する。
第3には、この出願の発明は、第1または2の発明において、ナノインデンテーションに用いることを特徴とするインデンテーション圧子を提供する。
この出願のインデンテーション圧子によれば、ナノインデンテーション試験において圧子の形状を評価する手間を軽減することができ、ナノインデンテーション試験を研究に応用する機会を拡大することが可能となる。
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
この出願の発明のインデンテーション圧子は、圧子先端から所定距離を有する特定の位置において圧子先端からの距離に対する断面積の2次導関数が定まらない部分あるいは一定でない部分を有することを大きな特徴としている。
なお、この出願の発明における“圧子先端からの距離に対する断面積の2次導関数”とは、“圧子先端からの距離に対しての圧子断面積が圧子先端からの距離の関数で表され、その断面積を圧子先端からの距離で2回微分したもの”を意味している。
この出願の発明においては、圧子の先端部分は劣化しやすいという認識の下で、理想形状や対称性の高い圧子形状から離れ、むしろ圧子先端から所定距離を有する特定の位置において圧子先端からの距離に対する断面積の2次導関数が定まらない部分あるいは一定でない部分を有するインデンテーション圧子を利用する。すなわち、“圧子先端から所定距離を有する特定の位置において圧子先端からの距離に対する断面積の2次導関数が定まら
ない部分あるいは一定でない部分を有するインデンテーション圧子”とは、“圧子先端から所定距離を有する特定の位置において圧子先端からの距離に対する断面積の導関数が大きく変化する部分を有するインデンテーション圧子”を意味する。なお、“2次導関数が定まらない”とは、“圧子の形状が複雑であり、圧子先端から所定距離を有する特定の位置において2回微分を行うことができない”ことを意味しており、“2次導関数が一定でない”とは“2次導関数は存在するがその2次導関数が一定でない”ことを意味する。
具体的には、インデンテーション圧子の先端から所定距離を有する特定の位置の側面に適宜マーキングを行い、導関数の不連続な点を作り出すといったことが挙げられる。これによってナノインデンテーション試験で得られるインデンテーション圧子による押し込み力−押し込み深さ曲線の特定の押し込み深さにおいて、明瞭な変化が観察されるようになるのである。
たとえば、圧子側面の特定の位置に凸部が付加された凸部加工型、圧子側面の特定の位置に凹部が形成された凹部加工型、圧子側面の特定の位置に凸部と凹部が形成された凸凹部加工型、圧子側面の傾きが特定の位置で不連続に変化する傾き加工型および圧子側面の特定の位置で階段状を有するステップ加工型のうちのいずれかの形状であるインデンテーション圧子を好適に用いることができ、とくに、上記のような形状のインデンテーション圧子は、圧子先端の形状の影響が無視できないナノインデンテーションに好適に用いることができるのである。
したがって、この出願の発明によるインデンテーション圧子を利用することによって、異なる試料における相対的な硬さの比較を、同じ接触面積という条件で簡単に行うことができ、また圧子の形状補正を行う場合にも、この出願の発明によるインデンテーション圧子においては、圧子先端が劣化してもマーキング部分は圧子先端ではなく、圧子先端から所定距離を有する特定の位置にあって劣化しにくいことから、形状補正に利用することができるため、通常の圧子に比べて大きな利点となるのである。
図1(a)〜(d)は、この出願の発明のインデンテーション圧子の形状とその先端からの距離による断面積の変化を示したグラフの一実施形態を示したものである。図1(a)(I)は圧子側面の特定の位置に凸部が付加された凸部加工型、(b)(I)は圧子側面の特定の位置に凹部が形成された凹部加工型、(c)(I)は圧子側面の特定の位置で傾きが不連続に変化する傾き加工型のインデンテーション圧子の形状の例であり、(d)(I)は圧子側面の特定の位置で階段状を有するステップ加工型のインデンテーション圧子の形状であり、いずれも(a)(II)〜(d)(II)のグラフにおいて、圧子先端からの距離zに対する断面積には、特定の位置((a)ではz1、(b)ではz2、(c)ではz3、(d)ではz4)において大きな変化が生じている。すなわち、加工によって圧子先端から所定距離を有する特定の位置において断面積の導関数が大きく変化しており、断面積の2次導関数が定まらない部分あるいは一定ではない部分を有しているという特徴を有している。このような部分は目印となるため、特に繰り返し硬さ試験を行う際の圧子の形状評価を簡便に行うことができる。
したがってこの出願の発明のインデンテーション圧子は、汚れや摩耗によるダメージを受けやすい先端ではなく、図1(a)〜(d)に挙げた各実施形態のように、その先端から所定距離を有する特定の位置において断面積の2次導関数が定まらない部分あるいは一定でない部分を有するインデンテーション圧子を利用することによって圧子形状の補正や硬さ試験を容易に行うことが期待できるのである。
なお、図2に従来の圧子を用いた場合(a)とこの出願の発明のインデンテーション圧子を用いた場合(b)のナノインデンテーション試験の流れを表すフローチャートを示す
図2(a)に示すように、従来の圧子では、標準試料により圧子形状の評価・補正を行い硬さ試験を行った後に圧子先端の摩耗や劣化や汚れが発生すると、改めて圧子形状の評価・補正を行う必要が出てくる。これに対し、図2(b)に示すようにこの出願の発明のインデンテーション圧子を用いた場合には、最初に圧子形状の評価・補正を行ってあれば、圧子先端に摩耗や汚れが生じた場合でも、圧子側面のマーキングを基準に、圧子の断面積を知ることができるのである。
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
図3に、EBD(Electron Beam Deposition:電子ビーム蒸着)によって図1(a)に示すような凸部加工を行ったタングステンよりなるインデンテーション圧子を上から見た像を示す。図3より明らかなように、三角錐形状をしたインデンテーション圧子の側面の先端近傍に、凸部(1)の加工を施してある。このように凸部(1)を持つ圧子を作製することが可能である。なお、図3において先端近傍部分以外の側面に白くなっている部分があるが、その部分は汚れ(2)である。
図4に、凸部を有する状態のインデンテーション圧子による押し込み力と押し込み深さの関係を示すグラフを白丸で表している。なお、図4においては横軸がインデンテーション圧子による押し込み深さであり、縦軸がインデンテーション圧子の押し込み力を示している。インデンテーション圧子に対して凸部加工を行うことによって、図4中矢印で示す部分においてインデンテーション圧子による押し込み力−押し込み深さ曲線に特徴的な点が現れている。また、図4において凸部を有さない、すなわち図1(a)〜(d)のような加工を施していない圧子によるナノインデンテーション試験を行った結果の、圧子による押し込み力と押し込み深さの関係を示すグラフを黒点で示しているが、この場合には特徴的な点は生じていない。凸部加工を施したインデンテーション圧子の場合に生じる特徴的な点を利用することによって簡便に圧子形状の補正や硬さ試験が可能となるのである。
図5は従来の圧子を用いた場合(a)とこの出願の発明のインデンテーション圧子を用いた場合(b)の圧子先端が摩耗・汚れにより変化した場合の影響を示したものである。図5(a)(I)に示すように、従来の圧子では、圧子先端に汚れが生じたり、摩耗が生じた場合には、図5(a)(II)に示すように実線から点線へと圧子先端の断面積が変化するため、標準試料を用いて圧子の断面積を再度評価する必要がある。
一方図5(b)のこの出願の発明のインデンテーション圧子の場合、側面のマーキングによる特徴点を基準にして、圧子の摩耗の程度や断面積を知ることが可能となる。すなわち図5(b)の例では(I)および(II)のグラフに示すように圧子先端から特徴点までの距離がz1からz1’に変化している。これに対応して、図4のような実際の試験で得られる押し込み曲線においても、特徴点の位置が、(z1−z1’)=Δzだけ移動するので、先端近傍以外の点zにおける圧子の断面積A(z)は最初に行った圧子形状の評価による断面積の関数をA0(z)とすると、A(z)=A0(z+Δz)と簡単に求めることができる。すなわちこの出願の発明のインデンテーション圧子を用いることにより標準試料を用いて圧子の断面積を再評価する回数を大幅に減らすことが可能となるのである。
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、ナノインデンテーション試験に
おいて圧子形状を評価する手間を軽減することができ、ナノインデンテーション試験を研究に応用する機会を拡大することができ、かつナノインデンテーションの低コスト化を実現するインデンテーション圧子が提供される。
この出願の発明のインデンテーション圧子の形状を例示した図およびその断面積を示すグラフである。 従来の圧子を用いた場合とこの出願の発明のインデンテーション圧子を用いた場合のナノインデンテーション試験の流れを表すフローチャートである。 この出願の発明のインデンテーション圧子の一実施形態を例示した写真である。 この出願の発明のインデンテーション圧子と従来の圧子のナノインデンテーション試験の結果を示したグラフである。 従来の圧子を用いた場合とこの出願の発明のインデンテーションの圧子を用いた場合の圧子先端が摩耗・汚れにより変化した様子を示す概念図とグラフである。 従来の圧子の形状を例示した図およびその断面積を示すグラフである。
符号の説明
1 凸部
2 汚れ

Claims (3)

  1. 圧子先端から所定距離を有する特定の位置において圧子先端の距離に対する断面積の2次導関数が定まらない部分あるいは一定でない部分を有することを特徴とするインデンテーション圧子。
  2. 圧子側面の特定の位置に凸部が付加された凸部加工型、圧子側面の特定の位置に凹部が形成された凹部加工型、圧子側面の特定の位置に凸部と凹部が形成された凸凹部加工型、圧子側面の傾きが特定の位置で不連続に変化する傾き加工型および圧子側面の特定の位置で階段状を有するステップ加工型のうちのいずれかの形状であることを特徴とするインデンテーション圧子。
  3. ナノインデンテーションに用いることを特徴とする請求項1または2記載のインデンテーション圧子。

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