(第1実施形態)
第1実施形態は、非サイクリック型の前段で4ビットを変換し、サイクリック型の後段で2ビットずつ変換し、後段が3周回することにより合計10ビットを出力するAD変換器の例である。
図1は、第1実施形態におけるAD変換器の構成を示す。このAD変換器において、まず、前段ステージについて説明する。入力アナログ信号Vinは、第1増幅回路11および第1AD変換回路12に入力される。第1AD変換回路12は、フラッシュ型のものであり、その分解能、即ち変換ビット数は4ビットである。第1AD変換回路12は、入力されるアナログ信号をデジタル値に変換し、上位4ビット(D9〜D6)を取り出し、図示しないエンコーダおよび第1DA変換回路13に出力する。第1DA変換回路13は、第1AD変換回路12により変換されたデジタル値をアナログ値に変換する。第1増幅回路11は、入力されたアナログ信号をサンプルホールドして所定のタイミングで第1減算回路14に出力する。第1増幅回路11は、アナログ信号を増幅せず、サンプルホールド回路として機能している。第1減算回路14は、第1増幅回路11の出力から、第1DA変換回路13の出力を減算する。第2増幅回路15は、第1減算回路14の出力を2倍に増幅する。なお、第1減算回路14および第2増幅回路15は、一体型の第1減算増幅回路16であってもよい。これによれば、回路を簡素化することができる。
次に、後段ステージについて説明する。第1スイッチSW1および第2スイッチSW2は、交互にオンオフするスイッチである。第1スイッチSW1がオン、第2スイッチSW2がオフの状態において、前段ステージから第1スイッチSW1を介して入力されるアナログ信号は、第3増幅回路19および第2AD変換回路17に入力される。第2AD変換回路17も、フラッシュ型のものであり、その分解能、即ち冗長1ビットを含んだビット数は3ビットである。また、第2AD変換回路17を構成している電圧比較素子に供給されるリファレンス電圧は、第1AD変換回路12を構成している電圧比較素子に供給されるリファレンス電圧の1/2に設定される。第2AD変換回路17は、2ビット変換のため、第1AD変換回路12での変換後のアナログ信号を実質4(2の2乗)倍に増幅しなければならない。しかしながら、第2増幅回路15が2倍の増幅率であるため、リファレンス電圧を1/2にすることにより、調整している。第2AD変換回路17は、入力されるアナログ信号をデジタル値に変換し、上位から5,6ビット(D5〜D4)を取り出し、図示しないエンコーダおよび第2DA変換回路18に出力する。第2DA変換回路18は、第2AD変換回路17により変換されたデジタル値をアナログ値に変換する。
第3増幅回路19は、入力されたアナログ信号を2倍に増幅して、第2減算回路20に出力する。第2減算回路20は、第3増幅回路19の出力から、第2DA変換回路18の出力を減算して、第4増幅回路21に出力する。ここで、第2DA変換回路18の出力は、実質2倍に増幅されている。これは、第2AD変換回路17の基準電圧レンジと、第2DA変換回路18の基準電圧レンジとの比を1:2に設定すれば実現することができる。例えば、第2AD変換回路17の入力をシングルで行い、第2DA変換回路18の出力を差動で構成すれば、1:2に設定することができる。
第4増幅回路21は、第2減算回路20の出力を2倍に増幅する。この段階において、第1スイッチSW1がオフ、第2スイッチSW2がオンの状態に遷移している。第4増幅回路21において増幅されたアナログ信号は、第2スイッチSW2を介して第3増幅回路19および第2AD変換回路17へフィードバックされる。なお、第2減算回路20および第4増幅回路21は、一体型の第2減算増幅回路22を用いてもよい。以下、上記の処理が繰り返され、第2AD変換回路17は、上位から7,8ビット(D3〜D2)および上位から9,10ビット(D1〜D0)を取り出す。このようにして、10ビットのデジタル値を得ている。上位から5〜10ビットをサイクリック型の後段ステージにより得ている。
図2は、第1実施形態におけるAD変換器の動作過程を示すタイムチャートである。以下、図の上位から順に説明する。3つの信号波形は、第1クロック信号CLK1、第2クロック信号CLK2およびスイッチ信号CLKSWを示す。第1クロック信号CLK1は、第1増幅回路11、第2増幅回路15、第1AD変換回路12および第1DA変換回路13の動作を制御する。第2クロック信号CLK2は、第3増幅回路19、第4増幅回路21、第2AD変換回路17および第2DA変換回路18の動作を制御する。スイッチ信号CLKSWは、第1スイッチSW1および第2スイッチSW2のオンオフ制御を行う。
第2クロック信号CLK2の周波数は、第1クロック信号CLK1の周波数の3倍である。第2クロック信号CLK2は、第1クロック信号CLK1を基本にPLL等を用いて逓倍して生成してもよい。第2クロック信号CLK2は、その立ち上がりが第1クロック信号CLK1の立ち上がりと同期した後、次の2回目の立ち下がりが第1クロック信号CLK1の次の立ち下がりと同期し、さらに次の2回目の立ち上がりが第1クロック信号CLK1の次の立ち上がりと同期する。第2クロック信号CLK2の周波数は第1クロック信号CLK1の周波数の3倍であるため、後段ステージによる変換処理速度も前段ステージによる変換処理速度の3倍である。より上位ビットでの変換処理における減算や増幅等のアナログ処理の精度は全体の変換精度に大きく影響するため、これを担当する前段ステージほど高い精度が要求される。したがって、本実施形態の構成において、前段ステージほどには処理精度が要求されない後段ステージは、前段ステージの処理速度より、その変換処理速度を速めることが可能である。
第1増幅回路11および第1AD変換回路12は、第1クロック信号CLK1の立ち上がりエッジで、入力アナログ信号Vinをサンプルする。第1増幅回路11は、第1クロック信号CLK1がHiのときにサンプルしたアナログ信号をホールドし、第1クロック信号CLK1がLoのときにオートゼロ動作をする。第2増幅回路15は、第1クロック信号CLK1の立ち下がりエッジで、入力されるアナログ信号をサンプルする。第1クロック信号CLK1がLoのときにサンプルしたアナログ信号を増幅して、第3増幅回路19および第2AD変換回路17に出力し、第1クロック信号CLK1がHiのときにオートゼロ動作をする。第1AD変換回路12は、第1クロック信号CLK1がHiのときに変換動作をしてデジタル値D9〜D6を出力し、第1クロック信号CLK1がLoのときにオートゼロ動作をする。第1DA変換回路13は、第1クロック信号CLK1がLoのときに変換確定データを保持し、第1クロック信号CLK1がHiのときは不定状態となる。
第1スイッチSW1は、スイッチ信号CLKSWがHiのときにオンされ、スイッチ信号CLKSWがLoのときにオフされる。第2スイッチSW2は、スイッチ信号CLKSWがLoのときにオンされ、スイッチ信号CLKSWがHiのときにオフされる。
第3増幅回路19および第2AD変換回路17は、第2クロック信号CLK2の立ち上がりエッジで、入力されるアナログ信号をサンプルする。第3増幅回路19は、第2クロック信号CLK2がHiのときにサンプルしたアナログ信号を増幅し、第2クロック信号CLK2がLoのときにオートゼロ動作をする。第2AD変換回路17が最下位ビットD1〜0を変換する期間は、増幅しない。第4増幅回路21は、第2クロック信号CLK2の立ち下がりエッジで、入力されるアナログ信号をサンプルする。第2クロック信号CLK2がLoのときにサンプルしたアナログ信号を増幅し、第2クロック信号CLK2がHiのときにオートゼロ動作をする。第2AD変換回路17がD1〜D0を変換後の次の半クロック期間は、増幅を行わない。
第2AD変換回路17は、第2クロック信号CLK2がHiのときに変換動作をして冗長ビット分を除いて2ビットを出力し、第2クロック信号CLK2がLoのときにオートゼロ動作をする。第2DA変換回路18は、第2クロック信号CLK2がLoのときに変換確定データを保持し、第2クロック信号CLK2がHiのときは不定状態となる。第2AD変換回路17の出力がD1〜D0のときは変換動作を行わない。
第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19、第4増幅回路21、第1AD変換回路12および第2AD変換回路17のオートゼロ期間は、入力される信号をサンプル中の状態である。図のように、第2AD変換回路17がD5〜D4およびD3〜D2を変換処理する間、第1AD変換回路12は次に入力された入力アナログ信号Vinを同時に変換処理する。こうしたパイプライン処理により、AD変換器全体としては第1クロック信号CLK1を基準として1周期に1回、10ビットのデジタル値を出力することができる。
次に、第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21の詳細な構成について説明する。図3は、これらの増幅回路をシングルエンドのスイッチトキャパシタオペアンプで構成した場合を示す図である。図4は、スイッチトキャパシタオペアンプの動作を説明するためのタイムチャートである。図3において、オペアンプ100の反転入力端子には、入力用コンデンサC1が接続されており、Vin1用スイッチSW12を介して入力電圧Vin1が入力され、Vin2用スイッチSW13を介して入力電圧Vin2が入力される。なお、入力電圧Vin1は、入力アナログ信号Vinや前段から入力されるアナログ信号が該当し、入力電圧Vin2は、第1DA変換回路13および第2DA変換回路18の出力アナログ信号やリファレンス電圧が該当する。オペアンプ100の非反転入力端子は、オートゼロ電位に接続されている。オペアンプ100の出力端子と反転入力端子とは、帰還用コンデンサC2を介して接続されている。また、その外側にオートゼロ用スイッチSW11が接続され、オペアンプ100の出力端子と反転入力端子とが短絡可能な構成となっている。
次に、図4を参照しながら図3に示したシングルエンドのスイッチトキャパシタオペアンプの動作を説明する。まず、オートゼロ電位Vagにするため、オートゼロ用スイッチSW11をオンにする。この状態において、入力側ノードN1および出力側ノードN2は、共にオートゼロ電位Vagである。入力電圧Vin1をサンプルするため、Vin1用スイッチSW12をオンにし、Vin2用スイッチSW13をオフする。このとき、入力側ノードN1の電荷QAは次式(A1)のようになる。
QA=C2(Vin1−Vag)…(A1)
次に、仮想接地して増幅するために、オートゼロ用スイッチSW11をオフにする。その後、入力電圧Vin2を減算するために、Vin1用スイッチSW12をオフにし、Vin2用スイッチSW13をオンにする。このとき、入力側ノードN1の電荷QBは次式(A2)のようになる。
QB=C2(Vin2−Vag)+C1(Vout−Vag)…(A2)
入力側ノードN1には電荷の抜け出る経路がないため、電荷保存則よりQA=QBとなり、次式(A3)が成立する。
Vout=C2/C1(Vin1−Vin2)+(C1Vag)…(A3)
したがって、当該シングルエンドのスイッチトキャパシタオペアンプは、オートゼロ電位Vagが理想的に接地電位であれば、入力電圧Vin1と入力電圧Vin2との差分を、入力用コンデンサC1と帰還用コンデンサC2との容量比によって、増幅することができる。もちろん、オートゼロ電位Vagが接地電位でなくでも、その近似値を得ることができる。
次に、オペアンプ100をCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)プロセスで構成した例について説明する。図5は、シングルエンドにおけるオペアンプ100の差動増幅部分の等価回路を示す図である。オペアンプ100は、Pチャネル型MOS(Metal-Oxide Semiconductor)電界効果トランジスタ(以下、PMOSトランジスタと呼ぶ)M3,M4、Nチャネル型MOS電界効果トランジスタ(以下、NMOSトランジスタと呼ぶ)M1,M2、および定電流源101を備える。
1対のPMOSトランジスタM3,M4は、ドレインに電源電圧Vddが与えられ、ゲートにバイアス電圧が与えられる。1対のPMOSトランジスタM3,M4は、カレントミラー回路を構成しており、両方のソースに等しいドレイン電流が流れる。1対のNMOSトランジスタM1,M2は、ドレインがそれぞれ1対のPMOSトランジスタM3,M4に接続され、ソースが定電流源101に接続される。ゲートには差動入力IN1,IN2が与えられる。そして、PMOSトランジスタM4とNMOSトランジスタM2との接続点から出力OUTを得ている。NMOSトランジスタM1,M2およびPMOSトランジスタM3,M4の相互コンダクタンスおよび出力抵抗によりゲインが決まる。定電流源101には、NMOSトランジスタを使用することができる。当該NMOSトランジスタのゲートにはバイアス電圧が与えられ、飽和領域で動作する。
図6は、完全差動方式のスイッチトキャパシタオペアンプで構成した場合を示す図である。完全差動方式は、シングルエンド方式と比較し、ノイズ耐性があり、出力振幅も大きくとれる。図6において、オペアンプ110の非反転入力端子には、入力用コンデンサC1aが接続されており、Vin1用スイッチSW12aを介して入力電圧Vin1(+)が入力され、Vin2用スイッチSW13aを介して入力電圧Vin2(+)が入力される。オペアンプ110の反転入力端子には、入力用コンデンサC1bが接続されており、Vin1用スイッチSW12bを介して入力電圧Vin1(−)が入力され、Vin2用スイッチSW13bを介して入力電圧Vin2(−)が入力される。オペアンプ110の反転出力端子と非反転入力端子とは、帰還用コンデンサC2aを介して接続されている。オペアンプ110の非反転出力端子と反転入力端子とは、帰還用コンデンサC2bを介して接続されている。また、入力側ノードN1a,N1bおよび出力側ノードN2a,N2bには、オートゼロ用スイッチSW11a〜dが接続される。オートゼロ用スイッチSW11a〜dは同じタイミングで動作し、オン時には入力側ノードN1a,N1bおよび出力側ノードN2a,N2bの電位は、オートゼロ電位Vagとなる。
次に、図6の当該完全差動方式のスイッチトキャパシタオペアンプの動作を説明する。動作タイミングは、図4に示したタイミングと同様である。まず、オートゼロ電位Vagにするため、オートゼロ用スイッチSW11a〜dをオンにする。この状態において、入力側ノードN1a,bおよび出力側ノードN2a,bは、共にオートゼロ電位Vagである。入力電圧Vin1をサンプルするため、Vin1用スイッチSW12a,bをオンにし、Vin2用スイッチSW13a,bをオフする。このとき、入力側ノードN1aの電荷QAAは次式(A4)のようになり、入力側ノードN1bの電荷QABは次式(A5)のようになる。
QAA=C2{Vin1(+)−Vag}…(A4)
QAB=C2{Vin1(−)−Vag}…(A5)
次に、仮想接地状態にして増幅するために、オートゼロ用スイッチSW11a〜dをオフにする。その後、入力電圧Vin2を減算するために、Vin1用スイッチSW12a,bをオフにし、Vin2用スイッチSW13a,bをオンにする。このとき、入力側ノードN1aの電荷QBAは次式(A6)のようになり、入力側ノードN1bの電荷QBBは次式(A7)のようになる。
QBA=C2{Vin2(+)−Vag}+C1{Vout(+)−Vag}…(A6)
QBB=C2{Vin2(−)−Vag}+C1{Vout(−)−Vag}…(A7)
入力側ノードN1には電荷の抜け出る経路がないため、電荷保存則よりQAA=QBAおよびQAB=QBBとなり、次式(A8),(A9)が成立する。
Vout(+)=C2/C1{Vin1(+)−Vin2(+)}+(C1Vag)…(A8)
Vout(−)=C2/C1{Vin1(−)−Vin2(−)}+(C1Vag)…(A9)
2つの出力側ノードN2a,N2bの差分電圧Voutは次式(A10)で表される。
Vout=Vout(+)−Vout(−)=C2/C1[{Vin1(+)−Vin1(−)}−{Vin2(+)−Vin2(−)}]…(A10)
したがって、完全差動方式のスイッチトキャパシタオペアンプは、入力電圧Vin1と入力電圧Vin2との差分を、入力用コンデンサC1と帰還用コンデンサC2との容量比によって、増幅することができる。
図7は、完全差動方式におけるオペアンプ110の差動増幅部分の等価回路を示す図である。基本的に図5の説明と同様である。PMOSトランジスタM3とNMOSトランジスタM1との接続点、およびPMOSトランジスタM4とNMOSトランジスタM2との接続点から、差動出力OUT1,2を得ている。また、電源側から接地側に貫通電流が流れる。
次に、第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21の配置パターンについて説明する。図1に示したAD変換器において、第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21に要求される精度は、一般的にアナログ信号が伝達される経路の順である。即ち、第1増幅回路11→第2増幅回路15→第3増幅回路19→第4増幅回路21である。より上位ビットに近いビットを変換する際に、より高い精度が要求されるためである。
図8は、第1実施形態における複数の増幅回路の第1配置パターンを概念的に示す図である。AD変換器を集積回路で構成する場合、電源入力端子1に外部電源を接続する。集積回路内において、各構成素子は電源入力端子1から電源配線を介して電源供給を受ける。電源配線には抵抗成分Rがあり、それが長くなるほど電源電圧が降下してしまう。図8において、電源入力端子1に対して近い順に第1増幅回路11→第2増幅回路15→第3増幅回路19→第4増幅回路21と配置している。第1増幅回路11は、最も高い精度を必要とするため、電源入力端子1に対して最も近い場所に配置されている。そのため、第1増幅回路11は、電源配線抵抗成分Rが最も小さくなる。即ち、電圧降下が最も小さい電源電圧の供給を受けることができる。よって、AD変換器全体の精度および速度を向上させることができる。
図9は、比較例における複数の増幅回路の配置パターンを概念的に示す図である。図9において、第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21は、電源入力端子1に対してほぼ等距離に配置され、その配線長が略等しくなっている。したがって、第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21に供給される電源電圧も略等しくなる。ここで、これらの増幅回路に供給される電源電圧の降下により、図5や図7に示したバイアス電流が小さくなってしまうと、オペアンプ100,110の動作速度が低下してしまう。また、当該バイアス電流を生成しているバイアス部と、差動増幅部とで電源電圧や接地電圧が異なってくると、DCゲインや出力電圧範囲が劣化する恐れがある。比較例においては、このような現象が第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21で略等しく起こる。これらの現象を抑止するためには、電源配線幅を広くすることも考えられるが、回路面積を増大させてしまう。
これに対して図8に示した第1配置パターンにおいては、第1増幅回路11ではこのような現象がほとんど起こらず、第4増幅回路21に近くなるにしたがって、このような現象の度合いが大きくなる。図1に示したAD変換器においては、第1増幅回路11→第2増幅回路15→第3増幅回路19→第4増幅回路21の順で精度が要求されるため、第1増幅回路11の精度の高い図8に示した第1配置パターンのほうが、比較例における配置パターンより、AD変換器全体の精度および速度を向上させることができる。
図10は、第1実施形態における複数の増幅回路の第2配置パターンを概念的に示す図である。第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21に要求される精度は、アナログ信号が伝達される経路の順に限るものではない。例えば、変換ビット数の変更等により第3増幅回路19の増幅率を高くし、第2増幅回路15の増幅率を低下させた場合、AD変換器全体を高速化させるためには、第2増幅回路15よりも第3増幅回路19に精度の高い電源電圧を供給したほうがよい。このような場合、図10に示すように、電源入力端子1に対して近い順に第1増幅回路11→第3増幅回路19→第2増幅回路15→第4増幅回路21と配置している。このように、アナログ信号の伝達経路順に限らず、電源入力端子1に対して精度が要求される順に配置することができる。
図11は、第1実施形態における複数の増幅回路の第3配置パターンを概念的に示す図である。図11に示すように、電源入力端子1は、集積回路の縦方向に設けても横方向に設けてもよい。
図12は、第1実施形態における複数の増幅回路の第4配置パターンを概念的に示す図である。クロック生成回路2およびデジタル回路3は、ノイズ源となる。クロック生成回路2は、クロック信号を生成し、少なくとも第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21に動作タイミングを供給する。図4に示したようにオートゼロ動作や増幅動作のタイミングを供給している。クロック生成回路2は、クロック配線やゲート容量による負荷を駆動するため、大きなサイズのトランジスタを使用したインバータ等のロジック素子が多く含まれる。当該インバータを、トランジスタを2つ直列接続したプッシュプル回路で構成した場合、LoレベルからHiレベル、HiレベルからLoローレベルへの遷移時に大きな貫通電流が発生する場合がある。この貫通電流が基板に注入されると大きなノイズ成分となる。基板内にトラップが設けられていても、そのトラップを超えてノイズ成分が広がってしまう場合がある。これらのノイズ成分は、図5や図7に示したオペアンプ100,110を構成しているMOSトランジスタM1〜4等の素子の基板電位を変動させてしまうため、第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21の精度や速度の低下の原因となる。
デジタル回路3は、各種のデジタル信号処理を行う回路であり、第1AD変換回路12や第2AD変換回路17で変換されたデジタル値をバイナリコードに変換するエンコーダや、各ステージの出力タイミングを合わせるためのラッチ回路等である。デジタル回路3からもノイズ成分が発生する。ただ、クロック生成回路2ほど大電流で駆動していないため、ノイズ成分の程度は、クロック生成回路2ほど大きくない。
図12において、クロック生成回路2に対して近い順に第4増幅回路21→第3増幅回路19→第2増幅回路15→第1増幅回路11と配置している。反対に、電源入力端子1に対して近い順に第1増幅回路11→第2増幅回路15→第3増幅回路19→第4増幅回路21と配置している。第1増幅回路11は、最も高い精度を必要とするため、クロック生成回路2に対して最も離れた場所に配置されている。基板を介して伝達されるノイズ成分は、基板の抵抗成分と、寄生容量や線間容量等の容量成分とにより形成されるローパスフィルタの効果により、ノイズ源から離れるにしたがって、減少していく。したがって、第1増幅回路11が最もノイズ成分の影響を受けにくいことになる。同時に、第1増幅回路11は、電源入力端子1に対して最も近い場所に配置されており、電源電圧の精度が最も高い。また、第4増幅回路21→第3増幅回路19→第2増幅回路15→第1増幅回路11の配置順番は、アナログ信号伝達経路の逆の順番に限るものではなく、精度が要求されない順番であれば、他の順番でもよい。
図13は、第1実施形態における複数の増幅回路の第5配置パターンを概念的に示す図である。図13において、最も高い精度が要求される第1増幅回路11は、クロック生成回路2およびデジタル回路3から最も離れた場所に配置されており、電源入力端子1から最も近い場所に配置されている。第2増幅回路15は、電源入力端子1およびデジタル回路3から離れた場所に配置され、クロック生成回路2から最も近い場所に配置されている。第3増幅回路19は、電源入力端子1、クロック生成回路2およびデジタル回路3に対して、中くらいの場所に配置されている。最も低い精度でよい第4増幅回路21は、クロック生成回路2およびデジタル回路3に最も近い場所に配置されており、電源入力端子1から最も離れた場所に配置されている。このような第5配置パターンにより、第1増幅回路11の精度が最もよくなり、AD変換器全体の精度および速度を向上させることができる。
図14は、第1実施形態における複数の増幅回路の第6配置パターンを概念的に示す図である。図14において、最も高い精度が要求される第1増幅回路11は、クロック生成回路2およびデジタル回路3から最も離れた場所に配置されており、電源入力端子1から最も近い場所に配置されている。第2増幅回路15は、クロック生成回路2から最も離れた場所に配置されており、電源入力端子1およびデジタル回路3から最も近い場所に配置されている。第3増幅回路19は、デジタル回路3および電源入力端子1から最も離れた場所に配置されており、クロック生成回路2から最も近い場所に配置されている。最も低い精度でよい第4増幅回路21は、クロック生成回路2およびデジタル回路3から最も近い場所に配置されており、電源入力端子1から最も離れた場所に配置されている。このような第6配置パターンにより、第1増幅回路11の精度が最もよくなり、AD変換器全体の精度および速度を向上させることができる。また、第5配置パターンや第6配置パターンのように、第1増幅回路11、第2増幅回路15、第3増幅回路19および第4増幅回路21の配置パターンは、各々に要求される精度によって、電源入力端子1、クロック生成回路2およびデジタル回路3に対して、柔軟に設定することができる。
(第2実施形態)
第2実施形態は、サイクリック型のAD変換器であり、最初に4ビットを変換し、それ以降3周回して2ビットずつ変換し、合計10ビットを出力する例である。
図15は、第2実施形態におけるAD変換器の構成を示す。第1スイッチSW3および第2スイッチSW4は、交互にオンオフするスイッチである。初期状態において、第1スイッチSW3がオン、第2スイッチSW4がオフの状態である。入力アナログ信号Vinは、第1スイッチSW3を介して、第1増幅回路31およびAD変換回路32に入力される。AD変換回路32は、フラッシュ型のものであり、その最大分解能、即ち変換ビット数は4ビットである。AD変換回路32は、第1スイッチSW3を介して入力されるアナログ信号をデジタル値に変換し、上位4ビット(D9〜D6)を取り出し、図示しないエンコーダおよびDA変換回路33に出力する。DA変換回路33は、AD変換回路32により変換されたデジタル値をアナログ値に変換する。第1増幅回路31は、入力されたアナログ信号を2倍に増幅して、減算回路34に出力する。減算回路34は、第1増幅回路31の出力から、DA変換回路33の出力を減算する。ここで、DA変換回路33の出力は、実質2倍に増幅されている。これは、AD変換回路32の基準電圧レンジと、DA変換回路33の基準電圧レンジとの比を1:2に設定すれば実現することができる。第2増幅回路35は、減算回路34の出力を2倍に増幅する。なお、減算回路34および第2増幅回路35は、一体型の減算増幅回路36であってもよい。これによれば、回路を簡素化することができる。
この段階において、第1スイッチSW3がオフ、第2スイッチSW4がオンの状態に遷移している。第2増幅回路35の出力アナログ信号は、第2スイッチSW4を介して、第1増幅回路31およびAD変換回路32にフィードバックされる。AD変換回路32は、第2スイッチSW4を介して入力されるアナログ信号を、冗長1ビットを除いて2ビット変換し、上位から5,6ビット(D5〜D4)を取り出し、図示しないエンコーダおよびDA変換回路33に出力する。DA変換回路33、第1増幅回路31、減算回路34および第2増幅回路35の動作は、1回目の変換のときと同様である。AD変換回路32が2回目以降2ビット変換になるため、第1増幅回路31および第2増幅回路35は、合計で実質4(2の2乗)倍に増幅する。以下、上記の処理が繰り返され、AD変換回路32は、上位から7,8ビット(D3〜D2)および上位から9,10ビット(D1〜D0)を取り出す。このようにして、10ビットのデジタル値を得ている。
第1増幅回路31および第2増幅回路35の詳細な構成については、第1実施形態の説明と同様である。次に、第1増幅回路31および第2増幅回路35の配置パターンについて説明する。図15に示したAD変換器において、第1増幅回路31および第2増幅回路35に要求される精度は、一般的にアナログ信号が伝達される経路の順である。即ち、第1増幅回路31→第2増幅回路35の順である。第1増幅回路31のほうが第2増幅回路35より広い電圧範囲を扱うため、より高い精度が要求されるためである。
図16は、第2実施形態における2つの増幅回路の第1配置パターンを概念的に示す図である。図16において、AD変換器を集積回路で構成する場合、電源入力端子1に対して近い順に第1増幅回路31→第2増幅回路35と配置している。第1増幅回路31は、第2増幅回路35より高い精度を必要とするため、電源入力端子1に対して第2増幅回路35より近い場所に配置されている。したがって、第1増幅回路31は、電源配線抵抗成分Rが第2増幅回路35より小さくなる。即ち、電圧降下が第2増幅回路35より小さい電源電圧の供給を受けることができる。よって、AD変換器全体の精度および速度を向上させることができる。
図17は、第2実施形態における2つの増幅回路の第2配置パターンを概念的に示す図である。クロック生成回路2およびデジタル回路3は、ノイズ源となる。クロック生成回路2は、デジタル回路3より大きなノイズ成分を基板に注入する。図17において、第2増幅回路35より高い精度を必要とされる第1増幅回路31は、電源入力端子1から近い場所に配置されており、クロック生成回路2から離れた場所に配置されている。第2増幅回路35は、クロック生成回路2から近い場所に配置されており、電源入力端子1から離れた場所に配置されている。基板を介して伝達されるノイズ成分は、基板の抵抗成分と、寄生容量や線間容量等の容量成分とにより形成されるローパスフィルタの効果により、ノイズ源から離れるにしたがって減少していく。また、電源電圧は、電源入力端子1から離れるにしたがって降下していく。よって、このように配置されている第1増幅回路31は、ノイズ成分の影響を第2増幅回路35より受けないことになり、電源電圧の精度が第2増幅回路35より高い。したがって、第1増幅回路31および第2増幅回路35を、電源入力端子1およびクロック生成回路2に対して略等距離に配置したパターンと比較し、AD変換器全体の精度および速度を向上させることができる。
また図17において、第1増幅回路31および第2増幅回路35は、デジタル回路3に対して略等距離に配置されているが、デジタル回路3に対して第1増幅回路31のほうを第2増幅回路35より離れた場所に配置すれば、さらに第1増幅回路31の精度を向上させることができる。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能である。また、そうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
各実施形態に記載したAD変換回路の変換ビット数とその配分、増幅回路の増幅率のパラメータは一例に過ぎず、変形例においてはこれらのパラメータに他の数値を採用してもよい。また、ステージ数は、1段や2段に限るものではなく、3段以上にも適用可能である。そして、それらのステージの1段以上がサイクリック型の構成であってもよい。
第1実施形態において、第1増幅回路11は除去されてもよい。第2増幅回路15または第1減算増幅回路16の入力アナログ信号Vinのサンプルタイミングを調整するか、第1AD変換回路12を構成している電圧比較素子への入力アナログ信号Vinとリファレンス電圧との入力タイミングを切り替えれば、第1増幅回路11を除去してもAD変換器全体の動作が保証される。これによれば、回路面積を縮小することができる。この場合、一般的に精度が要求される順は、第2増幅回路15→第3増幅回路19→第4増幅回路21となる。また同様に、第3増幅回路19を除去してもよい。この場合、一般的に精度が要求される順は、第1増幅回路11→第2増幅回路15→第4増幅回路21となる。
また、各実施形態においては入力される信号のサンプルのタイミングを向上させるために、各増幅回路をスイッチトキャパシタオペアンプで構成する例を説明した。この点、増幅回路はこれに限るものではなく、主に抵抗を用いた一般的な増幅回路でもよい。
さらに、各実施形態においては増幅回路をCMOSプロセスで構成する例を説明した。この点、TTL(Transistor Transistor Logic)プロセスで構成してもよい。
1 電源入力端子1、 2 クロック生成回路、 3 デジタル回路、 11,31 第1増幅回路、 12 第1AD変換回路、 13 第1DA変換回路、 14 第1減算回路、 15,35 第2増幅回路、 16 第1減算増幅回路、 17 第2AD変換回路、 18 第2DA変換回路、 19 第3増幅回路、 20 第2減算回路、 21 第4増幅回路、 22 第2減算増幅回路、 32 AD変換回路、 33 DA変換回路、 34 減算回路、 100,110 オペアンプ、 101 定電流源、 SW1〜SW4,SW11〜13 スイッチ、 C1,C2 コンデンサ、 M1,M2 NMOSトランジスタ、 M3,M4 PMOSトランジスタ、 R 抵抗成分。