JP2005236390A - 指向性可変アレーアンテナおよびそれを用いた無線通信装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 耐電力,低歪み,低損失等の特性に優れた指向性可変アレーアンテナを提供する。
【解決手段】 給電源が接続された放射素子11aと、放射素子11aとの相互結合により給電される無給電放射素子13aと、無給電放射素子13aに装荷された可変リアクタンス回路Zとを具備しており、可変リアクタンス回路Zは可変容量コンデンサCtを有しており、可変容量コンデンサCtは入力端子と出力端子との間に、印加電圧により誘電率が変化する薄膜誘電体層を用いた複数の可変容量素子C1〜C5が直流的に並列接続され、かつ高周波的に直列接続されている指向性可変アレーアンテナ100である。バイアス信号による可変容量コンデンサCtの容量変化率を利用して無給電放射素子13aのリアクタンス値を制御し、励振アンテナ11の指向性を制御することができ、かつ耐電力,低歪み,低損失等の特性に優れたものとすることができる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、マイクロ波帯およびミリ波帯等の通信機器に用いられる可変リアクタンス回路を有する指向性制御可能なアレーアンテナおよびそれを用いた無線通信装置に関するものであり、可変リアクタンス回路は印加電圧により誘電率が変化する誘電体層を有して容量を変化させることができる可変容量コンデンサを用い、その容量を変化させることによってリアクタンス値を変化させ、アレーアンテナの指向性を可変にすることができ、特に、耐電力,低歪み,低損失等の特性に優れた安価で構成が簡易な指向性可変アレーアンテナおよびそれを用いた無線通信装置に関する。
マイクロ波帯およびミリ波帯等の通信機器において無線通信の高速化、大容量化や無線通信品質の向上や、高速移動通信等の実現に対する要求が年々高まっている。しかし、無線通信環境の状態によっては、マルチパスやドップラシフトが無線通信品質を劣化させる原因となることがある。また、近年の携帯電話等の普及増加により、同時に通信できるユーザー数を増加させることが必要となっている。
これらの問題を解決するための方法として、無線通信品質を向上させることと、ある限られた周波数を有効に利用して同時に多くのユーザーが使用できるようにその周波数の利用効率を向上させることを目的に、アンテナの指向性を適応的に制御するアダプティブアレーアンテナ技術が注目されており、近年では盛んに検討が行なわれている。
このアレーアンテナの指向性を適応的に制御可能とするための方法として、複数のアンテナ素子の各給電線に可変容量ダイオードや電圧制御型誘電バラクタを反射性終端部として用いてラットレースカプラー等と組み合わせることや、あるいは電圧制御型誘電バラクタをマイクロストリップ線路から延びる半径方向スタブ内に配置した可変移相回路を用いることにより、指向性を適応的に制御可能とするアレーアンテナが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
また、給電される放射素子と無給電素子である反射器および導波器を所定位置に配置して組み合わせた指向性アンテナは八木・宇田アンテナが代表的であるが、励振される放射素子の周囲に相互結合により励振される複数の無給電放射素子を配置し、無給電放射素子には可変リアクタンス素子が装荷され、可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変えることにより、指向性制御可能なアレーアンテナ装置が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。このアレーアンテナ装置では、励振素子と、この励振素子から所定の間隔だけ離れて設けられた複数の無給電素子と、これらに設けられたそれぞれの可変リアクタンス回路のリアクタンス値を変化させることにより、複数の無給電素子を導波器または反射器として動作させアレーアンテナの指向性を変化させる構成であり、可変リアクタンス回路には可変リアクタンス素子である可変容量ダイオードが用いられており、この可変容量ダイオードは可変容量コンデンサに相当するものである。
また、可変リアクタンス回路には可変容量ダイオードが互いに逆方向で接続された少なくとも一対の可変リアクタンス素子が用いられており、可変容量ダイオードの第2高調波等の非線形歪みを抑制し、また、一対の可変リアクタンス素子を並列に複数接続することによって、大きな電流に対して耐えられる大電力用のアレーアンテナとなる。
特表2002−528899号公報 特開2002−299952号公報
しかしながら、従来の指向性制御可能なアレーアンテナでは、可変リアクタンス回路は可変容量ダイオードが互いに逆方向で接続された少なくとも一対の可変リアクタンス素子が用いられており、このような可変リアクタンス回路を有する従来のアレーアンテナでは、可変容量ダイオードの高周波での損失が大きいため、可変リアクタンス回路の損失が大きくなり、結果的にアレーアンテナとしての損失が大きくなるという問題点があった。
また、このような可変リアクタンス回路では、大きな電流に対して耐えるために、一対の可変リアクタンス回路を並列に複数接続する必要があり、取り扱う電流が大きくなるにつれて対となった可変リアクタンス回路を複数並列接続して増加させる必要があり、その場合にはさらに可変リアクタンス回路の損失が増大することとなるという問題点があった。
また、無給電素子に装荷される可変リアクタンス回路には可変容量ダイオードを互いに逆方向で接続した少なくとも一対の可変リアクタンス素子が必要であり、アレーアンテナ装置として、可変リアクタンス素子の実装工程が増加するとともに、部品コストも増加し、部品点数の増加によって部品ばらつきの影響が増大するという問題点もあった。
さらに、大きな電流に対応するためには、可変リアクタンス素子の並列接続数を増加する必要があることから、その場合にはさらに可変リアクタンス素子の実装工程が増加するとともに、部品コストも増加し、部品点数の増加による部品ばらつきの影響がさらに増大するという問題点につながってしまうこととなる。
しかも、可変容量ダイオードを使用した可変リアクタンス回路を有するアレーアンテナにおいては、図10にダイポール型非励振素子に装荷した可変リアクタンス回路の等価回路図で示すように、バイアス信号は一対の可変容量ダイオード201,202に対してバイアス供給回路G1,G2を介してバイアス端子Vc−,Vc+により供給されるため、可変リアクタンス回路に抵抗R1,R2,R3で構成される独立したバイアス供給回路G1,G2が必要であった。このため、バイアス供給回路G1,G2を設計する必要があり、その調整にも手間が必要となり、さらに、可変リアクタンス回路とバイアス供給回路G1,G2とが別々に構成されているため、回路の面積が大型化してしまい、アレーアンテナ装置として全体が大型化してしまうという問題点があった。このバイアス供給回路を必要とする点では、従来の可変リアクタンス回路を有するアレーアンテナにおいては、可変容量ダイオードを可変容量コンデンサに代えても同様の問題点があった。
また、可変容量ダイオードを使用した可変リアクタンス回路を有するアレーアンテナにおいては、可変容量ダイオード201,202には印加電圧に対する極性があるため、設計時のみならず実装時にも極性に対して注意が必要であり、実装に際して手間もかかるという問題点があった。
本発明は以上のような従来の技術における問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、耐電力,低歪み,低損失等の特性に優れた、特性の安定した安価で構成が簡易な指向性可変アレーアンテナおよびそれを用いた無線通信装置を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、可変容量素子に対する独立したバイアス供給回路を不要とし、取扱いが容易な可変リアクタンス回路を有する指向性可変アレーアンテナおよびそれを用いた無線通信装置を提供することにある。
本発明の指向性可変アレーアンテナは、給電源が接続された放射素子と、この放射素子との相互結合により給電される無給電放射素子と、この無給電放射素子に装荷された可変リアクタンス回路とを具備しており、この可変リアクタンス回路は可変容量コンデンサを有しており、この可変コンデンサは入力端子と出力端子との間に、印加電圧により誘電率が変化する薄膜誘電体層を用いた複数の可変容量素子が直流的に並列接続され、かつ高周波的に直列接続されていることを特徴とするものである。
また、本発明の指向性可変アレーアンテナは、上記構成において、前記可変リアクタンス回路に用いられる可変容量コンデンサは、複数の前記可変容量素子の電極に接続された、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含むバイアス供給回路を有することを特徴とするものである。
そして、本発明の無線通信装置は、上記各構成の本発明の指向性可変アレーアンテナと、この指向性可変アレーアンテナに接続された送信回路および受信回路の少なくとも1つとを具備することを特徴とするものである。
本発明の指向性可変アレーアンテナによれば、給電源が接続された放射素子と、この放射素子との相互結合により給電される無給電放射素子と、この無給電放射素子に装荷された可変リアクタンス回路とを具備しており、この可変リアクタンス回路は可変容量コンデンサを有しており、この可変コンデンサは入力端子と出力端子との間に、印加電圧により誘電率が変化する薄膜誘電体層を用いた複数の可変容量素子が直流的に並列接続され、かつ高周波的に直列接続されていることから、可変容量コンデンサは複数の可変容量素子が直流的に並列接続されているため、各々の可変容量素子に所定のバイアス信号を印加することができ、これにより、バイアス信号による各々の可変容量素子の容量変化率を最大限に利用して、可変リアクタンス回路のリアクタンス値を変化させることにより、所望のアレーアンテナの指向性を得ることができる。
また、本発明の指向性可変アレーアンテナによれば、可変リアクタンス回路に用いられる可変容量コンデンサは複数の可変容量素子が高周波的に直列接続されているため、可変容量素子に印加される高周波電圧が各々の可変容量素子に分圧されるので、個々の可変容量素子に印加される高周波電圧は分圧されて減少することとなり、これによって、可変容量コンデンサの高周波信号に対する容量変動を小さく抑えることができる。このため、可変リアクタンス回路の波形歪みや相互変調歪み等を大幅に抑制することができ、指向性可変アレーアンテナの歪特性を向上させることができる。しかも、本発明の指向性可変アレーアンテナによれば、可変リアクタンス回路に用いられる可変容量コンデンサは複数の可変容量素子が高周波的に直列接続されているため、可変容量素子の誘電体層の膜厚を厚くした場合と同じ効果が得られ、可変容量コンデンサの損失抵抗による単位体積当たりの発熱量を小さくすることができる。この結果、可変リアクタンス回路の耐電力が向上し指向性可変アレーアンテナとしての耐電力性を向上することができる。
また、本発明の指向性可変アレーアンテナによれば、可変リアクタンス回路に可変容量コンデンサの印加電圧により誘電率が変化する薄膜誘電体層を用いた可変容量素子を用いたことによって、可変容量素子として障壁容量である可変容量ダイオードを用いた場合に比べ、高周波でも可変容量コンデンサにおける損失を少なくすることができ、可変リアクタンス回路の通過特性が向上し、それに伴い指向性可変アレーアンテナの通過特性を向上させることができる。
さらに、本発明の指向性可変アレーアンテナによれば、可変リアクタンス回路に用いる可変容量コンデンサが、複数の可変容量素子の電極に接続された、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含むバイアス供給回路を有しているときには、従来の可変リアクタンス回路のように外部の配線基板に実装していた独立したバイアス供給回路が不要となり、可変リアクタンス回路の小型化が図れるため、指向性可変アレーアンテナ全体として大幅な小型化が可能になるとともに、可変リアクタンス回路を用いた指向性可変アレーアンテナの取扱いが容易となる。
以上により、本発明によれば、バイアス信号による可変容量コンデンサの容量変化率を最大限に利用して無給電放射素子のリアクタンス値を制御し、放射素子および無給電放射素子の指向性を制御することができ、波形歪みや相互変調歪みが小さく、かつ耐電力,低歪み,低損失等の特性に優れた、安価で構成が簡易な指向性可変アレーアンテナおよびそれを用いた無線通信装置を提供することができる。
また、本発明によれば、独立したバイアス供給回路を不要とし、小型で取り扱いが容易な可変リアクタンス回路を用いた指向性可変アレーアンテナを提供することができる。
そして、本発明の無線通信装置によれば、本発明の指向性可変アレーアンテナと、それに接続された送信回路および受信回路の少なくとも1つとを具備することにより、波形歪みや相互変調歪みが小さく、耐電力に優れ、低損失である安定した可変リアクタンス回路を具備したアレーアンテナによって、取扱い電力が大きい送信機や送信回路を用いることが可能となり、マルチパスやドップラシフトのあるような無線通信環境の好ましくない地域においても、指向性を容易に制御することができ、それにより無線通信品質を劣化させることなく無線通信を行なうことが可能となる。また、携帯電話等の基地局や移動局に適用した場合には、無線通信の高速化・大容量化や、無線通信品質の向上,高速移動通信の実現等が可能となり、周波数の利用効率が向上するため同時に多くのユーザーが使用できるようになり、小型で高機能な無線通信装置を提供することができる。
以下、本発明の指向性可変アレーアンテナおよび無線通信装置について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1〜図5は、それぞれ本発明の指向性可変アレーアンテナの実施の形態の一例を示すものであり、図1は可変リアクタンス回路を具備する指向性可変アレーアンテナの概要を示す回路図である。また、図2は無給電放射素子に装荷された可変リアクタンス回路の等価回路図である。また、図3〜図5は5つの可変容量素子を有する可変容量コンデンサの例を示すものであり、図3は透視状態の平面図、図4は作製途中の状態を示す平面図、図5は図3のA−A’線断面図である。
図1に示す本発明の指向性可変アレーアンテナは、給電源12が接続された放射素子11aと、この放射素子11aとの相互結合により給電される無給電放射素子13aと、この無給電放射素子13aに装荷された可変リアクタンス回路Zとを具備している。図1に示す回路図において、11aは放射素子であり、12は放射素子11aを給電するための給電源であり、給電源12の一端は放射素子11aに接続され、他端はグランドへ接地されて、励振アンテナ11を構成する。また、13aは無給電放射素子であり、Zは可変リアクタンス回路であり、可変リアクタンス回路Zの一端は無給電放射素子13aのアンテナ端子14aに接続され、他端はグランド端子15aに接続され接地されて無給電アンテナ13を構成する。図1に示す例では、無給電アンテナ13は励振アンテナ11を中心にして4組の無給電アンテナ13が配置されており、それぞれの無給電放射素子13aは放射素子11aとある一定距離をおいて配置されて放射素子11aとの相互結合が生じるように設置されている。以上のような構成により、本発明の指向性可変アレーアンテナ100を得ることができる。
ここで、本発明の指向性可変アレーアンテナ100において指向性が可変となる理由について簡潔に説明する。各無給電放射素子13aは放射素子11aに対して同一の素子間隔距離を保つように配置されており、各無給電放射素子13aに取り囲まれた中央の放射素子11aを給電源12により給電することにより、素子間相互結合の効果により、各無給電放射素子13aにも電圧が誘起され、高周波電流が発生する。そして、各無給電放射素子13aに装荷された可変リアクタンス回路Zのリアクタンス値を変化させることによって各無給電アンテナ13における高周波電流を制御することにより、アレーアンテナの指向性を可変とすることが可能となる。また、ここでは、無給電アンテナ13を4組としたが、指向性の可変幅やヌル点を所望のとおり形成させるために、例えば1組以上から、例えば10組以下として配置させることもでき、必要な指向性可変幅および総合的なアレーアンテナサイズを考慮して、組数を決定することができる。
図2に示す等価回路図において、Zは可変リアクタンス回路であり、可変リアクタンス回路Zの一端は無給電放射素子13aのアンテナ端子14aに接続され、他端はグランドへ接地されている。さらに、可変リアクタンス回路ZにおいてL1はインピーダンス素子であるインダクタであり、その一端がアンテナ端子14aに対して直列に接続され、他端がグランド端子15aおよびキャパシタンス素子C11の一端へ接続されている。キャパシタンス素子C11は直流制限容量素子として設置されている。L2は制御電圧(バイアス信号)を供給するためのRF阻止用インダクタンス成分を含むチョークコイルであり、Ctは可変容量コンデンサである。キャパシタンス素子C11の他端は、チョークコイルL2の一端および可変容量コンデンサCtの一端に接続されている。チョークコイルL2の他端はバイアス端子Vに接続され、可変容量コンデンサCtの他端はグランドへ接地されている。
このように無給電放射素子13aに可変容量コンデンサCtを有する可変リアクタンス回路Zを接続し装荷することにより、放射素子11aにより無給電放射素子13aに励起された高周波電流を無給電放射素子13aとしての容量成分を調整することにより制御することが可能となる。
ここでは可変リアクタンス回路ZをLCローパス型とした例を示したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば、目的に応じて可変リアクタンス回路Zの構成を、可変容量コンデンサCtを有する例えばLCハイパス型,π型,T型,多段構成等のように変形して用いてもよく、いずれの可変リアクタンス回路でも同様の効果を得ることができる。
また、放射素子11aや無給電放射素子13aとしては、線状アンテナや平面状アンテナ等の一般的なアンテナを用いることができる。また、近年の携帯電話等の携帯機器で使用されるホイップアンテナや、筐体内へ内蔵されるマイクロストリップアンテナや板状逆Fアンテナ等を用いることができる。特に、マイクロストリップアンテナや板状逆Fアンテナは小型化の面で有利であり、例えばセラミックスや有機材料から成る誘電体やフェライト等の磁性体から成る基体に放射電極となる導体材料を圧着工法やプレス工法,メッキ工法,印刷工法等により形成することによって、小型な放射素子11aや無給電放射素子13aを得ることができる。なお、放射素子11aと無給電放射素子13aとは同一のものである必要はなく、異なる放射素子を使用して本発明の指向性可変アレーアンテナ100を構成しても構わない。
図2に示す可変リアクタンス回路Zの等価回路図において、Ctは可変容量コンデンサ、符号C1,C2,C3,C4,C5はいずれも可変容量素子であり、B11,B12,B13は抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第1バイアスライン(同図では、抵抗成分R11,R12,R13を示す。)であり、B21,B22,B23は抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第2バイアスライン(同図では、抵抗成分R21,R22,R23を示す。)である。
このような構成の可変容量コンデンサCtにおいては、可変容量コンデンサCtの入力端子と出力端子との間には、高周波信号が、直列接続された可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5を介して流れることになる。このとき、第1バイアスラインB11,B12,B13および第2バイアスラインB21,B22,B23の抵抗成分R11,R12,R13およびR21,R22,R23は、可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5の高周波信号の周波数領域でのインピーダンスに対して大きなインピーダンス成分となっており、高周波帯のインピーダンスに悪影響を与えない。
また、可変容量素子C1の容量成分を制御するバイアス信号は、バイアス端子VからチョークコイルL2を介して供給され、可変容量素子C1を介してグランドに流れる。この可変容量素子C1に印加される電圧に応じて、可変容量素子C1は所定の誘電率となり、その結果、所望の容量成分が得られることになる。可変容量素子C2,C3,C4,C5についても、これらは第1バイアスラインB11,B12,B13および第2バイアスラインB21,B22,B23を介して直流的に並列接続されているので、同様に直流的に同じ大きさのバイアス信号が印加され、所定の容量成分を得ることができる。
その結果、可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5の容量を所望の値に制御するための直流バイアス信号を、安定してそれぞれ別々に可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5に供給することができ、バイアス信号の印加による可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5の薄膜誘電体層における誘電率を所望通りに変化させることができ、よって容量成分の制御が容易な可変容量コンデンサCtとなっている。
これにより、可変リアクタンス回路Zは直列接続されたLと並列接続された可変容量コンデンサCtとで構成されているため、可変容量コンデンサCtによって可変リアクタンス回路Zが接続された放射素子11aのリアクタンス値を制御することができる。放射素子11aのリアクタンス値を変化させることにより、放射素子11a−無給電放射素子13a間の相互結合の効果により、各無給電放射素子13aに電圧が誘起され、高周波電流が発生し、無給電放射素子13aに励起された高周波電流を調整することができるので、アレーアンテナの指向性を可変とすることが可能となる。
また、可変容量コンデンサCtに入力される高周波信号、つまり可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5に入力される高周波信号は、抵抗成分R11,R12,R13およびR21,R22,R23が高周波信号の周波数領域でのインピーダンスに対して大きなインピーダンス成分となっていることから、第1バイアスラインB11,B12,B13および第2バイアスラインB21,B22,B23を介して漏れることがない。これによっても、バイアス信号が安定して可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5に独立に印加されるようになっており、その結果、バイアス信号による各々の可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5の容量変化率を最大限に利用することができるものとなっている。
つまり、可変容量コンデンサCtにおいては、N個(Nは2以上の整数)、ここでは5個の可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5は、高周波的には直列接続された可変容量素子と見ることができる。
従って、これら直列接続された可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5に印加される高周波電圧は各々の可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5に分圧されるので、個々の可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5に印加される高周波電圧は減少することとなる。このことから、高周波信号に対する容量変動は小さく抑えることができ、可変リアクタンス回路Zとして、所望のリアクタンス値に精度良く変化させることができるとともに、波形歪みや相互変調歪み等を抑制することができる。
また、可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5を直列接続したことにより、高周波的には容量素子の誘電体層の層厚を厚くしたのと同じ効果があり、可変容量コンデンサCtの損失抵抗による単位体積当りの発熱量を小さくすることができ、可変リアクタンス回路Zとしての耐電力を向上することができ、結果的に大電力を取り扱うことが可能な指向性可変アレーアンテナ100を得ることができる。
次に、本発明の指向性可変アレーアンテナ100を構成する可変リアクタンス回路Zに用いる可変容量コンデンサCtの作製方法の例について説明する。
図3は本発明の指向性可変アレーアンテナ100を構成する可変リアクタンス回路Zに用いる可変容量コンデンサCtについて、5つの可変容量素子C1〜C5を有する可変容量コンデンサCtの例を示す透視状態の平面図であり、図4は図3に示す可変容量コンデンサCtの作製途中の状態を示す平面図であり、図5は図3に示す可変容量コンデンサCtのA−A’線断面図である。
図3〜図5において、1は支持基板、2は下部電極層、31,32,33,34は導体ライン、4は薄膜誘電体層、5は上部電極層、61,62,63,64,65,66は薄膜抵抗、7は絶縁層、8は引き出し電極層、9は保護層、10は半田拡散防止層である。なお、この半田拡散防止層10と半田端子部111および112とで、それぞれ第1信号端子(入力端子)および第2信号端子(出力端子)を構成している。
支持基板1は、アルミナセラミックス等のセラミック基板や、サファイア等の単結晶基板等である。この支持基板1の上に下部電極層2,薄膜誘電体層4および上部電極層5を順次、支持基板1のほぼ全面に成膜する。これら各層の成膜終了後、上部電極層5,薄膜誘電体層4および下部電極層2を順次所定の形状にエッチングする。
下部電極層2は、薄膜誘電体層4の形成に高温スパッタが必要となるため、その高温に耐えられるように高融点であることが必要である。具体的には、Pt,Pd等の金属材料から成るものである。この下部電極層2も、高温スパッタで形成される。さらに、下部電極層2は、高温スパッタによる形成後に、薄膜誘電体層4のスパッタ温度である700〜900℃へ加熱され、薄膜誘電体層4のスパッタ開始まで一定時間保持することにより、平坦な層となる。
下部電極層2の厚みは、第2信号端子から第5の可変容量素子C5までの抵抗成分や、第1の可変容量素子C1から第2の可変容量素子C2、第3の可変容量素子C3から第4の可変容量素子C4までの抵抗成分、および下部電極層2との連続性を考慮した場合には厚い方が望ましいが、支持基板1との密着性を考慮した場合には相対的に薄い方が望ましく、両方を考慮して決定される。具体的には、0.1μm〜10μmである。下部電極層2の厚みが0.1μmよりも薄くなると、下部電極層2自身の抵抗が大きくなるほか、下部電極層2の連続性が確保できなくなる可能性がある。一方、10μmより厚くすると、内部応力が大きくなって、支持基板1との密着性が低下したり、支持基板1の反りを生じたりするおそれがある。
薄膜誘電体層4は、少なくともBa,Sr,Tiを含有するペロブスカイト型酸化物結晶から成る高誘電率の誘電体層であることが好ましい。この薄膜誘電体層4は、下部電極層2の表面(上面)に形成されている。例えば、ペロブスカイト型酸化物結晶が得られる誘電体材料をターゲットとして、スパッタリング法による成膜を所望の厚みになるまで行なう。このとき、基板温度を高く、例えば800℃として高温スパッタリングを行なうことにより、スパッタ後の熱処理を行なうことなく、高誘電率で容量変化率の大きい、低損失の薄膜誘電体層4を得ることができる。
上部電極層5の材料としては、この層の抵抗を下げるため、抵抗率の小さなAuが望ましいが、薄膜誘電体層4との密着性向上のためには、Pt等を密着層として用いることが望ましい。この上部電極層5の厚みは0.1μm〜10μmとなっている。この厚みの下限については、下部電極層2と同様に、上部電極層5自身の抵抗を考慮して設定される。また、厚みの上限については、薄膜誘電体層4との密着性を考慮して設定される。
バイアス供給回路を構成する第1バイアスラインB11,B12,B13は、導体ライン32,33,34と薄膜抵抗61,62,63とから構成され、第1バイアス端子(第1信号端子と共用)から第1バイアス端子と第1の可変容量素子C1との接続点の間、第2の可変容量素子C2と第3の可変容量素子C3との接続点、すなわち第2の可変容量素子C2の上部電極層5と第3の可変容量素子C3の上部電極層5とを接続する引き出し電極層8との間、第4の可変容量素子C4と第5の可変容量素子C5との接続点、すなわち第4の可変容量素子C4の上部電極層5と第5の可変容量素子C5の上部電極層5とを接続する引き出し電極層8との間にそれぞれ設けられている。
同様に、第2バイアスラインB21,B22,B23は、導体ライン31と薄膜抵抗64,65,66とから構成され、第2バイアス端子(第2信号端子と共用)から第2バイアス端子と第5の可変容量素子C5との接続点の間、第3の可変容量素子C3と第4の可変容量素子C4との接続点との間、第1の可変容量素子C1と第2の可変容量素子C2との接続点との間にそれぞれ設けられている。
この導体ライン31,32,33,34は、上述の下部電極層2,薄膜誘電体層4および上部電極層5を形成した後、新たに成膜することによって形成することができる。その際には、既に形成した下部電極層2,薄膜誘電体層4および上部電極層5を保護するために、リフトオフ法を用いることが望ましい。また、これら導体ライン31〜34は、下部電極層2のパターニングの際に、同時にこれら導体ライン31〜34も形成するようにパターニングを行なうことによっても形成することができる。
この導体ライン31〜34の材料としては、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23の抵抗値のばらつきを抑制するために、低抵抗であるAuが望ましいが、薄膜抵抗61,62,63,64,65,66の抵抗が十分に高いので、Pt等を用いて、下部電極層2と同じ材料および同じ工程で形成してもよい。
次に、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23を構成する薄膜抵抗61〜66の材料としては、タンタル(Ta)を含有し、かつその比抵抗が1mΩ・cm以上であるものが望ましい。具体的な材料としては、窒化タンタル(TaN)やTaSiN,Ta−Si−Oを例示することができる。例えば、窒化タンタルの場合であれば、Taをターゲットとして、窒素を加えてスパッタリングを行なうリアクティブスパッタ法により、所望の組成比および抵抗率の薄膜抵抗61〜66を成膜することができる。
このスパッタリングの条件を適宜選択することにより、膜厚が40nm以上で、比抵抗が1mΩ・cm以上の薄膜抵抗61〜66を形成することができる。さらに、スパッタリングの終了後、レジストを塗布して所定の形状に加工した後、反応性イオンエッチング(RIE)等のエッチングプロセスを行なうことにより、簡便にパターニングすることができる。
可変容量コンデンサCtを周波数1GHzで使用し、可変容量素子C1〜C5の容量を5pFとした場合には、この周波数の1/10(100MHz)からインピーダンスに悪影響を与えないように薄膜抵抗61〜66を可変容量素子C1〜C5の100MHzでのインピーダンスの10倍以上の抵抗値に設定するものとすると、必要な第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23の抵抗値は、約3.2kΩ以上であればよい。可変容量コンデンサCtにおける薄膜抵抗61〜66の比抵抗率は1mΩ・cm以上として、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23の抵抗値として10kΩを得る場合であれば、薄膜抵抗61〜66のアスペクト比(長さ/幅)は、膜厚を50nmとしたとき、50以下とできるため、素子形状を大きくすることなく実現可能なアスペクト比を有する薄膜抵抗61〜66となる。
これら薄膜抵抗61〜66を含む第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23は、支持基板1上に直接形成されている。これにより、可変容量素子C1〜C5上に形成する際に必要となる、下部電極層2,上部電極層4および引き出し電極層8との絶縁を確保するための絶縁層が不要となり、可変容量素子C1〜C5を構成する層の数を低減することが可能となる。さらに、高抵抗の薄膜抵抗61〜66を用いることにより、形状を大きくすることなく、可変容量コンデンサCtを作製することができる。
次に、絶縁層7は、この上に形成する引き出し電極層8と下部電極層2との絶縁を確保するために必要である。さらに、この絶縁層7は、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23を被覆しており、薄膜抵抗61〜66が酸化されるのを防止できるため、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23の抵抗値を経時的に一定とすることができ、これにより信頼性を向上させることができる。絶縁層7の材料は、耐湿性を向上させるために、窒化ケイ素および酸化ケイ素の少なくとも1種類より成るものとするとよい。これらは、被覆性を考慮して、化学気相堆積(CVD)法等により成膜することが望ましい。
また、絶縁層7は、通常のレジストを用いるドライエッチング法等により、所望の形状に加工することができる。そして、絶縁層7には、薄膜抵抗61〜66と引き出し電極層8との接続を確保するために導体ライン33,34に到達する貫通孔を設けている。その他でこの絶縁層7から露出させる部位としては、上部電極層4および半田端子部111,112のみとしておくことが、耐湿性向上の観点から好ましい。
次に、引き出し電極層8は、第1の可変容量素子C1の上部電極層5と一方の端子形成部111とを接続するとともに、または上部電極層5同士を連結させて、第2の可変容量素子C2と第3の可変容量素子C3と、第4の可変容量素子C4と第5の可変容量素子C5との各々を直列接続するものである。さらに、可変容量素子C2とC3と、C4とC5との各々にまたがる引き出し電極層8は、絶縁層7の貫通孔を通ってそれぞれ導体ライン33,34と接続している。この引き出し電極層8の材料としては、Au,Cu等の低抵抗な金属を用いることが望ましい。また、引き出し電極層8に対する絶縁層7との密着性を考慮して、Ti,Ni等の密着層を使用してもよい。
次に、半田端子部111,112を露出させて全体を被覆するように、保護層9を形成する。保護層9は、可変容量素子C1を始めとする可変容量コンデンサCtの構成部材を機械的に保護するほか、薬品等による汚染から保護するためのものである。ただし、この保護層9の形成時には、半田端子部111,112を露出するようにする。保護層9の材料としては、耐熱性が高く、段差に対する被覆性が優れたものが良く、具体的には、ポリイミド樹脂やBCB(ベンゾシクロブテン)樹脂等を用いる。これらは、樹脂原料を塗布した後、所定の温度で硬化させることにより形成される。
半田拡散防止層10は、半田端子部111,112形成の際のリフローや実装の際に、半田端子部111,112の半田の下部電極層2への拡散を防止するために形成する。この半田拡散防止層10の材料としては、Niが好適である。また、半田拡散防止層10の表面には、半田濡れ性を向上させるために、半田濡れ性の高いAu,Cu等を0.1μm程度形成する場合もある。
最後に、半田端子部111,112を形成する。これは、可変容量コンデンサの外部の配線基板への実装を容易にするために形成する。これら半田端子部111,112は、半田端子部111,112に所定のマスクを用いて半田ペーストを印刷後、リフローを行なうことにより形成するのが一般的である。
以上述べた可変容量コンデンサCtによれば、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23もしくはその一部に、窒化タンタルを含有し、かつ比抵抗が1mΩ・cm以上の薄膜抵抗61〜66を用いることにより、薄膜抵抗61〜66のアスペクト比を低減して可変容量コンデンサCtの小型化を実現している。さらには、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23を支持基板1上に直接形成することにより、可変容量素子C1等の各素子を構成する層の数が低減されている。また、各素子を構成する各導体層や誘電体層等の形成工程を共通化できるため、構造が比較的複雑であるにもかかわらず、非常に簡単に形成することができる。
次に、図6〜図8は、本発明の指向性可変アレーアンテナにおける無給電放射素子に装荷された可変リアクタンス回路の実施の形態の他の例を示すものであり、図6は、バイアス供給回路を有した、5個の可変容量素子を有する可変容量コンデンサを用いたLCローパス型可変整合回路部の等価回路図である。また、図7および図8はそのバイアス供給回路を有する可変容量コンデンサの例を示す透視状態の平面図および作製途中の状態を示す平面図である。なお、これらの図において、図1〜図4と同様の個所には同じ符号を付してあり、それらについて重複する説明は省略する。
図6に示す等価回路図において、符号C1,C2,C3,C4,C5はいずれも可変容量素子、B11,B12,B13は抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第1バイアスライン(同図では、抵抗成分R11,R12,R13を示す。)、B21,B22,B23は抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含む第2バイアスライン(同図では、抵抗成分R21,R22,R23を示す。)であり、BIおよびBOは、それぞれ抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含むバイアス供給回路である第1および第2共通バイアスライン(同図では、抵抗成分RI,ROを示す。)である。また、V1は第1バイアス端子、すなわちバイアス信号が供給される側の端子であり、V2は第2バイアス端子、すなわち可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5に印加されたバイアス信号が接地側に落ちる端子である。
このような構成の可変容量コンデンサCt’においては、可変容量コンデンサCt’の入力端子と出力端子との間には、高周波信号が、直列接続された可変容量素子C1〜C5を介して流れることになる。このとき、第1バイアスラインB11,B12,B13および第2バイアスラインB21,B22,B23の抵抗成分R11,R12,R13およびR21,R22,R23は、可変容量素子C1〜C5の高周波信号の周波数領域でのインピーダンスに対して大きなインピーダンス成分となっており、高周波帯のインピーダンスに悪影響を与えない。
また、第1共通バイアスラインBIおよび第2共通バイアスラインBOの抵抗成分RIおよびROは、可変容量素子C1〜C5の合成容量の高周波信号の周波数領域でのインピーダンスに対して大きなインピーダンス成分となっており、高周波帯のインピーダンスに悪影響を与えない。
また、可変容量コンデンサCt’の容量成分を制御するバイアス信号は、第1バイアス端子V1から供給され、可変容量素子C1を介して第2バイアス端子V2(図6ではグランド)に流れる。この可変容量素子C1に印加される電圧に応じて可変容量素子C1は所定の誘電率となり、その結果、所望の容量成分が得られることになる。可変容量素子C2〜C5についても同様である。
その結果、可変容量素子C1〜C5の容量を所望の値に制御するためのバイアス信号を、安定してそれぞれ別々に可変容量素子C1〜C5に供給することができ、バイアス信号の印加による可変容量素子C1〜C5の薄膜誘電体層における誘電率を所望通りに変化させることができ、よって容量成分の制御が容易な可変容量コンデンサCt’となっている。これにより、可変容量コンデンサCt’によって可変リアクタンス回路Z’のリアクタンス値を所望の値に制御することにより、放射素子11aにより無給電放射素子13aに励起された高周波電流を調整することでき、指向性を可変とすることが可能な、本発明の指向性可変アレーアンテナとなる。
つまり、可変容量素子C1〜C5の高周波信号は、第1バイアスラインB11,B12,B13および第2バイアスラインB21,B22,B23、ならびに第1共通バイアスラインBIおよび第2共通バイアスラインBOの抵抗成分RIを介して漏れることがない。これによって、バイアス信号が安定して可変容量素子C1〜C5に独立に印加され、その結果、バイアス信号による各々の可変容量素子C1〜C5の容量変化率を最大限に利用することができるものとなる。
また、可変容量コンデンサCt’においては、N個(Nは2以上の整数)、ここでは5個の可変容量素子C1〜C5は、高周波的には直列接続された可変容量素子と見ることができる。
従って、直列接続された可変容量素子に印加される高周波電圧が各々の可変容量素子C1〜C5に分圧されるので、個々の可変容量素子C1〜C5に印加される高周波電圧は減少することとなる。このことから、個々の可変容量素子C1〜C5における高周波信号に対する容量変動は小さく抑えることができ、これら可変容量素子C1〜C5による可変容量コンデンサCt’を用いた可変リアクタンス回路Z’として、波形歪みや相互変調歪み等を抑制することができることとなる。
また、可変容量素子C1〜C5を直列接続したことにより、高周波的には、誘電体層の層厚を厚くしたのと同じ効果があり、可変容量コンデンサCt’の損失抵抗による単位体積当りの発熱量を小さくすることができ、可変リアクタンス回路Z’の耐電力を向上することができ、結果的に大電力を取り扱うことが可能な指向性可変アレーアンテナを得ることができる。
また、バイアス供給回路を可変容量コンデンサCt’に有することで、従来のような外部のバイアス供給回路が不要となるため、可変リアクタンス回路Z’として、小型で非常に取扱いが容易なものとなる。
なお、可変容量コンデンサCt’の一端が、図6に示すようにグランドに接続されている場合は、第2共通バイアスラインROは、特に無くても構わない。
次に、この例における可変容量コンデンサCt’の作製方法について説明する。
図7および図8において、1は支持基板、2は下部電極層、31,32,33,34は導体ライン、4は薄膜誘電体層、5は上部電極層、61,62,63,64,65,66は薄膜抵抗、7は絶縁層、8は引き出し電極層、9は保護層、10は半田拡散防止層、113および114は半田端子部である。なお、この半田拡散防止層10と半田端子部113および114とで、それぞれ第1信号端子(入力端子)および第2信号端子(出力端子)を構成している。また、第1バイアス端子V1および第2バイアス端子V2は、下部電極層2の形成時に同時に作製され、半田拡散防止層10と半田端子部113および114とで構成されている。
第1共通バイアスラインBIは、第1バイアス端子V1と第1信号端子との間に設けられており、第2共通バイアス供給ラインBOは、第2バイアス端子V2と第2信号端子との間に設けられている。この例における第1共通バイアスラインBIおよび第2共通バイアスラインBOは、それぞれ薄膜抵抗67および68で構成されている。
第1および第2共通バイアスラインBI,BOを構成する薄膜抵抗67,68の材料としては、タンタル(Ta)を含有し、かつその比抵抗が1mΩ・cm以上であるものが望ましい。具体的な材料としては、窒化タンタルやTaSiN,Ta−Si−Oを例示することができる。例えば、窒化タンタルの場合であれば、Taをターゲットとして、窒素を加えてスパッタリングを行なうリアクティブスパッタ法により、所望の組成比および抵抗率の薄膜抵抗67,68を成膜することができる。
このスパッタリングの条件を適宜選択することにより、膜厚が40nm以上で、比抵抗が1mΩ・cm以上の薄膜抵抗67,68を形成することができる。さらに、スパッタリングの終了後、レジストを塗布して所定の形状に加工した後、反応性イオンエッチング(RIE)等のエッチングプロセスを行なうことにより、簡便にパターニングすることができる。
可変容量コンデンサCtを周波数1GHzで使用し、容量を1pFとした場合には、この周波数でのインピーダンスに悪影響を与えないように薄膜抵抗67,68をインピーダンスの100倍以上の抵抗値に設定するものとすると、必要な第1および第2共通バイアスラインBI,BOの抵抗値は、約16kΩ以上であればよい。可変容量コンデンサCtにおける薄膜抵抗61〜66の比抵抗率は1mΩ・cm以上が望ましいため、例えば第1および第2共通バイアスラインBI,BOの抵抗値として20kΩを得る場合であれば、薄膜抵抗67,68のアスペクト比(長さ/幅)は、膜厚を50nmとしたとき100以下とできるため、素子形状を大きくすることなく実現可能なアスペクト比を有する薄膜抵抗67,68となる。
また、絶縁層7は、この上に形成する引き出し電極層8と下部電極層2との絶縁を確保するために必要である。さらに、この絶縁層7は、第1および第2共通バイアスラインBI,BO、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23を被覆しており、薄膜抵抗61〜68が酸化されるのを防止できるため、第1および第2共通バイアスラインBI,BO、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23の抵抗値を経時的に一定とすることができ、これにより信頼性を向上させることができる。絶縁層7の材料は、耐湿性を向上させるために、窒化ケイ素および酸化ケイ素の少なくとも1種類より成るものとするとよい。これらは、被覆性を考慮して、化学気相堆積法等により成膜することが望ましい。
また、絶縁層7は、通常のレジストを用いるドライエッチング法等により、所望の形状に加工することができる。そして、絶縁層7には、薄膜抵抗61〜66と引き出し電極層8との接続を確保するために導体ライン33,34の一部を露出させるために、導体ライン33,34上の絶縁層7に導体ライン33,34に到達する貫通孔を設けている。その他でこの絶縁層7から露出させる部位としては、上部電極層4および半田端子部113,114のみとしておくことが、耐湿性向上の観点から好ましい。
また、半田端子部113,114を露出させて全体を被覆するように、保護層9を形成する。保護層9は、可変容量素子C1を始めとする可変容量コンデンサCt’の構成部材を機械的に保護するほか、薬品等による汚染から保護するためのものである。ただし、この保護層9の形成時には、半田端子部113,114を露出するようにする。保護層9の材料としては、耐熱性が高く、段差に対する被覆性が優れたものが良く、具体的には、ポリイミド樹脂やBCB樹脂等を用いる。これらは、樹脂原料を塗布した後、所定の温度で硬化させることにより形成される。
半田拡散防止層10は、半田端子部113,114形成の際のリフローや実装の際に、半田端子部113,114の半田の下部電極層2への拡散を防止するために形成する。この半田拡散防止層10の材料としては、Niが好適である。また、半田拡散防止層10の表面には、半田濡れ性を向上させるために、半田濡れ性の高いAu,Cu等を0.1μm程度形成する場合もある。
最後に、半田端子部113,114を形成する。これは、可変容量コンデンサCt’の外部の配線基板への実装を容易にするために形成する。これら半田端子部113,114は、半田端子部113,114に所定のマスクを用いて半田ペーストを印刷後、リフローを行なうことにより形成するのが一般的である。
以上述べた可変容量コンデンサCt’によれば、第1および第2共通バイアスラインBI,BO、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23もしくはその一部に、窒化タンタルを含有し、かつ比抵抗が1mΩ・cm以上の薄膜抵抗61〜68を用いることにより、薄膜抵抗61〜68のアスペクト比を低減して可変容量コンデンサの小型化を実現している。さらには、第1および第2共通バイアスラインBI,BO、第1および第2バイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23を支持基板1上に直接形成することにより、可変容量素子C1等の各素子を構成する層の数が低減されている。また、各素子を構成する各導体層や誘電体層等の形成工程を共通化できるため、構造が比較的複雑であるにもかかわらず、非常に簡単に形成することができる。
本発明の指向性可変アレーアンテナ100によれば、以上のようにして作製される可変容量コンデンサCt,Ct’を有する可変リアクタンス回路Z,Z’が無給電放射素子13aのアンテナ端子14aとグランド端子15aとの間に接続されていることから、可変リアクタンス回路Z,Z’の可変容量コンデンサCt,Ct’は複数の可変容量素子C1等の各素子が高周波的に直列接続されているため、複数の可変容量素子C1等に印加される高周波電圧が各々の可変容量素子C1等に分圧されるので、個々の可変容量素子に印加される高周波電圧は分圧されて減少することとなり、このことから、可変容量コンデンサCtの高周波信号に対する容量変動を小さく抑えることができる。このため、無給電放射素子13aとしての波形歪みや相互変調歪み等を抑制することができ、結果的に指向性可変アレーアンテナ100として波形歪みや相互変調歪み等を抑制することができる。しかも、複数の可変容量素子C1等が高周波的に直列接続されているため、可変容量素子の誘電体層の膜厚を厚くしたのと同じ効果が得られ、可変容量コンデンサCt,Ct’の損失抵抗による単位体積当りの発熱量を小さくすることができ、可変リアクタンス回路Z,Z’の耐電力を向上することができ、結果的に大電力を取り扱うことが可能な指向性可変アレーアンテナ100を得ることができる。
また、本発明の指向性可変アレーアンテナ100によれば、無給電放射素子13aのアンテナ端子14aとグランド端子15aとの間に接続されている可変リアクタンス回路Z,Z’に用いられる可変容量コンデンサCt,Ct’に印加電圧により誘電率が変化する薄膜誘電体層を用いた複数の可変容量素子C1等を用いていることによって、高周波でも可変容量コンデンサCt,Ct’における損失を少なくすることができるため、可変リアクタンス回路Z,Z’としての損失を小さくすることができ、結果的に指向性可変アレーアンテナ100としての損失を小さくすることができる。
さらに、本発明の指向性可変アレーアンテナ100によれば、可変容量コンデンサCt’が、複数の可変容量素子C1等の電極に接続された、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含むバイアス供給回路を有しているときには、従来の可変リアクタンス回路のように外部の配線基板に実装していた独立したバイアス供給回路が不要となり、無給電放射素子13aの小型化が図れるとともに、さらに取扱いが容易な指向性可変アレーアンテナ100を得ることができる。
以上により、本発明によれば、指向性可変アレーアンテナの指向性を容易にかつ安定して変化させることができ、波形歪みや相互変調歪みが小さく、耐電力に優れ、低損失であり、安価で構成が簡易な指向性可変アレーアンテナを提供することができる。また、独立したバイアス供給回路を不要とし、小型で取り扱いが容易な、指向性制御可能な指向性可変アレーアンテナを提供することができるものとなる。
そして、本発明の無線通信装置(図示せず)は、以上のような本発明の指向性可変アレーアンテナと、その指向性可変アレーアンテナに接続された送信回路および受信回路の少なくとも1つとを具備するものである。
また、所望に応じて無線通信を可能とするために無線信号処理回路が指向性可変アレーアンテナ,送信回路または受信回路に接続されていてもよく、その他にも様々な構成を採り得る。
このような本発明の無線通信装置によれば、以上のような本発明の指向性可変アレーアンテナと、それに接続された送信回路および受信回路の少なくとも1つとを具備することから、波形歪みや相互変調歪みが小さく、耐電力に優れ、低損失である安定した可変リアクタンス回路を具備したアレーアンテナによって、取扱い電力が大きい送信機や送信回路を用いることが可能となるので、マルチパスやドップラシフトのある無線通信環境の好ましくない地域においても、指向性を制御することにより無線通信品質を劣化させることなく無線通信が可能となる。また、携帯電話等の基地局や移動局に適用した場合には、無線通信の高速化・大容量化や無線通信品質の向上,高速移動通信の実現等が可能となり、周波数の利用効率が向上するため同時に多くのユーザーが使用できるようになり、小型で高機能な無線通信装置を提供することができる。
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、上述の実施の形態の例では、可変容量コンデンサCt,Ct’におけるバイアス供給回路である第1および第2共通バイアスラインBIおよびBOを共通にしているが、図9の本発明の指向性可変アレーアンテナにおける無給電放射素子に装荷された可変リアクタンス回路の実施の形態のさらに他の例を示す等価回路図に示すように、バイアス供給回路であるバイアスラインB11,B12,B13,B21,B22,B23をそれぞれの可変容量素子C1,C2,C3,C4,C5に対して個別に設けた構成とした可変容量コンデンサCt”を有した可変リアクタンス回路Z”としても構わない。
本発明の指向性可変アレーアンテナの実施の形態の一例の概要を示す回路図である。 本発明の指向性可変アレーアンテナにおける無給電素放射素子に装荷された可変リアクタンス回路の実施の形態の一例を示す等価回路図である。 5つの可変容量素子を有する可変容量コンデンサの例を示す透視状態の平面図である。 図3に示す可変容量コンデンサの作製途中の状態を示す平面図である。 図3のA−A’線断面図である。 本発明の指向性可変アレーアンテナにおける無給電放射素子に装荷された可変リアクタンス回路の実施の形態の他の例を示す等価回路図である。 バイアス供給回路を有する可変容量コンデンサの例を示す透視状態の平面図である。 図7に示す可変容量コンデンサの作製途中の状態を示す平面図である。 バイアス供給回路を個別に設けた本発明の指向性可変アレーアンテナにおける無給電放射素子に装荷された可変リアクタンス回路の実施の形態のさらに他の例を示す等価回路図である。 従来のアレーアンテナ装置のダイポール型非励振素子に装荷した可変リアクタンス回路の例を示す等価回路図である。
符号の説明
1・・・支持基板
2・・・下部電極層
31、32、33、34・・・導体ライン
4・・・薄膜誘電体層
5・・・上部電極層
61、62、63、64、65、66、67、68・・・薄膜抵抗
7・・・絶縁層
8・・・引出し電極層
9・・・保護層
10・・・半田拡散防止層
11・・・励振アンテナ
11a・・・放射素子
12・・・給電源
13・・・無給電アンテナ
13a・・・無給電放射素子
14a・・・アンテナ端子
15a・・・グランド端子
111、112、113、114・・・半田端子部
C1、C2、C3、C4、C5・・・可変容量素子
Ct、Ct’、Ct”・・・可変容量コンデンサ
C11・・・直流制限容量素子
B11、B12、B13・・・第1バイアスライン
B21、B22、B23・・・第2バイアスライン
BI・・・第1共通バイアスライン
BO・・・第2共通バイアスライン
R11、R12、R13、R21、R22、R23、RO、RI・・・抵抗成分
V・・・バイアス端子
V1、V11、V12、V13・・・第1バイアス端子
V2、V21、V22、V23・・・第2バイアス端子
Z、Z’、Z”・・・可変リアクタンス回路

Claims (3)

  1. 給電源が接続された放射素子と、該放射素子との相互結合により給電される無給電放射素子と、該無給電放射素子に装荷された可変リアクタンス回路とを具備しており、該可変リアクタンス回路は可変容量コンデンサを有しており、該可変容量コンデンサは入力端子と出力端子との間に、印加電圧により誘電率が変化する薄膜誘電体層を用いた複数の可変容量素子が直流的に並列接続され、かつ高周波的に直列接続されていることを特徴とする指向性可変アレーアンテナ。
  2. 前記可変リアクタンス回路に用いられる可変容量コンデンサは、複数の前記可変容量素子の電極に接続された、抵抗成分およびインダクタ成分の少なくとも一方を含むバイアス供給回路を有することを特徴とする請求項1記載の指向性可変アレーアンテナ。
  3. 請求項1または請求項2記載の指向性可変アレーアンテナと、該指向性可変アレーアンテナに接続された送信回路および受信回路の少なくとも1つとを具備することを特徴とする無線通信装置。
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