JP2005235912A - GaN系化合物半導体受光素子 - Google Patents

GaN系化合物半導体受光素子 Download PDF

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Abstract

【課題】
検出対象波長の光を透過可能な窒化物半導体基板層上に形成することで、紫外線受光素子として使用可能なGaN系化合物半導体受光素子を提供する。
【解決手段】
基板1上に300℃〜800℃の温度範囲内の低温成長により形成されたAlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNを主とするバッファ11層と、バッファ11層の上にバッファ層の成長温度より高温で形成されたAlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNを主とする中間層12と、中間層12の上に形成されたGaN系化合物半導体からなるデバイス層20とを備えてなり、デバイス層20がAlGaNを含む受光領域22を有する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、GaN系化合物半導体受光素子に関する。
GaN系化合物半導体(一般式:AlGaIn1−x−yN)は直接遷移型のエネルギバンド構造を有し、そのバンドギャップエネルギが室温で1.9eV〜6.2eVに及ぶワイドバンドギャップであるため、紫外域から可視光域をカバーする発光ダイオード、レーザダイオード、及び、紫外線センサ等の受光素子として広範な応用が可能である。一般的に、検出対象とする波長範囲の光に対して感度を有する材料であれば受光素子として利用することができる。例えば、炭化水素が燃焼した場合に紫外域に現れる発光を選択的に検出することが要求される紫外線受光素子(火炎センサ)の場合には、紫外域に感度を有する材料として、AlGaN等のGaN系化合物半導体が用いられる。ここで、受光領域のデバイス構造としては、PN接合型やPIN接合型のフォトダイオード構造、ショットキーダイオード構造、フォトトランジスタ構造等が考えられる。しかし、火炎センサに応用する場合、受光素子の性能として幾つかの要求を満たさなければならない。
先ず、室内光や太陽光等の外乱光と区別して火炎光のみを選択的に受光するために、外乱光スペクトルの短波長端をカットオフ波長(感度域の長波長端)として設定すべく、受光領域を形成するAlGa1−xNのバンドギャップエネルギ、つまり、AlN組成比x(AlNモル分率ともいう)を調整しなければいけない。しかし、欠陥準位や三元混晶による組成ずれによりバンドギャップ内に準位が形成され、これがカットオフ波長の長波長側でも感度を生じさせ、当該波長に対して光吸収が行われることで感度差が小さくなり、つまり、選択性が低下する。特に、AlN組成比が大きくなる程に顕著となり、火炎センサとしての応用において、特に重要な課題となる。
また、受光素子に照射される火炎光が微弱である場合には、発生するキャリアの数と、膜中の欠陥準位にトラップされるキャリアの数とが競合するような関係になり、光照射に対する応答速度が非常に遅くなる場合がある。更に、トラップ準位からのキャリアの放出が温度に対して非常に敏感であるため、温度上昇に伴って急激にキャリアの放出が行われて暗電流が増加する場合がある。暗電流が大きいと、微弱な火炎光を吸収して発生した光電流が暗電流に埋もれてしまうため、この暗電流を非常に低いレベルにまで低減することが必要となる。
従って、紫外域の微弱な照射光を高温条件下で測定する必要がある火炎センサにとっては、受光領域のAlGaNのAlN組成比を所定のカットオフ波長となるように設定するとともに、当該AlN組成比に対して、結晶品質が良好であり、キャリアをトラップする再結合中心となり得る貫通転位等の少ない半導体層をデバイス層(受光層)として得ることが必須の要件となる。
従来、デバイス層中の貫通転位密度をできるだけ低いレベルに低減するために、サファイア等の平坦性の高い基板上に、数10nmの厚さで低温堆積されたバッファ層(例えば、約1050℃以下の基板表面温度で成長)を設け、その上に受光領域を含むデバイス層を形成して受光素子を作製する方法がある。ここで、低温堆積されたバッファ層を設ける理由は、サファイア基板の結晶成長面の格子間隔(約0.275nm)と、受光領域のAlGaNの格子間隔(約0.31〜約0.32nm)との間の格子不整合を緩和し、格子不整合により発生し得る受光領域中の貫通転位を少なくさせることにある。
また、サファイア基板とデバイス層との間に単層のバッファ層ではなく、複数のバッファ層を設ける方法もある(例えば、下記の非特許文献1に開示されている)。例えば、サファイア基板上に、AlNからなる低温堆積バッファ層と、GaNからなる結晶改善層と、AlNからなる低温堆積中間層という多層の窒化物半導体基板層(下地構造)を設け、その上にデバイス層を設けることで、単層のバッファ層を設けた場合以上に、基板と受光領域との間の格子不整合を緩和することが可能となる。
M. Iwaya,他,"Reduction of Etch Pit Density in Organometallic Vapor PhaseEpitaxy−Grown GaN on Sapphire by Insertion of a Low−Temperature−Deposited Buffer Layer between High−Temperature−Grown GaN",Japanese Journal of Applied Physics, Vol.37 pp.L316−L318,1998年3月
しかしながら、非特許文献1に開示された多層の窒化物半導体基板層の場合、AlGaNを主とする受光素子を構成するデバイス層をその上部に形成する場合、窒化物半導体基板層内にGaN層からなる結晶改善層を有するため、基板側から光を入射させると、AlGaNよりバンドギャップエネルギの小さいGaN層内で検出対象波長の入射光が吸収されてしまうため、入射光は上部からの入射に制限される。
また、デバイス層(受光層)が上部入射に制限されるとすれば、如何なる具体的な構造とすれば、低貫通転位密度の下地構造上に火炎センサとしての使用に耐え得るデバイス層が実現できるかを解決しなければいけない。
例えば、デバイス層の受光構造として、PN接合型やPIN接合型のフォトダイオード構造を想定した場合に、p型AlGaN層とn型AlGaN層の何れを上側にするにせよ、上側のAlGaN層とのオーミック電極として検出対象波長の光を透過する材料を選ぶか、部分的に開口部を設けたメッシュ状の電極パターンとする等の工夫が必要となり、受光感度を低下させる要因、製造コスト高騰の要因となる。更に、上側にp型AlGaN層を配置する場合は、AlN組成比が大きいとp型活性化が困難となり、十分な低抵抗層が得られないため、AlN組成を20%以下に制限する必要が生じ、このため、AlN組成比の大きいp型AlGaN層とは別に、電極とオーミック接触するためのAlN組成を20%以下のp型AlGaNコンタクト層を設ける必要がある。しかし、p型AlGaNコンタクト層において、検出対象波長の入射光の吸収が起こるため、当該p型AlGaNコンタクト層の膜厚を薄くしなければならないが、膜厚が薄いとp型AlGaNコンタクト層の寄生抵抗が大きくなり、メッシュ状電極の場合の受光用の開口を大きくできないという問題が生じ、更に、受光感度を低下させる要因となる。また、上側にn型AlGaN層を配置する場合は、n型AlGaN層よりp型AlGaN層を先に形成する必要があるが、p型AlGaN層の成長時にp型不純物を供給する原料ガスのメモリ効果(配管内壁に残留した残留不純物による影響)が、n型不純物より大きいため、製造工程上、上側にn型AlGaN層を配置するのは好ましくないという問題もある。
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記問題点を解消し、検出対象波長の光を透過可能な窒化物半導体基板層上に形成することで、紫外線受光素子として使用可能なGaN系化合物半導体受光素子を提供することにある。
この目的を達成するための本発明に係るGaN系化合物半導体受光素子の第一の特徴構成は、基板上に300℃〜800℃の温度範囲内の低温成長により形成されたAlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNを主とするバッファ層と、前記バッファ層の上に前記バッファ層の成長温度より高温で形成されたAlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNを主とする中間層と、前記中間層の上に形成されたGaN系化合物半導体からなるデバイス層とを備えてなり、前記デバイス層がAlGaNを含む受光領域を有する点にある。
上記第一の特徴構成によれば、バッファ層による応力緩和効果と、中間層による転位結合効果により、低貫通転位密度の下地構造の窒化物半導体層が得られ、更に、その下地構造内に存在する窒化物半導体のバンドギャップエネルギがAlN組成比が50%のAlGaNのバンドギャップエネルギ(約4.75eV)以上であるので、約260nmより長波長の光を吸収しないため、約260nm以上の検出対象波長の光を基板側から入射させることができ、上面入射の場合に生じるデバイス層構造上の問題を解決して、高性能の紫外線受光素子として使用可能な受光素子を実現できる。また、中間層のAlN組成比が50%より更に大きいと、約260nmより短波長側の紫外線に対しても感度を有する。図3に示すようにガス(炭化水素)を燃焼させた際に発生する火炎光の場合、その発光スペクトルが約250nmより長波長側に分布し、太陽光(自然光)等の外乱光の発光スペクトルが280nmより長波長側に分布することから、本特徴構成によれば、火炎光のみを選択的に検出可能な火炎センサとして使用し得る受光素子を実現することができる。
同第二の特徴構成は、上記第一の特徴構成に加えて、前記中間層と前記デバイス層の間に、低温成長によるAlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNを主とする第2のバッファ層を有する点にある。
同第三の特徴構成は、上記第一または第二の特徴構成に加えて、前記中間層の成長温度が1280℃以上である点にある。
上記第二または第三の特徴構成によれば、約260nm以上の検出対象波長の光を基板側から入射させることができ、更に、より高品位の低貫通転位密度の下地構造の窒化物半導体層が得られるため、上面入射の場合に生じるデバイス層構造上の問題を解決して、高性能な紫外線受光素子として使用可能な受光素子を実現できる。特に、上記第三の特徴構成によれば、中間層として低転位のものが得られる。
同第四の特徴構成は、上記何れかの特徴構成に加えて、前記中間層の膜厚が500nm以上である点にある。
上記第四の特徴構成によれば、中間層の内の転位が、基板面に平行な横方向での結合がなされて貫通転位密度が低減して、高品位の低貫通転位密度の下地構造の窒化物半導体層が得られる。
同第五の特徴構成は、上記何れかの特徴構成に加えて、前記中間層は、結晶成長時に、微量のアルカリ金属元素または2属元素を添加して形成される点にある。
上記第五の特徴構成によれば、Li、Ca、Mg、Na等の微量のアルカリ金属元素または2属元素を添加することで、AlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNの横方向成長が促進され、この結果、転位結合による低転位化も促進され、貫通転位密度が低減して、高品位の低貫通転位密度の下地構造の窒化物半導体層が得られる。
同第六の特徴構成は、上記何れかの特徴構成に加えて、前記受光領域のバンドギャップエネルギが3.6eV以上で、前記バッファ層及び前記中間層の夫々のAlN組成比で定まるバンドギャップエネルギより小さい点にある。
上記第六の特徴構成によれば、バンドギャップエネルギが3.6eV以上のAlGaNを主とする受光領域を備えることにより、約260nm以上の検出対象波長の光を基板側から入射させることができ、更に、3.6eV以上のエネルギを有する光が吸収されることで、波長約344nm(3.6eV)以下の紫外線を選択的に検出することができる。
更に、バンドギャップエネルギが4.1eV、4.3eV、或は、4.6eV以上のAlGaNを主とする受光領域を備えるとすれば、上記受光領域において夫々4.1eV、4.3eV、或は、4.6eV以上のエネルギを有する光が吸収されることで、波長約300nm(4.1eV)以下、約290nm(4.3eV)以下、或は、約280nm(4.6eV)以下の波長の紫外線を上記受光領域によって検出することができる。
同第七の特徴構成は、上記何れかの特徴構成に加えて、前記デバイス層が、前記中間層側にn型AlGaN層を配置したPN接合型またはPIN接合型のフォトダイオード構造を有する点にある。
上記第七の特徴構成によれば、デバイス層のPN接合型またはPIN接合型のフォトダイオードのn型AlGaN層に接触するn型電極とp型AlGaN層に接触するp型電極間に逆バイアス電界を印加することにより、検出対象波長域の光エネルギによって受光領域であるPN接合部またはi型AlGaN層で発生したキャリアを電流として外部に取り出し、検出対象波長域の光を検出することができる。ここで、中間層側にn型AlGaN層を配置することで、基板側から検出対象波長域の光を入射させる場合に、その入射光がn型AlGaN層を通過することになるが、n型AlGaN層は、AlN組成比を大きくしても低抵抗化が可能なため、検出対象波長域に対応したAlN組成比の設定に対応できる。従って、約260nm以上の検出対象波長の光を基板側から入射させることができ、上面入射の場合に生じるデバイス層構造上の問題を解決して、高性能の紫外線受光素子として使用可能な受光素子を実現できる。
同第八の特徴構成は、上記何れかの特徴構成に加えて、前記受光領域に、前記中間層を通して検出対象波長域の光が入射する点にある。
上記第八の特徴構成によれば、検出対象波長の光を基板側から入射させるので、上面入射の場合に生じるデバイス層構造上の問題を解決して、高性能の紫外線受光素子として使用可能な受光素子を実現できる。
本発明に係るGaN系化合物半導体受光素子(以下、適宜「本発明素子」という。)の実施の形態につき、図面に基づいて説明する。

図1に、本発明素子2の断面構造を示す。本発明素子2は、基板1上に、下地半導体層10とデバイス層20とを順次積層して形成される。
図1に示すように、下地半導体層10は、先ず、(0001)サファイア基板1上に、300℃〜800℃の温度範囲内、例えば500℃の低温でAlNの第1低温堆積緩衝層(バッファ層)11が、トリメチルアルミニウム(Al源)、アンモニア(窒素源)などの各原料ガスを使用したMOCVD法(有機金属化合物気相成長法)を用いて厚さ20nmで形成される。次に、約1280℃以上の高温、例えば1300℃でAlNの中間層12が、上記各原料ガスを使用したMOCVD法を用いて、厚さ500nm以上、例えば1μmの厚さで第1低温堆積緩衝層11上に形成される。ここで、中間層12のAlNは単結晶として成長する。引き続き、MOCVD法で、第1低温堆積緩衝層11と同じ条件で、AlNの第2低温堆積緩衝層(第2のバッファ層)13が厚さ20nmで中間層12上に形成され、下地半導体層10が作製される。
尚、上記下地半導体層10の目的は、デバイス層20の結晶品質を良好なものとすることである。サファイア基板1の結晶成長表面における格子間隔と、デバイス層20を構成するAlxGa1-xN(0≦x≦1)の格子定数との間には大きな差が存在するが、下地半導体層10によってその格子不整合を緩和し、AlGaN層を成長させる際に加わる格子不整合による応力を小さくすることができる。その結果、デバイス層20のAlGaN層の結晶品質を良好にすることができる。
図1に示すように、上記要領で形成された下地半導体層10上に、n型AlGaN層21、i型AlGaN層22、p型AlGaN超格子層23、及び、p型AlGaN層24を順次積層してデバイス層20を形成する。
n型AlGaN層21は、トリメチルアルミニウム(Al源)、トリメチルガリウム(Ga源)、アンモニア(窒素源)などの各原料ガスを使用し、n型不純物の原料ガスとして、SiH(モノシラン)ガスを流しながら、Si(シリコン)を注入(ドープ)したn型AlGaN層21を成長させる。ここで、n型AlGaN層21のAlN組成比は、i型AlGaN層22のAlN組成比以上とし、本実施形態では、両層ともに40%とする。また、n型AlGaN層21の膜厚は300nm〜2000nmの範囲、より好ましくは、500nm〜1000nmの範囲とし、例えば、1000nmとする。引き続き、i型AlGaN層22が、MOCVD法を用いて膜厚約100nm〜200nmの範囲で、例えば、200nmで形成される。
次に、i型AlGaN層22の上に、p型AlGaN超格子層23を形成する。p型AlGaN超格子層23は、膜厚2nmのp型GaN層(井戸層)と膜厚3nmのAlN層(バリア層)を順次積層したもの(膜厚5nm)を20層繰り返し積層した多重量子井戸として形成される。この結果、p型AlGaN超格子層23は、AlN組成比が実行的に40%となるp型AlGaN層と等価な膜厚100nmの半導体層となる。p型AlGaN超格子層23のp型GaN層とAlN層は、Al、Ga、Nの原料として上記の各原料ガスを使用し、MOCVD法を用いて作成される。p型GaN層のp型不純物のドーピングは、GaN層の成長時にp型不純物の原料ガスとして、CpMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)ガスを流しながら、Mg(マグネシウム)を注入(ドープ)する。ここで、p型AlGaN超格子層23のAlN組成比は、i型AlGaN層22のAlN組成比と同じとし、本実施形態では、両層ともに40%とする。尚、p型AlGaN超格子層23のAlN組成比は、p型GaN層とAlN層の膜厚比を調整することで変更できる。尚、p型AlGaN超格子層23は、超格子構造(多重量子井戸構造)を用いて形成することで、バルクp型AlGaN中に生成される欠陥によるバンドギャップ内のトラップ準位によって、受光感度域より長波長側、280nm〜360nm程度の波長範囲に感度が発生し、キャリアが拡散するのを抑制して、受光感度の選択性向上に寄与する。
引き続き、MOCVD法を用い、Al、Ga、Nの原料として上記の各原料ガスを使用し、p型不純物の原料ガスとして、CpMgガスを流しながら、Mgを注入したp型AlGaN層24を膜厚約20nmで成長させる。ここで、p型AlGaN層24は、後述するp型電極26とのオーミック接触を確実にし、十分なp型活性化を行って低抵抗化するために、AlN組成比を20%以下としたコンタクト層であり、AlN組成比が0%のp型GaN層であっても構わない。
上記要領で、デバイス層20が積層形成された後、n型AlGaN層21が部分的に露出するようにデバイス層20をエッチング除去し、その露出部位にn型電極25が形成され、p型AlGaN層24上にはp型電極26が形成される。ここで、p型電極26及びn型電極25は、夫々の極性に応じてAl、Au、Pd、Ni、Ti等の公知の材料を公知の方法で作製すればよい。例えば、p型電極26として、第1層にPd(パラジウム)、第2層にAu(金)を夫々10nmずつ蒸着し所定の平面形状にパターニングする。また、p型電極26またはn型電極25として、ZrB2を電極材料として用いてもよい。尚、検出対象波長の光は基板側から入射させるので、p型電極26は、特に透明電極材料を使用する必要や、メッシュ状に光透過窓を加工する必要がない。
図1に示した本発明素子2に対して外部から光が照射された場合、その光は基板1側から、下地半導体層10とn型AlGaN層21とを透過して受光領域であるi型AlGaN層22に入射して吸収され、光キャリアが発生する。p型電極26及びn型電極25の間には所定の逆バイアス電界が印加されており、発生された光キャリアは光電流として外部に出力される。
デバイス層20を構成する各AlxGa1-xN層(0≦x≦1)のバンドギャップエネルギはAlN組成比xを変えることで調整され、AlN組成比xとバンドギャップエネルギとは図2に示すような関係で示される。図2から読み取れるように、AlN組成比xを変えることで、AlxGa1-xNのバンドギャップエネルギを3.42eVから6.2eVにまで調整することができる。従って、i型AlGaN層22で吸収可能な光の波長範囲(感度域)の長波長端は約360nm〜約200nmの間で調整可能である。
また、本発明素子2において火炎の光を検出する場合には、図3の発光スペクトルに示すような火炎の発光を吸収できるだけのバンドギャップエネルギを有する受光領域を形成すればよい。尚、図3に示す火炎の発光スペクトルは、ガス(炭化水素)を燃焼させた際に発生する火炎のスペクトルである。また、太陽光のスペクトルと、各種照明機器からの光による室内光のスペクトルも同時に示す。
以下は、i型AlGaN層22のバンドギャップエネルギとAlN組成比の関係について説明する。他のp型AlGaN超格子層23とn型AlGaN層21のAlN組成比は、i型AlGaN層22のAlN組成比との相対的な関係で決定される。本発明素子2に波長選択性を持たせるためには、i型AlGaN層22におけるAlN組成比を調整して、そのバンドギャップエネルギを所望の値に設定することが行われる。例えば、波長約344nm以下の波長域に比較的大きい強度で現れる火炎の光を選択的に受光することのできる火炎センサを作製したい場合には、i型AlGaN層22のバンドギャップエネルギが3.6eV以上となるようにAlN組成比x=0.05(5%)、或いはそれ以上とすればよい。或いは、約300nm以上の波長域に含まれる、各種照明機器からの光(室内光)を受光せずに、検出対象波長範囲にある火炎の光を受光するような火炎センサを作製したい場合には、i型AlGaN層22のバンドギャップエネルギが4.1eV以上となるようにAlN組成比x=0.25(25%)、或いはそれ以上とすればよい。また、約280nm以上の波長域に含まれる、太陽光からの光を受光せずに、検出対象波長範囲にある火炎の光のみを受光するような火炎センサを作製したい場合には、i型AlGaN層22のバンドギャップエネルギが4.4eV以上となるようにAlN組成比x=0.35(35%)、或いはそれ以上とすればよい。本実施形態では、AlN組成比を40%としている。
更に、弱い光強度であれば太陽光などの外乱光がi型AlGaN層22において吸収されても構わない場合には、受光領域のバンドギャップエネルギが4.3eV以上(波長約290nm以下)となるようにAlN組成比x=0.31(31%)、或いはそれ以上とすればよい。波長約290nm以下では図3に示すようにそれらの外乱光の光強度が非常に小さくなり、他方で火炎の光は大きいので、結果として火炎の光が存在することを検出することができる。
更に、本発明素子2がエンジン内部などの閉鎖空間に設置され、そこで燃焼される燃料の発光を検出したい場合には、上述した室内光や太陽光が存在しないため、それらを排除するような大きいバンドギャップエネルギを設定する必要はない。そのため、検出対象波長範囲にある火炎の光の中でも特に炭化水素を含む化合物(エンジンで燃焼される燃料)を燃焼させた場合に観測されるOHラジカルの発光に起因する発光ピーク(波長約310nm(310nm±10nm):4.0eV)の光(波長310nm以上344nm以下の火炎の光)を選択的に受光することのできる受光素子を作製した場合には、i型AlGaN層22のバンドギャップエネルギが3.6eV以上4.0eV以下となるように、AlN組成比xを0.05(5%)以上0.23(23%)以下とすればよい。
尚、上述したAlN組成比xとバンドギャップエネルギとの関係は理論値に基づいて説明したものであり、AlN組成比xが同じになるように成膜を行ったとしても実際に得られるAlGaN層のバンドギャップエネルギが異なる可能性もある。例えば、三元混晶化合物であるAlGaNの場合には、二元化合物であるGaNが生成され易く、その結果、バンドギャップエネルギが低エネルギ側(長波長側)にシフトする傾向にある。従って、理論値通りのバンドギャップエネルギを得たい場合には、AlN組成比を予め大きく設定した上で成膜することが行われることもある。
〈1〉上記実施形態において、下地半導体層10のAlNの中間層12をMOCVD法で形成する過程において、微量のLi、Ca、Mg、Na等の微量のアルカリ金属元素または2属元素を原料ガス中に添加して、中間層12を形成するのも好ましい実施の形態である。ここで、Li、Ca、Mg、Na等は、AlNの結晶成長に対し、基板面に平行な横方向の結晶成長を促進させる作用があり、この結果、500nm以上の膜厚で上方(基板面に垂直な方向)に結晶成長する過程で、転位が横方向に結合して減少する効果が期待できる。特に、AlN或いはAlN組成比の高いAlGaNでは、GaNに比べて横方向の結晶成長が抑制されるため、上記のような横方向への結晶成長促進剤を添加することにより更に貫通転位を低減できる。
〈2〉上記各実施形態では、p型AlGaN層24及びp型AlGaN超格子層23の成長に係るp型不純物としてMgを用いたが、p型AlGaN層のAlN組成比が20%以上の場合においても十分なp型活性化を得ようとすれば、p型不純物としてMgに代えてBe(ベリリウム)を用いるのも好ましい実施形態である。
この場合、各p型AlGaN層は、MOCVD法を用いて、Al、Ga、Nの原料として上記実施形態と同様に、トリメチルアルミニウム(Al源)、トリメチルガリウム(Ga源)、アンモニア(窒素源)等の各原料ガスを使用し、p型不純物の原料ガスとして、CpBe(ビスシクロペンタジエニルベリリウム)ガスを流しながら、Beを注入したp型AlGaN層を成長させる。
更に、p型不純物の原料ガスとして、(R−Cp)Beガス[ビス(R−シクロペンタジエニル)ベリリウム]ガス(Rは1〜4価のアルキル基)を用いるのも更に好ましい。特に、Rが2〜4価のアルキル基の(R−Cp)Beガスを用いるのがより好ましい。当該原料ガスを用いることにより、有機金属化合物気相成長法を用いてp型、n型及びi型半導体を所定の順序で段階的に形成するにあたり、各型に対応する不純物原料を結晶成長させる反応室内に配管を通して供給する場合に、各半導体層の成長を切り換えるときに、不純物原料の供給も切り換えるが、同じ配管を使用する場合に、配管内壁に残留した残留不純物による影響(メモリ効果)が無視できずに各半導体層間の界面近傍において所期の不純物濃度が達成できないという問題に対して、改善効果を発揮するからである。つまり、当該原料ガスの分子サイズが、CpBeより大きく、分極による分子間力が弱まるため、配管内壁への残留が少なくなるため、上記メモリ効果を抑制することができ、より効果的にp型活性化が促進される。
〈3〉上記実施形態では、デバイス層20はPIN構造で構成され、i型AlGaN層22に隣接するp型AlGaN層として超格子構造によりp型AlGaN超格子層23として形成したが、i型AlGaN層22のAlN組成比が小さい場合等において、超格子構造を採用せず、バルク単結晶で形成しても構わない。
〈4〉上記実施形態では、デバイス層20はPIN構造で構成され、p型AlGaN層を、実効的なAlN組成比が40%のp型AlGaN超格子層23と、AlN組成比が20%以下のp型AlGaN層24の2段に分離して構成したが、p型不純物或いはp型活性化法を適当に選択することで、i型AlGaN層22と同じAlN組成比の1層で構成されるp型AlGaN層を形成しても構わない。
〈5〉上記実施形態では、デバイス層20として、PIN接合型のフォトダイオード構造で構成されたものを例示したが、デバイス層は、これに限定されるものではない。例えば、i型AlGaN層22のないPN接合型フォトダイオードであってもよい。更に、受光機構として、フォトダイオード構造以外に、フォトコンダクタ構造、フォトトランジスタ構造を採用してもよい。
〈6〉上記各実施形態では、基板1として、(0001)サファイア基板を用いたが、基板1はこれに限定されるものではなく、他の面方位のサファイア基板、或いは、SiC、Si、ZrB等の他の単結晶基板を用いてもよい。但し、基板1が波長250nm或いは260nmより長波長側の光に対して透明でない場合は、基板1側からの入射を可能とするために、基板1を裏面側から部分的にエッチングして入射窓を開口する。
〈7〉上記各実施形態の下地半導体層10では、第1及び第2低温堆積緩衝層11、13と中間層12は、何れもAlNであったが、AlN組成比50%以上のAlGaNでも構わない。
〈8〉上記各実施形態において例示した、各層の膜厚、成長温度、使用原料、材料は、あくまでも一例であり、本発明の技術思想の範囲内において適宜変更可能である。また、各半導体層は、MOCVD法を用いたが、一部または全部を他の成膜方法を用いて形成しても構わない。例えば、デバイス層20或いはデバイス層20の内のi型AlGaN層22等をMBE(分子線エピタキシ)法を用いて形成しても構わない。
本発明に係るGaN系化合物半導体受光素子の一実施形態の概略構成を示す素子断面図
AlGaNのバンドギャップエネルギを示すグラフ
火炎の光、太陽光、および室内光のスペクトルを示すグラフ
符号の説明
1 基板
2 本発明に係るGaN系化合物半導体受光素子
10 下地半導体層
11 第1低温堆積緩衝層(AlNまたはAlGaNのバッファ層)
12 中間層(AlNまたはAlGaN)
13 第2低温堆積緩衝層(AlNまたはAlGaNの第2のバッファ層)
20 デバイス層
21 n型AlGaN層
22 i型AlGaN層
23 p型AlGaN超格子層
24 p型AlGaN層
25 n型電極
26 p型電極

Claims (8)

  1. 基板上に300℃〜800℃の温度範囲内の低温成長により形成されたAlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNを主とするバッファ層と、前記バッファ層の上に前記バッファ層の成長温度より高温で形成されたAlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNを主とする中間層と、前記中間層の上に形成されたGaN系化合物半導体からなるデバイス層とを備えてなり、
    前記デバイス層がAlGaNを含む受光領域を有することを特徴とするGaN系化合物半導体受光素子。
  2. 前記中間層と前記デバイス層の間に、前記温度範囲内の低温成長によるAlNまたはAlN組成比が50%以上のAlGaNを主とする第2のバッファ層を有することを特徴とする請求項1に記載のGaN系化合物半導体受光素子。
  3. 前記中間層の成長温度が1280℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のGaN系化合物半導体受光素子。
  4. 前記中間層の膜厚が、500nm以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のGaN系化合物半導体受光素子。
  5. 前記中間層は、結晶成長時に、微量のアルカリ金属元素または2属元素を添加して形成されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のGaN系化合物半導体受光素子。
  6. 前記受光領域のバンドギャップエネルギが3.6eV以上で、前記バッファ層及び前記中間層の夫々のAlN組成比で定まるバンドギャップエネルギより小さいことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のGaN系化合物半導体受光素子。
  7. 前記デバイス層が、前記中間層側にn型AlGaN層を配置したPN接合型またはPIN接合型のフォトダイオード構造を有することを特徴とする請求項1〜6に記載のGaN系化合物半導体受光素子。
  8. 前記受光領域に、前記中間層を通して検出対象波長域の光が入射することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のGaN系化合物半導体受光素子。
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