JP2005229807A - トランスグルタミナーゼの製造法 - Google Patents
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Abstract
【解決課題】微生物によって異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】バチルス・ブレビスを宿主ベクター系として用い、バチルス・ブレビス由来のシグナルペプチド領域をコードする配列の下流にプロ構造部を含む目的タンパク質遺伝子配列、特にプロトランスグルタミナーゼ遺伝子配列を結合した発現構築物を使用し、この発現型遺伝子構築物をバチルス・ブレビスに導入し、得られた形質転換バチルス・ブレビスを培養し、生じたタンパク質を菌体外に効率よく分泌させ、菌体外に放出されたタンパク質を回収し、更にプロ部分をプロテアーゼ等で処理して切断することによって、多量の目的異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを得る方法。
【選択図】 なし
【解決手段】バチルス・ブレビスを宿主ベクター系として用い、バチルス・ブレビス由来のシグナルペプチド領域をコードする配列の下流にプロ構造部を含む目的タンパク質遺伝子配列、特にプロトランスグルタミナーゼ遺伝子配列を結合した発現構築物を使用し、この発現型遺伝子構築物をバチルス・ブレビスに導入し、得られた形質転換バチルス・ブレビスを培養し、生じたタンパク質を菌体外に効率よく分泌させ、菌体外に放出されたタンパク質を回収し、更にプロ部分をプロテアーゼ等で処理して切断することによって、多量の目的異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを得る方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はバチルス・ブレビス由来のシグナルペプチドおよびシグナルペプチドをコードするDNA断片を利用して、遺伝子組換え法によりトランスグルタミナーゼをバチルス・ブレビスで分泌生産させる方法に関するものである。トランスグルタミナーゼは食品加工や医薬等に幅広く利用されている。
【0002】
【従来の技術】
異種タンパク質の分泌生産としてはこれまでにバチルス属細菌による分泌生産の総説[Microbiol. rev., 57, 109-137(1993)]、メタノール資化性酵母Pichia pastorisによる分泌生産の総説[Biotechnol., 11, 905-910(1993)]、そしてAspergillus属のカビによる工業的生産の報告[Biotechnol., 6, 1419-1422(1988); Biotechnol., 9, 976-981(1991)]等のように多数報告されている。本発明の1つの実施態様において分泌生産されるトランスグルタミナーゼはタンパク質のペプチド鎖内にあるγ−カルボキシアミド基のアシル転移反応を触媒する酵素である。本酵素をタンパク質に作用させると、ε−(γ−Glu)−Lys 架橋形成反応、Gln の脱アミド化によるGlu への置換反応が起こりうる。このトランスグルタミナーゼは、ゼリー等のゲル化食品、ヨーグルト、チーズ、あるいはゲル状化粧品などの製造や食肉の肉質改善等に利用されている(特公平1-50382 )。また、熱に安定なマイクロカプセルの素材、固定化酵素の担体などの製造に利用されているなど、産業上利用性の高い酵素である。
【0003】
トランスグルタミナーゼはこれまでに動物由来のものと微生物由来のもの(マイクロバイアルトランスグルタミナーゼ:以下「MTG」という)が知られている。前者は、カルシウムイオン依存性の酵素で、動物の臓器、皮膚、血液などに分布している。例えば、モルモット肝臓トランスグルタミナーゼ(K. Ikura et al. Biochemistry 27 2898(1988) )、ヒト表皮ケラチン細胞トランスグルタミナーゼ(M. A. Phillips et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87 9333(1990))、ヒト血液凝固因子XIII(A. Ichinose et al. Biochemistry 25 6900(1990) )などがある。
後者については、ストレプトバーチシリウム属の菌から、カルシウム非依存性のものが発見されている。例えば、ストレプトバーチシリウム・グリセオカルニウム(Streptoverticillium griseocarneum )IFO 12776 、ストレプトバーチシリウム・シナモニウム(Streptoverticillium cinnamoneum sub sp. cinnamoneum )IFO 12852 、ストレプトバーチシリウム・モバラエンス(Streptoverticillium mobaraense)IFO 13819 等があげられている(特開昭64-27471)。これらの微生物が生産するトランスグルタミナーゼの一次構造はペプチドマッピング及び遺伝子構造解析の結果、動物由来のものとは相同性を全く持たないことが判明している(ヨーロッパ特許公開公報0 481 504 A1)。
【0004】
微生物由来トランスグルタミナーゼ(MTG)は、上記菌類等の培養物から精製操作をへて製造されているため、供給量、効率等の点で問題があった。また、遺伝子工学的手法によるトランスグルタミナーゼの製造も試みられている。トランスグルタミナーゼタンパク質およびその遺伝子については例えば、Biosci. Biotechnol. Biochem., 58, 82-87(1994), Biosci. Biotechnol. Biochem.,58,88-92(1994)、 Biochimie, 80, 313-319(1998)., Eur. J. Biochem., 257, 570-576(1998),WO 9606931、WO 9622366などに報告されており、これらには例えばStreptomyces lividans、Aspergillus oryzae、E.coli等の宿主ベクター系での発現生産に関する報告がなされている。これらの情報と共に、エシェリヒア・コリ(E.coli)、酵母等の微生物における分泌発現(特開平5-199883)による方法とE.coliでMTGを不活性融合タンパク質封入体として発現させた後、この封入体をタンパク質変性剤で可溶化し、脱変性剤処理を経て再生させることにより活性をもつMTGを生産する方法(特開平6-30771)が報告されている。しかしながら、E.coliや酵母等の微生物によるこのような分泌発現においては、その発現量が非常に少ないという問題点が指摘される。
【0005】
一方、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)を利用して異種タンパク質を効率良く分泌生産するための研究としては、Bacillus brevis 47(特開昭60-58074、特開昭62-201583)の主要菌体外タンパク質の1種であるMWタンパク質(middle wall protein(MWP))遺伝子のプロモーターおよびその遺伝子にコードされるシグナルペプチド領域を利用した分泌ベクターを作製し、同じくBacillus brevis 47菌を宿主とした系が確立されている。そしてα-アミラーゼ(特開昭62-201583、J.Bacteriol., 169, 1239(1987))や豚ペプシノーゲン(日本農芸化学会誌、61、68(1987))の分泌生産に成功している。
またバチルス・ブレビスの中でプロテアーゼの菌体外生産量が少ない菌株Bacillus brevis HPD31(別名Bacillus brevis H102)を分離し、これを宿主として、耐熱性α-アミラーゼの高分泌生産(Agric.Biol.Chem., 53, 2279-2280(1989))やヒト上皮細胞増殖因子(EGF)の高分泌生産(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 86, 3589-3593(1989)、特開平4-278091)、ヒトインターロイキン-2(Biosci.Biotechnol.Biochem., 61, 1858-1861(1997))やヒトインターロイキン-6(Biosci.Biotechnol.Biochem., 64, 665-669(2000))などの分泌生産に成功している。なかでもEGFについてはきわめて高い分泌蓄積が得られている(1.1g/L)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、微生物によってトランスグルタミナーゼを効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、バチルス・ブレビスは原核・真核いずれの細胞由来の外来遺伝子でも高発現できる宿主菌であること、および放線菌等の分泌タンパク質においてシグナルペプチドと共にプロ部分も分泌過程に重要な機能を果たしていることに着目し、産業上有用な異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを効率よくバチルス・ブレビスにおいて分泌生産する方法を発明するに至った。
すなわち、本発明の方法は、バチルス・ブレビスを宿主ベクター系として用い、バチルス・ブレビス由来のシグナルペプチド領域をコードする配列の下流にプロ構造部を含む目的タンパク質遺伝子配列、特にプロトランスグルタミナーゼ遺伝子配列を結合した発現構築物を使用し、この発現型遺伝子構築物をバチルス・ブレビスに導入し、得られた形質転換バチルス・ブレビスを培養し、生じたタンパク質を菌体外に効率よく分泌させ、菌体外に放出されたタンパク質を回収し、更にプロ部分をプロテアーゼ等で処理して切断することによって、多量の目的異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを得る方法である。
さらにまたプロテアーゼ等についてもトランスグルタミナーゼ遺伝子構築物と同じように発現型遺伝子構築物を作製し、バチルス・ブレビスに導入し、トランスグルタミナーゼ遺伝子導入菌と共に培養、分泌発現することによりプロトランスグルタミナーゼのプロ部分を切断したトランスグルタミナーゼを得る方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の方法により、バチルス・ブレビスが宿主ベクター系として用いられ、この属の細菌の細胞表層タンパク質のシグナルペプチドの下流に分泌型のプロ構造部を含むトランスグルタミナーゼ遺伝子を結合した発現構築物が作製され、これがバチルス・ブレビス内に導入され、発現され、菌体外に分泌されたタンパク質が回収され、更に得られたプロトランスグルタミナーゼのプロ構造部をプロテアーゼ等で処理して切断することによって、多量のトランスグルタミナーゼが得られる。
さらにまたプロテアーゼ等についてもトランスグルタミナーゼ遺伝子構築物と同じように発現型遺伝子構築物を作製し、バチルス・ブレビスに導入し、トランスグルタミナーゼ遺伝子導入菌と共に培養、分泌発現することによりプロトランスグルタミナーゼのプロ部分を切断したトランスグルタミナーゼを直接菌体外に得る方法である。
【0009】
分泌型タンパク質は一般にはプレペプチドまたはプレプロペプチドとして翻訳され、その後、翻訳後修飾を受けて成熟型タンパク質になることが知られている。すなわち、一般に、プレペプチドまたはプレプロペプチドとして翻訳された後、シグナルペプチド(「プレ部分」)が切断されて成熟ペプチドまたはプロペプチドに変換され、プロペプチドはプロテアーゼによってさらにプロ部分が切断されて成熟ペプチドになることが知られている。本明細書において、「シグナル配列」とは、分泌性タンパク質前駆体のN末端に存在し、かつ天然の成熟タンパク質には存在しない配列をいい、「シグナルペプチド」とはそのようなタンパク質前駆体から切り取られるペプチドをいう。一般にはシグナル配列は菌体外への分泌に伴ってプロテアーゼ(通称シグナルペプチダーゼ)によって切断される。このようなシグナルペプチドは生物種を越えて一定の共通した配列上の特徴を有し、機能的に共通すると考えられる。
【0010】
本明細書において、シグナルペプチドおよびプロ部分の両方を有するタンパク質、すなわち、一次翻訳産物を「プレプロタンパク質」と称することがあり、また、シグナルペプチドを有しないがプロ部分を有するタンパク質を「プロタンパク質」と称することがある。プロタンパク質のプロ部分は「プロ構造部」または単に「プロ構造」と称することもあり、本明細書においてタンパク質の「プロ構造部/プロ構造」とタンパク質の「プロ部分」とは互換的に使用される。プレプロタンパク質またはプレタンパク質において、そのシグナルペプチドは異なるタンパク質に由来する場合であっても、目的タンパク質に天然に存在するシグナルペプチドであってもよいが、使用する宿主の分泌型タンパク質に由来することが好ましい。あるいは、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変してもよい。さらに本発明の目的に使用し得るシグナルペプチドは、それが由来する天然の成熟タンパク質のN末端アミノ酸配列を一部含んでいてもよい。シグナルペプチドが異なるタンパク質に由来する場合はプレプロタンパク質を特に「異種融合プレプロタンパク質」と称することもある。例えば、タンパク質がトランスグルタミナーゼの場合は、それぞれ「プレプロトランスグルタミナーゼ」、「プロトランスグルタミナーゼ」および「異種融合プレプロトランスグルタミナーゼ」と称される。また、「プロ部分を切断した」タンパク質とは、ペプチド結合を切断することによってプロ部分を構成する少なくとも1以上のアミノ酸を除去したタンパク質をいい、そのN末端領域が天然の成熟型タンパク質のものと完全に一致するタンパク質、および、そのタンパク質の活性を有する限り、天然のタンパク質に比較してN末端にプロ部分に由来する1以上の余分のアミノ酸を有するものおよび天然の成熟型タンパク質よりもアミノ酸配列が短いタンパク質も含まれる。
【0011】
バチルス・ブレビスを用いて異種タンパク質を菌体外に分泌生産するために使用される遺伝子構築物は、一般にプロモーター、適切なシグナルペプチドおよび目的タンパク質をコードする核酸断片、およびバチルス・ブレビス菌中で目的タンパク質遺伝子を発現させるために必要な制御配列(プロモーター・オペレーターやターミネーター等)を含む適切な配列を適切な位置に有するものである。この構築物のために使用できるベクターは特に制限されず、バチルス・ブレビス菌中で機能し得るものであればよく、プラスミドのように染色体外で自律増殖するものであっても細菌染色体に組み込まれるものであってもよい。バチルス・ブレビス由来のプラスミドは特に好ましい。これらには、例えばpHT926(特願平4-216605)、およびこれらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミドが含まれる。バチルス・サチルスで利用されるpUB110(J.Bacteriol.,134, 318-329(1978))も利用できる。また、トランスポゾン等も利用することができる。トランスポゾンが使用される場合は相同組換えまたはそれ自身の転移能によって目的遺伝子が染色体中に導入される。
【0012】
本発明に使用できるプロモーター、SD、シグナルペプチドコード遺伝子としては特に限定されず、宿主内で機能するものであればいずれでもよいが、Bacillus brevis 47あるいはH102由来のプロモーター、SD、シグナルペプチドをコードする遺伝子(J.Bacteriol., 170, 935-945(1988)、J.Bacteriol., 172, 1312-1320(1990))を用いるのが有効である。
本発明で使用するシグナルペプチドの一例のアミノ酸配列を配列番号1に示す。シグナルペプチドには、それが由来する分泌性タンパク質のN末端アミノ酸配列の一部が付加されていてもよい。シグナル配列は、翻訳産物が菌体外に分泌される際にプロテアーゼ(通称シグナルペプチダーゼ)によって切断される。なお、シグナルペプチドをコードする遺伝子は、天然型のままでも使用できるが、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変してもよい。
【0013】
本発明によって分泌生産し得る有用タンパク質はトランスグルタミナーゼである。放線菌由来のトランスグルタミナーゼ遺伝子はGCコンテントに富むので、バチルス・ブレビスでは放線菌の遺伝子そのものがそのまま利用しにくい点がある。それゆえ、コドン利用性を配慮した合成遺伝子を作製することが望ましい。
【0014】
トランスグルタミナーゼ遺伝子としては放線菌、例えばStreptoverticillium mobaraense IFO 13819、Streptoverticillium cinnamoneum IFO 12852、Streptoverticillium griseocarneum IFO 12776、Streptomyces lydicus[WO9606931]等やOomycetes[WO9622366]等のカビなどの分泌型のトランスグルタミナーゼの遺伝子が本発明の目的に利用可能である。これらのタンパク質をコードする遺伝子は、使用する宿主に応じて、および望みの活性を得るために改変することができ、それらには1以上のアミノ酸の付加、欠失、置換などが含まれ、必要により宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンに変換してもよい。
【0015】
天然でプレプロペプチドとして発現されるタンパク質を本発明によって分泌生産する場合は、プロ構造部(プロ部分)を含むプロタンパク質をコードする遺伝子断片を使用することが好ましい。プロ構造部の配列の例として、Streptoverticillium mobaraense IFO 13819由来トランスグルタミナーゼのプロ構造部の配列を配列番号3に示した。タンパク質のプロ構造部は適当な手段、例えばプロテアーゼによって切断すればよく、アミノペプチダーゼ、適切な位置で切断するエンドペプチダーゼ、あるいは、より特異的なプロテアーゼを使用することができるが、その結果生じるタンパク質が天然のタンパク質と同等またはそれ以上の活性を有するような位置で切断するプロテアーゼが好ましい。あるいは、求めるタンパク質をコードする遺伝子配列を改変して、望みの位置に特異的なプロテアーゼの認識部位を有するタンパク質を発現するように設計することもできる。このような改変技術、遺伝子のクローニング技術、生産されたタンパク質の検出技術を含む、一般的な分子生物学的手法は当業者によく知られたものであり、例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York、DNA cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (D.N. Glover ed. 1985)、F.M. Ausubel et al.(eds), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)、PCR Technology:Principles and Application for DNA Amplification, H. Erlich, ed., Stockton Press等を参照することができる。
【0016】
プロ構造部の配列は、配列番号3に示したアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されていてもよい。
プロテアーゼ分解の結果得られるタンパク質のN末端領域は必ずしも天然のタンパク質と同一でなくてもよく、1〜数個のアミノ酸を余分に付加された、あるいは欠失したものであってもよい。一般には、そのタンパク質の活性という観点から、天然のタンパク質とほぼ同じ位置で切断されることが好ましく、天然のものと同一の成熟ペプチドであることがより好ましい。例えば、Streptoverticillium mobaraenseの成熟型トランスグルタミナーゼについてはその配列が配列番号4に示されるものである。従って、一般には、天然に生じる成熟タンパク質と同一のタンパク質を生じる位置でプロ構造部を切断する特異的プロテアーゼが最も好ましい。しかしながら、特定の目的については、天然のタンパク質に比較してN末端がアミノ酸1〜数個分長いあるいは短いペプチドがより適切な活性を有することがある。そのようなプロテアーゼにはDispase(ベーリンガーマンハイム社製)のような商業的に入手できるものの他、微生物の培養液、例えば放線菌およびバチルス属菌の培養液等から得られるものが含まれる。そのようなプロテアーゼは未精製状態で使用することもでき、必要に応じて適当な純度まで精製した後に使用してもよい。
【0017】
プラスミドを構築する方法としては、常法が適宜用いられ、例えばMolecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harber Laboratory(1982)に記載の方法などが例示される。
【0018】
前記条件にて構築された本発明の発現ベクターにプロトランスグルタミナーゼ遺伝子が挿入されたプラスミドを用いて、微生物を形質転換すれば、プロトランスグルタミナーゼを効率よく分泌生産しうる形質転換体を得ることができる。
外来遺伝子産物をコードする遺伝子を組み込んだベクターで形質転換する宿主菌としては、ベクター、プロモーターが発現可能な微生物であれば何れでもよく、本発明ではバチルス・ブレビス細菌が用いられる。バチルス・ブレビス細菌とは好気性のグラム陽性かん菌であり、例えばBacillus brevis 47(特開昭60-58074、特開昭62-201583)、Bacillus brevis H102(特開昭63-56277)などが挙げられる。好適にはBacillus brevis H102が用いられる。またこれらの変異株も含まれる。
微生物を形質転換する方法は、公知の方法でよく、例えばTakahashiらの方法(J.Bacteriol., 156, 1130(1983))、またはTakagiらの方法(Agric.Biol.Chem., 53, 3099-3100(1989))等が例示される。
【0019】
得られた形質転換体の培養に用いる培地は、形質転換体が生育して、目的とする外来遺伝子産物を生産しうるものであればいかなるものでもよい。
該培地に含有される炭素源としては、グルコース、グリセロール、でんぷん、デキストリン、糖蜜、尿素、有機酸等が挙げられる。窒素源としては、カゼイン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、カザミノ酸、グリシンなどの有機窒素源、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機窒素源などが挙げられる。また糖と無機窒素源を主とする合成培地を用いて培養してもよい。栄養要求性を示す菌は、その生育に必要な栄養物質を培地に添加すればよい。該栄養物質としては、アミノ酸類、ビタミン類、核酸、塩類等が挙げられる。
また培養に際して必要であれば、培地に抗生物質、例えばペニシリン、エリスロマイシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール、バシトラシン、D−サイクロセリン、アンピシリン等が加えられる。さらに必要により、消泡剤、例えば大豆油、ラード油、各種界面活性剤などが加えられる。
培地のpHは5〜9であり、より好ましくは6〜8である。培養温度は通常15℃〜42℃であり、培養時間は24〜144時間である。
【0020】
プロ構造が付加していないトランスグルタミナーゼについては、微生物の菌体内で多量に蓄積すると一般に致死的であることが知られているが、本発明によれば生産されたトランスグルタミナーゼはプロトランスグルタミナーゼとして菌体外に放出されるため、致死的影響を受けることなく連続的にプロトランスグルタミナーゼが生産される。
【0021】
本発明によって菌体外に分泌されたタンパク質は、当業者によく知られた方法に従って培養後の培地から分離精製することができる。例えば、菌体を遠心分離等により除去した後、塩析、エタノール沈殿、限外濾過、ゲル濾過、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニーティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動等の既知の適切な方法、またはこれらを組み合わせることにより分離精製することができる。
精製したプロトランスグルタミナーゼはプロテアーゼ等によって、プロ構造部を切断し、目的の活性型のトランスグルタミナーゼを得ることができる。
またプロ構造部を切断するプロテアーゼ遺伝子を同じように発現ベクターに搭載し、培地中に直接、活性型トランスグルタミナーゼを蓄積させ、先に述べた精製方法で、活性型トランスグルタミナーゼを得ることができる。
【0022】
本発明は以下の実施例および添付の図面によって、更に具体的に説明されるが、これらはいかなる意味でも本発明を限定するものと解してはならない。
【0023】
【実施例】
実施例1:バチルス・ブレビス( Bacillus brevis) の細胞表層タンパク質のシグナルペプチドおよび成熟トランスグルタミナーゼをコードする融合遺伝子を用いた成熟トランスグルタミナーゼの分泌生産
(1)Bacillus brevis 47 の細胞表層タンパク質のシグナル配列を有するトランスグルタミナーゼ遺伝子の構築
Bacillus brevis 47の細胞表層タンパク質であるMWPの遺伝子の配列は既に決定されている[J. Bacteriol., 170, 176-186(1988)]。またStaphylococus aureus由来のプラスミドpUB110(Plasmid 15, 93(1986))をベースとして、pUB110とpHW1(J.Bacteriol., 150, 804-814(1982))からpHT-1が構築された。すなわち、pHW1よりエリスロマイシン耐性遺伝子を含むHindIII-ClaIの1.6kb断片を単離し、pBR322(宝酒造社製)のHindIII-ClaI サイトの間に挿入する。次に挿入された断片を含むEcoRI-BamHI断片(約2kb)を単離し、pUB110のEcoRI-BamHIのサイトの間に挿入した(Biotechonol.Genet.Engin.Rev., 7, 113-146(1989))。このpHT-1から図1に示す手順によって、MWPのプロモーター領域とシグナルペプチドをコードする領域を搭載した分泌ベクターpNU210(Biotechnol.Genet.Engin.Rev., 7, 113-146(1989))および本発明に利用した分泌ベクターpNU212(Appl.Microbiol.Biotechnol., 42, 358-363(1994))が作製された。
Bacillus brevis 47はプレイベートナンバーAJ3842が付与され、平成13年3月30日付けでFERM P-18282として経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所に寄託してある。
【0024】
まずpNU210の非必須領域にある二つのBspHI制限酵素サイトをBspHIで切断し、T4 DNA ポリメラーゼ(宝酒造社製)にて平滑末端化した後に再結合させてプラスミド上のBspHIサイトを消滅させた。次にMWPの翻訳開始コドン近傍のTTATGA配列を部位特異的変異(Nucleic Acid Res., 11, 5103-5112(1983))によってTCATGAに変更し、新たにBspHI サイトを造成した(pNU211)。さらにpNU211上にある2箇所のNcoIサイトのうち、MWP領域のNcoIサイトのみを残すように操作を行い、pNU212を作製した(Appl.Microbiol.Biotechnol., 42, 358-363(1994))。すなわちNcoI部分消化後、T4 DNA ポリメラーゼ処理でNcoI切断箇所を平滑末端化して、1箇所のNcoIサイトを消去した。そしてその中から、MWP領域のNcoIサイトが残存しているプラスミドを選択することによって、pNU212が得られた。
さらにまたE.coliで構築物中間体を作製するために、プラスミドpBR-AN3が構築された。それはpNU210上のMWPのシグナルペプチドの一部を含むApaLI-HindIII断片をpBR322(宝酒造社製)のNruIサイトとHindIIIサイトの間に挿入したものである(Methods Enzymol., 217, 23-33(1993))。
【0025】
分泌対象とするStreptoverticillium mobaraense由来トランスグルタミナーゼ(MTG)遺伝子のソースとして、大腸菌における発現に適するようコドンを変換した成熟 MTG 遺伝子を含むpTRPMTG02(Biosci.Biotechnol.Biochem., 64, 1263-1270(2000)、特開平11-075876)を利用し、本プラスミドを鋳型として PCR を行った。PCR反応にはKOD DNA polymerase (東洋紡績社製)を用いており、反応条件は製造業者の推奨するプロトコルに従った。
【0026】
5' プライマーには、成熟 MTG のN末端アミノ酸配列をコードする塩基配列の5’側にNcoI 部位を含むBacillus brevis 47のMWP シグナルペプチド C末端をコードする配列を付加したものを用いた(5'- CTCCCATGGCTTTCGCTGATTCTGACGATCGTG-3')。3' プライマー(5'- CCAAGCTTTCATTACGGCCAACC-3' )にはpTRPMTG02 に存在する成熟 MTG のC末端アミノ酸配列とその下流のHindIII 部位を含めた。
アガロースゲル電気泳動により約1kbの増幅断片を検出した。増幅された断片をUltraCleanTM15 DNA purification Kit(MO BIO laboratories, Inc.)を用いてアガロースゲルから回収し、その末端のNcoI 及びHindIII 部位を用いてpBR-AN3(MWP シグナルペプチド をコードする配列とマルチクローニング部位を含む pBR322 由来のプラスミド)のNcoI 部位とHindIII 部位の間に挿入した(pBR-AN3-MTG)。
【0027】
次にpBR-AN3-MTG をApaLI (MWP シグナルペプチド をコードする配列中でNcoI 部位の上流に存在する)とHindIII で切断し、MTG 遺伝子を含む 1 kb の断片を単離して、Bacillus brevis の発現分泌ベクターpNU212 のApaLI とHindIII 部位の間に挿入し、Bacillus brevis H102の形質転換に用いた。形質転換株は非常に得にくかったが、1株を得て解析した。ダイターミネーターサイクルシークエンシングキット(PEアプライドバイオシステムズ社製)とDNAシークエンサーABI PRISMTM377(PEアプライドバイオシステムズ社製)を用いて挿入断片の塩基配列の決定を行い、MWPプロモーター領域から MTG遺伝子 の3' 側へ約1.5 kbに至る塩基配列が正しいことを確認した。
(配列番号5)5'- CTCCCATGGCTTTCGCTGATTCTGACGATCGTG-3'
(配列番号6)5'- CCAAGCTTTCATTACGGCCAACC-3'
[配列表フリーテキスト]
配列番号5と6;融合プレトランスグルタミナーゼ遺伝子構築のためのPCRプライマー
【0028】
(2)Bacillus brevis 47 の細胞表層タンパク質のシグナル配列を用いての成熟トランスグルタミナーゼの分泌
先に得た形質転換株pNU212-MTG/ B.brevis H102を10 mg/l のエリスロマイシンを添加した2PY培地( 40g polypeptone, 5g yeast extract, 10% MgSO4・7H2Oの1ml, 1% FeSO4・7H2Oの1ml, 1% MnSO4・4H2Oの1ml, 0.1% ZnSO4・7H2Oの1ml/900ml, pH 7.0, さらに別殺菌した20% glucoseを100ml添加)で培養し、培養終了後、10μlの培養上清をSDS−PAGEに供してから、Biosci.Biotechnol.Biochem., 58, 82-87(1994)記載の抗トランスグルタミナーゼ抗体を用いて、常法に従って(例えば、J. Sambrook ら(1989)、前述)ウエスタンブロット解析を行った。その結果、MTGは検出できなかった。
【0029】
さらにTG の活性を阻害することを期待して、2PY 培地に最終濃度が1%に成るように (NH4)2SO4 を加えて培養し、先の抗体で検出したところ、培地上清に成熟トランスグルタミナーゼとほぼ同じ分子量を有する、分泌されたトランスグルタミナーゼ数 mg/lを検出できた。
【0030】
実施例2: Bacillus brevis 47 の細胞表層タンパク質のシグナルペプチドに結合したプロトランスグルタミーゼ融合遺伝子(異種融合プレプロトランスグルタミナーゼ遺伝子)を用いたプロトランスグルタミナーゼの分泌生産
(1)トランスグルタミナーゼのプロ配列をコードする遺伝子の作製
大腸菌及びBacillus brevis において使用頻度の低いコドンを避けつつ、プロ配列をコードする遺伝子のデザインを行った。それに基づき、配列番号7〜14に示す8本の合成DNAを合成した。
これらの合成DNAをアニールした後、T4 DNAリガーゼにより連結し、さらに末端をT4 DNAポリメラーゼにより平滑末端化して、pUC118のSmaI部位へ挿入し、大腸菌の形質転換に用いた。16個の形質転換株についてプラスミド上に挿入された配列を確認したところ、すべてが何らかの塩基置換を含んでいた。この原因としては合成DNAが不純であったことが考えられる。これらのプラスミドのうち塩基置換が1ヶ所であるものを選び、PCRを用いた部位指定変異誘起(Nucleic Acid Res., 11, 5103-5112(1983))を行い、塩基配列を確認することによって、デザインした通りのプロ体をコードする配列を持つプラスミドを得た(pUC118ProMTG)。構築されたプロ構造部の塩基配列を図2に示した。
【0031】
配列番号7〜14に示した合成DNAはトランスグルタミナーゼのプロ構造部遺伝子を構築するために、プロ構造部のアミノ酸をコードする配列を含んでいる。
(配列番号7)5'-CCCATGGCTTTCGCTGATAATGGTGCAGGTGAAGAAACTAAATCT-3'
(配列番号8)5'-TATGCTGAAACTTATCGTCTGACTGCTGATGATGTTGCAAATAT-3'
(配列番号9)5'-TAATGCACTGAATGAAAGCGCTCCAGCAGCATCTAGCGCTGGTC-3'
(配列番号10)5'-CATCTTTTCGTGCTCCAGATTCTGACGATCGTGTTACTCCACCAG-3'
(配列番号11)5'-AGCATAAGATTTAGTTTCTTCACCTGCACCATTATCAGCGAAAGC-3'
(配列番号12)5'-GCATTAATATTTGCAACATCATCAGCAGTCAGACGATAAGTTTC-3'
(配列番号13)5'-AAGATGGACCAGCGCTAGATGCTGCTGGAGCGCTTTCATTCAGT-3'
(配列番号14)5'-CAGCTGGTGGAGTAACACGATCGTCAGAATCTGGAGCACGAA-3'
[配列表フリーテキスト]
配列番号7〜14:トランスグルタミナーゼのプロ構造部遺伝子構築のための合成DNA配列
【0032】
(2)Bacillus brevis 47の細胞表層タンパク質のシグナル配列を有するプロ構造部付きトランスグルタミナーゼ遺伝子(異種融合プレプロトランスグルタミナーゼ遺伝子)の構築
pUC118ProMTG、pTRP MTG02 よりNcoI-PvuII断片、PvuII-HindIII断片をそれぞれ単離し、pBR-AN3 のNcoI 部位とHindIII 部位の間に挿入した(pBR-AN3-ProMTG)。挿入された断片の塩基配列を確認するとともにpBR-AN3-ProMTGからApaLI-HindIII断片を単離してpNU212 のApaLI とHindIII 部位の間に挿入し、プラスミド pNU-PTG を作製した。これをBacillus brevis H102の形質転換に用い、得られた形質転換株(#2-3、#2-4)からプラスミドを抽出し、塩基配列の解析を行い、塩基の欠失や置換が起こっていないことを確認した。
【0033】
(3) プロトランスグルタミナーゼ(PTG)の発現
生産培地に5PY(2PY培地で培養48時間後に別殺菌した50%グルコースを60ml添加する培地) を使用し、#2-3、#2-4 について PTG の生産量の測定を行なった。その結果、2つのクローン間で生産量に差は認められなかった。#2-3 について120時間まで培養を行ない PTG の生産量を検討した結果、120 時間後の培養上清中に、100 mg 〜150mg/l 程度の生産が認められた。また、#2-3から抽出されたプラスミドをBacillus brevis 47 (FERM P-18282)にも形質導入し、同じようにPTGの生産量の測定を行なった。その結果、120時間後の培養上清液中に30〜50mg/l程度の生産が見出された。
【0034】
(4)PTGの分泌量を増加させるための生産培地の検討
Bacillus brevis H102株において、生産培地に2-Morpholinoethanesulfonic acid monohydrate(MES)を添加することにより、βーアミラーゼの分泌量が増加することが分かっている(J.Ferment.Bioeng., 73, 112-115(1992))。そこで、PTGについてもMESを添加することにより、分泌量が増加するか否かを調べた。
生産培地は、2PYとMESを含む2PYを用いた。96時間まで培養を行ない PTG の生産量を検討した結果、PTG の生産量はMESを添加することで、若干の増加が認められた。その生産量をデンシドメーターにより定量した結果、2PYの場合は200mg/l、またMES100mMを含む2PYの場合は300mg/lであった。時間経過に伴う生産量の増加は認められなかった。更に、ウエスタンブロッティングによりこのタンパク質がPTGであることを確認した。
【0035】
MESはグッドバッファーであることから、培養液のpH, OD の経時変化についても調べた。その結果、2PYとMES100mMを含む2PY培地のpHの変化とODの値には差が認められなかった。次にMESの濃度を 100, 200, 300, 400 mM と変化させて PTGの生産量を調べた。その結果、培養時間が120時間の場合、200〜300 mMが至適濃度であり、約400mg/lのPTGが培地中に蓄積されることがわかった。
【0036】
(5)Dispase1消化によるプロトランスグルタミナーゼの切断と活性の検出
上記pNU-PTGを有するBacillus brevis H102の培養上清にプロテアーゼであるDispase1(ベーリンガーマンハイム社製)を基質:酵素=1:1となるように添加し、pH7.5、37℃1時間反応を行った。Dispase1消化反応後、SDS−PAGEを行いプロトランスグルタミナーゼの切断を確認し、さらにハイドロキサメート法[J. Biol. Chem., 241, 5518-5525(1966)]にてトランスグルタミナーゼ活性を確認したところ、天然型とほぼ同じ比活性(約20U/mg)を有する事が確認できた。
【0037】
実施例3: Bacillus polymyxa AJ11034 由来中性メタロプロテアーゼを用いるプロトランスグルタミナーゼの切断と活性の検出
(1)Bacillus polymyxa AJ11034の培養液によるプロトランスグルタミナーゼの切断と活性の検出
5種類の保存株のB. polymixa に関して、各菌株をPMG培地(polypeptone 1%,Meat extract 1%, L-glutamin・Na 0.5%, MgCl2・6H2O 0.01%, pH 7.0)にて30℃で72時間培養し、その培地上清とPTGを生産するB. brevis の培地上清とを混合し、30℃で30分間反応し、プロ配列の切断を調べた。SDS−PAGEを行い、AJ11034株の上清を加えた場合に、プロ構造部付きトランスグルタミナーゼのプロ配列の切断が認められた。そこで、PTG を含む B.brevis の上清と AJ11034 株の上清とを反応させて生成した TG がどの部分で切断されているかを、そのアミノ末端を決めることにより調べた。そこで、SDS−PAGE後、Polyvinylidene-difluoride(PVDF)膜にセミドライブロッティングした(遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析、東京化学同人(1993))。ブロッティング後、PVDF膜をクマシーブリリアントブルーで染色し、脱染、風乾した。成熟トランスグルタミナーゼの部分を切り取り、プロテインシークエンサー(モデル476A、パーキンエルマー社製)でN末端アミノ酸配列の解析を行った。その結果、配列番号4に示した天然型の成熟トランスグルタミナーゼのN末端にFRAPの4アミノ酸残基を余分に付加したアミノ酸配列を有していることが確認され、dispase1 による切断部位と同じであることが明らかとなった。さらにその反応生成物はハイドロキサメート法[J. Biol. Chem., 241, 5518-5525(1966)]にて天然型とほぼ同じ比活性(約20U/mg)を有する、トランスグルタミナーゼ活性を持つことを確認した。
【0038】
(2)AJ11034 株の中性メタロプロテアーゼ遺伝子(npr)の単離
AJ11034 株より、染色体 DNA を調製し、これを鋳型に PCR により npr 遺伝子を増幅することを試みた。プライマーはすでに報告されている、B. polymyxa 72 株の npr 遺伝子(J.Bacteriol., 173, 6820-6825(1991))を基に作製した(配列番号15と16)。特異的に増幅する 約1.7kbのDNA 断片が確認されたので、これを pUC118 にクローニングし、その塩基配列を決定した。その塩基配列を配列番号17に、塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号18に記載した。
データベース検索の結果、B. polymyxa 72 株の npr 遺伝子と高い相同性(約89%)を示したことから、このDNA 断片は AJ11034 株の npr 遺伝子をコードしているものと考えられる。
(配列番号15) 5'-CATGCCATGGCTTTCGCTGCGGAGAGTTCCGTT-3'
(配列番号16) 5'-GGGAAGCTTTTAGCCTACAGCGTCAAAAGA-3'
【0039】
【発明の効果】
本発明により、バチルス・ブレビスによる効率的な異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼ製造方法が提供される。本発明によってバチルス・ブレビスによって多量に生産される異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼは菌体外に放出されるため、容易に回収することができる。したがって、本発明の方法によって、異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを多量にかつ簡便に製造する方法が提供される。
【0040】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 pNU210およびpNU212の構築手順を示す。
【図2】 プラスミドpUC118ProMTGに含まれるプロ構造部の塩基配列。
【発明の属する技術分野】
本発明はバチルス・ブレビス由来のシグナルペプチドおよびシグナルペプチドをコードするDNA断片を利用して、遺伝子組換え法によりトランスグルタミナーゼをバチルス・ブレビスで分泌生産させる方法に関するものである。トランスグルタミナーゼは食品加工や医薬等に幅広く利用されている。
【0002】
【従来の技術】
異種タンパク質の分泌生産としてはこれまでにバチルス属細菌による分泌生産の総説[Microbiol. rev., 57, 109-137(1993)]、メタノール資化性酵母Pichia pastorisによる分泌生産の総説[Biotechnol., 11, 905-910(1993)]、そしてAspergillus属のカビによる工業的生産の報告[Biotechnol., 6, 1419-1422(1988); Biotechnol., 9, 976-981(1991)]等のように多数報告されている。本発明の1つの実施態様において分泌生産されるトランスグルタミナーゼはタンパク質のペプチド鎖内にあるγ−カルボキシアミド基のアシル転移反応を触媒する酵素である。本酵素をタンパク質に作用させると、ε−(γ−Glu)−Lys 架橋形成反応、Gln の脱アミド化によるGlu への置換反応が起こりうる。このトランスグルタミナーゼは、ゼリー等のゲル化食品、ヨーグルト、チーズ、あるいはゲル状化粧品などの製造や食肉の肉質改善等に利用されている(特公平1-50382 )。また、熱に安定なマイクロカプセルの素材、固定化酵素の担体などの製造に利用されているなど、産業上利用性の高い酵素である。
【0003】
トランスグルタミナーゼはこれまでに動物由来のものと微生物由来のもの(マイクロバイアルトランスグルタミナーゼ:以下「MTG」という)が知られている。前者は、カルシウムイオン依存性の酵素で、動物の臓器、皮膚、血液などに分布している。例えば、モルモット肝臓トランスグルタミナーゼ(K. Ikura et al. Biochemistry 27 2898(1988) )、ヒト表皮ケラチン細胞トランスグルタミナーゼ(M. A. Phillips et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87 9333(1990))、ヒト血液凝固因子XIII(A. Ichinose et al. Biochemistry 25 6900(1990) )などがある。
後者については、ストレプトバーチシリウム属の菌から、カルシウム非依存性のものが発見されている。例えば、ストレプトバーチシリウム・グリセオカルニウム(Streptoverticillium griseocarneum )IFO 12776 、ストレプトバーチシリウム・シナモニウム(Streptoverticillium cinnamoneum sub sp. cinnamoneum )IFO 12852 、ストレプトバーチシリウム・モバラエンス(Streptoverticillium mobaraense)IFO 13819 等があげられている(特開昭64-27471)。これらの微生物が生産するトランスグルタミナーゼの一次構造はペプチドマッピング及び遺伝子構造解析の結果、動物由来のものとは相同性を全く持たないことが判明している(ヨーロッパ特許公開公報0 481 504 A1)。
【0004】
微生物由来トランスグルタミナーゼ(MTG)は、上記菌類等の培養物から精製操作をへて製造されているため、供給量、効率等の点で問題があった。また、遺伝子工学的手法によるトランスグルタミナーゼの製造も試みられている。トランスグルタミナーゼタンパク質およびその遺伝子については例えば、Biosci. Biotechnol. Biochem., 58, 82-87(1994), Biosci. Biotechnol. Biochem.,58,88-92(1994)、 Biochimie, 80, 313-319(1998)., Eur. J. Biochem., 257, 570-576(1998),WO 9606931、WO 9622366などに報告されており、これらには例えばStreptomyces lividans、Aspergillus oryzae、E.coli等の宿主ベクター系での発現生産に関する報告がなされている。これらの情報と共に、エシェリヒア・コリ(E.coli)、酵母等の微生物における分泌発現(特開平5-199883)による方法とE.coliでMTGを不活性融合タンパク質封入体として発現させた後、この封入体をタンパク質変性剤で可溶化し、脱変性剤処理を経て再生させることにより活性をもつMTGを生産する方法(特開平6-30771)が報告されている。しかしながら、E.coliや酵母等の微生物によるこのような分泌発現においては、その発現量が非常に少ないという問題点が指摘される。
【0005】
一方、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)を利用して異種タンパク質を効率良く分泌生産するための研究としては、Bacillus brevis 47(特開昭60-58074、特開昭62-201583)の主要菌体外タンパク質の1種であるMWタンパク質(middle wall protein(MWP))遺伝子のプロモーターおよびその遺伝子にコードされるシグナルペプチド領域を利用した分泌ベクターを作製し、同じくBacillus brevis 47菌を宿主とした系が確立されている。そしてα-アミラーゼ(特開昭62-201583、J.Bacteriol., 169, 1239(1987))や豚ペプシノーゲン(日本農芸化学会誌、61、68(1987))の分泌生産に成功している。
またバチルス・ブレビスの中でプロテアーゼの菌体外生産量が少ない菌株Bacillus brevis HPD31(別名Bacillus brevis H102)を分離し、これを宿主として、耐熱性α-アミラーゼの高分泌生産(Agric.Biol.Chem., 53, 2279-2280(1989))やヒト上皮細胞増殖因子(EGF)の高分泌生産(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 86, 3589-3593(1989)、特開平4-278091)、ヒトインターロイキン-2(Biosci.Biotechnol.Biochem., 61, 1858-1861(1997))やヒトインターロイキン-6(Biosci.Biotechnol.Biochem., 64, 665-669(2000))などの分泌生産に成功している。なかでもEGFについてはきわめて高い分泌蓄積が得られている(1.1g/L)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、微生物によってトランスグルタミナーゼを効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、バチルス・ブレビスは原核・真核いずれの細胞由来の外来遺伝子でも高発現できる宿主菌であること、および放線菌等の分泌タンパク質においてシグナルペプチドと共にプロ部分も分泌過程に重要な機能を果たしていることに着目し、産業上有用な異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを効率よくバチルス・ブレビスにおいて分泌生産する方法を発明するに至った。
すなわち、本発明の方法は、バチルス・ブレビスを宿主ベクター系として用い、バチルス・ブレビス由来のシグナルペプチド領域をコードする配列の下流にプロ構造部を含む目的タンパク質遺伝子配列、特にプロトランスグルタミナーゼ遺伝子配列を結合した発現構築物を使用し、この発現型遺伝子構築物をバチルス・ブレビスに導入し、得られた形質転換バチルス・ブレビスを培養し、生じたタンパク質を菌体外に効率よく分泌させ、菌体外に放出されたタンパク質を回収し、更にプロ部分をプロテアーゼ等で処理して切断することによって、多量の目的異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを得る方法である。
さらにまたプロテアーゼ等についてもトランスグルタミナーゼ遺伝子構築物と同じように発現型遺伝子構築物を作製し、バチルス・ブレビスに導入し、トランスグルタミナーゼ遺伝子導入菌と共に培養、分泌発現することによりプロトランスグルタミナーゼのプロ部分を切断したトランスグルタミナーゼを得る方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の方法により、バチルス・ブレビスが宿主ベクター系として用いられ、この属の細菌の細胞表層タンパク質のシグナルペプチドの下流に分泌型のプロ構造部を含むトランスグルタミナーゼ遺伝子を結合した発現構築物が作製され、これがバチルス・ブレビス内に導入され、発現され、菌体外に分泌されたタンパク質が回収され、更に得られたプロトランスグルタミナーゼのプロ構造部をプロテアーゼ等で処理して切断することによって、多量のトランスグルタミナーゼが得られる。
さらにまたプロテアーゼ等についてもトランスグルタミナーゼ遺伝子構築物と同じように発現型遺伝子構築物を作製し、バチルス・ブレビスに導入し、トランスグルタミナーゼ遺伝子導入菌と共に培養、分泌発現することによりプロトランスグルタミナーゼのプロ部分を切断したトランスグルタミナーゼを直接菌体外に得る方法である。
【0009】
分泌型タンパク質は一般にはプレペプチドまたはプレプロペプチドとして翻訳され、その後、翻訳後修飾を受けて成熟型タンパク質になることが知られている。すなわち、一般に、プレペプチドまたはプレプロペプチドとして翻訳された後、シグナルペプチド(「プレ部分」)が切断されて成熟ペプチドまたはプロペプチドに変換され、プロペプチドはプロテアーゼによってさらにプロ部分が切断されて成熟ペプチドになることが知られている。本明細書において、「シグナル配列」とは、分泌性タンパク質前駆体のN末端に存在し、かつ天然の成熟タンパク質には存在しない配列をいい、「シグナルペプチド」とはそのようなタンパク質前駆体から切り取られるペプチドをいう。一般にはシグナル配列は菌体外への分泌に伴ってプロテアーゼ(通称シグナルペプチダーゼ)によって切断される。このようなシグナルペプチドは生物種を越えて一定の共通した配列上の特徴を有し、機能的に共通すると考えられる。
【0010】
本明細書において、シグナルペプチドおよびプロ部分の両方を有するタンパク質、すなわち、一次翻訳産物を「プレプロタンパク質」と称することがあり、また、シグナルペプチドを有しないがプロ部分を有するタンパク質を「プロタンパク質」と称することがある。プロタンパク質のプロ部分は「プロ構造部」または単に「プロ構造」と称することもあり、本明細書においてタンパク質の「プロ構造部/プロ構造」とタンパク質の「プロ部分」とは互換的に使用される。プレプロタンパク質またはプレタンパク質において、そのシグナルペプチドは異なるタンパク質に由来する場合であっても、目的タンパク質に天然に存在するシグナルペプチドであってもよいが、使用する宿主の分泌型タンパク質に由来することが好ましい。あるいは、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変してもよい。さらに本発明の目的に使用し得るシグナルペプチドは、それが由来する天然の成熟タンパク質のN末端アミノ酸配列を一部含んでいてもよい。シグナルペプチドが異なるタンパク質に由来する場合はプレプロタンパク質を特に「異種融合プレプロタンパク質」と称することもある。例えば、タンパク質がトランスグルタミナーゼの場合は、それぞれ「プレプロトランスグルタミナーゼ」、「プロトランスグルタミナーゼ」および「異種融合プレプロトランスグルタミナーゼ」と称される。また、「プロ部分を切断した」タンパク質とは、ペプチド結合を切断することによってプロ部分を構成する少なくとも1以上のアミノ酸を除去したタンパク質をいい、そのN末端領域が天然の成熟型タンパク質のものと完全に一致するタンパク質、および、そのタンパク質の活性を有する限り、天然のタンパク質に比較してN末端にプロ部分に由来する1以上の余分のアミノ酸を有するものおよび天然の成熟型タンパク質よりもアミノ酸配列が短いタンパク質も含まれる。
【0011】
バチルス・ブレビスを用いて異種タンパク質を菌体外に分泌生産するために使用される遺伝子構築物は、一般にプロモーター、適切なシグナルペプチドおよび目的タンパク質をコードする核酸断片、およびバチルス・ブレビス菌中で目的タンパク質遺伝子を発現させるために必要な制御配列(プロモーター・オペレーターやターミネーター等)を含む適切な配列を適切な位置に有するものである。この構築物のために使用できるベクターは特に制限されず、バチルス・ブレビス菌中で機能し得るものであればよく、プラスミドのように染色体外で自律増殖するものであっても細菌染色体に組み込まれるものであってもよい。バチルス・ブレビス由来のプラスミドは特に好ましい。これらには、例えばpHT926(特願平4-216605)、およびこれらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミドが含まれる。バチルス・サチルスで利用されるpUB110(J.Bacteriol.,134, 318-329(1978))も利用できる。また、トランスポゾン等も利用することができる。トランスポゾンが使用される場合は相同組換えまたはそれ自身の転移能によって目的遺伝子が染色体中に導入される。
【0012】
本発明に使用できるプロモーター、SD、シグナルペプチドコード遺伝子としては特に限定されず、宿主内で機能するものであればいずれでもよいが、Bacillus brevis 47あるいはH102由来のプロモーター、SD、シグナルペプチドをコードする遺伝子(J.Bacteriol., 170, 935-945(1988)、J.Bacteriol., 172, 1312-1320(1990))を用いるのが有効である。
本発明で使用するシグナルペプチドの一例のアミノ酸配列を配列番号1に示す。シグナルペプチドには、それが由来する分泌性タンパク質のN末端アミノ酸配列の一部が付加されていてもよい。シグナル配列は、翻訳産物が菌体外に分泌される際にプロテアーゼ(通称シグナルペプチダーゼ)によって切断される。なお、シグナルペプチドをコードする遺伝子は、天然型のままでも使用できるが、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変してもよい。
【0013】
本発明によって分泌生産し得る有用タンパク質はトランスグルタミナーゼである。放線菌由来のトランスグルタミナーゼ遺伝子はGCコンテントに富むので、バチルス・ブレビスでは放線菌の遺伝子そのものがそのまま利用しにくい点がある。それゆえ、コドン利用性を配慮した合成遺伝子を作製することが望ましい。
【0014】
トランスグルタミナーゼ遺伝子としては放線菌、例えばStreptoverticillium mobaraense IFO 13819、Streptoverticillium cinnamoneum IFO 12852、Streptoverticillium griseocarneum IFO 12776、Streptomyces lydicus[WO9606931]等やOomycetes[WO9622366]等のカビなどの分泌型のトランスグルタミナーゼの遺伝子が本発明の目的に利用可能である。これらのタンパク質をコードする遺伝子は、使用する宿主に応じて、および望みの活性を得るために改変することができ、それらには1以上のアミノ酸の付加、欠失、置換などが含まれ、必要により宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンに変換してもよい。
【0015】
天然でプレプロペプチドとして発現されるタンパク質を本発明によって分泌生産する場合は、プロ構造部(プロ部分)を含むプロタンパク質をコードする遺伝子断片を使用することが好ましい。プロ構造部の配列の例として、Streptoverticillium mobaraense IFO 13819由来トランスグルタミナーゼのプロ構造部の配列を配列番号3に示した。タンパク質のプロ構造部は適当な手段、例えばプロテアーゼによって切断すればよく、アミノペプチダーゼ、適切な位置で切断するエンドペプチダーゼ、あるいは、より特異的なプロテアーゼを使用することができるが、その結果生じるタンパク質が天然のタンパク質と同等またはそれ以上の活性を有するような位置で切断するプロテアーゼが好ましい。あるいは、求めるタンパク質をコードする遺伝子配列を改変して、望みの位置に特異的なプロテアーゼの認識部位を有するタンパク質を発現するように設計することもできる。このような改変技術、遺伝子のクローニング技術、生産されたタンパク質の検出技術を含む、一般的な分子生物学的手法は当業者によく知られたものであり、例えば、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York、DNA cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (D.N. Glover ed. 1985)、F.M. Ausubel et al.(eds), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (1994)、PCR Technology:Principles and Application for DNA Amplification, H. Erlich, ed., Stockton Press等を参照することができる。
【0016】
プロ構造部の配列は、配列番号3に示したアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されていてもよい。
プロテアーゼ分解の結果得られるタンパク質のN末端領域は必ずしも天然のタンパク質と同一でなくてもよく、1〜数個のアミノ酸を余分に付加された、あるいは欠失したものであってもよい。一般には、そのタンパク質の活性という観点から、天然のタンパク質とほぼ同じ位置で切断されることが好ましく、天然のものと同一の成熟ペプチドであることがより好ましい。例えば、Streptoverticillium mobaraenseの成熟型トランスグルタミナーゼについてはその配列が配列番号4に示されるものである。従って、一般には、天然に生じる成熟タンパク質と同一のタンパク質を生じる位置でプロ構造部を切断する特異的プロテアーゼが最も好ましい。しかしながら、特定の目的については、天然のタンパク質に比較してN末端がアミノ酸1〜数個分長いあるいは短いペプチドがより適切な活性を有することがある。そのようなプロテアーゼにはDispase(ベーリンガーマンハイム社製)のような商業的に入手できるものの他、微生物の培養液、例えば放線菌およびバチルス属菌の培養液等から得られるものが含まれる。そのようなプロテアーゼは未精製状態で使用することもでき、必要に応じて適当な純度まで精製した後に使用してもよい。
【0017】
プラスミドを構築する方法としては、常法が適宜用いられ、例えばMolecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harber Laboratory(1982)に記載の方法などが例示される。
【0018】
前記条件にて構築された本発明の発現ベクターにプロトランスグルタミナーゼ遺伝子が挿入されたプラスミドを用いて、微生物を形質転換すれば、プロトランスグルタミナーゼを効率よく分泌生産しうる形質転換体を得ることができる。
外来遺伝子産物をコードする遺伝子を組み込んだベクターで形質転換する宿主菌としては、ベクター、プロモーターが発現可能な微生物であれば何れでもよく、本発明ではバチルス・ブレビス細菌が用いられる。バチルス・ブレビス細菌とは好気性のグラム陽性かん菌であり、例えばBacillus brevis 47(特開昭60-58074、特開昭62-201583)、Bacillus brevis H102(特開昭63-56277)などが挙げられる。好適にはBacillus brevis H102が用いられる。またこれらの変異株も含まれる。
微生物を形質転換する方法は、公知の方法でよく、例えばTakahashiらの方法(J.Bacteriol., 156, 1130(1983))、またはTakagiらの方法(Agric.Biol.Chem., 53, 3099-3100(1989))等が例示される。
【0019】
得られた形質転換体の培養に用いる培地は、形質転換体が生育して、目的とする外来遺伝子産物を生産しうるものであればいかなるものでもよい。
該培地に含有される炭素源としては、グルコース、グリセロール、でんぷん、デキストリン、糖蜜、尿素、有機酸等が挙げられる。窒素源としては、カゼイン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、カザミノ酸、グリシンなどの有機窒素源、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの無機窒素源などが挙げられる。また糖と無機窒素源を主とする合成培地を用いて培養してもよい。栄養要求性を示す菌は、その生育に必要な栄養物質を培地に添加すればよい。該栄養物質としては、アミノ酸類、ビタミン類、核酸、塩類等が挙げられる。
また培養に際して必要であれば、培地に抗生物質、例えばペニシリン、エリスロマイシン、ネオマイシン、クロラムフェニコール、バシトラシン、D−サイクロセリン、アンピシリン等が加えられる。さらに必要により、消泡剤、例えば大豆油、ラード油、各種界面活性剤などが加えられる。
培地のpHは5〜9であり、より好ましくは6〜8である。培養温度は通常15℃〜42℃であり、培養時間は24〜144時間である。
【0020】
プロ構造が付加していないトランスグルタミナーゼについては、微生物の菌体内で多量に蓄積すると一般に致死的であることが知られているが、本発明によれば生産されたトランスグルタミナーゼはプロトランスグルタミナーゼとして菌体外に放出されるため、致死的影響を受けることなく連続的にプロトランスグルタミナーゼが生産される。
【0021】
本発明によって菌体外に分泌されたタンパク質は、当業者によく知られた方法に従って培養後の培地から分離精製することができる。例えば、菌体を遠心分離等により除去した後、塩析、エタノール沈殿、限外濾過、ゲル濾過、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニーティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動等の既知の適切な方法、またはこれらを組み合わせることにより分離精製することができる。
精製したプロトランスグルタミナーゼはプロテアーゼ等によって、プロ構造部を切断し、目的の活性型のトランスグルタミナーゼを得ることができる。
またプロ構造部を切断するプロテアーゼ遺伝子を同じように発現ベクターに搭載し、培地中に直接、活性型トランスグルタミナーゼを蓄積させ、先に述べた精製方法で、活性型トランスグルタミナーゼを得ることができる。
【0022】
本発明は以下の実施例および添付の図面によって、更に具体的に説明されるが、これらはいかなる意味でも本発明を限定するものと解してはならない。
【0023】
【実施例】
実施例1:バチルス・ブレビス( Bacillus brevis) の細胞表層タンパク質のシグナルペプチドおよび成熟トランスグルタミナーゼをコードする融合遺伝子を用いた成熟トランスグルタミナーゼの分泌生産
(1)Bacillus brevis 47 の細胞表層タンパク質のシグナル配列を有するトランスグルタミナーゼ遺伝子の構築
Bacillus brevis 47の細胞表層タンパク質であるMWPの遺伝子の配列は既に決定されている[J. Bacteriol., 170, 176-186(1988)]。またStaphylococus aureus由来のプラスミドpUB110(Plasmid 15, 93(1986))をベースとして、pUB110とpHW1(J.Bacteriol., 150, 804-814(1982))からpHT-1が構築された。すなわち、pHW1よりエリスロマイシン耐性遺伝子を含むHindIII-ClaIの1.6kb断片を単離し、pBR322(宝酒造社製)のHindIII-ClaI サイトの間に挿入する。次に挿入された断片を含むEcoRI-BamHI断片(約2kb)を単離し、pUB110のEcoRI-BamHIのサイトの間に挿入した(Biotechonol.Genet.Engin.Rev., 7, 113-146(1989))。このpHT-1から図1に示す手順によって、MWPのプロモーター領域とシグナルペプチドをコードする領域を搭載した分泌ベクターpNU210(Biotechnol.Genet.Engin.Rev., 7, 113-146(1989))および本発明に利用した分泌ベクターpNU212(Appl.Microbiol.Biotechnol., 42, 358-363(1994))が作製された。
Bacillus brevis 47はプレイベートナンバーAJ3842が付与され、平成13年3月30日付けでFERM P-18282として経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所に寄託してある。
【0024】
まずpNU210の非必須領域にある二つのBspHI制限酵素サイトをBspHIで切断し、T4 DNA ポリメラーゼ(宝酒造社製)にて平滑末端化した後に再結合させてプラスミド上のBspHIサイトを消滅させた。次にMWPの翻訳開始コドン近傍のTTATGA配列を部位特異的変異(Nucleic Acid Res., 11, 5103-5112(1983))によってTCATGAに変更し、新たにBspHI サイトを造成した(pNU211)。さらにpNU211上にある2箇所のNcoIサイトのうち、MWP領域のNcoIサイトのみを残すように操作を行い、pNU212を作製した(Appl.Microbiol.Biotechnol., 42, 358-363(1994))。すなわちNcoI部分消化後、T4 DNA ポリメラーゼ処理でNcoI切断箇所を平滑末端化して、1箇所のNcoIサイトを消去した。そしてその中から、MWP領域のNcoIサイトが残存しているプラスミドを選択することによって、pNU212が得られた。
さらにまたE.coliで構築物中間体を作製するために、プラスミドpBR-AN3が構築された。それはpNU210上のMWPのシグナルペプチドの一部を含むApaLI-HindIII断片をpBR322(宝酒造社製)のNruIサイトとHindIIIサイトの間に挿入したものである(Methods Enzymol., 217, 23-33(1993))。
【0025】
分泌対象とするStreptoverticillium mobaraense由来トランスグルタミナーゼ(MTG)遺伝子のソースとして、大腸菌における発現に適するようコドンを変換した成熟 MTG 遺伝子を含むpTRPMTG02(Biosci.Biotechnol.Biochem., 64, 1263-1270(2000)、特開平11-075876)を利用し、本プラスミドを鋳型として PCR を行った。PCR反応にはKOD DNA polymerase (東洋紡績社製)を用いており、反応条件は製造業者の推奨するプロトコルに従った。
【0026】
5' プライマーには、成熟 MTG のN末端アミノ酸配列をコードする塩基配列の5’側にNcoI 部位を含むBacillus brevis 47のMWP シグナルペプチド C末端をコードする配列を付加したものを用いた(5'- CTCCCATGGCTTTCGCTGATTCTGACGATCGTG-3')。3' プライマー(5'- CCAAGCTTTCATTACGGCCAACC-3' )にはpTRPMTG02 に存在する成熟 MTG のC末端アミノ酸配列とその下流のHindIII 部位を含めた。
アガロースゲル電気泳動により約1kbの増幅断片を検出した。増幅された断片をUltraCleanTM15 DNA purification Kit(MO BIO laboratories, Inc.)を用いてアガロースゲルから回収し、その末端のNcoI 及びHindIII 部位を用いてpBR-AN3(MWP シグナルペプチド をコードする配列とマルチクローニング部位を含む pBR322 由来のプラスミド)のNcoI 部位とHindIII 部位の間に挿入した(pBR-AN3-MTG)。
【0027】
次にpBR-AN3-MTG をApaLI (MWP シグナルペプチド をコードする配列中でNcoI 部位の上流に存在する)とHindIII で切断し、MTG 遺伝子を含む 1 kb の断片を単離して、Bacillus brevis の発現分泌ベクターpNU212 のApaLI とHindIII 部位の間に挿入し、Bacillus brevis H102の形質転換に用いた。形質転換株は非常に得にくかったが、1株を得て解析した。ダイターミネーターサイクルシークエンシングキット(PEアプライドバイオシステムズ社製)とDNAシークエンサーABI PRISMTM377(PEアプライドバイオシステムズ社製)を用いて挿入断片の塩基配列の決定を行い、MWPプロモーター領域から MTG遺伝子 の3' 側へ約1.5 kbに至る塩基配列が正しいことを確認した。
(配列番号5)5'- CTCCCATGGCTTTCGCTGATTCTGACGATCGTG-3'
(配列番号6)5'- CCAAGCTTTCATTACGGCCAACC-3'
[配列表フリーテキスト]
配列番号5と6;融合プレトランスグルタミナーゼ遺伝子構築のためのPCRプライマー
【0028】
(2)Bacillus brevis 47 の細胞表層タンパク質のシグナル配列を用いての成熟トランスグルタミナーゼの分泌
先に得た形質転換株pNU212-MTG/ B.brevis H102を10 mg/l のエリスロマイシンを添加した2PY培地( 40g polypeptone, 5g yeast extract, 10% MgSO4・7H2Oの1ml, 1% FeSO4・7H2Oの1ml, 1% MnSO4・4H2Oの1ml, 0.1% ZnSO4・7H2Oの1ml/900ml, pH 7.0, さらに別殺菌した20% glucoseを100ml添加)で培養し、培養終了後、10μlの培養上清をSDS−PAGEに供してから、Biosci.Biotechnol.Biochem., 58, 82-87(1994)記載の抗トランスグルタミナーゼ抗体を用いて、常法に従って(例えば、J. Sambrook ら(1989)、前述)ウエスタンブロット解析を行った。その結果、MTGは検出できなかった。
【0029】
さらにTG の活性を阻害することを期待して、2PY 培地に最終濃度が1%に成るように (NH4)2SO4 を加えて培養し、先の抗体で検出したところ、培地上清に成熟トランスグルタミナーゼとほぼ同じ分子量を有する、分泌されたトランスグルタミナーゼ数 mg/lを検出できた。
【0030】
実施例2: Bacillus brevis 47 の細胞表層タンパク質のシグナルペプチドに結合したプロトランスグルタミーゼ融合遺伝子(異種融合プレプロトランスグルタミナーゼ遺伝子)を用いたプロトランスグルタミナーゼの分泌生産
(1)トランスグルタミナーゼのプロ配列をコードする遺伝子の作製
大腸菌及びBacillus brevis において使用頻度の低いコドンを避けつつ、プロ配列をコードする遺伝子のデザインを行った。それに基づき、配列番号7〜14に示す8本の合成DNAを合成した。
これらの合成DNAをアニールした後、T4 DNAリガーゼにより連結し、さらに末端をT4 DNAポリメラーゼにより平滑末端化して、pUC118のSmaI部位へ挿入し、大腸菌の形質転換に用いた。16個の形質転換株についてプラスミド上に挿入された配列を確認したところ、すべてが何らかの塩基置換を含んでいた。この原因としては合成DNAが不純であったことが考えられる。これらのプラスミドのうち塩基置換が1ヶ所であるものを選び、PCRを用いた部位指定変異誘起(Nucleic Acid Res., 11, 5103-5112(1983))を行い、塩基配列を確認することによって、デザインした通りのプロ体をコードする配列を持つプラスミドを得た(pUC118ProMTG)。構築されたプロ構造部の塩基配列を図2に示した。
【0031】
配列番号7〜14に示した合成DNAはトランスグルタミナーゼのプロ構造部遺伝子を構築するために、プロ構造部のアミノ酸をコードする配列を含んでいる。
(配列番号7)5'-CCCATGGCTTTCGCTGATAATGGTGCAGGTGAAGAAACTAAATCT-3'
(配列番号8)5'-TATGCTGAAACTTATCGTCTGACTGCTGATGATGTTGCAAATAT-3'
(配列番号9)5'-TAATGCACTGAATGAAAGCGCTCCAGCAGCATCTAGCGCTGGTC-3'
(配列番号10)5'-CATCTTTTCGTGCTCCAGATTCTGACGATCGTGTTACTCCACCAG-3'
(配列番号11)5'-AGCATAAGATTTAGTTTCTTCACCTGCACCATTATCAGCGAAAGC-3'
(配列番号12)5'-GCATTAATATTTGCAACATCATCAGCAGTCAGACGATAAGTTTC-3'
(配列番号13)5'-AAGATGGACCAGCGCTAGATGCTGCTGGAGCGCTTTCATTCAGT-3'
(配列番号14)5'-CAGCTGGTGGAGTAACACGATCGTCAGAATCTGGAGCACGAA-3'
[配列表フリーテキスト]
配列番号7〜14:トランスグルタミナーゼのプロ構造部遺伝子構築のための合成DNA配列
【0032】
(2)Bacillus brevis 47の細胞表層タンパク質のシグナル配列を有するプロ構造部付きトランスグルタミナーゼ遺伝子(異種融合プレプロトランスグルタミナーゼ遺伝子)の構築
pUC118ProMTG、pTRP MTG02 よりNcoI-PvuII断片、PvuII-HindIII断片をそれぞれ単離し、pBR-AN3 のNcoI 部位とHindIII 部位の間に挿入した(pBR-AN3-ProMTG)。挿入された断片の塩基配列を確認するとともにpBR-AN3-ProMTGからApaLI-HindIII断片を単離してpNU212 のApaLI とHindIII 部位の間に挿入し、プラスミド pNU-PTG を作製した。これをBacillus brevis H102の形質転換に用い、得られた形質転換株(#2-3、#2-4)からプラスミドを抽出し、塩基配列の解析を行い、塩基の欠失や置換が起こっていないことを確認した。
【0033】
(3) プロトランスグルタミナーゼ(PTG)の発現
生産培地に5PY(2PY培地で培養48時間後に別殺菌した50%グルコースを60ml添加する培地) を使用し、#2-3、#2-4 について PTG の生産量の測定を行なった。その結果、2つのクローン間で生産量に差は認められなかった。#2-3 について120時間まで培養を行ない PTG の生産量を検討した結果、120 時間後の培養上清中に、100 mg 〜150mg/l 程度の生産が認められた。また、#2-3から抽出されたプラスミドをBacillus brevis 47 (FERM P-18282)にも形質導入し、同じようにPTGの生産量の測定を行なった。その結果、120時間後の培養上清液中に30〜50mg/l程度の生産が見出された。
【0034】
(4)PTGの分泌量を増加させるための生産培地の検討
Bacillus brevis H102株において、生産培地に2-Morpholinoethanesulfonic acid monohydrate(MES)を添加することにより、βーアミラーゼの分泌量が増加することが分かっている(J.Ferment.Bioeng., 73, 112-115(1992))。そこで、PTGについてもMESを添加することにより、分泌量が増加するか否かを調べた。
生産培地は、2PYとMESを含む2PYを用いた。96時間まで培養を行ない PTG の生産量を検討した結果、PTG の生産量はMESを添加することで、若干の増加が認められた。その生産量をデンシドメーターにより定量した結果、2PYの場合は200mg/l、またMES100mMを含む2PYの場合は300mg/lであった。時間経過に伴う生産量の増加は認められなかった。更に、ウエスタンブロッティングによりこのタンパク質がPTGであることを確認した。
【0035】
MESはグッドバッファーであることから、培養液のpH, OD の経時変化についても調べた。その結果、2PYとMES100mMを含む2PY培地のpHの変化とODの値には差が認められなかった。次にMESの濃度を 100, 200, 300, 400 mM と変化させて PTGの生産量を調べた。その結果、培養時間が120時間の場合、200〜300 mMが至適濃度であり、約400mg/lのPTGが培地中に蓄積されることがわかった。
【0036】
(5)Dispase1消化によるプロトランスグルタミナーゼの切断と活性の検出
上記pNU-PTGを有するBacillus brevis H102の培養上清にプロテアーゼであるDispase1(ベーリンガーマンハイム社製)を基質:酵素=1:1となるように添加し、pH7.5、37℃1時間反応を行った。Dispase1消化反応後、SDS−PAGEを行いプロトランスグルタミナーゼの切断を確認し、さらにハイドロキサメート法[J. Biol. Chem., 241, 5518-5525(1966)]にてトランスグルタミナーゼ活性を確認したところ、天然型とほぼ同じ比活性(約20U/mg)を有する事が確認できた。
【0037】
実施例3: Bacillus polymyxa AJ11034 由来中性メタロプロテアーゼを用いるプロトランスグルタミナーゼの切断と活性の検出
(1)Bacillus polymyxa AJ11034の培養液によるプロトランスグルタミナーゼの切断と活性の検出
5種類の保存株のB. polymixa に関して、各菌株をPMG培地(polypeptone 1%,Meat extract 1%, L-glutamin・Na 0.5%, MgCl2・6H2O 0.01%, pH 7.0)にて30℃で72時間培養し、その培地上清とPTGを生産するB. brevis の培地上清とを混合し、30℃で30分間反応し、プロ配列の切断を調べた。SDS−PAGEを行い、AJ11034株の上清を加えた場合に、プロ構造部付きトランスグルタミナーゼのプロ配列の切断が認められた。そこで、PTG を含む B.brevis の上清と AJ11034 株の上清とを反応させて生成した TG がどの部分で切断されているかを、そのアミノ末端を決めることにより調べた。そこで、SDS−PAGE後、Polyvinylidene-difluoride(PVDF)膜にセミドライブロッティングした(遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析、東京化学同人(1993))。ブロッティング後、PVDF膜をクマシーブリリアントブルーで染色し、脱染、風乾した。成熟トランスグルタミナーゼの部分を切り取り、プロテインシークエンサー(モデル476A、パーキンエルマー社製)でN末端アミノ酸配列の解析を行った。その結果、配列番号4に示した天然型の成熟トランスグルタミナーゼのN末端にFRAPの4アミノ酸残基を余分に付加したアミノ酸配列を有していることが確認され、dispase1 による切断部位と同じであることが明らかとなった。さらにその反応生成物はハイドロキサメート法[J. Biol. Chem., 241, 5518-5525(1966)]にて天然型とほぼ同じ比活性(約20U/mg)を有する、トランスグルタミナーゼ活性を持つことを確認した。
【0038】
(2)AJ11034 株の中性メタロプロテアーゼ遺伝子(npr)の単離
AJ11034 株より、染色体 DNA を調製し、これを鋳型に PCR により npr 遺伝子を増幅することを試みた。プライマーはすでに報告されている、B. polymyxa 72 株の npr 遺伝子(J.Bacteriol., 173, 6820-6825(1991))を基に作製した(配列番号15と16)。特異的に増幅する 約1.7kbのDNA 断片が確認されたので、これを pUC118 にクローニングし、その塩基配列を決定した。その塩基配列を配列番号17に、塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号18に記載した。
データベース検索の結果、B. polymyxa 72 株の npr 遺伝子と高い相同性(約89%)を示したことから、このDNA 断片は AJ11034 株の npr 遺伝子をコードしているものと考えられる。
(配列番号15) 5'-CATGCCATGGCTTTCGCTGCGGAGAGTTCCGTT-3'
(配列番号16) 5'-GGGAAGCTTTTAGCCTACAGCGTCAAAAGA-3'
【0039】
【発明の効果】
本発明により、バチルス・ブレビスによる効率的な異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼ製造方法が提供される。本発明によってバチルス・ブレビスによって多量に生産される異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼは菌体外に放出されるため、容易に回収することができる。したがって、本発明の方法によって、異種タンパク質、特にトランスグルタミナーゼを多量にかつ簡便に製造する方法が提供される。
【0040】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 pNU210およびpNU212の構築手順を示す。
【図2】 プラスミドpUC118ProMTGに含まれるプロ構造部の塩基配列。
Claims (7)
- バチルス・ブレビス由来のシグナルペプチド領域をコードする核酸配列の下流にプロ構造部の付加した微生物由来トランスグルタミナーゼをコードする核酸配列が接続された発現遺伝子構築物を有するバチルス・ブレビスを培養し、前記プロ構造部の付加した微生物由来トランスグルタミナーゼを産生および分泌させ、次いで前記プロ構造部の付加した微生物由来トランスグルタミナーゼからプロ構造部を切断・除去することを特徴とする、微生物由来トランスグルタミナーゼの製造方法。
- シグナルペプチドが配列番号1のバチルス・ブレビス由来の細胞表層タンパク質のシグナルペプチドである請求項1記載の方法。
- プロ構造部の付加した微生物由来トランスグルタミナーゼがストレプトバーチシリウム・モバラエンス由来トランスグルタミナーゼである請求項1および2記載の方法。
- プロ構造部の付加した微生物由来トランスグルタミナーゼが配列番号2のストレプトバーチシリウム・モバラエンス由来トランスグルタミナーゼである請求項3記載の方法。
- 配列番号2に記載のプロ構造部の付加した微生物由来トランスグルタミナーゼのアミノ酸配列において、少なくとも一つのアミノ酸の置換または欠失または挿入または付加またはこれらの組み合わせを含む請求項3記載の方法。
- プロ構造部の切断・除去がプロテアーゼによって行なわれる、請求項1に記載の方法。
- プロテアーゼがバチルス・ポリミキサ由来である請求項6に記載の方法。
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