結晶性熱可塑性高分子に導電性粒子を分散させた有機質正特性サーミスタはこの分野では公知であり、特許文献1および特許文献2等に開示されている。抵抗値の増大は、結晶性高分子が融解に伴って膨張し、導電性微粒子の導電経路を切断するためと考えられている。
有機質正特性サーミスタは、自己制御型発熱体、過電流保護素子、温度センサー等に利用することができる。これらに要求される特性としては、非動作時の室温抵抗値が十分低いこと、室温抵抗値と動作時の抵抗値の変化率が十分大きいこと、繰り返し動作による抵抗値の変化が小さいことが挙げられる。
こうした要求特性を満足させるために、ワックス等の低分子有機化合物を用い、バインダーとして熱可塑性高分子をマトリックスとする有機質正特性サーミスタが提案されている。このような有機質正特性サーミスタとしては、例えば、ポリイソブチレン/パラフィンワックス/カーボンブラック系(非特許文献1参照)、スチレン−ブタジエンラバー/パラフィンワックス/カーボンブラック系(非特許文献2参照)、低密度ポリエチレン/パラフィンワックス/カーボンブラック系(非特許文献3参照)がある。また、特許文献3〜13にも低分子有機化合物を使った有機質正特性サーミスタを用いた自己温度制御発熱体、限流素子等が開示されている。これらの場合は低分子有機化合物の融解により抵抗値が増大すると考えられる。
低分子有機化合物を用いると、一般に高分子に比べて結晶化度が高いため、昇温により抵抗が増大する際の立ち上がりが急峻になるという利点がある。また、高分子は過冷却状態を取りやすいため、通常、昇温時に抵抗値が増大する温度より降温時に抵抗値が減少する温度の方が低くなるようなヒステリシスを示すが、低分子有機化合物を用いることでこのヒステリシスを抑えることができる。さらには、融点の異なる低分子有機化合物を用いれば、抵抗が増大する温度(動作温度)を簡単に制御できる。高分子の場合、分子量や結晶化度の違い、また、コモノマーと共重合することによって融点が変化し、動作温度を変化させることができるが、その際、結晶状態の変化を伴うために十分なPTC特性が得られないことがある。これは、特に100℃以下に動作温度を設定するときに、より顕著になる傾向がある。
しかし、上記文献に開示されている有機質正特性サーミスタでは、導電性粒子としてカーボンブラックや黒鉛が用いられているので、低い初期(室温)抵抗と大きな抵抗変化率とを両立させていない。非特許文献3には、比抵抗値(Ω・cm)が108倍増加した例が示されているが、室温での比抵抗値は104Ω・cmで非常に高く、特に過電流保護素子や温度センサーに使うには実用的ではない。また、他の文献における抵抗値(Ω)あるいは比抵抗値(Ω・cm)の増加は、いずれも10倍以下から104倍程度の範囲にあり、室温抵抗も十分低いものではない。
一方、低分子有機化合物と、マトリックスとして熱硬化性高分子を用いた有機質正特性サーミスタが、特許文献14〜17に開示されている。しかしながら、これらも導電性粒子としてカーボンブラックや黒鉛が用いられており、抵抗変化率はいずれも1桁以下と小さく、室温抵抗も1Ω・cm前後で十分低いものではなく、低い初期抵抗と大きな抵抗変化率とを両立させていない。
また、低分子有機化合物を用いず、熱硬化性高分子と導電性粒子のみで構成される有機質正特性サーミスタが、特許文献18〜29で提案されている。これらにおいても、導電性粒子としてカーボンブラックや黒鉛が用いられているので、0.1Ω・cm以下の室温抵抗と5桁以上の抵抗変化率とを両立させた例はない。また、一般に、熱硬化性高分子と導電性粒子のみの構成では明確な融点をもつ構成物がないため、温度−抵抗特性における抵抗の立ち上がりが鈍くなり、特に過電流保護素子や温度センサーの用途では満足な特性が得られていないことが多い。
上記のものも含め、従来の有機質正特性サーミスタでは導電性粒子としてカーボンブラックや黒鉛が多く用いられてきたが、初期抵抗値を下げるためカーボンブラックの充填量を多くしたときに十分な抵抗変化率が得られず、低い初期抵抗と大きな抵抗変化率とを両立できないという欠点があった。また、一般の金属粒子を導電性粒子に用いた例もあるが、同じように低い初期抵抗と大きな抵抗変化率とを両立させることは困難であった。
本発明者らは、特許文献25において、熱可塑性高分子マトリックス、低分子有機化合物およびスパイク状の突起を有する導電性粒子を含む有機質正特性サーミスタを提案している。このものは、室温比抵抗が8×10-2Ω・cm以下で十分低く、動作時と非動作時の抵抗変化率が11桁以上と大きく、さらには、温度−抵抗曲線のヒステリシスが小さい。しかも、その動作温度は40〜100℃である。2次電池、電気毛布、便座、車両用シート用のヒーター等の保護素子としての用途を考えた場合、100℃超の動作温度では人体への危険性が大きい。人体に対しての安全性を考えると、動作温度は100℃以下であることが必要である。また、最近、有機質正特性サーミスタは、携帯電話、パソコン等の過電流保護素子としての需要が高いが、その使用温度は通常40〜90℃程度であり、この面からも動作温度が40〜100℃のサーミスタが求められている。
しかし、このサーミスタは、特性安定性が不十分であり、特に高温高湿下においたり、断続的に負荷をかけると抵抗が顕著に増加する。これは、低分子有機化合物の低い融点と低い溶融粘度(100℃で2〜10mm2/sec程度)とに起因し、動作時に溶融−凝固を繰り返すうちに動作物質の低分子有機化合物の偏析等が起こり、高分子マトリックス、低分子有機化合物および導電性粒子の結晶状態や分散状態が変化したりして特性が劣化すると思われる。このような特性安定性の問題は、低分子有機化合物を動作物質にする上で重要な問題である。前述のものも含めて低分子有機化合物を動作物質にしたサーミスタでは、現在のところ、十分な特性安定性は得られておらず、また、素子が変形してしまうことも多々ある。
なお、特許文献26には、結晶性重合体、具体的にはポリフッ化ビニリデンとスパイク状の突起を有する導電性粒子、具体的にはスパイク状Niパウダーとからなる有機質正特性サーミスタが開示されている。また、特許文献27にも、スパイク状の突起を有するフィラメント形状のNiと、ポリオレフィン、オレフィン系コポリマーまたはフルオロポリマーとからなる有機質正特性サーミスタが開示されている。しかしながら、これらのものでは、低い初期抵抗と大きな抵抗変化を両立させる効果は向上するものの、低分子有機化合物を動作物質に用いていないのでヒステリシスの点が不十分であり、特に温度センサーのような用途には適さない。また、動作時に抵抗が増加した後さらに加熱すると、温度上昇とともに抵抗値が減少するNTC特性(negative temperature coefficient of resistivity )を示すという問題がある。なお、上記公報および上記明細書では、低分子有機化合物を用いることは全く示唆されていない。しかも、これらのものは、動作温度は100℃超である。動作温度が60〜70℃のものもあるが、これらは繰り返し動作による特性が不安定であり、実用的でない。
また、特許文献28,29には、熱硬化性樹脂とスパイク状の突起を有する導電性粒子とを混合してなる有機質正特性サーミスタが開示されており、9桁以上の抵抗変化率が得られている。しかしながら、フィラー充填量を多くして室温抵抗値を下げると十分な抵抗変化率が得られず、低い初期抵抗と大きな抵抗変化を両立させることは困難である。また、熱硬化性樹脂と導電性粒子とから構成されているので、抵抗増加の立ち上がりも十分急峻なものではない。なお、上記公報でも、低分子有機化合物を用いることは全く示唆されていない。
以上の通り、特に動作温度100℃以下で良好な特性を示し、特性の安定な有機正特性サーミスタは、現在のところ得られていない。
米国特許第3243753号明細書
米国特許第3351882号明細書
特公昭62-16523号公報
特公平7-109786号公報
特公平7-48396号公報
特開昭62-51184号公報
特開昭62-51185号公報
特開昭62-51186号公報
特開昭62-51187号公報
特開平1-231284号公報
特開平3-132001号公報
特開平9-27383号公報
特開平9-69410号公報
特開平2-156502号公報
特開平2-230684号公報
特開平3-132001号公報
特開平3-205777号公報
特開昭55-68075号公報
特開昭58-34901号公報
特開昭63-170902号公報
特開平2-33881号公報
特開平9-9482号公報
特開平10-4002号公報
米国特許4966729号明細書
特願平9−350108号公報
特開平5−47503号公報
米国特許第5378407号明細書
特開平5−198403号公報
特開平5−198404号公報
F.Bueche,J.Appl.Phys.,44,532,1973
F.Bueche,J.Polymer Sci.,11,1319,1973
K.Ohe et al.,Jpn.J.Appl.Phys.,10,99,1971
Jpn.J.Appl.Phys.,10,99,1971
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の有機質正特性サーミスタは、融点の異なる少なくとも2種の熱可塑性高分子マトリックス、好ましくは融点が40〜200℃の低分子有機化合物およびスパイク状の突起を有する導電性粒子を含むものである。この明細書では、示差走査熱量測定法(DSC)における吸熱ピークの終了温度を融点という。
熱可塑性高分子マトリックスは、結晶性でも非晶性でも用いることができ、特に制限されないが、ポリオレフィン(共重合体を含む)を用いると良好な特性が得られるので好ましい。
本発明に用いられる熱可塑性高分子マトリックスとしては、
i)ポリオレフィン(例えばポリエチレン)
ii)1種または2種以上のオレフィン(例えばエチレン、プロピレン)と、1種または2種以上の極性基を含有するオレフィン性不飽和モノマーとから誘導されたモノマー単位で構成されたコポリマー(例えばエチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー)、
iii)ハロゲン系ポリマー(例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、これらのコポリマー等のフッ素系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、これらのコポリマー等の塩素系ポリマー)、
iv)ポリアミド(例えば12−ナイロン)、
v)ポリスチレン、
vi)ポリアクリロニトリル、
vii)熱可塑性エラストマー、
viii)ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアセタール、
ix)熱可塑性変性セルロース、
x)ポリスルホン類、
xi)ポリエチルアクリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート
等が挙げられる。具体的には、高密度ポリエチレン[例えば、商品名ハイゼックス2100JP(三井石油化学製)、商品名Marlex6003(フィリップス社製)、商品名HY540(日本ポリケム製)等]、低密度ポリエチレン[例えば、商品名LC500(日本ポリケム製)、商品名DYNH−1(ユニオンカーバイド社製)等]、中密度ポリエチレン[例えば、商品名2604M(ガルフ社製)等]、エチレン−エチルアクリレートコポリマー[例えば、商品名DPD6169(ユニオンカーバイド社製)等]、エチレン−酢酸ビニルコポリマー[例えば、商品名LV241(日本ポリケム製)等]、エチレン−アクリル酸コポリマー[例えば、商品名EAA455(ダウケミカル社製)等]、アイオノマー[例えば、商品名ハイミラン1555(三井・デュポンポリケミカル社製)等]、ポリフッ化ビニリデン[例えば、商品名Kynar461(エルフ・アトケム社製)等]、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー[例えば、商品名KynarADS(エルフ・アトケム社製)等]などが挙げられる。
このような熱可塑性高分子の重量平均分子量Mwは1万〜500万程度であることが好ましい。
本発明では、これらの熱可塑性高分子を2種以上用いる。
熱可塑性高分子のうち、最も融点の低いもの(低融点の熱可塑性高分子という)の融点は、低分子有機化合物の融点よりも15℃以上、特に20〜30℃高いことが好ましい。低融点熱可塑性高分子の融点がこれより高いと、低分子有機化合物の溶融時に高分子が溶融しにくいので、溶融成分の粘度上昇の効果が低くなる傾向がある。低融点熱可塑性高分子の融点がこれより低いと、低分子有機化合物の融解による急激な抵抗の上昇が鈍くなる傾向がある。高融点の熱可塑性高分子マトリックス(最も融点の低いものを除く熱可塑性高分子のことをいう)の融点は、低分子有機化合物の融点よりも30℃以上、特に40〜110℃高いことが好ましい。高融点熱可塑性高分子の融点がこれより高いと、混練温度が高くなるため低分子有機化合物の熱劣化が起こる可能性がある。高融点熱可塑性高分子の融点がこれより低いと、動作時の低分子有機化合物の融解による流動、素体の変形等を防ぐことが難しくなる傾向がある。低融点熱可塑性高分子の融点と高融点熱可塑性高分子の融点との差は、20℃以上、特に20〜50℃であることが好ましい。また、低融点の熱可塑性高分子マトリックスの融点は、通常、60〜130℃であることが好ましい。高融点の熱可塑性高分子マトリックスの融点は、通常、好ましくは80〜200℃、特に80〜150℃であることが好ましい。
また、低融点の熱可塑性高分子マトリックスのASTM D1238で定義されるメルトフローレート(MFR)は、1〜20g/10min、特に1〜10g/10minであることが好ましい。MFRが1〜20g/10minの高分子を用いることによって、低分子有機化合物が溶融するとき(動作時)の溶融成分の粘度を高くし、導電性粒子の再配列を抑制するため、特性安定化の効果が大きい。MFRがこれより大きいと、低分子有機化合物の溶融時の溶融成分の粘度を十分高くすることが困難になり、高分子マトリックス、低分子有機化合物および導電性粒子の分散状態等が変化しやすくなる傾向がある。MFRがこれより小さいと、低分子有機化合物の溶融時の溶融成分の粘度が高くなりすぎ、本発明の効果が失われてくる他、高分子マトリックス、低分子有機化合物および導電性粒子の分散が困難になる傾向がある。
低融点の熱可塑性高分子マトリックスとしては、低密度ポリエチレンやエチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー、ポリエチルアクリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート等のオレフィン系コポリマーが好ましく、特に低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー、中でも低密度ポリエチレンが好ましい。
高融点の熱可塑性高分子マトリックスとしては、適当な融点、溶融粘度を有するので、高密度ポリエチレンを用いることが特に好ましい。
高密度ポリエチレンのASTM D1238で定義されるメルトフローレート(MFR)は、3.0g/10min以下、特に1.5g/10min以下が好ましい。MFRがこれより高いと、溶融粘度が低すぎて、特性の安定性に劣る傾向が見られる。MFRの下限は特にないが、通常0.1g/10min程度である。
密度が0.910〜0.929g/cm3のものは低密度ポリエチレンといい、0.942g/cm3以上のものは高密度ポリエチレンという。低密度ポリエチレンは、高圧法、すなわち1000気圧以上の高圧ラジカル重合法で製造され、エチレン基等の短鎖分岐の他、長鎖分岐を含む。高密度ポリエチレンは、数十気圧以下の中・低圧下、遷移金属触媒を用いて配位アニオン重合で製造され、直鎖状である。
本発明では、融点の異なる熱可塑性高分子マトリックス3種以上を併用してもかまわないが、MFR3.0g/10min以下の高密度ポリエチレンとMFR1〜20g/10minの低密度ポリエチレンやオレフィン系コポリマー、好ましくは低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
高融点の熱可塑性高分子マトリックスと低融点の熱可塑性高分子マトリックスの重量比、つまり、最も融点の低いものを除く熱可塑性高分子マトリックスと最も融点の低いものとの重量比は、1:4〜9:1、特に1:3〜8:1であることが好ましい。低融点熱可塑性高分子マトリックスがこれより多いと、初期抵抗の安定性が低下する傾向がある。低融点熱可塑性高分子マトリックスがこれより少ないと、抵抗増加後のNTC現象が見られたり、温度−抵抗曲線のヒステリシスが大きくなる傾向がある。
または、本発明の有機質正特性サーミスタは、少なくとも1種の熱可塑性高分子マトリックス、少なくとも1種の熱硬化性高分子マトリックス、好ましくは融点が40〜200℃の低分子有機化合物およびスパイク状の突起を有する導電性粒子を含むものである。
熱可塑性高分子については、マトリックスとして融点の異なる少なくとも2種の熱可塑性高分子を用いる場合に説明したものと同様であり、低融点の熱可塑性高分子と同様のものが好ましい。つまり、熱可塑性高分子の融点は、低分子有機化合物の融点よりも15℃以上、特に20〜30℃高いことが好ましく、熱可塑性高分子マトリックスのASTM D1238で定義されるメルトフローレート(MFR)は、1〜20g/10min、特に1〜10g/10minであることが好ましい。熱可塑性高分子マトリックスとしては、低密度ポリエチレンやエチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー、ポリエチルアクリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート等のオレフィン系コポリマーが好ましく、特に低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー、中でも低密度ポリエチレンが好ましい。
この場合、融点の異なる熱可塑性高分子マトリックス2種以上を併用してもかまわないが、MFR1〜20g/10minの低密度ポリエチレンやオレフィン系コポリマー、好ましくは低密度ポリエチレンのみを用いることが好ましい。
熱硬化性高分子マトリックスとしては、特に制限されないが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、フェノール樹脂、シリコーン樹脂が好ましく用いられる。
エポキシ樹脂は、末端に反応性のエポキシ基をもつオリゴマー(分子量数百から一万程度)を各種硬化剤で硬化(架橋)したものであり、ビスフェノールAに代表されるグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、脂環型に分類される。用途によっては、3官能以上の多官能エポキシ樹脂も用いることができる。本発明では、これらの中でも、グリシジルエーテル型、中でもビスフェノールA型を用いることが好ましい。用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量は100〜500程度が好ましい。硬化剤は、反応機構により、重付加型、触媒型、縮合型に分類される。重付加型は、硬化剤自身がエポキシ基や水酸基に付加するもので、ポリアミン、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン、イソシアネート等がある。触媒型は、エポキシ基同士の重合触媒となるもので、3級アミン類、イミダゾール類等がある。縮合型は、水酸基との縮合で硬化するもので、フェノール樹脂、メラミン樹脂等がある。本発明では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の硬化剤としては、重付加型、特にポリアミン系および酸無水物を用いることが好ましい。硬化条件は適宜決めればよい。
このようなエポキシ樹脂、硬化剤は市販されており、例えば、油化シェルエポキシ社製エピコート(樹脂)、エピキュア、エポメート(硬化剤)、チバガイギー社製アラルダイト等がある。
不飽和ポリエステル樹脂は、主に不飽和二塩基酸もしくは二塩基酸と多価アルコールとを主体としたポリエステル(分子量1000〜5000程度)を架橋の働きをするビニルモノマーに溶解したもので、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物を重合開始剤として硬化させて得られる。必要に応じて重合促進剤を併用して硬化してもよい。本発明で用いる不飽和ポリエステルの原料としては、不飽和二塩基酸としては無水マレイン酸、フマル酸が好ましく、二塩基酸としては無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましく、多価アルコールとしてはプロピレングリコール、エチレングリコールが好ましい。ビニルモノマーとしてはスチレン、ジアリルフタレート、ビニルトルエンが好ましい。ビニルモノマーの配合量は適宜決めればよいが、通常、フマル酸残基1molに対して1.0〜3.0mol程度である。また、合成工程におけるゲル化防止、硬化特性の調節等のためにキノン類、ヒドロキノン類等の公知の重合禁止剤が添加される。硬化条件は適宜決めればよい。
このような不飽和ポリエステル樹脂は市販されており、例えば、日本触媒製エポラック、日立化成製ポリセット、大日本インキ化学工業製ポリライト等がある。
ポリイミドは、製造方法により縮合型と付加型とに大別されるが、付加重合型ポリイミドのビスマレイミド型ポリイミドが好ましい。ビスマレイミド型ポリイミドは、単独重合、他の不飽和結合との反応、芳香族アミン類とのマイケル付加反応あるいはジエン類とのDiels-Alder反応等を利用して硬化できる。本発明では、特に、ビスマレイミドと芳香族ジアミン類との付加反応によって得られるビスマレイミド系ポリイミド樹脂が好ましい。芳香族ジアミン類としては、ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。その合成・硬化条件は適宜決めればよい。
このようなポリイミドは市販されており、例えば、東芝ケミカル社製イミダロイ、チバガイギー社製ケルイミド等がある。
ポリウレタンは、ポリイソシアネートとポリオールの重付加反応で得られる。ポリイソシアネートとしては、芳香族系と脂肪族系とがあるが、芳香族系が好ましく、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート等が好ましく用いられる。ポリオールには、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等があるが、ポリプロピレングリコールが好ましい。触媒には、アミン系(トリエチレンジアミン等の3級アミン系とアミン塩)でもよいが、ジブチルチンジラウレート、スタナスオクトエート等の有機金属系を用いることが好ましい。その他に、多価アルコール、多価アミン等の架橋剤等を副資材として併用してもよい。合成・硬化条件は適宜決めればよい。
このようなポリウレタンは市販されており、例えば、住友バイエルウレタン社製スミジュール、三井東圧化学社製NPシリーズ、日本ポリウレタン社製コロネート等がある。
フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒド等のアルデヒドとを反応させて得られ、合成条件によってノボラック型とレゾール型とに大別される。酸性触媒下で生成するノボラック型はヘキサメチレンテトラミン等の架橋剤とともに加熱することで硬化し、塩基性触媒下で生成するレゾール型はそれ単独で加熱または酸触媒存在下で硬化する。本発明では、どちらを用いてもよい。合成・硬化条件は適宜決めればよい。
このようなフェノール樹脂は市販されており、例えば、住友ベークライト社製スミコン、日立化成製スタンドライト、東芝ケミカル社製テコライト等がある。
シリコーン樹脂は、シロキサン結合の繰り返しからなり、主にオルガノハロシランの加水分解や重縮合から得られるシリコーン樹脂、また、アルキッド変性、ポリエステル変性、アクリル変性、エポキシ変性、フェノール変性、ウレタン変性、メラミン変性等の各変性シリコーン樹脂、線状のポリジメチルシロキサンやその共重合体を有機過酸化物等で架橋したシリコーンゴム、室温硬化(RTV)可能な縮合および付加型のシリコーンゴム等がある。
このようなシリコーン樹脂は市販されており、例えば、信越化学製、東レダウコーニング製、東芝シリコーン製の各種シリコーンゴム、シリコーンレジン等がある。
用いる熱硬化製樹脂は、所望の性能、用途に応じて適宜選択することができるが、中でも、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。また、2種以上を用いて相互に反応させた重合物であってもよい。
熱硬化性高分子マトリックスと熱可塑性高分子マトリックスの重量比は、1:4〜9:1、特に1:3〜8:1であることが好ましい。熱可塑性高分子マトリックスがこれより多いと、初期抵抗の安定性が低下する傾向がある。熱可塑性高分子マトリックスがこれより少ないと、高温高湿下での安定性が悪くなる傾向がある。
高分子マトリックスは上記のような熱可塑性樹脂(架橋していてもよい)、熱硬化性樹脂で構成されることが好ましいが、場合によってはエラストマーを含んでいてもよい。
本発明に用いる低分子有機化合物は、分子量が2000程度まで、好ましくは1000程度まで、さらに好ましくは200〜800の結晶性物質であれば特に制限はないが、常温(25℃程度の温度)で固体であるものが好ましい。
低分子有機化合物としては、ワックス(具体的には、パラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックスのような天然ワックス等)、油脂(具体的には、脂肪または固体脂と称されるもの)などがある。ワックスや油脂の成分は、炭化水素(具体的には、炭素数22以上のアルカン系の直鎖炭化水素等)、脂肪酸(具体的には、炭素数12以上のアルカン系の直鎖炭化水素の脂肪酸等)、脂肪酸エステル(具体的には、炭素数20以上の飽和脂肪酸とメチルアルコール等の低級アルコールとから得られる飽和脂肪酸のメチルエステル等)、脂肪酸アミド(具体的には、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド等)、脂肪族アミン(具体的には、炭素数16以上の脂肪族第1アミン)、高級アルコール(具体的には、炭素数16以上のn−アルキルアルコール)、塩化パラフィンなどであるが、これら自体を単独で、もしくは併用して低分子有機化合物として用いることができる。低分子有機化合物は、各成分の分散を良好にするために、高分子マトリックスの極性を考慮して適宜選択すればよい。低分子有機化合物としては石油系ワックスが好ましい。
これらの低分子有機化合物は、市販されており、市販品をそのまま用いることができる。
本発明では、動作温度が好ましくは200℃以下、さらに好ましくは100℃以下であるサーミスタを目的としているため、低分子有機化合物としては、融点mpが40〜200℃、さらに好ましくは40〜100℃であるものを用いることが好ましい。このようなものとしては、パラフィンワックス(例えば、テトラコサンC24H50;mp49〜52℃、ヘキサトリアコンタンC36H74;mp73℃、商品名HNP−10(日本精蝋社製);mp75℃、HNP−3(日本精蝋
社製);mp66℃など)、マイクロクリスタリンワックス(例えば、商品名Hi−Mic−1080(日本精蝋社製);mp83℃、Hi−Mic−1045(日本精蝋社製);mp70℃、Hi−Mic2045(日本精蝋社製);mp64℃、Hi−Mic3090(日本精蝋社製);mp89℃、セラッタ104(日本石油精製社製);mp96℃、155マイクロワックス(日本石油精製社製);mp70℃など)、脂肪酸(例えば、ベヘン酸(日本精化製);mp81℃、ステアリン酸(日本精化製);mp72℃、パルミチン酸(日本精化製);mp64℃など)、脂肪酸エステル(例えば、アラキン酸メチルエステル(東京化成製);mp48℃など)、脂肪酸アミド(例えば、オレイン酸アミド(日本精化製);mp76℃)などがある。また、ポリエチレンワックス(例えば商品名三井ハイワックス110(三井石油化学工業社製);mp100℃)、ステアリン酸アミド(mp109℃)、ベヘン酸アミド(mp111℃)、N−N’−エチレンビスラウリン酸アミド(mp157℃)、N−N’−ジオレイルアジピン酸アミド(mp119℃)、N−N’−ヘキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド(mp140℃)などもある。また、パラフィンワックスに樹脂類を配合した配合ワックスやこの配合ワックスにマイクロクリスタリンワックスを混合したものであって融点を40〜200℃にしたものも好ましく用いることができる。
低分子有機化合物は、動作温度等によって1種あるいは2種以上を選択して用いることができる。
低分子有機化合物の重量は、高分子マトリックス(硬化剤等も含む)の合計重量の0.2〜4倍、特に0.2〜2.5倍であることが好ましい。この混合比が小さくなって低分子有機化合物の量が少なくなると、抵抗変化率が十分得られにくくなってくる。反対に混合比が大きくなって低分子有機化合物の量が多くなると、低分子化合物が溶融する際に素体が大きく変形する他、導電性粒子との混合が困難になってくる。
本発明の有機質正特性サーミスタは、示差走査熱量測定法(DSC)で、用いた熱可塑性高分子マトリックスそれぞれの融点付近と低分子有機化合物の融点付近とに吸熱ピークが見られる。このことにより、高融点熱可塑性高分子マトリックスと低融点熱可塑性高分子マトリックスと低分子有機化合物とが、または、熱硬化性高分子マトリックスと熱可塑性高分子マトリックスと低分子有機化合物とが独立に分散して存在する海島構造をしていると考えられる。
本発明に用いるスパイク状の突起を有する導電性粒子は、1個、1個が鋭利な突起をもつ一次粒子から形成されており、粒径の1/3〜1/50の高さの円錘状のスパイク状の突起が1個の粒子に複数(通常10〜500個)存在するものである。その材質は金属、特にNi等が好ましい。このような導電性粒子は、1個、1個が個別に存在する粉体であってもよいが、一次粒子が10〜1000個程度鎖状に連なり二次粒子を形成していることが好ましい。鎖状のものには、一部一次粒子が存在してもよい。前者の例としては、スパイク状の突起をもつ球状のニッケルパウダがあり、商品名INCO Type 123ニッケルパウダ(インコ社製)として市販されており、その平均粒径は3〜7μm 程度、見かけの密度は1.8〜2.7g/cm3程度、比表面積は0.34〜0.44m2/g程度である。
また、好ましく用いられる後者の例としては、フィラメント状ニッケルパウダがあり、商品名INCO Type 210、255、270、287ニッケルパウダ(インコ社製)として市販されており、このうちINCO Type 255、287が好ましい。そして、その一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.1μm 以上、より好ましくは0.5以上4.0μm以下程度である。これらのうち、一次粒子の平均粒径は1.0以上4.0μm以下が最も好ましく、これに平均粒径0.1μm 以上1.0μm未満のものを50重量%以下混合してもよい。また、見かけの密度は0.3〜1.0g/cm3程度、比表面積は0.4〜2.5m2/g程度である。
なお、この場合の平均粒径はフィッシュー・サブシーブ法で測定したものである。
このような導電性粒子については、特開平5−47503号公報、米国特許第5378407号明細書に記載されている。
また、スパイク状の突起を有する導電性粒子の他に、補助的に導電性を付与するための導電性粒子として、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、金属被覆カーボンブラック、グラファイト化カーボンブラック、金属被覆炭素繊維等の炭素系導電性粒子、球状、フレーク状、繊維状等の金属粒子、異種金属被覆金属(銀コートニッケル等)粒子、炭化タングステン、窒化チタン、窒化ジルコニウム、炭化チタン、ホウ化チタン、ケイ化モリブデン等のセラミック系導電性粒子、また、特開平8−31554号、同9−27383号公報に記載されている導電性チタン酸カリウムウィスカー等を添加してもよい。このような導電性粒子は、スパイク状の突起を有する導電性粒子の25重量%以下とすることが好ましい。
導電性粒子の重量は、高分子マトリックスと低分子有機化合物の合計重量(硬化剤等を含む有機成分の合計重量)の1.5〜5倍であることが好ましい。この混合比が小さくなって導電性粒子の量が少なくなると、非動作時の室温抵抗を十分低くすることができなくなってくる。反対に導電性粒子の量が多くなると、大きな抵抗変化率が得られにくくなり、また、均一な混合が困難になって安定した特性が得られにくくなってくる。
次に、本発明の有機質正特性サーミスタの製造方法について説明する。
熱可塑性高分子マトリックスと低分子有機化合物と導電性粒子との混練は公知の方法により行えばよく、最も融点の高い熱可塑性高分子マトリックスの融点以上の温度、好ましくは融点より5〜40℃高い温度で、ミルやロール等により5〜90分間程度混練すればよい。また、あらかじめ熱可塑性高分子と低分子有機化合物とを溶融混合または溶媒中で溶解し混合してもよい。溶液法で熱可塑性高分子マトリックスと低分子有機化合物と導電性粒子とを混合する場合、熱可塑性高分子マトリックスおよび低分子有機化合物の1種以上が溶解する溶媒を用い、残りの熱可塑性高分子マトリックスおよび低分子有機化合物と導電性粒子とをこの溶液中に分散させればよい。
混練物は、所定の厚さのシート形状にプレス成型する。成型は、注入法、押し出し法等で行えばよい。成型後に、必要に応じて架橋処理を施してもよい。架橋方法は、放射線架橋、有機過酸化物による化学架橋、シラン系カップリング剤をグラフト化しシラノール基を縮合反応する水架橋等があるが、水架橋を行うことが好ましい。最後に、Cu、Ni等の金属電極を熱圧着したり、導電性ペースト等を塗布してサーミスタ素子とする。また、プレス成型と電極形成とを同時に行ってもよい。
本発明では、熱可塑性高分子マトリックスと低分子有機化合物と導電性粒子との混合物を、ビニル基または(メタ)アクリロイル基と、アルコキシ基とを有するシラン系カップリング剤で架橋処理することが好ましい。これにより、保存時、繰り返し動作時の特性安定性が著しく向上する。
高分子マトリックスと低分子有機化合物とを架橋構造にすることにより、高分子マトリックスで形状を保持し、動作時に溶融−凝固を繰り返す低分子有機化合物の凝集、偏析を抑制し、有機質正特性サーミスタの特性安定性が向上すると考えられる。また、カップリング剤は、上記の有機マトリックスの架橋だけではなく、有機−無機材料の間に化学結合を形成し、その界面の改質に大きな効果を示すと考えられている。高分子マトリックス、低分子有機化合物および導電性粒子の混合物をシラン系カップリング剤で処理することにより、高分子マトリックス−導電性粒子の界面、低分子有機化合物−導電性粒子の界面、高分子マトリックス−金属電極の界面、低分子有機化合物−金属電極の界面、低融点高分子マトリックス−高融点高分子マトリックスの界面を強固にし、さらに特性の安定性向上に寄与していると考えられる。
本発明では、カップリング剤は、炭素の二重結合(C=C)を有する基を介して高分子マトリックスおよび低分子有機化合物にグラフト化され、その後、水の存在下で脱アルコール、脱水縮合により架橋される。その反応式を下記に示す。
シラン系カップリング剤は、脱アルコールおよび脱水により縮合可能であり、無機酸化物と化学結合可能なアルコキシ基と、有機材料と親和性をもつか、化学結合するビニル基または(メタ)アクリロイル基とを分子中に有する。シラン系カップリング剤としては、C=C結合含有トリアルコキシシランが好ましい。
アルコキシ基は炭素数が少ない方が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。C=C結合を含有する基は、ビニル基または(メタ)アクリロイル基であり、ビニル基が好ましい。これらの基は直接Siに結合していても、炭素数1〜3の炭素鎖を介してSiに結合していてもよい。
シラン系カップリング剤は、常温で液体であるものが好ましい。
シラン系カップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましい。
カップリング処理は、熱可塑性高分子マトリックス、低分子有機化合物、導電性粒子の混練物中に、熱可塑性高分子と低分子有機化合物の合計重量の0.1〜5重量%のシラン系カップリング剤を滴下し、よく混合した後、水架橋する。カップリング剤がこれより少量の場合は架橋処理の効果が小さくなり、多量の場合はその効果に変化が見られなくなってくる。ビニル基をもつシラン系カップリング剤を用いる場合は、カップリング剤の5〜20重量%の有機過酸化物、例えば、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、ジクミルパーオキサイド、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等をともに混入させ、ビニル基を介して有機物、つまり熱可塑性高分子と低分子有機化合物とにグラフト化を行う。シラン系カップリング剤の添加は、熱可塑性高分子と低分子有機化合物と導電性粒子とが十分均一に混練された後に行う。
そして、混練物をプレス成型した後、水の存在下で架橋処理を行う。具体的には、触媒としてジブチルすずジラウレート、ジオクチルすずジラウレート、酢酸すず、オクト酸すず、オクト酸亜鉛などの金属カルボキシレートを用い、温水中で6〜8時間成形体を浸積して行う。また、触媒をサーミスタ素体に混練し、高温高湿度下において架橋を行うこともできる。触媒としては、中でもジブチルすずジラウレートを用いることが好ましい。架橋温度は、繰り返し動作等の特性の安定性を高めるために、低分子有機化合物の融点以下で行うことが好ましい。架橋処理した後、成形体を乾燥し、Cu、Ni等の金属電極を熱圧着したり、導電性ペースト等を塗布すればサーミスタ素子が得られる。
熱硬化性樹脂を用いる場合、まず、所定量の硬化前の熱硬化性樹脂、硬化剤等、熱可塑性樹脂、低分子有機化合物およびスパイク状の突起を有する導電性粒子を混合、分散して塗料状とする。混合・分散は既知の方法によればよく、各種撹拌機、分散機、ミル、塗料用ロール機等が用いられる。混合中に気泡が混入した場合は真空脱泡を行う。粘度の調製のために、芳香族炭化水素、ケトン類、アルコール類等各種溶媒を用いてもよい。これをニッケルや銅等の金属箔電極間に流し込む、または、スクリーン印刷等の塗布によりシート状にしたものを熱硬化性樹脂の所定の熱処理条件で硬化する。このとき、比較的低温で予備硬化を行った後、高温にして本硬化を行う方法もある。また、混合物のみをシート状に硬化したものに導電性ペースト等を塗布して電極としてもよい。得られたシート成形体は所望の形状に打ち抜いてサーミスタ素子とする。
この場合も、必要に応じて架橋処理を施してもよい。
また、本発明の有機質サーミスタには、本発明の特性を損なうものでなければ各種添加剤を混入してもよい。例えば、高分子マトリックス、低分子有機化合物の熱劣化を防止するために酸化防止剤を混入することもでき、フェノール類、有機イオウ類、フォスファイト類(有機リン系)などが用いられる。
また、良熱導電性添加物として、特開昭57−12061号公報に記載されている窒化ケイ素、シリカ、アルミナ、粘土(雲母、タルク等)、特公平7−77161号公報に記載されているシリコン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ベリリア、セレン、特開平5−217711号公報に記載されている無機窒化物、酸化マグネシウム等を添加してもよい。
耐久性向上のために、特開平5−226112号公報に記載されている酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、シリカ、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化クロム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化鉛、特開平6−68963号公報に記載されている高比誘電率の無機固体、具体的には、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム等を添加してもよい。
耐電圧改善のために、特開平4−74383号公報に記載されている炭化ホウ素等を添加してもよい。
強度改善のために、特開平5−74603号公報に記載されている水和チタン酸アルカリ、特開平8−17563号公報に記載されている酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、シリカ等を添加してもよい。
結晶核剤として、特公昭59−10553号公報に記載されているハロゲン化アルカリ、メラミン樹脂、特開平6−76511号公報に記載されている安息香酸、ジベンジリデンソルビトール、安息香酸金属塩、特開平7−6864号公報に記載されているタルク、ゼオライト、ジベンジリデンソルビトール、特開平7−263127号公報に記載されているソルビトール誘導体(ゲル化剤)、アスファルト、さらには、リン酸ビス(4−t−ブチルフェニル)ナトリウム等を添加してもよい。
ア−ク調節制御剤としては、特公平4−28744号公報に記載されているアルミナ、マグネシア水和物、特開昭61−250058号公報に記載されている金属水和物、炭化ケイ素等を添加してもよい。
金属害防止剤として、特開平7−6864号公報に記載されているイルガノックスMD1024(チバガイギー製)等を添加してもよい。
また、難燃剤として、特開昭61−239581号公報に記載されている三酸化二アンチモン、水酸化アルミニウム、特開平5−74603号公報に記載されている水酸化マグネシウム、さらには、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のハロゲンを含有する有機化合物(重合体を含む)、リン酸アンモニウム等のリン系化合物等を添加してもよい。
これら以外にも、硫化亜鉛、塩基性炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミノシリケート粘土(雲母、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト等)、ガラス粉、ガラスフレーク、ガラス繊維、硫酸カルシウム等を添加してもよい。
これらの添加剤は、高分子マトリックス、低分子有機化合物および導電性粒子の合計重量の25重量%以下であることが好ましい。
本発明の有機質正特性サーミスタは、非動作時における初期抵抗が低く、その室温比抵抗値は10-3〜10-1Ω・cm程度であり、動作時における抵抗の立ち上がりが急峻であり、非動作時から動作時にかけての抵抗変化率が6桁以上と大きい。また、80℃80%RHで500時間(東京では20年以上、那覇では10年以上の湿度寿命)以上経過しても、断続負荷試験によってもその特性の劣化はわずかである。
以下、本発明の実施例を比較例とともに示し、本発明を具体的に説明する。
<実施例1>
高融点熱可塑性高分子マトリックスとして高密度ポリエチレン(日本ポリケム製、商品名HY540;MFR1.0g/10min、融点135℃)、低融点熱可塑性高分子マトリックスとして低密度ポリエチレン(日本ポリケム製、商品名LC500;MFR4.0g/10min、融点106℃)、低分子有機化合物としてパラフィンワックス(日本精蝋社製、商品名HNP−10、融点75℃)、導電性粒子としてフィラメント状ニッケルパウダ(INCO社製、商品名Type255ニッケルパウダ)を用いた。導電性粒子の平均粒径は2.2〜2.8μm 、見かけの密度は0.5〜0.65g/cm3、比表面積は0.68m2/gである。
高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの重量比を4:1とし、その合計重量の4倍重量のニッケルパウダを加え、この混合物をミル中、150℃で5分間混練した。そして、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンの合計重量と等重量のパラフィンワックスと、ワックスの4倍重量のニッケルパウダとをさらに加えて混練した。そして、シラン系カップリング剤として有機物の合計重量の0.5重量%のビニルトリエトキシシラン(信越化学工業製、製品名KBE1003)と、有機過酸化物としてシラン系カップリング剤の20重量%の2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン(化薬アクゾ製、製品名トリゴノックスD−T50)とを混練物中に滴下し、さらに60分間混練した。
この混練物を150℃で厚さ1.1mmのシート状に熱プレス機で成形した。そして、このシートをジブチルすずジラウレート(東京化成製)20重量%乳濁水液に浸積し、65℃で8時間架橋処理を行った。
この架橋処理したシートを真空乾燥後、両面を厚さ30μm のNi箔電極で挟み、熱プレス機を用いて150℃でシートにNi箔を圧着し、全体で厚さ1mmの成型品を得た。そして、これを直径1cmの円盤状に打ち抜き、サーミスタ素子を得た。このサーミスタ素子の断面図を図1に示す。図1に示されるように、サーミスタ素子はNi箔から形成された電極11間に、低分子有機化合物と融点の異なる2種の高分子マトリックスと導電性粒子とを含む混練成型シートであるサーミスタ素体12を挟み込んだものである。
この素子を恒温槽内で室温(25℃)から120℃まで2℃/minで加熱、冷却し、所定の温度で、4端子法で抵抗値を測定して温度−抵抗曲線を得た。この結果を図2に示す。
室温抵抗値は1.7×10-3Ω(1.3×10-2Ω・cm)で、パラフィンワックスの融点付近で抵抗が急激に増加し、抵抗変化率は11桁以上であった。抵抗が増加した後、さらに120℃まで加熱を続けても、抵抗の減少(NTC現象)は見られなかった。また、冷却時の温度−抵抗曲線は、加熱時のものと大きく変化することなく、ヒステリシスは十分小さいものであった。
この素子を80℃80%RHに設定した恒温恒湿槽に放置して加速試験を行った。500時間放置後の素子の温度−抵抗曲線をを図3に示す。室温抵抗値は1.8×10-3Ω(1.4×10-2Ω・cm)でほとんど変化せず、抵抗変化率も11桁以上であり、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、加熱時と冷却時のプロファイルの変化が小さく、ヒステリシスは十分小さいことがわかる。
80℃80%RH、500時間の加速試験は、絶対湿度換算で、東京では20年以上、那覇では10年以上の湿度寿命に相当する。絶対湿度換算について、80℃80%RH条件下での寿命から25℃60%RH条件下での寿命への計算を例にして説明する。80℃80%RHの絶対湿度は232.5g/m3、25℃60%RHの絶対湿度は13.8g/m3である。加速定数は2として、次の計算式で求める。
(232.5/13.8)2≒283.85
この場合、80℃80%RH条件下での寿命が500hrであれば、25℃60%RH条件下での寿命は
500hr×283.85=141925hr≒5914日≒16.2年
となる。東京、那覇の湿度は、月々の平均相対湿度を絶対湿度換算し、その合計を年間の湿度とした。
また、この素子に10A−5VDCの電流を印加し、ジュール熱で10秒間動作させ(on状態)、30秒間電流を切る(off状態)ことによって断続負荷試験を行った。500回後の素子の温度−抵抗曲線をを図4に示す。室温抵抗値は3.9×10-3Ω(3.1×10-2Ω・cm)でほとんど変化せず、抵抗変化率も11桁以上であり、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、加熱時と冷却時のプロファイルの変化が小さく、ヒステリシスは十分小さいものであった。
<実施例2>
低融点熱可塑性高分子マトリックスとしてエチレン−酢酸ビニルコポリマー(日本ポリケム製、商品名LV241;酢酸ビニル含有量8.0wt%、MFR1.5g/10min、融点99℃)を用い、高密度ポリエチレン:エチレン−酢酸ビニルコポリマー=7:3(重量比)とした他は実施例1と同様にしてサーミスタ素子を得た。そして、実施例1と同様にして温度−抵抗曲線を得、加速試験、断続負荷試験を行った。
この素子の初期の室温抵抗値は5.0×10-3Ω(3.9×10-2Ω・cm)で、パラフィンワックスの融点付近で抵抗が急激に増加し、抵抗変化率は11桁以上であった。抵抗が増加した後、さらに120℃まで加熱を続けても、抵抗の減少(NTC現象)は見られなかった。また、冷却時の温度−抵抗曲線は、加熱時のものと大きく変化することなく、ヒステリシスは十分小さいものであった。
80℃80%RH加速試験では、500時間後の室温抵抗値は6.5×10-3Ω(5.1×10-2Ω・cm)でほとんど変化せず、抵抗変化率も11桁以上であり、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、ヒステリシスは十分小さいものであった。
断続負荷試験では、500回後の室温抵抗値は7.2×10-3Ω(5.7×10-2Ω・cm)でほとんど変化せず、抵抗変化率も11桁以上であり、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、ヒステリシスは十分小さいものであった。
<実施例3>
低融点熱可塑性高分子マトリックスとしてアイオノマー(三井・デュポンポリケミカル社製、商品名ハイミラン1555;MFR10g/10min、融点96℃)を用いた他は実施例2と同様にしてサーミスタ素子を得た。そして、実施例1と同様にして温度−抵抗曲線を得、加速試験、断続負荷試験を行った。
この素子の初期の室温抵抗値は5.5×10-3Ω(4.3×10-2Ω・cm)で、パラフィンワックスの融点付近で抵抗が急激に増加し、抵抗変化率は11桁以上であった。抵抗が増加した後、さらに120℃まで加熱を続けても、抵抗の減少(NTC現象)は見られなかった。また、冷却時の温度−抵抗曲線は、加熱時のものと大きく変化することなく、ヒステリシスは十分小さいものであった。
80℃80%RH加速試験では、500時間後の室温抵抗値は7.0×10-3Ω(5.5×10-2Ω・cm)でほとんど変化せず、抵抗変化率も11桁以上であり、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、ヒステリシスは十分小さいものであった。
断続負荷試験では、500回後の室温抵抗値は8.4×10-3Ω(6.6×10-2Ω・cm)でほとんど変化せず、抵抗変化率も11桁以上であり、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、ヒステリシスは十分小さいものであった。
<実施例4>
低分子有機化合物としてマイクロクリスタリンワックス(日本精蝋社製、Hi−Mic−1080;融点83℃)を用い、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンの合計重量の1.5倍重量加えた他は実施例1と同様にしてサーミスタ素子を得た。そして、実施例1と同様にして温度−抵抗曲線を得、加速試験、断続負荷試験を行った。
この素子の初期の室温抵抗値は3.2×10-3Ω(2.5×10-2Ω・cm)で、マイクロクリスタリンワックスの融点付近で抵抗が急激に増加し、抵抗変化率は8.0桁であった。抵抗が増加した後、さらに120℃まで加熱を続けても、抵抗の減少(NTC現象)は見られなかった。また、冷却時の温度−抵抗曲線は、加熱時のものと大きく変化することなく、ヒステリシスは十分小さいものであった。
80℃80%RH加速試験では、500時間後の室温抵抗値は5.5×10-3Ω(4.3×10-2Ω・cm)、抵抗変化率は7.5桁でほとんど変化せず、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、ヒステリシスは十分小さいものであった。
断続負荷試験では、500回後の室温抵抗値は6.2×10-3Ω(4.9×10-2Ω・cm)、抵抗変化率は7.6桁でほとんど変化せず、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、ヒステリシスは十分小さいものであった。
<比較例1>
高密度ポリエチレンと、高密度ポリエチレンの1.5倍重量のパラフィンワックスと、高密度ポリエチレンとパラフィンワックスの合計重量の4倍重量のニッケルパウダとを混練し、実施例1と同様にしてサーミスタ素子を得た。そして、実施例1と同様にして温度−抵抗曲線を得、加速試験、断続負荷試験を行った。
この素子の温度−抵抗曲線を図5に示す。初期の室温抵抗値は4.6×10-4Ω(3.6×10-3Ω・cm)で、パラフィンワックスの融点付近で抵抗が急激に増加し、抵抗変化率は約11桁であった。抵抗が増加した後、さらに120℃まで加熱を続けたところ、大きく抵抗が減少し、NTC現象が見られた。また、冷却時には、加熱時の動作温度より約40℃高い温度から抵抗の減少が起こり、大きなヒステリシスが見られた。
80℃80%RH加速試験では、室温抵抗の増加は小さかったが、500時間後の抵抗変化率は約3桁に減少し、大幅な特性劣化が見られた。
断続負荷試験では、室温抵抗の増加は小さかったが、500回後の抵抗変化率は約8桁に減少し、大幅な特性劣化が見られた。
<比較例2>
高密度ポリエチレンの代わりに低密度ポリエチレンを用いた他は比較例1と同様にしてサーミスタ素子を得た。そして、実施例1と同様にして温度−抵抗曲線を得、加速試験、断続負荷試験を行った。
この素子の初期の室温抵抗値は3.0×10-3Ω(2.4×10-2Ω・cm)で、パラフィンワックスの融点付近で抵抗が急激に増加し、抵抗変化率は11桁以上であった。
80℃80%RH加速試験では、100時間後の室温抵抗値は7.0×10-1Ω(5.5Ω・cm)に増加し、大幅な特性劣化が見られた。
実施例1〜4、比較例1、2の素子の初期、加速試験後、断続負荷試験後の室温抵抗値、抵抗変化率、初期のNTC現象およびヒステリシスの有無を表1にまとめる。NTC現象およびヒステリシスは、
○:NTC現象無し、ヒステリシス小さい、
×:NTC現象有り、ヒステリシス大きい、
で評価した。
<実施例5>
熱硬化性高分子マトリックスとしてビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製、商品名エピコート801)、変性アミン系硬化剤(油化シェルエポキシ社製、商品名エポメートB002)、熱可塑性高分子マトリックスとして低密度ポリエチレン(日本ポリケム製、商品名LC500;MFR4.0g/10min、融点106℃)、低分子有機化合物としてパラフィンワックス(日本精蝋社製、商品名HNP−10、融点75℃)、導電性粒子としてフィラメント状ニッケルパウダ(INCO社製、商品名Type255ニッケルパウダ)を用いた。導電性粒子の平均粒径は2.2〜2.8μm 、見かけの密度は0.5〜0.65g/cm3、比表面積は0.68m2/gである。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂20g 、変性アミン系硬化剤10g 、低密度ポリエチレン8g 、パラフィンワックス38g 、ニッケルパウダ300g 、トルエン30mlを遠心式分散機で約10分混合した。そして、得られた塗料状の混合物を厚さ30μm のNi箔の電極の片面に塗布した後、もう一枚のNi箔電極で挟み込み、真鍮板に挟んでスペーサーを用いて全体で厚さ1mmとし、熱プレス機で加圧した状態で80℃で3時間加熱硬化させた。この電極が熱圧着されたシート状硬化物を直径1cmの円盤状に打ち抜き、有機質正特性サーミスタ素子を得た。そして、実施例1と同様にして温度−抵抗曲線を得、加速試験、断続負荷試験を行った。
この素子の初期の室温抵抗値は8.2×10-3Ω(6.9×10-2Ω・cm)で、パラフィンワックスの融点付近で抵抗が急激に増加し、抵抗変化率は8.2桁であった。抵抗が増加した後、さらに120℃まで加熱を続けても、抵抗の減少(NTC現象)は見られなかった。また、冷却時の温度−抵抗曲線は、加熱時のものと大きく変化することなく、ヒステリシスは十分小さいものであった。
80℃80%RH加速試験では、500時間後の室温抵抗値は8.8×10-3Ω(6.9×10-2Ω・cm)でほとんど変化せず、抵抗変化率も7桁以上であり、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象はほとんど見られず、ヒステリシスは十分小さいものであった。
断続負荷試験では、500回後の室温抵抗値は7.8×10-3Ω(6.1×10-2Ω・cm)でほとんど変化せず、抵抗変化率も7桁以上であり、十分なPTC特性が保たれていた。また、抵抗増加後のNTC現象は全く見られず、ヒステリシスは十分小さいものであった。
<実施例6>
実施例5において、熱硬化性高分子マトリックスとして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、変性アミン系硬化剤の代わりに、不飽和ポリエステル樹脂(日本触媒製、商品名G−110AL)30g 、有機過酸化物として過酸化ベンゾイル(化薬アクゾ製、商品名カドックスB−75W)0.3g を用い、80℃で30分間加熱硬化させた他は、実施例5と同様にしてサーミスタ素子を作製し、同様に評価を行ったところ、実施例5のサーミスタ素子と同等の結果が得られた。
<実施例7>
実施例5において、熱硬化性高分子マトリックスとして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、変性アミン系硬化剤の代わりに、ポリアミノビスマレイミドプレポリマー(チバガイギー製、商品名ケルイミドB601)20g 、ジメチルホルムアミド10g を用い、150℃で1時間、180℃で3時間硬化させた他は、実施例5と同様にしてサーミスタ素子を作製し、同様に評価を行ったところ、実施例5のサーミスタ素子と同等の結果が得られた。
<実施例8>
実施例5において、熱硬化性高分子マトリックスとして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、変性アミン系硬化剤の代わりに、ポリウレタン(日本ポリウレタン工業製、商品名コロネート)30g を用い、100℃で1時間硬化させた他は、実施例5と同様にしてサーミスタ素子を作製し、同様に評価を行ったところ、実施例5のサーミスタ素子と同等の結果が得られた。
<実施例9>
実施例5において、熱硬化性高分子マトリックスとして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、変性アミン系硬化剤の代わりに、フェノール樹脂(住友ベークライト製、商品名スミコンPM)30g を用い、120℃で3時間硬化させた他は、実施例5と同様にしてサーミスタ素子を作製し、同様に評価を行ったところ、実施例5のサーミスタ素子と同等の結果が得られた。
<実施例10>
実施例5において、熱硬化性高分子マトリックスとして、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、変性アミン系硬化剤の代わりに、シリコーンゴム(東芝シリコーン製、商品名TSE3221)30g を用い、100℃で1時間硬化させた他は、実施例5と同様にしてサーミスタ素子を作製し、同様に評価を行ったところ、実施例5のサーミスタ素子と同等の結果が得られた。
<実施例11>
実施例5において、熱可塑性高分子マトリックスとして、低密度ポリエチレンの代わりに、エチレン−酢酸ビニルコポリマー(日本ポリケム製、商品名LV241;酢酸ビニル含有量8.0wt%、MFR1.5g/10min、融点99℃)8g を用いた他は、実施例5と同様にしてサーミスタ素子を作製し、同様に評価を行ったところ、実施例5のサーミスタ素子と同様の結果が得られた。
<実施例12>
実施例5において、熱可塑性高分子マトリックスとして、低密度ポリエチレンの代わりに、アイオノマー(三井・デュポンポリケミカル社製、商品名ハイミラン1555;MFR10g/10min、融点96℃)8g を用いた他は、実施例5と同様にしてサーミスタ素子を作製し、同様に評価を行ったところ、実施例5のサーミスタ素子と同様の結果が得られた。