JP2005213233A - 肝臓ステアロイル‐CoA不飽和化酵素1合成抑制剤 - Google Patents

肝臓ステアロイル‐CoA不飽和化酵素1合成抑制剤 Download PDF

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啓子 阿部
Ichiro Matsumoto
一朗 松本
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伸彦 橘
Kensuke Fukui
健介 福井
Seiji Takamatsu
清治 高松
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Abstract

【課題】医薬品のように安全で副作用の懸念のない肝臓ステアロイル−CoA不飽和化酵素1合成抑制剤及び機能性食品を提供する。
【解決手段】肝臓ステアロイル−CoA不飽和化酵素1合成抑制剤として大豆蛋白を有効成分として含有させる。大豆蛋白としては分離大豆蛋白、7S蛋白、11S蛋白及び大豆蛋白加水分解物などを使用できる。
【選択図】なし。

Description

本発明は肝臓内のステアロイル‐CoA不飽和化酵素1合成抑制効果を有する大豆蛋白の用途及びこれを有効成分とする肝臓ステアロイル‐CoA不飽和化酵素1(以下、「SCD-1」と称する。)合成抑制剤に関する。
植物性蛋白質である大豆蛋白は、血中コレステロール濃度を低下させる報告がなされてから現在まで、脂質代謝を始めとして他の蛋白源とは異なる様々な生理状態に与える影響について数多くの研究がされており(非特許文献1〜3)、最近ではこれらの効果を用途とする健康食品が多く市販されている。
しかしながら、これまでの研究は、脂質代謝に関連するHMG-CoA還元酵素およびLDLレセプターなどを選択して研究が行われてきており、総合的な生体機能を解析した報告は非常に少ない。
ところで最近、飽和脂肪酸アシルCoAからオレイン酸などのモノ不飽和脂肪酸合成に関わる酵素の特異な働きが注目されている。肥満は、生活習慣病のひとつとして、また高血圧や心疾患に疾病の危険率を増加させることに関連あると言われている。レプチンは脂肪組織で産生されるホルモンで、栄養情報を伝達する物質として知られ、体重をコントロールする働きを持つ(非特許文献4)。このレプチンが関与するメカニズムを解析するために、Cohenらによって、レプチン欠損マウス(ob/obマウス)を用いて肝臓における遺伝子解析を行ったところ、レプチン未処理ではモノ不飽和脂肪酸合成に関連するSCD-1のmRNAおよび活性は高かったが、レプチンを作用させると、SCD-1のmRNAおよび活性は減少したことが報告された(非特許文献5)。彼らは、ob/obマウス(遺伝的肥満マウス)でSCD-1に変異(欠損)があるマウス(abj/ abj; ob/obマウス)とob/obマウスを比較すると、abj/ abj; ob/obマウスでは体重が有意に減少し、またエネルギー消費を顕著に増大することを示している。さらに、肝臓の中性脂肪蓄積と超低密度リポタンパク質を減少させることを報告している。以上のことから、SCD-1の抑制が体重増加抑制と深い関連があることが示されている。
Potter, Overview of proposed mechanisms for the hypocholesterolemic effect of soy. J. Nutr., 125, 606S-611S, 1995. Carroll,K.K., Hypercholesterolemia and atherosclerosis : effects of dietary protein. Federation Proc., 41, 2792-2796, 1982. James W.ら, Meta-analysis of the effects of soy protein intake on serum lipids. N. Engl. J. Med., 333, 276-282, 1995. J. M. Friedman, Obesity in the new millennium. Nature, 404, 632-634, 2000. Paul Cohenら、Role for Stearoyl-CoA Desaturase-1 in Leptin-Mediated Weight Loss. Science, 297, 240-243, 2002.
しかし、医薬品のような副作用の懸念のない食品において、いかなるものが有効にSCD-1を抑制できるかについてはよく知られていなかった。すなわち、本発明は安全で副作用の少ないSCD-1合成抑制剤を提供することを目的とする。
本発明者らは大豆蛋白の摂食が生体、特に肝臓における種々の遺伝子発現に与える影響についてDNAチップを用いて解析し、大豆蛋白のもつ多様な生理的機能の検索を行ったところ、体重調節に関連するステアロイル-CoA不飽和化酵素1(stearoyl-CoA desaturase-1(Unigene No. Rn.1023))の遺伝子発現が抑制されることを見出した。
すなわち前記課題を解決する本発明は、大豆蛋白を有効成分とする肝臓ステアロイル-CoA不飽和化酵素1合成抑制剤である。また、本発明は分離大豆蛋白、7S大豆蛋白、11S大豆蛋白及び大豆蛋白加水分解物からなる群のうち何れか1以上から選ばれる大豆蛋白を有効成分とする肝臓ステアロイル-CoA不飽和化酵素1合成抑制である。
本発明により、大豆蛋白にはSCD-1合成抑制効果があることが示され、安全で副作用の懸念のない大豆蛋白を有効成分とする該抑制剤を提供できる。またこれを利用した機能性食品を提供することができ、肥満の予防やダイエット等に役立つものである。
本発明のSCD-1合成抑制剤は、有効成分として大豆蛋白を利用することに特徴を有する。大豆蛋白を摂取することにより、肝臓におけるSCD-1の生合成を抑制し、体重の減少を促進されるものである。大豆蛋白は大豆から調製された蛋白質を含有する大豆蛋白素材を言い、大豆の産地、種類又は調製方法によっては特に限定されない。好ましくは乾燥固形分当たりの粗蛋白質含量が40重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上のものを用いることが適当である。大豆蛋白としては例えば分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白、豆乳(全脂・脱脂を問わない、粉末も可)、7S大豆蛋白、11S大豆蛋白や、大豆蛋白加水分解物、大豆ホエー等を単独あるいは併用して使用することができ、もちろんこれらを原料として加工した粒状大豆蛋白、繊維状大豆蛋白や、乳酸菌発酵させた発酵物(発酵豆乳等)なども包含される。これらの製造方法は公知の方法を用いればよく、特に限定されるものではないが、例えば以下のようにして調製することができる。
(分離大豆蛋白の製造例)
例えば分離大豆蛋白は、脱脂大豆を水抽出して得た脱脂豆乳にpH4.5になるまで塩酸を添加し、酸沈殿画分を遠心分離機により回収する。これを水に分散し、さらに水酸化ナトリウムを加えてpH7.0に中和して得た溶液を加熱殺菌し、噴霧乾燥等して調製することができる。得られた大豆蛋白は一般に乾燥固形分中粗蛋白質を85重量%以上含有する。
(大豆蛋白加水分解物)
例えば大豆蛋白加水分解物は、分離大豆蛋白を加水分解して所望の分子量に調整して得ることができる。加水分解方法は塩酸等による酸処理や、エンド型あるいはエキソ型のプロテアーゼによる処理等を使用することができる。
(濃縮大豆蛋白の製造例)
例えば濃縮大豆蛋白は、脱脂大豆を酸やアルコールにより洗浄してホエー画分を除去し、中和後に乾燥して調製することができる。得られた大豆蛋白は一般に乾燥固形分中60〜85重量%程度含有する。
(豆乳の製造例)
例えば豆乳は、全脂大豆又は脱脂大豆を必要により水洗浄(ブランチング)後、磨砕し、遠心分離機によりオカラを除去し、必要により粉末化して得ることができる。得られた大豆蛋白は一般に乾燥固形分中粗蛋白質として60〜85重量%程度含有する。
(7S大豆蛋白及び11S大豆蛋白の製造例)
7S大豆蛋白及び11S大豆蛋白は、例えば国際公開WO00/02051号公報に記載の方法により調製することができる。一態様としては、脱脂大豆を水抽出して脱脂豆乳を得、この脱脂豆乳を塩酸にてpH6.2に調整後、40℃になるように加温する。この溶液にフィターゼを加え30分間酵素反応を行ってフィチン酸を分解する。反応後、遠心分離機で可溶性画分及び不溶性画分を得る。可溶性画分については塩酸にてpH4.8に調整後、遠心分離してホエー画分を除去し、得られた沈殿カードを加水後中和し、加熱殺菌後噴霧乾燥して7S大豆蛋白を得ることができる。また不溶性画分については加水後中和し、加熱殺菌後噴霧乾燥して11S大豆蛋白を得ることができる。
本発明のSCD-1合成抑制剤は、大豆蛋白を薬学的に許容される他の成分又は賦形剤等と共に、シロップ剤、粒剤、丸剤、錠剤等の適当な機能剤の形態に常法により加工して製造することが可能である。得られたSCD-1合成抑制剤は、ヒト又は動物に経口又は経腸で摂取させることができ、有効摂取量は使用目的・使用対象により異なるが、ヒトの場合1日あたり蛋白質として2g〜100g程度を1回あるいは数回に分けて摂取すればよい。なお蛋白質の含有量の測定は、簡易的にはケルダール法を用いることができるが、大豆グロブリンを測定するELISA法によってより厳密に測定することが好ましい。本発明の大豆蛋白を有効成分とするSCD-1合成抑制剤は、大豆蛋白の肝臓におけるSCD-1の合成を抑制する作用により、肝臓トリグリセリド貯蔵量と超低密度リポタンパク質を減少させ、エネルギー代謝を上昇させることによる体重増加抑制効果、体重減少効果が期待できるため、肥満予防又はダイエットのための新規な薬剤として有効に使用することができる。
また食品に大豆蛋白を有効成分(関与する成分ともいう)として適量配合し、SCD-1合成抑制効果、さらには肥満の予防やダイエット等の生理作用を効果として表示(例えば食品の包装や当該食品の広告・パンフレット・POP等への表示)し、特定保健用食品等の機能性食品に加工することも可能である。食品としては、菓子類、パン類、米飯類、タブレット、清涼飲料、乳製品、豆乳製品(調製豆乳、豆乳飲料、発酵豆乳など)、デザートなど特に限定されることはない。かかる食品への大豆蛋白の配合量は上記大豆蛋白の有効摂取量を1日で摂取できるように当業者が適宜設定すればよい。
以下、この発明の実施例を示すが、本発明がこれらによってその技術範囲が限定される物ではない。
<実施例1>
AIN-93G組成(Reeves P.G.ら:J. Nutr., 123, 1939-1951, 1993.)に基づき、蛋白質源として、分離大豆蛋白(以下、「SPI」と記載する。「フジプロPR-F」(不二製油(株)製)又はカゼイン「ビタミンフリーカゼイン」(オリエンタル酵母(株)製、以下「カゼイン」と記載する。)を粗蛋白質重量換算で20重量%配合した試験食(表1)を以下の方法で動物に摂取させた。モデル動物は5週齢のS.D.系雄ラット(日本SLC(株)販)を12匹使用した。1週間の予備飼育後、群間の平均体重がほぼ同等になるようにSPI群とカゼイン群に群分け(1群あたり6匹)を行い、8週間の試験食飼育を行い、たん白質として約4.0g/day摂取した。その結果、8週間後の体重は、SPI群(体重456.2±15.4g)ではカゼイン群(体重421.6±8.7g)に比べて7.58%減少していた(平均値±標準誤差。n=6)。
(表1)
────────────────────────
配合 SPI群 カゼイン群
CP as is 86.2 89.1
────────────────────────
SPI 23.2 −
カゼイン − 22.4
シュクロース 10.00 10.00
βコーンスターチ 36.85 37.60
αコーンスターチ 13.20 13.20
大豆油 7.00 7.00
ビタミン混合* 1.00 1.00
ミネラル混合** 3.50 3.50
セルロース 5.00 5.00
重酒石酸コリン 0.25 0.25
────────────────────────
合計 100 100
────────────────────────
ビタミン混合*;AIN-93組成、ミネラル混合**;AIN-93G組成
〔血中脂質および肝脂質の分析〕
試験期間終了後、朝8:00より6時間絶食の後にネンブタール麻酔下で開腹し、腹部大動脈より採血した。血液はヘパリン処理後、3000rpmで15分間遠心分離し、得られた血漿は直ちに凍結して血液サンプルとした。肝臓は解剖後直ちに摘出し、各分析に供するまで−80℃で凍結保存した。
血液成分はグルコース、中性脂肪、総コレステロールについてドライケム5500(富士フィルム(株)製)により分析を行った。肝脂質はFolchらの方法(Folch J.L.M. et al:J. Biol. Chem., 226, 497-509, 1956.)により抽出し、中性脂肪はFletcher(Fletcher M.J.:Clinica. Chem. Acta., 22, 393-397, 1968.)の方法により測定した。各測定値は平均値±標準誤差(SEM)で示した。2群間の有意差検定は、student's t-testを行い、危険率5%以下を有意差とした。その結果、血中中性脂肪、総コレステロールは、SPI群でカゼイン群に比べて有意に減少した。肝臓重量比はSPI群はカゼイン群に比べて有意に減少しており、肝臓蓄積中性脂肪は、SPI群でカゼイン群に比べて低い値を示した。
(表2)血液分析結果(平均値±標準語差)
──────────────────────────────
カゼイン SPI
──────────────────────────────
n数 6 5
グルコース 256±18 255±8
中性脂肪(mg/dL) 187±21 104±15 *
総コレステロール(mg/dL) 122±9 67±3 *
──────────────────────────────
*;2群間の有意差検定は、student's t-testを行い、危険率5%以下を有意差とした。
(表3)肝脂質分析結果(平均値±標準誤差)
──────────────────────────────
カゼイン SPI
──────────────────────────────
n数 4 4
肝臓重量比(g/100g体重) 3.6±0.1 2.9±0.1 *
中性脂肪(mg/g肝臓) 46.8±8.1 37.7±3.3
──────────────────────────────
*;2群間の有意差検定は、student's t-testを行い、危険率5%以下を有意差とした。
〔DNAチップによる遺伝子発現の測定〕
肝臓のtRNAはtRNA抽出溶剤である「ISOGEN」((株)ニッポンジーン製)を用いて抽出したのち、Affymetrix社規定の方法に準拠してmRNAを調製し、DNAチップ「ラットゲノムU34アレイセット(A)」(Affymetrix社製)を用いて、「GeneChip R System」(Affymetrix社製測定機)で8740遺伝子の発現を測定した。SPI群、またはカゼイン群それぞれ3匹の各遺伝子発現レベルは、Affimetrix社解析ソフト「Microarray Suite 5.0」により測定・計算した。SPI群とカゼイン群で遺伝子発現に差がないβ-アクチンをコントロールとして標準化を行い、2群間の有意差検定はstudent's t-testを行い、危険率5%以下を有意差とした。
上記のように発現配列タグ(Expression Sequence Tag)を含む8740遺伝子の発現を網羅したDNAチップを解析手段として、SPIのもつ生理的効果をプロファイリングした。その結果、SPI群とカゼイン群の発現レベルを比較すると、2905遺伝子において両群ともに発現が見られた。この2905遺伝子について生物学的統計処理を行うことによって、115遺伝子の発現に有意差のある遺伝子を見出した。SPI群においてカゼイン群に比べて発現が有意に増加した遺伝子は61あり、逆にSPI群でカゼイン群に比べて発現が有意に減少した遺伝子は54であった。
上記のDNAチップを用いた遺伝子発現についてプロファイルすると、意外にも肝臓トリグリセリド貯蔵量と超低密度リポタンパク質(VLDL)を減少させ、エネルギー代謝を上昇させることによる体重増加抑制が期待されるSCD-1の遺伝子発現がSPI群でカゼイン群に比べて有意に減少(−4.95±1.49倍)していることが分かった。
(表4)DNAマイクロアレイ遺伝子発現結果(N=3、平均±標準誤差)
───────────────────
遺伝子発現倍率
──────────────
カゼイン SPI
───────────────────
SCD-1 1 −4.95±1.49*
───────────────────
(備考)SCD-1:ステアロイル-CoA不飽和化酵素1
SPIとカゼインでの遺伝子発現判定及び倍率はMicroarray Suite 5.0(Affymetrix社製)により判定した。2群間の有意差検定は、student's t-testを行い、危険率5%以下を有意差とした。

Claims (5)

  1. 大豆蛋白を有効成分とする肝臓ステアロイル−CoA不飽和化酵素1合成抑制剤。
  2. 大豆蛋白を有効成分とする肝臓ステアロイル−CoA不飽和化酵素1合成抑制食品。
  3. 大豆蛋白を有効成分とし、肝臓ステアロイル−CoA不飽和化酵素1の合成抑制効果が表示された大豆蛋白含有食品。
  4. 肥満の予防又はダイエットの効果が表示された請求項3記載の食品。
  5. 大豆蛋白が分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白、豆乳、7S大豆蛋白、11S大豆蛋白及び大豆蛋白加水分解物からなる群のうち何れか1以上から選ばれる請求項1〜4の何れか記載の食品。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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