JP2005195108A - プーリ装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 外輪7c及びこの外輪7cの周囲に設けた合成樹脂製のプーリにモーメント荷重が発生する事を防ぐと共に、この外輪7cの強度を確保しつつ、これら外輪7cとこのプーリとの間で発生するクリープを有効に防止できる構造を実現する。
【解決手段】 上記外輪7cの外周面に、傾斜方向が互いに異なる2本の傾斜凹溝14b、14bを形成し、これら両傾斜凹溝14b、14bを、互いの中間部で交差させる。この構成により、上記クリープ及びモーメント荷重の発生を防止する。又、両傾斜凹溝14b、14bを、h/D≧0.0072、且つ、(a−b)/d≧0.343を満たす様に形成する事により、上記外輪7cの強度を確保しつつ、クリープを有効に防止できる構造を実現する。
【選択図】 図3

Description

この発明に係るプーリ装置は、例えば、無端ベルトにより、自動車用のエアコンディショナに使用するコンプレッサ等の補機を駆動する機構や、タイミングベルトにより、クランクシャフトの端部に固定したクランクプーリとカムシャフトの端部に固定したカムプーリとの間で回転力を伝達する機構等のベルト伝動機構に組み込んで使用される、ガイドプーリやテンションプーリとして使用する。
ベルト伝動機構に組み込まれて使用されるガイドプーリやテンションプーリ等のプーリ装置として、重量軽減及びコスト低減を図る為に、転がり軸受の外輪に合成樹脂製のプーリを固設したプーリ装置が従来から使用されている。図11は、例えば特許文献1に記載されて従来から知られた、合成樹脂製のプーリを組み込んだプーリ装置1を示している。このプーリ装置1は、外周面にベルトを掛け渡す為の合成樹脂製のプーリ2と、このプーリ2を支持軸等に回転自在に支持する為の、単列深溝型のラジアル玉軸受である転がり軸受3とから構成される。このうちの転がり軸受3は、外周面に単列深溝型の内輪軌道4を有する内輪5と、内周面に単列深溝型の外輪軌道6を有する外輪7と、これら内輪軌道4と外輪軌道6との間に転動自在に設けられた複数個の転動体(玉)8とを備える。又、上記内輪5の両端部外周面と、上記外輪7の両端部内周面との間に密封板9、9を設け、上記各転動体8を設置した空間に充填したグリースが外部に漏れるのを防止すると共に、外部の塵芥等がこの空間内に入り込む事を防止している。そして、この様に構成される上記転がり軸受3の外輪7の外周面に、上記プーリ2を固設している。
上記プーリ2は、互いに同心に設けられた内径側円筒部10及び外径側円筒部11を有する。この内径側円筒部10の中間部外周面と外径側円筒部11の中間部内周面とは、円輪状の連結部12により連結しており、この連結部12の両側面にそれぞれ複数本ずつの補強リブ13、13を、それぞれ放射状に設けている。この様なプーリ2は、上記内径側円筒部10を上記転がり軸受3を構成する外輪7の周囲に、射出成形により固設している。即ち、この外輪7の外周寄り部分をその内周側にモールドした状態で、金型内に設けた上記プーリ2の外形に対応した内形を有するキャビティ内に、溶融した熱可塑性樹脂を注入する。そして、この熱可塑性樹脂が冷却・固化した後に上記金型を開いて、上記プーリ2を上記転がり軸受3と共に、上記キャビティ内から取り出す。
上述の様に構成されるプーリ装置1は、例えば、自動車の補機等を駆動するベルト伝動機構に組み込まれる、ガイドプーリやテンションプーリとして使用される。即ち、エンジンのシリンダブロック等の固定の部分に固設した支持軸に、上記転がり軸受3を構成する内輪5を外嵌固定する。そして、上記プーリ2の外周面に無端ベルトを掛け渡す。この状態で上記プーリ装置1は、この無端ベルトの走行に伴い上記プーリ2が回転し、この無端ベルトの巻き付け角度を確保したり、或はこの無端ベルトの張力を確保する。
上述の様に、外輪7の外周面に合成樹脂製のプーリ2を固設するプーリ装置1の場合、この外輪7が軸受鋼等の金属材料製である為、この外輪7と上記プーリ2との線膨張係数が異なる。従って、使用時の温度上昇により、これら外輪7とプーリ2との密着性が低下し、これら外輪7とプーリ2との間で相対的な滑り(クリープ)が発生する可能性がある。この様なクリープを防止する為の技術として、例えば特許文献2〜3等に記載されている様に、外輪の外周面に凹溝を形成する構造が従来から知られている。
図12は、このうちの特許文献2に記載されている、クリープを防止する為の従来構造の第1例を示している。この構造では、外輪7aの外周面に、円周方向に対し傾斜した傾斜凹溝14を螺旋状に形成すると共に、円周方向に対し平行な平行凹溝15を形成している。そして、上記外輪7aの周囲に配置したプーリ2aを構成する合成樹脂の一部を上記傾斜凹溝14及び平行凹溝15内に進入・固化させる事で、このプーリ2aの内周面に突条16、16aを形成し、この突条16、16aと上記傾斜凹溝14及び平行凹溝15とを係合させている。このうちの傾斜凹溝14は、円周方向に対し傾斜している為、この傾斜凹溝14の側面と上記突条16との噛み合いにより、上記外輪7aとプーリ2aとの間でクリープが発生する事を防止できる。
又、図13は、特許文献3に記載されている、クリープを防止する為の従来構造の第2例を示している。この構造では、外輪7bの外周面に無端の傾斜凹溝14aを、円周方向に対し傾斜した状態で形成している。この構造の場合も、射出成形時にプーリの内周面に形成される突条と上記傾斜凹溝14aとを係合させる。この傾斜凹溝14aは、円周方向に対し傾斜すると共に、深さ及び幅が円周方向に漸次変化している。この為、この傾斜凹溝14aの側面及び底面と、上記プーリの内周面に形成された突条の側面及び先端面との噛み合いにより、上記外輪7bとプーリとの間でクリープが発生する事を防止できる。
上述の図12、13に示した構造では、傾斜凹溝14、14aと突条との係合によりクリープを防止する為、プーリ2aが外輪7a、7bに対し回転する傾向になると、上記傾斜凹溝14、14aの内側面と突条の側面との押し付け合いに基づいて、上記外輪7a、7bに軸方向の分力が作用する。そして、この分力に基づいて、この外輪7a、7bにモーメント荷重が作用する場合がある。即ち、図12に示した構造の場合、この外輪7aの円周方向に関して、上記傾斜凹溝14の始点と終点とを完全に一致させない限り、この傾斜凹溝14のうちで上記外輪7aの軸方向に関して重畳した部分の数が、円周方向に関して互いに異なってしまう。上記傾斜凹溝14の単位長さ当り、軸方向に作用する力の大きさはそれぞれ同じであると考えられる為、軸方向に重畳した数により、上記外輪7aの軸方向に作用する分力が異なる。従って、上記傾斜凹溝14の始点と終点とが円周方向に関して完全に一致しない限り、上記外輪7aに対し軸方向に作用する分力が、円周方向に関して互いに異なり、この分力の差に応じたモーメント荷重が作用する。
前記特許文献2に記載された構造では、外輪7aの外周面に、傾斜凹溝14に加えて、この外輪7aの円周方向に対し平行な平行凹溝15を形成して、この外輪7aに加わる軸方向の力を負荷している。但し、モーメント荷重を発生する事自体を防止しない限り、上記平行凹溝15の内側面と合成樹脂製のプーリ2aの内周面に形成された突条16、16aの側面との当接部に繰り返し押し付け力が加わる。この結果、長期間に亙る使用に伴って、上記プーリ2aの内周面に形成された突条16、16aと、上記外輪7aの外周面に形成された傾斜凹溝14及び平行凹溝15との係合部に隙間が生じ、この外輪7aに対して上記プーリ2aががたつく可能性がある。一方、前記特許文献3に記載された構造では、無端状の傾斜凹溝14aとプーリの内周面に形成された突条との係合に基づいて外輪7bに加わるモーメント荷重を支承する為の平行凹溝を形成していない為、上述した様な問題はより顕著になる。
又、上記各構造では、外輪7a、7bの外周面に形成する傾斜凹溝14、14aの深さに就いて考慮していない。即ち、これら各傾斜凹溝14、14aの深さを深くし過ぎた場合、これら各傾斜凹溝14、14aと外輪軌道6との距離が短く(肉厚が小さく)なり、上記外輪7a、7bの強度を十分に確保できない。これに対して、上記各傾斜凹溝14、14aの深さを浅くし過ぎた場合、上記プーリ2aと上記外輪7a、7bとの間に生じるクリープを十分に防止できない。
特開平10−122339号公報 実開昭58−35013号公報 特開2003−65424号公報
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、外輪及びプーリにモーメント荷重が発生する事を防止すると共に、この外輪の強度を確保しつつ、これら外輪とこのプーリとの間で発生するクリープを有効に防止できる構造を実現すべく発明したものである。
本発明のプーリ装置は、何れの構造の場合も、前述した各従来構造と同様に、内輪と、外輪と、複数個の転動体と、合成樹脂製のプーリとを備える。
このうちの内輪は、外周面に内輪軌道を有する。
又、上記外輪は、内周面に外輪軌道を有する。
又、上記各転動体は、これら内輪軌道と外輪軌道との間に、転動自在に設けられている。
更に、上記プーリは、上記外輪の外周面に固設している。
そして、この外輪の外周面に円周方向に関し傾斜した状態で形成された傾斜凹溝内に上記プーリを構成する合成樹脂の一部を進入させる事で、このプーリと上記外輪との相対回転を阻止している。
特に、請求項1に記載したプーリ装置に於いては、上記外輪の外周面に、円周方向に対する傾斜方向が互いに逆である1対の傾斜凹溝を形成している。
これら両傾斜凹溝は、それぞれの中間部で互いに交差している。
又、これら両傾斜凹溝の深さをh、溝底の直径をa、上記外輪の外径をD、上記外輪軌道の溝底の直径をb、上記転動体の直径をdとした場合に、h/D≧0.0072、且つ、(a−b)/d≧0.343を満たす。
又、請求項2に記載したプーリ装置に於いては、それぞれの傾斜凹溝の始点位置と終点位置とをほぼ一致させている。
上述の様に構成される本発明のプーリ装置の場合、円周方向に対する傾斜方向が互いに逆である1対の傾斜凹溝を形成している為、これら各傾斜凹溝とプーリの内周面に形成された突条との係合に基づいて軸方向に加わる分力が互いに相殺される。この為、外輪とプーリとが相対回転する傾向になっても、これら外輪及びプーリにモーメント荷重が加わる事はない。
又、請求項1に記載した発明(好ましくは請求項2に記載した発明も同様)のプーリ装置の場合、上記1対の傾斜凹溝の深さhを外輪の外径Dとの関係で規制すると共に、これら両傾斜凹溝の溝底の直径aと外輪軌道の溝底の直径bとの差(a−b)を転動体の直径dとの関係で規制している為、クリープを有効に防止すると共に、外輪の強度を確保できる。即ち、プーリと外輪との間で生じるクリープの大きさは、外輪の外径やプーリから外輪に作用する荷重等により変化すると考えられる。従って、外輪の外径が変われば上記クリープの大きさも変化すると考えられる。この為、上記傾斜凹溝の深さhを外輪の外径Dとの関係で規制すれば、この外輪の外径Dの大きさに拘わらず上記クリープを有効に防止できる。尚、h/D=0.0072と言う値は、クリープを防止できる最低の溝深さを規定するものである。従って、h/Dが0.0072未満の場合、クリープを有効に防止できない。
又、上記差(a−b)は、外輪を構成する部分の中で一番肉厚が小さくなる部分の値の2倍である。従って、上記外輪の強度を確保する為には、この差(a−b)の値を規制すれば良い。ところで、転動体から外輪軌道に作用する荷重やこの荷重によって外輪に生じる最大剪断応力深さは、この転動体の直径dにより変化する。この為、上記差(a−b)を、上記転動体の直径dとの関係で規制すれば、上記外輪の強度として必要な強度を確保できる。尚、(a−b)/d=0.343と言う値は、この外輪の強度を確保する為に必要な肉厚の2倍を規定している。従って、(a−b)/dが0.343未満の場合、この外輪の強度を十分に確保できない。
又、請求項2に記載した様に、それぞれの傾斜凹溝の始点位置と終点位置とをほぼ一致させる事により、言い換えれば、これら各傾斜凹溝の巻数(外輪外周面の周回数)を整数にする事により、上記各傾斜凹溝のうちで上記外輪の軸方向に関して重畳した部分の数が、円周方向のどの部分でも同じになる。従って、上記各傾斜凹溝のそれぞれで、これら各傾斜凹溝とプーリの内周面に形成された突条との係合に基づいて軸方向に加わる力が、全周に亙ってほぼ均等になる。この為、上記各傾斜凹溝のそれぞれで、上記外輪とプーリとの間にモーメント荷重が加わる事がなくなる。これら各傾斜凹溝と上記突条との係合に基づいて軸方向に加わる力は、これら各傾斜凹溝同士の間で互いに逆方向である為、互いに相殺される。この結果、上記外輪とプーリとの間には、如何なる方向の力も加わらなくなる。又、好ましくは、各傾斜凹溝をそれぞれ2周以上(合計で4周以上)に亙り形成すれば、上記外輪とプーリとの係合強度が高くなり、クリープ防止及びがたつき防止効果がより向上する。
本発明を実施する為に好ましくは、請求項3に記載した様に、1対の傾斜凹溝の母線形状を単一円弧状とする。
この様に構成すれば、上記各傾斜凹溝同士の交差部分でこれら各傾斜凹溝同士の間に存在し、肉厚が薄くなる部分に関して、当該部分の基端部分の肉厚が極端に小さくなる事はない。この結果、上記外輪の周囲に上記プーリを射出成形する以前の搬送時に、上記交差部分に他の物品がぶつかった場合でも、これら各部分が破損しにくくなり、外輪の歩留を向上させてコストの低減を図れる。即ち、仮に上記各傾斜凹溝の断面形状が単なる矩形である場合、これら各傾斜凹溝同士の交差部分で、これら各傾斜凹溝の全深さ寸法に亙って、肉厚が極端に小さくなる。この結果、上記外輪の周囲に上記プーリを射出成形する以前の搬送時に、当該部分が他の部品とぶつかる等により破損し易くなる。破損した外輪は不良品として破棄しなければならず、歩留の悪化に伴うコスト上昇の原因となる。これに対して、上記各傾斜凹溝の断面形状を単一円弧状とすれば、上記肉厚が薄くなる部分の肉厚が極端に小さくなる事がなく、上記外輪の歩留を向上させてコストの低減を図れる。
或は、請求項4に記載した様に、1対の傾斜凹溝の母線形状を、幅方向両端部が円弧部で、中間部がこれら円弧部同士を繋ぐ直線部である形状としても良い。
この様に構成すれば、傾斜凹溝の幅寸法が大きくなる為、クリープ防止効果をより向上させる事ができる。
又、上述した何れの構造の場合も、請求項5に記載した様に、1対の傾斜凹溝の幅方向両端部内側面と外輪の外周面との連続部に、面取り部を形成する事が好ましい。
この様に構成すれば、上記各傾斜凹溝の開口縁部の強度を高くできる。この結果、上記外輪の周囲に上記プーリを射出成形する以前の搬送時に、上記開口縁部分に他の物品がぶつかった場合でも、これら各部分が破損しにくくなり、外輪の歩留を向上させてコストの低減を図れる。
更に、好ましくは、請求項6に記載した様に、1対の傾斜凹溝に加えて、円周方向に対し平行な平行凹溝を少なくとも1本設ける。この平行凹溝は、幅方向両端部が円弧部で中間部がこれら円弧部同士を繋ぐ直線部である、母線形状を有する。又、この平行凹溝の幅寸法を上記両傾斜凹溝の幅寸法以上とする。
この様に構成すれば、例えば各傾斜凹溝と各突条との係合部の摩擦係数の相違等により、仮にモーメント荷重や軸方向荷重を相殺し切れない場合でも、これら各荷重を効果的に支承して、上記外輪と上記プーリとの結合部の強度並びに剛性をより高くできる。又、上記平行凹溝の幅寸法を大きくすれば、この効果が顕著になる。
図1〜5は、請求項1、3、5に対応する、本発明の実施例1を示している。本実施例に組み込む外輪7cは、その外周面に、円周方向に対する傾斜方向が互いに逆である1対の傾斜凹溝14b、14bを形成している。本実施例の場合、これら各傾斜凹溝14b、14bは、上記外輪7cの1周に少し足りない程度の長さを有する。従って、この外輪7cの一部には、上記各傾斜凹溝14b、14bが形成されていない、不連続部17が存在する。上記外輪7cの円周方向に対する、これら各傾斜凹溝14b、14bの傾斜方向は互いに逆であり、この円周方向に対するこれら各傾斜凹溝14b、14bの傾斜角度の絶対値は互いに等しい。そして、これら各傾斜凹溝14b、14bは、それぞれの中間部で互いに交差している。
又、本実施例では、図3に示す様に、これら各傾斜凹溝14b、14bの深さをh、溝底の直径をa、上記外輪7cの外径をD、外輪軌道6の溝底の直径をb、各転動体8の直径をdとした場合に、h/D≧0.0072、且つ、(a−b)/d≧0.343を満たす様にしている。又、上記両傾斜凹溝14b、14bの母線形状を単一円弧状としており、図4に示す様に、これら各傾斜凹溝14b、14bの幅方向両端部と、上記外輪7cの外周面18との連続部に、それぞれ面取り部19、19を形成している。尚、図示の例ではこれら各面取り部19、19として、母線形状が直線状のものを形成しているが、凸円弧状の母線形状を有する面取り部を形成する事もできる。
上述の様に、外周面に1対の傾斜凹溝14b、14bを形成した外輪7cの周囲には、前述した従来構造の場合と同様に、合成樹脂製のプーリ2a(図12参照)を射出成形する。即ち、上記外輪7cを、その外周面をキャビティの内周面部分に露出させた状態で、合成樹脂の射出成形用の金型にセットし、このキャビティ内に合成樹脂を送り込む。この結果、このキャビティ内に送り込まれた合成樹脂の一部が上記各傾斜凹溝14b、14b内に入り込み、これら各傾斜凹溝14b、14b内で冷却されて固化し、突条となる。この様に、外径側に合成樹脂製のプーリ2aを固着した上記外輪7cは、複数の転動体8、8及び内輪5(図12参照)と組み合わせて、プーリ装置とする。
尚、上記プーリ2aを構成する合成樹脂として、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド612等のポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フェノール樹脂等が使用可能である。又、この様な合成樹脂に混合する補強繊維として、ガラス繊維やカーボン繊維等を使用する。この補強繊維を混合する割合は、10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%として、この補強繊維を混合した合成樹脂の線膨張係数を5×10-5以下、曲げ弾性係数を5GPa 以上とする事が好ましい。尚、上記補強繊維を混合する割合を10質量%未満とした場合、合成樹脂の線膨張係数が大きくなり過ぎると共に剛性が低下する。この結果、クリープが発生し易くなる為、好ましくない。又、上記補強繊維を混合する割合を60質量%よりも多くした場合、射出成形時の流動性が悪くなってしまい、成形不具合が発生し易くなる為、好ましくない。
上述の様に本実施例のプーリ装置の場合には、上記外輪7cの外周面に、円周方向に対する傾斜方向が互いに逆である1対の傾斜凹溝14b、14bを形成し、これら各傾斜凹溝14b、14bと、合成樹脂製のプーリ2aの内周面に形成された突条とを係合させている。従って、これら各傾斜凹溝14b、14bと突条との係合に基づいて軸方向に加わる分力が、互いに相殺される。この為、上記外輪7cとプーリ2aとが相対回転する傾向になっても、これら外輪7c及びプーリ2aにモーメント荷重が加わる事はない。特に、本実施例の場合には、上記各傾斜凹溝14b、14bの傾斜角度の絶対値を互いに等しくしている為、これら各傾斜凹溝14b、14bと突条との係合に基づいて軸方向に加わる分力をほぼ完全に相殺して、上記外輪7c及びプーリ2aにモーメント荷重が加わる事を、ほぼ完全に防止できる。
更に、本実施例のプーリ装置の場合には、上記各傾斜凹溝14b、14bの深さhと上記外輪7cの外径Dとの関係、及び、これら各傾斜凹溝14b、14bの溝底の直径aと、上記外輪軌道6の溝底の直径bと、上記各転動体8の直径dとの関係を、h/D≧0.0072、且つ、(a−b)/d≧0.343としている為、クリープを有効に防止できると共に、上記外輪7cの強度を十分に確保できる。又、上記各傾斜凹溝14b、14bの母線形状を単一円弧状としている為、上記外輪7cの歩留を向上させる事ができる。この点に就いて、図5及び図6を参照しつつ説明する。図4、5に示す様に、上記各傾斜凹溝14b、14bの断面形状を円弧状とした場合には、これら各傾斜凹溝14b、14b同士の交差部分の近傍でこれら各傾斜凹溝14b、14b同士の間に存在し、図5(B)に示す様に肉厚が薄くなる部分に関しても、当該部分の基端部分の肉厚が極端に小さくなる事はない。
即ち、上記各傾斜凹溝14b、14b同士の間隔は、これら各傾斜凹溝14b、14bの両端部分では図5(A)に示す様に広いが、交差部分に向けて図5(B)(C)に示す様に次第に狭くなる。一方、図6に示す様に、断面形状が矩形の傾斜凹溝14c、14cの場合、交差部分から離れた部分では、図6(A)に示す様に、これら傾斜凹溝14c、14c同士の間部分の肉厚が十分に大きいので特に問題を生じないが、交差部分に近い部分では、図6(B)に示す様に、上記間部分の肉厚が、先端から基端に至るまで、極端に小さくなる。この様な間部分に他の物品がぶつかると、この間部分が損傷し、前述した様に、外輪7cを廃棄しなければならなくなる可能性がある。
これに対して本実施例の場合には、上記各傾斜凹溝14b、14b同士の交差部分の近傍でこれら各傾斜凹溝14b、14b同士の間に存在する間部分の断面形状が、図5(B)に示す様に、略三角形になる。即ち、この間部分に関して、その先端縁の肉厚が小さくなっても、基端部の肉厚まで小さくなる事はない。この為、上記間部分に他の物品がぶつかっても、この間部分が損傷しにくく、上記外輪7cの歩留を確保できる。しかも本実施例の場合には、上記各傾斜凹溝14b、14bの開口縁部に前記面取り部19、19を設けている為、これら各傾斜凹溝14b、14bの開口縁部の強度を高くできる。この結果、上記外輪7cの周囲に前記プーリ2aを射出成形する以前の搬送時に、上記交差部分や開口縁部分に他の物品がぶつかった場合でも、これら各部分が破損しにくくなり、上記外輪7cの歩留を向上させてコストの低減を図れる。
図7〜9は、請求項2、3、5、6に対応する、本発明の実施例2を示している。本実施例の場合には、1対の傾斜凹溝14d、14dを外輪7dの外周面に、それぞれ2周ずつ形成している。又、これら各傾斜凹溝14d、14dの始点位置と終点位置とはほぼ一致させて、これら各傾斜凹溝14d、14dの巻数(外輪7dの外周面の周回数)を整数にしている。この為、これら各傾斜凹溝14d、14dの巻数の合計は4周となる。又、これら各傾斜凹溝14d、14dの母線形状を、上述の実施例1の図4に示した様に、単一円弧状としている。又、これら各傾斜凹溝14d、14dの溝深さhと外輪7dの外径Dとの関係、及び、これら各傾斜凹溝14d、14dの溝底の直径aと外輪軌道6の溝底の直径bと転動体8の直径d(図3参照)との関係も、上記実施例1と同様に規制している。
又、上記外輪7dの外周面の両端部には、それぞれこの外輪7dの円周方向に対し平行な、平行凹溝15a、15aを形成している。そして、上記各傾斜凹溝14d、14dの両端部を、これら両平行凹溝15a、15aに連続させている。これら両平行凹溝15a、15aは、図9に示す様に、軸方向両端部が1/4円弧の円弧部で、中間部がこれら円弧部同士を繋ぐ直線部である母線形状を有する。そして、上記両平行凹溝15a、15aの幅寸法L15を、上記各傾斜凹溝14d、14dの幅寸法L14(図4参照)以上(L15≧L14)としている。尚、これら両平行凹溝15a、15aの開口縁部に面取り部を形成しても良い。又、これら両平行凹溝15a、15aは、上記外輪7dの内周面に形成された上記外輪軌道6からは軸方向に外れた位置に形成するので、上記各傾斜凹溝14d、14dの様に、溝深さに就いては特に規制しない(十分に深くできる)。
上述の様な外輪7dの周囲には、上述した実施例1の場合と同様に、合成樹脂製のプーリ2a(図12参照)を射出成形する。本実施例の場合、上述の様に構成する事で、このプーリ2aと上記外輪7dとの間に加わるモーメント荷重をより低減すると共に、これらプーリ2aと上記外輪7dとの結合部の剛性をより向上させる事ができる。
先ず、上記モーメント荷重の低減は、上記各傾斜凹溝14d、14dの始点位置と終点位置とをほぼ一致させる事で図られる。この様な構成を採用した場合、上記各傾斜凹溝14d、14dのうちで上記外輪7dの軸方向に関して重畳した部分の数が、円周方向のどの部分でも同じになる。具体的には、本実施例の場合には、上記各傾斜凹溝14d、14dがそれぞれ、上記外輪7dの円周方向の何れの位置でも、軸方向に関して2回ずつ重畳している。従って、上記各傾斜凹溝14d、14dのそれぞれで、これら各傾斜凹溝14d、14dと上記プーリ2aの内周面に形成された突条との係合に基づいて軸方向に加わる力が、全周に亙ってほぼ均等になる。この為、上記各傾斜凹溝14d、14dのそれぞれで、上記外輪7dとプーリ2aとの間にモーメント荷重が加わる事がなくなる。そして、上記各傾斜凹溝14d、14dと上記突条との係合に基づいて軸方向に加わる力は、1対の傾斜凹溝14d、14d同士の間で互いに逆方向である為、互いに相殺される。この結果、上記外輪7dとプーリ2aとの間には、如何なる方向の力も加わらなくなる。しかも本実施例の場合には、上記各傾斜凹溝14d、14dをそれぞれ2周ずつ、合計で4周設けている為、これら各傾斜凹溝14d、14dと上記突条との係合強度を強くして、クリープ防止及びがたつき防止効果をより十分に得られる。
更に本実施例の場合には、上記外輪7dの外周面の両端部に平行凹溝15a、15aを形成している為、例えば上記各傾斜凹溝14d、14dと各突条との係合部の摩擦係数の相違等により、仮にモーメント荷重や軸方向荷重を相殺し切れない場合でも、上記平行凹溝15a、15aによりこれら各荷重を効果的に支承できる。この為、上記外輪7dと上記プーリ2aとの結合部の強度並びに剛性をより高くできる。しかも本実施例の場合には、上記平行凹溝15a、15aを2本設け、且つ、これら各平行凹溝15a、15aの幅寸法を大きくしているので、上記結合部の強度並びに剛性を高くする効果が顕著になる。尚、本実施例の変形例として、一方の傾斜凹溝を2周に亙り、他方の傾斜凹溝を1周だけ、それぞれ形成し、両傾斜凹溝の巻数の合計を3周とする事もできる。この場合、他方の傾斜凹溝の傾斜角度を一方の傾斜凹溝よりも大きくする為、軸方向の分力を互いに相殺できる。
尚、上述した実施例2の傾斜凹溝14d、14d及び前述した実施例1の傾斜凹溝14b、14bの母線形状として、請求項4に記載した様に、幅方向両端部が円弧部で、中間部がこれら円弧部同士を繋ぐ直線部である形状としても良い。具体的には、図10(A)に示す様に、幅方向両端部を1/4円弧の円弧部とし、これら円弧部同士を直線部で繋ぐ様な形状とするか、或は、図10(B)に示す様に、傾斜凹溝のうちで、それぞれ断面形状が直線状である溝底と幅方向両端部の内側面との連続部を円弧状とする。この様に構成すれば、傾斜凹溝の幅寸法が大きくなる為、クリープ防止効果をより向上させる事ができる。但し、図10(B)に示した構造の場合、前述の図6に示した構造と同様に、外輪の歩留が悪くなる可能性がある。従って、外輪の歩留を考慮すると、上記図10(A)の構造を採用する事が好ましい。
本発明の実施例1を、外輪のみを取り出して示す斜視図。 図1の外径側から見た図。 外周面に傾斜凹溝を形成した外輪の一部断面図を、外輪軌道に転動体を設置した状態で示す図。 傾斜凹溝の断面形状を示す拡大断面図。 外輪の外周面部分で傾斜凹溝を形成した部分のうち、円周方向に関して異なる3個所位置の断面形状を示す拡大断面図。 傾斜凹溝の好ましくない断面形状を示す、図5と同様の図。 本発明の実施例2を示す、図1と同様の図。 図7の外径側から見た図。 平行凹溝の断面形状を示す拡大断面図。 傾斜凹溝の断面形状の別の2例を示す、拡大断面図。 従来構造のプーリ装置の部分切断斜視図。 クリープを防止する為の従来構造の第1例を示す部分断面図。 同第2例を示す、外輪を外径側から見た図。
符号の説明
1 プーリ装置
2、2a プーリ
3 転がり軸受
4 内輪軌道
5 内輪
6 外輪軌道
7、7a、7b、7c、7d 外輪
8 転動体
9 密封板
10 内径側円筒部
11 外径側円筒部
12 連結部
13 補強リブ
14、14a、14b、14c、14d 傾斜凹溝
15、15a 平行凹溝
16、16a 突条
17 不連続部
18 外周面
19 面取り部

Claims (6)

  1. 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、この外輪の外周面に固設した合成樹脂製のプーリとを備え、この外輪の外周面に円周方向に関し傾斜した状態で形成された傾斜凹溝内にこのプーリを構成する合成樹脂の一部を進入させる事でこのプーリと上記外輪との相対回転を阻止したプーリ装置に於いて、上記外輪の外周面に、円周方向に対する傾斜方向が互いに逆である1対の傾斜凹溝が形成されており、これら両傾斜凹溝は、それぞれの中間部で互いに交差しており、これら両傾斜凹溝の深さをh、溝底の直径をa、上記外輪の外径をD、上記外輪軌道の溝底の直径をb、上記転動体の直径をdとした場合に、h/D≧0.0072、且つ、(a−b)/d≧0.343を満たす事を特徴とするプーリ装置。
  2. 外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、この外輪の外周面に固設した合成樹脂製のプーリとを備え、この外輪の外周面に円周方向に関し傾斜した状態で形成された傾斜凹溝内にこのプーリを構成する合成樹脂の一部を進入させる事でこのプーリと上記外輪との相対回転を阻止したプーリ装置に於いて、上記外輪の外周面に、円周方向に対する傾斜方向が互いに逆である1対の傾斜凹溝が形成されており、これら両傾斜凹溝は、それぞれの中間部で互いに交差すると共にそれぞれの傾斜凹溝の始点位置と終点位置とがほぼ一致している事を特徴とするプーリ装置。
  3. 1対の傾斜凹溝の母線形状が単一円弧状である、請求項1〜2の何れかに記載したプーリ装置。
  4. 1対の傾斜凹溝の母線形状が、幅方向両端部が円弧部で、中間部がこれら円弧部同士を繋ぐ直線部である、請求項1〜2の何れかに記載したプーリ装置。
  5. 1対の傾斜凹溝の幅方向両端部内側面と外輪の外周面との連続部に、面取り部を形成した、請求項1〜4の何れかに記載したプーリ装置。
  6. 1対の傾斜凹溝に加えて、円周方向に対し平行な平行凹溝が少なくとも1本設けられており、この平行凹溝の断面形状が、幅方向両端部が円弧部で中間部がこれら円弧部同士を繋ぐ直線部であり、この平行凹溝の幅寸法が上記両傾斜凹溝の幅寸法以上である、請求項1〜5の何れかに記載したプーリ装置。
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