JP2005187408A - 血管新生調節剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】 新規な血管新生調節剤、並びにそれらのスクリーニング方法の提供。
【解決手段】 Ovo2の発現又は機能を調節する物質を有効成分として含有する血管新生調節剤;Ovo2の発現又は活性を調節する物質をスクリーニングすることによる、血管新生が関連する疾患に対して治療活性を有する物質のスクリーニング方法;Ovo2遺伝子に変異を導入させてなるOvo2機能欠損非ヒト動物;並びに新規Ovo2遺伝子。
【選択図】 なし

Description

本発明は、Ovo2の新規医療用途に関する。詳細には、本発明は、血管新生調節のためのOvo2の発現又は機能を調節する物質の使用、例えば、血管新生促進のためのOvo2の発現又は機能を促進する物質の使用、並びに、血管新生抑制のためのOvo2の発現又は機能を抑制する物質の使用に関する。本発明はまた、血管新生に関連する疾患の予防・治療剤となり得るOvo2の発現又は機能を調節する物質のスクリーニング方法に関する。本発明はさらに、Ovo2機能欠損非ヒト動物に関する。
血管形成は、胚発生における重要なステップであり、また、種々の疾患の病因としても知られている。血管形成は、vasculogenesis(以下、脈管形成と省略)、angiogenesis(以下、血管新生と省略)という2つの異なる機構によって行なわれる。脈管形成は、血管芽細胞あるいは血球血管芽細胞からその場で血管が新しく形成されるプロセスであり、血管新生は、既存の血管からの出芽 (sprouting) 及びリモデリングによって血管が形成されるプロセスである。
急性T細胞白血病における染色体転座の研究により同定されたstem cell leukemia (Scl、Tal-1としても公知) 遺伝子は、塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックスのモチーフを有する転写因子であり、胚及び胎児造血の初期部位、血管内皮、及び中枢神経系において発現し、血管新生において重要な役割を果たすことが報告されている(非特許文献1−3参照)。また、Scl遺伝子については、その発現に関与している幾つかのエンハンサーが報告されている(非特許文献4、5参照)。しかしながら、Scl遺伝子の血管内皮における発現を制御している調節因子は依然として明らかとなっていない。
Robbら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 7075-7019 (1995) Shivdasaniら, Nature 373: 432-434 (1995) Visvaderら, Genes Dev. 12: 128-142 (1998) Sanchezら, Development 126: 3891-3904 (1999) Sinclairら, Dev. Biol. 209: 128-142 (1999)
本発明の目的は、血管新生に関連する種々の疾患の予防・治療に有用である、新規作用機序を有する血管新生調節剤を提供することである。本発明の別の目的は、かかる用途に有用である、血管新生の発現又は機能を調節する化合物のスクリーニング方法、並びに当該スクリーニング方法により得られうる、あるいは選択されうる化合物を提供することである。
本発明者らは、Ovo2ノックアウトマウスを作製し、Ovo2-/-胚について形態学的及び組織学的に解析したところ、Ovo2が血管新生に関与していることを見出した。本発明者らはまた、Ovo2-/-胚の表現型が既報のScl-/-胚の表現型と類似することを見出した。以上の知見及びOvo2が転写調節因子であることから、本発明者らは、Ovo2がScl遺伝子の発現制御を通じて血管新生を調節していると考え、Ovo2、およびSclの転写調節領域を含むレポーター遺伝子を用いて解析したところ、実際にOvo2がScl遺伝子の発現を調節していることを確認した。このことから、Ovo2はScl遺伝子の発現調節を介して血管新生を促進する転写調節因子であること、従って、この転写調節因子の発現又は機能を抑制する物質は、虚血性疾患又は動脈疾患等の血管新生の促進が所望される疾患に対して治療効果を発揮することが明らかとなった。また反対に、この転写因子の発現又は機能を抑制する物質は、腫瘍等の血管新生の抑制が所望される疾患に治療効果を発揮するはずである。そこで、本発明者らは、Ovo2の発現又は活性を調節する物質を探索することにより、血管新生が関連する疾患に対して治療活性を有する化合物をスクリーニングする方法を開発して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、Ovo2の発現又は機能を促進する物質を有効成分として含有する血管新生調節剤、即ち、Ovo2の発現又は機能を促進する物質を有効成分として含有する血管新生促進剤、Ovo2の発現又は機能を抑制する物質を有効成分として含有する血管新生抑制剤を提供する。Ovo2の発現を特異的に促進し得る物質としては、好ましくは、Ovo2又はその均等物、それらをコードする塩基配列を含有する核酸を含む発現ベクターが挙げられる。一方、Ovo2の機能を特異的に促進し得る物質としては、当該転写因子の生理的リガンドやアゴニストが挙げられる。また、Ovo2の発現を特異的に抑制し得る物質としては、好ましくは、Ovo2のmRNA又は初期転写産物に対するアンチセンス核酸が挙げられる。この場合、アンチセンス核酸はそれ自体としてだけでなく、該核酸をコードする発現ベクターや、該発現ベクターを導入された宿主細胞の形態でも提供され得る。一方、Ovo2の機能を特異的に抑制し得る物質としては、当該転写因子のアンタゴニストが挙げられる。
本発明はさらに、Ovo2の発現又は活性を調節する物質をスクリーニングすることによる、血管新生が関連する疾患に対して治療活性を有する物質のスクリーニング方法を提供する。当該方法は、Ovo2遺伝子の発現量又は活性を、被検物質の存在又は非存在下で比較することを特徴とする。
本発明はまた、上記スクリーニング方法により得られる、血管新生が関連する疾患に対して治療活性を有する物質を有効成分とする血管新生調節剤、即ち、血管新生促進剤、血管新生抑制剤を提供する。
本発明はさらに、Ovo2遺伝子に変異を導入させてなるOvo2機能欠損非ヒト動物を提供する。
本発明はまた、配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、並びに配列番号15で示される塩基配列、又は配列番号16で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを提供する。
本発明の血管新生調節剤は、Ovo2の発現又は機能の調節という新規作用機序により血管新生が関連する疾患を予防・治療し得、当該疾患の予防・治療の幅を広げうるものであるため有用である。また、本発明のスクリーニング方法は、かかる用途を有する、Ovo2の発現又は機能を調節する物質を同定し得るため有用である。さらに、本発明のOvo2機能欠損非ヒト動物は、血管新生に関連する疾患のモデル動物となり得るため、並びに、血管新生に対するOvo2の関与についての詳細な知見、及びOvo2に関するその他の重要な知見をも提供し得ると考えられるため有用である。
本発明のさらなる特徴及び本発明の利点について、以下の「発明を実施するための最良の形態」においてより詳細に説明する。
本発明は、Ovo2の発現又は機能を調節する物質を有効成分とする血管新生調節剤を提供する。一実施態様では、血管新生調節剤は、Ovo2の発現又は機能を促進する物質を有効成分とする血管新生促進剤であり得る。
「血管新生(angiogenesis)」とは、既存の血管からの出芽 (sprouting) 及びリモデリングによって血管が形成されるプロセスであり、二次血管発生とも呼ばれる。これに対する概念として、「脈管形成(vasculogenesis)」がある。脈管形成は、血管芽細胞あるいは血球血管芽細胞からその場で血管が新しく形成されるプロセスであり、一次血管発生とも呼ばれる。個体発生の初期には、脈管形成によって最初の血管が形成されるが、器官形成には血管新生が関係する。また、血管新生において血管の出芽は、内皮細胞の増殖によってのみ起こることになっていたが、最近では線維芽細胞が血管内皮細胞に分化するという報告もなされている。本明細書中では、これら血管新生、脈管形成を包括的に血管形成と呼ぶことがある。
Ovo2は、Ovo遺伝子ファミリーに属する、ジンクフィンガー型のDNA結合ドメインを含む転写調節因子である。Ovo2遺伝子の塩基配列及びOvo2のアミノ酸配列は公知であり、例えばヒトOvo2 cDNAの塩基配列は配列番号1で表される塩基配列であり、マウスOvo2(Ovo2−A、MOVO、MOVO−Aとしても知られる)cDNAの塩基配列は配列番号3で表される塩基配列である。ヒトでは、上記以外に、Ovo2のアイソフォームが存在し、各アイソフォームのcDNAの塩基配列は、それぞれ、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11で表される塩基配列である。また、マウスでは、上記以外に、Ovo2のアイソフォームとしてOvo2−B、Cが存在し、マウスOvo2−B(MOVO−Bとしても知られる)cDNAの塩基配列は配列番号13で表される塩基配列であり、マウスOvo2−C(MOVO−Cとしても知られる)cDNAの塩基配列は配列番号15で表される塩基配列である。哺乳動物におけるOvo2の生理機能や標的遺伝子等については不明のままであったが、本発明者らは、この遺伝子をノックアウトしたマウスを作製、解析したところ、上述のようにこの蛋白質が血管新生に関与すること、また、Scl遺伝子の発現を制御する転写調節因子であることを見出した。
ヒト、マウスOvo2に対応するOvo2ホモログは他の哺乳動物にも存在すると考えられる。従って、本発明の血管新生促進剤は、ヒト及びマウスのみならず、他の哺乳動物における血管新生の促進が所望される疾患、例えば虚血性疾患または動脈疾患の治療への使用をも意図している。近年のペットブームにより、過剰な給餌と運動不足の結果、血管新生の促進が所望される疾患、例えば虚血性疾患または動脈疾患を発症する動物が増加していることから、本発明の血管新生促進剤は獣医学の分野においても極めて有用である。
虚血性疾患または動脈疾患は、血液の供給不全または動脈の機能低下を伴う疾患である限り特に限定されないが、例えば、虚血性心疾患、心筋梗塞、急性心筋梗塞、心筋症、狭心症、不安定狭心症、冠動脈硬化、心不全、閉塞性動脈硬化症、Buerger病、血管損傷、動脈塞栓症、動脈血栓症、臓器動脈閉塞または動脈瘤等が挙げられる。
本発明の血管新生促進剤は、Ovo2の発現又は機能を促進する物質を有効成分として含有する。ここで「発現」とは、蛋白質が産生され且つ機能的な状態で核内に移行することをいう。従って、「発現を促進する物質」は、遺伝子の転写、転写後調節、蛋白質への翻訳、翻訳後修飾、蛋白質フォールディング及び核内への移行等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。一方、「機能を促進する物質」とは、いったん機能的な状態で核内に移行した蛋白質に作用して、その転写調節活性を増強させる物質をいう。
Ovo2の発現を促進する物質としては、例えば、Ovo2遺伝子からのmRNA転写を促進し得るトランス活性化因子、スプライシングやmRNAの細胞質移行を促進し得る因子、mRNAの分解を抑制する因子、リボソームのmRNAへの結合を促進し得る因子、Ovo2の分解を抑制する因子、Ovo2の核内への移行を促進する因子等が挙げられるが、より直接的且つ特異的な物質として、Ovo2もしくはその均等物、Ovo2もしくはその均等物をコードする核酸を含む発現ベクター又は該発現ベクターを担持する宿主細胞が好ましく例示される。
「Ovo2」は、配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又はそのスプライシングバリアント(例えば、配列番号6、配列番号8、配列番号10又は配列番号12に示されるアミノ酸配列、あるいは配列番号14又は配列番号16に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)、アリルバリアント(SNP、ハプロタイプを含むポリペプチド)であり、「その均等物」とは、配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列、あるいは配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのスプライシングバリアント、アリルバリアントのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有し、且つ配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又はそのスプライシングバリアント、アリルバリアントと同質の活性を有するポリペプチド(上記スプライシングバリアント、アリルバリアントを除く)をいう。
「実質的に同一のアミノ酸配列」とは、配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列、あるいは配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのスプライシングバリアント、アリルバリアントのアミノ酸配列において1もしくは2以上(好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜30個、いっそう好ましくは1〜10個、最も好ましくは1〜5個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加または修飾されたアミノ酸である。
また、「実質的に同一のアミノ酸配列」として、配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列、あるいは配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのスプライシングバリアント、アリルバリアントのアミノ酸配列に対して約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらにより好ましくは約95%以上、いっそうより好ましくは約97%以上、最も好ましくは99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を用いることもできる。同一性(%)は、当該分野で慣用のホモロジー検索プログラム(例えば、BLAST、FASTA等)を初期設定で用いて決定することができる。また、別の局面では、同一性(%)は、当該分野で公知の任意のアルゴリズム、例えば、Needlemanら(1970) (J. Mol. Biol. 48: 444-453 )、Myers及びMiller (CABIOS, 1988, 4: 11-17)のアルゴリズム等を使用して決定することができる。Needlemanらのアルゴリズムは、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれており、同一性パーセントは、例えば、BLOSUM 62 matrix又はPAM250 matrix、並びにgap weight: 16、14、12、10、8、6若しくは4、及びlength weight: 1、2、3、4、5若しくは6のいずれかを使用することによって決定することができる。また、Myers及びMillerのアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、例えば、PAM120 weight residue table、gap length penalty 12、gap penalty 4を用いることができる。
「同質の活性」とは活性が定性的に同等であることを意味し、定量的にも同等であることが好ましいが、許容し得る範囲(例えば、約0.5〜約2倍)で異なっていてもよい。ここでOvo2の活性としては、血管新生調節活性(例えば、Scl遺伝子の転写調節活性等)が挙げられる。
Ovo2又はその均等物は、例えばヒト又はマウス、あるいはウシ、ブタ、サル、ラット等の他の哺乳動物において、当該蛋白質を発現している組織由来の核抽出液から、抗Ovo2抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより単離することができる。あるいは、当該組織由来のcDNAライブラリーもしくはゲノミックライブラリーから、Ovo2のcDNAクローンをプローブとして単離されるDNAクローンを適当な発現ベクター中にクローニングし、宿主細胞に導入して発現させ、細胞培養物の膜含有画分から抗Ovo2抗体や、His-tag、GST-tag等を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製することもできる。また、当該均等物は、Ovo2のcDNA配列を基に、部位特異的変異誘発等の人為的処理により一部に変異を導入したものであってもよい。保存的アミノ酸置換は周知であり、当業者はOvo2の転写因子特性を変化させない範囲で、Ovo2に適宜変異を導入することができる。しかしながら、DNA結合ドメインであるジンクフィンガー領域、リガンド結合ドメインは高度に保存されている必要があるので、このような領域には変異を導入しないことが望ましい。
Ovo2又はその均等物を有効成分とする血管新生促進剤は、ポリL−リジン、アビジン、コレステロール又はリン脂質成分等の付属基を結合させることによって、細胞膜透過性を向上させることができる。あるいは、本血管新生促進剤は、Ovo2又はその均等物をカチオン性リポソームに被包して製剤化することもできる。蛋白質はポリアニオン性であるので、カチオン性リポソームと混合することにより容易に複合体を形成する。また、リポソーム膜に虚血部位又は動脈付近の細胞で特異的に発現する細胞表面分子に対する抗体もしくはリガンドを組み込むことにより、細胞特異的なターゲッティングを行うこともできる。例えば、標的細胞(例えば、血管内皮細胞)の細胞膜上に特異的に発現している蛋白質に対する抗体をリポソーム膜に組み込むこともできる。
Ovo2又はその均等物を有効成分とする血管新生促進剤は、適当な無菌のビヒクルに溶解もしくは懸濁して、経口的又は非経口的に投与され得る。非経口的投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、気道内等の全身投与、あるいは虚血部位又は動脈付近への局所投与が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、標的とする虚血部位または動脈付近に対する局所投与が挙げられる。
本血管新生促進剤の投与量は、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.0008〜約2.5mg/kg、好ましくは約0.008〜約0.025mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。
Ovo2の発現を促進する物質が、Ovo2又はその均等物である場合、本発明の血管新生促進剤は、それらをコードする核酸を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記のOvo2又はその均等物をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の虚血部位または動脈付近においてプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されているか、あるいは投与された動物の虚血部位または動脈付近で、一定の条件下に機能的に連結された形態に変化し得るような位置に配置されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物の虚血部位または動脈付近で機能し得るものであれば特に制限はないが、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。「一定の条件下に機能的に連結された形態に変化し得るような位置に配置される」とは、例えば、以下でさらに詳述するように、Ovo2又はその均等物をコードするヌクレオチドとプロモーターが、該プロモーターからの該核酸分子の発現を妨げるのに十分な長さを有するスペーサー配列により隔てられた、同方向に配置される2つのリコンビナーゼ認識配列によって分断された構造を有し、該認識配列を特異的に認識するリコンビナーゼの存在下に該スペーサー配列が切り出されて、Ovo2又はその均等物をコードするポリヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結されるように配置されることをいう。
本発明の発現ベクターは、好ましくは上記核酸分子をコードするヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。発現ベクターが上述のようにリコンビナーゼ認識配列に挟まれたスペーサー配列を有する場合、該選択マーカー遺伝子は当該スペーサー配列内に配置することもできる。
本発明において発現ベクターとして使用されるベクターは特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
本発明の好ましい態様においては、発現ベクターは、不要な時期及び/又は不要な部位でのOvo2又はその均等物の過剰発現による悪影響を防ぐために、Ovo2又はその均等物を時期特異的及び/又は虚血部位又は動脈付近の細胞特異的に発現させることができる。発現が意図される虚血部位又は動脈付近の細胞としては、Ovo2を適用することで血管新生が期待できる細胞であり、該細胞としては、例えば、血管内皮細胞、血管壁細胞、血管平滑筋細胞、血管芽細胞、内皮前駆細胞が挙げられる。このようなベクターの第一の実施態様としては、投与対象となる動物の虚血部位又は動脈付近において特異的に発現する遺伝子由来のプロモーターに機能的に連結した、Ovo2又はその均等物をコードするヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。虚血部位又は動脈付近において特異的に発現する遺伝子由来のプロモーターとしては、例えば、HIF−1,2(Hypoxia inducible factor-1,2)、アンギオテンシンI受容体、nNOS(血管型一酸化窒素合成酵素)、VEGF、Tie−2、Angiopoietin-1などのプロモーター、又はshear stressに関わる遺伝子のプロモーターが挙げられる。
本発明の時期特異的且つ虚血部位又は動脈特異的発現ベクターの第二の実施態様として、外因性の物質によってトランスに発現が制御される誘導プロモーターに機能的に連結した、Ovo2又はその均等物をコードするヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。誘導プロモーターとして、例えば、メタロチオネイン−1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に虚血部位又は動脈付近に局所投与することにより、任意の時期に虚血部位又は動脈特異的にOvo2又はその均等物の発現を誘導することができる。
本発明の時期特異的且つ虚血部位又は動脈特異的発現ベクターの別の好ましい態様は、プロモーターとOvo2又はその均等物をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドとが、該プロモーターからのOvo2又はその均等物の発現を妨げるのに十分な長さを有するスペーサー配列により隔てられた、同方向に配置される2つのリコンビナーゼ認識配列によって分断された構造を有するベクターである。該ベクターが虚血部位又は動脈付近の細胞内に導入されただけではプロモーターはOvo2又はその均等物の転写を指示することができない。しかしながら、所望の時期に虚血部位又は動脈付近に該認識配列を特異的に認識するリコンビナーゼを局所投与するか、あるいは該リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを局所投与して該リコンビナーゼを虚血部位又は動脈付近の細胞内で発現させると、該認識配列間で該リコンビナーゼを介した相同組換えが起こり、その結果、該スペーサー配列が切り出され、Ovo2又はその均等物をコードするポリヌクレオチドがプロモーターに機能的に連結されて、所望の時期に虚血部位又は動脈特異的にOvo2又はその均等物が発現される。
上記ベクターに使用されるリコンビナーゼ認識配列は、投与対象に内在のリコンビナーゼによる組換えを防ぐために、内在のリコンビナーゼによっては認識されない異種リコンビナーゼ認識配列であることが望ましい。したがって、該ベクターにトランスに作用するリコンビナーゼもまた異種リコンビナーゼであることが望ましい。このような異種リコンビナーゼと該リコンビナーゼ認識配列の組み合わせとしては、大腸菌のバクテリオファージP1由来のCreリコンビナーゼとlox P配列、あるいは酵母由来のFlpリコンビナーゼとfrt配列が好ましく例示されるが、それらに限定されるものではない。
Creリコンビナーゼはバクテリオファージで発見されたが、特異的なDNA組換え反応は、原核細胞だけでなく真核細胞である動物細胞や動物ウイルスでも機能することが知られている。同一DNA分子上に同方向の2つのloxP配列が存在する場合は、Creリコンビナーゼはその間に挟まれたDNA配列を切り出して環状分子を形成させる(切り出し反応)。一方、異なるDNA分子上に2つのloxP配列が存在し、その一方が環状DNAである場合は、loxP配列を介して環状DNAが他方のDNA分子上に挿入される(挿入反応)[J. Mol. Biol., 150: 467-486 (1981); J. Biol. Chem., 259: 1509-1514 (1984); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 1026-1029 (1984)]。切り出し反応の例は、動物培養細胞[Nucleic Acids Res., 17: 147-161 (1989); Gene, 181: 207-212 (1996)]、動物ウイルス[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5166-5170 (1988); J. Virol., 69: 4600-4606 (1995); Nucleic Acids Res., 23: 3816-3821 (1995)]、トランスジェニックマウス[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 6232-6236 (1992); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 6861-6865 (1992); Cell, 73: 1155-1164 (1993); Science, 265:103-106 (1994)]等で報告されている。
リコンビナーゼ/リコンビナーゼ認識配列の相互作用を利用した本発明の時期特異的且つ虚血部位又は動脈特異的発現ベクターのプロモーターとしては、所望の時期及び部位での発現を確実にするために、好ましくはウイルス由来プロモーターや哺乳動物の構成蛋白質遺伝子のプロモーターが使用される。
Ovo2又はその均等物をコードする発現ベクターを有効成分とする本発明の血管新生促進剤の投与は、治療対象動物自身の細胞を体外に取り出し、培養してから導入を行って体内に戻すex vivo法と、投与対象の体内に直接ベクターを投与して導入を行うin vivo法のいずれかで行われる。ex vivo法の場合、標的細胞へのベクターの導入は、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法等により行うことができる。in vivo法の場合、ウイルスベクターは、注射剤等の形態で静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内等に投与される。あるいは、静脈内注射などによりベクターを投与すると、ウイルスベクターに対する中和抗体の産生が問題となるが、標的となる虚血部位又は動脈付近に局所的にベクターを注入すれば(in situ法)、抗体の存在による悪影響を軽減することができる。
また、Ovo2又はその均等物をコードする発現ベクターとして非ウイルスベクターを使用する場合、該発現ベクターの導入は、Ovo2又はその均等物自体を有効成分とする血管新生促進剤について上記したように、ポリL−リジン−核酸複合体などの高分子キャリヤを用いるか、リポソームに被包して行うことができる。あるいは、パーティクルガン法を用いてベクターを標的細胞に直接導入することもできる。
リコンビナーゼ/リコンビナーゼ認識配列の相互作用を利用したベクターの使用において、トランスに作用する物質としてリコンビナーゼ自体を局所投与する場合、例えば、リコンビナーゼを適当な無菌のビヒクル(例えば、人工の脳髄液等)に溶解または懸濁して虚血部位又は動脈付近に注入すればよい。一方、トランスに作用する物質としてリコンビナーゼ発現ベクターを虚血部位又は動脈付近に局所投与する場合、該リコンビナーゼ発現ベクターは、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドが、投与対象の虚血部位又は動脈付近の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結した発現カセットを有するものであれば特に制限されない。使用されるプロモーターが構成プロモーターである場合、不要な時期におけるリコンビナーゼの発現を防ぐために、虚血部位又は動脈付近に投与されるベクターは、例えばアデノウイルスのように、宿主細胞の染色体への組込みが稀なものであることが望ましい。しかしながら、アデノウイルスベクターを使用した場合、リコンビナーゼの一過的発現はせいぜい4週間程度しか持続しないので、治療が長期に及ぶ場合には第二、第三の投与が必要になる。リコンビナーゼを所望の時期に発現させる別のアプローチとして、メタロチオネイン遺伝子プロモーターのような誘導プロモーターの使用が挙げられる。この場合、レトロウイルス等のインテグレーション効率の高いウイルスベクターの使用が可能となる。
また、本発明の血管新生促進剤は、上記のような発現ベクターを含む宿主細胞を有効成分とすることもできる。使用される宿主細胞としては、上記のような発現ベクターのex vivo導入法において、投与対象から標的細胞として取り出される自己細胞、または同種異系(例えば、ヒトの場合、死産の胎児や脳死患者等)もしくは異種(ヒトの場合、ブタやサル等の他の哺乳動物)の個体から取り出した内皮細胞、あるいはそれらの幹細胞(骨髄幹細胞等)やES細胞を培養・分化させて得られる内皮細胞などが例示される。
Ovo2又はその均等物をコードする発現ベクター又は該発現ベクターを担持する宿主細胞を有効成分とする本発明の血管新生促進剤の投与量は、有効成分の種類、分子の大きさ、プロモーター活性、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、Ovo2又はその均等物自体を有効成分とする治療薬を投与する場合の適切な投与量に相当する量のOvo2又はその均等物を、発現ベクターを投与された動物の体内で発現させる程度であることが好ましく、例えば、成人1日あたりベクター量として約2〜約20μg/kg、好ましくは約5〜約10μg/kgである。
Ovo2は、血管新生を正に調節するシグナル伝達を仲介する転写因子であることから、この転写因子の発現又は機能を抑制することにより、血管新生を抑制することができる。従って、別の実施態様では、本発明の血管新生抑制調節剤は、Ovo2の発現又は活性を抑制する物質を有効成分として含有する血管新生抑制剤であり得る。血管新生抑制剤の使用が意図される疾患としては、血管新生の抑制が所望される疾患(例えば、血管新生が亢進している疾患)である限り特に限定されないが、例えば、腫瘍、白血病、眼内血管新生性疾患、慢性関節リウマチ、血管腫、Basedow病が挙げられる。
Ovo2の発現を抑制する物質としては、転写抑制因子、RNAポリメラーゼ阻害剤、RNA分解酵素、蛋白質合成阻害剤、蛋白質分解酵素、蛋白質変性剤等が例示されるが、細胞内で発現する他の遺伝子・蛋白質に及ぼす悪影響を最小限にするためには、標的分子に特異的に作用し得る物質であることが重要である。従って、Ovo2の発現を抑制する物質の好ましい一態様は、Ovo2に対するアンチセンス核酸である。アンチセンス核酸は、(a)Ovo2をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸、(b)Ovo2をコードする塩基配列からなる核酸もしくは転写後プロセッシングにより該塩基配列を生じる初期転写産物と、治療対象動物の生理的条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、且つハイブリダイズした状態でOvo2の転写又は翻訳を抑制する核酸であり得る。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明のアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成することもできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服することができる。
本発明のアンチセンス核酸の長さは、Ovo2のmRNAもしくは初期転写産物と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNA(初期転写産物)の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、好ましくは約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。アンチセンス核酸が約25merのオリゴDNAの場合、生理条件下でOvo2のmRNAとハイブリダイズし得る塩基配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、通常、約80%以上の同一性を有するものであればよい。塩基配列における同一性は、上述したアミノ酸配列における同一性に準じて決定することができる。
本発明のアンチセンス核酸の標的配列は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、Ovo2もしくはその機能的断片の翻訳が阻害される配列であれば特に制限はなく、Ovo2のmRNAの全配列であっても部分配列であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、アンチセンス核酸としてオリゴヌクレオチドを使用する場合は、標的配列はOvo2のmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。好ましくは5’末端からコード領域のN末端側の領域であり、最も好ましくは開始コドン近傍の塩基配列である。また、標的配列は、それに相補的なアンチセンス核酸がヘアピン構造等の二次構造を形成しないようなものを選択することが好ましい。
さらに、本発明のアンチセンス核酸は、Ovo2のmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるOvo2遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
Ovo2の発現を抑制する物質の別の好ましい一態様は、Ovo2のmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムである。リボザイムとは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイムは、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。Ovo2のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(10): 5572-5577 (2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
Ovo2の発現を抑制する物質のさらに別の一態様は、Ovo2のmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的な二本鎖オリゴRNA、siRNAである。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。
Ovo2の発現を抑制する物質の他の態様はデコイ核酸である。デコイ核酸とは、転写調節因子が結合する領域を模倣する核酸分子をいい、Ovo2の発現を抑制する物質としてのデコイ核酸は、Ovo2に対する転写活性化因子が結合する領域を模倣する核酸分子であり得る。本発明では、デコイ核酸としては、Ovo2に対する転写活性化因子が結合する領域を模倣するものが好ましい。デコイ核酸は、Ovo2に対する転写活性化因子が結合する領域と完全に一致する塩基配列を有していてもよいが、当該転写活性化因子が結合し得る程度の同一性を保持していればよい。デコイ核酸の長さは転写活性化因子が結合する限り特に制限されない。また、デコイ核酸は、転写活性化因子が結合する領域を反復して含んでいてもよい。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムは、Ovo2のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。RNAi活性を有する二本鎖オリゴRNA、デコイ核酸は、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製することもできる。
Ovo2の機能的な発現を翻訳後レベルで抑制する物質の好ましい一態様は、Ovo2に特異的親和性を示し、且つOvo2の機能を抑制するOvo2抗体である。該Ovo2抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、該Ovo2抗体は、抗体のフラグメントであってもよい。抗Ovo2抗体のフラグメントは、Ovo2に対する抗原結合部位(CDR)を有する限りいかなるものであってもよく、例えば、Fab、F(ab’)2等が挙げられる。
例えば、ポリクローナル抗体は、Ovo2あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリア蛋白質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods, 81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得することができる。
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、Ovo2抗体は、ヒトと他の動物(例えば、マウス等)のキメラ抗体であることが好ましく、ヒト化抗体であることがさらに好ましい。ここでキメラ抗体とは免疫動物由来の可変部(V領域)とヒト由来の定常部(C領域)を有する抗体をいい、ヒト化抗体とはCDRを除いて他の領域をすべてヒト抗体に置き換えた抗体をいう。キメラ抗体やヒト化抗体は、例えば、上記と同様の方法により作製したマウスモノクローナル抗体の遺伝子からV領域もしくはCDRをコードする配列を切り出し、ヒト骨髄腫由来の抗体のC領域をコードするDNAと融合したキメラ遺伝子を適当な発現ベクター中にクローニングし、これを適当な宿主細胞に導入して該キメラ遺伝子を発現させることにより取得することができる。
また、Ovo2が転写因子であり、細胞中に存在する蛋白質であること、従って細胞中に導入する必要があることを考慮すれば、Ovo2抗体としてはより低分子の抗体、例えば単鎖抗体が好ましい。単鎖抗体は、上述の通り調製したモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから作製することができる。先ず、当該ハイブリドーマからcDNAライブラリーを作製し、保存性の高い免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の定常領域・可変領域のN末端配列等をコードするcDNAをプローブに用いて、当該cDNAライブラリーをスクリーニングしてOvo2モノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖可変領域をコードするcDNAの単離を行う。次いで、これら軽鎖及び重鎖可変領域のコーディング領域をリンカーを介して読み枠を合わせて連結し、これを発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞中で発現させることで、Ovo2に対する単鎖抗体を得ることができる。
Ovo2の機能的な発現を翻訳後レベルで抑制する物質の別の好ましい態様は、Ovo2に特異的に結合してその機能的発現を阻害するオリゴヌクレオチド、即ちアプタマーである。Ovo2に対するアプタマーは、例えば、以下の手順により取得することができる。即ち、まず、DNA/RNA自動合成機を用いてランダムにオリゴヌクレオチド(例えば、約60塩基)を合成し、オリゴヌクレオチドのプールを作製する。次に、目的の蛋白質、即ちOvo2と結合するオリゴヌクレオチドをアフィニティーカラムで分離する。分離したオリゴヌクレオチドをPCRで増幅し、前述の選抜プロセスで再度選抜する。この過程を約5回以上繰り返すことによって、Ovo2に親和性の強いアプタマーを選抜することができる。
Ovo2の発現を抑制する物質を有効成分とする血管新生抑制剤は、血管新生が亢進している組織(例えば、腫瘍部位)の細胞内に取り込まれて初めてその治療活性を発揮し得るが、有効成分である核酸や蛋白質分子は細胞内に吸収されにくく、しかも体内で速やかに分解されやすい。また、通常これらの分子の取り込みはエンドサイトーシスにより行われるので、リソソーム酵素による分解を受けやすい。従って、Ovo2の発現を抑制する物質を、虚血部位又は動脈付近の細胞に安定な状態で送達し、細胞膜の透過性を向上させ、リソソーム/エンドソームからの薬剤の遊離を促進するようなドラッグデリバリーシステム(DDS)の設計が重要である。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド等のオリゴ核酸分子の場合、上述のようにリン酸結合や糖部分(2’位、3’位等)を修飾した核酸の他、リン酸と糖部分をペプチド結合に置き換えたPNA、リン酸骨格の代わりにモルフィン骨格を有するオリゴヌクレオチド等、化学修飾により、ヌクレアーゼに対する安定性、細胞内移行、リソソーム/エンドソームからの遊離を改善させることが可能であり、これらの修飾オリゴ核酸はDNA/RNA自動合成機を用いて容易に調製することができる。
一方、ポリL−リジン、アビジン、コレステロール又はリン脂質成分等の付属基をオリゴヌクレオチドや抗体分子に結合させることによって、細胞膜透過性を向上させることもできる。
さらに、オリゴヌクレオチドや抗体分子をカチオン性リポソームに被包して製剤化することもできる。リポソーム中に被包することにより、有効成分はヌクレアーゼやプロテアーゼによる分解から保護され、且つリポソーム膜のカチオン性表面は細胞表面の陰性荷電分子と結合してエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。カチオン性リポソームは、例えば、DOTMA、DDAB、DMRIE等のカチオン性脂質と、膜融合能を持つ中性脂質DOPEを混合して調製することができる。核酸や蛋白質はポリアニオン性であるので、カチオン性リポソームと混合することにより容易に複合体を形成する。また、リポソーム膜に虚血部位又は動脈付近の細胞で特異的に発現する細胞表面分子に対する抗体もしくはリガンドを組み込むことにより、細胞特異的なターゲッティングを行うこともできる。例えば抗Ovo2抗体自体をリポソーム膜に組み込むこともできる。
また、エンドサイトーシスにより取り込まれたリポソームをリソソーム酵素による分解から保護するために、pH感受性リポソーム(酸性pHで膜が不安定化し、リソソームと融合する前にエンドソーム小胞から細胞質に内容物が遊離される)や、紫外線照射等によりウイルスRNAを完全に断片化したセンダイウイルスとの融合リポソーム(センダイウイルスの膜融合能を用いてエンドサイトーシス経路を回避する)を使用することも好ましい。
上記のような剤形に設計された本発明の血管新生抑制剤は、適当な無菌のビヒクルに溶解もしくは懸濁して、経口的又は非経口的に投与され得る。非経口的投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、気道内等の全身投与、あるいは虚血部位又は動脈付近への局所投与が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、側脳室内への局所投与が挙げられる。
本発明の血管新生抑制剤の投与量は、有効成分の種類、分子の大きさ、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.0008〜約2.5mg/kg、好ましくは約0.008〜約0.025mg/kgの範囲であり、これを1回もしくは数回に分けて投与することができる。
Ovo2の発現を抑制する物質が、アンチセンス核酸、リボザイム、siRNA、デコイ核酸、アプタマーのような核酸分子、あるいは単鎖抗体である場合、本発明の血管新生抑制剤は、これらの核酸分子をコードする発現ベクターであってもよいし、また、該発現ベクターを担持する宿主細胞であってもよい。ここで使用される発現ベクターや宿主細胞は、上記の血管新生促進剤と同様のものであってよい。さらに、これらの血管新生抑制剤の投与経路及び投与量についても、上記の血管新生促進剤のそれぞれに関して例示したものを、同様に好ましく使用することができる。
本発明はまた、Ovo2の機能を抑制する物質を有効成分とする血管新生抑制剤を提供する。
Ovo2の機能を抑制する物質の一態様はデコイ核酸である。ここでのデコイ核酸は、Ovo2が結合するScl遺伝子の転写調節領域を模倣する核酸分子であり、このような領域は、例えば、5’-G(G/C/T)GGGGG-3’(配列番号17)であり得る。デコイ核酸はOvo2が結合する領域と完全に一致する塩基配列を有していてもよいが、Ovo2が結合し得る程度の同一性を保持していればよい。デコイ核酸の長さはOvo2が結合する限り特に制限されない。また、デコイ核酸は、Ovo2が結合する領域を反復して含んでいてもよい。
Ovo2の機能を抑制する物質の別の態様はOvo2ドミナントネガティブ変異体である。Ovo2ドミナントネガティブ変異体とは、Ovo2に対する変異の導入(例えば、機能領域の欠失)によりその生理活性が低減したものをいう。該変異体は、天然Ovo2と競合することで間接的にその活性を阻害することができる。該変異体としては、DNA結合ドメインであるジンクフィンガー領域を含み、且つ他の領域(例えば、リガンド結合ドメイン、リガンド結合ドメイン以外の機能領域)の少なくとも一部を欠失又は置換等し、DNA結合機能以外の機能が低減しているものが好ましい。
ドミナントネガティブ変異体はOvo2に変異を導入することにより作製することができる。変異の導入方法としては、当該分野で周知の方法が挙げられ、例えば、その蛋白質をコードする塩基配列を変換する方法を用いることができる。DNAの塩基配列の変換は、PCRや公知のキット等を用いて、ODA-LAPCR法やGupped duplex法やKunkel法等の方法に従って行なうことができる。
また、本血管新生抑制剤は、Ovo2の発現又は活性を調節する物質をスクリーニングすることによって得ることができる。従って、本発明はまた、Ovo2の発現又は活性を評価する、血管新生を調節し得る物質のスクリーニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法は、Ovo2遺伝子の発現を調節する物質のスクリーニング方法(以下、必要に応じて「スクリーニング方法I」と省略)、Ovo2の活性を調節する物質のスクリーニング方法(以下、必要に応じて「スクリーニング方法II」と省略)に大別される。
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
「Ovo2遺伝子」は、配列番号1又は3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又はそのスプライシングバリアント(例えば、配列番号5、配列番号7、配列番号9又は配列番号11に示される塩基配列、あるいは配列番号13又は配列番号15に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド)、アリルバリアント(SNP、ハプロタイプを含むポリヌクレオチド)で示される遺伝子である。Ovo2遺伝子の発現は、単一のポリヌクレオチドについてのみ評価してもよいが、複数のポリヌクレオチドについて評価することもできる。例えば、複数のスプライシングバリアントの発現をそれぞれ定量してもよい。また、複数のスプライシングバリアントについてそれぞれの発現比を評価してもよい。従って、Ovo2遺伝子の発現量を調節する被検物質として、Ovo2遺伝子の各スプライシングバリアントの発現比を変化させるものを選択することもできる。
スクリーニング方法Iは、Ovo2遺伝子の発現量を変動させる物質を同定可能な限り特に限定されないが、例えば、(a)被検物質とOvo2遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、(b)被検物質を接触させた細胞におけるOvo2遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被検物質を接触させない対照細胞における上記遺伝子の発現量と比較する工程、(c)(b)の比較結果に基づいて、Ovo2遺伝子の発現量を調節(例えば、上昇、減少)する被検物質を選択する工程を含む。
Ovo2遺伝子の発現を測定可能な細胞とは、Ovo2 mRNA又は蛋白質の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいい、例えば、mRNA又は蛋白質の発現レベルを直接的に評価可能な細胞としては、Ovo2遺伝子を天然で発現可能な細胞が挙げられ、一方、Ovo2 mRNA又は蛋白質の発現レベルを間接的に評価可能な細胞としては、Ovo2遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞が挙げられる。
Ovo2遺伝子を天然で発現可能な細胞は、Ovo2 mRNAを潜在的に発現するものである限り特に限定されず、Ovo2遺伝子を恒常的に発現している細胞、Ovo2遺伝子を誘導条件下(例えば、薬物での処理)で発現する細胞などであり得る。また、当該細胞として、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを用いることができる。初代培養細胞は、Ovo2の発現部位に相当する細胞を単離することで作製することができる。Ovo2の発現部位は、RT−PCR等の当該分野で周知の方法により確認することができる。また、当該初代培養細胞から誘導された細胞株は、上記初代培養細胞から作製することができる。細胞は、昆虫、動物等に由来するものであり得るが、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、マウス)由来である。
また、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株についても、Ovo2遺伝子を恒常的に又は誘導条件下で発現する限り如何なる細胞を用いることができるが、当該細胞としては、例えば、血管内皮細胞株C166が挙げられる。
Ovo2遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、Ovo2の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。Ovo2遺伝子の転写調節領域、レポーター遺伝子は、好ましくは、複製可能なベクター中に挿入されている。Ovo2の転写調節領域は、Ovo2遺伝子の発現を制御している領域である限り特に限定されない。
レポーター遺伝子は、検出可能なタンパク又は酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(Green Fluorescent Protein)遺伝子、GUS(β−Glucuronidase)遺伝子、LUS(Luciferase)遺伝子、CAT(Chloramphenicolacetyl transferase)遺伝子等が挙げられる。
Ovo2の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、Ovo2遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、Ovo2に対する生理的な転写調節因子を発現し、Ovo2遺伝子の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、Ovo2遺伝子を天然で発現可能な細胞と同様の細胞が好ましい。
スクリーニング方法Iでは、被検物質は、Ovo2遺伝子の発現を測定可能な細胞と培養培地で接触される。培養培地は、Ovo2遺伝子の発現を測定可能な細胞に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
Ovo2遺伝子を発現可能な細胞を用いた場合、発現量の測定は、mRNA又は蛋白質を対象として行なわれる。mRNAの発現量は、例えば、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノザンブロッティング等により測定される。特定のスプライシングバリアントを測定する場合には、該バリアントに特異的なプライマーを設計して、RT−PCRにより測定することができる。蛋白質の発現量は、例えば、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(E. Engvall et al. Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法などを用いることができる。特定のスプライシングバリアントを測定する場合には、該バリアントに特異的なエピトープに対する抗体を作製して、免疫学的手法により測定することができる。また、レポーター遺伝子を含む細胞が用いられた場合、発現量は、レポーター遺伝子のシグナル強度に基づき測定される。
さらに、Ovo2遺伝子を発現可能な細胞を用いた場合、核内におけるOvo2の発現量を評価することで、血管新生を調節し得る被検物質をスクリーニングすることもできる。Ovo2は、核内、細胞質に存在するが、核内に移行したOvo2のみがScl遺伝子の転写調節を担っている。従って、核内と細胞質との局在を変動させる物質は、Scl遺伝子の転写調節活性を制御できると考えられる。細胞内局在の変動は、当該分野で周知の種々の方法により測定することができる。例えば、GFP遺伝子と融合させたOvo2遺伝子を適切な細胞に導入し、培養培地において被検物質の存在下で培養する。次いで、共焦点顕微鏡により細胞内、核内における蛍光シグナルを観察し、被検物質の非存在下での共焦点顕微鏡像と比較すればよい。また、Ovo2に対する抗体を用いる免疫染色によっても、Ovo2の細胞内局在を評価することができる。
発現量の比較は、Ovo2遺伝子の発現量における有意差の有無に基づいて行なわれる。また、発現量は、複数のスプライシングバリアントの発現量をそれぞれ比較してもよく、各スプライシングバリアントの発現比を比較してもよい。なお、被検物質を接触させない対照細胞におけるOvo2遺伝子の発現量は、被検物質を接触させた細胞におけるOvo2遺伝子の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
次いで、Ovo2遺伝子の発現量を調節する被検物質が選択される。このように選択された被検物質は、血管新生が関連する疾患の予防・治療に有用である。ここで、Ovo2遺伝子の発現量を調節する被検物質として発現量を上昇させる被検物質を選択した場合、該被検物質は、血管新生の促進が所望される疾患、例えば、虚血性疾患または動脈疾患の予防・治療に有用である。虚血性疾患または動脈疾患は、血液の供給不全または動脈の機能低下を伴う疾患である限り特に限定されないが、例えば、虚血性心疾患、心筋梗塞、急性心筋梗塞、心筋症、狭心症、不安定狭心症、冠動脈硬化、心不全、閉塞性動脈硬化症、Buerger病、血管損傷、動脈塞栓症、動脈血栓症、臓器動脈閉塞または動脈瘤等が挙げられる。また、Ovo2遺伝子の発現量を調節する被検物質として発現量を減少させる被検物質を選択した場合、該被検物質は、血管新生の抑制が所望される疾患(例えば、血管新生が亢進している疾患)である限り特に限定されないが、例えば、腫瘍、白血病、眼内血管新生性疾患、慢性関節リウマチ、血管腫、Basedow病が挙げられる。
また、本発明は、Ovo2の活性を調節する物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法II)を提供する。
スクリーニング方法IIは、Ovo2の活性を調節する物質を同定可能な限り特に限定されないが、例えば、(a)被検物質をOvo2結合性物質に接触させる工程、(b)(a)の工程に起因して生じるOvo2の活性を測定し、該活性を被検物質を接触させない場合のOvo2の活性と比較する工程、(c)(b)の比較結果に基づいて、Ovo2の活性の調節(例えば、上昇、低下)をもたらす被検物質を選択する工程を含む。Ovo2の活性を調節する物質は、Ovo2結合性物質に対するOvo2の結合活性(Ovo2とOvo2結合性物質との間の相互作用)を調節する物質、あるいはOvo2の転写調節活性を有する物質であり得る。
Ovo2結合性物質とはOvo2が相互作用する物質であり、蛋白質、核酸のいずれであってもよく、例えば、Ovo2と共役する転写因子、Ovo2結合性核酸等が挙げられる。従って、これら転写共役因子とOvo2との間の相互作用の促進又は妨害を指標として、Ovo2の活性を調節する物質を選択することができる。この場合、転写共役因子によるOvo2の活性の調節を評価する方法としては、例えば、表面プラズモン共鳴(後述の方法と同様に行なわれる)、ツーハイブリッドシステムが挙げられる。
また、Ovo2結合性核酸としては、Ovo2が結合する核酸である限り特に限定されず、Ovo2の結合部位を含む任意の遺伝子の転写調節領域であり得るが、具体的には、5’-G(G/C/T)GGGGG-3’(配列番号17)、Scl遺伝子の転写調節領域からなる核酸、あるいはこれらを単独又は複数含有する核酸が挙げられる。また、Scl遺伝子の転写調節領域として、Scl遺伝子のプロモーター領域が挙げられる。具体的には、Scl遺伝子のプロモーター1a、1b、4が好ましく用いられるが、なかでもプロモーター4(Sclの第4エクソンの上流200bp)が好ましい。
Ovo2結合性物質に対するOvo2の結合活性は、当該分野で周知の種々の方法により測定し得る。このような方法の第一の態様は、表面プラズモン共鳴による方法である。例えば、Ovo2結合性核酸をチップ上に固定し、該チップ上にOvo2、被検物質を含む溶液をロードし、Ovo2結合性核酸にOvo2、被検物質を接触させる(工程(a)に対応)。次いで、表面プラズモン共鳴法により、被検物質の存在下でOvo2結合性核酸に対するOvo2の結合及び解離を測定し、Ovo2のみを含む溶液をロードした場合の結合及び解離と比較する(工程(b)に対応)。そして、結合及び解離の速度あるいは結合量についての比較結果に基づいて、Ovo2の結合活性を調節する物質が選択される(工程(c)に対応)。なお、本例示では、Ovo2結合性核酸をチップ上に固定したが、Ovo2をチップ上に固定し、Ovo2結合性核酸をロードしても同様の解析が可能である。また、この方法では、Ovo2はDNA結合ドメインであるジンクフィンガー領域を保持していれば、その他の領域を欠失していてもよい。
Ovo2結合性物質に対するOvo2の結合活性を測定する方法の第二の態様は、バインディングアッセイである。例えば、適切な放射性同位体又は蛍光物質で標識されたOvo2結合性核酸に、被検物質の存在下でOvo2を接触させる(工程(a)に対応)。次いで、Ovo2に対する抗体を用いて、Ovo2に結合していないOvo2結合性核酸から、Ovo2及びそれに結合したOvo2結合性核酸を分離し、放射性同位体又は蛍光物質から発するシグナルの強度に基づき、被検物質の存在下でOvo2結合性核酸に対するOvo2の結合を測定し、被検物質の非存在下でのシグナル強度と比較する(工程(b)に対応)。そして、シグナル強度についての比較結果に基づいて、Ovo2の結合活性を調節する物質が選択される(工程(c)に対応)。この方法では、Ovo2はDNA結合ドメインであるジンクフィンガー領域を保持していれば、その他の領域を欠失していてもよい。
Ovo2に対する被検物質の転写調節活性は、当該分野で周知の種々の方法により測定し得る。このような方法の第一の態様は、レポーターアッセイである。この場合、レポーター遺伝子のシグナル強度の定量的解析を可能とするため、Ovo2結合性核酸は、レポーター遺伝子に機能可能に連結される。レポーター遺伝子は、スクリーニング方法Iで挙げたものと同様のものを用いることができる。
Sclの転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、Scl遺伝子の転写調節を評価できる限り、即ち、レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。該導入される細胞としては、例えば、スクリーニング方法Iで用いられるOvo2遺伝子を天然で発現可能な細胞、Ovo2遺伝子をコードする発現ベクターを含む細胞が用いられる。これら細胞は、好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト、マウス)由来の細胞であり、発現ベクターは当該細胞で発現可能であるものが用いられる。また、これら細胞として、Scl遺伝子を天然で発現可能な細胞を用いることもできる。
Ovo2の転写調節活性の上昇又は低下を指標としてスクリーニング方法IIを行なう場合、被検物質は、例えば、Ovo2遺伝子を天然で発現可能な細胞と培養培地中で培養することによって、Ovo2結合性核酸と接触される。培養培地は、Ovo2遺伝子を発現可能な細胞に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
活性の比較は、Ovo2の活性における有意差の有無に基づいて行なわれる。また、活性の比較は、Ovo2の複数のスプライシングバリアントに対してそれぞれ行なってもよい。なお、被検物質を接触させない場合のOvo2の活性は、被検物質の接触に起因して生じるOvo2の活性の測定に対し、事前に測定した活性であっても、同時に測定した活性であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した活性であることが好ましい。
次いで、Ovo2の活性を調節する被検物質が選択される。このように選択された被検物質は、血管新生が関連する疾患の予防・治療に有用である。ここで、Ovo2の活性を調節する被検物質として活性の上昇をもたらす被検物質を選択した場合、該被検物質は、血管新生の促進が所望される疾患、例えば、虚血性疾患または動脈疾患の予防・治療に有用である。虚血性疾患または動脈疾患は、血液の供給不全または動脈の機能低下を伴う疾患である限り特に限定されないが、例えば、虚血性心疾患、心筋梗塞、急性心筋梗塞、心筋症、狭心症、不安定狭心症、冠動脈硬化、心不全、閉塞性動脈硬化症、Buerger病、血管損傷、動脈塞栓症、動脈血栓症、臓器動脈閉塞または動脈瘤等が挙げられる。また、Ovo2遺伝子の活性を調節する被検物質として活性の低下をもたらす被検物質を選択した場合、該被検物質は、血管新生の抑制が所望される疾患(例えば、血管新生が亢進している疾患)である限り特に限定されないが、該疾患としては、腫瘍、白血病、眼内血管新生性疾患、慢性関節リウマチ、血管腫、Basedow病が例示される。
なお、血管新生の調節能、特にその程度を確認するため、本発明のスクリーニング方法(スクリーニング方法I、II)により得られたOvo2の発現又は活性を調節し得る被検物質について、血管新生の調節能を評価してもよい。血管新生の調節能の評価は、例えば、細胞外マトリクス上において、当該被検物質を導入した血管内皮細胞又は当該被検物質に接触させた血管内皮細胞を培養し、形成された管腔の長さ又は枝分かれの数を測定することにより行なうことができる。血管新生の調節能の評価は、市販のキット、例えば、血管新生キット(クラボウ バイオメディカル部製)、Fibrin Gel In Vitro Angiogenesis Assay Kit(Chemicon International製)を用いて行なってもよい。
また、本発明は、本発明のスクリーニング方法により得られる血管新生調節剤(例えば、血管新生促進剤、血管新生抑制剤)を提供する。
上記のようなスクリーニング方法により選ばれた、血管新生を調節し得る物質は、任意の医薬上許容される担体を配合することにより血管新生が関連する疾患の予防・治療薬とすることができる。従って、本発明は、本発明のスクリーニング法により選抜されたOvo2の発現又は活性を調節し得る物質を有効成分とする血管新生が関連する疾患の予防・治療薬を提供する。
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量のリガンドを溶解させた液剤、有効量のリガンドを固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量のリガンドを懸濁させた懸濁液剤、有効量のリガンドを溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。投与方法が虚血部位又は動脈付近への局所注入の場合、有効成分であるリガンドを人工脳髄液に溶解もしくは懸濁させた注射液剤が好ましい。あるいは、コラーゲン等の生体親和性の材料を用いて、徐放性製剤とすることもできる。プルーロニックゲルは体温でゲル化し、それ以下の低温では液体であることから、リガンドをプルーロニックゲルとともに局所注入して標的組織周辺でゲル化させることにより、長期持続性とすることができる。当該リガンド製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、リガンドおよび医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
本発明のリガンド製剤の投与量は、活性、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたりリガンド量として約0.0008〜約2.5mg/kg、好ましくは約0.008〜約0.025/kgである。
本発明はまた、Ovo2遺伝子に変異を導入させてなるOvo2機能欠損動物を提供する。当該動物はヒト以外の動物であり、また、ヘテロ変異動物であっても、ホモ変異動物であってもよい。当該動物は、Ovo2ゲノム領域の少なくとも一部の削除、あるいはOvo2ゲノム領域における他のDNAの挿入、置換等によりOvo2遺伝子に変異が導入されている。これらの変異により、例えば、コドンの読み枠が変化し、あるいはプロモーター又はエクソンの機能が破壊されるなどし、Ovo2機能不全が引き起こされる。かかるOvo2機能欠損動物は、Ovo2に起因する疾患、例えば遺伝性疾患、血管新生の異常を伴う疾患などのモデル動物であり得る。
本発明のOvo2機能欠損動物は、ヒト以外の動物である限り特に限定されないが、好ましくは哺乳動物である。当該哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等のげっ歯類、サル、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコが挙げられる。また、遺伝的形質が固定した近交系の動物であることが望ましく、さらに、SPF技術が確立している動物種においてはSPF動物を使用することがより望ましい。
本発明のOvo2機能欠損動物がヘテロ変異動物である場合には、該ヘテロ変異動物は、例えば、ターゲティングベクターをES細胞に導入し、得られた組換えES細胞を胚に移植し、次いでキメラ胚を偽妊娠仮親に移植し、出産させ、その後、産まれたキメラ動物を正常動物と交配させることによって作出することができる。また、このようにして得られたヘテロ変異動物同士をさらに交配させることで、ホモ変異動物を作出することもできる。
以下、マウスを例に挙げ、Ovo2機能欠損動物の作出の一例を詳述する。
先ず、ターゲティングベクターを構築する。ターゲティングベクターは、例えば、Ovo2ゲノム領域の少なくとも一部を2以上のリコンビナーゼ標的配列の間に含むように構築することができる。2以上のリコンビナーゼ標的配列は、同一方向又は反対方向にて導入し得る。また、リコンビナーゼ標的配列としては、当該分野で公知の配列、例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列を用いることができる。なお、ターゲティングベクターの基本骨格となるベクターは特に限定されず、宿主細胞(例えば、E.coli)中で自律複製可能なものであればよい。
ターゲティングベクターの構築に際しては、先ず、Ovo2ゲノムDNA断片を単離する必要があるが、ゲノムDNA断片は、相同組換えの際に効率よく組換えが生じるよう、用いるES細胞が由来する動物種と同一の動物種から単離するのが好ましい。また、相同組換えの効率をさらに上げるために、ES細胞が由来する同一種の動物のうち同じ系統の動物から、ゲノムDNAを単離することがより好ましい。
Ovo2ゲノム領域の一部としては、Ovo2遺伝子コード領域、あるいは当該コード領域よりも5’側又は3’側に相当するエクソン、イントロンのいずれか又は両方の一部あるいは全部であり得、適宜選択することができるが、例えば、ジンクフィンガー領域をコードするエクソン及び/又はイントロン、好ましくはエクソン5である。また、一般に、ターゲティングベクターによってゲノムDNAの相同組換えを効率よく生じさせるためには、相同領域が長いほどよい。一方、ターゲティングベクターの種類によって、挿入可能なDNAの長さは異なる。従って、ターゲティングベクターの種類に応じて、DNAの長さを変更することが必要とされる。従って、Ovo2ゲノム領域の少なくとも一部のサイズは、例えば0.5kb〜100kbであり、好ましくは0.5kb〜10kbである。
ターゲティングベクターはまた、ターゲティングベクターを導入した組換えES細胞をより容易にスクリーニングできるように構築されうる。従って、ターゲティングベクターは、例えば、ポジティブ選別、ネガティブ選別等の選別用の遺伝子をさらに含んでいてもよい。ポジティブ選別用遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。一方、ネガティブ選別用遺伝子としては、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)遺伝子などが挙げられる。なお、ポジティブ選択用配列の両側に位置するリコンビナーゼ標的配列を、Ovo2ゲノム領域の両側に位置するリコンビナーゼ標的配列とは別のリコンビナーゼ標的配列にすることで、ポジティブ選別用遺伝子を後に削除することもできる。
次いで、上述のように構築したターゲティングベクターをマウスES細胞中に導入する。ターゲティングベクターがマウスES細胞中に導入されると、該ES細胞において、Ovo2ゲノム領域の相同組換えが生じる。本発明のターゲティングベクターをマウスES細胞に導入する方法としては、例えば、エレクトロポレーション法が用いられる。
マウスES細胞は、マニュアルを参考に自ら作製してもよいが、既存の樹立されたES細胞が入手可能である。例えば、特定の研究機関などより入手可能であるマウス由来のES細胞としては、ES−D3細胞(ATCC.No.CRL−1934)、ES−E14TG2a細胞(ATCC.No.CRL−1821)、SCC−PSA1細胞(ATCC.No.CRL−1535)、E14.1細胞、TT2細胞、AB−1細胞、J1細胞、R1細胞、RW−4細胞などが挙げられる。また、ES細胞としては、現時点で、マウスES細胞以外に、ハムスター、ブタ、ウシ、アカゲザル等の哺乳動物由来のものが樹立されているので、これらを用いることもできる。
得られたES細胞について、Ovo2ゲノム領域の組換えを確認するため、ターゲティングベクター導入後のES細胞をスクリーニングすることが好ましい。このようなスクリーニングとしては、例えば、ポジティブ選別、ネガティブ選別等によるスクリーニング、遺伝子型に基づくスクリーニングが挙げられる。
ターゲィングベクターが導入されたES細胞は、フィーダー細胞上で培養される。例えば、該ES細胞は、STO繊維芽細胞のような適当なフィーダー細胞上でLIF(1〜10000U/ml)存在下に炭酸ガス培養器内(好ましくは、5%炭酸ガス、95%空気又は5%酸素、5%炭酸ガス、90%空気)で約37℃で培養するなどの方法で培養し、継代時には、例えば、トリプシン/EDTA溶液(通常、0.001〜0.5%トリプシン/0.1〜5mM EDTA、好ましくは約0.1%トリプシン/1mM EDTA)処理により単細胞化し、新たに用意したフィーダー細胞上に播種する方法などがとられる。このような継代は、通常1〜3日毎に行なうが、この際に細胞の観察を行い、形態的に異常な細胞が見受けられた場合はその培養細胞は破棄することが望まれる。
必要に応じて、ES細胞は、相同組換えによりES細胞に導入されたポジティブ選別用マーカー及び/又はネガティブ選別用マーカーにより、培養液中で選択培養されうる。選択培養における培養液には、選択マーカー遺伝子の種類に応じて、例えばネオマイシン(G418)やハイグロマイシンBを含有させることができる。通常、選択培養6〜8日目に生存しているコロニーが耐性クローンとして採取される。次いで、薬剤耐性クローンをピックアップし、増殖させる。その後、相同組換えを起こした形質転換体をより確実に選択するため、遺伝子型に基づいてスクリーニングすることができる。遺伝子型は、例えば、PCR法、サザンブロット法などによって確認されうる。また、上記のスクリーニングに加え、組換えES細胞の核型を解析してもよい。核型解析では、選別された組換えES細胞において染色体異常がないことが確認される。なお、この場合、ES細胞の核型はターゲティングベクターの導入前に予め確認しておくことが好ましい。
次いで、得られた組換えES細胞を、胚(例えば、8細胞期胚又は胚盤胞)に移植し、キメラ胚を作製する。ES細胞を胚内に移植する方法としては、例えば、マイクロマニピュレーション法、アグリゲーション法などが挙げられる。
続いて、得られたES細胞移植胚を偽妊娠仮親の子宮内に移植して出産させる。仮親にするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上述の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、妊娠・出産させることによりキメラマウスが作出されうる。作出されたキメラマウスは、Ovo2について正常な遺伝子座を有する細胞と変異した遺伝子座を有する細胞との両者から構成されるキメラマウスである。
このようなキメラマウスと正常マウスとの交配より得られたマウス個体群から、Ovo2について変異した遺伝子座を有する細胞のみから構成されるマウスを、例えば、被毛色の判定等により選別することにより得ることができる。このようにして得られたマウスは、通常、Ovo2に関するヘテロ変異動物である。また、このようにして得られたヘテロ変異マウス同士を交配させることにより、ホモ変異マウスを得ることができる。
本発明のOvo2機能欠損動物は、Ovo2の生理学的機能、例えば、血管新生の解析に有用である。また、本発明のOvo2機能欠損動物に由来する卵子、精子、受精卵、胚性幹細胞、組織(例えば、血管系、心臓、精巣、卵巣、胎盤)なども、本発明のOvo2機能欠損動物の作出、あるいはOvo2の生理学的機能の解析に有用である。さらに、本発明のOvo2機能欠損動物に由来する細胞もまた、Ovo2の生理学的機能、例えば、血管新生の解析に有用である。Ovo2の生理学的機能の解析に好適な細胞としては、例えば、血管内皮細胞、線維芽細胞、血管平滑筋細胞、心内膜細胞が挙げられ、また、当該細胞は、初代培養細胞、株化細胞のいずれであってもよい。これら細胞は、当該分野で周知の方法により調製することができる。
以下に参考例、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
実施例1:Ovo2ノックアウトマウスの作製
Ovo2の機能をインビボで解析するため、Ovo2ノックアウトマウスを作製した。
先ず、Ovo2遺伝子を、129/SvJゲノミックライブラリー (stratagene) より単離し、DNA結合ドメインであるジンクフィンガーモチーフの一部をコードするOvo2遺伝子エクソン5付近の10kb EcoRI-SacIフラグメントを使用してターゲティングベクターを構築した。FRT部位 (Nakanoら, Nucleic Acid Res., 29: e40 (2001)) をPGKneobpAカセット (Sorianoら, Cell, 64; 693-702 (1991)) の各末端に連結し、このFRT-neoカセットを、ポジティブ選択のために、Ovo2遺伝子エクソン5の下流のPstI部位に挿入した。LoxP部位を、Ovo2遺伝子エクソン5の上流のApaLI部位、FRT-neoカセットが挿入されているPstI部位に挿入した。DT-Aカセット (Yagiら, Anal. Biochem. 214; 77-86 (1993)) を、ネガティブ選択のために、ターゲティングベクターの5’端に連結した。構築したターゲティングベクターの概要を、図1Aに示す。
次いで、線状にしたターゲティングベクター (20 μg) を107のE14.1 ES細胞(Nakaeら, Immunity, 17(3): 375-87 (2002); Kuhnら, Science, 254(5032): 707-10 (1991); Hooperら, Nature, 326(6110): 292-5 (1987)に従い作製)にエレクトロポレーションし、G418 250 μg/mlと共に7〜10日間インキュベートして選択を行なった。G418耐性クローンを、下記のサザンブロット解析によりスクリーニングした。Ovo2領域を欠失させるため、Creリコンビナーゼを一過的に発現する組換えアデノウイルスを、G418耐性ES細胞に感染させた (Kanegaeら, Nucleic Acid Res. 23: 3816-3821 (1995))。相同組換えを生じたES細胞をPCRによりスクリーニングし、下記のPCR及びサザンブロット解析により確認した(図1B)。2種のES細胞クローン、3D2及び4D3をC57BL/6J×BDF1 8細胞と凝集させ、数種のキメラを作製した。2種のES細胞クローン由来の雄性キメラを雌性C57BL/6Jマウスと交配させ、作製したヘテロ接合体を交雑させ、次いでホモ接合体を作製した。いずれの子孫も同一の表現型を示したので、3D2クローン由来の子孫を以後の解析に用いた。
サザンブロット解析及びPCRによるゲノタイピング
ゲノミックDNAをES細胞及びマウス尾より単離した。DNAを制限酵素 (PvuII、XhoI+HindIII) で消化し、5’端及び3’端プローブを用いて標準的な手順に従ってサザンブロット解析を行なった。一方、PCR解析については、DNAを血液から単離し、卵黄嚢及び胚セグメントをプロテイナーゼKにより溶解した。DNA及びライセートを、下記プライマーを用いてPCRで解析した。
5’-CATAGCCCATGTGTGGCTGCTG-3’ (イントロン4)
5’-GCCGGCCTTAAAACATCCCAC-3’ (イントロン5)
参考例1:Ovo2ノックアウトマウスの解析
次いで、実施例1で作製したOvo2ノックアウトマウスを解析した。
ヘテロ接合マウスは雄、雌のいずれもが健康で生殖力があり、異常な表現型は観察されなかった。また、ヘテロ接合マウス同士の交配から産まれた子孫266匹として野生型80匹、ヘテロ接合体181匹が確認されたが、ホモ接合変異体は見出せなかった(表1)。このことは、Ovo2変異が劣性且つ胚致死であることを示す。
次いで、胚の死亡時期を決定し、Ovo2-/-胚の形態学的表現型をキャラクタライズするために、妊娠の異なる段階におけるOvo2-/-胚をPCRによって解析した(図1C)。E7.5-E12.5におけるOvo2-/-の頻度は、ほぼメンデルの法則に従った(表1)。Ovo2-/-胚はE9.5に明らかに変質し、E10.5までに死亡した。Ovo2-/-遺伝子型を保有する胚構造及び/又は再吸収組織は、E12.5まで回収できた。このことは、Ovo2-/-胚がE9.5-E10.5までに死亡することを示す。
以上より、Ovo2が胚の発達に必須であることが明らかとなった。
参考例2:マウス発生初期段階でのOvo2発現パターンの解析
胚発生におけるOvo2の役割を明らかにするために、RT-PCR、ノザンブロット解析、in situハイブリダイゼーションによって、マウス発生初期段階でのOvo2発現パターンを解析した。
その結果、Ovo2-/-胚の死亡が確認されたE9.5、E10.5において、Ovo2が野生型マウスの胎盤では高発現しており、胚と卵黄嚢では発現が低いことが確認された(図2A)。Ovo2 mRNA発現は、E7.5受胎物全体のノザンブロット解析によって検出できなかった(図2B)。胎盤におけるmRNA発現は、ノザンブロット解析によりE8.5で検出され、その後も持続した(図2B)。mRNAのサイズは、成体マウスの精巣に特異的に発現しているmRNAのサイズと同一であった。野生型胚のin situハイブリダイゼーションにより、Ovo2 mRNAがE8.5絨毛膜板で発現すること(図2C及びD)、次いで、E9.5(図2F)、E11.5(図2G)において、伸長した絨毛膜栄養胞と尿嚢中胚葉を含む迷路層でOvo2が発現することが示された。巨大栄養胞細胞の一部は、E8.5にポジティブシグナルを示した(図2E)。
以上より、Ovo2-/-胚の死亡が確認されたE9.5、E10.5では、野生型胚においてOvo2が胎盤やその他の特定領域で特異的に発現していることが明らかになった。
RT-PCR、ノザンブロット解析
total RNAは、製造業者の使用説明書に従いTRIZOL (Invitrogen) を用いて抽出した。RT-PCR解析は、total RNAをDNase Iで処理し、次いでp(dN)6 ランダムプライマーを用いて逆転写し、適切なプライマーを用いて行なった。ノザンブロット解析は、全長Ovo2 cDNA及びGAPDH cDNAをプローブとして用いてtotal RNA 10 μgで行なった。
組織化学及びin siteハイブリダイゼーション
胚及び組織を4%パラホルムアルデヒド/PBSで4℃にて一晩固定し、パラフィンに包埋し、3〜5 μmに切断し、次いでヘマトキシリン・エオジンで染色した。既報 (Schlaegerら, Development 121: 1089-1098 (1995)) に従い抗PECAM-1 (CD31) 抗体 (MEC13.3, BD Biosciences) を用いることによりwhole-mount免疫染色を行なった。in site解析については、固定したサンプルを冷却器中で凍結し、10〜15 μmに切断し、製造業者のプロトコルに従いハイブリダイゼーションに供した。cRNAプローブは、全長MOVO-A cDNA、並びにPCRにより増幅したcDNA、PL-1 (1-816)、4311 (1-678)、Gcm1 (215-1541) 、Flk1 (233-2813)、SCL (1775-2916) からジゴキシゲニン標識システムを用いて合成した。
参考例3:Ovo2 -/- 胚の形態学的・組織学的解析
胚発生におけるOvo2の役割を明らかにするために、マウス発生初期段階でのOvo2発現パターンに続き、Ovo2-/-胚を形態学的・組織学的に解析し、野生型胚と比較した。
その結果、E8.5では、いずれの遺伝子型の胚も8-13対の体節を有していた(図3A)。Ovo2-/-胚はほぼ正常であったが、心臓が小さい徴候を示した(図3B)。野生型胚とOvo2-/-胚との間における発達の差異は、E9.5に明白になった。具体的には、血液細胞が、E9.5野生型胚の心臓と血管で容易に検出された。また、E9.5野生型胚では、心臓が強く拍動し、3個の鰓弓を介する血液循環が確認された(図3L)。一方、Ovo2-/-胚(図3M)は、E9.5で発達が阻害された。具体的には、Ovo2-/-胚はサイズが小さく、異常な構造を有していた(例えば、非常に小さい心臓など)。心臓は小さいながらも拍動していたが、心臓と血管には血液細胞が存在しなかった。また、頭と尾の両方の領域で出血が観察された。
また、E8.5での組織学的解析より、E8.5 Ovo2-/-胚では、主要器官系(神経管、前腸、背側大動脈など)の構造と大きさが正常であることが示された(図3C−F)。正常な胚では心臓管が形成され、心筋と心内膜が管内に存在した(図3E)。Ovo2-/-胚でも心臓管が形成され、心筋と心内膜が管内に認識できたが、心臓の発達は僅かに遅延しているようであった(図3F)。次いで、内皮細胞を可視化するためPECAM-1免疫染色を行なった。その結果、E8.5 Ovo2-/-胚における心臓発達の欠陥は、PECAM-1免疫染色によって明瞭に示された(図3H−K)。具体的には、野生型胚では、十分に発達した心内膜がループ状心臓で観察され、大動脈嚢は明らかに厚かった(図3H及びI)。また、背側大動脈が明瞭に染色され、頭部では組織化した血管構造が観察された。一方、Ovo2-/-胚では、心臓が小さく、ループ形成は明瞭ではなかった(図3J及びK)。背側大動脈は野生型胚、Ovo2-/-胚で形成されたが、血管構造リモデリングはOvo2-/-胚の頭部では起こらなかった。
さらに、E9.5での組織学的解析では、心筋層、心内膜層、正常な小柱形成が野生型胚の心室で観察されたが(図3N及びP)、Ovo2-/-心臓では、心内膜組織の減少と異常な心室形成が生じ、心筋の小柱形成は観察されなかった(図3O及びQ)。PECAM-1免疫染色によれば、心臓・血管形成の欠陥は、E8.5よりもE9.5胚でより明らかであった。野生型胚では、分岐した血管が頭部で観察され、また、血管新生により形成された体節間血管が確認された(図3R)。一方、Ovo2-/-胚では、血管は体全体に無秩序に広がり、また、心臓には小さな組織塊、頭部には数個の非連結血管が認められた(図3T)。野生型胚では体節に配置され、且つ体節間境界の間に位置する典型的な体節間血管(図3R、▲)はOvo2-/-尾領域に存在せず、また、Ovo2-/-胚では多数の無秩序な血管が見出された(図3S、▲)。
ところで、心内膜、背側大動脈は脈管形成により形成され、脳血管、腎血管、体幹間血管は血管新生により形成されることが知られている(Drakeら, Blood 95; 1671-1679 (2000))。野生型胚では、心内膜は正常であった(図3N及びP)。一方、Ovo2-/-マウスでは、E8.5に心内膜形成の減少が観察された(図3O及びQ)。また、Ovo2-/-胚では背側大動脈が正常に形成されたが(図3D、J、K)、E8.5では一部の血管形成は減少しているようであった。さらに、E9.5では、頭部領域、体幹間血管における血管形成は明らかに異常であった(図3S−U)。これらの事実は、Ovo2-/-胚において血管新生の欠陥が生じていることを示す。
以上より、Ovo2-/-胚は、脈管形成ではなく血管新生に重大な欠陥を有していること、従ってOvo2は血管新生に関与する重要な因子であることが明らかとなった。
参考例4:Ovo2 -/- 胚の卵黄嚢の形態学的・組織学的解析
次いで、Ovo2-/-胚の卵黄嚢を形態学的・組織学的に解析し、野生型胚と比較した。
その結果、E8.5 Ovo2-/-卵黄嚢は、ミツバチ巣状の1次血管叢を呈し(図4B)、血管は、野生型胚で観察される(図4A、C)ように血液細胞を含んでいた(図4D)。野生型とOvo2-/-卵黄嚢との間で血管のネットワーク及び構造に明白な違いは認められなかった。しかし、E9.5では、野生型卵黄嚢は血管ネットワークの広範なリモデリングを示し、大きな卵黄血管を形成した(図4E、G)。一方、Ovo2-/-卵黄嚢は、このような卵黄血管を発達させることができず、胚外体腔液量は増加した(図4F、H)。E9.5卵黄嚢の1次血管叢(図4H)は、依然としてE8.5卵黄嚢の1次血管叢(図4B)と同一であった。E9.5卵黄嚢の組織学的解析より、野生型胚では、血管は中胚葉層と内胚葉層の間で密接に連結し、多数の血液細胞を含んでいたが、Ovo2-/-胚では、血管は異常に肥大し、僅かな血液細胞しか含んでいなかった(それぞれ、図4I、J)。
ところで、Scl-/-卵黄嚢は、卵黄血管への血管ネットワークの血管新生リモデリングが欠損していることが報告されている(Robbら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 7075-7079 (1995); Shivdasaniら, Nature373, 432-434 (1995); Visvaderら, Genes Dev. 12; 473-479 (1998))。従って、Ovo2-/-卵黄嚢の表現型は、卵黄血管への血管ネットワークの血管新生リモデリングを欠損するという点で、Scl-/-卵黄嚢の表現型と一致していた。また、E8.0 Scl-/-胚では、脈管形成が正常であることの報告があり(Elefantyら, Blood 94: 3754-3763 (1999))、この点でも、参考例3に示した通り、Ovo2-/-胚の表現型はScl-/-胚と一致していた。
以上より、Ovo2-/-胚は、Scl-/-胚と同様の表現型を示すことが明らかとなった。
参考例5:Ovo2 -/- 胚の胎盤についての解析
続いて、Ovo2-/-胚の胎盤を形態学的・組織学的に解析し、野生型胚と比較した。
その結果、Ovo2-/-胚では、胎盤発生の第1段階である絨毛膜に対する尿膜の融合は、E9.0において影響を受けなかった(データ示さず)。E9.0-E9.5では、野生型胎盤の尿膜血管は迷路層に延び、母体の血液洞と胎児血管が非常に入り混じっていた(図5A)。この迷路層の形成はまた、Ovo2-/-胎盤でも観察されたが(図5B)、野生型胎盤よりもOvo2-/-胎盤において、尿膜血管の侵入の程度がより低く、胎児血液細胞の数はより少なかった。E10.5野生型胎盤では、胎児血管は枝分かれし、迷路層に広範に侵入し、この層自体が拡大していた(図5C)。Ovo2-/-胎盤では、この侵入プロセスはE10.5で停止し、僅かな血液細胞のみが絨毛膜に存在していた(図5D)。
次いで、胎盤における欠陥を明らかにするために、Ovo2-/-胎盤と正常胎盤との間において幾つかの栄養芽細胞マーカーと内皮細胞マーカーとの発現を比較した。
その結果、巨大細胞層と海綿芽細胞層は見かけ上正常であり、栄養芽細胞特異的遺伝子である胎盤ラクトゲン-1と4311がE9.5 Ovo2-/-胎盤で発現していた(データ示さず)。Gcm1は、絨毛膜栄養芽細胞で発現し、合胞体栄養細胞の分化と迷路層の形成に必要であることが以前に示されている(Anson-Cartwrightら, Nat. Genet. 25: 311-314 (2000);Schreiberら, Mol. Cell Biol.20: 2466-2474 (2000))。Ovo2+/-胎盤では、Gcm1発現はE9.5(図5E)、E10.5(図5G)にて広がり、迷路層に拡大した。しかし、Ovo2-/-胎盤では、E9.5におけるGcm1発現は迷路層の狭い範囲に限定され(図5F)、E10.5で顕著に減少した(図5H)。既報 (Breierら, Dev. Dyn. 204: 228-239 (1995)) の通り、VEGF 2型レセプターであるFlk1は内皮細胞で発現し、正常胎盤の迷路層全体に見出すことができた(図5I及びK)。Ovo2-/-胎盤ではFlk1は尿膜で発現し、E9.5ではその発現は迷路層に拡大したが(図5J)、E10.5ではその発現は尿膜に限定された(図5L)。Ovo2-/-胚の血管は見かけ上迷路層に侵入していたが、胎盤にさらに侵入せず、また分岐しないようであった。このことは、Ovo2が血管新生による胎盤血管系の正常な分岐又は存続に必要であるが、脈管形成による尿膜血管の初期形成に本質的に必要ではないことを示す。
以上より、Ovo2が脈管形成ではなく血管新生に重要な因子であることが再度確認された。
参考例6:Ovo2標的遺伝子の同定
Ovo2変異体における欠陥を引き起こすOvo2標的遺伝子を同定するために、RT-PCRを用い、脈管形成、血管新生、及び心臓発生に関与することが知られている遺伝子の発現レベルを測定した。
その結果、E9.5では、Scl mRNAの発現が胎盤、胚で顕著に減少するが、卵黄嚢では緩やかに減少することを見出した(図6A下段)。一方、脈管形成、血管新生に関与する他の遺伝子の発現レベルは、コントロールの同腹仔と同一であった。血管内皮増殖因子 (VEGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF) は、内皮細胞増殖及び遊走に直接関与しており、内皮系列の発生と分化に関する適切なマーカーであると考えられている(Risau, W., Nature 386; 671-674, 1997)。Ovo2-/-マウスで見出された正常な脈管形成と一致して、野生型とOvo2-/-マウスとの間では、VEGF及びそのレセプターであるFlt1、Flk1の発現に差異は無かった(図6A)。Ovo2-/-マウスの胎盤では、bFGF mRNAの発現レベルは減少せず、むしろ増加した。また、野生型とOvo2-/-マウスとの間では、アンジオポエチン1 (Ang1)、Ang2、それらのレセプターであるTie1、Tie2、及び血小板由来増殖因子B (PDGFB) などの血管新生に関与する遺伝子の発現にも差異は無かった。さらに、両方のマウスにおけるα-平滑筋アクチン (αSMA) の同様の発現は、Ovo2-/-マウス血管壁の血管平滑筋細胞が正常に分化することを示す。
更に、Scl、心臓の形態形成に関与する遺伝子であるNkx2.5、Hand1、Hand2、MEF2C、心室心内膜の発生、小柱形成に関与する遺伝子であるFlk1、Flt1、Flt4、Ang1、Tie2、血管内皮−カドヘリン (VE-Cad)、及びVEGFの発現をRT-PCRで解析した。図6Bに示すように、Scl以外の遺伝子は、E8.5の野生型胚、Ovo2-/-胚において、及びE9.5の野生型心臓、Ovo2-/-心臓において同様の発現レベルを示した。一方、E8.5の野生型胚とOvo2-/-胚との間で、Scl mRNAの発現に有意差は認められなかったが、E9.5では、Scl mRNAの発現はOvo2-/-心臓で顕著に減少した。
ここで、(a) 表現型に特に差異が認められなかったE8.5の野生型胚とOvo2-/-胚との間では、Scl mRNAの発現でも同様に有意差が認められず、表現型に明確に差異が認められたE9.5の野生型心臓とOvo2-/-心臓との間では、Scl mRNAの発現において有意差が認められたこと(参考例3参照)、(b) E9.5 Ovo2-/-心臓では、Scl mRNAの発現が顕著に低下していたこと、(c) Ovo2-/-胚がScl-/-胚と同様の表現型を示し(参考例4参照)、また、Ovo2が脈管形成ではなく血管新生に重要な因子であるという点でSclと一致すること(参考例3、5参照)、の3つの事実は、E9.5 Ovo2-/-心臓における異常がScl mRNAの発現不全に起因し、また、Scl mRNAの発現不全がOvo2の発現不全に起因し得ることを示す。
以上より、Ovo2がScl発現の制御を介して血管新生を調節することが示唆された。
参考例7:Ovo2によるSCLの発現制御
Ovo2は、配列5’-G(G/T/C)GGGGG-3’(配列番号17)に結合し、転写因子として働くことを我々は最近示した(Unezakiら,投稿中)。図6Cに示すように、Scl遺伝子は、3個のプロモーター、即ち、オルタネート5’エキソンにおけるプロモーター1a、1b (Bockampら, Blood 86: 1502-1514 (1995)) 及びエキソン4に含まれるプロモーター4 (Courtesら, J. Biol. Chem. 275; 949-958 (2000)) により駆動され、また、上記Ovo2結合コンセンサス配列がこれらプロモーター領域に幾つか見出される。
そこで、初めに、マウス卵黄嚢内皮細胞株C166(ATCCより入手)、マウス赤白血病細胞株F4N(ECACCより入手)、COS-7細胞におけるScl、Ovo2の発現をRT-PCRにより解析した。
その結果、F4N細胞はScl mRNAを高発現していたが、Ovo2 mRNAを発現していなかった(図6D)。一方、C166細胞はScl mRNA、Ovo2 mRNAのいずれをも低発現していた。
次いで、種々のコンストラクトを作製し、C166細胞、F4N細胞、COS-7細胞にトランスフェクトして、それらのプロモーター活性を検討した。その結果、F4N細胞では、-2E1a-Luc、-2E1b-Lucコンストラクトで生じたルシフェラーゼ活性は、pGV-Bで得られたバックグラウンド値よりも、それぞれ9倍、14倍高い値を示した(図6D)。C166細胞では、-2E1a-Luc、-4E1b-Luc、-2E1b-Lucコンストラクトはルシフェラーゼ活性を僅かに増加させ、-2E1b-Lucコンストラクトは約30倍増加させた。また、4E-Luc、4E-Luc-E6+4コンストラクトはルシフェラーゼ活性をそれぞれ324倍、75倍増加させた。COS-7細胞では、いずれのコンストラクトもルシフェラーゼ活性を増加させた。
次いで、Ovo2によるScl発現制御を解析するために、Ovo2-A発現プラスミド、種々のコンストラクトを、C166細胞、F4N細胞、COS-7細胞にトランスフェクトして、それらのプロモーター活性を検討した。その結果、プロモーター活性はOvo2-Aによって強く抑制された(図6E)。
以上より、Ovo2はSclの発現を直接制御する転写調節因子であることが明らかとなった。また、参考例1〜7より、Ovo2がScl発現を直接制御することで血管新生を調節していることが示された。
プラスミド構築
マウスScl遺伝子フラグメントは、マウスゲノムDNAを用いてPCR増幅した。得られたPCR産物をpGV-Bベクター (TOYO B-Net製) にサブクローニングして、以下のコンストラクトを作製した。
-4E1a-Luc (エクソン1aの-4 kb〜エクソン1aの4.1 kb領域)
-2E1a-Luc (エクソン1aの-2 kb〜エクソン1aの2.7 kb領域)
-4E1b-Luc (エクソン1aの-4 kb〜エクソン1bの4.8 kb領域)
-2E1b-Luc (エクソン1aの-2 kb〜エクソン1bの2.7 kb領域)、
E4-Luc (エクソン4の-0.2kb〜エクソン4の0.6kb領域)
E4-Luc-E6+4は、エクソン6から3’-UTR 4.1kbまでをカバーする4.8kbをE4-Lucの下流に付加することで構築した。Ovo2発現ベクター (pEF- Ovo2) は、Ovo2-A (Masuら, FEBS Lett. 421: 224-228 (1998)) をコードするcDNAを、pEF-BOSベクターに由来し、EFプロモーターにより駆動されるpEF0Aベクターに挿入することで構築した。
トランスフェクションアッセイ
トランスフェクションアッセイ、ルシフェラーゼ・β-ガラクトシダーゼアッセイは、既報 (Sakitaniら, Genes Cells 3; 321-330 (1998)) に従い行なった。ルシフェラーゼレポータープラスミド 10 μg、Ovo2-A発現プラスミド (pEF- Ovo2) 又は空のpEF0Aプラスミド 2 μg、内部コントロールのβ-ガラクドシダーゼ発現プラスミド (pEF-LacZ) 50 ngを、F4N細胞 (4×106/チューブ) にエレクトロポレーションした。FuGENE 6トランスフェクション試薬 (Roche製) を用いてルシフェラーゼレポータープラスミド 2 μg、pEF- Ovo2又はpEF0A 0.4 μg、pEF-LacZ 20 ngをC166細胞 (1×105/ディッシュ) にトランスフェクトした。Relative light unit (RLU) は、β-ガラクトシダーゼ活性に対してノーマライズした。トランスフェクション実験は3連で行なった。
実施例2:Ovo2遺伝子の発現量を測定する、血管新生を調節し得る物質のスクリーニング
マウス卵黄嚢内皮細胞株C166(ATCCより入手)を、被検物質の存在下、非存在下で、37℃、48時間培養後、細胞からtotal RNAを抽出する。抽出したtotal RNA、Platinum (登録商標) 定量RT-PCR ThermoScriptTM One-Stepシステム (Invitrogen製) を用いて、抽出したtotal RNAを増幅し、Ovo2プライマー各200nM、6-FAM-標識TaqMan (登録商標) プローブを用いてABI PRISM (登録商標) 7700で検出する。被検物質の存在下で培養された細胞におけるレポーターシグナル(ΔR)を、被検物質の非存在下で培養された細胞におけるレポーターシグナルと比較し、被検物質がOvo2の発現を調節するか否かを評価する。
実施例3:Ovo2の結合活性を測定する、血管新生を調節し得る物質のスクリーニング
3.1.Ovo2-GST融合蛋白質の調製
Ovo2をコードするcDNAをpGEX4T-1ベクター (Amersham Bioscience製) にサブクローニングし、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ (GST) 融合蛋白質をE.coliで発現させ、グルタチオン−アガロースビーズ (Sigma-Aldrich製) により精製する。純度は、SDS-PAGE、CBB染色により決定する。
3.2.BIACORE(登録商標)での結合活性の測定
文献 [Anal Biochem. 1998 Dec 15; 265(2):340-50] に記載されている一般的な方法を用いる。上記手順で調製したOvo2-GST融合蛋白質 (例えば1〜10μg) を10mMの酢酸バッファー(pH 4)に溶解し、BIACORE(登録商標)のセンサーチップCM5の表面のマトリックスにカルボキシル基を介して固定化する。HBSバッファー(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社製)をセンサーチップに20μl/分の流速で流し、バックグラウンドの値を記録する。途中からHBSバッファーに10nM〜10μMの濃度で溶解した被検化合物に切り替えて1分間流し、薬剤の結合に伴う値の変化を記録する。再び、薬剤を含まないHBSバッファーに切り替え、結合した薬剤の解離に伴う値の変化を記録する。また、GST及び被検物質を用いて同様の実験を行い、コントロールとする。結合と解離の速度、あるいは最大結合量から被検化合物とOvo2との親和性を計算する。
実施例4:Ovo2の転写調節活性を測定する、血管新生を調節し得る物質のスクリーニング
上述のルシフェラーゼレポータープラスミド 2 μg、上述のOvo2発現プラスミド (pEF- Ovo2) 又は空のpEF0Aプラスミド 0.4 μg、内部コントロールのβ-ガラクドシダーゼ発現プラスミド (pEF-LacZ) 20 ngを、FuGENE 6トランスフェクション試薬 (Roche製) を用いてC166細胞 (1×105/ディッシュ) にトランスフェクトする。次いで、プラスミドが導入された細胞を、それぞれ、被検物質の存在下、非存在下で、37℃、48時間培養する。トランスフェクション実験は3連で行ない、また、Relative light unit (RLU) は、β-ガラクトシダーゼ活性に対してノーマライズする。被検物質の存在下で培養された細胞におけるRLUを、被検物質の非存在下で培養された細胞におけるRLUと比較し、被検物質がOvo2の活性を調節するか否かを評価する。
本発明の血管新生調節剤は、Ovo2の発現又は機能の調節という新規作用機序により血管新生に関連する疾患を予防・治療し得る。また、本発明のスクリーニング方法は、血管新生に関連する疾患を予防・治療し得る、Ovo2の発現又は機能を調節する物質を同定し得る。さらに、本発明のOvo2機能欠損非ヒト動物は、血管新生に関連する疾患のモデル動物となり得る。
Aは、Ovo2遺伝子に変異を有するマウスの作製についてターゲティングストラテジーを示す図である。黒ボックスはOvo2遺伝子エクソン5領域を、斜線ボックスはloxP部位をそれぞれ示し、NeoはFRT-ネオマイシン耐性カセットを、DTはジフテリア毒素遺伝子をそれぞれ示す。交換されるEcoRI-SacIフラグメント (10 kb) は太字で示している。制限酵素部位については、E, EcoRI; H, HindIII; P, PvuII; S, SacI; X, XhoIである。 Bは、ESクローンのサザンブロット解析を示す図である。HindIII-XhoIフラグメントのサイズは、7.5 kb (野生型アリル)、6 kb (floxedアリル、変異アリル) であり、PvuIIフラグメントのサイズは8.8 kb (野生型アリル、変異アリル)、4.4 kb (floxedアリル) である。 Cは、Ovo2+/-マウスの交雑より得られたE8.5胚のPCRによるゲノタイピングを示す図である。PCR産物のサイズは、847 bp (野生型)、347 bp (変異アリル) である。 Aは、E9.5、E10.5の野生型胎盤、胚、卵黄嚢におけるOvo2、GAPDHのRT-PCR解析を示す図である。 Bは、E7.5 野生型受胎物 (conceptus)、E8.5−E15.5胎盤、E9.5成体精巣、Ovo2-/-胎盤におけるOvo2(上段)、GAPDH(下段)のノザンブロット解析を示す図である。 C−Gは、E8.5 (C−E)、E9.5 (F)、E11.5 (G) の野生型胚についてIn situハイブリダイゼーションの結果を示す図である。 D、Eは、Cの大小ボックス領域の拡大図である。 略号は、ch, 絨毛膜板; de, 脱落膜; em, 胚; epc, 外胎盤錐; gc, 巨大栄養膜細胞; la, 胎盤迷路; sp, 海綿栄養芽層; ys, 卵黄嚢である。 A、B、L、Mは、E8.5(A,B)、E9.9(L,M)のOvo2+/-胚(A)、野生型胚(L)、Ovo2-/-胚(B,M)のwhole-mount顕微鏡像をそれぞれ示す図である。A、B中の矢印は心臓を指し示す。L、M中の▲は鰓弓を指し示す。M中の矢印はOvo2-/-胚の頭領域中の出血を指し示す。 C−F、N−Qは、E8.5のパラフィン包埋Ovo2+/-胚(C,E)、Ovo2-/-胚(D,F)、E9.5の野生型胚(N,P)、Ovo2-/-胚(O,Q)についてヘマトキシリン・エオジン染色した横断面(C−F)、矢状断面(P,Q)を示す図である。C、Dの上端はCaudalであり、下端はrostalである。C、D中の矢印は、背側大動脈 (da) を指し示す。N中の▲は、心筋層小柱を指し示す。 略号は、ac, 心房; as, 大動脈嚢; ba, 鰓弓; da, 背側大動脈; ec, 心内膜; fg, 前腸; h, 心臓; mc, 心筋層; nt, 神経管; ot, 動脈幹; vc, 心室; ys, 卵黄嚢である。 Gは、図3−1においてC−Fで示される切片の平面模式図である。 H−K、R−Uは、E8.5(H−K)、E9.5(R−U)の野生型胚(H,I,R)、Ovo2-/-胚(J,K,S−U)のwhole mount PECAM-1免疫染色を示す図である。R、S中の▲は、体節間血管を指し示す。 T、Uは、S中の頭、尾領域の拡大図である。 略号は、as, 大動脈嚢; da, 背側大動脈; h, 心臓; vc, 心室である。 A、Bは、E8.5の野生型卵黄嚢(A)、Ovo2-/-卵黄嚢(B)におけるwhole-mount PECAM-1免疫染色を示す図である。 C、Dは、E8.5の野生型卵黄嚢(C)、Ovo2-/-卵黄嚢(D)におけるヘマトキシリン・エオジン染色を示す図である。 E、Fは、野生型胚(E)、Ovo2-/-胚(F)の肉眼形態学を示す図である。E中の矢印は、野生型胚の大きな卵黄血管を示す。 略号は、am, 羊膜; bc, 胎児血液細胞; em, 胚; pI, 胎盤; rm, ライヘルト膜; ve, 内臓内胚葉; vm, 内臓中胚葉である。 G、Hは、E9.5の野生型卵黄嚢(G)、Ovo2-/-卵黄嚢(H)におけるwhole-mount PECAM-1免疫染色を示す図である。 I、Jは、E9.5の野生型卵黄嚢(I)、Ovo2-/-卵黄嚢(J)におけるヘマトキシリン・エオジン染色を示す図である。 略号は、bc, 胎児血液細胞; rm, ライヘルト膜; ve, 内臓内胚葉; vm, 内臓中胚葉である。 A−Dは、E9.5(A,B)、E10.5(C,D)でのOvo2+/-胎盤(A)、Ovo2-/-胎盤(B,D)、野生型胎盤(C)におけるヘマトキシリン・エオジン染色による組織学的解析を示す図である。迷路層は拡大して示している。 略号は、al, 尿膜; bc, 胎児血液細胞; ch, 絨毛膜; la, 迷路層; ma, 母体血管洞; sp, 海綿栄養芽層である。 E−Hは、E9.5(E,F)、E10.5(G,H)のOvo2+/-胚(E,G)、Ovo2-/-胚(F,H)の合胞体栄養細胞におけるGcm-1のin situハイブリダイゼーションを示す図である。 I−Lは、E9.5(I,J)、E10.5(K,L)のOvo2+/-胚(I,K)、Ovo2-/-胚(J,K)の胎盤迷路におけるVEGFについてin situハイブリダイゼーションの結果を示す図である。 M−Pは、E9.5(M,N)、E10.5(P,Q)のOvo2+/-胚(M,P)、Ovo2-/-胚(N,P)の内皮細胞におけるFlk1についてin situハイブリダイゼーションの結果を示す図である。 Aは、RT-PCR解析による、Ovo2+/+、Ovo2+/-、Ovo2-/-マウスのE9.5卵黄嚢 (YS)、胎盤 (Pl)、胚 (Em) における血管形成関連遺伝子の発現を示す図である。 Bは、RT-PCR解析による、野生型マウス、Ovo2-/-マウスのE8.5胚、E9.5心臓における心血管形成関連遺伝子の発現を示す図である。 Cは、マウスScl遺伝子、ルシフェラーゼ (Luc) レポーターのコンストラクトを示す図である。エクソンは上に番号を付した白四角で表示している。転写開始部位は折曲矢印で示している。Ovo2結合モチーフ(BS)、G(G/T/C)GGGGG(配列番号9)は、破線で示している。 Dは、Ovo2、SclのmRNA発現、及びSclプロモーター活性を示す図である。 Eは、Ovo2によるScl遺伝子プロモーターのトランス調節を示す図である。*は、プロモーター活性が低いため試験していないことを示す。

Claims (31)

  1. Ovo2の発現又は機能を調節する物質を有効成分として含有する血管新生調節剤。
  2. Ovo2の発現又は機能を促進する物質を有効成分として含有する、請求項1記載の剤。
  3. Ovo2又はその均等物を有効成分として含有する、請求項1記載の剤。
  4. Ovo2又はその均等物をコードする塩基配列を含有する核酸を含む発現ベクターを有効成分として含有する、請求項1記載の剤。
  5. 虚血性疾患または動脈疾患の予防・治療剤である、請求項2〜4いずれか記載の剤。
  6. 虚血性疾患または動脈疾患が虚血性心疾患、心筋梗塞、急性心筋梗塞、心筋症、狭心症、不安定狭心症、冠動脈硬化、心不全、閉塞性動脈硬化症、Buerger病、血管損傷、動脈塞栓症、動脈血栓症、臓器動脈閉塞または動脈瘤である、請求項5記載の剤。
  7. Ovo2の発現または機能を抑制する物質を有効成分として含有する、請求項1記載の剤。
  8. 以下の(a)又は(b)の核酸:
    (a)Ovo2をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含有する核酸、
    (b)Ovo2をコードする塩基配列からなる核酸もしくは転写後プロセッシングにより該塩基配列を生じる初期転写産物と、治療対象動物の生理的条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、且つハイブリダイズした状態でOvo2の転写又は翻訳を抑制する核酸、
    を有効成分として含有する、請求項1記載の剤。
  9. 核酸が発現ベクターに含まれる、請求項8記載の剤。
  10. Ovo2に特異的親和性を有し、且つOvo2の機能を抑制する抗体を有効成分として含有する、請求項1記載の剤。
  11. 腫瘍、白血病、眼内血管新生性疾患、慢性関節リウマチ、血管腫、Basedow病または乾癬の予防・治療剤である、請求項7〜10いずれか記載の剤。
  12. 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、血管新生を調節し得る物質のスクリーニング方法:
    (a)被検物質とOvo2遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程、
    (b)被検物質を接触させた細胞におけるOvo2遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被検物質を接触させない対照細胞における上記遺伝子の発現量と比較する工程、
    (c)上記(b)の比較結果に基づいて、Ovo2遺伝子の発現量を調節する被検物質を選択する工程。
  13. 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、血管新生を調節し得る物質のスクリーニング方法:
    (a)被検物質をOvo2結合性物質に接触させる工程、
    (b)上記(a)の工程に起因して生じるOvo2の活性を測定し、該活性を被検物質を接触させない場合のOvo2の活性と比較する工程、
    (c)上記(b)の比較結果に基づいて、Ovo2の活性の調節をもたらす被検物質を選択する工程。
  14. Ovo2結合性物質が5’-G(G/C/T)GGGGG-3’を含有する核酸である、請求項13記載の方法。
  15. Ovo2結合性物質がSclのプロモーター領域を含有する核酸である、請求項13記載の方法。
  16. 核酸がレポーター遺伝子をさらに含有するものである、請求項15記載の方法。
  17. Ovo2の活性の上昇をもたらす被検物質を選択する血管新生促進剤を探索するための方法である、請求項13〜16いずれか記載の方法。
  18. 血管新生促進剤が虚血性疾患または動脈疾患の予防・治療剤である、請求項17記載の方法。
  19. 虚血性疾患または動脈疾患が虚血性心疾患、心筋梗塞、急性心筋梗塞、心筋症、狭心症、不安定狭心症、冠動脈硬化、心不全、閉塞性動脈硬化症、Buerger病、血管損傷、動脈塞栓症、動脈血栓症、臓器動脈閉塞または動脈瘤である、請求項18記載の方法。
  20. Ovo2の活性の低下をもたらす被検物質を選択する血管新生抑制剤を探索するための方法である、請求項13〜16いずれか記載の方法。
  21. 血管新生抑制剤が腫瘍、白血病、眼内血管新生性疾患、慢性関節リウマチ、血管腫、Basedow病または乾癬の予防・治療剤である、請求項20記載の方法。
  22. 請求項17記載の方法により得られる血管新生促進剤。
  23. 請求項18記載の方法により得られる虚血性疾患または動脈疾患の予防・治療剤。
  24. 虚血性疾患または動脈疾患が虚血性心疾患、心筋梗塞、急性心筋梗塞、心筋症、狭心症、不安定狭心症、冠動脈硬化、心不全、閉塞性動脈硬化症、Buerger病、血管損傷、動脈塞栓症、動脈血栓症、臓器動脈閉塞または動脈瘤である、請求項23記載の剤。
  25. 請求項20記載の方法により得られる血管新生抑制剤。
  26. 請求項21記載の方法により得られる腫瘍、眼内血管新生性疾患、慢性関節リウマチ、血管腫、Basedow病または乾癬の予防・治療剤。
  27. Ovo2遺伝子に変異を導入させてなるOvo2機能欠損非ヒト動物。
  28. ヘテロ変異動物である、請求項27記載の非ヒト動物。
  29. 血管新生の異常を伴う疾患のモデル動物である、請求項27又は28記載の非ヒト動物。
  30. 配列番号16で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
  31. 配列番号15で示される塩基配列、又は配列番号16で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチド。
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WO2020223674A3 (en) * 2019-05-01 2020-12-10 Board Of Regents Of The University Of Texas System Methods and compositions for regulating adipogenesis

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