JP2005179070A6 - 結晶育成装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は、生体高分子の単結晶を効率的に作製することができる装置および方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、(i)第一室を形成する第一室構造体;(ii)第一調節手段;(iii)第二室を形成する第二室構造体;(iv)第二調節手段;(v)上記第一室と第二室のそれぞれの空間を隔離する透析手段;(vi)生体高分子の結晶の出現から成長、並びに溶解に至る全ての過程を、その場で定期的に観察することができる観察手段;を具備する、その場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置を提供することにより、上述した課題を解決する。
【選択図】 図9
【解決手段】 本発明は、(i)第一室を形成する第一室構造体;(ii)第一調節手段;(iii)第二室を形成する第二室構造体;(iv)第二調節手段;(v)上記第一室と第二室のそれぞれの空間を隔離する透析手段;(vi)生体高分子の結晶の出現から成長、並びに溶解に至る全ての過程を、その場で定期的に観察することができる観察手段;を具備する、その場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置を提供することにより、上述した課題を解決する。
【選択図】 図9
Description
本発明は、タンパク質、核酸などの生体高分子の結晶を、効率的に作製する装置に関する。本発明はまた、タンパク質、核酸などの生体高分子の溶液中濃度および結晶化剤濃度をリアルタイムに調節して、当該生体高分子溶液の過飽和領域と準安定領域との間を移行させて、結晶の核形成および結晶の成長を行わせる、生体高分子の結晶を作製するための方法に関する。
X線結晶構造解析では、結晶構造解析を行うための単結晶が必須であり、その単結晶を作製することがこの分野のボトルネックとなっていた。
従来から利用されている単結晶作製のための一般的な方法は、蒸気拡散法である。この方法は、結晶化させる分子の相図中の未飽和領域にある溶液の水分を蒸発させることにより、その結晶化させる分子の濃度および結晶化剤の濃度を増加させ、溶液の状態を相図中の過飽和領域に移行させることにより、結晶成長を開始させ、そして育成していた。この方法では、結晶化させる分子の濃度および結晶化剤の濃度を人為的に調節するわけではないので、ある分子について結晶構造解析を行うための単結晶を作製するために、非常に多数の条件でその分子の溶液を作製し、そのそれぞれについて結晶化を行わせなければならなかった。
従来から利用されている単結晶作製のための一般的な方法は、蒸気拡散法である。この方法は、結晶化させる分子の相図中の未飽和領域にある溶液の水分を蒸発させることにより、その結晶化させる分子の濃度および結晶化剤の濃度を増加させ、溶液の状態を相図中の過飽和領域に移行させることにより、結晶成長を開始させ、そして育成していた。この方法では、結晶化させる分子の濃度および結晶化剤の濃度を人為的に調節するわけではないので、ある分子について結晶構造解析を行うための単結晶を作製するために、非常に多数の条件でその分子の溶液を作製し、そのそれぞれについて結晶化を行わせなければならなかった。
また、この方法では、溶液が蒸発するにつれて、結晶化させる分子の濃度および結晶化剤の濃度はともに増加する方向にしか変化しないため、結晶の核を形成するためにいったん過飽和領域に移行してしまうと、結晶成長のためにより好ましい条件を与える準安定領域にその溶液の条件を移行させることは困難であった。
これらの問題点が存在したため、蒸気拡散法により単結晶を作製するためには、時間的、経済的に非常に無駄が多く存在していた。
蒸気拡散法において従来から存在していた上述した問題を解決するため、ロボットによるハイスループット結晶育成法なるものも考案された(WO 01/92293;Wilding P. and Kricka L.J., TIBTECH, 17, 465-468 (1999))。しかしながら、これは、蒸気拡散法において従来から人間が行ってきたタンパク質溶液の取り扱いを、単に機械化しただけであり、新しい結晶育成手法を提供するわけではないので、この結晶育成法によっても、上述した問題は、未だ解決されていないのが現状である。
WO 01/92293
Wilding P. and Kricka L.J., TIBTECH, 17, 465-468 (1999)
蒸気拡散法において従来から存在していた上述した問題を解決するため、ロボットによるハイスループット結晶育成法なるものも考案された(WO 01/92293;Wilding P. and Kricka L.J., TIBTECH, 17, 465-468 (1999))。しかしながら、これは、蒸気拡散法において従来から人間が行ってきたタンパク質溶液の取り扱いを、単に機械化しただけであり、新しい結晶育成手法を提供するわけではないので、この結晶育成法によっても、上述した問題は、未だ解決されていないのが現状である。
そして、現在においても、分解能が1Å近傍となることを目指した高分解能構造解析や中性子回折法で水素原子や水和構造を決定して、生理機能を原子レベルで解明するのが、構造生物学の基本であることに変わりはなく、そこでは良質な単結晶や1 mm3以上の大きさの単結晶が必要となる。
かかる現在要求されている単結晶のレベルからして、従来のような機械的な試行錯誤の繰り返しだけで要求されているレベルの単結晶を得ることは困難であり、より要求されているレベルの単結晶を得ることができる生体高分子の結晶の製造方法や製造装置の開発が要望されている。
従って、本発明は、生体高分子の単結晶を効率的に作製することができる装置および方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、合理的な結晶育成技術の開発を鋭意続けてきた。その結果、結晶化させるべき目的の生体高分子の溶液中濃度および結晶化剤の溶液中濃度を連続的に変化させることにより、結晶を効率的に育成する方法を開発し、またその方法を実施することができる装置を作製することにより、本発明を完成するに至った。
本発明は第一の態様として、生体高分子を結晶化剤により結晶化させて生体高分子の結晶を得る生体高分子の結晶育成装置であって、
(i) 結晶化させるべき生体高分子を含む第一液を収容するための第一室を形成する第一室構造体;
(ii) 第一室構造体に装着され、第一液中の生体高分子を任意の濃度に操作するための第一調節手段;
(iii) 結晶化剤を含む第二液を収容するための第二室を形成する第二室構造体;
(iv) 第二室構造体に装着され、任意の濃度の結晶化剤を含有する第二液を任意の供給速度で流入出させるための第二調節手段;
(v) 上記第一室と第二室のそれぞれの空間を隔離する透析手段;
(vi) 前記第一室中の第一液内における生体高分子の結晶の出現から成長、並びに溶解に至る全ての過程を、その場で定期的に観察するための観察手段;
を具備する、その場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置を提供することを特徴とする。
(i) 結晶化させるべき生体高分子を含む第一液を収容するための第一室を形成する第一室構造体;
(ii) 第一室構造体に装着され、第一液中の生体高分子を任意の濃度に操作するための第一調節手段;
(iii) 結晶化剤を含む第二液を収容するための第二室を形成する第二室構造体;
(iv) 第二室構造体に装着され、任意の濃度の結晶化剤を含有する第二液を任意の供給速度で流入出させるための第二調節手段;
(v) 上記第一室と第二室のそれぞれの空間を隔離する透析手段;
(vi) 前記第一室中の第一液内における生体高分子の結晶の出現から成長、並びに溶解に至る全ての過程を、その場で定期的に観察するための観察手段;
を具備する、その場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置を提供することを特徴とする。
このように構成された本発明の結晶育成装置は、第一室に結晶化させるべき生体高分子を含む第一液を収容し、第二室に結晶化剤を含有する第二液を収容し、第一室と第二室とを透析手段を間にはさんで隔離することにより、第一液中への第二液中の結晶化剤の連通を維持しつつ、一方で第一液から第二液への生体高分子の拡散は防止し、それにより前記第一液中で連続的に生体高分子の結晶の形成・成長を生じさせ、その結晶の形成・成長をその場で定期的にまたは非定期的にモニターしながら、効率的に生体高分子の結晶を育成するための装置である。
本発明の結晶育成装置は、第一室およびそれを形成する第一室構造体を必須の構成要素とする。第一室は、結晶化させるべき生体高分子を含む第一液を収容することを目的とする。このような第一室構造体の好ましい態様を、図1に示し、この図を参照しながら第一室構造体の構造を説明する。
この第一室を形成する第一室構造体(1)は、内部に貫通した空洞(11)を有し、かつ各壁の壁厚が均一である柱状(直方体状)の形状を有し、第一室構造体の一端は詳細を後述する透析手段(31)を介して第二室との溶液連通が可能な開口(12)を有することを特徴としている。第一室構造体の多端(13)は以下に説明する第一調節手段と接続される。第一室内部で生じる生体高分子の結晶化の観測あるいは第一室内部の生体高分子濃度の測定は、後述するように第一室構造体の壁越しに、光学的な観測手段もしくは光学的な測定手段を用いてモニターすることを特徴とするため、第一室構造体は透明かつ光の吸収・屈折を最小限にする材質・構造で構成されていることが望まれる。このような材質としては、例えば石英、スプラジル(登録商標)、パイレックス(登録商標)ガラス、ホウケイ(登録商標)クラウンガラスなどが上げられるが、これらのものに限定されない。本発明においては石英を使用することが好ましい。さらに、光学的な測定を行う際に、光の屈折、干渉、反射などの現象が生じないようにするため、第一室構造体の壁のうち、光を透過させる部分の壁厚が一定であることが好ましい。このような条件を考慮すると、好ましい一態様において、本発明の第一室構造体(1)は、石英で作製された直方体の筐体内部に、壁厚が一定になるように直方体の空洞(11)が貫通した構造を有する。
第一室構造体の一端には、透析手段をはさんで第一室と第二室とを密着させた際に、透析手段が間隙なく第一室と第二室との間に収納されるように透析手段を設置するための陥凹部(14)および透析手段固定用パッキンを設置するための陥凹部(15)が存在していてもよい。
本発明の結晶育成装置は、第二室およびそれを形成する第二室構造体を必須の構成要素とする。第二室は、結晶化剤を含む第二液を収容することを目的とする。このような第二室構造体の好ましい態様を、図2および図3に示し、これらの図を参照しながら第一室構造体の構造を説明する。
第二室を形成する第二室構造体(2)は、一端には後述する透析手段を介して第一室との溶液連通が可能な開口(21)を有し、他端には第二液を流入させる流入口(23a)および排出する排出口(23b)が設けられていることを特徴とする。この第二液流入口には第二調節手段が接続され、第二液排出口には第二液排出用チューブが取り付けられる。そして、第二液は、第二液流入口(23a)から第二室構造体内部に設置された送入用流路(26a)に入り、空間的に連続している第二室(21)に至り、ついで第二室から空間的に連続している送出用流路(26b)を通って第二液排出口(23b)から排出される。第二室構造体の材質は、特に限定されることはなく、例えば石英、スプラジル(登録商標)、パイレックス(登録商標)ガラス、ホウケイ(登録商標)クラウンガラスなどを使用することができる。
第二室構造体の一端には、透析手段をはさんで第二室と第一室とを密着させた際に、透析手段が間隙無く第二室と第一室との間に収納されるように透析手段固定用パッキンを設置するための陥凹部(25)が存在していてもよい。
本発明の結晶育成装置は、第一調節手段を必須の構成要素とする。第一調節手段は、第一室の体積を連続的に増加・減少させ、その結果として第一室内部の生体高分子濃度を低下・上昇させることを目的とした手段であり、一方の第一室構造体の開口端、すなわち第一室構造体の第一調節手段側開口端(例えば図1においては、13)に接続される。
本発明において、第一室の体積を変化させる態様として、以下の様な方法:
(i) 第一液に溶解せず生体高分子結晶の成長を阻害しない体積変化補助溶液である第三液を使用する方法であって、この場合、第一室中に注入した第三液は第一液と接触し、さらに第一室から第一調節手段として使用するシリンジまで満たされ、このように第三液を満たしたシリンジをシリンジポンプにより加圧・吸引することによって第一室中に注入する第三液の体積を変化させ、その結果第一室中で第三液と接触する第一液の体積を変化させる方法;
(ii) 第一室中で、第一液と体積変化補助溶液である第三液とを、双方の液と反応性のない固形の隔壁、例えばテフロン(登録商標)製の隔壁をあいだに介して接触させる方法であって、この場合、前記隔壁により第一室構造体中に新たに第三室を作製し、前記第三液が第三室および第一調節手段として使用するシリンジまで満たされ、このように第三液を満たしたシリンジをシリンジポンプにより加圧・吸引することによって第一室中の第三液の体積を変化させ、それによって前記隔壁を移動させ、その結果第一室中で前記隔壁と接触する第一液の体積を変化させる方法;
(iii) 第一室中の第一液と反応性のない隔壁、例えばテフロン(登録商標)製の隔壁、を設け、その隔壁そのものをモータ駆動で移動させることにより第一液の体積を変化させる操作方法;
などを使用することができる。本発明においては、(i)または(ii)のいずれかの方法を使用することが好ましい。
(i) 第一液に溶解せず生体高分子結晶の成長を阻害しない体積変化補助溶液である第三液を使用する方法であって、この場合、第一室中に注入した第三液は第一液と接触し、さらに第一室から第一調節手段として使用するシリンジまで満たされ、このように第三液を満たしたシリンジをシリンジポンプにより加圧・吸引することによって第一室中に注入する第三液の体積を変化させ、その結果第一室中で第三液と接触する第一液の体積を変化させる方法;
(ii) 第一室中で、第一液と体積変化補助溶液である第三液とを、双方の液と反応性のない固形の隔壁、例えばテフロン(登録商標)製の隔壁をあいだに介して接触させる方法であって、この場合、前記隔壁により第一室構造体中に新たに第三室を作製し、前記第三液が第三室および第一調節手段として使用するシリンジまで満たされ、このように第三液を満たしたシリンジをシリンジポンプにより加圧・吸引することによって第一室中の第三液の体積を変化させ、それによって前記隔壁を移動させ、その結果第一室中で前記隔壁と接触する第一液の体積を変化させる方法;
(iii) 第一室中の第一液と反応性のない隔壁、例えばテフロン(登録商標)製の隔壁、を設け、その隔壁そのものをモータ駆動で移動させることにより第一液の体積を変化させる操作方法;
などを使用することができる。本発明においては、(i)または(ii)のいずれかの方法を使用することが好ましい。
(i)の方法において第三液として使用することができる第一液に溶解せず生体高分子結晶の成長を阻害しない体積変化補助溶液は、フロリナート、フォンブリンオイル、シリコンオイル、パラフィンオイルなどがあるが、これらのものには限定されない。また、(ii)若しくは(iii)の方法において使用する第一液および第三液と反応性のない固形の隔壁は、例えばテフロン(登録商標)、シリコン、ポリエチレンなどがあるが、これらのものに限定されない。
このように(i)〜(iii)の方法および構成を使用して第一室の体積を減少させると、結果として第一液中の生体高分子の濃度が上昇し;あるいは(i)〜(iii)の方法および構成を使用して第一室の体積を増加させると、結果として第一液中の生体高分子の濃度が低下する。
上述したような(i)〜(iii)の方法を採用する場合、第一調節手段としては、具体的には、シリンジおよびそれを装着したシリンジポンプ、プランジャーポンプ、ピエゾポンプ、ステッピングモーターを使用することができる。本発明の好ましい態様としては、シリンジおよびそれを装着したシリンジポンプを使用する。
上述した方法のうち、(ii)の方法を実現するための第一室および第一室構造体の構成を、図4および図5に示す。ここにおいて、第一室と第二室とは、透析手段(31)および透析手段固定用パッキン(32)を間にはさんで隔離されており、また、隔壁(16)を用いて第三室(17)を作製し、この第三室に第一調節手段(4)から第三液を注入し、そして第三室に満たした第三液の体積を変化させることにより隔壁(16)を移動させる。また、これらの図4および図5において隔壁(16)を取り除くことにより、上述した(i)の方法を実現することができる。
本発明の結晶育成装置は、第二調節手段を必須の構成要素とする。第二調節手段は、任意の濃度の結晶化剤を含有する第二液を第二室に連続的にかつ任意の流量で供給することを目的とした手段であり、第二室構造体の第二液流入口(例えば図2においては、23、23a)に接続される。
第二調節手段により、後述する第一液と第二液の境界部に存在する透析手段(31)を介して第二液中の結晶化剤濃度と第一液中に拡散した結晶化剤濃度との濃度勾配に基づいて、第二液中の結晶化剤を第一液中に拡散させまたは第一液中の結晶化剤を第二液中に拡散させ、それにより結果として第一液中の結晶化剤濃度を所望する濃度に調製することができる。すなわち、第二液中の結晶化剤の濃度を上昇させればそれに伴って第一液中の結晶化剤の濃度も上昇させることができ、一方第二液中の結晶化剤の濃度を低下させればそれに伴って第一液中の結晶化剤の濃度も低下させることができる。
したがって、前記第二調節手段は、第二室内の第二液を環流させることができる手段であればよく、たとえば、第二液に対して溶液を送出することができる1または複数のポンプ、などを使用することができる。この際用いるポンプとしては、具体的には、シリンジ用送液ポンプ、液体クロマトグラフィー用送液ポンプなどが用いられる。
例えば、結晶化剤溶液と結晶化剤を含まない溶媒とを用意し、それらの溶液を任意の割合で混合することにより、第二液中の結晶化剤の濃度を任意に変化させることができる。このような場合には、本発明においては、第二液に対して溶液を送出することができる複数のポンプを使用することが好ましい。すなわち、より具体的には、10%の結晶化剤溶液(A液)と、溶媒のみ(0%の結晶化剤溶液:B液)とを用意し、A液:B液を1:0で混合すれば10%の結晶化剤溶液、2:1で混合すれば約6.7%の結晶化剤溶液、1:1で混合すれば5%の結晶化剤溶液、0:1で混合すれば0%の結晶化剤溶液を調製することができる。
このような2液の任意の比率での混合は、コンピュータおよびそれに格納したソフトウェアにより制御することができる(図9)。すなわち、それぞれ結晶化剤溶液原液(A液)および希釈液(B液)とを含有するシリンジを固定した2台のシリンジポンプに対して、「スタート・ストップ時間の設定」、「供給流量の設定」、「作動時間の設定」、「注入/吸引の運転モード切替え」、「オート/マニュアル切替え」等の指令項目を、ソフトウェアを介して制御コンピュータから送ることにより、A液およびB液の混合比率を制御し、第二液中の結晶化剤濃度を調節する。
第二調節機構には、長時間にわたって結晶化剤溶液を連続的に供給する必要があるため、それぞれのシリンジと第二室との間に、三方電磁弁を介して結晶化剤溶液原液(A液)用リザーバータンクおよび希釈液(B液)用リザーバータンクをそれぞれ接続していてもよい。シリンジ中の溶液が減少してきたら、三方電磁弁の流路を切り替えた上で、シリンジポンプを吸引することにより、リザーバータンク中の溶液をシリンジ中に再充填することができる。このような再充填の作業も、上述したソフトウェアを介して制御コンピュータからの指令に基づいて行うことができる(図9)。このような場合には、2台のシリンジポンプに対して個別に「三方電磁弁の切替え」の指令が伝達される。
このように、本発明においては、前記第一調節機構を使用することにより、第一液中の生体高分子の濃度のみを増加または減少させることができ、そして前記第二調節機構を使用することにより、第一液および第二液中の結晶化剤の濃度を増加または減少させることができる。第一液中の生体高分子の濃度および第一液および第二液中の結晶化剤の濃度は、独立的に増加または減少させることができる。
本発明の結晶育成装置はさらに、前記第一室と前記第二室との境界に設けられ、上記第一室と第二室のそれぞれの空間を隔離し、結晶化剤浸透性、溶質の溶媒浸透性および溶質非浸透性の性質をあわせ持つ透析手段(例えば、図4において31)を具備する。この透析手段は、第一液中の生体高分子は透過させないが、第二液中の結晶化剤や第一液および第二液に用いられている溶媒は透過させることができることを特徴とする。このような透析手段は、例えば、分子サイズに依存した半透性、透過流速に依存した半透性、透過圧力に依存した半透性、などを有した半透膜により形成されていることが好ましい。
本発明において用いることができる半透膜としては、分子量により生体高分子と結晶化剤および溶媒との選別を行うことができる特性を有することが好ましく、具体的には、マイクロコン(Millipore Corporation, MA, USA)、Molecular/Por(Spectrum Laboratories, CA, USA)、等を挙げることができる。分子量により生体高分子と結晶化剤および溶媒との選別を行う場合の半透膜の孔サイズは、結晶化させるべき生体高分子の分子量と結晶化剤の濃度との関係から、当業者が容易に決定することができる。
このような性質の透析手段(31)を備えることにより、第一液中に含まれる生体高分子は、第一液から第二液中へは拡散することができず、一方、第二液中に含まれる結晶化剤および第一液および第二液中の溶媒は、自由に第一液と第二液との間を相互に拡散できる。この結果、第一液中の溶媒量を第一調節手段を用いて変化させることにより、第一液中の生体高分子濃度を適宜調節できるとともに、第二液中の結晶化剤の濃度を第二調節手段を用いて変化させれば、第一液中の結晶化剤濃度を、第二液の結晶化剤濃度の変化に同調させて変化させることができる。
また、本発明においては、第一液と第二液とは、第一室と第二室の境界に設けられた透析手段(31)においてのみ溶液連通が可能であり、上記透析手段以外では一切の溶液の連通は行われないように設計する。本発明において「溶液」という場合、溶質が溶媒中に溶解した液体のことをいい、液体中に沈殿が生じている場合には、その沈殿を除く部分のことをいう。
本発明においては例えば、第一室と第二室との境界に設ける透析手段を固定し、並びに第一液および第二液が連結箇所より漏洩させないことを特徴とする第一室と第二室の連結方法と、第一室と第二室を連結させるための固定具(例えば図6において61)の機構を採用する。すなわち、第一室と第二室との間には、透析手段固定用パッキン(例えば図4において32)を挿入し、第一室と第二室とが密着して固定するように、固定具を用いて第一室構造体と第二室構造体とを固定する。すなわち、第一室を形成する第一室構造体(1)、第二室を形成する第二室構造体(2)、透析手段(31)および透析手段固定用パッキン(32)からなる、シングルセル(例えば図5において3)を形成する。このようにして作製したシングルセルを、さらに第一液および第二液が連結箇所からの溶液の漏洩が生じないように固定具(61)を用いて第一室構造体と第二室構造体とを固定し、シングルセル型のホルダー(6a)を作製する。
このようにして第一室構造体と第二室構造体とを固定することにより作製したセルは、一つのホルダーが一つのセルを有するシングルセル型(6a)であっても、一つのホルダーが複数のセルを有するマルチセル型(6b)であってもよい(シングルセル型のホルダーについては図6、マルチセル型のホルダーについては図7を参照)。
本発明の結晶育成装置はさらに、前記第一室中の第一液内における生体高分子の結晶の出現から成長、並びに溶解に至る全ての過程を、その場で定期的にまたは非定期的に観察することができる観察手段を具備することも特徴とする。
本発明の結晶育成装置において用いられる前記観察手段は、第一液中で育成される生体高分子の結晶成長を定期的にまたは非定期的にモニターするためのものである。本発明において「定期的に」という場合、たとえば1日間隔以下の間隔で、より好ましくは12時間間隔以下の間隔で、最も好ましくは1時間間隔以下の間隔で、定期的にモニターするこという。本発明において「非定期的に」という場合、任意の時間間隔で随時モニターすることをいう。
本発明の結晶育成装置においては、前記観察手段として、顕微鏡、吸光光度計、写真・ビデオなどの記録装置、その他の視覚的な検出手段等の光学的な観察手段、あるいは動的光散乱などの分光学的な観察手段を使用することができるが、これらのものには制限されない。
一般的に、溶液中の結晶は透明であることが多く、単に透過光を視覚的にモニターしようとしても、その実体を十分に検出することができない場合が多い。そのような場合には、偏光顕微鏡、微分干渉顕微鏡を使用することが好ましい。偏光顕微鏡は、偏光フィルターを使用することにより、溶液中の結晶を位相差画像としてモニターすることができる。微分干渉顕微鏡は、表面の微細な凹凸まで観察して、精密な体積まで測定しながら結晶の成長・溶解をモニターすることが必要な場合には、有用である。
また、視覚的に生体高分子の結晶成長を定期的にまたは非定期的にモニターするためには、写真・ビデオなどの記録装置を観察手段として使用することが好ましく、さらに記録が容易であることなどの条件を考慮すると、観察手段として、CCDを使用した写真、ビデオなどの記録装置などの装置を使用することが好ましい。これらの写真・ビデオなどの記録装置は、上述した他の観察手段、例えば顕微鏡、と組み合わせて使用することも可能である。
本発明の一態様として、このような観測手段のうち、偏光顕微鏡と微分干渉顕微鏡とを用いた結晶の出現、成長、並びに溶解を観察は、図8に示すフローチャートにしたがって、制御する。この図において「Cpコントロール」は第一室の体積を制御することを意味し、「Ccコントロール」は第二室中の第二液の状態をコントロールすることを意味する。
このフローチャートにも示すように、微結晶の有無を偏光顕微鏡により探索し、Cp/Ccコントロールをしながら出現した微結晶の中から選ばれた候補以外の微結晶を溶解し、候補微結晶のみをCp/Ccコントロールをしながら結晶を成長させる。結晶を成長させる過程で候補以外の新たな微結晶が出現した場合には、Cp/Ccコントロールをしながら出現した候補以外の微結晶を溶解したのち、あらためて候補微結晶のみをCp/Ccコントロールをしながら結晶を成長させるという過程を繰り返す。このような観察の流れは、フローチャートを実行可能なソフトウェアを搭載したコンピュータを用いることにより自動化することができる。
上述した観察手段を用いて第一室内で進行する生体高分子の結晶の育成(例えば、出現、成長および/または溶解)をモニターする方法としては、以下の方法があるが、これらのものには限定されない:
(i) 偏光顕微鏡を用いた偏光検鏡によって観察された結晶の輝度を、直接観察するか、あるいはその輝度を光の三原色に分解し各々の階調を数値化し比較するか、のいずれかにより結晶の出現状況を観察する方法;
(ii) 偏光顕微鏡を用いた偏光検鏡によりあるいは微分干渉検鏡により観察された結晶の二次元情報を元に結晶面積を検出し、その面積の増減を比較することによって結晶の成長および溶解の状況を観察する方法。
(i) 偏光顕微鏡を用いた偏光検鏡によって観察された結晶の輝度を、直接観察するか、あるいはその輝度を光の三原色に分解し各々の階調を数値化し比較するか、のいずれかにより結晶の出現状況を観察する方法;
(ii) 偏光顕微鏡を用いた偏光検鏡によりあるいは微分干渉検鏡により観察された結晶の二次元情報を元に結晶面積を検出し、その面積の増減を比較することによって結晶の成長および溶解の状況を観察する方法。
本発明の結晶育成装置はさらに、所望により、前記第一室中の第一液内における生体高分子の溶液中濃度を間接的にその場で定期的にまたは非定期的に測定することができる機構をさらに具備していていてもよい。このような機構を具備することにより、実際に第一液中の生体高分子の濃度を正確に測定し、その結果に基づいて第一調節機構による生体高分子濃度の正確な調節が可能になる。本発明においては、溶液中の生体高分子の濃度を測定できるものであれば制約はなく、例えば、分光光度計、写真・ビデオなどの記録装置、マッハツェンダー干渉光学系、マイケルソン干渉光学系、光音響分光装置、などを単独でまたは組み合わせて使用することができる。
このような測定手段は、これらの測定手段を用いた第一室中の第一液内における生体高分子の溶液中濃度の測定は、以下の様な方法により行うことができる:
(i) 光源から発せられた光とその光の反射光を集光し、同軸に配された光ファイバーで光源および分光器に導く反射型分光光度計または透過型分光光度計を用い、プローブを第一室構造体の第一液が存在する位置の上部または下部に配置するとともに、第一液を透過した光を反射する平面盤あるいは凹盤をプローブの同軸上に第一室構造体を介して反対側に配置する方法;
(ii) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子が蛍光を発するための紫外励起光を導入し、発せられた蛍光を高感度デジタルカメラで観察する方法;
(iii) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子が吸収する近傍の波長をもつ光を導入し、吸収した光の強度を高感度デジタルカメラで観察する方法;
(iv) 第一室の第一液の観察軸にマッハツェンダー干渉光学系やマイケルソン干渉光学系を組み込み、干渉縞の移動距離を測定する方法;
(v) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子の分子間振動を誘起するレーザー光を導入するとともに、第一室で発生する音響信号をマイクロフォンでピックアップする光音響分光方法;
(vi) 顕微鏡を用いて生体高分子の結晶サイズおよび数量を計測することにより、結晶体積とその密度の積から結晶となった生体高分子の量を求め、残存する第一液中の濃度を推算する方法。
(i) 光源から発せられた光とその光の反射光を集光し、同軸に配された光ファイバーで光源および分光器に導く反射型分光光度計または透過型分光光度計を用い、プローブを第一室構造体の第一液が存在する位置の上部または下部に配置するとともに、第一液を透過した光を反射する平面盤あるいは凹盤をプローブの同軸上に第一室構造体を介して反対側に配置する方法;
(ii) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子が蛍光を発するための紫外励起光を導入し、発せられた蛍光を高感度デジタルカメラで観察する方法;
(iii) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子が吸収する近傍の波長をもつ光を導入し、吸収した光の強度を高感度デジタルカメラで観察する方法;
(iv) 第一室の第一液の観察軸にマッハツェンダー干渉光学系やマイケルソン干渉光学系を組み込み、干渉縞の移動距離を測定する方法;
(v) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子の分子間振動を誘起するレーザー光を導入するとともに、第一室で発生する音響信号をマイクロフォンでピックアップする光音響分光方法;
(vi) 顕微鏡を用いて生体高分子の結晶サイズおよび数量を計測することにより、結晶体積とその密度の積から結晶となった生体高分子の量を求め、残存する第一液中の濃度を推算する方法。
本発明においては、測定手段として、濃度測定精度、簡便性などの観点から、吸光光度計を使用することが好ましい。例えば生体高分子がタンパク質であった場合には、吸光光度計によりタンパク質固有の光吸収波長近傍(濃度範囲によつて測定波長を任意に変える)を測定することにより、生体高分子が核酸であった場合には、核酸固有の光吸収波長近傍(濃度範囲によつて測定波長を任意に変える)を測定することにより、第一液中の生体高分子の濃度を正確に測定することが可能になる。このような測定もまた、ソフトウェアを搭載したコンピュータを用いることにより自動化することができる。
本発明の結晶育成装置においては、第一液および第二液の温度を所望の温度に維持し、結晶の育成条件を一定に調節するため、装置全体の温度制御手段をさらに含んでもよい。この際、第一液および第二液の温度は、4〜30℃とするのが好ましく、6〜22℃とするのがさらに好ましく、18〜20℃とするのが最も好ましい。このような温度制御手段は、第一液および第二液の温度を調節することができるいずれの手段であっても利用できるが、制御の容易性から判断して、第一室構造体および第二室構造体、第一調節手段および第二調節手段の全体を収納できる恒温器を用いることが好ましい。
第一室中での生体高分子の結晶化が進行しているときに外部から振動が加えられることにより、結晶化が一時的に妨げられる場合がある。そのため、本発明の結晶育成装置はさらに、所望により、前記第一室構造体、並びに第二室構造体、すなわち第一液、第二液に加わる振動を除振する除振手段をさらに具備していてもよい。除振手段としては、市販されている防振台を用いることができる。このような防振台の上に、第一室構造体、および第二室構造体を静置し、結晶化を行うことができる。
本発明においては、明細書中のこれまでに詳細に説明したような装置を使用してその場観測ををしながら生体高分子の結晶を育成することができる。このような結晶育成装置を用いた生体高分子の結晶製造方法は、前記観察手段および/または前記測定手段により生体高分子の結晶成長を経時的に検出することにより、溶解度曲線上の結晶化に好ましい条件下において生体高分子の結晶育成を行うことを特徴とする生体高分子の結晶製造方法を提供することもまた特徴とする。
本発明はまた、上述した結晶育成装置を用いて、前記観察手段および/または前記測定手段により生体高分子の結晶成長を経時的に検出することにより当該生体高分子の相図を作成し、その相図に基づいて最適な結晶化条件で生体高分子の結晶育成を行うことを特徴とする生体高分子の結晶製造方法を提供することもまた特徴とする。
本発明において相図という場合、固相と液相からなる二相系において出現するそれぞれの相が、熱力学的に平衡にある領域を示す図のことを意味し、溶解度曲線により固相領域と液相領域とに分けられる。一般的に相図中の相安定領域は、温度、濃度、圧力などから選択される2種の変数の関数として表される。たとえば本発明の場合には、結晶化させるべき生体高分子の濃度および結晶化剤の濃度を2種の変数とする。
本発明のような固相と液相とからなる二相系においては、溶解度曲線を境界として、単に固相領域と液相領域とが存在しているわけではなく、固相領域にさらに、結晶の核が形成されかつ結晶が成長することができる「過飽和領域」と、結晶の成長は行われるが結晶の核は形成されない「準安定領域」とが存在する。すなわち、「過飽和領域」においては、結晶の核が相次いで形成されるため、「過飽和領域」が長く維持されてしまうと必然的に形成される結晶の数は多くなりかつ結晶の大きさが小さくなる。一方、「過飽和領域」で所望の数の結晶核を形成した後「準安定領域」へと移行すれば結晶の数を所望の数にコントロールしかつ結晶の大きさも所望の大きさとすることができる。
そして、本発明の製造方法のように、本発明の生体高分子の結晶育成装置を用いると、上述したように結晶化させるべき生体高分子の濃度および結晶化剤の濃度を、自由にかつ独立に、増加または減少させることができるため、第一室内を「過飽和領域」にしたり「準安定領域」にすることを自在にコントロールすることができる。このため、従来はどのような条件のもとで相転位するかについては、様々な条件のもとで多数の実験を行い、実際に結晶が形成される条件を見つけだしていかなければならなかったのに対して、本発明の方法によれば、1回の結晶化を行うだけで、溶解度曲線を得て相図を描くことができるだけでなく、上述した過飽和領域と準安定領域とを決定することもできる。すなわち、本発明の生体高分子の結晶育成装置は、結晶の育成を行うことができるだけでなく、同時に結晶相図を作成することもできるものである。
また、本発明は、上述したように結晶化させるべき生体高分子の濃度および結晶化剤の濃度を、自由にかつ独立に、増加または減少させることができるため、結晶化させる生体高分子の濃度と結晶化剤の濃度とを連続的に変化させることにより、当該生体高分子の結晶化に最適な条件下で当該生体高分子の結晶を育成するための方法であって、以下の工程:
(a) 生体高分子の濃度および/または結晶化剤の濃度を上昇させることにより、当該生体高分子を含有する溶液を、その生体高分子の相図中の過飽和領域に移行させて、結晶の核形成を行わせること;および
(b) その後、生体高分子の濃度および/または結晶化剤の濃度を調節することにより、当該生体高分子を含有する溶液を、その生体高分子の相図中の準安定領域に移行させて、工程(a)において形成させた結晶の核を成長させること;
を含む、生体高分子の結晶を育成するための前記方法を提供することにより、上述した課題を解決することもできる。
(a) 生体高分子の濃度および/または結晶化剤の濃度を上昇させることにより、当該生体高分子を含有する溶液を、その生体高分子の相図中の過飽和領域に移行させて、結晶の核形成を行わせること;および
(b) その後、生体高分子の濃度および/または結晶化剤の濃度を調節することにより、当該生体高分子を含有する溶液を、その生体高分子の相図中の準安定領域に移行させて、工程(a)において形成させた結晶の核を成長させること;
を含む、生体高分子の結晶を育成するための前記方法を提供することにより、上述した課題を解決することもできる。
本発明において「濃度を調節する」とは、濃度を上昇させる場合および低下させる場合のいずれの場合も含むことを意味する。したがって、工程(b)においては、生体高分子の濃度および結晶化剤の濃度ともに、自由にかつ独立に、場合によっては上昇させることもあり、別の場合には低下させる場合もあり得る。前記工程(a)および(b)を適宜行うことにより、「過飽和領域」で所望の数の結晶核を形成した後「準安定領域」へと移行して結晶の数を所望の数にコントロールしかつ結晶の大きさも所望の大きさとすることができる。
本発明の一態様において、上述した工程(a)と工程(b)との間に、以下の工程(c):
(c) 結晶の核を1個のみ選抜すること;
をさらに含んでもよい。
(c) 結晶の核を1個のみ選抜すること;
をさらに含んでもよい。
工程(a)において溶液を過飽和領域に移行させ、そこで形成された結晶の核が複数存在する場合、それら複数の結晶の核のうち、最も大型の1個のみを選抜することにより、より効率的に結晶を育成することができ、かつ、試料中の限られた量の生体高分子を、一つの結晶を育成するために集中的に使用することができる。
本発明において溶液中に形成された複数の結晶核のうち1個のみを選抜する方法としては、生体高分子の濃度および/または結晶化剤の濃度を調節して溶液を未飽和領域に移行させ、溶液中の結晶の核が1個のみになるまで他の結晶核を溶解させる方法、物理的に1個の結晶核のみを残して他の結晶核を全て取り除く方法、結晶核を1つだけ隔離する方法、などの方法があげられる。本発明においては、生体高分子の濃度および/または結晶化剤の濃度を調節して溶液を未飽和領域に移行させ、溶液中の結晶の核が1個のみになるまで他の結晶核を溶解させる方法を使用することが好ましい。この方法においては、一般的には溶液中に存在していた複数の結晶核のうち、最も大型のものが溶解しきらずに残存する可能性が高いので、この残存した結晶核のみを含む溶液を再び準安定領域に移行させて、再び結晶の育成を進行させることができる。
本発明の結晶育成装置は、第一室に収容された結晶化させるべき生体高分子を、第二室に収容した結晶化剤を含有する第二液の作用により、第一液中で連続的に生体高分子の結晶の形成・成長を生じさせ、その結晶の形成・成長をその場で定期的にモニターしながら、効率的に生体高分子の結晶を育成するための装置を提供することができる。
本発明を実施するための形態を説明するため、適した一態様を、図面を参照しながら説明する。
図1は、第一室を含む第一室構造体の一態様を示す。この図において、1は第一室構造体、11は第一室、12は第一室構造体の第二室側開口端、13は第一室構造体の第一調節手段側開口端をそれぞれ示す。第一室構造体の第二室側開口端には透析手段を装着することから、透析手段用陥凹部(14)および透析手段固定用パッキン用陥凹部(15)が作製されている。
図1は、第一室を含む第一室構造体の一態様を示す。この図において、1は第一室構造体、11は第一室、12は第一室構造体の第二室側開口端、13は第一室構造体の第一調節手段側開口端をそれぞれ示す。第一室構造体の第二室側開口端には透析手段を装着することから、透析手段用陥凹部(14)および透析手段固定用パッキン用陥凹部(15)が作製されている。
図2および図3は、第二室を含む第二室構造体の一態様を示す。この図において、2は第二室構造体、21は第二室、22は第二室構造体の第一室側開口端、23および23bは第二液流入口、23および23bは第二液排出口、25は透析手段固定用パッキン用陥凹部、および26および26aは第二液送入用流路、26および26bは第二液送出用流路をそれぞれ示す。第二液は、第二液流入口(23a)から第二室構造体(2)中に入り、26aの第二液送入用流路を経由して21の第二室に到達し、ここで第一室と第二室との間に装着される透析手段(31)に接触する。その後、第二液送出用流路26bに入り、第二液排出口(23b)から排出される。
図4は、組み立て前のシングルセルの各構成部材の構成を示す、分解断面図である。この図において、1は第一室構造体、11は第一室、2は第二室構造体、21は第二室、31は透析手段および32は透析手段固定用パッキンをそれぞれ示す。4は第一調節手段であり、13の第一室構造体の第一調節手段側開口端に、液体の漏洩を起こさないようねじ込み式に固定される。また、5は第二調節手段であり、23(23aおよび23b)の第二室構造体の第二液流入・排出口に、液体の漏洩を起こさないようねじ込み式に固定される。この図において、第一室は、16の隔壁により仕切られて、第三室(17)を形成する。
図5は、組み立て後のシングルセル(3)を示す、断面図である。
図6は、図5のシングルセルを、さらに第一液および第二液が連結箇所からの溶液の漏洩が生じないように固定具(61)を用いて第一室(11)を形成する第一室構造体と第二室(21)を形成する第二室構造体とを固定した、シングルセル型のホルダー(6a)の例を示す上面図である。ここで説明する態様において、ホルダーの材質はアルミであり、固定具(61)はバネ仕掛けのものであり、バネの押しつけにより第一室構造体と第二室構造体とを密着させる。円で囲んだ観察・測定部(62)において、顕微鏡、吸光光度計などを使用して第一液中の結晶の状態および第一液中の生体高分子溶液の状態を観察・測定する。
図6は、図5のシングルセルを、さらに第一液および第二液が連結箇所からの溶液の漏洩が生じないように固定具(61)を用いて第一室(11)を形成する第一室構造体と第二室(21)を形成する第二室構造体とを固定した、シングルセル型のホルダー(6a)の例を示す上面図である。ここで説明する態様において、ホルダーの材質はアルミであり、固定具(61)はバネ仕掛けのものであり、バネの押しつけにより第一室構造体と第二室構造体とを密着させる。円で囲んだ観察・測定部(62)において、顕微鏡、吸光光度計などを使用して第一液中の結晶の状態および第一液中の生体高分子溶液の状態を観察・測定する。
図7は、4セットの図5のシングルセルを搭載した、マルチセル型のホルダー(6b)の例を示す上面図である。この図において、3a〜3dは、それぞれ第一室構造体および第二室構造体からなるシングルセルを示す。3a〜3dに示す4セットのシングルセルには、それぞれ第一調節手段および第二調節手段を連結し、それぞれの第一室および第二室の内部の状態を各セルごとに異なる条件とすることができる。
図9において、実線は液体が流れる流路を示す。また、図中の点線は制御用コンピュータから出される指令を送りおよび/またはデータを取り込むためのケーブルを示し、点線に付された矢頭はデータの方向を示す。すなわち、両方向に矢頭が付されている場合には、そのケーブルにより指令を送りかつデータを取り込み、一方向にしか矢頭が付されていない場合には、そのケーブルにより制御用コンピュータからの指令のみが送られることを意味する。
ここに示す態様における第二液は、高濃度の結晶化剤溶液を貯蔵した原液リザーバタンクおよび低濃度の希釈液リザーバタンクから、それぞれ第二調節手段(原液用)および第二調節手段(希釈液用)中に溶液を取り出し、三方電磁弁を切り替えたのち、原液と希釈液とを任意の比率で混合することにより調製する。
実施例1:結晶化剤濃度の変化と結晶の成長
本実施例においては、結晶化させるべき生体高分子としてニワトリ卵白リゾチームを、結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、結晶の成長を行った。結晶化させるべき生体高分子の第一室中濃度(Cp)および結晶化剤溶液中の結晶化剤濃度(Cc)は、図10に示す溶解度曲線上にて、矢印で示したように変化させた。
本実施例においては、結晶化させるべき生体高分子としてニワトリ卵白リゾチームを、結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、結晶の成長を行った。結晶化させるべき生体高分子の第一室中濃度(Cp)および結晶化剤溶液中の結晶化剤濃度(Cc)は、図10に示す溶解度曲線上にて、矢印で示したように変化させた。
より具体的には、結晶化させるべき生体高分子としてのニワトリ卵白リゾチーム(生化学工業社)を、緩衝溶液(酢酸ナトリウム/酢酸溶液pH4.7)中、60 mg/mLとなるように溶解して第一液とし、80μLのこの溶液を第一室中に収容した。また、結晶化剤濃度(Cc)を、初期濃度3%からはじめて、3時間かけて4%まで上昇させ、その後168時間まで4%の濃度を維持した。結晶化剤としてのNaCl(和光純薬社)は、緩衝溶液(酢酸ナトリウム/酢酸溶液pH4.7)中に4%となるように溶解して結晶化剤溶液の原液とし、NaClを含まない緩衝溶液を希釈液としてそれぞれ調製し、それぞれを原液リザーバタンクおよび希釈液リザーバタンクに収容し、これらの溶液を3:1〜1:0の割合で混合することにより、3%から4%までの結晶化剤溶液を調製した。実験を行う間、全ての装置を20℃の恒温装置内部に静置し、そして溶液も20℃に維持した。
結晶化の観察は、結晶化開始後3、4、7、10、20、および168時間後に、微分干渉顕微鏡観察法を用いて行い、それぞれの観察時点において顕微鏡に接続したデジタルカメラにより写真を撮影した。それぞれの時点における結晶の状況を図11に示す。ここで(A)〜(F)はそれぞれ、結晶化開始後3、4、7、10、20、および168時間後の結晶の状態を示している。
この観察の結果、結晶化剤濃度(Cc)が4%に到達した結晶化開始後3時間後に微小なニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームの結晶が発生し、その後時間の経過と共に結晶のサイズが大型化していることが確認された(図11)。
実施例2:結晶化剤の濃度の変化と結晶の溶解
本実施例においては、実施例1と同様に生体高分子としてニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームを使用し、そして結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、結晶化剤濃度を低下させた際のニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームの結晶の溶解を観察した。
本実施例においては、実施例1と同様に生体高分子としてニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームを使用し、そして結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、結晶化剤濃度を低下させた際のニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームの結晶の溶解を観察した。
実験は、結晶化条件を、図12に示す溶解度曲線上にて矢印で示したように変化させたこと、すなわちより具体的には、結晶化させるべき生体高分子としてのニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームの濃度(Cp)を60 mg/mLで一定にしつつ、結晶化剤濃度(Cc)を、初期濃度5%からはじめて、2.5時間かけて1%まで低下させ、その後10時間まで1%の濃度を維持したこと、以外は実施例1と同様に行った。
結晶化の観察は、結晶化開始後0、2.5、5、8、および10時間後に、微分干渉顕微鏡観察法を用いて行い、それぞれの観察時点において顕微鏡に接続したデジタルカメラにより写真を撮影した。それぞれの時点における結晶の状況を図13に示す。ここで(A)〜(E)はそれぞれ、結晶化開始後0、2.5、5、8、および10時間後の結晶の状態を示している。
この観察の結果、第一室中の結晶は、結晶化剤濃度(Cc)が2.5時間かけて1%に減少するまでのあいだに溶解して若干サイズが減少し、その後時間の経過と共に急速に溶解が進行し、6時間後には完全に溶解した。その後、結晶が再び出現することはなかった。
実施例3:生体高分子濃度の変化と結晶の成長
本実施例においては、実施例1および2と同様に生体高分子としてニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームを使用し、そして結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、ニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチーム濃度を上昇させた際のニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームの結晶の成長を観察した。
本実施例においては、実施例1および2と同様に生体高分子としてニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームを使用し、そして結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、ニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチーム濃度を上昇させた際のニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームの結晶の成長を観察した。
実験は、結晶化条件を、図14に示す溶解度曲線上にて矢印で示したように変化させたこと、すなわちより具体的には、結晶化剤濃度(Cc)を2%で一定にしつつ、結晶化させるべき生体高分子としてのニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームの濃度(Cp)を、初期濃度48.7 mg/mLからはじめて、約3時間かけて117 mg/mLまで上昇させ、その後4日間117 mg/mLの濃度を維持したこと、以外は実施例1と同様に行った。
ニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチームの濃度を上昇させるために、本実施例においては、第一室中ニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチーム溶液の溶液量を減少させた。この第一室中溶液量の減少は、第一調節手段から第一室まで、ニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチーム溶液とは反応しないフロリナート(住友スリーエム社)を充填し、第一室中のフロリナートの末端部分をニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチーム溶液と接触させ、そして第一調節手段からフロリナートを第一室へ追加・導入することにより行った。
この実験における結晶の観察の結果を、図15に示す。ここで図15(a)はニワトリ卵白ニワトリ卵白リゾチーム濃度の濃縮開始時における第一室中の結晶形成の状態を示し、図15(b)は濃縮後4日目の第一室中の状態を示す。この結晶化の観察では、結晶化開始後46時間後まで、結晶は形成されなかった(データはしめしていない)。しかし、ニワトリ卵白リゾチーム溶液の濃縮終了の4日後に微分干渉顕微鏡観察法を用いて行ったところ、結晶が生じた(図15(b))。
実施例4:生体高分子濃度の変化と結晶の育成
本実施例においては、上述の実施例と同様に生体高分子としてニワトリ卵白リゾチームを使用し、そして結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、実施例3において形成されたニワトリ卵白リゾチーム結晶を用いて、引き続いてニワトリ卵白リゾチーム溶液濃度を減少させ、結晶が溶解するかどうかを確認した。
本実施例においては、上述の実施例と同様に生体高分子としてニワトリ卵白リゾチームを使用し、そして結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、実施例3において形成されたニワトリ卵白リゾチーム結晶を用いて、引き続いてニワトリ卵白リゾチーム溶液濃度を減少させ、結晶が溶解するかどうかを確認した。
実験は、結晶化条件を、図16に示す溶解度曲線上にて矢印で示したように変化させたこと、すなわちより具体的には、結晶化剤濃度(Cc)を2%で一定にしつつ、結晶化させるべき生体高分子としてのニワトリ卵白リゾチームの濃度(Cp)を、初期濃度117 mg/mLからはじめて、5μL/hの速度で14 mg/mLまで低下させ、その希釈の終了後さらに15時間14 mg/mLの濃度を維持したこと、以外は実施例3と同様に行った。
ニワトリ卵白リゾチームの濃度を低下させるために、本実施例においては、第一室中の溶液量を増加させた。第一室の溶液量の増加は、第一調節手段から第一室まで、ニワトリ卵白リゾチーム溶液とは反応しないフロリナート(住友スリーエム社)を充填し、フロリナートは第一室中の末端部分においてニワトリ卵白リゾチーム溶液と接触させ、そして第一調節手段を用いて第一室中のフロリナートを吸引することにより行った。
結晶化の観察は、実験を通じて、微分干渉顕微鏡観察法を用いて継続的におこなった。この実験における結晶の観察の結果を、図17に示す。ここで、図17(a)はニワトリ卵白リゾチーム濃度の希釈開始時において第一室中に存在する結晶の状態を示し、図17(b)は希釈終了時における結晶の状態を示し、そして図17(c)は希釈終了後さらに15時間、同一の条件下で経過した後の結晶の状態を示す。
ニワトリ卵白リゾチーム溶液の希釈終了の15時間後に至るまで、結晶の外観は全く変化しなかった(図17)。これは、図16の相図からも予想されるとおり、結晶化剤が2%のNaClである場合、14 mg/mLのニワトリ卵白リゾチーム溶液は溶解曲線付近に存在しており、結果的に結晶化の条件が過飽和領域中に存在しているためである。
実施例5:生体高分子濃度および結晶化剤濃度の変化と結晶の溶解
本実施例においては、上述の実施例と同様に生体高分子としてニワトリ卵白リゾチームを使用し、そして結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、結晶化剤溶液中の結晶化剤濃度(Cc)(結晶化剤濃度)を減少させ、または結晶化させるべき生体高分子の第一室中濃度(Cp)(ニワトリ卵白リゾチーム溶液濃度)を減少させ、結晶が溶解するかどうかを確認した。
本実施例においては、上述の実施例と同様に生体高分子としてニワトリ卵白リゾチームを使用し、そして結晶化剤として塩化ナトリウム(NaCl)をそれぞれ使用して、結晶化剤溶液中の結晶化剤濃度(Cc)(結晶化剤濃度)を減少させ、または結晶化させるべき生体高分子の第一室中濃度(Cp)(ニワトリ卵白リゾチーム溶液濃度)を減少させ、結晶が溶解するかどうかを確認した。
まず、実施例4に記載の実験に引き続いて、実施例4で使用したニワトリ卵白リゾチーム結晶を使用して、結晶化剤濃度(Cc)を2%で一定にしつつ、結晶化させるべき生体高分子としてのニワトリ卵白リゾチームの濃度を(Cp)を、ニワトリ卵白リゾチーム溶液濃度を14 mg/mLから110 mg/mLに再び上昇させたこと、以外は実施例4と同様に行った。この場合、ニワトリ卵白リゾチーム溶液濃度の上昇ではニワトリ卵白リゾチーム結晶に何ら変化は生じなかった(図18(a))。
さらに引き続いて、結晶化条件を、結晶化させるべき生体高分子としてのニワトリ卵白リゾチームの濃度を(Cp)を110 mg/mLで一定にしつつ、結晶化剤濃度(Cc)を初期濃度2%から17時間かけて1.7%まで減少させた。この条件にしてもなお、ニワトリ卵白リゾチーム結晶には何ら変化はなかった(図18(b))。
次に、結晶化条件を図19に示す溶解度曲線上にて矢印で示したように変化させた、すなわちより具体的には、結晶化剤濃度を1.7%に固定し、生体高分子濃度(Cp)を、初期濃度110 mg/mLからはじめて、5μL/hの速度で14 mg/mLまで減少させ、その後さらに5日間、14 mg/mLの濃度を維持した。
結晶化の観察は、実験を通じて、微分干渉顕微鏡観察法を用いて継続的におこなった。この結晶化条件における結晶の観察の結果を、図20に示す。ここで、図20(a)はニワトリ卵白リゾチーム濃度の希釈開始時において第一室中に存在する結晶の状態を示し、図20(b)は希釈途中である希釈開始後16時間(ニワトリ卵白リゾチーム濃度、20 mg/mL)の時点における結晶の状態を示し、図20(c)は希釈終了後2日(28時間)同一の条件下で経過した後の結晶の状態を示し、そして図20(d)は希釈終了後さらに5日間同一の条件下で経過した後の結晶の状態を示す。
ニワトリ卵白リゾチーム溶液の希釈開始後48時間後(ニワトリ卵白リゾチーム濃度14 mg/mL)の時点で、結晶の溶解が始まっているため、結晶の表面が粗面になり、外観上も一部が欠損していることが明らかになった(図20(c))。これは、図19の相図からも予想されるとおり、結晶化剤が1.7%のNaClである場合、14 mg/mLのニワトリ卵白リゾチーム溶液は溶解曲線の下側に存在しており、結果的に結晶化の条件が未飽和領域中に存在しているためである。
この結晶をさらに5日間観察したところ、結晶の溶解がさらに進行し、結晶の欠損部分の拡大が観察された(図20(d))。希釈の前後におけるニワトリ卵白リゾチーム結晶の外観をより強拡大の条件下で観察した結果を図21に示す。この結果、希釈結晶が溶解して表面が粗面になり、さらに一部が欠損していることが明瞭に観察された(図21)。
本発明の結晶育成装置を使用することにより、第一室に収容された結晶化させるべき生体高分子を、効率的に、結晶化させることができ、かつ大型の結晶を効率的に得ることができる。
1、1:第一室構造体
2、2:第二室構造体
3、3、3a〜3d:第一室構造体および第二室構造体からなるシングルセル
4、4:第一調節手段
5、5:第二調節手段
6a、6a:シングルセル型のホルダー
6b、6b:マルチセル型のホルダー
11:第一室
12:第一室構造体の第二室側開口端
13:第一室構造体の第一調節手段側開口端
14:透析手段用陥凹部
15:透析手段固定用パッキン用陥凹部
16:隔壁
21:第二室
22:第二室構造体の第一室側開口端
23、23a:第二室構造体の第二液流入口
23、23b:第二室構造体の第二液排出口
25:透析手段固定用パッキン用陥凹部
26、26a:第二液送入用流路
26、26b:第二液送出用流路
31:透析手段
32:透析手段固定用パッキン
61:固定具
62:観察・測定部
2、2:第二室構造体
3、3、3a〜3d:第一室構造体および第二室構造体からなるシングルセル
4、4:第一調節手段
5、5:第二調節手段
6a、6a:シングルセル型のホルダー
6b、6b:マルチセル型のホルダー
11:第一室
12:第一室構造体の第二室側開口端
13:第一室構造体の第一調節手段側開口端
14:透析手段用陥凹部
15:透析手段固定用パッキン用陥凹部
16:隔壁
21:第二室
22:第二室構造体の第一室側開口端
23、23a:第二室構造体の第二液流入口
23、23b:第二室構造体の第二液排出口
25:透析手段固定用パッキン用陥凹部
26、26a:第二液送入用流路
26、26b:第二液送出用流路
31:透析手段
32:透析手段固定用パッキン
61:固定具
62:観察・測定部
Claims (19)
- 生体高分子を結晶化剤により結晶化させて生体高分子の結晶を得る生体高分子の結晶育成装置であって、
(i) 結晶化させるべき生体高分子を含む第一液を収容するための第一室を形成する第一室構造体;
(ii) 第一室構造体に装着され、第一液中の生体高分子を任意の濃度に操作するための第一調節手段;
(iii) 結晶化剤を含む第二液を収容するための第二室を形成する第二室構造体;
(iv) 第二室構造体に装着され、任意の濃度の結晶化剤を含有する第二液を任意の供給速度で流入出させるための第二調節手段;
(v) 上記第一室と第二室のそれぞれの空間を隔離する透析手段;
(vi) 前記第一室中の第一液内における生体高分子の結晶の出現から成長、並びに溶解に至る全ての過程を、その場で定期的もしくは非定期的に観察するための観察手段;
を具備する、その場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。 - 前記第一室中の第一液内における生体高分子の溶液中濃度をその場で定期的に測定することができる測定手段をさらに具備する、請求項1に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記測定手段が分光光度計である、請求項1または2に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 複数個の、請求項1に記された前記結晶育成する各セルを具備する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記第一室構造体が、石英を代表とする光学材料で作製された、請求項1〜4のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記第一室構造体が直方体の内部に直方体の貫通した空洞を有する柱状(直方体状)の形状を有し、かつ第一室の観察・測定部において一定の壁厚を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記第二室構造体が、第二液流入口・排出口、第二室に第二液を送入・送出させる流路および第一室と第二室との境界に設ける第二液を溶液連通させるための開口部を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記第一調節手段が、シリンジおよびそれを装着したシリンジポンプを使用して、第一室の体積を連続的に変化させる、請求項1〜7のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記第二調節手段が、シリンジポンプに装着したシリンジから第二液を連続的に第二室に送出する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記第二調節手段が、含有される結晶化剤濃度が異なる2種類の結晶化剤溶液を任意の比率で混合することにより、前記2種類の濃度の間の任意の濃度の結晶化剤を含有する第二液を調製する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 透析手段が、第一液中の生体高分子は通過させないが、第二液中の結晶化剤は通過させる特徴を有する半透膜である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記観察手段が、偏光顕微鏡または微分干渉顕微鏡である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記顕微鏡において、ノマルスキープリズムの出し入れを手動あるいは遠隔操作によって、検鏡方式の切り替えおよび微動を行う、請求項12に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記第一液、第二液の温度を恒温状態に制御するための温度制御手段をさらに具備する、請求項1〜13のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記温度制御手段が、恒温器である、請求項1〜14のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- 前記第一室、第二室並びに第一液、第二液に加わる振動を除振する除振手段をさらに具備する、請求項1〜15のいずれか1項に記載のその場観測を可能とする生体高分子の結晶育成装置。
- (i) 第一液に溶解せず生体高分子結晶の成長を阻害しない体積変化補助溶液である第三液を第一室に注入・吸引することによって操作する方法;
(ii) 第一室中の第一液と第三液の界面に、双方の液と反応性のない例えばテフロン(登録商標)製の隔壁を設け、体積変化補助溶液である第三液を第一室に注入排出することによって操作する方法;
(iii) 第一室中の第一液と反応性のない例えばテフロン(登録商標)製の隔壁を設け、その隔壁をモータ駆動で出し入れして第一液の体積を変化する操作方法;
のいずれかを行う、第一液中の生体高分子濃度を連続的に変化させる方法。 - (i) 偏光検鏡によって観察された結晶の輝度を直接あるいは光の三原色に分解し、各々の階調を数値化し比較することによって結晶の出現状況を観察する方法;
(ii) 偏光検鏡あるいは微分干渉検鏡によって観察された結晶の二次元情報を元に結晶面積を検出し、その面積の増減を比較することによって結晶の成長および溶解の状況を観察する方法;
のいずれかである、第一室中の第一液内における生体高分子の結晶の出現、成長および溶解の状況を定期的にその場観測ができる結晶観察方法。 - (i) 光源から発せられた光とその光の反射光を集光し、同軸に配された光ファイバーで光源および分光器に導く反射型分光光度計または透過型分光光度計を用い、プローブを第一室構造体の第一液が存在する位置の上部または下部に配置するとともに、第一液を透過した光を反射する平面盤あるいは凹盤をプローブの同軸上に第一室構造体を介して反対側に配置する装置を使用する方法;
(ii) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子が蛍光を発するための紫外励起光を導入し、発せられた蛍光を高感度デジタルカメラで観察する装置を使用する方法;
(iii) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子が吸収する近傍の波長をもつ光を導入し、吸収した光の強度を高感度デジタルカメラで観察する装置を使用する方法;
(iv) 第一室の第一液の観察軸にマッハツェンダー干渉光学系やマイケルソン干渉光学系を組み込み、干渉縞の移動距離を測定する装置を使用する方法;
(v) 生体高分子結晶の観察手段で用いる顕微鏡の光源の同軸上に第一液中の生体高分子の分子間振動を誘起するレーザー光を導入するとともに、第一室で発生する音響信号をピックアップするマイクロフォンを配置する光音響分光装置を使用する方法;
(vi) 前記の観察装置を用いて生体高分子の結晶サイズおよび数量を計測することにより、結晶体積とその密度の積から結晶となった生体高分子の量を求め、残存する第一液中の濃度を推算する方法;
のいずれかである、生体高分子の結晶を育成する指標となる第一液中の生体高分子の濃度を間接的にその場観測するための方法。
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JP5234654B2 (ja) * | 2009-07-02 | 2013-07-10 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 | 生体分子の大型結晶育成のための方法および装置 |
WO2011115223A1 (ja) * | 2010-03-18 | 2011-09-22 | 独立行政法人理化学研究所 | 生体高分子の結晶化条件探査方法及びそれに用いる装置 |
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