このように、2ピースモールド法、第1セクショナルモールド法、および第2セクショナルモールド法は、いずれもリング状態で鋳造することから、アルミ合金溶湯の凝固・冷却収縮時に、リングの中心軸に対して不均一な歪みを発生させてしまうことが多く、これに起因して鋳放し鋳物(リング鋳物)の内面(意匠面)の真円度(基準真円からの振れ値幅)特性が悪化する傾向にある。
また、鋳物の収縮バラツキも発生しやすく、これに起因して、リング鋳物内径も、狙いとするものから(許容公差を逸脱して)外れてしまう場合も有る。
タイヤ成形金型において各部の直径と真円度は、タイヤ性能を決定づける重要な管理項目であり、その要求特性は、年々高い精度のものとなってきており、鋳造法による製作限界に近づきつつある。
たとえば、現状の要求精度は、許容公差数値が、直径で±0.2mm程度,真円度で0.25mm程度であり、さらに高精度仕様の場合は、直径で±0.1〜0.15mm,真円度で0.1〜0.15mmで、殆ど機械加工スペックに近いものとなっている。
このような観点から前述した従来の3つの石膏鋳造法によるタイヤ成形金型製法を総括してみるに、セクターブロック単位で真円の鋳物を製作することを狙う、第1セクショナルモールド法(端面余肉設定法)は、現行法の中では最も効果的に、これらの問題を解決している製法であると言える。
その理由は、半径(直径)特性については、リング状態で鋳造した鋳物を、円周方向にセクター分割した後に、所定の直径位置に内面(意匠面)が来る様に調整した後、セクター上下面加工、端面加工、及び、外周加工を行うことができるので、リング状態の時より半径(直径)特性を向上させることができる。
同じような理由で、真円度特性についても、第1セクショナルモールド法(端面余肉設定法)は、連続したリング状態では真円度特性が悪くても、セクター分割して、再度組み立て直す工程を経ることができるから(セクター分割面の両端部をゼロ位置に持ってきて、端面角度加工が可能となることから)、リング状態の時より真円度特性を向上させることができる。
図17は、これら特性の向上を説明するもので、図17(a)はリング鋳物の状態で、鋳物の各部半径(直径)が狙い寸法(正規半径R)から外れ真円度特性が良くない場合を示しており、2ピースモールドでは、外力で矯正しない限り、このままの状態で金型として使用することになる。これに対して、第1セクショナルモールド法(端面余肉設定法)では、図17(b)に示すように、セクター分割後、円周方向Pf面両端部を正規の半径Rの位置とし、上下型間でも同じ半径となるようにセクターの位置調整をして外周加工を行うことができる(全セクター同様)。したがって、第1セクショナルモールド法(端面余肉設定法)では、セクター両端部を、正規半径Rの位置にシフトできる(図17(c)に示すように、セクター位置調整加工前→セクター位置調整加工後)ため、半径(直径)、真円度ともにリング状態時より改善される。
このため第1セクショナルモールド法(端面余肉設定法)は、他の2つの製法には無いメリットが有る。
しかしながら、第1セクショナルモールド法(端面余肉設定法)は、前述した調整により、セクター分割面(両端面)部に、意匠面形状にズレ・歪みを発生させることが多くなると言うデメリットも存在する。
加えて、第1セクショナルモールド法(端面余肉設定法)は、鋳物の外周加工工数が他の2つの製法と比べて多くなるので、金型コストが高くなる、という課題をも有している。
他方、2ピースモールド法および第2セクショナルモールド法は、真円を狙ってリング鋳物を製作するものであるが、製作されたリング鋳物の鋳放し直径、および真円度特性が、所定の数値に入らない場合には、機械加工による位置調整で補正ができないため、リング状態鋳物のままで、直径矯正や、真円度補正を行う必要が出てくる。
従来、直径矯正,真円度補正としては、直径(半径)拡張タイプ,または直径(半径)縮小タイプの2種類の方法が採用されている。
図18は、直径(半径)拡張タイプに用いるリング鋳物で、図18(a)は鋳放し状態のものA1で、図18(b)は鋳放し状態のものA1から押湯部分Bを取り除いたリング鋳物Aを示す。
図19は、直径(半径)拡張タイプの第1矯正方法を説明するもので、この第1矯正方法は、円盤を12〜20に分割した扇形スライド駒eを用いたカム式エキスパンダーEを拡張手段とするものであり、図18(b)のリング鋳物Aの鋳放し面aを基準径部として行うものである。
図19(a)は、上下の鋳放し面aを利用して上下同時に扇形スライド駒eを同一量だけ張り出す方法であり、φd1,φd2を同時に拡張するものであり、図19(b)は、下側の鋳放し面aを利用して下側だけ扇形スライド駒eを一定量だけ張り出す方法であり、φd1側のみ拡張するものであり、図19(c)は、上側の鋳放し面aを利用して上側だけ扇形スライド駒eを一定量だけ張り出す方法であり、φd2側のみ拡張するものである。
また、図19中のA、B、Cは、それぞれの方法(a)、(b)、(c)における矯正状況、クラウンR形状変化、各部位の真円度をそれぞれ示している。
図19のBから明らかなように、(a)の場合、上下で張り出された部位近傍のみが直径(半径)が拡張されるだけで、中央部は、元の直径に近い状態 となり、所謂サバ折れ状態を呈するものであり、(b)の場合、下側の張り出された部位近傍の直径(半径)が拡張されると同時に、上側はその反作用で若干直径が縮小するものであり、(c)の場合、上側の張り出された部位近傍の直径(半径)が拡張されると同時に、下側はその反作用で若干直径が縮小するものである。
また図19のCは、それぞれ内側の破線は鋳放し状態を、外側の実線は同部分の矯正後の状態を示しており、これらから明らかなように、意匠面部と真円度傾向の相関性が高い上下基準径部(鋳放し面部)を、扇形スライド駒で真円に張り出して行くことから、曲率の小さい所(即ち半径が大きくなっている所)が、リング鋳物において、より大きな矯正歪みを受けることになる。さらにこの矯正歪みに加えて、直径(半径)張り出しによる全体的な引張り歪みを受けることで、張り出し矯正を受けた部位近傍は、直径(半径)拡張と同時に、鋳放し状態より真円度も向上する(バウシンガー効果による真円度改善、という)。これが鋳放し基準径部を用いた直径拡張矯正の特徴(旋盤加工面で直径拡張矯正をしても、真円度向上現象はおこらない)である。
しかしながら、この直径(半径)拡張タイプの第1矯正方法は、図19(a)〜(c)のどの矯正パターンでもクラウンR形状(タイヤ幅方向断面形状)(図19のB)のサバ折れ現象が起こり易いと言う問題点を有している。
図20は、直径(半径)縮小タイプに用いるリング鋳物で、図20(a)は鋳放し状態のものA1で、図20(b)は鋳放し状態のものA1から押湯部分Bを取り除いたリング鋳物Aを示す。
図21は、直径(半径)縮小タイプの第2矯正方法を説明するもので、この第2矯正方法は、リング鋳物Aの背面に形成した加工面bに拘束リングFを嵌め込んだ状態で熱間サイジングを行うものである。
図21(a)は、リング鋳物Aの背面部(加工面b)全面を同形状(テーパ形状)の内面を持った拘束リングFで覆い、この状態で熱処理するものであり、図21(b)は、リング鋳物Aの背面部(加工面b)の下側部分のみを拘束リングFで覆い、この状態で熱処理するものであり、図21(c)は、リング鋳物Aの背面部(加工面b)の上側部分のみを拘束リングFで覆い、この状態で熱処理するものである。このとき拘束リングFは、リング鋳物A(アルミ合金)より熱膨張量の小さい材質、例えば鋼材を用いて形成される。
また、図21中のA、B、Cは、それぞれの方法(a)、(b)、(c)における矯正状況、クラウンR形状変化、各部位の真円度をそれぞれ示している。
図21のBから明らかなように、(a)の場合、拘束リングFにより全体的に締め付けられるので、リング鋳物Aの内径が全体的に小さくなり、サバ折れ現象は起こりにくいものとなっており、(b)の場合、下側の拘束リング近傍部位のみ内径が小さくなり、上側はその反作用で若干内径が大きくなるものとなっており、(c)の場合、上側の拘束リング近傍部位のみ内径が小さくなり、下側はその反作用で若干内径が大きくなるものとなっている。
また図21のCは、それぞれ外側の破線は鋳放し状態を、内側の実線は同部分の矯正後の状態を示しており、これらから明らかなように、本矯正は真円である旋盤加工面bを基にして、直径縮小矯正を行うことになる為、矯正により真円度が向上すると言う現象は起こらない。リング鋳物Aの背面形状を鋳放し状態で直径縮小矯正を行うことも不可能ではないが、意匠面部と背面部では、真円度傾向に相関性は全く無い為、これを行っても、真円度向上効果は得られない。
この直径(半径)縮小タイプの第2矯正方法は、上下部を同一量だけ同時に直径縮小矯正する場合(図21(a))のみ、クラウンR形状(図21のB参照)のサバ折れ現象が起こりづらいが、その他の場合(図21(b)、(c))は、基本的にサバ折れ現象が発生する、という問題点を有している。
図22は、さらに別の半径縮小タイプ(図22(a))および半径拡張タイプ(図22(b))を示す。
このときの半径縮小タイプとしての第3矯正方法は、振り子型ハンマーによる打撃法であり、局部的に半径を縮めて鋳放しリング鋳物A1の真円度を向上させたい場合に用いられる方法であり、振り子の質量Wと振り下ろし角度θによって打撃エネルギーを制御できる為、0.1mm単位での半径縮小矯正が可能となる。
また半径拡張タイプとしての第4矯正方法は、固定式ハンマーによる落下衝撃法であり、局部的に半径を大きくしてリング鋳物Aの真円度を向上させたい場合に用いる方法であり、鋳放しリング鋳物A1の自重と、落下の落差で衝撃エネルギーを制御できる為、0.1mm単位での半径縮小が可能となる。
また、図22中のA、Bは、第3および第4矯正方法(a)、(b)における矯正状況、および各部位の真円度(図22のB中、破線は鋳放し状態を示し、実線は矯正後を示す)をそれぞれ示している。
図22のBから明らかなように、第3矯正方法(a)の場合、打撃部位が優先的に半径を縮小するが、その両側に90°シフトした部位の半径は若干拡大し、トータルとして、矯正前後で、平均直径(半径)に殆ど差は無くなるのが一般的であり、第4矯正方法(b)の場合、打撃部位が優先的に半径を拡大するが、その両側に90°シフトした部位の半径は若干縮小し、トータルとして、矯正前後で、平均直径(半径)に殆ど差は無くなるのが一般的である。
また、この第3および第4矯正方法のクラウンR形状の変化については図示しないが、クラウンR形状は、打撃負荷が、リング鋳物のタイヤ幅方向に渡って全面に均一に作用すれば矯正前後で、殆ど変化は無いと言えるが、偏った負荷が作用してしまうと、サバ折れ変形が起こる可能性が有る。タイヤ幅方向に均一な衝撃負荷を与えるのは極めて難しいと言える為、実質的には第3および第4矯正方法も又、クラウンR形状のサバ折れは起こる、という問題点を有している。
さらには、従来、エキスパンダーによる直径拡張矯正としての第1矯正方法は、直径(内径)、真円度特性を同時に改善(矯正)できることから、「タイヤ金型用リング鋳物の鋳放し内径を、意図的に狙い寸法(図面寸法)より小さく作り込んでおき、直径拡張矯正で、直径,真円度を同時矯正する」手法が、最も一般的に行われている。
しかしながら、この第1矯正方法においては、次の様な問題点が存在している。
(1)カム式エキスパンダー等の外力で直径拡張矯正することになる為、外力を除去した際のリング鋳物のスプリングバックにより、狙い直径に拡張するのに高度な予測技術を要する(複数回エキスパンダー処理を行う必要が有る場合や、拡張し過ぎてしまう場合もある)。
(2)クラウンR形状精度の劣化(悪化)を必ず伴う(但し、真円度特性は改善されると言う利点も有る)。
(3)直径拡張量がリング鋳物の破断伸びを超えてしまった場合、破損に直結してしまう。
(4)サイプを鋳包んでいる場合、鋳包み強度が低下してしまう場合がある。
(5)直径拡張後の(局所的な塑性変形による)残留歪みが、後のタイヤ金型使用時に悪影響を及ぼす危険性がある(寸法の経時変化や、金型加工時の変形発生等)。
また、拘束リングを用いて直径を縮小する第2矯正方法は、「タイヤ金型用リング鋳物の鋳放し内径を、意図的に狙い寸法(図面寸法)より大きく作り込んでおき、直径を矯正する」手法で、次の問題点が存在している。
(6)加熱温度,加熱保持時間の設定等、熱間矯正条件の設定が難しく、狙いの直径に縮小するのに高度な予測技術を要する(複数回の熱間矯正を行う必要がある場合や、縮小し過ぎてしまう場合もある。)。
(7)クラウンのR形状精度の劣化(悪化)を伴う場合がある(真円度特性も基本的に改善されない)。
この直径縮小する第2矯正方法は、直径拡張する第1矯正方法の問題点(3)〜(5)は問題とならない点が利点であると言える。すなわち、第2矯正方法は、圧縮矯正の為、割れることは無く、サイプの鋳包み面に隙間が生じることも無く、かつ矯正が熱間で行われる為、残留歪みが残りにくいことが、その理由である。
さらには真円度補正(矯正)する第3および第4矯正方法は、次の様な問題点が存在している。
(8)直径に関しては、基本的に矯正できない。
(9)矯正後の(局所的な塑性変形による)残留歪みが、後のタイヤ金型使用時に悪影響を及ぼす危険性がある(寸法の経時変化や、金型加工時の変形発生等)。
以上のように、従来の第1〜第4矯正方法は、いずれも重大な問題点を有しており、全ての面で問題点の少ない直径,真円度矯正方法は、従来存在していないというのが実情である。
本発明は、以上の状況に基づいてなされたものであり、矯正後にスプリングバックや残留歪みを殆ど生じることの少ない直径縮小矯正により、タイヤ成形金型用リング鋳物の直径と真円度特性を同時に矯正し、かつクラウンR形状を損ない難いタイヤ成形用金型の製造方法およびタイヤ成形用金型を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、鋳造製法で製作されるタイヤ成形用金型の製造方法であって、
リング鋳物状態で上下端直近の内径部に後加工で除去でき、所定の直径の真円となることを狙った基準径部を鋳出しにより形状製作する第1工程と、
前記基準径部と意匠面部の内径が、狙い直径に対して0.05〜0.2%程度大きくなるようにタイヤ成形金型用リング鋳物を、鋳造、製作する第2工程と、
前記タイヤ成形金型用リング鋳物の外周部を、直径縮小矯正で用いる拘束リングの内径と概略同じ直径になるように機械加工した後、前記タイヤ成形金型用リング鋳物を拘束リング内に嵌め込む第3工程と、
前記基準径部に、同基準径部の狙い直径と概略同じ外径を持つように可能な限り真円に近い状態で加工された、熱膨脹率が前記タイヤ成形金型用リング鋳物の材質の熱膨脹率と同等もしくはそれ以下で、かつ、降伏強度特性の高い材質からなる内径収縮止めリングを嵌め込む第4工程と、
この状態で加熱炉内で加熱保持すると共にその後冷却することで、前記タイヤ成形金型用リング鋳物を圧縮降伏させ、前記タイヤ成形金型用リング鋳物の基準径部,意匠面部を所定の内径とすると同時に、その真円度特性も内径収縮止めリングの真円度特性に準ずる形に矯正する第5工程と、
前記拘束リングおよび内径収縮止めリングを、前記タイヤ成形金型用リング鋳物から除去すると共に除去後のリング鋳物を外周加工する第6工程とを順次経ることを特徴とする。
請求項1の発明では、予め内径を大き目(0.05〜0.2%ほど狙い直径より大き目)に製作(第1工程および第2工程)しておいたタイヤ成形金型用リング鋳物の鋳出し基準径部に、該当基準径部の狙い直径を外径に持つ内径収縮止めリングを嵌め込んだ状態で、従来法である熱間矯正(直径縮小矯正)を行う(第3工程および第4工程)ことで、リング鋳物の内径と真円度特性を同時に矯正できる(第5工程)。
このため、2ピースモールド法、第1セクショナルモールド法、および第2セクショナルモールド法のいずれにも拘わらず、熱間矯正する際の条件設定を読み違えて、リング鋳物を内径縮小し過ぎるような条件となった場合でも、内径収縮止めリングの存在で、それ以下の内径に縮小されることが無い。
請求項2の発明は、請求項1記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、
前記拘束リングは、リング全体としてのヤング率を、意図的に小さくし、前記タイヤ成形金型用リング鋳物のヤング率に近づけて製作されることを特徴とする。
このヤング率調整方法としては、拘束リング各部に穴を空けたり、拘束リング材質に発泡金属や空隙率の高い焼結金属を用いる等の手法が例として挙げられる。
請求項2の発明では、リング鋳物と拘束リングのヤング率のバランスが良く、リング鋳物全体がうまく圧縮塑性変形してリング鋳物の基準径部が内径収縮止めリングに接触するまで直径縮小することができる。
請求項3の発明は、請求項1または2記載のタイヤ成形用金型の製造方法であって、
前記内径収縮止めリングは、2つ以上のパーツに分離可能な組立て構造体として製作されていることを特徴とする。
請求項3の発明では、内径収縮止めリングは、室温まで冷却した時点でリング鋳物と内径収縮止めリング間の冷却収縮量の差によって、リング鋳物によりあたかも「しまり嵌め」されたような状態となったとしても、容易に脱型することができる。
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ成形用金型の製造方法で製作されることを特徴とする。
請求項4の発明では、直径、真円度、およびクラウンR形状の各精度を向上させたタイヤ成形用金型を、品質管理上安定して製作することができる。
請求項1の発明によれば、矯正後にスプリングバックや残留歪みを殆ど生じることの少ない直径縮小矯正により、タイヤ成形金型用リング鋳物の直径と真円度特性を同時に矯正し、かつクラウンR形状を損ない難いタイヤ成形用金型の製造方法を提供することができる。
請求項2の発明によれば、拘束リングのヤング率をリング鋳物のそれに近づけたので、リング鋳物で最も直径縮小させたい「意匠面(内面)」に歪みエネルギーが効率的に届くことができ、これにより請求項1の発明の効果に加えて、リング鋳物の直径と真円度特性を一層確実に向上させることができる。
請求項3の発明によれば、内径収縮止めリングを容易に脱型することができるので、請求項1または2の発明の効果に加えて、製造方法の一層の簡略化を図ることができる。
請求項4の発明によれば、寸法精度不具合で不良品となるリング鋳物の発生頻度が大幅に低減でき、ひいてはタイヤ成形用金型の品質向上およびコスト低減化を共に図ることができる。
以下、本発明を図示する実施の形態により、具体的に説明する。なお、各実施の形態において、同一の部材には同一の符号を付して対応させてある。
本発明は、鋳造製法で製作されるタイヤ成形用金型の製造方法であって、リング鋳物状態で上下端直近の内径部に後加工で除去でき、所定の直径の真円となることを狙った基準径部を鋳出しにより形状製作する第1工程と、前記基準径部と意匠面部の内径が、狙い直径に対して0.05〜0.2%程度大きくなるようにタイヤ成形金型用リング鋳物を、鋳造、製作する第2工程と、前記タイヤ成形金型用リング鋳物の外周部を、直径縮小矯正で用いる拘束リングの内径と概略同じ直径になるように機械加工した後、前記タイヤ成形金型用リング鋳物を拘束リング内に嵌め込む第3工程と、前記基準径部に、同基準径部の狙い直径と概略同じ外径を持つように可能な限り真円に近い状態で加工された、熱膨脹率が前記タイヤ成形金型用リング鋳物の材質の熱膨脹率と同等もしくはそれ以下で、かつ、降伏強度特性の高い材質からなる内径収縮止めリングを嵌め込む第4工程と、この状態で加熱炉内で加熱保持すると共にその後冷却することで、前記タイヤ成形金型用リング鋳物を圧縮降伏させ、前記タイヤ成形金型用リング鋳物の基準径部,意匠面部を所定の内径とすると同時に、その真円度特性も内径収縮止めリングの真円度特性に準ずる形に矯正する第5工程と、前記拘束リングおよび内径収縮止めリングを、前記タイヤ成形金型用リング鋳物から除去すると共に除去後のリング鋳物を外周加工する第6工程とを順次経ることを特徴とする。
具体的には、図1〜図3に基づいて説明する。図1〜図3において、(a)、(b)、(c)は、それぞれ2ピースモールド法、第2セクショナルモールド法(セクター端面余肉無し法)、第1セクショナルモールド法(セクター端面余肉設定法)を示しており、左側部分には簡単な工程説明が付してある。
まず、鋳放し鋳物(リング鋳物)が製作される。この工程は前述した第1工程に該当するもので、 タイヤ成形金型用リング鋳物A1の意匠面部dの上下端部近傍の内径部に、後加工で除去出来、鋳放しで所定の直径で真円となることを狙った基準径部cを「鋳出し」にて付与しておく。これはマスターモデル又は鋳型形状の段階で作り込んでおく。図中、符号fは製品部である。
この基準径部cと、意匠面部dの内径が、狙い直径に対して、0.05〜0.2%(0.5/1000〜2.0/1000)程大きくなるようにリング鋳物A1を鋳造製作する(予め収縮率に設定しておくか、鋳型組立て直径の調整にて
対応しておく)もので、これは前述した第2工程に該当する。
リング鋳物A1は、2ピースモールド法(図1(a))と第2セクショナルモールド法(図1(b))については、基準径部c,意匠面部d共に、真円に近い形状となる為、鋳型の時点で基準径部cを意匠面部dと一体構造で製作しておくことができるが、第1セクショナルモールド法(図1(c))についてのみ、意匠面部dはセクターブロック単位で「花びら型」となる為、鋳型組立て時に、鋳型上下に真円狙いの基準径部cとなる別パーツ(ダミー)を付与して対応することが必要となる。
次は、中間加工工程で、これは前述した第3工程の前半部分に該当する。この工程では、タイヤ成形金型用リング鋳物A1の押湯部を切断除去してリング鋳物Aとし、背面形状を、あとから嵌め込む拘束リング10の内面形状と概略同形状に機械加工しておく。
次は、拘束リング設置工程で、これは前述した第3工程の後半部分に該当する。この工程では、 加工した背面部が、拘束リング10の内面に概略密着するように、タイヤ金型用リング鋳物Aを拘束リング10内に嵌め込む。なお、拘束リング10は、タイヤ金型用リング鋳物Aの材質より降伏強度が高く、かつ、熱膨脹率が小さい材質であることが必須である。
次は、図2に示す内径収縮止めリング設置工程で、これは前述した第4工程に該当する。この工程では、タイヤ金型用リング鋳物Aの基準径部cに、該当基準径部cでの狙い直径を外径寸法に持ち、ほぼ真円に加工された、熱膨脹率がタイヤ金型用リング鋳物Aのそれと同等もしくはそれ以下で、かつ、降伏強度特性が高い材質からなる、内径収縮止めリング11を嵌め込む。タイヤ金型用リング鋳物の意匠面部と基準径部は、第2工程で狙い直径より0.05〜0.2%程大きく作り込まれている為、内径収縮止めリング11を嵌め込むのには殆ど支障は無い。
次に加熱保持工程および冷却工程で、前述した第5工程に該当する。図2中、加熱保持工程の符号12はヒータ、符号13は加熱炉である。この工程では、加熱時に、タイヤ金型用リング鋳物Aの方が、拘束リング10より大きな熱膨脹することから、拘束リング10に押し潰されると共にその後冷却する際に直径を小さくする方向に塑性変形することになる。この加熱時の塑性変形及び、冷却時のリング鋳物の冷却収縮でタイヤ金型用リング鋳物の内径が小さくなって行く際に、内径収縮止めリング11が存在していることから、リング鋳物Aの基準径部cが内径収縮止めリング11の外周部に接触した時点で、リング鋳物Aが、これ以上の内径収縮挙動を示すことは無くなると同時に、リング鋳物Aの内面真円度特性が、内径収縮止めリング11の外周部の真円度特性に倣って行くことになり、これにより直径矯正と真円度特性の改善効果を同時に得ることができる。
次は、図3に示す拘束リングおよび内径収縮止めリングの除去工程および外周加工工程で、これは前述した第6工程に該当する。この工程では、2ピースモールド法の場合は、上下型(製品部f)が製作され、型合わせによりタイヤ成形用金型が完成し、第2セクショナルモールド法の場合は、製品部fが製作され、その後の製品部fのセクター分割で分割されたセクターブロック(図示せず)の組立でタイヤ成形用金型が完成し、および第1セクショナルモールド法の場合は、リング鋳物Aの外周部分が加工され、その後のセクター分割および分割されたセクターの外周加工を経て得られるセクターブロックの組立でタイヤ成形用金型が完成する。
このタイヤ成形用金型の製造方法によれば、予め内径を大き目(0.05〜0.2%程狙い直径より大き目)に製作しておいたタイヤ成形金型用リング鋳物Aの鋳出し基準径部cに、該当基準径部cの狙い直径を外径に持つ内径収縮止めリング11を嵌め込んだ状態で、熱間矯正(直径縮小矯正)を行うことで、リング鋳物Aの内径と真円度特性を同時に矯正できる点と、熱間矯正する際の条件設定を読み違えて、リング鋳物Aを内径縮小し過ぎるような条件となった場合でも、内径収縮止めリング11の存在で、それ以下の内径に縮小されることが無い点が、メリットとなっている。
さらに、各工程毎に詳細に検討してみる。
まず、第1工程において、基準径部cを鋳出しで作り込んでおくのは、直径縮小矯正時に、この部分に内径収縮止めリング11を当て込んで、リング鋳物Aの内径,真円度特性を矯正する際に、多少の圧縮塑性変形を伴うため、仕上げ加工可能な仕上げ代を付与する必要があることから、意匠面では無く、タイヤ金型のサイドウォール(サイドプレート)と嵌合する面(意匠の無い円筒面もしくは円錐面)である、上下端部直近に配置することが作業上もっとも利便性が高いためである。
また、第2工程において、タイヤ金型用リング鋳物Aの基準径部c及び意匠面部dの内径を、狙い直径に対して0.05〜0.2%程大きく作り込んでおくのは、後の直径縮小矯正で真円度特性をも同時に矯正させるためである。
この範囲に設定したのは、0.05%以下では、矯正時にリング鋳物Aに充分な圧縮歪みを与えられず、バウシンガー効果を利用した真円度矯正効果が発揮されにくいこと、および0.2%以上では、矯正時にリング鋳物Aの円周方向の圧縮塑性変形させる量が大きくなり過ぎ座屈変形による真円度悪化が現われ易いことによる。
また、第3工程において、拘束リング10の材質がタイヤ金型用リング鋳物の材質より降伏強度が高く、かつ熱膨張率が低いものである必要があるのは、加熱による熱膨脹量差を利用する為で、リング鋳物の方をより大きく熱膨脹させ拘束リング10で絞め込んでも、拘束リング10側は塑性変形させず、リング鋳物A側のみ塑性変形させる為である。 また、リング鋳物Aの背面を拘束リング10の内面形状に概略密着する形状に予め機械加工するのは、熱膨脹量差分でリング鋳物Aに生じる歪みエネルギーを極大化させ、効率よく直径縮小矯正させる為である。
また、第4工程において、タイヤ成形金型用リング鋳物Aの鋳出し(鋳放し)基準径部cへの内径収縮止めリング11の設置は、熱膨脹量差を利用した直径縮小矯正を行った時の従来法の次の問題点、
i. 加熱温度,加熱保持時間の設定等、熱間矯正条件の設定が難しく、狙いの直径に縮小するのに高度な予測技術を要する(複数回の熱間矯正を行う必要がある場合や、縮小し過ぎてしまう場合も存在する)こと、および
ii.真円度特性は基本的に改善しないこと、
を解消するためである。
また、内径収縮止めリング11の材質が、タイヤ金型用リング鋳物Aの材質と比べて、 熱膨脹率が同等か、それ以下である必要があるのは、熱間矯正時に、内径収縮止めリング11が熱膨脹しても、リング鋳物Aの基準径部cに接触しないようにすることを確実に保証するため(内径収縮止めリング11がリング鋳物Aを押し広げ、内径拡張させない為)であり、 降伏強度が高い必要があるのは、熱間矯正時(及び冷却中)にリング鋳物Aが内径収縮止めリング11に接触したとき以降で、リング鋳物Aの方を優先的に塑性変形させて真円度矯正させるためである。
また、第5工程において、加熱保持する条件(熱間矯正条件)は、材質,代表直径,各部の肉厚等の変化で、微妙に変化する為、一義的に定義することはできないが、概略以下のようなものである。
i.加熱温度は概ね、100〜400℃である。タイヤ金型用リング鋳物Aの対象となる材質は「アルミ合金」が圧倒的に多いため、これを想定した場合、100℃未満では、リング鋳物Aと拘束リング10間に充分な熱膨脹率差を持たせられない。すなわち、熱間矯正時にリング鋳物Aに充分な圧縮歪みエネルギーを投与できないため、内径縮小させられない。加熱によるリング鋳物Aの降伏強度低下も少ないため、圧縮塑性変形させづらいと言う理由もある。他方、400℃超では、熱間矯正後のリング鋳物Aの強度特性低下が著しくなり、また、拘束リング10,内径収縮止めリング11の酸化損傷も大きくなると言う問題が生じるためである。
ii.理論的に必要とされる加熱温度は、以下の式で算出できる。
T(℃)=25(室温:℃)+(φDA−φDF)/{(αP−αR)×φDA}
ここで、
αP : リング鋳物Aの室温から加熱温度までの熱膨脹率(%)
αR : 拘束リング10の室温から加熱温度までの熱膨脹率(%)
φDA : 矯正前のリング鋳物Aの基準径部cの内径(直径)
φDF : リング鋳物Aの基準径部cでの矯正後の狙い内径(直径)
実際には、リング鋳物Aと拘束リング10の熱膨脹量差で生まれる歪みエネルギーの内、リング鋳物Aの降伏歪みを超えた分だけが、リング鋳物Aの塑性変形につながることになるので、上記式で求められる理論加熱温度だけでは充分な矯正ができない場合が多い。このため、実際の加熱温度は、この数値Tプラス50〜100℃程度の値で設定することになる。
iii. 加熱時間は、矯正するリング鋳物Aの大きさ(内径,肉厚,高さ,重量)によっても異なる。リング鋳物A全体が、上記加熱温度まで上昇する時間が異なることが、この主な理由であるが、概略2〜12hrの加熱で一回の熱間矯正が完了できると言える。
また好ましくは、拘束リング10は、リング全体としてのヤング率を、拘束リング10の各部に穴を空けるか、あるいは拘束リング10を発泡金属や空隙率の高い焼結金属を用いて製作する等の手法で意図的に小さくし、タイヤ成形金型用リング鋳物Aのヤング率に近づけて製作される。
タイヤ金型用リング鋳物の材質は、圧倒的にアルミ合金であることが多い。このため、拘束リング10の材質としては、鋼材を用いれば、安価に、タイヤ金型用リング鋳物Aより熱膨脹率が低く、降伏強度が高いと言う条件をクリアできる。
熱間矯正による直径縮小矯正におけるリング鋳物Aの直径縮小矯正過程では、リング鋳物Aと拘束リング10の熱膨脹量差によりリング鋳物Aに生じる(圧縮)歪みが、如何に効率良く、リング鋳物A全体を圧縮降伏させるか否かによって、矯正後のリング鋳物Aの内径寸法が決まると言える。
熱間矯正時のリング鋳物Aに生じる(圧縮)歪みは、リング鋳物Aと拘束リング10間の熱膨脹量差と、リング鋳物Aの直径、および、リング鋳物Aと拘束リング10のヤング率(縦弾性係数)により決定されると言える。リング鋳物Aのヤング率より拘束リング10のヤング率が大きい程、リング鋳物Aに生じる歪みは大きくなるが、この圧縮歪みはリング鋳物Aの外周面(拘束リング10との接触面)部でより顕著に集中してしまい、リング鋳物A内面に効率的に圧縮歪みが届きにくいと言う特性を持つ。
したがって、熱間矯正時に、リング鋳物Aの外周部に生じる最大圧縮歪みが、過剰に大きすぎる状況が発生すると、この部位のみ優先的に塑性変形してしまい、リング鋳物Aで最も直径縮小させたい「意匠面(内面)」に歪みエネルギーが効率的に届かないと言う現象が生じることになる。
図4は、前記現象を説明するもので、リング鋳物A,拘束リング10のヤング率のバランスが良い場合を図中「G00d」で示してあり、そうでない場合、すなわちリング鋳物Aに対して拘束リング10のヤング率が高すぎる場合を「NG」で示してある。「G00d」の場合は、リング鋳物A全体がうまく圧縮塑性変形してリング鋳物Aの基準径部cが内径収縮止めリング11に接触するまで直径縮小するが、「NG」の場合は、リング鋳物A−拘束リング10の接触面部のみが優先的に圧縮塑性変形gしてしまいリング鋳物Aの基準径部c,及び意匠面部dが充分に直径縮小しきれない。
このように、単に、リング鋳物Aの材質=アルミ合金,拘束リング10の材質=一般鋼材,と言う組み合わせでは、
アルミ合金のヤング率 ≒ 7000kgf/mm2 (68650MPa)
鋼材のヤング率 ≒ 21000kgf/mm2 (205900MPa)
殆どの場合このようになることから、図4の「NG」の状況が発現され易いと言う問題点が存在している。
そこで拘束リング10は、鋼材(鉄材)製であっても、顕微鏡組織的に発泡させたものを用いることで、ヤング率のみ低く押えた材質を用いて製作することができる。例えば、球状黒鉛鋳鉄(FCD450〜FCD700)のように、鋼材の金属結晶組織内部に、細かな「グラファイト(炭素:C)」が球状に分布しているような材質(ヤング率≒17000kgf/mm2)や、空隙率(ヤング率は空隙率で大きく変化する)の高い焼結金属を用い得る。
こうすることにより、拘束リング10は、安価で入手しやすい鋼材(鉄材)製であっても、そのヤング率をアルミ合金のそれに近づけることができ、これによりリング鋳物Aで最も直径縮小させたい「意匠面(内面)」に歪みエネルギーが効率的に届くことができ、リング鋳物Aの直径と真円度特性を一層確実に向上させることができる。
さらに好ましくは、内径収縮止めリング11は、2つ以上のパーツに分離可能な組立て構造体として製作される。
図5は、熱間矯正過程を説明するもので、熱間矯正前、熱間矯正後、および矯正治具取り外しの各状態を示している。
熱間矯正過程では、矯正時にリング鋳物Aに過剰に直径縮小歪みを作用させてしまう場合がある。この場合であっても、内径収縮止めリング11の存在のお陰でリング鋳物Aの内径は、狙い寸法に維持されることになるのであるが、矯正終了後の冷却時に、リング鋳物Aの材質の冷却収縮量が、内径収縮止めリング11の冷却収縮量を大幅に上回るケースが出てくる。
この時に、内径収縮止めリング11は、リング鋳物Aにより、あたかも「しまり嵌め」されたような状態となり、リング鋳物Aから内径収縮止めリング11を脱型することが困難となる場合が出てくる(図5中、「矯正治具取外し」参照)。
この場合の内径収縮止めリング11の脱型を容易にするために、内径収縮止めリング11が、2つ以上のパーツに分離可能な組立て構造体として製作されるのである。
図6は、第1実施形態としての内径収縮止めリング11Aを示す。この内径収縮止めリング11Aは、外周に沿う薄肉帯状の爪収容部15を備えた円盤状の一枚のカム定盤14と、このカム定盤14の爪収容部15に半径方向に移動可能に収容される複数の可動爪16とで大略構成されている。可動爪16は、外端側が幅広の略扇形の平面を有し、内端側に可動斜面16aを有して形成されており、本実施形態では一枚のカム定盤14に対して8個用いられている。爪収容部15は、可動爪16の可動斜面16aが摺動可能に当接する固定斜面15aを内周に沿って形成することによって構成されている。図6中、符号17は、カム定盤14に穿設される締結孔である。
図7は、内径収縮止めリング11Aを用いて、内径縮小矯正(熱間矯正)を行い、室温まで冷却した状態からの、型バラシ工程を示している。図7(a)は、室温まで冷却した状態を示しており、上下の内径収縮止めリング11A、11Aは、締結孔17を透通する締結ボルトにより締結されている。この室温まで冷却した時点で、リング鋳物Aと内径収縮止めリング11Aとの間の冷却収縮量の差によって、内径収縮止めリング11Aに、内側の締付け力が発生した場合でも、図7(b)に示すように、締結ボルト18を緩めた時点で、固定斜面15aと可動斜面16aとの間の相互摺動による可動爪16のカム式スライド(矢印方向のカムアクション)により、リング鋳物Aの締付け歪みは開放され、図7(c)、(d)に示すように、楽に内径収縮止めリング11Aを脱型することが可能となる。なお、図7(b)において、符号A0は、締結ボルト18を緩める前のリング鋳物Aの位置を示している。
図8は、第2実施形態としての内径収縮止めリング11Bを示す。この内径収縮止めリング11Bは、2分割タイプのものであって、略C字形のリング本体20と、このリング本体20の両端を脱着可能に連結する脱着パーツ21とから構成されている。脱着パーツ21は、結合孔22に螺合されるボルト(図示せず)を介してリング本体20の両端に結合される。
そしてこの内径収縮止めリング11Bは、図9に示すように、脱着パーツ21をリング本体20から離脱することにより、リング本体20の直径縮小変形(破線から実線への変化)が容易となり、これによりリング鋳物からの脱型が容易に行われる。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。図10は、以下の全ての実施例に共通して用いたタイヤ成形用金型100を示す。
このタイヤ成形用金型100は、タイヤサイズ205/65R15用の2Pモールドタイプのタイヤ成形用金型であり、以下の条件を備えている。
基本ピッチ種類 S,M,Lの3種類
ピッチ数 Sピッチ 11ヶ,Mピッチ 13ヶ,Lピッチ 12ヶ
サイプブレード鋳包み無し
図11は、鋳型101、鋳放しリング鋳物A1、およびタイヤ成形用金型100の相互関係を示しており、それぞれ以下の条件に従って形成される。
金型の基本製法 : 石膏鋳造法
設定収縮率 11〜15/1000 (部位によって変化)
石膏鋳型材質 USG製 ハイドロパーム発泡石膏
混水率 70重量%,発泡増量 60%で調合したもの
鋳造用合金 AC4C合金 (7%Si,1%Cu,0.5%Fe,0.4%Mg,残Al)
鋳込み方法 重力鋳造(流し込み方式)
図10および図11の数値は、各部をmmで示すものであり(以下の図中においても同様である)、特に図11の上、下基準径部の直径数値は、意匠面部の直径を図10の意匠面部の正規寸法狙いで作り込んだ時の数値である。
(実施例1)
意匠面部の直径が、0.5mm(0.7/1000)ほど大きくなることを狙って鋳放しリング鋳物A1(図11参照)を製作した。
この鋳放しリング鋳物A1の意匠面部の各部半径を、タイヤ幅方向で4等配 ,円周方向でほぼ72等配の計288箇所で測定した。その結果を表1に示す。
次に鋳放しリング鋳物A1の押湯部分を切断除去して、リング鋳物Aを製作する。そしてこのリング鋳物Aに対して、図12に示すように、「曲面R」を定義し、この形状でリング鋳物Aの背面を旋盤加工した後、該当加工面形状を内面に持つ、FCD600材(球状黒鉛鋳鉄材)製の肉厚50mmの拘束リング内に嵌め込む。このときリング鋳物Aの上、下基準径部cには、それぞれ外径φ560mm,720mmで肉厚20mmのS50C(鋼材)製の一体構造の内径収縮止めリングをセットした状態で、加熱炉に投入し(図2の「加熱保持工程」参照)、250℃で5時間保持し内径縮小矯正を行った。その後、炉から取り出し、空冷後、拘束リング,内径収縮止めリングを取り外し、リング鋳物Aを回収した。 尚、内径収縮止めリングの外周部にはボロンナイトライド系の離型剤を塗布しておき、滑りやすい状態にしておいた。
このようにして得られたリング鋳物Aの意匠面部の各部半径の特性を表2にまとめた。このときの測定ポイントは、矯正前の鋳放しリング鋳物A1の測定とほぼ同じ部位とした。
表1および表2から明らかなように、リング鋳物Aは、その直径,真円度,クラウンR形状の全てについて鋳放し状態A1より向上させることができ、ひいてはこれら要件に対して高精度のタイヤ成形用金型を製作できることが理解できる。
(実施例2)
意匠面部の直径が、0.5mm(0.7/1000)ほど大きくなることを狙って鋳放しリング鋳物A1(図11参照)を製作した。
この鋳放しリング鋳物A1の意匠面部の各部半径を、タイヤ幅方向で4等配 ,円周方向でほぼ72等配の計288箇所で測定した。その結果を表3に示す。
次に鋳放しリング鋳物A1の押湯部分を切断除去してリング鋳物A(図12参照)とし、このリング鋳物Aを実施例1と同様に外周加工を行い、拘束リング内に嵌め込む。その後、リング鋳物Aの上、下基準径部c(図12参照)には、それぞれ外径φ560mm,720mmで肉厚30mmのS50C製の、リング本体20と脱着パーツ21とを備えた2分割タイプの内径収縮止めリング11B(図13参照)をセットした状態で、加熱炉に投入し、350℃で5時間保持した。その後、炉から取り出し、空冷後、拘束リング,内径収縮止めリング11Bを取り外した。この際、内径収縮止めリング11Bは、リング鋳物Aに抱き込まれた状態で、組立て状態では脱型が困難であった為、脱着パーツ21を取り外した後、リング本体20を直径縮小させて脱型した。
このようにして得られたリング鋳物Aの意匠面部の各部半径の特性を表4にまとめた。このときの測定ポイントは、矯正前の鋳放しリング鋳物A1の測定とほぼ同じ部位とした。
表3および表4から明らかなように、実施例2では実施例1の場合より、直径縮小量を大きくとったことで、矯正時の各部直径,真円度矯正効果がより大きく発揮される形となった。すなわち、真円度,クラウンR形状精度が、実施例1より向上した。
また、こうした時の問題点である、空冷後の内径収縮止めリング11Bのリング鋳物からの脱型困難さも、2分割構造の内径収縮止めリング11Bを用いることで回避することができた。
(比較例1)
意匠面部の直径が、0.5mm(0.7/1000)ほど大きくなることを狙って鋳放しリング鋳物A1(図11参照)を製作した。
この鋳放しリング鋳物A1の意匠面部の各部半径を、タイヤ幅方向で4等配 ,円周方向でほぼ72等配の計288箇所で測定した。その結果を表5に示す。
この鋳放しリング鋳物A1を、基本的に実施例2と同じ条件で直径縮小矯正した。
但し、本比較例1で使用した拘束リングの材質は、S50C(鋼材)とした。
直径縮小矯正後のリング鋳物A(図12参照)の意匠面部の各部半径の特性を表6にまとめた。このときの測定ポイントは、矯正前の鋳放しリング鋳物A1の測定とほぼ同じ部位とした。
表5および表6から明らかなように、比較例1の真円度,クラウンR形状精度の結果が、実施例2の結果より悪くなったのは、比較例1の方が、拘束リングのヤング率が高く(実施例2の拘束リングのヤング率≒16000kgf/mm2に対し比較例1の拘束リングのヤング率≒21000kgf/mm2)、熱間矯正時にリング鋳物Aに作用する歪みエネルギーが、リング鋳物Aの背面に局部的に集中し易くなり、リング鋳物Aの背面側の局部変形と言う形で、その一部が消費されてしまったためと思われる。