より厚い電解質層を使用することができ、しかもアノードをカソードに接近させて設置することが可能な燃料電池システムについて説明する。このシステムは、燃料用と酸化剤用のチャンバを分離し、燃料電池の機械的故障を低減し、製造を簡素化し、燃料電池の性能を保持する。
図3は、電解質層304の上に形成された燃料電池の断面図である。図の実施形態において、電解質層304は厚いフィルムであり、これは基板としても機能する。あるいは、電解質層304を支持基板(図示せず)の上に形成することもできる。電解質304の上部のデュアルマニホールドカバー328は燃料用マニホールド332と酸化剤用マニホールド336でなる別々のマニホールドを作る。燃料用マニホールド332の中にアノード308があり、酸化剤用マニホールド336の中にカソード312がある。
ひとつの実施形態において、電解質層304は固形酸材料(solid acid material)から作られる。固形酸材料は電子絶縁体でありながら、高いイオン伝導性を有する。これらの特徴から、固形酸は特に燃料電池に適しており、これについては、2001年4月19日付Nature誌410号910から913ページに掲載されたHaile他による「固形酸形燃料電池(Solid Acid Fuel Cell)」と題する記事の中で説明されている。しかしながら、固形酸材料からは脆弱なセラミック材料ができ、これは支持手段のない非常に薄い電解質構造の製造には適していない。
アノード308とカソード312は、伝導性材料、一般にはグラファイト等の不活性伝導体で形成され、電解質層304に隣接して設置される。アノード308またはカソード312のいずれか一方あるいはアノードとカソードの両方は、燃料と酸化剤との反応を促進するため、プラチナおよび/またはルテニウム等の触媒を含むのが一般的である。触媒は、分子間相互作用のための基板として機能し、燃料と酸化剤の分割、たとえば水素と酸素、H2とO2のHとOへの分割を促進する。一般に、単原子種のみ反応する。
図3において、アノード308とカソード312は、電解質層304の第一の表面316の上の共通平面内に形成される。ただし、平坦であることは要件ではない。小さな分離距離318だけアノード縁辺部320は最も近いカソード縁辺部324から離れている。分離距離318は、好ましくは10マイクロメートル未満である。電流路344は、カソード縁辺部324とアノード縁辺部320に近いギャップ領域の中に集中する。
マニホールド328内の分離壁340は、燃料用チャンバ332と酸化剤用チャンバ336を分離する。燃料用マニホールド332には通常、水素または炭化水素等の燃料およびアノード308が収容される。酸化剤用マニホールド336には通常、カソード312と、酸素等の酸化剤が収容される。分離壁340の厚さは、アノードをカソードから分離する距離318の下限を画定する。アノード308をカソード312の近くに設置することが望ましいため、分離壁340は薄いこと、しばしば、幅10マイクロメートル未満であることが好ましい。このような寸法のマニホールドを形成するためには、フォトリソグラフィ技術をはじめとする多数の技術を使用できる。
矢印344は、水素イオン等の燃料イオンの流れを示す。水素イオンは通常、アノード308から電解質層304を通ってカソード312へと流れ、ここで酸化剤と反応する。反応後、燃料電池は水を生成する。イオンの流れによって電位差が生じ、この電位差が電子をアノードから電気回路(図示せず)を通ってカソードへと駆動する。電子の流れが外部の電気回路への供給電力となる。矢印344は、電解質層304の片側に入り、電解質層304の同じ側のカソードの付近から出る水素イオンの流れを示す。この新規なイオンの経路により、電解質層の厚さが水素イオンの経路の長さを決定する要因とはならなくなる。したがって、カソードからアノードまでの間の距離を、電解質層の厚さより実質的に小さくすることができる。
図4〜図6は、電解質、たとえば固形酸が成形、機械加工その他によって成形され、凹部を有する平坦でない表面が作られている燃料電池の構造を示す。平坦な、あるいは成形、機械加工その他によって形成されたマニホールドは、凹部を密閉して燃料用および酸化剤用チャンバを形成し、その中に電極とアノードが設置される。
図4は、波型の電解質層404を利用する燃料電池400の実施形態を示す。波型の電解質層404は、波型構造から形成された少なくとも2つの凹部402,406を含む。アノード408とカソード412は、対応する凹部402,406に設置される。各々の凹部は一般に断面が三角形であり、その幅は一般に、最も大きい地点で1から1000マイクロメートルの範囲である。凹部402,406は、燃料用および酸化剤用マニホールドを形成するよう配置される。
電解質層の形成あるいは波型化は、たとえば、電解質層の成形または機械加工を含むさまざまな技術によって実現される。セラミック電解質層の場合、これを素地の状態でパターニングしてから焼成するか、あるいは焼成した後でパターニングすることができる。凹部を非常に小さく形成することが望まれる場合、フォトリソグラフィによるエッチング加工で凹部を形成することができる。代表的なフォトリソグラフィ技術は、1986年にカリフォルニア州サンセット・ビーチのLattice Pressから出版されたWolf, SとTauber, R.N.による「VLSA時代のためのシリコン加工(Silicon Processing for the VLSI Era)」に記載されている。当業者は、その他の方法を利用しても波型電解質層を形成することができる。
波型電解質層404の山部444は、燃料用チャンバと酸化剤用チャンバの間の分離壁となる。燃料用および酸化剤用チャンバは、凹部402,406から形成される。燃料電池400のマニホールドカバー432は山部444に連結し、燃料用チャンバ436と酸化剤用チャンバ440を密閉し、密閉されたチャンバは燃料電池マニホールドである。山部444の高さが他の山部452,456の上部と平面を形成する場合、マニホールドカバー432は、燃料電池マニホールドを密閉する平面構造であってもよい。
矢印444は、アノード408から山部444を通ってカソード412に至る燃料イオンの移動を示す。燃料イオンは電解質層に入り、電解質層404の同じ面448から出る。山部444の上の山形コーナー445は、燃料イオンの入口と出口を分離する。アノード408上の最も近い地点からこれに対応するカソード412上の最も近い地点までの距離414は、電解質層404の平均厚さ424より実質的に小さい。距離414はまた、電解質層404の中点における厚さより小さい。本明細書において、中点における厚さとは、電解質層の半分がその中点の厚さより厚く、電解質層の半分がその中点の厚さより薄いという厚さの数値と定義される。
図5は、電解質層504の中に溝が形成されている燃料電池500を示す。溝は凹部506,508を形成し、これが密閉されると、マニホールドが形成される。凹部を有するマニホールドは各々、コーナー512,516を有するほぼ箱型の断面を持つ。対応する凹部を有する電解質層を形成する技術には、電解質層504の成形、電解質層の機械加工、電解質層のジェット印刷あるいはその他、当業者に知られているセラミックパターニング技術がある。
電解質層504の分割部分552は、隣接する凹部506,508を分離する。分割部分552のアスペクト比は低く保たれ、好ましくは、分割部分552の高さ560を、幅564の20倍より小さくする。アスペクト比を低くすることにより、分割部分552の強度が維持される。
アノード532とカソード536は、対応する凹部506,508の中に形成される。アノード532とカソード536を凹部506,508の輪郭と合致させることにより、アノードの一部548が電解質層の分割部分552と重複する。同様に、カソードの一部556は電解質層の分割部分552と重複する。このように、アノードの一部548とカソードの一部556は、電解質層の分割部分552の両側に接触する。分割部分552が、一般的には50ミクロンと薄いことにより、アノードの一部548をカソードの一部556に近接させて設置することができ、その結果、2つの部分の間のイオン交換が促進される。
一般的な燃料電池はアノード−カソード構造を繰り返し、燃料電池から発生される電圧と電流を増加させている。たとえば、この構造を直列で繰り返し、連続する凹部544の中の第三のアノードの次に対応するカソード(図示せず)を設置することができる。燃料は各アノードを囲み、酸化剤は各カソードを囲む。陽イオンにより正に荷電した水素イオンのような電解した燃料原子は、アノードから電解質層504を通ってカソードに流れ、カソードにおいて酸化剤と反応する。あるいは、陰イオンにより負に荷電した酸素イオンのような電解した酸化剤は、カソードから電解質層504を通ってアノードに流れ、アノードにおいて燃料と反応する。イオンのほとんどは、アノードからカソードへの最短経路を移動する。この最短経路は、分割部分552を通る。その結果生じる電位差を電気回路の駆動に使用することができる。
燃料と酸化剤を入れるために、マニホールドカバー549は電解質層504に連結し、燃料または酸化剤を入れるのに適した少なくとも2つのチャンバ周辺を密封する。マニホールドカバーはまた、分割部分552を含む電解質層の山部の構造的支持手段にもなる。マニホールドカバーは、燃料、電解質、触媒との適合性のあるプラスチックまたはセラミックをはじめとするさまざまな材料で構成できる。電解質の中には、摂氏数千度という高温下でも動作するものもある。アノードとカソードの両方をカバーするマニホールドカバーは、一般に、アノードとカソードのショートを防止するため、電気的に十分に絶縁される。
図6は、電解質層604が少なくとも2つの凹部608,612を有するようにパターニングされた燃料電池600の断面図である。電解質層のパターニングは、電解質層の機械加工、電解質層の成形あるいは当業者に知られるその他の技術により実現できる。電解質層604のうちより厚い領域616は、電解質層604のうちより薄い領域620を強化する「リブ」として機能する。薄い領域の厚さは一般に50ミクロン未満であり、厚い領域の厚さは一般に少なくとも100ミクロンである。凹部の高さ対幅のアスペクト比は非常にさまざまであるが、通常、アスペクト比は0.4以下に保たれる。アスペクト比を低くすることで、電解質層が、電解質層604の凹部を有する薄い部分の強度を維持するのに十分に厚い部分を確実に有することになる。
燃料用マニホールドカバー624と酸化剤用マニホールドカバー628は、電解質層604の反対側に連結する。電解質層604の凹部はマニホールドカバーと連結され、対応する燃料用マニホールド632と酸化剤用マニホールド636を形成する。マニホールドカバーはまた、電解質層604を硬化し、強化する役割も果たす。燃料用チャンバ632の中の電解質層604に隣接するアノードと酸化剤用チャンバ636の中の電解質層604の反対側に隣接するカソードは、電気的接触点を提供する。燃料イオンは電解質層604の第一の面638に入り電解質層604の第二の面640から出る。電解質層604から出た後、燃料イオンは、酸化剤用チャンバ636内で触媒と酸化剤と相互作用する。あるいは、酸化剤のイオンが電解質層604の第一の面に入り、第二の面638から出る。
燃料電池は時々、空間体積をより効率的に利用するために積み重ねられる。(前出の「燃料電池ハンドブック」のAppleby参照。)図7は、燃料電池700の断面図であり、図5および図6の燃料電池構造と同様または同等の複数の燃料電池704,708を積み重ねるひとつの方法を示す。アノード716,718を含む電池は、カソード720を含む電池に隣接させて設置される。図にある特定の実施形態においては、4つの隣接するカソード720がアノード716を囲んでいるが、他の電気的または機械的にニーズに合わせ、図とは異なる配置としてもよい。アノードとカソードは、一般的に伝導体および触媒を含む、当業界で周知の材料で構成できる。
電池を積み重ね、その出力を電気的に連結することにより、スタックにより出力される電圧または電流を増大させることができる。並列の電気的接続により電流が増加し、直列接続はスタックにより出力される電圧を増加させる。
隣接する電池同士の電気的接続は、さまざまな方法で行われる。ひとつの実施形態において、マニホールドそのものにおいては電気的接続を行わず、エンドプレート(図示せず)において電気接続が行われる。エンドプレートは、図7の断面図に平行に、燃料電池構造の前後の終端を形成する。電池を電気的に相互接続するその他の方法も使用できる。
上記の燃料電池の例700において、電池間のマニホールドカバーは、取り除かれている。そのかわり、隣接する電池の壁は、各電池を密封する役割を果たす。この場合もマニホールドカバーは電池スタックの上下または左右で利用できる。個々の電池は脆弱であるが、積み重ねることで、構造全体の機械的強度が増す。
以上の説明において、さまざまな詳細事項が示された。この詳細事項には、理想的な寸法、電解質層の形状、代表的な電解質の材料の例、燃料電池用の一般的な燃料が含まれる。これらの詳細事項は、本発明を理解しやすくし、例を挙げるために記載された。しかしながら、これらの詳細事項は、特許請求範囲を限定するものと解釈してはならない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ定義される。
104,304,404,504,604 電解質層、112,312,412,536,720 カソード、116 外部負荷、120,308,408,532,540,716,718 アノード、316 第一の表面、318 分離距離、320 アノード縁辺部、324 カソード縁辺部、328,432,549,624 マニホールドカバー、332,632 燃料用マニホールド、336,440,636 酸化剤用マニホールド、340 分離壁、344 矢印、電流路、400,500,600,700,704,708 燃料電池、402,406,506,508,544,608,612 凹部、414 距離、424 平均厚さ、444 山部、445 山形コーナー、552 分割部分、632 燃料用チャンバ、636 酸化剤用チャンバ、638 第一の面、640 第二の面。