図1は本発明を圧縮着火式内燃機関に適用した場合を示している。なお、本発明は火花点火式内燃機関にも適用することもできる。
図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒の燃焼室、3は各燃焼室2内にそれぞれ燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルドをそれぞれ示す。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に連結され、コンプレッサ7aの入口はエアクリーナ8に連結される。吸気ダクト6内にはステップモータにより駆動されるスロットル弁9が配置され、さらに吸気ダクト6周りには吸気ダクト6内を流れる吸入空気を冷却するための冷却装置10が配置される。図1に示した実施例では機関冷却水が冷却装置10内に導かれ、機関冷却水によって吸入空気が冷却される。一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に連結され、排気タービン7bの出口はNOX吸蔵触媒11を内蔵したケーシング12に連結される。排気マニホルド5の集合部出口には排気マニホルド5内を流れる排気ガス中に例えば炭化水素からなる還元剤を供給するための還元剤供給弁13が配置される。
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路14を介して互いに連結され、EGR通路14内には電子制御式EGR制御弁15が配置される。また、EGR通路14周りにはEGR通路14内を流れるEGRガスを冷却するためのEGR冷却装置16が配置される。図1に示した実施例では機関冷却水が冷却装置16内に導びかれ、機関冷却水によってEGRガスが冷却される。一方、各燃料噴射弁3は燃料供給管17を介して燃料リザーバ、いわゆるコモンレール18に連結される。このコモンレール18内へは電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ19から燃料が供給され、コモンレール18内に供給された燃料は各燃料供給管17を介して燃料噴射弁3に供給される。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。NOX吸蔵触媒11にはNOX吸蔵触媒11の温度を検出するための温度センサ20が取付けられ、この温度センサ20の出力信号は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。さらに入力ポート35にはクランクシャフトが例えば15°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して燃料噴射弁3、スロットル弁9駆動用ステップモータ、還元剤供給弁13、EGR制御弁15、および燃料ポンプ19に接続される。
図1に示すNOX吸蔵触媒11はモノリス触媒からなり、このNOX吸蔵触媒11の基体上には例えばアルミナからなる担体が担持されている。図2(A)、(B)はこの担体50の表面部分の断面を図解的に示している。図2(A)、(B)に示されるように担体50の表面上には触媒貴金属51が分散して担持されており、さらに担体50の表面上にはNOX吸蔵剤52の層が形成されている。
本発明の実施形態では触媒貴金属51として白金(Pt)が用いられており、NOX吸蔵剤52を構成する成分としては例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類から選ばれた少なくとも一つが用いられている。
機関吸気通路、燃焼室2およびNOX吸蔵触媒11上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比と称すると、NOX吸蔵剤52は、触媒貴金属51の温度が活性温度以上であれば、すなわちNOX吸蔵触媒11の温度が活性温度以上であればNOX吸蔵触媒に流入する排気ガス(以下、「流入排気ガス」と称す)の空燃比がリーンのときにはNOXを吸収し、流入排気ガス中の酸素濃度が低下すると吸収したNOXを放出するNOXの吸放出作用を行う。
NOX吸蔵剤52を構成する成分としてバリウム(Ba)を用いた場合を例にとって説明すると、流入排気ガスの空燃比がリーンのとき、すなわち流入排気ガス中の酸素濃度が高いときには白金51が活性化していれば流入排気ガス中に含まれるNOは図2(A)に示されるように白金51上において酸化されてNO2となり、次いでNOX吸蔵剤52内に吸収されて酸化バリウム(BaO)と結合しながら硝酸イオン(NO3 -)の形でNOX吸蔵剤52内に拡散する。このようにしてNOXがNOX吸蔵剤52内に吸収される。流入排気ガス中の酸素濃度が高い限り白金51の表面でNO2が生成され、NOX吸蔵剤52のNO2吸収能力が飽和しない限りNO2がNOX吸蔵剤52内に吸収されて硝酸イオン(NO3 -)が生成される。
これに対し、燃焼室2内における空燃比をほぼ理論空燃比またはリッチ(以下、「ストイキ・リッチ」と称す)にすることによって、または還元剤供給弁13から還元剤を供給することによって流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにすると流入排気ガス中の酸素濃度が低下するために反応が逆方向(NO3 -→NO2)に進み、これによりNOX吸蔵剤52内の硝酸イオン(NO3 -)がNO2の形でNOX吸蔵剤52から放出される。次いで放出されたNOXは流入排気ガス中に含まれる未燃HC、COによって還元される。なお、上記説明では、NOXはNOX吸蔵剤52に吸収される(すなわち、硝酸塩等の形で蓄積する)ものとして説明しているが、実際にはNOXは吸収されているのか吸着(すなわち、NOXをNO2等の形で吸着する)しているのかは必ずしも明確ではなく、これら吸収および吸着の両概念を含む吸蔵という用語を用いる。本明細書では、特に、NOX吸蔵触媒11の温度が活性温度以上であるときに行われる吸蔵を「高温吸蔵」と称する。また、NOX吸蔵剤52からの「放出」という用語についても、「吸収」に対応する「放出」の他、「吸着」に対応する「脱離」の意味も含むものとして用いる。
ところで白金51の酸化能力は温度によって変化し、白金51の温度が低いとその酸化能力も低い。このため、図3に示したように、NOX吸蔵触媒11の温度が低下すると、白金51によるNOからNO2への酸化率(以下、「NO2転換率」と称す)が低下する。本実施形態では、図3から分かるようにNOX吸蔵触媒11の温度がほぼ250℃よりも低くなるとNO2転換率は急速に低下し、NOX吸蔵触媒11の温度がほぼ200℃になるとNO2転換率が最大NO2転換率(例えば約250℃におけるNO2転換率)のほぼ50パーセントとなる。本実施形態ではNO2転換率が最大NO2転換率のほぼ50パーセントになったときのNOX吸蔵触媒11の温度を活性温度(ほぼ200℃(=Ts))とし、NOX吸蔵触媒11の温度がその活性温度以上であるときにNOX吸蔵触媒11が活性状態にあると判断される。
さて、流入排気ガス中のNOXは一酸化窒素(NO)の形ではNOX吸蔵剤52に吸蔵されず、二酸化窒素(NO2)の形にならなければNOX吸蔵剤52に吸蔵されない。流入排気ガス中に含まれるNOXには通常NO2だけでなくNOも多く含まれ、このNOはNO2に酸化されないとNOX吸蔵剤52に吸収されない。NOX吸蔵触媒11でNOをNO2に酸化するには触媒貴金属51が活性化していることが必要であり、したがってこれまでNOXを浄化するためには触媒貴金属51が活性化していることが必要であると考えられてきた。
ところがこのNOX吸蔵触媒11について本発明者が研究を重ねた結果、流入排気ガス中に含まれるNOは白金51が活性化しないと、すなわちNOX吸蔵触媒11が活性化しないとNOX吸蔵剤52に吸蔵されないが、流入排気ガス中に含まれるNO2はNOX吸蔵触媒11が活性化していなくても図2(B)に示したように例えば亜硝酸(NO2 -)の形でNOX吸蔵剤52に吸蔵されることが判明したのである。なお、この場合も、NOX吸蔵触媒11が活性化している場合と同様に、二酸化窒素NO2はNOX吸蔵剤52に吸着するのか、あるいはNOX吸蔵剤52内に吸収されるのかは必ずしも明確ではなく、これら吸着と吸収とを合わせた「吸蔵」という用語を用いる。本明細書では、特に、NOX吸蔵触媒11が活性化していないとき、すなわちNOX吸蔵触媒の温度がその活性温度よりも低いときに行われる吸蔵を「低温吸蔵」と称する。
さらに、本発明者が研究を重ねた結果、低温吸蔵および高温吸蔵の両吸蔵形態を通じて、NOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力(NOX吸蔵剤52が吸蔵可能なNO2の量の多さ)は常に一定ではなく、図4に示したように温度に応じて変化する。図4から分かるように、NOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力は、主に低温吸蔵の行われる低温領域(図中の領域A)および主に高温吸蔵の行われる高温領域(図中の領域B)において高く、一方、これら低温領域と高温領域との間の温度領域(図中の領域C)において低い。したがって、NOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力という観点からは、NOX吸蔵触媒11の温度を常に低温領域または高温領域に維持しておくことが好ましい。
このように、NOX吸蔵触媒11の温度を常に低温領域または高温領域に維持することを考えた場合、低温領域または高温領域に維持するために積極的に冷却または昇温を行うとエネルギ消費量が多くなるため、エネルギ消費の低減等の観点から、大部分の機関運転状態においてNOX吸蔵触媒11の温度が低温領域または高温領域となるような位置にNOX吸蔵触媒11を配置することが最適である。
ここで、本実施形態のような圧縮自着火式内燃機関では例えばアイドル運転時等に機関本体から排出される排気ガスの温度が比較的低いため、NOX吸蔵触媒を機関排気通路内の最適な位置に配置したとしても、NOX吸蔵触媒の温度を高温領域に維持することができないことが多い。また、NOX吸蔵触媒の温度を高温領域に維持しようとする場合、機関本体から排出された高温の排気ガスがNOX吸蔵触媒に到達するまでに冷却されてしまうのを抑制する必要があり、NOX吸蔵触媒を機関本体に近接して配置しなければならず、当該NOX吸蔵触媒を搭載した車両等の設計上の制約が多くなってしまう。
そこで、本発明の実施形態では、機関排気通路内であって大部分の機関運転領域でNOX吸蔵触媒11の温度を低温領域に維持することができるような位置にNOX吸蔵触媒11が配置される。ここで、低温領域とは、NOX吸蔵触媒11の活性温度よりも低く且つNOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力が一定以上となる温度をいい、例えば200℃以下である。また、大部分の運転領域とは定常運転が行われる運転領域をいい、例えば後述する昇温処理時や、高負荷運転が続いている時、内燃機関の冷間始動時、過渡時等を除いた運転状態をいう。
このように、NOX吸蔵触媒11を配置する形態としては、機関本体からNOX吸蔵触媒11までの排気通路を長くして、NOX吸蔵触媒11に到達するまでに排気ガスを冷却し、流入排気ガスの温度が大部分の機関運転領域で低いものとなるようにすることが考えられる。また、NOX吸蔵触媒11が車両等に設けられている場合、走行風が積極的に当たるような位置にNOX吸蔵触媒11を配置してNOX吸蔵触媒11を走行風により冷却することで大部分の機関運転領域でNOX吸蔵触媒11の温度を低温領域に維持するようにしてもよい。
NOX吸蔵触媒11をこのように配置した場合、実際に対象の温度域に維持することができない高温領域に維持しようとする場合と異なり、実際に大部分の機関運転領域でNOX吸蔵触媒11の温度を低温領域に維持することができる。このため、大部分の運転期間においてNOX吸蔵触媒11のNO2吸蔵能力を高く維持することができる。また、図4から分かるように低温領域におけるNOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力は、高温領域におけるNO2吸蔵能力に比べて高く、効果的なNOXの吸蔵が可能となる。
ただし、このようにNOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力を高く維持したとしても、NOX吸蔵剤52のNO2吸蔵量には限界があり、リーン空燃比のもとでの燃焼が継続して行われると、その間にNOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力が飽和してしまい、斯くしてNOX吸蔵剤52によりNO2を吸蔵できなくなってしまう。そこで本実施形態では、NOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力が飽和する前に、内燃機関が上述した一部の特別な運転状態となることによりNOX吸蔵触媒11の温度がその活性温度以上となった場合に、還元剤供給弁13から還元剤を供給することによって流入排気ガスの空燃比を一時的にストイキ・リッチにし、それによってNOX吸蔵剤52からNOXを放出させるようにしている(NOX放出処理)。
より詳細には、本実施形態では、NOX吸蔵触媒11のNOX吸蔵剤52に吸蔵されている吸蔵NOX量ΣNOXが算出され、算出された吸蔵NOX量ΣNOXが予め定められた許容値NXを越えているときであって、NOX吸蔵触媒11の温度が活性温度以上となっているときに流入排気ガスの空燃比がリーンからストイキ・リッチに切換えられ、それによってNOX吸蔵剤52からNOXが放出される。なお、本実施形態では、NOX吸蔵触媒11の温度がその活性温度以上となった場合にNOX放出処理が実行されるため、すなわちNOX放出処理をいつでも実行可能なわけではないため、本実施形態における予め定められた許容値NXは、NOX吸蔵触媒11のNO2吸蔵能力が飽和する吸蔵NOX量の限界値よりもかなり小さい値となっている。また、本実施形態では許容値NXを予め定められた値としているが、例えばNOX吸蔵触媒11の温度に応じて変化する値としてもよい。
NOX吸蔵触媒11の温度がその活性温度よりも低い場合、上述したように単位時間当たりのNOX吸蔵量は機関本体1から排出される排気ガス中のNO2量に応じて変わる。機関本体1から排出される排気ガス中のNO2量は燃料噴射量Qと機関回転数Nに加えて後述するEGR率や噴射時期の遅角量の関数であり、したがって単位時間当りにNOX吸蔵剤52に吸蔵されるNO2吸蔵量NO2Aは燃料噴射量Q、機関回転数N、EGR率および噴射時期の遅角量等の関数となる。本実施形態ではこれらパラメータに応じた単位時間当りのNO2吸蔵量NO2Aが予め実験により求められ、マップの形で予めROM32内に記憶されている。そして、この単位時間当たりのNO2吸蔵量の積算値がNOX吸蔵剤52に吸蔵されている積算吸蔵NOX量を表す。
なお、NOX放出処理においては、還元剤供給弁13から還元剤を供給することによって流入排気ガスの空燃比を一時的にストイキ・リッチにすると説明したが、本実施形態のように圧縮自着火式内燃機関を用いた場合、通常、機関本体1から排出される排気ガスの空燃比のリーン度合は非常に大きく、したがって流入排気ガスの空燃比をストイキ・リッチにするためには多量の還元剤を還元剤供給弁13から供給しなければならない。そこで、本実施形態では、例えば、多量のEGRガスを燃焼室2に導入することで、すなわちEGR率(EGRガスの量/全吸気ガスの量)を高くすることで、機関本体1から排出される排気ガスの空燃比のリーン度合を比較的小さくしてから、還元剤供給弁13において還元剤を供給している。
また、NOX吸蔵触媒11のNOX放出処理の実行という観点からは、内燃機関が上述した一部の特別な運転状態となることにより一時的にではあってもNOX吸蔵触媒11の温度がその活性温度以上となることが必要である。したがって、例えば、NOX吸蔵触媒11を機関本体からかなり離して配置してその温度が常に低温領域にあると、NOX放出処理を実行するのが困難となってしまう。
そこで、NOX吸蔵触媒11は、大部分の機関運転領域でその温度を低温領域内であって比較的高い温度領域に維持することができるように配置されるのが好ましい。したがって、例えば、NOX吸蔵触媒11を機関本体から離して配置することでその温度を低温領域内に維持しようとする場合、NOX吸蔵触媒11は、大部分の機関運転領域でその温度を低温領域内に維持することができる位置のうち最も上流側の位置に配置されるのが好ましい。
図5は、NOX吸蔵触媒11のNOX浄化能力を維持するための制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割り込みによって実行される。
図6を参照すると、まずステップ101ではNOX放出フラグXNがセットされているか否かが判定される。このNOX放出フラグXNはNOX放出処理を実行すべきときにセットされ(XN=1)、それ以外はセットされない(XN=0)フラグである。NOX放出フラグXNがセットされていないと判定されたときにはステップ102へと進み、上述したマップから単位時間当たりのNO2吸蔵量NOXAが算出される。次いで、ステップ103では、ステップ102で算出された単位時間当たりのNO2吸蔵量NO2AがΣNOXに加算され、積算吸蔵NOX量ΣNOXが算出される。
次いで、ステップ104およびステップ105では、ステップ103において算出された積算吸蔵NOX量ΣNOXが許容値NXを越えたか否か、およびNOX吸蔵触媒11の温度TCが設定温度Tsc、例えば200℃以上であるか否かがそれぞれ判定される。積算吸蔵NOX量ΣNOXが許容値NXを越えていて(ΣNOX>NX)且つ温度センサ20によって検出されるNOX吸蔵触媒11の温度TCが設定温度Tsc以上である場合には、ステップ106へと進んでNOX放出フラグXNがセットされ(XN=1)、それ以外の場合には制御ルーチンが終了せしめられる。NOX放出フラグXNがセットされると次回のルーチン実行時においてステップ101からステップ107へと進み、NOX放出処理が実行せしめられる。
図6は、図5のステップ107で開始されるNOX放出処理の処理ルーチンを示している。
図6を参照すると、まず初めにステップ121において流入排気ガスの空燃比を例えば13程度のリッチ空燃比とするのに必要な還元剤の供給量が算出される。次いでステップ122では還元剤の供給時間が算出される。この還元剤の供給時間は通常10秒以下である。次いでステップ123では還元剤供給弁13からの還元剤の供給が開始される。次いでステップ124ではステップ122において算出された還元剤の供給時間が経過したか否かが判別される。還元剤の供給時間が経過していないときにはステップ124が繰り返される。このとき還元剤の供給が続行され、流入排気ガスの空燃比が13程度のリッチ空燃比に維持される。これに対し、還元剤の供給時間が経過したとき、すなわちNOX吸蔵剤52からのNOX放出作用が完了したときにはステップ125に進んで還元剤の供給が停止され、次いでステップ126に進んでΣNOXがクリアされ、ステップ127でNOX放出フラグXNがリセットされる。
ところで、上記実施形態のように、NOX放出処理を実行するに当たって、内燃機関が一部の特別な運転状態となることによりNOX吸蔵触媒11の温度がその活性温度以上となるのを待つと、長期に亘ってNOX吸蔵剤52からNOXを放出することができずにNOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力が飽和してしまうことがある。
そこで、本発明の第二実施形態では、NOX放出処理として、NOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力が飽和する前に、NOX吸蔵触媒11の温度がその活性温度以上となるのを待たずに、積極的に昇温処理を実行してNOX吸蔵触媒11の温度をその活性温度以上に昇温してから、流入排気ガスの空燃比を一時的にストイキ・リッチにし、それによってNOX吸蔵剤52からNOXを放出させるようにしている。
より詳細には、本実施形態では、算出された吸蔵NOX量ΣNOXが予め定められた許容値NXを越えているときに、NOX吸蔵触媒11の昇温処理を実行してNOX吸蔵触媒11の温度を活性温度以上とし、その後流入排気ガスの空燃比をリーンからストイキ・リッチに切換え、これによりNOX吸蔵剤52からNOXを放出させる。なお、本実施形態では、NOX吸蔵触媒11が活性温度以上となることを待つ必要がなく、NOX放出処理をいつでも実行可能であるため、本実施形態における予め定められた許容値NXは、第一実施形態における許容値NXよりも大きい値とすることができ、例えば、NOX吸蔵触媒11のNO2吸蔵能力が飽和する吸蔵NOX量の限界値とほぼ同値或いはそれよりも僅かに小さい値とすることができる。
なお、本実施形態では、昇温処理は、流入排気ガスの温度を上昇させることによって行われる(以下、排気昇温処理と称す)。この排気昇温処理では、具体的には、内燃機関の燃焼室2に燃料を噴射するタイミングを遅らせたり、内燃機関の燃焼室2に機関駆動用の燃料を噴射した後に少量の燃料を噴射して燃焼させたり、内燃機関の燃焼室2に多量のEGRガスを流入させたり、NOX吸蔵触媒11上流に電気ヒータやグロープラグを設け、これら電気ヒータまたはグロープラグを作動させたりすることによって、流入排気ガスの温度が上昇せしめられ、結果的に、NOX吸蔵触媒11が昇温される。また、燃焼室2内に燃料を点火するための点火栓が設けられている場合には、この点火栓による燃料の点火タイミングを遅らせることによっても、流入排気ガスの温度を上昇させることができる。
図7は、図5と同様な図であり、NOX吸蔵触媒11のNOX浄化能力を維持するための制御ルーチンを示しており、このルーチンは一定時間毎の割り込みによって実行される。ステップ131〜134およびステップ138はそれぞれ図5のステップ101〜104およびステップ107と同様であるため、説明を省略する。
ステップ135では、温度センサ20によって検出されたNOX吸蔵触媒11の温度TCが設定温度Tsc、例えば200℃以上であるか否かがそれぞれ判定される。NOX吸蔵触媒11の温度TCが設定温度Tscよりも低い場合には、ステップ136へと進んで、昇温処理が行われる。昇温処理が行われてNOX吸蔵触媒11の温度TCが設定温度Tsc以上となると、その後のルーチン実行時にステップ135からステップ137へと進み、NOX放出フラグXNがセットされる(XN=1)。
ところで、機関本体1から排出される排気ガス中には二酸化窒素(NO2)だけでなく一酸化窒素(NO)も含まれているが、NOX吸蔵触媒11の温度が活性温度よりも低いと、NOX吸蔵剤52はNO2のみしか吸蔵することができない。すなわち、NOX吸蔵触媒11は、その温度が活性温度以上である場合には担持している白金の酸化作用によりNOをNO2に酸化してから吸蔵することができるが、その温度が活性温度よりも低いときにはNOを吸蔵することができない。したがって、NOX吸蔵触媒の温度が低温領域にある場合にはNOX吸蔵剤52にはNOが吸蔵されず、NOX吸蔵触媒11によるNOX浄化率が低下してしまう。
そこで、本発明の第三実施形態では、上述した第一実施形態または第二実施形態に示したような排気浄化装置に対して、さらに図8に示したようにNOX吸蔵触媒11の排気上流に酸化触媒55を内蔵したケーシング56が設けられている。酸化触媒55は、白金等の触媒貴金属を担持した酸化能力を有する触媒であり、NOX吸蔵触媒11に流入する前に排気ガス中のNOをNO2に酸化して、NOXがNOX吸蔵触媒11に吸蔵され易くなるようにしている。
ここで、酸化触媒55の酸化能力、すなわち酸化触媒55におけるNOからNO2への酸化率(NO2転換率)も酸化触媒55の温度に応じて変化する。すなわち、図9に示したように、酸化触媒55の温度が低い場合(例えば200℃以下)には酸化触媒55に担持されている貴金属が活性しておらず、よって酸化触媒55におけるNO2転換率が低い。また、酸化触媒55の温度が非常に高い場合にも貴金属の酸化能力が低下するため、結果として酸化触媒55におけるNO2転換率が低くなってしまう。このため、酸化触媒55におけるNO2転換率を高く維持するためには、酸化触媒55の温度を上述した酸化触媒55におけるNO2転換率が低い温度領域を除いた温度領域、すなわち酸化触媒55が一定以上のNO2転換率を発揮する温度領域(図中の領域D。以下、「高酸化能温度領域」と称す)に維持することが必要である。高酸化能温度領域は例えば200℃〜300℃である。なお、図9から分かるように高酸化能温度領域のうち最も低温側の温度におけるNO2転換率と、最も高温側の温度におけるNO2転換率とは異なるものであってもよい。
そこで、本実施形態では、酸化触媒55は大部分の機関運転領域でその温度が高酸化能温度領域内に維持されるような位置に配置される。これにより、大部分の機関運転領域でNOX吸蔵触媒11に流入するNOXのほとんどをNO2とすることができる。上述したように、本発明のNOX吸蔵触媒11は大部分の機関運転領域で流入排気ガス中のNO2を吸蔵することができるため、機関本体1から排出された排気ガス中のNOXのほとんどをNOX吸蔵触媒11で吸蔵することができるようになり、NOX吸蔵触媒11によるNOXの浄化率が高められる。
なお、酸化触媒55の温度が高酸化能温度領域内に維持される大部分の機関運転領域は、NOX吸蔵触媒11が低温領域内に維持される大部分の機関運転領域と同一の運転領域であってもよいし、異なる運転領域であってもよい。
また、本実施形態においても上記第一実施形態または第二実施形態と同様にNOX放出処理が行われるが、本実施形態におけるNOX吸蔵触媒11の吸蔵NOX量の推定方法は、上記実施形態のものと異なり、機関本体1から排出されるNO2の量に基づいて吸蔵NOX量を推定するのではなく、機関本体1から排出されるNOXの量に基づいて推定する。これは、本実施形態において、機関本体1から排出されるNO2のみならずNOX全てがNOX吸蔵触媒11で吸蔵されるためである。
より詳細には、単位時間当りに機関本体1から排出されるNOX量は燃料噴射量Qと機関回転数Nの関数であり、したがって単位時間当りにNOX吸蔵剤52に吸蔵されるNOX吸蔵量NOXAは燃料噴射量Qと機関回転数Nの関数となる。本実施形態では燃料噴射量Qと機関回転数Nに応じた単位時間当りのNOX吸蔵量NOXAが予め実験により求められており、このNOX吸蔵量NOXAが燃料噴射量Qと機関回転数Nの関数としてマップの形で予めROM32内に記憶されている。そして、この単位時間当たりのNOX吸蔵量NOXAの積算値ΣNOXがNOX吸蔵剤52に吸蔵されている積算吸蔵NOX量を表す。
なお、本実施形態の排気浄化装置では、排気マニホルド5、すなわち酸化触媒55の排気上流の機関排気通路に設けられた還元剤添加弁13に加えて、酸化触媒55とNOX吸蔵触媒11との間の機関排気通路に還元剤添加弁57が設けられている。そして、NOX吸蔵触媒11を昇温する昇温処理においては酸化触媒55の排気上流に設けられた還元剤添加弁13から還元剤が添加され、酸化触媒55での還元剤の燃焼熱によりNOX吸蔵触媒11の昇温が図られる。また、NOX放出処理においては酸化触媒55とNOX吸蔵触媒11との間に設けられた還元剤添加弁57から還元剤が添加され、流入排気ガスの空燃比がストイキ・リッチとされる。あるいは、還元剤添加弁13を酸化触媒55の排気上流のみに設け、昇温処理およびNOX放出処理の両方に用いてもよい。
また、NOX吸蔵触媒11の排気上流に酸化触媒55が設けられている場合には、昇温処理は、上述した昇温処理の方法でなく、酸化触媒55内で化学反応を起こさせて発熱させ、排気ガスを介してその熱をNOX吸蔵触媒11に伝えること(以下、発熱昇温処理と称す)によっても行われてもよい。この発熱昇温処理では、具体的には、内燃機関の燃焼室2に機関駆動用の燃料を噴射した後に少量の燃料を噴射し、その燃料を燃焼させずにそのまま燃焼室2から排出させたり、酸化触媒55上流において排気ガスに燃料を添加するための装置を設け、この装置から排気ガスに燃料を添加したりして、燃料が酸化触媒55に供給され、これら燃料が酸化触媒55内にて燃焼せしめられることによって酸化触媒55にて発熱反応が起こり、この熱が排気ガスを介してNOX吸蔵触媒11に伝わってNOX吸蔵触媒11が昇温される。
次に図1に示したNOX吸蔵触媒11がパティキュレートフィルタ(以下、「フィルタ」と称す)からなる場合について説明する。
図10(A)および(B)にこのフィルタ11の構造を示す。なお、図10(A)はフィルタ11の正面図を示しており、図10(B)はフィルタ11の側面断面図を示している。図10(A)および(B)に示されるようにフィルタ11はハニカム構造をなしており、互いに平行をなして延びる複数個の排気流通路60、61を具備する。これら排気流通路は下流端が栓62により閉塞された排気ガス流入通路60と、上流端が栓63により閉塞された排気ガス流出通路61とにより構成される。なお、図10(A)においてハッチングを付した部分は栓63を示している。したがって排気ガス流入通路60および排気ガス流出通路61は薄肉の隔壁64を介して交互に配置される。云い換えると排気ガス流入通路60および排気ガス流出通路61は、各排気ガス流入通路60が四つの排気ガス流出通路61によって包囲され、各排気ガス流出通路61が四つの排気ガス流入通路60によって包囲されるように配置される。
フィルタ11は例えばコージライトのような多孔質材料から形成されており、したがって排気ガス流入通路60内に流入した排気ガスは図10(B)において矢印で示したように周囲の隔壁64内を通って隣接する排気ガス流出通路61内に流出する。
このようにNOX吸蔵触媒11をパティキュレートフィルタから構成した場合には、各排気ガス流入通路60および各排気ガス流出通路61の周壁面、すなわち各隔壁64の両側表面上および隔壁64内の細孔内壁面上にはアルミナからなる触媒担体の層が形成されており、図2(A)、(B)に示したようにこの触媒担体50上には触媒貴金属51とNOX吸蔵剤52とが担持されている。なお、この場合も触媒貴金属として白金Ptが用いられている。このようにNOX吸蔵触媒11をパティキュレートフィルタから構成した場合でもNOX吸蔵触媒11の温度がその活性温度よりも低いときには流入排気ガス中のNO2がNOX吸蔵触媒11に吸蔵される。なお、この場合にも図5および図6または図7に示すNOX吸蔵触媒11に対するNOX放出処理と同様のNOX放出処理が行われる。
また、NOX吸蔵触媒11をパティキュレートフィルタから構成した場合には、流入排気ガス中に含まれる粒子状物質がフィルタ11内に捕獲され、捕獲された粒子状物質は排気ガス熱によって順次燃焼せしめられる。多量の粒子状物質がフィルタ11上に推積した場合には、機関本体1から排出される排気ガスの温度を高くしたり、還元剤供給弁13から還元剤を供給して酸化触媒55やフィルタ11で燃焼させたりして、フィルタ11を昇温することで、推積したパティキュレートが着火燃焼せしめられる。
なお、上記各実施形態では、NOX吸蔵触媒11はNOX吸蔵剤52と触媒貴金属(例えば、白金)51とを担持するものであるとしているが、低温領域におけるNOX吸蔵剤52のNO2吸蔵能力という観点からは、触媒貴金属51は極めて少量担持されるか或いは全く担持されていないことが好ましい。
すなわち、NOX吸蔵剤52が低温吸蔵を行うような温度領域においては、NOX吸蔵触媒11に担持されている触媒貴金属51は流入排気ガス中のNOをNO2に酸化することができないばかりか、NO2をNOに還元してしまう。上述したようにNOX吸蔵剤52はNO2のみを吸蔵することができ、NOを吸蔵することはできない。したがって、NOX吸蔵触媒11に触媒貴金属51を多く担持させると、上記温度領域におけるNOX吸蔵触媒11によるNOX浄化率が低下してしまう。NOX吸蔵触媒11に触媒貴金属51を全く担持させなければ、NO2の還元が行われることはなく、NOX吸蔵触媒11によるNOX浄化率を高いものとすることができる。
ただし、NOX吸蔵触媒11に触媒貴金属51が全く担持されていないと、NOX吸蔵触媒11からNOXを放出する際に、当該NOX吸蔵触媒11単独ではNOX吸蔵触媒11から放出されたNOXをN2に還元することができないため、NOX吸蔵触媒11から放出されたNOXを還元するためにNOX吸蔵触媒11の排気下流に酸化触媒が必要となってしまう。そこで、非常に少量の触媒貴金属51をNOX吸蔵触媒11に担持させるようにしてもよい。触媒貴金属52の量は、例えば、少なくとも活性温度以上での還元能力と酸化能力とを考慮したときに最適になるように設定される触媒貴金属51の量よりも少ない量であり、触媒貴金属51として白金が用いられる場合には例えば2g/l以下であるのが好ましい。