JP2005133069A - きのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法ときのこ由来のβ−グルカン多糖類 - Google Patents

きのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法ときのこ由来のβ−グルカン多糖類 Download PDF

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Abstract

【課題】 抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているβ−(1→3)グルカンやβ−(1→6)グルカン等の構造をもつβ−グルカンをきのこから選択的に抽出分画することのできる新しい取得方法と、この方法により得られる新しいβ−グルカン多糖類を提供する。
【解決手段】 担子菌類ヒダナシタケ目きのこの細胞壁の水素結合を弱め、もしくは破壊した後に、強アルカリ抽出してβ−グルカンのうちの1種以上の多糖類を分画取得する。
【選択図】なし

Description

この出願の発明は、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているβ−(1→3)グルカンやβ−(1→6)グルカン等の構造をもつβ−グルカンをきのこから選択的に抽出分画することのできる新しい取得方法と、この方法により得られる新しいβ−グルカン多糖類に関するものである。
きのこ細胞壁は多糖類・たんぱく質・脂質などから構成される天然高分子の集合体である。この中で多糖類は最も主要な成分で細胞壁の約40〜70%を占めている。この多糖類は細胞壁に独特の形を与え、子実体を形成する骨格材料として大きな役割を果たしていると考えられているが、その組成、階層構造や化学的・物理的性質の詳細はわかっていない。特に堅い子実体のマイタケやハナビラタケ等の担子菌類ヒダナシタケ目のきのこについては、特に主要な部分の構造、組成が全く分かっていない。一方きのこは古くから和漢薬、民間薬として強壮・鎮静・血圧降下など数々の薬効の他に癌などの難病にも効果があることが語り継がれてきた。近年その抗腫瘍活性や生理活性の根拠がβ−(1→3)グルカン、β−グルカンからなる多糖構造体にあることが実証された。これまで幾つかのきのこから熱水抽出法、酸、アルカリを繰り返し用いた抽出法、酵素分解法など様々な抽出法が示された。しかしながら、複雑な多組成を持つきのこの細胞壁中から上記グルカンを単離する一般的方法は示されていない。特に、堅い外観のヒダナシタケ目細胞壁から効率的に抽出、分画する方法は示されていない。
このような状況において、この出願の発明者らは、種々検討した結果、あらかじめアセトン、エタノール脂質を十分に除き、続いてNaClO4で水素結合を予備的に破壊する
と、α−グルカンが除去されて、いわゆる粘着性のある物質が除かれることと、その後DMSOで水素結合力を弱くすると、タンパク質やキチン質をほとんど含まない、α型とβ型の複合糖質がほぼ選択的に得られることを見出した(非特許文献1)。
高分子学会第50回北陸支部研究発表会予稿第61頁(2001年)
しかしながら、発明者らによるこれまでの検討においては、担子菌類ヒダナシタケ目きのこからβ−グルカン構造を有する多糖類を選択的に取得することは可能とされていなかった。
そこで、この出願の発明はこのような背景から、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているβ−(1→3)グルカンやβ−(1→6)グルカン等の構造をもつβ−グルカンをきのこから選択的に抽出分画することのできる新しい取得方法と、この方法により得られる新しいβ−グルカン多糖類を提供することを課題としている。
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、担子菌類ヒダナシタケ目きのこの細胞壁の水素結合を弱め、もしくは破壊した後に、強アルカリ抽出してβ−グルカンのうちの1種以上の多糖類を分画取得することを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法を提供する。
また、上記の方法について、第2には、多段階で強アルカリ抽出することを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法を、第3には、強アルカリ抽出に際してNaBH4を添加することを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン各糖類の取得方法を提供する。
そして、この出願の発明は、第4には、次亜鉛素酸ナトリウムおよびDMSOのうちの1種以上によりきのこ細胞壁の水素結合を弱め、もしくは破壊することを特徴とする上記いずれかのきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法を提供する。第5には、β−グルカン多糖類が、β−(1→3)グルカン、β−(1→6)グルカン並びにβ−(1→6)グルシル分岐β−(1→3)グルカンの構造を有する1種以上であることを特徴とする上記いずれかのきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法を、第6には、分子量が2,000,000以上であることを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法を、第7には、分子量が400,000前後であることを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法を提供する。
さらに、この出願の発明は、第8には、担子菌類ヒダナシタケ目きのこから強アルカリにより抽出分画されたβ−グルカン多糖類であって、β−(1→3)グルカン、β−(1→6)グルカン、並びにβ−(1→6)グルシル分岐β−(1→3)グルカンの構造のうちのいずれかを有することを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類を提供し、第9には、分子量が2,000,000以上であることを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類を、第10には、分子量が400,000前後であることを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類を提供する。
以上のとおりのこの出願の発明によって、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているβ−(1→3)グルカンやβ−(1→6)グルカン等の構造をもつβ−グルカンをきのこから選択的に抽出分画することのできる新しい取得方法と、この方法により得られる新しいβ−グルカン多糖類が提供される。
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の最良の形態について説明する。
この出願の発明においては、まず、きのこの細胞壁の水素結合を弱め、もしくは破壊し、その後に強アルカリ抽出する。この際の水素結合を弱め、もしくは破壊するための手段としては、たとえば、次亜塩素酸塩や過塩素酸塩、スルホン酸塩、パーフルオロスルホン酸塩、あるいは各種の酸化剤、もしくはDMSO,DMF等の有機溶媒がそれらの例として挙げられ、なかでも、次亜塩素酸ナトリウムやDMSOがその好適な例として示される。
そして、この出願の発明における強アルカリによる抽出は、通常は、1M以上のNaOH,KOH等のアルカリ水溶液を用いることによって実施される。特に、この出願の発明においては、β−グルカンの選択的取得のためには、後述の例にも示したように、濃度が順次増大された強アルカリ水溶液を用いて多段階で抽出することが有効である。
また、この強アルカリ水溶液には、抽出時に還元末端からのピーリング反応による多糖類の分解、低分子化を防ぐために、NaBH4を添加することが有効でもある。
そして、この出願の発明の抽出分画法を実施するに際しては、あらかじめ、きのこ原料のケトンあるいはアルコールによる洗浄を行うこと、また、低濃度アルカリ水溶液による

α−グルカンの選択的分離を行うことも考慮される。
対象とするきのこについては、従来、その抽出分画が容易ではなかった担子菌類ヒダナシタケ目きのこのうちの各種のものであってよい。たとえば、マイタケ、ハナビラタケ、ヒイロタケ等である。いずれの場合にも、β−グルカンの選択的取得が可能になる。
そこで、さらに詳しく、<A>マイタケからの多糖類の抽出、<B>ハナビラタケ並びに<C>ヒイロタケからの多糖類の抽出を例として説明する。
なお、以下の例においては、抽出多糖と比較するために標準多糖を使用しており、この標準多糖の俗称、単離起源、化学構造を表1に示した。デンプン、カードランは和光純薬工業(株)、デキストランはナカライテスク(株)、パスツランはCalbiochem Co.からそれぞれ入手したものであり、シゾフィランは台糖(株)から入手したものである。シゾフィランの構造は〔化1〕に示したようにβ−(1→3)グルカンを主鎖に持ち、そのグルコース残基3つ毎に、1つのβ−(1→6)のグルコピラノシル残基を持つβ−(1→6)の分岐したβ−(1→3)グルカンである。
Figure 2005133069
Figure 2005133069
<A>マイタケからの多糖類の抽出分画
抽出処理に際し、マイタケ試料としては、その子実体の白い柄の部分を凍結乾燥後、乳鉢で粉砕、粉末化して試料とした。凍結乾燥は東京理化器械Freeze Dryer FD-1, Dry Chamber DRC-1Nを用い、10日間行なった。白い柄の部分を使用したのは次の理由からである。(1)多糖はマイタケ細胞壁の主成分であり、その硬い骨格形成に寄与している。したがって、多糖は子実体の中でも硬い部位である柄に多く存在すると推測した。(2)子実体全部を使用した場合、傘の黒い色素成分の除去が必要になる、多糖の抽出工程を簡略化するため、また、多糖の純度を向上させるためにも柄の部分のみ用いた。
例 1
分画工程を表2に示した。まず遠心管にマイタケ粉末8.4gを入れ、洗浄溶媒アセトン200mlを加え、室温で24時間攪拌した。その後、9,500rpmで40分間、遠心分離し、沈殿物として脱脂マイタケ粉末を得た。洗浄溶媒としてはエタノール等のアルコールでもよい。次いで脱脂マイタケ粉末に、0.1M水酸化ナトリウム200ml、次亜塩素酸ナトリウム25mlを加え、冷蔵庫(3℃)で12時間静置した。その後、9,500rpmで30分間、遠心分離し、上澄み液と次亜塩素酸ナトリウム不溶沈殿物(Residue-1)とに分けた。上澄み液には溶媒の4倍容量(薬800ml)のエタノールを加え、冷蔵庫で12時間静置後、生じた沈殿物を遠心分離で回収した(以後、エタノール沈殿と称す)。こうして得られた沈殿物をエタノールで洗浄後、減圧乾燥して次亜塩素酸ナトリウム抽出物(茶白色)を得た。Residue-1はエタノール、アセトンの順で洗浄、乾燥後、ジメチルスルホキシド100mlに懸濁させ、90℃で20分間、攪拌処理、次いで、55℃で10分間、超音波処理を行った。これを3回反復後、9,500rpmで30分間遠心分離し、上澄み液とジメチルスルホキシド不溶沈殿物(Residue-2)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で生じた沈殿物を遠心分離で回収し、エタノール、アセトンで洗浄、減圧乾燥してジメチルスルホキシド抽出物(黄白色)を得た。さらに、Residue-2はエタノール、アセトンの順で洗浄、乾燥後、1.25M水酸化ナトリウム100mlに懸濁させ、30℃で1時間、攪拌処理を行った。処理後、遠心分離で上澄み液と1.25M水酸化ナトリウム不溶沈殿物(Residue-3)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で1.25M水酸化ナトリウム抽出物(白色)を回収し、エタノールアセトンで洗浄後、減圧乾燥した。続いて、Residue-3はエタノール、アセトンの順で洗浄、乾燥後、5M水酸化ナトリウム100mlに懸濁させ、30℃で1時間、攪拌処理を行った。処理後、遠心分離で上澄み液と最終残渣(Residue-4)に分けた。上澄み液からは、エタノール沈殿で5M水酸化ナトリウム抽出物(白色)を回収し、エタノール、アセトンで洗浄後、減圧乾燥した。
Figure 2005133069
1)マイタケ粉末の洗浄
マイタケから多糖部分を純粋に得ようとすれば、共存する脂質やタンパク質を予め除去しなければならない。ここではアセトンまたはエタノールを用いて、脂質除去のための洗浄溶媒をそれぞれの抽出液の1H NMR解析から決定した。アセトンとエタノール抽出液の1H NMRスペクトルの0.2ppmのシグナルは炭化水素に因るものであり、オレイン酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸のスペクトルによく一致している。このことからアセトン、エタノールどちらでも脂質除去できることがわかった。しかし、エタノール抽出液のスペクトルでは3〜5.5ppmに糖質のシグナルが観測され、脂質と共に糖質も溶解していることがわかった。したがって、多糖をnativeに近い状態で得るためには、脂質のみを除去するアセトンが洗浄溶媒により適していると判断される。
2)化学分析による抽出物の評価
上記の分画工程の操作で得られた各抽出物を評価するために、それらの糖含有率および窒素値を調べた。また、収率も求め、あわせて表3に示した。窒素値は各抽出物がタンパク質、キチン質から分離された糖質であるかを判断するために用いた。
Figure 2005133069
次亜塩素酸ナトリウム抽出物は収率16%と高かったが、他の抽出物と比較して窒素値が高く、糖含有率は低かった。したがって、タンパク質を多く含むことが推測された。ジメチルスルホキシド抽出物、1.25M水酸化ナトリウム抽出物は、低い窒素値、高い糖含有率からタンパク質、キチン質をほとんど含まない多糖であることが推測された。さらに、1.25M水酸化ナトリウム抽出物の収率は24%と非常に高かった。5M水酸化ナトリウム抽出物の糖含有率が64%と低かったのは、抽出に用いた水酸化ナトリウム濃度が高いため、抽出物を回収するエタノール沈殿で水酸化ナトリウムの析出が起こり、抽出物中に混入したためではないかと考えられる。これを支持する結果として、5M水酸化ナトリウム抽出物とナトリウムの炎色反応(橙色)が一致した。
最終残渣の窒素値はキチン質に由来すると考えられる。
3)HPLCによる抽出多糖の構成単糖の同定
抽出多糖の構成単糖を調べるため、多糖を塩酸で加水分解して、得られた単糖をHPLCで分析した。図1に各抽出多糖の加水分解生成単糖のクロマトグラムを示した。全ての抽出多糖から得られた単糖はグルコースに同定できた。したがって、抽出多糖はグルコースから構成されるグルカンであることがわかった。
4)FT−IRスペクトルによる抽出多糖のα、β結合様式の判定
多糖の一次構造を推定するためには、糖残基配列のグリコシド結合型を決定しなければならない。そこで、迅速に結合様式を調べるため、抽出多糖のFT−IRスペクトルを測定した。多糖のFT−IRスペクトルでは糖残基のアノマー位のCH変角振動(以後、δCH)に由来するピークからその結合様式を推定できる。図2は、標準多糖にデキストラン(α−グルコシド結合型)とカードラン(β−グルコシド結合型)を用い、抽出多糖と比較したFT−IRスペクトルである。デキストランのδCHは846cm-1、カードランのδCHは890cm-1にそれぞれ観測され、そのδCH由来のピークから抽出多糖のグルコシド結合型を次のように推測した。次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖とジメチルスルホキシド抽出多糖はα型δCII(846cm-1)、β型δCH(890〜880cm-1)由来のピークが観測され、α型、β型が共存する多糖であることが推定された。1.25M、5M水酸化ナトリウム抽出多糖はβ型δCH(890〜880cm-1)が観測され、β型多糖に帰属できた。
5)1Hおよび13C NMRスペクトルによる抽出多糖の構造解析
糖残基のグルコシド結合位置を調べ、一次構造を決定するために1Hおよび13C NMRスペクトル解析を行った。1H NMR測定に供した抽出多糖は、溶媒(DMSOd6/D2O=6/1)に可溶な次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖およびジメチルスルホキシド抽出多糖である。13C NMR測定は次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖を除く全抽出多糖に対して行った。
1H NMRスペクトルによる構造解析は、標準多糖(デンプン、カードラン、パスツラン、シゾフィラン)と比較し、構成糖残基のアノメリックプロトンの帰属から行った。一般にα−グルコシド結合型のアノメリックプロトンは5.00〜5.45ppmの領域にスピン結合定数J1,2 3.5Hzを、β−グルコシド結合型は4.50〜4.80ppmの領域にJ1,2 7.8Hzを示すので、結合配向の区別ができる。
図3に次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖、ジメチルスルホキシド抽出多糖および標準多糖の1H NMRスペクトルを示した。(a)はα−グリコシド結合型多糖であるデンプンのスペクトルである。アノメリックプロトンのピークが5.13ppm(J1,2 3.5Hz)に観測された。(b)、(c)はβ−グルコシド結合型多糖のカードラン(β−(1→3)グルカン)とパスツラン(β−(1→6)グルカン)のスペクトルである。アノメリックプロトンのピークはカードラン、パスツランそれぞれ4.56ppm(J1,2 7.8Hz)、4.30ppm(J1,2 7.8Hz)にダブレットとして観測された。パスツランの4.02ppmのダブレットピークは6位の炭素に結合しているプロトンに帰属した。このように、カードランとパスツラのアノメリックプロトンが正確に帰属できたことは、その積分値からβ−(1→3,1→6)グルカンの分岐様式を決定できることを示唆している。そこで、分岐様式が既知であるシゾフィランのスペクトル(d)が実際の構造を定量的に反映しているかを検討した。(d)のスペクトルの帰属はカードランとパスツランを参考に行い、4.53〜4.58ppmのシグナルはβ−(1→3)グルカンに、4.26ppmのシグナルはβ−(1→6)グルカンにそれぞれ帰属した。そして、これらのピーク面積比を求めたところβ−(1→3)グルカン/β−(1→6)グルカン=3/1であり、実際のシゾフィランの構造とよく一致した。また、この結果より、4.53〜4.58ppmのシグナルは3つのダブレットが重なったピークであることもわかった。このように、アノメリックプロトンの積分値からシゾフィランの分岐様式を決定することができたので、次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖、ジメチルスルホキシド抽出多糖についても同様に解析した。
(e)、(f)には次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖、ジメチルスルホキシド抽出多糖のスペクトルをそれぞれ示したが、次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖のアノメリックプロトンは5.12,4.95ppm(J1,2 3.5Hz)、4.30ppm(J1,2z)のシグナルは、α−(1→3)グルカンに由来することが後に観測された。
したがって、次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖はα−(1→3),α−(1→4),β−(1→6)グルカンを持つことが推測された。同様に、ジメチルスルホキシド抽出多糖のスペクトルも次のように帰属した。5.10,4.95ppmのシグナルはそれぞれα−(1→4),α−(1→3)グルカンに、4.55〜4.58pmm、4.25〜4.31ppmのシグナルはそれぞれβ−(1→3),β−(1→6)グルカンに帰属した。これよりジメチルスルホキシド抽出多糖はα−(1→3),α−(1→4),β−(1→3),β−(1→6)グルカンを持ったことが推測された。
ただ、多糖同士が枝分かれ構造を有しているかどうかは、1H NMRスペクトルは存在する分子構造の平均的観測から得られる情報であり、またアノメリックプロトンだけで構造を推測しているため、この分岐点を確認することは困難である。しかし、多糖分析において、メチル化法や酵素分解など他の分析法にはないNMR法の利点(少量の試料で、迅

速に、短時間で、構造を壊すことなく解析できる)を活かすために、そして、これまでの報告や先に述べたシゾフィランの構造決定をふまえて、ここでは、β−グルカンに関しては分岐型を有していると推測した。なお、α−グルカンについては直鎖、分岐鎖を推測することはできなかった。
13C NMRによる構造解析はジメチルスルホキシド、1.25M,5M水酸化ナトリウム抽出多糖に対して行った。はじめに、α−,β−グルコシド結合様式による13C NMRスペクトルの違いをメチルα−D−グルコピラノシド、メチルβ−D−グルコピラノシドで確認した。そのスペクトルのメチル基が結合している1位の炭素(C−1)のピークに着目すると、β型C−1はα型C−1よりも低磁場側に現れ、このことから、グルコシド結合型をC−1のピークから推定できることがわかった。次に、β−グルカンの標準多糖としてカードランとパスツランを用い、その13C NMRスペクトルを比較した。糖の水酸基がグルコシル化を受けると、直接結合している炭素のピークが大きく低磁場シフトする特徴が知られている(グルコシル化シフト)が、カードランとパスツランの13C NMRスペクトルでは、カードランのC−6のシグナルは60.8ppmに表われているが、パスツランのC−6のシギナルは69.8ppmに移動している。また、パスツランのC−3シグナルは75.4ppmに現れているが、カードランのC−3のシグナルは86.1ppmに移動している。このように移動したのはグルコシル化を受けた炭素のみであるため、β−(1→3)グルカンではC−3,β−(1→6)グルカンでは、C−6がそれぞれに特有のシグナルであると決定した。
ジメチルスルホキシド抽出多糖の13C NMRスペクトルを図4に示した。C−1のピークに関して、α−グルカン由来のピークが99.4〜101.3ppmに、β−グルカン由来のピークが102.7〜103.6ppmに観測された。このα,β型の共存はFI−IRスペクトル、1H NMRスペクトル結果と一致した。β−グルカンは1H NMRスペクトルからの構造決定によるとβ−(1→3,1→6)グルカンであったが、その構造に特徴的なシグナルが13C NMRスペクトルでも観測された。それは86.1ppmに現れたダブレットのシグナルであり、β−(1→3)グルカンのC−3に帰属した。β−(1→6)グルカンに由来するC−6のシグナルは68〜76ppmの複雑なピーク群中にあり正確な帰属は困難であった。そして、この13C NMRスペクトルと先に示した1H NMRスペクトルから、ジメチルスルホキシド抽出多糖はα−(1→3),α−(1→4),β−(1→3),β−(1→6)グルカンを持つことが13C NMRスペクトルからも推定された。
次に、1.25M,5M水酸化ナトリウム抽出多糖は1H NMR解析できなかったため13C NMRスペクトルから一次構造を決定した。しかし、一般に1H NMRとは異なり、13C NMRスペクトルにはピーク面積の定量性がないと言われる。一つには完全デカップリングに付随して直接結合しているプロトンが多いほど強度が向上すること、もう一つは1H NMRと比較して感度が悪いため積分の精度が悪くなる点である。そこで、その問題点を回避するためにプロトン数が同じ炭素核同士を比較し、ピーク面積を秤量する方法を採った。はじめに、この方法で正確に構造決定できるかを調べるため、標準多糖にシゾフィランを用いて13C NMRスペクトルを測定した。
しかし、図5(a)に示したスペクトルはこれまでに報告のあるシゾフィランのスペクトルと一致しなかった。それは、(1)88ppm付近にはっきりと現われるはずの主鎖β−(1→3)グルカンのC−3のシグナルがほとんど観測できない、(2)62ppm付近に一本のシャープなシグナとして現れるはずの主鎖β−(1→3)グルカンのC−6のシグナルが4本に分裂している、という2つの大きな違いであった。
この異なったスペクトルの原因は次のように考えることができる。すなわち、13C NMRスペクトル測定温度が40℃と比較的高温であり、またS/N比を向上させるため約20,000回の積算が必要で、測定に17時間を要す。そのため、この測定条件が水酸化ナトリウムによる主鎖β−(1→3)グルカンの分解を生じさせ、C−3のシグナルの消失や分解生成物による出るはずのないピークの出現につながったと考えられる。また、過酷なアルカリ条件下ではβ−(1→3)グルカンの還元末端から分解が生じるとも報告されている。そこで、β−(1→3)グルカンの分解を防ぐため還元末端を保護して再度同条件下で13C NMRスペクトルを測定した。還元末端の保護は測定溶媒である重水素
化された0.25M水酸化ナトリウムに水酸化ホウ素ナトリウムを添加し(5mg/ml)、還元末端のアルデヒドをアルコールに還元することで行った。そのときのスペクトルを図5(b)に示した。87.4ppmにC−3のシグナルがはっきり現れ、62.1ppmのC−6のシグナルも一本となったスペクトルが得られ、報告されたシゾフィランのスペクトルとよく一致した。そこで、次にピーク面積比から構造決定した。
C−1,C−6ともに主鎖/側鎖=3/1となりシゾフィランの構造とよく一致した。したがって、13C NMRスペクトルによる構造決定も可能なことが確認された。そこで、以下に説明する13C NMRスペクトルはNaBH4存在下で測定したものである。
次に、1.25M水酸化ナトリウム抽出多糖の構造解析を行った。ここで、β−(1→6)グルカンのC−6を正確に帰属するため、DEPT法でβ−(1→6)グルコシド結合するC−6を帰属した。パルス幅は135°に設定し、水素原子が2個結合した炭素核のみ下向きのシグナルとして検出できるようにした。つまり、C−6のシグナルだけ下向きに出現するようにした。1.25M水酸化ナトリウム抽出多糖の13C NMR(DEP
T135)スペクトルを図6に示した。水素原子が2個結合した炭素核に由来する下向きのシグナルが4つ観測できた。最も高磁場側に現れた58.5ppmのシグナルはエタノールのメチレン基に帰属できた。このエタノールは洗浄に用いたものである。62.2ppmの強いシグナルはグルコシル化を受けていないC−6であり、また、87.6ppmにグルコシル化シフトしたC−3も観測されたことより、β−(1→3)グルカンのC−6に帰属した。70.2ppmのシグナルはグルコシル化シフトしたC−6であり、β−(1→3)グルカンのC−6に帰属した。この2つのC−6(62.2,70.2ppm)を比較すると明らかに62.2ppmのシグナルの方が強いため、このシグナルに由来するβ−(1→3)グルカンを主鎖、70.2ppmのシグナルに由来するβ−(1→6)グルカンを側鎖と考えた。63.8pmのシグナルはこれまでの報告から側鎖として存在するβ−(1→6)グルカンの非還元末端C−6に帰属した。そこで次に、同じ1.25M水酸化ナトリウム抽出多糖を通常の13C NMR測定し、そのスペクトルから一次構造を推定した。図7に1.25M水酸化ナトリウム抽出多糖の13C NMRスペクトルを示した。C−6のシグナルは上で述べたDEPT法に従って帰属した。C−1の帰属については、これまでの報告から、104.6,104.1ppmのシグナルをそれぞれ主鎖C−1、側鎖C−1に、また74.9,74.7ppmのシグナルをそれぞれ側鎖C−2、主鎖C−2に帰属した。そして、この各ピーク面積比を表4に示した。
Figure 2005133069
C−6のピーク面積比について、主鎖の整数値8には側鎖と結合しているグルコース残基のC−6(分岐点C−6)は含まれていない。この分岐点のC−6は側鎖の整数値5に含まれる。したがって、C−6の面積比から誘導されるグルコース残基の並びが推定される。そして、C−1、C−2の主鎖/側鎖は2/1である。
次式
Figure 2005133069
により算出される。
多糖の分岐度は0.2であり、主鎖のグルコース残基5つ毎に1つの側鎖を持つことが推測された。したがって、1.25M水酸化ナトリウム抽出多糖の化学構造は〔化2〕に示したように主鎖にβ−(1→3)グルカン、側鎖にβ−(1→6)グルカンを有し、主鎖のグルコース残基5つ毎に1つの側鎖を持ち、その側鎖長は2〜3であることが推定された。
Figure 2005133069
次に、5M水酸化ナトリウム抽出多糖の13C NMRスペクトルを図8に示した。ピークの帰属は1.25M水酸化ナトリウム抽出多糖と同様に行った。そして、構造を推定するためC−1とC−6のピーク面積比を求めたが、主鎖/側鎖が一致しなかった。そこで、C−3のシグナルを次のように帰属し面積比を求めたところC−1のピーク面積比と一致したのでC−1とC−3から構造を推定した。すなわち、C−3の帰属は88.0ppmのダブレットピークを主鎖β−(1→3)グルカンに、76.4ppmのピークを側鎖β−(1→6)グルカンにそれぞれ帰属した。各ピーク面積比を表5に示した。
Figure 2005133069
6)抽出多糖のコンホメーション
β−(1→3)グルカンは低アルカリ濃度溶液中ではヘリックス構造、高アルカリ濃度溶液中ではランダムコイル構造を有し、そのヘリックス−コイル転移は0.22〜0.25M水酸化ナトリウム濃度範囲で生じることが知られている。そこで、抽出多糖の溶液中におけるコンホメーションをCongo Red−多糖の錯体形成に伴う可視吸収スペクトルの最
大吸収波長(λmax)から推測した。
抽出多糖−Congo Red 錯体の可視吸収スペクトルから得られた最大吸収波長と水酸化ナトリウム濃度との関係を図9に示した。すべての抽出多糖でCongo Redのλmaxシフトが観測された。まず1.25M,5M水酸化ナトリウム抽出多糖において0.15M以下の低アルカリ濃度溶液中で大きなλmaxシフト(510〜515nm)が観測され、ヘリックス構造を有していることが推測された。そして、ラダムコイル構造への転移も0.15〜0.20M範囲で観測された。このようにヘリックス−コイル転移が現れたことは、1.25M,5M水酸化ナトリウム抽出多糖がβ−(1→3)グルカンを持つ多糖分子であることを示し、13C NMRスペクトルから推測した一次構造(主鎖β−(1→3)グルカン)と一致した。また、ジメチルスルホキシド抽出多糖にも低アルカリ溶液中でλmaxの長波長側へのシフト(500〜505nm)が観測された。これも先と同様にβ−(1→3)グルカンの存在を示し、1H NMRスペクトルから推定した一次構造と一致した。しかし、このλmaxシフトはカードラン、シゾフィランそして上で述べたアルカリ抽出多糖と比較して小さい。それは、β−(1→3)グルカンの存在率が13%と低く、錯体を形成していないCongo Redの影響を受けて短波長側に現れたためだと考えられる。一方、β−(1→3)グルカンを持たない次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖にもCongo Redの長波長側へのλmaxシフト(500〜510nm)が観測され、高アルカリ濃度溶液中でも500nm以上のλmaxを示した。これはこの画分中に多くのタンパク質の存在が推測されるため、タンパク質−Congo Red錯体に由来するλmaxシフトと示唆される。
以上のことから、β−(1→6)分岐型のβ−(1→3)グルカンはマイタケ細胞壁中において分子内で水素結合を形成し、ヘリックス構造を有することが推測された。これは、マイタケ子実体の堅い骨格形成に寄与し、構造を支えることを示唆している。
7)抽出多糖の分子量
抽出多糖の分子量をSepharose CL-4Bゲルろ過クロマトグラフィーで測定した。
図10に抽出多糖のゲルろ過クロマトグラムをまとめた。すべての抽出多糖で幅広い分子量分布が確認された。次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖はMw:2,000,000以上に由来するフラクションが155mlに観測され、加えてオリゴ糖に由来するフラクションも380〜500mlに観測された。次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖と比較してジメチルスルホキシド抽出多糖はMw:2,000,000以上に由来するフラクションが減少し、Mw:260,000(250ml)を中心とする分子量分布を示した。
1.25Mおよび5M水酸化ナトリウム抽出多糖はMw:2,000,000以上(フラクション1)とMw:180,000を中心とする(フラクション2)2つのフラクションが観測された。ここで、フラクション2の多糖はフラクション1の多糖分子の抽出過程で分解を受けたものを含むと考えられる。
抽出多糖中に含まれるタンパク質のゲルろ過クロマトグラムによると、タンパク質は440〜480mlに溶出し、その吸光度は次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖で最大だった。これは次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖に多くのタンパク質が含まれていることを示している。また、抽出順にタンパク質の吸光度も減少したため、タンパク質も段階的に除去されることがわかった。次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖の155mlに溶出したタンパク質はMw:2,000,000以上の糖鎖に結合しているタンパク質だと推測される。
8)まとめ
以上の例からは次のことが理解される。
(1)マイタケ粉末の前処理はアセトンによる脂質除去とした。(2)マイタケ細胞壁中の多糖類を次亜塩素酸ナトリウム、ジメチルスルホキシド、1.25Mおよび5Mの水酸化ナトリウムで逐次抽出した。(1)次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖はタンパク質を多く含有するが、α−(1→3),α−(1→4),β−(1→6)グルカンを持つ多糖であることが推測される。そして、その分子量は2,000,000以上からオリゴ糖までの幅広い分布を有していた。(2)ジメチルスルホキシド抽出多糖はα−(1→3),α−(1→4),β−(1→3),β−(1→6)グルカンを持つ多糖であることが推測される。そして、その分子量は260,000を中心に広く分布していた。また、0.15M水酸化ナトリウム濃度以下の水溶液でβ−(1→3)グルカン由来のヘリックス構造が観測された。(3)1.25M水酸化ナトリウム抽出多糖は24%の最高収率で得られ、β−(1→6)グルシル分岐したβ−(1→3)グルカンであることが推定される。また、主鎖β−(1→3)グルカンに由来するヘリックス−コイル転移が0.15〜0.20M水酸化ナトリウム水溶液中で観測された。そして、その分子量は2,000,000以上と180,000を中心とする2つの分子量分布を持つことが推測される。(4)5M水酸化ナトリウム抽出多糖はβ−(1→3)グルカン/β−(1→6)グルカン=5/3で存在する多糖であり、β−(1→3)グルカンに由来するヘリックス−コイル転移が0.15〜0.20M水酸化ナトリウム水溶液中で観測された。そして、そのβ−(1→3,1→6))グルカンの分子量は2,000,000以上と180,000を中心とする2つの分子量分布を持つことが推測される。なお、最終残査はキチン質を4.6%含有していたが、残存するβ−グルカンとの混合物であった。
以上の例1の結果を踏まえて、より選択的に多糖類をその構造別に分画することが試みられる。以下の例2はその一つの形態を例示したものである。
例 2
分画工程を表6に示した。遠心管にマイタケ粉末10.0gを入れ、アセトン200mlを加え、室温で24時間攪拌洗浄した。その後、9,500rpmで40分間、遠心分離し、沈殿物として脱脂マイタケ粉末を得た。これに0.1M水酸化ナトリウム200mlを加え、3℃で12時間静置した。その後、9,500rpmで30分間、遠心分離し、上澄み液と0.1M水酸化ナトリウム不溶沈殿物(Residue-1)とに分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で生じた沈殿物を遠心分離で回収し、エタノール、アセトンの順で洗浄、減圧乾燥して0.1M水酸化ナトリウム抽出物(薄茶色)を得た。次にResidue-1をジメチルスルホキシド150mlに懸濁させ、80℃で2時間攪拌処理後、9,500rpmで30分間遠心分離し、上澄み液とジメチルスルホキシド不溶沈殿物(Residue-2)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で生じた沈殿物を遠心分離で回収し、エタノール、アセトンで洗浄、減圧乾燥してジメチルスルホキシド抽出物(茶色)を得た。さらに、Residue-2は1M水酸化ナトリウム150mlに懸濁させ、40℃で24時間、攪拌処理を行った。処理後、遠心分離上で上澄み液と1M水酸化ナトリウム不溶沈殿物(Residue-3)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で1M水酸化ナトリウム抽出物(白色)を回収し、エタノール、アセトンで洗浄後、減圧乾燥した。続いてResidue-3に対して1M水酸化ナトリウム抽出と同様の処理を3M,5M水酸化ナトリウムで逐次行い、3M,5M水酸化ナトリウム抽出物(白色)をそれぞれ得た。そして、5M水酸化ナトリウム不溶沈殿物(Residue-5)には、再び5M水酸化ナトリウム150mlを加え、55℃で3時間超音波処理を行った。その後、遠心分離で上澄み液と最終残査(Residue-6)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で抽出物を回収することはできなかった。
Figure 2005133069
1)化学分析による抽出物の評価
上記表6に例示した分画法で得られた各抽出物の糖含有率、窒素値、収率を表7にまとめた。0.1M水酸化ナトリウム抽出物は他の抽出物と比較して窒素値6.2%と非常に高く、また糖含有率は33%と低いことからタンパク質を多く含有することが推定される。ジメチルスルホキシド,1M,3M,5M水酸化ナトリウム抽出物は窒素値が低く、糖含有率も72〜88%と高いことからマイタケ中のタンパク質やキチン質をほとんど含まない多糖であることが推測される。そして、1M,3M水酸化ナトリウム抽出物の収率もそれぞれ12%と高かった。超音波処理を用いた5M水酸化ナトリウム抽出ではその抽出物を得ることができなかった。これより、残渣に残存するβ−グルカンは非常に強固な分子鎖を持ち、高アルカリによっても抽出され難いことがわかる。
Figure 2005133069
2)HPLCによる抽出多糖の構成単糖の同定
抽出多糖の加水分解生成単糖のHPLCクロマトグラムによると、全ての抽出多糖の構成単糖はグルコースに同定できた。これは抽出多糖がグルカンであることを示している。
3)FT−IRスペクトルによる抽出多糖のα,β結合様式
図11に示したFT−IRスペクトルの観測によると、ジメチルスルホキシド抽出多糖は846cm-1にα型δCH由来のピークがはっきりと観測され、α−グルカンであることがわかる。そして、1M,3M,5M水酸化ナトリウム抽出多糖は880cm-1にβ型δCH由来のピークが観測されβ−グルカンであることが推定される。一方、0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖は糖含有率が低いため多糖δCH由来のピークがはっきりと観測されず、結合様式を推測できない。
4)1Hおよび13C NMRスペクトルによる抽出多糖の構造解析
一次構造を決定するために1Hおよび13C NMR解析を行った。1H NMR解析に供した抽出多糖はNMR溶媒(DMSO−d6/D2O=6/1)に溶解した0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖とジメチルスルホキシド抽出多糖、13C NMR解析に供した抽出多糖は1M、3M、5M水酸化ナトリウム抽出多糖である。
図12(a)に示すように0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖の1H NMRスペクトルではα−(1→3)グルカンに由来すると考えられるアノメリックプロトンのシグナルが4.95ppm(J1,2 3.5Hz)に観測され、それ以外の多糖に由来するシグナルは観測されなかった。このため、0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖は単一のα−(1→3)グルカンであると推測される。また、図12(b)のジメチルスルホキシド抽出では、まず5.10ppmにα−(1→4)グルカンに由来するアノメリックプロトンのシグナルが強く観測された。そして、4.94,4.27ppmにそれぞれα−(1→3),β−(1→6)グルカンに帰属できるシグナルも観測されたが非常に弱く、さらに、その積分比がα−(1→4)/α−(1→3)/β−(1→6)=15/1/1であった。この事実から選択的にα−(1→4)グルカンが抽出されていることがわかった。
例1では、次亜塩素酸ナトリウム抽出多糖とジメチルスルホキシド抽出多糖がα,β型の混合多糖であったのに対し、多糖組成別に分画抽出できたことを示している。
1M,3M,5M水酸化ナトリウム抽出多糖の13C NMRスペクトルは図13にまとめて示した。ピークの帰属は例1に従い、その一次構造はC−1,C−6のピーク面積比から推測した。各抽出多糖のピーク面積比を表8にまとめ、それから推測した多糖の化学構造を〔化3〕に示した。1M水酸化ナトリウム抽出多糖はβ−(1→3)結合したグルコース残基4つに1つのβ−(1→6)モノグリコシル分岐鎖を持つβ−グルカン、3M水酸化ナトリウム抽出多糖はβ−(1→3)結合したグルコース残基3つに1つのβ−(1→6)モノグリコシル分岐鎖を持つβ−グルカンと考えられる。そして、5M水酸化ナトリウム抽出多糖はβ−(1→3)結合したグルコース残基3つに1つのβ−(1→6)グルコシ分岐鎖を持ち、その分岐鎖長が2つであるβ−グルカン、またはβ−(1→3)結合したグルコース残基3つに2つのβ−(1→6)モノグリコシル分岐鎖を持つβ−グルカンであると考えられる。
これらの多糖を比較すると、アルカリ濃度を順次高めることで主鎖β−(1→3)グルカンに対する側鎖β−(1→6)グルカンの割合が増大する傾向を示した。このことは、この段階的アルカリ処理が多糖分子の水素結合の弱い順からの抽出を目的とした処理であったことを考慮すると、(1)分子内、分子間の水素結合による分子鎖の部分的な接触や絡み合いなどの強い相互作用は、分岐度や側鎖長に依存し、高度に分岐した多糖分子ほど抽出され難いこと、(2)このように強い水素結合を有し、抽出され難い分子鎖がマイタケ細胞壁の骨格を形作る主要な構築物質であることが示唆されている。
Figure 2005133069
Figure 2005133069
5)抽出多糖のコンホメーション
抽出多糖−Congo Red錯体の可視吸収スペクトルから得られた最大吸収波長と水酸化ナトリウム濃度との関係を図14に示した。1M,3M,5M水酸化ナトリウム抽出多糖は0.175M以下の低アルカリ濃度溶液中において、Congo Redのλmax(485〜490nm)が大きく長波長側にシフトし(510〜515nm)、多糖分子のヘリックス構造が推測される。そして、1M,3M水酸化ナトリウム抽出多糖においては0.175〜0.20Mのアルカリ濃度範囲でλmaxの急激な短波長側へのシフトが観測され、多糖分子
のランダムコイル構造への転移も観測された。これは、多糖一次構造の主鎖β−(1→3)グルカン部分に由来するヘリックス−コイル転移だと推測される。しかし、同様にβ−(1→3)グルカンを有する5M水酸化ナトリウム抽出多糖−Congo Red溶液では0.2M以上の高アルカリ濃度溶液においても長波長側にλmaxを与えた。すなわちヘリックス構造をとり続けた。これについては、5M水酸化ナトリウム抽出多糖は主鎖β−(1→3)/側鎖β−(1→6)=3/2であり他の抽出多糖と比較して側鎖β−(1→6)グルカンの存在率が高く、高度に分岐した多糖分子であるため、側鎖による分子内あるいは分子鎖間の水素結合点が増え、会合や凝集が促進されて、高アルカリ濃度溶液中でもランダムコイルに転換しない強固ならせん状分子鎖を形成している、と考えられる。そして、このように抽出され難く、かつ、強固ならせん状の多糖分子鎖がマイタケの硬い骨格形成に深く関与していると考えられる。
一方、α−グルカンである0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖、ジメチルスルホキシド抽出多糖は低アルカリ濃度溶液中でもヘリックス構造に由来するCongo Redのλmaxシフトは観測されず、ランダムコイルを有していた。
6)抽出多糖の分子量
図15に示すように、すべての抽出多糖でMw:2,000,000以上(フラクション1)に由来するフラクションが溶出量155mlに観測された。そして、1M,3M,5M水酸化ナトリウム抽出多糖においては高アルカリ抽出多糖になるに従ってフラクション1が減少し、また、セカンドフラクション(フラクション2)の増加と低分子化も観測された。このフラクション2については、高アルカリ抽出多糖になるに従って低分子側にピークがシフトしたこと、およびオリゴ糖画分(460ml)が観測されたことはフラクション1の分解多糖の存在を強く支持している。このときの多糖分子の分解は還元末端からの酸化的分解だと考えられる。
α−(1→3)グルカンである0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖はMw:2,000,000以上とオリゴ糖画分を与えた。α−(1→4)グルカンであるジメチルスルホキシド抽出多糖はMw:2,000,000以上とMw:380,000の2つの分子量画分を示した。
また、抽出多糖中に含まれるタンパク質のゲルろ過クロマトグラムによれば、タンパク質は440〜480mlに溶出し、その吸光度は0.1M水酸化ナトリウム抽出物で最大だった。これは、この画分中のタンパク含有率が高いことを表している。つまり、0.1M水酸化ナトリウム処理はα−(1→3)グルカンを選択的に抽出する方法でもあるが、マイタケ中のタンパク質を除去し、それ以降の抽出工程で多糖の分離、抽出を容易にするための処理としても位置付けられる。また、ジメチルスルホキシド抽出物の155mlに現れたピークはMw:2,000,000の多糖分子に結合しているタンパク質に由来すると推測される。
7)まとめ
マイタケ細胞壁多糖の選択的な分画と処理の簡略化を図り、0.1M水酸化ナトリウム、ジメチルスルホキシド、1M,3M,5M水酸化ナトリウムで逐次抽出する方法によって、(1)0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖は単一なα−(1→3)グルカンであったがタンパク質を多く含有していた。多糖の分子量は2,000,000以上とオリゴ糖画分を有し、水溶液中でのコンホメーションはランダムコイルであった。(2)ジメチルスルホキシド抽出ではα−(1→4)グルカンを選択的に得た。そして、その分子量は2,000,000以上と380,000の2つの分布を持ち、水溶液中ではランダムコイル構造を有していた。(3)1M水酸化ナトリウム抽出多糖は収率12%で得られ、β−(1→3)結合したグルコース残基4つに1つのβ−(1→6)モノグリコシル分岐鎖を持つβ−グルカンであると考えられる。そして、低アルカリ濃度溶液中ではヘリックス構造を有し、0.175〜0.20Mのアルカリ溶液中でランダムコイル構造に転移した。また、このβ−グルカンの分子量は2,000,000以上から400,000の広い分布を示した。(4)3M水酸化ナトリウム抽出多糖は収率12%で得られ、β−(1→3)結合したグルコース残基3つに1つのβ−(1→6)モノグリコシル分岐鎖を持つβ−グルカンであると考えられる。そして、低アルカリ濃度溶液中ではヘリックス構造を有し、0.175〜0.20Mのアルカリ溶液中でランダムコイル構造に転移した。また、このβ−グルカンの分子量は2,000,000以上から380,000の広い分布を示した。(5)5M水酸化ナトリウム抽出多糖は高度にβ−(1→6)分岐したβ−(1→3)グルカンと考えられる。そして、高アルカリ溶液中でもそのコンホメーションはヘリックスを有し、分子内あるいは分子間の強い相互作用が示唆された。また、このβ−グルカンの分子量は2,000,000以上から160,000の広い分布を示した。(8)最終残渣はキチン質を28.5%含有していたが、残存するβ−グルカンとの混合物であった。
例1に比べて多糖を選択的に分画抽出することができた。ただ、段階的なアルカリ抽出では多糖分子の分解が還元末端から酸化的に生じることが推測された。
例 3
強アルカリによる抽出では主鎖β−(1→3)グルカンの分解、低分子化が示唆された。そこで、例3では、分解を誘起すると考えられる多糖還元末端のアルデヒド基を水素化ホウ素ナトリウムでアルコールに還元保護してから抽出を行った。処理は、抽出剤である水酸化ナトリウム溶液に水素化ホウ素ナトリウムを3mg/mlの濃度で溶解した後、抽出に供した。
また、前記の例1および例2では、最終残渣中にはβ−グルカンの残存が確認された。そして、このβ−グルカンは非常に強固ならせん状分子鎖を有し、キチン質と複合体を形成している可能性もある。そこで、例3では、β−グルカンの完全抽出を次のように試みた。
すなわち、段階的水酸化ナトリウム抽出で生じた残渣をジメチルスルホキシドで超音波抽出し、さらに、その残渣に対しては3M水酸化ナトリウムで超音波抽出を行うこととした。この処理法は次の2つの考えに基づいている。(1)超音波処理は分子同士の凝集や会合などの相互作用を物理的に弱め、分子鎖を互いに無関係に動けるような状態にすることが期待できる。(2)ジメチルスルホキシドは多糖のヘリックス構造をランダムコイル構造に転換させる高い能力を有するため、多糖の強固ならせん状分子鎖を伸ばすことが期待できる。そして、自由に伸びた状態の多糖分子は3M水酸化ナトリウムで逐次的に抽出できると考えられる。
以上のことを考慮して、表9に示した分画工程を実施した。まず、遠心管にマイタケ粉末10.0gを入れ、アセトン200mlを加え、室温で24時間攪拌洗浄した。その後、9,500rpmで40分間、遠心分離し、沈殿物として脱脂マイタケ粉末を得た。これに0.1M水酸化ナトリウム200mlを加え、室温で2時間攪拌処理した。その後、9,500rpmで30分間、遠心分離し、上澄み液と0.1M水酸化ナトリウム不溶沈殿物(Residue-1)とに分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で生じた沈殿物を遠心分離で回収し、エタノール、アセトンの順で洗浄、減圧乾燥して0.1M水酸化ナトリウム抽出物(薄茶色)を得た。次にResidue-1をジメチルスルホキシド150mlに懸濁させ、80℃で2時間攪拌処理後、9,500rpmで30分間遠心分離し、上澄み液とジメチルスルホキシド不溶沈殿物(Residue-2)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で生じた沈殿物を遠心分離で回収し、エタノール、アセトンで洗浄、減圧乾燥してジメチルスルホキシド抽出物(茶色)を得た。さらに、Residue-2は水素化ホウ素ナトリウム450mgを含む1M水酸化ナトリウム150mlに懸濁させ、40℃で24時間、攪拌処理を行った。処理後、遠心分離で上澄み液と1M水酸化ナトリウム不溶沈殿物(Residue-3)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で沈殿物を回収し、副生成物として含まれるホウ酸はメタノールによる洗浄を5回繰り返すことで除去した。その後、この画分はエタノール、アセトンで洗浄し、減圧乾燥し1M水酸化ナトリウム抽出物(白色)とした。続いて、Residue-3に対して1M水酸化ナトリウム抽出と同様の処理を3M、5M水酸化ナトリウムで順次行い、3M、5M水酸化ナトリウム抽出物(白色)をそれぞれ得た。そして、5M水酸化ナトリウム不溶沈殿物(Residue-5)には、ジメチルスルホキシド100mlを加え、90℃で1時間攪拌処理、続いて55℃で1時間超音波処理を行った。その後、遠心分離(9,500rpm、30分間)で上澄み液とジメチルスルホキシド不溶沈殿物(Residue-6)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿により抽出物を回収できなかった。次にResidue-6は水素化ホウ素ナトリウム300mgを含む3M水酸化ナトリウム100mlに懸濁させ、90℃で1時間攪拌処理、続いて55℃で1時間超音波処理を行った。その後、遠心分離で上澄み液と最終残渣(Residue-7)に分けた。上澄み液からはエタノール沈殿で抽出物を回収し、メタノール、アセトンで洗浄後、減圧乾燥し、超音波−3M水酸化ナトリウム抽出物(白色)を得た。
Figure 2005133069
1)化学分析による抽出物の評価
以上の分画法で得られた各抽出物の糖含有率、窒素値、収率を表10にまとめた。0.1M水酸化ナトリウム抽出物は他の抽出物と比較して窒素値5.4%と非常に高く、また糖含有率は38%と低いことからタンパク質を多く含有することが推定された。そして、ジメチルスルホキシド、1M、3M、5M水酸化ナトリウム抽出物、超音波−3M水酸化ナトリウム抽出物は窒素値が0.2〜1.1%と低く、糖含有率は75〜92%と高いことからタンパク質やキチン質をほとんど含まない多糖であることが推測された。
Figure 2005133069
また、β−グルカンの完全抽出を目的に行った2つの処理のうち、超音波−ジメチルスルホキシド処理からその抽出物を得ることはできなかったが、超音波−3M水酸化ナトリウム処理からはその抽出物が収率7%で得られた。これは、期待したとおり、これまで抽出されなかった多糖の強固ならせん状分子鎖が超音波−ジメチルスルホキシド処理によって伸ばされたことや超音波処理によって多糖分子同士の凝集や会合などの相互作用が減少したことが多糖の可溶化につながったと推測される。
2)HPLCによる抽出多糖の構成単糖の同定
抽出多糖の加水分解生成単糖のHPLCクロマトグラムによって、全ての抽出多糖の構成単糖はグルコースに同定できた。これより、抽出多糖はグルコースからなるホモグルカンであることがわかった。
3)FT−IRスペクトルによる抽出多糖のα、β結合様式
FT−IRスペクトルの観測によると、図16に示したように、ジメチルスルホキシド抽出多糖は846cm-1にα型δCH由来のピークがはっきりと観測され、α−グルカンであることが確認された。また、1M水酸化ナトリウム抽出多糖にもα型δCH由来のピークが観測された。しかし、この画分にはβ型δCH由来のピークも観測されることから、α,β型グルカンの混合物であることが推測される。そして、3M、5Mおよび超音波−3M水酸化ナトリウム抽出多糖は880cm-1にβ型δCH由来のピークが観測されβ−グルカンであることを示した。一方、0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖はδCH由来のピークが観測されず、結合様式を推測できなかった。これは、この画分が低い糖含有率のため明確なδCHのピークを与えなかったと考えられる。
4)1Hおよび13C NMRスペクトルによる抽出多糖の構造解析
その一次構造を決定するために1Hおよび13C NMR解析を行った。1H NMR解析に供した抽出多糖はNMR溶媒(DMSO−d6/D2O=6/1)に溶解した0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖とジメチルスルホキシド抽出多糖、13C NMR解析に供した抽出多糖は1M、3M、5M水酸化ナトリウム抽出多糖および超音波−3M水酸化ナトリウム抽出多糖である。
図17(a)に示すように、0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖の1H NMRスペクトルではα−(1→3)グルカンに由来すると考えられるアノメリックプロトンのシグナルが4.95ppm(J1,2 3.5Hz)に観測され、それ以外の多糖に由来するシグナルは観測されなかった。これは、この画分が単一のα−(1→3)グルカンであることを示す。また、図17(b)のジメチルスルホキシド抽出では、5.10ppmにα−(1→4)グルカンに由来するアノメリックプロトンのシグナルが強く観測され、α−(1→3)、β−(1→6)グルカンに帰属できるシグナルも4.94、4.27ppmにそれぞれ観測された。そして、その積分比がα−(1→4)/α−(1→3)/β−(1→6)=17/2/1であったことから選択的にα−(1→4)グルカンが抽出されていることがわかった。このことは、α−グルカンに対する組成別の分画抽出が達成されたことを示している。
1M、3M、5M水酸化ナトリウム抽出多糖および超音波−3M水酸化ナトリウム抽出多糖の13C NMRスペクトルを図18にまとめて示した。ピークの帰属は例1に従い、その一次構造はC−1、C−6のピーク面積比から推測した。各抽出多糖のピーク面積比を表11にまとめ、それから推測した多糖の化学構造を〔化4〕に示した。まず、スペクトル(b)の3M水酸化ナトリウム抽出多糖はβ−(1→3)結合したグルコース残基3つに1つのβ−(1→6)モノグリコシル分岐鎖を持つβ−グルカン、そして、スペクトル(c)の5M水酸化ナトリウム抽出多糖は、β−(1→3)結合したグルコース残基4つに2つのβ−(1→6)モノグリコシル分岐鎖を持つβ−グルカン、またはβ−(1→3)結合したグルコース残基4つに1つのβ−(1→6)グリコシル分岐鎖を持ち、その分岐鎖長が2つであるβ−グルカンであると考えられる。さらに、スペクトル(d)の超音波−3M水酸化ナトリウム抽出多糖はβ−(1→3)結合したグルコース残基4つに3つのβ−(1→6)モノグリコシル分岐鎖を持つβ−グルカン、あるいはβ−(1→3)結合したグルコース残基4つに2つのβ−(1→6)グリコシル分岐鎖を持つβ−グルカン、またはβ−(1→3)結合したグルコース残基4つに1つのβ−(1→6)グリコシル分岐鎖を持ち、その分岐鎖長が3つであるβ−グルカンであると考えられる。
1M水酸化ナトリウム抽出多糖は、そのスペクトル(a)からβ−(1→6)分岐したβ−(1→3)グルカンとα−(1→3)グルカンの混合多糖であることがわかった。この画分中にα−(1→3)グルカンが現れたことの理由は、α−(1→3)グルカンの選択的抽出工程である0.1M水酸化ナトリウム抽出を簡略化したため、完全に抽出されず残存していたα−(1→3)グルカンがこの段階で溶出したためであると考えられる。
これらの多糖を比較すると、アルカリ濃度を順次高めることで主鎖β−(1→3)グルカンに対する側鎖β−(1→6)グルカンの割合が増大する傾向を示した。これは、高度に分岐した多糖分子ほどその側鎖による分子鎖の部分的な接触や絡み合いなどの強い相互作用を有し、抽出され難く、そして、このような特異な構造をもった多糖分子鎖がマイタケ細胞壁の骨格を形作る主要な構築物質であるとまず考えられる。一方、1M水酸化ナトリウム抽出多糖がもつ高度な分岐様式については、1M水酸化ナトリウム抽出多糖は他のアルカリ抽出条件と比較すると穏和な条件下での抽出多糖にあたるため、マイタケ細胞壁中での水素結合による多糖分子鎖の凝集や会合の頻度が少ない、あるいは、その相互作用が弱く、細胞壁中での多糖分子の存在状態は、ある程度の広がりを持ち、緻密に混み合っていないことが示唆される。そのため、主鎖/側鎖=3/2の多糖であっても分子鎖の相互作用が少なく1M水酸化ナトリウムで抽出され易い状態にあったと考えられる。
Figure 2005133069
Figure 2005133069
5)抽出多糖のコンホメーション
抽出多糖…Congo Red錯体の可視吸収スペクトルから得られた最大吸収波長と水酸化ナトリウム濃度との関係を図19に示した。1M、3M、5M水酸化ナトリウム抽出多糖および超音波−3M水酸化ナトリウム抽出多糖は0.175M以下の低アルカリ濃度溶液中において、Congo Redのλmax(485〜490nm)が大きく長波長側にシフトし(510〜515nm)、多糖分子のヘリックス構造が示された。そして、1M水酸化ナトリウム抽出多糖においては0.175〜0.20Mのアルカリ濃度範囲でλmaxの急激な短波長側へのシフトが観測され、多糖分子のランダムコイル構造への転移も観察された。また、3M水酸化ナトリウム抽出多糖にも同様なヘリックス−コイル転移が観測されたが、λmaxの急激な短波長側へのシフトは観測されず、500nmへの小さなシフトにとどまった。これは、高アルカリ溶液中でもヘリックス構造を有する多糖分子鎖の存在を示唆している。そして、高度なβ−(1→6)分岐鎖を有する5M水酸化ナトリウム抽出多糖、超音波−3M水酸化ナトリウム抽出多糖は高アルカリ濃度溶液中でも長波長側にλmaxを与えた。すなわちヘリックス構造をとり続けた。これは、多糖分子鎖が緻密な状態にあり、側鎖による分子内あるいは分子鎖間の水素結合点が増え、高アルカリ濃度溶液中でもランダムコイルに転換しない強固ならせん状分子鎖を形成しているためだと考えられる。そして、1M水酸化ナトリウム抽出多糖が高度な分岐鎖を有していながら、高アルカリ溶液中でランダムコイル構造へ顕著に転換することは、マイタケ細胞壁中における多糖分子鎖の広がり、分子内・間の相互作用の弱さを想起させる。このことからも、ヘリックス構造をとり続けるような分子鎖、つまり強固な水素結合を有するらせん状分子鎖がマイタケの硬い骨格形成に深く関与していると推測される。
一方、α−グルカンである0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖、ジメチルスルホキシド抽出多糖は低アルカリ濃度溶液中でもヘリックス構造に由来するCongo Redのλmaxシフトは観測されず、ランダムコイルを有していた。
6)抽出多糖の分子量
図20は抽出多糖のSepharose CL−4Bゲルクロマトグラムである。多糖の還元末端を還元保護し、主鎖β−(1→3)グルカンの分解を防いだ効果が顕著に観測できた。それは、段階的アルカリ抽出を行った(c)〜(e)のすべての抽出多糖においてMw:2,000,000以上に由来するフラクション(フラクション1)が溶出量155mlに強く観測され、例2で観察できたこのフラクション1の減少やセカンドフラクション(フラクション2)の低分子化が起こらなかったことである。このことは、フラクション2がMw:400,000のnativeな多糖分子であることを示唆する。したがって、マイタケ細胞壁を構成するβ−(1→6)分岐したβ−(1→3)グルカンはMw:2,000,000以上の巨大分子とMw:400,000を中心とした画分という2つの大きな分子量分布を有することがわかった。
超音波−3M水酸化ナトリウム抽出多糖(f)は超音波処理による多糖分子の分解がフラクション2の大きな低分子側へのシフト(320ml)で観測された。また分解副生成物と考えられるオリゴ糖画分も溶出量450mlに観測された。このように、これまで抽出されなかったβ−グルカンがその分子鎖を分解されたことで抽出されるようになったことは、ある程度の多糖分子鎖の分解は多糖の可溶化を促進し、nativeな状態での多糖の抽出は非常に困難であることを示唆している。また、この画分が超音波アルカリにより分解、低分子化されたにもかかわらず図19で示したように強固ならせん状分子鎖を形成できたのは、アルカリ分解が還元末端からのピーリング反応によるためだと考えられる。つまり、エンド型の酵素のように一回の反応で分子鎖を二分するような分解反応ではなく、エキソ型酵素分解のようなアルカリ分解は一回の反応で分子量180のグルコースが分子量何十万の分子鎖から分かれるだけで、分子鎖のらせん形成にはほとんど影響しないためだと推測される。
α−(1→3)グルカンである0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖はMw:2,000,000以上とオリゴ糖画分を与えた。α−(1→4)グルカンであるジメチルスルホキシド抽出多糖はMw:2,000,000以上とMw:400,000の2つの分子量画分を示した。すなわち、骨格形成に重要な寄与をしないα−グルカンでもMw:2,000,000以上とMw:を400,000中心とした巨大分子を持つことが推測された。
また、抽出多糖中に含まれるタンパク質のゲルろ過クロマトグラムによると、タンパク質は440〜480mlに溶出し、その吸光度は0.1M水酸化ナトリウム抽出物で最大だった。これは、この画分中のタンパク含有率が高いことを表している。これより、0.1M水酸化ナトリウム処理はα−(1→3)グルカンを選択的に抽出する方法でもあるが、マイタケ中の大半のタンパク質を除去し、それ以降の抽出工程で多糖の分離、抽出を容易にする有用な処理であると考えられる。また、0.1M水酸化ナトリウム抽出物、ジメチルスルホキシド抽出物の155mlに現れたピークはMw:2,000,000の多糖分子に結合しているタンパク質に由来すると推測できる。
7)まとめ
強アルカリ抽出時の多糖の分解を防ぐため、抽出剤に水素化ホウ素ナトリウムを添加し、0.1M水酸化ナトリウム、ジメチルスルホキシド、1M、3M、5M水酸化ナトリウム、超音波−3M水酸化ナトリウムで逐次多糖を抽出する例3の方法において、次のことが理解される。(1)0.1M水酸化ナトリウム抽出多糖は単一なα−(1→3)グルカンであったがタンパク質を多く含有していた。多糖の分子量は2,000,000以上とオリゴ糖画分を有し、水溶液中でのコンホメーションはランダムコイルであった。(2)ジメチルスルホキシド抽出ではα−(1→4)グルカンを選択的に得た。そして、その分子量は2,000,000 以上と400,000の2つの分布を持ち、水溶液中ではランダムコイル構造を有していた。(3)1M水酸化ナトリウム抽出多糖はα−(1→3)グルカンとβ−(1→6)分岐したβ−(1→3)グルカンの混合多糖であった。そして、β−グルカンに由来するヘリックス構造が低アルカリ濃度溶液中で観測され、ランダムコイル構造への転移が0.175〜0.20Mのアルカリ溶液中で観測された。また、この混合多糖の分子量は2,000,000以上と400,000を中心とした2つの分子量分布を有していた。(4)3M水酸化ナトリウム抽出多糖はβ−(1→6)分岐したβ−(1→3)グルカンであることが推測された。この多糖は0.20M以上のアルカリ溶液中でランダムコイル構造に転移する分子とヘリックス構造をとり続ける分子鎖の存在が示唆された。また、このβ−グルカンの分子量は2,000,000以上と400,000を中心とした画分の2つの分子量分布を有していた。(5)5M水酸化ナトリウム抽出多糖は高度にβ−(1→6)分岐したβ−(1→3)グルカンと推測された。そして、高アルカリ溶液中でもそのコンホメーションはヘリックスを有し、分子内あるいは分子間の強い相互作用が示唆された。また、このβ−グルカンの分子量は2,000,000以上と400,000を中心とした画分の2つの分子量分布を有していた。(6)超音波−3M水酸化ナトリウム抽出多糖は高度にβ−(1→6)分岐したβ−(1→3)グルカンと推測された。そして、高アルカリ溶液中でもそのコンホメーションはヘリックスを有し、5M水酸化ナトリウム抽出多糖と共にかさ高なマイタケ子実体を支える堅い細胞壁骨格の中心を担っていると推測した。(7)最終残渣はキチン質を37.5%含有していたが、残存するβ−グルカンとの混合物であった。
そして、以上の例1、例2および例3に示した結果から、強アルカリによる抽出がマイタケ多糖を組成別に分画抽出できる簡便かつ選択的な分画法であることがわかる。また、これに先行する0.1M水酸化ナトリウム抽出ではα−(1→3)グルカンが単一の多糖として得られ、ジメチルスルホキシド抽出ではα−(1→4)グルカンが選択的に抽出されることから予備処理として有用であることがわかる。そして、1M、3M、5M水酸化ナトリウムでの強アルカリ多段抽出では単一な多糖としてβ−(1→6)分岐したβ−(1→3)グルカンが抽出されたことが強調される。
抽出剤に水素化ホウ素ナトリウムを添加し、多糖還元末端を保護することでnativeな分子量に近い状態で多糖を抽出できることも確認された。
<B>ハナビラタケからの多糖類の抽出分画
抽出分画の手順を表12に示した。この場合の試料には乾燥したハナビラタケ子実体を用いた。
Figure 2005133069
手順の概要は以下のとおりである。
1)試料の調製
1.乾燥した試料を乳鉢を用いて粉砕し、これを乾燥ハナビラタケ粉末とした。
2)アセトン処理
1.乾燥ハナビラタケ粉末10.07gにアセトン200mlを加え、50℃で8時間、室温で24時間攪拌した。
2.濾過によって沈殿を回収し、これを真空乾燥させ、アセトン残渣(9.23g)とした。
3)0.1M NaOH処理
1.アセトン残渣に0.1M NaOH溶液200mlを加え、4℃で12時間静置した。
2.遠心分離によって上澄みと沈殿を得た。
3.2.で得られた上澄みに4倍容量のエタノールを加え、4℃で12時間静置した。沈殿が確認されたので、これを遠心分離によって回収し、エタノールで2回洗浄した後、真空乾燥させ、0.1M NaOH抽出物(0.93g)とした。
4.2.で得られた沈殿を遠心分離によって回収し、エタノールで8回洗浄した後、真空乾燥させ、0.1M NaOH残渣(7.11g)とした。
4)DMSO処理
1.0.1M NaOH残渣にDMSO100mlを加え、90℃の湯浴中で15分間の処理と55℃の湯浴中で超音波を15分間の処理とを交互に、合わせて1時間30分行った。
2.遠心分離によって上澄みと沈殿を得た。
3.2.で得られた上澄みに4倍容量のエタノールを加え、4℃で12時間静置した。沈殿が確認されたので、沈殿を遠心分離によって回収し、エタノールで2回洗浄した後、真空乾燥させ、DMSO抽出物(0.52g)とした。
4.2.で得られた沈殿は上澄みを遠心分離によって除き、エタノールで3回洗浄した後、真空乾燥させ、DMSO残渣(5.92g)とした。
5)1.25M NaOH処理
1.DMSO残渣に1.25M NaOH溶液100mlを加え、室温で18時間攪拌した。
2.遠心分離によって上澄みと沈殿を得た。
3.2.で得られた上澄みに4倍容量のエタノールを加え、4℃で12時間静置した。沈殿が確認されたので、沈殿を遠心分離によって回収し、エタノールで2回洗浄した後、真空乾燥させ、1.25M NaOH抽出物(0.81g)とした。
4.2.で得られた沈殿を遠心分離によって回収し、エタノールで3回洗浄した後、真空乾燥させ、1.25M NaOH残渣(5.43g)とした。
6)5M NaOH処理
1.1.25M NaOH残渣に5M NaOH溶液100mlを加え、室温で18時間攪拌した。
2.遠心分離によって上澄みと沈殿を得た。
3.2.で得られた上澄みに4倍容量のエタノールを加え、4℃で12時間静置した。沈殿が確認されたので、これを上澄みを遠心分離によって除き、エタノールで2回洗浄した後、真空乾燥させ、5M NaOH抽出物(0.47g)とした。
4.2.で得られた沈殿を遠心分離によって回収し、エタノールで3回洗浄した後、真空乾燥させ、5M NaOH残渣(5.41g)とした。
7)5M NaOH処理(超音波)
1.5M NaOH残渣に5M NaOH溶液100mlを加え、55℃の湯浴中で超音波処理を1時間行った。
2.遠心分離によって上澄みと沈殿を得た。
3.2.で得られた上澄みに4倍容量のエタノールを加え、4℃で12時間静置した。沈殿が確認されたので、これを遠心分離によって回収し、エタノールで2回洗浄した後、真空乾燥させ、5M NaOH(超音波)抽出物(0.89g)とした。
4.2.で得られた沈殿は遠心分離によって回収し、エタノールで3回洗浄した後、真空乾燥させ、5M NaOH(超音波)残渣(4.21g)とした。
以上の抽出により得られた抽出生成物の収量、収率を、原料(乾燥ハナビラタケ粉末)を100%として、次の表13に示した。
Figure 2005133069
各抽出物の収率は、5〜9%と低いものとなった。この原因としては、マイタケと比較してその成分の内容や乾燥粉末の密度などに大きな違いが見られることから、その細胞壁の組成・構造にマイタケとは大きな違いがあることが考えられる。
元素分析の結果を表14に、全糖量分析の結果を表15に示した。
Figure 2005133069
Figure 2005133069
0.1M NaOH抽出物で高いN値を示した。これは、0.1M NaOH抽出物においてはタンパク質に由来するものとみられる。
また、0.1M NaOH抽出物のみが33%と低い糖量を示し、他の抽出物は70〜90%と高い糖量を示した。これも、0.1M NaOH抽出物はその高いN値からタンパク質の含有量が多いためだと考えられる。
そして、例1〜例3と同様にして、抽出物の多糖類の同定を試みたところ、0.1M NaOH抽出とDMSO抽出ではα−グルカンが選択的に抽出されていること、並びに1.25M NaOH抽出と5M NaOH抽出ではβ−(1→3)グルカン、β−(1→6)グルカンとして、β−(1→6)グルシル分岐β−(1→3)グルカンのβ−グルカンが抽出されていることが確認された。
<C>ヒイロタケからの多糖類の抽出分画
〔1〕抽出分画
抽出分画の手順を表16に示した。この場合の試料には乾燥したヒイロタケ子実体を用いた。
Figure 2005133069
手順の概要は以下のとおりである。
1)試料の調製
1.ヒイロタケ子実体を真空乾燥して、5mm程のチップ状に刻み、コーヒーミルを用いて細かく粉砕することで、綿状のヒイロタケ試料とした。
2)アセトン処理
1.ヒイロタケ試料5.0gにアセトン200mlを加え、室温で24時間攪拌した後、9,500rpmで30分間遠心分離し、上澄みと沈殿物を得た。
2.上澄みからロータリーエバポレーターを用いてアセトンを留去し、これを一晩室温で真空乾燥させ、アセトン抽出物とした。また、沈殿物は、一晩室温で真空乾燥し、脱脂ヒイロタケ粉末とした。
3)0.1M NaOH処理とNaClO処理
1.脱脂ヒイロタケ粉末に0.1M NaOH溶液200mlを加え、さらに所定量の次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)溶液(0〜100ml)を加えて懸濁し、3℃で12時間静置した。
2.遠心分離(9,500rpm、30分間)によって上澄み(Supernatant-1)と沈殿物(Residue-1)を得た。
3.2.で得られた上澄み(Supernatant-1)に4倍容量のエタノールを加え、3℃で1晩静置した。沈殿物が確認されたので、これを遠心分離によって回収し、エタノールで2回洗浄した後、一晩室温で真空乾燥させ、NaClO抽出物とした。
4)DMSO処理
1.上記3)2.で得られた沈殿物(Residue-1)を、エタノールとアセトンによって洗浄し、一晩室温で真空乾燥した後、ジメチルスルホキシド(DMSO)100mlに懸濁し、90℃、20分間の攪拌処理と、55℃、10分間の超音波処理を行った。これを3回繰り返した。
2.次いで、遠心分離して上澄み(Supernatant -2)と沈殿物(Residue-2)を得た。
3.2.で得られた上澄み(Supernatant -2)に4倍容量のエタノールを加え、3℃で一晩静置し、生じた沈殿物を遠心分離によって回収した。次いで、この沈殿物をエタノールで2回洗浄した後、一晩室温で真空乾燥させて、DMSO抽出物とした。
4.2.で得られた沈殿物(Residue-2)は、エタノールおよびアセトンによって洗浄し、一晩室温で真空乾燥させて、DMSO残渣とした。
5)1.25M NaOH処理
1.DMSO残渣に1.25M NaOH溶液100mlを加え、30℃で1時間攪拌した。
2.遠心分離によって上澄み(Supernatant -3)と沈殿物(Residue-3)を得た。
3.2.で得られた上澄み(Supernatant -3)に、4倍容量のエタノールを加え、3℃で一晩時間静置した。生じた沈殿物を遠心分離によって回収した。そして、エタノールで2回洗浄した後、真空乾燥させて、1.25M NaOH抽出物とした。
6)5M NaOH処理
1.上記5)2.で得られた沈殿物(Residue-3)を遠心分離によって回収し、エタノールおよびアセトンを加えて洗浄した後、一晩室温で真空乾燥させ、5M NaOH100mlを加え懸濁し、30℃で1時間攪拌した。
2.遠心分離によって上澄み(Supernatant -4)と沈殿物(Residue-4)を得た。
3.2.で得られた上澄み(Supernatant -4)に、4倍容量のエタノールを加え、3℃で1時間静置した。沈殿が確認されたので、これを遠心分離して回収した。そして、エタノールで2回洗浄した後、真空乾燥して、5M NaOH抽出物を得た。
4.2.で得られた沈殿物(Residue-4)は、遠心分離によって回収し、エタノールで3回洗浄した後、一晩室温で真空乾燥させ、最終残渣(Residue-4)とした。
以上の抽出により得られた抽出生成物の収量、収率を、原料(乾燥ヒイロタケ粉末)を100%として、次の表17および図21に示した。
Figure 2005133069
この表17および図21に例示したとおり、0〜50mlのNaClO溶液を添加した量を増やすことで、抽出物全体の収率は大きく増加し、最大で約80%の収率となった。さらに、NaClO溶液の添加量を100mlに増やすと、逆に各抽出物の収率は減少した。これは、NaClO処理によって分解が進みすぎたことで、収率が減少したと考えられる。また、各残渣(各Residue)の収率もNaClO溶液の添加量が50および100mlの場合、0および25mlと比べ、大きく減少した。さらに、最終残渣(Residue-4)の形状を観察したところ、NaClO溶液の添加量が0および25mlの場合では、抽出前の綿状であった。その一方、NaClOの添加量が50および100mlの場合では、この最終残渣(Residue-4)は粉末状であった。
以上のことから、ヒイロタケ子実体からの多糖の抽出・分画は、収率の点ではNaClO溶液の添加量によって大きく変化することが確認できた。
〔2〕抽出物中の糖の定量
1)標準試料の調製と吸光度の測定
抽出物中の糖の定量は、フェノール-硫酸法で行った。まず、標準試料として、D-グルコースを0.5M NaOHに溶解し、0、20、40、60、80μg/mlの溶液をそれぞれ調製した。これら標準試料溶液を0.3ml試験管にとり、0.3mlの5wt%フェノール水溶液を加えた。さらに、1.5mlの濃硫酸を加えて直ちに攪拌し。20分間放冷した後、紫外・可視分光光度計(島津製作所、UV-3100PC)で波長490nmにおける吸光度を測定した。得られた測定結果を基に、糖の定量のための検量線を作成した(図示せず)。
2)測定試料の調製と吸光度の測定
各抽出物20mgを、50mlの1.25M NaOHに溶解した。これら溶液から、2mlをそれぞれとり、蒸留水で10倍に希釈して測定試料溶液として用いた(試料濃度40μ/ml)。これら測定試料溶液0.3mlを試験管にとり、0.3mlの5%フェノール水溶液を加えた。さらに、1.5mlの濃硫酸を加え、直ちに攪拌し、20分間放冷した。そして、波長490nmにおける吸光度を測定し、抽出物中の糖の含有率を算出した。この糖分析(糖の定量)の結果を表18に示した。
Figure 2005133069
NaClO抽出物での糖の含有率は、42〜66%を示した。そして、この糖の含有率は、NaClOの添加量が0および25mlの場合よりも、50および100mlの場合の方が高い含有率を示した。
DMSO抽出物の糖の含有率は、73〜89%と高い含有率であった。これは、他の抽出物と比べ、特に高い含有率であった。1.25M NaOH抽出物の糖の含有率は、NaClO溶液の添加量が0〜50mlのときは、NaClOの添加量とともに増加した。しかし、NaClO溶液の添加量が100mlの場合、糖の含有率は減少した。そして、5M NaOH抽出物においては、42〜63%であった。
抽出物の収率の結果と併せて考えると、NaClO溶液の添加量が50mlのときに最も高い抽出物全体の収率(約80%)を示し、最も多くのヒイロタケ多糖を抽出できた。
〔3〕タンパク質の定量
1)試薬の調製
抽出物中のタンパク質の定量は、ビシンコニン酸法(BCA法)で行った。以下の試薬を調製し、使用した。
試薬A:1% 2-2’ビシンコニン酸二ナトリウム(BCA-Na)、2%炭酸ナトリウム水和物、0.16%酒石酸ナトリウム、0.4%水酸化ナトリウム。0.95%炭酸水素ナトリウム溶液(pH 11.25)
試薬B:4%硫酸銅五水和物水溶液
この試薬Aと試薬Bとを、100:2の体積比で混合し、呈色試薬とした。
2)標準試料の調製と吸光度の測定
標準試料として、ウシ血清アルブミンを0.1M NaOHに溶解し、0、10、20、30、40、50μg/mlの溶液を調製した。これら標準試料溶液から50μlとり、呈色試料1mlを加え、60℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、波長562nmにおける吸光度を測定し、タンパク質の定量のための検量線を作成した。
3)測定試料の調製と吸光度の測定
各抽出物10mgを1M NaOHに溶解した。これを蒸留水で10倍に希釈し、測定試料溶液とした(試料濃度100μg/ml)。これら測定試料溶液から50μlとり、これを標準試料の測定と同様に、呈色試薬1mlを加え、60℃で30分間インキュベートした。そして、波長562nmにおいての吸光度を測定し、この測定結果を基に抽出物中のタンパク質の含有率(タンパク質の定量)を算出した。結果は、表19に示した。
Figure 2005133069
この表19に例示したとおり、NaClO抽出物は、NaClO溶液を添加していない場合と比べて、添加した場合はタンパク質の含有率は顕著に減少した。また、NaClO抽出以降の抽出物(DMSO抽出物、1.25M NaOH抽出物および5M NaOH抽出物)いずれにおいても、11%以下の低いタンパク質含有率を示した。このことは、マイタケのNaClO処理と共通した結果であり、タンパク質の除去に効果があることが確認できた。
〔4〕抽出多糖の構成単糖の同定
抽出物を塩酸で加水分解処理をし、高速クロマトグラフィー(HPLC)および13C NMRを用いて、抽出多糖を構成している単糖の同定および分析を行った。
1)HPLCによる構成単糖の同定および分析
1.HPLCによる構成単糖の同定
各抽出物および残渣20mgをそれぞれ試験管に入れ、2M塩酸1mlを加えた。100℃で8時間の加水分解処理を行い、2MNaOH1mlで中和して試料溶液とした。
また、標準単糖として、グルコース、マンノース、ガラクトース、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、グルコサミンを用いた。標準単糖を2M塩化ナトリウムに溶かして(5mg/ml)、標準試料溶液とした。
HPLCの装置は、示差屈折計(日本分光、830-RI示差屈折計)、高速液体クロマトグラフィーポンプ(880-PU)およびカラム(昭和電工、Asahipak NH2P50-4E)で構成した。移動層をアセトニトリル-水(80:20)として、流速0.8ml/minで試料を溶出した。
2.HPLCによる構成単糖の分析
標準単糖のHPLCクロマトグラムを図22に、また各抽出物のHPLCクロマトグラムを図23〜図26に示した。
この図22に示したとおり、標準単糖のピークは、それぞれN-アセチルグルコサミン(保持時間12.5分)、マンノース(保持時間13.5分)、ガラクトース(保持時間15分)、グルコース(保持時間15.5分)であった。これらを基に、各抽出物の加水分解生成物のクロマトグラムを検討した。なお、グルコサミンは、塩化ナトリウムのピークと重なっている。
図23〜図26に示したとおり、各抽出物のクロマトグラムにおいて、グルコースと同じ保持時間のピークが確認できた。N-アセチルグルコサミン、マンノース、ガラクトースを示すピークはいずれの抽出物において確認できなかった。一方、NaClO抽出物、DMSO抽出物、1.25M NaOH抽出物のクロマトグラムにおいて、グルコースよりもやや高い長い保持時間のピークが観測された。これらは、N-アセチルグルコサミン、マンノース、ガラクトース、グルコースに該当するものではない。
また、他の単糖として、たとえば、リボース、キシロース、アラビノーズ等のアルドペントースの存在を考慮しても、この出願の発明における分画工程の実験条件下でのこれら単糖の保持時間は短かった。さらに、加水分解が完全に進行していないと仮定して、二糖以上のオリゴ糖が存在していることを考慮しても、二糖以上のオリゴ糖は標準単糖よりも大幅に長い保持時間を示すことから、これらピークに当てはめることはできないと考えられる。
これらの結果を総合して、発明者は、各抽出物中に含まれる糖の構成糖はグルコースであると推測した。そこで、この推測を実証するため、抽出物の加水分解生成物を以下の13C NMRによってさらに分析を行った。
2)13C NMRによる構成単糖の同定および分析
1.13C NMRによる構成単糖の同定
各抽出物50mgをそれぞれ試験管に入れ、濃塩酸を重水で希釈した2M塩酸を0.5ml加えた。100℃で8時間、加水分解処理を行ない、2M水酸化ナトリウム1mlで中和し、アセトニトリルを1滴加えて、これを試料溶液とした。また、標準単糖として、グルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミンを用いた。これら標準単糖を2M塩化ナトリウムに溶解し(25mg/ml)、これを標準試料溶液とした。これら試料溶液および標準試料溶液を、13C NMRを利用して分析を行った。
2.13C NMRによる構成単糖の分析
HPLCの結果から、NaClO溶液を添加した量に影響されずに、同じ抽出段階での抽出物の加水分解生成物のピークは、同じ保持時間を示した。そこで、一つの抽出条件(今回は、25mlのNaClO)における各抽出物について、それぞれ分析を行った。
標準単糖として、グルコース、マンノース、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、グルコサミンの13C NMRスペクトルを図27に、各抽出物の加水分解生成物の13C NMRスペクトルを図28に示した。標準単糖のスペクトルは、公知文献(The Journal of Pharmacology and Experomaental Therapeutics, 257, 500, 1991)に従い帰属した。
NaClO抽出物は、62ppmと74ppmにピークを確認することができた。また、特にDMSO抽出物、1.25M NaOH抽出物および5M NaOH抽出物の加水分解生成物の13C NMRスペクトルにおいて、一位の炭素(α1、β1)の化学シフトに着目し、グルコースまたはガラクトースであると判断した。また、グルコースの二位〜五位の炭素のピーク(70〜78ppm)は、DMSO抽出物、1.25M NaOH抽出物および5M NaOH抽出物中に確認でき、これらに存在する多糖の構成単糖はグルコースであると同定できた。
〔5〕抽出多糖の構造解析
1)1H NMRおよび13C NMRスペクトルの測定
抽出物中の多糖の構造を1H NMRおよび13C NMRによって分析を、分光計装置(JNM GX270 FT-NMR分光計)を用いて行った。
1H NMRによる分析の際は、溶媒はジメチルスルホキシド-d6と重水との混合溶媒(6:1)、試料濃度は5mg/ml、測定温度は80℃として、化学シフトはテトラメチルシラン(0ppm)を内部標準として表した。また、13C NMRによる分析の際は、溶媒は重水素化した0.25M NaOH(5mg/mlの水素化ホウ素ナトリウムを含む)、試料濃度は30mg/ml、測定温度は40℃として、化学シフトはアセトニトリル(1.6ppm)を内部標準として表した。
2)1H NMRによる抽出多糖の構造解析
NaClO抽出物、DMSO抽出物については、重DMSOと重水との混合溶媒を用いて、1H NMRスペクトルから多糖を構成するグルコピラノシル単位のアノメリックプロトンを参照し、抽出物中の多糖の結合形式を検討した。
NaClO抽出物の1H NMRスペクトルを図29に、DMSO抽出物の1H NMRスペクトルを図30に示した。NaClO抽出物には、α、β多糖のアノメリックプロトンは確認できなかった。その一方で、DMSO抽出物では、いずれの条件においてもα型多糖のアノメリックプロトンに由来するピークを確認することができた。また、NaClO溶液(25〜100ml)を添加した条件の場合、β型多糖のアノメリックプロトン二由来するピークを確認することができた。このことから、NaClO溶液を添加しない条件で、α型多糖をDMSO抽出物として抽出できることが確認できた。
3)13C NMRによる抽出多糖の構造解析
1.25M NaOH抽出物は、NaOHを溶解した重水を溶媒として13C NMRによって分析を行った。
1.25M NaOH抽出物の13C NMRスペクトルを図31に示した。図31に示したとおり、NaClO溶液を添加していない抽出物では、多糖に由来するシグナルをほとんど示さなかった。一方、NaClO溶液を添加した条件における抽出物は、いずれにおいても多糖に由来するシグナルを示した。特に、NaClO溶液を50ml添加した場合の抽出物では、顕著にシグナルを示した。なお、図31中のA部に示したスペクトルについては、図32にてさらに詳細に検討して示した。
そして、抽出物中に含まれる多糖の構造を検討するために、β-(1→6)分岐を持つβ-(1→3)グルカンであるシゾフィランの13C NMRスペクトル、NaClO溶液を50ml添加した場合の抽出物の13C NMRスペクトル、さらにDEPT法(パルス幅135°)13C NMRスペクトルを併せて図32に示した。
図32に示したとおり、抽出物のスペクトルは、シゾフィランに帰属できるピークと、その他に78.5ppmで示したピークが確認できた。この位置で確認できる多糖のピークは、グリコシル化された四位の炭素、つまり1→4結合からなる糖の存在が考えられる。α-(1→4)結合であれば、そのグリコシル化された一位の炭素のピークは100ppm前後であるが、抽出物のスペクトルからは確認できないことから、β-(1→4)結合であると判断した。したがって、アルカリ抽出物中に存在する多糖の構造は、β-(1→6)分岐β-(1→3)グルカンと、β-(1→4)グルカンが共存していると判断できた。また、DEPT法による13C NMRスペクトルから、シゾフィランのグルコース単位における六位の炭素(C6)、つまり二級炭素(-CH2-)に帰属したピークが、抽出物において下向きのシグナルで現れ、その帰属を確認することができた。
なお、図31において、シグナルの強度には差がみられるが、NaClO溶液を添加した抽出物はいずれも同じ位置にピークを示した。50mlのNaClO溶液を添加した条件における抽出物が、最も明確なシグナルを示したが、これは上記の表19で示したように、1.25M NaOH抽出物の中で最も高い糖の含有率を有することを起因としていると判断した。
これら1H NMRおよび13C NMRの結果を総合すると、NaClO溶液を添加しない場合は、抽出の前半段階(NaClO抽出物、DMSO抽出物)でα型多糖を選択的に分画できるが、後半段階(アルカリ抽出物)においてβ型グルカンを抽出することができないことを確認できた。
そして、NaClO溶液を添加した場合は、抽出の前半段階(DMSO抽出物)で、α型およびβ型多糖がともに抽出されるが、後半段階(アルカリ抽出物)において、β-(1→6)分岐β-(1→3)グルカンと、β-(1→4)グルカンとを抽出することができた。
〔6〕まとめ
以上のとおり、NaClO溶液、DMSO、1.25M NaOHおよび5M NaOHを用いて、ヒイロタケ子実体からの多糖の分画について検討した。そして、NaClO溶液の添加量を0〜100mlの範囲で変化させることで、以下の結果を確認することができた。
(1)抽出物全体の収率は、NaClO溶液の添加量が0〜50mlの場合、NaClO溶液の添加量とともに顕著に増加し、NaClO溶液の添加量が50mlのとき最大(約80%)となり、一方、NaClO溶液の添加量が100mlのときは50mlのときよりも収率は減少した。
(2)NaClO溶液処理によって、抽出されるタンパク質を減らすことができた。
(3)NaClO抽出物では多糖は確認されなかったが、DMSO抽出物ではα型およびβ型多糖ともに抽出することができた。
(4)1.25M NaOH抽出物に含まれる多糖は、β-(1→6)分岐β-(1→3)グルカンと、β-(1→4)グルカンであることが判断できた。
このようにヒイロタケ多糖の分画において、高収率で抽出物を得ることができ、多糖の抽出および回収で大変効果があると確認できた。また、ヒイロタケ子実体中には、β-(1→6)分岐β-(1→3)グルカンが存在することから、ヒイロタケ多糖にも抗腫瘍活性等の生理活性を有し、食品や医療等に応用できる。
この出願の発明によって、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているβ−(1→3)グルカンやβ−(1→6)グルカン等の構造をもつβ−グルカンをきのこから選択的に抽出分画することのできる新しい取得方法と、この方法により得られる新しいβ−グルカン多糖類が提供される。
これらのβ−グルカンを食品や医療に応用すること、また、これらのβ−グルカン多糖類をフィルムや繊維等の形態において利用することも可能となる。
例1におけるHPLCクロマトグラムを示した図である。 例1におけるFT−IRスペクトルを示した図である。 例1におけるNaClO抽出物とDMSO抽出物の1H NMRスペクトルを示した図である。 例1におけるDMSO抽出物の13C NMRスペクトルを示した図である。 シゾフィランの13C NMRスペクトルを示した図である。(a)NaBH4非存在下、(b)NaBH4存在下。 例1における1.25M NaOH抽出物の13C NMR(DEPT135)スペクトルを示した図である。 例1における1.25M NaOH抽出物の13C NMRスペクトルを示した図である。 例1における5M NaOH抽出物の13C NMRスペクトルを示した図である。 例1におけるコンゴーレッド存在下での抽出多糖類の最大吸収値のNaOH濃度による変化を示した図である。 例1における抽出多糖類のゲル濾過クロマトグラムを示した図である。 例2における抽出物のFT−IRスペクトルを示した図である。 例2における0.1M NaOH抽出物およびDMSO抽出物の1H NMRスペクトルを示した図である。 例2におけるNaOH抽出物の13C NMRスペクトルを示した図である。 例2におけるコンゴーレッド存在下での抽出多糖類の最大吸収値のNaOH濃度による変化を示した図である。 例2における抽出多糖類のゲル濾過クロマトグラムを示した図である。 例3における抽出物のFT−IRスペクトルを示した図である。 例3における0.1M NaOH抽出物およびDMSO抽出物の1H NMRスペクトルを示した図である。 例3におけるNaOH抽出物の13C NMRスペクトルを示した図である。 例3におけるコンゴーレッド存在下での抽出多糖類の最大吸収値のNaOH濃度による変化を示した図である。 例3における抽出多糖類のゲル濾過クロマトグラムを示した図である。 ヒイロタケにおける、NaClOの添加量の変化に伴う各抽出物の収率の変化を示した図である。 標準単糖におけるHPLCクロマトグラムを示した図である。 ヒイロタケのNaClO抽出物におけるHPLCクロマトグラムを示した図である。 ヒイロタケのDMSO抽出物におけるにおけるHPLCクロマトグラムを示した図である。 ヒイロタケの1.25M NaOH抽出物におけるにおけるHPLCクロマトグラムを示した図である。 ヒイロタケの5M NaOH抽出物におけるにおけるHPLCクロマトグラムを示した図である。 標準単糖における13C NMRスペクトルを示した図である。 加水分解生成物の抽出物における13C NMRスペクトルを示した図である。 NaClO抽出物における、溶媒DMSO-d6-D2Oを用いての1H NMRスペクトルを示した図である。 DMSO抽出物における、溶媒DMSO-d6-D2Oを用いての1H NMRスペクトルを示した図である。 1.25M NaOH抽出物における、溶媒0.25M NaODを用いての13C NMRスペクトルを示した図である。 シゾフィランと1.25M NaOH抽出物における、溶媒0.25M NaODを用いての13C NMRスペクトルを示した図である。

Claims (10)

  1. 担子菌類ヒダナシタケ目きのこの細胞壁の水素結合を弱め、もしくは破壊した後に、強アルカリ抽出してβ−グルカンのうちの1種以上の多糖類を分画取得することを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法。
  2. 多段階で強アルカリ抽出することを特徴とする請求項1のきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法。
  3. 強アルカリ抽出に際してNaBH4を添加することを特徴とする請求項1または2のきのこ由来のβ−グルカン各糖類の取得方法。
  4. 次亜鉛素酸ナトリウムおよびDMSOのうちの1種以上によりきのこ細胞壁の水素結合を弱め、もしくは破壊することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかのきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法。
  5. β−グルカン多糖類が、β−(1→3)グルカン、β−(1→6)グルカン並びにβ−(1→6)グルシル分岐β−(1→3)グルカンの構造を有する1種以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかのきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法。
  6. 分子量が2,000,000以上であることを特徴とする請求項5のきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法。
  7. 分子量が400,000前後であることを特徴とする請求項5のきのこ由来のβ−グルカン多糖類の取得方法。
  8. 担子菌類ヒダナシタケ目きのこから強アルカリにより抽出分画されたβ−グルカン多糖類であって、β−(1→3)グルカン、β−(1→6)グルカン、並びにβ−(1→6)グルシル分岐β−(1→3)グルカンの構造のうちのいずれかを有することを特徴とするきのこ由来のβ−グルカン多糖類。
  9. 分子量が2,000,000以上であることを特徴とする請求項8のきのこ由来のβ−グルカン多糖類。
  10. 分子量が400,000前後であることを特徴とする請求項8のきのこ由来のβ−グルカン多糖類。
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