以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、実施形態に係る椅子10は、例えば眼科、耳鼻咽喉科、歯科等の医院又は病院等で用いられる医療用椅子である。椅子10は、昇降装置11(図2参照)を収容した基底部12と、基底部12の上方に設けられた着座部13と、利用者の背部を支える背もたれ14と、利用者の頭部を支えるヘッドレスト15と、利用者の脚部を支えるエプロン16と、利用者の腕部を支える肘掛け17とを備えている。椅子10は、背もたれ14を起伏させるいわゆるリクライニング機構を有している。また、詳細は後述するが、椅子10は、背もたれ14及びエプロン16が略直立状態となる椅子状態と、着座部13が上昇し且つ背もたれ14及びエプロン16が略水平状態となる寝台状態との間で、状態変更が自在に構成されている(図19参照)。したがって、椅子10は、椅子状態を採ることによって利用者を着座姿勢で支持することができるとともに、寝台状態を採ることによって利用者を横たわった姿勢で支持することができる。なお、背もたれ14の起伏等は、椅子10の内部に設けられたコントローラ100によって制御される。
以下、椅子10の各構成要素について順に説明する。なお、図2以降の図では、説明の便宜上、椅子10の一部のみを図示し、他の要素は適宜省略する場合がある。また、理解を容易にするため、一部の構成要素を強調して図示し、その結果、図面相互間において寸法等が一致しない部分もある。
図2及び図3に示すように、基底部12は、床面に設置された土台24と、土台24の上側に固定された下側ケーシング23と、下側ケーシング23の上部に取り付けられたカバー21と、カバー21の上部に取り付けられた上側ケーシング22とを備えている。椅子10自体はかなり重量があるので、土台24は床面に固定されていなくてもよい。ただし、土台24を床面に固定してもよいことは勿論である。カバー21は蛇腹状に形成されており、上下方向に伸縮自在である。これにより、基底部12は上下方向に伸縮自在に構成されている。
基底部12の内部には、昇降装置11が収容されている。昇降装置11は、土台24と着座部13との間に設けられた直上ガイド31と、電動式の第1アクチュエータ32とから構成されている。
直上ガイド31は、着座部13の上下方向の移動を案内するものである。直上ガイド31は、土台24に固定されて上方に延びる金属製の土台円筒部39と、鉛直方向に延びる金属製の外側円筒部33及び内側円筒部34と、外側円筒部33を水平方向両側から挟み込む複数のガイドローラ35とを備えている。内側円筒部34は外側円筒部33の内部に収納されており、その前後左右方向の移動は外側円筒部33によって規制される。すなわち、外側円筒部33は内側円筒部34の上下移動を案内するように構成されている。一方、外側円筒部33は、ガイドローラ35によって上下方向に案内される。内側円筒部34の上端部は着座部13のフレーム41に固定されている。内側円筒部34の下端部は横方向に広がっており、内側円筒部34が上昇すると、内側円筒部34の下端部が外側円筒部33の上端部に引っ掛かり、外側円筒部33は内側円筒部34によって上方へ引き上げられる。このように、直上ガイド31は、互いに上下方向にスライド自在に嵌合された複数の棒状体(土台円筒部39、外側円筒部33及び内側円筒部34)を組み合わせてなり、いわゆる2段式のガイドになっている。
第1アクチュエータ32は、土台24と着座部13との間において、傾斜した姿勢で設置されている。第1アクチュエータ32は、着座部13を昇降させる駆動手段であり、シリンダ36と、シリンダ36から延びるロッド37とから構成されている。シリンダ36から延びるロッド37は単段のロッドであり、第1アクチュエータ32はいわゆる単段式のアクチュエータである。シリンダ36の下端部は、土台24に立設された固定金具38に回転自在に結合されている。ロッド37の上端部は、着座部13のフレーム41に回転自在に連結されている。すなわち、シリンダ36は、土台24に対して水平軸回りに回転自在に取り付けられ、ロッド37は、着座部13に対して水平軸回りに回転自在に取り付けられている。したがって、ロッド37が伸縮して着座部13が昇降すると、第1アクチュエータ32は下端部を支点として回転し、床面に対する第1アクチュエータ32の傾斜角度は変化する。
このように第1アクチュエータ32は斜めに設置され、しかも回動自在に構成されているので、ロッド37の伸縮とシリンダ36の回動とは連動する。その結果、本昇降装置11では、ロッド37の伸縮の成分とシリンダ36の姿勢変更の成分とが合成されることによって、着座部13をロッド37の伸縮量以上に昇降させることが可能となる。
本昇降装置11によれば、単段式のアクチュエータ32を用いているにも拘わらず、着座部13の最低位置を従来よりも低く設定することができる。第1アクチュエータ32が傾斜姿勢で設置されているので、着座部13の最低高さをシリンダ36の長さ以下にすることができるからである。また、ロッド37の伸縮量以上に着座部13を昇降できるので、着座部13の最低位置が従来よりも低くても、従来と同等の高さにまで着座部13を上昇させることができるからである。
本実施形態では、着座部13の最低位置は、床面から400mmの位置に設定されている。ただし、床面からの高さは、400mmに限定されず、適宜に設定することができる。本実施形態において着座部13の最低位置を床面から400mmの位置にした理由は、高齢者や子供のように身長の低い人であっても、本椅子10に容易に着座できるようにするためである。人間工学上の一説によれば、着座面の高さが身長の0.27倍程度の高さであれば、容易に着座できることが知られている。そのため、身長が約150cmの人の場合、150cm×0.27=405mmであるため、着座面の高さが405mm以下であれば、容易に着座することができると考えられる。そこで、本実施形態では、着座部13の最低位置を従来よりも低くし、床面から400mmに設定することとした。
第1アクチュエータ32の仕様は何ら限定されるものではないが、ここではシリンダ36の長さは約420mm、ロッド37の最大ストロークは約300mmである。前述したように本昇降装置11では、ロッド37が伸びると第1アクチュエータ32自身の傾斜角度が変化するので、着座部13の上昇距離は、ロッド37の最大ストロークよりも大きくなる。そのため、本昇降装置11では、着座部13は床面から400mmの位置から約730mmの位置にまで上昇することができ、最大上昇距離は約330mmとなっている。したがって、着座部13の最低位置が低くても、着座部13を所定の高さ位置にまで上昇させることができる。
図4に示すように、着座部13は、略平板状の前側フレーム41a及び後側フレーム41bからなるフレーム41と、フレーム41の上部に固定されたクッション42と、後側フレーム41bの下方に取り付けられた支持板43とを備えている。支持板43は、後述する第3アクチュエータ66(図6参照)を支持するものであり、フレーム41から下方へ所定間隔離れた箇所に設けられている。そして、フレーム41と支持板43との間は、アクチュエータ66等の設置スペースとなっている。
図4及び図5に示すように、エプロン16は、フレーム52と、フレーム52に取り付けられたクッション51とを備えている。フレーム52の略中央部と根元部(着座部13側の端部)とには、リンク部材53が回転自在に取り付けられている。リンク部材53はフレーム52の中央部からフレーム52の根元部に延びており、その根元部は回転軸54を介して着座部13の前側フレーム41aに回転自在に連結されている。リンク部材53の略中央部には、第2アクチュエータ55のロッドが回転自在に連結されている。なお、第2アクチュエータ55はシリンダとロッドとを備えた電動アクチュエータからなり、そのシリンダは、着座部13の前側フレーム41aに回転自在に支持されている。図5に示すように、第2アクチュエータ55のロッドが縮むと、エプロン16は折りたたまれ、略直立した状態となる。一方、図4に示すように、第2アクチュエータ55のロッドが伸びると、エプロン16は展開し、傾斜状態又は略水平状態となる。
図6に示すように、背もたれ14は、着座部13の後部(図6の右側部)に回転自在に取り付けられたリンク部材63と、リンク部材63の上部に固定された下側背もたれ部材62と、下側背もたれ部材62に対してスライド自在に取り付けられた上側背もたれ部材61とを備えている。図示は省略するが、上側背もたれ部材61は、クッションと当該クッションを支えるフレームとからなっている。リンク部材63の下部には、電動アクチュエータからなる第3アクチュエータ66のロッドが、回転自在に連結されている。第3アクチュエータ66のシリンダは、支持板43上に固定された取付金具44に回転自在に結合されている。
図6に示すように、第3アクチュエータ66のロッドが伸びると、背もたれ14は略直立した状態となる。一方、図7に示すように、第3アクチュエータ66のロッドが縮むと、背もたれ14は略水平状態となる。このように、第3アクチュエータ66によって背もたれ14は起伏する。
図6に示すように、上側背もたれ部材61及び下側背もたれ部材62の内部には、電動式の第4アクチュエータ67が設けられている。第4アクチュエータ67のシリンダの下端部は、下側背もたれ部材62の下端部に取り付けられている。第4アクチュエータ67のロッドの先端部は、上側背もたれ部材61の上端部に連結されている。したがって、第4アクチュエータ67のロッドの伸縮により、上側背もたれ部材61は下側背もたれ部材62に対してスライド移動する。これにより、背もたれ14の長さは変化する。
本実施形態では、第3アクチュエータ66と第4アクチュエータ67とが連動することにより、背もたれ14の長さは背もたれ14の傾斜角度に応じて調整される。具体的には、椅子10に着座している利用者が背もたれ14の傾倒時に背ずれ(利用者の背中と背もたれ14とが摺接すること)を起こさないように、背もたれ14があたかも利用者の腰の回転支点P1を中心として回転するように、背もたれ14の長さは調整される。利用者の回転支点P1は、背もたれ14と着座部13との間の回転軸64よりも、前方斜め上の位置にある。そのため、図7に示すように、背もたれ14の長さは、背もたれ14を倒す際には短くなり、逆に、背もたれ14を起こす際には長くなる。
図8に示すように、着座部13の前側フレーム41aは、後側フレーム41bに回転自在に取り付けられている。これにより、前側フレーム41aを後方に引き上げることにより、椅子10の内部を開放することができる。したがって、第2アクチュエータ55や第3アクチュエータ66等のメンテナンスを容易に行うことができる。
次に、図9(a)〜(c)を参照しながら、ヘッドレスト装置70について説明する。なお、以下の説明中の上下左右とは、図9(a)〜(c)における上下左右を意味するのであり、必ずしも椅子10の実際の使用時における上下左右を意味するものではない。本椅子10では、利用者を着座姿勢で支持する椅子状態と利用者を横たわった姿勢で支持する寝台状態との間で状態変更が可能であるため、実際の使用時における左右上下方向は、それら状態によって異なる。以下の説明では、椅子10は寝台状態にあるものとする。
ヘッドレスト装置70は、利用者の後頭部を支持するヘッドレスト15を備えている。ヘッドレスト15は、支持板77と支持板77に設けられたクッション78とから構成されている。ヘッドレスト装置70は、更に、支持板77の裏側に固定されたガイド板71と、背もたれ14に内蔵された電動式の第5アクチュエータ79とを備えている。ガイド板71は略円弧状に湾曲した板状部材からなり、このガイド板71には、所定の曲線状に切り欠かれたガイド溝72が形成されている。第5アクチュエータ79は、ガイド板71の下端部に回転自在に連結された支柱73と、支柱73内を上下方向に延びるロッド74と、支柱73の下端部に固定された電動モータ76とから構成されている。支柱73は、背もたれ14によって上下方向に案内されるように支持されている。ロッド74の先端には、ガイド板71のガイド溝72に係合するピン75が取り付けられている。なお、ピン75はガイド溝71内において回転自在であってもよく、回転不能であってもよい。
以上のような構成により、第5アクチュエータ79の支柱73が上下動すると、ロッド74の先端のピン75はガイド溝72内を移動し、ヘッドレスト15はガイド溝72の曲線形状に応じて傾倒する。本実施形態では、ガイド溝72の曲線形状は、ヘッドレスト15の傾倒姿勢と利用者の頭部の傾倒姿勢とが揃った状態のまま、ヘッドレスト15が利用者の頭骨101Aと頸椎102Aとの接続部P2を中心として回動するように形成されている。その結果、ヘッドレスト15は、支柱73の上下動による直線移動とピン75がガイド溝72内を移動することによる回動とが組み合わされることによって、頸椎部の上記接続部P2を中心とした回動を行う。
ヘッドレストの構成は何ら限定されないが、本実施形態では、ヘッドレスト15は以下のような構成を有している。
図10(a)に示すように、ヘッドレスト15のクッション78は、袋状部材81と、この袋状部材81の内部に収容された粒状材82とにより構成されている。本実施形態では、粒状材82としてビーズが用いられている。ただし、粒状材82はビーズに限定されず、砂等の他の粒状材であってもよい。袋状部材81の裏側には空気排出口(図示せず)が形成され、この空気排出口にはチューブ83が接続されている。チューブ83には開閉弁84が設けられており、チューブ83の下流端には真空ポンプ等の空気排出装置85が接続されている。
開閉弁84が開放されているときには、袋状部材81の内部には空気が混入している。そのため、粒状材82は袋状部材81内を自由に動くことができ、クッション78は自由に変形することができる。したがって、図10(b)に示すように、利用者の頭部がクッション78に載せられると、クッション78は、頭部からの押圧力によって頭部の形状に合った形状に変形する。なお、図10(b)では、クッション78の上下方向の変形状態しか図示していないが、頭部の左右方向に関しても頭部形状に合った形状に変形することは勿論である。このようにクッション78が変形した後、排出チューブ83を通じて袋状部材81内の空気を強制排出し、開閉弁84を閉鎖する。その結果、袋状部材81内の粒状材82は結集し、互いの動きを拘束することによってクッション78の変形を防止する。すなわち、クッション78は頭部の形状に合ったまま、その形状が保持される。したがって、本ヘッドレスト15のクッション78によれば、利用者の頭部をしっかりと保持することができ、検査又は治療等の際における頭部の位置ずれを防止することができる。
本椅子10の肘掛け17は、固定式のものであってもよいが、以下に示すようにスライド自在な肘掛けであってもよい。なお、図1等においては、下記の構造は図示していない。
例えば、図11に示すように、肘掛け17は、背もたれ14の背面にあてがわれたブロック部材90と、ブロック部材90に連結されたリンク部材91と、リンク部材91の上部に回転自在に取り付けられた支持台92と、支持台92上にスライド自在に支持された肘掛け板93とを備えていてもよい。なお、肘掛け板93をスライドさせるスライド機構には、公知のスライド機構を利用することができる。例えば、支持台92と肘掛け板93とを互いにスライド自在に係合したスライド機構等を用いることができる。
リンク部材91の下端部は着座部13に回転自在に連結されており、リンク部材91の上端部は背もたれ14の下端部に回転自在に連結されている。ブロック部材90の一部は背もたれ14(より詳しくは、下側背もたれ部材62)の背面に固定されており、背もたれ14と共に傾倒する。したがって、図12に示すように、ブロック部材90が後方に倒されると、それに伴って背もたれ14及びリンク部材91も後方に倒され、支持台92及び肘掛け板93は後方斜め下方向に移動する。この際、支持台92とブロック部材90とはリンク部材91で連結されているので、支持台92及び肘掛け板93は、略水平姿勢を維持しながら後方斜め下方向に移動することになる。
特にここでは、リンク部材91や支持台92等の形状や寸法などは、背もたれ14の起伏の際に利用者が手ずれ(利用者の腕部が肘掛け板93に摺接すること)を起こさないように設定されている。なお、肘掛け板93は支持台92に対してスライド自在に構成されているので、肘掛け板93を背もたれ14の起伏と連動してスライドさせることにより、利用者の手ずれを防止することも可能である。肘掛け板93のスライド移動は手動で行ってもよいが、肘掛け板93を駆動する駆動手段を設けておき、自動的にスライドさせるようにしてもよい。
図示は省略するが、背もたれ14を略水平状態にしたときに、肘掛け17を着座部13と同等又はそれ以下の高さ位置まで移動させるようにしてもよい。このことにより、肘掛け17が着座部13よりも上方に突出することが防止される。その結果、ストレッチャー等によって運搬されてきた患者等を、肘掛け17に邪魔されることなく容易に載せることが可能となる。
図13及び図14に示すように、肘掛け板93は、前方及び後方の双方向にスライド自在である。そのため、図14に示すように、左右の肘掛け板93のいずれか一方を前方にスライドさせ、他方を後方にスライドさせることによって、利用者の乗り降りを極めて容易にすることができる。すなわち、後方にスライドされた肘掛け板93は着座部13の前側部分よりも後方に退避するため、着座部13の前側部分の側方スペースが広くなる。そのため、利用者は、肘掛け板93に邪魔されることなく、着座部13に容易に着座することが可能となる。
一方、前方にスライドされた肘掛け板93は、着座部13よりも前方に突出するため、乗り降りの際の手すりとして機能する。言い換えると、肘掛け板93は、それ自体が手すりとしての役割を果たすことになる。
したがって、例えば車椅子95に乗っている患者が椅子10に着座しようとする場合、当該患者は、前方にスライドされた一方の肘掛け板93につかまりながら、他方の肘掛け板93に邪魔されることなく、着座部13に座ることができる。そのため、患者は容易かつ安全に着座することができる。なお、椅子10から車椅子95に乗り移る際にも、患者は同様の理由により容易かつ安全に移動することが可能となる。
なお、肘掛け板93は、必ずしも正規位置から前後方向にスライド移動するように構成されていなくてもよく、前方又は後方にのみスライド移動するように構成されていてもよい。正規位置から前方にのみスライド移動する場合であっても、肘掛け板93は手すりとしての機能を発揮することができる。また、正規位置から後方にのみスライド移動する場合であって、乗り降りのためのスペースを大きくする効果は得ることができる。
なお、上記構成では肘掛け板93が正規位置から前方にスライド自在であったが、図15及び図16に示すように、肘掛け板93が前方にスライドする代わりに、前方にスライド自在な手すり94を設けるようにしてもよい。すなわち、肘掛け板93の下方に隠れる正規位置と肘掛け板93よりも前方に突出する突出位置との間でスライド移動自在な手すり94を設けてもよい。このような場合であっても、手すり94を利用することによって、患者は乗り降りを容易かつ安全に実行することができる。なお、乗り降りのスペースを大きくするためには、手すり94は肘掛け板93とともに後方にスライド自在に構成されていることがより好ましい。
なお、上記肘掛け17は、前後方向のスライド移動のみを行うように構成されていたが、肘掛け17の根元部を支点として上下回転又は左右回転を行うように構成されていてもよい。肘掛け17を上下回転又は左右回転させることによって、利用者の乗り降りを容易にすることも可能である。
図17(a)〜(c)に示すように、背もたれ14(より詳しくは、リンク部材63)は、リンク機構101に連結されている。リンク機構101は、第1アーム102と第2アーム103とから構成されている。第1アーム102の一端はリンク部材63の下端部に回転自在に取り付けられ、その他端は第2アーム103の一端に回転自在に結合されている。第2アーム103の他端には、回転ローラ104が設けられている。回転ローラ104は、前側フレーム41aの下面に接触している。着座部13の支持板43上には支持片45が立設されており、第2アーム103の中途部は支持片45に回転自在に支持されている。支持片45は、前側フレーム41aの前後方向中央部の下方に位置している。したがって、第2アーム103が支持軸105を中心として回転すると、回転ローラ104は前側フレーム41aを上方に押し上げながら揺動することになる。支持片45には、第2アーム103の支持軸105を支える溝108が形成されている(図17(a)参照)。溝108は前方斜め上方向に延びている。そして、この溝108には、支持軸105を前方斜め上の位置と後方斜め下の位置とで選択的に支持できるように、その両端に窪みがそれぞれ設けられている。
上記構成により、本実施形態に係る椅子10では、着座部13は背もたれ14の起伏動作に連動して起伏動作を行う。なお、エプロン16を起伏させる第2アクチュエータ55と背もたれ14を起伏させる第3アクチュエータ66とは、コントローラ100(図1参照)によって、連動するように制御される。したがって、エプロン16も背もたれ14の起伏動作に伴って起伏動作を行う。
本実施形態では、図17(a)〜(c)に順に示すように、背もたれ14を直立状態から水平状態にまで傾倒させると、回転ローラ104は前側フレーム41aを押し上げながら後方に向かって揺動する(図17(b)参照)。その結果、着座部13は水平状態からいったん前上がりに傾倒し、その後再び水平状態に戻る。このように、背もたれ14が後方に傾いている状態では着座部13が前上がりに傾くことによって、利用者の体の負担は軽くなる。なお、背もたれ14を水平状態から直立状態にまで起こす際には、上記と逆の動作が行われる。
図17(a)〜(c)に示す例では、第2アーム103の支持軸105は、支持片45の溝108内の後方斜め下の位置に支持されていた。その結果、背もたれ14が水平状態になるときには、着座部13も水平状態になった。しかし、使用態様によっては、利用者が横たわる際に着座部13を若干前上がりに傾斜させた方が好ましい場合もある。そこで、そのような場合には、図18(a)に示すように、第2アーム103の支持軸105を溝108内の前方斜め上の窪みで支持する。その結果、背もたれ14と着座部13とは、図18(a)〜(c)に示すように連動する。また、図18(c)に示すように、背もたれ14が水平状態になった場合でも、着座部13は前上がりに傾斜した姿勢に維持される。
図19に示すように、本実施形態では、着座部13の昇降(矢印A1参照)と、背もたれ14の起伏(矢印A2参照)と、エプロン16の起伏(矢印A3参照)と、着座部13の前側フレーム41aの起伏(矢印A4参照)とを連動させることによって、利用者を着座させる椅子状態と利用者を横たえる寝台状態との間で、椅子10の状態変更を自動化している。なお、連動させる対象は上記のものに限定されず、それらの一部であってもよい。また、それらに加えてヘッドレスト15等の他の要素も連動させるようにしてもよい。ここでは、椅子状態にある椅子10が寝台状態に自動的に移行する動作をプリセットといい、寝台状態にある椅子10が椅子状態に自動的に移行する動作をオートリターンという。
本実施形態では、椅子10の椅子状態及び寝台状態は、利用者の体格に応じて調整される。そして、利用者の体格特性(身長や座高等)に応じたプリセット及びオートリターンが実行される。例えば、図20(a)に示すように利用者の体格が小さい場合には、着座部13を標準位置よりも低い位置に設定し、背もたれ14の長さを標準長さよりも短く設定する。一方、図20(b)に示すように利用者の体格が大きい場合には、着座部13を標準位置よりも高い位置に設定し、背もたれ14の長さを標準長さよりも長く設定する。このように利用者の体格に応じて椅子10の状態を調整することにより、利用者の体をしっかりと支持することができる。また、利用者は自然な姿勢で着座することができ、体の負担を軽減することができる。
なお、本椅子10では、椅子状態及び寝台状態のそれぞれについて、予め身長毎(例えば5cm毎)に複数の状態が設定されている。そして、各身長に応じた設定パラメータ(着座部13の高さ、背もたれ14の長さ等)は、コントローラ100のメモリ(図示せず)に記憶されている。なお、コントローラ100のメモリは、本発明の記憶手段に対応する。すなわち、椅子10は、利用者の体格に関する情報が入力されると、利用者を着座させる前に、利用者の体格に合った椅子状態へと自動的に移行する。そして、利用者を椅子10に着座させた後、所定のスイッチを操作すると、椅子10の状態は上記椅子状態から、利用者の体格に応じた寝台状態へと移行する。したがって、本椅子10によれば、椅子状態から寝台状態へと移行する間、利用者の体をしっかりと支持することができる。また、利用者は自然な姿勢で横たわることができ、体の負担が軽減される。
なお、椅子10にはスイッチが設けられ、操作者が当該スイッチを操作することによって、利用者の身長に合わせた状態を自由に選択できるようになっている。このようなスイッチの種類は何ら限定されないが、例えば、椅子10の上側ケーシング22の側面に、身長毎の選択スイッチ28を複数設けるようにしてもよい(図20参照)。このように操作容易なスイッチを設けることにより、椅子10の取り扱いが容易になる。例えば、利用者の身長を目視により把握し、又は、利用者からの申告により把握し、その身長に最も近い選択スイッチ28を選択する。これにより、椅子10の状態を利用者の体格に応じて状態に容易に調整することができる。
さらに、図21(a)及び(b)に示すように、椅子10に横たわる利用者に対し、ヘッドレスト15の傾倒角度を変更しても頭部の高さが変化しないように、ヘッドレスト15の傾倒動作と着座部13の昇降動作とを連動させてもよい。例えば、当該椅子10が眼科の診察に用いられる場合、患者(利用者)の頭部を後方に傾けるためにヘッドレスト15を後方に傾倒すると、患者の目の位置は下方に下がることになる。ところが本椅子10では、その際に、目の位置の移動量(下降量)に応じた量だけ、昇降装置11が着座部13を上昇させる。その結果、患者の目の高さは、ヘッドレスト15の傾倒に拘わらず一定になる。したがって、例えば医療機器96と患者の頭部又は頭部の一部(目、耳、鼻、口等)との間の間隔を一定に保つことができ、患者に対する検査、診察又は処置等を容易化することができる。
以上のように、本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
すなわち、本実施形態に係る椅子10によれば、椅子状態及び寝台状態は利用者の体格に応じて調整されるため、利用者の体格に応じたプリセット及びオートリターンが可能である。したがって、利用者は不快感を感じることなく姿勢変更を行うことができる。また、姿勢変更に伴う体の負担は軽減する。さらに、本椅子10によれば、利用者は安定して支持される。
また、本椅子10によれば、椅子状態は利用者の体格に応じて調整されるので、利用者の乗り降りが容易となる。
また、本椅子10によれば、着座部13を昇降させる第1アクチュエータ32と、エプロン16を起伏させる第2アクチュエータ55と、背もたれ14を起伏させる第3アクチュエータ66と、背もたれ14を伸縮させる第4アクチュエータ67と、ヘッドレスト15を回動させる第5アクチュエータ(モータ)79とを備え、それらはすべて電動アクチュエータによって構成されている。したがって、コントローラ100によるアクチュエータの制御を容易且つ正確に実行することができる。また、アクチュエータ同士を高精度に連動させることができる。さらに、アクチュエータの動作を迅速化することができる。したがって、プリセット及びオートリターンの動作を迅速化することができる。
本椅子10によれば、ヘッドレスト15の傾倒動作と着座部13の昇降動作とを連動させることによって、ヘッドレスト15の傾倒前後において、横たわった利用者の頭部の高さを一定にすることができる。したがって、医療機器96と頭部又は頭部の一部との間の間隔を一定に保つことができ、検査や治療等の作業を容易化することができる。
背もたれ14が利用者の腰の回転支点P1を中心として回動するように、背もたれ14の起伏と背もたれ14の伸縮とを連動させることとしたので、利用者の背ずれを防止することができ、利用者の不快感を抑制することができる。また、利用者は自然な姿勢で起伏することができるので、起伏に伴う体の負担が軽減される。また、利用者は安定して支持される。
利用者の体格を入力する入力手段として、身長毎の選択スイッチ28を設けることにより、利用者の体格に関する情報を容易に入力することができる。その結果、取り扱い性が向上する。また、選択スイッチ28を入力するという簡単な操作によって、椅子10の状態を利用者の体格に合った状態に自動的に調整することができる。
本実施形態に係るヘッドレスト装置70によれば、ヘッドレスト15を傾倒させる際には、支柱73の上下動による直線移動と、ロッド74のピン75がガイド溝72に沿って移動することによる回動とが組み合わされることによって、ヘッドレスト15は利用者の頸椎部を中心として回動する。したがって、ヘッドレスト15の大きな移動は抑制され、利用者の頭部が大きく移動することを防止することができる。
特に、ヘッドレスト15は利用者の頭骨101Aと頸椎102Aとの接続部P2を中心として回動するので、利用者の頭部を自然な姿勢で傾倒させることができ、利用者の体の負担を軽減することができる。
ヘッドレスト15のクッションとして、袋状部材81と粒状材82とからなるクッション78を用いることにより、当該クッション78を利用者の頭部形状に応じた形状に保持することができる。したがって、利用者の頭部をしっかりと支持することができる。特に、手を用いることなくクッション78の形状を変更及び保持することができるので、利用者の頭部を手を汚すことなく固定することができる。したがって、本椅子10は、手術室等の減菌室にて好適に使用することができる。
また、本ヘッドレスト装置70によれば、医療機器96を用いて患者(利用者)の頭部又は頭部の一部を検査又は治療等する場合(図21(a)参照)、ヘッドレスト15を傾倒させたとしても患者の頭部は大きく移動しないので、医療機器96と患者の頭部又は頭部の一部との間の間隔は、大きく変動することはない。したがって、たとえ着座部13を昇降させなくても、検査又は治療等を比較的容易に行うことができる。
本実施形態に係る椅子10によれば、肘掛け板93が正規位置から前後方向にスライド自在に構成されているので、利用者の乗り降りを容易化することができる。すなわち、肘掛け板93を前方にスライドさせることにより、当該肘掛け板93を乗り降りのための手すりとして利用することができ、乗り降りを容易化することができる。また、肘掛け板93を後方にスライドさせることにより、利用者は肘掛け板93に邪魔されることなく容易に乗り降りが可能となる。したがって、たとえ高齢者や車椅子に乗っている人等であっても、本椅子10に容易に着座することができる。
上記肘掛け板93は、取り付け及び取り外しが不要であるので、取り扱いは容易である。したがって、当該肘掛け板93により、取り扱い容易な乗り降りの補助具を実現することができる。
本椅子10によれば、利用者の腕部が肘掛け上で摺動しないように、肘掛け17は背もたれ14の起伏動作と連動して移動する。したがって、利用者の腕部の手ずれは防止される。そのため、利用者は不快感を感じにくく、また、自然な姿勢で起伏することになる。また、利用者は、本椅子10によって安定して支持されることになる。
さらに、本椅子10によれば、背もたれ14を倒した際に、肘掛け17は後方斜め下方向に移動し、横たわった利用者の腕部の近傍に位置する。したがって、肘掛け17を医療用の上肢台等として利用することができる。
さらに、背もたれ14が略水平状態になるときには、肘掛け17を着座部13又は背もたれ14と同等又はそれ以下の高さ位置にまで移動させることにより、ストレッチャー等によって運ばれてきた患者等を、肘掛け17に邪魔されることなく容易に載せることができる。
本実施形態に係る昇降装置11によれば、駆動手段として単段式のアクチュエータ32を用いているにも拘わらず、着座部13の最低位置を従来よりも低くすることができる。したがって、高齢者等であっても、容易に乗り降りすることができる。
本昇降装置11では、単段式のアクチュエータ32を用いているにも拘わらず、昇降量が大きい。そのため、着座部13の最低位置を低く抑えつつ、着座部13を十分な高さにまで上昇させることができる。したがって、本椅子10を検査、治療、理美容等に用いた場合、背の高い術者であっても検査等を容易に行うことができる。
単段式のアクチュエータ32を用いることにより、複数段のアクチュエータを使用する場合に比べて、昇降装置11の低コスト化を図ることができる。
また、本昇降装置11では、アクチュエータ32が傾斜した姿勢に設置されているにも拘わらず、着座部13は直上ガイド31によって案内されるので、前後左右方向の揺れが起こらず、上下方向に円滑に案内される。したがって、昇降装置11は剛性が高く、着座部13を安定して昇降させることができる。
直上ガイド31は2段式のガイドであるため、着座部13の最低位置が低い(つまり、直上ガイド31の最短長さが短い)にも拘わらず、着座部13を十分高い位置にまで案内することができる。
以上、医療用椅子を例として、本発明に係る椅子の実施形態について説明した。ただし、本発明に係る椅子は、医療用途だけでなく他の用途、例えば、介護、福祉、理美容等においても、同様の効果を発揮するものである。本発明に係る椅子は、前記実施形態に限定されるものではない。