JP2005112800A - Nmrによる膜蛋白質とリガンドの相互作用解析に用いる膜蛋白質再構成法 - Google Patents

Nmrによる膜蛋白質とリガンドの相互作用解析に用いる膜蛋白質再構成法 Download PDF

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Abstract

【課題】 単離した膜蛋白質を脂質二重膜中に再構成させた状態で、安定に固相に固定化する方法の提供、および安定に固定化した膜蛋白質とリガンドの相互作用界面情報を取得し、膜蛋白質とリガンドの相互作用解析を行う方法の提供。
【解決手段】 単離した膜蛋白質を脂質二重膜中に再構成する方法であって、膜蛋白質を固相に配向制御して固定化し、脂質を添加し、固定化膜蛋白質の近傍に脂質二重膜を再構成させることを含む方法、および該方法により製造される、膜蛋白質が脂質二重膜中に再構成された状態で、かつ配向制御されて固定化された固相であって、該膜蛋白質が活性を保持している、膜蛋白質再構成固相。
【選択図】 なし

Description

本発明は、単離した膜蛋白質を天然状態と同様の状態で安定に保持する方法に関し、具体的には、膜蛋白質を固相に固定化し、該固定化して膜蛋白質を活性を保持した状態で安定に脂質二重膜中に再構成させる方法に関する。本発明は、さらに該固相上に脂質二重膜中に再構成された膜蛋白質とリガンドとの相互作用をNMRにより解析する方法に関する。本発明は、さらに膜蛋白質が脂質二重膜中に安定に再構成された固相に関する。
細胞機能は、細胞内外の蛋白質、脂質、糖質、核酸、有機化合物などが互いに密接に相互作用することによって維持される。中でも、膜蛋白質へのリガンドの結合は生体相互作用ネットワークの入り口であり、細胞外情報を細胞内に受け渡す重要な役割を果たす。また、膜蛋白質は多くの薬物のターゲットとなっていることから、膜蛋白質‐リガンド間相互作用を原子または残基レベルで解析することはstructure-based drug designにおいて有用であると考えられる。
膜蛋白質‐リガンド間相互作用の原子または残基レベルでの解析に向けた構造生物学的手法として、X線結晶構造解析、NMR、電子顕微鏡などが挙げられる。これらの手法のうち、結晶化が必要なX線結晶構造解析や電子顕微鏡に比べて、NMRは生理的条件下での測定が可能な点が特徴であり、生体内における蛋白質の機能をより正確に反映すると考えられる。
膜蛋白質の構造生物学的解析は従来、界面活性剤ミセルにより可溶化した状態で行われてきた。しかし、界面活性剤に可溶化された膜蛋白質はしばしば非常に不安定となり(非特許文献1参照)、膜蛋白質本来の構造および機能を失わせる危険性を含む。よって、こうした界面活性剤の性質は膜蛋白質‐リガンド間相互作用解析を行う上でも、生体内における膜蛋白質本来の機能の妨げとなる。さらに、界面活性剤による膜蛋白質の可溶化は、すべての膜蛋白質に対して常に成功する方法とは言えない。以上の問題点を回避するために、より天然の状態に近い、機能を保持した状態の膜蛋白質をNMRに適用することのできるサンプルとして調製する方法を確立することが必要であると考えた。
本発明者らは、先に蛋白質同士の相互作用界面を調べる方法を開発した(特許文献1参照)。該方法を膜蛋白質に適用するためには、膜蛋白質をその天然状態と同様の状態で安定に保持する必要があり、膜蛋白質を安定保持する方法が望まれていた。
特開2002-31610号公報 James U Bowie. (2001) Stabilizing membrane proteins. Curr. Opin. Struct. Biol., 11, 397-402
本発明は、単離した膜蛋白質を脂質二重膜中に再構成させた状態で、安定に固相に固定化する方法の提供を目的とし、さらに安定に固定化した膜蛋白質とリガンドの相互作用界面情報を取得し、膜蛋白質とリガンドの相互作用解析を行う方法の提供を目的とする。
膜蛋白質の構造生物学的解析は従来、界面活性剤ミセルにより可溶化した状態で行われてきた。しかし、界面活性剤に可溶化された膜蛋白質はしばしば非常に不安定となり(James U Bowie. (2001) Stabilizing membrane proteins. Curr. Opin. Struct. Biol., 11, 397-402)、膜蛋白質本来の構造および機能を失わせる危険性を含む。よって、こうした界面活性剤の性質は膜蛋白質‐リガンド間相互作用解析を行う上でも、生体内における膜蛋白質本来の機能の妨げとなる。さらに、界面活性剤による膜蛋白質の可溶化は、すべての膜蛋白質に対して常に成功する方法とは言えない。以上の問題点を回避するために、より天然の状態に近い、機能を保持した状態の膜蛋白質をNMRに適用することのできるサンプルとして調製する方法を確立することが必要であると考えた。
前述のように、膜蛋白質は界面活性剤中で必ずしも安定には存在しない。界面活性剤中で膜蛋白質が失活する原因は、膜蛋白質間の非特異的相互作用による不活性多量体の形成である(Yufeng Zhou, Francis W. Lau, Sehat Nauli, Dawn Yang, and James U Bowie. (2001) Inactivation mechanism of the membrane protein diacylglycerol kinase in detergent solution. Protein Sci., 10, 378-383)。不活性多量体の形成は、界面活性剤による可溶化などによって膜蛋白質が高次構造的に不安定となることで、時間に伴い不可逆的に進行する。近年、可溶性蛋白質の巻き戻しにおいてaffinity beadsへの固定化が不活性多量体の形成を抑制することが報告されている(Ren Q, De Roo G, Kessler B, Witholt B. (2000) Recovery of active medium-chain-length-poly-3-hydroxyalkanoate polymerase from inactive inclusion bodies using ion-exchange resin.Biochem. J., 349, 599-604)。また、膜蛋白質は一般的に、脂質二重膜中において安定であることが知られている(James U Bowie. (2001) Stabilizing membrane proteins. Curr. Opin. Struct. Biol., 11, 397-402)。以上を考慮して、本研究では、界面活性剤に可溶化した蛋白質をaffinity beadsへ固定化した後、さらに脂質二重膜を再構成することにより膜蛋白質を活性のある状態で安定に保持する新規膜蛋白質再構成法を構築した(図1)。膜蛋白質は細胞膜中において方向性をもって埋め込まれ、その機能を発現している。したがって、サンプル調製においてはこの方向性を制御することも重要である。本手法では、affinity beadsへの固定化により膜蛋白質の配向も制御できることが期待される。
本研究のターゲット分子としては、KcsA KチャネルとそのリガンドペプチドであるAgitoxin2 (AgTx2) を用いた。
KcsAは、Streptmyces Lividans由来のKチャネルであり、160アミノ酸残基からなるサブユニットがホモテトラマーを形成することで、細胞膜中でKチャネルを形成する(Schrempf, H. et al. (1995) A prokaryotic potassium ion channel with two predicted transmembrane segments from Streptomyces lividans. EMBO J. 14, 5170-8)。分子量はホモテトラマーとして70.4kDaである。KcsAに関しては、現在までにX線結晶構造が明らかにされている(図2)(Doyle, D.A. et al. The structure of the potassium channel: molecular basis of K+conduction and selectivity. Science 280, 69-77 (1998))。
AgTx2はscorpion venom由来の毒素であり、38アミノ酸残基からなるKチャネル阻害ペプチドである(Garcia, M.L., Garcia-Calvo, M., Hidalgo, P., Lee, A. & MacKinnon, R. Purification and characterization of three inhibitors of voltage-dependent K+channels from Leiurus quinquestriatus var. hebraeus venom. Biochemistry 33, 6834-9 (1994).)。AgTx2に関しては、NMR法により溶液中の立体構造が明らかになっている。また、分子中に存在する3組のジスルフィド結合が立体構造を保持している(図3)(Krezel, A.M., Kasibhatla, C., Hidalgo, P., MacKinnon, R. & Wagner, G. Solution structure of the potassium channel inhibitor agitoxin 2: caliper for probing channel geometry. Protein Sci. 4, 1478-89 (1995).)。AgTx2はKcsAのポア部分に細胞外から結合し、Kイオンの通過を物理的に妨げると考えられている(Gross A., MacKinnon R., (1996) Agitoxin footprinting the shaker potassium channel pore., Neuron, 2, 399-406.)。
KcsA‐AgTx2間相互作用は、現在までに本発明者らにより、界面活性剤n-dodecyl-β-D-maltoside (DDM) 中でのAgTx上におけるKcsA結合界面が、TCS法および部位特異的変異実験により同定されており、相互作用の詳細が明らかにされている。このことから、KcsA‐AgTx2相互作用系は、前述した膜蛋白質‐リガンド間相互作用解析のための膜蛋白質再構成法を検討するのにふさわしい系と考えた。そこで、この系を利用して膜蛋白質再構成系の構築を目指した。さらに脂質二重膜中に再構成されたKcsAに対するAgTx2の相互作用面のTCS法による同定を試みた。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 単離した膜蛋白質を脂質二重膜中に安定に再構成する方法であって、膜蛋白質を固相に配向制御して固定化し、脂質を添加し、固定化膜蛋白質の近傍に脂質二重膜を再構成させることを含む方法、
[2] 固相への膜蛋白質の配向制御しての固定化が、特異的結合を介して行われる[1]の方法、
[3] 特異的結合が抗原-抗体結合、金属-His tag結合、グルタチオン-GST結合、官能基間の架橋からなる群から選択される[2]の方法、
[4] 固相が固定化金属アフィニティービーズであり、膜蛋白質がHis-tagとの融合蛋白質である、[3]の方法、
[5] 固定化金属アフィニティービーズの金属がCo2+またはNi2+である、[4]の方法、
[6] 金属がZn2+に置換されている、[5]の方法、
[7] 蛋白質が膜貫通蛋白質である、[1]から[6]のいずれかの方法、
[8] 蛋白質がKcsAである、[7]の方法、
[9] 脂質がPOPEまたはPOPCである[1]から[8]のいずれかの方法、
[10] さらに、膜蛋白質を固定化後に界面活性剤を除去する工程を含む[1]の方法、
[11] 界面活性剤の除去が、透析により行われる[10]の方法、
[12] [1]から[11]のいずれかの方法により製造される、膜蛋白質が脂質二重膜中に安定に再構成された状態で、かつ配向制御されて固定化された固相であって、該膜蛋白質が活性を保持している、膜蛋白質再構成固相、
[13] 固相がビーズである、[12]の膜蛋白質再構成固相、
[14] [12]または[13]の、膜蛋白質が脂質二重膜中に安定に再構成された固相を用いて、固定化された膜蛋白質と該膜蛋白質のリガンドとの相互作用を解析する方法、
[15] 固定化された膜蛋白質と該膜蛋白質のリガンドとの相互作用の解析がNMRを用いて行われる[14]の方法、
[16] 固定化された膜蛋白質と該膜蛋白質のリガンドとの相互作用の解析が転移交差飽和(TCS)法により行われる、[15]の方法、ならびに
[17] 膜蛋白質がKcsAであり、リガンドがAgTx2である、[14]から[16]のいずれかの方法。
本発明の方法によると、膜蛋白質が天然状態と同様に脂質二重膜中に再構成された状態で固定化されるため、従来法である界面活性剤への可溶化に比べて、より多様な膜蛋白質を、脂質二重膜中でより安定に保持することができる。また、この手法とTCS法を組み合わせて用いることで、膜蛋白質に対するリガンド分子上の相互作用面を同定することが可能であり生命現象の理解やstructure based drug designに対する貢献が期待される。
1.固相を用いた膜蛋白質の安定化
本発明は、膜蛋白質をビーズ等の固相に固定化し安定化させる方法である。本発明が対象とする膜蛋白質は生体膜を構成している蛋白質であり、生体膜(脂質二重膜)の表面に付着している膜表在性蛋白質、膜内部に埋もれている膜内在性蛋白質、膜を貫通している膜貫通蛋白質が含まれ、受容体、輸送体、ポンプ蛋白質、イオンチャンネル、膜酵素等の特異的な反応を行う蛋白質、膜の構造の維持、膜の運動等を行う蛋白質のいずれをも含む。その中でも、膜を貫通し、受容体として細胞外からのシグナルを細胞内に伝達する蛋白質が好ましく、これらの受容体蛋白質とリガンドあるいは細胞内シグナル伝達因子との相互作用の解析を可能にし、ひいては受容体のアゴニストまたはアンタゴニストのスクリーニングを可能にする。本発明の方法によれば、単離した膜蛋白質を天然状態で脂質二重膜表面または脂質二重膜中に存在している状態と同様な状態で、安定に保持することが可能である。単離した膜蛋白質をこのように天然状態と同様に、脂質二重膜表面または脂質二重膜中に存在させることを、膜蛋白質を再構成させる、あるいは膜蛋白質を脂質二重膜中に再構成させる、という。これらの膜蛋白質は、天然のものを公知の方法により単離精製して用いることもできるし、また遺伝子工学の手法を用いてリコンビナントの膜蛋白質を製造して用いることもできる。
本発明の方法により、単離した膜蛋白質は固相に固定化され、かつ蛋白質の近傍に脂質二重膜が形成し、膜蛋白質は天然状態と同様の状態で脂質二重膜中に再構成され、安定に保持することができる。
膜蛋白質を固定化する固相は、特定のものに限定されず、蛋白質が直接吸着し、あるいは適当な特異的結合あるいはリンカーを介して結合し得る固相ならばいずれの固相も用いることができる。固相の素材は一般的に蛋白質の固定化に用いられているものならばいずれも用いることができ、アガロース、多孔性シリカ、ポリスチレン、ラテックス、ポリカーボネート等を用いることができる。固相の形状も限定されず、ビーズ状、プレート状いずれの形状の固相も用いることができる。
固相に膜蛋白質を特異的結合あるいはリンカーを介して固定化するときは、固定化の方向を制御して、すなわち膜蛋白質を特定の位置で固定化するのが望ましい。このように膜蛋白質の方向を制御して固定化することを、配向制御しての固定化という。固定化の配向を制御する結果、膜蛋白質の活性を有する部分を同じ方向に制御することができ、発現量が少ない蛋白質であっても100%活性部位を露出させることで、サンプル内の実効的な膜蛋白質濃度を低下させることなくリガンドとの相互作用解析を行うことができる。配向制御しての固定化は、特定の特異的結合あるいはリンカーを介することにより達成することができる。ここで、特異的結合あるいはリンカーを介しての固定化とは、固相に結合した物質と膜蛋白質に結合した物質との特異的結合による固定化、および膜蛋白質が有する特定の基と固相上の特定の基の間の架橋による固定化をいう。例えば、6×HISのようなポリヒスチジンタグを膜蛋白質のN末端またはC末端に、膜蛋白質-His tag融合蛋白質として結合させ、固相にヒスチジンタグと結合し得る金属を結合させておくことにより、膜蛋白質を固相に固定化することができる。あるいは、膜蛋白質をGSTタグ融合蛋白質として製造し、固相にグルタチオンを共有結合により結合させておいてもよい。また、抗原-抗体の特異的結合反応を利用して、膜蛋白質の特定の位置に抗原または抗体を結合させ、固相にそれと特異的に結合し得る抗体または抗原を吸着あるいは結合させておいてもよい。さらに、免疫グロブリンとプロテインAあるいはプロテインGとの結合を利用してもよい。あるいは、固相に固定化しようとする膜蛋白質の特定のエピトープに対する抗体を結合させることによっても、固相に配向制御して膜蛋白質を固定化することができる。さらに、システイン残基を用いたチオールカップリングやアミノ基を用いたアミンカップリングといった共有結合などを利用して固定化することもできる。これらの固定化方法の中でも、膜蛋白質をHis tag融合蛋白質またはGST融合蛋白質として製造し、それぞれ金属またはグルタチオンとの特異的結合を介して固相に固定化するのが望ましい。His tag融合蛋白質の場合は、固相にキレートリガンドを介して金属を結合させればよい。金属を結合させた固相用ビーズとして、市販の固定化金属アフィニティークロマトグラフィー用のもの(固定化金属アフィニティービーズ等)を用いることができ、例えばCo2+を結合させたTALON(商品名) Resin (クローンテック社)、Ni2+を結合させたNi2+-NTA Resin(キアゲン社)等が挙げられる。また、GST融合蛋白質の場合は、グルタチオンを結合させたGlutathione Superflow Resin(クローンテック社)等を用いることができる。
なお、固相に膜蛋白質を固定化し、さらにリガンドと結合させNMRにより膜蛋白質とリガンドとの相互作用界面を解析する場合、市販の固定化金属アフィニティークロマトグラフィー用ビーズに結合しているCo2+、Ni2+などの常磁性金属は、NMRシグナルの測定を困難にし得る。従って、NMRによる解析を利用する場合であって、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー用ビーズを用いる場合は、ビーズに結合したCo2+、Ni2+などの常磁性金属をEDTA等のキレート剤で除去し、Zn2+等の非常磁性金属に置換して用いるのが望ましい。
固相がビーズ状の場合、その粒径は限定されないが、例えば、粒径数十μm〜数mmのビーズを用いればよい。但し、膜蛋白質の固定化量を増大させるためには表面積/体積比の大きい小粒径のビーズが望ましく、粒径数十μm〜数百μmのものが好適に用いられる。
固相への膜蛋白質の固定化量も限定されず、固定化させた膜蛋白質の用途に応じて適宜決定することができる。
固定化された膜蛋白質の量は、例えば固定化した後に、サンプルを一部とり、膜蛋白質を脱固定化した後に、SDS-PAGEやその他の手法で膜蛋白質を測定することによりわかる。
膜蛋白質を固定化した後、膜蛋白質の近傍に脂質二重膜を再構成させる。ここで、膜蛋白質の近傍に脂質二重膜を再構成させるとは、天然状態における膜蛋白質と脂質二重膜との位置的関係を再現することをいい、膜表在性蛋白質の場合は、膜蛋白質が脂質二重膜の表面に存在するように再構成することを、膜内在性蛋白質の場合は、膜蛋白質が脂質二重膜に埋め込まれた状態で再構成することを、膜貫通性蛋白質の場合は、膜蛋白質が脂質二重膜を貫通した状態で再構成することをいう。なお、膜蛋白質を固定化するときに通常膜蛋白質溶液に膜蛋白質を可溶化するために界面活性剤が含まれているため、脂質二重膜を再構成する際には該界面活性剤を除去する必要がある。このため、膜蛋白質溶液を可溶化するための界面活性剤は透析等により容易に除去できるものが望ましい。界面活性剤を除去する方法としては、透析による方法、特定の吸着剤による方法等、公知のいずれの方法も用いることができるが、容易性等の観点から透析による方法が望ましい。透析により除去できる界面活性剤としては、臨界ミセル濃度(CMC)が比較的高い界面活性剤が挙げられる。例えば、臨界ミセル濃度が0.2〜1.6mMであるDDMよりも臨界ミセル濃度が高い界面活性剤が望ましく、また蛋白質への変性作用が小さい界面活性剤が望ましい。このような界面活性剤としてCHAPS(CMC:5〜8mM)、CHAPSO(CMC:8mM)、オクチルグルコシド(CMC:25mM)、コール酸ナトリウム(CMC:13〜15mM)、デオキシコール酸ナトリウム(CMC:4〜6mM)、 Lauryldimethylamine oxide (CMC: 2 mM)等が例示できる。界面活性剤の除去効率は、共存するイオンの影響も受けるので、膜蛋白質を可溶化するための緩衝液の組成に応じて、用いる界面活性剤を適宜選択することができる。
膜蛋白質を固定化した固相に、脂質二重膜を構成し得る脂質を添加し、透析により可溶化に用いた界面活性剤を除去すればよい。界面活性剤を除去するための透析は公知の方法で行うことができ、透析膜の分画分子量(MWCO)も制限されない。また、透析時間は数時間から一晩程度でよい。
脂質二重膜再構成のための脂質としては、リン脂質が用いられるが、その種類は限定されない。但し、脂質を構成する脂肪酸によっては、リガンド分子と脂質が相互作用する場合があるので、リガンド分子が相互作用しないような脂肪酸を含む脂質を選択する。例えば、酸性脂質と相互作用し得る膜蛋白質を用いる場合には、中性脂質を用いればよい。リン脂質は疎水性(非極性)の脂肪酸と極性の塩基部分を含むが、塩基部分としてコリン、エタノールアミン、セリン(リン脂質としては、それぞれホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン)が挙げられる。また、再構成された脂質二重膜が膜蛋白質を包み込むためには、脂質の疎水基(非極性部分)である脂肪酸の炭素鎖長が適切である必要がある。疎水基として、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸等が挙げられるが、これらに限定はされず生体膜を構成するリン脂質に含まれ得る脂肪酸ならばいずれの脂肪酸も用いることができる。さらに、脂肪酸の代わりにセラミドを含むスフィンゴミエリンも用い得る。これらの塩基、脂肪酸は1種類に限定されず、種々のリン脂質が混在していてもよい。また、脂質二重膜の流動性を調節するためにコレステロールが含まれていてもよい。
脂質二重膜再構成のために添加する脂質の量も限定されないが、膜蛋白質を固定化した固相表面全体にわたって脂質二重膜が再構成されるような量を添加するのが望ましい。実際には、脂質が単独では固相に吸着しないこと、および膜蛋白質と脂質との相互作用が存在し得ることから、固相表面全体にわたって脂質二重膜を形成させるのは難しく、少なくとも固相に固定化した膜蛋白質近傍に脂質二重膜が再構成されるような量を添加すればよい。脂質が再構成された後に、固相上にどの程度脂質二重膜が再構成されているかは、例えばN2ガス吸着多点BET法により測定した固相の比表面積および固定化脂質量から、多重度を算出することによりわかる。
脂質二重膜が再構成された固相上に固定化された膜蛋白質が活性を有しているかは種々の方法で調べることができる。例えば、膜蛋白質が受容体である場合は、そのリガンドとの結合活性を調べればよく、ビーズ上の膜蛋白質へリガンドを結合させた後に、解離溶出し、溶出したリガンドを適切な方法により定量すればよい。また、膜蛋白質が酵素の場合は、適切な方法で固相上の酵素の活性を直接測定すればよい。
2.膜蛋白質を固定化した固相の利用(固相に固定化された膜蛋白質の利用)
上記方法により作製した膜蛋白質が脂質二重膜存在下で安定に固定化された固相を用いて膜蛋白質とそのリガンドとの相互作用を解析することができる。相互作用の解析は、転移交差飽和(TCS: transferred cross-saturation)法により行うことができる。TCS法の概念を図18に示す。TCS法は、特開2002-31610号公報の記載に従って行うことができるがその概要は以下の通りである。
リガンドを均一に2H,15Nで標識し、固相に固定化した膜蛋白質に対して過剰量(例えば、モル比で5〜10倍程度)添加してNMRサンプルとし、該サンプルの脂肪族領域を選択的にラジオ波照射することにより、2H,15N標識したリガンド分子は脂肪族プロトンを有していないためにラジオ波の影響を直接受けることはなく、固相に固定化した膜蛋白質のプロトンのみがラジオ波により選択的かつ均一に飽和される。この飽和がスピン拡散現象により、さらに膜蛋白質と相互作用して結合したリガンド分子(上記2H,15N標識をした蛋白質)の相互作用界面近傍のプロトンにも伝播され、界面上のプロトンに飽和が転移される。そして、この転移された飽和の影響は、NMRシグナル強度として観測することができる。すなわち、選択的飽和を行ったときと行わないときで化学シフト相関(HSQC)スペクトル上に出現するNMRシグナル(以下HSQCシグナルと呼ぶ)の強度比を見積もることにより、結合界面に存在する、すなわち上記相互作用に関与する残基を特定することができる。
尚、ここでアミド水素の観測によるのではなく、別のプロトンを観測することによっても界面残基の同定が可能である。複合体を構成する複数の生体分子のうち、一の生体分子のメチル基水素を除く水素を重水素に置換した後、交差飽和現象により、これに隣接する他の生体分子に含まれる水素から10Å以内に存在する当該一の生体分子中に含まれ、交差飽和を受けるメチル基水素の位置を特定することを特徴とする生体分子複合体の界面残基を同定する方法、および、交差飽和現象がメチル基水素以外の水素に対して選択的にパルスを与える方法によるものであるようなメチル位置特定による界面残基同定法(メチル基位置特定による界面残基同定法)を用いても良い。この「メチル基位置特定による界面残基同定法」によれば、アミノ酸側鎖のメチル基において交差飽和現象(Cross saturation phenomena)を利用し蛋白質や核酸などの生体分子が複数結合して構成した複合体の界面残基を同定することにより相互作用界面を従来法に比較してより高感度かつ高効率に決定することができる。
本発明の方法により、対象とする蛋白質間相互作用の結合特性を変化(阻害または増進)させ得る化合物のスクリーニングを実施することができる。かかる化合物は、対象とする蛋白質間相互作用が関連する疾患に対する治療薬または予防薬の候補となり得る。
このような化合物のスクリーニングは、上記相互作用を検出するための反応条件に候補化合物を適切な濃度で添加して、相互作用に対する影響を調べることを含む。
該スクリーニングに用いる際の候補化合物の適切な濃度は、当業者が設定可能であるが、通常は約10mM以下、好ましくは1mM以下が適切である。化合物を加えない場合と、化合物を加えた場合との相互作用界面情報を比較して、相互作用界面のシグナル(飽和度)に差異が認められるか否かを判定し、差異が認められる場合、該化合物が相互作用に影響を与えると判断することができる。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
〔方法及び材料〕
1. 実験に用いた試薬
99.9% 15NH4Cl、 99.8%D2O、 97% ul- 2H glucoseはISOTECより購入した。2H, 15N-CeltonはICON Isotopeより購入した。他の試薬は和光純薬およびナカライテスクより購入した。
Ni-NTA superflowおよびNi-NTA spin ColumnはQIAGENより、Co-TALONはBD Biosciencesより、C18-Sep pak plusはWatersより購入した。PD-10, SP-SepharoseはPharmaciaより購入した。
Palmitoyl Oleoyl Phosphoethanolamine (POPE), Palmitoyl Oleoyl Phosphocholine (POPC), Rhodamine-Dioleoyl Phosphoethanolamine (Rho‐DOPE)はAvanti polar lipidsより購入した。
透析膜 (MWCO 3500) はSpectraより購入した。
2. AgTx2の発現
すべてのAgTx2は10×His-tagged Ubiquitin-AgTx2 fusion protein(Ubi-AgTx2)として発現を行った。
2-1 LB培地を用いたAgTx2の発現
安定同位体標識を必要としない実験については、LB培地を用いてAgTx2を発現した。Ubi-AgTx2を発現するpET系ベクターを組み込んだ大腸菌C41(DE3)のGlycerol stock約5μlをカナマイシン(Kan)40μg/mlを含むLB培地5mlで37℃、14時間培養を行いprecultureとした。このprecultureを200倍量のLB培地(40μg/ml Kan)に対して希釈し、maincultureとした。Maincultureは37℃で培養を行い、OD600=0.7の時点でIPTG 1mMを加え、さらに5時間37℃で培養を継続して蛋白質の発現を誘導した。培養終了時のOD600は3.0前後であった。
LB培地は1Lあたりtryptone peptone 10g, Yeast extract 5g, NaCl 5g, 40μg/ml Kanを含んでいる。
2-2 M9最小培地を用いたAgTx2の発現
15N均一標識AgTx2を必要とする実験においては、M9最小培地を用いて培養を行った。PrecultureについてはLB培地を用いた培養と同様にして行った。得られたprecultureを200倍量のM9最小培地(40μg/ml Kan)に対して希釈してmaincultureとした。Maincultureは37℃で培養し、OD600=0.5の時点でIPTG 1 mMを加え、さらに5時間37℃で培養を継続して蛋白質の発現を誘導した。培養終了時のOD600は1.0前後であった。
M9最小培地は1LあたりNa2HPO4・12H2O 12.9g, KH2PO4 3.0g, NaCl 0.5g, NH4Cl 1.0g, Glucose 4.0g, MgSO4 2mM, CaCl2 0.1mM, 40 μg/ml Kanを含み、NaOHを用いてpH7.4-7.5としてある。15N均一標識AgTx2を作製する場合においては、NH4Clの代わりに99.8% 15NH4Clを用いた。
2-3 重水素化M9最小培地およびD化Celtonを添加した培地を用いたAgTx2の発現
2H, 15N均一標識AgTx2を必要とする実験においては重水素化M9最小培地、あるいは重水素化Celtonを添加した重水素化M9培地を用いて培養を行った。Ubi-AgTx2を発現するpET系ベクターを組み込んだ大腸菌C41(DE3)のGlycerol stock約5μlを40μg/ml Kanを含む90%D2O/10% H2O LB培地5mlで37℃, 14時間培養後、得られた菌液1ml分を4000gで5分遠心して集菌し、99.8%D2O LB培地10mlに10倍希釈し、37℃、 10時間培養を行った。得られた菌液を3000rpmで10分遠心し、99.8% D2O M9最小培地100mlに10倍希釈して37℃、24時間培養を続けた。最後に、99.8% D2O M9最小培地によるprecultureを4000gで5分遠心し、99.8% D2O M9最小培地のmaincultureに対して10倍希釈により加え37℃で培養を行い、OD600=0.5の時点でIPTG 1 mMを加え、さらに18時間37℃で培養を継続して蛋白質の発現を誘導した。培養終了時のOD600は0.8-1.2であった。また、maincultureとして重水素化Celtonを添加した99.8% D2O M9培地を用いた場合、OD600=1.0の時点でIPTG 1mMを加え、さらに7時間37℃で培養を継続して蛋白質の発現を誘導した。培養終了時のOD600は1.9であった。
99.8% D2O M9最小培地は99.8% D2Oを用いており、1LあたりNa2HPO4・12H2O 12.9g, KH2PO4 3.0g, NaCl 0.5g, 15NH4Cl 1.0g, ul-2H Glucose 4.0g, MgSO4 2mM, FeCl3 1μM, Thiamine 5mg, Biotin 1mg/ml, ZnSO4・7H2O 50μM, CaCl2 0.1mM, Cholin・Cl 1mg, Folic Acid 1mg, Niacinamid 1mg, Riboflavin 0.1mg, 30μg/ml Kanを含み、NaOHを用いてpH7.4-7.5としてある。
重水素化Celtonを添加した99.8% D2O M9培地は、ul-2H Glucose 2.0gに変更し、ul-2H, 15N Celton 1gを加えた他は前述の99.8% D2O M9最小培地と同じである。
3. AgTx2の精製
3-1 decahistidine-tagged Ubiquitin-AgTx2 fusion(Ubi-AgTx2)の精製
Ubi-AgTx2の精製はすべて4℃で行った。培養終了後の培養液を、6000rpmで5分遠心を行い菌体を回収した。集めた菌体1L培養分に対してTris-HCl 50mM, NaCl 300mM, 2-Mercaptoethanol(2-ME)10mM, Imidazole 20mM, pH8.0(A buffer)30mLを加え懸濁した。この菌体懸濁液に対しPhenyl methyl sulfonyl fluoride (PMSF) 10mgを加えた後、Branson Sonifer450で0.5sec, power 3の間欠超音波パルスを10分間与え菌体を破砕した。菌体破砕液は14000g、30分の遠心分離により、上清成分と不溶性顆粒画分に分離した。軽水中で培養したAgTx2は上清画分を精製に用いた。重水中で培養したAgTx2は上清画分と不溶性顆粒画分の両方を精製に用いた。
3-1-1 上清成分からの精製
上清成分を、あらかじめA bufferで平衡化しておいたベットボリューム2mLのNi-NTA superflowカラムにアプライし自然落下させることにより、Ubiquitin N末端にある10×His-tagを用いてNi-NTA superflowに吸着させた。その後、40mLのA bufferで夾雑蛋白質を除き、Tris-HCl 50mM, NaCl 300mM, 2-Mercaptoethanol(2-ME)10mM, Imidazole 400mM, pH7.5(B buffer)35mLでUbi-AgTx2を溶出した。
3-1-2 不溶性顆粒画分からの精製
不溶性顆粒画分にTris-HCl 50mM, NaCl 300mM, 2-Mercaptoethanol(2-ME)10mM, Imidazole 10mM, Guanidine・HCl 6M, pH8.0 (B buffer) 30mLを加え、Branson Sonifer450で0.5sec, power 3の間欠超音波パルスを与えて懸濁した。得られた懸濁液を室温で24時間スターラーを用いて攪拌した後、14000rpm、30分遠心分離した。遠心上清を、あらかじめTris・HCl 50mM, NaCl 300mM, 2-Mercaptoethanol(2-ME)10mM, Imidazole 10mM, Guanidine・HCl 6M, pH8.0 (C buffer)で平衡化しておいたベットボリューム5mLのNi-NTA superflowカラムにアプライし自然落下させることにより、Ubiquitin N末端にある10×His-tagを用いてNi-NTA superflowに吸着させた。重量をそろえたC buffer 30mLとA buffer 35mLを用いて、C bufferからA bufferへの線形グラジエントによりGuanidine濃度を減少させ、カラム上で変性AgTx2の巻き戻しを行った。さらにA buffer 10mLで残留するGuanidineを除去した後、B buffer 35mLでUbi-AgTx2を溶出した。Ubi-AgTx2の精製はSDS-PAGEにより確認した。
3-2 AgTx2の精製
精製されたUbi-AgTx2 1mgに対しyeast ubiquitin hydrorase (YUH) 2mgを加える(S/E比=1/1)ことでUbiquitinからのAgTx2の切り出しを行った。反応はNi-NTA溶出画分35mLに対してGlycerol 3.5mL, DTT 10mM, YUH 2mg, PMSF 10mgを加え、37℃で2時間切断反応を行った。この時点でAgTx2はcystein残基がすべて還元された直鎖状態であり、これをlinear AgTx2と呼ぶことにする。linear AgTx2の粗精製はC18-sep-pak plusカートリッジカラムを用いて行った。YUH切断反応後の反応液をあらかじめ10%CH3CN, 0.1% TFA溶液で平衡化したC18-sep-pak plusにアプライした後、10%、20%、33%、40%、66% CH3CN, 0.1% TFA溶液で階段状のCH3CNグラジエントにより溶出した。10%、20%、40%、66% CH3CNは各3ml、33% CH3CNは6mLを用いて溶出した。素通りしたYUH反応液は再びC18-sep-pak plusカラムにアプライし、同様の操作を計3回繰り返すことでlinear AgTx2を完全に回収した。linear AgTx2は20%、33%、40% CH3CNにおいて溶出することから、これらの画分を凍結乾燥した。
linear AgTx2の最終精製は逆相HPLC(Shimadzu shim-pak ODS-Aカラム)を用いることにより行った。流速5ml/minで行い、検出には230nmの吸光を用いた。逆相A bufferを10%CH3CN, 0.1% TFA溶液、逆相B bufferを100%CH3CN, 0.1% TFA溶液として、逆相B bufferの濃度を0%から45%まで30分かけて上昇させることによりグラジエント溶出を行った。粗精製linear AgTx2は凍結乾燥したものを逆相A bufferに溶かした後、あらかじめ逆相A bufferで平衡化したカラムにアプライした。linear AgTx2はグラジエント開始から26分、CH3CN濃度26%で溶出する。得られたlinear AgTx2は凍結乾燥して次の操作に用いた。
精製されたlinear AgTx2は空気酸化によりジスルフィド結合を形成させる環化反応を行った。YUH切断反応時まで加えられていたDTT, 2-ME等の還元剤は、逆相精製においては完全に除くことができないため、これらが酸化反応であるジスルフィド結合の形成を阻害することが考えられた。そこで脱塩カラムPD-10により還元剤の除去を行った。凍結乾燥した精製済みlinear AgTx2を1mLの30% AcOHに溶解した後、同じく30% AcOHで平衡化したPD-10にアプライして1mLずつフラクションを集めた。linear AgTx2は3-6フラクションめに得られた。脱塩を行ったlinear AgTx2を10μg/mlとなるようにミリQ水に希釈し、AgTx2:GSH:GSSGのモル比を1:100:10としたpH7.8の環化反応液中で24時間室温にて緩やかに攪拌することにより空気酸化を行った。なお、pH調整はNH3水を用いて行った。反応液はHClでpHを3.5に下げることにより反応を停止した後、凍結乾燥を行った。以上の反応によりジスルフィド結合が正しく形成されたものをcyclic AgTx2と呼ぶことにする。cyclic AgTx2は凍結乾燥したものを逆相A bufferに1% AcOHを添加した酸性溶液に溶かし、linear AgTx2と同様の条件で逆相HPLCにより精製した。cyclic AgTx2はグラジエント開始から22分、CH3CN濃度21%でシングルピークとして溶出する。得られたcyclic AgTx2は凍結乾燥後、-20℃で保存した。AgTx2の定量は、逆相HPLCにおける230nmの吸光ピーク面積を濃度既知のAgTx2溶液と比較することにより行った。
4. KcsAの発現
KcsAはLB培地により発現を行った。KcsAを発現するpET系ベクターを組み込んだ大腸菌C41(DE3)のGlycerol stock約5μlをカナマイシン(Kan)40μg/mlを含むLB培地5mlで37℃, 12時間培養を行いprecultureとした。このprecultureを200倍量のLB培地(40μg/ml Kan) に対して希釈し、maincultureとした。Maincultureは37℃で培養を行い、OD600=0.6の時点でIPTG 1mMを加え、さらに6時間37℃で培養を継続して蛋白質の発現を誘導した。培養終了時のOD600は1.3-1.6であった。
LB培地は1Lあたりtryptone peptone 10g, Yeast extract 5g, NaCl 5g, 40μg/ml Kanを含んでいる。
5. KcsAの精製
KcsAの精製は、界面活性剤への可溶化以外の操作は全て4℃で行った。培養終了後の培養液を、6000rpmで5分遠心を行い菌体を回収した。集めた菌体500mL培養分に対してTris-HCl 20mM, KCl 150mM, Imidazole 20mM, pH8.0(D buffer)30mLを加え懸濁した。この菌体懸濁液に対しlysozyme 10μg/ml, Pefa Bloc 0.1mg/mlを加え、氷上にて1時間放置した後、Branson Sonifer450で0.5sec, power 3の間欠超音波パルスを12分間与え菌体を破砕した。得られた菌体破砕液にn-dodecyl-β-D-maltoside (DDM) 20mM, Pefa Bloc 0.1mg/mlを加え一時間室温にて攪拌し可溶化を行った後、15000g, 20分の遠心分離により上清成分と不溶性顆粒画分に分離した。以下、上清成分を精製に用いた。
上清成分を、あらかじめDDM 5mMを添加したD bufferで平衡化しておいたベットボリューム5mLのNi-NTA superflowカラムに、流速2mL/minでアプライすることによりN末端にある10×His-tagを用いてNi-NTA superflowに吸着させた。以下の操作も全て流速2mL/minで行った。40mLのDDM 5mMを添加したD bufferで夾雑蛋白質を除いた後、DDM 1mMを添加したD bufferからTris-HCl 20mM, KCl 150mM, Imidazole 600mM, DDM 1mM, pH7.5(E buffer)への線形グラジエント70mLによりKcsAを溶出させ、さらに15mLのE bufferにてKcsAを完全に溶出させた。各フラクションにおけるKcsAの存在はSDS-PAGEにより確認した。また、精製したKcsAはUltrospec 2100 pro(Pharmacia)により定量した。KcsAの配列中に含まれる芳香族アミノ酸残基に由来する280nmの紫外吸光度が、KcsA濃度1mg/mlのとき1.97であることを用いて算出した。buffer中のimidazoleに由来する紫外吸収は、imidazole濃度のグラジエントに伴い線形に上昇するとして算出した値を吸光実測値から差し引いた。
KcsAを含むフラクションはMWC 50000のセントリプレップを用いて濃縮すると同時に、使用目的に応じた適切なbufferへの交換を行った。
6. SPR法を用いたKcsA-AgTx2間の結合解析
SPRの測定はBIACORE 2000を用いて行った。Tris-HCl 50mM, NaCl 100mM, KCl 50mM, EDTA 50μM, DDM 0.1%, NaN30.05%, pH8.0をrunning bufferとして25℃で測定を行った。センサーチップNTAに固定化したKcsAに対し、アナライトとしてAgTx2を流して結合定数を算出した。
センサーチップNTAへのKcsAの固定化は以下の手順で行った。まず0.3M EDTAによるセンサーチップの洗浄を行った後、running bufferにNiSO4500μMを添加した溶液を流速20μL/minで1min流しNi2+をチャージした。次に、running bufferにbuffer交換した400nMのKcsA溶液を流速20μL/minで4.5min流して4000RUを固定化し、RU値が安定するまで1時間程度running bufferを流しておいた。最終的な固定化量は3000RU前後であった。
KcsAとAgTx2の相互作用測定は、AgTx2に対し高親和性を示すKcsAミュータントR64Dを用いて次のようにして行った。KcsA_R64Dを固定化したフローセルに対して0.063μM-1.0μMのAgTx2溶液,2倍希釈系列をアナライトとして流速50μL/minで1.5min流して結合過程のセンサーグラムを得た。その後、引き続きrunning bufferを流速50μL/minで5min流し解離過程のセンサーグラムを得た。最後に、1M NaClを含むbufferを流速50μL/minで1min流しKcsAに結合したAgTx2を完全に解離した。各センサーグラムから、Ni2+のみを固定化した対象セルのセンサーグラムおよびAgTx2のかわりにrunning bufferを流したセンサーグラムを差し引くことで、AgTx2のKcsA_R64Dに対する特異的結合のみに由来するセンサーグラムを得た。結合定数の算出にはBia evaluation 2.1を用いた。差し引き後のセンサーグラムに対し、1:1 langmuir binding with drifting baselineモデルを用いたフィッティングを行い、結合定数を算出した。なお最大結合量Rmaxは測定ごとに異なると仮定した。
7. KcsAのビーズへの固定化
7-1 Znキレーティングビーズの作製
条件検討に用いた各種ビーズは、EDTA 0.3M, pH8.0をベットボリュームの10倍量, 2回流してピペッティングすることにより、キレート金属を完全に除去した。次にMilliQにより十分洗浄することでEDTAを希釈して除いた後、ZnSO40.1Mを用いてZn2+を再チャージした。作製したZn affinity beadsはベットボリュームの2倍量のMilliQで洗浄し、続けてベットボリュームの2倍量のNaCl 300mMを流した後、最後にベットボリュームの5倍量のMilliQで洗浄して4℃にて保存した。
7-2 KcsAの固定化
精製したKcsA Ni-NTA fractionをTris-HCl 20mM, KCl 150mM, DDM 0.5mM, pH8.0にbuffer交換し、濃縮した後、前項で作成した各種Zn2+affinity beadsに対してアプライし、KcsAをビーズに固定化した。固定化量は、ビーズにアプライする前のKcsA溶液の吸光度と素通ったKcsA溶液の280nmにおける吸光度の差を用いて算出した。固定化されたKcsAは、Tris-HCl 20mM, KCl 150mM, Imidazole 600mM, DDM 0.5mM, pH7.5の溶出bufferにより溶出させ、SDS-PAGEにより確認した。
8. KcsA固定化ビーズへの脂質二重膜再構成実験
8-1 脂質の準備
用いる脂質は全て、クロロホルム溶液である。あらかじめクロロホルムで洗浄したガラス試験管に必要量のPOPEまたはPOPCを計りとった後、Rhodamine標識したDOPEを0.2%添加し、窒素気流下でクロロホルムを気化し乾燥させた。さらに真空ホンプで3時間以上乾燥させて作製したlipid filmを以下の脂質二重膜再構成実験に用いた。なお、蛍光の減弱を避けるため、全ての操作はアルミホイルによる遮光のもとで行った。
作製したlipid filmにTris-HCl 20mM, KCl 150mM, CHAPS 5mM, pH8.0を加えて目的の脂質濃度とし、vortexにより懸濁した。37℃の湯浴を用いつつ、Tris-HCl 20mM, KCl 150mM, CHAPS 400mM, pH8.0を加えて脂質を可溶化した。各濃度の脂質溶液中におけるCHAPS終濃度を以下に列挙する。POPEを用いた場合、1mg/mlで16.5mM, 2mg/mlで33mM, 4mg/mlで47mMであった。POPCを用いた場合、4mg/mlで32mM, 10mg/mlで65mM, 16mg/mlで93mMであった。脂質の酸化を防ぐため、lipid filmの懸濁、可溶化は使用する直前に行った。
8-2 脂質二重膜の再構成
KcsAを固定化したビーズをベットボリュームの5倍量のTris-HCl 20mM, KCl 150mM, CHAPS 5mM, pH8.0で2回洗いbuffer交換を行った後、前項で作製した脂質懸濁液を添加してピペッティングにより懸濁し、MWCO 3500の透析膜に移した。これをTris-HCl 20mM, KCl 150mM, pH8.0のbuffer 1L中で、室温にて一晩透析することでビーズ上に脂質を再構成した。透析後のサンプルを透析膜から回収し、Tris-HCl 20mM, KCl 150mM, pH8.0のbufferで過剰な脂質を洗うことにより脂質二重膜再構成KcsAビーズを完成させた。
8-3 ビーズ上におけるKcsAの存在確認
作製した脂質二重膜再構成KcsAビーズにTris-HCl 20mM, KCl 150mM, Imidazole 800mM, CHAPS 40mM, pH8.0(solubilizaton buffer)をベットボリュームの10倍量加えてvortexすることにより、ビーズから脂質とKcsAを完全にはがした。脂質膜再構成後のビーズ上にKcsAが存在することは、遠心によりビーズを除去した上清に含まれるKcsAをSDS-PAGEにより確認した。脂質二重膜再構成前のKcsAのみを固定化した状態のビーズに対して同様の操作を行いKcsAを回収したサンプルを、ポジティブコントロールとして用いた。
8-4 ビーズ上における脂質固定化量の定量
作製した脂質二重膜再構成KcsAビーズにsolubilizaton bufferをベットボリュームの10倍量加えてvortexすることにより、ビーズから脂質とKcsAを完全にはがした。遠心によりビーズを除去した上清を一部サンプリングし、適当な溶液で希釈して全量2mLの測定サンプルとした。ポジティブコントロールには、透析による脂質二重膜再構成時に添加した濃度既知の脂質懸濁液をsolubilizaton bufferで1000倍に希釈して用いた。測定サンプルの希釈においては、buffer組成がポジティブコントロールと等しくなるようにした。サンプルおよびポジティブコントロールの蛍光はRF5300PC(Shimadzu)により測定した。測定パラメーターは励起波長550nm,スキャン500-650nm,サンプリング間隔1.0,バンド幅ex:5.0nm, em:10.0nm,スキャン速度Medium,感度Highで行い、586nm前後におけるRhodamineの蛍光強度ピークを測定した。
8-5 ビーズ上における脂質分布の確認
作製した脂質二重膜再構成KcsAビーズ、およびKcsAを固定化せずに同様の脂質再構成操作を行ったビーズをサンプルとした。Olympus CLSMを用いてRhodamine標識したDOPEを直接観察することにより、ビーズ上での脂質の分布を確認した。
9. ビーズに固定化したKcsAの活性確認
ビーズに固定化したKcsAに対してTris-HCl 20mM, KCl 150mM, DDM 0.5%, pH8.0に溶かしたAgTx2溶液を添加して2分程度相互作用させた後、遠心上清である非結合フラクションを除去した。KcsAを固定化したビーズに対して非特異的に結合したAgTx2をバッファーで洗った後、Tris-HCl 5mM, NaCl 10mM, SDS 0.3%, DTT 10mM, pH8.0の溶液を加えて95℃, 2分熱処理したサンプルから遠心によりビーズを除去し、上清としてKcsAから解離したAgTx2を含むサンプルを得た。
逆相HPLCによる検出では、サンプルを0.2μm Acrodisc Syringe Filter(Gelman)に通した後、逆相HPLCにアプライした。SDS-PAGEおよびTricine-PAGEによる検出では、サンプルを遠心エバポレーターにより濃縮してゲルにアプライできる量とした後、電気泳動を行った。
10. NMR測定
10-1 常磁性金属の磁場への影響
常磁性金属を含むサンプルのHSQC測定は、Brucker Avance-500を用いて30℃にて行った。NMRサンプルのbuffer組成はTris-HCl 10mM, KCl 5mM, NaCl 200mM, pH6.0, 90% H2O/10%D2Oで行った。NMRサンプルは、各種ビーズ300μlに前述のNMR buffer 100μlを加えたものを調製し、あらかじめ水に溶かした[ul-15N]AgTx2 250μgを封入して凍結乾燥したミクロセルに充填した。ビーズとしてNi-NTAとCo-TALONを用いた。レファレンスとして[ul-15N]AgTx2 250μgのみをNMR bufferに溶かしたサンプルを用いた。
測定は、ポイント数1 k, 積算回数344, ダミースキャン128, t1インクリメント128で行った。
10-2 脂質二重膜再構成KcsAビーズ‐AgTx2間TCS実験
TCS実験はBrucker Avance-600を用いて30℃にて行った。NMRサンプルのbuffer組成はTris-HCl 10mM, KCl 5mM, NaCl 200mM, pH 6.0, 90%D2O/10%H2Oで行った。NMRサンプルは[non-label]KcsAを4.6mg程度固定化したZn-NTAビーズ300μlに対して前述のNMR buffer 100μlを加えたものを調製し、あらかじめ100%D2O溶液とした[ul-2H, 15N]AgTx2を封入して凍結乾燥したミクロセルに充填した。サンプル内のKcsAとAgTx2はモル比1:4.8程度である。
測定は、各積算ごとのdelayを3秒としたうち、1D-TCSにおいて0.15-1.5秒、2D-TCSにおいて0.3-0.4秒を飽和時間とした。飽和にはwurst proton decouple pulseを用いて0.9ppmを中心として1kHzの照射を行った。1D-TCSはポイント数1k, 積算回数344, ダミースキャン128で測定した。2D-TCSはポイント数1k, 積算回数320-400, ダミースキャン64, t1インクリメント64で測定した。
〔結果〕
1. AgTx2の発現、精製
AgTx2は大腸菌を用いて大量発現を行った。AgTx2はN末端にdecahistidine-tagおよびUbiquitinを付加したUbiqitin fusion protein(Ubi-AgTx2)として発現を行った。Ubi-AgTx2を発現するpET系プラスミドを大腸菌C41(DE3)に導入した。形質転換した大腸菌を37℃で培養し、IPTGで発現誘導を行った。可溶画分に得たAgTx2はN末端のdecahistidine-tagを利用してNi‐NTAカラムを用いて精製を行った。D化M9培地中での培養においては可溶画分における発現量が少なかったことから、不溶性顆粒画分からの精製も行った。得られたUbi-AgTx2に対してyeast ubiquitin hydrorase(YUH)を添加し、37℃で2時間インキュベーションすることによりUbiquitine fusion proteinからAgTx2を切り出した。AgTx2はC18-sep-pak plusカラムおよびODS-A逆相HPLCカラムにより精製を行った(図4a)。この時点においてAgTx2はジスルフィド結合のかかっていないlinear体であるため、次に空気酸化によってジスルフィド結合を形成させるrefolding反応を行った。refolding反応後の反応液をODS-A逆相HPLCカラムにより精製し、単一ピークを得た(図4b)。天然構造を形成したAgTx2はlinear AgTx2よりも保持時間が短いピークとして検出された。得られたAgTx2が天然構造を形成していることは、既に天然構造を取っていることが確認されたAgTx2と同条件での逆相HPLC溶出プロファイルにおいて保持時間が一致することにより確認した。また、精製したAgTx2はレーザーイオン化質量分析装置KOMPACT MALDI IV(Shimadzu/KRATOS)により質量分析を行った。その結果、2H, 15N安定同位体均一標識体において[M+H]=4356であり全長発現が確認された。AgTx2は配列中にトリプトファン残基およびチロシン残基を持たないため、230nmにおける吸光を検出した逆相HPLCのピーク面積から定量を行った。培養1LあたりのAgTx2の収量はM9最小培地で1.6mg、D化M9最小培地で1.1mg、D化M9+D化Celton培地で2.6-2.9mgであった。天然構造へのrefoldingを行ったAgTx2のKcsA結合活性は、表面プラズモン法により確認した。KcsAを固定化したセンサーチップ上にアナライトとしてAgTx2を流した結果、KcsA_R64DとAgTx2の結合定数1.9×106 M‐1を得た。またフィッティングから、KcsAとAgTx2が1:1で特異的に結合していることを確認した(図5)。
2. KcsAの発現、精製
KcsAは大腸菌を用いて大量発現を行った。KcsAはN末端にdecahistidine-tagを付加したKcsAを発現するpET系プラスミドを、大腸菌C41(DE3)に導入した。形質転換した大腸菌を37℃で培養し、IPTGで発現誘導を行った。KcsAはDDMに可溶化し、N末端のdecahistidine-tagを利用してNi‐NTAカラムを用いて精製を行った。得られたKcsAは、配列中に存在する芳香族アミノ酸残基の280nmにおける紫外吸光度を測定することにより定量を行った。培養1LあたりのKcsAの収量はLB培地で5-10mg程度であった。精製したKcsAはSDS-PAGEによりテトラマーを形成していることを確認した(図6)。
3. KcsAの再構成
3-1 ビーズ上へのKcsAの固定化
3-1-1
KcsAの各サブユニットはN末端とC末端を細胞内に向けた2回膜貫通構造をとっている。一方、AgTx2は細胞外からKcsAのポア部分に結合することが明らかとなっている。そこで、AgTx2結合面の反対側に位置するN末端のdecahistidine-tagを利用したaffinity beadsへの固定化を試みた。図7に模式図を示す。適したaffinity beadsとしてCo-TALONやNi-NTAが考えられる。まず、Ni-NTAおよびCo-TALONビーズに対するKcsAの固定化を行った。DDM中に可溶化精製したKcsAをNi-NTAおよびCo-TALONカラムにアプライし、アプライ前のKcsA溶液とカラムを素通った溶液の280 nmにおける紫外吸光度の差から、各ビーズに対するKcsAの固定化量を算出した。その結果、Co-TALONにおいて265μg/100μl beads、Ni-NTAにおいて239μg/100μl beadsの固定化が確認された。これまでの界面活性剤中におけるKcsA-AgTx2相互作用のTCS実験から、NMRサンプル化に必要なKcsA固定化量は500μg/100μl beadsと見積もられた。よってNi-NTAおよびCo-TALONビーズを用いて、TCS実験に必要な最低限度のKcsA固定化量が達成された。しかし、NMRサンプル内における常磁性金属の存在はNMRシグナルのシフトや広幅化を引き起こし、解析を困難にすることが予想される。よって、affinity beadsにキレートする金属イオンの検討を行った。
3-1-2 金属イオンの検討
常磁性金属がNMRシグナルに与える影響を明らかにするため、常磁性金属を含む各ビーズと15Nで均一標識したAgTx2を共存させたNMRサンプルを作製し、1H-15N HSQCスペクトルを測定した。その結果、Co-TALONを含むサンプルを用いた場合、AgTx2のシグナルは全く観測されなかった(図8b)。一方、Ni-NTAを含むサンプルを用いた場合、AgTx2は十分なシグナル強度で観測された。しかし、一部の残基でシグナルのシフトが観測され、さらに全てのシグナルで線幅が顕著にブロードになった。(図8c)以上より、Ni2+やCo2+といった常磁性金属の存在がNMRシグナルの測定を困難にすることが明らかとなった。そこで、affinity beadsにキレートする金属をEDTAで除去した後、Ni2+やCo2+と同様に六配位金属であるが非常磁性であるZn2+に置換して用いることとした。
3-1-3 Zn affinity beadsにおけるKcsA固定化量の検討
Zn-TALONおよび Zn-NTAビーズにKcsAを固定化し、前述と同様にして紫外吸光による固定化量の算出を行った。その結果、Zn-TALONにおいて118μg/100μl beads 、Zn-NTAにおいて400μg/100μl beadsのKcsAが固定化された。Zn-TALONに対するKcsA固定化量はTCS実験に用いるには不足した。Zn‐TALONにおいてKcsA固定化量が少なかった原因としては、TALONレジンが構造上Co2+のキレートに最適化されており、Zn2+に対するキレート能力が低いことが考えられる。一方、Zn-NTAにおいてはTCS実験に必要なKcsA固定化量が達成されたため、以下の実験にはaffinity beadsとしてZn-NTAビーズを用いることとした。なお、各ビーズ上にKcsAがテトラマーとして固定化されたことを高濃度imidazole溶液により固定化KcsAを溶出した後、SDS-PAGEにより確認した(図9)。
3-1-4 ビーズ粒径の検討
Zn-NTAにおいてTCS実験に用いることができるKcsA固定化量が達成されたが、さらに固定化量を増強しサンプル内のKcsA濃度を高めることがTCS実験において有利であると考えられる。固定化量の増強には表面積/体積比の大きい、粒径の小さなビーズが望ましい。使用可能なNTAレジンとして、アガロースを支持体とするものと多孔性シリカを支持体とするものが考えられる。例えば、アガロースを支持体とするNi-NTA superflowは粒径が60-160μmであり、多孔性シリカを支持体とするNi-NTA Spin Columnは粒径が16-24μmである。よって以下の実験では粒径のより小さなNi-NTA Spin ColumnをZn-NTAに置換して用いることとした。Zn-NTA Spin Columnを用いて、1.2mg/100μl beadsのKcsA固定化に成功した。
3-2 ビーズ固定化KcsAへの脂質二重膜再構成
3-2-1
KcsAを固定化したビーズに脂質懸濁液を添加し、透析により界面活性剤を除去すると同時にビーズ上へ脂質二重膜を再構成することを試みた。図10に模式図を示す。この手法において、透析による界面活性剤の除去が成功の可否を左右すると考えられる。KcsAの精製には界面活性剤としてDDMを用いていた。しかし、DDMの臨界ミセル濃度(CMC)は0.2-1.6mMと比較的低い。ミセルを形成した界面活性剤は分子量が大きくなり透析膜を通過できないことから、DDMでは界面活性剤が十分に除去できないために脂質二重膜が形成されにくいと予想された。そこで、CMCがDDMより高く、透析による除去において有利であると考えられるCHAPS(CMC:5-8mM)を用いることとした。具体的には、CHAPSを含むbufferに交換したKcsA固定化ビーズに対して、CHAPSに可溶化した脂質懸濁液を添加した。また、ビーズ上に固定化された脂質の定量は、Rhodamine標識したDioleoyl Phosphoethanolamine(DOPE)の蛍光強度を測定することにより行った。しかし、ビーズ上で直接蛍光強度を測定することは困難である。よって、透析により脂質二重膜を再構成したビーズに対してimidazoleおよびCHAPSを高濃度に含むbufferを加え、KcsAと脂質を同時に溶出させた。溶出液におけるRhodamineの蛍光強度を測定することによりビーズ上に固定化された脂質の定量を行った。
3-2-2 脂質の検討
用いる脂質としては、大腸菌膜画分リポソームを用いた実験の結果から酸性脂質とAgTx2との相互作用が示唆されたため酸性脂質を避けることとした。また、膜蛋白質が脂質二重膜に埋め込まれるためには適切な長さの脂肪酸を疎水基として有する脂質を用いる必要がある。以上を考慮して、中性脂質であるPalmitoyl Oleoyl Phosphoethanolamine(POPE)およびPalmitoyl Oleoyl Phosphocholine(POPC)を選択した。脂質を取り扱う際には、クロロホルムに溶解した脂質を用いて作製したlipid filmをbufferに懸濁することが必要である。脂質の懸濁は相転移温度(Tm)以上の温度において可能となり、各脂質のTmはPOPEにおいて25℃、POPCにおいて‐2℃である。このことから、実験上の取扱いが容易であると考えられるPOPCを使用することとした。
3-2-3 透析時間および透析膜の検討
KcsAを固定化したビーズにPOPC懸濁液を添加し、MWCO 3500の透析膜中で一晩、室温にて透析したサンプルの蛍光強度を測定した結果、ビーズ上への脂質の固定化が確認された。そこで次に、MWCOのより大きな透析膜を用いることによる界面活性剤除去効率の向上により、ビーズ上への脂質固定化量が増大するかどうかを検討した。その結果、透析膜の界面活性剤除去効率の違いによる脂質固定化量の増大は見られなかった。また、MWCO 14000のマイクロダイアライザーを用いて室温で一晩透析した場合と、さらに5時間程度透析を続けた場合における脂質固定化量を比較した。その結果、透析時間の延長による脂質固定化量の増大はほとんど見られなかった(図11)。以上より、脂質二重膜の形成はMWCO 3500の透析膜を用いた一晩の透析で十分であると判断した。
3-2-4 添加する脂質量および濃度の検討
KcsAを338μg/100μl beads 固定化したビーズ40μlに対して添加する脂質量および濃度の検討を行った。脂質濃度、添加する脂質量の異なる各条件において脂質固定化量を検討したところ、ビーズ上への脂質固定化量は脂質濃度に依存せず、添加する脂質量の増加に伴うビーズ上への脂質固定化量の増加には限界が存在することを示す結果を得た(図12)。
脂質の再構成においては、KcsAを固定化したビーズの粒子全体にわたって均一に脂質二重膜が形成されることが望ましい。作製したサンプルにおいて、実際にビーズがどの程度脂質で覆われているのかを調べるため、N2ガス吸着多点BET法により測定したビーズの比表面積を用いて、脂質固定化量からビーズ上における脂質の多重度を算出することとした。ビーズの比表面積が43.61m2/g、ビーズの重量が0.307mg/μl、脂質固定化量が222-284μg/40μl beadsであったこと、脂質二重膜中において脂質1分子の占める面積が60Å2である(Wiener MC, White SH (1992) Structure of a fluid dioleoylphosphatidylcholine bilayer determined by joint refinement of x-ray and neutron diffraction data. III. Complete structure. Biophys. J., 61, 437-447)ことから、図12の各条件における脂質の多重度は0.2-0.3と算出された。この結果、ビーズ全体にわたる脂質二重膜の形成は達成されていないことが分かった。
3-2-5 ビーズ上におけるKcsA固定化量と脂質固定化量の検討
前項で脂質を再構成したビーズ上における脂質の多重度を算出した。その結果、ビーズ表面が全て脂質で覆われた状態でないにも関わらず、KcsAを固定化したビーズへの脂質固定化量に限界が存在することが示された。このことは、脂質が単独ではビーズに吸着しないこと、また他の何らかの要因で脂質の固定化量が制限されていることを示す。そこで、脂質とKcsAとの相互作用が再構成される脂質量を制限する要因と考え、ビーズ上へのKcsAの固定化量を増大することにより脂質固定化量が増大するかどうかに関して検討を行った。結果を図13にグラフで示す。KcsA固定化量に依存して脂質固定化量が増大することが確認され、KcsAを1.2mg/100μl beads固定化した状態における脂質の多重度は0.75と算出された。また、KcsAを固定化しないビーズにおいて脂質がほとんど固定化されなかったことから、ビーズに対する脂質の非特異的吸着はほとんど存在しないことが明らかとなった。これらの結果は、ビーズ全体にわたる脂質二重膜の形成は達成されていないものの、KcsAを中心として脂質二重膜が形成されていることを示唆する。
3-2-6 脂質二重膜再構成KcsAビーズの作製
以上の各実験条件を検討した結果を考慮し、KcsAを1.5mg/100μl beads固定化したビーズに対して、CHAPS 85mMに可溶化した0.2%のRhodamine-DOPEを含む16mg/mlのPOPC懸濁液を、脂質30mg分添加した。これを室温で一晩透析(MWCO 3500)することにより脂質二重膜を再構成した。このとき、ビーズへの脂質固定化量は1.2mg/100μl beadsであり、脂質の多重度は0.5と算出された。なお、脂質二重膜を再構成したビーズ上にKcsAが存在することをSDS-PAGEにより確認した(図14)。
4. 脂質二重膜再構成KcsAビーズの性状解析
4-1 ビーズ上における脂質分布の観察
前節において、N2ガス吸着多点BET法により測定したビーズの比表面積を用いてビーズ上に固定化された脂質の多重度を求めた。その結果、ビーズ表面全体にわたる脂質二重膜の形成は達成されていないことが明らかとなった。そこで、ビーズ上における脂質の分布を明らかとするため、共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いてビーズ上の脂質を直接観察した。測定サンプルには、脂質二重膜再構成KcsAビーズおよび、ネガティブコントロールとしてKcsAを固定化していないビーズに対して同様の脂質二重膜再構成操作を行ったビーズを使用した。蛍光顕微鏡による観察の結果、脂質二重膜再構成KcsAビーズ上に脂質が均一に分布していることが確認された。一方、KcsAを固定化していないネガティブコントロールにおいて脂質はまばらにしか観測されなかった(図15)。蛍光顕微鏡の分解能は0.1μm程度である。この結果は、ビーズ上に0.1μm以上の不均一な構造が存在しないことを示している。以上の結果および考察より導かれる、作製サンプルのビーズ表面上におけるKcsAと脂質の分布を図16に模式的に示した。
4-2 ビーズに固定化したKcsAの活性確認
4-2-1
ビーズ上に再構成した脂質二重膜中においてKcsAが活性を保持していることを確認するため、pull down assayによりAgTx2との結合を確認することを検討した。KcsA wild typeとAgTx2 wild typeとの結合は弱い(KA=2.6×103 M‐1)。そこで、AgTx2に対してより高い親和性をもつKcsA _R64D変異体(KA=1.9×106 M‐1)を用いて結合活性を確認した。
4-2-2 pull down assayによるKcsA_R64D-AgTx2相互作用の確認
脂質二重膜中に再構成したKcsAの活性確認に先立ち、ビーズへの固定化のみを行ったKcsA_R64Dに対し、結合したAgTx2を検出する条件を検討した。KcsA固定化ビーズに対してAgTx2溶液を添加し十分な時間相互作用させた後、KcsA_R64Dに結合したAgTx2をKcsA_R64Dと同時に溶出させることとした。得られた溶出液中のAgTx2はKcsA_R64Dから解離させた後、SDS-PAGEおよび逆相HPLCにより検出することを目指した。
4-2-2a KcsA_R64DへのAgTx2の結合
KcsA_R64Dを41μg/35μl beads 固定化したサンプルに対してAgTx2を9.6μg添加して混合し、十分な時間相互作用させた。
4-2-2b KcsA_R64DからのAgTx2の解離
脂質二重膜再構成後のビーズ上におけるKcsAの活性確認が最終目的であることを考慮して、界面活性剤と高濃度のimidazoleを含む溶出bufferにより、ビーズ上のKcsA_R64DとAgTx2とを同時に溶出させることとした。得られた溶出液に還元剤を加えた後、熱処理を行い、双方の立体構造を失わせることによってKcsA_R64DとAgTx2の結合を完全に解離させることを試みた。以上の処理を施したサンプルを逆相HPLCおよびSDS-PAGEによるAgTx2の検出に用いた。
4-2-2c 逆相HPLCによるAgTx2の検出
0.2μmのシリンジフィルターを通したサンプルを逆相HPLCにアプライしたところAgTx2のピークは検出されなかった。AgTx2のみを同様の溶液条件で熱処理を行い、フィルターに通して逆相HPLCにアプライした結果、AgTx2を50μg以上含む溶液においてはAgTx2ピークが検出できるが、25μg以下しか含まない溶液においてはAgTx2が検出できないことが明らかとなった。一方、精製後、ミリQ水に溶かしたAgTx2において20μgでも逆相HPLCで検出できることが確認されている。これらのことから、今回検討した溶液条件において25μg以下の微量なAgTx2は、フィルターにトラップされてしまうために検出されないことが分かった。
4-2-2d SDS-PAGEによるAgTx2の検出
4-2-2bで作製したサンプルにおいて、KcsA_R64Dから解離したAgTx2をSDS-PAGEにより検出することを試みた。その結果、図17の未処理サンプルのレーンに見られるように、サンプル中の界面活性剤によって泳動先端が乱れ、AgTx2のバンドは検出不可能であった。
4-2-3 微量AgTx2検出法の検討
逆相HPLCによる検出を検討した結果は、フィルターへの吸着により微量AgTx2の検出が不可能であることを示していた。しかしながら、サンプルのスケールアップはビーズへのKcsA固定化効率や透析効率あるいは、脂質の準備における脂質懸濁液の作製などにおいて、技術的な困難を引き起こすことが予想される。よって、スケールは変えずにAgTx2を検出しうる条件を検討した。
また、SDS-PAGEにおいて界面活性剤の存在がAgTx2の検出を不可能にしていた。逆相HPLCにおいても、AgTx2のフィルターへのトラップ量に溶液の組成が影響する可能性も考えられ、界面活性剤や脂質とともにAgTx2がフィルターにトラップされることが予想される。そこで、ゲルろ過カラムおよび陽イオン交換カラムを用いた界面活性剤の除去を検討した。AgTx2は塩基性残基に富み、分子全体として正に荷電していることから陽イオン交換カラムに吸着すると考えられる。ゲルろ過カラムとしてセントリセップカラム、陽イオン交換カラムとしてSP-Sepharoseを用いた。DDMを10mMと20mM、AgTx2を1μgと5μg含む各条件のAgTx2溶液を各カラムにアプライし、熱処理後Tricine-PAGEによる検出を試みた。その結果、セントリセップカラム溶出液においてAgTx2のバンドは検出できなかったが、SP-Sepharoseカラム溶出液においてDDM20 mMを含む溶液中に存在する5μgのAgTx2を検出可能であることが確認された(図17)。
さらに、AgTx2に蛍光を導入することにより、界面活性剤の存在に依存することなく蛍光顕微鏡で、ビーズ上のKcsAと蛍光標識したAgTx2との結合を確認することを現在検討している。
5. NMRによる脂質二重膜再構成KcsAビーズとAgTx2との相互作用解析
5-1
上記手法で脂質二重膜に再構成されたKcsAとAgTx2との相互作用はtransferred cross-saturation (TCS) 法を用いて解析した。図18にその概念を示す。非標識のKcsAに対する選択的なラジオ波照射は、空間的に近接したAgTx2の結合界面に交差飽和現象を生じる。このとき、AgTx2をKcsAに対して過剰量存在させると、結合・非結合状態間の平衡により結合状態における交差飽和を非結合状態に移行することが可能となる。TCS法においては非結合状態に移行した交差飽和をNMRスペクトル上で観測するため、複合体の分子量に依存することなく溶液中でリガンドのレセプターに対する結合面を決定することができる。以上よりTCS法は、本研究に最適な手法であると考えられる。
5-2 NMRサンプルの調製
作製した脂質二重膜再構成KcsAビーズをpH 6.0、D2O 90%のNMR bufferに交換し、KcsAとAgTx2をモル比1:4.8程度でAgTx2を過剰に存在させたNMRサンプルを作製した。サンプル管はSHIGEMIのミクロセルを使用した。ビーズというサンプルの性質上、サンプル管へのサンプル充填に用いるパスツールピペットへのビーズの付着、あるいはサンプルを調製したエッペンドルフチューブへのビーズの残留が無視できない。よって、あらかじめ2H,15Nで均一標識したAgTx2の100%D2O溶液を封入し凍結乾燥を行ったサンプル管に脂質二重膜再構成KcsAビーズを加えることで、AgTx2の損失を抑えることとした。作製した脂質二重膜再構成KcsAビーズ300μlのうち、約200μlをサンプル管に充填することに成功した。
5-3 NMRサンプルの状態
前述の様に作製したNMRサンプルは、サンプル管内においてビーズが沈殿するためbufferが上清として分離する。しかし、ミクロセルにおいて内ぶたで測定部位を限定する結果、測定部のほとんどをビーズが占めた状態となっている(図19)。
5-4 シムの合わせ方
ビーズという限りなく固体に近い物質をサンプルとして用いる結果、シムが合いにくいという問題が生じる。そこで、NMR bufferを測定サンプルと等量封入したミクロセルを用いて合わせたシム値を、そのまま測定サンプルのシム値とした。このとき、プローブ内でのサンプルの位置がbufferのみのサンプルと測定サンプルで極力同じになるように注意した。このようにしてシムを合わせたサンプルの1H-15N HSQCスペクトルにおいても、シグナルの線幅は非常にブロードであった(図21a)。原因として、前述の様にシム合わせを工夫したものの、シムが十分に合っていないことが考えられ、実際にbufferのみのサンプルと比較してロックシグナル強度の減少が観測された。
5-5 1D-TCS実験
TCS実験におけるラジオ波照射時間を検討するため、ラジオ波照射時間を0.15秒、0.3秒、0.45秒、0.7秒、1.5秒と変えた各条件において1D‐TCS実験を行った。解析はxwinnmr上で行い、各ラジオ波照射時間におけるAgTx2シグナルの積分値を、ラジオ波照射を行わない場合に対する積分強度比として算出した。得られた結果を図20に、AgTx2シグナル減少率のラジオ波照射時間依存性として示す。ラジオ波照射時間が短すぎると十分なシグナル強度減少率として交差飽和現象が観測されず、ラジオ波照射時間が長すぎるとAgTx2分子内のスピンディフュージョンによりKcsA-AgTx2複合体結合界面の同定が不可能となる。これらを考慮して、ラジオ波照射時間の増大に伴いシグナル強度が直線的に減少している領域で、十分なシグナル強度減少の観測が予想されるラジオ波照射時間として0.4秒を選択し、2D-TCS実験を行うこととした。
5-6 2D-TCS実験
ラジオ波照射時間0.4秒において2D-TCS実験を行った。得られた1H-15N HSQCスペクトルを図21a, bに示す。ラジオ波照射に伴いシグナル強度が顕著に減少した残基とシグナル強度がほとんど変化しない残基が存在した(図21c)。ラジオ波照射の有無によるAgTx2のシグナル強度変化を各残基ごとに算出し、AgTx2分子上に色分けして(図中では、濃淡で表されている)マッピングした(図22)。その結果、シグナル強度が顕著に減少した残基は主にAgTx2分子上の1つの面に集中した。界面活性剤中におけるKcsA-AgTx2相互作用のTCS実験結果との比較において、シグナル強度が減少した残基はほぼ一致した(図23)。よって、ビーズに固定化した状態で脂質二重膜中に再構成したKcsAを用いてAgTx2上のKcsA結合面を同定することに成功した。
しかし、この条件においてNMRシグナルは線幅が広く、分離が不完全であるために観測不能となるアミノ酸残基が存在した。シグナルの広幅化の原因として、サンプル中における磁場の不均一性が考えられる。測定にHR-MASプローブを用いると、サンプルを高速回転させて測定することにより磁場の不均一性が解消でき、スペクトルの質が向上することが期待されるので、現在検討中である。また、KcsA結合面と反対側の面において一部、シグナル強度の減少した残基が観測されたことから、AgTx2分子内でのスピンディフュージョンが示唆された。そこでラジオ波照射時間を0.3秒に短縮した条件で2D-TCS実験を行った。しかし、0.3秒のラジオ波照射においてはシグナル強度減少が小さく、シグナルに対するノイズの割合が大きくなるためKcsA結合界面の同定は不可能であった。
6. ビーズ上に再構成したKcsAの活性確認
蛍光標識したAgTx2を用いて、ビーズ上に再構成したKcsAのAgTx2結合活性を確認した。蛍光標識したAgTx2を用いることにより、再構成ビーズ上でKcsAに結合したAgTx2を直接、蛍光顕微鏡で観察し、AgTx2結合活性を保持したKcsAの分布を調べることが可能となる。また、KcsAに結合したAgTx2の蛍光強度を測定することにより、AgTx2結合活性を保持したKcsAの割合を定量的に測定することも可能となる。
6-1 蛍光標識AgTx2の作製
蛍光を導入する残基としては、KcsA結合活性に影響を与えないAgTx2上の残基であることが本目的における必須条件である。また、KcsA結合面の反対側に存在するD20をシステインに変えた変異体にN-ethylmaleimideを導入してもKcsAに対する結合活性が失われないという報告がある(SCIENCE (1998), 280, 106-)。そこで、AgTx2_D20C変異体に対して、Oregon Green 488 maleimide(OGM)を導入した蛍光標識体を作製することとした(図24)。
方法は以下の工程で行った。
(a) 50mM AcOHに溶かしたAgTx_D20C
(野生型のジスルフィド結合の形成は逆相HPLC溶出時間の一致により確認した)
(b) 等量の75 mM Trisを加えてpH7.5に調整
(c) 10mM OGM/DMSO を添加
(d) 室温でゆっくり攪拌することにより反応
(e) AcOHでpH下げて反応停止
(f) PD-10カラム(Sephadex G25)に通して未反応の蛍光試薬を除去
(g) 逆相HPLCによる目的物質の分取
まず、AgTx2_D20C_R24D変異体(M.W. 4038) を用いて上記プロトコルによるAgTx2に対するOGM(M.W. 463.35)の導入を試みた。上記プロトコルにおいて、AgTx2_D20C_R24D 250μgに対してOGMをAgTx2_D20C_R24D:OGM=1:8.8(モル比)となるように添加し、室温で1時間反応させた。
結果は、以下のとおりであった。
逆相HPLC溶出プロファイルにおいて2つのシャープなピークが得られた(図25)。各ピークを分取し、質量分析計により測定した結果、最初に溶出するピークがOGMを1分子含む目的生成物であり、遅れて溶出するピークはOGMが2分子導入された副生成物であることが明らかとなった。目的物の溶出の方が早いため、逆相HPLCのみにより蛍光標識体を単一ピークとして分取することが可能であった。
6-2. 蛍光標識AgTx2の作製における条件検討
maleimideの反応性に関して、中性条件下ではシステイン残基との反応が主ではあるが、メチオニン、ヒスチジン、アルギニン、リジン残基およびN末端NH3基と反応する可能性がある。前述の条件では目的生成物のピークよりも副生成物のピークの方が大きかった。そこで、反応条件をより穏やかにすることにより、反応生成物中で目的生成物の占める割合を向上させることを目指した。具体的には、反応時間およびAgTx2_D20CとOGMの量比を検討した。
方法および結果は以下のとおりであった。
1) 反応時間の検討
AgTx2_D20C_R24D:OGM=1:8.8(モル比)の条件で15分,30分,1時間反応させた各サンプルを、逆相HPLCで分取した。その結果、反応時間の短縮に伴い目的ピークの割合が上昇した(図26b)。
2) AgTx2変異体とOGMの量比の検討
AgTx2_D20C_R24Dに対するOGMのモル比を1:8.8, 1:4.4, 1:2.2と低下させた各条件で15分反応させた各サンプルを、逆相HPLCで分取した。その結果、AgTx2_D20C_R24Dに対するOGMのモル比の低下に伴い目的ピークの割合が上昇した(図26c)。
以上の結果より、AgTx2_D20C:OGM=1:2.2(モル比)の反応液を15分反応させることとした。
6-3. 蛍光標識AgTx2の作製と定量
AgTx2_D20C 1mgに対して、前項で確立した条件で蛍光標識の導入を行った。逆相HPLCにより分取した目的生成物は、ナカライテスク プロテインアッセイLowryキットを使用して比色定量を行った。なお、検量線用のレファレンスには定量済みのAgTx2_wtを使用し、測定は2度行った。
結果は、以下のとおりであった。
目的とする蛍光標識体の収量は441μg(収率44%)であった。
6-4. 蛍光標識AgTx2の性状解析
A. NMR測定による蛍光標識部位の検証
蛍光試薬が目的部位(C20)に正しく導入されたことを蛍光標識の有無におけるTOCSYスペクトルを比較することにより確認した。
測定条件は以下のとおりであった。
AgTx2_D20C 0.15mMおよびAgTx2_D20C_OGM 0.22mM
ともに90% H2O/10% D2O, pH4.5, 298K
結果は以下のとおりであった。
蛍光標識前後におけるAgTx2の主鎖アミド領域のTOCSYスペクトルの重ね合わせを図27に、蛍光標識に伴う各残基のTOCSYシグナルの化学シフト変化を図28に示す。蛍光試薬の導入によりC20シグナルの化学シフトが大きく変化したが、他の残基においては大きな化学シフト変化は観測されなかった。これは、目的部位に正しく蛍光試薬を導入できたことを示している。
B. SPR法による結合定数の算出
蛍光標識したAgTx2がKcsAに対する結合活性を保持していることをSPR法により確認した。
実験条件は以下のとおりであった。
Ligand : KcsA_R64D Analyte : AgTx2_D20C_OGM
Running Buffer:50mM Tris-HCl, 100mM NaCl, 50mM KCl, 0.1% DDM,
0.05% NaN3, 50μM EDTA, pH8.0
Regeneration Buffer:Running Bufferに全体の塩濃度が1MとなるようNaClを加えた。
測定温度:25℃ センサーチップ:NTA
結果は以下のとおりであった。
得られたセンサーグラムに1:1 langmuir binding with drifting baselineモデルを用いたフィッティングを行った。その結果、KcsA_R64Dに対するAgTx2_D20C_OGMの結合は結合速度定数2.73±0.34×104[Ms-1]、解離速度定数0.014±0.00045 [s-1]、結合定数1.96±0.18×106[M-1]と算出された(図29)。これまでに行ってきたSPR実験において、KcsA_R64DとAgTx2_wtとの結合は結合速度定数3.65±0.44×104[Ms-1]、解離速度定数0.018±0.00111 [s-1]、結合定数2.06±0.22×106 [M-1]であった (今回はkass=4.31×104 [Ms-1], kdis=0.018[s-1], KA =2.4×106[M-1]) ことから、AgTx2_D20C_OGMはKcsAに対する結合活性を保持していると結論した。
作製した蛍光標識AgTx2は再構成ビーズ上におけるKcsAのAgTx2結合活性の検証に使用可能である。
6-5. 蛍光標識AgTx2を用いた再構成ビーズ上のKcsAの活性確認
AgTx2_wtのKcsA_wtに対する結合(KA=2.59±0.27×103[M-1])はKcsA_R64Dに対する結合(KA=2.06±0.22×106[M-1])に比べて極めて弱い。よって、KcsA_R64D再構成ビーズをサンプルとして蛍光標識AgTx2との結合活性を確認し、KcsA_wt再構成ビーズをネガティブコントロールとして同様に測定することとした。各ビーズに対する蛍光標識AgTx2の結合量の差がKcsAに対する特異的な結合を示す。
サンプルの詳細を以下に示す。
KcsA_R64D再構成ビーズ:KcsA_R64D 11μg/μl beads, POPE 15μg/μl beads, 多重度0.65
・KcsA_wt再構成ビーズ:KcsA_wt 15μg/μl beads, POPE 27μg/μl beads, 多重度1.2
方法は以下の工程のとおりでった。
(a) 各再構成ビーズ5μlに対して蛍光標識AgTx2を10μg(0.5mg/ml)添加
(アフィニティー計算より、ビーズ上のほぼ全てのKcsA_R64Dに蛍光標識AgTx2が結合する条件)
(b) inversionにより1分間相互作用
(c) 遠心(2000rpm, 2min)
(d) frow through
(e) buffer(20mM Tris-HCl, 5mM KCl, 140mM NaCl, pH8.0)を250μl加えてピペッティング
(f) 遠心(2000rpm, 2min)
(g) wash
(h) AgTx2_D20C_OGM/KcsA/lipid/Zn-NTA
(i) 蛍光顕微鏡で観察
(j) AgTx2_wtを過剰量添加、1時間相互作用×2
(k) 遠心(2000rpm, 2min)
(l) elute(KcsAと結合した蛍光標識AgTx2)
(m) solubilization buffer(20 mM Tris-HCl, 150mM KCl, 800mM Imidazole, 200mM DDM, pH8.0)を加えてinversion
(n) 遠心(2000rpm, 2min)
(o) solubilization(KcsA、脂質およびAgTx2)
(p) Zn-NTAビーズ(白くなる)
A. 蛍光顕微鏡による確認
蛍光標識AgTx2を相互作用させたKcsA再構成ビーズ(wtおよびR64D)を直接、共焦点蛍光顕微鏡により観察した。
結果は以下のとおりであった。
KcsA_R64D再構成ビーズにおいてAgTx2_OGMの蛍光が観測された。また、AgTx2_OGMと脂質の存在位置は一致した(図30a)。
KcsA_wt再構成ビーズにおいては、AgTx2の存在はほとんど確認されなかった(図30b)。
このことは、蛍光標識AgTx2はKcsAに対して特異的に結合していることを示す。
ビーズ上に再構成したKcsAは、その存在位置に関わらずAgTx2結合活性を保持している。
ビーズ内部まで脂質およびAgTx2が存在する。
用いているビーズはポアサイズ1000Åの多孔性シリカビーズである。KcsA_R64D再構成ビーズにおいて脂質とAgTx2との局在が一致したことは、KcsAとAgTx2との局在が一致することを示す。すなわち、ビーズ内部に固定化されたKcsAに対してもAgTx2が結合できるので、ビーズ内部での固定化によっても実効的なKcsA濃度は減少していないと考えられる。
B. プルダウン法による確認
蛍光標識AgTx2が結合したビーズに対して蛍光標識していないAgTx2_wtを過剰量添加することにより、KcsA-AgTx2間の結合を競合的に阻害し蛍光標識AgTx2を溶出させた(elute)。さらに蛍光標識AgTx2溶出後のビーズに対しては、高濃度のイミダゾールおよびDDMを含むバッファーを添加することにより、KcsAおよび脂質の可溶化を行い、AgTx2を完全に回収した(solubilization)。
方法は以下のとおりであった。
elute, solubilization, non-binding(flow through+wash)の各フラクションにおけるOGMおよびRhodamineの蛍光を測定した。AgTx2_D20C_OGMは491nmの励起光において520nmの蛍光を発し、Rhodamineは550nmの励起光において585nmの蛍光を発する。
結果は以下のとおりであった。
蛍光標識AgTx2はKcsAに対して特異的に結合していることが再確認された(図31)。
測定の誤差を考慮し、KcsA_wtに対するAgTx2の結合を差し引いて算出した結果、ビーズ上に再構成した87±14%のKcsAがAgTx2結合活性を保持していることが明らかとなった。
この結果は、ビーズ上においてAgTx2結合活性を保持した方向でKcsAを固定化し、脂質膜中に再構成することができたことを示す。
7. ビーズ上における脂質の性状解析
ビーズ上に固定化したKcsAに対して脂質を添加し、透析することによりKcsA再構成ビーズを作製した。一方、KcsAを固定化していないビーズに対しては脂質を添加してもビーズ上に脂質が固定化されないことから、脂質がKcsAの周囲に存在することが示唆されていた。しかし、ビーズ上において脂質二重膜が再構成されているかどうかは明らかではなかった。よって、示差走査熱量測定(DSC)によりこれを確認した。脂質二重膜の存在は、用いた脂質の相転移温度におけるDSCサーモグラム上の吸熱ピークとして確認される。
測定条件は以下のとおりであった。
サンプル
1) KcsA_R64D/POPE(0.2% Rho-DOPE)/Zn-NTA
KcsA_R64D 11mg/ml(0.15mM)
POPE(Mw 718) 16mg/ml(22mM)
Buffer Tris-HCl 20mM, KCl 150mM, pH8.0
2) KcsA_R64D/Zn-NTA
KcsA_R64D 0-6mg/ml(0-0.09mM)
Buffer Tris-HCl 20mM, KCl 150mM, pH8.0, DDM 0.5mM
3) Zn-NTA
バッファー
AcOH 20mM, KCl 150mM, pH6.5
方法は以下のとおりであった。
35μlのビーズを965 mlのバッファーに懸濁し、3分脱気することによりサンプルを調製した。この時、KcsAを脂質中に再構成したサンプルにおける脂質濃度は0.56mg/mlとなる。測定は1サイクルにつき3℃から60℃まで60℃/hrでスキャンし、プレスキャンディレイを20minとした。また、サンプルの交換は20℃まで温度が下がったところでサンプルをサンプルセルに導入した。なお、測定は装置を横に倒して行い、2秒ごとに温度をサンプリングした。各セルには下記のビーズを含む溶液をそれぞれ充填して測定を行った。サンプルセルの容量は521μlである。
レファレンスセル:Zn-NTAビーズ35μl/1mlバッファー
サンプルセル:1)KcsA_R64D/POPE/Zn-NTAビーズ35μl/1mlバッファー
2)KcsA_R64D/Zn-NTAビーズ35μl/1mlバッファー
結果は以下のとおりであった。
測定の2サイクル目以降で装置の安定が確認されたことから、解析には2サイクル目に得られたデータを用いた。各サンプルにおいて得られたサーモグラムを図31に、得られた2つのサーモグラムの差をとったものを図32に示す。
POPEの相転移温度は25℃であり、KcsA再構成ビーズにおいて実際に観測されたサーモグラムのピークは15.8℃であった。サーモグラムのピークを与える要因としては、サンプル中における蛋白質の変性および脂質のゲル‐液晶転移が考えられる。これまでの実験から、15.8℃においてKcsAが変性することは考えにくい。よって、得られたピークは脂質のゲル‐液晶転移に由来するものであると考えた。KcsA再構成ビーズ上における脂質の相転移温度は理論値に比べて低かったものの、完全ではないが脂質二重膜がKcsAの周りに再構成されていると結論した。
8. スペクトルの質の向上に向けた試み
Zn-NTAシリカビーズにKcsAを再構成したサンプルを用いて、AgTx2上のKcsA結合面を同定することに成功した。しかしながら、観測されたNMRシグナルは線幅が広く、分離が不完全であるために観測不能となるアミノ酸残基が存在した(図34a)。より広範な膜蛋白質‐リガンド複合体に対して本手法を適用し、相互作用界面を同定するためには、スペクトルの質の向上が望まれる。
KcsAのみを固定化したZn-NTAアガロースゲルを用いたTCS実験により得たAgTx2のスペクトルは、KcsAを再構成したZn-NTAシリカビーズを用いたTCS実験により得たスペクトルに比べてシグナルの線幅がシャープであり、ほぼ全てのシグナルが分離していた(図34b)。また、Zn-NTAシリカビーズ中においてHSQCスペクトルを測定した結果、S/N比が低いために十分なAgTx2シグナルを観測することはできなかった。(図35a)以上の結果は、AgTx2のNMRシグナルがZn-NTAシリカビーズ存在下において著しく観測が困難となることを示唆する。この原因として、Zn-NTAシリカビーズの水分含量が少ないことが考えられた。よって、水分含量が高く、かつAgTx2および脂質と相互作用しないと考えられるPD-10レジン(Sephadex G-25)とZn-NTAシリカビーズを混合することにより、NMRシグナルの分解能、およびS/N比の向上を目指した。
方法は以下のとおりであった。
Zn-NTAシリカビーズとPD-10レジンを等量混合したビーズ中でAgTx2のHSQCスペクトルを測定し、シグナルの分解能、S/N比を、Zn-NTAシリカビーズ中において測定した際のスペクトルと比較した。
結果は以下のとおりでった。
PD-10レジンの混合により、ビーズ中におけるAgTx2シグナルの線幅が減少することが明らかとなった(図35)。
よって、ビーズを混合して水分含量を制御することにより、Zn-NTAシリカビーズを含むサンプルにおけるNMRシグナルの分解能、S/N比の向上が可能であると期待される。
膜蛋白質とリガンドの相互作用解析の方法を示す図である。図1上は従来法である界面活性剤ミセル状態の膜蛋白質を示し、図1下は本発明の膜蛋白質再構成法による膜蛋白質とリガンドの相互作用を解析する方法を示す。リガンドはビーズに固定化した面の反対側で膜蛋白質と相互作用する。 KcsAのX線結晶構造(PDB code:1BL8)を示す図(リボン図)である。図中、上が細胞外、下が細胞内に相当する。 NMRによるAgTx2の立体構造(PDB code:1AGT)を示す図である。 逆相HPLCによるAgTx3の精製を示す図である。図4aは、linear AgTx2の逆相HPLCプロファイルを示し、図4bは、cyclic AgTx2の逆相HPLCプロファイルを示す。 SPR法によるAgTx2のKcsA_R64Dに対する結合活性の測定の結果を示す図である。各濃度におけるセンサーグラムに対し、フィッティングカーブを黒で示してある。 KcsAのNi-NTAカラムによる精製を示す図である。 Affinity beadsに対するKcsA固定化の模式図である。 常磁性金属のNMRシグナルへの影響を表す図である。図8aはレファランスであり、図8bはCo2+の影響を、図8cはNi2+の影響を示す。 Zn-NTAビーズに対するKcsAの固定化を示す図である。 ビーズに固定化したKcsAに対する脂質二重膜再構成の模式図である。 透析膜および透析時間の違いによる脂質固定化量の変化を示す図である。 KcsA固定化ビーズに添加する脂質濃度および脂質量の検討の結果を示す図である。図12aは、脂質添加量に対するビーズ上への脂質固定化量の変化を示し、図12bは、各脂質濃度および脂質添加量における脂質固定化量と多重度を示す。 ビーズ固定化KcsA量の変化に伴う、脂質固定化量の変化を示す図である。 脂質二重膜再構成後におけるビーズ上KcsAの存在確認を示す図である。 蛍光顕微鏡による脂質二重膜再構成ビーズ上における脂質分布の観察の結果を示す図である。図15aは、KcsAを固定化していないビーズを用いたサンプルの結果であり、図15bは、KcsAを固定化したビーズを用いたサンプルの結果である。 ビーズ上のKcsAおよび脂質分布の模式図である。 界面活性剤除去後のTricine-PAGEによるAgTx2の検出の結果を示す図である。図中、未処理およびセントリセップレーンに見られる低分子側のスメアは界面活性剤に由来すると考えられる。 TCS法を用いたKcsA-AgTx2相互作用解析の概念図である。 脂質二重膜再構成KcsAビーズを含むNMRサンプルを示す図である。サンプルは、赤色を呈しているが(図中では、濃く見える部分)、これは、脂質中にRhodamine-PEを0.2%含むためである。 AgTx2のシグナル強度変化のラジオ波照射時間依存性を示す図である。 TCS実験における1H -15N HSQCスペクトルを示す図である。図21aは、ラジオ波非照射時の1H -15N HSQCスペクトルを、図21bは、ラジオ波照射時の1H -15N HSQCスペクトルを、図21cは、アミノ酸残基によるシグナル強度減少率の比較を示す。各スペクトルの枠で囲んだ部分の1H1Dスペクトルを比較した。 TCS実験の結果を示す図である。図22aは、各アミノ酸残基におけるシグナル強度減少率を、図22bは、TCS実験結果のAgTx2上へのマッピングを示す。シグナル強度減少が大きい残基ほど赤くなるように色付けした(図中では、濃淡として表され、濃い部分が赤い部分に相当する)。 TCS実験結果の比較を示す図である。図23aは、脂質二重膜に再構成したKcsAとの相互作用界面を、図23bは、界面活性剤に可溶化したKcsAとの相互作用界面を示す。いずれもシグナル強度減少が大きい残基ほど赤くなるようにAgTx2上に色付けした(図中では、濃淡で表され表され、濃い部分が赤い部分に相当する)。 AgTx2の蛍光標識を示す図である。 蛍光標識AgTx2の逆相HPLC溶出プロファイルを示す図である。図25aは、AgTx2_D20C_R24Dの精製を、図25bは、蛍光標識AgTx2の精製を示す。 AgTx2の蛍光標識における反応条件の検討の結果を示す図である。(a)の条件は、AgTx:OGM=1:8.8、反応時間60分であり、(b)の条件は、AgTx:OGM=1:8.8、反応時間15分であり、(c)の条件は、AgTx:OGM=1:2.2、反応時間15分である。 蛍光標識に伴うAgTx2のTOCSYスペクトルの変化を示す図である。 蛍光標識に伴うAgTx2の各残基の化学シフト変化を示す図である。 SPR法によるKcsA_R64Dに対する蛍光標識AgTx2の結合定数算出を示す図である。 蛍光顕微鏡による蛍光標識AgTx2を結合したKcsA再構成ビーズの観察の結果を示す図である。図30aは、KcsA_R64D再構成ビーズを、図30bは、KcsA_wt再構成ビーズを示す。 プルダウン法による再構成ビーズ上KcsAのAgTx2結合活性の確認の結果を示す図である。 KcsA再構成ビーズのDSCサーモグラムを示す図である。 KcsA再構成ビーズサンプル中のPOPEの液晶転移を示す図である。KcsA_R64D/POPE/Zn-NTAサンプルからKcsA_R64D/Zn-NTAサンプルの測定を差し引いたグラフに相当し、KcsA再構成ビーズ上のPOPEによる熱エネルギー変化への寄与を示す。ピークトップは15.8℃であった。 各種KcsA固定化レジンを用いたTCS実験より得られたラジオ波非照射時におけるAgTx2のHSQCスペクトルの比較を示す図である。図34aは、KcsA/POPE/Zn-NTA silicaであり、図34bは、KcsA/Zn-NTA superflowである。各サンプル条件は(a)が、ul-[2H], [15N] AgTx2 1.3mg, KcsA 0.21mM(20mol%)/POPC 16mM/Zn-NTA silica、Tris-HCl 10mM, KCl 5mM, NaCl 200mM, pH6.0, H/D=2/8であり、(b)が、ul-[2H], [15N]AgTx2 372μg, KcsA 0.056mM(12mol%)/Zn-NTA superflowTris-HCl 10mM, KCl 5mM, NaCl 200mM, pH6.0, DDM 0.1%, H/D=2/8である。 各種ビーズ中におけるAgTx2のHSQCスペクトルの比較を示す図である。図35aは、Zn-NTAシリカビーズであり、図35bは、Zn-NTA/PD-10混合ビーズであり、図35cは、PD-10である。すべてのサンプルはul-[15N]AgTx2を含む。バッファー条件は(a)が、Tris-HCl 10mM, KCl 5mM, NaCl 200mM, pH6.0, DDM 0.1%, H/D=9/1であり、(b),(c)が、MES 2mM, KCl 5mM, NaCl 300mM, pH6.0, H/D=9/1である。積算回数で規格化した1Dスペクトルを線で示す。

Claims (17)

  1. 単離した膜蛋白質を脂質二重膜中に安定に再構成する方法であって、膜蛋白質を固相に配向制御して固定化し、脂質を添加し、固定化膜蛋白質の近傍に脂質二重膜を再構成させることを含む方法。
  2. 固相への膜蛋白質の配向制御しての固定化が、特異的結合を介して行われる請求項1記載の方法。
  3. 特異的結合が抗原-抗体結合、金属-His tag結合、グルタチオン-GST結合、官能基間の架橋からなる群から選択される請求項2記載の方法。
  4. 固相が固定化金属アフィニティービーズであり、膜蛋白質がHis-tagとの融合蛋白質である、請求項3記載の方法。
  5. 固定化金属アフィニティービーズの金属がCo2+またはNi2+である、請求項4記載の方法。
  6. 金属がZn2+に置換されている、請求項5記載の方法。
  7. 蛋白質が膜貫通蛋白質である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 蛋白質がKcsAである、請求項7記載の方法。
  9. 脂質がPOPEまたはPOPCである請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
  10. さらに、膜蛋白質を固定化後に界面活性剤を除去する工程を含む請求項1記載の方法。
  11. 界面活性剤の除去が、透析により行われる請求項10記載の方法。
  12. 請求項1から11のいずれか1項に記載の方法により製造される、膜蛋白質が脂質二重膜中に安定に再構成された状態で、かつ配向制御されて固定化された固相であって、該膜蛋白質が活性を保持している、膜蛋白質再構成固相。
  13. 固相がビーズである、請求項12記載の膜蛋白質再構成固相。
  14. 請求項12または13に記載の、膜蛋白質が脂質二重膜中に安定に再構成された固相を用いて、固定化された膜蛋白質と該膜蛋白質のリガンドとの相互作用を解析する方法。
  15. 固定化された膜蛋白質と該膜蛋白質のリガンドとの相互作用の解析がNMRを用いて行われる請求項14記載の方法。
  16. 固定化された膜蛋白質と該膜蛋白質のリガンドとの相互作用の解析が転移交差飽和(TCS)法により行われる、請求項15記載の方法。
  17. 膜蛋白質がKcsAであり、リガンドがAgTx2である、請求項14から16のいずれか1項に記載の方法。
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