JP2005109040A - 複合磁性材料の製造方法および複合磁性材料 - Google Patents

複合磁性材料の製造方法および複合磁性材料 Download PDF

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Abstract

【課題】残存物の問題が少なく、純鉄に近い高い透磁率及び飽和磁束密度とできる限りだけ小さい鉄損失とをもつ複合磁性材料を簡便な操作で製造できる方法を提供すること。
【解決手段】金属磁性粉末と磁性金属酸化物微粉末とに対して圧縮及びせん断力を加えることにより、該金属磁性粉末及び/又は該磁性金属酸化物微粉末を活性化させ、該金属磁性粉末の粒子表面に該金属酸化物微粉末からなる被膜を被覆させ複合粉末とする被覆工程を有することを特徴とする複合磁性材料の製造方法。
【選択図】 図13

Description

本発明は、金属磁性粉末と磁性金属酸化物粉末とから得られる複合磁性材料およびその製造方法に関するものであり、特に、この複合磁性材料は、純鉄に近い透磁率及び飽和磁束密度が高く且つできる限り鉄損失が小さいもの、例えば、電気部品であるモータ、トランス、ノイズフィルタ等のコア、磁気記録ヘッド等に利用可能な複合磁性材料に係る。
従来では、純鉄に近い高い透磁率及び飽和磁束密度の両立を図り、且つ、鉄損失のできる限り小さい磁性材料としては、例えば、鉄などの金属磁性粉末の表面にフェライトなどの磁性金属酸化物被膜を形成した複合磁性材料から成るものが知られている。
この様に、金属磁性粉末の表面に磁性金属酸化物の被膜を形成して複合磁性材料を製造する方法としては、磁性金属酸化物を構成する金属を含む溶液中に磁性金属粉末を浸漬し熱処理を行うことで金属を酸化させ、磁性金属粉末の表面に磁性金属酸化物の被膜を形成する方法(特許文献1及び2)、磁性金属酸化物を含むゲル物質に磁性金属粉末を浸潰し、乾燥した後に熱処理し、結晶化させることで磁性金属粉末の表面に磁性金属酸化物の被膜を形成する方法(特許文献1及び3)が開示されている。
特許文献1に示される方法では、金属粉末を溶液中に溶解させ金属イオンを磁性金属粉末に吸着させる。この金属イオンを溶解させた溶液は、弱アルカリ性又は弱酸性であるため、金属イオンが表面に吸着した磁性金属粒子の表面には溶液中のアルカリ性物質や酸性物質などの不要物が存在している。これら不要物は、その後の熱処理によって酸化されるか、あるいは乾燥されることで固化し残存する。残存した物質は非磁性体であり、複合磁性材料を成形した最終成形品の磁気特性が低下する。また酸性物質やアルカリ性物質がそのまま乾燥して残った場合は、最終成形品の劣化促進物質として作用するが、磁性金属粉体を洗浄して不要物のみを除去することは困難である。
また、特許文献1の方法では、目的とする磁性金属酸化物、例えばNi−Znフェライトを作成する場合は、目的組成(Ni−Znフェライト:NiZnFe)となるように化学両論的にNi,Zn,Feイオンを吸着させなければならず、溶質としての金属塩の種類が多く、また金属イオンの濃度管理が面倒である。更に、吸着した金属イオンを熱処理によって磁性金属酸化物を生成させるためには、高温度雰囲気での酸化反応を起こさせる必要があり、1200℃を越える高温雰囲気が必要な場合もある。
特許文献2に示される方法は、磁性金属酸化物のゲルを磁性金属粉体に吸着させる方法である。この磁性金属酸化物のゲルの製作方法の具体的な事例は、特許文献3にその詳細内容が開示されている。しかし、ゲル物質を作成する工法は複雑であるとともに、複数の工程が必要になる。更に、複雑な工程における物質の濃度管理や温度管理も煩雑である。
また、ゲル物質を吸着させた後に、結晶化させるために200℃の比較的低温度で熱処理を行う。磁性金属粉体に吸着される物質は、前記の濃度管理や温度管理が正確に行われない場合は、本来の金属酸化物以外の物質も吸着される。これらの物質は、前述したように、いずれも非磁性体や劣化促進物質であり、最終成形品の磁気特性を低下させる。
ところで、複合磁性材料の形態は粉末状であり、目的の形状に加圧成形して用いる。成形品の磁気特性を向上するためには複合磁性材料の圧縮密度を高めることが重要である。圧縮密度を高めることで、磁気ギャップとしての空隙が少なくなる。更に、通常要求される機械的特性として高い強度(圧環強度など)をもつことが要求される。
特開平7−135106号公報 特許第2687683号公報 特開平5−36514号公報
本発明は上記した実情に鑑みて為されたものであり、残存物の問題が少ない複合磁性材料とすること、純鉄に近い高い透磁率及び飽和磁束密度とできる限り小さい鉄損失とをもつ複合磁性材料を得ること、その複合磁性材料を簡便な操作で製造できる方法を提供することを第1の解決すべき課題とする。更に、高い圧縮密度及び強度を実現できる複合磁性材料を得ること、その複合磁性材料の製造方法を提供することを第2の解決すべき課題とする。
上記課題を解決するために本発明者は鋭意研究を行い、以下の知見を得た。即ち、従来の湿式法により磁性金属酸化物の被膜を形成する方法に代えて、乾式法にて被膜を形成することで、不要物が残存する問題を解決できることに想到した。つまり、磁性金属粒子の表面にメカニカルな方法で磁性金属酸化物の被膜を形成させることによって、磁性金属酸化物から不純物を除くことができ、不要物が残存するおそれを少なくできる。
即ち、上記した課題を解決する本発明の複合磁性材料の製造方法は、金属磁性粉末と磁性金属酸化物微粉末との接触部に対して圧縮及びせん断力を加えることにより、該金属磁性粉末及び/又は該磁性金属酸化物微粉末の接触部を活性化させ、該金属磁性粉末の粒子表面に該金属酸化物微粉末からなる被膜を被覆させ複合粉末とする被覆工程を有することを特徴とする(請求項1)。
つまり、金属磁性粉末及び磁性金属酸化物微粉末に対して圧縮及びせん断力を加えることで、摩擦により粒子の接触部を活性化させその活性エネルギーで磁性金属酸化物を融合させて金属磁性粉末の表面に被覆を形成することができる。
より具体的な方法を挙げると、上記第1の課題を解決する本発明の複合磁性材料の製造方法は、円筒状の内周面をもつ回転自在なケーシングと、該内周面から所定間隔を介して設けられ且つ該ケーシングに対して相対回転可能な圧縮片及び掻き取り片と、をもつ粉体処理装置を用い、
該ケーシング内に投入された金属磁性粉末及び磁性金属酸化物微粉末を該ケーシングを回転させることで該内周面に遠心力で押し付けて前記両粉末からなる層を該内周面に形成するとともに、該圧縮片及び該掻き取り片によって該層に対し該両粉末を掻き取り且つ該内周面との間を通過させることにより、該金属磁性粉末及び/又は該磁性金属酸化物微粉末を摩擦力で活性化させ、該金属磁性粉末の粒子表面に該金属酸化物微粉末からなる被膜を被覆させ複合粉末とする被覆工程を有することを特徴とする(請求項2)。
ここで、前記磁性金属酸化物粉末としては、フェライトであることが好ましい(請求項3)。
特に、湿式法で作成されたNi−Znフェライト又はマグヘマイトの平均粒径が1μm以下の微粒子であることが特に好ましい(請求項4)。
また、前記金属磁性粉末はアトマイズ還元鉄粉末及びミルスケール還元鉄粉末の混合物であることが好ましい(請求項5)。アトマイズ還元鉄粉末とミルスケール還元鉄粉末とについて、アトマイズ還元鉄粉末はミルスケール還元鉄粉末よりも圧縮性に優れ、ミルスケール還元鉄粉末はアトマイズ還元鉄粉末よりも成形性に優れる。そして、加圧成形後の最終成形品としては、アトマイズ還元鉄粉末はミルスケール還元鉄粉末よりも磁気特性に優れ、ミルスケール還元鉄粉末はアトマイズ還元鉄粉末よりも圧環強度に優れることから、アトマイズ還元鉄粉末を含有させることで磁気特性を向上でき、ミルスケール還元鉄粉末を含有させることで最終成形品の圧環強度を高くできる。これらの特性はそれぞれの粉末の形態に由来する。即ち、アトマイズ還元鉄粉末は粒子間の絡み合いがほとんど発生しないため充填性がよく磁気特性が向上でき、ミルスケール還元粉は気孔が存在し且つ粒子の凹凸が著しいため加圧成形によって粒子の凹凸が絡み合い、圧環強度を著しく増大できることから、両者を混合することで互いの長所を引き出し、短所を補うことが出来る。
両者の好ましい混合比率としては、前記金属磁性粉末全体の質量に対し、前記アトマイズ還元鉄粉末が70%以上90%以下、前記ミルスケール還元鉄粉末が10%以上30%以下であると良い(請求項6)。
更に、前記磁性金属粉末は、ミルスケール還元鉄粉を扁平処理した粉体を用いれば、複合磁性材料の製造方法では圧縮性を損なうことなく、成形性を増大させることが出来る(請求項7)。
また、上記した課題を解決する本発明の複合磁性材料は、金属磁性粉末と磁性金属酸化物微粉末との接触面に対して圧縮及びせん断力を加えることにより、該金属磁性粉末及び/又は該磁性金属酸化物微粉末の接触面が活性化され、該金属磁性粉末の粒子表面に該金属酸化物微粉末からなる被膜が被覆したことである(請求項8)。
この場合、好ましくは、前記磁性金属酸化物微粉末は、Ni−Znフェライト又はマグヘマイトの平均粒径が1μm以下の微粒子であるか、または、前記金属磁性粉末は、アトマイズ還元鉄粉末及びミルスケール還元鉄粉末の混合物であると良い(請求項9)。
本発明によれば、従来の湿式法により磁性金属酸化物の被膜を形成する方法に代えて、乾式法にて被膜を形成することで、不要物が複合磁性材料の中に残存する問題を解決できると言う効果を有する。金属磁性粉末及び磁性金属酸化物微粉末に対して圧縮及びせん断力を加えることで、摩擦により粒子を活性化させその活性エネルギーで磁性金属酸化物を融合させることによって、金属磁性粉末の表面に被覆を簡便に形成することができる。
以下に本発明の複合磁性材料の製造方法について、具体的な実施形態に基づき詳細に説明する。本発明の複合磁性材料は、飽和磁束密度の大きい金属磁性粉末の表面を電気的に絶縁材料で磁気的には強磁性体である金属磁性酸化物で被覆した複合材料である。本実施形態の複合磁性材料は加圧成形によりモータのコア部品に応用する。その他にも本複合磁性材料の応用分野は、電気を通さないが磁気を積極的に通す性質が要求される部品である。例えば、モータのコア材料のほかにソレノイドのヨーク部品の原材料が挙げられる。
本実施形態の複合磁性材料からコア材料を形成するには複合磁性材料を金型などにより加圧成形を行う。
本実施形態の複合磁性材料の製造方法は金属磁性粉末の粒子表面に金属酸化物微粉末からなる被膜を被覆させ複合粉末とする被覆工程を有する。金属磁性粉末の表面に磁性金属酸化物からなる被膜を形成する具体的な方法としては、金属磁性粉末及び磁性金属酸化物微粉末の接触部に対して圧縮及びせん断力を加えることにより行う。圧縮力及びせん断力を同時に印加することで、粒子間での摩擦などにより、金属磁性粉末及び/又は磁性金属酸化物微粉末の接触部が活性化し、金属磁性粉末の表面で磁性金属酸化物微粉末が融合して被膜が形成される。
圧縮力及びせん断力を同時に作用させる装置としては、図13に示すように、円筒状の内周面Fをもつ回転自在なケーシング10と、内周面Fから所定間隔を介して設けられた圧縮片31及び掻き取り片41とを有する粉体処理装置で、金属磁性粉末の表面に磁性金属酸化物微粉末が融合して被膜を形成されることができる。圧縮片31及び掻き取り片41はそれぞれ支持体32及び42により枢軸体20に固定されている。ケーシング10及び枢軸体20は同一の回転中心をもち、互いに相対回転可能である。ケーシング10及び枢軸体20はそれぞれ独立して動力源(図略)に接続されている。
まず、ケーシング10内に金属磁性粉末及び磁性金属酸化物微粉末を投入する。投入された金属磁性粉末及び磁性金属酸化物微粉末は、ケーシング10を回転させることで内周面Fに遠心力で押し付けられて上記した両粉末からなる層を内周面Fに形成する。同時に、圧縮片31及び掻き取り片41をケーシング10に対して相対回転させることで、両粉末の混合物よりなる層が掻き取られて混合されるとともに、圧縮片31と内周面Fとの間を両粉末が通過する際に、層に含まれる粒子の接触部に圧縮力とせん断力とが作用する。粒子に作用するせん断力と圧縮力とによって、粒子間の接触部は活性化され、メカノヒュージョンと呼ばれる表面結合によって結合する。こうして金属磁性粉末の表面に磁性金属酸化物の被膜が形成される。
(金属磁性粉末)
(1)金属磁性粉末としては、金属単体又は合金から構成される強磁性材料を使用する。一般的に、鉄は飽和磁束密度及び透磁率が大きい優れた磁気特性をもつとともに、安価な強磁性材料として知られている。以下、強磁性粒子の一例として鉄を取り上げて説明するが、金属磁性粉末としては鉄に限定されるものではなく、強磁性の特性を有する材料であれば特に限定しない。電気的特性については特に限定しない。更に、後述する加圧成形時に求められる延性・展性を有する金属材料であればより好ましい。
例えば、高い飽和磁束密度を持ち且つ安価な材料である鉄を主成分とする合金又は純鉄が好ましい。特に、Fe−Ni合金、Fe−Si合金、Fe−Al合金等は加圧成形後に適度な弾性/塑性変形によって稠密度が向上するので望ましい。そして、低い保磁力と高い飽和磁束密度の磁気特性からは、非常に安価で不純物を含まない純鉄が望ましい。純鉄あるいは鉄合金を採用する場合は、アトマイズ還元鉄粉末、金属磁性粉末として圧延鋼鈑などの廃材由来のものや、圧延鋼板などの表面上の不純物を取り除くために洗浄、粉砕したもの(ミルスケール還元鉄粉末)を用いることも可能である。
圧縮成形用の磁性金属粒子として、磁気特性に優れ安価な磁性金属粒子として鉄粉がある。さらに圧縮成形用の磁性金属粒子には、圧粉体の性質として、圧縮性と成形性とが同時にあわせもつことが求められる。圧縮性は、金属粒子の圧縮のしやすさを示す概念で、通常は圧縮密度の特性で示される。成形性は、金属粒子の圧縮成形後の機械的強度、すなわち粒子の絡み合いによる機械的強度を示す概念で、通常はラトラー値の特性で示す。ラトラー値は、圧粉体のエッジ部の機械的強度を測ることで、圧縮成形品の機械的強度を求める方法である。
このように圧縮成形用の磁性金属粒子は、飽和磁束密度の大きさや透磁率の大きさといった磁気特性に加え、圧粉体の性質として圧縮性と成形性にすぐれていることを同時にもつことが必要になる。
圧縮成形用の鉄粉として工業的に製作される鉄粉として、アトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉とがある。アトマイズ還元鉄粉やミルスケール還元鉄粉の製作プロセスにおいては、鉄粉を構成する原子の制御や結晶粒の大きさの制御は既に行っているので、磁気特性は略圧縮密度の大きさで代用することが出来る。このようなことから、圧縮密度が高く同時にラトター値が小さい磁性金属粒子が圧縮成形用の金属粒子として優れている。
表1に、圧縮成形用の工業製品としてのアトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉との性質を示す。ここでは、前者として川崎製鉄(株)のアトマイズ還元鉄粉304ASを代表として用い、後者として川崎製鉄(株)のミルスケール還元鉄粉240Mを代表として用いた。
表1に示すように、アトマイズ還元鉄粉はミルスケール還元鉄粉に比べ、圧縮密度の特性には優れているが、ラトラー値が大きく成形性には劣っている。この要因は、以下に示す還元鉄粉の粒子の構造に起因する。
図1にアトマイズ還元鉄粉の粒子形状と粒子断面構造を、図2にミルスケール還元鉄粉の粒子形状と粒子断面構造のSEM写真を示す。アトマイズ還元鉄粉は、ミルスケール還元鉄粉と同様に粒子表面に凹凸はあるが、粒子に窪みが無い。このため、アトマイズ還元鉄粉を圧縮した場合、粒子の窪みに起因する空隙部の形成は、ミルスケール還元鉄粉に比べ少ない。これによって圧縮密度が、ミルスケール還元鉄粉に比べ大きな値を示すことになる。
一方、ミルスケール還元鉄粉は、アトマイズ還元鉄粉には見られない、抉られたような窪みが存在する。ミルスケール還元鉄粉を圧縮したとき、このミルスケール還元鉄粉の窪みが粒子間の絡み合いを引き起こし、粒子間の結合力をもたらす。これによって、圧縮成形品の成形性を示す指標であるラトラー値は、アトマイズ還元鉄粉に比べ著しく小さな値を持つことになる。
以上に説明したように、圧縮成形用の磁性金属粒子は、磁気特性と粒子の製作コストから、アトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉とが優れている。圧縮成形品の特性としては、圧縮性と成形性を同時に引き出すことが求められる。しかしながら、従来のアトマイズ還元鉄粉は圧縮性には優れるが、成形性には劣る。いっぽうミルスケール還元鉄粉は成形性には優れるが、圧縮性には劣る。この磁性金属粒子がもつ技術課題に対して、以下の二つの方法で解決した。
第一の方法を説明する。還元鉄粉の圧縮成形品に圧縮性と成形性の性能を同時に出現させるため、圧縮性に優れたアトマイズ還元鉄粉と、成形性に優れたミルスケール還元鉄粉との混合粉から構成させた。磁気特性の低下を抑制し、かつ成形後の圧環強度を引き出すために、質量比でアトマイズ還元鉄粉を70%以上で90%以下とし、質量比でミルスケール還元鉄粉を30%以下で10%以上とする。アトマイズ還元鉄粉をこの範囲で混合することで磁気特性を保持し、ミルスケール還元鉄粉をこの範囲で混合することで圧環強度の向上効果が発揮できる。
第二の方法を説明する。圧粉成形用の粒子としては、ミルスケール還元鉄粉は圧縮密度に劣ることが課題であった。この圧縮密度の低下は、ミルスケール還元鉄粉の粒子の窪みにあった。ミルスケール還元鉄粉に加工を施し、この粒子の窪みを修正し、これによって粒子間の絡み合いを実現しつつ、圧縮密度を高めることが出来れば、成形性と圧縮性に優れた還元鉄粉が実現できる。この考えから、ミルスケール還元鉄粉を扁平処理する方法を見出した。
ミルスケール還元鉄粉は次の方法で扁平処理する。予めミルスケール還元鉄粉を用意する。次にミルスケール還元鉄粉をスタンピングし扁平粉に変える。さらに、スタンピング処理によって鉄粉に残った応力を解除するために焼鈍する。図3は、このような方法でミルスケール還元鉄粉を扁平処理した鉄粉の600倍のSEM写真である。
ミルスケール還元鉄粉の扁平処理粉は、ミルスケール還元鉄粉がもつ窪みをスタンピングによって予め潰しておく。これによって扁平処理粉では、加圧成形後に形成される空隙部がミルスケール還元鉄粉に比べて縮小する。この結果、圧縮密度が高まり、加圧後の扁平処理粉の磁気特性が見るスケール還元鉄粉に比べて向上する。
また扁平処理に伴って鉄粉に発生した残留応力を消失させるために、還元雰囲気の500℃から600℃の温度で焼鈍を行う。これは、扁平処理に伴う応力が鉄粉に残った場合は、鉄粉を構成する結晶粒が持つ磁化方向が、結晶粒がもつ本来の磁化容易軸方向から、残留応力が作用することによって曲げられる。これによって、鉄粉に磁界が作用したとき、残留応力が作用することにより、応力が作用しない場合に比べて小さくなる。このために、鉄粉を構成する結晶粒がもつ本来の磁化の大きさを出させるために、結晶粒に作用する応力を消失させておく。
さらにまた扁平処理粉では、ミルスケール還元鉄粉が持っていた窪みを潰すことによって、表面に多数の凹凸が出来る。扁平処理粉に加圧力を加えたときに、この粒子の表面に形成された凹凸によって粒子同士が引っ掛かり、これによって粒子同士の絡み合いが発生する。このため、扁平処理粉でもミルスケール還元鉄粉と同様に、粒子の絡み合いによる粒子間の結合力が得られる。
以上に説明したように圧粉成形用の磁性金属粒子としては、圧縮性と成形性とを兼用する粒子が適切である。このためには、一つの方法として、アトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉との混合物から構成させることがよい。これはアトマイズ還元鉄粉の混合割合を質量比で70%以上とすることでアトマイズ還元鉄粉の長所である圧縮性を保持することが出来、ミルスケール還元鉄粉の混合割合を質量比で10%以上とすることでミルスケール還元鉄粉の長所である成形性を兼用させることが出来る。
さらにまた第二の方法として、磁性金属粒子としてミルスケール還元鉄粉を扁平処理した鉄粉を用いることがよい。これはミルスケール還元鉄粉の欠点である圧縮性の劣っていることを粒子の扁平処理で補い、ミルスケール還元鉄粉の長所である優れた成形性を兼用することが出来る。
(磁性金属酸化物)
(磁性金属酸化物微粒子に求められる機能)
磁性金属酸化物微粒子は、(1)金属磁性粉末の表面に結合することで金属磁性粉末を絶縁化し、(2)金属磁性粉末の表面に形成された絶縁層が作る反磁界の大きさが小さいこと、(3)磁性金属酸化物微粒子で絶縁された磁性金属粒子を圧縮したときに、圧縮密度を妨げる要因にならず磁気ギャップの形成が小さいこと、が求められる性質になる。
前記の3項目の性質を実現させるために、磁性金属酸化物微粒子の性質を、(1)体積固有抵抗の大きさ、(2)粒子の大きさ、(3)粒子の形状の観点から適正な微粒子を選択することが必要になる。
磁性金属酸化物微粒子は、磁性金属粒子の表面に子粒子として結合し、母粒子としての磁性金属粒子を絶縁化させる。このため、子粒子としての磁性金属酸化物微粒子の大きさは、母粒子としての磁性金属粒子の大きさに比べ、二桁近く小さいことが必要になる。
(磁性金属酸化物微粒子の製作方法の選択)
磁性金属酸化物微粒子は、磁性金属粒子の表面に結合させ、磁性金属粒子を絶縁化させる。しかし、この磁性金属酸化物微粒子が形成する絶縁層の厚みが厚くなると、この絶縁層が形成する反磁界が無視できなくなる。このため、磁性金属酸化物微粒子の大きさは、磁性金属粒子に比べて一桁から二桁小さいことが必要になる。磁性金属酸化物微粒子の製作方法は、乾式法と湿式法に分かれる。乾式法は、いわゆる粉末冶金法によって製作される焼結体の磁性金属酸化物を、物理的に粉砕したものである。乾式法によって製作された磁性金属酸化物の粉体を、ミクロンないしはサブミクロンまでの微粒子に粉砕するには、粒子同士を繰り返し繰り返し衝突させることから、長い製作時間が必要になる。また粉砕された粒子の粒度分布が広く、粒径選別が必要になる。このため、微粒子を製作するための製作費用がかかる。一方、液体原料から磁性金属酸化物粒子の原材料を生成し、これを乾式法に比べると相対的に低い温度で焼成させ、磁性金属酸化物の微粒子を製作する、いわゆる湿式法による磁性金属酸化物微粒子は、乾式法に比べサブミクロンまでの微粒子が製作でき、また粒子の粒径も揃っていて粒径選別が不要である。このような考えから、磁性金属粒子の表面に結合させ、磁性金属粒子を絶縁化させる磁性金属酸化物微粒子として、湿式法による磁性金属酸化物微粒子を選択した。工業的な製作方法によって製作される、湿式法による磁性金属酸化物微粒子としては、例えば、戸田工業(株)の各種磁性金属酸化物微粒子がある。
(磁性金属酸化物微粒子の材質の選択)
磁性金属酸化物微粒子は、磁性金属粒子の表面に結合され、磁性金属粒子を絶縁化する。このために適切な磁性金属酸化物微粒子の材質について説明する。湿式法で製作される磁性金属酸化物微粒子として、Ni-Znフェライト、Mn-Znフェライト、マグネタイト、マグヘマイトがある。
Mn-Znフェライトは、Mnイオンがスピネル構造のAサイトとBサイトの両方に入り込むため、高温状態になるほどMnイオンが移動しやすくなる、不安定な物質である。また常温における体積固有抵抗はNi-Znフェライトより102Ω-cm以上小さい。マグネタイトについては、Fe2+のイオンとFe3+のイオンとが同時に存在する。Fe3+イオンに比べ不安定なイオンであるFe2+イオンが、スピネル構造のAサイトとBサイトの両方に入り込み、高温になればなるほどFe2+のイオンが移動しやすくなる不安定な物質である。また体積固有抵抗は104Ω-cmと小さい。また湿式法で作成されたマグネタイトの微粒子は、約200℃の大気中で燃える酸化しやすい微粒子である。
母粒子である磁性金属粒子の表面に、子粒子としての磁性金属酸化物微粒子を結合させて、磁性金属粒子を絶縁化させる磁性金属酸化物微粒子の材質としては、Ni-Znフェライトとマグヘマイトが適切である。なお体積固有抵抗については、マグヘマイトは106Ω-cmの値を持ち、Ni-Znフェライトに比べ体積固有抵抗は102Ω-cm程度小さいが、鉄粒子の絶縁化には十分な抵抗値を持っている。
以上に説明したように、磁性金属粒子の表面に結合させる磁性金属酸化物微粒子の材質は、体積固有抵抗の大きさから、Ni-Znフェライトとマグヘマイトが適切である。なお、湿式法で作成したNi-Znフェライトは、粒状の粒子形状である。また湿式法で作成したマグヘマイトの粒子形状は、アスペクト比が5から15の数値をもつ針状粒子である。また粒子の大きさについては、Ni-Znフェライトは、空気透過法で求めた平均粒径が0.65μmの大きさをもつ微粒子から工業製品として得られる。またマグヘマイトは、比表面積から求めた球近似の平均粒径が0.06μmの大きさの微粒子から工業製品として得られる。
(磁性金属酸化物微粒子の形状と大きさ)
磁性金属酸化物微粒子は、磁性金属粒子の表面に結合させ、磁性金属粒子を絶縁化させる。この絶縁層は以下に述べる反磁界を形成し、また圧縮成形後に形成される磁気ギャップの要因となる。磁性金属酸化物微粒子の粒子の適切な大きさと、適切な粒子形状について、磁性金属酸化物微粒子が形成する反磁界の課題と、磁性金属酸化物微粒子が形成する磁気ギャップの課題から、適正な粒子の大きさと粒子形状を選択することが必要になることが実験の結果から分かった。
ここで、磁性金属酸化物微粒子が形成する反磁界について説明する。磁性金属酸化物微粒子は、粒子の大きさが磁性金属粒子に比べて著しく小さいため、磁性金属酸化物微粒子の飽和磁化の大きさは、磁性金属粒子の飽和磁化の大きさに比べて1/20から1/100と小さい。このため、磁性金属酸化物微粒子で絶縁被覆された磁性金属粒子に磁界を印加した場合、最初に飽和磁化が小さい磁性金属酸化物微粒子が飽和する。さらに大きな磁界を加え、磁性金属粒子を飽和させようとすると、すでに磁化が飽和された磁性金属酸化物微粒子の絶縁層には、印加された磁界と反対方向の磁極が現れ、磁性金属粒子に働く磁界の大きさを縮減させる。これが反磁界の作用である。この反磁界の作用によって、磁性金属粒子の磁化過程は遅れ、磁性金属粒子のみの圧粉体に比べて、印加された磁界の大きさに対する磁性金属粒子の磁化の大きさが小さくなり、より大きい磁界を印加しないと磁化の大きさを確保できなくなるという、反磁界の問題が起こる。
また、磁性金属酸化物微粒子で磁性金属粒子の表面を絶縁被覆するもう一つの問題として、母粒子と子粒子との間、および成形後に隣り合う母粒子の間に空隙が形成される。この空隙は非磁性層となって、磁性金属粒子の磁気特性を悪化させる。
母粒子の表面に摩擦力で子粒子を結合し、こののちこの母粒子を加圧成形し、例えばコア部品とする。この際、母粒子の表面に結合される子粒子は、所定の形状を持った固体粒子であるため、塗膜のように満遍なく母粒子の表面全体を被覆させることは困難で、子粒子と母粒子との間には空隙が必ず存在する。また、この子粒子を結合させた母粒子の表面の凹凸状態は、母粒子のみの場合に比べて変化する。この母粒子の表面状態によって、母粒子の圧縮成形性が変わり、母粒子の表面の凹凸状態によって、隣り合う母粒子の間に空隙が形成される。これらの空隙は非磁性層として作用し、圧縮後の圧縮密度を低減させ、この圧縮密度の低下に比例して、磁気特性が悪化する。
母粒子の表面に形成される絶縁被膜の厚みが薄ければ薄いほど、反磁界の大きさは低減し、絶縁被膜がなくなれば絶縁被膜による反磁界は消失する。湿式法で作成されるNi−Znフェライトとマグヘマイトの中で、粒子の大きさが小さければ小さいほど、絶縁被膜の厚みが薄くなる。しかしNi-Znフェライトおよびマグヘマイトが、前述のようにサブミクロンやサブミクロン以下の微粒子になると、微粒子の質量が極めて小さな値であるため、粒子間に作用する静電気によって粒子が凝集する。凝集された子粒子を摩擦力で母粒子に結合させた場合、子粒子同士の凝集が解除されないまま、母粒子の表面に凝集された子粒子が結合する。これによって、母粒子の表面の平坦度が悪化し、前述の磁気ギャップを形成する。このため、微細な子粒子を用いる場合は、予め子粒子の凝集を解除し、この上で母粒子の表面に子粒子を結合させることが必要になることが分かった。
更にまた、針状形状であるマグヘマイト微粒子を子粒子として用いるときは、針状粒子が母粒子の表面に結合することで、母粒子の表面の凹凸状態が進む。これによって加圧成形後の隣り合う母粒子の間隙が増大し、この結果、針状粒子を子粒子として用いることで磁気ギャップが増大することがわかった。
また、母粒子は所定の粒度分布を持つ。またアトマイズ還元鉄粉およびミルスケール還元鉄粉のいずれもが、球形状からは大きく外れた粒径状の粒子である。またNi-Znフェライトも球形状からは大きく外れた粒径状の粒子である。従って、両者の嵩密度から求めた配合割合で粒子を秤量し、メカノヒュージョン装置(粉末処理装置)に投入して、母粒子の表面に子粒子を結合させた場合、母粒子の表面を満遍なく子粒子で覆うためには子粒子の量が少なくなる。この結果、母粒子の表面に子粒子が偏在した構造で結合され、これによって母粒子表面の平坦度が悪化し、これよっても磁気ギャップが増大することが分かった。
以上に説明したように、磁性金属粒子の表面に摩擦力で磁性金属酸化物の微粒子を結合させ磁性金属粒子を絶縁化し、この絶縁体にした磁性金属粒子を加圧成形し、この圧縮成形体に磁束を伝播させる部品、例えばモータのコア部品として用いるためには、圧縮成形品の磁気ギャップを出来るだけ小さくし、圧縮成形品の圧縮密度を高め、これによって圧縮成形品の磁気特性を向上させることが必要になる。
このためには、磁性金属酸化物微粒子に絶縁性が求められる。磁性金属酸化物微粒子の体積固有抵抗の大きさから、磁性金属酸化物微粒子の材質は、Ni-Znフェライトとマグヘマイトが望ましい。
マグヘマイトは針状の微粒子であり、この針状の微粒子を磁性金属粒子の表面に満遍なく摩擦力で結合させると、磁性金属粒子の表面の平坦度が悪化し、平坦度が悪化した磁性金属粒子を圧縮成形したとき、より大きな磁気ギャップが形成される。
磁性金属酸化物微粒子を摩擦力で磁性金属粒子の表面に結合させる場合は、針状形状の微粒子より粒状形状の微粒子を選択したほうが、磁性金属粒子の表面の平坦度を相対的に悪化させない。このため、マグヘマイトよりNi-Znフェライトが望ましい。
(磁性金属酸化物微粒子の凝集解除)
次に磁性金属酸化物微粒子の絶縁層の厚さを出来るだけ薄くし、磁性金属酸化物からなる絶縁層が形成する反磁界の大きさを小さくする必要がある。このためには、磁性金属酸化物の微粒子の大きさを出来るだけ小さな粒子を選択し、この微粒子を摩擦力で磁性金属粒子の表面に結合させることが求められる。
磁性金属酸化物の微粒子の大きさを小さくすればするほど、磁性金属酸化物微粒子の質量が小さくなり、磁性金属酸化物微粒子の大きさがサブミクロン近くまで小さくなると、磁性金属酸化物の微粒子同士が静電気で凝集する。凝集した磁性金属酸化物微粒子を摩擦力で磁性金属粒子の表面に結合した場合は、磁性金属粒子を圧縮成形した際に、隣り合う磁性金属粒子の空隙が広がり、磁気ギャップを形成する。
この問題は次の方法で解決した。凝集された磁性金属酸化物の微粒子のみをメカノヒュージョン装置に投入し、磁性金属酸化物微粒子同士の衝突で、磁性金属酸化物の静電気による凝集を解除し、磁性金属酸化物微粒子がばらばらになった状態を作り、この上で磁性金属粒子をメカノヒュージョン装置に投入し、磁性金属粒子の表面に磁性金属酸化物微粒子を結合させることで解決した。
(磁性金属酸化物微粒子の投入比率)
更に、磁性金属粒子はアトマイズ還元鉄粉やミルスケール還元鉄粉である。これらの粒子は、溶解した鉄を急冷するときに表面に房状の凹凸が出来る。磁性金属粒子は、球形からは著しく対称性が崩れた異形形状である。またNi-Znフェライトも粒状形状といえども、球形からは外れた粒子形状である。このため、粒子の嵩密度から求めた鉄粉の量とNi-Znフェライトの量とを配合しても、鉄粉の表面全体を満遍なくNi-Znフェライトで被うには、Ni-Znフェライトの量が足りない。Ni-Znフェライトが鉄粉の表面を部分的に結合することで、鉄粉の平坦度が落ち、磁気ギャップを形成する。嵩密度から求めた理論配合比に比べ、Ni-Znフェライトの量を1.3倍から1.4倍の量を鉄粉の量に対し配合し、両者を摩擦力で結合させると、略鉄粉の表面全体にNi-Znフェライトの微粒子が満遍なく結合させることが出来る。これによって鉄粉の平坦度を落とすことなく、Ni-Znフェライトで鉄粉の表面を覆うことが出来、鉄粉の圧縮成形後の磁気ギャップを拡大させずにすむ。
(試料1の作成)
試料1で用いた磁性金属粒子は、アトマイズ還元鉄粉(川崎製鉄(株)製:商品名KIP304AS)である。このアトマイズ還元鉄粉KIP304ASは表1で示した特性を持っている。また磁性金属酸化物微粒子としてはNi-Znフェライト(戸田工業(株)製:商品名FRX6952)を用いた。粒状の粒子であり、空気透過法による平均粒径は0.65μmである。体積固有抵抗は1.0×108Ω‐cmであり、磁気キュリー点は270℃である。Ni-ZnフェライトFRX6852のSEM写真を図4に示す。
次に、メカノヒュ‐ジョン装置(ホソカワミクロン(株)製:商品名AMS‐Lab型)を用いて、摩擦力によって母粒子であるアトマイズ還元鉄粉の表面に、子粒子のNi-Znフェライトを結合させる。母粒子に対する子粒子の添加率αmは式1で求めた量を秤量し、母粒子のアトマイズ還元鉄粉と子粒子のNi-Znフェライト粒子を同時に装置に投入し、装置を稼動させた。この実施例での母粒子の量は3kgである。なお鉄粉の真密度は7.86であり、Ni-Znフェライトの真密度は5.2である。装置の稼動条件は、ケーシングの内周面と圧縮片との間隙は3mmに設定した。またケーシングは圧縮片に対して相対的に700rpmで回転するように設定し、ケーシングは30分間回転させた。またケーシング内に常時窒素ガスを充填させ、酸素を遮断した雰囲気で粒子の結合を行った。
作成した試料1のSEM写真を、図5に示す。上段のSEM写真は、300倍の倍率であり、下段のSEM写真は4000倍の倍率である。下段の拡大SEM写真から、鉄粒子の表面に満遍なくNi−Znフェライトの微粒子が鉄粒子の表面に結合されているように見える。また上段のSEM写真からは、鉄粒子の表面全体が白っぽい微粒子で覆われている状態が見える。
(試料2の作成)
実施例2は、子粒子としてマグヘマイトを用いた事例である。マグヘマイト(戸田工業製:商品名CQX440KC)は、針状の粒子で、アスペクト比は5から15の値をもつ。比表面積から求めた球近似での平均粒径は0.06μmの値をもつ微粒子である。体積固有抵抗は1.0×106Ω‐cmであり、磁気キュリー点は450℃である。また真密度は5.0である。マグヘマイトのTEM写真を図6に示す。
母粒子は試料1と同じ品種のアトマイズ還元鉄粉を用いた。アトマイズ還元鉄粉3kgに対し、試料1と同様にマグヘマイトの添加量を求め、アトマイズ還元鉄粉とマグヘマイトを同時にメカノヒュージョン装置に投入し、装置を稼動させて粒子の結合を行った。装置の稼動条件は、試料1と同じ条件である。
作成した試料の500倍のSEM写真を図7に示す。試料1と同様に鉄粒子の表面全体が白っぽい微粒子で覆われているように見える。
(試料1と試料2の評価)
ここで、全ての子粒子が母粒子に結合されているかどうかを評価するため、試料1と試料2の粒度分布を調べた。図8に試料1の粒度分布の結果を、図9に試料2の粒度分布の結果を示す。粒度分布はレーザー光回折法による。
子粒子として用いた粒子は、試料1では平均粒径が0.65μmの大きさをもつ粒状粒子であり、また試料2では球近似した大きさで平均粒径が0.06μmの針状粒子であった。図8および図9の粒度分布の結果では、子粒子の大きさに該当する粒径の領域に粒子が存在しないことがわかる。この結果から、子粒子であるNi-Znフェライトおよびマグヘマイトは、全てが母粒子のアトマイズ還元鉄粉に結合されていることが分かる。
さらに、作成した試料の表面状態を再度詳細に観察し、子粒子と母粒子との結合状態を調べた。このためにSEMの倍率を上げて、作成した試料の表面状態を観察した。図10は、倍率を15,000倍まで上げた試料1の表面状態のSEM写真である。
母粒子の表面に子粒子であるNi-Znフェライトの粒状粒子が結合されている状況が鮮明に見える。このSEM写真から、子粒子が単数で結合されている部位、また数個から十数個の子粒子が凝集された状態で母粒子の表面に結合されていることが分かる。これによって、母粒子の表面全体を子粒子で覆うには、子粒子の数が足らなくなる。また部分的には子粒子が結合されず、母粒子が表面に現れている部分も見られる。
この結果を裏付けるために、装置に投入する子粒子の粒度分布を調べた。図11は、子粒子として用いたNi-Znフェライトの粒度分布の測定結果である。湿式法で作られた直後のNi-Znフェライト(戸田工業(株)製:品名FRX6952)は、空気透過法で測定した粒子の大きさは、平均粒径で0.65μmの値をもつ粒状粒子である。しかしながら、図11の装置に子粒子として投入するNi-Znフェライトの粒度分布からは、頻度のピークが0.65μmの倍近い粒径であり、また0.65μmの10倍近い粗大粒子が存在している。この結果から、子粒子として装置に投入する以前に、Ni-Znフェライト微粒子は既に粒子の凝集が起こしていることがわかる。
鉄粉の表面にフェライト微粒子を結合させて鉄粉の表面を絶縁化し、絶縁化された鉄粉を圧縮成形し、所定形状のコア部品を作成する場合、フェライト微粒子が形成する絶縁層の厚みが薄ければ薄いほど、フェライト微粒子の絶縁層が形成する反磁界の大きさが小さい。このために、鉄粉の表面に結合させるフェライト微粒子の大きさは小さいことが望ましい。このために、絶縁性に優れたNi-Znフェライトの粒子は、平均粒径で0.65μmという微細粒子を用いた。
しかしながらサブミクロンの微粒子になると、粒子同士が擦れあうことで簡単に静電気が発生し、粒子の質量が極めて小さな値であるため、粒子間に作用する静電気によって粒子が凝集する。子粒子の凝集が解除されないまま、母粒子にこの子粒子を摩擦力によって結合させると、母粒子の表面に結合された子粒子は、凝集された子粒子が結合することになる。試料1はこの結果である。
これによって、母粒子の表面の平坦度が悪化する。図10に示した試料1の表面状態がこれに該当する。このような母粒子を圧縮成形した後には、隣り合う母粒子の間には空隙が形成され易くなる。この空隙は、磁気ギャップとして作用し、圧粉体の磁気特性を低下させることになる。このため、微細な子粒子を用いる場合は、予め子粒子の凝集を解除し、この上で母粒子の表面に子粒子を結合させることが必要になることが分かった。
同じように試料2の作成に用いた子粒子の粒度分布を調べた。結果を図12に示す。湿式法で作られた直後のマグヘマイト(戸田工業(株)製:品名CQX440KC)は、アスペクト比が5から15の値をもつ針状の粒子であり、比表面積から求めた球近似での平均粒径は0.06μmの値をもつ微細な粒子であった。しかしながら、図12の粒度分布の測定結果では、頻度のピークが1.3μmにあり、また10μmを越える粗大粒子も存在する。この結果から、マグヘマイト微粒子についても、装置に投入する以前に粒子の凝集を起こしている。
上記の結果から、簡便な方法で、予め子粒子同士の凝集を解除させ、凝集が解除された微粒子を摩擦力によって母粒子に結合させることが必要になる。本実施例では、最初に子粒子のみをメカノヒュ−ジョン装置に投入し、子粒子同士の衝突で子粒子同士の凝集を解除させることを試みた。
(試料3の作成)
試料3では、試料1で用いたNi-Znフェライトと同一品種のNi‐Znフェライトのみを試料1と同一の量でメカノヒュージョン装置に投入し、ケーシング内周面と圧縮片とのクリアランスを1mmに設定し、ケーシングは圧縮片に対し相対的に500rpmの回転速度で10分間回転させた。
この後、3kgのアトマイズ還元鉄粉を装置に投入し、ケーシング内周面と圧縮片とのクリアランスを3mmに拡大し、ケーシングの回転速度を700rpmに設定し、20分間回転させた。
装置が稼動している雰囲気は、Ni‐Znフェライト粒子のみの回転のときは大気雰囲気であり、母粒子のアトマイズ還元鉄粉を投入した場合は、試料1と同様に窒素雰囲気である。
(試料4の作成)
試料4では、試料2で用いたマグヘマイトと同一の品種のマグヘマイトのみを試料1と同一の量でメカノヒュージョン装置に投入した。その他の条件は試料3と同一である。
(試料3と試料4の評価)
試料1と試料2の評価で行った方法と同様に、15,000倍まで倍率を上げてSEMによって試料3と試料4の表面状態を観察した。試料3のNi-Znフェライトを鉄粉に結合させた試料については、Ni-Znフェライト微粒子の凝集が略解除され、Ni-Znフェライトの一つ一つの微粒子が鉄粉の表面に結合されている状態として観察された。
しかし、試料4のマグネタイトを鉄粉に結合させた試料については、マグネタイト微粒子同士の凝集は殆ど解除されておらず、試料2と同様にマグネタイト微粒子の凝集した塊が鉄粉の表面に結合された状態として観察された。
使用したマグネタイト微粒子CQX440KCは、図6の写真で示されるように針状粒子であり、かつ粒子が微細で、Ni-Znフェライ微粒子FRX6952に比べて、微粒子の質量も小さい。このような微細な針状粒子は、静電気で凝集しやすく、また一旦微粒子が凝集されると針状粒子の絡み合いを解除するには、物理的な力を加えるだけでは困難であることによる。液体にさらし、粒子間に作用する静電気力を解除させたとしても、その後の取り扱いが難しい。
以上に説明したように、体積固有抵抗が相対的に高く、微細な磁性金属酸化物微粒子としてマグヘマイト微粒子があるが、微粒子間の凝集が起こりやすく、また凝集の解除が難しいことから、磁性金属粒子の表面に摩擦力で結合させ、磁性金属粒子を絶縁化させる磁性金属酸化物微粒子としては適さないと考えた。従って、磁性金属粒子の表面に磁性金属酸化物の微粒子を摩擦力で結合させ、磁性金属粒子を絶縁化させる複合磁性材料の作成にあたっては、体積固有抵抗が高く、粒子間の凝集が解除されやすい、Ni-Znフェライトの微粒子が最も望ましいことになる。
本実施例では母粒子がアトマイズ還元鉄粉で子粒子がNi-Znフェライトの組合せにおいて、子粒子の投入量を変えることで、圧粉体の性質がどのように変わるかを検討した。
(試料5の作成)
試料5は試料3に対し、子粒子のNi-Znフェライトの投入量のみを変えた。試料5では、試料3に比べ子粒子のNi-Znフェライトの投入量を1.2倍に増やした。
試料3では子粒子であるNi-Znフェライト微粒子の凝集を解除させた後に、母粒子であるアトマイズ還元鉄粉の表面にNi-Znフェライトを結合させた。この試料3の表面状態を15,000倍に拡大して観察した。略Ni-Znフェライトの単一粒子が、母粒子の表面に略満遍なく結合されているように観察された。しかし、母粒子の表面状態の観察だけで、圧粉体の性質を予測しきれない。このために、子粒子の添加割合を嵩密度から求めた理論量より増大させ、母粒子の表面に満遍なく子粒子を結合させることを試みた。
図1の(a)のアトマイズ還元鉄粉の概観写真で見られるように、母粒子のアトマイズ還元鉄粉の表面は、大小さまざまな大きさの凸部が表面に突出した構造になっている。このため、アトマイズ還元鉄粉の表面には大小さまざまな大きさの凹凸が形成されている。このような母粒子の表面に子粒子を結合する場合においては、母粒子の表面状態は、母粒子の圧粉体の性質から判断するのが適切であるとの考えである。
(試料3と試料5の評価)
試料3と試料5を圧粉体の原料として用いて圧粉体を製作し、圧粉体の性質から試料3と試料5の性質の違いを評価した。圧縮密度と圧環強度から、試料3と試料5の粉体材料の性質を比較評価した。圧粉体の試料は、686MPaの圧力を加え円柱形状とした。円柱形状の成形体の密度を求め、圧縮密度とした。圧縮密度は、圧粉材料の圧縮のしやすさを示す指標であり、また圧縮後に形成される成形体内部の空隙の比率を表す指標にもなるため、圧縮成形体の磁気特性を決める目安にもなる。
圧環強度は、円柱形状の加圧成形体に荷重を加え、加圧成形体の破壊荷重Pを求め、K=P(D−T)/LT2の理論式より圧環強度Kを求めた。なお、D:成形体の外径、T:肉厚、L:全長である。この圧環強度は、圧粉体であるコア部品の機械的強度の指標になる。なお、アトマイズ還元鉄粉のみを用いたときの圧縮密度は、7.35g/cm3、圧環強度は15MPaであった。結果を表2に示す。
試料5の圧粉体は試料3の圧粉体に比べ、圧縮密度が高く、また圧環強度も高い。試料5は子粒子のNi-Znフェライトの投入量が、試料3に比べ1.2倍の量を投入した。試料3と試料5はいずれも、事前にNi-Znフェライト微粒子の凝集を解除している。このため、試料5の母粒子の表面には、試料3の母粒子の表面より1.2倍に近い子粒子が結合されていると推測される。より多くの子粒子を投入し、より多くの子粒子を母粒子の表面に結合することで、圧縮後の圧粉体の空隙が少なくなり、圧縮密度が向上したと推測される。つまり、より多くの子粒子を母粒子に結合することで、母粒子の表面の平坦度が向上し、これによって圧縮時に母粒子の配配列が進み、この結果隣り合う母粒子同士が形成する空隙の体積が減少するとともに、この結果粒子間の結合力も向上したためと推測される。
理想的には、母粒子の表面全体を単一の子粒子で満遍なく被うことである。子粒子が少なくても多くても、子粒子の投入量が適切な量から外れることで、母粒子の表面の平坦度が悪化する。これによって圧粉体の圧縮密度が下がり、圧環強度も低下すると考えられる。
実験によれば、アトマイズ還元鉄粉を母粒子とし、粒状形状のNi-Znフェライトを子粒子とする粒子の組合せでは、子粒子の投入量は嵩密度から求めた理論量の1.1倍から1.3倍の範囲に設定することが適切であることが分かった。
なお、絶縁被覆された鉄粉を686MPaの加圧力で圧縮成形し、この圧粉体をコア部品として用いる場合は、圧縮密度が7.1g/cm3以上で、圧環密度が70MPa以上の数値をもつ必要がある。このため、試料5を圧粉材料として用いる場合には、更なる成形体の圧環強度の向上が必要になる。
本実施例では、母粒子をアトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉との混合物から構成させた事例である。
圧縮成形体の圧環強度を引き上げるためには、母粒子の再配列のみでは圧環強度を飛躍的に向上させることは出来ない。これは、アトマイズ還元鉄粉のみを加圧成形した成形体の圧環強度が、僅かに15MPaの値しか持たないことからいえる。母粒子同士の絡み合いによる母粒子間の結合を引き出すことが求められる。
表1のアトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉の性質から分かるように、ミルスケール還元鉄粉の圧縮成形体は、アトマイズ還元鉄粉の圧縮成形体に比べ、著しくラトラー値が小さい。図2の(a)のミルスケール還元鉄粉のSEM写真で見られるように、ミルスケール還元鉄粉は抉られたような窪みが形成されている。ミルスケール還元鉄粉を圧縮したとき、この粒子の窪みが粒子間の絡み合いを起こし、これによって粒子間の結合力が引き出されるからである。
いっぽう、ミルスケール還元鉄粉の圧縮成形品は、圧縮密度がアトマイズ還元鉄粉の圧縮成形品に比べて小さい。これは前記のミルスケール還元鉄粉がもつ窪みが、圧縮したとしても空隙として残るためである。
鉄粉を加圧成形してコア部品として用いる場合は、圧縮密度が高く圧環強度も高いことが求められる。本実施例では、母粒子をアトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉の混合物で構成させ、アトマイズ還元鉄粉の圧縮密度が大きい長所を生かし、かつミルスケール還元鉄粉の圧環強度が大きい長所を生かすことを考えた。
(試料6の作成)
試料6で用いる母粒子は、アトマイズ還元鉄粉(川崎製鉄(株)製:KIP304AS)を質量比で85%とし、ミルスケール還元鉄粉(川崎製鉄(株)製:KIP240M)を質量比で15%として混合した。この混合鉄粉の3kgを母粒子としてメカノヒュージョン装置に投入した。
試料6で用いる子粒子は、試料1、試料3、試料5で用いたNi-Znフェライト(戸田工業製:FRX6952)と同一品種のものを使用した。試料3と試料5での子粒子の用い方と同様に、予めNi-Znフェライト粒子の凝集を解除させるため、メカノヒュージョン装置にNi-Znフェライトのみを投入した。装置への子粒子の投入量は、式1で求める母粒子3kgに対する理論量に対し、1.25倍の量を秤量し、これをメカノヒュージョン装置に投入した。なお、Ni-Znフェライトの粒子の凝集を解除させるための装置の稼動条件は、試料3と試料5と同一である。
前述したように、ミルスケール還元鉄粉は抉られたような窪みをもつ。図2の(a)のSEM写真に見られるように、この窪みの表面にも大小さまざまな大きさの凸部が表面に突出した構造になっている。このため、この窪みの表面には大小さまざまな大きさの凹凸が形成されている。このような形状をもつミルスケール還元鉄粉の粒子表面に、子粒子であるNi−Znフェライト粒子を満遍なく結合させるために、子粒子の投入量を試料5に比べ増量した。なお試料6ではミルスケール還元鉄粉の混合割合が質量比で15%であるため、子粒子の投入量は、試料5に比べて理論投入量の1.2倍から1.25倍に増やした。
以上に説明した母粒子と子粒子とを材料として、複合磁性材料を製作した。粒子の複合化の方法は、試料3と試料5と同様に、最初に秤量したNi-Znフェライトのみをメカノヒュージョン装置に投入し、大気雰囲気で装置を10分間回転させた。クリアランスは1mmであり、回転速度は500rpmである。この後、質量比で85%のアトマイズ還元鉄粉と質量比で15%のミルスケール還元鉄粉の混合物からなる母粒子3kgを装置に投入する。クリアランスを3mmに拡大し、回転速度を750rpmに設定して、窒素雰囲気で20分間装置を回転させ、複合磁性材料を作成した。
(試料6の評価)
試料6の性質を圧縮成形体の圧縮密度と圧環強度とから評価した。
試料5の圧縮成形体との性能比較を表3に示す。試料6を圧粉材料として用いた圧縮成形品の作成条件、成形品の形状は、試料5と同一である。
試料6を圧粉材料として用いた圧縮成形体の圧環強度は、試料5の圧粉材料を用いたときに比べ約2倍に向上した。いっぽう圧縮密度は若干低下した。母粒子に、アトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉との混合物を用いた効果は得られている。しかしながらコア部品として必要な目標強度の70MPaには乖離している。
圧粉体の圧環強度をさらに増大させるために、母粒子を構成するミルスケール還元鉄粉の配合比率を高めることが考えられる。しかし、ミルスケール還元鉄粉の配合比率を高めることは、アトマイズ還元鉄粉の配合比率を低下させることになる。これによって更に圧縮密度は低下し、圧粉体の磁気特性が低下する。
実施例4の結果から、母粒子をアトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉との混合物から形成させても、目標とする圧環強度からはいまだ乖離した結果となった。圧縮密度を維持しながら圧環強度を飛躍的に向上させるためには、新たな性質の還元鉄粉を用いることが必要になる。本実施例は、ミルスケール還元鉄粉に扁平処理した鉄粉を母粒子として用いた事例である。
ミルスケール還元鉄粉を圧粉材料として用いる場合は、圧縮密度が低いことが課題であった。これは前述したように粒子の構造に起因した。ミルスケール還元鉄粉が持つ粒子の構造上の課題を予め潰し、これを圧粉材料として用いる考えが、ミルスケール還元鉄粉の扁平処理である。
扁平処理は、ミルスケール還元鉄粉の抉られたような窪みを予めスタンピング処理で潰すとともに、ミルスケール還元鉄粉を構成する結晶粒を平坦化させる。粒子の扁平化処理によって、粒子を構成する一つ一つの結晶粒の面積が拡大する。2次元平面での結晶粒が拡大されることで、平面の磁気モーメントの大きさは増大する。さらに、扁平処理に伴い結晶粒内に残存した応力を取り除くことによって、一つ一つの結晶粒内の磁気モーメントは、印加された磁界方向に向き易くなる。このように、ミルスケール還元鉄粉に物理的な力を加え粒子の窪みを無くすことは、単に粒子を扁平化させるのみならず、粒子を構成する結晶粒を扁平化させ、結晶粒の面積を拡大させることになる。これによって、扁平処理粉の平面の磁気特性が大きく改善される、と推測される。
このように扁平処理粉は、扁平処理をしないアトマイズ還元鉄粉やミルスケール還元鉄粉のように、圧縮密度から磁気特性を推定するのではなく、扁平処理に伴う結晶粒の大きさを制御する効果によっても磁気特性の向上が図れる。このため扁平処理粉では、圧縮密度が相対的に低い場合でも、磁気特性が確保できる可能性を持つ。
さらにまた、扁平処理粉は図3の写真に見られるように、粒子の扁平処理に伴い、粒子の一部に被り部位が形成される。この被り部は、粒子表面の不連続な部位となる。この不連続部位は、扁平処理粉の圧縮時に粒子の引っ掛かり部位として作用する。粒子の引っ掛かりによって、粒子の絡み合いが発生し、この絡み合いによって圧粉体の圧環強度が向上する。このように、ミルスケール還元鉄粉の扁平処理粉は、ミルスケール還元粉とは異なるメカニズムによって圧環強度を確保できる可能性を持つと推測した。
上記の考えから、母粒子としてミルスケール還元鉄粉を扁平処理した鉄粉を用いることにより、圧粉体の圧縮密度の向上と圧環強度の向上が同時に図れると考えた。さらに磁気特性については、従来の磁気ギャップとしての圧縮密度の考え方に加え、粒子を構成する結晶粒の制御から磁気特性が向上する可能性を有する。
(試料7の作成)
母粒子としてミルスケール還元粉の扁平処理鉄粉(川崎製鉄(株)製:KIP MG150D)を用いた。子粒子は、試料1、試料3、試料5、試料6で用いたNi-Znフェライト(戸田工業(株)製:FRX6952)と同一品種のものを使用した。
試料3、試料5および試料6での子粒子の用い方と同様に、予めNi-Znフェライト粒子の凝集を解除させるため、メカノヒュージョン装置にNi-Znフェライトのみを投入した。装置への子粒子の投入量は、式1で求める母粒子3kgに対する理論量に対し、1.1倍の量を秤量し、これをメカノヒュージョン装置に投入した。
なお、Ni-Znフェライトの粒子の凝集を解除させるための装置の稼動条件は、試料3、試料5および試料6と同一である。
(試料7の評価)
試料7の性質を圧縮成形体の圧縮密度と圧環強度とから評価した。
試料6の圧縮成形体との性能比較を表4に示す。試料7を圧粉材料として用いた圧縮成形品の作成条件、成形品の形状は、試料6と同一である。
試料7を圧粉材料として用いた圧縮成形体の圧環強度は、試料6の圧粉材料を用いたときに比べ1.6倍に向上した。いっぽう圧縮密度は若干低下した。母粒子に、ミルスケール還元鉄粉の扁平処理粉を用いた効果は得られているが、圧縮密度が低下している。
扁平処理粉は、扁平処理に伴い結晶粒の大きさを制御する効果も得られる。ここで、扁平処理粉の結晶粒の効果を磁気特性の測定から評価した。比較のために試料5の圧粉体の磁気特性も測定した。
試料7と試料5との圧粉材料に686MPaの加圧力を加えて、リング状の成形品を作成した。このリングコアに電線を巻いて、交流磁界におけるB-H特性を測定し、このデータから平均透磁率を求めた。表5は、500Hzで100mTの交流磁界を加えたときのB−H特性からも求めた平均透磁率である。なお比較のために、既に実用化されている圧粉磁性材料として、ヘガネス社のソマロイ550を用いて、試料7と試料5と同一の条件でのデータを取った。ソマロイ550は、アトマイズ還元鉄粉の表面にリン酸鉄の微細な絶縁膜を形成した圧粉材料である。また0.6重量%の割合で、バインダーとしての合成樹脂材を添加している。
試料7を圧粉材料とするリングコアは、圧縮密度が6.7と低いにもかかわらず、平均透磁率はソマロイ550と同等の値を持っている。ソマロイ550は、アトマイズ還元鉄粉の表面に十数ナノメートルのリン酸鉄の被膜によって鉄粉を絶縁化させた圧粉材料である。リン酸鉄で絶縁被覆した鉄粉を圧縮成形しただけでは、アトマイズ還元鉄粉の圧縮成形品と同様に粒子間の結合力は小さい。粒子間の結合を図るためにバインダーを添加している。バインダーはPPS樹脂やエポキシ樹脂などの合成樹脂を用いるが、使用できる温度は250℃程度が限界である。また高温領域での粒子間の結合力が低下する。いっぽう試料7の圧粉材料は、ミルスケール還元鉄粉の扁平処理粉を母粒子とし、扁平処理粉の被り部分で粒子間の結合力をもたらしているので、ソマロイ550のようにバインダーの添加による使用温度の制約を受けない。
以上の実施例の結果から以下のことが分かった。
(1)母粒子である還元鉄粉の表面にフェライトの微粒子を摩擦力で結合し鉄粉を絶縁化させる場合は、フェライトの微粒子からなる絶縁層が薄ければ薄いほど絶縁層の形成する反磁界が小さくなる。
(2)このためには湿式法によるフェライト微粒子を用いるのが適切である。
(3)フェライト微粒子の材質は、体積固有抵抗の大きさからNi-Znフェライトとマグヘマイトが有効である。
(4)フェライト微粒子はサブミクロンレベルまでの粒子の大きさになると、粒子の凝集が簡単に起こり、粒子間の凝集を解除させことが必要になる。
(5)粒子間の凝集が解除されたフェライトを鉄粉の表面に結合させるためには、メカノヒュージョン装置にフェライト微粒子のみを投入し、フェライト粒子の衝突によって粒子間の凝集を解除させ、この後母粒子である還元鉄粉を装置に投入することで、凝集が解除されたフェライト微粒子を還元鉄粉の表面に結合させることが可能なことが分かった。
(6)フェライト微粒子の凝集が解除されやすい物質は、粒状形状をした微粒子が望ましく、針状粒子は微粒子の凝集解除が難しい。体積固有抵抗の大きさと微粒子同士の凝集解除のしやすさから、フェライト微粒子はNi-Znフェライトが望ましい。
(7)母粒子としては磁気特性に優れ安価な還元鉄粉が適切であるが、還元鉄粉は製作方法によって表面に多くの凹凸をもつ。このような還元鉄粉の表面に満遍なくフェライト微粒子を結合させ、還元鉄粉の圧縮成形時の再配列を促進させるには、嵩密度から求めた子粒子の理論投入量の1.1倍から1.3倍の子粒子を投入することで適切であることが分かった。
(8)母粒子として、アトマイズ還元鉄粉とミルスケール還元鉄粉との混合粉を用いることで、アトマイズ還元鉄粉の圧環強度の低さを補い、ミルスケール還元鉄粉の圧縮密度の低さを補うことが出来る。この効果を得るためのミルスケール還元鉄粉の混合割合は、質量比で10〜20%がよいことが分かった。
(9)母粒子としての還元鉄粉のみで圧縮密度と圧環強度をもたせるためには、ミルスケール還元鉄粉を扁平処理した鉄粉を用いるのがよい。この場合、母粒子の圧縮密度は低下するが、扁平処理に伴う結晶粒の面積の拡大によって、磁気特性を向上させることが出来る。
(10)ミルスケール還元鉄粉を扁平処理した鉄粉を母粒子とし、この母粒子の表面に摩擦力で、Ni-Znフェライト微粒子を結合させ、これを圧縮成形した圧粉体は、母粒子同士の絡み合いで母粒子の結合力を引き出し、子粒子は共有結合で母粒子と結合するため、粒子間の結合には一切バインダーを用いていない。このためバインダーの使用による使用温度の制約を全く受けない。
実施形態にて例示したアトマイズ還元鉄粉の粒子構造を示すSEM写真であり、(a)は200倍、(b)は400倍でのSEM写真である。 実施形態にて例示したミルスケール還元鉄粉の粒子構造を示すSEM写真であり、(a)は200倍、(b)は400倍のSEM写真である。 実施形態にて例示したミルスケール還元鉄粉の扁平処理を行ったSEM写真である。 実施例1にて例示したNi−Znフェライト粒子のSEM写真である。 実施例1にて例示した試料1のSEM写真である。 実施例1にて例示したマグヘマイト粒子のTEM写真である。 実施例1にて例示した試料2のSEM写真である。 実施例1にて例示した試料1の粒度分布における粒径と頻度/累積との関係を示したグラフである。 実施例1にて例示した試料2の粒度分布における粒径と頻度/累積との関係を示したグラフである。 実施例1にて例示した試料1における表面の15,000倍でのSEM写真である。 実施例1にて例示したNi−Znフェライトの粒度分布における粒径と頻度/累積との関係を示したグラフである。 実施例1にて例示したマグヘマイトの粒度分布における粒径と頻度/累積との関係を示したグラフである。 実施形態にて複合磁性材料の製造に用いられる粉末処理装置の図である。
符号の説明
10…ケーシング F…内周面
20…枢軸体
31…圧縮片 32…支持体
41…掻き取り片 42…支持体

Claims (9)

  1. 金属磁性粉末と磁性金属酸化物微粉末との接触面に対して圧縮及びせん断力を加えることにより、該金属磁性粉末及び/又は該磁性金属酸化物微粉末の接触面を活性化させ、該金属磁性粉末の粒子表面に該金属酸化物微粉末からなる被膜を被覆させ複合粉末とする被覆工程を有することを特徴とする複合磁性材料の製造方法。
  2. 円筒状の内周面をもつ回転自在なケーシングと、該内周面から所定間隔を介して設けられ且つ該ケーシングに対して相対回転可能な圧縮片及び掻き取り片と、をもつ粉体処理装置を用い、
    該ケーシング内に投入された金属磁性粉末及び磁性金属酸化物微粉末を該ケーシングを回転させることで該内周面に遠心力で押し付けて前記両粉末からなる層を該内周面に形成するとともに、該圧縮片及び該掻き取り片によって該層に対し該両粉末を掻き取り且つ該内周面との間を通過させることにより、該金属磁性粉末及び/又は該磁性金属酸化物微粉末の接触面を活性化させ、該金属磁性粉末の粒子表面に該金属酸化物微粉末からなる被膜を被覆させ複合粉末とする被覆工程を有することを特徴とする複合磁性材料の製造方法。
  3. 前記磁性金属酸化物微粉末はフェライトである請求項1又は2に記載の複合磁性材料の製造方法。
  4. 前記磁性金属酸化物微粉末はNi−Znフェライト又はマグヘマイトの平均粒径が1μm以下の微粒子である請求項1から請求項3のいずれかに記載の複合磁性材料の製造方法。
  5. 前記金属磁性粉末はアトマイズ還元鉄粉末及びミルスケール還元鉄粉末の混合物である請求項1から請求項4のいずれかに記載の複合磁性材料の製造方法。
  6. 前記金属磁性粉末全体の質量に対し、前記アトマイズ還元鉄粉末が70%以上90%以下、前記ミルスケール還元鉄粉末が10%以上30%以下である請求項5に記載の複合磁性材料の製造方法。
  7. 前記金属磁性粉末はミルスケール還元鉄粉を扁平処理した粉体である請求項1から請求項4のいずれかに記載の複合磁性材料の製造方法。
  8. 金属磁性粉末と磁性金属酸化物微粉末との接触面に対して圧縮及びせん断力を加えることにより、該金属磁性粉末及び/又は該磁性金属酸化物微粉末の接触面が活性化され、該金属磁性粉末の粒子表面に該金属酸化物微粉末からなる被膜が被覆したことを特徴とする複合磁性材料。
  9. 前記磁性金属酸化物微粉末は、Ni−Znフェライト又はマグヘマイトの平均粒径が1μm以下の微粒子であるか、または、
    前記金属磁性粉末は、アトマイズ還元鉄粉末及びミルスケール還元鉄粉末の混合物である請求項8に記載の複合磁性材料。
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