JP2005083284A - 内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents

内燃機関の燃料噴射制御装置 Download PDF

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康二 吉崎
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Hiroki Murata
宏樹 村田
Yoshinobu Hashimoto
佳宜 橋本
Kazuhisa Inagaki
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Abstract

【課題】 機関燃焼室内のガスの特性が過渡的に変動する場合であれ、機関燃焼状態を安定化することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 エンジン1の運転状態を統括制御する電子制御ユニット32は、燃料噴射時期より前の特定時刻CA1における燃焼室2内のガスの温度T1を、同時刻CA1における筒内圧PS1、体積V1、重量G1の関数として算出し、さらにこの特定時刻CA1における温度T1に基づいて、エンジン1の燃焼状態を安定させるために最適な燃料噴射時期を決定する。この結果、燃焼室2内に充填されたガスの特性を直接把握し、この特性を、その直後に採用される(例えば同一の燃焼サイクルで採用される)燃料噴射時期に反映させることが可能になる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、内燃機関の燃料噴射時期を制御する装置に関する。
従来、例えばディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)では、燃焼室内の空気を圧縮することによって高温化し、その高温化された空気中に燃料を噴射供給する。噴射供給された燃料は、燃焼室内の高温の空気に晒され速やかに自着火し、燃焼することによって機関出力を発生する。
ここで、エンジンの燃焼状態は、噴射供給された燃料が晒される燃焼室内の環境(例えば圧力、温度等)に大きな関連がある。また、燃焼室内の環境は刻々と変化する。このため、燃料を噴射供給する時期(以下、燃料噴射時期という)を最適化する制御を行うことにより、エンジンの燃焼状態を安定させることが可能である。
例えば特許文献1には、エンジンの冷却水の温度が低いほど燃料噴射時期を進角し、エンジンの燃焼状態を安定化する方法が記載されている。
さらに、特許文献2には、エンジンの冷却水の温度に加え、エンジン回転数及び燃焼室内の酸素濃度を加味し、エンジンの燃焼状態を最適化する燃料噴射時期を設定する方法が記載されている。
実開平1−8673号公報 特開2003−27997号公報 特開平8−296469号公報 特開2001−82232号公報 特開2001−254645号公報 特開平11−210522号公報
ところで、近年、排気の一部を吸気通路に還流することによりいわゆる外部EGR(Exhaust Gas Recirculation)量を制御する機能を備えたエンジンや、吸気バルブの動作特性を変更することによりいわゆる内部EGR量を制御する機能を備えたエンジンが知られている。外部EGR量や内部EGR量の制御は、排気特性の向上に貢献する一方、燃焼室内に導入されるガスの特性を過渡的に変動させる機会を多くつくってしまう。
しかしながら、上記特許文献1又は2において採用されるエンジンの冷却水の温度、エンジン回転数及び燃焼室内の酸素濃度等のパラメータは、外部EGR量や内部EGR量の制御に伴って過渡的に変動する燃焼室内のガスの特性(例えば温度)を反映するパラメータとして、十分な追従性を保証するものではない。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、機関燃焼室内のガスの特性が過渡的に変動する場合であれ、機関燃焼状態を安定化することのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明は、
(1)内燃機関の燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁の燃料噴射
動作を制御する制御手段と、前記燃料噴射弁が燃料を噴射する時期を当該機関の運転状態に基づいて決定する燃料噴射時期決定手段と、当該機関の圧縮行程の特定時期における前記燃焼室内の温度に関連するガス特性を把握するガス特性把握手段と、前記決定された燃料噴射時期を前記把握されるガス特性に基づいて補正する補正手段と、を備えることを要旨とする。
同構成によれば、機関の燃焼状態に直接影響を及ぼすパラメータである燃焼室内の温度の変動を燃料噴射時期の制御に反映することができる。この結果、例えば燃焼室に導入されるガスの特性が変動し、当該機関の運転状態に基づいて決定された燃料噴射時期が、機関燃焼状態を安定させる上で最適な値からずれた場合であれ、このようなずれを速やかに修正することができる。
なお、燃料噴射時期における燃焼室内の温度は、当該機関の燃焼状態(着火遅れ期間や、概ねこの着火遅れ期間に依存する燃焼状態の安定性を含む)を決定づける主要因の一つであるにも関わらず、その実測が極めて難しい。一方、圧縮行程にある機関の燃焼室は閉鎖された空間を形成することから、圧縮行程における燃焼室内のガスの特性変化は断熱圧縮に近いものとなる。このため、燃焼室内の温度を実測しなくとも、その温度に関連するパラメータ(例えば圧力)を把握し、そのパラメータに基づいて燃料噴射時期を補正すればよい。このような制御を行うことにより、圧縮行程における燃焼室内の温度の推移を、燃料噴射時期の制御に高い精度で反映させることができる。
(2)また、前記特定時期は、前記燃料噴射時期決定手段により決定された燃料噴射時期であるのが好ましい。
同構成によれば、燃料噴射時期における燃焼室の温度について、最適値からのずれを直接把握し、修正することになる。この結果、機関の燃焼状態を制御する上で、その再現性、信頼性を一層高めることができる。
(3)前記燃焼室のガス特性は、少なくとも前記燃焼室内のガスの圧力であることが好ましい。
断熱状態におけるガスの圧力、重量及び温度の関係は、その体積が定まれば、気体の状態方程式に従って基本的には一義的に定まる。従って、同構成によれば、燃焼室内のガス温度に基づく燃料噴射時期の補正を高い精度で行うことができる。
また、前記燃焼室内のガスの圧力を検出するセンサを備えるのが好ましい。
同構成によれば、燃焼室内のガスの圧力の実測値を利用し、実質的には燃焼室内のガス温度に基づく燃料噴射時期の補正を高い精度で行うことができる。
(4)前記補正手段は、前記ガス特性把握手段により把握されたガス特性から前記特定時期における燃焼室内のガス温度を推定し、前記特定時期における燃焼室内のガス温度が所定の目標値よりも低い条件下では前記決定された燃料噴射時期を進角させる補正を行い、前記特定時期における前記燃焼室内のガス温度が所定の目標値よりも高い条件下では前記決定された燃料噴射時期を遅角させる補正を行うのが好ましい。
なお、「前記特定時期における燃焼室内のガス温度が所定の目標値よりも低い条件」及び「前記特定時期における燃焼室内のガス温度が所定の目標値よりも低い条件」は、前記燃焼室内のガス温度に関連するパラメータに基づいて把握できる。
同構成によれば、前記燃焼室に流入するガスの特性が過渡的に変化する場合であれ、噴射燃料の着火遅れ期間を最適値に保持することができる。
(5)前記補正手段は、前記ガス特性の把握される燃焼サイクルと同一の燃焼サイクル中における燃料噴射時期を補正するのが好ましい。
同構成によれば、燃焼室に流入するガスの特性の過渡的な変化に対応する制御としての応答性が一層高まる。
本発明によれば、燃焼室に流入するガスの特性の変動に対し、高い応答性で燃料噴射時期を最適化することができる。この結果、機関の運転状態が過渡的に変化するような場合であれ、燃焼状態の安定性を確保することができる。
以下、本発明を車載内燃機関に適用した第1の実施の形態について説明する。
〔エンジンの基本構造及び機能〕
図1に示すように、エンジン1は、吸入行程、圧縮行程、爆発行程(膨張行程)及び排気行程の4サイクルを繰り返して出力を得る内燃機関である。エンジン1は、その内部に燃焼室(シリンダ)2を形成する。燃焼室2で発生する燃料の爆発力は、ピストン3及びコンロッド4を介してクランクシャフト(図示略)の回転力に変換される。また、燃焼室2には、吸気通路5の最下流部をなす吸気ポート5Aと、排気通路6の最上流部をなす排気ポート6Aとが設けられている。
吸気ポート5Aと燃焼室2との境界は吸気弁5Bによって開閉される。また、排気ポート6Aと燃焼室2との境界は排気弁6Bによって開閉される。
吸気弁5Bは、吸気弁可変機構(可変動弁機構)22によって開閉駆動される。軸部材の先端に弁体を備え、その軸部材の後端を、クランクシャフトの回転に連動して回転する吸気カム21に当接させている。吸気弁5Bは、基本的にはクランクシャフトの回転に同期して往復運動(開閉弁動作)を繰り返す。吸気弁可変機構22は、吸気弁5Bの開きタイミング及び閉じタイミング(バルブタイミング)を可変制御することができる。また、排気弁6Bは、吸気弁5Bと同じく軸部材の先端に弁体を備え、その軸部材の後端を、クランクシャフトの回転に連動して回転する排気カム31に当接させている。排気弁6Bは、排気カム31によって駆動され、クランクシャフトの回転と正確に同期した往復運動(開閉弁動作)を繰り返す。
エンジン1は、燃料噴射弁10を備える。燃料噴射弁10は、先端部(燃料の噴射口)を燃焼室2に晒す。燃料噴射弁10は、高圧ポンプ(図示略)等によって加圧された燃料を、燃焼室2に適宜の量、適宜のタイミングで噴射供給する電磁駆動式開閉弁である。
また、エンジン1には、吸気通路5と排気通路6とを連通する排気還流(EGR:Exhaust Gas Recirculation)通路5が形成されている。このEGR通路40は、排気の一部を適宜吸気通路5に戻す機能を有する。EGR通路40には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路40を流れる排気(EGRガス)の流量を自在に調整することができるEGR弁41が設けられている。
エンジン1は、運転者によるアクセルペダル(図示略)の踏込量ACCに応じた信号を出力するアクセルポジションセンサ(図示略)、クランクシャフト(図示略)の回転速度
(エンジン回転数)NEを出力する回転速度センサ、吸気通路5を通じて燃焼室2に導入される空気の流量(吸入空気量)GAに応じた信号を出力するエアフロメータ51、吸気通路5内のガス圧(吸気圧)PMに応じた信号を出力する吸気圧センサ52、燃焼室2内のガス圧(筒内圧)PSに応じた信号を出力する筒内圧センサ53等の各種センサを備える。各種センサの信号は、電子制御ユニット(Electronic Control Unit:ECU)32に入力される。
ECU32は、CPU、RAM、ROM等からなる論理演算回路を備え、各種センサの信号に基づいてエンジン1の各種構成要素を統括制御する。例えば、ECU32は、エンジン1の運転状態に基づく燃料噴射弁10の操作(燃料噴射制御)を行い、適宜の量の燃料を適宜のタイミングで燃焼室2に供給する。
なお、ECU32は、燃料噴射弁10等と併せて本実施の形態におけるエンジン1の制御装置を構成する。
〔外部EGR制御〕
ECU32は、各種センサの検出信号から把握されるエンジン1の運転状態に基づき外部EGR制御を実施する。本実施の形態において外部EGR制御とは、EGR通路40に設けられたEGR弁41を操作して、EGR通路40を通過するガスの流量、言い換えれば排気通路6から吸気通路5に還流される排気流量(外部EGR量(率))の調整を行う処理をいう。
目標となるEGR弁61の開弁量(以下、目標開弁量)は、基本的にはエンジン1の負荷や回転数等の運転状態に基づき、予め設定されたマップ(図示略)を参照して決定される。ECU80は、この目標開弁量をエンジン1の運転中所定時間毎に更新し、逐次、EGR弁61の実際の開弁量が更新された目標開弁量に合致するよう同EGR弁61の駆動回路に指令信号を出力する。
外部EGR量が高まると、燃焼室2に導入されるガス中の不活性ガス量が増大する。この結果、燃焼ガスの温度が下がり排気中のNOx量が減少する。
〔内部EGR制御〕
ECU32は、各種センサの検出信号から把握されるエンジン1の運転状態に基づき内部EGR制御を実施する。本実施の形態において内部EGR制御とは、吸気弁可変機構22を用いて吸気弁5Bのバルブタイミングを可変制御することにより、燃焼行程後、燃焼室2に残留したガスの一部を吸気ポート5Aに戻す処理をいう。
例えばエンジン1が特定の運転状態にあるとき、吸気弁可変機構22を用いて吸気弁5Bの開きタイミングを早め吸気弁5B及び排気弁6Bの何れもが開弁状態になる期間(いわゆるバルブオーバラップ期間)を長くすると、燃焼行程後、燃焼室2に残留したガスの一部が吸気ポート5Aに吹き返される。この残留ガスの吹き返し量(内部EGR量(率))を増大させることにより、外部EGR量を増大させる場合と同様の効果を得ることができる。
〔燃料噴射時期の補正制御〕
ECU32は、エンジン1の運転状態、例えばアクセルペダルの踏込量ACC及びエンジン回転数NE等に基づいて、一燃焼サイクル中において燃焼室2に供給される燃料量(燃料噴射量)Qを決定する。
さらに、ECU32は、燃料噴射弁10を通じて燃焼室2内に燃料を噴射する時期の基
本値(基本噴射時期)CAINJBを決定する。基本噴射時期CAINJBは、燃費の軽減、騒音の減少、排気特性の向上等といった観点から、燃料噴射量Q等に基づき予め設定されたマップを用いて決定される。より具体的には、マップ上において、基本噴射時期CAINJBは、圧縮上死点近傍の所定クランク角を基準としてエンジン回転数NEが高いほど、また燃料噴射量Qが多いほど進角するように設定される。また、外部EGR量又は内部EGR量が増大するほど任意のクランク角に対応する燃焼室2内のガスの温度は低くなる。基本噴射時期CAINJBにおける燃焼室2内のガスの温度は、エンジン1の燃焼状態の安定性を決定づける重要なパラメータである。このため、同じくマップ上において、基本噴射時期CAINJBは、外部EGR量が多いほど、また内部EGR量が多いほど遅角するように設定される。
このような特性を有するマップを参照して基本噴射時期CAINJBを設定することにより、着火遅れ期間が最適化され、エンジン1の燃焼状態の安定性が確保される。
ところで、外部EGRはエンジン1の運転状態及びEGR弁41の開度に依存するパラメータであり、内部EGRはエンジン1の運転状態及び可変動弁機構22の機能(バルブタイミング)に依存するパラメータである。しかし、EGR弁41が動作した後、その動作の影響が燃焼室2内に吸入されるガスの特性に及ぶまでに所定の応答遅れが存在する。また、可変動弁機構22の機能に基づいてバルブタイミングが変更された後、その影響が燃焼室2内に吸入されるガスの特性に及ぶまでにも所定の応答遅れが存在する。つまり、例えば内部EGR量をエンジン1の運転状態及びEGR弁41の開度から一義的に求め、単にその算出値に基づいて基本噴射時期CAINJBを決定した場合や、外部EGR量をエンジン1の運転状態及びバルブタイミングから一義的に求め、単にその算出値に基づいて基本噴射時期CAINJBを決定した場合、エンジン1の燃焼状態を安定させるために最適な燃料点火時期を設定(制御)する上で、十分な制御精度を得ることは困難である。とくに、燃焼室2に流入するガスの量や特性が過渡的に変動する条件下において、その制御精度は低下する傾向にある。
そこで、本実施の形態にかかるエンジン1のECU32は、圧縮行程において密閉された燃焼室2内のガスの特性をより直接的に把握し、その特性に基づいて基本噴射時期CAINJBを補正する。
図2は、運転中のエンジン1において、クランク角に対応する燃焼室内の圧力(筒内圧PS)であって、とくに圧縮行程から爆発工程に亘る筒内圧の変化を示すタイムチャートである。圧縮行程では、燃焼室2内の圧力上昇に伴い、燃焼室2内の温度が上昇する。燃焼室2内の温度がある程度まで上昇した時点(CAINJB)で燃料が噴射供給されると、この噴射された燃料が所定の着火遅れ期間をおいて自着火することにより、燃焼行程が始まる。
ところで、理想気体では、圧力P、体積V、重量G及び温度Tの関係について、以下の状態式(A)が成り立つことが周知である。
PV=GRT …(A)
但し、R:ガス定数(Nm/kgK)
つまり、任意の時刻CA1における燃焼室2内の温度T1は、その時刻CA1におけるその空間(燃焼室2)内のガスの圧力(筒内圧)PS1、体積V1及び重量G1の関数として、これらのパラメータPS1,V1,G1から一義的に算出することができる。
そこで、本実施の形態にかかるエンジン1のECU32は、(1)先ず、時刻CA1における筒内圧PS1は、筒内圧センサ53を用いて直接検出する。(2)また、時刻CA
1における燃焼室2内のガスの体積V1(燃焼室2の容積)は、クランク角CAに対応する値として予め知ることができる。
(3)さらに、燃焼室2内のガスの重量G1は、燃焼室2に吸入されるガスの圧力、そのガスの温度T1及びそのガスに含まれる成分組成とに基づいて算出する。なお、燃焼室2に吸入されるガスの圧力は吸気圧センサ52の出力信号に基づいて求めることができる。また、燃焼室2に吸入されるガスの温度は、温度センサ(図示略)等を用いて検出することができる。また、燃焼室2に吸入されるガスの成分組成は、燃焼室2に流入する新気の量(エアフロメータ52の出力信号に対応する値)と、外部EGR量と、内部EGR量とに基づいて推定することができる。
ここで、内燃機関における圧縮行程を断熱圧縮行程であるとすると、圧力Pと、体積Vの間には次の関係式が成立することが周知である。
PVκ=一定 …(B)
但し、ここでκは比熱比である。
そして、この(B)式及び前述の(A)式を用い、さらに上記で求めた時刻CA1におけるガスの圧力PS1、体積V1及び重量G1の値と、基本噴射時期CAINJBについて一義的に知ることができる体積V2の値とを用いて、基本噴射時期CAINJBにおける燃焼室2内の温度(応答遅れを考慮した推定温度)T2を求める。また、エンジン1の運転状態(NE,Q)、外部EGR量(EGR弁41の開度)及び内部EGR量(バルブタイミング)に基づいて推定される値(応答遅れを考慮しない推定温度)T2′を求める。
そして、これら2つの推定温度T2,T2′間の相違を反映する補正値(例えば両値の偏差又は比率)を用いて、基本噴射時期CAINJBを補正する。
このようにして基本噴射時期CAINJBを補正することにより、例えば外部EGR量や内部EGR量が過渡的に変動する条件下であれ、安定した機関燃焼状態を保証することができる。
〔具体的な制御手順〕
図3は、本実施の形態にかかる燃料添加時期補正制御の具体的な手順(ルーチン)を示すフローチャートである。ECU32は、エンジン1の運転中、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程及び排気行程からなる燃焼サイクル毎に本ルーチンを実行する。ECU32は、本ルーチンを周期的に実行することにより、燃焼室2に吸入されるガスの特性を把握しそのガスの特性に見合う燃料噴射時期を決定する処理を燃焼サイクル毎に完結する。
本ルーチンにおいて、ECU32は先ずステップS101で、今回の燃焼サイクルに適用される燃料噴射量Qの決定に必要な情報を取得する。また、今回の燃焼サイクルに適用される燃料噴射時期の候補値TCADの決定に必要な情報(燃料噴射量を除く)を取得する。
ステップS102においてECU32は、今回の燃焼サイクルに適用される燃料噴射量Qを決定する。また、今回の燃焼サイクルに適用される燃料噴射時期の候補値TCADを決定する。
ステップS103においてECU32は、所定時刻(クランク角)C1における燃焼室2内の温度T1の推定に必要な情報として、時刻CA1における筒内圧PS1、燃焼室2内のガスの体積V1及び燃焼室2内のガスの重量G1を把握する。
ステップS104においてECU32は、温度T1を推定する。なお、なお、温度T1に基づく温度T2の推定には、予め設定されたマップ又は関数式を利用すればよい。
ステップS105においてECU32は、燃料噴射時期の基本値CAINJに対応する燃焼室2内のガスの温度を、ステップS104で推定した温度T1に基づく推定値T2として算出する。また、同じく燃料噴射時期の基本値CAINJに対応する燃焼室2内のガスの温度を、予め設定されたマップ(図示略)上の推定値T2′として把握する。
ステップS105においてECU32は、両推定値T2,T2′の差分に基づいて、燃料噴射時期の基本値CAINJを補正する。このときECU32は、推定値T2が推定値T2′より低い場合には実際の燃料噴射時期を基本値CAINJよりも遅角する。一方、推定値T2が推定値T2′よりも高い場合には実際の燃料噴射時期を基本値CAINJよりも進角する。
ステップS105における処理を経た後、ECU32は本ルーチンを一旦抜ける。
なお、ECU32は、今回のルーチンで決定される燃料噴射時期(補正後の値)を採用し、別途ルーチンを通じて燃料噴射弁10を駆動することにより、燃焼室2内への燃料噴射を実行する。
このような制御構造を採用して燃料噴射時期を補正する本実施の形態の制御装置によれば、燃焼室2内におけるガスの特性(とくに温度特性)に対応する最適な燃料噴射時期を設定する。
ここで、従来の装置では、例えば予め設定されたマップを参照し、エンジン回転数NE、燃料噴射量Q、EGR弁の開度及びバルブタイミング等に基づいて燃料噴射時期を決定していた。しかしながら、駆動装置(EGR弁や可変動弁機構)の動作した後、この動作に基づいて外部EGR量や内部EGR量が変化し燃焼室2内のガスの特性に影響を及ぼすまでには所定の応答遅れがある。
このため、上記従来の装置では、外部EGR量や内部EGR量が圧縮行程から燃焼行程に亘る燃焼室2内のガスの温度を決定づける主要な因子の一つであるにも関わらず、これら因子の変動を正確に反映した燃料噴射時期の制御が行っていなかった。
この結果、エンジン回転数NEやエンジン負荷(燃料噴射量Q)等に代表されるエンジン1の運転状態が過渡的に変動する場合、又は外部EGR量や内部EGR量が過渡的に変動する場合のように、圧縮行程から燃焼行程に亘る燃焼室2内の温度推移(プロフィール)が変動した場合、エンジン1の燃焼状態が不安定となり、騒音、排気特性の悪化、失火等が起きる懸念があった。
なお、特定のクランク角に対応する燃焼室2内の温度を直接検出する温度センサを採用すること、又はエンジン1の運転状態に基づいて推定することは、技術的に困難である。
この点、本実施の形態の制御装置によれば、燃料噴射時期より前の特定時刻CA1における燃焼室2内のガスの温度T1を、同時刻CA1における筒内圧PS1、体積V1、重量G1の関数として算出し、さらにこの特定時刻CA1における温度T1に基づいて、エンジン1の燃焼状態を安定させるために最適な燃料噴射時期を決定する。このため、燃焼室2内に充填されたガスの特性を直接把握し、この特性を、その直後に採用される(例えば同一の燃焼サイクルで採用される)燃料噴射時期に反映させることが可能になる。従って、エンジン1の運転状態の変動や、外部EGR量や内部EGR量の変動による影響を回避し、エンジン1の燃焼状態を最適化することができる。
さらに、外部EGR量や内部EGR量の変動ばかりでなく、例えば圧縮比の変動等、燃焼室2に流入するガスの特性の変動に対し、燃料噴射時期を最適化する制御の応答性を高めることができる。
また、本実施の形態によれば、任意の燃焼サイクルの特定時刻CA1における燃焼室2内のガスの温度T1に基づいて燃料噴射時期を補正した場合、その補正された燃料噴射時期は、同一の燃焼サイクルにおいて適用することが可能となる。この結果、外部EGR量燃焼室2に流入するガスの特性の過渡的な変化に対応する制御として、その応答性が高まる。
なお、特定時刻C1は、圧縮行程におけるどのような時刻(クランク角)を設定してもよい(例えば、特定時刻C1を基本燃料噴射時期CAINJより遅い時刻に設定することも可能である)。ただし、特定時刻C1を早期に設定するほど、温度T1の推定後、温度T2,T2′を推定するまでの許容時間が長くなる。この結果、任意の燃焼サイクルで得た基本噴射時期CAIJの補正量を同一の燃焼サイクルにおける燃料噴射時期に反映しやすくなる。
また、本実施の形態では、基本噴射時期CAINJより前の特定時刻CA1における燃焼室2内のガスの温度T1を、同時刻CA1における燃焼室2内の圧力PS1、体積V1、重量G1の関数として算出する制御構造を採用した。これに対し、基本噴射時期CAINJBより前の特定時刻CA1における燃焼室2内のガスの温度T1を、同時刻CA1における筒内圧PS1及び体積V1の関数として、又は重量G1及び体積V1の関数として算出する制御構造を適用しても、本実施の形態に準ずる効果を奏することはできる。
また、本実施の形態によるように、燃焼室2内の圧力(筒内圧)PSを筒内圧センサ53の出力信号に基づいて把握することで、燃焼室2内の温度の推定に高い精度を確保することができる。ただし、エンジン1の運転状態に基づいてその圧力PSを推定するようにしても、本実施の形態に準ずる効果を奏することはできる。とくにこの場合、基本噴射時期CAINJBより前の特定時刻CA1における燃焼室2内の温度T1を推定しなくても、基本噴射時期CAINJBにおける燃焼室2内の温度T2を、上述した温度T1の推定方法と同様の方法で、直接推定することができる。言い換えれば、「特定時刻CA1=基本噴射時期CAINJ」とすることになる。任意の燃焼サイクルで得た基本噴射時期CAINJの補正量を同一燃焼サイクルでの基本噴射時期CAINJBの補正に反映することは難しくなる(制御の応答性はやや低下する)。しかし、基本噴射時期CAINJBにおける燃焼室2内の温度について、最適値からのずれを直接把握し、修正することになるため、(基本噴射時期CAINJBの)補正量の精度はむしろ高まる。
また、本実施の形態では、(A1)燃料噴射時期より前の特定時刻CA1における燃焼室2内のガスの温度T1を、同時刻CA1におけ筒内圧PS1、体積V1、重量G1の関数として算出し、(A2)この特定時刻CA1における温度T1に基づいて基本噴射時期CAINJBにおける燃焼室2内の温度T2を推定し、(A3)さらに、この温度(推定値)T2と、予め設定されたマップ(図示略)上の推定値T2′とを比較し、その比較結果に基づいて基本噴射時期CAINJBを補正する制御構造を採用した。
このような制御構造に限らず、(B1)燃焼室2内のガスの温度T1を、同時刻CA1における筒内圧PS1、体積V1、重量G1の関数として算出し、(B2)この温度(推定値)T1と、予め設定されたマップ(図示略)上の推定値T1′とを比較し、その比較結果に基づいて基本噴射時期CAINJBを補正する制御構造を採用しても、本実施の形態に準ずる効果を奏することができる。
また、本実施の形態では、特定時刻CA1における温度T1の推定に際し、基本的には、理想気体の状態方程式に基づく圧力PS1、体積V1、重量G1及び温度T1の関係を利用する説明をした。しかしこれに限らず、燃焼室2に流入するガスの他の特性(例えば比熱)を反映した一層精密なモデル(状態方程式)を用いて、温度T1を導き出すことも可能である。この場合、例えばエアフロメータ51及び吸気圧センサ52の出力信号から把握される外部EGR率及び内部EGR率等の情報を基に、燃焼室2に流入するガスの比熱を推定することができる。
〔低温燃焼の実行を含む制御構造への対応〕
EGR制御を実行することによって排気の一部が吸気通路5に還流されると、その還流量(EGRガスの流量)に応じ機関燃焼に供される混合気中の不活性ガス成分が増量することになる。排気還流量(混合気中の不活性ガス成分量)を増大させていくと、ある限界値を越えたところから排気中に発生する煤の量が急増しはじめ、排気還流量がある値に達したところで煤の発生量は最大となる。この煤の発生量の最大値に対応する値を上回る領域で排気還流量をさらに増大させると、煤の発生量は逆に抑制されるようになる。このように、この煤の発生量の最大値に対応する値を上回る領域で排気還流を行う燃焼モードを低温燃焼モードという。なお、この煤の発生量の最大値に対応する値を上回る領域とは、エンジン1の運転状態にもよるが、例えばEGR率(排気還流量/(排気還流量+吸入空気の流量))が概ね55%を上回る領域に相当する。低温燃焼モードにおいては、排気中に煤がほとんど発生しなくなる他、エンジン1の燃焼温度が低下し、排気中のNOx量も低減されるようになる。
低温燃焼を実行するにあたっては、排気中の煤の発生を抑制するための(煤を発生させる運転領域を回避するための)条件に適合する燃料噴射時期の範囲が狭いため、その制御に高い緻密性が要求される。従って、外部EGR量や内部EGR量が過渡的に変動する条件下と同様、エンジン1の燃焼状態の安定性を保証する上で、本実施の形態にかかる燃料噴射時期の補正制御がきわめて有効に機能する。
〔パイロット噴射の実行を含む制御構造への応用〕
ディーゼルエンジンでは一般に、圧縮行程終期において、燃焼室内が燃料の自己着火を誘発する温度に達する。とくにエンジンの運転状態が中高負荷領域にある場合、燃焼に供される燃料が燃焼室内に一括して噴射供給されると、この燃料は騒音を伴い爆発的に燃焼する。パイロット噴射を実行することにより、主噴射に先立って供給された燃料が熱源(或いは火種)となり、その熱源が燃焼室内で徐々に拡大して燃焼に至るようになるため、燃焼室内における燃料の燃焼状態が比較的緩慢となり、しかも着火遅れ時間が短縮されるようになる。このため、機関運転に伴う騒音が軽減され、さらには排気中のNOx量も低減される。
上記実施の形態では、燃料噴射時期より前の特定時刻C1における燃焼室2内のガスの温度T1を推定し、この推定値に基づいて燃料噴射時期を補正(進角又は遅角)するようにした。しかし、上記のようなパイロット噴射の実行を含む制御構造においては、(燃焼室2内のガスの温度に基づいて)燃料噴射時期を遅角する代わりに、パイロット噴射を中止するといった制御を行うことにしてもよい。パイロット噴射を中止することによっても、着火遅れ期間を長くすることができるためである。
本発明の第1の実施の形態にかかるディーゼルエンジンの概略構成図。 ディーゼルエンジンの圧縮行程から燃焼行程に亘る燃焼室内の圧力(筒内圧)の推移を示すタイムチャート。 本発明の実施の形態において適用される燃料噴射時期の補正制御手順を示すフローチャート。
符号の説明
1・・・エンジン
2・・・燃焼室
3・・・ピストン
5・・・吸気通路
5A・・吸気ポート
5B・・吸気弁
6・・・排気通路
6A・・排気ポート
6B・・排気弁
10・・燃料噴射弁
21・・吸気カム
22・・吸気弁可変機構
31・・排気カム
32・・電子制御ユニット(ECU)
40・・EGR通路
51・・エアフロメータ
52・・吸気圧センサ
53・・筒内圧センサ

Claims (5)

  1. 内燃機関の燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁と、
    前記燃料噴射弁の燃料噴射動作を制御する制御手段と、
    前記燃料噴射弁が燃料を噴射する時期を当該機関の運転状態に基づいて決定する燃料噴射時期決定手段と、
    当該機関の圧縮行程の特定時期における前記燃焼室内の温度に関連するガス特性を把握するガス特性把握手段と、
    前記決定された燃料噴射時期を前記把握されるガス特性に基づいて補正する補正手段と、
    を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
  2. 前記特定時期は、前記燃料噴射時期決定手段により決定された燃料噴射時期である
    ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
  3. 前記燃焼室のガス特性は、少なくとも前記燃焼室内のガスの圧力であることを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
  4. 前記補正手段は、前記ガス特性把握手段により把握されたガス特性から前記特定時期における燃焼室内のガス温度を推定し、前記特定時期における燃焼室内のガス温度が所定の目標値よりも低い条件下では前記決定された燃料噴射時期を進角させる補正を行い、前記特定時期における前記燃焼室内のガス温度が所定の目標値よりも高い条件下では前記決定された燃料噴射時期を遅角させる補正を行う
    ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
  5. 前記補正手段は、前記ガス特性の把握される燃焼サイクルと同一の燃焼サイクル中における燃料噴射時期を補正する
    ことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
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