JP2005068472A - 硬質炭素皮膜とそれを用いた機械摺動部品および機械工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】 油潤滑環境下での使用の場合でも、優れた耐摩耗性や摩擦特性、並びに耐久性を有する硬質炭素皮膜とそれを用いた摺動部品を提供することである。
【解決手段】 カーボンターゲット7AおよびCuターゲット7Bを用いて、スパッタリング法により、基材1の表面にCuを0.5at%〜8at%の範囲で含有させた硬質炭素皮膜を成膜し、成膜中に基材1のバイアス電圧等を変化させて、等価粒径1nm以上のクラスターの個数が1平方μmあたり、150〜5000個の範囲にあり、かつ、各クラスターの平均等価粒径が2nmを超え、20nm以下の範囲にあるように、硬質炭素皮膜中のCuのクラスター密度およびクラスターサイズを制御して微細クラスターをバランスよく分散させたのである。それにより、潤滑環境下での使用においても、優れた摩擦特性および耐摩耗性ならびに耐久性を発揮する硬質炭素皮膜を実現することができる。
【選択図】 図1
【解決手段】 カーボンターゲット7AおよびCuターゲット7Bを用いて、スパッタリング法により、基材1の表面にCuを0.5at%〜8at%の範囲で含有させた硬質炭素皮膜を成膜し、成膜中に基材1のバイアス電圧等を変化させて、等価粒径1nm以上のクラスターの個数が1平方μmあたり、150〜5000個の範囲にあり、かつ、各クラスターの平均等価粒径が2nmを超え、20nm以下の範囲にあるように、硬質炭素皮膜中のCuのクラスター密度およびクラスターサイズを制御して微細クラスターをバランスよく分散させたのである。それにより、潤滑環境下での使用においても、優れた摩擦特性および耐摩耗性ならびに耐久性を発揮する硬質炭素皮膜を実現することができる。
【選択図】 図1
Description
この発明は、自動車部品などの機械摺動部品や切削工具、金型などの機械工具の表面に硬質保護膜として被覆される硬質炭素皮膜とそれを用いた機械摺動部品および機械工具に関する。
硬質炭素皮膜は、ダイアモンド構造とグラファイト構造との両方の構造を有する非晶出の炭素膜で、DLC皮膜(ダイヤモンドライクカーボン皮膜)とも呼ばれ、高硬度で、耐摩耗性に優れ、摩擦係数が小さく、表面平滑性や固体潤滑性に優れるなどの特徴を有する。このため、硬質保護膜として、機械摺動部品や工業用工具類、AV機器用部品、半導体用部品などに応用されている。
従来、耐摩耗性、基体との密着性および潤滑性の向上などを目的として、前記硬質炭素皮膜に、Cr、Mo、Wや、Si、Pなどの金属元素を含有させた技術が開示されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。
一方、部品の摺動面に、摩擦低減のための炭素皮膜をコーティングする場合に、この炭素皮膜に、周期律表のIb、IIb、IIIa、IV、Vb、VIb、VIIbまたはVIIIの各族の金属を含有させることが開示され、これらの金属の中には、Cu(Ib族)が含まれている(例えば、特許文献4参照)。
通常、硬質炭素皮膜は、無潤滑下で使用される場合には、他の保護皮膜、例えばTiN、CrN、TiAlNなどの金属窒化膜に比べて優れた耐摩耗性および摺動特性を呈する。しかし、潤滑油等の油潤滑環境下で使用される場合、例えば、機械摺動部品が潤滑油中で摺動するような場合には、特許文献1から4に開示されたように、硬質炭素皮膜中に、Cr、Mo、Wや、Si、Pなどの金属元素を含有させても、その耐摩耗性や摺動特性は、前記金属窒化膜に劣るという問題がある。
また、特許文献4に開示されたように、軟質で変形しやすいCuを硬質炭素皮膜中に添加することは、無潤滑下での摩擦係数の低下には寄与するものの、単にCuを添加するだけでは、潤滑油下での摺動特性を改善するまでには至らない。
そこで、この発明の課題は、油潤滑環境下で使用する場合でも、優れた耐摩耗性および摺動特性ならびに耐久性を有する硬質炭素皮膜およびそれを用いた機械摺動部品等を提供することである。
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
即ち、Cuを0.5〜8at%を含有した硬質炭素皮膜を、この硬質炭素皮膜の膜厚方向の厚さ100nmの断面内で、等価粒径が少なくとも1nm以上のCuのクラスターの個数が、1平方μmあたり、150個から5000個の範囲にあり、かつ、前記各クラスターの等価粒径の平均値が2nm超〜20nmの範囲にあるように形成したのである。ここで、等価粒径とは、透過電子顕微鏡等により上記硬質炭素皮膜の成膜方向の厚さ100nmの断面内で観察したクラスターの面積と等しい面積の円の直径を意味し、クラスターの大きさ、即ちクラスターサイズを示す。
このように、Cuを主体とした微細クラスターを硬質皮膜中に分散させることにより、油潤滑環境下での使用においても、優れた耐摩耗性および摺動特性ならびに耐久性が得られる。
前記硬質皮膜中のCuの含有量は、0.5at%よりも少ないと、有効な大きさのクラスターが形成されず、また、このクラスターの適切な分散状態が得られなくなる。また、Cu含有量が8at%を超えると、硬質炭素膜の硬度が著しく低下するとともに耐摩耗性にも劣るようになる。
前記硬質炭素皮膜中にCuを添加することにより、硬質炭素皮膜が油潤滑環境下で上記のような優れた特性を発揮する理由は、以下のように考えられる。
(1)硬質炭素皮膜中でCuは比較的安定で、機械摺動部品で使用される鉄などの相手方の金属と反応しにくいため、凝着摩擦を起こしにくいこと。
(2)潤滑油と上記のように形成した硬質炭素皮膜が相互反応を起こして、この反応生成物が接触界面に介在することにより、接触界面で油膜を保持しやすくなること。
(3)Cuは軟質で変形しやすく、それ自体の変形により摩擦抵抗が増大しないこと。
(2)潤滑油と上記のように形成した硬質炭素皮膜が相互反応を起こして、この反応生成物が接触界面に介在することにより、接触界面で油膜を保持しやすくなること。
(3)Cuは軟質で変形しやすく、それ自体の変形により摩擦抵抗が増大しないこと。
このような優れた特性を発揮させるためには、Cuを単に添加するだけでは不十分で、上記のように、Cuを主体とする微細なクラスターを硬質炭素皮膜中にバランスよく分散させる必要がある。
前記クラスターの皮膜中への分散に関しては、クラスターの個数が150個未満の場合には、油膜保持に必要な有効面積が小さく、潤滑油中での低い摩擦係数が実現されにくくなる。また、クラスターの個数が5000個を超えると、Cu自体の変形抵抗による摩擦抵抗の増大、および固体接触が生じた場合の凝着摩擦による摩擦抵抗の増大が、それぞれもたらされる。
前記各クラスターの等価直径の平均値、即ち平均クラスターサイズが2nm以下と小さいクラスターが多くなると、接触界面における油膜の保持や、低い摩擦抵抗などのCuの添加による前記の効果が発揮できなくなる、また、平均クラスターサイズが、20nmを超えると、クラスターが大きすぎて、却って摩擦抵抗を増大させることになる。なお、前記平均クラスターサイズは、2.5nmから18nmの範囲にあることがより好ましく、この場合の各クラスターの等価粒径の上限はおよそ30nm程度とするのが望ましい。
元来、Cuは凝縮エネルギーが大きい元素であるため、スパッタリングなどの気相コーティングで形成した場合、クラスターを形成しやすい傾向にあるが、前記のような分散状態、即ち、前記平均サイズのクラスターが所要数分散した状態を得るためには、成膜時に基板バイアス電圧、即ち硬質炭素皮膜を形成する基材に所要の電圧を印加することが必要である。基板バイアス電圧を印加することにより、成膜中のCuの凝集を抑制し、この基板バイアス電圧を制御することにより、所望の分散状態が得られる。なお、印加する基板バイアス電圧の大きさは、Cuの添加量にもよるが、概ね100V以上であることが好ましい。
上記の微細クラスターをバランスよく分散させた硬質炭素皮膜を機械摺動部品に付与することができる。
例えば、湯水栓やVTRキャプスタンなどの無潤滑下で使用される摺動部品、エンジンオイルなどの潤滑油下で使用される鋼などからなる摺動部品、のいずれの機械摺動部品にも前記硬質炭素皮膜を付与することができ、優れた摺動特性が得られる。
上記の微細クラスターをバランスよく分散させた硬質炭素皮膜を機械工具に付与することができる。
例えば、ドリルやカッターなどの切削工具、プレス金型などの各種成形用金型等の機械工具に前記硬質炭素皮膜を付与することができ、優れた摺動特性が得られる。
以上のように、この発明では、硬質炭素皮膜に軟質で変形しやすいCuを所要量含有させ、成膜条件を変化させて、Cuの平均クラスターサイズおよびクラスター密度を制御するようにしたので、潤滑油中で前記皮膜を付与した摺動部品を使用する際に、相手方金属部品との接触界面に油膜が有効に保持されるなどして、摩擦係数が従来の金属窒化皮膜を付与する場合よりも顕著に低下する。それにより、油潤滑油中での使用においても、優れた摺動特性および耐摩耗性ならびに耐久性を発揮する硬質炭素皮膜を実現することができ、硬質炭素皮膜の適用部品の拡大に寄与できる。
以下に、この発明の実施形態を実施例により説明する。
直径50mm、厚さ8mmの高速度鋼の基材1を、成膜前処理としてアセトンで脱脂し、20分間超音波洗浄した後、圧縮空気を噴射して充分に乾燥させた。図1に示すように、この基材1を、スパッタリング装置のチャンバー2内にセットし、排気口3から図示を省略した真空ポンプにより、3×10-6torr以下に減圧した後、Arガスを導入ポート4aから3mtorrまで導入した。そして、基板ホルダーを兼ねる上部電極5と、下部電極6Aおよび6B間に高周波電圧を印加してArプラズマを発生させ、高周波出力200Wで、Arイオンによる基材1の表面のスパッタエッチングを5分間行なった。
次に、カーボンターゲット7Aを下部電極6A上にセットし、純Cuターゲット7Bを下部電極6B上にセットした。そして、上部電極5と、下部電極6Aおよび6Bとの間に高周波電圧を印加してスパッタリングした。このとき、投入電力は、カーボンターゲット7Aに対しては2kWとし、Cuターゲット7Bに対しては最大70Wとして、投入電力を変えることで皮膜組成の制御を行なった。また、基板ホルダーを兼ねる上部電極5を28rpmで回転させ、カーボンとCuのミキシング成膜を行なった。前記基板ホルダー、即ち上部電極5の1回転で成膜される硬質炭素皮膜の厚みは数オングストロームであり、成膜された皮膜をTEM観察によって調査した結果、カーボンとCuの積層構造は認められず、カーボンとCuは成膜中に充分ミキシングされていることが判明した。このようにして、表1に示した試料記号A〜Pの硬質炭素皮膜層を、基材1の表面に成膜した。
前記成膜の過程で、主に基板電圧、即ち基材1に印加するバイアス電圧を変化させることにより、前記クラスターの等価粒径および密度をそれぞれ制御した。なお、基材1は室温でチャンバー2内にセットした。また、硬質炭素皮膜形成中に、導入ポート4bから補助的にメタンなどの炭化水素系の原料ガスをチャンバー2内に導入することもできる。
成膜処理終了後の基材1から、FIB加工により、厚み100nmの試料を作製し、透過電子顕微鏡による組織写真を画像解析し、クラスターの平均粒径および分散状態を定量評価した。なお、前記成膜方向の断面内で観察されるCuクラスターは円形に近い形状をしているが、各クラスターの粒径評価には、前記等価粒径を用いた。
また、表1に記した油中摩擦係数、即ち潤滑油中での摩擦係数は、ベーンオンディスク型摺動試験により評価した。試験条件は、荷重を300N、摺動距離を500mm、摺動速度を0.3mm/sとし、摺動相手材をSUJ2のφ30mm×5mmの円盤状部材とし、潤滑剤としてエンジンオイル(ネオSJ5W−30(トヨタ純正))を用いた。
表1に、測定したCuのクラスター密度、即ち1μm平方あたりのクラスターの個数、クラスターの平均等価粒径、即ち平均クラスターサイズ、油中摩擦係数および硬質炭素皮膜の硬度を併せて記載した。なお、硬質炭素皮膜の硬度はナノインデンタ硬度計により測定した硬度であり、表1ではナノ硬度と記載した。表1から、硬質炭素皮膜中にCuを添加しなかった場合(試料番号A)には、Cuのクラスターが全く認められないことは勿論、Cuの含有量が0.1at%に満たない場合(試料番号B、C)にも、平均クラスターサイズは2nm以下であった。これに対し、Cuの含有量が0.5at%以上では、平均クラスターサイズが2nmを超えたCuクラスターが得られていることが認められた。
一般に、CrC皮膜などの金属炭化皮膜や、CrN、TiNおよびTiAlN皮膜などの金属窒化皮膜などでは、潤滑油中で摺動する際の摩擦係数は、0.1〜0.13程度である。表1から、硬質炭素皮膜であっても、Cuを添加していない場合には(試料記号A)、前記摩擦係数は0.11と前記金属窒化皮膜の摩擦係数とほぼ同等の値を示している。
これに対し、表1から、硬質炭素皮膜中に含有されるCuが一定量の範囲、即ち0.5at〜8at%の範囲では、潤滑油中で使用される機械摺動部品の摩擦係数は、前記金属窒化皮膜の摩擦係数よりも小さく、0.08以下に低減させることが可能であることがわかる。
なお、前述のように、前記硬質皮膜中のCuの含有量は、0.5at%よりも少ないと、有効な大きさのクラスターが形成されず、また、このクラスターの適切な分散状態が得られなくなる。また、Cu含有量が8at%を超えると、硬質炭素皮膜の硬度が著しく低下するとともに耐摩耗性にも劣るようになる。
表1から、油中摩擦係数の低減には、Cuの含有量のほかに、平均クラスターサイズおよびクラスター密度が関連していることがわかる。即ち、油中摩擦係数を0.08以下にするためには、基板バイアス電圧を変化させることにより制御した平均クラスターサイズの下限は、2nmをやや超える程度にあり、また上限は、20nm付近にあると見なすことができる。
一方、クラスター密度については、Cu含有量とクラスターサイズ、即ちクラスターの等価粒径とに関連するため、前記摩擦係数の低減に対するクラスター密度の効果のみを抽出することはできないが、基材へのバイアス電圧を印加した場合に、前記の厚み100nmの成膜後の試料の、膜厚方向の断面の観察視野1平方μmあたり、150個から5000個、好ましくは170個から3700個の範囲にあるときに、潤滑油下での摩擦係数が、前記金属窒化皮膜の場合よりも小さくなる優れた摺動特性が得られる。
この発明では、硬質炭素皮膜に、軟質で変形しやすいCuを、Cuクラスターのサイズおよびクラスター密度を制御して所要量含有させることにより、潤滑環境下でも優れた摺動特性および耐久性を発揮するため、潤滑油中で摺動するような機械摺動部品の硬質保護膜として利用することができる。
1:基材 2:チャンバー 3:排気口
4a、4b:導入ポート 5:上部電極 6A、6B:下部電極
7A:カーボンターゲット 7B:Cuターゲット
4a、4b:導入ポート 5:上部電極 6A、6B:下部電極
7A:カーボンターゲット 7B:Cuターゲット
Claims (3)
- Cuを0.5〜8at%を含有した硬質炭素皮膜であって、前記硬質炭素皮膜の膜厚方向の厚さ100nmの断面内で、等価粒径が少なくとも1nm以上のCuのクラスターの個数が、1平方μmあたり、150個から5000個の範囲にあり、かつ、前記各クラスターの等価粒径の平均値が2nm超〜20nmの範囲にあることを特徴とする硬質炭素皮膜。
- 請求項1に記載した硬質炭素皮膜を有する機械摺動部品。
- 請求項1に記載した硬質炭素皮膜を有する機械工具。
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JP2003297569A JP2005068472A (ja) | 2003-08-21 | 2003-08-21 | 硬質炭素皮膜とそれを用いた機械摺動部品および機械工具 |
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---|---|---|---|---|
JP2007070565A (ja) * | 2005-09-09 | 2007-03-22 | Toyota Motor Corp | 摺動ユニット及び摺動方法 |
-
2003
- 2003-08-21 JP JP2003297569A patent/JP2005068472A/ja active Pending
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